説明

走行軌跡生成装置及び走行軌跡生成方法

【課題】路面に応じて安全性と実用性とを両立させた走行軌跡を生成することができる走行軌跡生成装置及び走行軌跡生成方法を提供する。
【解決手段】
走行軌跡生成装置は、車両5が走行する通過予定経路Dにおいて、路面Dが滑りやすいと判定された特定区間Eを取得する路面状況取得部20と、特定区間Eでは車両モデルを慣性運動とすると共にタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成する走行軌跡導出部21とを備えることにより、車両5のスピンを特定区間E手前での減速制御のみで回避するのではなく、特定区間Eにおいては、ある程度のスリップ状態を許容しているので、必要以上の減速を伴わず、実用性が確保された走行軌跡を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行軌跡生成装置及び走行軌跡生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の運転を自動で行う装置として、路面の滑りやすさを考慮して運転制御をするものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の装置は、前方道路の情報を取得し、滑りやすい路面を走行する前に、その路面の滑り易さに従って車両の減速量を大きくするように走行制御を行う装置である。
【特許文献1】特開平10−315937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の自動運転装置の走行制御では、車両がスリップすることを回避するための手段が単純な減速制御のみであるため、不必要な速度低下によって、交通流が阻害されるおそれがある。
【0004】
そこで、本発明はこのような技術課題を解決するためになされたものであって、路面に応じて安全性と実用性とを両立させた走行軌跡を生成することができる走行軌跡生成装置及び走行軌跡生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明に係る走行軌跡生成装置は、車両の走行軌跡を生成する走行軌跡生成装置であって、車両が走行する通過予定経路において、路面が滑りやすいと判定された特定区間を取得する路面状況取得部と、特定区間では車両モデルを慣性運動とすると共に、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成する走行軌跡導出部とを備えて構成される。
【0006】
この発明によれば、走行予定の路面において、滑りやすい特定区間を取得し、当該特定区間においては車両のタイヤ発生力が摩擦円限界を超えることを許容するためにタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないという条件を拘束条件から外すと共に車両モデルを慣性運動として走行軌跡を生成する。これにより、車両のスピンを特定区間手前での減速制御のみで回避するのではなく、特定区間においては、ある程度のスリップ状態を許容するので、必要以上の減速を伴わず、実用性が確保された走行軌跡を生成することができる。また、特定区間においては、車両が一定の縦横速度、一定ヨーレートの慣性運動を行う走行軌跡とすることができるので、スピンを防止して安全性が確保された走行軌跡を生成することができる。
【0007】
ここで、走行軌跡生成装置において、走行軌跡導出部は、第1拘束条件を達成している状態で通過時間の項を含む評価関数を収束演算して第1走行軌跡を導出し、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含む第2拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、第2拘束条件を達成している状態で通過時間の項を含む評価関数を収束演算して第2走行軌跡を導出し、第1走行軌跡及び第2走行軌跡のうち、平均速度の高い走行軌跡を採用することが好適である。
【0008】
このように構成することで、特定区間ではタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないこと含まない第1拘束条件を達成している状態で車両モデルを慣性運動とした走行軌跡を生成し、さらに通過時間で評価することで第1走行軌跡を導出すると共に、特定区間でも摩擦円限界を含む第2拘束条件を達成している走行軌跡を生成し、通過時間で評価することにより第2走行軌跡を導出し、第1走行軌跡及び第2走行軌跡のうち、平均速度の高い走行軌跡を採用することができる。このように、特定区間においてスリップ状態の第1走行軌跡と、特定区間においてグリップ状態の第2走行軌跡との両者を生成して選択することで、安全性を担保しながら通過時間を考慮した走行軌跡を生成することができる。
【0009】
また、走行軌跡生成装置において、走行軌跡導出部は、通過予定経路においてタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含む第2拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、特定区間に進入する直前の区間では第2拘束条件を満たす走行軌跡と同一線形とする第3拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、特定区間では車両モデルを慣性運動とすると共にタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、第1拘束条件及び第3拘束条件を達成するように収束演算して生成した走行軌跡の通過時間と、第2拘束条件を達成するように収束演算して生成した走行軌跡の通過時間との平均値の項を含む評価関数を収束演算して走行軌跡を導出することが好適である。
【0010】
このように構成することで、特定区間に進入する直前の区間では走行軌跡の線形形状が同一であり、特定区間ではスリップ状態の走行軌跡とグリップ状態の走行軌跡との2つに分かれる走行軌跡を導出することができる。これにより、例えば、路面が滑りやすいと事前に判定された特定区間を走行し始めた際に、実際にはそれほど滑らないと判明した場合等、すなわち、事前に得られた特定区間の情報に誤差があった場合であっても、車両挙動を乱すことなく、安全性を担保しながら通過時間を考慮した走行軌跡を生成することができる。
【0011】
また、走行軌跡生成装置の路面状況取得部において、特定区間は、通過予定経路を路面摩擦係数の分布によって分割された区間の中で、路面摩擦係数が前後の区間よりも相対的に低い区間であることが好適であり、このように構成することで、路面の相対的な滑りやすさを評価することが可能となる。
【0012】
あるいは、走行軌跡生成装置の路面状況取得部において、特定区間は、通過予定経路を路面摩擦係数の分布によって分割された区間の中で、路面摩擦係数が所定値よりも小さい区間であるとしてもよく、このように構成することで、路面の絶対的な滑りやすさを評価することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る走行軌跡生成方法は、車両の走行軌跡を生成する走行軌跡生成方法であって、前記車両が走行する通過予定経路は路面摩擦係数の分布によって分割されており、分割された区間のうち路面が滑りやすいと判定された特定区間を取得する路面状況取得手段と、特定区間では車両モデルを慣性運動とすると共に、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成する走行軌跡導出手段とを備えて構成される。
【0014】
ここで、走行軌跡生成方法において、走行軌跡導出手段は、第1拘束条件を達成している状態で通過時間の項を含む評価関数を収束演算して第1走行軌跡を導出し、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含む第2拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、第2拘束条件を達成している状態で通過時間の項を含む評価関数を収束演算して第2走行軌跡を導出し、第1走行軌跡及び第2走行軌跡のうち、平均速度の高い走行軌跡を採用することが好適である。
【0015】
また、走行軌跡生成方法において、走行軌跡導出手段は、通過予定経路においてタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含む第2拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、特定区間に進入する直前の区間では第2拘束条件を満たす走行軌跡と同一線形とする第3拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、特定区間では車両モデルを慣性運動とすると共にタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、第1拘束条件及び第3拘束条件を達成するように収束演算して生成した走行軌跡の通過時間と、第2拘束条件を達成するように収束演算して生成した走行軌跡の通過時間との平均値の項を含む評価関数を収束演算して走行軌跡を導出することが好適である。
【0016】
また、走行軌跡生成方法の路面状況取得手段において、特定区間は、通過予定経路を路面摩擦係数の分布によって分割された区間の中で、路面摩擦係数が前後の区間よりも相対的に低い区間であることが好適である。
【0017】
あるいは、走行軌跡生成方法の路面状況取得手段において、特定区間は、通過予定経路を路面摩擦係数の分布によって分割された区間の中で、路面摩擦係数が所定値よりも小さい区間であることとしてもよい。
【0018】
この走行軌跡生成方法では、上記した走行軌跡生成装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、路面に応じて安全性と実用性とを両立させた走行軌跡を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る走行軌跡生成装置は、車両の走行軌跡を生成する装置であって、例えば、自動運転機能を備えた車両や、追従運転や車線維持運転などの運転者支援システムを搭載した車両に好適に採用されるものである。
【0022】
最初に、本実施形態に係る走行軌跡生成装置(走行軌跡生成部)の構成を説明する。図1は本発明の実施形態に係る走行軌跡生成部を備えた車両の構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示す車両5は、自動運転機能を備えた車両であって、GPS受信機30、センサ31、操作部32、ナビゲーションシステム33、ECU2、操舵アクチュエータ40、スロットルアクチュエータ41及びブレーキアクチュエータ42を備えている。ここで、ECU(Electronic Control Unit)とは、電子制御する自動車デバイスのコンピュータであり、CPU(CentralProcessing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および入出力インターフェイスなどを備えて構成されている。
【0024】
GPS受信機30は、例えば、車両5の位置情報を受信する機能を有している。ここで、GPS(Global Positioning System)とは、衛星を用いた計測システムのことであり、自車両の現在位置の把握に好適に用いられるものである。また、GPS受信機30は、位置情報をECU2へ出力する機能を有している。
【0025】
センサ31は、車両5の周囲の走行環境や、車両5の走行状態を取得する機能を有している。センサ31としては、例えば、車両5が走行する道路のレーンを認識するためのレーン認識センサや画像センサ、車両5の周辺障害物を検知する電磁波センサやミリ波センサ、車両5のヨーレートを計測するヨーレートセンサ、車両5のハンドル舵角及びタイヤ角を検知する舵角センサ、車両5の加速度を検出する加速度センサ、車両5の車輪速を計測する車輪速センサ等が用いられる。また、センサ31は、取得した情報をECU2へ出力する機能を有している。
【0026】
操作部32は、運転者の要求する条件を入力する機能を有している。操作部32としては、例えば、目標地点、目標通過時間、目標燃費等を入力する操作パネル等が用いられる。また、操作部32は、入力した情報をECU2へ出力する機能を有している。
【0027】
ナビゲーションシステム33は、主に目的地までの経路案内等を行う機能を有している。また、ナビゲーションシステム33は、例えば地図データベースから現在走行中の道路の形状情報を読み出し、その道路形状情報や路面摩擦係数μの分布情報をナビ信号としてECU2へ出力する機能を有している。路面摩擦係数μの分布情報は、例えば、携帯電話(テレマティクス)等、通信を経由したプローブカー情報として提供される。
【0028】
ECU2は、走行軌跡生成部1、車両運動制御部27、操舵制御部28及び加減速制御部29を備えている。
【0029】
走行軌跡生成部1は、車両5の走行軌跡を最適化して生成する機能を有している。本実施形態においては、走行軌跡生成部1が実行する最適化手法の一例として、SCGRA[Sequential Conjugate Gradient Restoration Algorithm]を用いた例を説明する。SCGRAは、拘束条件を満たすまで最急降下法に基づいて収束演算し、評価関数の評価値が最小となるまで共役勾配法に基づいて収束演算して走行軌跡を生成する最適化手法である。ここで、拘束条件とは、走行軌跡が満たさなければならない必須条件であり、評価関数とは、走行において重視する条件を評価するためのものである。
【0030】
そして、走行軌跡生成部1が生成する走行軌跡は、位置、速度パターン、加速度パターン、ヨー角、ヨーレートなどの車両の走行に必要な多数のパラメータから構成されている。このような走行軌跡の生成手法の一例として、本実施形態では、所定の区間をブロック単位とし、各ブロックでの走行軌跡を、走行路を分割した区間であるメッシュ単位で生成する例を説明する。
【0031】
ECU2に備わる走行軌跡生成部1は、路面状況取得部20及び走行軌跡導出部21を有しており、走行軌跡導出部21は、収束演算部22、評価関数生成部23及び評価関数演算部24を備えている。
【0032】
路面状況取得部20は、ナビゲーションシステム33が出力した経路情報、道路形状情報や路面摩擦係数μの分布情報を入力する機能を有している。そして、路面状況取得部20は、入力した走行路を路面摩擦係数μの大きさに基づいてブロック単位(区間)に分割する機能を有している。また、上記分割機能に代えて、路面摩擦係数μが変化する領域ごとに区分として分割する機能を有してもよい。さらに、路面状況取得部20は、分割した路面情報を収束演算部22へ出力する機能を有している。
【0033】
収束演算部22は、路面状況取得部20が出力した情報に基づいて拘束条件を設定する機能を有している。具体的には、収束演算部22は、路面状況取得部20によって設定された区間ごとに、道路形状情報や路面摩擦係数μ等の道路環境上の要求や、道路上を走行する等の交通上の要求、摩擦円限界、加減速限界、操舵限界等の車両性能から生じる要求に基づいて、第2拘束条件を設定する機能を有している。特に、収束演算部22は、路面摩擦係数μが低いと判定された区間に関しては、タイヤ発生力が摩擦円限界内に収まることを条件に含まず、一定縦横速度、一定ヨーレートとなることを想定した第1拘束条件を生成する機能を有している。また、収束演算部22は、例えば最急降下法を用いて、設定した拘束条件を満たすまで収束演算して、拘束条件を満たす走行軌跡を生成する機能を有している。さらに、収束演算部22は、生成した拘束条件を満たす走行軌跡を拘束条件達成状態としてECU2が有するメモリに保存する機能を有している。
【0034】
評価関数生成部23は、通過時間を評価するための評価関数を生成する機能を有している。評価関数生成部23は、第1拘束条件を達成する走行軌跡を評価するための評価関数を生成する機能を有している。同様に、評価関数生成部23は、第2拘束条件を達成する走行軌跡を評価するための評価関数を生成する機能を有している。生成される評価関数は、通過時間の項を含む評価関数である。これらの評価関数を用いることで、それぞれの拘束条件を満足する最速の走行軌跡を生成することができる。さらに、評価関数生成部23は、生成した各評価関数を評価関数演算部24へ出力する機能を有している。
【0035】
評価関数演算部24は、評価関数生成部23が生成した評価関数を収束演算して走行軌跡を生成する機能を有している。具体的には、ECU2のメモリから収束演算部22が生成した第1,第2拘束条件及び第1,第2拘束条件達成状態を入力する機能を有している。そして、路面摩擦係数μが低いと判定されていない区間においては、第2拘束条件を達成している状態で第2拘束条件達成状態を初期値として評価関数を収束演算して走行軌跡を生成し、路面摩擦係数μが低いと判定された区間においては、第1拘束条件を達成している状態で第1拘束条件達成状態を初期値として評価関数を収束演算して走行軌跡を生成し、これらの各区間の走行軌跡を繋げて最速の走行軌跡(第1走行軌跡)を生成する機能を有している。また、全区間において、第2拘束条件を達成している状態で第2拘束条件達成状態を初期値として評価関数を収束演算して走行軌跡を生成し、これらの各区間の走行軌跡を繋げて最速の走行軌跡(第2走行軌跡)を生成する機能を有している。そして、評価関数演算部24は、生成した第1走行軌跡及び第2走行軌跡のうち、最速の走行軌跡を選択する機能を有している。また、評価関数演算部24は、算出した走行軌跡を車両運動制御部27へ出力する機能を有している。
【0036】
車両運動制御部27は、評価関数演算部24から入力した走行軌跡及びセンサ31からの周囲の走行環境や自車両の走行状態に基づいて、操舵制御情報や加減速制御情報を算出する機能を有している。また、車両運動制御部27は、算出した操舵制御情報を操舵制御部28へ、算出した加減速制御情報を加減速制御部29へ出力する機能を有している。
【0037】
操舵制御部28は、車両運動制御部27から入力した操舵制御情報に基づいて操舵アクチュエータ40を制御するための信号を生成し、生成した制御信号を操舵アクチュエータ40へ出力する機能を有している。なお、操舵アクチュエータ40は、車両の走行を制御する機械的な構成要素であり、例えば、操舵角制御モータ等である。
【0038】
加減速制御部29は、車両運動制御部27から入力した加減速制御情報に基づいてスロットルアクチュエータ41及びブレーキアクチュエータ42を制御するための信号を生成し、生成した制御信号をスロットルアクチュエータ41及びブレーキアクチュエータ42へ出力する機能を有している。スロットルアクチュエータ41は、車両の走行を制御する機械的な構成要素であり、例えば電子スロットル等である。また、ブレーキアクチュエータ42は、例えば油圧式ブレーキの場合には、各車輪のブレーキ油圧の調整を行うバルブ等である。
【0039】
次に、第1実施形態に係る走行軌跡生成部1の動作について説明する。図2,3は、第1実施形態に係る走行軌跡生成部1の動作を示すフローチャートである。また、図4は第1実施形態に係る走行軌跡生成部1の動作を説明するための概要図である。なお、図4では、車両5がカーブ形状の道路Dを走行する予定であるとする。
【0040】
図2,3に示す制御処理は、例えばイグニッションオンされてから所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0041】
図2に示す制御処理が開始されると、走行軌跡生成部1は、路面情報入力処理から開始する(S10)。S10の処理は、路面状況取得部20が実行し、例えばナビゲーションシステム33を介して、路面摩擦係数μの分布情報を取得する処理である。さらに、路面状況取得部20は、ナビゲーションシステム33が出力した経路情報及び道路形状等を入力し、路面摩擦係数μの大きさがほぼ等しい領域に経路情報を分割する。経路情報の分割について、図4を用いて詳細に説明する。図4に示すように、例えば道路D上の滑りやすさは均一であるが、道路Dの一部領域Dが凍結等により局所的に滑りやすい状況になっているとする。ここでは、領域D以外の道路Dの路面摩擦係数をμ、領域Dの路面摩擦係数をμD1(μD1<<μ)とする。路面状況取得部20は、路面摩擦係数μの分布情報を入力し、例えば車両5の手前の地点から走行予定経路の最後まで順に、所定間隔の地点の路面摩擦係数μを読み込んでいき、前回読み込んだ値と今回読み込んだ値とを比較し、変化の大きさが大きいかを確認する。この処理を走行経路全体まで行う途中で、前回読み込んだ値が路面摩擦係数μで、今回読み込んだ値が領域Dの路面摩擦係数μD1となる場合があり、両者を比較すると変化が大きいため、その地点で区間を区切るようにする。このように処理することにより、道路Dを、路面摩擦係数μである区間E,Eと、路面摩擦係数μD1である区間Eに分割することができる。走行軌跡生成部1は、後述する処理でこの分割された区間ごとに走行経路を生成する。路面摩擦係数μで分割された区間ごとに走行経路を生成することで、路面摩擦係数μが区間と区間の間にまたがることが無いため計算処理が複雑とならず処理の高速化を図ることができる。S10の処理が終了すると、第2拘束条件設定処理へ移行する(S12)。
【0042】
S12の処理は、収束演算部22が実行し、S10の処理で設定した区間ごとに、当該区間の路面摩擦係数μに基づいて拘束条件を設定する処理である。収束演算部22は、路面摩擦係数μや、タイヤ摩擦力等の車両諸元情報に基づいて摩擦円限界を設定し、設定した摩擦円限界をタイヤ発生力が超えないという条件を第2拘束条件に設定する。例えば、図4に示すように、区間E,E,Eにおいて、車両5は、それぞれの区間ごとに算出した摩擦円限界内にタイヤ発生力が収まるように走行しなければならないという第2拘束条件が設定される。なお、拘束条件には、例えば、道路の幅、傾斜、カーブ半径等の道路環境情報を含んでも良い。S12の処理が終了すると、走行軌跡生成処理へ移行する(S14)。
【0043】
S14の処理は、収束演算部22が実行し、全ての区間において第2拘束条件を満足する走行軌跡を生成する処理である。収束演算部22は、各区間において、前回求めた走行軌跡(初回の収束演算の場合には初期軌跡)を用いて、各区間の第2拘束条件を満たすべく今回の走行軌跡を生成する。具体的には、例えば最急降下法で用いられる補正式に基づいて、前回求めた走行軌跡(初回の収束演算の場合には初期軌跡)を構成するパラメータに対して変更を加え、第2拘束条件を達成する走行軌跡に近い走行軌跡を生成する。S14の処理が終了すると、拘束条件判定処理へ移行する(S16)。
【0044】
S16の処理は、収束演算部22が実行し、S14の処理で生成した各区間のそれぞれの走行軌跡が、各区間で定めた第2拘束条件を満足するか否かを判定する処理である。S16の処理において、算出した走行軌跡が第2拘束条件を満たさないと判定した場合には、走行軌跡生成処理へ再度移行する(S14)。これにより、収束演算部22は、第2拘束条件を満たす走行軌跡を生成できるまで、S14に示す演算とS16に示す判定とを繰り返し行い(収束演算)、第2拘束条件を満たす走行軌跡を生成する。なお、S14及びS16の処理は、例えばブロックを所定距離で分割したメッシュごとにおいて行われる。
【0045】
一方、S16の処理において、生成した各区間の走行軌跡が、各区間で定めた第2拘束条件を満たすと判定した場合には、評価関数設定処理へ移行する(S18)。S18の処理は、評価関数生成部23が実行し、S14の処理で生成した走行軌跡の中で、最も通過時間が速い走行軌跡を特定するために、通過時間の項を含む評価関数を設定する処理である。例えばメッシュ単位の通過時刻の積算値を評価関数とする。S18の処理が終了すると、第2走行軌跡生成処理へ移行する(S20)。
【0046】
S20の処理は、評価関数演算部24が実行し、全ての区間についてS18の処理で生成した評価関数を用いて各区間の走行軌跡を導出する処理である。評価関数演算部24は、収束演算部22から第2拘束条件を入力し、入力した第2拘束条件を達成している状態で、例えば共役勾配法で用いられる補正式に基づいて、前回求めた走行軌跡(初回の収束演算ではS14で算出した第2収束条件を満たした第2走行軌跡)の評価値が小さくなるように、前回求めた第2走行軌跡のパラメータを変更して今回の走行軌跡を生成する。S20の処理が終了すると、評価条件判定処理へ移行する(S22)。
【0047】
S22の処理は、評価関数演算部24が実行し、S20の処理で生成した各区間の走行軌跡を用いて、評価条件を満足しているか否かを判定する処理である。具体的には、評価関数演算部24は、S20の処理で生成した各区間の走行軌跡を用いて評価関数から評価値を算出し、算出した評価値が最小となった場合には、評価条件を満足していると判定する。評価値が最小となったか否かの判定は、今回の処理までに算出した評価値の変動、すなわち評価値の微分値が0あるいは略0になった場合に、評価値が最小であると判定する。S22の処理において、評価条件を満足していないと判定した場合には、第2走行軌跡生成処理へ再度移行する(S20)。これにより、評価関数演算部24は、通過時間を優先させる評価条件を満たす各区間の走行軌跡を生成できるまでS20に示す演算とS22に示す判定とを繰り返し行い(収束演算)、通過時間を優先した第2走行軌跡を生成する。なお、図4では、区間E,E,Eの走行軌跡を全て繋げた第2走行軌跡Rを示している。
【0048】
一方、S22の処理において、通過時間を優先させる評価条件を満たす第2走行軌跡Rを生成したと判定した場合には、拘束条件設定処理へ移行する(図3のS24)。
【0049】
S24の処理は、収束演算部22が実行し、S10の処理で設定した区間ごとに拘束条件を設定する処理である。S12の処理においては全ての区間において摩擦円限界を考慮した拘束条件を設定したが、S24の処理では、路面が滑りやすいと判定した区間(特定区間)については、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないという条件を拘束条件から外すと共に、車両モデルが慣性運動となるような第1拘束条件を設定する。車両モデルが慣性運動となる拘束条件は、例えば、車両5の縦横速度及びヨーレートが一定であるという条件である。また、特定区間であるか否かの判断は、当該区間の路面摩擦係数μに基づいて決定される。例えば、図4に示す区間Eの路面摩擦係数μD1が、区間Eの前後の区間である区間E,Eの路面摩擦係数μと比べて所定値よりも小さくなる場合(例えば、区間E,Eの1/3の大きさとなる場合)には、区間Eを特定区間として設定する。なお、ある区間の路面摩擦係数が所定値以下である場合には、当該区間は特定区間であるとしてもよい。収束演算部22は、通過予定経路において特定区間を判定し、当該区間については第1拘束条件を設定する。特定区間でないと判定した区間については、S12の処理と同様に摩擦円限界を考慮した拘束条件を設定する。S24の処理が終了すると、走行軌跡生成処理へ移行する(S26)。
【0050】
S26の処理は、収束演算部22が実行し、S14の処理と同様に、S24の処理で各区間において設定した拘束条件を満足する走行軌跡を生成する処理である。収束演算部22は、各区間において、前回求めた走行軌跡(初回の収束演算の場合には初期軌跡)を用いて、各区間の収束条件を満たすべく今回の走行軌跡を生成する。S26の処理が終了すると、拘束条件判定処理へ移行する(S28)。
【0051】
S28の処理は、収束演算部22が実行し、S26の処理で生成した各区間のそれぞれの走行軌跡が、各区間で定めた拘束条件を満足するか否かを判定する処理である。S28の処理において、区間ごとに算出した走行軌跡が各区間で定めた拘束条件を満たさないと判定した場合には、走行軌跡生成処理へ再度移行する(S26)。これにより、収束演算部22は、各区間で定めた拘束条件を満たす走行軌跡を生成できるまで、S26に示す演算とS28に示す判定とを繰り返し行い(収束演算)、各区間で定めた拘束条件を満たす走行軌跡を生成する。
【0052】
一方、S28の処理において、生成した各区間の走行軌跡が、各区間で定めた拘束条件を満たすと判定した場合には、評価関数設定処理へ移行する(S30)。S30の処理は、評価関数生成部23が実行し、S26の処理で生成した走行軌跡の中で、最も通過時間が速い走行軌跡を特定するために、通過時間の項を含む評価関数を設定する処理である。S30の処理が終了すると、第1走行軌跡生成処理へ移行する(S32)。
【0053】
S32の処理は、評価関数演算部24が実行し、全ての区間についてS30の処理で生成した評価関数を用いて第1走行軌跡を導出する処理である。具体的な導出方法は、S20の処理と同様である。S32の処理が終了すると、評価条件判定処理へ移行する(S34)。
【0054】
S34の処理は、評価関数演算部24が実行し、S32の処理で生成した各区間の走行軌跡を用いて、評価条件を満足しているか否かを判定する処理である。評価関数演算部24は、S22の処理と同様に、通過時間を優先させる評価条件を満たす各区間の走行軌跡を生成できるまでS32に示す演算とS34に示す判定とを繰り返し行い(収束演算)、通過時間を優先した各区間の走行軌跡を生成する。なお、図4では、区間E,E,Eの走行軌跡を全て繋げた第1走行軌跡Rを示している。
【0055】
一方、S34の処理において、通過時間を優先させる評価条件を満たす第1走行軌跡Rを生成したと判定した場合には、最速軌跡採用処理へ移行する(S36)。S36の処理は、評価関数演算部24が実行し、S22の処理で得られた第2走行軌跡Rを採用した場合の通過時間と、S36の処理で得られた第1走行軌跡Rを採用した場合の通過時間とを比較して、最速となる走行軌跡を選択する処理である。S36の処理が終了すると、図2に示す制御処理を終了する。
【0056】
次に本実施形態に係る走行軌跡生成部の作用効果を説明する。図7は、従来例を説明するための概要図である。従来であれば、例えば図7の(a)に示すように、走行予定経路の道路情報を取得し、前方の路面摩擦係数の低い領域があると判定した場合には、当該領域の手前で減速する制御(低μ情報単純制御)や、例えば図7の(b)に示すように、走行予定経路の道路情報(形状含む)を取得し、前方の路面摩擦係数が低い領域があると判定した場合には、当該領域がある道路形状が直線であるか否かを判定し、直線である場合には、横力が発生しないため低い路面摩擦係数であっても通過し、他方、カーブ等である場合には、横力が発生しないように減速する制御(道路線形連動制御)が知られていた。これらの制御は、例えば路面摩擦係数の低い領域が局所的にある場合には、路面摩擦係数が低い領域に進入する前に必ず減速が伴うため時間がかかり、運転者にとって現実的に受け難い制御となっていた。
【0057】
これに対して、本実施形態に係る走行軌跡生成部1によれば、走行予定の路面において、滑りやすいと判定された特定区間Eを取得し、当該特定区間Eにおいては車両のタイヤ発生力が摩擦円限界を超えることを許容して摩擦円限界を拘束条件から外すと共に車両モデルを慣性運動として走行軌跡を生成する。これにより、図7の(a)及び(b)に示す制御のように、車両のスピンを特定区間E手前での減速制御のみで回避するのではなく、特定区間Eにおいては、慣性運動である程度のスリップ状態を許容しているので、必要以上の減速を伴わずに安全な走行計画を生成することができる。これにより、減速による極低速走行により通過時間が長くなることなく、実用性が確保された走行軌跡を生成することができる。また、特定区間Eにおいては、車両5が一定の縦横速度、一定ヨーレートの慣性運動を行う走行軌跡とすることができるので、スピンを防止して安全性が確保された走行軌跡を生成することができる。
【0058】
また、特定区間Eではタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないこと含まない第1拘束条件を達成している状態で車両モデルを慣性運動として走行軌跡を生成し、さらに通過時間で評価することで第1走行軌跡Rを導出すると共に、特定区間Eでも摩擦円限界を含む第2拘束条件を達成する走行軌跡を生成し、通過時間で評価することにより第2走行軌跡Rを導出し、第1走行軌跡R及び第2走行軌跡Rのうち、平均速度の高い走行軌跡を採用することができる。このように、特定区間Eにおいてスリップ状態の第1走行軌跡Rと、特定区間Eにおいてグリップ状態の第2走行軌跡Rとの両者を生成して選択することで、安全性を担保しながら通過時間を考慮した走行軌跡で走行することができる。結果、平均速度の低下を最小限に抑え、交通流の円滑化を図ることができる。
【0059】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る走行軌跡生成装置(走行軌跡生成部)は、第1実施形態に係る走行軌跡生成部1とほぼ同様に構成されるものであって、走行軌跡生成部1と比べ、特定区間直前までは同一の走行軌跡を生成する機能を有する点が相違する。なお、第2実施形態においては、第1実施形態と重複する部分は説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0060】
本実施形態に係る走行軌跡生成部を備えた車両の構成は、第1実施形態に係る走行軌跡生成部1を備えた車両と同様である。
【0061】
また、本実施形態に係る走行軌跡生成部は、第1実施形態に係る走行軌跡生成部1と同様に構成され、収束演算部22、評価関数生成部23及び評価関数演算部24が有する機能が一部相違する。
【0062】
本実施形態に係る収束演算部22は、路面摩擦係数μが低いと判定された区間に関してタイヤ発生力が摩擦円限界を超えることを許容したスリップ走行軌跡Rと、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを条件としたグリップ走行軌跡Rとを特定区間の直前の区間において同一とする第3拘束条件を設定する機能を有している。その他の機能は、第1実施形態に係る収束演算部22と同様である。
【0063】
また、本実施形態に係る評価関数生成部23は、スリップ走行軌跡Rを採用した場合の通過時間を評価する項と、グリップ走行軌跡Rを採用した場合の通過時間を評価する項とを含む評価関数であって、両者の走行軌跡に係る通過時間の平均が最も小さくなることを優先させる評価関数を生成する機能を有している。その他の機能は、第1実施形態に係る評価関数生成部23と同様である。
【0064】
また、本実施形態に係る評価関数演算部24は、評価関数生成部23が出力した評価関数を収束演算し、特定区間の直前の区間において同一の軌跡とする第3拘束条件、及び、特定区間においてタイヤ発生力が摩擦円限界を超えることを許容した第1拘束条件の二つの拘束条件を達成するスリップ走行軌跡Rと、全区間においてタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを条件とした第2拘束条件を達成するグリップ走行軌跡Rとを生成する機能を有している。その他の機能は、第1実施形態に係る評価関数演算部24と同様である。
【0065】
そして、本実施形態に係る走行軌跡導出部21は、第1実施形態と異なり、評価関数演算部24が生成した走行軌跡の何れか一方を採用するのではなく、両方の走行軌跡を採用しスリップ走行及びグリップ走行を状況に応じて適宜切り替えることができる機能を有している。その他の機能は、第1実施形態に係る走行軌跡導出部21と同様である。
【0066】
次に、第2実施形態に係る走行軌跡生成部の動作について説明する。図5は、第2実施形態に係る走行軌跡生成部の動作を示すフローチャートである。また、図6は第2実施形態に係る走行軌跡生成部の動作を説明するための概要図である。なお、図6では、車両5がカーブ形状の道路Dを走行する予定であるとする。
【0067】
図5に示す制御処理は、例えばイグニッションオンされてから所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0068】
図5に示す制御処理が開始されると、走行軌跡生成部1は、路面情報入力処理から開始する(S40)。S40の処理は、路面状況取得部20が実行し、図2のS10の処理と同様に、例えばナビゲーションシステム33を介して、路面摩擦係数μの分布情報を取得し、ナビゲーションシステム33が出力した経路情報及び道路形状等を入力し、路面摩擦係数μの大きさがほぼ等しい領域に走行予定経路の路面情報を分割する。S40の処理が終了すると、特定区間判定処理へ移行する(S42)。
【0069】
S42の処理は、走行軌跡導出部21が実行し、S40の処理で得られた分割した区間の中に、特定区間が存在するか否かを判定する処理である。S42の処理で特定区間があると判定した場合には、第2拘束条件設定処理へ移行する(S44)。
【0070】
S44の処理は、収束演算部22が実行し、図2のS12の処理と同様に、S40の処理で設定した区間ごとに、当該区間の路面摩擦係数μに基づいて拘束条件を設定する処理である。収束演算部22は、路面摩擦係数μや、タイヤ摩擦力等の車両諸元情報に基づいて摩擦円限界を全区間において設定し、設定した摩擦円限界をタイヤ発生力が超えないという条件を第2拘束条件に設定する。この第2拘束条件がグリップ走行軌跡Rの拘束条件となる。S44の処理が終了すると、初期条件設定処理へ移行する(S46)。
【0071】
S46の処理は、収束演算部22が実行し、スリップ走行軌跡を生成するための拘束条件を設定する処理である。収束演算部22は、特定区間Eの直前区間Eの走行軌跡はグリップ走行軌跡Rと同一線形となるという第3拘束条件を設定する。具体的には、S44の処理で設定した第2拘束条件に加えて、以後の処理においても特定区間Eの直前区間Eの走行軌跡はグリップ走行軌跡Rと同一線形となることを保持することが拘束条件に加えられる。そして、収束演算部22は、図3のS24の処理と同様に、特定区間Eについては、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないという条件を拘束条件から外すと共に、車両モデルが慣性運動となるような第1拘束条件を設定する。そして、収束演算部22は、図3のS24の処理と同様に、特定区間Eの直後区間Eについては、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないこと等の通常の第2拘束条件が設定される。S46の処理で設定した拘束条件が、スリップ走行軌跡Rの拘束条件となる。S46の処理が終了すると、評価関数設定処理へ移行する(S48)。
【0072】
S48の処理は、評価関数生成部23が実行し、評価関数を設定する処理である。評価関数生成部23は、S44の処理で設定した第2拘束条件を全区間で満たすグリップ走行軌跡Rの通過時間を評価する項と、S46の処理で設定した各拘束条件を各区間で満たすスリップ走行軌跡Rの通過時間を評価する項とを含む評価関数を設定する。例えば、スリップ走行軌跡Rのメッシュ単位の通過時間とグリップ走行軌跡Rのメッシュ単位の通過時間とを積算し平均した値を評価関数として設定する。S48の処理が終了すると、走行軌跡生成処理へ移行する(S50)。
【0073】
S50の処理は、収束演算部22が実行し、S44及びS46の処理で設定した各区間の拘束条件を満足する走行軌跡を生成する処理である。収束演算部22は、各区間において、前回求めた走行軌跡(初回の収束演算の場合には初期軌跡)を用いて、各区間の拘束条件を満たすべく今回の走行軌跡を生成する。S50の処理が終了すると、拘束条件判定処理へ移行する(S52)。
【0074】
S52の処理は、収束演算部22が実行し、S50の処理で生成した各区間のそれぞれの走行軌跡が、各区間で定めた拘束条件を満足するか否かを判定する処理である。収束演算部22は、図2のS16の処理と同様に、拘束条件を満たす走行軌跡を生成できるまで、S50に示す演算とS52に示す判定とを繰り返し行い(収束演算)、拘束条件を満たすスリップ走行軌跡R及びグリップ走行軌跡Rを生成する。
【0075】
一方、S52の処理において、生成した各区間の走行軌跡が、各区間で定めた拘束条件を満たすと判定した場合には、走行軌跡生成処理へ移行する(S54)。S54の処理は、評価関数演算部24が実行し、S48の処理で設定した評価関数を用いて、スリップ走行軌跡R及びグリップ走行軌跡Rを同時に評価して、各区間の走行軌跡を導出する処理である。評価関数演算部24は、収束演算部22から拘束条件を入力し、入力した拘束条件を達成している状態で、例えば共役勾配法で用いられる補正式に基づいて、前回求めた走行軌跡(初回の収束演算ではS44及びS46の処理で算出した収束条件を満たした走行軌跡)の評価値が小さくなるように、前回求めた走行軌跡のパラメータを変更して今回の走行軌跡を生成する。このとき生成されるスリップ走行軌跡R及びグリップ走行軌跡Rは、特定区間Eの直前の区間Eにおいて重なり、特定区間E以後に別な線形形状となる走行軌跡となる。S54の処理が終了すると、評価条件判定処理へ移行する(S56)。
【0076】
S56の処理は、評価関数演算部24が実行し、S54の処理で生成した各区間の走行軌跡を用いて、評価条件を満足しているか否かを判定する処理である。判定方法は、図2のS22の処理と同様である。S56の処理において、評価条件を満足していないと判定した場合には、走行軌跡生成処理へ再度移行する(S54)。これにより、評価関数演算部24は、スリップ走行軌跡R及びグリップ走行軌跡Rの通過時間の平均が最も小さい走行軌跡を生成できるまでS54に示す演算とS56に示す判定とを繰り返し行い(収束演算)、通過時間を優先した走行軌跡を生成する(図6のスリップ走行軌跡R及びグリップ走行軌跡R)。S56の処理が終了すると、図5に示す制御処理を終了する。走行軌跡生成部1は、図5に示す制御処理により生成されたスリップ走行軌跡R及びグリップ走行軌跡Rを、特定区間Eの直前の区間Eの走行軌跡として採用する。そして、走行軌跡生成部1は、車両5が特定区間Eを走行し始めた際に、特定区間Eの実際の路面摩擦係数μがS40の処理で入力した値より小さくてグリップ走行が困難な場合にはスリップ走行軌跡Rを採用し、特定区間Eの実際の路面摩擦係数μがS40の処理で入力した値より大きくてグリップ走行が可能な場合にはグリップ走行軌跡Rを採用する。なお、特定区間E以降の区間Eでは、特定区間Eで採用した走行軌跡をそのまま採用する。
【0077】
一方、S42の処理において、特定区間が存在しないと判定した場合には、通常の走行軌跡生成処理へ移行する(S58)。S58の処理は、走行軌跡導出部が実行し、道路形状等の道路環境情報と、車両状態等に基づいて最適化処理等による走行軌跡生成処理を行う。S58の処理が終了すると、図5に示す制御処理を終了する。
【0078】
次に本実施形態に係る走行軌跡生成部の作用効果を説明する。従来であれば、滑りやすい路面上でのスピン回避のための制御として、例えば図7の(a)に示す低μ情報単純制御や、図7の(b)に示す道路線形連動制御等、路面摩擦係数μの大きさや道路形状に応じて減速する制御が知られていた。これらの制御は、事前に取得した路面状況に測定誤差等があった場合には、誤差の大きさに応じて制御目標がずれてしまうため、本来意図した制御をすることが出来ない可能性があった。
【0079】
これに対して、本実施形態に係る走行軌跡生成部によれば、特定区間Eに進入する直前の区間Eでは走行軌跡の線形形状が同一であり、特定区間Eではスリップ走行軌跡Rとグリップ走行軌跡Rとの2つに分かれる走行軌跡を導出することができる。これにより、例えば、路面が滑りやすいと事前に判定した特定区間Eを走行し始めた際に、実際にはそれほど滑らないと判明した場合等、すなわち、事前に得られた特定区間Eの路面摩擦係数μに誤差があった場合であっても、特定区間Eの走行始めからスリップ走行軌跡Rとグリップ走行軌跡Rとの何れかを選択できる準備をしており、さらにどちらの走行軌跡となっても通過時間は平均で最も小さい軌跡となるような走行軌跡が採用されているので、車両挙動を乱すことなく、安全性を担保しながら通過時間を考慮した走行軌跡を生成することができる。結果、平均速度の低下を最小限に抑え、交通流の円滑化を図ることができる。
【0080】
なお、上述した各実施形態は本発明に係る走行軌跡生成装置又は走行軌跡生成方法の一例を示すものである。本発明に係る走行軌跡生成装置又は走行軌跡生成方法は、各実施形態に係る走行軌跡生成装置又は走行軌跡生成方法に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、各実施形態に係る走行軌跡生成装置又は走行軌跡生成方法を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0081】
例えば、上記各実施形態の評価関数には、低燃費走行を評価する項等を評価する項目に応じて適宜含んでもよい。
【0082】
また、上記各実施形態において、自動運転機能を備えた車両5について説明したが、運転支援システム機能を備えた車両5であってもよい。この場合、例えば、走行軌跡を表示するディスプレイ等を備え、生成した走行軌跡を運転者に報知する構成とするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本実施形態に係る走行軌跡生成部を備える車両の構成概要を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る走行軌跡生成部の動作を示すフローチャートである。
【図3】第1実施形態に係る走行軌跡生成部の動作を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態に係る走行軌跡生成部の動作を説明する概要図である。
【図5】第2実施形態に係る走行軌跡生成部の動作を示すフローチャートである。
【図6】第2実施形態に係る走行軌跡生成部の動作を説明する概要図である。
【図7】従来の走行軌跡生成方法を説明する概要図である。
【符号の説明】
【0084】
1…走行軌跡生成部(走行軌跡生成装置)、2…ECU、20…路面状況取得部、21…走行軌跡導出部、22…収束演算部、23…評価関数生成部、23…評価関数演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行軌跡を生成する走行軌跡生成装置であって、
前記車両が走行する通過予定経路において、路面が滑りやすいと判定された特定区間を取得する路面状況取得部と、
前記特定区間では車両モデルを慣性運動とすると共に、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成する走行軌跡導出部と、
を備える走行軌跡生成装置。
【請求項2】
前記走行軌跡導出部は、
前記第1拘束条件を達成している状態で通過時間の項を含む評価関数を収束演算して第1走行軌跡を導出し、
タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含む第2拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、前記第2拘束条件を達成している状態で通過時間の項を含む評価関数を収束演算して第2走行軌跡を導出し、
前記第1走行軌跡及び前記第2走行軌跡のうち、平均速度の高い走行軌跡を採用すること、
を特徴とする請求項1に記載の走行軌跡生成装置。
【請求項3】
前記走行軌跡導出部は、
前記通過予定経路においてタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含む第2拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、
前記特定区間に進入する直前の区間では前記第2拘束条件を満たす走行軌跡と同一線形とする第3拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、前記特定区間では車両モデルを慣性運動とすると共にタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない前記第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、
前記第1拘束条件及び前記第3拘束条件を達成するように収束演算して生成した走行軌跡の通過時間と、前記第2拘束条件を達成するように収束演算して生成した走行軌跡の通過時間との平均値の項を含む評価関数を収束演算して走行軌跡を導出すること、
を特徴とする請求項1に記載の走行軌跡生成装置。
【請求項4】
前記路面状況取得部において、前記特定区間は、前記通過予定経路を路面摩擦係数の分布によって分割された区間の中で、前記路面摩擦係数が前後の区間よりも相対的に低い区間であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の走行軌跡生成装置。
【請求項5】
前記路面状況取得部において、前記特定区間は、前記通過予定経路を路面摩擦係数の分布によって分割された区間の中で、路面摩擦係数が所定値よりも小さい区間であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の走行軌跡生成装置。
【請求項6】
車両の走行軌跡を生成する走行軌跡生成方法であって、
前記車両が走行する通過予定経路は路面摩擦係数の分布によって分割されており、分割された区間のうち路面が滑りやすいと判定された特定区間を取得する路面状況取得手段と、
前記特定区間では車両モデルを慣性運動とすると共に、タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成する走行軌跡導出手段と、
を備える走行軌跡生成方法。
【請求項7】
前記走行軌跡導出手段は、
前記第1拘束条件を達成している状態で通過時間の項を含む評価関数を収束演算して第1走行軌跡を導出し、
タイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含む第2拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、前記第2拘束条件を達成している状態で通過時間の項を含む評価関数を収束演算して第2走行軌跡を導出し、
前記第1走行軌跡及び前記第2走行軌跡のうち、平均速度の高い走行軌跡を採用すること、
を特徴とする請求項6に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項8】
前記走行軌跡導出手段は、
前記通過予定経路においてタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含む第2拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、
前記特定区間に進入する直前の区間では前記第2拘束条件を満たす走行軌跡と同一線形とする第3拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、前記特定区間では車両モデルを慣性運動とすると共にタイヤ発生力が摩擦円限界を超えないことを含まない前記第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を生成し、
前記第1拘束条件及び前記第3拘束条件を達成するように収束演算して生成した走行軌跡の通過時間と、前記第2拘束条件を達成するように収束演算して生成した走行軌跡の通過時間との平均値の項を含む評価関数を収束演算して走行軌跡を導出すること、
を特徴とする請求項6に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項9】
前記路面状況取得手段において、前記特定区間は、前記通過予定経路を路面摩擦係数の分布によって分割された区間の中で、前記路面摩擦係数が前後の区間よりも相対的に低い区間であることを特徴とする請求項6〜8の何れか一項に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項10】
前記路面状況取得手段において、前記特定区間は、前記通過予定経路を路面摩擦係数の分布によって分割された区間の中で、路面摩擦係数が所定値よりも小さい区間であることを特徴とする請求項6〜8の何れか一項に記載の走行軌跡生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−166623(P2009−166623A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6059(P2008−6059)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】