説明

車両のエンジンブレーキ制御装置

【課題】 通常モード以外に運転者の意図を反映可能な他の操作モードを備えている車両で、簡単な操作で走行状態に応じて最適なエンジンブレーキ力を得るエンジンブレーキ制御装置を提案する。
【解決手段】 エンジンと無段変速機とが搭載される車両のエンジンブレーキ制御装置であって、車両の車速に応じて変速比を無段階に特定してある基準線を規定して、エンジンブレーキ力を発生させるときの初期エンジンブレーキ力を設定する初期エンジンブレーキ力設定手段と、運転操作に基づいて運転者のエンジンブレーキ要求の意図を確認したときの車両の車速と基準線とにより特定される初期エンジンブレーキ力を始点としてエンジンブレーキ力の目標線を設定してエンジンブレーキ制御を実行する制御手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと共に無段変速機が搭載されている車両に適用されるエンジンブレーキ制御装置に関する。より詳細には、通常の運転操作で使用される通常モード(ノーマルモード)とは別に、マニュアルモード(以下、Mモード)、スポーツ走行モード(以下、Dsモード)、エンジンブレーキモード(以下、エンブレ−モード)など、運転者(ドライバー)の意図を反映させた運転操作を可能とするため他の操作モードが準備されている車両に好適なエンジンブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通常の運転操作で使用される自動的に無段変速を行う通常モードとは別に、ドライバーの意図を反映させた運転操作が行えるMモードなど、他の操作モードを具備している車両が提供されるようになっている。無段変速機を搭載した車両であっても、このようにMモードなどを備えているとドライバーの意思で車両の駆動力を切換えることができるので適度な車両操作感を得ることができる。例えば、特許文献1はモード選択手段を備えて所望の駆動力特性を選択し得るようにした車両の駆動力制御装置について開示する。この駆動力制御装置は、アクセル開度と車速とから車両の目標駆動力を演算し、この目標駆動力あるいはアクセル開度と、車速とから変速機の目標減速比を演算する。また、前記目標駆動力と、変速機の目標変速比あるいは実変速比とから目標エンジントルクを演算する。その際に、駆動力に関する複数の特性モードの中から何れか1つの特性モードを選択するモード選択手段の出力に応じて、所望の目標駆動力の特性に切換えるようにしている。これにより、異なるレンジ同士で目標駆動力が同一となってエンジンブレーキが効かないなどの不都合を回避しつつ、特性モードの設定に応じた駆動力特性を得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−348606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の駆動力制御装置では、例えばDsモードを選択しエンジンブレーキを発生させるような走行状態となったとき、その図1で示している変速線図に基づいて一定のエンジンブレーキ力を発生させることになる。しかしながら、車両の走行状態は刻々と変化しているので、ドライバーがDsモードを選択しているような場合にはエンジンブレーキ力についてもこれに応じて適宜に変更させることが好ましい。ところが、特許文献1の駆動力制御装置は、このような点ついては十分な検討がなされていない。そのためにドライバーが所定のエンジンブレーキ力を発生させることを期待して、Dsモード等を選択して運転操作を行っても期待しているエンジンブレーキ力を得ることができずに力不足による違和感や急減速による不快感を感じてしまうことが懸念される。更に、所望のエンジンブレーキ感を得るために煩雑なシフト操作を行うことなどが必要となるなどの問題が発生する場合もある。
そこで、本発明の目的は、通常モード以外に運転者の意図を反映可能な他の操作モードを備えている車両で、簡単な操作で走行状態に応じて最適なエンジンブレーキ力を得ることができるようにしたエンジンブレーキ制御装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的のため、本発明に係る車両のエンジンブレーキ制御装置は、エンジンと無段変速機とが搭載される車両に適用することを前提とし、
前記車両の車速に応じて変速比を無段階に特定してある基準線を規定して、エンジンブレーキ力を発生させるときの初期エンジンブレーキ力を設定する初期エンジンブレーキ力設定手段と、
運転操作に基づいて運転者のエンジンブレーキ要求の意図を確認したときの前記車両の車速と前記基準線とにより特定される前記初期エンジンブレーキ力を始点としてエンジンブレーキ力の目標線を設定してエンジンブレーキ制御を実行する制御手段とを備えている、ことにより特徴付けされるものである。
【発明の効果】
【0006】
かかる本発明のエンジンブレーキ制御装置によれば、初期エンジンブレーキ力設定手段がエンジンブレーキ力を発生させるときの初期エンジンブレーキ力を最適なものとして設定しており、制御手段はその初期エンジンブレーキ力を始点としてエンジンブレーキ力の目標線を設定してエンジンブレーキ制御を実行するので、簡単な操作で運転者の意図に即したエンジンブレーキ力を得ることができる。これにより、車両の走行状態に応じた自然なエンジンブレーキ力が得られるので、運転者が意図をもって運転操作をしたときに適度な減速感を得ることができるので先に指摘したような違和感や不快感を感じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例になるエンジンブレーキ制御装置が適用してある車両のパワートレーンの主要構成と、その制御系を示している図である。
【図2】車両で採用されるシフトレバーの操作位置を説明するために示した図である。
【図3】総合コントローラが実行するエンジンブレーキ制御のルーチンを示したフローチャート図である。
【図4】総合コントローラが実行するエンジンブレーキ制御のルーチンを示したフローチャート図である。
【図5】Mモードが起動されたときに採用される変速線図の一例を示した図である。
【図6】総合コントローラがエンジンブレーキ制御を実行するときに設定する初期エンジンブレーキ力およびエンジンブレーキ力の目標線について示している図である。
【図7】目標線を他のダウンシフト型とした場合について示している図である。
【図8】目標線を他のギア固定型とした場合について示している図である。
【図9】車両の状態に応じて設定される基準線を説明するための図である。
【図10】車両の他の制御で補正した場合の基準線を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る一実施形態を、図を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施例になるエンジンブレーキ制御装置が適用してある車両のパワートレーンの主要構成と、その制御系を示している図である。図1では、車両に搭載したパワートレーンがエンジン1と無段変速機2とで構成されている。そして、エンジン1を制御するエンジンコントローラ22、変速機2を制御する変速機コントローラ23が配備され、更にこれらコントローラ22、23は車両全体を制御する総合コントローラ21によって制御されている。
【0009】
図1に基づいて、エンジン1と無段変速機2のそれぞれが備えている基本構成を順に説明する。エンジン1は、例えばガソリンエンジンであり、そのスロットルバルブ3により吸気流が制御される。このスロットルバルブ3は、ドライバーが操作するアクセルペダル4とは機械的に連結されておらず、スロットルアクチュエータ5によりその開度が電気的に制御される電子式スロットルとされている。
なお、上記アクセルペダル4の踏み込み量APOを検出するためアクセル開度センサ24、スロットルバルブ3の開度TVOを検出するためスロットル開度センサ27が配設してある。これらセンサの検出信号は、総合コントローラ21へ供給されている。また、エンジン1の回転数Neを検出するクランクセンサ26が配設され、このセンサ26の検出信号も総合コントローラ21へ供給されている。
【0010】
アクセル開度センサ24の検出信号は上記のように総合コントローラ21に供給されている。よって、総合コントローラ21が踏み込み量APOに基づいて決定する目標スロットル開度tTVOに関した指令に応動するエンジンコントローラ22によりスロットルアクチュエータ5の作動量が制御されている。これによりスロットルバルブ3のスロットル開度TVOを当該目標スロットル開度tTVOに一致させて、エンジン1の出力をアクセルペダル4の操作に応じた値とすることができる。
なお、上記エンジンコントローラ22は、スロットルアクチュエータ5を介した上記スロットル開度制御を行うだけでなく、他にエンジン1の駆動に際して必要な燃料噴射量制御、フューエルカット制御、また点火時期制御などエンジン1に係る全体的な制御も行うように設定しておくことができる。
【0011】
次に、無段変速機2は、例えば周知のVベルト式無段変速機であり、ロックアップ式のトルクコンバータ6を介してエンジン1の出力軸に駆動結合されたプライマリプーリ7と、これに整列配置したセカンダリプーリ8と、これら両プーリ間に掛け渡したVベルト9とを有している。そして、セカンダリプーリ8にファイナルドライブギヤ組10を介してディファレンシャルギヤ装置11を駆動結合し、これらにより図示しない車輪を回転駆動する。
【0012】
無段変速機2の変速動作は、プライマリプーリ7およびセカンダリプーリ8それぞれのV溝を形成するフランジのうち、一方の可動フランジを他方の固定フランジに対して相対的に接近させてV溝幅を狭めたり、逆に離間させてV溝幅を拡げたりすることにより行う。
両可動フランジのストローク位置を、変速制御油圧回路12からのプライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecとの比により決定する。
【0013】
変速制御油圧回路12は変速アクチュエータとしてステップモータ13を具えている。変速機コントローラ23がステップモータ13を目標変速比tRTOに対応したステップ位置に駆動させることで、実変速比が目標変速比tRTOと一致するように無段変速機2を変速動作させる。
変速機コントローラ23は更に、ロックアップ(L/U)信号を変速制御油圧回路12に出力し、変速制御油圧回路12はこの信号に応じてトルクコンバータ6を、入出力要素間が直結されたロックアップ状態とし、更にそのロックアップを解除できるように設計してある。
【0014】
上記変速機コントローラ23は上記の目標変速比tRTOを、例えば以下のようにして求めることができる。先ず総合コントローラ21が所定の変速マップを基に前述したスロットル開度TVOおよび車速Vspからエンジン1の目標回転数DSRREVを求め、変速機コントローラ23がこの目標回転数DSRREVを変速機出力回転数(車速Vspから求め得る)で除算することにより目標変速比tRTOを求めることができる。なお、上記ディファレンシャルギヤ装置11から延在している車輪駆動用の回転軸に対向させて車速Vspを検出するための車速センサ25が配設されており、このセンサ25の検出信号も前述した他のセンサと同様に総合コントローラ21へ供給されている。
【0015】
図2は、車両で採用されるシフトレバー(セレクトレバー、セレクター等とも称される)の操作位置を説明するために例示した図である。図2で示するように、本実施例の車両では通常モードを選択する通常ゲートとは別に、マニュアル操作モードでの操作を可能とするためのゲート(Mゲート)が準備されている。ドライバーがシフトレバー30を適宜に移動させることによりマニュアルモードを選択できるようになっている。
そして、図2で例示する場合には、ドライバーがシフトレバー30を通常ゲート側のDレンジからMゲート側に移行させたときに、先ずDsモードが起動されるような設定としてある。そして、その後において更にシフトレバー30をアップシフト(+)側、或いはダウンシフト(−)側へ操作したときにマニュアルモード(Mモード)が起動されるように設計してあるものとする。
なお、シフトレバー30がMゲート側に移行されたこと、更にはMゲート内でアップシフト(+)側或いはダウンシフト(−)側への操作がなされたことをレバー位置検出センサ31により検出するようにしてある。図1に示すように、このセンサ31の検出信号も総合コントローラ21へ供給されている。
【0016】
以上で説明した構成を備えた車両は、従来の無段変速機を備えた車両の場合と同様に通常モードで運転操作を行える他、ドライバーがシフトレバー30をMゲート側へ移動させたことを検出したときに、車速の状態に応じて最適なエンジンブレーキ力が得られるようにしたエンジンブレーキ制御装置が適用されている。このエンジンブレーキ制御装置は前述した総合コントローラ21を中心に構成されている。総合コントローラ21が実行するエンジンブレーキ制御のルーチンを図3、図4に示したフローチャートに基づいて説明する。
【0017】
総合コントローラ21は、例えば図示しないイグニッションキーがON(オン)されたときに、最適なエンジンブレーキ力を得るために本エンジンブレーキの制御ルーチンを起動させる。まず、総合コントローラ21はレバー位置検出センサ31の出力を確認してシフトレバー30がDレンジからMゲートのDsモードへシフト操作されたか否かを確認する(ステップS101)。総合コントローラ21が、このステップS101でDsモードへのシフトを確認すると、ドライバーが更にシフトレバー30をアップシフト或いはダウンシフト操作したか否かを確認する(ステップS102)。ここで、ドライバーがアップシフト等の操作をした場合にはマニュアルモード(Mモード)に移行する(ステップS103)。このようにMモードに移行した場合には、Mモードが起動されドライバーのシフトレバー30のアップシフト或いはダウンシフト操作に対応して車両の変速段が設定される。
【0018】
図5は、Mモードが起動されたときに採用される変速線図の一例を示した図である。ここでは、マニュアルモード用にギア段I〜VIの6段が設定され、各段について車速Vspに応じたエンジンの目標回転数が設定してある。よって、Mモードへ移行した後に、ドライバーがシフトレバー30を操作してアップシフト或いはダウンシフトし、アクセルペダル4を開放すると図5で示す変速線に基くシフト後の変速段で所定のエンジンブレーキ力を得ることができる。このようなエンジンブレーキ制御は、Mモードを採用している従来の車両と同様である。すなわち、総合コントローラ21はドライバーがMモードへの移行を確認した後、直ぐにシフトレバー30をアップシフト或いはダウンシフト操作した場合には、通常のマニュアル操作を実行する意図があると判断して、従来のMモードでの制御とする。
【0019】
一方、総合コントローラ21は、上記ステップS102でドライバーがシフトレバー30をアップシフト或いはダウンシフト操作していないことを確認した場合、車両の状態を検知する(ステップS104)。総合コントローラ21は、車両の状態として走行状況(平地、登降坂路など)、またアクセルペダルのオン・オフ状態等を確認する。
【0020】
上記のようにシフトレバー30がMゲートに移動された後にマニュアル操作されずにDsモードに維持された場合、総合コントローラ21は車両の状態に応じた最適な初期エンジンブレーキ力が得られるようにする。この点を更に図6を参照して説明する。図6は、総合コントローラ21が初期エンジンブレーキ力設定手段および制御手段として機能して、エンジンブレーキ制御を実行するときに設定する初期エンジンブレーキ力およびエンジンブレーキ力の目標線について示している図である。この図6は、先に説明した図5の変速図と同様に車速Vsp(km/h)とエンジン目標回転数(rpm)とによりエンジンブレーキ力が特定されている。そして、この図6にも、図5で示すMモードを起動したときの6つのギア段I〜VIが示してある。また、図6において、αはハイ(Hi)側の変速比設計限界値を示す変速線、また、βはロー(Low)側の変速比設計限界値を示す変速線で、これらは無段変速機2のハードウェア構成などにより決まるものである。
【0021】
総合コントローラ21は、先ず初期エンジンブレーキ力設定手段として機能して車両の状態に応じて初期エンジンブレーキ力を設定する。ここで、初期エンジンブレーキ力はドライバーがアクセルペダルを開放(釈放)したときに、ドライバーに(違和感や不快感なく)適度な減速感を与えることを想定して設定されるものである。そして、好ましい初期エンジンブレーキ力は車両の状態に応じて刻々と変化している。
【0022】
よって、総合コントローラ21は車両の状態(走行状況及びアクセルペダルのオン・オフ状態等)に応じて、最適な初期エンジンブレーキ力を設定する。このような初期エンジンブレーキ力は、車両を走行試験やシミュレーションなどに基づいて作成したデータを総合コントローラ21内のメモリに格納し、必要なときに読み出すことができるように準備しておく。そして、総合コントローラ21がDsモードの維持を確認し、車両の状態を確認したときに、これに対応した最適な初期エンジンブレーキ力を設定するようにしておけばよい。
図6は、車速と目的回転数とで最適な初期エンジンブレーキ力(値)を設定している基準線BLを図示したものである。このような基準線BLは上記のように予め準備したデータに基づいて作成され、また車両の状態に応じて最適なものに適宜に変更されるものである。すなわち、図6では1本の基準線BLが図示してあるが、総合コントローラ21は車両の状態に応じて適した基準線BLを設定する。
【0023】
そして、総合コントローラ21はドライバーの運転操作に基づいてドライバーのエンジンブレーキ要求の意図を確認したときには更に制御手段として機能して、エンジンブレーキ力の目標線TLを設定してエンジンブレーキ制御を実行する。この目標線TLは、図6で示すように、基準線BL上の1点を始点SPとして設定される。この始点SPには、例えばドライバーがアクセルペダル4を開放した際をエンジンブレーキ要求の意図有りとして、そのときの車速V0に対応する基準線BL上の1点が特定される。総合コントローラ21はエンジンブレーキ要求の意図を確認したときに、上記のように特定した基準線BL上の点を始点SPにエンジンブレーキ力の目標線TLを設定してエンジンブレーキ制御を実行する。
【0024】
上記のように総合コントローラ21は、車両の状態を確認してそのときに最適な初期のエンジンブレーキ力を規定する基準線BLを設定し、実際にエンジンブレーキ力を発生させるときには基準線BLの一点を始点としてエンジンブレーキ力の目標線TLを設定してエンジンブレーキ制御を実行する。よって、他の操作モードが準備されている無段変速機を搭載した車両で運転者の意図に応じたエンジンブレーキ力を得ることができる。そして、ドライバーはシフトレバー30をMゲートに移動した後、アクセルペダルを放すという簡易な操作で車速変化に応じた自然な回転数変化でエンジンブレーキが得られるので期待した減速感や操作感などを得ることができる。
【0025】
総合コントローラ21は、車両の走行状態に応じて上記目標線TLを好ましいものに適宜に変更する。本実施例では、総合コントローラ21は車両の状態、例えば車速変化に伴って変化しているエンジンの回転数の変化量を算出し、その変化量に基づいて、好ましいエンジンブレーキ力が得られるように目標線TLを設定する。図6で示している目標線TLは、アップシフト型とした場合を例示している。このようなアップシフト型の目標線TLは、例えば車両が減速傾向であった場合などに設定される。すなわち、総合コントローラ21は車両の走行状態の応じてそのときの車両に適した目標線TLを設定する。
図7および図8は、他のタイプの目標線TLを設定した場合を例示している図であり、図7は目標線TLをダウンシフト型とした場合、図8はギア固定型とした場合について示してある。
なお、上記目標線TLについて、アップシフト、ダウンシフト、或いはギア固定の切り分けは、例えば次のように行うことができる。走行モードに基づいて設定する場合は、スポーツ走行モードはダウンシフト、ノーマル走行モードはギア固定、エコ走行モードはアップシフトとするのが好ましい。また、減速度に基づいて設定する場合は、減速度が大のときはダウンシフト、減速度が中のときはギア固定、減速度が小のときはアップシフトとするのが好ましい。さらに、路面勾配に基づいて設定する場合は、降坂路のときはダウンシフト、平坦路のときはギア固定、登坂路のときはアップシフトとするのが好ましい。
【0026】
ところで、減速度に基づく設定で減速度が大のときにダウンシフト設定とするのは、次のような理由による。減速度が大きくなるのはブレーキが強く踏み込まれるようなシーンである。このようにブレーキ踏み込みが強い場合はその後に加速が予測されるシーンである。従って、加速のためにはエンジン回転数を高めに維持しておくことが望ましい。しかし、ブレーキ踏み込みにより急減速するとエンジン回転数も低下をしてしまう。そこで、目標線TLをダウンシフト傾向に設定しておくことで、エンジン回転数を高く保つようにして、その後の加速時に対応可能とする。
更に、スポーツ走行モードのときダウンシフトとする理由は、減速時にはエンジンブレーキ力が、加速時には駆動力が要求されるため、これら要求を実現すべく目標線TLをダウンシフトとすることが望ましいからである。また、エコ走行モードのときアップシフトとする理由は、エンジンブレーキ力や駆動力が要求される走行モードではないため、目標線TLをアップシフトとすることが望ましいからである。また、ノーマル走行モードのときギア固定とする理由は、スポーツ走行モードほどではないが、適度なエンジンブレーキ力と駆動力とを実現すべく、目標線TLをギア固定とすることが望ましいからである。
【0027】
そして、減速度が小さいときアップシフトとする理由は、減速後の車両の加速が予測されるシーンではないため、目標線TLをアップシフトとすることが望ましいからである。また、減速度が中のときギア固定とする理由は、減速度が大きいシーンほどではないが、適度なエンジンブレーキ力と駆動力とを実現すべく、目標線TLをギア固定とすることが望ましいからである。
そして、降坂路のときダウンシフトとする理由は、降坂路走行時はエンジンブレーキ力が要求される走行シーンであるため、目標線TLをダウンシフトとすることが望ましいからである。また、登坂路のときアップシフトとする理由は、登坂路走行時はエンジンブレーキ力が要求される走行シーンではないため、目標線TLをアップシフトとすることが望ましいからである。また、平坦路のときギア固定とする理由は、適度なエンジンブレーキ力と駆動力とを実現すべく、目標線TLをギア固定とすることが望ましいからである。
【0028】
再度、図3のフローチャートを参照して、総合コントローラ21が基準線BLを設定した後、車両の状態を検知して最適な目標線TLを設定する点、及びその後の処理について更に詳細に説明する。前述したように総合コントローラ21は、シフトレバー30のDsモードへの操作を検出し(ステップS101)、ドライバーがマニュアル操作をしない場合に(ステップS102)、車両の状態を検知する(ステップS104)。総合コントローラ21は前述した複数のセンサからの検出信号を参照して車両の状態を確認する。車速Vsp、エンジン回転数Neの他、運転状態、走行状況、アクセルペダルのオン・オフ状態等を確認している(ステップS104)。このように、総合コントローラ21が車両の走行状態を検知するのは、前述のように最適な初期のエンジンブレーキ力を設定するためである。
【0029】
よって、総合コントローラ21は図9に示すように、車両の状態に応じた最適な基準線BLを設定できる。車両が定常走行していたような場合は、図9で中央に示す標準的な基準線BL−aが設定される。これに対して車両がスポーツ走行、登坂路の走行、加速走行、或いはアクセルペダルオンの状態などである場合は上側の基準線BL−bが設定され、これと逆に車両がエコ走行、降坂路の走行、減速走行或いはアクセルペダルオフの状態などである場合は下側の基準線BL−cが設定されることになる。なお、ここで、スポーツ走行、登坂路の走行、加速走行、エコ走行、降坂路の走行、減速走行は請求項3における走行状況に対応する。また、アクセルペダルオンの状態、アクセルペダルオフの状態は請求項3におけるアクセルペダルのオン・オフ状態に対応する。
【0030】
さらに、本実施例では、上記ステップS104の次に、好ましい制御としてステップS105が設定してある。このステップS105は車両側の他の制御を考慮して上記の初期エンジンブレーキ力を補正できるように設けたステップである。例えば、ハイ(Hi)ギア側の回転数が制限され、コースト回転数が高くなっているなどの状況では、図10で示すように初期エンジンブレーキ力に対応する標準的な基準線BL−aの位置が適宜にオフセットさせてより適した位置BL−stに補正される。このように、車両の走行状態以外の他条件にも考慮して基準線BLを補正するとより好ましいエンジンブレーキが得られるように改善できる。
【0031】
よって、総合コントローラ21は上記ステップS105で他制御によりギア比のHi側が制限されていることを確認した場合には、このように初期エンジンブレーキ力に対応するエンジン回転数の補正量を算出する(ステップS106)。そして、次のステップで上記車両の状態に対応した初期エンジンブレーキ力用の基準線BLを設定する(ステップS107)。車両の走行状態(運転状態、走行状況など)に沿った初期エンジンブレーキ力が特定され、これに応じた基準線BLが規定される。上記ステップS106で補正量を算出していた場合には、その補正量により補正した基準線BLが設定される(ステップS107)。よって、ここまでのステップで車両の状態に応じて、最適なエンジンブレーキ力を得るための始点となる(初期値となる)基準線BLを規定できる。
【0032】
この後、総合コントローラ21は更に車両の状態を検知する(ステップS108)。これはドライバーのエンジンブレーキ要求の意図を確認したときの車速を確認して、上記のように最適に設定されている基準線BLを始点にエンジンブレーキ力の目標線を設定するためである。よって、図3に続く図4で示すように、総合コントローラ21は次のステップにおいて車速V0で特定される基準線BL上の始点SPから車速の変化に応じた回転変化量を算出して、目標線TLを設定する(ステップS109)。
【0033】
総合コントローラ21は基準線BLに対応する初期エンジンブレーキ力に対応するエンジン回転数(初期エンブレ回転数)と上記のように設定したエンジンブレーキ力の目標線TLに基づいて無段変速機2へ指令を発して車両の状態に応じた最適なエンジンブレーキ力を発生させる(ステップS110)。
総合コントローラ21は、その後も、ドライバーがシフトレバー30をアップシフト或いはダウンシフト側へ操作しない場合(ステップS111)、同様のエンジンブレーキ制御を継続する(ステップS112)。一方、総合コントローラ21はドライバーがエンジンブレーキ不要の運転操作や加速終了の意図を確認した場合には(ステップS113)、ここまでのエンジンブレーキ制御を終了して(ステップS114)、通常のエンジンブレーキ制御へ移行する(ステップS115)。
【0034】
一方、上記ステップS111で、ドライバーがシフトレバー30を操作したことを総合コントローラ21が検知した場合には、Mモードへ移行する(ステップS116)。このようにMモードへ移行したときに前述したステップS103と同様に、従来と同じ制御に移行してもよいが、ここではより好ましいエンジンブレーキ制御が設定されている。
この好ましい制御の内容を先に示した図5を流用して説明に利用する。総合コントローラ21は、前述したエンジンブレーキ制御を実行中にシフトレバー30の操作を確認したときに、マニュアルモードに移行するのであるが、現在のエンジン回転数(マニュアルモードに移行したときのエンジン回転数)を確認して、その後に最適なエンジンブレーキ力が設定可能を確認する。例えば、図5でMモード移行時のエンジン回転数が約3000回転でNe−1の位置にあり、ドライバーがシフトレバー操作で設定した変速段がVであったような場合には、V用の変速線によるエンジン回転数はNe−1に近いので、このままMモードを起動しても期待したエンジンブレーキ力を発生させることできないと予想される。
【0035】
このような場合には、総合コントローラ21は変速機コントローラ23を制御して、変速段Vから変速段を強制的に一段飛ばして変速段IVとすることでエンジンブレーキ力の増大を図り、ドライバーへのインフォメーションとなるようなエンジンブレーキ力が確実に発生するようにしてから(ステップS118)、本来のMモードへと移行させる(ステップS120)。
なお、上記のように強制的に変速段を飛ばすか否かについて判断基準はプログラムなどに予め設定しておけばよい。例えばマニュアルモードに移行したときの所定のエンジン回転数が、2本の変速線間を100%としたときにマニュアルモードで設定した側の変速線から15%以内に接近していた場合などに、上記のように変速段の飛ばしを実行するように設定してもよい。
【0036】
以上で説明した実施例では、総合コントローラ21が初期エンジンブレーキ力を設定する初期エンジンブレーキ力設定手段、及びエンジンブレーキの目標線を設定してエンジンブレーキ制御を実行する制御手段を兼ねるものとして説明した。しかし、これに限らず図1で示しているエンジンコントローラ22および変速機コントローラ23により上記手段の一部を実現するように構成してもよいし、総合コントローラ21並びにエンジンコントローラ22および変速機コントローラ23を1つのコントローラとする構造を採用してもよい。
【0037】
また、上記実施例では図2で例示したように、通常ゲートに隣接させてMゲートを設けたが、Mゲートに対応する部分にDsモードやエンブレ−モードなど他のモードを設定してもよく、また通常のDレンジから他の操作モードへ変更する操作があったときに前述したエンジンブレーキ制御を起動するようにしてもよい。更に、上記実施例でアクセルペダルの開放を確認したときに運転者のエンジンブレーキ要求の意図を確認する場合を説明しているが、これに限らずアクセルペダルが開放されていることを前提にシフトレバーの操作が可能となる車両の場合にはシフトレバー操作をもってエンジンブレーキ要求の意図を確認するようにしてもよい。
【0038】
なお、上記実施例ではエンジンブレーキ力をこれに対応するエンジン回転数で制御する場合について説明したがこれに限らない。例えば現在のエンジントルクと過渡のギア比とにより算出されるマイナスの駆動力或いは減速度Gに基づいて前記初期エンジンブレーキ力を設定するようにしてもよい。このようにすると、車両の駆動状態を良く反映するので現在エンジントルクや過渡のギア比などを用いているので、エンジンブレーキ制御のシステムをエンジン、ブレーキシステム、モータなどとの設計、統合制御が容易となる。
【0039】
そして、初期エンジンブレーキ力設定手段は、現在のエンジントルクと過渡のギア比とより算出した駆動力或いは減速度Gの立ち上がり(傾き)が所定値よりも高くなるような場合には、エンジン回転の上昇を制限、すなわち上昇が滑らかとなるように丸く補正するのが好ましい。これにより急激なダウンシフトによる減速ショックを抑え、適度な立ち上がり方のエンジンブレーキ力を発生させて車両の走行安定性を向上できる。
【0040】
以上説明したエンジンブレーキ制御装置によると、運転者の意図を反映可能な他の操作モードを備えている車両で、簡単な操作で、走行状態に応じた最適なエンジンブレーキ力を得ることができる。
【0041】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
前述したように本発明によれば、通常モード以外に運転者の意図を反映可能な他の操作モードを備えている車両で、簡単な操作で走行状態に応じた最適なエンジンブレーキ力を得ることができるエンジンブレーキ制御装置を提供できる。
【0043】
そして、前記初期エンジンブレーキ力設定手段は、前記車両の車速に応じてエンジンブレーキ力を特定してある基準線を規定して、前記初期エンジンブレーキ力を設定することができる。
【0044】
また、前記初期エンジンブレーキ力設定手段は、前記車両の状態を示している走行状況及びアクセルペダルのオン・オフ状態の少なくとも1つに基づいて、前記初期エンジンブレーキ力を設定するようにしてもよい。これにより車両の状態に合致した初期エンジンブレーキ力を得ることができる。
【0045】
また、前記初期エンジンブレーキ力及び前記エンジンブレーキ力を、前記車両の車速とエンジン目標回転数とを用いて特定してあるようにしてもよい。
【0046】
また、前記制御手段は、前記車両の車速変化に伴って変化している前記エンジンの回転数の変化量を算出し、その変化量に基づいて前記目標線を設定してもよい。車速に応じて変化するエンジン回転数は、運転の仕方や走行状況などにより車両の状態が変化する。よって、制御手段がエンジン回転数の変化量に基づいて前記エンジンブレーキ力の目標線を設定すると、エコロジー走行、ノーマル走行、スポーツ走行の運転操作、平地走行、坂路走行など種々の状態に対応して最適なエンジンブレーキ力を発生させることができる。これにより、運転者意図、走行シーンに合った最適なエンジンブレーキを得ることができる。
【0047】
また、前記車両には、通常操作用の通常モードと運転者の運転操作意図を反映可能な他の操作モードとが準備され、前記他の操作モードの1つとしてマニュアルモードを含むと共に、前記制御手段が前記無段変速機の変速制御も実行可能に設定されており、前記制御手段は、前記エンジンブレーキ制御の実行後に、前記マニュアルモードが起動されて変速段が設定されたときに、前記変速段に基づくマニュアルモードでの目標回転数が前記初期エンジンブレーキ力に対応したエンジンブレーキ目標回転数と接近していた場合には、前記マニュアルモードの変速段をエンジンブレーキが増大する側に一段飛ばして設定するものでもよい。運転者によるマニュアルでのシフト操作に対して、その意図を反映できる。変化のインフォメーションを与えることができる。
【0048】
また、前記車両での他の制御によってハイギア側回転数が制限されている場合に、前記初期エンジンブレーキ力設定手段は前記初期エンジンブレーキ力をこの制限に応じて補正してもよい。
【0049】
また、前記制御手段は、前記通常モードから前記他の操作モードへ移行の操作に基づいて、運転者のエンジンブレーキ要求の意図を確認し、前記エンジンブレーキ制御を実行するようにしてもよい。これにより、他の操作モードに変更となったときに、運転者操作にあった最適なエンジンブレーキ力を与えることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
2 無段変速機
21 総合コントローラ
22 エンジンコントローラ
23 変速機コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと無段変速機とが搭載される車両のエンジンブレーキ制御装置であって、
前記車両の車速に応じて変速比を無段階に特定してある基準線を規定して、エンジンブレーキ力を発生させるときの初期エンジンブレーキ力を設定する初期エンジンブレーキ力設定手段と、
運転操作に基づいて運転者のエンジンブレーキ要求の意図を確認したときの前記車両の車速と前記基準線とにより特定される前記初期エンジンブレーキ力を始点としてエンジンブレーキ力の目標線を設定してエンジンブレーキ制御を実行する制御手段とを備えている、ことを特徴とする車両のエンジンブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記初期エンジンブレーキ力設定手段は、前記車両の走行状況及びアクセルペダルのオン・オフ状態の少なくとも1つに基づいて、前記基準線を設定する、ことを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジンブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記エンジンブレーキ力の目標線を、前記車両の車速に応じた無段階の変速比として特定してある、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のエンジンブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記始点から前記車両の車速が低下すると途中で変速比が変化するように、車両の走行状態に応じて前記目標線を設定する、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両のエンジンブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記車両での他の制御によってハイギア側回転数が制限されている場合に、前記初期エンジンブレーキ力設定手段は前記初期エンジンブレーキ力をこの制限に応じて補正する、ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両のエンジンブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記車両には、通常操作用の通常モードと運転者の運転操作意図を反映可能な他の操作モードとが準備され、
前記他の操作モードの1つとしてマニュアルモードを含むと共に、前記制御手段が前記無段変速機の変速制御も実行可能に設定されており、
前記制御手段は、前記エンジンブレーキ制御の実行後に、前記マニュアルモードが起動されて変速段が設定されたときに、前記変速段に基づく前記マニュアルモードでのエンジン目標回転数が前記初期エンジンブレーキ力に対応したエンジン目標回転数と接近していた場合には、前記マニュアルモードの変速段をエンジンブレーキが増大する側に一段飛ばして設定する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の車両のエンジンブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記通常モードから前記他の操作モードへの移行の操作に基づいて、運転者のエンジンブレーキ要求の意図を確認し、前記エンジンブレーキ制御を実行する、ことを特徴とする請求項6に記載の車両のエンジンブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−29205(P2013−29205A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−235231(P2012−235231)
【出願日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【分割の表示】特願2008−166892(P2008−166892)の分割
【原出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】