説明

車両の制動方法及び制動装置

【課題】車両の制動において、被摩擦材と摩擦材とを変更することなく制動力を向上させることを可能とする車両の制動方法及び制動装置を提供する。
【解決手段】制動体と当接する押圧板を押圧して制動体を当該制動体と対向する被制動体に対して接触させて被制動体を制動する車両の制動方法であって、被制動体及び押圧板を互いに電気的に絶縁された導体により形成するとともに、制動体の体積抵抗率を被制動体及び押圧板の体積抵抗率よりも大きくし、被制動体と押圧板との間に電圧を印加するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動方法及び制動装置に関し、特に、車両の制動体及び被制動体間に生じる摩擦力を向上させ、制動力を高めることが可能な方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自転車の制動装置は、車輪のリム側面をゴム基材からなる制動体としての摩擦材を有するブレーキシューで挟持して、ブレーキシューとホイールとの間の摩擦力により被制動体としてのリムを制動するものが知られている。
また、自動車やオートバイ等の制動装置としては、樹脂等で固めた制動体としての摩擦材を板状の基台に接着したディスクパッドにより、車輪とともに回転する被制動体としての回転ディスクを挟持することで車輪を制動する制動装置や、車輪とともに回転する円筒状のブレーキドラムにブレーキシューと呼ばれる円弧状の基台の外周面に接着された摩擦材をドラム内周面に押圧して制動する制動装置が知られている。
上記のような制動装置の制動力を向上させる方法として、特許文献1では、自転車のゴム基材からなる摩擦材に酸化アルミニウムを散在させることで、車輪のリム表面が乾燥状態であるか、湿潤状態であるかに関わらず制動力が大きくなるようにしている。また、特許文献2では、ブレーキパッドの重量を100重量%としたときに、ブレーキパッドをスチール繊維、又は、ステンレス繊維が15重量%よりも多く50重量%以下とし、摩擦調整剤として銅や亜鉛等のスチール以外の金属が1重量%以上10重量%以下とし、酸化鉄が1重量%以上10重量%以下とすることにより、摩擦材による被摩擦材の回転ディスクへの攻撃性を抑制するとともにブレーキパッドの耐摩耗性を良好にしつつ制動力の向上を図るものが開示されている。
【0003】
しかしながら、摩擦材と被摩擦材との間の摩擦力は互いの素材の関係に依存するため、摩擦材に対して最適な組合せの被摩擦材から異なる素材の被摩擦材に変更すると、期待する制動力が得られなかったり、被摩擦材に対する摩擦材の攻撃性が問題となったり、摩擦材の摩耗が著しく早くなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−286475号公報
【特許文献2】特開2005−036939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、車両の制動において、被摩擦材と摩擦材とを変更することなく制動力を向上させることを可能とする車両の制動方法及び制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための方法として、制動体と当接する押圧板を押圧して制動体を当該制動体と対向する被制動体に対して接触させて被制動体を制動する車両の制動方法であって、被制動体及び押圧板を互いに電気的に絶縁された導体により形成するとともに、制動体の体積抵抗率を被制動体及び押圧板の体積抵抗率よりも大きくし、被制動体と押圧板との間に電圧を印加するようにした。
本方法によれば、被制動体と押圧板との間に電圧を印加した状態で、制動体が被制動体に接触して被制動体を制動することにより、押圧板と被制動体との間の制動体に電流が流れ、制動体に吸着力(ジョンセンラーベック効果)が作用して被制動体に対する制動体の摩擦力が大きくなるので、被制動体と制動体とを変更することなく制動力を向上させることができる。
また、他の方法によれば、被制動体が制動体に接触したときに電圧を印加するようにした。
本方法によれば、被制動体に制動体が接触したとき、即ち、制動体が被制動体に接触して被制動体を制動するときに電圧を印加することで、電圧を印加するための電源の負荷を小さくすることができる。つまり、効率よく電圧を印加して制動力を向上させることができる。
また、前記課題を解決するための構成として、導体により形成された押圧板と当接する制動体と、制動体と対向し、押圧板の押圧により制動体と接触するとともに、導体と電気的に絶縁された導体により形成された被制動体と、被制動体と押圧板との間に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、制動体の体積抵抗率が被制動体及び押圧板の体積抵抗率よりも大きく構成した。
本構成によれば、電圧印加手段が被制動体と押圧板との間に電圧を印加した状態で、制動体が被制動体に接触して被制動体を制動することにより、制動体と被制動体との間の制動体に電流が流れ、制動体に吸着力(ジョンセンラーベック効果)が作用して被制動体に対する制動体の摩擦力が大きくなるので、被制動体と制動体とを変更することなく制動力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の制動装置を自転車に適用したときの概略構成図。
【図2】制動装置の部分拡大図。
【図3】制動装置の装着の有無による制動試験の試験結果を示す図。
【図4】他の形態の制動装置に本発明の制動装置を適用したときの概略構成図。
【図5】他の形態の制動装置の部分拡大図及び制動部分の分解構成図。
【0008】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態1
図1は、制動装置1を自転車の前輪に適用したときの概略構成図を示す。図2は、制動装置1の部分拡大図を示す。以下、図1及び図2を用いて自転車30の前輪の構造とともに制動装置1について説明する。
まず、制動装置1が適用される自転車30の前輪部分の構造について説明する。図1に示すように、自転車30の前輪31は、フレーム32のヘッドチューブ32aに回転可能に軸支されるフロントフォーク33の下端に装着される。フロントフォーク33の左右に分岐する分岐部33Aの中央には、前輪31を制動するブレーキキャリパ50を取り付ける取付軸38が車体前方に延長する。なお、ブレーキキャリパ50については後述する。
前輪31は、ハブ34と、スポーク35と、ホイールリム36(以下リム36と記す)とにより構成される。ハブ34は、フロントフォーク33に固定され、前輪31の回転軸となるハブ軸41と、ハブ軸41の周りを回転するハブ体42とにより構成される。ハブ軸41とハブ体42との間には、ハブ軸41の円周方向に沿って軸受け球43が配設される。軸受け球43は、ハブ軸41と螺合する球押し44によってハブ体42を押圧することで、ハブ体42をハブ軸41周りに回転可能に支持する。そして、ハブ軸41と螺合するロックナット45を球押し44に外側から接触させることでハブ体42に対する球押し44の位置が固定される。ハブ体42は、両側にフランジ状に成形されるスポーク固定部42aを備え、スポーク固定部42aの円周方向に沿って複数のスポーク35の一端が取り付けられる。スポーク35の他端には、タイヤTを固着するリム36が取り付けられる。
【0010】
ハブ軸41,ハブ体42,軸受け球43,球押し44,スポーク35は、例えば鉄を主成分とする合金、リム36は、例えばアルミを主成分とする合金により構成される。つまり、ハブ軸41,ハブ体42,軸受け球43,球押し44,スポーク35,リム36は、電気的に導通状態に構成される。そして、上記前輪31は、フロントフォーク33の下端に形成されるU字状の溝にハブ軸41が嵌め込まれ、端子8,ワッシャ47の順にハブ軸41に介挿した後にナット46をハブ軸41に螺合して締め付けることでフロントフォーク33に固定される。つまり、ロックナット45とフロントフォーク33、フロントフォーク33と端子8、端子8とワッシャ47、ワッシャ47とナット46とは互いに接触した状態となる。端子8は、導体を平板円環状に成形したものであって、ハブ軸41及びフロントフォーク33と接触する円環部8Aと後述の出力端子22bから延長する配線28の端子28Aが接続される舌片8Bとを備える。端子8は、例えば鉄や銅等の素材からなる。また、ワッシャ47,ナット46は、例えば鉄を主成分とする素材からなる。よって、ロックナット45,フロントフォーク33,端子8,ワッシャ47,ナット46及びハブ軸41は、電気的に導通状態にある。
【0011】
前輪31を制動するための制動装置1は、ブレーキキャリパ50と、ブレーキレバー39と、制動を検知する検知スイッチ11と、電圧印加手段12とを備える。
ブレーキキャリパ50は、リム36の側面を挟持する一対のアーム51,52と、リム36の側面と摺動するブレーキシュー55と、アーム51,52を駆動するためのブレーキワイヤ61とを備える。ブレーキキャリパ50の一対のアーム51,52は、一方のアーム51はC字状、他方のアーム52はY字状に成形され、取付軸38に重なるように取り付けられる。一方のC字状のアーム51は、一端にブレーキシュー55を取り付けるための長孔51Aと、他端にブレーキワイヤ61のインナーワイヤ61Aを固定するためのインナーワイヤ固定部53とを備える。また、他方のY字状のアーム52は、Y字状に分岐する一方の端部側にブレーキシュー55を取り付けるための長孔52Aと、他方の端部側にブレーキワイヤ61のアウターワイヤ61Bの一端を保持するアウターワイヤ固定部54とを備える。
ブレーキキャリパ50がフロントフォーク33の取付軸38に取り付けられると、長孔51Aと長孔52Aとが前輪31のリム36を挟んで互いに対向し、インナーワイヤ固定部53とアウターワイヤ固定部54とが直線上に配置される。
【0012】
ブレーキキャリパ50に取り付けられるブレーキシュー55は、リム36と当接する摩擦材56と、摩擦材56を保持するためのシューホルダ57とにより構成される。摩擦材56は、ゴム素材を主体としてシューホルダ57に取り付け可能に略直方体状に成形したものであって、摩擦材56の体積抵抗率が、リム36と後述のシューホルダ57の体積抵抗率よりも大きくなるように構成される。リム36と摩擦材56との当接面には複数の溝を備える。シューホルダ57は、例えば、ステンレスや鉄等の素材を略板状に成形したものである。シューホルダ57には、摩擦材56を固定する固定面57Aと、固定面57Aの裏面側において固定面57Aに対して略垂直に延長し、外周面がねじ切りされた軸部57Bとを備える。
軸部57Bは、ブレーキシュー55をブレーキキャリパ50のアーム51,52に取り付けるためのものであって、長孔51A,52Aを貫通可能な長さを有する。軸部57Bには、筒状の絶縁カラー58が外挿される。絶縁カラー58は、絶縁性を有する素材からなり、円筒部58Bと、当該円筒部58Bの一側面にフランジ部58Aとが形成される。円筒部58Bは、長孔51A,51Bの奥行きよりも短い長さを有し、内径が軸部57Bよりも大きく、外径が長孔51A,52Aに介挿可能な寸法を有する。絶縁カラー58は、フランジ部58Aがシューホルダ57と接触するように軸部57Bに介挿される。
絶縁カラー58とともに軸部57Bが長孔51A,52Aを貫通するようにブレーキシュー55を配設したときに、長孔51A,52Aから突出する軸部57Bには絶縁ワッシャ59、端子9が順番に介挿される。
絶縁ワッシャ59は、絶縁性を有する素材からなり、端子9の円環部9Aよりも大きな外径を有するように形成される。端子9は、導体を平板円環状に成形したものであって、円環状の円環部9Aと、後述の出力端子22aから延長する配線29の端子29Aが接続される舌片9Bとを備える。端子9は、例えば鉄や銅等の素材からなる。
そして、ナット60を軸部57Bに螺合させ、摩擦材56の延長方向がリム36の円周方向に沿うように整列させてブレーキシュー55を固定することで摩擦材56がリム36の側面と対向し、アーム51,52に対して電気的に絶縁状態でブレーキシュー55が取り付けられる。より詳細には、ブレーキシュー55は、自転車のフレームや車輪に対して電気的に絶縁状態で取り付けられる。
即ち、前輪31はブレーキキャリパ50に対する被制動体、ブレーキキャリパ50のブレーキシュー55は前輪31に対する制動体、シューホルダ57が制動体を押圧する押圧板に相当する。
【0013】
ブレーキレバー39は、レバーホルダ39Aを介してハンドル37に取り付けられ、レバーホルダ39Aに対して回動自在に保持される。ブレーキレバー39にはアーム51の一端から延長するインナーワイヤ61Aの他端が固定され、レバーホルダ39Aにはアウターワイヤ61Bの他端が固定される。また、レバーホルダ39Aには、ブレーキレバー39の操作を検知する検知スイッチ11が取り付けられる。検知スイッチ11は、ハンドル37にブレーキレバー39を装着するためのレバーホルダ39A内に固着され、ブレーキレバー39の操作によりスイッチがオンとなり、ブレーキレバー39を解放したときにオフとなる。
具体的には、ブレーキレバー39によって制動操作がなされ、摩擦材56がリム36の側面と接触したときに検知スイッチ11が導通し、制動操作が解放されたときに開放される。検知スイッチ11には、例えば、マイクロスイッチと呼ばれる小型のスイッチが採用され、容易にレバーホルダ39A内に収容できる。検知スイッチ11から延長する信号線13は、先端に2極の端子17が取り付けられ、後述の電源装置14から延長する電源線14bに割り込むように接続される。
なお、摩擦材56がリム36の側面と接触したときに検知スイッチ11が導通し、制動操作が解放されたときに開放されるようにブレーキレバー39に対して検知スイッチ11を設けたが、ブレーキレバー39を操作しても摩擦材56がリム36の側面と接触しないときから検知スイッチ11が導通するようにしても良い。
【0014】
電圧印加手段12は、電源装置14と、昇圧装置15とにより概略構成される。
電源装置14は、例えば、9V乾電池を5個直列に接続した直流電圧を供給する。なお、電源装置14に用いる乾電池及び乾電池の個数は、上記に限らず適宜設定すれば良いが、少なくとも10V以上の電圧が得られるように構成することが好ましい。
【0015】
昇圧装置15は、電源装置14が出力する直流電圧を昇圧して出力する、例えばDC−DCコンバータにより構成される。本例では、45Vの直流電圧を100Vの直流電圧に昇圧して出力する。昇圧装置15の入力部18には、電源装置14から延長する電源線14a,14bが接続され、電力が供給される。
電源線14aは、電源装置14のプラス側と接続され、電源線14bは、電源装置14のアース側(接地側)と接続されることで、直流電圧を昇圧装置15に供給する。
電源線14bは、昇圧装置15側と電源装置14側とに分岐し、2極の端子16に電気的に非導通状態で接続される。端子16には、検知スイッチ11から延長する信号線13の端子17が接続され、検知スイッチ11がオンのときに電源線14bの昇圧装置15側と電源装置14側とが導通することで昇圧装置15に電源装置14の電圧が入力される。
昇圧装置15の出力する電圧は、昇圧装置15の出力部19から出力される。電源装置14と昇圧装置15とは、例えば、防水ケース内部に設けられる。防水ケースには、出力端子22a,22bが設けられ、出力部19から延長する出力線21a,21bが出力端子22a,22bに接続される。詳細には、出力線21aが出力端子22aと、出力線21bが出力端子22bと接続される。
出力端子22aには、自転車のブレーキシュー55のシューホルダ57の端子9と接続される配線29が延長する。配線29の先端には、端子9と接続するための端子29Aを備える。また、出力端子22bには、ハブ34をフロントフォーク33に固定するときのハブ軸41に介挿される端子8と接続される配線28が延長する。配線28の先端には、端子8と接続するための端子28Aを備える。
そして、電源装置14と昇圧装置15とを内蔵するケースが自転車のフロントフォークに固定され、出力端子22aから延長する配線29の端子29Aが端子9と接続され、出力端子22bから延長する配線28の端子28Aが端子8と接続される。
【0016】
よって、ブレーキレバー39により前輪を制動すると、検知スイッチ11がブレーキレバー39の操作を検知し、電源装置14から昇圧装置15に電圧が供給される。そして、ブレーキレバー39の操作がブレーキワイヤ61に伝達され、一方のアーム52に固着されたブレーキシュー55と他方のアーム51に固着されたブレーキシュー55とがリム36の側面に当接する。一方のブレーキシュー55と他方のブレーキシュー55とがリム36の側面に当接すると昇圧装置15から出力される電圧がリム36とシューホルダ57とに供給され、リム36とシューホルダ57との間の摩擦材56に電圧が印加され、摩擦材56に電流が流れる構成である。
具体的には、制動時のブレーキレバー39の操作が検知スイッチ11によって検知されることで信号線13が導通し、電源装置14の電圧が昇圧装置15の入力部18に出力される。そして、昇圧装置15によって昇圧された電圧が出力部19から出力端子22a,22bを介して出力される。出力端子22aから出力されるプラス電圧は、配線29を経路として端子9に供給され、ブレーキシュー55のシューホルダ57に供給される。また、出力端子22bから延長する配線28と接続される端子8、及び、当該端子8と電気的に導通状態で接触するハブ軸41,ロックナット45,球押し44,軸受け球43,ハブ体42,スポーク35,リム36は、上記プラス電圧に対する基準電圧の0Vとなる。
【0017】
なお、電源装置14は乾電池だけでなく、例えば、図外の発電装置が内蔵されたハブにより前輪31を構成し、発電装置で発電された電圧を整流して蓄電可能に発電装置と整流装置と蓄電装置とにより構成しても良い。
【0018】
以下、本発明の制動装置1の効果を調べるため、制動装置1をスポーツ自転車に装着し、制動試験を行った。
制動試験は、JIS D9201に準拠するように実施し、時速30kmの一定速度から全制動を5回行い、制動距離の平均を求めた。図3に制動試験の試験結果を示す。
図3に示すように、ブレーキシュー55のシューホルダ57とリム36とに電圧を印加することにより、制動距離が5%短くなる結果が得られた。換言すれば、ブレーキシュー55のシューホルダ57とリム36とに電圧を印加したことで摩擦材56に電流が流れ、摩擦材56とリム36との間にジョンセンラーベック効果が作用し、摩擦材56とリム36との摩擦が大きくなり、制動力が向上したことを示している。
【0019】
実施形態2
図4は、オートバイや自動車のような油圧により動作するディスクブレーキを装着した自転車に制動装置1を適用した場合の概略構成図を示す。図5(a)は、制動装置1の部分拡大図、図5(b)は、制動部分の分解構成図を示す。
実施形態1では、リム36の側面を挟持するブレーキキャリパ50で制動する制動装置1について説明したが、実施形態2では、オートバイや自動車のような油圧により動作するブレーキキャリパ75と回転ディスク71とにより構成されるディスクブレーキ70を備える制動装置1について、図4及び図5(a),(b)を用いて説明する。なお、制動装置1の構成において、実施形態1と同一構成については説明を省略する。
ディスクブレーキ70は、車輪とともに回転する回転ディスク71と、油圧の作動により突出するピストンにより押圧されるブレーキパッド72と、ブレーキパッド72を介して回転ディスク71を挟持するブレーキキャリパ75と、ブレーキキャリパ75に油圧を発生させる油圧発生装置80とにより構成される。
回転ディスク71は、ハブ34のハブ体の一側にフランジ状に形成されるディスク固定部76に固着される。回転ディスク71は、平板円板状に成形され、ハブ34の回転中心と同心にディスク固定部76にボルト等によって固着される。上記ハブ34は、実施形態1と同様にフロントフォーク33に取り付けられ、ハブ軸41が固定されるフロントフォーク33との固定部には端子8を備える。ここで、端子8と回転ディスク71とは、電気的に導通状態にある。
【0020】
ブレーキキャリパ75は、回転ディスク71を挟んでピストンが対向して配置される対向ピストン型である。ブレーキキャリパ75は、フロントフォーク33の一方に設けられるキャリパ取付部78にボルトによって取り付けられる。ブレーキキャリパ75は、後述の油圧発生装置80により発生する油圧によってブレーキキャリパ75の有するシリンダに配置されるピストンが突出する油圧式である。
【0021】
ブレーキキャリパ75のピストンと回転ディスク71との間には、ブレーキパッド72と、電極板81と、絶縁板82とが配設される。
ブレーキパッド72は、基台73と摩擦材74とにより構成される。基台73は、スチール製の素材からなる平板を矩形状に成形したものであって、摩擦材74が固着する固着面73Aと、ブレーキキャリパ75にブレーキパッド72を装着したときに位置決め兼脱落防止のピンが挿入される取付孔73Bとを備える。
また、摩擦材74は、基材と摩擦調整材と結合材とにより構成される。基材は、例えば、アラミドファイバ,スチールファイバ(鉄)ファイバ,銅ファイバ,セラミックファイバ,ガラスファイバ,カーボンファイバ等を単独又は組み合わせて用いられ、摩擦材全体に占める割合(重量比)に対して、約10%から数10%含むように構成される。また、摩擦調整材は、回転ディスクとの潤滑を良くし摩擦係数,摩耗を調整する素材であって、目標とする摩擦係数や摩擦の安定を得るために用いられる。例えば、摩擦材の摩擦係数を上げるためには研磨剤のような粒子状のものを加え、摩擦材の基材がスチールファイバのように回転ディスク71(通常は鉄鋳物)との摩擦係数が高すぎるときには、摩擦係数を下げたり摩擦を安定させたりするために粒子状のカーボンブラック(グラファイト)が混合される。また、結合材は、摩擦材と摩擦調整剤とを混合し、摩擦材に成形するときに、熱と圧力を加えて押し固めるときの接着剤として用いられる。結合材は、一般に熱を加えると固まるレジンが用いられる。レジンによって固められた摩擦材は、レジン系の摩擦材と呼ばれる。
例えば、摩擦材を重量比で約10%から数10%の導電性のあるスチールファイバ、摩擦調整材に粒子状のカーボンブラック、残りに導電性のない樹脂でスチールファイバとカーボンブラックとを混合し、固めることにより構成すると、摩擦材は一種の半導体と考えることができる。また、上記以外の基材,摩擦調整材,結合材により摩擦材を構成しても、摩擦材は、一種の半導体と考えることができる。上記のように構成される摩擦材74は、体積抵抗率が回転ディスク71と基台73の体積抵抗率よりも大きい。この摩擦材74は、基台73に対して、例えば接着材等により接着される。
なお、摩擦材74の体積抵抗率が絶縁体と等しいか、又は、略絶縁体に等しい抵抗値の時には、例えば、10〜10Ω・mの範囲の体積抵抗率が得られるように摩擦材に導体成分の銅等を混ぜて構成すれば良い。
【0022】
電極板81は、導電性を有する素材からなり、基台73の大きさと略同一の大きさの平板状に形成される。電極板81は、基台73と密着する平板部81Aと出力端子22aから延長する配線の端子を接続する舌片81Bとを備える。電極板81は、例えば、鉄,銅やスチール等により構成される。
絶縁板82は、絶縁性を有する素材からなり、ブレーキパッド72の基台73の背面側に配置される電極板81を包囲するように断面コ字状に成形される。具体的には、基台73の長手方向の両端面と背面とを包囲して、電極板81と基台73とがブレーキキャリパ75に接触しないように包囲する。つまり、ブレーキパッド72と電極板81とが、ブレーキキャリパ75に対して電気的に絶縁状態でブレーキキャリパ75に組み付けられる。
【0023】
そして、ブレーキキャリパ75の備える図外のピン挿入孔と取付孔73Bとの軸線が一致するようブレーキパッド72を配置し、ピン79をピン挿入孔と取付孔73Bとに挿入することで、ブレーキパッド72はブレーキキャリパ75に対してピストンの移動方向に沿って移動可能に支持される。ピン79は、電気的に絶縁性を有するように被覆されたもの、又は、絶縁性素材を成形したものにより構成される。
【0024】
ブレーキキャリパ75のピストンを駆動する油圧発生装置80は、マスターシリンダと呼ばれ、ハンドルに装着される。油圧発生装置80は、ブレーキレバー39と、ブレーキレバー39の操作により作動流体に油圧を生じさせる油圧発生部85と、油圧発生部85に作動流体を供給するために作動流体を貯留するリザーバータンク86と、ブレーキレバー39の操作を検知する検知スイッチ11とにより構成される。油圧発生装置80の油圧発生部85のシリンダとブレーキキャリパ75のシリンダとは、ブレーキホース87により接続される。
油圧発生部85は、概略、シリンダとピストンにより構成され、シリンダに作動流体を供給するリザーバータンク86から供給される作動流体をピストンによって押し出すことにより油圧を生じさせ、シリンダから押し出された作動流体が、ブレーキキャリパ75のピストンを押し出してブレーキパッド72を回転ディスク71方向に移動させる。そして、回転ディスク71をブレーキパッド72で挟持することにより回転ディスク71が固着する車輪に制動力が作用する。
即ち、回転ディスク71がブレーキキャリパ75に対する被制動体であり、ブレーキキャリパ75によって回転ディスク71と摺動するブレーキパッド72の摩擦材74が回転ディスク71に対する制動体であり、ブレーキキャリパ75のピストンによって押圧されるブレーキパッド72の基台73が摩擦材74を回転ディスク71に押圧する押圧板に相当する。
【0025】
よって、ブレーキレバー39を操作すると、ブレーキレバー39の操作を検知スイッチ11が検知して電圧印加手段の昇圧装置15に電圧が供給される。そして、昇圧装置15によって昇圧された電圧が回転ディスク71と基台73との間に印加され、摩擦材74に電流が流れることで回転ディスク71と摩擦材74との間にジョンセンラーベック力が作用して回転ディスク71と基台73との間の摩擦材74が大きくなり自転車の制動力を向上させることができる。
【0026】
なお、実施形態1及び実施形態2では、ブレーキレバー39の操作を検知スイッチ11によって検知して電圧を印加するように説明したが、被摩擦材に対して押圧される摩擦材の押圧力の大きさによって電圧を印加するように構成しても良い。例えば、実施形態1の場合、シューホルダとアーム51,52との間に圧力を検知可能なセンサを設けて、摩擦材とリムとが接触して所定値以上の圧力が摩擦材に加えられたときにシューホルダとリムとの間に電圧を印加するようにしても良い。また、実施形態2の場合、基台73とピストンとの間に圧力を検知可能なセンサを設けてピストンが基台73を押圧する圧力が、所定値以上となったときに基台73と回転ディスク71との間に電圧を印加するようにしても良い。
【0027】
上記実施形態1及び実施形態2では、自転車を用いて説明したが自動車,オートバイ,電車,エレベータや産業機械の制動装置であっても良い。
自動車,オートバイ,電車,エレベータ等の産業用機械のディスクブレーキの場合、上記実施形態2のように制動体を含むブレーキパッドが被制動体の回転ディスクに対して電気的に絶縁状態となるように構成し、回転ディスクとブレーキパッドの基台に電圧を印加する電圧印加手段と接続すれば良い。そして、自動車やオートバイの場合には、電圧印加手段の電源装置に自動車やオートバイに搭載されるバッテリーからの電圧を供給するように構成すれば良く、電車やエレベータ等の産業用機器に使用されるディスクブレーキの場合、整流された直流電圧を供給するように構成すれば良い。
【0028】
また、ディスクブレーキに限らずドラムブレーキであっても良い。
ドラムブレーキの一例としては、一方開放の円筒状に成形され、車両の出力軸に取り付けられて出力軸とともに回転する被制動体としての回転ドラムと、回転ドラムの内周面と対向し、回転ドラムの内周面に沿った接触面を有する制動体としてのライニングと、ライニングが固着される基台とからなるブレーキシューとを備える。そして、回転ドラムとブレーキシューとが互いに電気的に絶縁状態となるように構成し、電圧印加手段から延長する配線の一方を回転ドラム、他方をブレーキシューの基台と接続し、回転ドラムと基台との間のライニングに電圧を印加可能に構成すれば良い。なお、ライニングは、実施形態2で示した摩擦材と同一の素材からなる。
よって、回転ドラムと基台とに電圧を印加した状態で、基台を押圧してライニングを回転ドラムに接触させると、ライニングに電流が流れ、ライニングにジョンセンラーベック効果が生じ、回転ドラムとライニングとの間の摩擦力が大きくなり、制動力を向上させることができる。
【0029】
以上、説明したように、本発明の制動装置は、ブレーキシューやブレーキパッドに固着される制動体をリムや回転ディスク等のような被制動体に押圧して制動する装置において、制動体と直接接触し、制動体を被制動体に対して押圧するシューホルダや基台に相当する押圧板と、被制動体とを電気的に絶縁状態に構成し、さらに、被制動体と押圧板とに電圧印加手段から電圧を印加可能に接続して、制動時に制動体に電圧を印加することで制動体にジョンセンラーベック効果を生じさせ、被制動体と制動体との摩擦力が大きくなり、制動力を向上させることができる。
なお、上記例では、直流電圧を制動体に印加するとして説明したが、交流電圧を制動体に印加するようにしても良い。また、制動体に印加する電圧は、一定である必要はなく、被制動体と制動体との接触する圧力によって電圧を可変にするように電圧印加手段を構成しても良い。
【0030】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態に多様な変更、改良を加え得ることは当業者にとって明らかであり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0031】
1 制動装置、9 端子、9A 円環部、9B 舌片、11 検知スイッチ、
12 電圧印加手段、13 信号線、14 電源装置、14a;14b 電源線、
15 昇圧装置、16;17 端子、18 入力部、19 出力部、
21a;21b 出力線、22a,22b 出力端子、
30 自転車、31 前輪、32 フレーム、32a ヘッドチューブ、
33 フロントフォーク、33A 分岐部、34 ハブ、35 スポーク、
36 ホイールリム、37 ハンドル、38 取付軸、
39 ブレーキレバー、39A レバーホルダ、41 ハブ軸、
42 ハブ体、42a スポーク固定部、43 軸受け球、44 球押し、
45 ロックナット、46 ナット、47 ワッシャ、50 ブレーキキャリパ、
51;52 アーム、51A;52A 長孔、53 インナーワイヤ固定部、
54 アウターワイヤ固定部、55 ブレーキシュー、56 摩擦材、
57 シューホルダ、57A 固定面、57B 軸部、
58 絶縁カラー、58A フランジ部、59 絶縁ワッシャ、60 ナット、
61A インナーワイヤ、61B アウターワイヤ、70 ディスクブレーキ、
71 回転ディスク、72 ブレーキパッド、
73 基台、73A 固着面、73B 取付孔、74 摩擦材、
75 ブレーキキャリパ、76 ディスク固定部、78 キャリパ取付部、79 ピン、
80 油圧発生装置、81 電極板、81A 平板部、81B 舌片、82 絶縁板、
85 油圧発生部、86 リザーバータンク、87 ブレーキホース、T タイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動体と当接する押圧板を押圧して前記制動体を当該制動体と対向する被制動体に対して接触させて前記被制動体を制動する車両の制動方法であって、
前記被制動体及び前記押圧板を互いに電気的に絶縁された導体により形成するとともに、前記制動体の体積抵抗率を前記被制動体及び前記押圧板の体積抵抗率よりも大きくし、
前記被制動体と前記押圧板との間に電圧を印加することを特徴とする車両の制動方法。
【請求項2】
前記被制動体が前記制動体に接触したときに電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載の車両の制動方法。
【請求項3】
導体により形成された押圧板と当接する制動体と、
前記制動体と対向し、前記押圧板の押圧により前記制動体と接触するとともに、前記導体と電気的に絶縁された導体により形成された被制動体と、
前記被制動体と前記押圧板との間に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記制動体の体積抵抗率が前記被制動体及び前記押圧板の体積抵抗率よりも大きいことを特徴とする車両の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−117623(P2012−117623A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268959(P2010−268959)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】