説明

車両の制御装置

【課題】暖機時にエンジンストールを発生させずに燃費を向上できるとともに、フューエルカット制御の終了時におけるドライバビリティの低下を防止できる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン制御装置は、フューエルカット制御の実行中において、基本吸入空気量Qabaseおよび補機トルクに応じた追加吸入空気量Qaaddから目標吸入空気量Qatを算出する(ステップS14)。次に、エンジン制御装置は、冷却水温Twを取得すると(ステップS15)、下限吸入空気量Qaminを設定する(ステップS16)。エンジン制御装置は、目標吸入空気量Qatが下限吸入空気量Qaminより小さければ(ステップS17でNO)、目標吸入空気量Qatを下限吸入空気量Qaminで更新し(ステップS18)、実吸入空気量Qaが目標吸入空気量Qatとなるようスロットル開度を調節する(ステップS19)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速時に内燃機関への燃料供給を停止可能な車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関を搭載した車両は、減速時に内燃機関に供給される燃料を停止するフューエルカットを実行し、燃費を向上するようになっている。
【0003】
このような車両においては、車両のアクセルペダルが解放され、車両が減速を始めると、内燃機関の機関回転数が所定値に低下するまでの間、内燃機関に燃料供給を停止するフューエルカット制御を実行するようになっており、機関回転数が当該所定値まで低下すると、エンジンストールの発生を防止するためにフューエルカットの実行を終了し燃料供給を再開するようになっている。
【0004】
このようなフューエルカット制御を実行する車両の制御装置において、内燃機関の排気通路に設置された触媒の劣化を防止するよう、触媒の温度に応じてフューエルカットの実行の有無を切り替えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に記載の車両の制御装置は、スロットル開度が全閉状態で、かつ、内燃機関の機関回転数が所定値以上である場合には、フューエルカット制御を実行するようになっている。
【0006】
ここで、高温状態の触媒にリーン状態の排気ガスが通過すると、酸素が過剰に供給され、触媒内のPtの粒成長が促進される。このため、排気ガスに接触する触媒内のPtの全体の表面積は小さくなり、排気ガス浄化性能が低下する。
【0007】
したがって、この特許文献1に記載の車両の制御装置は、フューエルカット制御の実行中に触媒が高温状態か否かを判断するようになっており、触媒が高温状態にあると判断した場合には、フューエルカット制御の実行条件が成立してもフューエルカット制御の実行を禁止することにより、触媒がリーン状態の排気ガスに晒され触媒内のPtの表面積が小さくなることを防止し、排気ガス浄化性能を維持するようになっていた。
【0008】
一方、内燃機関の暖機中においては、上記のように触媒の高温状態でフューエルカット制御を禁止したとしても、内燃機関の潤滑用オイルの粘性増加や燃料の霧化の悪化に起因した不安定な燃焼により失火が発生することがあり、未燃の燃料が排気ガスとともに触媒内に供給され発火した場合には、触媒性能をむしろ劣化させる可能性が高まる。そのため、特許文献1に記載の車両の制御装置は、内燃機関の暖機中においては、触媒が高温状態であってもフューエルカット制御の禁止を中断するようになっている。
【0009】
また、一般に、このようなフューエルカット制御を実行する車両の制御装置においては、上記のように内燃機関の暖機状態では燃焼が不安定になるため、機関回転数が低下した状態でフューエルカット制御を終了すると、エンジンストールの発生する可能性が高くなる。そこで、フューエルカット制御を終了する機関回転数を暖機終了後より高く設定し、エンジンストールの発生を防止するようになっている。
【0010】
そのため、暖機時においては、暖機終了後と比較してフューエルカットの継続時間が短くなり、燃費の向上を妨げることとなる。そこで、更なる燃費の向上を実現するためには、暖機時においてフューエルカット制御を終了する機関回転数を従来の暖機時における機関回転数よりも低くすることにより、フューエルカット制御の終了をなるべく遅らせた方がよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−62664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の車両の制御装置にあっては、暖機時においてフューエルカット制御を終了する機関回転数を従来よりも低くするものではなかった。そのため、暖機時におけるフューエルカット制御を従来より低い機関回転数で実行すると、燃料の供給が再開されても燃焼が不安定になり機関回転数が上昇せず、エンジンストールなどの不具合が発生する可能性があった。
【0013】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、暖機時にフューエルカット制御を実行する場合において、エンジンストールを発生させずに燃費を向上できるとともに、フューエルカット制御の終了時におけるドライバビリティの低下を防止できる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)内燃機関の吸気通路に設置され前記内燃機関に吸入される吸入空気量を調節する吸気流量可変機構を備えた車両に設置され、前記吸気流量可変機構を制御して前記吸入空気量を調節する車両の制御装置において、前記内燃機関の冷却水温を検出する冷却水温検出手段と、前記車両の減速時に前記内燃機関の機関回転数が所定値以上であることを条件に前記内燃機関に供給される燃料を停止する燃料供給停止手段と、前記車両の走行状態に基づいて前記吸入空気量を設定する吸入空気量設定手段と、前記吸入空気量設定手段により設定された吸入空気量となるよう前記吸気流量可変機構を制御する制御手段と、前記冷却水温検出手段により検出された冷却水温に応じて前記吸入空気量の下限値を設定する下限値設定手段と、を備え、前記下限値設定手段は、前記冷却水温検出手段により検出された冷却水温が低い場合には、高い場合と比較して前記吸入空気量の下限値を高く設定し、前記制御手段は、前記燃料供給停止手段により燃料の供給が停止されている場合に、前記吸入空気量設定手段により設定された吸入空気量が前記下限値設定手段により設定された下限値を下回っている場合には、前記内燃機関に吸入される吸入空気量が前記下限値となるよう前記吸気流量可変機構を制御することを特徴とする。
【0015】
この構成により、車両の減速時に燃料供給を停止する車両において、冷却水温が低い状態である暖機時に燃料供給を停止した場合には、内燃機関への吸入空気量を増加させることができる。これにより、燃料の霧化の悪化や潤滑油の粘性の低下により失火の発生する可能性が高い暖機時において、燃料供給の再開時に確実に燃料を燃焼させることができる。したがって、暖機時にフューエルカット制御を終了する機関回転数を従来より低く設定しても、フューエルカット制御の終了時に機関回転数を確実に上昇させることができるので、エンジンストールを発生させることなく従来よりも燃料供給の再開を遅らせることができ、結果として燃費を向上することが可能となる。
【0016】
また、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記下限値設定手段は、前記燃料供給停止手段により燃料供給が停止された場合における前記内燃機関の燃焼室の負圧を所定値以下とするためのもう一つの下限値を設定し、前記もう一つの下限値が前記冷却水温に応じて設定される前記下限値よりも高い前記冷却水温の範囲においては、前記もう一つの下限値を新たな下限値として設定することを特徴とする。
【0017】
この構成により、暖機時におけるエンジンストールを防止するのみならず、内燃機関を潤滑するオイルが内燃機関の負圧により燃焼室に入り込み消費されることを防止できる。
【0018】
また、上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(3)前記吸気流量可変機構が、スロットルバルブにより構成され、前記制御手段は、前記スロットルバルブの開度を制御することを特徴とする。
【0019】
この構成により、吸気流量可変機構の構成を複雑にすることなく吸入空気量を調節することができる。また、吸入空気量の下限値が高く設定されても、スロットル開度を高くすることにより吸入空気量を十分確保することができる。
【0020】
また、上記(1)または(2)に記載の車両の制御装置において、(4)前記吸気流量可変機構が、スロットルバルブと、前記内燃機関のアイドル時に作動するアイドルスピードコントロールバルブとを有し、前記制御手段は、前記スロットルバルブおよび前記アイドルスピードコントロールバルブの開度を制御することを特徴とする。
【0021】
この構成により、吸入空気量の下限値が高く設定されても、スロットル開度を高くすることにより吸入空気量を十分確保することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、暖機時にフューエルカット制御を実行する場合において、エンジンストールを発生させずに燃費を向上できるとともに、フューエルカット制御の終了時におけるドライバビリティの低下を防止できる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンジンおよびその周辺の構成を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る吸入空気量下限値マップを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る吸入空気量制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る車両1の制御装置について、図1ないし図4を参照して説明する。
まず、構成について説明する。
【0025】
図1に示すように、車両1に搭載され内燃機関を構成するエンジン2は、後述するピストンが2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行う4サイクルのガソリンエンジンによって構成されている。なお、本実施の形態においては、エンジン2が直列4気筒のガソリンエンジンにより構成されているものとして説明するが、これに限らず、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、V型12気筒エンジン、水平対向6気筒エンジン等の種々の型式のエンジンにより構成されていてもよい。
【0026】
エンジン2は、機関本体部3と、燃料供給部4と、吸気部5と、排気部6とを有している。なお、以下においては、直列に配置された4つの気筒22のうちの1つを例に説明する。
【0027】
機関本体部3は、図示しないエンジンマウントを介して車体に固定されたシリンダブロック13と、シリンダブロック13の一方側に固定されたシリンダヘッド15と、シリンダヘッド15に固定されたヘッドカバー18と、シリンダブロック13の他方側に固定されたクランクケース19と、クランクケース19に固定されるとともに潤滑用オイルを貯留可能に構成されたオイルパン20とを有している。
【0028】
シリンダブロック13には、冷却水を流通させるウォータジャケット14が形成されており、ウォータジャケット14は、冷却水との熱交換によってシリンダブロック13を冷却するようになっている。
【0029】
シリンダヘッド15には、吸気ポート16および排気ポート17が形成されている。また、シリンダブロック13と、シリンダヘッド15とによって、気筒22が形成されている。
【0030】
また、機関本体部3は、気筒22の軸線方向に摺動可能となるようシリンダブロック13に収納された円筒状のピストン23を有しており、シリンダブロック13と、シリンダヘッド15と、ピストン23とによって、ペントルーフ型の燃焼室24が画成されている。
【0031】
ピストン23の側面部には、複数のピストンリング溝が形成されており、各ピストンリング溝には、シリンダブロック13の内周面と当接するピストンリングが嵌め込まれている。ピストン23は、ピストンリングをシリンダブロック13の内周面と当接させた状態で摺動するため、燃焼室24を略気密に保ちながら気筒22の内部を軸線方向に摺動するようになっている。
【0032】
また、機関本体部3は、クランクケース19に収納され、エンジン2の出力軸を構成するクランクシャフト26と、ピストン23とクランクシャフト26とを連結するコネクティングロッド27とを有しており、ピストン23の往復動を、コネクティングロッド27を介してクランクシャフト26の回転運動に変換するようになっている。
【0033】
クランクシャフト26は、クランクケース19に回転可能に支持されるクランクジャーナルと、クランクジャーナルから径方向に突出する複数のクランクアームと、クランクジャーナルと所定の軸間距離を隔てて平行となるよう所定のクランクアームの間に形成されるクランクピンと、クランクピンと径方向反対側であって所定のクランクアームと一体的に形成されるカウンタウェイトとを有している。
【0034】
コネクティングロッド27は、棒状に形成されたロッド本体を有しており、ロッド本体は、小軸受孔が形成された小端部と、小端部とは反対側で大軸受孔が形成された大端部とを有している。小端部は、ピストン23に取り付けられたピストンピンを小軸受孔に回転可能に貫挿して、ピストンピンを介してピストン23とコネクティングロッド27とを連結するようになっている。大端部は、クランクピンを大軸受孔に貫挿して、コネクティングロッド27とクランクシャフト26とを連結するようになっている。
【0035】
さらに、機関本体部3は、シリンダヘッド15に固定された動弁機構28と、ヘッドカバー18に固定された点火装置35と、シリンダヘッド15の近傍に設置されたインジェクタ37とを有している。
【0036】
動弁機構28は、車両1の走行状態に応じて吸気弁29および排気弁30のそれぞれの開閉タイミングを最適に制御する可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-intelligent)によって構成されている。また、動弁機構28は、ロッカーアーム式の吸気弁29および排気弁30と、回転可能に支持された吸気カムシャフト32および排気カムシャフト33とを有しており、吸気カムシャフト32および排気カムシャフト33の回転を、ロッカーアームを介して吸気弁29および排気弁30の往復動に変換するようになっている。したがって、動弁機構28は、吸気弁29および排気弁30を往復動させることにより、吸気ポート16および排気ポート17と、燃焼室24との連通状態を、車両1の走行状態に応じて、最適な開閉タイミングで切り換えるようになっている。
【0037】
吸気カムシャフト32および排気カムシャフト33は、シリンダヘッド15に固定された図示しないカムシャフトハウジングによって回転可能にそれぞれ支持されており、図示しないタイミングチェーンを介してクランクシャフト26と連動して回転するようになっている。また、吸気カムシャフト32および排気カムシャフト33は、吸気弁29および排気弁30のそれぞれに対応するロッカーアームと当接するカムをそれぞれ有しており、これらのカムの所定の回転角毎に各ロッカーアームを押し下げるようになっている。
【0038】
上述したピストン23、クランクシャフト26、コネクティングロッド27および動弁機構28は、図示しないトロコイド式のオイルポンプがオイルパン20から汲み上げて循環させるオイルによって、潤滑および冷却がなされるようになっている。
【0039】
点火装置35は、中心電極と接地電極とにより形成され燃焼室24に一部が突出した点火プラグ36を有しており、後述するエンジン制御装置80によってイグニッションコイルに供給される電流を制御し、燃焼室24に吸入された燃料と空気との混合気に最適なタイミングで点火するようになっている。
【0040】
インジェクタ37は、ポート噴射式の燃料噴射装置によって構成され、微細な燃料噴射孔が形成され、一部が吸気ポート16内に露出した燃料噴射部と、エンジン制御装置80によって制御される電磁弁により燃料噴射孔の開閉を切り換える駆動部とを有しており、後述する燃料ポンプ42によって所定圧力に加圧された燃料が供給されるようになっている。また、インジェクタ37は、電磁弁が通電状態となった場合に燃料噴射孔を開き、加圧された燃料を吸気ポート16へ霧状に噴射するようになっている。一方、インジェクタ37は、電磁弁が非通電状態となった場合に燃料噴射孔を閉じ、燃料の噴射を行わないようになっている。
【0041】
なお、インジェクタ37は、ポート噴射式に限らず、燃焼室24の内部に直接燃料を噴射する筒内噴射式の燃料噴射装置によって構成されていてもよく、ポート噴射式の燃料噴射装置と筒内噴射式の燃料噴射装置とを併用するようにしてもよい。
【0042】
燃料供給部4は、内部に防錆処理が施された鉄製または樹脂製の燃料タンク41と、燃料タンク41に収納される円周流式の燃料ポンプ42とを有しており、燃料ポンプ42によって所定圧力に加圧した燃料を図示しないフューエルデリバリーパイプを介してインジェクタ37に供給するようになっている。なお、上述した筒内噴射式の燃料噴射装置が用いられる場合には、燃料供給部4は、燃料ポンプ42のみならず、筒内噴射式の燃料噴射装置に高圧の燃料を供給する高圧燃料ポンプをさらに有していてもよい。
【0043】
吸気部5は、一端側でシリンダヘッド15に接続された吸気管51と、吸気管51の他端側に接続されたエアフィルタ52と、シリンダヘッド15とエアフィルタ52との間の吸気経路上に設けられた一弁式のスロットルバルブ55と、エンジン制御装置80によって制御される電子制御式のモータによって構成されたスロットルアクチュエータ56とを有しており、機関本体部3に空気を導入するようになっている。なお、本実施の形態に係る吸気管51は、本発明に係る吸気通路を構成する。
【0044】
エアフィルタ52は、吸気管51の他端側に接続されたフィルタケース53と、フィルタケース53に収容された不織布からなるフィルタエレメント54とを有しており、車外から吸気部5に導入される空気の除塵を行うようになっている。
【0045】
スロットルバルブ55は、円板状の弁体と、弁体に固定された弁軸とを有しており、スロットルアクチュエータ56によって弁軸が回動させられることにより弁体を回動させ、吸気管51内の空気の流路断面積を変化させるようになっている。これにより、スロットルバルブ55は、機関本体部3に導入される空気の流量を調節するようになっている。
【0046】
なお、本実施の形態に係るスロットルバルブ55は、本発明に係る吸気流量可変機構を構成する。
【0047】
排気部6は、一端側でシリンダヘッド15と接続された排気管61と、触媒コンバータ62とを有しており、機関本体部3において発生した排気ガスを車外に排出するようになっている。
【0048】
触媒コンバータ62は、排気管61に接続されたコンバータケース63と、コンバータケース63に収納された触媒64とを有している。触媒64は、アルミナ担体に白金、ロジウムおよびパラジウム等の酸化還元触媒を担持させた三元触媒によって構成されており、排気ガスに含まれる未燃炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NOx)といった有害物質を効率的に除去して、混合気の燃焼によって発生した排気ガスを浄化するようになっている。
【0049】
触媒温度センサ71は、触媒コンバータ62の近傍に設置されており、触媒64の温度を検出し、エンジン制御装置80に出力するようになっている。
【0050】
車両1は、さらに、本発明に係る車両の制御装置を構成するエンジン制御装置80を備えている。エンジン制御装置80は、公知のECU(Electronic Control Unit)により構成されており、エンジン制御装置80は、エンジン2から出力されるトルクの大きさを制御したり、後述する各種制御を実行するようになっている。
【0051】
なお、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、後述するように、本発明に係る冷却水温検出手段、燃料供給停止手段、吸入空気量設定手段、制御手段および下限値設定手段を構成する。
【0052】
冷却水温センサ75は、例えば、抵抗値が温度に応じて変化するサーミスタにより構成されている。したがって、冷却水温センサ75は、エンジン2の冷却水温Twに応じてサーミスタの抵抗値が変化し、その結果、冷却水温Twに応じて変化する電圧を冷却水温Twを表す信号としてエンジン制御装置80に出力するようになっている。エンジン制御装置80は、冷却水温センサ75から取得した電圧の大きさに基づいて、冷却水温をTwを検出するようになっている。したがって、冷却水温センサ75およびエンジン制御装置80は、本発明に係る冷却水温検出手段を構成する。冷却水温センサ75は、ウォータジャケット14を流通する冷却水の温度を検知するよう、シリンダブロック13の外壁面に装着されている。
【0053】
図2に示すように、エンジン制御装置80は、双方向性バス87を介して互いに接続されているCPU(Central Processing Unit)81、RAM(Random Access Memory)82、ROM(Read Only Memory)83、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory、登録商標)84、入力ポート85、および出力ポート86等を備えたマイクロコンピュータによって構成されている。CPU81は、RAM82の一時記憶機能を利用しつつ、予めROM83に記憶されたプログラムおよびマップや、EEPROM84に記憶されたデータに従って信号処理を行うことにより、エンジン2の出力制御などを実行するようになっている。出力ポート86から出力された信号は、A/D変換器を介してスロットルアクチュエータ56などに送信されるようになっている。
【0054】
また、エンジン制御装置80は、各センサから入力される信号に基づいて、スロットルバルブ55の開度、インジェクタ37における燃料噴射量やタイミング、点火プラグ36における点火時期などを制御するようになっている。
【0055】
車両1は、さらに、アクセル開度センサ72と、車速センサ74と、エンジン回転数センサ76と、シフトレバー78の操作位置を検出するための操作位置センサ77と、スロットル開度センサ79とを備えている。
【0056】
アクセル開度センサ72は、例えばホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されており、アクセルペダルが運転者により操作されると、アクセルペダルの位置を示すアクセル開度Accを表す信号をエンジン制御装置80に出力するようになっている。エンジン制御装置80は、アクセル開度Accに応じたトルクをエンジン2に生成させるよう、スロットルバルブ55(図1参照)の開度、インジェクタ37における燃料噴射のタイミングおよび点火プラグ36(図1参照)における点火時期を制御するようになっている。
【0057】
車速センサ74は、アウトプットシャフトの回転数Noutを表す信号をエンジン制御装置80に出力するようになっており、エンジン制御装置80は、この信号に基づいて車速Vを算出するようになっている。
【0058】
エンジン2の機関回転数を検出する手段を構成するエンジン回転数センサ76は、クランクシャフト26の回転に基づいて、エンジン2の機関回転数Neを検出するようになっている。
【0059】
操作位置センサ77は、シフトレバー78の位置を検出し、検出結果を表す信号をエンジン制御装置80に送信するようになっており、エンジン制御装置80は、操作位置センサ77から入力された信号に基づきシフトレバー78の位置を判断するようになっている。また、車両1は、車速Vやアクセル開度Accに応じて自動変速機の変速段を制御するトランスミッション制御装置を備えており、エンジン制御装置80は、車内LAN回線で接続されたトランスミッション制御装置から現在の変速段を表す信号を取得するようになっている。
【0060】
スロットル開度センサ79は、例えば、スロットルバルブ55(図1参照)のスロットル開度に応じた出力電圧が得られるホール素子により構成されており、スロットルバルブ55のスロットル開度を表す信号をエンジン制御装置80に出力するようになっている。
【0061】
以下、図1ないし図3を用いて本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置80の特徴的な構成について説明する。
エンジン制御装置80は、車両1の減速時において、フューエルカット制御を実行するようになっている。具体的には、エンジン制御装置80は、アクセル開度センサ72から入力される信号が、アクセル開度の閉状態を表す信号であり、エンジン回転数センサ76から入力される機関回転数Neを表す信号が、フューエルカットを実行可能とする予め定められた範囲内であり、かつ、トランスミッション制御装置から入力された現在の変速段が、フューエルカットを実行可能とする変速段を表しているならば、フューエルカット制御を開始するようになっている。
【0062】
したがって、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、本発明に係る燃料供給停止装置を構成する。
【0063】
エンジン制御装置80は、エンジン回転数センサ76から入力された信号に基づき、エンジン2の機関回転数Neが所定値を下回ったならば、フューエルカット制御を終了するようになっている。なお、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、以下において詳細に説明する吸入空気量制御を実行することにより、フューエルカット制御を終了する機関回転数Neが、従来のフューエルカット制御を終了する機関回転数Neよりも低く設定されており、フューエルカット制御の終了が従来より遅くなるようになっている。また、このフューエルカット制御を終了する機関回転数Neは、エンジンストールが発生しない値として予め実験的な測定により定められている。
【0064】
ここで、車両1がロックアップ機構を備えたトルクコンバータを備える場合には、フューエルカット制御の実行とともにロックアップ機構を係合状態あるいはスリップ係合状態にして、エンジン2の機関回転数Neの低下が遅くなるようにする。この場合、トランスミッション制御装置は、現在の変速段に応じてロックアップ機構の係合状態とスリップ状態とを切り替えるようにする。
【0065】
また、エンジン制御装置80は、フューエルカット制御中において燃焼室24に吸入される吸入空気量の基本値を表す基本吸入空気量Qabaseを算出するようになっている。具体的には、エンジン制御装置80は、エンジン回転数センサ76から機関回転数Neを表す信号を取得すると、機関回転数Neと基本吸入空気量Qabaseとを対応付けた基本吸入空気量マップを参照し、基本吸入空気量Qabaseを算出する。基本吸入空気量マップは、機関回転数Neが大きいほど基本吸入空気量Qabaseが大きくなるように定義されている。
【0066】
また、エンジン制御装置80は、補機トルクに応じて必要となる追加吸入空気量Qaaddを算出するようになっている。具体的には、エンジン制御装置80は、エアコンを構成するコンプレッサのデューティー比およびエアコンプーリの回転数とトルクとを対応付けたエアコン用トルクマップを予めROM83に記憶しており、エンジン制御装置80は、コンプレッサのデューティー比およびエアコンプーリの回転数を取得すると、エアコン用トルクマップを参照してエアコンの駆動に必要なトルクを算出する。
【0067】
また、エンジン制御装置80は、冷却水ポンプを駆動するために必要な補機トルクを算出するようになっている。冷却水ポンプは、ウォータージャケット14を含みシリンダブロック13に形成されている冷却水回路の入口側に設けられており、エンジン制御装置80は、冷却水ポンプの駆動状態に応じて発生するトルクを冷却水ポンプ用トルクマップとして予めROM83に記憶している。エンジン制御装置80は、この冷却水ポンプ用トルクマップを参照することにより冷却水ポンプの駆動に必要なトルクを算出する。
【0068】
また、エンジン制御装置80は、オルタネータの駆動状態に応じて発生するトルクをオルタネータ用トルクマップとして予めROM83に記憶しており、このオルタネータ用トルクマップを参照することによりオルタネータの駆動に必要なトルクを算出するようになっている。
【0069】
そして、エンジン制御装置80は、補機トルクと追加吸入空気量Qaaddとを対応付けた追加吸入空気量マップを予めROM83に記憶しており、エンジン制御装置80は、これらの補機を駆動するために必要な補機トルクを合計すると、ROM83に記憶されている追加吸入空気量マップを参照し、追加吸入空気量Qaaddを取得するようになっている。
【0070】
また、エンジン制御装置80は、基本吸入空気量Qabaseと追加吸入空気量Qaaddとを足し合わせて、目標吸入空気量Qatを算出するようになっている。したがって、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、車両1の走行状態に基づいて吸入空気量を設定する吸入空気量設定手段を構成する。
【0071】
また、エンジン制御装置80は、以下に説明する吸入空気量下限値マップに基づいて、下限吸入空気量Qaminを設定するようになっている。
【0072】
本実施の形態に係る吸入空気量下限値マップは、図3に示すように、冷却水温Twと吸入空気量Qaとを対応させたグラフにより表される。
【0073】
エンジン2の暖機時、すなわち冷却水温Twが低い状態においては、シリンダブロック13内においてピストン23などを潤滑する潤滑用オイルが低温になっている。そのため、オイルの粘性が暖機終了後よりも高くなっており、ピストン23の摺動時に発生する摩擦力が増大する。暖機時には、さらに、インジェクタ37から吸気ポート16に噴射される燃料の霧化が悪化するとともに、ポート噴射式インジェクタからの噴射では、噴射された燃料の一部が吸気ポート16の壁面に付着するポートウェット現象が生じ、燃焼が不安定になる。
【0074】
そのため、従来のエンジン制御装置は、エンジンの暖機時においては、フューエルカット制御の終了時に燃焼室に対する燃料供給が再開された際に、失火によりエンジンストールが発生しないことを燃費の向上より優先させるために、フューエルカット制御を終了させる機関回転数Neを暖機終了後よりも高く設定するようになっていた。
【0075】
これに対し、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、燃費を向上させるためにフューエルカット制御を終了させる機関回転数Neを従来よりも低く設定しても、吸入空気量下限値マップを用いた吸入空気量制御を行うことにより、フューエルカット制御の終了時に燃焼室24に対する燃料供給が再開された場合でも、失火によるエンジンストールの発生を防止するようになっている。
【0076】
つまり、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、失火によるエンジンストールの発生を防止するため、エンジン2の暖機時において、フューエルカット制御の実行中に通常時よりも吸入空気量Qaを増加させるようになっている。
【0077】
これにより、一般にスロットルバルブ55の開度が調節されてから燃焼室24に供給される吸入空気量が変化するまでに応答遅れが生じるものの、本実施の形態においては、フューエルカット制御中に予め最適な吸入空気量を吸入することにより、フューエルカット制御が終了し、燃料が再び燃焼室24に供給された時点においても、既に吸入空気量Qaが最適値となっているので、エンジンストールの発生を防止することができる。
【0078】
燃焼室24における燃焼は、機関の温度が低いほど、すなわち冷却水温Twが低いほど不安定になる。そこで、吸入空気量下限値マップにおいては、エンジンストールの発生防止に基づいて定められる吸入空気量下限値は、実線91に示すように、冷却水温Twが低いほど吸入空気量Qaが高く設定されている。
【0079】
また、車両1の走行中にアクセル開度Accが閉状態となり、減速時にスロットルバルブ55が閉じられると、スロットルバルブ55の下流側の吸気管51および吸気ポート16の内部(以下、吸気管内部という)は大きく負圧化する。吸気管内部に大きな負圧が生じると、その影響によって燃焼室24内の筒内圧力も負圧化し、所謂オイル上がりが生じる。このオイル上がりは、燃焼室24内でオイルが消費される原因となる。このため、オイル消費量を抑える観点からは、減速時におけるスロットルバルブ55の下流側の吸気管51および吸気ポート16内の圧力は過度に負圧化させないことが望ましい。
【0080】
このオイル上がりは、上記のエンジンストールの発生と比較して、冷却水温Twとの関連性が低い。そのため、本実施の形態に係る吸入空気量下限値マップにおいては、破線92に示すように、冷却水温Twにかかわらず一定値Qanpを取るように定められている。
【0081】
また、図3の矢印93に示すように、フューエルカット制御中における吸入空気量Qaが大きくなるほど、フューエルカット制御の終了前後におけるトルク段差が大きくなり、車両1のドライバビリティが悪化することとなる。このため、吸入空気量Qaは、定性的にはエンジンストールが発生しない範囲において小さいほうがよい。本実施の形態においては、実線91および破線92により表される吸入空気量Qaの下限値は、ドライバビリティが低下をしない値に設定されている。また、冷却水温Twが高くなりエンジンストールの発生する可能性が低下するにつれ、下限値が低下するので、より一層ドライバビリティを向上することができる。つまり、実線91は、破線92より吸入空気量Qaが高い範囲において、エンジンストールの発生防止と、ドライバビリティの向上とをバランスよく両立させるように定義されている。
【0082】
本実施の形態においては、エンジン制御装置80は、上記のように算出された目標吸入空気量Qatが、実線91および破線92により表される下限値により定義される設定可能領域94に含まれるか否かを判断するようになっており、目標吸入空気量Qatが設定可能領域94に含まれていない場合には、実線91および破線92により表される下限値のうち、冷却水温センサ75により検出された冷却水温Twに対応する下限値を目標吸入空気量Qatに置き換えるガード処理を実行するようになっている。
【0083】
つまり、エンジン制御装置80は、検出した冷却水温が低い場合には、高い場合と比較して吸入空気量の下限値を高く設定する構成を有している。
【0084】
また、本実施の形態に係る破線92は、本発明に係るもう一つの下限値を構成する。つまり、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、燃料供給を停止された場合における内燃機関の燃焼室の負圧を所定値以下とするためのもう一つの下限値を設定し、もう一つの下限値が冷却水温に応じて設定される下限値よりも高い冷却水温の範囲においては、もう一つの下限値を新たな下限値として設定する構成を有している。したがって、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、本発明に係る下限値設定手段を構成する。
【0085】
また、エンジン制御装置80は、実吸入空気量Qaが目標吸入空気量Qatに一致するよう、スロットルアクチュエータ56を制御してスロットルバルブ55の開度を調節するようになっている。具体的には、エンジン制御装置80は、目標吸入空気量Qatとスロットル開度とを対応付けたスロットル開度マップをROMに記憶しており、目標吸入空気量Qatが設定されるとスロットル開度マップを参照してスロットル開度を取得し、このスロットル開度になるようスロットルアクチュエータを制御する。したがって、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、本発明に係る制御手段を構成する。
【0086】
なお、車両1が吸入空気量センサを搭載している場合には、吸入空気量センサにより検出される吸入空気量、すなわち実吸入空気量が目標吸入空気量Qatに近づくよう、フィードバック制御を実行するようにしてもよい。
【0087】
次に、動作について図4を参照して説明する。なお、以下に説明する処理は、予めROM83に記憶されているプログラムによって実現され、所定の時間間隔でCPU81によって実行される。
【0088】
図4に示すように、まず、エンジン制御装置80は、フューエルカット制御の実行中であるか否かを判断する(ステップS11)。エンジン制御装置80は、アクセル開度センサ72によりアクセル開度Accの全閉状態が検出されており、かつ、機関回転数Neが所定値以上である場合に、フューエルカット制御を実行する。エンジン制御装置80は、フューエルカット制御の実行中においては、EEPROM84にフューエルカット制御の実行中を表すフラグを立てるようになっており、このフラグに基づいてフューエルカット制御の実行中であるか否かを判断する。
【0089】
エンジン制御装置80は、フューエルカット制御の実行中であると判断した場合には(ステップS11でYES)、ステップS12に移行する。一方、エンジン制御装置80は、フューエルカットの実行中でないと判断した場合には(ステップS11でNO)、RETURNに移行する。
【0090】
次に、エンジン制御装置80は、基本吸入空気量Qabaseを算出する(ステップS12)。具体的には、エンジン制御装置80は、エンジン回転数センサ76から機関回転数Neを表す信号を取得すると、ROM83に記憶されている基本吸入空気量マップを参照し、基本吸入空気量Qabaseを算出する。
【0091】
次に、エンジン制御装置80は、補機トルクに応じた追加吸入空気量Qaaddを算出する(ステップS13)。具体的には、エンジン制御装置80は、エアコンのコンプレッサ、冷却水ポンプおよびオルタネータの駆動状態を表す信号を取得すると、エアコン用トルクマップ、冷却水ポンプ用トルクマップおよびオルタネータ用トルクマップに基づいて、補機トルクを算出する。そして、エンジン制御装置80は、追加吸入空気量マップを参照し、補機トルクに対応する追加吸入空気量Qaaddを算出する。
【0092】
次に、エンジン制御装置80は、上記ステップS12で算出した基本吸入空気量Qabaseと、ステップS13で算出した補機トルクに対応する追加吸入空気量Qaaddとを用いて、以下の式(1)に基づいて目標吸入空気量Qatを算出する。
【0093】
Qat = Qabase + k×Qaadd (1)
ここで、kは係数を表しており、予め実験的な測定により定められている。
【0094】
次に、エンジン制御装置80は、冷却水温Twを取得する(ステップS15)。具体的には、エンジン制御装置80は、冷却水温センサ75から入力される信号に基づいて冷却水温Twを取得する。
【0095】
次に、エンジン制御装置80は、下限吸入空気量Qaminを設定する(ステップS16)。具体的には、エンジン制御装置80は、ROM83に記憶されている吸入空気量下限値マップを参照し、ステップS15において取得した冷却水温Twに対応する吸入空気量の下限値を下限吸入空気量Qaminとして設定する。
【0096】
次に、エンジン制御装置80は、目標吸入空気量Qatが下限吸入空気量Qamin以上であるか否かを判断する(ステップS17)。エンジン制御装置80は、目標吸入空気量Qatが下限吸入空気量Qamin以上であると判断した場合には(ステップS17でYES)、ステップS19に移行する。一方、エンジン制御装置80は、目標吸入空気量Qatが下限吸入空気量Qamin未満であると判断した場合には(ステップS17でNO)、ステップS18に移行する。
【0097】
ステップS18において、エンジン制御装置80は、目標吸入空気量Qatに対しガード処理を実行する。
Qat ← Qamin (2)
【0098】
次に、エンジン制御装置80は、実吸入吸気量Qaが目標吸入空気量Qatとなるよう、上述したスロットル開度マップを参照してスロットル開度を設定し、このスロットル開度となるようスロットルアクチュエータ56を制御する(ステップS19)。
【0099】
以上のように、本実施の形態に係るエンジン制御装置80は、車両1の減速時に燃料供給を停止する車両1において、暖機時に燃料供給を停止した場合には、燃焼室24への吸入空気量Qaを増加させることができる。これにより、燃料の霧化の悪化や潤滑油の粘性の低下により失火の発生する可能性が高い暖機時において、燃料供給の再開時に確実に燃料を燃焼させることができる。したがって、暖機時にフューエルカット制御を終了する機関回転数を従来より低く設定しても、フューエルカット制御の終了時に機関回転数を確実に上昇させることができるので、エンジンストールを発生させることなく従来よりも燃料供給の再開を遅らせることができ、結果として燃費を向上することが可能となる。また、暖機終了後においては、暖機時より下限値が低く設定されるので、燃料供給の再開時に発生するトルク段差を低減しドライバビリティの低下を防止することができる。
【0100】
また、エンジン制御装置80は、暖機時におけるエンジンストールを防止するのみならず、ピストン23などを潤滑するオイルが内燃機関の負圧により燃焼室に入り込み消費されることを防止できる。
【0101】
なお、以上の説明においては、エンジン制御装置80は、スロットルバルブ55の開度を制御することにより、吸入空気量制御の実行中において実吸入空気量Qaを目標吸入空気量Qatに近づける場合について説明した。
【0102】
しかしながら、車両1の吸気部5が、エンジン2の運転状態がアイドル状態である場合にエンジン2に供給される空気流量を調整するためのISC(Idle Speed Control)用バイパス通路を備えるようにし、エンジン制御装置80が、スロットルバルブ55の開度の調節と、ISC用バイパス通路に流れる空気流量の調節とを併せて行うようにしてもよい。この場合、ISC用バイパス通路には、空気流量を調整するためのISC用バルブが設けられており、ISC用バルブは、エンジン制御装置80に制御されるISC用バルブアクチュエータによって駆動されISC用バイパス通路における空気流量を変更するようにする。この場合、例えば、冷却水温Twが高い場合には、ISC用バルブの開度を調節するようにし、冷却水温Twが低くなり、ISC用バイパス通路を通過する空気流量のみでは目標吸入空気量Qatに達しない場合にスロットルバルブ55の開度を調節するようにする。
【0103】
なお、ISC用バイパス通路は、一般に、アイドル中におけるエンジンの機関回転数Neを制御するものであるため、本実施の形態のように暖機時かつ低機関回転数におけるフューエルカット制御終了直後の燃焼を維持するための吸入空気量を流通するには不十分であるが、仮に、ISC用バイパス通路が、暖機時かつ低機関回転数におけるフューエルカット制御終了直後の燃焼を維持するための吸入空気量を流通できる場合には、エンジン制御装置80は、スロットルバルブ55の開度を調節する代わりにISC用バルブの開度を調節するようにしてもよい。
【0104】
また、以上の説明においては、吸入空気量下限値マップにおける実線91が、冷却水温Twの低下に対して吸入空気量の下限値を連続的に上昇させるように定義される場合について説明した。しかしながら、実線91は、冷却水温Twが所定値未満の場合に所定値以上の場合より高く設定される2値の下限値をとるようにしてもよい。この場合、所定値は、冷却水温Twに対する燃料の霧化の状態や、潤滑油の粘性に基づいて、予め実験的な測定により定めるようにする。また、実線91は、2値の下限値のみならず、冷却水温Twが低いほど下限値が高くなる3値以上の多値を下限値として定義するよう定められていてもよい。
【0105】
また、以上の説明においては、車両1が自動変速機を搭載する場合について説明したが、これに限定されず、車両1が手動変速機や無段変速機を備えるようにしてもよい。また、車両1がエンジンとモータとによって駆動されるハイブリッド車両により構成されていてもよい。これらの場合、車両1が自動変速機を搭載する場合と比較して、上述したフューエルカット制御の開始条件が変わることになるが、本実施の形態に係る吸入空気量下限値マップに基づいて吸入空気量制御を実行することにより、従来のエンジン制御装置よりフューエルカット制御が終了する機関回転数を低下させても、エンジンストールが発生することを防止し、燃費を向上することができる。
【0106】
また、以上の説明においては、吸入空気量下限値マップが、実線91および破線92により定義される場合について説明したが、これに限定されず、吸入空気量下限値マップが、実線91のみで定義されるようにしてもよい。この場合は、実線91および破線92により定義される場合と比較してオイル上がりによるオイルの消費が増加する可能性があるものの、上述した実施の形態と同様、燃費を向上することが可能となる。
【0107】
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、暖機時にフューエルカットを実行する場合において、エンジンストールを発生させずに燃費を向上できるとともに、フューエルカット制御の終了時におけるドライバビリティの低下を防止できるという効果を奏するものであり、減速時に内燃機関への燃料供給を停止可能な車両の制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0108】
1 車両
2 エンジン
3 機関本体部
4 燃料供給部
5 吸気部
6 排気部
16 吸気ポート
17 排気ポート
22 気筒
23 ピストン
24 燃焼室
26 クランクシャフト
28 動弁機構
29 吸気弁
30 排気弁
32 吸気カムシャフト
33 排気カムシャフト
35 点火装置
36 点火プラグ
37 インジェクタ
41 燃料タンク
42 燃料ポンプ
51 吸気管
55 スロットルバルブ
56 スロットルアクチュエータ
61 排気管
64 触媒
71 触媒温度センサ
72 アクセル開度センサ
74 車速センサ
75 冷却水温センサ
76 エンジン回転数センサ
77 操作位置センサ
78 シフトレバー
80 エンジン制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に設置され前記内燃機関に吸入される吸入空気量を調節する吸気流量可変機構を備えた車両に設置され、前記吸気流量可変機構を制御して前記吸入空気量を調節する車両の制御装置において、
前記内燃機関の冷却水温を検出する冷却水温検出手段と、
前記車両の減速時に前記内燃機関の機関回転数が所定値以上であることを条件に前記内燃機関に供給される燃料を停止する燃料供給停止手段と、
前記車両の走行状態に基づいて前記吸入空気量を設定する吸入空気量設定手段と、
前記吸入空気量設定手段により設定された吸入空気量となるよう前記吸気流量可変機構を制御する制御手段と、
前記冷却水温検出手段により検出された冷却水温に応じて前記吸入空気量の下限値を設定する下限値設定手段と、を備え、
前記下限値設定手段は、前記冷却水温検出手段により検出された冷却水温が低い場合には、高い場合と比較して前記吸入空気量の下限値を高く設定し、
前記制御手段は、前記燃料供給停止手段により燃料の供給が停止されている場合に、前記吸入空気量設定手段により設定された吸入空気量が前記下限値設定手段により設定された下限値を下回っている場合には、前記内燃機関に吸入される吸入空気量が前記下限値となるよう前記吸気流量可変機構を制御することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記下限値設定手段は、前記燃料供給停止手段により燃料供給が停止された場合における前記内燃機関の燃焼室の負圧を所定値以下とするためのもう一つの下限値を設定し、前記もう一つの下限値が前記冷却水温に応じて設定される前記下限値よりも高い前記冷却水温の範囲においては、前記もう一つの下限値を新たな下限値として設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記吸気流量可変機構が、スロットルバルブにより構成され、
前記制御手段は、前記スロットルバルブの開度を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記吸気流量可変機構が、スロットルバルブと、前記内燃機関のアイドル時に作動するアイドルスピードコントロールバルブとを有し、
前記制御手段は、前記スロットルバルブおよび前記アイドルスピードコントロールバルブの開度を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−122553(P2011−122553A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282821(P2009−282821)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】