説明

車両の制御装置

【課題】エンジンと、EHCと、発電することによってクランキングトルクを発生可能な回転電機とを備えた車両において、エンジン始動時の性能悪化を抑制する。
【解決手段】エンジンと、EHCと、発電することによってエンジンのクランキングトルクを発生可能な第1MGと、バッテリとを備えた車両において、ECU200は、EV走行中にエンジン始動要求があると、車速Vに応じた電力を第1MGに発電させてクランキングトルクを発生させる(210、220)。ECU200は、バッテリの温度が所定温度以上である高温時には、バッテリの受入可能電力値Winを基準値W1よりも低い制限値W0に低下させる(230)。ECU200は、EV走行中にエンジン始動要求があった場合、受入可能電力値Winが制限値W0に低下しており、かつ、車速Vがしきい車速V0以上であるときは、EHC通電を行なう(240)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気を浄化する電気加熱式触媒(Electrical Heated Catalyst、以下「EHC」ともいう)を備えた車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを備えた車両には、一般的に、エンジンの排気ガスを浄化する触媒が備えられている。この触媒が活性温度に達していないと排気を十分に浄化することができない。そこで、従来から、電気ヒータなどによって触媒を電気的に加熱可能に構成されたEHCが提案されている。
【0003】
特開2008−239077号公報(特許文献1)には、エンジン、EHC、モータを備えたハイブリッド車両において、エンジンを停止してモータの動力で走行するモータ走行中にエンジンを始動させる際に、EHCが所定温度未満と推定されるときには、所定時間に亘ってEHCの通電を行なってEHCを加熱し、EHCの加熱終了後にエンジンを始動する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−239077号公報
【特許文献2】特開2009−35236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジン始動時には、回転電機などを用いてクランキングトルクをエンジンに付与する必要がある。このクランキングトルクを回転電機の発電によって発生させる場合には、その発電電力を車載の電池などに蓄えておくことで燃費向上を図ることができる。ところが、電池の温度上昇などに伴って電池の受入可能電力が低下している場合には、クランキング時の回転電機の発電電力を電池に受け入れることが出来なくなるおそれがある。
【0006】
特許文献1の技術は、EHCを通電するか否かを決定するに際し、EHCの温度を考慮するものであるが、クランキング時の回転電機の発電電力や電池の受入可能電力については何ら考慮されていない。そのため、たとえクランキング時の回転電機の発電電力が電池の受入可能電力を超える場合であっても、EHCの通電が行なわれず、余剰電力をEHCで消費できない場合も想定される。そのため、クランキング時の回転電機の発電電力(すなわちクランキングトルク)を抑制する必要が生じ、エンジン始動時の性能が悪化することが懸念される。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、エンジンと、EHC(電気加熱可能な触媒装置)と、発電することによってエンジンをクランキングするためのトルクを発生可能な回転電機とを備えた車両において、エンジン始動性の悪化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る制御装置は、エンジンと、エンジンの排気を浄化する電気加熱可能な触媒装置と、発電することによってエンジンのクランキングを行なうためのトルクを発生可能な回転電機と、回転電機との間で電力を授受可能な蓄電装置とを備えた車両を制御する。この制御装置は、蓄電装置および回転電機と触媒装置との電気的な接続状態を切り替える切換装置と、切換装置を制御することにより触媒装置の通電を制御する通電制御部とを備える。通電制御部は、回転電機の発電を伴うクランキングが行なわれる場合、蓄電装置の受入可能電力値が基準値よりも低い値に低下しているときは、触媒装置と回転電機とを電気的に接続して触媒装置を通電させる。
【0009】
好ましくは、制御装置は、エンジンを停止した状態での車両走行中にエンジンを始動させる場合に、車速に応じた電力を回転電機で発電させてクランキングを行なうエンジン始動部をさらに備える。通電制御部は、エンジンを停止した状態での車両走行中にクランキングが行なわれる場合、受入可能電力値が基準値よりも低い値に低下しかつ車速がしきい車速以上であるときに、触媒装置の通電を開始させる。
【0010】
好ましくは、しきい車速は、クランキング時の回転電機の発電電力が基準値よりも低下した後の受入可能電力値となる車速以下に設定される。
【0011】
好ましくは、エンジン始動部は、少なくとも車速が上限車速を超えた場合にエンジンを始動させる。上限車速は、しきい車速よりも高い固定値である。
【0012】
好ましくは、通電制御部は、触媒装置の通電開始後に、エンジンの始動が完了した場合、触媒装置の通電時間が所定時間を越えた場合、クランキング時の回転電機の発電が不要となる領域に回転電機の回転速度が含まれる場合、の少なくともいずれかの場合、触媒装置の通電を停止する。
【0013】
好ましくは、車両は、エンジンとともに車両駆動力を発生する電動機を備えたハイブリッド車両である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エンジンと、EHC(電気加熱可能な触媒装置)と、発電することによってエンジンをクランキングするためのトルクを発生可能な回転電機とを備えた車両において、エンジン始動時の性能悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両の全体ブロック図である。
【図2】EV走行中の共線図を示す。
【図3】ECUの機能ブロック図である。
【図4】車速Vとクランキング発電電力との対応関係を示す図である。
【図5】ECUの処理手順を示すフローチャートである。
【図6】EHCの温度Tehcの変化態様の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態による車両1の全体ブロック図である。車両1は、エンジン10と、モータジェネレータ(Motor Generator、以下「MG」という)20と、動力分割装置40と、減速機50と、パワーコントロールユニット(Power Control Unit、以下「PCU」という)60と、バッテリ70と、駆動輪80と、電子制御ユニット(Electronic Control Unit、以下「ECU」という)200と、を備える。
【0018】
エンジン10は、燃焼室に吸入された空気と燃料との混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギによってクランクシャフトを回転させる駆動力を発生するエンジンである。エンジン10の点火時期、燃料噴射量、吸入空気量などは、ECU200からの制御信号に応じて制御される。
【0019】
MG20は、第1MG21と、第2MG22とを含む。第1MG21および第2MG22は、交流電動機であり、たとえば、三相交流同期電動機である。なお、以下の説明では、第1MG21と第2MG22とを区別して説明する必要がない場合には、これらを区別することなくMG20と記載する。
【0020】
車両1は、エンジン10および第2MG21の少なくとも一方から出力される駆動力によって走行するハイブリッド車両である。エンジン10が発生する駆動力は、動力分割装置40によって2経路に分割される。すなわち、一方は減速機50を介して駆動輪80へ伝達される経路であり、もう一方は第1MG21へ伝達される経路である。
【0021】
動力分割装置40は、サンギヤと、ピニオンギヤと、キャリアと、リングギヤとを含む遊星歯車から成る。ピニオンギヤは、サンギヤおよびリングギヤと係合する。キャリアは、ピニオンギヤを自転可能に支持するとともに、エンジン10のクランクシャフトに連結される。サンギヤは、第1MG21の回転軸に連結される。リングギヤは第2MG22の回転軸および減速機50に連結される。このように、エンジン10、第1MG21および第2MG21が遊星歯車からなる動力分割装置40を介して連結されることで、エンジン回転速度Ne、第1MG回転速度Nm1および第2MG回転速度Nm2は共線図において直線で結ばれる関係になる(後述の図2参照)。
【0022】
PCU60とバッテリ70とは、正極線PL1および負極線GL1で接続される。PCU60は、ECU200からの制御信号に応じて作動し、バッテリ70からMG20に供給される電力、あるいは、MG20からバッテリ70に供給される電力を制御する。バッテリ70は、MG20を駆動するための電力を蓄える。バッテリ70は、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の直流の二次電池から成る。バッテリ70の出力電圧は、たとえば200ボルト程度である。なお、バッテリ70に代えて、大容量のキャパシタを用いてもよい。
【0023】
エンジン10から排出される排気ガスは、車両1のフロア下に設けられた排気通路130を通って大気に排出される。排気通路130は、エンジン10から車両1の後端部まで延在している。
【0024】
排気通路130の途中には、EHC(電気加熱式触媒)140が設けられる。EHC140は、排気ガスを浄化する触媒と、触媒を電気加熱可能に構成されたヒータとを含んで構成される。なお、EHC140には、種々の公知の構成を適用することができる。
【0025】
PCU60とEHC140とは、正極線PL2および負極線GL2で接続される。EHC140には、PCU60を介して、バッテリ70からの電力およびMG20で発電された電力が供給される。正極線PL2および負極線GL2には、EHC電源100が設けられる。なお、バッテリ70とEHC140との接続関係は図1に示すものに限定されない。
【0026】
EHC電源100は、内部にリレーを備えており、ECU200からの制御信号に基づいてEHC140とPCU60との電気的な接続状態を切り替える。EHC電源100内部のリレーが閉じられると、EHC140とPCU60とが接続され、EHC140内のヒータが通電される(以下「EHC通電」ともいう)。このEHC通電によって、EHC140内の触媒が暖機される。EHC電源100内部のリレーが開かれると、EHC140とPCU60との接続が遮断され、EHC通電が停止される。このように、ECU200がEHC電源100を制御することによってEHC140内のヒータの通電量が制御される。
【0027】
さらに、車両1は、監視ユニット151、電流センサ152、電圧センサ153、回転速度センサ154、レゾルバ155,156、車速センサ157、アクセルペダルポジションセンサ158、空調センサ159を備える。
【0028】
監視ユニット151は、バッテリ70の状態(バッテリ電流Ib、バッテリ電圧Vb、バッテリ温度Tbなど)を監視する。電流センサ152は、EHC140を流れる電流Iehcを検出する。電圧センサ153は、EHC140に印加される電圧Vehcを検出する。回転速度センサ154は、エンジン回転速度Neを検出する。レゾルバ155,156は、それぞれ第1MG21の回転速度Nm1、第2MG22の回転速度Nm2を検出する。車速センサ157は、車速Vを検出する。アクセルペダルポジションセンサ158は、ユーザによるアクセルペダル操作量Aを検出する。空調センサ159は、空調装置の作動状態を検出する。これらのユニットおよびセンサ検出結果は、ECU200に入力される。
【0029】
ECU200は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵し、当該メモリに記憶されたマップおよびプログラムと各センサの検出結果とに基づいて所定の演算処理を実行し、その演算処理の結果で車両1が所望の状態となるように各機器を制御する。
【0030】
ECU200は、バッテリ温度Tbに応じてバッテリ70の受入可能電力値Win(単位はワット)を設定し、バッテリ70の実際の受入電力を受入可能電力値Winを超えないように制御する。たとえば、ECU200は、バッテリ温度Tbが所定温度未満である通常時には受入可能電力値Winを基準値W1(あるいは基準値W1以上の値であってもよい)に設定する。一方、バッテリ温度Tbが所定温度以上である高温時には、ECU200は、受入可能電力値Winを基準値W1よりも低い制限値W0に低下させてバッテリ70の実際の受入電力を通常時よりも制限する。これにより、バッテリ70の劣化が抑制される。
【0031】
ECU200は、EVモード、始動モード、エンジンモードのいずれかの制御モードで車両1を走行させるように、エンジン10、第1MG21、第2MG22を制御する。EVモードは、エンジン10を停止させ第2MG22の動力によって車両1を走行させる制御モードである。エンジンモードは、エンジン10を作動させエンジン10と第2MG22との双方の動力によって車両1を走行させる制御モードである。始動モードは、EVモードでの走行中にエンジン10を始動させてEVモードからエンジンモードに移行させるための制御モードである。
【0032】
図2は、EVモードでの前進走行中(以下、単に「EV走行中」ともいう)の共線図を示す。上述したように、エンジン回転速度Ne、第1MG回転速度Nm1、第2MG回転速度Nm2は、共線図において直線で結ばれる関係になる。なお、第2MG30は駆動輪80と同期して回転するため、第2MG回転速度Nm2は車速Vに対応する値(車速Vに正比例する値)である。
【0033】
EVモード時には、エンジン10は停止されており、エンジン回転速度Neはほぼ0に維持される。EV走行中は、Nm2>0であるため、共線図の関係より、第1MG21は負方向に回転する(Nm1<0となる)。そして、車速Vが高いほど第1MG回転速度Nm1は負方向に大きくなる。
【0034】
ECU200は、EV走行中にエンジン10を始動させる場合には、制御モードをEVモードから始動モードに移行させる。始動モードでは、ECU200は、第1MG21で正方向のクランキングトルクを発生させてエンジン回転速度Neを上昇させる。そして、ECU200は、エンジン回転速度Neが所定速度まで上昇した時に、エンジン10の点火制御を開始する。この点火制御による燃焼(いわゆる初爆)が行なわれると、エンジン10の始動が完了する。エンジン10の始動が完了すると、ECU200は、制御モードを始動モードからエンジンモードへ移行させる。
【0035】
ところで、上述したように、EV走行中においては、共線図の関係から第1MG21が負方向に回転し、車速Vが高いほど第1MG回転速度Nm1は負方向に大きくなる。このような状態で第1MG21からクランキングトルクを発生させるためには、車速Vに応じた電力を第1MG21で発電させる必要がある。
【0036】
そのため、EUC200は、EV走行中に第1MG21からクランキングトルクを発生させる場合には、車速Vに応じた電力を第1MG21に発電させる。以下では、EV走行中にクランキングを行なう場合に第1MG21が発電する電力を単に「クランキング発電電力」ともいう。
【0037】
クランキング発電電力(交流電力)は、PCU60で直流電力に変換されてバッテリ70に供給される。したがって、クランキング発電電力がバッテリ70の受入可能電力値Winの基準値W1を超えてしまうと、クランキング発電電力の一部をバッテリ70で受け入れることができなくなってしまう。そのため、ECU200は、EV走行中の車速上限値(以下、単に「上限車速Vmax」という)を予め設定し、EV走行中に車速Vが上限車速Vmaxに達したことをEVモードから始動モードへの移行条件の1つとしている。この上限車速Vmaxは、クランキング発電電力がバッテリ70の受入可能電力値Winの基準値W1に達する車速よりやや低い車速V1に設定される。
【0038】
ところが、バッテリ温度Tbが所定温度以上である高温時には、上述したようにバッテリ70の受入可能電力値Winが基準値W1よりも低い制限値W0に低下される。その結果、クランキング発電電力の一部をバッテリ70で受け入れることができなくなってしまうことが懸念される。
【0039】
この問題の対策として、従来においては、受入可能電力値Winが制限値W0に低下したことに応じて、クランキング発電電力が制限値W0未満となるように、上限車速Vmaxを車速V1から車速V0(<V1)に引き下げていた(図2の破線参照)。しかしながら、この従来の対策では、EV走行が可能な車速領域が狭くなるため、燃費が悪化する。さらに、クランキングトルクそのものの大きさも低下するため、エンジン10の始動が完了するまでの時間(エンジン回転速度Neが所定速度に上昇するまでの時間)が長くなり、ドライバビリティ(エンジン始動性)が悪化していた。
【0040】
そこで、本実施の形態によるECU200は、EV走行中にクランキングトルクを発生させる場合(すなわち第1MG21に発電させる場合)に、受入可能電力値Winが基準値W1よりも低い制限値W0に低下しているときは、EHC電源100内部のリレーを閉じてEHC通電を行なう。これにより、受入可能電力値Winが制限値W0に低下しても、クランキング発電電力のうちの制限値W0を超える分(バッテリ70で受け入れできない余剰電力)をEHC140で消費させることができるため、上限車速Vmaxを車速V1に維持することができる。そのため、上限車速Vmaxを引き下げる場合に比べて、燃費の悪化を抑制するとともに、エンジン始動性の悪化を抑制することができる。この点が本発明の最も特徴的な点である。
【0041】
図3は、ECU200の機能ブロック図である。図3に示した各機能ブロックは、ハードウェアによって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0042】
ECU200は、エンジン始動要求判定部210、モード切替部220、Win制限部230、EHC通電制御部240を含む。
【0043】
エンジン始動要求判定部210は、アクセルペダル操作量A、車速V、バッテリ70の蓄電状態SOCなどに基づいて、エンジン始動要求の有無を判定する。この判定は、さまざまな基準で行なわれる。たとえば、エンジン始動要求判定部210は、アクセルペダル操作量Aと車速Vとに応じてユーザ要求駆動力を算出し、ユーザ要求駆動力が所定値を超える場合にはエンジン10の動力が必要として、エンジン始動要求があると判定する。また、エンジン始動要求判定部210は、バッテリ70の蓄電状態SOCが所定値未満である場合にエンジン10の動力を用いて第1MG21で発電した電力でバッテリ70を充電する必要があるとして、エンジン始動要求の有無を判定する。また、エンジン始動要求判定部210は、EV走行中に車速Vが上述した上限車速Vmaxに達した場合にも、エンジン10を始動させる必要があるとして、エンジン始動要求があると判定する。ここで、上限車速Vmaxは、上述した車速V1(クランキング発電電力がバッテリ70の受入可能電力値Winの基準値W1に達する車速よりやや低い車速)に固定される。すなわち、バッテリ70の受入可能電力値Winが制限値W0に低下していても、上限車速Vmaxの引き下げは行なわれず、上限車速Vmaxは車速V1に維持される。
【0044】
なお、その他、空調装置の作動状態(空調センサ159の出力)や各種ダイアグ等に応じてエンジン始動要求の有無を判定するようにしてもよい。
【0045】
モード切替部220は、制御モードを、EVモード、始動モード、エンジンモードのいずれかに切り替える。モード切替部220は、EVモード中にエンジン始動要求がない場合には、EVモードを継続させる。モード切替部220は、EVモード中にエンジン始動要求があると、制御モードをEVモードから始動モードに切り替える。この際、EV走行中である場合には、モード切替部220は、車速Vに応じた電力を第1MG21に発電させて正方向のクランキングトルクを第1MG21に発生させる。
【0046】
モード切替部220は、始動モードでエンジン10の始動が完了すると、制御モードを始動モードからエンジンモードに切り替える。この際、モード切替部220は、クランキング(第1MG21の発電)を停止させ、エンジン10と第2MG22との双方の動力によって車両1を走行させる。なお、モード切替部220は、エンジンモード中、エンジン始動要求がある場合にはエンジンモードを継続させ、エンジン始動要求がない場合には制御モードをエンジンモードからEVモードに切り替え、エンジン10を停止させる。
【0047】
Win制限部230は、バッテリ温度Tbに応じてバッテリ70の受入可能電力値Winを設定し、バッテリ70の実際の受入電力を受入可能電力値Winを超えないように制御する。Win制限部230は、バッテリ温度Tbが所定温度未満である通常時には受入可能電力値Winを基準値W1(あるいは基準値W1以上の値であってもよい)に設定する。一方、バッテリ温度Tbが所定温度以上である高温時には、Win制限部230は、受入可能電力値Winを基準値W1よりも低い制限値W0に低下させる。
【0048】
EHC通電制御部240は、現在の制御モード、エンジン始動要求の有無、受入可能電力値Win、車速Vなどに応じてEHC通電を制御する。具体的には、EHC通電制御部240は、EV走行中にエンジン始動要求があった場合、受入可能電力値Winが基準値W1よりも低い制限値W0に低下しており、かつ、車速Vがしきい車速V0以上であるときは、EHC電源100内部のリレーを閉じてEHC通電を行なう。ここで、しきい車速V0は、クランキング発電電力が制限値W0に達する車速以下に設定される。したがって、しきい車速V0は上限車速Vmaxよりも低い値(言い換えれば、上限車速Vmaxはしきい車速V0よりも高い値)である。
【0049】
図4は、車速Vとクランキング発電電力との対応関係を示す図である。EV走行中では、図4に示すように、車速Vが高いほどクランキング発電電力は大きくなる。
【0050】
バッテリ70の受入可能電力値Winが基準値W1である場合、車速Vが車速V1(=上限車速Vmax)未満の領域でクランキングを行なえば、クランキング発電電力はバッテリ70の受入可能電力値Winの基準値W1未満となるため、クランキング発電電力をバッテリ70で受け入れることが可能である。
【0051】
しかしながら、バッテリ70の受入可能電力値Winが基準値W1から制限値W0に低下している場合、車速Vが制限値W0に対応するしきい車速V0を超えていると、クランキング発電電力のうちの制限値W0を超える電力αをバッテリ70に受け入れることができない。この制限値W0を超える電力αが余剰電力となる。
【0052】
そこで、ECU200は、EV走行中にクランキングを行なう場合、バッテリ70の受入可能電力値Winが基準値W1から制限値W0に低下しおり、かつ車速Vが制限値W0に対応するしきい車速V0以上であるときには、EHC通電を行なうことによって、余剰電力αをEHC140で消費させる。
【0053】
図5は、上述の機能を実現するためのECU200の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、車両1の走行中に所定周期で繰り返し実行される。
【0054】
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10にて、ECU200は、制御モードがEVモードであるか否かを判定する。
【0055】
S10で制御モードがEVモードであると判定された場合(S10にてYES)、ECU200は、S20にてエンジン始動要求があるか否かを判定する。エンジン始動要求がない場合(S20にてNO)、ECU200は、EVモードを継続する。
【0056】
エンジン始動要求がある場合(S20にてYES)、ECU200は、S40にてバッテリ70の受入可能電力値Winが基準値W1から制限値W0に低下しているか否かを判定し、S41で車速Vがしきい車速V0以上であるか否かを判定する。
【0057】
受入可能電力値Winが制限値W0に低下しておりかつ車速Vがしきい車速V0以上である場合(S40にてYESかつS41にてYES)、ECU200は、S42にてEHC通電を開始する。その後、ECU200は、S43にて制御モードをEVモードから始動モードに切り替える。この始動モードへの切り替えによって、第1MG21の発電(クランキングトルクの付与)が開始される。
【0058】
一方、受入可能電力値Winが制限値W0に低下していない場合(S40にてNO)、または車速Vがしきい車速V0未満である場合(S41にてNO)、ECU200は、S42の処理(EHC通電開始の処理)を行なうことなく、処理をS43に移して制御モードをEVモードから始動モードに切り替える。
【0059】
S10で制御モードがEVモードでないと判定された場合(S10にてNO)、ECU200は、S50にて制御モードが始動モードであるか否かを判定する。
【0060】
S50で制御モードが始動モードであると判定された場合(S50にてYES)、ECU200は、S60にてエンジン10の始動が完了している(エンジン回転速度Neが所定速度以上である)か否かを判定する。
【0061】
エンジン10の始動が完了していない場合(S60にてNO)、ECU200は、S70にて始動モードを継続し、第1MG21の発電(クランキングトルクの付与)を継続させる。その後、ECU200は、S71にてEHC通電中であるか否かを判定する。EHC通電中でない場合(S71にてNO)、ECU200は、処理を終了させる。
【0062】
EHC通電中である場合(S71にてYES)、ECU200は、S72にてEHC通電時間Tが所定時間T0を超えるか否かを判定し、S73で第1MG回転速度Nm1が所定値N0(たとえばN0=0rpm)を超えるか否かを判定する。
【0063】
EHC通電時間Tが所定時間T0を超えておらず(S72にてNO)かつ第1MG回転速度Nm1が所定値N0を超えていない場合(S73にてNO)、ECU200は、S74にてEHC通電を継続させる。
【0064】
一方、EHC通電時間Tが所定時間T0を超えている場合(S72にてYES)、または第1MG回転速度Nm1が所定値N0を超えている場合(S73にてYES)、ECU200は、処理をS82に移しEHC通電を停止させる。
【0065】
エンジン10の始動が完了している場合(S60にてYES)、ECU200は、S80にて制御モードを始動モードからエンジンモードに切り替えて、第1MG21の発電を停止させる。その後、ECU200は、S81にてEHC通電中であるか否かを判定する。EHC通電中でない場合(S81にてNO)、ECU200は、処理を終了させる。EHC通電中である場合(S81にてYES)、ECU200は、S82にてEHC通電を停止させる。
【0066】
以上のように、本実施の形態によるECU200は、EV走行中に第1MG21の発電を伴うクランキングを行なう場合に、バッテリ70の受入可能電力値Winが基準値W1よりも低い制限値W0に低下しているときは、EHC通電を行なう。これにより、クランキング発電電力のうちのバッテリ70で受け入れできない余剰電力をEHC140で消費させることができるため、EV走行中の上限車速Vmaxを車速V1に維持することができる。これにより、上限車速Vmaxを引き下げる場合に比べて、燃費の悪化を抑制するとともに、エンジン始動性の悪化を抑制することができる。
【0067】
さらに、クランキング時に生じる余剰電力αをEHC140で消費させることによって、EV走行中に低下したEHC140の温度Tehcをエンジン10の始動直前に予め上昇させて活性温度に近づけておくことができる。そのため、余剰電力αをEHC140を加熱するための電力として有効に利用して、エンジン始動時の排気ガスの浄化性能向上を図ることもできる。
【0068】
図6は、EHC140の温度Tehcの変化態様の一例を示す図である。図6において、時刻t1,t4はクランキング開始時刻、時刻t2,t5はエンジン始動時刻、時刻t3はエンジン停止時刻を示す。図6に示すように、クランキング開始時刻t1(時刻t4)でEHC通電が行なわれることによって、エンジン始動時刻t2(時刻t5)の前にEHC140の温度Tehcが予め上昇し、活性温度に近づく。そのため、従来に比べて、エンジン始動時の排気ガスの浄化性能向上を図ることができる。
【0069】
なお、本発明が適用可能な車両は、図1に示した車両1に限定されるものではなく、エンジン、EHC、発電することによってエンジンのクランキングを行なうためのトルクを発生可能な回転電機、回転電機との間で電力を授受可能な蓄電装置を備えた車両であればよい。そして、このような車両において、回転電機の発電を伴うクランキングが行なわれる場合、蓄電装置の受入可能電力値が基準値よりも低い値に低下しているときは、EHCと回転電機とを電気的に接続してEHC通電を行なうようにすればよい。
【0070】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 車両、10 エンジン、40 動力分割装置、50 減速機、60 PCU、70 バッテリ、80 駆動輪、100 電源、130 排気通路、140 EHC、151 監視ユニット、152 電流センサ、153 電圧センサ、154 回転速度センサ、155,156 レゾルバ、157 車速センサ、158 アクセルペダルポジションセンサ、159 空調センサ、200 ECU、210 エンジン始動要求判定部、220 モード切替部、230 Win制限部、240 EHC通電制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの排気を浄化する電気加熱可能な触媒装置と、発電することによって前記エンジンのクランキングを行なうためのトルクを発生可能な回転電機と、前記回転電機との間で電力を授受可能な蓄電装置とを備えた車両の制御装置であって、
前記蓄電装置および前記回転電機と前記触媒装置との電気的な接続状態を切り替える切換装置と、
前記切換装置を制御することにより前記触媒装置の通電を制御する通電制御部とを備え、
前記通電制御部は、前記回転電機の発電を伴う前記クランキングが行なわれる場合、前記蓄電装置の受入可能電力値が基準値よりも低い値に低下しているときは、前記触媒装置と前記回転電機とを電気的に接続して前記触媒装置を通電させる、車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記エンジンを停止した状態での車両走行中に前記エンジンを始動させる場合に、車速に応じた電力を前記回転電機で発電させて前記クランキングを行なうエンジン始動部をさらに備え、
前記通電制御部は、前記エンジンを停止した状態での車両走行中に前記クランキングが行なわれる場合、前記受入可能電力値が前記基準値よりも低い値に低下しかつ車速がしきい車速以上であるときに、前記触媒装置の通電を開始させる、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記しきい車速は、前記クランキング時の前記回転電機の発電電力が前記基準値よりも低下した後の前記受入可能電力値となる車速以下に設定される、請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記エンジン始動部は、少なくとも車速が上限車速を超えた場合に前記エンジンを始動させ、
前記上限車速は、前記しきい車速よりも高い固定値である、請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記通電制御部は、前記触媒装置の通電開始後に、前記エンジンの始動が完了した場合、前記触媒装置の通電時間が所定時間を越えた場合、前記クランキング時の前記回転電機の発電が不要となる領域に前記回転電機の回転速度が含まれる場合、の少なくともいずれかの場合、前記触媒装置の通電を停止する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記車両は、前記エンジンとともに車両駆動力を発生する電動機を備えたハイブリッド車両である、請求項1に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−240485(P2012−240485A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110419(P2011−110419)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】