説明

車両の制御装置

【課題】クランキング中にABS制御を時間遅れなく行うことができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】所定の停止条件が成立するとエンジン1を自動停止し、その後に所定の始動条件が成立するとスタータモータ2を起動してエンジン1を再始動する自動停止始動装置と、車両の減速度と各車輪の回転速度及びブレーキ液圧に基づいて前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの最適回転速度を算出し、算出した最適回転速度に基づいて電磁弁を開閉制御してブレーキ液圧を制御するABSと、を有する車両の制御装置において、前記自動停止始動装置によるエンジン1の再始動中にABS制御信号を受信すると同時に省電力モードによって前記ABS制御を開始する。ここで、省電力モードによるABS制御においては、ABSのポンプモータを駆動しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの自動停止始動手段とABSを備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源としてエンジンと電動モータを併用するハイブリッド車や低燃費を目指す車両には、所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止(アイドルストップ)し、その後に所定の始動条件が成立するとスタータモータを起動してエンジンを再始動する自動停止始動装置が設けられている。
【0003】
又、車両には、例えば凍結した路面上を走行している場合に急ブレーキを掛けても車輪がロックしないようにすることによって制動距離を短縮するためのABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が搭載されている。このABSは、車両の減速度と各車輪の回転速度及びブレーキ液圧に基づいて各車輪の最適回転速度を算出し、算出された最適回転速度に基づいて電磁弁を開閉制御してブレーキ液圧を制御する装置である。
【0004】
ところで、自動停止始動装置とABSを搭載した車両の減速中にエンジンが自動停止し、その状態で運転者が加速のためにブレーキを緩めると(ブレーキOFF)、始動条件が成立するためにスタータモータが起動(以下、「クランキング」と称する)されてエンジンが再始動される。そして、クランキング中にブレーキを踏む状況になったために運転者がブレーキを掛けた場合、ABSが作動しなければクランキングは継続されてエンジンが再始動されるが、急ブレーキを掛けたためにABSが作動する場合には、クランキングを中止してABS制御を行うようにしている(例えば、特許文献1参照)。その理由は、ABS作動時にはABSのポンプモータを駆動してブレーキ液をリザーバから排出する必要があり、クランキングを中止しなければスタータモータとポンプモータを同時に駆動しなければならず、そのための電力消費が大きくなってしまうためである。又、場合によっては、スタータモータとポンプモータを同時に駆動することによる低電圧のために、フェール(故障や不具合)が発生したり、システム破損に至るからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−213269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のようにクランキング中にABSが作動する場合にクランキングを中止しようとしても、このクランキングを急に中止することは不可能であって、クランキングが完全に停止してからABS制御が行われるため、ABSの作動開始が0.3〜0.5秒程度遅れ、ABSの初期の動作が十分達成されない可能性がある。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、クランキング中にABS制御を時間遅れなく行うことができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止し、その後に所定の始動条件が成立するとスタータモータを起動してエンジンを再始動する自動停止始動装置と、
車両の減速度と各車輪の回転速度及びブレーキ液圧に基づいて各車輪の最適回転速度を算出し、算出した最適回転速度に基づいて電磁弁を開閉制御してブレーキ液圧を制御するABSと、
を有する車両の制御装置において、
前記自動停止始動装置によるエンジンの再始動中にABS制御信号を受信すると同時に省電力モードによって前記ABS制御を開始することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記省電力モードによるABS制御においては、前記ABSのポンプモータを駆動しないことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記省電力モードによるABSを、少なくとも前記エンジンの再始動が完了するまで継続し、その後に前記ABSのポンプモータを駆動することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載の発明において、前記省電力モードによるABS制御においては、前記ABSの電磁弁を駆動してブレーキ液をホイールシリンダからリザーバに排出し、少なくとも車両が停止した後に前記ABSのポンプモータを駆動して前記リザーバからブレーキ液を排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、自動停止始動装置によるエンジンの再始動中にABS制御信号を受信すると同時にABS制御を開始するようにしたため、クランキング中のABS制御を時間遅れなく行うことができ、車輪のロックを確実に防ぐことができる。そして、ABS制御は省電力モードによって行われるため、クランキングを中止することなくABS制御を実行することができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、クランキング中のABS制御を、大電力を消費するポンプモータを駆動することなく行うようにしたため、クランキングを中止することなくABS制御を実行することができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、省電力モードでのABS制御を少なくともエンジンの再始動が完了するまで継続するようにしたため、少なくともスタータモータが起動されている間はABSのポンプモータは駆動されず、クランキング中の消費電力を低く抑えることができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、省電力モードによるABS制御においては、ABSの電磁弁を駆動してブレーキ液をホイールシリンダからリザーバに排出するようにしたため、ポンプモータを駆動することなく省電力でのABS制御が可能となる。そして、少なくとも車両が停止してABS制御が不要となった後にABSのポンプモータを駆動し、リザーバに溜まったブレーキ液を排出してマスタシリンダへと戻すようにしたため、次回のABS制御に使用可能なリザーバの容量が不足することがなく、次回のブレーキ操作に必要なブレーキ液をマスタシリンダに確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車両の制御装置の基本構成図である。
【図2】本発明に係る車両の制御装置によって制御される液圧制御ユニットの回路図である。
【図3】本発明に係る車両の制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る車両の制御装置による制御のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明に係る車両の制御装置の基本構成図であり、本制御装置を備える車両は、自動停止始動装置とABSを搭載しており、駆動源としてエンジン1を備えている。
【0019】
上記エンジン1は、所定の停止条件が成立すると自動始動停止装置によって自動停止(アイドルストップ)され、その後に所定の始動条件が成立するとスタータモータ2が起動されてクランキングによって再始動される。
【0020】
又、車両にはブレーキ装置3が設けられており、図示のブレーキ装置3は、上端を中心として車両前後方向に揺動するブレーキペダル8を備えており、このブレーキペダル8は、ブレーキ操作時の運転者の踏力を軽減するためのブレーキブースタ14を介してマスタシリンダ15に連結されており、マスタシリンダ15は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込み量に応じたブレーキ液圧を発生する。
【0021】
更に、車両の左右の前輪4L,4Rと後輪5L,5Rにはディスクブレーキ16がそれぞれ設けられており、各ディスクブレーキ16は、ディスクロータ16aと該ディスクロータ16aの両面を挟持可能なキャリパ16bによって構成されている。そして、それぞれのディスクブレーキ16の各キャリパ16bは、ブレーキ配管ライン17,18,19,20と液圧制御ユニット21及び該液圧制御ユニット21から延びるブレーキ配管22,23を介して前記マスタシリンダ15に接続されている。
【0022】
上記液圧制御ユニット21は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込みによるブレーキ操作とは無関係にブレーキ液圧を発生させることができるものであって、これには電磁弁である後述の各種バルブv1〜v12や油圧を発生させるポンプ24,25(図2参照)が設けられており、各種バルブv1〜v12及びポンプ24,25を駆動するポンプモータ26はコントロールユニット(以下、「ECU」と称する)13によって制御される。尚、液圧制御ユニット21の構成の詳細は後述する。
【0023】
上記ECU13は、本発明に係る制御装置を構成するものであって、このECU13には、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rにそれぞれ設けられた車輪速センサ27、車両の減速度を検出するGセンサ28、マスタシリンダ15の圧力を検出する圧力センサ29等が電気的に接続されている。
【0024】
ところで、前記ABSは、車輪速センサ27によって検出される前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各回転速度とGセンサ28によって検出される車両の減速度及び圧力センサ29によって検出されるブレーキ液圧に基づいて前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各最適回転速度を算出し、算出した前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各最適回転速度に基づいてバルブv1〜v12を開閉制御するものであり、その機能はECU13が担っている。
【0025】
次に、前記液圧制御ユニット21の構成の詳細を図2に基づいて説明する。
【0026】
図2は液圧制御ユニット21の回路図であり、図示の液圧制御ユニット21は、前記ポンプモータ26によって駆動される2つのポンプ24,25を備えており、一方のポンプ24の吸入側にはリザーバ30から延びる液圧ライン31が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる一方のブレーキ配管22はポンプ24の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン31にはチェックバルブ32が設けられており、ブレーキ配管22にはチェックバルブ33と第1カットバルブv1が設けられている。尚、第1カットバルブv1及び後述する第2カットバルブv7は、ポンプ24,25が駆動されてブレーキ液圧が昇圧されるときに閉じて液圧制御ユニット21とマスタシリンダ15とを遮断するバルブである。又、ブレーキ配管22に第1カットバルブv1をバイパスして接続されたバイパスライン34にはリターンチェックバルブ35が設けられている。
【0027】
そして、ブレーキ配管22から分岐する液圧ライン36には前記圧力センサ29が接続されており、液圧ライン36から分岐する液圧ライン37は液圧ライン36のチェックバルブ32とリザーバ30の間に接続されており、この液圧ライン37には、ポンプ24が駆動されてブレーキ液圧が昇圧されるときに開いてポンプ24がマスタシリンダ15からブレーキ液を吸い上げることを可能とするバルブである第1サクションバルブv2が設けられている。
【0028】
更に、ブレーキ配管22の第1カットバルブv1とチェックバルブ33の間から分岐して前記リザーバ30に接続された液圧ライン38にはFL保持バルブv3とFL減圧バルブv4が直列に設けられており、液圧ライン38に並列に接続された液圧ライン39にはRR保持バルブv5とRR減圧バルブv6が直列に設けられている。そして、液圧ライン38のFL保持バルブv3とFL減圧バルブv4の間からは前記ブレーキ配管ライン17(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン17は左前輪(FL)4Lのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン39のRR保持バルブv5とRR減圧バルブv6の間からは前記ブレーキ配管ライン20(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン20は右後輪(RR)5Rのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。
【0029】
他方、他方のポンプ25の吸入側にはリザーバ40から延びる液圧ライン41が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる他方のブレーキ配管23はポンプ25の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン41にはチェックバルブ42が設けられており、ブレーキ配管23にはチェックバルブ43と第2カットバルブv7が設けられている。又、ブレーキ配管23に第2カットバルブv7をバイパスして接続されたバイパスライン44にはリターンチェックバルブ45が設けられている。
【0030】
そして、ブレーキ配管23から分岐する液圧ライン46は前記液圧ライン41のチェックバルブ42とリザーバ40の間に接続されており、該液圧ライン46には第2サクションバルブv8が設けられている。
【0031】
更に、ブレーキ配管23の第2カットバルブv7とチェックバルブ43の間から分岐して前記リザーバ40に接続された液圧ライン47にはFR保持バルブv9とFR減圧バルブv10が直列に設けられており、液圧ライン47に並列に接続された液圧ライン48にはRL保持バルブv11とRL減圧バルブv12が直列に設けられている。そして、液圧ライン47のFR保持バルブv9とFR減圧バルブv10の間からは前記ブレーキ配管ライン18(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管ライン18は右前輪(FR)4Rのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン48のRL保持バルブv11とRL減圧バルブv12の間からは前記ブレーキ配管ライン19(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管19は左後輪(RL)5Lのディスクブレーキ16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。
【0032】
次に、通常のブレーキ操作時(ABS非作動時)の液圧制御ユニット21の作用を図2に基づいて以下に説明する。
【0033】
車両の走行中に運転者がブレーキペダル8を踏み込むと、その踏力がブレーキブースタ14によって倍力されてマスタシリンダ15に伝達され、マスタシリンダ15に所定圧のブレーキ液圧が発生する。このとき、バルブv1,v3,v5,v7,v9,v11が開かれ、バルブv2,v4,v6,v8,v10,v12が閉じられる。すると、マスタシリンダ15のブレーキ液は、図2に太線にて示す経路、即ち、ブレーキ配管22,23からバルブv1,v7、液圧ライン38,47,39,48、バルブv3,v5,v9,v11及びブレーキ配管19,20,18,19を経て前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダ(不図示)に供給される。このように前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダにブレーキ液がそれぞれ供給されると、各キャリパ16bが駆動されて各ディスクロータ16aがキャリパ16bによって挟持され、該ディスクロータ16aとこれと共に回転する前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの回転に制動が加えられ、車両が減速又は停止する。
【0034】
次に、後述の省電力モード以外の通常モードでのABS作動時の液圧ユニット21の作用について説明する。
【0035】
ECU13は、例えば車両が凍結した路面上を走行しているときに前述のブレーキ操作によって前輪4L,4Rと後輪5L,5Rがロックする可能性を車両の減速度と前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各回転速度及びブレーキ液圧に基づいて判断し、その可能性がある場合には次のようなABS制御を実行する。
【0036】
即ち、図2に示す状態からロックする可能性のある車輪のブレーキ装置(キャリパ16b)に接続されている配管ラインのバルブv3,v5,v9,v11を閉じ、バルブv4,v6,v10,v12を開くとともに、ポンプモータ26を起動してポンプ24,25を駆動する。すると、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのロックする可能性のある車輪のディスクブレーキ16のホイールシリンダからブレーキ液が排出されてリザーバ30,40にそれぞれ貯留され、各リザーバ30,40に貯留されたブレーキ液は、各ポンプ24,25によって汲み出されてバイパスライン34,44及びブレーキ配管22,23を通ってマスタシリンダ15へと戻される。この結果、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのロックする可能性のある車輪のディスクブレーキ16のブレーキ力が下がり、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのロックが防がれる。
【0037】
その後、ロックする可能性のあった車輪の回転が戻ると、図2に示すようにバルブv3,v5,v9,v11の内でABS制御のために閉じられていたバルブが開かれ、バルブv4,v6,v10,v12の内でABS制御のために開かれていたバルブが閉じられ、前述のようにマスタシリンダ15のブレーキ液が前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのロックする可能性のあった車輪のディスクブレーキ16に再び供給加圧されて前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの回転に制動が加えられる。
【0038】
以後、以上の動作が複数回繰り返され、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rはロックが防がれ、通常の制動とロック傾向の制動を繰り返し、これによって車両の制動距離が短縮される。
【0039】
次に、本発明に係る制御装置の要旨を図3及び図4に従って以下に説明する。
【0040】
図3は本発明に係る制御装置の処理手順を示すフローチャート、図4は同制御装置における制御のタイミングチャートであり、本発明に係る制御装置は、自動停止始動装置によるエンジン1の再始動(クランキング)中にABS制御信号を受信すると同時に省電力モードによってABS制御を開始することを特徴とする。ここで、省電力モードによるABS制御においては、液圧制御ユニット21のバルブv1〜v12だけを駆動し、ポンプモータ26は駆動せず、これによって省電力を実現している。尚、電磁弁であるバルブv1〜v12の駆動に要する電力は、ポンプモータの26駆動に要する電力に比して格段に小さい。
【0041】
そして、本発明に係る制御装置は、省電力モードによるABSを、少なくともエンジン1の再始動が完了するまで継続し、その後にABSのポンプモータ26を駆動することを特徴としている。具体的には、液圧制御ユニット21のバルブv1〜v12を開閉制御してブレーキ液を前輪4L,4Rと後輪5L,5Rの各ディスクブレーキ16のホイールシリンダからリザーバ30,40にそれぞれ排出し、少なくとも車両が停止した後にポンプモータ26(ポンプ24,25)を駆動してリザーバ30,40からブレーキ液を汲み出してマスタシリンダ15へと戻す。
【0042】
即ち、車両の走行中において、制御装置であるECU13は、運転者によってブレーキ操作がなされたか否か(ブレーキ信号のON/OFF)を判定する(図3のステップS1)。図4に示すように時間t1において運転者がブレーキ操作を行ったためにブレーキ信号がONになると(ステップS1での判定結果がYesであると)、エンジン1を自動停止(アイドルストップ)する停止条件が成立したか否かを判定する(ステップS2)。
【0043】
図4に示すように時間t2において上記停止条件が成立すると(ステップS2での判定結果がYesであると)、アイドルストップ信号をOFFからONに切り替えてエンジン1を自動停止(アイドルストップ)する(ステップS3)。そして、エンジン1の自動停止中に運転者がブレーキペダル8から足を離したか否か(ブレーキ信号がONからOFFに切り替わったか否か)が判定される(ステップS4)。尚、図4に示すようにエンジン1を自動停止する以前においてCVTのL/U(ロックアップ)信号はOFFされる。
【0044】
図4に示すように時間t3において運転者によってブレーキ操作が中止されたためにブレーキ信号がONからOFFに切り替わると(ステップS4での判定結果がYesであると)、エンジン1の始動条件が成立したものとしてスタータモータ2を起動(クランキング)してエンジン1を再始動させる(ステップS5).
次に、エンジン1のクランキング中に運転者によるブレーキ操作がなされたか否か(ブレーキ信号がOFFからONに切り替わったか否か)が判定され(ステップS6)、ブレーキ操作がなされると(ステップS6での判定結果がYesであると)、ABS制御信号を受信したか否か(ABS制御信号がOFFからONに切り替わったか否か)が判定される(ステップS7)。
【0045】
エンジン1のクランキング中の図4に示す時間t4においてABS制御信号を受信すると(ステップS7での判定結果がYesであると)、同時に省電力モードでのABS制御が実行される(ステップS8)。この省電力モードでのABS制御においては、図2に示す液圧制御ユニット21のバルブv5,v4,v9,v11の内でロックする可能性のある車輪のバルブを閉じ、バルブv4,v6,v10,v12の内でロックする可能性のある車輪のバルブを開く。すると、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのロックする可能性のある車輪のディスクブレーキ16のホイールシリンダからブレーキ液が排出されてリザーバ30又は40にそれぞれ貯留され、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのブレーキ力が緩和されてこれらの前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのロックが防がれる。ここで、省電力モードでのABS制御においては、ポンプモータ26を駆動しないために図4に示すようにリザーバ30,40の容量(ブレーキ液の貯留量)が次第に増加する。
【0046】
而して、省電力モードでのABS制御は少なくともエンジン1のクランキングが終了する時間t5まで継続される。本実施の形態では、車速が0となって車両が停止する時間t6まで省電力モードでのABS制御が継続される。即ち、省電力モードでのABS制御を行っている間、車速が0であるか否かが判定され(ステップS9)、車両が停止して車速が0となると(ステップS9での判定結果がYesであると)、省電力モードでのABS制御が終了する(ステップS10)。尚、本実施の形態では、省電力モードのABS制御を車両が停止する時間t6まで継続するようにしたが、エンジン1のクランキングが終了すると同時(時間t5)に省電力モードでのABS制御を終了して省電力モードから通常モードに変更するようにしても良い。ここで、省電力モードでのABS制御における車速、車輪速、マスタシリンダ15のブレーキ液圧、ホイールシリンダのブレーキ液圧及びリザーバ30,40の容量(ブレーキ液の貯留量)の経時変化を図4にそれぞれ示す。
【0047】
そして、車両が停止して省電力モードでのABS制御が時間t6において終了した後、運転者によってアクセル操作がなされたか否かが判定される(ステップS11)。運転者によってアクセル操作がなされて車両が加速されると(ステップS11の判定結果がYesであると)、時間t8においてポンプモータ26が駆動され(ステップS12)、このポンプモータ26によってポンプ24,25が駆動され、前述のようにリザーバ30,40に貯留されているブレーキ液が各ポンプ24,25によって汲み出されてバイパスライン34,44及びブレーキ配管22,23を通ってマスタシリンダ15へと戻され、次のブレーキ操作に備えられ、車両減速中での一連の制御動作が終了する(ステップS13)。尚、アクセル操作や車両の加速を検知してリザーバ30,40からのポンプ24,25によるブレーキ液の汲み出しを行うのは、ポンプの作動音を乗員に分かりにくくするためである。
【0048】
以上のように、本発明に係る車両の制御装置によれば、自動停止始動装置によるエンジン1の再始動中にABS制御信号を受信すると同時にABS制御を開始するようにしたため、クランキング中のABS制御を時間遅れなく行うことができ、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rのロックを確実に防ぐことができる。そして、ABS制御は省電力モードによって行われるため、クランキングを中止することなくABS制御を実行することができる。具体的には、クランキング中のABS制御を、大電力を消費するポンプモータ26を駆動することなく行うようにしたため、クランキングを中止することなくABS制御を実行することができる。
【0049】
又、省電力モードでのABS制御を少なくともエンジン1の再始動が完了するまで継続するようにしたため、少なくともスタータモータ2が起動されている間はABSのポンプモータ26は駆動されず、クランキング中の消費電力を低く抑えることができる。
【0050】
更に、省電力モードによるABS制御においては、ABSのバルブ(電磁弁)v1〜v12を駆動してブレーキ液をホイールシリンダからリザーバ30,40に排出するようにしたため、ポンプモータ26を駆動することなく省電力でのABS制御が可能となる。そして、少なくとも車両が停止してABS制御が不要となった後にABSのポンプモータ26を駆動し、リザーバ30,40に溜まったブレーキ液を排出してマスタシリンダ15へと戻すようにしたため、次回のABS制御に使用可能なリザーバ30,40の容量が不足することがなく、次回のブレーキ操作に必要なブレーキ液をマスタシリンダ15に確保することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 エンジン
2 スタータモータ
3 ブレーキ装置
4L,4R 前輪
5L,5R 後輪
8 ブレーキペダル
13 ECU(制御装置)
15 マスタシリンダ
16 ディスクブレーキ
21 液圧制御ユニット
24,25 ポンプ
26 ポンプモータ
30,40 リザーバ
v1〜v12 バルブ(電磁弁)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の停止条件が成立するとエンジンを自動停止し、その後に所定の始動条件が成立するとスタータモータを起動してエンジンを再始動する自動停止始動装置と、
車両の減速度と各車輪の回転速度及びブレーキ液圧に基づいて各車輪の最適回転速度を算出し、算出した最適回転速度に基づいて電磁弁を開閉制御してブレーキ液圧を制御するABSと、
を有する車両の制御装置において、
前記自動停止始動装置によるエンジンの再始動中にABS制御信号を受信すると同時に省電力モードによって前記ABS制御を開始することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記省電力モードによるABS制御においては、前記ABSのポンプモータを駆動しないことを特徴とする請求項1記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記省電力モードによるABS制御を、少なくとも前記エンジンの再始動が完了するまで継続し、その後に前記ABSのポンプモータを駆動することを特徴とする請求項2記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記省電力モードによるABS制御においては、前記ABSの電磁弁を駆動してブレーキ液をホイールシリンダからリザーバに排出し、少なくとも車両が停止した後に前記ABSのポンプモータを駆動して前記リザーバからブレーキ液を排出することを特徴とする請求項2又は3記載の車両の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−39855(P2013−39855A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176298(P2011−176298)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】