説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】HV−MT車にて、実際のクラッチトルク特性の変化によってクラッチ操作部材の操作に対する「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移に変化が発生することの抑制。
【解決手段】この動力伝達制御装置は、動力源として内燃機関(EG)とモータ(MG)とを備えたハイブリッド車両に適用され、手動変速機と、摩擦クラッチとを備える。クラッチトルク基準特性(マップ)にクラッチ戻しストローク検出値を適用してクラッチトルク基準値が決定される。このクラッチトルク基準値と「EGの出力軸の駆動トルク検出値」とのうちで小さい方の値が「CT通過後基準EGトルク」として決定される。MGトルクは、CT通過後基準EGトルクから、M/Tの入力軸の駆動トルク検出値(CT通過後実EGトルク)を減じた値に調整される。これにより、CT通過後EGトルクの誤差が補償され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として第1動力源(例えば、内燃機関)と第2動力源(例えば、電動機)とを備えた車両に適用され、第1動力源と変速機との間にクラッチを備えたものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、「内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備えた手動変速機」と、「内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との間に介装されて、クラッチペダルのストローク(クラッチストローク)に応じてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能な摩擦クラッチ」と、を備えた車両の動力伝達制御装置が広く知られている。以下、内燃機関の出力軸のトルクを「内燃機関トルク」と呼ぶ。
【0003】
係る動力伝達制御装置では、変速操作中などのようにクラッチペダルの操作中において、摩擦クラッチを介して内燃機関の出力軸から手動変速機の入力軸に伝達される駆動トルク(以下、「クラッチ通過後内燃機関トルク」と呼ぶ。)の大きさは、内燃機関トルクとクラッチトルクのうち小さい方と一致する。クラッチトルクは、クラッチストロークとクラッチトルクとの関係(クラッチトルク特性)と、クラッチストロークとに依存して決定される。
【0004】
ところで、実際のクラッチトルク特性は、摩擦クラッチの摩擦部材の摩耗等により変化し得る。このことは、実際のクラッチトルク特性の変化に起因して、クラッチペダルの操作(クラッチストローク)に対するクラッチ通過後内燃機関トルク(従って、駆動輪に伝達される駆動トルク)の推移も変化し得ることを意味する。この点、実際のクラッチトルク特性の変化に起因してクラッチペダルの操作に対する「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移の変化が発生しないことが望ましい。
【0005】
ところで、近年、動力源として内燃機関と電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が広く知られている(例えば、特許文献1を参照)。加えて、ハイブリッド車両であって、且つ手動変速機と摩擦クラッチとを備えた車両(以下、「HV−MT車」と呼ぶ)が開発されてきている。以下、電動機の出力軸のトルクを「電動機トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0007】
HV−MT車では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、電動機の出力軸が変速機の入力軸又は変速機の出力軸に接続される構成について考察する。
【0008】
この構成では、クラッチ通過後内燃機関トルクに任意の大きさの電動機トルクを加えることができる。換言すれば、電動機トルクを調整することによって、クラッチ通過後内燃機関トルクにかかわらず「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移を自由に調整することができる。このことを利用すれば、実際のクラッチトルク特性の変化が発生しても、クラッチペダルの操作に対する「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移が変化することを抑制できる、と考えられる。
【0009】
以上、本発明の目的は、特にHV−MT車を対象とする動力伝達制御装置であって、実際のクラッチトルク特性の変化に起因してクラッチ操作部材の操作に対する「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移の変化が発生することを抑制できるものを提供することにある。
【0010】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、動力源として第1動力源と第2動力源とを備えたハイブリッド車両に適用される。この動力伝達装置は、変速機と、クラッチと、制御手段とを備える。第1動力源及び第2動力源はそれぞれ、内燃機関及び電動機であっても、電動機及び内燃機関であっても、電動機及び電動機であってもよい。以下、第1動力源及び第2動力源がそれぞれ内燃機関及び電動機であるものとして説明を続ける。
【0011】
変速機は、トルクコンバータを備えた自動変速機であってもよいが、運転者により操作されるシフト操作部材のシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない手動変速機であることが好ましい。前記変速機は、前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。前記変速機の入力軸又は出力軸には、前記電動機の出力軸が接続される。
【0012】
クラッチは、前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されて、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整する。典型的には、クラッチは、運転者により操作されるクラッチペダルの操作量に応じて摩擦プレートの接合状態が変化する摩擦クラッチである。
【0013】
制御手段は、前記内燃機関の出力軸のトルク(内燃機関トルク)、及び前記電動機の出力軸のトルク(電動機トルク)を制御する。
【0014】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、前記制御手段が、前記クラッチ操作部材の操作量に対する前記クラッチトルクの記憶された特性であるクラッチトルク特性と、取得されたクラッチ操作部材の操作量の実際値と、に基づいてクラッチトルク基準値を決定する第1決定手段と、前記決定されたクラッチトルク基準値及び取得された内燃機関トルクの実際値のうち小さい方の値をクラッチ通過後内燃機関トルクの基準値として決定する第2決定手段と、前記決定されたクラッチ通過後内燃機関トルクの基準値と取得されたクラッチ通過後内燃機関トルクの実際値との比較結果に基づいて電動機トルクを調整する調整手段とを備えたことにある。
【0015】
ここにおいて、電動機トルクは、前記決定されたクラッチ通過後内燃機関トルクの基準値から前記取得されたクラッチ通過後内燃機関トルクの実際値を減じて得られる値(クラッチ通過後内燃機関トルク偏差)に調整されることが好適である。また、このような電動機トルクの調整は、前記クラッチ操作部材の操作中において常時行われてもよいし、クラッチ通過後内燃機関トルク偏差が所定値以上の場合にのみ行われてもよい。
【0016】
上記構成によれば、実際のクラッチトルク特性が摩擦クラッチの摩擦部材の摩耗等により変化しても、電動機トルクを調整することによって、クラッチ通過後内燃機関トルクの実際値がクラッチ通過後内燃機関トルクの基準値と一致するように調整され得る。ここで、クラッチ通過後内燃機関トルクの基準値は、予め記憶された一定のクラッチトルク特性に従って決定される値である。このことは、実際のクラッチルク特性が変化しても、「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移が一定に維持され得ることを意味する。以上のように、上記構成によれば、実際のクラッチトルク特性の変化に起因してクラッチ操作部材の操作に対する「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移の変化が発生することが抑制され得る。
【0017】
通常、前記摩擦クラッチは、前記クラッチ操作部材の操作がなされていないときに滑りを伴わずに動力が伝達される完全接合状態を実現し、前記クラッチ操作部材の操作量に応じて滑りを伴いながら動力が伝達される半接合状態、又は動力が伝達されない状態である完全分断状態を実現するように構成される。
【0018】
この場合、前記予め記憶されたクラッチトルク特性において、前記クラッチ操作部材の操作量が前記クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するタイミング(ミート開始点)より前記完全分断状態側の範囲では前記クラッチトルクがゼロに維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が前記クラッチが前記完全接合状態から前記半接合状態へと移行するタイミング(リリース開始点)より前記完全接合状態側の範囲では前記クラッチトルクが最大値に維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が前記ミート開始点と前記リリース開始点との間では前記クラッチ操作部材の操作量が前記ミート開始点から前記リリース開始点に向けて移動するにつれて前記クラッチトルクがゼロから増大するように構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置を搭載したHV−MT車の概略構成図である。
【図2】図1に示した動力伝達制御装置が参照する、クラッチ戻しストロークとクラッチトルクとの関係を規定するマップを示したグラフである。
【図3】変速作動中において図1に示した動力伝達制御装置によってMGトルクが調整される場合の作動の一例を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0021】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源としてエンジンE/GとモータジェネレータM/Gとを備えたハイブリッド車両であり、且つ、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tと摩擦クラッチC/Tとを備える。即ち、この車両は、上述したHV−MT車である。
【0022】
エンジンE/Gは、周知の内燃機関であり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。
【0023】
手動変速機M/Tは、運転者により操作されるシフトレバーSLのシフト位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。M/Tは、E/Gの出力軸から動力が入力される入力軸と、車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備える。M/Tは、例えば、前進用の5つの変速段(1速〜5速)、及び後進用の1つの変速段(R)を備えている。
【0024】
M/Tの変速段は、シフトレバーSLとM/T内部のスリーブ(図示せず)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してシフトレバーSLのシフト位置に応じて機械的に選択・変更されてもよいし、シフトレバーSLのシフト位置を検出するセンサ(後述するセンサS2)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)選択・変更されてもよい。
【0025】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの出力軸とM/Tの入力軸との間に介装されている。C/Tは、運転者により操作されるクラッチペダルCPの操作量(踏み込み量)に応じて摩擦プレートの接合状態(より具体的には、E/Gの出力軸と一体回転するフライホイールに対する、M/Tの入力軸と一体回転する摩擦プレートの軸方向の相対位置)が変化する周知のクラッチである。
【0026】
接合状態としては、完全接合状態、半接合状態、及び、完全分断状態が存在する。完全接合状態とは、滑りを伴わずに動力を伝達する状態を指す。半接合状態とは、滑りを伴いながら動力を伝達する状態を指す。完全分断状態とは、動力を伝達しない状態を指す。以下、クラッチペダルCPが最も深く踏み込まれた状態からのクラッチペダルCPの戻し方向の操作量を「クラッチ戻しストローク」と呼ぶ。
【0027】
クラッチ戻しストロークは、クラッチペダルCPが最も深く踏み込まれた状態にて「0」となり、クラッチペダルCPが開放されている(操作されていない)状態にて最大となる。クラッチ戻しストロークが「0」から増大するにつれて、C/Tは、完全分断状態から半接合状態を経て完全接合状態へと移行する。
【0028】
C/Tの接合状態(即ち、摩擦プレートの軸方向位置)は、クラッチペダルCPとC/T(摩擦プレート)とを機械的に連結するリンク機構等を利用してCPの操作量に応じて機械的に調整されてもよいし、CPの操作量を検出するセンサ(後述するセンサS1)の検出結果に基づいて作動するアクチュエータの駆動力を利用して電気的に(所謂バイ・ワイヤ方式で)調整されてもよい。
【0029】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、周知のギヤ列等を介してM/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されている。
【0030】
また、図1に破線で示すように、C/TとM/Tとの間に、動力が伝達される「接合状態」と動力が伝達されない「分断状態」とを選択的に実現する動力断接機構CHGが介装されていてもよい。以下、E/Gの出力軸のトルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸のトルクを「MGトルク」と呼ぶ。CHGが「分断状態」とされるのは、クラッチペダルCPが操作されていない状態(即ち、C/Tの完全接合状態)において車両がMGトルク(>0)のみで走行する場合等である。この場合、CHGが「分断状態」とされることにより、M/Tの入力軸の回転がC/Tを介してE/Gの出力軸に伝達されることを防止することができる。
【0031】
本装置は、クラッチペダルCPのクラッチ戻しストロークを検出するクラッチ操作量センサS1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサS2と、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサS3と、ブレーキペダルBPの操作量(踏力、操作の有無等)を検出するブレーキ操作量センサS4と、車輪の速度を検出する車輪速度センサS5と、E/Gの出力軸の駆動トルクを検出するトルクセンサS6と、M/Tの入力軸の駆動トルクを検出するトルクセンサS7と、を備えている。以下、センサS6から得られるトルクを「実EGトルク」と呼び、センサS7から得られるトルクを「CT通過後実EGトルク」と呼ぶ。
【0032】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することによりEGトルクを制御し、インバータ(図示せず)を制御することによりMGトルクを制御する。また、動力断接機構CHGが備えられている場合、ECUはCHGの状態を制御する。
【0033】
具体的には、EGトルクとMGトルクとの配分は、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて調整される。EGトルク及びMGトルクの大きさはそれぞれ、主としてセンサS3から得られるアクセル開度に基づいて調整される。
【0034】
また、ECUは、図2に実線で示す「クラッチ戻しストロークに対するクラッチトルクの基準特性」を規定するマップに関するデータをメモリの所定領域に格納・記憶している。クラッチトルクとは、摩擦クラッチC/Tが伝達し得るトルクの最大値である。
【0035】
図2に示すクラッチトルクの基準特性は、ミート開始点とリリース開始点とを利用して規定される。ミート開始点とは、C/Tが完全分断状態から半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ戻しストロークであり、リリース開始点とは、C/Tが完全接合状態から半接合状態へと移行するタイミングに対応するクラッチ戻しストロークである。
【0036】
図2に示すクラッチトルクの基準特性では、クラッチ戻しストロークが「0」から「ミート開始点」の範囲(即ち、C/Tの完全分断状態に対応する範囲。図2の「範囲a」を参照)ではクラッチトルクが「0」に維持され、クラッチ戻しストロークが「リリース開始点」より大きい範囲(即ち、C/Tの完全接合状態に対応する範囲。図2の「範囲c」を参照)ではクラッチトルクが「最大値」に維持され、クラッチ戻しストロークが「ミート開始点」と「リリース開始点」との間(即ち、C/Tの半接合状態に対応する範囲。図2の「範囲b」を参照)ではクラッチ戻しストロークが「ミート開始点」から「リリース開始点」に向けて移動するにつれてクラッチトルクが「0」から「最大値」に向けて増大する。
【0037】
図2に示すクラッチトルクの基準特性は、摩擦クラッチC/Tが有する設計上の理想特性等である。この基準特性は、例えば、摩擦クラッチC/Tのマスタ品を使用して「クラッチ戻しストロークに対するクラッチトルクの推移」を測定した実験の結果に基づいて取得され得る。
【0038】
ECUは、クラッチ操作量センサS1から得られるクラッチ戻しストローク検出値と、図2に示す基準特性とに基づいてクラッチトルクを決定する。このように決定されたクラッチトルクを以下、「クラッチトルク基準値」と呼ぶ。また、ECUは、このクラッチトルク基準値と上述したセンサS6から得られる実EGトルクとのうちで小さい方の値を「CT通過後基準EGトルク」として決定する。このように決定されるCT通過後基準EGトルクは、「変速操作中などのクラッチペダルCPの操作中においてクラッチC/Tを介してE/Gの出力軸からM/Tの入力軸に伝達される駆動トルクの理想的な値である」ということができる。
【0039】
(CT通過後EGトルクの誤差のMGトルクによる補償)
車両に搭載された摩擦クラッチC/Tが有する実際のクラッチトルク特性(クラッチ戻しストロークに対するクラッチトルクの特性)が図2に実線で示すクラッチトルクの基準特性と一致する場合、変速操作中等においてクラッチペダル操作に応じてCT通過後実EGトルクはCT通過後基準EGトルクと同じ値をとりながら推移する。即ち、C/Tを介してM/Tの入力軸に伝達されるトルクはクラッチペダル操作に応じた理想的な大きさをもって推移する。
【0040】
一方、例えば、図2に破線で示すように、C/Tの実際のクラッチトルク特性が前記クラッチトルクの基準特性からずれている場合、変速操作中等においてクラッチペダル操作に応じてCT通過後実EGトルクがCT通過後基準EGトルクからずれて推移する。以下、このずれを「CT通過後EGトルクの誤差」と呼ぶ。CT通過後EGトルクの誤差の発生は、C/Tを介してM/Tの入力軸に伝達されるトルクがクラッチペダル操作に応じた理想的な大きさと異なる大きさをもって推移することを意味する。従って、この誤差を補償することが好ましい。
【0041】
そこで、本装置は、MGトルクを利用してCT通過後EGトルクの誤差を補償する。以下、このことについて、図3を参照しながら説明する。図3に示す例では、時刻t1以前にて、車両がEGトルクのみを利用して(EGトルク>0、MGトルク=0)2速で走行している場合が想定される。時刻t1以降、2速から3速へのシフトアップ作動(変速作動)のため、アクセルペダルAP、クラッチペダルCP、及びシフトレバーSLが連携しながら操作される。また、この例では、図2に破線で示すように、C/Tの実際のクラッチトルク特性が前記クラッチトルクの基準特性からずれている場合が想定される。
【0042】
この例では、クラッチペダルCPの操作に着目すると、時刻t1〜t6に亘ってクラッチペダルCPが操作されている。具体的には、時刻t1にてクラッチペダルCPの操作が開始され、時刻t2にてクラッチ戻しストロークが範囲cから範囲bに移行し(C/Tが完全接合状態から半接合状態に移行し)、時刻t3にてクラッチ戻しストロークが範囲bから範囲aに移行し(C/Tが半接合状態から完全分断状態に移行し)、時刻t4にてクラッチ戻しストロークが範囲aから範囲bに移行し(C/Tが完全分断状態から半接合状態に移行し)、時刻t5にてクラッチ戻しストロークが範囲bから範囲cに移行し(C/Tが半接合状態から完全接合状態に移行し)、時刻t6にてクラッチペダルCPの操作が終了している。
【0043】
このようなクラッチペダルCPの操作に対し、上述した実際のクラッチトルク特性のずれに起因して、図3に微細なドットで示した領域で示すように、CT通過後EGトルクの誤差が発生している。具体的には、実際のクラッチトルク特性が基準特性に対して大きめにずれていることに起因して、CT通過後実EGトルクもCT通過後基準EGトルクに対して大きめに推移している。即ち、時刻t2から減少を開始するCT通過後基準EGトルクが時刻t3でゼロに到達しているのに対し、時刻t2から減少を開始するCT通過後実EGトルクが時刻t3より後の時刻t3’でゼロに到達している。同様に、CT通過後基準EGトルクが時刻t4にてゼロから増大を開始するのに対し、CT通過後実EGトルクは時刻t4より前の時刻t4’にてゼロから増大を開始している。
【0044】
本装置は、図3に斜線で示した領域で示すように、MGトルクを、CT通過後実EGトルクとCT通過後基準EGトルクとの比較結果に基づいて調整する。具体的には、MGトルク(駆動方向のトルク)は、CT通過後基準EGトルクからCT通過後実EGトルクを減じて得られる値(以下、「CT通過後EGトルク偏差」と呼ぶ。)に調整される。
【0045】
なお、より正確には、M/Gの出力軸がM/Tの入力軸ではなく出力軸に接続されていることに起因して、MGトルクは、CT通過後EGトルク偏差(即ち、M/Tの入力軸上でのトルクの偏差)をM/Tの出力軸上でのトルク偏差に換算した値に調整され得る。具体的には、MGトルクは、CT通過後EGトルク偏差をM/Tの減速比(M/Tの出力軸の回転速度に対するM/Tの入力軸の回転速度の割合)で除した値に調整され得る。
【0046】
MGトルクがこのように調整される結果、CT通過後EGトルクの誤差が補償され得る。換言すれば、上述した実際のクラッチトルク特性のずれが発生しても、クラッチペダル操作に対する「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移が一定に維持され得る。即ち、実際のクラッチトルク特性の変化に起因してクラッチペダル操作に対する「駆動輪に伝達される駆動トルク」の推移の変化が発生することが抑制され得る。
【0047】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、第1動力源としてE/Gが使用され、第2動力源としてM/Gが使用されているが、第1、第2動力源として共にM/Gが使用されてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、M/Gの出力軸が(周知のギヤ列等を介して)M/Tの出力軸に動力伝達可能に接続されているが、M/Gの出力軸が(周知のギヤ列等を介して)M/Tの入力軸に動力伝達可能に接続されていてもよい。この場合、MGトルクは、「CT通過後EGトルク偏差をM/Tの出力軸上でのトルク偏差に換算した値」ではなく、「CT通過後EGトルク偏差そのものと等しい値」に調整され得る。
【0049】
また、上記実施形態では、MGトルクは、「CT通過後EGトルク偏差をM/Tの出力軸上でのトルク偏差に換算した値」、或いは、「CT通過後EGトルク偏差そのものと等しい値」に調整されているが、MGトルクが、この値の近傍の値(例えば、この値に所定の係数を乗じた値)に調整されてもよい。
【0050】
また、上述した図3に示す例では、車両がEGトルクのみを利用して(EGトルク>0、MGトルク=0)走行している場合が想定されているが、車両がEGトルク及びMGトルクを利用して(EGトルク>0、MGトルク>0)走行している場合、MGトルクは、「MGトルク基本値」に上述した「CT通過後EGトルクの誤差の補償のための値」を加算(或いは減算)した値に調整される。「MGトルク基本値」とは、車両の運転状態(例えば、アクセル開度、クラッチ戻しストローク等)に基づいて決定され得る。
【0051】
また、上述したMGトルクによるCT通過後EGトルクの誤差の補償(即ち、MGトルクに「CT通過後EGトルクの誤差の補償のための値」を加算・減算する処理)は、クラッチペダルの操作中において常時実行されてもよいし、クラッチペダルの操作中であって且つCT通過後EGトルクの誤差が所定値以上の場合にのみ実行されてもよい。
【0052】
加えて、上記実施形態では、「変速機」として、トルクコンバータを備えない手動変速機M/Tが使用されているが、トルクコンバータを備えた自動変速機が使用されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
M/T…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、CP…クラッチペダル、AP…アクセルペダル、BP…ブレーキペダル、CHG…動力断接機構、S1…クラッチ操作量センサ、S2…シフト位置センサ、S3…アクセル操作量センサ、S4…ブレーキ操作量センサ、S5…車輪速度センサ、S6…トルクセンサ、S7…トルクセンサ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1動力源と第2動力源とを備えた車両に適用され、
前記第1動力源の出力軸から動力が入力される入力軸と前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記入力軸又は前記出力軸に前記第2動力源の出力軸が接続された変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されたクラッチであって、運転者により操作されるクラッチ操作部材の操作量に応じてクラッチが伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記第1動力源の出力軸の駆動トルクである第1トルク、及び前記第2動力源の出力軸の駆動トルクである第2トルクを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記クラッチ操作部材の操作量の実際値を取得する第1取得手段と、
前記第1トルクの実際値を取得する第2取得手段と、
前記クラッチを介して前記第1動力源の出力軸から前記変速機の入力軸に伝達された駆動トルクであるクラッチ通過後第1トルクの実際値を取得する第3取得手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記クラッチ操作部材の操作量に対する前記クラッチトルクの記憶された特性であるクラッチトルク特性と、前記取得されたクラッチ操作部材の操作量の実際値と、に基づいてクラッチトルク基準値を決定する第1決定手段と、
前記決定されたクラッチトルク基準値及び前記取得された第1トルクの実際値のうち小さい方の値をクラッチ通過後第1トルクの基準値として決定する第2決定手段と、
前記決定されたクラッチ通過後第1トルクの基準値と前記取得されたクラッチ通過後第1トルクの実際値との比較結果に基づいて前記第2トルクを調整する調整手段と、
を備えた、車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記調整手段は、
前記第2トルクを、前記決定されたクラッチ通過後第1トルクの基準値から前記取得されたクラッチ通過後第1トルクの実際値を減じて得られる値に調整するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記クラッチは、
前記クラッチ操作部材の操作がなされていないときに滑りを伴わずに動力が伝達される完全接合状態を実現し、前記クラッチ操作部材の操作量に応じて滑りを伴いながら動力が伝達される半接合状態、又は動力が伝達されない状態である完全分断状態を実現するように構成され、
前記クラッチトルク特性において、
前記クラッチ操作部材の操作量が前記クラッチが前記完全分断状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するミート開始点より前記完全分断状態側の範囲では前記クラッチトルクがゼロに維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が前記クラッチが前記完全接合状態から前記半接合状態へと移行するタイミングに対応するリリース開始点より前記完全接合状態側の範囲では前記クラッチトルクが最大値に維持され、前記クラッチ操作部材の操作量が前記ミート開始点と前記リリース開始点との間では前記クラッチ操作部材の操作量が前記ミート開始点から前記リリース開始点に向けて移動するにつれて前記クラッチトルクがゼロから増大するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記第1動力源は内燃機関であり、前記第2動力源は電動機である、車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−153244(P2012−153244A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13688(P2011−13688)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】