車両の走行制御システム
【課題】走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御システムを提供する。
【解決手段】走行車両200は、走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪210、210を有し、これら車輪210、210にトルク指令を与えることで走行する。摩擦路面には、軌道Lから離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定されている。走行車両200は、左右の車輪210、210に対し同じトルク指令値を与えながら走行する。
【解決手段】走行車両200は、走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪210、210を有し、これら車輪210、210にトルク指令を与えることで走行する。摩擦路面には、軌道Lから離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定されている。走行車両200は、左右の車輪210、210に対し同じトルク指令値を与えながら走行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御システムに関する。特に、二輪駆動の車両を所望の軌道に追従させる走行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、介護に用いられる自律移動型ロボットが開発されており、例えば、車椅子型の移動ロボットが知られている。そして、被介護者を自律移動ロボットに乗せた状態で移動ロボットごと福祉車両等に移動させる場合がある。このような場合、一般には、介護者が移動ロボットを操作または誘導したり、実際に押したりすることで移動ロボットを福祉車両に移動させている。
しかしながら、介護者の負担を軽減したり、さらには安全性の向上を図るため、介護者によらず、自律移動ロボットを自動的に福祉車両に搭乗させることが望まれている。
【0003】
ここで、従来、移動ロボットを自律的に所定の軌道に沿って走行させる技術が知られている。
例えば、作業空間内に複数個のランドマークを設置するとともに移動ロボットにはカメラ等のセンサを設けておく。また、作業空間内に存在するランドマークの位置を地図情報として予め移動ロボットに記憶させておく。そして、移動ロボットは、ランドマークを観測し、ランドマークとの相対的な位置関係から自己推定を行う。移動ロボットは、自己位置の推定値と所定軌道とのずれを算出し、目標位置に向けて走行する。
このようにカメラ等のセンサによって外部環境を検知しながら自己位置認識および移動方向制御を行う走行制御方法を開示した文献として例えば次の特許文献1から特許文献3がある。
【0004】
また、所定軌道への追従を単純に実現する方法としては、床面にラインを引いておき、このラインに沿ってロボットを走行させるという考え方もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開20005-293154号公報
【特許文献2】特開2005-306178号公報
【特許文献3】特開2009-070357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、外部環境を検知しながら自己位置認識および移動方向制御を行う走行制御方法を実行するためには、カメラやレーザー測距装置等のセンサをロボットに搭載しておく必要がある。自己位置を正確に推定するためには例えば複数の高精度センサが必要になってくるが、このようなセンサを搭載するとなるとコスト高に繋がる。また、自己位置推定には、あらかじめロボット自身が環境マップを保持している必要がある。そのため、環境の変化があるたびにロボットの環境マップを更新設定し直さなければならないなど、環境変化に対してロバスト性が低くなってしまう。さらに、自己位置の推定値を算出した上に、自己位置の推定値と所定軌道とのずれを算出しなければならないなど、計算量がどうしても多くなってしまうので、非常に複雑な演算処理が必要になってくる。
【0007】
床面に引いたラインにロボットを追従させる場合でも、やはり、ロボットにカメラや磁気センサ等のセンサを搭載しなければならない。また、床面にラインを引かなければならないので、見栄えが良くないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の走行制御システムは、
走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御システムであって、
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪を有し、これら車輪にトルク指令を与えることで走行する走行車両と、
前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定された摩擦路面と、を備え、
前記走行車両は、前記左右の車輪に対し同じトルク指令値を与えながら走行する
ことを特徴とする。
【0009】
本発明では、
前記走行車両は、自律的に倒立制御を行う移動ロボットである
ことが好ましい。
【0010】
本発明では、
前記移動ロボットの車体は、搭乗者が座れる椅子型である
ことが好ましい。
【0011】
本発明では、
前記走行車両は、被介護者を乗せて走行する移動支援車両であり、
前記移動支援車両はさらに大きな福祉車両に乗り込むものであって、
前記福祉車両は、乗降口から外部に展開可能なスロープ装置を有し、
前記摩擦路面は前記スロープ装置および前記福祉車両のフロア面に設けられている
ことが好ましい。
【0012】
本発明の摩擦路面は、
走行車両が軌道に沿って走行するための路面であって、
前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定されている
ことを特徴とする。
【0013】
本発明の車両の走行制御方法は、走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪を有し、これら車輪にトルク指令を与えることで走行する走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御方法であって、
前記走行車両は、前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定された摩擦路面上を走行するに際し、
前記左右の車輪に対し同じトルク指令値を与えながら走行する
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】移動ロボットが福祉車両に乗り込む様子を示す図。
【図2】福祉車両を斜め後方から示す図。
【図3】移動ロボット200が所定の固定位置に達するための軌道Lを示した図。
【図4】領域ごとに段階的に摩擦係数が変化するようにした例を示す図。
【図5】摩擦係数が非線形に徐々に変化するようにした例を示す図。
【図6】摩擦係数が線形に変化するようにした例を示す図。
【図7】カーブする軌道の例を示す図。
【図8】移動ロボットのシステム構成を示すブロック図。
【図9】移動ロボットが路面上の軌道に自動的に追従する様子を示した図。
【図10】車両の変形例として電動車椅子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明に係る第1実施形態について説明する。
図1は、移動ロボットが福祉車両に乗り込む様子を示す図である。
図2は、福祉車両を斜め後方から示す図である。
【0016】
福祉車両100は、身体が不自由な人でも乗り込みやすく、かつ、車内でも安定して固定できる機構を備えた車である。そのため、福祉車両100は、いわゆるハッチバック式であって、車両後方部にリアウインドーと一体に上へ開く大型の開閉ドア110を備えている。
さらに、福祉車両100は、移動ロボット200が走行するためのスロープ装置120を有する。
【0017】
このスロープ装置120は、例えば折り畳み式であり、開閉ドア110が開いたときに乗降口111から外部に向けて展開できるようになっている。そして、移動ロボット200は、このスロープ装置120の路面を所定軌道Lに沿って走行することでスムースに福祉車両100に乗り降りできる。
図3は、移動ロボット200が福祉車両100に乗り込み、さらに、所定の固定位置に達するための軌道Lを示した図である。
福祉車両100のフロア130には、図示しない連結手段が設けられており、移動ロボット200が所定位置に達したところで、前記連結手段(不図示)によって移動ロボット200はフロア130に連結されて固定される。
なお、移動ロボット200と福祉車両100とをしっかり連結するためには、移動ロボット200と連結手段との相対位置が正しく合っていなければならない。
【0018】
このような福祉車両としては、たとえばウェルキャブ(登録商標)が知られている。
【0019】
本実施形態では、スロープ装置120および福祉車両100のフロア130には、移動ロボット200が所定軌道Lに沿って走行するように案内する案内手段が設けられている。
案内手段は、路面上の摩擦係数の設定によって構成される。すなわち、予め決められた軌道Lに対し、軌道Lから離間するに従って摩擦係数μが小さくなるように設定されている。言い換えると、軌道Lに対して垂直方向に離間する距離が大きくなるにつれて摩擦係数μが小さくなるように設定されている。
【0020】
図4、図5、図6は、スロープ装置120の路面上における摩擦係数μの分布を示した図である。
図4は、領域ごとに段階的に摩擦係数が変化するようにした例である。
図5は、摩擦係数が非線形に徐々に変化するようにした例である。
図6は、摩擦係数が線形に変化するようにした例である。
本実施形態では、移動ロボット200がスロープ装置120の中央をほぼ直進するように軌道Lを設定している。
したがって、スロープ装置120の中心線に対応する領域が最も高い摩擦係数μに設定され、左右の両端に向かうにしたがって摩擦係数μが小さくなるようになっている。
【0021】
ここで、移動ロボット200は、スロープ装置120を上って福祉車両100のフロア130に入ると、図7に示すように、所定の連結位置に向かうための軌道Lはカーブする。このカーブ領域Cでも、軌道Lから離間するに従って摩擦係数μが小さくなるようにフロア面上に摩擦係数μの分布が設けられている。
【0022】
路面上の摩擦係数μを変化させるにあたっては、路面上に微小な凹凸を形成し、摩擦係数が高い領域には多くの凹凸を配し、摩擦係数が小さい領域には少ない凹凸を配するようにしてもよい。
または、摩擦係数に上記分布ができるように路面上を複数の塗料(例えば防滑塗料)でコーティングしてもよい。
【0023】
次に、移動ロボット200について説明する。
移動ロボット200は、車体210と、左右一対の同軸車輪220R、220Lと、を有し、いわゆる倒立振り子制御によって自律的に安定性を保ちながら進行する。
車体210は、被介護者が座れるように椅子型形状である。
一対の車輪220R、220Lは、車体210の走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置されるとともに回転自在に車体210に支持されている。
また、車体210には、操作レバー211(図8参照)が取り付けられており、この操作レバー211を操作することで任意の方向に移動ロボットを走行させることができる。
例えば、操作レバー211を前後方向へ傾斜させると移動ロボット200の前進又は後退移動が実行され、操作レバー211を左右方向へ傾斜させると、移動ロボット200の旋回移動が実行される。
【0024】
図8は、移動ロボットのシステム構成を示すブロック図である。
移動ロボット200は、角度検出センサ231と、姿勢センサユニット232と、一対の駆動回路233R、233Lと、一対の駆動ユニット234R、234Lと、一対の車輪速度センサ235R、235Lと、制御装置236と、を備えている。
【0025】
角度検出センサ231は、操作レバー211の回動軸に取り付けられている。角度検出センサ231としては、例えば、ポテンショメータやバリコン構造のセンサ等を適用することができる。角度検出センサ231は、搭乗者または介護者によって旋回したいと思う所望の方向へ操作レバー211が回動されたとき、その操作量及び操作方向を検出する。操作レバー211が操作されると、角度検出センサ231は、その操作量及び操作方向に応じた操作信号を制御装置236に出力する。
【0026】
姿勢センサユニット232は、車体210に配設されており、移動ロボット200の走行時における車体210のピッチ角度、ピッチ角速度、加速度等を検出する。姿勢センサユニット232は、例えば、ジャイロセンサ、加速度センサ等から構成されている。
【0027】
左右の車輪速度センサ235R、235Lは、左右の車輪220R、220Lにそれぞれ配設されており、各車輪220R、220Lの車輪速度をそれぞれ検出する。車輪速度センサ235R、235Lは、検出した各車輪220R、220Lの車輪速度を、制御装置236に出力する。
【0028】
一対の駆動回路233R、233Lは、車体210に内蔵されており、左右の車輪駆動ユニット234R、234Lを夫々駆動する。
【0029】
制御装置236は、駆動回路233R、233Lを介して車輪駆動ユニット234R、234Lを駆動制御する。
制御装置236は、制御処理、演算処理等を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される制御プログラム、演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、処理データ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を有し、走行制御部237を構成している。
【0030】
走行制御部237は、姿勢センサユニット232によって検出された車体210のピッチ角度およびピッチ角速度等に基づいて、同軸二輪車である移動ロボット200がバランスを保ちながら移動するように各車輪駆動ユニット234R、234Lを駆動制御する。
このとき、走行制御部237は、操作レバー211で指示された速度で移動するように車輪駆動ユニット234R、234Lに回転トルク指令を与える。これにより、所望の速度で移動ロボット200が走行する。
また、移動ロボット200を旋回させるときには、左右の車輪駆動ユニット234R、234Lに異なる大きさの回転トルク指令を与える。これにより、左右の車輪220R、220Lに回転差を生じ、移動ロボット200が旋回する。
【0031】
次に、移動ロボット200の動作について説明する。
特に、左右の車輪220R、220Lに与えるトルク指令と路面摩擦とによって旋回加速度が決定される運動制御メカニズムについて説明する。
車輪の運動方程式は、次のように表わされる。
右の車輪220Rの運動方程式は、式(1)のように表わされる
【0032】
【数1】
【0033】
同様に、左の車輪220Lの運動方程式は、式(2)のように表わされる。
【0034】
【数2】
【0035】
Jr、Jlは、車輪220R、220Lの慣性である。
ここでは、左右の車輪220R、220Lの慣性は、等しいものとする。
すなわち、J=Jr=Jlである。
【0036】
また、θ^(・・)は、車輪220R、220Lの角加速度を表す。
θr^(・・)は、右車輪220Rの角加速度であり、θl^(・・)は左車輪220Lの角加速度である。
τcmdは、トルク指令値である。
τdisは、外乱トルクである。
【0037】
また、右車輪220Rの角速度をθr^(・)で表わし、左車輪220Lの角速度をθl^(・)で表わすと、移動ロボット200の並進速度vおよび旋回速度ωはそれぞれ次のように表わされる。
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
Rは車輪半径であり、dは車軸の中心点から左右の車輪220R、220Lまでの距離である。
なお、右車輪220Rが左車輪220Lよりも速く回転して、上方から見たときに移動ロボット200が反時計回りに旋回する場合を正の旋回方向としている。
【0041】
ここで、以後の説明をわかりやすく簡単化するために、外乱トルクτdisは路面からの摩擦のみであるとする。
すなわち、
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】
【0044】
とする。
μは、路面からの摩擦である。
μrは、右車輪220Rに作用する摩擦係数であり、μlは、左車輪220Rに作用する摩擦係数である。
また、Mrは右車輪220Rにかかる荷重であり、Mlは左車輪220Lにかかる荷重であり、左右の車輪の荷重分布は、Mr=Mlであるとする。
【0045】
ここで、旋回加速度ω^(・)を考えると次のようになる。
【0046】
【数7】
【0047】
式(7)に、式(1)および式(2)を代入すると、
【0048】
【数8】
【0049】
である。
ここで、Jr=Jlより、
【0050】
【数9】
【0051】
となる。
したがって、旋回加速度ω^(・)は、次のようになる。
【0052】
【数10】
【0053】
また、式(5)、式(6)およびMr=Mlより、旋回加速度ω^(・)は、次のよう表わされる。
【0054】
【数11】
【0055】
次に、上記の路面構成によって移動ロボット200が軌道Lを通って所定の連結位置に移動する動作について説明する。
図9は、移動ロボット200が路面上の軌道に自動的に追従する様子を示した図である。
本実施形態のポイントは、移動ロボット自身が軌道に追従するための特別な制御を実行しなくても、路面上の摩擦係数の設定によって自動的に移動ロボット200が軌道に追従する点にある。
具体的には、移動ロボット200は、左右の両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与えるだけである。
【0056】
左右の両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与える場合、搭乗者または介護者が操作レバー211をただ前に倒してまっすぐに直進する指令だけを与えればよい。
または、直進指示用のボタン等を別途設けておき、この直進指示のボタンを押すようにしてもよい。
【0057】
式(11)において、左右の両車輪に対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与えると、旋回加速度ω^(・)は、次のようになる。
【0058】
【数12】
【0059】
このように、左右の車輪220R、220Lがそれぞれ接する路面の摩擦係数の差(μl−μr)によって旋回加速度が生じ、これによって移動ロボット200は自動的に軌道Lに追従する。
左右の両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与えることによって軌道Lに追従できる動作メカニズムを図9を参照して説明する。
【0060】
図9に示すように移動ロボット200がスロープ装置120を走行するとする。
このとき、左右の両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与え、常に、並進速度vはゼロより大きいものとする。
図9において、最初(P1)、移動ロボット200はスロープ装置120に対し、軌道Lから逸れて、やや右寄りから進入するとする。
このP1では、まだスロープ装置120の路面に乗っていないので、左右の車輪220R、220Lが接する路面摩擦係数は同じである(μl=μr)。
この場合、
【0061】
【数3】
【0062】
となる。
旋回加速度がゼロであるので、移動ロボット200は直進する。
そして、このように直進すると、ポイントP1から進んだポイントP2では、左車輪220Lがスロープ装置120の中央側に位置し、右車輪220Rはスロープ装置120の右端側に位置することになる。
すると、左車輪220Lが接する路面の摩擦係数μlと右車輪220Rが接する路面の摩擦係数μrとの関係は、μl>μrとなる。
この場合、
【0063】
【数14】
【0064】
となる。
したがって、移動ロボット200は、反時計回りに旋回することになる。
すると、移動ロボット200は、右寄りによっていたのが中央に向かうようになる(ポイントP2からポイントP3)。
【0065】
この状態で反時計回りの旋回が進むと、右車輪220Rはスロープ装置120の中央に寄ってくる一方、左車輪220Lは次第にスロープ装置120の左端側に寄ってしまう。
そして、ポイントP3においては、左車輪220Lが接する路面の摩擦係数μlと右車輪220Rが接する路面の摩擦係数μrとの関係は、μl<μrとなる。
この場合、
【0066】
【数15】
【0067】
となる。
したがって、移動ロボット200は、反時計回りの旋回から時計回りの旋回に移行していく(ポイントP3からポイントP4)。
【0068】
すると、左に寄りすぎていた左車輪220Lは中央に向かい、中央に寄りすぎていた右車輪220Rは右に寄っていく。
そして、このようにして、左右の車輪220R、220Rに作用する摩擦係数の大小関係が交互に入れ替わり、旋回加速度が徐々にゼロに近づき、旋回速度ωも徐々にゼロへと収束していく。
このように旋回速度ωがゼロに収束していく途中の点をポイントP4と表わすと、旋回速度の変化は次のようになる。
【0069】
【数16】
【0070】
そして、ポイントP5において、移動ロボット200がスロープ装置の左右中央に位置し、左右の車輪に作用する摩擦係数が等しくなる(μl=μr)。
このとき、旋回加速度は、
【0071】
【数17】
【0072】
となる。
旋回加速度がゼロになるので、旋回速度ωもゼロになり、移動ロボット200は並進のみを行う。
その後、移動ロボット200は、スロープ装置120の中央を所定軌道Lに沿って走行する。
【0073】
スロープ装置120の後、福祉車両100のフロア130に出るところ、福祉車両100のフロア130にも軌道Lに沿って摩擦係数の分布が形成されているので、移動ロボット200は軌道Lに沿って進む。
途中、軌道Lにはカーブ(C)があるが、上記の説明でわかるように、移動ロボット200は左右の車輪220R、220Lに作用する摩擦係数が同じになるように旋回動作を行う結果、カーブ領域Cでも軌道に沿って進行する。
そして、軌道Lに沿って進み、移動ロボット200は、最終的に所定の連結位置に達する。
連結位置に達すると、自動的に、もしくは手動により、移動ロボット200は連結手段にてフロア130に固定される。
【0074】
(1)本実施形態によれば、移動ロボット自体に自己位置認識用のカメラやセンサ等を設けなくてもよく、また、これらセンサに基づいて複雑な制御をしなくても、移動ロボットを所定の軌道Lに沿って走行させることができる。
さらには、移動ロボット自体は両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルク指令を与えればよいだけである。
したがって、移動ロボット自体の構造を特別に改良する必要はない。
このように、移動ロボット自体の構造を特別に改良する必要はないので、同軸二輪駆動の走行車であれば市販されているいかなるものであっても利用可能である。
また、操縦者(搭乗者または介護者)は、移動ロボットに対して直進指示だけを与えればよいので、操縦に特別な技量は必要なく、簡単な操作なので安全性も高い。
【0075】
(2)本実施形態では、スロープ装置やフロアの路面に摩擦係数の分布を設けておくだけであるので、例えば路面にラインを引くといった方法に比べて見た目が良い。
【0076】
(3)また、本実施形態ではスロープ装置やフロアの路面に摩擦係数の分布を設けておくだけであるので、環境変化に対するロバスト性が高い。
例えば、移動ロボット自体がカメラで撮像した情報をもとに自己位置推定を行うような場合、車両の内部を改造した場合には移動ロボットの内部地図も更新しなければならず、手間が多くて複雑である。
この点、本実施形態では、周囲の環境が変わっても移動ロボットの走行制御には何ら影響しない。
また、仮に軌道Lを変更する場合でも、軌道Lを変更するように路面の摩擦係数分布だけを変えればよく、移動ロボットの制御システム自体を変更する必要は全くない。
【0077】
(4)軌道Lに沿って自動的に移動ロボットが所定の連結位置に確実に移動するので、搭乗者や介護者が移動ロボットの位置を微調整する必要がなく、楽であり、非常に使いやすい。
【0078】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
上記実施形態では、倒立制御を行う同軸二輪の移動ロボットの場合を例示したが、二輪駆動の車両であれば本発明は適用できるので、例えば図10に示すように、補助輪を有する電動車椅子300のようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0079】
100…福祉車両、110…開閉ドア、111…乗降口、120…スロープ装置、130…フロア、200…移動ロボット、210…車体、211…操作レバー、220L…左車輪、220R…同軸車輪、231…角度検出センサ、232…姿勢センサユニット、233R、233L…駆動回路、234R、234L…駆動ユニット、235R、235L…車輪速度センサ、236…制御装置、237…走行制御部、300…電動車椅子、C…カーブ領域、L…軌道。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御システムに関する。特に、二輪駆動の車両を所望の軌道に追従させる走行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、介護に用いられる自律移動型ロボットが開発されており、例えば、車椅子型の移動ロボットが知られている。そして、被介護者を自律移動ロボットに乗せた状態で移動ロボットごと福祉車両等に移動させる場合がある。このような場合、一般には、介護者が移動ロボットを操作または誘導したり、実際に押したりすることで移動ロボットを福祉車両に移動させている。
しかしながら、介護者の負担を軽減したり、さらには安全性の向上を図るため、介護者によらず、自律移動ロボットを自動的に福祉車両に搭乗させることが望まれている。
【0003】
ここで、従来、移動ロボットを自律的に所定の軌道に沿って走行させる技術が知られている。
例えば、作業空間内に複数個のランドマークを設置するとともに移動ロボットにはカメラ等のセンサを設けておく。また、作業空間内に存在するランドマークの位置を地図情報として予め移動ロボットに記憶させておく。そして、移動ロボットは、ランドマークを観測し、ランドマークとの相対的な位置関係から自己推定を行う。移動ロボットは、自己位置の推定値と所定軌道とのずれを算出し、目標位置に向けて走行する。
このようにカメラ等のセンサによって外部環境を検知しながら自己位置認識および移動方向制御を行う走行制御方法を開示した文献として例えば次の特許文献1から特許文献3がある。
【0004】
また、所定軌道への追従を単純に実現する方法としては、床面にラインを引いておき、このラインに沿ってロボットを走行させるという考え方もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開20005-293154号公報
【特許文献2】特開2005-306178号公報
【特許文献3】特開2009-070357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、外部環境を検知しながら自己位置認識および移動方向制御を行う走行制御方法を実行するためには、カメラやレーザー測距装置等のセンサをロボットに搭載しておく必要がある。自己位置を正確に推定するためには例えば複数の高精度センサが必要になってくるが、このようなセンサを搭載するとなるとコスト高に繋がる。また、自己位置推定には、あらかじめロボット自身が環境マップを保持している必要がある。そのため、環境の変化があるたびにロボットの環境マップを更新設定し直さなければならないなど、環境変化に対してロバスト性が低くなってしまう。さらに、自己位置の推定値を算出した上に、自己位置の推定値と所定軌道とのずれを算出しなければならないなど、計算量がどうしても多くなってしまうので、非常に複雑な演算処理が必要になってくる。
【0007】
床面に引いたラインにロボットを追従させる場合でも、やはり、ロボットにカメラや磁気センサ等のセンサを搭載しなければならない。また、床面にラインを引かなければならないので、見栄えが良くないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の走行制御システムは、
走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御システムであって、
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪を有し、これら車輪にトルク指令を与えることで走行する走行車両と、
前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定された摩擦路面と、を備え、
前記走行車両は、前記左右の車輪に対し同じトルク指令値を与えながら走行する
ことを特徴とする。
【0009】
本発明では、
前記走行車両は、自律的に倒立制御を行う移動ロボットである
ことが好ましい。
【0010】
本発明では、
前記移動ロボットの車体は、搭乗者が座れる椅子型である
ことが好ましい。
【0011】
本発明では、
前記走行車両は、被介護者を乗せて走行する移動支援車両であり、
前記移動支援車両はさらに大きな福祉車両に乗り込むものであって、
前記福祉車両は、乗降口から外部に展開可能なスロープ装置を有し、
前記摩擦路面は前記スロープ装置および前記福祉車両のフロア面に設けられている
ことが好ましい。
【0012】
本発明の摩擦路面は、
走行車両が軌道に沿って走行するための路面であって、
前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定されている
ことを特徴とする。
【0013】
本発明の車両の走行制御方法は、走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪を有し、これら車輪にトルク指令を与えることで走行する走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御方法であって、
前記走行車両は、前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定された摩擦路面上を走行するに際し、
前記左右の車輪に対し同じトルク指令値を与えながら走行する
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】移動ロボットが福祉車両に乗り込む様子を示す図。
【図2】福祉車両を斜め後方から示す図。
【図3】移動ロボット200が所定の固定位置に達するための軌道Lを示した図。
【図4】領域ごとに段階的に摩擦係数が変化するようにした例を示す図。
【図5】摩擦係数が非線形に徐々に変化するようにした例を示す図。
【図6】摩擦係数が線形に変化するようにした例を示す図。
【図7】カーブする軌道の例を示す図。
【図8】移動ロボットのシステム構成を示すブロック図。
【図9】移動ロボットが路面上の軌道に自動的に追従する様子を示した図。
【図10】車両の変形例として電動車椅子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明に係る第1実施形態について説明する。
図1は、移動ロボットが福祉車両に乗り込む様子を示す図である。
図2は、福祉車両を斜め後方から示す図である。
【0016】
福祉車両100は、身体が不自由な人でも乗り込みやすく、かつ、車内でも安定して固定できる機構を備えた車である。そのため、福祉車両100は、いわゆるハッチバック式であって、車両後方部にリアウインドーと一体に上へ開く大型の開閉ドア110を備えている。
さらに、福祉車両100は、移動ロボット200が走行するためのスロープ装置120を有する。
【0017】
このスロープ装置120は、例えば折り畳み式であり、開閉ドア110が開いたときに乗降口111から外部に向けて展開できるようになっている。そして、移動ロボット200は、このスロープ装置120の路面を所定軌道Lに沿って走行することでスムースに福祉車両100に乗り降りできる。
図3は、移動ロボット200が福祉車両100に乗り込み、さらに、所定の固定位置に達するための軌道Lを示した図である。
福祉車両100のフロア130には、図示しない連結手段が設けられており、移動ロボット200が所定位置に達したところで、前記連結手段(不図示)によって移動ロボット200はフロア130に連結されて固定される。
なお、移動ロボット200と福祉車両100とをしっかり連結するためには、移動ロボット200と連結手段との相対位置が正しく合っていなければならない。
【0018】
このような福祉車両としては、たとえばウェルキャブ(登録商標)が知られている。
【0019】
本実施形態では、スロープ装置120および福祉車両100のフロア130には、移動ロボット200が所定軌道Lに沿って走行するように案内する案内手段が設けられている。
案内手段は、路面上の摩擦係数の設定によって構成される。すなわち、予め決められた軌道Lに対し、軌道Lから離間するに従って摩擦係数μが小さくなるように設定されている。言い換えると、軌道Lに対して垂直方向に離間する距離が大きくなるにつれて摩擦係数μが小さくなるように設定されている。
【0020】
図4、図5、図6は、スロープ装置120の路面上における摩擦係数μの分布を示した図である。
図4は、領域ごとに段階的に摩擦係数が変化するようにした例である。
図5は、摩擦係数が非線形に徐々に変化するようにした例である。
図6は、摩擦係数が線形に変化するようにした例である。
本実施形態では、移動ロボット200がスロープ装置120の中央をほぼ直進するように軌道Lを設定している。
したがって、スロープ装置120の中心線に対応する領域が最も高い摩擦係数μに設定され、左右の両端に向かうにしたがって摩擦係数μが小さくなるようになっている。
【0021】
ここで、移動ロボット200は、スロープ装置120を上って福祉車両100のフロア130に入ると、図7に示すように、所定の連結位置に向かうための軌道Lはカーブする。このカーブ領域Cでも、軌道Lから離間するに従って摩擦係数μが小さくなるようにフロア面上に摩擦係数μの分布が設けられている。
【0022】
路面上の摩擦係数μを変化させるにあたっては、路面上に微小な凹凸を形成し、摩擦係数が高い領域には多くの凹凸を配し、摩擦係数が小さい領域には少ない凹凸を配するようにしてもよい。
または、摩擦係数に上記分布ができるように路面上を複数の塗料(例えば防滑塗料)でコーティングしてもよい。
【0023】
次に、移動ロボット200について説明する。
移動ロボット200は、車体210と、左右一対の同軸車輪220R、220Lと、を有し、いわゆる倒立振り子制御によって自律的に安定性を保ちながら進行する。
車体210は、被介護者が座れるように椅子型形状である。
一対の車輪220R、220Lは、車体210の走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置されるとともに回転自在に車体210に支持されている。
また、車体210には、操作レバー211(図8参照)が取り付けられており、この操作レバー211を操作することで任意の方向に移動ロボットを走行させることができる。
例えば、操作レバー211を前後方向へ傾斜させると移動ロボット200の前進又は後退移動が実行され、操作レバー211を左右方向へ傾斜させると、移動ロボット200の旋回移動が実行される。
【0024】
図8は、移動ロボットのシステム構成を示すブロック図である。
移動ロボット200は、角度検出センサ231と、姿勢センサユニット232と、一対の駆動回路233R、233Lと、一対の駆動ユニット234R、234Lと、一対の車輪速度センサ235R、235Lと、制御装置236と、を備えている。
【0025】
角度検出センサ231は、操作レバー211の回動軸に取り付けられている。角度検出センサ231としては、例えば、ポテンショメータやバリコン構造のセンサ等を適用することができる。角度検出センサ231は、搭乗者または介護者によって旋回したいと思う所望の方向へ操作レバー211が回動されたとき、その操作量及び操作方向を検出する。操作レバー211が操作されると、角度検出センサ231は、その操作量及び操作方向に応じた操作信号を制御装置236に出力する。
【0026】
姿勢センサユニット232は、車体210に配設されており、移動ロボット200の走行時における車体210のピッチ角度、ピッチ角速度、加速度等を検出する。姿勢センサユニット232は、例えば、ジャイロセンサ、加速度センサ等から構成されている。
【0027】
左右の車輪速度センサ235R、235Lは、左右の車輪220R、220Lにそれぞれ配設されており、各車輪220R、220Lの車輪速度をそれぞれ検出する。車輪速度センサ235R、235Lは、検出した各車輪220R、220Lの車輪速度を、制御装置236に出力する。
【0028】
一対の駆動回路233R、233Lは、車体210に内蔵されており、左右の車輪駆動ユニット234R、234Lを夫々駆動する。
【0029】
制御装置236は、駆動回路233R、233Lを介して車輪駆動ユニット234R、234Lを駆動制御する。
制御装置236は、制御処理、演算処理等を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される制御プログラム、演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、処理データ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を有し、走行制御部237を構成している。
【0030】
走行制御部237は、姿勢センサユニット232によって検出された車体210のピッチ角度およびピッチ角速度等に基づいて、同軸二輪車である移動ロボット200がバランスを保ちながら移動するように各車輪駆動ユニット234R、234Lを駆動制御する。
このとき、走行制御部237は、操作レバー211で指示された速度で移動するように車輪駆動ユニット234R、234Lに回転トルク指令を与える。これにより、所望の速度で移動ロボット200が走行する。
また、移動ロボット200を旋回させるときには、左右の車輪駆動ユニット234R、234Lに異なる大きさの回転トルク指令を与える。これにより、左右の車輪220R、220Lに回転差を生じ、移動ロボット200が旋回する。
【0031】
次に、移動ロボット200の動作について説明する。
特に、左右の車輪220R、220Lに与えるトルク指令と路面摩擦とによって旋回加速度が決定される運動制御メカニズムについて説明する。
車輪の運動方程式は、次のように表わされる。
右の車輪220Rの運動方程式は、式(1)のように表わされる
【0032】
【数1】
【0033】
同様に、左の車輪220Lの運動方程式は、式(2)のように表わされる。
【0034】
【数2】
【0035】
Jr、Jlは、車輪220R、220Lの慣性である。
ここでは、左右の車輪220R、220Lの慣性は、等しいものとする。
すなわち、J=Jr=Jlである。
【0036】
また、θ^(・・)は、車輪220R、220Lの角加速度を表す。
θr^(・・)は、右車輪220Rの角加速度であり、θl^(・・)は左車輪220Lの角加速度である。
τcmdは、トルク指令値である。
τdisは、外乱トルクである。
【0037】
また、右車輪220Rの角速度をθr^(・)で表わし、左車輪220Lの角速度をθl^(・)で表わすと、移動ロボット200の並進速度vおよび旋回速度ωはそれぞれ次のように表わされる。
【0038】
【数3】
【0039】
【数4】
【0040】
Rは車輪半径であり、dは車軸の中心点から左右の車輪220R、220Lまでの距離である。
なお、右車輪220Rが左車輪220Lよりも速く回転して、上方から見たときに移動ロボット200が反時計回りに旋回する場合を正の旋回方向としている。
【0041】
ここで、以後の説明をわかりやすく簡単化するために、外乱トルクτdisは路面からの摩擦のみであるとする。
すなわち、
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】
【0044】
とする。
μは、路面からの摩擦である。
μrは、右車輪220Rに作用する摩擦係数であり、μlは、左車輪220Rに作用する摩擦係数である。
また、Mrは右車輪220Rにかかる荷重であり、Mlは左車輪220Lにかかる荷重であり、左右の車輪の荷重分布は、Mr=Mlであるとする。
【0045】
ここで、旋回加速度ω^(・)を考えると次のようになる。
【0046】
【数7】
【0047】
式(7)に、式(1)および式(2)を代入すると、
【0048】
【数8】
【0049】
である。
ここで、Jr=Jlより、
【0050】
【数9】
【0051】
となる。
したがって、旋回加速度ω^(・)は、次のようになる。
【0052】
【数10】
【0053】
また、式(5)、式(6)およびMr=Mlより、旋回加速度ω^(・)は、次のよう表わされる。
【0054】
【数11】
【0055】
次に、上記の路面構成によって移動ロボット200が軌道Lを通って所定の連結位置に移動する動作について説明する。
図9は、移動ロボット200が路面上の軌道に自動的に追従する様子を示した図である。
本実施形態のポイントは、移動ロボット自身が軌道に追従するための特別な制御を実行しなくても、路面上の摩擦係数の設定によって自動的に移動ロボット200が軌道に追従する点にある。
具体的には、移動ロボット200は、左右の両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与えるだけである。
【0056】
左右の両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与える場合、搭乗者または介護者が操作レバー211をただ前に倒してまっすぐに直進する指令だけを与えればよい。
または、直進指示用のボタン等を別途設けておき、この直進指示のボタンを押すようにしてもよい。
【0057】
式(11)において、左右の両車輪に対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与えると、旋回加速度ω^(・)は、次のようになる。
【0058】
【数12】
【0059】
このように、左右の車輪220R、220Lがそれぞれ接する路面の摩擦係数の差(μl−μr)によって旋回加速度が生じ、これによって移動ロボット200は自動的に軌道Lに追従する。
左右の両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与えることによって軌道Lに追従できる動作メカニズムを図9を参照して説明する。
【0060】
図9に示すように移動ロボット200がスロープ装置120を走行するとする。
このとき、左右の両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルクの指令値(τcmdr=τcmdl)を与え、常に、並進速度vはゼロより大きいものとする。
図9において、最初(P1)、移動ロボット200はスロープ装置120に対し、軌道Lから逸れて、やや右寄りから進入するとする。
このP1では、まだスロープ装置120の路面に乗っていないので、左右の車輪220R、220Lが接する路面摩擦係数は同じである(μl=μr)。
この場合、
【0061】
【数3】
【0062】
となる。
旋回加速度がゼロであるので、移動ロボット200は直進する。
そして、このように直進すると、ポイントP1から進んだポイントP2では、左車輪220Lがスロープ装置120の中央側に位置し、右車輪220Rはスロープ装置120の右端側に位置することになる。
すると、左車輪220Lが接する路面の摩擦係数μlと右車輪220Rが接する路面の摩擦係数μrとの関係は、μl>μrとなる。
この場合、
【0063】
【数14】
【0064】
となる。
したがって、移動ロボット200は、反時計回りに旋回することになる。
すると、移動ロボット200は、右寄りによっていたのが中央に向かうようになる(ポイントP2からポイントP3)。
【0065】
この状態で反時計回りの旋回が進むと、右車輪220Rはスロープ装置120の中央に寄ってくる一方、左車輪220Lは次第にスロープ装置120の左端側に寄ってしまう。
そして、ポイントP3においては、左車輪220Lが接する路面の摩擦係数μlと右車輪220Rが接する路面の摩擦係数μrとの関係は、μl<μrとなる。
この場合、
【0066】
【数15】
【0067】
となる。
したがって、移動ロボット200は、反時計回りの旋回から時計回りの旋回に移行していく(ポイントP3からポイントP4)。
【0068】
すると、左に寄りすぎていた左車輪220Lは中央に向かい、中央に寄りすぎていた右車輪220Rは右に寄っていく。
そして、このようにして、左右の車輪220R、220Rに作用する摩擦係数の大小関係が交互に入れ替わり、旋回加速度が徐々にゼロに近づき、旋回速度ωも徐々にゼロへと収束していく。
このように旋回速度ωがゼロに収束していく途中の点をポイントP4と表わすと、旋回速度の変化は次のようになる。
【0069】
【数16】
【0070】
そして、ポイントP5において、移動ロボット200がスロープ装置の左右中央に位置し、左右の車輪に作用する摩擦係数が等しくなる(μl=μr)。
このとき、旋回加速度は、
【0071】
【数17】
【0072】
となる。
旋回加速度がゼロになるので、旋回速度ωもゼロになり、移動ロボット200は並進のみを行う。
その後、移動ロボット200は、スロープ装置120の中央を所定軌道Lに沿って走行する。
【0073】
スロープ装置120の後、福祉車両100のフロア130に出るところ、福祉車両100のフロア130にも軌道Lに沿って摩擦係数の分布が形成されているので、移動ロボット200は軌道Lに沿って進む。
途中、軌道Lにはカーブ(C)があるが、上記の説明でわかるように、移動ロボット200は左右の車輪220R、220Lに作用する摩擦係数が同じになるように旋回動作を行う結果、カーブ領域Cでも軌道に沿って進行する。
そして、軌道Lに沿って進み、移動ロボット200は、最終的に所定の連結位置に達する。
連結位置に達すると、自動的に、もしくは手動により、移動ロボット200は連結手段にてフロア130に固定される。
【0074】
(1)本実施形態によれば、移動ロボット自体に自己位置認識用のカメラやセンサ等を設けなくてもよく、また、これらセンサに基づいて複雑な制御をしなくても、移動ロボットを所定の軌道Lに沿って走行させることができる。
さらには、移動ロボット自体は両車輪220R、220Lに対して同じ大きさのトルク指令を与えればよいだけである。
したがって、移動ロボット自体の構造を特別に改良する必要はない。
このように、移動ロボット自体の構造を特別に改良する必要はないので、同軸二輪駆動の走行車であれば市販されているいかなるものであっても利用可能である。
また、操縦者(搭乗者または介護者)は、移動ロボットに対して直進指示だけを与えればよいので、操縦に特別な技量は必要なく、簡単な操作なので安全性も高い。
【0075】
(2)本実施形態では、スロープ装置やフロアの路面に摩擦係数の分布を設けておくだけであるので、例えば路面にラインを引くといった方法に比べて見た目が良い。
【0076】
(3)また、本実施形態ではスロープ装置やフロアの路面に摩擦係数の分布を設けておくだけであるので、環境変化に対するロバスト性が高い。
例えば、移動ロボット自体がカメラで撮像した情報をもとに自己位置推定を行うような場合、車両の内部を改造した場合には移動ロボットの内部地図も更新しなければならず、手間が多くて複雑である。
この点、本実施形態では、周囲の環境が変わっても移動ロボットの走行制御には何ら影響しない。
また、仮に軌道Lを変更する場合でも、軌道Lを変更するように路面の摩擦係数分布だけを変えればよく、移動ロボットの制御システム自体を変更する必要は全くない。
【0077】
(4)軌道Lに沿って自動的に移動ロボットが所定の連結位置に確実に移動するので、搭乗者や介護者が移動ロボットの位置を微調整する必要がなく、楽であり、非常に使いやすい。
【0078】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
上記実施形態では、倒立制御を行う同軸二輪の移動ロボットの場合を例示したが、二輪駆動の車両であれば本発明は適用できるので、例えば図10に示すように、補助輪を有する電動車椅子300のようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0079】
100…福祉車両、110…開閉ドア、111…乗降口、120…スロープ装置、130…フロア、200…移動ロボット、210…車体、211…操作レバー、220L…左車輪、220R…同軸車輪、231…角度検出センサ、232…姿勢センサユニット、233R、233L…駆動回路、234R、234L…駆動ユニット、235R、235L…車輪速度センサ、236…制御装置、237…走行制御部、300…電動車椅子、C…カーブ領域、L…軌道。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御システムであって、
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪を有し、これら車輪にトルク指令を与えることで走行する走行車両と、
前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定された摩擦路面と、を備え、
前記走行車両は、前記左右の車輪に対し同じトルク指令値を与えながら走行する
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の走行制御システムにおいて、
前記走行車両は、自律的に倒立制御を行う移動ロボットである
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の走行制御システムにおいて、
前記移動ロボットの車体は、搭乗者が座れる椅子型である
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両の走行制御システムにおいて、
前記走行車両は、被介護者を乗せて走行する移動支援車両であり、
前記移動支援車両はさらに大きな福祉車両に乗り込むものであって、
前記福祉車両は、乗降口から外部に展開可能なスロープ装置を有し、
前記摩擦路面は前記スロープ装置および前記福祉車両のフロア面に設けられている
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項5】
走行車両が軌道に沿って走行するための路面であって、
前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定されている
ことを特徴とする摩擦路面。
【請求項6】
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪を有し、これら車輪にトルク指令を与えることで走行する走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御方法であって、
前記走行車両は、前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定された摩擦路面上を走行するに際し、
前記左右の車輪に対し同じトルク指令値を与えながら走行する
ことを特徴とする車両の走行制御方法。
【請求項1】
走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御システムであって、
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪を有し、これら車輪にトルク指令を与えることで走行する走行車両と、
前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定された摩擦路面と、を備え、
前記走行車両は、前記左右の車輪に対し同じトルク指令値を与えながら走行する
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の走行制御システムにおいて、
前記走行車両は、自律的に倒立制御を行う移動ロボットである
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の走行制御システムにおいて、
前記移動ロボットの車体は、搭乗者が座れる椅子型である
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両の走行制御システムにおいて、
前記走行車両は、被介護者を乗せて走行する移動支援車両であり、
前記移動支援車両はさらに大きな福祉車両に乗り込むものであって、
前記福祉車両は、乗降口から外部に展開可能なスロープ装置を有し、
前記摩擦路面は前記スロープ装置および前記福祉車両のフロア面に設けられている
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項5】
走行車両が軌道に沿って走行するための路面であって、
前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定されている
ことを特徴とする摩擦路面。
【請求項6】
走行方向と直交する方向の両側において同軸上に配置された左右一対の車輪を有し、これら車輪にトルク指令を与えることで走行する走行車両を軌道に沿って走行させる走行制御方法であって、
前記走行車両は、前記軌道から離れるに従って摩擦が小さくなるように摩擦係数の分布が設定された摩擦路面上を走行するに際し、
前記左右の車輪に対し同じトルク指令値を与えながら走行する
ことを特徴とする車両の走行制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−173453(P2011−173453A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37329(P2010−37329)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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