車両の運動制御装置
【課題】ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両に対してドリフトが低減でき、ロバスト性を向上させた車両運動制御装置を提供する。
【解決手段】車両の運動を制御する車両運動制御装置は、車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生機構9と、ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサ1,2,3,4,5と、フィードバック制御を行う制御手段7とからなる。制御手段7は、状態センサにより計測される車両の状態量に対する、走行中のタイヤのスリップにより発生する単位時間当たりの熱損失である散逸パワーの比を考慮してフィードバック制御を行う。
【解決手段】車両の運動を制御する車両運動制御装置は、車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生機構9と、ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサ1,2,3,4,5と、フィードバック制御を行う制御手段7とからなる。制御手段7は、状態センサにより計測される車両の状態量に対する、走行中のタイヤのスリップにより発生する単位時間当たりの熱損失である散逸パワーの比を考慮してフィードバック制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動制御方法に関し、特に、車両にヨーモーメントを発生させる機構を有する車両の運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の運動を制御する場合は、操縦性(ドライバのハンドル操作に車両がきびきびと応答良く動くようにさせる)を向上させるためヨーレートフィードバックが用いられ、さらにスピンを防止して安定した走行ができるように横すべり角フィードバックが用いられることが多い。参考として、ここ10年ほどの間に発表された車両運動制御関係の代表的な論文(非特許文献1〜4)について制御則をまとめて表1に示す。ヨーレートフィードバック、横すべり角フィードバックのいずれかあるいは両方が使われている。
【表1】
【0003】
上記で述べた車両の運動制御では、横すべり角はヨーレートや横加速度から演算した推定値が用いられており、しかも積分演算が主体になるためドリフトが生じやすく、このドリフトを低減しようとフィルタを用いると位相誤差が生じる。このため、現在でも、横すべり角フィードバックを行う場合はドリフト等のノイズを含んでいることを前提にしており、フィードバックゲインの大きさも制限されるため、大きな効果は期待できないのが実態である。
【0004】
このような横すべり角を制御に用いる場合の問題点を解決しようとするものに、特許文献1に開示の技術がある。これによれば、横すべり角推定時のドリフト項に対するロバスト性を高め、また単純に横すべり角フィードバックを行った場合に比べ位相を改善させることが可能となる。
【0005】
以下に、特許文献1の手法の概略を述べる。それまでの制御理論では制御対象の特性を運動方程式で記述していたが、特許文献1では制御対象の全入出力パワーの収支の式を用いている。具体的には、以下の式に示されるように、システムの各自由度毎の運動方程式をベクトル表示しこれに速度ベクトルを乗じたものである。入力パワーは制御入力だけでなく外乱入力も含まれ、また制御対象は受動要素だけとは限らないため、内部にエネルギ源がありこれが運動に影響を与えていれば外乱入力として扱う。
【数1】
ここで、d、e、q、u、v、z∈Rn、M∈Rn×nは正定対称な慣性マトリクス、nは制御対象の自由度である。qは一般化座標、uは制御入力、vは力入力の外乱、zは変位入力の外乱である。dはコリオリ力や遠心力やダンピング力など、eはポテンシャル力である。
【0006】
上記のシステムに対し、次の評価関数を考える。
【数2】
は制御装置が制御対象に加えるパワーである。rは重み係数である。
【0007】
次に、数2を最小化する制御u(t)を求める。最適制御の必要条件を求めるため次のスカラー関数Lを定義する。
【数3】
ここで、κは未定定数である。右辺の{ }内は、数1の左辺と同じで制御対象の全パワー収支であるからエネルギ保存則を満たし常にゼロである。
【0008】
従って数3で表されるLの積分を最小化する条件は、数2も最小化する。従って関数Lにqを変数とする変分原理を適用した次式はuが最適制御であるための必要条件を与える。Lはuに関して1次式であるから、∂L/∂uは意味がなく次式に制御に関するすべての情報が含まれる。
【数4】
【0009】
数4から制御則が次のように求まる。
【数5】
上式の第1行は外力vと慣性のq依存性に対する制御、第2行はコリオリ力や遠心力やダンピング力に対する制御、第3行はポテンシャル力とそのq依存性および外力zに対する制御、第4行は評価関数を低減させる制御でありそれぞれ意味が明確である。以上が、特許文献1の概要である。
【0010】
【特許文献1】特願2006−92243
【非特許文献1】井上他,制動力配分制御による車両運動性能の向上,自動車技術会学術講演会前刷集921 1992−5
【非特許文献2】山本他,限界付近での車両安定性向上のためのアクティブ制動力制御,自動車技術会論文集9730524
【非特許文献3】古川他,タイヤ横力モニタリングによる車両運動制御,自動車技術会論文集 9930397
【非特許文献4】小竹他,アクティブ操舵とDYCの協調制御に関する理論的解析,自動車技術会論文集 20024442
【非特許文献5】安部正人、自動車の運動と制御、山海堂、P10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の制御装置では、ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両に対する制御についてはなんら開示されていなかった。したがって、具体的な車両の運動制御について特許文献1の制御則を適用した装置の開発が望まれていた。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両に対してドリフトが低減でき、ロバスト性を向上させた運動制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による車両の運動制御装置は、
車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生機構と、
前記ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサと、
前記状態センサにより計測される車両の状態量に対する、走行中のタイヤのスリップにより発生する単位時間当たりの熱損失である散逸パワーの比を考慮したフィードバック制御を行う制御手段と、
を具備するものである。
【0014】
ここで、制御手段は、その制御則に次式の項が含まれる、すなわち、
である。
【0015】
また、車両の状態量は、ヨーレートであっても良い。
【0016】
さらに、車両の状態量は、横すべり速度又は横すべり角であっても良い。
【0017】
また、散逸パワーは、次式で近似されても良い、すなわち、
T1、dT2、dT3は次式で与えられる、すなわち、
但し、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数、δは前輪舵角、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッドである。
【0018】
また、ヨーモーメント発生機構は、車両の各輪の駆動力を独立に制御可能な駆動手段からなるものであっても良い。
【0019】
ここで、制御手段は、その制御則が次式で与えられても良い、すなわち、
但し、κは定数、riは重み係数、Vxは車両の前後速度、Vyは車両の横すべり速
但し、Fix、Fiyは車両に働く遠心力、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数、δは前輪舵角、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッドである。
【0020】
また、各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Fialaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられても良い、すなわち、
但し、
但し、Kはタイヤのコーナリングパワー、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数、βiは横すべり角である。
【0021】
さらに、各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられても良い、すなわち、
但し、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数、βiは横すべり角、C、Bは定数である。
【0022】
また、ヨーモーメント発生機構は、車両の各輪を独立に制御可能なアクティブサスペンション手段からなるものであっても良い。
【0023】
ここで、制御手段は、その制御則が次式で与えられても良い、すなわち、
れる、すなわち、
但し、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、μは路面とタイヤの摩擦係数、Wiは各輪の荷重、aは定数であり、Γi、Θiは次式で与えられる、すなわち、
但し、YiはY1が左前輪の、Y2が右前輪の、Y3が左後輪の、Y4が右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数である。
【0024】
また、各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられても良い、すなわち、
但し、βiは横すべり角、C、Bは定数である。
【0025】
さらに、ヨーモーメント発生機構は、車両のステアリング角度を制御可能なステアリング制御手段からなるものであっても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明の車両の運動制御装置には、ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両に対してドリフトが低減でき、ロバスト性も向上可能であるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。本発明の車両の運動制御装置では、特許文献1で提示されているシステムの最適制御方法の考え方を参考にして、新しく自動車の運動制御に関する評価関数を設定し独自の工夫を加えて従来の横すべり角フィードバックに替わる新しい制御則を導いたものである。以下、各輪の駆動力を独立に制御できる電気自動車やアクティブサスペンションの制御装置に適用した例について説明を行うが、他にも、自動車の各輪ブレーキ制御、左右駆動力配分制御、前後輪舵角制御等への適用も可能である。さらに、ヨーモーメント発生機構としては、車両のステアリング角度を制御可能なステアリング制御手段であっても良い。すなわち、ステアリング角度とタイヤの角度との関係を制御する最適制御則に本発明を適用しても良い。
【0028】
まず、ヨーモーメントを発生させる機構として、例えば電気自動車のように、車両の各輪の駆動力を独立に制御可能な駆動装置の制御則を求めるための車両のモデルを図1に示す。簡略化のためにロールとピッチを無視した車体の3自由度の車両モデルである。なお、図示例の車両モデルはローリング運動、ピッチ運動は考慮していないが、車両の重心に働く加速度により各輪に働く荷重移動は考慮してある。
【0029】
タイヤに発生する制駆動力Xi、横力Yiをそれぞれ図1のように定義すると、車両モデルの運動方程式は以下のようになる。
【数6】
【数7】
【数8】
ここで、mは車両質量、Izは車両のヨー慣性モーメント、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッド、Vxは車両の前後速度、Vyは車
【0030】
タイヤに働く横力Siは、Fiala理論(例えば非特許文献5参照)から導かれたタイヤ特性式を用いた。コーナリングパワーをK、タイヤの垂直加重をWi、タイヤの横滑り角をβiとすると、横力SiはFialaの理論を用いて次式で現される。
【数9】
ここで、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数であり、τiは次式で与えられる。
【数10】
ここで、Kはタイヤのコーナリングパワー、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数である。
【0031】
また、横すべり角βiに関しては、次式で与えられる。
【数11】
【0032】
次に、特許文献1の制御則を車両運動制御に適用したときの各要素を定義する。なお、車両運動においては、ポテンシャル力eは存在せず、また、力入力の外乱v、変位入力の外乱zはゼロとする。状態量qは次式で定義する。
【数12】
パワー収支式は次式になる。
【数13】
質量行列Mは次式で表す。
【数14】
本発明では、制駆動力左右差を利用した車両のヨーモーメント制御を想定しているため、制御入力は車両に入力するヨーモーメントMzとする。つまり、制御入力uは、次式である。
【数15】
【0033】
次に、車両に働く遠心力と、路面から生じるタイヤへの反力であるdは、次式で表される。
【数16】
ここで、Fix、Fiyは車両に働く遠心力であり、次式で表される。
【数17】
【数18】
【0034】
なお、diに関して、走行中のタイヤのスリップにより発生する単位時間当たりの熱損失である散逸パワーのみを考慮する場合、タイヤに発生する力にすべり速度を乗じたものが略熱損失となることから、車両に働く遠心力Fix,Fiyは省略することが可能である。
【0035】
以上で定義した要素を数1のパワー収支式に代入すると次式が得られる。
【数19】
【0036】
ここで、本発明の目的は、目標ヨーレートに対する追従性と安定性を同時に実現する制御則を導出することにある。そこで、制御性能の評価を与える数2の関数gは、次式を用いた。
【数20】
数である。上式の第一項は目標ヨーレートに対する追従性の評価、第二項は安定性の評価
数は次式となる。
【数21】
ここでr3は重み係数である。
【0037】
次に、汎関数Lを以下のように定義する。
【数22】
【0038】
Pに含まれる慣性力の項は消えるため、当初からPの中の慣性力は削除しておいても良い。なお通常の走行ではd1は小さいためゼロとしても良い。
【数23】
ここで、上式右辺第1項の偏微分項は、数16を用いて次のように表わされる。
【数24】
さらに、数9、数10を用いると、上式は以下のようになる。
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
以上により、数23の最適制御則は、センサ等により計測された車両状態量から計算できることになる。
【0039】
ここで、ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両の運動制御においては、数23の右辺のうち、少なくとも第一項が含まれていることが重要となる。すなわち、本発明の車両運動制御装置においては、実際の車両の状態量に対する散逸パワーの比を考慮した制御則を用いた制御を行うことがポイントとなる。より具体的には、その制御則に次式の項が含まれていることが好ましい。
【数30】
量である。
【0040】
なお、散逸パワーのみを考慮し、車両に働く遠心力Fix,Fiyを省略した場合には、散逸パワーの近似式は、数23の右辺第1項及び数16から、以下の式で与えられる。
【数31】
ここで、dT1、dT2、dT3は次式で与えられる。
【数32】
【0041】
上述の説明により入力ヨーモーメントMzが求まったので、この値を用いてそれぞれのホイールに入力する制駆動トルクを以下の手順により求める。ドライバのアクセル量により決定される制駆動トルクUiと、最適制御によって得られた入力ヨーモーメントMzを配分して決定される制駆動トルクTiを区別して考える。ドライバのアクセル量により決定される制駆動トルクUiは、アクセル量に比例した制駆動トルクを四輪に均等に分配されるとする。このUiとTiを足し合わせ、これを最終的な制駆動トルクとする。
【0042】
次に、Tiの配分方法を考える。δが比較的小さいとすれば、最適制御によって得たMzとTiとの間には、次式の関係がある。
【数33】
ここで、rはタイヤの半径である。また、制駆動トルクTiによっては加減速しないように設定するので、次式が成り立つ。
【数34】
従って、数33、数34より、次式を得る。
【数35】
【数36】
これで、左右輪のトルクのそれぞれの和が求まった。さらに、前後輪の配分を考える。ここでは、タイヤの摩擦余裕の概念を用いて前後輪の配分比を考える。タイヤの摩擦余裕は、次式を用いて求める。ここで、タイヤの摩擦余裕とは、輪荷重と横力が与えられた時に発生可能な制駆動動力の最大値を意味し、次式で表される。
【数37】
タイヤのグリップ力を有効に用いるため、タイヤの摩擦余裕に比例させて左輪右輪それぞれで前後輪に比例配分する。つまり、Tiは次式で得られる。
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
【0043】
このようにして求めた本発明の制御装置の効果を、シミュレーションにより確認する。車両モデルはピッチとロールを無視した車体3自由度、車輪4自由度の計7自由度の非線形モデル、タイヤモデルはブラッシュモデルを用いた。シミュレーションに用いる車両の諸元は、一般的な小型乗用車の値を用いた。代表的なパラメータは、車両質量m=1490Kg、ヨー慣性モーメントIz=2200Kgm2、前輪と車両重心の距離lf=1.2m、後輪と車両重心の距離lr=1.3m、トレッドlt=1.48m、タイヤ205/55R16 である。制御の重み係数は、r1=7×105、r2=5×102、r3=10とした。
【0044】
本発明の手法との効果を比較するため、従来の制御則Mpとして次式に示すようなヨーレートと横すべり速度のそれぞれの目標値との偏差のフィードバック制御(比例制御)を選んだ。
【数42】
ここで、K1、K2は、それぞれヨーレートと横すべり速度の目標値との偏差に対するゲインである。
【0045】
また、β=−Vy/Vxであり一般にVxはある定常速度を持ち変動幅も小さいため、βフィードバックとVyフィードバックは等価な制御とみなすことができる。非特許文献1〜4では横すべり角βフィードバックが用いられているが、以下ではこれと等価な横すべり速度Vyフィードバックを従来制御とした。それぞれのゲインは、車両のヨーレート応答が振動的になるなどの不具合が生じない範囲内で評価関数式である数21を最小化するゲインを用いた。具体的にはK1=8×104、K2=2500とした。
【0046】
シミュレーションにおいて、ヨーレート追従性を評価するために、初速度100[km/h]の直進から、大きさ2π/3、周波数0.5Hzの正弦波の操舵を一周期分与えた。この操舵は、車両にレーンチェンジの運動を強いるための操舵であり、高速走行時の障害物回避を想定している。
【0047】
次に、定数κの最適値を求める。シミュレーションによりκを変化させた場合の評価関数式である数21の値の変化を調べ、評価関数を最小にするκの値を求めた。結果はκ=3.9であった。
【0048】
以上で、条件がすべて定まったため、3sec間のシミュレーションを行った。この結果を図2〜4に示す。図2は制御入力を、図3はヨーレートの応答を、図4は横すべり角の応答をそれぞれ示す。評価関数の値は、評価関数式である数21の値をJ、その内訳としてヨーレートの偏差の二乗の項をJ1、横すべり速度の偏差の二乗の項をJ2、制御によるエネルギ消費の項をJ3とする(J=J1+J2+J3である)。
【0049】
この結果、本発明の数23の最適制御則を用いた制御では、J、J1、J2、J3はそれぞれ以下のようになった。
J=−2198、J1=1062、J2=1102、J3=−4362
【0050】
一方、従来の数42の比例制御則を用いた制御では、J、J1、J2、J3はそれぞれ以下のようになった。
J=−1906、J1=639、J2=1081、J3=−3626
【0051】
以上の結果から、本発明は、従来の比例制御と比べ、エネルギ回生の面で優れている。
【0052】
本発明の制御は、従来の横すべり速度の代りに数23の第1項を用いたものであり、共に安定性を向上させる役割を果たす項であるが、これを従来の横すべり速度フィードバックと比較すると本制御の優位性が明らかになる。
【0053】
本発明の制御則である数23の第1項と従来の制御則である数42の第2項の時間波形を比較すると図5のようになり、本発明の制御則は従来の制御則に比べ操舵に対する位相遅れが小さいことが明らかである。
【0054】
車両の運動制御では、一般的に横すべり速度(あるいは横すべり角)はヨーレートや横加速度から演算した推定値が用いられており、しかも積分演算が主体になるためドリフトが生じやすく、このドリフトを低減しようとフィルタを用いると位相誤差が生じる。このため、現在でも、横すべり角フィードバックを行う場合はドリフト等のノイズを含んでいることを前提にしており、フィードバックゲインの大きさも制限されるため、大きな効果は期待できないのが実態である。従って、横すべり速度にドリフト項が含まれる場合のロバスト性能は重要である。図6は横すべり速度Vyにドリフト項がある場合の評価関数Jを比較したものである。従来の制御則に比べ本発明の制御則は、横すべり速度信号にドリフト項が含まれる場合のロバスト性が大幅に向上していることが確認できる。
【0055】
以下に、本発明の制御装置を、ヨーモーメント発生機構として車両の各輪の駆動力を独立に制御可能な駆動装置を有する4輪独立制御式電気自動車に適用した例を具体的に説明する。図7は、4輪の制駆動力を独立に制御できるインホイールモータ式の電気自動車に適用した例を示したものである。ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサである、操舵角センサ1、ヨーレートセンサ2、車体の前後横加速度を検出するGセンサ3、アクセル開度センサ4、各車輪速センサ5、モータ駆動電流信号6がコントローラ7に入る。コントローラ7は、本発明の制御則に基づきフィードバック制御を行うものであり、コントローラ7の出力はインバータ8に入り、ここで調整された電流が各輪モータ9に入りタイヤが駆動される。電源には大容量電池あるいは燃料電池10が設置され、さらに急変する電流指令に対応するためキャパシタ11が置かれている。コントローラ7では数38〜数41で表された各輪トルク指令値と、アクセル開度信号からドライバが要求する駆動力を演算し、これを各輪のモータ駆動トルクとして割り振ったトルク指令値を合算して出力する。なお、コントローラ7の演算内容は、例えばFialaの理論から導かれた数9、数10から制御則を導いる。
【0056】
また、システムの車両搭載状況は図7と同じであるが、コントローラの演算内容は下記によっても良い。すなわち、上述の例ではFialaの理論から導かれた数9、数10から制御則を導いていたが、Magic Formulaによるタイヤ特性式から制御則を導いても良い。より具体的には、Magic Formulaによるタイヤ特性式から、タイヤが発生する横力を近似した関数は、以下の式で与えられる。
【数43】
ここで、C、Bは定数である。したがって、Magic Formulaによると、次式が成り立つ。
【数44】
【0057】
以上の通り、数25の代りに数44を用いることも可能である。なお、他の演算に関しては上述のFialaの場合と同様である。
【0058】
次に、本発明の車両運動制御装置において、ヨーモーメントを発生させる機構が車両の各輪を独立に制御可能なアクティブサスペンションである場合について説明する。既存のアクティブサスペンション機構は、乗り心地の向上や各タイヤの接地性向上を目的としている。本発明においては、このアクティブサスペンション機構を用いて、四輪の荷重を最適に協調制御することで運動性能を向上させた。アクティブサスペンション機構においては、制御入力を加えることで車両が振動するのは好ましくなく、また、サスペンションのストロークには限界がある。このような前提の基、制御則を求めるための車両のモデルを図8に示すよう規定し、制御入力について同図に示すような制約を与えた。なお、タイヤの荷重に対する横力の関係については、図9に示した。アクティブサスペンションに対する本発明の車両運動制御装置においては、タイヤ荷重を制御し、操縦性と安定性の向上を実現している。
【0059】
アクティブサスペンションに対する制御則は、上述の評価関数式である数21、汎関数である数22と同様な数式を用いると、その制御則、すなわち、アクティブサスペンションのアクチュエータによる荷重増加分(荷重移動)は次式で与えられる。
【数45】
れる。
【数46】
但し、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、μは路面とタイヤの摩擦係数、Wiは各輪の荷重、aは定数であり、Γi、Θiは次式で与えられる。
【数47】
但し、YiはY1が左前輪の、Y2が右前輪の、Y3が左後輪の、Y4が右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数である。
【0060】
なお、UAの右辺第一項の大括弧内は制御入力無しのときの前輪のタイヤ横力を意味し、右辺第三項の最初の小括弧は前輪の横速度を意味し、大括弧内は前輪のタイヤ横力のヨーレートによる偏微分を意味する。また、UBの右辺第一項の大括弧内は単位制御入力を加えたときの前輪のタイヤ横力を意味し、右辺第二項の大括弧内は単位制御入力を加えたときの後輪のタイヤ横力を意味する。
【0061】
また、数45の右辺第一項が、タイヤの散逸パワーのヨーレートによる偏微分から導かれた項であり、これによりヨーダンピングが生じ、安定性を向上させている。
【0062】
なお、各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられる。
【数48】
但し、βiは横すべり角、C、Bは定数である。
【0063】
上述の制御則を評価するために、シミュレーションを行った。初期速度は100[km/h]とし、大きさπ/2、周波数πの正弦波の操舵を一周期分与えた。トルク指令は0[Nm]とした。また、重み係数はそれぞれr1=1.0×104、r2=5.0、r3=0.1とした。
【0064】
次に、定数κの最適値を求める。シミュレーションによりκを変化させた場合の評価関数式である数21の値の変化を調べ、評価関数を最小にするκの値を求めた。結果はκ=−0.9であった。
【0065】
本発明の手法との効果を比較するため、次式の制御則Mpとして示すような従来の比較制御であるヨーレートと横すべり速度のそれぞれの目標値との偏差のフィードバック制御を選んだ。
【数49】
ここで、K1=100、K2=7.0×105とした。
【0066】
以上で、条件がすべて定まったため、3sec間のシミュレーションを行った。この結果を図10〜12に示す。図10は制御入力を、図11はヨーレートの応答を、図12は横すべり角の応答をそれぞれ示す。評価関数の値は、評価関数式である数21の値をJ、その内訳としてヨーレートの偏差の二乗の項をJ1、横すべり速度の偏差の二乗の項をJ2とする。制御によるエネルギ消費の項であるJ3については、制御則を求めるためには必要であるが、性能を評価する上では重要でないため省略している。なお、J=J1×r1+J2×r2である。
【0067】
この結果、本発明の数45の最適制御則を用いた制御では、J、J1、J2はそれぞれ以下のようになった。
J=59.65、J1=0.0042、J2=3.53
【0068】
一方、数49による従来の制御では、J、J1、J2はそれぞれ以下のようになった。
J=60.25、J1=0.0041、J2=3.85
【0069】
なお、制御入力が無い場合では、J、J1、J2はそれぞれ以下のようになった。
J=167.50、J1=0.0160、J2=1.52
【0070】
以上の結果から、本発明は、従来制御と比べより小さい評価関数の値が得られた。また、横すべり角に関しては1.2秒から2.5秒にかけて抑制が見られた。
【0071】
以下に、上述の本発明の制御装置をヨーモーメント発生機構として車両の各輪を独立に制御可能なアクティブサスペンションに適用した例を具体的に説明する。図13は、4輪のサスペンション機構を独立に制御できる電気・油圧式アクティブサスペンションの制御装置に本発明を適用した例を示したものである。ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサである、ばね上加速度センサ21、ばね下加速度センサ22、サスペンションストロークセンサ23、サスペンション伝達力センサ24からの信号が制御回路25に入る。制御回路25は、本発明の制御則に基づきフィードバック制御を行うものであり、制御回路25の出力は、インバータ26及び回生回路27に入る。インバータ26に入る信号は、数45の制御則の演算結果である。回生回路27に入る信号は、モータ28の回生モードと力行モードの判断をし、必要な昇圧指令を行うための信号である。モータ28は、油圧ポンプ29を駆動する。
【0072】
なお、本発明の車両運動制御装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明の車両運動制御装置における3自由度車両運動モデルである。
【図2】図2は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御についての制御入力の時間波形のシミュレーション比較グラフである。
【図3】図3は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御と制御なしについてのヨーレート追従性のシミュレーション比較グラフである。
【図4】図4は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御と制御なしについての横すべり角の時間波形のシミュレーション比較グラフである。
【図5】図5は、本発明の車両運動制御装置における制御則の数23の第1項と従来制御則の数42の第2項の時間波形のシミュレーション比較グラフである。
【図6】図6は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御について、横すべり速度にドリフト項がある場合の評価関数Jの比較グラフである。
【図7】図7は、本発明の車両運動制御装置における制御則を電気自動車へ搭載した状況を示す図である。
【図8】図8は、本発明の車両運動制御装置におけるタイヤ荷重と制御入力の関係を表す車両運動モデルである。
【図9】図9は、タイヤの荷重に対する横力の関係を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御についての制御入力の時間波形のシミュレーション比較グラフである。
【図11】図11は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御と制御なしについてのヨーレートの応答のシミュレーション比較グラフである。
【図12】図12は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御と制御なしについてのヨ横すべり角の応答のシミュレーション比較グラフである。
【図13】図13は、本発明の車両運動制御装置における制御則をアクティブサスペンション機構を有する車両へ搭載した状況を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 操舵角センサ
2 ヨーレートセンサ
3 Gセンサ
4 アクセル開度センサ
5 車輪速センサ
6 モータ駆動電流信号
7 コントローラ
8 インバータ
9 インホイールモータ
10 電池
11 キャパシタ
21 ばね上加速度センサ
22 ばね下加速度センサ
23 サスペンションストロークセンサ
24 サスペンション伝達力センサ
25 制御回路
26 インバータ
27 回生回路
28 モータ
29油圧ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動制御方法に関し、特に、車両にヨーモーメントを発生させる機構を有する車両の運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の運動を制御する場合は、操縦性(ドライバのハンドル操作に車両がきびきびと応答良く動くようにさせる)を向上させるためヨーレートフィードバックが用いられ、さらにスピンを防止して安定した走行ができるように横すべり角フィードバックが用いられることが多い。参考として、ここ10年ほどの間に発表された車両運動制御関係の代表的な論文(非特許文献1〜4)について制御則をまとめて表1に示す。ヨーレートフィードバック、横すべり角フィードバックのいずれかあるいは両方が使われている。
【表1】
【0003】
上記で述べた車両の運動制御では、横すべり角はヨーレートや横加速度から演算した推定値が用いられており、しかも積分演算が主体になるためドリフトが生じやすく、このドリフトを低減しようとフィルタを用いると位相誤差が生じる。このため、現在でも、横すべり角フィードバックを行う場合はドリフト等のノイズを含んでいることを前提にしており、フィードバックゲインの大きさも制限されるため、大きな効果は期待できないのが実態である。
【0004】
このような横すべり角を制御に用いる場合の問題点を解決しようとするものに、特許文献1に開示の技術がある。これによれば、横すべり角推定時のドリフト項に対するロバスト性を高め、また単純に横すべり角フィードバックを行った場合に比べ位相を改善させることが可能となる。
【0005】
以下に、特許文献1の手法の概略を述べる。それまでの制御理論では制御対象の特性を運動方程式で記述していたが、特許文献1では制御対象の全入出力パワーの収支の式を用いている。具体的には、以下の式に示されるように、システムの各自由度毎の運動方程式をベクトル表示しこれに速度ベクトルを乗じたものである。入力パワーは制御入力だけでなく外乱入力も含まれ、また制御対象は受動要素だけとは限らないため、内部にエネルギ源がありこれが運動に影響を与えていれば外乱入力として扱う。
【数1】
ここで、d、e、q、u、v、z∈Rn、M∈Rn×nは正定対称な慣性マトリクス、nは制御対象の自由度である。qは一般化座標、uは制御入力、vは力入力の外乱、zは変位入力の外乱である。dはコリオリ力や遠心力やダンピング力など、eはポテンシャル力である。
【0006】
上記のシステムに対し、次の評価関数を考える。
【数2】
は制御装置が制御対象に加えるパワーである。rは重み係数である。
【0007】
次に、数2を最小化する制御u(t)を求める。最適制御の必要条件を求めるため次のスカラー関数Lを定義する。
【数3】
ここで、κは未定定数である。右辺の{ }内は、数1の左辺と同じで制御対象の全パワー収支であるからエネルギ保存則を満たし常にゼロである。
【0008】
従って数3で表されるLの積分を最小化する条件は、数2も最小化する。従って関数Lにqを変数とする変分原理を適用した次式はuが最適制御であるための必要条件を与える。Lはuに関して1次式であるから、∂L/∂uは意味がなく次式に制御に関するすべての情報が含まれる。
【数4】
【0009】
数4から制御則が次のように求まる。
【数5】
上式の第1行は外力vと慣性のq依存性に対する制御、第2行はコリオリ力や遠心力やダンピング力に対する制御、第3行はポテンシャル力とそのq依存性および外力zに対する制御、第4行は評価関数を低減させる制御でありそれぞれ意味が明確である。以上が、特許文献1の概要である。
【0010】
【特許文献1】特願2006−92243
【非特許文献1】井上他,制動力配分制御による車両運動性能の向上,自動車技術会学術講演会前刷集921 1992−5
【非特許文献2】山本他,限界付近での車両安定性向上のためのアクティブ制動力制御,自動車技術会論文集9730524
【非特許文献3】古川他,タイヤ横力モニタリングによる車両運動制御,自動車技術会論文集 9930397
【非特許文献4】小竹他,アクティブ操舵とDYCの協調制御に関する理論的解析,自動車技術会論文集 20024442
【非特許文献5】安部正人、自動車の運動と制御、山海堂、P10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の制御装置では、ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両に対する制御についてはなんら開示されていなかった。したがって、具体的な車両の運動制御について特許文献1の制御則を適用した装置の開発が望まれていた。
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両に対してドリフトが低減でき、ロバスト性を向上させた運動制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による車両の運動制御装置は、
車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生機構と、
前記ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサと、
前記状態センサにより計測される車両の状態量に対する、走行中のタイヤのスリップにより発生する単位時間当たりの熱損失である散逸パワーの比を考慮したフィードバック制御を行う制御手段と、
を具備するものである。
【0014】
ここで、制御手段は、その制御則に次式の項が含まれる、すなわち、
である。
【0015】
また、車両の状態量は、ヨーレートであっても良い。
【0016】
さらに、車両の状態量は、横すべり速度又は横すべり角であっても良い。
【0017】
また、散逸パワーは、次式で近似されても良い、すなわち、
T1、dT2、dT3は次式で与えられる、すなわち、
但し、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数、δは前輪舵角、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッドである。
【0018】
また、ヨーモーメント発生機構は、車両の各輪の駆動力を独立に制御可能な駆動手段からなるものであっても良い。
【0019】
ここで、制御手段は、その制御則が次式で与えられても良い、すなわち、
但し、κは定数、riは重み係数、Vxは車両の前後速度、Vyは車両の横すべり速
但し、Fix、Fiyは車両に働く遠心力、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数、δは前輪舵角、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッドである。
【0020】
また、各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Fialaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられても良い、すなわち、
但し、
但し、Kはタイヤのコーナリングパワー、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数、βiは横すべり角である。
【0021】
さらに、各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられても良い、すなわち、
但し、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数、βiは横すべり角、C、Bは定数である。
【0022】
また、ヨーモーメント発生機構は、車両の各輪を独立に制御可能なアクティブサスペンション手段からなるものであっても良い。
【0023】
ここで、制御手段は、その制御則が次式で与えられても良い、すなわち、
れる、すなわち、
但し、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、μは路面とタイヤの摩擦係数、Wiは各輪の荷重、aは定数であり、Γi、Θiは次式で与えられる、すなわち、
但し、YiはY1が左前輪の、Y2が右前輪の、Y3が左後輪の、Y4が右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数である。
【0024】
また、各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられても良い、すなわち、
但し、βiは横すべり角、C、Bは定数である。
【0025】
さらに、ヨーモーメント発生機構は、車両のステアリング角度を制御可能なステアリング制御手段からなるものであっても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明の車両の運動制御装置には、ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両に対してドリフトが低減でき、ロバスト性も向上可能であるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。本発明の車両の運動制御装置では、特許文献1で提示されているシステムの最適制御方法の考え方を参考にして、新しく自動車の運動制御に関する評価関数を設定し独自の工夫を加えて従来の横すべり角フィードバックに替わる新しい制御則を導いたものである。以下、各輪の駆動力を独立に制御できる電気自動車やアクティブサスペンションの制御装置に適用した例について説明を行うが、他にも、自動車の各輪ブレーキ制御、左右駆動力配分制御、前後輪舵角制御等への適用も可能である。さらに、ヨーモーメント発生機構としては、車両のステアリング角度を制御可能なステアリング制御手段であっても良い。すなわち、ステアリング角度とタイヤの角度との関係を制御する最適制御則に本発明を適用しても良い。
【0028】
まず、ヨーモーメントを発生させる機構として、例えば電気自動車のように、車両の各輪の駆動力を独立に制御可能な駆動装置の制御則を求めるための車両のモデルを図1に示す。簡略化のためにロールとピッチを無視した車体の3自由度の車両モデルである。なお、図示例の車両モデルはローリング運動、ピッチ運動は考慮していないが、車両の重心に働く加速度により各輪に働く荷重移動は考慮してある。
【0029】
タイヤに発生する制駆動力Xi、横力Yiをそれぞれ図1のように定義すると、車両モデルの運動方程式は以下のようになる。
【数6】
【数7】
【数8】
ここで、mは車両質量、Izは車両のヨー慣性モーメント、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッド、Vxは車両の前後速度、Vyは車
【0030】
タイヤに働く横力Siは、Fiala理論(例えば非特許文献5参照)から導かれたタイヤ特性式を用いた。コーナリングパワーをK、タイヤの垂直加重をWi、タイヤの横滑り角をβiとすると、横力SiはFialaの理論を用いて次式で現される。
【数9】
ここで、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数であり、τiは次式で与えられる。
【数10】
ここで、Kはタイヤのコーナリングパワー、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数である。
【0031】
また、横すべり角βiに関しては、次式で与えられる。
【数11】
【0032】
次に、特許文献1の制御則を車両運動制御に適用したときの各要素を定義する。なお、車両運動においては、ポテンシャル力eは存在せず、また、力入力の外乱v、変位入力の外乱zはゼロとする。状態量qは次式で定義する。
【数12】
パワー収支式は次式になる。
【数13】
質量行列Mは次式で表す。
【数14】
本発明では、制駆動力左右差を利用した車両のヨーモーメント制御を想定しているため、制御入力は車両に入力するヨーモーメントMzとする。つまり、制御入力uは、次式である。
【数15】
【0033】
次に、車両に働く遠心力と、路面から生じるタイヤへの反力であるdは、次式で表される。
【数16】
ここで、Fix、Fiyは車両に働く遠心力であり、次式で表される。
【数17】
【数18】
【0034】
なお、diに関して、走行中のタイヤのスリップにより発生する単位時間当たりの熱損失である散逸パワーのみを考慮する場合、タイヤに発生する力にすべり速度を乗じたものが略熱損失となることから、車両に働く遠心力Fix,Fiyは省略することが可能である。
【0035】
以上で定義した要素を数1のパワー収支式に代入すると次式が得られる。
【数19】
【0036】
ここで、本発明の目的は、目標ヨーレートに対する追従性と安定性を同時に実現する制御則を導出することにある。そこで、制御性能の評価を与える数2の関数gは、次式を用いた。
【数20】
数である。上式の第一項は目標ヨーレートに対する追従性の評価、第二項は安定性の評価
数は次式となる。
【数21】
ここでr3は重み係数である。
【0037】
次に、汎関数Lを以下のように定義する。
【数22】
【0038】
Pに含まれる慣性力の項は消えるため、当初からPの中の慣性力は削除しておいても良い。なお通常の走行ではd1は小さいためゼロとしても良い。
【数23】
ここで、上式右辺第1項の偏微分項は、数16を用いて次のように表わされる。
【数24】
さらに、数9、数10を用いると、上式は以下のようになる。
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
以上により、数23の最適制御則は、センサ等により計測された車両状態量から計算できることになる。
【0039】
ここで、ヨーモーメントを発生させる機構を有する車両の運動制御においては、数23の右辺のうち、少なくとも第一項が含まれていることが重要となる。すなわち、本発明の車両運動制御装置においては、実際の車両の状態量に対する散逸パワーの比を考慮した制御則を用いた制御を行うことがポイントとなる。より具体的には、その制御則に次式の項が含まれていることが好ましい。
【数30】
量である。
【0040】
なお、散逸パワーのみを考慮し、車両に働く遠心力Fix,Fiyを省略した場合には、散逸パワーの近似式は、数23の右辺第1項及び数16から、以下の式で与えられる。
【数31】
ここで、dT1、dT2、dT3は次式で与えられる。
【数32】
【0041】
上述の説明により入力ヨーモーメントMzが求まったので、この値を用いてそれぞれのホイールに入力する制駆動トルクを以下の手順により求める。ドライバのアクセル量により決定される制駆動トルクUiと、最適制御によって得られた入力ヨーモーメントMzを配分して決定される制駆動トルクTiを区別して考える。ドライバのアクセル量により決定される制駆動トルクUiは、アクセル量に比例した制駆動トルクを四輪に均等に分配されるとする。このUiとTiを足し合わせ、これを最終的な制駆動トルクとする。
【0042】
次に、Tiの配分方法を考える。δが比較的小さいとすれば、最適制御によって得たMzとTiとの間には、次式の関係がある。
【数33】
ここで、rはタイヤの半径である。また、制駆動トルクTiによっては加減速しないように設定するので、次式が成り立つ。
【数34】
従って、数33、数34より、次式を得る。
【数35】
【数36】
これで、左右輪のトルクのそれぞれの和が求まった。さらに、前後輪の配分を考える。ここでは、タイヤの摩擦余裕の概念を用いて前後輪の配分比を考える。タイヤの摩擦余裕は、次式を用いて求める。ここで、タイヤの摩擦余裕とは、輪荷重と横力が与えられた時に発生可能な制駆動動力の最大値を意味し、次式で表される。
【数37】
タイヤのグリップ力を有効に用いるため、タイヤの摩擦余裕に比例させて左輪右輪それぞれで前後輪に比例配分する。つまり、Tiは次式で得られる。
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
【0043】
このようにして求めた本発明の制御装置の効果を、シミュレーションにより確認する。車両モデルはピッチとロールを無視した車体3自由度、車輪4自由度の計7自由度の非線形モデル、タイヤモデルはブラッシュモデルを用いた。シミュレーションに用いる車両の諸元は、一般的な小型乗用車の値を用いた。代表的なパラメータは、車両質量m=1490Kg、ヨー慣性モーメントIz=2200Kgm2、前輪と車両重心の距離lf=1.2m、後輪と車両重心の距離lr=1.3m、トレッドlt=1.48m、タイヤ205/55R16 である。制御の重み係数は、r1=7×105、r2=5×102、r3=10とした。
【0044】
本発明の手法との効果を比較するため、従来の制御則Mpとして次式に示すようなヨーレートと横すべり速度のそれぞれの目標値との偏差のフィードバック制御(比例制御)を選んだ。
【数42】
ここで、K1、K2は、それぞれヨーレートと横すべり速度の目標値との偏差に対するゲインである。
【0045】
また、β=−Vy/Vxであり一般にVxはある定常速度を持ち変動幅も小さいため、βフィードバックとVyフィードバックは等価な制御とみなすことができる。非特許文献1〜4では横すべり角βフィードバックが用いられているが、以下ではこれと等価な横すべり速度Vyフィードバックを従来制御とした。それぞれのゲインは、車両のヨーレート応答が振動的になるなどの不具合が生じない範囲内で評価関数式である数21を最小化するゲインを用いた。具体的にはK1=8×104、K2=2500とした。
【0046】
シミュレーションにおいて、ヨーレート追従性を評価するために、初速度100[km/h]の直進から、大きさ2π/3、周波数0.5Hzの正弦波の操舵を一周期分与えた。この操舵は、車両にレーンチェンジの運動を強いるための操舵であり、高速走行時の障害物回避を想定している。
【0047】
次に、定数κの最適値を求める。シミュレーションによりκを変化させた場合の評価関数式である数21の値の変化を調べ、評価関数を最小にするκの値を求めた。結果はκ=3.9であった。
【0048】
以上で、条件がすべて定まったため、3sec間のシミュレーションを行った。この結果を図2〜4に示す。図2は制御入力を、図3はヨーレートの応答を、図4は横すべり角の応答をそれぞれ示す。評価関数の値は、評価関数式である数21の値をJ、その内訳としてヨーレートの偏差の二乗の項をJ1、横すべり速度の偏差の二乗の項をJ2、制御によるエネルギ消費の項をJ3とする(J=J1+J2+J3である)。
【0049】
この結果、本発明の数23の最適制御則を用いた制御では、J、J1、J2、J3はそれぞれ以下のようになった。
J=−2198、J1=1062、J2=1102、J3=−4362
【0050】
一方、従来の数42の比例制御則を用いた制御では、J、J1、J2、J3はそれぞれ以下のようになった。
J=−1906、J1=639、J2=1081、J3=−3626
【0051】
以上の結果から、本発明は、従来の比例制御と比べ、エネルギ回生の面で優れている。
【0052】
本発明の制御は、従来の横すべり速度の代りに数23の第1項を用いたものであり、共に安定性を向上させる役割を果たす項であるが、これを従来の横すべり速度フィードバックと比較すると本制御の優位性が明らかになる。
【0053】
本発明の制御則である数23の第1項と従来の制御則である数42の第2項の時間波形を比較すると図5のようになり、本発明の制御則は従来の制御則に比べ操舵に対する位相遅れが小さいことが明らかである。
【0054】
車両の運動制御では、一般的に横すべり速度(あるいは横すべり角)はヨーレートや横加速度から演算した推定値が用いられており、しかも積分演算が主体になるためドリフトが生じやすく、このドリフトを低減しようとフィルタを用いると位相誤差が生じる。このため、現在でも、横すべり角フィードバックを行う場合はドリフト等のノイズを含んでいることを前提にしており、フィードバックゲインの大きさも制限されるため、大きな効果は期待できないのが実態である。従って、横すべり速度にドリフト項が含まれる場合のロバスト性能は重要である。図6は横すべり速度Vyにドリフト項がある場合の評価関数Jを比較したものである。従来の制御則に比べ本発明の制御則は、横すべり速度信号にドリフト項が含まれる場合のロバスト性が大幅に向上していることが確認できる。
【0055】
以下に、本発明の制御装置を、ヨーモーメント発生機構として車両の各輪の駆動力を独立に制御可能な駆動装置を有する4輪独立制御式電気自動車に適用した例を具体的に説明する。図7は、4輪の制駆動力を独立に制御できるインホイールモータ式の電気自動車に適用した例を示したものである。ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサである、操舵角センサ1、ヨーレートセンサ2、車体の前後横加速度を検出するGセンサ3、アクセル開度センサ4、各車輪速センサ5、モータ駆動電流信号6がコントローラ7に入る。コントローラ7は、本発明の制御則に基づきフィードバック制御を行うものであり、コントローラ7の出力はインバータ8に入り、ここで調整された電流が各輪モータ9に入りタイヤが駆動される。電源には大容量電池あるいは燃料電池10が設置され、さらに急変する電流指令に対応するためキャパシタ11が置かれている。コントローラ7では数38〜数41で表された各輪トルク指令値と、アクセル開度信号からドライバが要求する駆動力を演算し、これを各輪のモータ駆動トルクとして割り振ったトルク指令値を合算して出力する。なお、コントローラ7の演算内容は、例えばFialaの理論から導かれた数9、数10から制御則を導いる。
【0056】
また、システムの車両搭載状況は図7と同じであるが、コントローラの演算内容は下記によっても良い。すなわち、上述の例ではFialaの理論から導かれた数9、数10から制御則を導いていたが、Magic Formulaによるタイヤ特性式から制御則を導いても良い。より具体的には、Magic Formulaによるタイヤ特性式から、タイヤが発生する横力を近似した関数は、以下の式で与えられる。
【数43】
ここで、C、Bは定数である。したがって、Magic Formulaによると、次式が成り立つ。
【数44】
【0057】
以上の通り、数25の代りに数44を用いることも可能である。なお、他の演算に関しては上述のFialaの場合と同様である。
【0058】
次に、本発明の車両運動制御装置において、ヨーモーメントを発生させる機構が車両の各輪を独立に制御可能なアクティブサスペンションである場合について説明する。既存のアクティブサスペンション機構は、乗り心地の向上や各タイヤの接地性向上を目的としている。本発明においては、このアクティブサスペンション機構を用いて、四輪の荷重を最適に協調制御することで運動性能を向上させた。アクティブサスペンション機構においては、制御入力を加えることで車両が振動するのは好ましくなく、また、サスペンションのストロークには限界がある。このような前提の基、制御則を求めるための車両のモデルを図8に示すよう規定し、制御入力について同図に示すような制約を与えた。なお、タイヤの荷重に対する横力の関係については、図9に示した。アクティブサスペンションに対する本発明の車両運動制御装置においては、タイヤ荷重を制御し、操縦性と安定性の向上を実現している。
【0059】
アクティブサスペンションに対する制御則は、上述の評価関数式である数21、汎関数である数22と同様な数式を用いると、その制御則、すなわち、アクティブサスペンションのアクチュエータによる荷重増加分(荷重移動)は次式で与えられる。
【数45】
れる。
【数46】
但し、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、μは路面とタイヤの摩擦係数、Wiは各輪の荷重、aは定数であり、Γi、Θiは次式で与えられる。
【数47】
但し、YiはY1が左前輪の、Y2が右前輪の、Y3が左後輪の、Y4が右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数である。
【0060】
なお、UAの右辺第一項の大括弧内は制御入力無しのときの前輪のタイヤ横力を意味し、右辺第三項の最初の小括弧は前輪の横速度を意味し、大括弧内は前輪のタイヤ横力のヨーレートによる偏微分を意味する。また、UBの右辺第一項の大括弧内は単位制御入力を加えたときの前輪のタイヤ横力を意味し、右辺第二項の大括弧内は単位制御入力を加えたときの後輪のタイヤ横力を意味する。
【0061】
また、数45の右辺第一項が、タイヤの散逸パワーのヨーレートによる偏微分から導かれた項であり、これによりヨーダンピングが生じ、安定性を向上させている。
【0062】
なお、各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられる。
【数48】
但し、βiは横すべり角、C、Bは定数である。
【0063】
上述の制御則を評価するために、シミュレーションを行った。初期速度は100[km/h]とし、大きさπ/2、周波数πの正弦波の操舵を一周期分与えた。トルク指令は0[Nm]とした。また、重み係数はそれぞれr1=1.0×104、r2=5.0、r3=0.1とした。
【0064】
次に、定数κの最適値を求める。シミュレーションによりκを変化させた場合の評価関数式である数21の値の変化を調べ、評価関数を最小にするκの値を求めた。結果はκ=−0.9であった。
【0065】
本発明の手法との効果を比較するため、次式の制御則Mpとして示すような従来の比較制御であるヨーレートと横すべり速度のそれぞれの目標値との偏差のフィードバック制御を選んだ。
【数49】
ここで、K1=100、K2=7.0×105とした。
【0066】
以上で、条件がすべて定まったため、3sec間のシミュレーションを行った。この結果を図10〜12に示す。図10は制御入力を、図11はヨーレートの応答を、図12は横すべり角の応答をそれぞれ示す。評価関数の値は、評価関数式である数21の値をJ、その内訳としてヨーレートの偏差の二乗の項をJ1、横すべり速度の偏差の二乗の項をJ2とする。制御によるエネルギ消費の項であるJ3については、制御則を求めるためには必要であるが、性能を評価する上では重要でないため省略している。なお、J=J1×r1+J2×r2である。
【0067】
この結果、本発明の数45の最適制御則を用いた制御では、J、J1、J2はそれぞれ以下のようになった。
J=59.65、J1=0.0042、J2=3.53
【0068】
一方、数49による従来の制御では、J、J1、J2はそれぞれ以下のようになった。
J=60.25、J1=0.0041、J2=3.85
【0069】
なお、制御入力が無い場合では、J、J1、J2はそれぞれ以下のようになった。
J=167.50、J1=0.0160、J2=1.52
【0070】
以上の結果から、本発明は、従来制御と比べより小さい評価関数の値が得られた。また、横すべり角に関しては1.2秒から2.5秒にかけて抑制が見られた。
【0071】
以下に、上述の本発明の制御装置をヨーモーメント発生機構として車両の各輪を独立に制御可能なアクティブサスペンションに適用した例を具体的に説明する。図13は、4輪のサスペンション機構を独立に制御できる電気・油圧式アクティブサスペンションの制御装置に本発明を適用した例を示したものである。ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサである、ばね上加速度センサ21、ばね下加速度センサ22、サスペンションストロークセンサ23、サスペンション伝達力センサ24からの信号が制御回路25に入る。制御回路25は、本発明の制御則に基づきフィードバック制御を行うものであり、制御回路25の出力は、インバータ26及び回生回路27に入る。インバータ26に入る信号は、数45の制御則の演算結果である。回生回路27に入る信号は、モータ28の回生モードと力行モードの判断をし、必要な昇圧指令を行うための信号である。モータ28は、油圧ポンプ29を駆動する。
【0072】
なお、本発明の車両運動制御装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明の車両運動制御装置における3自由度車両運動モデルである。
【図2】図2は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御についての制御入力の時間波形のシミュレーション比較グラフである。
【図3】図3は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御と制御なしについてのヨーレート追従性のシミュレーション比較グラフである。
【図4】図4は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御と制御なしについての横すべり角の時間波形のシミュレーション比較グラフである。
【図5】図5は、本発明の車両運動制御装置における制御則の数23の第1項と従来制御則の数42の第2項の時間波形のシミュレーション比較グラフである。
【図6】図6は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御について、横すべり速度にドリフト項がある場合の評価関数Jの比較グラフである。
【図7】図7は、本発明の車両運動制御装置における制御則を電気自動車へ搭載した状況を示す図である。
【図8】図8は、本発明の車両運動制御装置におけるタイヤ荷重と制御入力の関係を表す車両運動モデルである。
【図9】図9は、タイヤの荷重に対する横力の関係を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御についての制御入力の時間波形のシミュレーション比較グラフである。
【図11】図11は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御と制御なしについてのヨーレートの応答のシミュレーション比較グラフである。
【図12】図12は、本発明の車両運動制御装置における制御と従来制御と制御なしについてのヨ横すべり角の応答のシミュレーション比較グラフである。
【図13】図13は、本発明の車両運動制御装置における制御則をアクティブサスペンション機構を有する車両へ搭載した状況を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 操舵角センサ
2 ヨーレートセンサ
3 Gセンサ
4 アクセル開度センサ
5 車輪速センサ
6 モータ駆動電流信号
7 コントローラ
8 インバータ
9 インホイールモータ
10 電池
11 キャパシタ
21 ばね上加速度センサ
22 ばね下加速度センサ
23 サスペンションストロークセンサ
24 サスペンション伝達力センサ
25 制御回路
26 インバータ
27 回生回路
28 モータ
29油圧ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運動を制御する車両運動制御装置であって、該車両運動制御装置は、
車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生機構と、
前記ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサと、
前記状態センサにより計測される車両の状態量に対する、走行中のタイヤのスリップにより発生する単位時間当たりの熱損失である散逸パワーの比を考慮したフィードバック制御を行う制御手段と、
を具備することを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記制御手段は、その制御則に次式の項が含まれる、すなわち、
である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両運動制御装置において、前記車両の状態量は、ヨーレートであることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車両運動制御装置において、前記車両の状態量は、横すべり速度又は横すべり角であることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の車両運動制御装置において、前記散逸パワーは、次式で近似される、すなわち、
T1、dT2、dT3は次式で与えられる、すなわち、
但し、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数、δは前輪舵角、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッドである、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント発生機構は、車両の各輪の駆動力を独立に制御可能な駆動手段からなることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両運動制御装置において、前記制御手段は、その制御則が次式で与えられる、すなわち、
但し、κは定数、riは重み係数、Vxは車両の前後速度、Vyは車両の横すべり速
但し、Fix、Fiyは車両に働く遠心力、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数、δは前輪舵角、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッドである、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両運動制御装置において、前記各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Fialaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられる、すなわち、
但し、
但し、Kはタイヤのコーナリングパワー、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数、βiは横すべり角である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項9】
請求項7に記載の車両運動制御装置において、前記各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられる、すなわち、
但し、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数、βiは横すべり角、C、Bは定数である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント発生機構は、車両の各輪を独立に制御可能なアクティブサスペンション手段からなることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の車両運動制御装置において、前記制御手段は、その制御則が次式で与えられる、すなわち、
れる、すなわち、
但し、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、μは路面とタイヤの摩擦係数、Wiは各輪の荷重、aは定数であり、Γi、Θiは次式で与えられる、すなわち、
但し、YiはY1が左前輪の、Y2が右前輪の、Y3が左後輪の、Y4が右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の車両運動制御装置において、前記各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられる、すなわち、
但し、βiは横すべり角、C、Bは定数である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項13】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント発生機構は、車両のステアリング角度を制御可能なステアリング制御手段からなることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項1】
車両の運動を制御する車両運動制御装置であって、該車両運動制御装置は、
車両にヨーモーメントを発生させるヨーモーメント発生機構と、
前記ヨーモーメント発生機構による車両の状態量を計測する状態センサと、
前記状態センサにより計測される車両の状態量に対する、走行中のタイヤのスリップにより発生する単位時間当たりの熱損失である散逸パワーの比を考慮したフィードバック制御を行う制御手段と、
を具備することを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記制御手段は、その制御則に次式の項が含まれる、すなわち、
である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両運動制御装置において、前記車両の状態量は、ヨーレートであることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車両運動制御装置において、前記車両の状態量は、横すべり速度又は横すべり角であることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の車両運動制御装置において、前記散逸パワーは、次式で近似される、すなわち、
T1、dT2、dT3は次式で与えられる、すなわち、
但し、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数、δは前輪舵角、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッドである、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント発生機構は、車両の各輪の駆動力を独立に制御可能な駆動手段からなることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両運動制御装置において、前記制御手段は、その制御則が次式で与えられる、すなわち、
但し、κは定数、riは重み係数、Vxは車両の前後速度、Vyは車両の横すべり速
但し、Fix、Fiyは車両に働く遠心力、S1は左前輪の、S2は右前輪の、S3は左後輪の、S4は右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数、δは前輪舵角、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、ltはトレッドである、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両運動制御装置において、前記各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Fialaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられる、すなわち、
但し、
但し、Kはタイヤのコーナリングパワー、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数、βiは横すべり角である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項9】
請求項7に記載の車両運動制御装置において、前記各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられる、すなわち、
但し、Wiは各輪の荷重、μは路面とタイヤの摩擦係数、βiは横すべり角、C、Bは定数である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント発生機構は、車両の各輪を独立に制御可能なアクティブサスペンション手段からなることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の車両運動制御装置において、前記制御手段は、その制御則が次式で与えられる、すなわち、
れる、すなわち、
但し、lfは車両重心と前輪の距離、lrは車両重心と後輪の距離、μは路面とタイヤの摩擦係数、Wiは各輪の荷重、aは定数であり、Γi、Θiは次式で与えられる、すなわち、
但し、YiはY1が左前輪の、Y2が右前輪の、Y3が左後輪の、Y4が右後輪の各タイヤが発生する横力を近似した関数である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の車両運動制御装置において、前記各タイヤが発生する横力を近似した関数は、Magic Formulaの理論から導かれる次式のタイヤ特性式で与えられる、すなわち、
但し、βiは横すべり角、C、Bは定数である、
ことを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項13】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、前記ヨーモーメント発生機構は、車両のステアリング角度を制御可能なステアリング制御手段からなることを特徴とする車両運動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−49996(P2008−49996A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189470(P2007−189470)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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