説明

車両の駆動力制御装置

【課題】F/C復帰に伴う捩り振動を効果的に抑制する。
【解決手段】エンジンに対する燃料の供給を再開した後のトルク指令値として、伝動機構の捩り振動周波数帯の成分をフィルタ処理によって除去した指令値を求める第1トルク制御手段(ステップS11〜S13)と、伝動機構における捩り振動とは逆の振動を生じる振動逆モデルにおける伝達関数を使用して、燃料の供給を再開した後のエンジンのトルク指令値を求める第2トルク制御手段(ステップS21〜23)と、伝動機構における捩り振動特性が変化したことを検出する捩り特性検出手段(ステップS14)と、伝動機構における捩り振動特性が変化したことが捩り特性検出手段で検出された場合には、燃料の供給を再開した後のトルク指令値を求める手段として前記第1トルク制御手段を選択するトルク制御選択手段(ステップS14)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関を駆動力源とした車両の駆動力を制御するための装置に関し、特に駆動輪に対してトルクを伝達する駆動系の捩り振動を抑制するように駆動力を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関などの駆動力源が出力したトルクを駆動輪に伝達するドライブシャフト(D/S)などを含む駆動系は、シャフト自体の素材の弾性や連結部分での弾性などによってその全体が弾性系を構成している。したがって、駆動系に入力されるトルクが変化した場合、捩り振動が発生する。例えば、特許文献1には、燃料の供給を停止していたエンジンに対する燃料の供給を再開した場合、駆動系に捩り振動が発生することが記載されており、特許文献1に記載された装置は、その捩り振動を抑制するために、駆動系の捩り振動が第1回目のピークに達する直前に燃焼する予定の気筒を求め、その気筒に対する燃料の供給を停止するように構成されている。したがって、特許文献1に記載された制御装置によれば、少なくとも第1回目の振動のピークを低下させることができるので、捩り振動を抑制することができる。
【0003】
なお、特許文献2や特許文献3には、駆動力源を構成しているモータのトルクが変化することに起因する捩り振動を抑制するように構成された装置が記載されており、特許文献2に記載された装置は、バンドパスフィルタによって構成された伝達特性を使用してトルク目標値を設定し、そのトルク目標値を達成するようにモータトルクを制御するように構成されている。したがって、特許文献2に記載された制御装置によれば、アクセルを踏み込んでモータトルクを増大させた場合、不要な振動に対するキャンセルトルクを与えて捩り振動を抑制することができる。また、特許文献3に記載された装置は、パワーユニットにおける電動機の駆動トルクを制御するにあたり、外乱に起因する振動を抑制するために、目標逆モデルを使用して外乱推定トルクを求めるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−252514号公報
【特許文献2】特開2003−9566号公報
【特許文献3】特開2001−28809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の各特許文献に記載されているように、駆動系の捩り振動を抑制するためには、発生が予想される捩り振動に応じて駆動力もしくは駆動力源の出力トルクを制御する必要がある。したがって特許文献1に記載された発明では、捩り振動ピークに達するまでの時間を、ドライブシャフトのバネ定数やタイヤ動半径などに関連するパラメータを用いて求めている。そのため、車両の経時変化によってそれらのパラメータが当初の値から変化した場合には、捩り振動ピークに達するまでの時間の算出値の誤差が大きくなり、その結果、捩り振動の抑制効果が損なわれる可能性がある。このような事情は、駆動系の伝達特性に基づいて制御を行う特許文献2に記載された装置や、目標逆モデルを使用する特許文献3に記載された装置においても同様である。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、駆動系の捩り特性が経時変化した場合であっても駆動力源の出力トルクの変化に起因する捩り振動を効果的に抑制することのできる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、エンジンが出力したトルクを捩り振動系を構成している伝動機構を介して駆動輪に伝達するとともに、減速時のエンジン回転数が予め定めた所定回転数以上の場合に前記エンジンに対する燃料の供給を停止し、かつエンジン回転数が前記回転数未満となった場合に前記エンジンに対する燃料の供給を再開する、車両の駆動力制御装置において、前記エンジンに対する燃料の供給を再開した後の前記エンジンのトルク指令値として、前記伝動機構の捩り振動周波数帯の成分をフィルタ処理によって除去した指令値を求める第1トルク制御手段と、前記伝動機構における捩り振動とは逆の振動を生じる振動逆モデルを想定し、その振動逆モデルにおける伝達関数を使用して、前記エンジンに対する燃料の供給を再開した後の前記エンジンのトルク指令値を求める第2トルク制御手段と、前記伝動機構における捩り振動特性が変化したことを検出する捩り特性検出手段と、前記伝動機構における捩り振動特性が変化したことが前記ねじり特性検出手段で検出された場合には、前記燃料の供給を再開した後の前記エンジンのトルク指令値を求める手段として前記第1トルク制御手段を選択するトルク制御選択手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
この発明における前記捩り特性検出手段は、請求項2に記載されているように、前記第2トルク制御手段で求めたトルク指令値で前記エンジンの出力トルクを制御している状態における所定時間内での前記車両の前後加速度の最大値と最小値との差が予め定めた基準値より大きいことにより前記伝動機構における捩り振動特性が変化したことを検出するように構成されていてよい。
【0009】
また、その基準値は、請求項3に記載されているように、前記第1トルク制御手段によって前記燃料の供給を再開した後の前記エンジンのトルク指令値を求めてエンジントルクを制御している状態における前記所定時間内での前記車両の前後加速度の最大値と最小値との差を採用することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、車両の減速時のエンジン回転数が予め定めた回転数以上であれば、エンジンに対する燃料の供給が停止され、その状態からエンジン回転数が低下して上記の予め定めた回転数未満となることによりエンジンに対する燃料の供給が再開される。その場合、エンジンの出力トルクが燃料の供給の再開によって増大するので、トルクの増大に伴う捩り振動を抑制するための制御が実行される。この発明では、その捩り振動の抑制制御として、伝動機構の捩り振動周波数帯域の成分をフィルタ処理によって除去したトルク指令値に基づいてエンジンの出力トルクを制御する第1のトルク制御と、伝動機構の捩り振動とは逆の振動を生じる振動逆モデルに基づいてトルク指令値を求める第2のトルク制御とが用意されており、伝動機構の捩り特性が、上記の振動逆モデルを設定した際の特性から変化していることが検出された場合には、第1のトルク制御が実行される。その第1のトルク制御におけるフィルタは、伝動機構の捩り特性に基づいて求められ、あるいは設定されるものであるが、除去する振動成分は、所定の幅のある帯域における成分であるから、捩り特性が当初の特性から変化していたとしても、捩り特性が変化した後の伝動機構の捩り振動周波数成分の少なくとも幾分かはエンジントルク指令値から除去され、したがって捩り振動の抑制効果を得ることができる。
【0011】
その捩り特性の変化を、第2トルク制御手段によってエンジントルク指令値を求めてエンジントルクを制御している際の前後加速度の所定時間内での最大値と最小値との差に基づいて検出することとすれば、新たなセンサなどの機器を設けることなく、捩り特性の変化を検出することができる。
【0012】
また、上記の差の大小を判断するための閾値として、第1トルク制御手段によってエンジントルクを制御している際の前後加速度の所定時間内での最大値と最小値との差を採用すれば、第2トルク制御手段から第1トルク制御手段に切り替えることにより、捩り振動をより良く抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明に係る制御装置によって実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明で対象とすることのできる車両における伝動機構の一例を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、この発明をより具体的に説明する。この発明で対象とする車両は、いわゆるフューエルカット制御の可能な車両であり、したがって図2に示すように、駆動力源として内燃機関(エンジン)1を搭載した車両である。そのエンジン1は、要は、ガソリンや軽油あるいは天然ガスなどの燃料を燃焼させて機械的動力を出力する熱機関であり、特に燃料を継続して燃焼させて自立回転するためには、所定の回転数以上の回転数が燃料を供給する必要のある熱機関である。
【0015】
フューエルカット制御は、そのエンジン1に対する燃料の供給を一時的に停止する制御であり、車両が減速している際にエンジン1が車両の慣性エネルギによって強制的に回転させられ、かつその回転数が燃料の供給再開によって自立回転できる回転数の状態で燃料の供給を停止する制御である。より具体的には、車両が走行している状態で、アクセルペダル(図示せず)が戻されるなど、車両もしくはエンジン1に対する出力要求がゼロ以下になって車両が減速状態になり、その際のエンジン1の回転数がいわゆるフューエルカット復帰回転数として定め所定回転数以上の場合に、エンジン1に対する燃料の供給が停止される。そして、車速の低下などによってエンジン回転数がフューエルカット復帰回転数にまで低下すると、エンジン1に対する燃料の供給が再開される。その場合の燃料の供給量は、エンジン1をアイドル回転数に維持できる量、もしくはそれを基準にして補正した量である。
【0016】
そのエンジン1が出力したトルクは、駆動輪2に伝達されて車両が走行し、また車両の有する走行慣性力が駆動輪2からエンジン1に伝達されて、車両の減速時にエンジン1が強制的に回転させられる。このようなトルクの伝達を行う機構が伝動機構であって、図2に示す例では、エンジン1の出力側に自動変速機などの変速機(T/M)3が連結され、その出力側にプロペラシャフト4を介して終減速機であるデファレンシャル5が連結され、そのデファレンシャル5から左右の車軸6を介して駆動輪2に動力を伝達するように構成されている。
【0017】
そして、エンジン1に対する燃料の供給、およびその停止、ならびに出力トルクなどの制御を行う電子制御装置(E−ECU)7が設けられている。この電子制御装置7は、マイクロコンピュータを主体にして構成され、アクセル開度などの出力要求量、車速、エンジン回転数、エンジン水温、排気浄化触媒の温度などの入力されるデータ、および予め記憶しているデータ、ならびに所定のプログラムを使用して演算を行い、その演算の結果を制御指令信号としてエンジン1に対して出力し、燃料の供給やその停止、および出力トルクなどを制御するように構成されている。その出力トルクの制御は、例えば、吸入空気量や燃料供給量を変化させることによって行い、また一時的には点火時期を変化させて行うことができる。すなわち、点火時期をいわゆる遅角することにより出力トルクが低下し、進角することにより出力トルクが増大する。
【0018】
上述した伝動機構は、変速機3や各シャフト4,6などの構成部材自体が完全な剛体ではなく、また各構成部材を連結している部分にも相対的な回転を許容する弾性が存在するので、全体として弾性系を構成している。そのため、伝動機構に作用するトルクが急激に変化した場合には、捩りおよびその戻りによる捩り振動が発生することがあり、その捩り振動周波数は、伝動機構の全体として捩り特性(弾性係数や慣性質量、捩り摩擦力など)に依存したものとなっている。これに対して、前述したフューエルカット制御から復帰すると、それまではいわゆるポンピングロスによって負のトルクを発生していたエンジン1が燃料の供給再開によって正のトルクを発生し始めるので、伝動機構に作用するトルクが急激に変化する。このようなトルクの変化によって伝動機構に捩り振動が生じることを防止もしくは抑制するために、この発明に係る制御装置は、以下に述べる制御を実行するように構成されている。
【0019】
図1はその制御例を説明するためのフローチャートであり、フューエルカット制御から復帰する際のエンジントルクの制御として、当初は第1のトルク制御を行い、所定の条件が成立した場合に第2のトルク制御に切り替えるように構成されている。その第1のトルク制御は、伝動機構に生じる捩り振動に対する振動逆モデルを使用してエンジントルク指令値を求めてエンジントルクを制御するものであり、車両の工場出荷直後から実行され、あるいは伝動機構を構成している部品を交換するなどの大規模なオーバーホールを実行した直後に実行される制御である。具体的には、図1に示すように、第1のトルク制御を開始(ステップS10)した後、フューエルカット(F/C)制御復帰フラグがONか否かが判断される(ステップS11)。その復帰フラグは、図示しないフューエルカット制御ルーチンの中でON・OFFに設定されるいわゆるプログラムスイッチであり、車両の走行慣性力で強制的に回転させられて燃料の供給が停止されていたエンジン1の回転数が低下し、フューエルカット復帰回転数に到ること、すなわち燃料の供給を再開する条件が成立することによりONに切り替えられるフラグである。なお、図1に示すルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行され、したがって上記の復帰フラグがOFFからONに切り替わるのとほぼ同時にステップS11で肯定的に判断される。すなわち、フューエルカット制御からの復帰をステップS11で判定していることになる。
【0020】
フューエルカット制御が継続されていて前記復帰フラグがOFFのままであることによりステップS11で否定的に判断された場合には、ステップS10に戻って図1のルーチンを再度実行する。これに対してステップS11で肯定的に判断された場合、すなわち復帰フラグがONになった場合、フューエルカット制御復帰時の指令トルクを、伝動機構についての振動逆モデル伝達関数を使用して求め、これをエンジン1の最終トルク指令値とする(ステップS12)。
【0021】
ここで、変速機3のバネ定数をK、粘性項をC、慣性質量をI、プロペラシャフト4のバネ定数をK、粘性項をC、慣性質量をIとする。なお、これらは実験結果から同定して求めることができる。そして、
=K・K
=K・C+K・C
=K・I+C・C+K・I+K・I
=C・I+C・I+C・I
=I・I
=K・K
=K・C+K・C
=C・C
と置くと、伝動機構の挙動は下記の伝達方程式で表される。
【数1】

なお、Sはラプラス演算子である。
【0022】
これに対して振動逆モデルは、上記の(1)式から算出される振動に対して、逆方向で同じ大きさの起振力を与える振動モデルであり、上記の(1)式から求められた下記の(2)式で与えられる。
【数2】

【0023】
この(2)式に基づいて求められたトルク指令値がエンジン最終トルク指令値であり、その演算に続けてフューエルカット復帰制御が実行される(ステップS13)。これと同時にエンジントルクが上記の最終トルク指令値によって制御され、したがってフューエルカット制御からの復帰に伴ってエンジン1が自立回転し、トルクを出力するようになるとしても、伝動機構でのトルク変化に伴う捩り振動が抑制される。
【0024】
フューエルカット制御から復帰した直後のエンジントルクを上記のように制御している状態における予め定めた所定のt秒間における車両の前後加速度Gの最大値Gmax と最小値Gmin との偏差の絶対値が求められ、その偏差が所定の閾値Gs を超えているか否かが判断される(ステップS14)。その閾値Gs は、実験やシミュレーションなどによって得れたデータに基づいて設計上適宜に設定した値であってよく、また後に説明する第2のトルク制御が正常に行われている際の所定時間t秒間内に生じる前後加速度Gの最大値Gmax と最小値Gmin との差、もしくはその差の平均値である。なお、その所定時間tは、搭乗者が前後振動を体感する最短の時間として実験などによって予め設定した時間である。このステップS14で否定的に判断された場合には、上記の振動逆モデルを用いたエンジントルク制御によって捩り振動が所期通りに抑制されていることになるので、ステップS10に戻って第1のトルク制御を継続する。
【0025】
これとは反対に前後加速度Gが大きく変化していることによりステップS14で肯定的に判断された場合には、上述した第1のトルク制御に替えて第2のトルク制御が実行される。前述した振動逆モデルは、伝動機構の捩り特性に基づいて設定されるモデルであるから、車両を長期間使用してその捩り特性が変化した場合、既に設定されている振動逆モデルは車両の捩り特性を反映していないことになる。そのため、このような事態に到ると、上記の振動逆モデルを使用したエンジントルク制御では、フューエルカット制御から復帰した直後の捩り振動を所期通りには抑制できない。そこで、この発明では、捩り振動抑制のためのトルク制御の内容を変更することとしたのである。
【0026】
その第2のトルク制御を具体的に説明すると、先ず、第2のトルク制御を開始(ステップS20)した後、フューエルカット(F/C)制御復帰フラグがONか否かが判断される(ステップS21)。この判断ステップは、前述した第1のトルク制御におけるステップS11と同様の判断ステップである。フューエルカット制御が継続して実行されていることによりステップS21で否定的に判断された場合には、ステップS20に戻って第2のトルク制御が最初から再度開始される。
【0027】
これとは反対にフューエルカット制御からの復帰フラグがONとなったことによってステップS21で肯定的に判断された場合には、フューエルカット制御復帰時の指令トルクをバンドパスフィルタによって処理した値をエンジン1の最終トルク指令値とする(ステップS22)。ここで、フューエルカット制御復帰時の指令トルクは、前述した(1)式の運動方程式から求められる。これに対してバンドパスフィルタはその指令トルクから、伝動機構の捩り振動周波数帯域の振動成分を除去するように設計されたフィルタである。このようなフィルタは、実際の車両における伝動機構の捩り振動を計測し、そのトルク振動をFFT(高速フーリエ変換)解析した結果から、ピークとなる周波数のみを通さないフィルタを設計することにより得られる。なお、その際の計算は、市販の計算ソフトによって行うことができる。
【0028】
上記のようにしてエンジン最終トルク指令値を求めるとともに、フューエルカット復帰制御が実行され(ステップS23)、ついでステップS20に戻って第2のトルク制御が継続される。なお、そのエンジントルク制御は、具体的には、エンジン1における点火時期の遅角量を変化させることにより実行される。したがって、フューエルカット制御から復帰した直後のエンジントルク指令値は、伝動機構の捩り振動周波数成分のうち振動がピークとなる周波数成分を含む所定の帯域の周波数成分を除去したものとなるから、フューエルカット制御からの復帰に伴ってエンジン1が自立回転し、トルクを出力するようになるとしても、伝動機構でのトルク変化に伴う捩り振動が抑制される。
【0029】
この第2のトルク制御における前述したフィルタは、そのフィルタの設計時における伝動機構の捩り特性に基づいたものであるが、除去する捩り振動周波数帯域は、振動のピークとなる周波数成分に限らず、これを含む所定の帯域幅の成分である。したがって、この第2のトルク制御を実行する条件として、伝動機構の捩り特性が変化し、前述した第1のトルク制御では捩り振動を所期通りに抑制できないとしても、第2のトルク制御では、捩り特性の変化により変化した、振動のピークとなる周波数がフィルタによって除去される周波数帯域に入っていてトルク指令から除去されるから、伝動機構の捩り振動を抑制することができる。
【0030】
ここで上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図1に示すステップS11〜S13を実行する機能的手段が、この発明における第1トルク制御手段に相当し、またステップS21〜S23を実行する機能的手段が、この発明における第2トルク制御手段に相当し、さらにステップS14を実行する機能的手段が、この発明における捩り特性検出手段およびトルク制御選択手段に相当する。
【0031】
なお、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、例えば捩り特性検出手段は、変速機3における所定の回転部材やプロペラシャフト4など、伝動機構を構成している回転部材の回転数の変化、あるいはその回転角速度の変化に基づいて捩り特性の変化を検出し、もしくは判定するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1…エンジン、 2…駆動輪、 3…変速機(T/M)、 4…プロペラシャフト、 5…デファレンシャル、 6…車軸、 7…電子制御装置(E−ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが出力したトルクを捩り振動系を構成している伝動機構を介して駆動輪に伝達するとともに、減速時のエンジン回転数が予め定めた所定回転数以上の場合に前記エンジンに対する燃料の供給を停止し、かつエンジン回転数が前記回転数未満となった場合に前記エンジンに対する燃料の供給を再開する、車両の駆動力制御装置において、
前記エンジンに対する燃料の供給を再開した後の前記エンジンのトルク指令値として、前記伝動機構の捩り振動周波数帯の成分をフィルタ処理によって除去した指令値を求める第1トルク制御手段と、
前記伝動機構における捩り振動とは逆の振動を生じる振動逆モデルを想定し、その振動逆モデルにおける伝達関数を使用して、前記エンジンに対する燃料の供給を再開した後の前記エンジンのトルク指令値を求める第2トルク制御手段と、
前記伝動機構における捩り振動特性が変化したことを検出する捩り特性検出手段と、
前記伝動機構における捩り振動特性が変化したことが前記ねじり特性検出手段で検出された場合には、前記燃料の供給を再開した後の前記エンジンのトルク指令値を求める手段として前記第1トルク制御手段を選択するトルク制御選択手段と
を備えていることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記捩り特性検出手段は、前記第2トルク制御手段で求めたトルク指令値で前記エンジンの出力トルクを制御している状態における所定時間内での前記車両の前後加速度の最大値と最小値との差が予め定めた基準値より大きいことにより前記伝動機構における捩り振動特性が変化したことを検出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記基準値は、前記第1トルク制御手段によって前記燃料の供給を再開した後の前記エンジンのトルク指令値を求めてエンジントルクを制御している状態における前記所定時間内での前記車両の前後加速度の最大値と最小値との差を含むことを特徴とする請求項2に記載の車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−185146(P2011−185146A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50780(P2010−50780)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】