説明

車両制御装置

【課題】車高の調整時に車両の各部にかかる負担を軽減する。
【解決手段】車高調整手段は、車両のばね上とばね下の間に車輪毎に介装され車体と車輪の間の距離を変えることで車高を調整する。ブレーキ設定部118は、車高調整手段による車高調整の実行中に車輪の回転を許すように制動手段によって発生する制動力を低下させる。ブレーキ設定部118は、傾斜測定部112により測定された路面の傾斜の大きさに応じて異なる制動力を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車高調整機構を備えた車両の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、路面状態や走行特性に合わせて車高を調整する機能を持った車両が知られている。例えばエアスプリングを各車輪に備える車輪では、エアスプリング内の空気量を増減させることで車高を調整することができる。
【0003】
エアスプリングの圧力を上げ車高を高くする場合、ホイールベースが通常の状態より短くなるため、前輪は後方に、後輪は前方に回転しようとする回転力が発生する。このとき、ブレーキがかけられて前輪および後輪の動きが規制されていると、アブソーバのストローク負荷によって各部材に無理な力が加わるため、そのまま動作を続けると、車両各部に損傷を与えたり、車高調整に時間がかかるなどの不都合が生じ得る。
【0004】
このような事態を防止すべく、特許文献1には、エアスプリング内の圧力を上昇するとき前輪ブレーキ装置による前輪の制動を解除するよう構成された車高調整装置が開示されている。また、特許文献2には、駐車制動手段により全車輪に制動力が付与された状態下での車高調整時に、駐車ブレーキ強制解除手段により前輪または後輪の制動力を解除する駐車ブレーキ装置が開示されている。
【特許文献1】特開平7−237530号公報
【特許文献2】特開2000−142340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、制動力を単に解除してしまうと、車高調整中に車両が動き出してしまうおそれがある。また、運転者が常用ブレーキ(フットブレーキ)を自分で踏んだときは、駐車ブレーキを解除しても前後輪の回転が規制されてしまう。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、車高の調整時に車両の各部にかかる負担を軽減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、車両制御装置である。この装置は、車両のばね上とばね下の間に車輪毎に介装され車体と車輪の間の距離を変えることで車高を調整する車高調整手段と、車輪を制動する制動手段と、前記車高調整手段による車高調整の実行中に車輪の回転を許すように前記制動手段によって発生する制動力を低下させる制動力設定手段と、車両が位置する路面の傾斜を測定する傾斜測定手段と、を備える。前記制動力設定手段は、前記傾斜測定手段により測定された路面の傾斜の大きさに応じて異なる制動力に設定する。
【0008】
この態様によると、車高調整時に制動力を低下させることによって、前輪または後輪が回転できるようにする。このときの制動力は、路面の傾斜の大きさに応じて設定されるので、車高調整中に車両が動き出すことが防止される。この状態で、車高調整手段によって車体と車輪の間の距離が変えられると、前輪または後輪が若干量回転してホイールベース間の距離の変化を吸収するので、車両の各部に余分な力が加わることがない。また、余分な力を消費しないため、車高調整を素早く実行することができる。
【0009】
前記制動手段は常用ブレーキと駐車ブレーキの両方を含んでもよい。これによって、車高調整時に運転者が自発的にブレーキをかけた場合でも、制動力を低下させて車高調整に与える影響を軽減することができる。
【0010】
前記制動力設定手段は、前記傾斜測定手段により路面が平らであると判定されたとき、常用ブレーキと駐車ブレーキの両方による制動を解除してもよい。路面が平らであれば、車高調整中に車両が動き出す心配は低いため、車両に制動力が発生していなくてもよい。
【0011】
前記制動力設定手段は、前記傾斜測定手段により路面が傾斜していると判定されたとき、駐車ブレーキによる制動を維持する一方、常用ブレーキの制動力を所定の目標値に設定してもよい。路面が傾斜している場合は、駐車ブレーキによって車両の動き出しを防止するとともに、常用ブレーキを解除して車高調整中に車輪が回転できるようにする。
【0012】
前記制動力設定手段は、少なくとも車高調整が実行される車輪の常用ブレーキまたは駐車ブレーキを解除するようにしてもよい。車高調整が実行される車輪のみ制動力を低下させれば車高調整には問題がないので、いたずらに制動力を落とす必要がなくなる。
【0013】
車速を監視する監視手段をさらに備え、前記制動力設定手段は、前記監視手段により車両が動き出したことが検知された場合、車両が停止するまで常用ブレーキの制動力を増加させてもよい。常用ブレーキの制動力を所定の目標値に低下させたときでも、路面との摩擦力が想定値よりも小さかったりブレーキパッドが摩耗していたりして、想定通りの制動力が発生しない場合がある。そこで、車両が傾斜した路面にあるときは車速を監視しておき、車両が動き出したときは車両が停止するまで制動力を増加させるようにすることで、車高調整中の安全を確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車高調整機構を備えた車両において、車高の調整時に車両の各部にかかる負担を軽減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両制御装置を備えた四輪の車両10の模式図である。なお、図1では、説明を簡単にするために懸架装置を平面的に表しているが、実際の車両においては、懸架装置の機能を発揮するために適切な空間配置で、例えばナックル、タイロッド、アッパーアーム、ロアアームなどの他の部品と既知の方法で組み合わせて構成される。以下では、車両の前輪14FR、14FLおよび後輪14RR、14RLを総称する場合は「車輪14」と呼ぶ。
【0016】
車両10の車体12と各車輪14の間には、空気ばね16とアブソーバ18を組み合わせて構成されるエアサスペンション装置が装着されている。空気ばね16は、アブソーバ18を取り囲むように形成されたエアチャンバ20に圧縮空気を充填することで実現される。エアチャンバ20内の圧縮空気がばねとして作用し、車輪14を弾性支持することによって、車輪14の衝撃が車体12に直接的に伝達されることを防止する。また、エアチャンバ20の容積を変化させることで、車輪14毎に車高を調整することができる。アブソーバ18は、車両のばね上とばね下の間に減衰力を発生させる。なお、本明細書において、空気ばね16により支えられる部材の位置を「ばね上」と呼び、空気ばね16により支えられていない部材の位置を「ばね下」と呼ぶ。すなわち、ばね上は車体12側であり、ばね下は車輪14側である。空気ばね16とアブソーバ18とは一体的に構成されることが省スペースの観点から好ましいが、別々に設けられていてもよい。
【0017】
各車輪14の近傍には、車輪位置での車高を検出する車高センサ104がそれぞれ配置されている。この車高センサ104は、車軸と車体とを連結したリンクの変位を測定することで、車体12と車輪14との相対距離を検出するものでもよいし、または車体と路面の間の距離をレーザなどで測定するものでもよい。車高センサ104の検出信号は、車体12に備えられる電子制御装置100(以下「ECU100」と表記する)に送られる。
【0018】
車体12には、空気ばね16のエアチャンバ内の空気圧を検出するための空気圧センサ106が車輪毎に設けられている。この空気圧センサ106は、例えば、エアチャンバに連通した通路内に設けた薄膜の変位を電気的に検出して空気圧を測定するタイプのものである。空気圧センサ106の検出信号は、ECU100に送られる。
【0019】
空気ばね16のエアチャンバ20は、空気供給ライン190と連通している。空気供給ライン190の途中には、各車輪14に対応してそれぞれ空気圧制御バルブ140が設けられている。この空気圧制御バルブ140は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100からの信号に応じて開弁状態と閉弁状態とに切り換えることができる。これによって、空気供給ライン190を介してエアチャンバ20内部に空気を供給し、また内部から空気を排出することができる。
【0020】
車体12には、空気供給ライン190に圧縮空気を供給するためのコンプレッサ160が備えられている。モータ162は、コンプレッサ160に動力を供給する。モータ162が回転すると、空気吸入口164を介して外部から空気が取り込まれ、コンプレッサ160により圧縮される。圧縮された空気は、ドライヤ174に流入する。ドライヤ174は、シリカゲル等の乾燥剤を収容しており、流入した空気を乾燥して空気供給ライン190に供給する。
【0021】
車体12には、コンプレッサ160から供給される圧縮空気を蓄えることのできる高圧タンク166と、高圧タンクへの空気の流出入を制御する高圧タンクバルブ168が設けられていてもよい。高圧タンク166は、コンプレッサ160から圧縮空気を送り込むことで、例えば700〜800kPaに維持されている。高圧タンク166とコンプレッサ160の両方から圧縮空気を空気供給ライン190に供給することで、空気ばねの増圧時の応答性を向上させることができる。したがって、コンプレッサ160の能力が十分であれば、高圧タンク166を車体12に備えていなくてもよい。
【0022】
ドライヤ174から供給された空気は、逆止弁178を経由して、エアチャンバ20に連通する空気供給ライン190に流入する。逆止弁178は、コンプレッサ160側から空気が供給されると開放して、空気供給ライン190に空気を流すが、空気供給ライン190側からの空気が流れると閉弁する。この逆止弁178をバイパスするように、絞り176が設けられている。空気供給ライン190からの空気は、絞り176に流入して、流速を低下させられてからドライヤ174に流入する。こうすることによって、ドライヤ174のシリカゲルに吸収された水分を還元することができる。ドライヤ174を通過した空気は、排気バルブ170を介してサイレンサ172から車外に放出される。
【0023】
ECU100は、各車輪の空気ばね16の制御を実行する。ECU100は、空気圧制御バルブ140、排気バルブ170、高圧タンクバルブ168、コンプレッサ160を駆動するモータ162と電気的に接続されている。車室内に設けられた車高調整スイッチ102が運転者によってオンにされると、ECU100は、上記の制御バルブおよびモータに適宜制御信号を出力して、適切なばね係数を発揮し、または設定した車高に調整する。
【0024】
車輪速センサ107は、少なくとも車輪14の一つの近傍に設けられ、車輪の回転数を検出してECU100に送信する。加速度センサ108は、車体に設けられ、車両の前後加速度および左右加速度を検出してECU100に送信する。
【0025】
図2は、車両10に備えられる車両制動装置200の構成を示す。車両制動装置200はいわゆる電子制御ブレーキ(ECB:Electronically Controlled Brake)であり、ブレーキペダルの操作量をセンサで検知し、車室内に設けられたブレーキペダルの操作に応じて発せられるECU100からの指令に応じて、四輪独立してブレーキを作動させることができる。以下、車両制動装置200によるブレーキのことを「常用ブレーキ」とも呼ぶ。
【0026】
ブレーキペダル72にはその踏み込みストロークを検出するストロークセンサ46が設けられている。マスタシリンダ74は、運転者によるブレーキペダル72の踏み込み操作に応じ、作動液であるブレーキオイルを圧送する。
【0027】
マスタシリンダ74には右前輪用のブレーキ油圧制御導管76および左前輪用のブレーキ油圧制御導管78の一端が接続され、これらのブレーキ油圧制御導管はそれぞれ、右前輪および左前輪の制動力を発揮する右前輪14FR用および左前輪14FL用のホイールシリンダ15FR、15FLに接続されている。右前輪14FR用および左前輪14FL用のブレーキ油圧制御導管76、78の途中には、右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLが間挿されている。右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは非通電時に開状態にあり、ブレーキ操作を検出した際に閉状態に切り替わる(これを「常開型」と呼ぶ)電磁弁である。
【0028】
また、ブレーキ油圧制御導管76、78の途中には、それぞれ右前輪14FR側および左前輪14FL側のマスタシリンダ液圧を計測する右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。運転者によってブレーキペダル72が踏まれたとき、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、ストロークセンサ46の故障を想定し、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによるマスタシリンダ液圧の計測によってもブレーキペダル72の踏み込み操作力が検出される。マスタシリンダ液圧をふたつの圧力センサで監視するのは、フェイルセーフの観点による。
【0029】
マスタシリンダ74にはリザーバタンク26が接続され、また、開閉弁23を介して、運転者の操作量や反力を創出するストロークシミュレータ24が接続される。開閉弁23は、非通電時に開状態にあり、ブレーキ操作時に開状態に切り替わる常開型の電磁弁である。リザーバタンク26には油圧給排導管28の一端が接続される。油圧給排導管28にはモータ32により駆動されるオイルポンプ34が設けられている。オイルポンプ34の吐出側は高圧導管30になっており、アキュムレータ50とリリーフバルブ53が設けられている。アキュムレータ50はオイルポンプ34によって例えば14〜22MPaという範囲(以下「制御範囲」という)の高圧にされたブレーキオイルを蓄積する。リリーフバルブ53は、アキュムレータ圧が異常に高く、例えば25MPaといった高圧になったとき開き、油圧給排導管28へ高圧のブレーキオイルを逃がす。
【0030】
高圧導管30にはアキュムレータ圧を計測するアキュムレータ圧センサ51が設けられる。後述のECU100にはアキュムレータ圧センサ51の出力であるアキュムレータ圧が入力され、このアキュムレータ圧が制御範囲に収まるようモータ32を制御する。
【0031】
高圧導管30は、それぞれ非通電時は閉じた状態(これを「常閉型」という)にあり、必要なときにホイールシリンダの増圧用に利用される電磁流量制御弁、すなわちリニア弁である増圧弁40FR、40FL、40RR、40RLを介し、右前輪14FRのホイールシリンダ15FR、左前輪14FLのホイールシリンダ15FL、右後輪14RR用のホイールシリンダ15RR、左後輪14RL用のホイールシリンダ15RL(以下、これらを総称して「ホイールシリンダ15」という)に接続されている。以下、増圧弁40FR、40FL、40RR、40RLを総称するときは符号40を用いる。
【0032】
車両の右前輪14FR、左前輪14FL、右後輪14RR、左後輪14RLには、ディスクブレーキが設けられており、それぞれホイールシリンダ15FR、15FL、15RR、15RLの駆動によりブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発揮するようになっている。
【0033】
右前輪のホイールシリンダ15FRと左前輪のホイールシリンダ15FLは、必要なときに減圧用に利用される電磁流量制御弁、すなわちリニア弁である常閉型の減圧弁42FR、42FLを介して油圧給排導管28へ接続されている。また、右後輪用のホイールシリンダ15RR、左後輪用のホイールシリンダ15RLは、それぞれ常開型の減圧弁42RR、42RLを介して油圧給排導管28へ接続されている。以下、減圧弁42FR、42FL、42RR、42RLを総称するときは符号42を用いる。
【0034】
右前輪、左前輪、右後輪、左後輪のホイールシリンダ15FR、15FL、15RR、15RL付近には、それぞれホイールシリンダ内の液圧を計測する右前輪用、左前輪用、右後輪用、左後輪用の圧力センサ44FR、44FL、44RR、44RLが設けられている。
【0035】
ECU100は、電磁開閉弁22FR、22FL、開閉弁23、モータ32、4個の増圧弁40FR、40FL、40RR、40RL、および4個の減圧弁42FR、42FL、42RR、42RLを制御する。ECU100はマイクロコンピュータによる演算ユニット、各種制御プログラムを格納するROM、およびデータ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMなどを備える。
【0036】
詳細は図示しないが、演算ユニットには、右前輪用、左前輪用、右後輪用、左後輪用の圧力センサ44FR、44FL、44RR、44RLから、それぞれ、右前輪のホイールシリンダ15FR内の圧力信号、左前輪のホイールシリンダ15FL内の圧力信号、右後輪用のホイールシリンダ15RR内の圧力信号、左後輪用のホイールシリンダ15RL内の圧力信号(以下、総括的にホイールシリンダ液圧信号という)が入力される。さらに、演算ユニットには、ストロークセンサ46からはブレーキペダル72の踏み込みストロークを示す信号(以下ストローク信号という)が、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLからはマスタシリンダ液圧を示す信号(以下マスタシリンダ液圧信号という)が、アキュムレータ圧センサ51からはアキュムレータ圧を示す信号(以下アキュムレータ圧信号という)が入力される。
【0037】
ECU100のROMは所定の制動制御フローを記憶している。演算ユニットはストローク信号とマスタシリンダ液圧信号に基づき車両の目標制動力を演算し、演算された目標制動力に基づいて各輪の目標ホイールシリンダ液圧を演算し、各輪のホイールシリンダ液圧が目標ホイールシリンダ液圧になるよう、増圧弁40および減圧弁42を制御する。
【0038】
図示しないが、車両10の各車輪14には、周知の駐車ブレーキも設けられている。駐車ブレーキはいわゆる電子制御駐車ブレーキ(EPB:Electric Parking Brake)であり、車室内に設けられた駐車ブレーキスイッチの操作に応じて発せられるECU100からの指令に応じて、駐車ブレーキに制動力が発生する。駐車ブレーキは周知の技術であるので、これ以上の説明は省略する。
【0039】
図3は、ECU100の構成を示す機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0040】
車速計測部110は、車輪速センサ107からの車輪速信号に基づいて車速を計算する。傾斜測定部112は、加速度センサ108からの前後加速度および左右加速度の信号に基づいて、路面の傾斜角度を求める。
【0041】
車高制御開始判定部116は、車高調整スイッチ102がオンにされると、車両が停止しているか否かを判定する。車両が停止していると、路面の傾斜角度に基づいて、路面が平地か坂路かを判定する。例えば、傾斜角度が所定のしきい値(例えば、1度)未満であれば平地と判定し、それ以上であれば坂路と判定する。
【0042】
ブレーキ設定部118は、変速機のシフトレバーが駐車(P)位置にあるか否かを判定する。駐車位置にない場合は、車高調整を中止してもよいし、シフト制御部122に対してシフトレバーを駐車位置にまで自動的に動かすよう指令してもよい。運転者にシフトレバーを駐車位置に入れるように音声等で指示するようにしてもよい。続いて、路面の傾斜角度に応じて、予め定められている目標制動力を選択する。この目標制動力は、路面の傾斜角度毎に、車輪の若干量の回転を許して車高制御の応答速度に影響でない程度まで小さく、かつ車高調整の間車両が動くことがないように定められた制動力の値である。この目標制動力は、実車を用いた実験やシミュレーションによって決定することができる。
【0043】
ブレーキ設定部118は、常用ブレーキ制御部124に対して、常用ブレーキの制動力を目標制動力まで下げるように指令する。また、ブレーキ設定部118は、駐車ブレーキ制御部126に対して、平地であれば駐車ブレーキを解除し、坂路であれば駐車ブレーキを作動させるように指令する。これによって、車高調整時に運転者が自発的にブレーキをかけた場合でも、制動力を低下させて車高調整に与える影響を軽減することができる。
坂路の場合、上述の目標制動力は、駐車ブレーキにより発生する制動力を考慮して設定されることが好ましい。
【0044】
ブレーキ設定部118によって常用ブレーキと駐車ブレーキが制御されると、車高調整部120は上述の車高調整装置を用いて車高を調整する。
【0045】
車速監視部114は、路面が坂路であると判定されたとき、車高調整中に車速を受け取り車両が動き出さないように監視する。車速が0でなくなり車両が動き出しことを検知すると、車速監視部114は、ブレーキ設定部118に対し車両を停止させるように指令する。ブレーキ設定部118は、常用ブレーキ制御部124に対して、車両が停止するまで制動力を増加させるよう指令する。
【0046】
図4は、本実施形態にしたがった車両制御のフローチャートである。
車高調整スイッチ102がオンにされると(S10のY)、車高制御開始判定部116は、車速が0km/hであるか否か、つまり車両が停止しているか否かを判定する(S12)。車両が停止していなければ(S12のN)、このフローを終了する。車両が停止していれば(S12のY)、車高制御開始判定部116は、路面が平地であるか坂路であるかを判定する(S14)。
【0047】
路面が平地であれば(S14のY)、ブレーキ設定部118は、シフトレバーが駐車位置にあることを確認した後(S16)、常用ブレーキおよび駐車ブレーキを解除する(S18)。路面が平らであれば、車高調整中に車両が動き出すおそれが低いため、車両に制動力が発生していなくてもよいからである。但し、安全のために常用ブレーキを完全に解除せず、わずかに制動力が発生するように設定してもよい。その後、車高調整部120が車高調整を開始する(S20)。車高調整が終了したら、ブレーキ設定部118は速やかに駐車ブレーキを再び作動させることが好ましい。
【0048】
路面が坂路であれば(S14のN)、ブレーキ設定部118は、シフトレバーが駐車位置にあることを確認した後(S22)、駐車ブレーキを作動させたまま、常用ブレーキの制動力を所定の目標制動力にまで低下させる(S24)。このように、路面が傾斜している場合は、駐車ブレーキの作動によって車両の動き出しを防止するとともに、常用ブレーキをできるだけ低下させて車高調整中に車輪が回転できるようにする。傾斜角度が比較的小さい場合は、駐車ブレーキだけで車両の動き出しを防止できるため、常用ブレーキを解除してもよい。
その後、車高調整部120は車高調整を開始する(S26)。車速監視部114は、車両が移動を始めないか監視を続け、車両が移動すると(S28のY)、ブレーキ設定部118は常用ブレーキの制動力を増加させて、車両を停止させる(S30)。車両が移動しなければ(S28のN)、このフローを終了する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、制動力を所定の目標制動力に低下させることによって、車高調整中に前輪または後輪が回転できるようにする。したがって、車高調整手段によって車体と車輪の間の距離が変えられると、前輪または後輪が若干量回転してホイールベース間の距離の変化を吸収するので、車両の各部に余分な力が加わることがない。一般に、ブレーキをかけた状態で車高調整を実行すると、車輪の周方向の動きが規制され接地点が動かないため、車高制御の応答性が悪化する。本実施形態では、そのような影響はない。
【0050】
また、目標制動力は路面の傾斜の大きさに応じて設定されるので、車高調整中に車両が動き出すことが防止される。したがって、車両の安全を損なうことなく車高調整を行える。
【0051】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組合せ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組合せなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【0052】
ブレーキの制動力の低下は、車両の全輪に対して実行する必要はなく、車高制御実行中の車輪に対してのみ実行してもよい。車高調整が実行される車輪のみ制動力を低下させれば車高調整には問題がないので、いたずらに制動力を落とす必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両制御装置を備えた四輪の車両の模式図である。
【図2】車両に備えられる車両制動装置の構成を示す図である。
【図3】ECUの構成を示す機能ブロック図である。
【図4】本実施形態にしたがった車両制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
100 ECU、 102 車高調整スイッチ、 107 車輪速センサ、 108 加速度センサ、 110 車速計測部、 112 傾斜測定部、 114 車速監視部、 116 車高制御開始判定部、 118 ブレーキ設定部、 120 車高調整部、 122 シフト制御部、 124 常用ブレーキ制御部、 126 駐車ブレーキ制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のばね上とばね下の間に車輪毎に介装され車体と車輪の間の距離を変えることで車高を調整する車高調整手段と、
車輪を制動する制動手段と、
前記車高調整手段による車高調整の実行中に車輪の回転を許すように前記制動手段によって発生する制動力を低下させる制動力設定手段と、
車両が位置する路面の傾斜を測定する傾斜測定手段と、を備え、
前記制動力設定手段は、前記傾斜測定手段により測定された路面の傾斜の大きさに応じて異なる制動力に設定することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記制動手段は常用ブレーキと駐車ブレーキを含むことを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記制動力設定手段は、前記傾斜測定手段により路面が平らであると判定されたとき、常用ブレーキと駐車ブレーキの両方による制動を解除することを特徴とする請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記制動力設定手段は、前記傾斜測定手段により路面が傾斜していると判定されたとき、駐車ブレーキによる制動を維持する一方、常用ブレーキの制動力を所定の目標値に設定することを特徴とする請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記制動力設定手段は、少なくとも車高調整が実行される車輪の常用ブレーキまたは駐車ブレーキを解除することを特徴とする請求項3または4に記載の車両制御装置。
【請求項6】
車速を監視する監視手段をさらに備え、
前記制動力設定手段は、前記監視手段により車両が動き出したことが検知された場合、車両が停止するまで常用ブレーキの制動力を増加させることを特徴とする請求項4に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−137423(P2008−137423A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323650(P2006−323650)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】