説明

車両用ブレーキ装置

【課題】全車輪ブレーキのブレーキ作動後に、前輪または後輪に設けられるパーキングブレーキを作動せしめるようにした車両用ブレーキ装置において、全車輪ブレーキのブレーキ作動に続いてパーキングブレーキの作動を開始する際に、車両の揺り返しが生じることを抑制する。
【解決手段】第1常開型電磁弁4A,4Bを閉弁した状態で液圧源液圧路5A,5Bの液圧が所定値に達するまでポンプ15A,15Bを作動せしめることで前輪用車輪ブレーキ6A,6Cおよび後輪用車輪ブレーキ6B,6Dをブレーキ作動せしめた後にパーキングブレーキの作動によるパーキングブレーキ状態を得るにあたって、第1常開型電磁弁4A,4Bを閉弁するとともにポンプ15A,15Bを作動せしめた後で第2常開型電磁弁8B,8Dを閉弁し、第2常開型電磁弁8B,8Dの閉弁と同時または閉弁後に常閉型電磁弁78A,78Bを開弁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプの出力液圧で全車輪ブレーキをブレーキ作動せしめた後に、前輪および後輪の一方に設けられるパーキングブレーキを作動せしめてパーキングブレーキ状態を得ることを可能とした車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非ブレーキ操作時の車両の挙動制御やトラクション制御等の自動ブレーキ制御に用いられるポンプの出力液圧を用いて車輪ブレーキをブレーキ作動せしめることによって自動パーキングブレーキ状態を得るようにした車両用ブレーキ装置が、たとえば特許文献1で知られている。
【特許文献1】特開平10−76931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記特許文献1で開示されるように、非ブレーキ操作時に液圧を出力するポンプの出力液圧を用いて全ての車輪ブレーキの自動パーキングブレーキ状態を得るようにしたものでは、その自動パーキングブレーキ状態が持続する限り、前記ポンプの作動ならびにポンプの出力液圧を制御する電磁弁の作動も継続することになり、自動パーキングブレーキ状態の継続時間が長くなるとエネルギー消費の点で問題が生じる。
【0004】
一方、本出願人は、ポンプの出力液圧を利用して液圧作動式のパーキングブレーキを作動せしめ、ポンプの作動を停止した状態で自動パーキングブレーキ状態を保持し得るようにすることで電力消費量を少なくするとともに構成を簡単にした車両用ブレーキ装置を既に提案(特願2003−344995号)しており、この提案装置によれば、ポンプの出力液圧を用いた全車輪ブレーキのブレーキ作動に続いて、一部の車輪のパーキングブレーキ状態を持続させることにより、エネルギー消費量の低減を図ることが可能となるであろう。
【0005】
ところで、上記提案装置のものでは、ポンプの作動によって該ポンプの吐出側に連なる液圧源液圧路の液圧が設定圧まで達するのに応じて、ポンプの作動を停止するとともにパーキングブレーキが設けられた車輪の車輪ブレーキに連なる車輪ブレーキ側液圧路およびパーキングブレーキのパーキング用制御液圧室間に介設される電磁弁を開弁することにより、パーキングブレーキ状態を得るようにパーキングブレーキを作動せしめ、前記電磁弁を閉じることでパーキングブレーキ状態を維持するようにしている。ところが、登降坂路でのパーキングブレーキ作動時に、車両停止状態を維持するために全車輪ブレーキに液圧を作用せしめている状態に続いて前記電磁弁を開弁してパーキングブレーキへの液圧作用を開始すると、ポンプの作動が停止しているので、パーキングブレーキが設けられている車輪の車輪ブレーキだけでなく、パーキングブレーキが設けられていない車輪の車輪ブレーキもブレーキ液圧が低下してしまい、車両全体のブレーキ力の低下によって車両の揺り返しが生じる可能性がある。但し前記設定圧は、このブレーキ圧低下を見込んで車両の停止を維持し得る値に設定されている。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、全車輪ブレーキのブレーキ作動に続いてパーキングブレーキの作動を開始する際に、車両の揺り返しが生じることを抑制し得るようにした車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、ブレーキ操作に応じて液圧を出力する液圧発生手段と、前輪に装着される前輪用車輪ブレーキと、後輪に装着される後輪用車輪ブレーキと、前輪用および後輪用車輪ブレーキに個別に連なる前輪用および後輪用車輪ブレーキ側液圧路と、前輪用および後輪用車輪ブレーキ側液圧路に共通な液圧源液圧路と、非ブレーキ操作状態で液圧を出力可能として吐出側で前記液圧源液圧路に接続されるポンプと、前記液圧源液圧路および前記液圧発生手段間に介設される第1常開型電磁弁と、パーキング用制御液圧室への液圧作用に応じてパーキングブレーキ状態を得るように作動することを可能として前輪および後輪の一方に設けられるパーキングブレーキと、前輪用および後輪用車輪ブレーキ側液圧路のうち前記パーキングブレーキが設けられる側の車輪に対応するブレーキ側液圧路および前記液圧源液圧路間に設けられる第2常開型電磁弁と、前記パーキングブレーキが設けられる側の車輪に対応するブレーキ側液圧路および前記パーキング用制御液圧室間を結ぶパーキングブレーキ通路と、該パーキングブレーキ通路に介設される常閉型電磁弁と、前記ポンプ、第1常開型電磁弁、第2常開型電磁弁および常閉型電磁弁の作動を制御する制御ユニットとを備え、該制御ユニットは、第1常開型電磁弁を閉弁した状態で前記液圧源液圧路の液圧が所定値に達するまで前記ポンプを作動せしめることで前輪用車輪ブレーキおよび後輪用車輪ブレーキをブレーキ作動せしめた後に前記パーキングブレーキの作動によるパーキングブレーキ状態を得るにあたって、第1常開型電磁弁を閉弁するとともに前記ポンプを作動せしめた後で第2常開型電磁弁を閉弁し、第2常開型電磁弁の閉弁と同時または閉弁後に前記常閉型電磁弁を開弁することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記構成によれば、第1常開型電磁弁を閉弁した状態で液圧源液圧路の液圧が所定値に達するまでポンプを作動せしめることで前輪用車輪ブレーキおよび後輪用車輪ブレーキをブレーキ作動せしめた後に、パーキングブレーキの作動によるパーキングブレーキ状態を得るにあたって、第1常開型電磁弁を閉弁するとともにポンプを作動せしめることで液圧源液圧路の液圧を増大せしめ、その後で、第2常開型電磁弁を閉弁するので、パーキングブレーキが設けられていない側の車輪の車輪ブレーキのブレーキ液圧は増大し、第2常開型電磁弁の閉弁と同時または閉弁後に常閉型電磁弁を開弁することによってパーキングブレーキが設けられている側の車輪の車輪ブレーキのブレーキ液圧は低下するもののパーキングブレーキの作動が開始されることになる。すなわちパーキングブレーキの作動開始時に、パーキングブレーキが設けられていない側の車輪の車輪ブレーキのブレーキ液圧は低下することはなく増加し続けるので、登降坂路での車両停止状態を維持するために全車輪ブレーキに液圧を作用せしめている状態に続いて常閉型電磁弁を開弁してパーキングブレーキへの液圧作用を開始しても、車両全体のブレーキ力が低下するのを防止し、車両の揺り返しが生じるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0010】
図1〜図5は本発明の一実施例を示すものであり、図1は車両用ブレーキ装置の液圧回路図、図2は非パーキングブレーキ時のディスクブレーキの縦断面図、図3は図2の要部拡大図、図4はパーキングブレーキに関連する制御系の構成を示すブロック図、図5はパーキングブレーキへの液圧作用開始時のブレーキ液圧および車両揺り返しの変化を示す図である。
【0011】
先ず図1において、車両運転者のブレーキ操作量すなわち車両運転者がブレーキペダルPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧発生手段としてのタンデム型のマスタシリンダMは、リザーバ2と、第1および第2出力ポート1A,1Bとを備えており、第1出力ポート1Aは第1出力液圧路3Aに接続され、第2出力ポート1Bは第2出力液圧路3Bに接続され、マスタシリンダMからの出力液圧を検出する液圧センサ13が第2出力液圧路3Bに設けられる。
【0012】
第1および第2出力液圧路3A,3Bは、第1常開型電磁弁である第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを介して第1および第2液圧源液圧路5A,5Bに接続される。第1および第2レギュレータ弁4A,4Bは、全開状態および全閉状態を切換可能とするとともに全開および全閉間の半開状態を得ることを可能として電気的に制御されるリニアソレノイド弁である。
【0013】
第1液圧源液圧路5Aは、ディスクブレーキである左前輪用車輪ブレーキ6Aに連なる左前輪用車輪ブレーキ側液圧路7Aに常開型の電磁弁である入口弁8Aを介して接続されるとともに、ディスクブレーキである右後輪用車輪ブレーキ6Bに連なる右後輪用車輪ブレーキ側液圧路7Bに第2常開型電磁弁である入口弁8Bを介して接続される。また第2液圧源液圧路5Bは、右前輪用車輪ブレーキ6Cに連なる右前輪用車輪ブレーキ側液圧路7Cに常開型の電磁弁である入口弁8Cを介して接続されるとともに、ディスクブレーキである左後輪用車輪ブレーキ6Dに連なる左後輪用車輪ブレーキ側液圧路7Dに第2常開型電磁弁である入口弁8Dを介して接続される。さらに各入口弁8A〜8Dにはチェック弁9A〜9Dがそれぞれ並列に接続される。
【0014】
前記入口弁8A〜8Dは、全開状態および全閉状態を切換可能とするとともに全開および全閉間の半開状態を得ることを可能として電気的に制御されるリニアソレノイド弁である。
【0015】
第1出力液圧路3Aに対応した第1リザーバ12Aと、左前輪用および右後輪用車輪ブレーキ側液圧路7A,7Bとの間には常閉型の電磁弁である出口弁10A,10Bがそれぞれ設けられ、第2出力液圧路3Bに対応した第2リザーバ12Bと、右前輪用および左後輪用車輪ブレーキ側液圧路7C,7Dとの間には常閉型の電磁弁である出口弁10C,10Dがそれぞれ設けられる。
【0016】
而して、入口弁8A、チェック弁9Aおよび出口弁10Aならびに入口弁8B、チェック弁9Bおよび出口弁10Bは、左前輪用および右後輪用車輪ブレーキ側液圧路7A,7Bに第1液圧源液圧路5Aの液圧を制御して作用させ得る制御弁手段11A,11Bを構成し、また入口弁8C、チェック弁9Cおよび出口弁10Cならびに入口弁8D、チェック弁9Dおよび出口弁10Dは、右前輪用および左後輪用車輪ブレーキ側液圧路7C,7Dに第2液圧源液圧路5Bの液圧を制御して作用させ得る制御弁手段11C,11Dを構成する。
【0017】
第1および第2リザーバ12A,12Bは、回転数制御を可能とした共通な電動モータ14で駆動される第1および第2ポンプ15A,15Bの吸入側に、それらのポンプ15A,15Bへのブレーキ液の流通を許容する一方向弁16A,16Bおよび吸入弁17A,17Bを介して接続されており、第1ポンプ15Aの吐出側は吐出弁18Aおよび第1ダンパ19Aを介して第1液圧源液圧路5Aに接続され、第2ポンプ15Bの吐出側は吐出弁18Bおよび第2ダンパ19Bを介して第2液圧源液圧路5Bに接続される。
【0018】
第1出力液圧路3Aは、常閉型の電磁弁である第1サクション弁20Aを介して第1ポンプ15Aの吸入側すなわち一方向弁16Aおよび吸入弁17A間に接続され、第2出力液圧路3Bは、常閉型の電磁弁である第2サクション弁20Bを介して第2ポンプ15Bの吸入側すなわち一方向弁16Bおよび吸入弁17B間に接続される。
【0019】
而して第1および第2サクション弁20A,20Bを開弁した状態で電動モータ14を作動せしめることにより、第1および第2ポンプ15A,15Bが、マスタシリンダM側から吸入して加圧したブレーキ液を第1および第2液圧源液圧路5A,5Bに吐出することになる。この際、右後輪および左前輪用車輪ブレーキ6B,6Dに連なる車輪ブレーキ側液圧路7B,7Dに設けられた圧力センサ80A,80Bで検出されるブレーキ液圧に応じて第1および第2レギュレータ弁4A,4Bの作動を制御することにより、第1および第2液圧源液圧路5A,5Bの液圧を調圧することができ、第1および第2液圧源液圧路5A,5Bの一定液圧を各制御弁手段11A〜11Cで制御することにより、各車輪ブレーキ6A〜6Dに相互に異なるブレーキ液圧を作用せしめることができ、それにより車両走行時の挙動安定制御やトラクション制御等の自動ブレーキ制御を実行することができる。しかも第1および第2レギュレータ弁4A,4Bによって第1および第2液圧源液圧路5A,5Bの液圧を高低に変化させることができる。
【0020】
またブレーキ操作時には、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bが開弁状態とされるとともに第1および第2サクション弁20A,20Bが閉弁状態とされており、各車輪がロックを生じる可能性のないときには、各制御弁手段11A〜11Dの入口弁8A〜8Dが開弁状態とされるとともに出口弁10A〜10Dが閉弁状態とされ、マスタシリンダMの第1出力ポート1Aから出力されるブレーキ液圧は入口弁8A,8Bを介して左前輪および右後輪用車輪ブレーキ6A,6Bに作用する。またマスタシリンダMの第2出力ポート1Bから出力されるブレーキ液圧は、入口弁8C,8Dを介して右前輪用および左後輪用車輪ブレーキ6C,6Dに作用する。
【0021】
上記ブレーキ中に車輪がロック状態に入りそうになったときには入口弁8A〜8Dのうちロック状態に入りそうになった車輪に対応する入口弁が閉弁されるとともに、出口弁10A〜10Dのうち上記車輪に対応する出口弁が開弁される。これにより、ロック状態に入りそうになった車輪のブレーキ液圧の一部が第1リザーバ12Aまたは第2リザーバ12Bに吸収され、ロック状態に入りそうになった車輪のブレーキ液圧が減圧されることになる。
【0022】
またブレーキ液圧を一定に保持する際には、入口弁8A〜8Dが閉弁状態とされるとともに出口弁10A〜10Dが閉弁状態とされることになり、さらにブレーキ液圧を増圧する際には、入口弁8A〜8Dが開弁状態とされるともに、出口弁10A〜10Dが閉弁状態とされればよい。
【0023】
このように各入口弁8A〜8Dおよび各出口弁10A〜10Dの消磁・励磁を制御することにより、車輪をロックさせることなく、効率良く制動することができる。
【0024】
而して上述のようなアンチロックブレーキ制御中に、電動モータ14は回転作動し、この電動モータ14の作動に伴って第1および第2ポンプ15A,15Bが駆動されるので、第1および第2リザーバ12A,12Bに吸収されたブレーキ液は、第1および第2ポンプ15A,15Bに吸入され、次いで第1および第2ダンパ19A,19B、第1および第2液圧源液圧路5A,5B、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを経て第1および第2出力液圧路3A,3Bに還流される。このようなブレーキ液の還流によって、第1および第2リザーバ12A,12Bのブレーキ液の吸収によるブレーキペダルPの踏み込み量の増加を防ぐことができる。しかも第1および第2ポンプ15A,15Bの吐出圧の脈動は第1および第2ダンパ19A,19Bの働きにより抑制され、上記還流によってブレーキペダルPの操作フィーリングが阻害されることはない。
【0025】
図2において、右後輪用車輪ブレーキ6Bでは、車輪とともに回転するブレーキディスク24の両側に第1摩擦パッド25および第2摩擦パッド26が対向して配置される。これらの第1および第2摩擦パッド25,26は、ブレーキディスク24に当接可能なライニング25a,26aと、ライニング25a,26aの背面に固定された裏板25b,26bとで構成されるものであり、車体に固定されたブラケット27に、前記裏板25b,26bがブレーキピストン31の軸線に沿う方向に移動自在として支持される。またブラケット27には、第1および第2摩擦パッド25,26を跨ぐブレーキキャリパ28が前記ブレーキピストン31の軸線方向に移動自在に支持される。
【0026】
ブレーキキャリパ28は、第1摩擦パッド25の裏板25bに対向する第1挟み腕28aと、第2摩擦パッド26の裏板26bに対向する第2挟み腕28bとを備えており、第1および第2挟み腕28a,28bはブレーキディスク24の外周部を通る架橋部28cにより一体に連結される。第1挟み腕28aにはシリンダ孔29が設けられており、このシリンダ孔29にカップ状のブレーキピストン31がシール部材30を介して摺動自在に嵌合される。第1摩擦パッド25の裏板25bに当接可能に対向するブレーキピストン31の先端部はベローズ状のダストカバー32によってシリンダ孔29の開口端に接続され、またブレーキピストン31の背面を臨ませるブレーキ液圧室33が第1挟み腕28a内に形成され、このブレーキ液圧室33は、第1挟み腕28aに設けられるポート34を介して右後輪用車輪ブレーキ側液圧路7Bに接続される。
【0027】
前記ブレーキキャリパ28の第1挟み腕28a内には、アジャスト機構35が設けられるものであり、このアジャスト機構35は、ブレーキピストン31に相対回転不能に連結されて前記ブレーキ液圧室33に収納される調整ナット36と、該調整ナット36に前端部が螺合される調整ボルト37と、前記ブレーキ液圧室33の後部に配置されるとともに軸線まわりの回転を不能としつつ軸線方向の移動を可能としてブレーキキャリパ28に液密にかつ摺動自在に嵌合される中継ピストン38と、前記調整ボルト37の後部に一体かつ同軸に連設されて前記中継ピストン38に液密にかつ摺動自在に嵌合されるとともに前記中継ピストン38に摩擦係合する方向に弾発付勢される小ピストン39とを備える。
【0028】
ブレーキキャリパ28の第1挟み腕28aにおいてブレーキディスク24とは反対側の端部にはシリンダ孔29よりも小径の中継シリンダ孔40が同軸に設けられており、段付きの中継ピストン38の後部が、その前部をシリンダ孔29の後部に挿入しつつシール部材41を介して中継シリンダ孔40に摺動自在に嵌合される。しかもブレーキキャリパ28および中継ピストン38には、シリンダ孔29および中継シリンダ孔40と平行な軸線を有してシリンダ孔29の軸線からオフセットした位置に配置される規制ピン42の両端部が嵌合される。これにより中継ピストン38は、シリンダ孔29および中継シリンダ孔40と同軸の軸線まわりに回転することが阻止されるとともに前記軸線に沿う方向への移動を可能としてブレーキキャリパ28に支承されることになる。
【0029】
中継ピストン38には、テーパ状のクラッチ面43を前端開口部に備える小シリンダ孔44が同軸に設けられる。一方、調整ボルト37の後部には、前記クラッチ面43に摩擦係合し得る可動クラッチ体45と、前記小シリンダ孔44に液密にかつ摺動自在に嵌合する小ピストン39とが同軸にかつ一体に連設される。
【0030】
シリンダ孔29の内面に装着されたクリップ47に係合支持されるリテーナ48には、可動クラッチ体45を中継ピストン38のクラッチ面43に摩擦係合させるばね力を発揮するクラッチばね49の一端が当接され、該クラッチばね49の他端は、ボールベアリング50を介して可動クラッチ体45に当接する。
【0031】
調整ナット36および調整ボルト37は、ピッチの粗い複数条のねじ山およびねじ溝を有する早ねじ51により噛み合っている。調整ナット36をブレーキピストン31側に付勢するばね力を発揮するオーバーアジャスト防止ばね52の一端が調整ナット36に当接され、ブレーキピストン31の内面に装着されたクリップ53に係合支持されるリテーナ54に前記オーバーアジャスト防止ばね52の他端が当接、支持される。
【0032】
調整ナット36およびブレーキピストン31は、それらの当接部の凹凸係合により相対回転不能であり、かつ第1摩擦パッド25の裏板25bおよびブレーキピストン31は、それらの凹凸係合により相対回転不能である。
【0033】
このようなアジャスト機構35では、通常ブレーキ時にブレーキ液圧室33に液圧が供給されると、その液圧を受けたブレーキピストン31がシール部材30を弾性変形させながらシリンダ孔29内を図2の左側に移動し、第1摩擦パッド25をブレーキディスク24の一側面に押し付けると、その反作用でブレーキキャリパ28がブレーキピストン31の移動方向と逆方向の右側に移動し、第2挟み腕28bが第2摩擦パッド26をブレーキディスク24の他側面に押し付ける。その結果、第1および第2摩擦パッド25,26がブレーキディスク24の両面に均等な面圧で当接し、車輪を制動するブレーキ力が発生する。
【0034】
上記ブレーキ中に、ブレーキ液圧室33に供給された液圧は、調整ナット36には軸線方向の荷重を発生させることはないが、調整ナット36に噛み合う調整ボルト37と一体の可動クラッチ体45には、小ピストン39の断面積に前記液圧を乗算した大きさの右向きの荷重を発生させ、その荷重に応じた摩擦係合力が可動クラッチ体45および中継ピストン38のクラッチ面43間に作用する。
【0035】
ところで、通常ブレーキ時にはブレーキ液圧室33に作用する液圧は比較的低いため、可動クラッチ体45および中継ピストン38間に作用する摩擦係合力も比較的小さい。このため第1および第2摩擦パッド25,26のライニング25a,26aの摩耗の進行に伴ってブレーキピストン31が前進すると、調整ナット36はオーバーアジャスト防止ばね52の弾発力によりブレーキピストン31と共に前進し、調整ナット36に噛み合う調整ボルト37と一体の可動クラッチ体45が、ブレーキ液圧室33に作用する液圧およびクラッチばね49の弾発力に抗して中継ピストン38のクラッチ面43から引き離される。
【0036】
可動クラッチ体45が中継ピストン38のクラッチ面43から離れると、可動クラッチ体45に作用する液圧およびクラッチばね49の弾発力で右向きに付勢された調整ボルト37は、回転不能な調整ナット36に対して早ねじ51により相対回転しながら右向きに移動し、可動クラッチ体45が中継ピストン38のクラッチ面43に再び係合する。このとき、クラッチばね49との間に配置したボールベアリング50の作用で可動クラッチ体45のスムーズな回転が可能になる。
【0037】
このようにして、第1および第2摩擦パッド25,26におけるライニング25a,26aの摩耗が進行するに伴い、その摩耗量を補償するように調整ボルト37に対して調整ナット36が左側に相対移動するため、非制動時における第1および第2摩擦パッド25,26のライニング25a,26aとブレーキディスク24とのクリアランスを自動的に一定に保つことができる。
【0038】
ブレーキ状態を解除すべくブレーキ液圧室33に作用する液圧を減圧すると、シール部材30の変形復元力でブレーキピストン31は後退するが、その後退力が調整ナット36および調整ボルト37を介して可動クラッチ体45を中継ピストン38のクラッチ面43に係合させるため、調整ナット36に対する調整ボルト37の相対回転が規制される。したがってブレーキピストン31は調整ナット36および調整ボルト37間のバックラッシュ分のストロークしか後退することができず、第1および第2摩擦パッド25,26と、ブレーキディスク24との間には前記バックラッシュ分の適正なクリアランスが与えられる。
【0039】
また強力な制動が行われた場合には、ブレーキ液圧室33の液圧がブレーキキャリパ28を変形させるような所定値に上昇するまで上記自動調整が行われ、その液圧が前記所定値を超えると、可動クラッチ体45が中継ピストン38のクラッチ面43に液圧で強く押し付けられるため、可動クラッチ体45および中継ピストン38が相対回転不能に結合される。その結果、調整ボルト37が回転不能に拘束され、もともと回転不能な調整ナット36は調整ボルト37上に留まるため、液圧によるブレーキキャリパ28の弾性変形に伴ってブレーキピストン31が更に前進すると、オーバーアジャスト防止ばね52を圧縮しつつ、調整ナット36を残してブレーキピストン31だけが前進する。このようにして、強力な制動が行われた場合の調整ナット36および調整ボルト37間のオーバーアジャストが防止される。
【0040】
図3を併せて参照して、右後輪用車輪ブレーキ6Bには、パーキングブレーキ57が付設されるものであり、このパーキングブレーキ57は、ブレーキディスク24とは反対側に延びるようにしてブレーキキャリパ28の第1挟み腕28aに一体に連設されるケーシング56に、中継ピストン38に後方側から当接するパーキングピストン58が摺動可能に嵌合されて成る。
【0041】
ケーシング56は、前記ブレーキキャリパ28のシリンダ孔29と同軸の摺動孔61を形成するものであり、背面へのパーキング用制御液圧の作用に応じた前進作動によってパーキングブレーキ状態を得ることを可能としたパーキングピストン58が前記中継ピストン38に後方から当接するようにして前記摺動孔61に摺動可能に嵌合され、パーキングピストン58を前進位置で機械的にロックすべく前記パーキングピストン58の前進作動に応じて自動的にロック作動するとともにパーキング解除用制御液圧の作用に応じてロック解除作動するロック機構59が、前記パーキングピストン58よりも後方側でケーシング56内に設けられる。
【0042】
前記摺動孔61は、中継シリンダ孔40よりも大径にして該中継シリンダ孔40の後端に同軸に連なるパーキングピストン前部摺動孔部61aと、パーキングピストン前部摺動孔部61aよりも小径に形成されてパーキングピストン前部摺動孔部61aの後端に同軸に連なるパーキングピストン後部摺動孔部61bと、パーキングピストン後部摺動孔部61bよりも小径に形成されてパーキングピストン後部摺動孔部61bの後端に同軸に連なるロックピストン前部摺動孔部61cと、ロックピストン前部摺動孔部61cよりも大径に形成されてロックピストン前部摺動孔部61cの後端に同軸に連なるロックピストン後部摺動孔部61dとから成り、ロックピストン後部摺動孔部61dの後端はケーシング56の後端壁56aで閉じられる。
【0043】
パーキングピストン前部摺動孔部61aおよびパーキングピストン後部摺動孔部61b間でケーシング56の内面には前方に臨む環状の段部61eが形成され、パーキングピストン後部摺動孔部61aおよびロックピストン前部摺動孔部61c間でケーシング56の内面には前方に臨む環状の係止段部61fが形成され、さらにロックピストン前部摺動孔部61cおよびロックピストン後部摺動孔部61d間でケーシング56の内面には後方に臨む環状の段部61gが形成される。
【0044】
パーキングピストン58は、パーキングピストン前部摺動孔部61aに摺動可能に嵌合される大径部58aと、後方に臨む環状の段部58cを大径部58aとの間に形成して大径部58aの後部に同軸に連なるとともにパーキングピストン後部摺動孔61bに摺動可能に嵌合される小径部58bとを一体に有するものであり、このパーキングピストン58の前端中央部には、中継ピストン38を後方から押圧するための押圧ロッド58dが一体にかつ同軸に連設される。
【0045】
パーキングピストン58における段部58cおよびケーシング56の段部61e間でケーシング56およびパーキングピストン58間には環状のパーキング用制御液圧室62が形成されるものであり、パーキング用制御液圧室62を両側からシールする環状のシール部材63,64がパーキングピストン58における大径部58aおよび小径部58bの外面に装着される。しかもパーキング用制御液圧室62に臨むパーキングピストン58の受圧面積は、ブレーキ液圧室33に臨む小ピストン39の受圧面積よりも大きく設定される。
【0046】
ロック機構59は、パーキングピストン58の前進作動時には前方に向けての付勢力が作用するようにしてパーキングピストン58よりも後方側でケーシング56に摺動可能に嵌合されるとともにパーキング解除用制御圧を後方に向けて作用せしめることを可能としたロックピストン65と、前記パーキングピストン58の後部に一体かつ同軸に連設された円筒状の保持筒66と、該保持筒66の周方向複数箇所に保持筒66の半径方向に沿う方向への移動を可能として保持される球体67,67…と、前記保持筒66に軸方向相対移動可能に挿入されて前記各球体67,67…に保持筒66の内方側から接触するようにしてロックピストン65の前端に一体に連設される挿入軸68とを備える。
【0047】
ロックピストン65は、ロックピストン前部摺動孔部61cに摺動可能に嵌合される小径部65aと、前方に臨む環状の段部65cを小径部65aの後部との間に形成して小径部65aの後部に同軸に連なるとともにロックピストン後部摺動孔部61dに摺動可能に嵌合される大径部65bとを一体に備える。
【0048】
ロックピストン65における段部65cおよびケーシング56の段部61f間でロックピストン65およびケーシング56間には環状のパーキング解除用制御液圧室69が形成され、またケーシング56の後端壁56aおよびロックピストン65間にはばね室70が形成され、パーキングピストン58およびロックピストン65間でケーシング56内には、外部に開放した開放室71が形成される。
【0049】
而してロックピストン65における小径部65aの外面にはパーキング解除用制御液圧室69および開放室71間をシールする環状のシール部材72が装着され、前記ロックピストン65における大径部65bの外面にはパーキング解除用制御液圧室69およびばね室70間をシールする環状のシール部材73が装着される。
【0050】
前記後端壁56aおよびロックピストン65間にはばね74が縮設されており、ロックピストン65は前記ばね74のばね力により前方側に向けて弾発付勢されることになる。しかもばね74のばね荷重は、アジャスト機構35におけるクラッチばね49のばね荷重よりも小さく設定される。
【0051】
前記保持筒66の周方向に間隔をあけた複数箇所には保持孔75,75…が設けられており、各球体67,67…はそれらの保持孔75,75…に挿入、保持される。また前記挿入軸68は、前記パーキングピストン58が図3で示すように後退限にある状態で前記各球体67,67…をロックピストン前部摺動孔部61cに転がり接触させ得るようにして各球体67,67…に接触する前方側の小径軸部68aと、パーキングピストン58が後退限から前進するとともにロックピストン65が前進したときに前記各球体67,67…をパーキングピストン後部摺動孔部61bに接触せしめるべく保持筒66の半径方向に沿う外方側に押し上げることを可能として小径軸部68aに同軸に連なる後方側の大径軸部68bとが、前記各球体67,67…の接触箇所を小径軸部68aおよび大径軸部68b間で変化させることを可能としたテーパ状の段部68cを介して同軸にかつ一体に連設されて成るものである。
【0052】
このようなロック機構59によれば、パーキングピストン58の前進作動時にはロックピストン65がばね74のばね力によって前進することにより、該ロックピストン65の前端の挿入軸68のうち大径軸部68bで押し上げられた各球体67,67…がケーシング56の係止段部61fに係合し、それによりパーキングピストン58の後退が阻止されてパーキングブレーキ状態が維持されることになり、またパーキング解除用制御液圧をロックピストン65に作用せしめて該ロックピストン65を後退させることにより、パーキングブレーキ状態を解除することができる。
【0053】
ブレーキ液圧室33に通じる右後輪用車輪ブレーキ側液圧路7Bおよびパーキング用制御液圧室62間を結ぶパーキングブレーキ通路81Aには常閉型電磁弁78Aが介設されており、また右後輪用車輪ブレーキ側液圧路7Bは常閉型電磁弁79Aを介してパーキング解除用制御液圧室69に接続される。
【0054】
而して常閉型電磁弁78Aを開弁したときに車輪ブレーキ側液圧路7Bの液圧をパーキング用制御液圧としてパーキング用制御液圧室62に作用せしめることができ、また常閉型電磁弁79Aを開弁したときに車輪ブレーキ側液圧路7Bの液圧はパーキング解除用制御液圧としてパーキング解除用制御液圧室69に作用することになる。
【0055】
ところで、右後輪用車輪ブレーキ6Bの自動パーキングブレーキ状態を得るにあたり、図4で示すように、第1ポンプ15Aを駆動する電動モータ14、第1レギュレータ弁4A、制御弁手段11Bの入口弁8Bおよび出口弁10B、ならびに常閉型電磁弁78A,79Aの作動は制御ユニットCによって制御される。
【0056】
左後輪用車輪ブレーキ8Dは、上述の右後輪用車輪ブレーキ8Bと同様のパーキングブレーキ機構付きに構成されており、左後輪用車輪ブレーキ8Dの自動パーキングブレーキ状態を得るときには、右後輪用車輪ブレーキ8Bの場合と同様に、第2ポンプ15Bを駆動する電動モータ14と、第2レギュレータ弁4Aと、第2サクション弁20Bと、制御弁手段11Dの入口弁8Dおよび出口弁10Dと、パーキングブレーキ通路81Bに介設される常閉型電磁弁78B(図1参照)と、左後輪用車輪ブレーキ側液圧路7Dおよびロック機構間に介設される常閉型電磁弁79B(図1参照)の作動を、制御ユニットCで制御すればよい。
【0057】
自動パーキングブレーキ状態を得るときに、制御ユニットCは、車速、時間経過およびエンジンの作動状態に応じて次の第1〜第3のモードを切換えるものであり、第1のモードは、車速が一定値以下に低下したときに実行される。この第1のモードでは、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを全閉状態とし、第1および第2サクション弁20A,20Bを開弁し、電動モータ14により第1および第2ポンプ15A,15Bを駆動し、常閉型電磁弁78A,78Bを閉弁状態のままとするとともに制御弁手段11A〜11Dの入口弁8A〜8Dを開弁状態に保持し、圧力センサ80A,80Bで検出される車輪ブレーキ側液圧路7B,7Dの液圧が一定値に達するのに応じて、第1および第2サクション弁20A,20Bを閉弁し、電動モータ14による第1および第2ポンプ15A,15Bの作動を停止する。これにより、ロック機構59を非作動状態に維持するとともに、一定圧の第1および第2液圧源液圧路5A,5Bの液圧が各車輪ブレーキ側液圧路7A〜7Dを介して全ての車輪ブレーキ6A〜6Dのブレーキ液圧室33に作用することになり、全ての車輪ブレーキ6A〜6Dでブレーキピストン31を前進させ、全ての車輪ブレーキ6A〜6Dがブレーキ作動する。
【0058】
第2のモードは、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを全閉状態とすべく100%のデューティで通電していると、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bで熱害が生じる可能性があるためにエンジンの作動状態で第1のモードが所定時間たとえば30秒持続するのに応じて実行されるものであり、図5で示すように、制御ユニットCは、第2のモードの開始時刻t1で第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを全閉状態としたままで第1および第2サクション弁20A,20Bを開弁し、電動モータ14による第1および第2ポンプ15A,15Bの駆動を開始する。次いで前記開始時刻t1から設定時間T1が経過した時刻t2で、制御ユニットCは、常閉型電磁弁79A,79Bを閉弁したままで右後輪用および左後輪用車輪ブレーキ6B,6Dに対応した入口弁8B,8Dを閉弁し、その入口弁8B,8Dの閉弁と同時または閉弁後(この実施例では同時)に常閉型電磁弁78A,78Bを開弁する。
【0059】
これにより、パーキングブレーキ57が設けられていない側の車輪の車輪ブレーキである左前輪用および右前輪用車輪ブレーキ6A,6Cのブレーキ液圧は増大し続け、入口弁8B,8Dの閉弁と同時に常閉型電磁弁78A,78Bを開弁することによってパーキングブレーキ57が設けられている側の車輪の車輪ブレーキである右後輪用および左後輪用車輪ブレーキ6B,6Dのブレーキ液圧は低下するものの、パーキングブレーキ57におけるパーキング用制御液圧室62の液圧の増加が開始される。
【0060】
また前記時刻t2から時間T2が経過した時刻t3から、制御ユニットCは、入口弁8B,8Dを開弁方向に作動せしめるのであるが、その入口弁8B,8Dの開弁方向への作動制御にあたって、制御ユニットCは、入口弁8B,8Dを、その通電デューテイが100%から90%、80%…と順次低下するようにして全閉状態から全開状態へと段階的に開度を大きくする。このような入口弁8B,8Dの段階的な開度変化により、図5で示すように、右前輪用および左前輪用車輪ブレーキ側液圧路7A,7Cの液圧すなわち右および左前輪用車輪ブレーキ6A,6Cの液圧は、増加途中であるパーキング用制御液圧室62の液圧と等しくなるまで緩やかに低下していくことになり、このような右および左前輪用車輪ブレーキ6A,6Cの液圧の緩やかな低下により、液圧の急激な変化に伴う油撃が生じることを防止することが可能となる。
【0061】
パーキング用制御液圧室62の液圧の増加に伴って、パーキングピストン58が前進することになり、このパーキングピストン58の前進後に、制御ユニットCは前記常閉型電磁弁78A,78Bを閉弁する。これによりパーキング用制御液圧室62の液圧をロック状態として、パーキングピストン58の前進位置を保持することができる。
【0062】
このようにパーキングピストン58が前進作動すると、パーキングピストン58の押圧ロッド58dで中継ピストン38が前進せしめられ、中継ピストン38は、可動クラッチ体45、調整ボルト37および調整ナット36を介してブレーキピストン31を前進方向に押圧したままとなり、パーキングブレーキ状態が維持されることになる。
【0063】
このパーキングブレーキ状態を得る過程で中継ピストン38および可動クラッチ体45はパーキングピストン58による押圧力で相対回転不能に摩擦係合するため、調整ボルト37および調整ナット36の相対回転が規制される。したがって右後輪用および左後輪用車輪ブレーキ6B,6Dがパーキングブレーキとして機能するときには、アジャスト機構35による上記自動調整は行われない。
【0064】
しかもパーキング用制御液圧室62の液圧をロックすべく常閉型電磁弁78A,78Bを閉弁した後で、制御ユニットCは、第1および第2サクション弁20A,20Bを閉弁し、電動モータ14による第1および第2ポンプ15A,15Bの駆動を停止し、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを開弁方向に作動せしめるのであるが、その第1および第2レギュレータ弁4A,4Bの開弁方向への作動制御にあたって、制御ユニットCは、液圧の急激な変化に伴う油撃が生じることを防止するために、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを、その通電デューテイが100%から90%、80%…と順次低下するようにして全閉状態から全開状態へと段階的に開度を大きくするように制御する。
【0065】
第3のモードは、第2のモードの実行後にエンジンの作動が停止したときに実行されるものであり、制御ユニットCは、常閉型電磁弁79A,79Bを開弁した後に、第1および第2サクション弁20A,20Bを開弁し、電動モータ14による第1および第2ポンプ15A,15Bの駆動を開始し、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bによって第1および第2液圧源液圧路5A,5Bの液圧を前記パーキング用制御液圧室62でロックされていた液圧未満の値となるように制御し、さらに常閉型電磁弁78A,78Bを開弁する。
【0066】
而してパーキング解除用制御液圧室69の液圧解放に応じてロックピストン65がばね74のばね力で前進作動し、パーキングピストン58およびロックピストン65の前進に応じて、ロック機構59が各球体67,67…を係止段部61fに係合させるようにしてロック作動する。その後で、制御ユニットCは、常閉型電磁弁78A,78Bを開弁してパーキング用制御液圧室62の液圧を解放する。
【0067】
しかもパーキング用制御液圧室62の液圧解放後に、制御ユニットCは、電動モータ14による第1および第2ポンプ15A,15Bの駆動を停止し、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを開弁方向に作動せしめるとともに第1および第2サクション弁20A,20Bを閉弁し、常閉型電磁弁78A,78Bを閉弁状態に戻す。この際、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bの開弁方向への作動は、上述と同様に、液圧の急激な変化に伴う油撃が生じることを防止するために、全閉状態から全開状態へと段階的に開度が大きくなるように制御される。
【0068】
第1のモードで得たパーキングブレーキ状態を解除するときには、制御ユニットCは、第1および第2サクション弁20A,20Bを開弁することで各車輪ブレーキ6A〜6Dに作用していた液圧を解放するとともに、常閉型電磁弁79A,79Bを開弁してパーキング解除用制御液圧室69の液圧を解放する。
【0069】
第2のモードで得たパーキングブレーキ状態を解除するとときに、制御ユニットCは、第1および第2サクション弁20A,20Bを開弁し、電動モータ14により第1および第2ポンプ15A,15Bを駆動するとともに第1および第2レギュレータ弁4A,4Bの作動を制御してパーキング用制御液圧室62でロックされていた液圧未満に調圧された液圧を車輪側ブレーキ液圧路7A〜7Dに作用せしめるとともに常閉型電磁弁78A,78B;79A,79Bを開弁する。これによりパーキング用制御液圧室62の液圧は、該パーキング用制御液圧室62および車輪ブレーキ側液圧路7B,7D間の液圧差に応じた速度で解放されることになる。
【0070】
しかもパーキング用制御液圧室62の液圧解放後に、制御ユニットCは、電動モータ14による第1および第2ポンプ15A,15Bの駆動を停止し、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを開弁方向に作動せしめるとともに第1および第2サクション弁20A,20Bを閉弁し、常閉型電磁弁78A,78B;79A,79Bを閉弁状態に戻す。この際、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bの開弁方向への作動は、上述と同様に、全閉状態から全開状態へと段階的に開度が大きくなるように制御される。
【0071】
第3のモードで得たパーキングブレーキ状態を解除するときに、制御ユニットCは、第1および第2サクション弁20A,20Bを開弁し、電動モータ14により第1および第2ポンプ15A,15Bを駆動するとともに第1および第2レギュレータ弁4A,4Bの作動を制御して調圧された液圧を各車輪側ブレーキ液圧路7A〜7Dに作用せしめるとともに常閉型電磁弁78A,78B;79A,79Bを開弁する。そうすると、ブレーキ液圧室33、パーキング用制御液圧室62およびパーキング解除用制御液圧室69の液圧が同時に上昇するが、その増圧過程で、先ずばね74のばね力よりも大きな液圧力がロックピストン65に作用することでロックピストン65が後退し、次いで、パーキング用制御液圧室62の液圧によってパーキングピストン58に作用している前進方向の押圧力よりも、小ピストン39に作用する後退方向の液圧力およびクラッチばね49の合力が大きくなってパーキングピストン58が後退する。それによりロック機構59がロック解除作動してパーキングブレーキ状態が解除されることになる。
【0072】
次にこの実施例の作用について説明すると、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを閉弁した状態で第1および第2液圧源液圧路5A,5Bの液圧が所定値に達するまで第1および第2ポンプ15A,15Bを作動せしめることで全車輪ブレーキ6A〜6Dをブレーキ作動せしめた後に、右後輪および左後輪に設けられたパーキングブレーキ57の作動によるパーキングブレーキ状態を得るにあたって、制御ユニットCは、第1および第2レギュレータ弁4A,4Bを閉弁するとともに第1および第2ポンプ15A,15Bを作動せしめることで第1および第2液圧源液圧路5A,5Bの液圧を増大せしめ、その後で入口弁8B,8Dを閉弁するので、パーキングブレーキ57が設けられていない側の車輪の車輪ブレーキである左前輪用および右前輪用車輪ブレーキ6A,6Cのブレーキ液圧は増大し、入口弁8B,8Dの閉弁と同時に常閉型電磁弁78A,78Bを開弁することによってパーキングブレーキ57が設けられている側の車輪の車輪ブレーキである右後輪用および左後輪用車輪ブレーキ6B,6Dのブレーキ液圧は低下するもののパーキングブレーキ57の作動が開始されることになる。
【0073】
すなわち図5において、パーキングブレーキ57の作動開始時である時刻t2で、左前輪用および右前輪用車輪ブレーキ6A,6Cのブレーキ液圧は低下することはなく増加し続けるので、全車輪ブレーキ6A〜6Dに液圧を作用せしめている状態に続いて常閉型電磁弁78A,78Bを開弁してパーキングブレーキ57への液圧作用を開始しても、車両全体のブレーキ力が低下するのを防止することができる。それにより登降坂路でのパーキングブレーキ作動時であっても、図5で示すように、パーキングブレーキ57への液圧作用開始時における車両の揺り返しの変化量が小さく抑えられ、車両の揺り返しが生じるのを抑制することができる。
【0074】
これに対し、全車輪ブレーキ6A〜6Dをブレーキ作動せしめた後に、右後輪および左後輪に設けられたパーキングブレーキ57の作動によるパーキングブレーキ状態を得るにあたって、従来のものでは、図6で示すように、時刻t4でパーキングブレーキ57の作動を開始すると、パーキングブレーキ57が設けられていない側の車輪の車輪ブレーキである左前輪用および右前輪用車輪ブレーキ6A,6Cのブレーキ液圧も低下してしまい、車両全体のブレーキ力が低下し、車両の揺り返しが大きくなるのであり、本発明に従えば、そのような揺り戻しが生じるのを抑制することが可能となる。
【0075】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0076】
たとえば上記実施例では、パーキングブレーキ57の作動状態を機械的に維持するロック機構59がパーキングブレーキ57に付設されている場合について説明したが、本発明は、ロック機構59を有しない車両用ブレーキ装置についても適用可能である。
【0077】
また上記実施例では、パーキングブレーキ57が後輪に設けられている場合について説明したが、前輪にパーキングブレーキ57が後輪に設けられている車両用ブレーキ装置にも本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】車両用ブレーキ装置の液圧回路図である。
【図2】非パーキングブレーキ状態でのディスクブレーキの縦断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】パーキングブレーキに関連する制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】パーキングブレーキへの液圧作用開始時のブレーキ液圧および車両揺り返しの変化を示す図である。
【図6】従来技術の図5に対応した図である。
【符号の説明】
【0079】
4A,4B・・・第1常開型電磁弁であるレギュレータ弁
5A,5B・・・液圧源液圧路
6A,6C・・・前輪用車輪ブレーキ
6B,6D・・・後輪用車輪ブレーキ
7A,7C・・・前輪用車輪ブレーキ側液圧路
7B,7D・・・後輪用車輪ブレーキ側液圧路
8A,8B・・・第2常開型電磁弁ある入口弁
15A,15B・・・ポンプ
57・・・パーキングブレーキ
62・・・パーキング用制御液圧室
78A,78B・・・常閉型電磁弁
81A,81B・・・パーキングブレーキ通路
C・・・制御ユニット
M・・・液圧発生手段としてのマスタシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じて液圧を出力する液圧発生手段(M)と、前輪に装着される前輪用車輪ブレーキ(6A,6C)と、後輪に装着される後輪用車輪ブレーキ(6B,6D)と、前輪用および後輪用車輪ブレーキ(6A,6C;6B,6D)に個別に連なる前輪用および後輪用車輪ブレーキ側液圧路(7A,7C;7B,7D)と、前輪用および後輪用車輪ブレーキ側液圧路(7A,7C;7B,7D)に共通な液圧源液圧路(5A,5B)と、非ブレーキ操作状態で液圧を出力可能として吐出側で前記液圧源液圧路(5A,5B)に接続されるポンプ(15A,15B)と、前記液圧源液圧路(5A,5B)および前記液圧発生手段(M)間に介設される第1常開型電磁弁(4A,4B)と、パーキング用制御液圧室(62)への液圧作用に応じてパーキングブレーキ状態を得るように作動することを可能として前輪および後輪の一方に設けられるパーキングブレーキ(57)と、前輪用および後輪用車輪ブレーキ側液圧路(7A,7C;7B,7D)のうち前記パーキングブレーキ(57)が設けられる側の車輪に対応するブレーキ側液圧路(7B,7D)および前記液圧源液圧路(5A,5B)間に設けられる第2常開型電磁弁(8B,8D)と、前記パーキングブレーキ(57)が設けられる側の車輪に対応するブレーキ側液圧路(7B,7D)および前記パーキング用制御液圧室(62)間を結ぶパーキングブレーキ通路(81A,81B)と、該パーキングブレーキ通路(81A,81B)に介設される常閉型電磁弁(78A,78B)と、前記ポンプ(15A,15B)、第1常開型電磁弁(5A,5B)、第2常開型電磁弁(8B,8D)および常閉型電磁弁(78A,78B)の作動を制御する制御ユニット(C)とを備え、該制御ユニット(C)は、第1常開型電磁弁(4A,4B)を閉弁した状態で前記液圧源液圧路(5A,5B)の液圧が所定値に達するまで前記ポンプ(15A,15B)を作動せしめることで前輪用車輪ブレーキ(6A,6C)および後輪用車輪ブレーキ(6B,6D)をブレーキ作動せしめた後に前記パーキングブレーキ(57)の作動によるパーキングブレーキ状態を得るにあたって、第1常開型電磁弁(5A,5B)を閉弁するとともに前記ポンプ(15A,15B)を作動せしめた後で第2常開型電磁弁(8B,8D)を閉弁し、第2常開型電磁弁(8B,8D)の閉弁と同時または閉弁後に前記常閉型電磁弁(78A,78B)を開弁することを特徴とする車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−240497(P2006−240497A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59512(P2005−59512)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】