説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】噛合クラッチ接続時に発生するショックを抑制することができると共に、噛合クラッチにかかる負荷を低減することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】車両走行中のシンクロクラッチ42の接続が、電動機30のトルクTmが略零の状態で実施されるため、クラッチ接続時において前輪車軸26への電動機30のトルク伝達が発生しないに従い、接続時に発生するショックを抑制することができる。また、シンクロクラッチ接続時において電動機30のトルクTmが零であるため、シンクロクラッチ42の前後の回転速度が同期されると、シンクロクラッチ42がスムーズに接続されるに従い、シンクロクラッチ42にかかる負荷が低減され、シンクロクラッチ42の耐久性低下が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置の制御装置にかかり、特に、電動機がクラッチを介して駆動軸に動力伝達可能に連結される構成を有する車両用動力伝達装置の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機の駆動力がクラッチを介して駆動輪へ伝達される構成を備えた車両用動力伝達装置がよく知られている。例えば、特許文献1に記載の動力伝達装置がその一例である。特許文献1の動力伝達装置では、低車速域においてクラッチを接続させることによって、電動機の駆動力で走行するように構成されている。また、クラッチは、イグニッションがオフ操作された駐車状態においても接続状態が維持されることで、電動機の駆動力による車両発進が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−192336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の動力伝達装置において、車速が所定値以下となると、クラッチを接続することで、専らエンジンを駆動源とする走行状態から電動機を駆動源とする走行状態へ切り替えられる。このクラッチの接続に際して、クラッチの電動機側の回転速度と駆動軸側の回転速度との差回転が少なくなるように、電動機による回転制御が実施される。このとき、電動機による回転制御を実施しつつクラッチが接続されるため、電動機の回転制御によるトルク(駆動力)によって、クラッチ接続時に車両乗員に押し出され感や引き込まれ感を与える問題があった。また、前記クラッチの前後の差回転すなわち電動機側の回転速度と駆動軸側の回転速度とを完全に同期させつつ、クラッチを接続することは困難であるため、前記差回転がある状態で強引にクラッチを係合することで、クラッチに負荷がかかり、クラッチの耐久性が低下してしまう問題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電動機と駆動輪との間の動力伝達経路を断続可能な噛合クラッチを備えた車両用動力伝達装置において、その噛合クラッチ接続時に発生するショック(押し出され感や引き込まれ感)を抑制することができると共に、噛合クラッチにかかる負荷を低減して噛合クラッチの耐久性低下を抑制することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)電動機と駆動軸との間の動力伝達経路を、その電動機により駆動される電動機側噛合部材とその駆動軸に連結された駆動軸側噛合部材とが相互に接続され或いは相互に解放されることにより断続させる噛合クラッチを備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b)車両走行中の前記噛合クラッチの接続が、前記電動機のトルクが零乃至略零の状態で実施されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置において、車両走行中の前記噛合クラッチの接続の際には、前記電動機により前記電動機側噛合部材の回転速度を前記駆動軸側噛合部材の回転速度よりも大きい回転速度まで引き上げた後、その電動機のトルクを零乃至略零とした状態で、その噛合クラッチの電動機側噛合部材と駆動軸側噛合部材とに相互に噛み合うための連結部材をクラッチ接続側に付勢する所定の押付力がその噛合クラッチに付与されることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記電動機の回転速度を引き上げる時点は、車速の変化率が大きくなるに従って早くなることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項2または3の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記電動機の回転速度を引き上げる際の回転速度変化率は、車速の変化率が大きくなるに従って大きくなることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項2乃至4のいずれか1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記電動機による前記電動機側噛合部材の回転速度は、前記駆動軸側噛合部材の回転速度よりも大きい第1回転速度まで引き上げられると、その電動機のトルクが零乃至略零とされるまでの間、その第1回転速度で維持されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項2乃至5のいずれか1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記電動機のトルクは、前記駆動軸側噛合部材の回転速度が前記第1回転速度よりも低い予め設定されている第2回転速度に到達したときに零乃至略零とされるものであり、その第2回転速度は、車速の変化率が大きくなるに従って大きな値に設定されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至6のいずれか1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記噛合クラッチの断続は、アクチュエータを介して切り替えられることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至7のいずれか1の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記噛合クラッチは同期機構を備えた噛合クラッチであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、車両走行中の前記噛合クラッチの接続が、前記電動機のトルクが零乃至略零の状態で実施されるため、噛合クラッチの接続時において駆動軸への電動機のトルク伝達が発生しないに従い、接続時に発生するショックを抑制することができる。また、噛合クラッチ接続時において電動機のトルクが零乃至略零であるため、電動機側噛合部材の回転速度と駆動軸側噛合部材の回転速度とが同期されると、噛合クラッチがスムーズに接続されるに従い、噛合クラッチにかかる負荷が低減され、結果として噛合クラッチの耐久性低下が抑制される。
【0015】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、車両走行中の前記噛合クラッチの接続の際には、前記電動機により前記電動機側噛合部材の回転速度を前記駆動軸側噛合部材の回転速度よりも大きい回転速度まで引き上げた後、その電動機のトルクが零乃至略零とされると、電動機側噛合部材の回転速度が自動的に低下し、その低下過程で駆動軸側噛合部材の回転速度に一致する。このとき、噛合クラッチには、電動機側噛合部材と駆動軸側噛合部材とに相互に噛み合うための連結部材をクラッチ接続側に付勢する所定の押付力が付与されているので、互いの回転速度が一致した時点で噛合クラッチがスムーズに接続される。これより、噛合クラッチにかかる負荷が抑制されるに従い、噛合クラッチの耐久性低下が抑制される。また、電動機のトルクが零乃至略零の状態で接続されるため、噛合クラッチ接続時に発生するショックも抑制される。したがって、複雑な電動機の回転制御を実施することなく、噛合クラッチをスムーズに接続することができると共に、その噛合クラッチの接続時のショックを抑制することができる。
【0016】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電動機の回転速度を引き上げる時点は、車速の変化率が大きくなるに従って早くなる。このようにすれば、車速の変化率が大きくなると、それに応じて駆動軸側噛合部材の回転速度の変化も速くなるため、制御を速やかに開始する必要が生じるが、これに対して、電動機の回転速度を引き上げる時点が早くなることで、電動機側噛合部材の回転速度が速やかに引き上げられるに従い、制御の遅れを防止することができる。
【0017】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電動機の回転速度を引き上げる際の回転速度変化率は、車速の変化率が大きくなるに従って大きくなる。このようにすれば、車速の変化率が大きくなると、それに応じて駆動軸側噛合部材の回転速度の変化も速くなるため、制御を速やかに開始する必要が生じるが、これに対して電動機の回転速度変化率が大きくなることで、電動機側噛合部材の回転速度が速やかに引き上げられるに従い、制御の遅れを防止することができる。
【0018】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電動機による前記電動機側噛合部材の回転速度は、前記駆動軸側噛合部材の回転速度よりも大きい第1回転速度まで引き上げられると、その電動機のトルクが零乃至略零とされるまでの間、その第1回転速度で維持されるため、電動機のトルクが零乃至略零とされた時点において、電動機側噛合部材の回転速度を第1回転速度の状態から低下させることができる。
【0019】
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、電動機のトルクが零乃至略零とされる前記第2回転速度は、車速の変化率が大きくなるに従って大きな値に設定される。このようにすれば、例えば車速の変化率が大きくなると、それに応じて駆動軸側噛合部材の回転速度の低下も速くなるが、それ対して駆動軸側噛合部材の回転速度が高い状態から電動機のトルクが零乃至略零とされる。すなわち駆動軸側噛合部材の回転速度が高い状態から電動機側噛合部材の回転速度の低下が開始されるに従い、電動機側噛合部材の回転速度と駆動軸側噛合部材の回転速度とを最適な回転速度で同期させることができる。
【0020】
また、請求項7にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記噛合クラッチの断続は、アクチュエータを介して切り替えられるため、アクチュエータによって噛合クラッチを係合させる側に作用する押付力が付与される。また、噛合クラッチは、回転同期されると小さな押付力であっても接続されるため、アクチュエータを小型化することができる。
【0021】
また、請求項8にかかる発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記噛合クラッチは同期機構を備えた噛合クラッチであるため、噛合クラッチの回転同期がさらにスムーズに実行される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用された車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図3】車速の変化率と第2回転速度との関係を示す関係マップの一例である。
【図4】車速の変化率と電動機の回転速度を引き上げる開始時点との関係を示す関係マップの一例である。
【図5】車速の変化率と電動機の回転速度の上昇率との関係を示す関係マップの一例である。
【図6】図2の電子制御装置の制御作動の要部すなわちシンクロクラッチを走行中に接続する際に発生するショックを抑制し、且つ、シンクロクラッチの耐久性低下を抑制することができる制御作動を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6のフローチャートで示す制御作動に基づく作動を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ここで、好適には、車両用動力伝達装置は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、さらにはそれ以上の変速段を有する種々の遊星歯車式自動変速機、常時噛み合う複数対の変速ギヤ段を2軸間に備えてそれら複数対の変速ギヤ段のいずれかを同期装置によって択一的に動力伝達状態とする同期噛合型平行2軸式変速機、同期噛合型平行2軸式変速機であるが入力軸を2系統備えて各系統の入力軸にクラッチがそれぞれつながり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている形式の変速機である所謂DCT(Dual Clutch Transmission)、動力伝達部材として機能する伝動ベルトが有効径が可変である一対の可変プーリに巻き掛けられ変速比が無段階に連続的に変化させられる所謂ベルト式無段変速機、或いは、共通の軸心まわりに回転させられる一対のコーンとその軸心と交差する回転中心回転可能な複数個のローラがそれら一対のコーンの間で狭圧されそのローラの回転中心と軸心との交差角が変化させられることによって変速比が可変とされた所謂トラクション型変速機などを備えて構成されている。
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明が適用された車両用動力伝達装置10の構成を説明する骨子図である。図1において、車両用動力伝達装置10は、例えば前置エンジン前輪駆動形式(FF)形式の動力伝達装置であり、主駆動源として機能するエンジン12に連結されたトルクコンバータ14と、トルクコンバータ14の出力軸としてのタービン軸16に連結されている自動変速機18と、自動変速機18の出力歯車20と噛み合うリングギヤ22を備える終減速機としても機能する前輪用差動歯車装置24と、前輪用差動歯車装置24に連結されている一対の前輪車軸26L、26Rと、その一対の前輪車軸26L、26Rに接続されている一対の前輪28L、28Rとを備えている。また、車両用動力伝達装置10は、副駆動源としての電動機30と、電動機の出力軸としても機能するモータ駆動ギヤ32と、モータ駆動ギヤ32に噛み合わされているアイドラギヤ34と、アイドラギヤ34と噛み合うと共にカウンタシャフト36の軸心まわりに相対回転可能に配設されている従動ギヤ38と、カウンタシャフト36に固設されてカウンタシャフト36と一体的に回転するファイナルドライブギヤ40と、電動機30とカウンタシャフト36との間の動力伝達経路を断続するシンクロクラッチ42とを備えている。
【0026】
エンジン12は、例えば気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、トルクコンバータ14は、例えばエンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車と、自動変速機18の入力軸に連結されたタービン翼車と、一方向クラッチを介して非回転部材に固定されたステータ翼車とを備えており、上記ポンプ翼車とタービン翼車との間で流体を介して動力伝達を行う流体式動力伝達装置である。また、自動変速機18は、例えば複数の摩擦係合要素を備え、それら摩擦係合要素の係合または開放の組合せに応じて複数の変速比を選択的に成立させて、入力軸から入力された駆動力を変速して出力させる自動変速機である。また、前輪用差動歯車装置24は、車両の走行状態に応じて左右の前輪車軸26に差回転を与える公知である差動機構である。上記のように構成されることで、エンジン12の動力が、トルクコンバータ14、自動変速機18、前輪用差動歯車装置24、前輪車軸26を介して左右の前輪28に伝達される。
【0027】
本発明の噛合クラッチに対応するシンクロクラッチ42は、公知である同期機構(シンクロ機構)を備えた噛合クラッチであり、電動機30により駆動されるクラッチギヤ50とカウンタシャフト36に連結されたクラッチハブ46とを相互に連結或いは相互に解放させるために設けられている。シンクロクラッチ42は、カウンタシャフト36に対して相対回転不能に設けられているクラッチハブ46と、クラッチハブ46にスプライン嵌合されることにより、そのクラッチハブ46に対して相対回転不能、且つ、軸心方向への移動可能な円筒状のスリーブ48と、そのスリーブ48の内周面に形成されている内周歯に対して噛合可能な外周歯が形成されている従動ギヤ38に相対回転不能に固設されているクラッチギヤ50と、スリーブ48およびクラッチギヤ50の回転が非同期状態であるときには、スリーブ48のクラッチギヤ50側への軸心方向の移動を阻止するシンクロナイザリング52とを有している。なお、クラッチギヤ50が本発明の電動機により駆動される電動機側噛合部材に対応し、カウンタシャフト36が本発明の駆動軸に対応し、クラッチハブ46が本発明の駆動軸側噛合部材に対応し、スリーブ48が本発明の連結部材に対応している。
【0028】
図1のシンクロクラッチ42において、カウンタシャフト36に対して上側が、シンクロクラッチ42が遮断されている状態を示している。このとき、スリーブ48がクラッチギヤ50と噛み合わず、クラッチハブ46とクラッチギヤ50とが解放されることで、カウンタシャフト36と従動ギヤ38との連結が切断され、電動機30の動力がカウンタシャフト36に伝達されない。すなわち、電動機30とカウンタシャフト36との間の動力伝達経路が遮断される。
【0029】
一方、図1のシンクロクラッチ42において、カウンタシャフト36より下側が、シンクロクラッチ42が接続されている状態を示している。スリーブ48が軸心方向において従動ギヤ38側に移動されると、シンクロナイザリング52に形成されているコーン部がクラッチギヤ50に形成されているコーン部に押し当てられることで、それらの間に摩擦が発生し、クラッチハブ46とクラッチギヤ50との間の差回転が徐々に小さくなる。そして、クラッチハブ46とクラッチギヤ50との間の差回転がなくなると、スリーブ48がさらに従動ギヤ38側に移動され、スリーブ48の内周歯がクラッチギヤ50の外周歯と噛み合わされる。これより、クラッチハブ46とクラッチギヤ50とが接続され、電動機30とカウンタシャフト36との間の動力伝達経路が形成される。
【0030】
このシンクロクラッチ42は、アクチュエータ54を介してその断続状態が切り替えられる。アクチュエータ54は、例えば電動モータで構成され、ウォームギヤ58を介してカウンタシャフト36の軸心と平行なシフトフォークシャフト60を軸心方向に移動させるようになっている。また、シフトフォークシャフト60の端部には、シンクロクラッチ42のスリーブ48に相対回転可能に係合されているシフトフォーク62が固設されている。したがって、アクチュエータ54が駆動されることで、シフトフォークシャフト60が軸心方向に移動されて、スリーブ48の軸心方向の位置が移動させられるため、シンクロクラッチ42の断続状態が切り替えられる。なお、アクチュエータ54は、シフトフォークシャフト60を軸心方向に移動させることができる構成あれば足り、電動モータ以外にも、電磁ソレノイドによってシフトフォークシャフト60を軸心方向へ移動させる構成であっても構わない。また、油圧アクチュエータによってシフトフォークシャフト60を軸心方向へ移動させる構成であっても構わない。
【0031】
上記のように構成される車両用動力伝達装置10において、高速走行状態においては、専らエンジン12による駆動力によって車両Vが走行され、電動機30は停止される。このとき、電動機30の引き摺りによる損失をなくすため、シンクロクラッチ42が遮断される。一方、車両の車速Vが低下し、予め設定されている所定の車速Vcr以下となると、エンジン12による走行を停止し、電動機30による走行に切り替えられる。具体的には、シンクロクラッチ42が接続されることで、電動機30と前輪28との間の動力伝達経路が形成され、電動機30の駆動力が前輪28に伝達される。
【0032】
ここで、車速Vが所定の車速Vcr以下となると、走行中にシンクロクラッチ42が遮断状態から接続状態へ切り替えられることとなるが、シンクロクラッチ42の接続に際して、従来では、電動機30による回転速度制御が実施されていた。具体的には、従動ギヤ38の回転速度すなわちクラッチギヤ50の回転速度とクラッチハブ46(すなわちカウンタシャフト36)の回転速度との差回転が少なくなるように、電動機30の回転速度Nmを制御していた。このとき、電動機30の回転速度制御を実施した状態でシンクロクラッチ42が接続されるため、電動機30のトルクTmが前輪28に伝達され、クラッチ接続時に車両乗員に押し出され感や引き込まれ感などのショックを与える問題があった。また、電動機30による回転速度制御によって上記差回転を十分に小さくすることは困難であり、その差回転がある状態でシンクロクラッチ42を強引に接続することにより、シンクロクラッチ42にかかる負荷が大きくなり、シンクロクラッチ42の耐久性が低下する問題があった。これに対し、本実施例では、以下に説明する制御を実施することによって、シンクロクラッチ42の接続時のショックを抑制すると共に、シンクロクラッチ42にかかる負荷を抑制することを可能としている。
【0033】
図1に戻り、車両には、例えばエンジン12によるエンジン走行状態と電動機30による電動走行状態とを切り替えるための制御装置を含む電子制御装置80が備えられている。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェイス等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御、自動変速機12の変速制御、シンクロクラッチ42の断続制御等を実行する。
【0034】
電子制御装置80には、例えばエンジン回転速度センサ82により検出されたエンジン回転速度Neを表す信号、出力軸回転速度センサ84により検出された自動変速機18の出力歯車20の出力軸回転速度Noutに対応する車速Vを表す信号、電動機30に内蔵されているレゾルバ86より検出される電動機30のモータ回転速度Nmを表す信号などが供給されている。
【0035】
また、電子制御装置80からは、例えばエンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号Se、自動変速機18の変速制御のための変速制御指令信号St、アクチュエータ54によりシフトフォークシャフト60を介してシンクロクラッチ42の断続を切り替えるためのクラッチ断続指令信号Sc、電動機30の回転状態を制御する回転指令信号Smなどが出力される。
【0036】
図2は、電子制御装置80の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。なお、図2において、破線で示す部分が電子制御装置80に対応している。図2において、クラッチ切替判定手段88は、シンクロクラッチ42を遮断状態から接続状態に切り替えるか否かを判定する。具体的には、クラッチ切替判定手段88は、出力軸回転速度センサ84に基づいて検出される車速Vを検出し、検出された車速Vが予め設定されている車速Vcr以下である場合に、シンクロクラッチ42を接続状態に切り替えるものと判定する。なお車速Vcrは、実験や計算によって求められ、車両の駆動力源をエンジン12から電動機30に切り替える最適な速度に設定されている。
【0037】
モータ制御手段90は、クラッチ切替判定手段88によってシンクロクラッチ42の接続状態への切替が判断されると、電動機30の回転速度Nmを引き上げ、その電動機30によって回転駆動されるクラッチギヤ50の回転速度N50(rpm)を駆動軸であるカウンタシャフト36の回転速度すなわち駆動軸同期回転速度Nsynよりも大きな状態とする。なお、クラッチギヤ50の回転速度N50が本発明の電動機側噛合部材の回転速度に対応し、駆動軸同期回転速度Nsynが駆動軸側噛合部材の回転速度に対応している。
【0038】
モータ制御手段90は、電動機30により駆動されるクラッチギヤ50の回転速度N50を、前記駆動軸同期回転速度Nsynよりも大きい予め設定されている第1回転速度Nm1まで引き上げ、例えば駆動軸同期回転速度Nsynが予め設定されている第2回転速度Nm2に低下するまで、その第1回転速度Nm1で所定時間維持させる。そして、駆動軸同期回転速度Nsynが第2回転速度Nm2に到達すると、モータ制御手段90は、電動機30に供給される駆動電流を零とすることで、電動機30のトルクTmを零とし、その回転およびそれにより駆動されるクラッチギヤ50の回転を低下させる。なお、電動機30のトルクTmは零とされるのが望ましいが、必ずしも完全な零ではなく、電動機30から微小なトルクTmが出力されても、クラッチギヤ50の回転速度N50が低下する程度(略零)であれば構わない。
【0039】
また、電動機30のトルクTmを零とするのと同時或いは略同時に、クラッチ切替手段92は、アクチュエータ54を作動させて、クラッチハブ46とクラッチギヤ50とに相互に噛み合うためのスリーブ48をクラッチ接続側に付勢する押付力Fをシンクロクラッチ42に付与する。すなわち、スリーブ48をクラッチギヤ50側に移動させる方向に付勢する押付力Fをシンクロクラッチ42に発生させる。なお、この押付力Fは、スリーブ48が軸心方向に移動可能な大きさで足り、大きな押付力Fを要しない。電動機30によって駆動されるクラッチギヤ50の回転速度N50が駆動軸同期回転速度Nsynと同期されれば、シンクロクラッチ42を接続する際に必要な押付力は小さくて済むためである。
【0040】
上記のように制御されることにより、シンクロクラッチ42が接続される際に発生するショックが抑制されると共に、シンクロクラッチ42にかかる負荷が抑制される。具体的に説明すると、電動機30よって駆動されるクラッチギヤ50の回転速度N50が駆動軸同期回転速度Nsynよりも大きな第1回転速度Nm1で所定時間維持された後、電動機30のトルクTmが零にされると、電動機30の回転および電動機30により駆動されるクラッチギヤ50の回転が、摩擦などによる回転抵抗によって低下する。これより、所定時間経過すると、クラッチギヤ50の回転低下過程において、クラッチギヤ50の回転速度N50が駆動軸同期回転速度Nsynに追い付いて一致する。すなわちクラッチギヤ50の回転速度N50が駆動軸同期回転速度Nsynと同期される。このとき、予めクラッチ切替手段92によって、シンクロクラッチ42には、予めシンクロクラッチ接続側へ付勢される押付力Fがかけられているため、クラッチギヤ50の回転速度N50が駆動軸同期回転速度Nsynと同期すると、シンクロクラッチ42が殆ど抵抗なくスムーズに接続される。なお、クラッチギヤ50の回転速度N50は、駆動軸同期回転速度Nsynよりも大きな変化率で低下するため、駆動軸同期回転速度Nsynと同期される。これは、電動機30からクラッチギヤ50までの動力伝達系の有するイナーシャが、車両のイナーシャに比べて非常に小さいためである。
【0041】
このように、電動機30によって駆動されるクラッチギヤ50の回転速度N50が、駆動軸同期回転速度Nsynよりも大きな第1回転速度Nm1の状態から低下することで、その低下過程で自動的に回転速度N50が駆動軸同期回転速度Nsynと同期され、シンクロクラッチ42に大きな負荷をかけることなく、シンクロクラッチ42がスムーズに接続される。また、シンクロクラッチ42が接続された時点では、電動機30のトルクTmが零の状態であるため、電動機30のトルクTmが前輪28に伝達されることによって発生する押し出され感や引き込み感などのショックが発生しない。
【0042】
ここで、クラッチギヤ50の回転速度N50を引き上げる際の目標となる第1回転速度Nm1や電動機30のトルクTmを零にする閾値となる第2回転速度Nm2等の所定値は、予め実験や計算によって求められた最適な値に設定されている。例えば、上記各所定値を設定するに際して、シンクロクラッチ42が接続される際にクラッチギヤ50の回転速度N50および駆動軸同期回転速度Nsynが一致する目標回転速度Nm3を予め基準値として設定し、シンクロクラッチ42がその目標回転速度Nm3近傍で接続される最適な各所定値が実験や計算によって求められて記憶されている。
【0043】
例えば、電動機30のトルクTmを零にする閾値となる第2回転速度Nm2は、予め実験や計算によって求められた車速Vの変化率αと第2回転速度Nm2との関係マップに基づいて決定される。前記関係マップは、図3に示すように、車速Vの変化率αが大きくなるに従って、第2回転速度Nm2が大きくなるように設定されている。例えば、車速Vの変化率αが大きい場合、駆動軸同期回転速度Nsynが目標回転速度Nm3に到達するまでの時間が短くなる。このような場合、第2回転速度Nm2が大きな値に設定されることで、早いタイミングで電動機30のトルクTmが零にされる、すなわち早いタイミングで電動機30によって回転駆動されるクラッチギヤ50の回転速度低下が開始されるため、駆動軸同期回転速度Nsynの急な低下に対しても、予め設定されている目標回転速度Nm3近傍でクラッチギヤ50の回転とカウンタシャフト36の回転とが一致して、シンクロクラッチ42が接続される。一方、車速の変化率αが小さい場合、駆動軸同期回転速度Nsynが目標回転速度Nm3に到達するまでの時間が長くなる。このような場合、第2回転速度Nm2が小さい値に設定されることで、遅いタイミングでクラッチギヤ50の回転速度低下が開始されるため、駆動軸同期回転速度Nsynの緩やかな低下に対しても、目標回転速度Nm3近傍でクラッチギヤ50の回転とカウンタシャフト36の回転とが一致して、シンクロクラッチ42が接続される。上記より、車速Vの変化率αによって、クラッチギヤ50の回転とカウンタシャフト36の回転とが目標回転速度Nm3から離れた回転速度で同期されることが防止される。なお、車速Vの変化率αは、逐次検出される車速Vを時間微分することで算出することができる。
【0044】
また、電動機30の回転速度Nmを引き上げる開始時点においても、例えば予め実験や計算によって求められた車速Vの変化率αと待機時点との関係マップに基づいて決定される。前記関係マップは、車速Vの変化率αが大きくなるに従ってシンクロクラッチ42の接続状態への切替が判断されてからの待機時点が短くなる、すなわち電動機30の回転速度Nmを引き上げる開始時点が早くなるように設定されている。具体的には、例えば図4に示す関係マップとなる。図4において、横軸は、車速Vの変化率αであり、縦軸は、シンクロクラッチ42を接続する判定が為されてから実際に電動機30の回転速度Nmが引き上げが開始される待機時間を示している。図4からもわかるように、車速Vの変化率αが大きくなると、シンクロクラッチ42の接続状態への切替判定が為されてから電動機30の回転速度Nmを引き上げるまでの待機時間が短くなる、すなわち引き上げを開始する開始時点が早くなる。これは、例えば車速Vの変化率αが大きい場合、駆動軸同期回転速度Nsynが回転速度Nm3まで到達するのに要する時間が短いため、クラッチギヤ50の回転速度N50を速やかに第1回転速度Nm1まで引き上げる必要があるためである。一方、車速Vの変化率αが小さい場合、駆動軸同期回転速度Nsynが回転速度Nm3に到達するまでの時間が長くなるため、電動機30の回転速度Nmを引き上げを開始するまでの待機時間を長くする、すなわち引き上げ開始時点を遅く設定することで、クラッチギヤ50の回転速度N50を第1回転速度Nm1まで引き上げた後、その第1回転速度Nm1で待機する時間を短くして、電動機30の消費電力を抑制する。
【0045】
さらに、電動機30の回転速度Nmの回転速度変化率θにおいても、例えば予め実験や計算によって求められた車速Vの変化率αと回転速度変化率θとの関係マップに基づいて決定される。前記関係マップは、車速Vの変化率αが大きくなるに従って、電動機30の回転速度Nmの回転速度変化率θが大きくなるように設定されている。具体的には、図5に示す関係マップとなる。図5において、横軸は、車速Vの変化率αであり、縦軸は、電動機30の回転速度Nmを上昇させる際の回転速度変化率θを示している。図5からもわかるように、車速Vの変化率αが大きくなると、電動機30の回転速度Nmの回転速度変化率θが大きくなる。これは、例えば車速Vの変化率αが大きい場合、駆動軸同期回転速度Nsynが回転速度Nm3まで到達するのに要する時間が短いため、クラッチギヤ50の回転速度N50を速やかに第1回転速度Nm1まで引き上げる必要があるためである。一方、車速Vの変化率αが小さい場合、駆動軸同期回転速度Nsynが回転速度Nm3に到達するまでの時間が長くなるため、電動機30の回転速度Nmの回転速度変化率θを緩やかにすることで、クラッチギヤ50の回転速度N50を第1回転速度Nm1まで引き上げた後、その第1回転速度Nm1で待機する時間を短くして、電動機30の消費電力を抑制する。
【0046】
図6は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわちシンクロクラッチ42を走行中に接続する際に発生するショックを抑制し、且つ、シンクロクラッチ42の耐久性低下を抑制することができる制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図7は、図6のフローチャートで示す制御作動に基づく作動状態を示すタイムチャートである。
【0047】
図6において、先ず、クラッチ切替判定手段88に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、車速Vが予め設定されている車両の駆動力源を専らエンジン12から電動機30に切り替える閾値となる速度Vcrよりも低下したか否かが判定される。SA1が否定される場合、エンジン12による走行が継続される、すなわちシンクロクラッチ42が接続されないため、本ルーチンが終了させられる。一方、SA1が肯定される場合、シンクロクラッチ42の接続状態への切替が判断され、モータ制御手段90に対応するSA2において、電動機30の駆動によってクラッチギヤ50の回転速度N50が予め設定されている第1回転速度Nm1まで上昇させられる。
【0048】
この電動機30の引き上げ開始時点は、図7に示すタイムチャートにおいてt1時点に対応している。この開始時点t1は、例えば予め求められて記憶されている図4に示す車速Vの変化率αと待機時間との関係マップに基づいて決定される。例えば、車速Vの変化率αが大きい場合には、シンクロクラッチ42を接続する判断が為されてから実際に電動機30の回転速度Nmを引き上げを開始するまでの時間が短く設定される。また、電動機30の回転速度Nmを引き上げる際の回転速度変化率θも同様に、例えば予め求められて記憶されている図6に示す車速Vの変化率αと回転速度変化率θとの関係マップに基づいて決定される。
【0049】
次いで、モータ制御手段90に対応するSA3において、クラッチギヤ50の回転速度N50が予め設定されている第1回転速度Nm1に到達したか否かが判定される。SA3が否定される場合、SA2に戻り電動機30の回転速度上昇が継続される。このSA2のステップは、図7のタイムチャートにおいて、t1時点〜t2時点に対応している。一方、SA3が肯定される場合、モータ制御手段90に対応するSA4において、駆動軸同期回転速度Nsynが予め設定されている第2回転速度Nm2まで低下したか否かが判定される。なお、第2回転速度Nm2は、例えば予め求められて記憶されている図3に示すような車速Vの変化率αと第2回転速度Nm2との関係マップに基づいて決定される。SA4が否定される場合、モータ制御手段90に対応するSA5において、クラッチギヤ50の回転速度N50が第1回転速度Nm1に維持される。このSA5のステップは、図7のタイムチャートにおいてt2時点〜t3時点に対応している。t2時点〜t3時点においては、電動機30のトルクTmが、クラッチギヤ50の回転速度N50が第1回転速度Nm1で維持される程度の低いトルク値で制御される。
【0050】
一方、SA4が肯定される場合、モータ制御手段90に対応するSA6において、電動機30の駆動電流が零にされることで、電動機30のトルクTmが零にされる。この電動機30のトルクTmが零にされる時点は、図7のタイムチャートにおいてt3時点に対応している。t3時点において電動機30のトルクTmが零にされることで、t3時点以降、クラッチギヤ50の回転速度N50が低下している。なお、クラッチギヤ50から電動機30までの動力伝達経路を構成する動力伝達系のイナーシャは、車両のイナーシャに比べて十分に小さいため、電動機30のトルクTmが零になると、クラッチギヤ50の回転速度N50が、駆動軸同期回転速度Nsynよりも大きな変化率で低下する。次いで、クラッチ切替手段92に対応するSA7において、アクチュエータ54を作動させてシンクロクラッチ42のスリーブ48をクラッチ接続側に付勢する押付力Fを発生させる。このステップSA7は、図7のタイムチャートにおいて、t3時点〜t4時点に対応している。そして、クラッチ切替手段92に対応するSA8において、クラッチギヤ50の回転速度N50が駆動軸同期回転速度Nsynと同期した時点(回転速度Nm3近傍)で、シンクロクラッチ42がスムーズに接続される。このステップSA8は、図7のタイムチャートにおいて、t4時点に対応している。t4時点では、電動機30のトルクTmが零であるため、シンクロクラッチ42の接続時に車両乗員に押し出し感や引き込まれ感などのショックを与えることが抑制される。
【0051】
上述のように、本実施例によれば、車両走行中のシンクロクラッチ42の接続が、電動機30のトルクTmが零の状態で実施されるため、シンクロクラッチ42の接続時においてカウンタシャフト36への電動機30のトルク伝達が発生しないに従い、シンクロクラッチ接続時に発生するショックを抑制することができる。また、シンクロクラッチ接続時において電動機30のトルクTmが零であるため、クラッチギヤ50の回転速度N50とクラッチハブ46の回転速度である駆動軸同期回転速度Nsynとが同期されると、シンクロクラッチ42がスムーズに接続されるに従い、シンクロクラッチ42にかかる負荷が低減され、結果としてシンクロクラッチ42の耐久性低下が抑制される。
【0052】
また、本実施例によれば、車両走行中のシンクロクラッチ42の接続の際には、電動機30によりクラッチギヤ50の回転速度N50を、カウンタシャフト36に連結されたクラッチハブ46の回転速度である駆動軸同期回転速度Nsynよりも大きい第1回転速度Nm1まで引き上げた後、その電動機30のトルクTmが零とされると、クラッチギヤ50の回転速度N50が自動的に低下し、その低下過程で駆動軸同期回転速度Nsynに一致する。このとき、シンクロクラッチ42には、クラッチギヤ50とクラッチハブ46とに相互に噛み合うためのスリーブ48をクラッチ接続側に付勢する所定の押付力Fが付与されているので、互いの回転速度が一致した時点(回転同期時)でシンクロクラッチ42がスムーズに接続される。これより、シンクロクラッチ42にかかる負荷が抑制されるに従い、シンクロクラッチ42の耐久性低下が抑制される。また、電動機30のトルクTmが零の状態で接続されるため、シンクロクラッチ接続時に発生するショックも抑制される。したがって、複雑な電動機30の回転制御を実施することなく、シンクロクラッチ42をスムーズに接続することができると共に、そのシンクロクラッチ42の接続時のショックを抑制することができる。
【0053】
また、本実施例によれば、電動機30の回転速度Nmを引き上げる時点は、車速Vの変化率αが大きくなるに従って早くなる。このようにすれば、車速Vの変化率αが大きくなると、それに応じて駆動軸同期回転速度Nsynの変化(低下)も速くなるため、制御を速やかに開始する必要が生じるが、これに対して電動機30の回転速度Nmを引き上げる時点が早くなることで、クラッチギヤ50の回転速度N50が速やかに引き上げられるに従い、制御の遅れを防止することができる。
【0054】
また、本実施例によれば、電動機30の回転速度Nmを引き上げる際の回転速度変化率θは、車速Vの変化率αが大きくなるに従って大きくなる。このようにすれば、例えば車速Vの変化率αが大きくなると、それに応じて駆動軸同期回転速度Nsynの変化(低下)も速くなるため、制御を速やかに開始する必要が生じるが、これに対して電動機30の回転速度Nmの回転速度変化率θが大きくなることで、クラッチギヤ50の回転速度N50が速やかに第1回転速度Nm1まで引き上げられるに従い、制御の遅れを防止することができる。
【0055】
また、本実施例によれば、電動機30によって回転駆動されるクラッチギヤ50の回転速度N50は、駆動軸同期回転速度Nsynよりも大きい第1回転速度Nm1まで引き上げられると、電動機30のトルクTmが零乃至略零とされるまでの間、その第1回転速度Nm1で維持されるため、電動機30のトルクTmが零乃至略零とされた時点において、クラッチギヤ50の回転速度N50を第1回転速度Nm1の状態から低下させることができる。
【0056】
また、本実施例によれば、電動機30のトルクTmが零乃至略零とされる第2回転速度Nm2は、車速Vの変化率αが大きくなるに従って大きな値に設定される。このようにすれば、例えば車速Vの変化率αが大きくなると、それに応じて駆動軸同期回転速度Nsynの低下も速くなるが、それに対して駆動軸同期回転速度Nsynが高い状態から電動機30のトルクTmが零乃至略零とされる。すなわち駆動軸同期回転速度Nsynが高い状態からクラッチギヤ50の回転速度N50の低下が開始されるに従い、クラッチギヤ50の回転速度N50と駆動軸同期回転速度Nsynとが低回転速度で同期されることを防止し、目標回転速度Nm3近傍で同期させることができる。
【0057】
また、本実施例によれば、シンクロクラッチ42の断続は、アクチュエータ54を介して切り替えられるため、アクチュエータ54によってシンクロクラッチ42が接続される側に作用する押付力Fが付与される。また、シンクロクラッチ42は、回転同期されると小さな押付力Fであっても接続されるため、アクチュエータ54を小型化することができる。
【0058】
また、本実施例によれば、シンクロクラッチ42は同期機構を備えた噛合クラッチであるため、シンクロクラッチ42の回転同期がさらにスムーズに実行される。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0060】
例えば、前述の実施例では、電動機30のトルクTmを零にするタイミングは、駆動軸同期回転速度Nsynが第2回転速度Nm2に到達した時点とするなど、駆動軸同期回転速度Nsynの値に基づいて制御が実行されているが、上記制御がシンクロクラッチ42の接続が判定された時点を基準としたタイマ制御で実施されても構わない。この場合においても、例えば電動機30の回転速度Nmを引き上げる時点や電動機30のトルクTmを零とする時点は、予め実験や計算によって求められた車速Vの変化率αに基づく関係マップに基づいて設定される。
【0061】
また、前述の実施例では、車両用動力伝達装置10は、前置エンジン前輪駆動(FF)形式の動力伝達装置であったが、本発明は、それに限定されず、例えば前置エンジン後輪駆動(FR)形式、後置エンジン後輪駆動(RR)形式、4輪駆動(4WD)形式などの他の形式の動力伝達装置であっても、矛盾のない範囲において適用することができる。
【0062】
また、前述の実施例では、車両用動力伝達装置10は、有段の自動変速機18を備えているが、それ以外にも、例えばベルト式の無段変速機や同期噛合型平行2軸式変速機など、他の形式の変速機を備えた構成であっても構わない。また、変速機を備えない構成であっても本発明を適用することができる。
【0063】
また、前述の実施例では、同期機構を有するシンクロクラッチ42が使用されているが、本発明は必ずしも同期機構を備える必要はなく、例えば同期機構を有さない噛合クラッチ、具体的には、ドグクラッチ、ツースクラッチ、歯車クラッチ、スプラインクラッチ等であっても構わない。
【0064】
また、前述の実施例では、アクチュエータ54は、電動モータで構成され、ウォームギヤ58を介してシフトフォークシャフト60を軸心方向に移動可能に構成されているが、アクチュエータ54は、必ずしも上記構成に限定されない。例えば、電磁ソレノイドを用いてシフトフォークシャフト60を軸心方向に移動させる構成であってもよく、油圧によってシフトフォークシャフト60を軸心方向に移動させる構成であっても構わない。
【0065】
また、前述の実施例において、電動機30のトルクTmが零とされているが、必ずしも完全な零ではなく、電動機30からトルクTmが出力されても、クラッチギヤ50の回転速度N50が低下する略零程度の値であれば構わない。
【0066】
また、前述の実施例では、車速Vの変化率に応じて電動機30の回転速度を引き上げる開始時点や回転速度変化率θが設定されたが、車速Vと一対一の関係である駆動軸同期回転速度Nsynの変化率に基づいて、電動機30の回転速度を引き上げる開始時点、回転速度変化率θ、および電動機30のトルクTmを零にする時点が設定されても構わない。
【0067】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0068】
10:車両用動力伝達装置
30:電動機
36:カウンタシャフト(駆動軸)
42:シンクロクラッチ(噛合クラッチ)
46:クラッチハブ(駆動軸側噛合部材)
48:スリーブ(連結部材)
50:クラッチギヤ(電動機側噛合部材)
54:アクチュエータ
80:電子制御装置(制御装置)
Nm:電動機の回転速度
N50:クラッチギヤの回転速度(電動機側噛合部材の回転速度)
Nm1:第1回転速度
Nm2:第2回転速度
Nsyn:駆動軸同期回転速度(駆動軸側噛合部材の回転速度)
Tm:電動機のトルク
F:押付力
α:車速の変化率
θ:電動機の回転速度変化率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と駆動軸との間の動力伝達経路を、該電動機により駆動される電動機側噛合部材と該駆動軸に連結された駆動軸側噛合部材とが相互に接続され或いは相互に解放されることにより断続させる噛合クラッチを備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、
車両走行中の前記噛合クラッチの接続が、前記電動機のトルクが零乃至略零の状態で実施されることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
車両走行中の前記噛合クラッチの接続の際には、前記電動機により前記電動機側噛合部材の回転速度を前記駆動軸側噛合部材の回転速度よりも大きい回転速度まで引き上げた後、該電動機のトルクを零乃至略零とした状態で、該噛合クラッチの電動機側噛合部材と駆動軸側噛合部材とに相互に噛み合うための連結部材をクラッチ接続側に付勢する所定の押付力が該噛合クラッチに付与されることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記電動機の回転速度を引き上げる時点は、車速の変化率が大きくなるに従って早くなることを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記電動機の回転速度を引き上げる際の回転速度変化率は、車速の変化率が大きくなるに従って大きくなることを特徴とする請求項2または3の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記電動機による前記電動機側噛合部材の回転速度は、前記駆動軸側噛合部材の回転速度よりも大きい第1回転速度まで引き上げられると、該電動機のトルクが零乃至略零とされるまでの間、該第1回転速度で維持されることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記電動機のトルクは、前記駆動軸側噛合部材の回転速度が前記第1回転速度よりも低い予め設定されている第2回転速度に到達したときに零乃至略零とされるものであり、その第2回転速度は、車速の変化率が大きくなるに従って大きな値に設定されることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記噛合クラッチの断続は、アクチュエータを介して切り替えられることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項8】
前記噛合クラッチは同期機構を備えた噛合クラッチであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−30727(P2012−30727A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173149(P2010−173149)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】