説明

車両用灯具反射鏡の成型方法及び当該成型方法で成型された車両用灯具反射鏡

【課題】従来の樹脂で形成する車両用灯具用反射鏡においては、耐熱性とネジレ強度の面からガラスファイバーなど比較的に多量の充填材が用いられ、それにより配光特性が乱れるものとなりアンダーコートなどによる補正に手間が係る問題点を生じていた。
【解決手段】本発明により、耐熱性を強化するため充填剤が添加された樹脂を金型で車両用灯具反射鏡の形状に成形する際に、予めに金型を樹脂のガラス転移温度近傍まで加熱し、その状態で射出を行うと、溶融により流れが良くなった樹脂が金型内を先行し、製品表面に充填剤を含まないスキン層を形成する。従って、樹脂のみで形成された平坦な表面が得られ、鏡面の形成時には充填物による表面荒れを補修するためのアンダーコート工程が省け、生産性と品質とが共に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両用灯具などに用いられる反射鏡の形成方法に係るものであり、詳細には、ヘッドライトなど、大きな消費電力の光源からの発熱に耐え、且つ、配光特性に正確な形状の保持が要求される反射鏡を樹脂モールドにより高い生産性で形成することを可能とする製造方法に関するものであり、加えて、当該の製造方法で形成された車両用灯具反射鏡に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来の、この種の反射鏡90の構成の例を示すものが図4であり、例えばバルクモールドコンパウンド、(以下、BMCと称する)の金型による成型により、基体91が形成されている。このときに、前記BMCは耐熱性を増すためにガラス繊維、炭酸カルシウムなどが混和された熱硬化性の樹脂が用いられているので、表面にガラス繊維や炭酸カルシュウムが浮きだし荒れた状態となっている。
【0003】
よって、表面の平滑性を増すために、アンダーコート層92が紫外線硬化型アクリル樹脂、紫外線硬化型エポキシ樹脂などにより前記基体91の表面に形成され、これにより平滑性が増した面上にアルミニウム、銀、銀合金などの蒸着が行われて、鏡面状となる反射膜93が形成されている。
【0004】
更に、前記反射膜93を覆っては、反射膜93の酸化などによる反射率の低下を防止するためのトップコート層94が、SiO2、又は,SiO2と酸化チタン、或いは、透明樹脂塗料などにより形成されている。
【特許文献1】特開2003−302509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記したBMCによる反射鏡90の形成は、在来はガラスの型押し、或いは、金属板のプレス加工などで形成されていた基体91の量産性の向上、コストダウン、軽量化など目的として行われたものであるが、現実には、ガラス、金属に対応する強度、特に高温時の耐性を保つためには厚みも厚くなり、また、ガラス繊維、炭酸カルシュウムなどの添加物の量も増え、期待したほどの軽量化の効果を生じていない。
【0006】
更には、前記基体91がガラス、金属で形成されていたときには、平面性も高いものであったのでアンダーコート層92も、後に行われるアルミニウムなどの蒸着膜の密着性を増加させるための塗料の塗装(スピンコート)などで良く、平坦性の向上の問題もなく簡便な作業で形成可能であったものが、より複雑化するものとなっている。
【0007】
従って、前記基体91を樹脂(BMC)化することの最大の目的である、生産性の向上、軽量化、工程の簡素化などが、期待していた程には達成されているとは言えないものとなっているのが実情であり、この点の解決が現時点での課題とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した従来の課題を解決するための具体的な手段として、ポリエーテルイミド樹脂にガラスファイバーの添加量が10〜20wt%含有された材料により、車両用灯具反射鏡を形成するときの形成方法であって、予めに前記車両用灯具反射鏡を形成する金型を前記ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移温度である217℃以上となるように加熱し、前記金型の温度が217℃以上に達した時点で、前記ポリエーテルイミド樹脂と前記ガラスファイバーとの混合物を前記金型中に射出注入を行い、保圧状態を保ち適宜な手段により金型の150℃までの冷却を行った後に前記車両用灯具反射鏡の取出しを行うことを特徴とする車両用灯具反射鏡の成型方法、及び、上記記載の成型方法により成型されたことを特徴とする車両用灯具反射鏡を提供することで課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、車両用灯具反射鏡を樹脂で形成するときに、所定の割合で充填物(ガラスファイバー)を充填したポリエーテルイミド樹脂を、予めに当該樹脂の融点近傍まで加熱した金型に注入するので、既に、前記ポリエーテルイミド樹脂は溶融状態となっており、加圧が行われた状態では、金型中を移動する早さが速いものとなる。
【0010】
よって、金型の表面には流動性に勝る前記ポリエーテルイミド樹脂が先に達するものとなり、その後に充填物であるガラスファイバーが遅れて達するものとなり、前記金型中のキャビティが充填される。よって、この状態を保ち固化させれば、形成される車両用灯具反射鏡1の表面は先に到着したポリエーテルイミド樹脂が100%の部分が薄膜上に生じるものとなり、充填物の影響を受けないものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。本発明では、車両用灯具反射鏡1の基材2を形成する樹脂として、熱硬化性であるBMC材に換えて、熱可塑性であるポリエーテルイミド樹脂2a(以下にPEI材2aと称する)を使用する。
【0012】
ここで、BMC材をPEI材2aに換えたときのデメリットとしては、第一には、PEI材2aがBMC材に比較して剛性が不足し、同じ板厚で成形したときには、車体への取付時の応力などでヒズミを生じ配光特性が狂う恐れを生じる問題点、第二には、PEI材2aは材料単価が高価であることから、BMC材と代替したときには、製品価格が高価となる問題点を生じる。
【0013】
先ず、第一の問題であるPEI材2aの剛性不足を解消するためには、板厚を増す、或いは、添加物であるガラスファイバー2bの添加量を増すことが考えられる。ここで、平均的な反射鏡1の肉厚2.3mmにおける曲げ弾性率の推奨値は6GPaであり、同じ厚さとしたときのガラスファイバー2bの充填率を10%としたときのPEI材の曲げ弾性率が5GPaであるので、曲げ弾性率は板厚の3乗に反比例することから、次式でPEI材に換えたときの必要板厚が計算できる。
【0014】
(1/((2.3)×6GPa))=(1/(x)×5GPa))…(1)
よって:x≒2.45mm、即ち、従来例のBMCで形成したときの肉厚2.3mmに対して、PEI材2aで形成するときには、0.15mm増せば良く、この寸法増加は、反射鏡1の形成、及び、車両用灯具全体の形成に対して、実質的に不都合を生じるものではなく、充分に実現可能な範囲の数値である。
【0015】
また、第二の問題点に対しては、PEI材2aにガラスファイバー2bを10wt%〜20wt%の範囲に限定して混和すること、及び、後に説明する本発明による反射鏡1の成型方法とすることで、反射鏡1の表面の平滑性が向上し、従来は絶対的に必要な工程とされたアンダーコート層92の形成(図4参照)も不要として、総合的にコストダウンを可能とし、問題点を解決する。
【0016】
図1に示すものは、本発明による前記反射鏡1の形成方法であり、図1には反射鏡1の成形手順と共に金型10の温度も示してある。そして、金型10は常温において、雄型10aと雌型10bとの型締めが行われ、そして、スチーム,ヒーター、若しくは、その両者による加熱が行われる。
【0017】
このようにして金型10(10a、10b)の温度が、PEI材1aのガラス転移温度である217℃近傍までスチーム、ヒーターなどにより温度Tの昇温がさせられて金型10が上記の温度に達した時点で、基材2、即ちガラスファイバー2bが所定の重量(例えば10wt%)添加されたPEI材2aを金型10内に射出する。
【0018】
このようにすることで、PEI材2aは金型10に射出された時点で速やかに流動し注入圧力により金型10内を充たすものとなる。このとき、前記PEI材2aに混和されたガラスファイバー2bも同時に金型10内に注入されるものとなるが、同じ圧力で注入された場合には、流動性の良いものほど金型10内を速い速度で移動することが予想される。
【0019】
よって、金型10の表面には、粘度も低く、比重も軽く、且つ、液体状であるので全体的に注入圧が係るPEI材2aが僅かに速く達するものとなり、金型10の表面には適宜の厚みのPEI材2aが100%で形成されるスキン層1aが形成されることが予想できるものとなる。
【0020】
本発明では、この状態を保つべく、樹脂の充填が終了した後には、直ちに金型10の温度を水冷など適宜な手段で冷却し、少なくとも、金型10に触れている部分の上記スキン層1aの保存を図るものとしており、前記金型10の温度が150℃以下となった時点で前記スキン層1aの部分の硬化は終了したものとして成型品、即ち、反射鏡1を金型10から取り出す。
【0021】
尚、上記した樹脂の充填後の冷却は、上記したスキン層1aの保存の他に、更に重畳される効果があり、それは、本発明では上記に説明したように、樹脂の注入以前に金型10の加熱の工程が追加されたので、成形サイクルが加熱時間だけ延びたのを、成形後に積極的に冷却することで、加熱による損失時間の一部分を回復するものとし、成形サイクルの低下が防止できるものとなる。
【0022】
図2は、上記に説明した成形方法で形成した反射鏡1の要部を断面で示すものであり、発明者による当初の予想通り、射出成型時における流動方向の樹脂が突き当たる部分には約数十μmのPEI材2aの100%で構成されるスキン層1aが形成されており、その他の部分にはガラスファイバー2bの所定量の混和が認められる基材層1bが形成されるものとなっていた。
【0023】
ここで、発明者は、前記スキン層1aの形成に、上記した金型10の予備加熱が有効であるか否かの検討と、基材層1bに対するガラスファイバー2bの添加量の適量がどの程度の混合量であるかを検討した。先ず、基材2中のPEI材2aに対する添加量を検討してみると、板厚2.3mmの条件で、添加量=0では曲げ弾性率は3GPaであり、強度が全く不足であり、同様に添加量=10%であれば5GPaでやや強度不足、添加量=20%であれば6GPaで規定の強度、添加量30%であれば8GPaとなり要求値を充分に満足することを確認した。
【0024】
ついで、上記のガラスファイバー2bの混合値としたPEI材2aのそれぞれを、通常の成型方法、即ち、金型10に加熱、冷却工程を施さない成型方法で車両用灯具反射鏡1として形成し、内面に直接にアルミ蒸着を行い反射特性を、拡散反射率測定器:((有)東京電色 TR−1100AD)により測定した。尚、このときに光学性能上問題のない拡散反射率は1.5%以下であることと設定した。
【0025】
上記の測定結果では、添加剤(ガラスファイバー2b)を含まないPEI材2aの拡散反射率が、1.1%であったのに対し、添加率10%では28.1%、添加率20%では30.8%、添加率30%では33.2%と、添加により極端に拡散反射率は悪化し、通常の成型方法では、ガラスファイバー2bを添加した場合には、何らかの表面処理を行わなければ反射鏡1として使用できないものであることが明らかになった。
【0026】
そして、以下に示すものが、本発明により予めに金型10を予熱する本発明による成型方法で形成した反射鏡1に直接にアルミ蒸着を行ったときの拡散反射の状態を示すものであり、但し、前の実験でガラスファイバー2bを添加しないときには拡散反射率は規格にはいることが明らかではあるが、強度不足で実用化不能であるので、ここでは測定は除外した。
【0027】
よって、ガラスファイバー2bが10%添加された状態から測定を行ったが、このときの拡散反射率は1.2%であり、設定された1.5%をクリアし反射鏡1として使用可能であることが証明された。尚、このときにも、上記と同様に、反射鏡1の内面に直接にアルミ蒸着が行われている。
【0028】
次いで、ガラスファイバー2bが20%添加された状態で測定を行ったが、このときの拡散反射率は1.4%であり、設定値内であるので実用可能と判断できるものであった。しかも、曲げ弾性率は6GPaまで向上しているので、BMCを採用した樹脂反射鏡と同等の強度も得られ、例えば、オフロード用車両などへの使用にも適するものとなる。
【0029】
そして、最後のデータは、ガラスファイバー2bを30%添加したときのものであり、強度は更に向上するが、ガラスファイバー2bが添加されたことによる作用が徐々に強く表れるようになり、ついに、拡散反射率が規定値である1.5%を越えて1.7%に達している。
【0030】
よって、本発明においては、ガラスファイバー2bの添加量を10%から20%に限定するものであり、この範囲で、上記の成型方法で車両用灯具反射鏡1を形成する限りにおいては、図2にも示したようにスキン層1aがPEI材2aのみで平滑なものとして形成されるが、添加量が20%を越えると、本発明の製造方法を持っても、ガラスファイバー2bなどが図3に示すように基材層1bから飛び出すなどして、スキン層1aの平滑度に影響を与え拡散反射率を低下させるものとなると考えられる。
【0031】
以上に説明したように、本発明によれば、従来の製造方法に比べてアルミ蒸着を行う前のアンダーコーティングを不要とする。よって、工数の低減が可能となると共に、例えば反射面が急激に曲がる部分に、塗料の表面張力による溜まりを生じることもなくなり、金型で形成された面と全く同一の反射面の形成が可能となり、配光精度の向上など車両用灯具の性能向上にも効果を奏するものとなる。
【0032】
また、本発明を実際に実施するに当たっては、金型に適宜な加熱装置と冷却装置とを設ければ良く、特殊な構成の成型機が特に要求されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る車両用灯具反射鏡の製造方法を、金型温度を示すグラフと対応して示す説明図である。
【図2】本発明に係る車両用灯具反射鏡の製造方法により製造された反射鏡を要部で示す説明図である。
【図3】本発明に係る車両用灯具反射鏡の製造方法において、添加材が過剰なときの状態を示す説明図である。
【図4】従来例を要部で示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1…車両用灯具反射鏡
1a…スキン層
1b…基材層
2…基材
2a…ポリエーテルイミド樹脂(PEI材)
2b…ガラスファイバー
10…金型
10a…雄型
10b…雌型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルイミド樹脂にガラスファイバーの添加量が10〜20wt%含有された材料により、車両用灯具反射鏡を形成するときの形成方法であって、予めに前記車両用灯具反射鏡を形成する金型を前記ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移温度である217℃以上となるように加熱し、前記金型の温度が217℃以上に達した時点で、前記ポリエーテルイミド樹脂と前記ガラスファイバーとの混合物を前記金型中に射出注入を行い、保圧状態を保ち適宜な手段により金型の150℃までの冷却を行った後に前記車両用灯具反射鏡の取出しを行うことを特徴とする車両用灯具反射鏡の成型方法。
【請求項2】
請求項1記載の成型方法により成型されたことを特徴とする車両用灯具反射鏡。
【請求項3】
請求項2記載の車両用灯具反射鏡の反射面部分には、直接にアルミニウム若しくは銀蒸着が行われて反射面が形成されていることを特徴とする請求項2記載の車両用灯具反射鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−279760(P2009−279760A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130956(P2008−130956)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】