説明

車両用駆動力制御装置

【課題】吸気負圧で高められた操作力で発生する作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両において、作動流体の圧力に基づいて算出される要求駆動力に基づいて制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を備える場合に、運転者の意図に合致した制駆動力制御を行える車両用駆動力制御装置を提供すること。
【解決手段】吸気負圧で高められた運転者の操作力で発生する作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両に設けられ、作動流体の圧力に基づいて要求駆動力を算出する駆動力算出手段101,102と、算出された要求駆動力に基づいて設定される制御指令値に応じて車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段103,104とを備える車両用駆動力制御装置100であって、複数の駆動力制御手段のうち、予め定められた特定の駆動力制御手段104における制御指令値が、検出または推定された吸気負圧に応じて可変に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動力制御装置に関し、特に、制動装置の作動流体の圧力に基づいて算出される運転者の要求駆動力に基づいて車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を備える車両用駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アクセル操作やブレーキ操作等に基づいて運転者の要求駆動力(あるいは、要求する加速度)を算出する、いわゆる駆動力デマンドシステムの技術が知られている。
【0003】
駆動力デマンドシステムの一例として、例えば、特許文献1には、運転者のアクセルペダルの操作量と車速とから目標駆動力を決定する駆動力制御装置が開示されている。
【0004】
駆動力デマンドシステムにおいて、運転者のブレーキ操作に基づいて運転者の要求する減速度を推定する場合、要求減速度は、例えば、運転者のブレーキペダル(操作部材)に対する踏力(操作力)の推定値に基づいて算出される。ブレーキペダルに対する踏力は、運転者の減速意図によく対応していることが知られている。このため、ブレーキペダルに対する踏力の推定値に基づいて要求減速度を算出することにより、運転者の減速意図に沿った制駆動力制御を行うことが可能となる。運転者のブレーキペダルに対する踏力を推定する方法としては、従来、ブレーキのマスタシリンダ圧に基づいて推定する方法が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−298317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ブレーキペダル(操作部材)とマスタシリンダとの間に、内燃機関の吸気通路に生じる負圧である吸気負圧を利用して運転者のブレーキペダルに対する踏力を高めて伝達する倍力装置が設けられる場合がある。この場合、内燃機関の運転条件によっては、マスタシリンダ圧から推定される踏力と実際の踏力との間に乖離が生じることがある。例えば、吸気負圧が十分でない場合である。この場合、倍力装置が踏力を十分に高めてマスタシリンダに伝達することができないため、要求減速度を実際よりも小さく推定してしまうこととなる。
【0007】
要求減速度が実際よりも小さく推定された場合、制駆動力制御が運転者の意図と合致せずに運転性が低下することがある。これは、要求駆動力に基づいて制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を有する場合に、予め定められた特定の駆動力制御手段における制駆動力の制御が運転者の意図に合致しないものとなることによる。例えば、要求駆動力に基づいて、自動変速機の変速制御を行う変速制御手段において、変速段(変速比)の算出結果が運転者の意図に合致しなくなる場合がある。
【0008】
これに対して、特定の駆動力制御手段の制駆動力制御が運転者の意図に合致しなくなる問題を解決するために、吸気負圧に基づいて、要求駆動力自体を補正することが考えられる。しかしながら、要求駆動力を変更した場合、同じ要求駆動力に基づいて制駆動力を制御する他の駆動力制御手段に影響を与えてしまうこととなる。駆動力制御手段によっては、吸気負圧に基づく要求駆動力の補正がなされることで、運転性の低下等を招く可能性がある。例えば、要求駆動力に基づいて内燃機関の出力が制御される場合である。内燃機関の出力は、吸気負圧の影響を直接受けるものであるため、吸気負圧に基づいて要求駆動力が補正され、補正された要求駆動力に基づいて内燃機関が制御された場合、内燃機関の出力に吸気負圧の影響が二重に反映されることとなる。その結果、運転者の意図に沿わない制駆動力制御となる虞がある。
【0009】
内燃機関の吸気負圧を利用して運転者の操作部材に対する操作力を高め、高められた操作力が発生させる作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両において、作動流体の圧力に基づいて算出される要求駆動力に基づいて車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を備える場合に、運転者の意図に合致した制駆動力制御を行えることが望まれている。
【0010】
本発明の目的は、内燃機関の吸気負圧を利用して運転者の操作部材に対する操作力を高め、高められた操作力が発生させる作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両において、作動流体の圧力に基づいて算出される要求駆動力に基づいて車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を備える場合に、運転者の意図に合致した制駆動力制御を行うことができる車両用駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の車両用駆動力制御装置は、内燃機関の吸気通路に生じる負圧である吸気負圧を利用して運転者の操作部材に対する操作力を高め、前記高められた前記操作力が発生させる作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両に設けられ、前記作動流体の圧力に基づいて前記運転者の要求駆動力を算出する駆動力算出手段と、前記駆動力算出手段により算出された前記要求駆動力に基づいて設定される制御指令値に応じて前記車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段とを備える車両用駆動力制御装置であって、前記吸気負圧を検出または推定する負圧検出推定手段を備え、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、予め定められた特定の前記駆動力制御手段における前記制御指令値が、前記負圧検出推定手段により検出または推定された前記吸気負圧に応じて可変に設定されることを特徴とする。
【0012】
本発明の車両用駆動力制御装置は、内燃機関の吸気通路に生じる負圧である吸気負圧を利用して運転者の操作部材に対する操作力を高め、前記高められた前記操作力が発生させる作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両に設けられ、前記運転者の要求駆動力に基づいて前記車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を備える車両用駆動力制御装置であって、前記吸気負圧を検出または推定する負圧検出推定手段と、前記作動流体の圧力に基づいて算出される前記要求駆動力である第一要求駆動力を算出する第一駆動力算出手段と、前記作動流体の圧力と、前記負圧検出推定手段により検出または推定された前記吸気負圧とに基づいて算出される前記要求駆動力である第二要求駆動力を算出する第二駆動力算出手段とを備え、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、予め定められた特定の前記駆動力制御手段は、前記第二要求駆動力に基づいて前記制駆動力を制御し、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記特定の前記駆動力制御手段以外の前記駆動力制御手段は、前記第一要求駆動力に基づいて前記制駆動力を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記特定の前記駆動力制御手段における前記制御指令値、または、前記第二要求駆動力は、前記操作部材に対する前記操作力と、前記作動流体の圧力と、前記吸気負圧との関係に基づいて算出されることを特徴とする。
【0014】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記特定の前記駆動力制御手段とは、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記吸気負圧の状態の影響を受けにくい前記駆動力制御手段であり、前記特定の前記駆動力制御手段以外の前記駆動力制御手段とは、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記吸気負圧の状態の影響を受けやすい前記駆動力制御手段であることを特徴とする。
【0015】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記特定の前記駆動力制御手段とは、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記要求駆動力に高い精度が要求される前記駆動力制御手段であり、前記特定の前記駆動力制御手段以外の前記駆動力制御手段とは、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記要求駆動力に高い精度が要求されない前記駆動力制御手段であることを特徴とする。
【0016】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記特定の前記駆動力制御手段とは、前記内燃機関の出力を前記車両の駆動軸に伝達する自動変速機の変速制御を行う変速制御手段であることを特徴とする。
【0017】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記制御指令値とは、前記自動変速機の目標変速比であり、前記負圧検出推定手段により検出または推定された前記吸気負圧に応じて前記自動変速機の変速線が可変とされることで、前記目標変速比が可変とされることを特徴とする。
【0018】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記特定の前記駆動力制御手段以外の前記駆動力制御手段とは、前記内燃機関の運転制御を行う運転制御手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、吸気負圧を利用して運転者の操作部材に対する操作力を高め、高められた操作力が発生させる作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両に設けられ、作動流体の圧力に基づいて算出される運転者の要求駆動力に基づいて車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を備える車両用駆動力制御装置において、検出または推定された吸気負圧に基づいて、複数の駆動力制御手段のうち、予め定められた特定の駆動力制御手段による制駆動力制御に選択的に吸気負圧の状態を反映させることができる。これにより、運転者の意図に合致した制駆動力制御を実行することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の車両用駆動力制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1から図7を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、制動装置の作動流体の圧力に基づいて算出される運転者の要求駆動力に基づいて車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を備える車両用駆動力制御装置に関する。
【0022】
本実施形態の構成としては、以下の(1)および(2)の構成を備えていることが前提となる。
(1)アクセル、ブレーキから前後駆動力を推定する手段を有した自動変速機搭載車両
(2)ブレーキ圧をエンジン負圧によりアシストする機構
【0023】
図1は、本実施形態の車両用駆動力制御装置に係るブロック図である。
【0024】
本実施形態の車両用駆動力制御装置100は、要求駆動力算出部(駆動力算出手段)101,102と、エンジン制御システム(運転制御手段)103と、ギヤ段選択システム(変速制御手段)104と、エンジン負圧推定手段(負圧検出推定手段)105と、アクセル入力検出手段106と、ブレーキ入力検出手段107とを有する。
【0025】
車両用駆動力制御装置100は、運転者のアクセル操作やブレーキ操作に基づいて運転者の要求駆動力(あるいは、要求する加速度)を算出し、算出された要求駆動力に基づいて、車両用駆動力制御装置100が搭載された車両(図示せず)の制駆動力を制御する。
【0026】
アクセル入力検出手段106は、アクセルペダル(図示せず)の開度であるアクセル開度を検出する。アクセル開度検出手段106は、アクセルペダルが全開とされたときのアクセル開度を100%とするアクセル開度を検出し、その検出結果を示す信号を要求駆動力算出部101,102に出力する。
【0027】
ブレーキ入力検出手段107は、運転者のブレーキ入力を検出する。より具体的には、ブレーキ入力検出手段107は、後述するブレーキ装置(図2の符号200参照)のマスタシリンダ(図2の符号222参照)内の作動流体の圧力であるマスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ(図2の符号228参照)の検出結果を示す信号を要求駆動力算出部101,102に出力する。
【0028】
要求駆動力算出部101,102は、アクセル入力検出手段106、およびブレーキ入力検出手段107から取得した信号に基づいて、運転者の要求駆動力を算出する。要求駆動力算出部101,および102によりそれぞれ算出される要求駆動力は、等しい値であることができる。
【0029】
要求駆動力算出部101により算出された要求駆動力は、エンジン制御システム103に出力される。エンジン制御システム103は、要求駆動力算出部101から取得した要求駆動力に基づいて、エンジン5を制御する。エンジン制御システム103は、要求駆動力に基づいてエンジン5の制御量(制御指令値)としてのスロットル開度等を算出し、その制御量をエンジン5に出力する。エンジン5は、エンジン制御システム103から取得した制御量に基づいて、後述するスロットル弁(図2の符号7a参照)の開度の制御等を実行する。
【0030】
要求駆動力算出部102により算出された要求駆動力は、ギヤ段選択システム104に出力される。ギヤ段選択システム104は、要求駆動力算出部102から取得した要求駆動力に基づいて自動変速機2のギヤ段(変速段)を制御する統合シフトマネージメントを実行する。本実施形態の自動変速機2は、有段式の自動変速機である。ギヤ段選択システム104は、要求駆動力算出部102から取得した要求駆動力に基づいて、図3に示す変速線図を参照して自動変速機2の変速段を選択する。
【0031】
図3は、自動変速機2の変速段を選択するための変速線図である。図3の変速線図には、車速および要求駆動力と目標変速段との間の関係が定められている。図3において、符号301,302は、変速線を示す。変速線301,302は、異なる変速段の領域の境界を示す。例えば、符号301は、n速変速段の領域R(n)と(n−1)速変速段の領域R(n−1)との境界を示す。要求駆動力が減少して矢印Y1に示すようにn速変速段の領域R(n)から(n−1)速変速段の領域R(n−1)へ移行した場合には、自動変速機2の変速段がn速変速段から(n−1)速変速段に変速(ダウンシフト)される。
【0032】
ギヤ段選択システム104は、上記変速線図に基づいて選択した目標変速段を自動変速機2に出力する。自動変速機2は、ギヤ段選択システム104から取得した目標変速段を実現するように変速段を制御する。
【0033】
以下に図2を参照して説明するように、本実施形態の車両が備えるブレーキ装置200は、エンジン5の吸気通路に生じる負圧である吸気負圧を利用して運転者のブレーキペダル(操作部材)に対する操作力を高める倍力装置を備え、倍力装置により高められた操作力が発生させる作動流体の圧力により車両を制動する。ブレーキ装置200に倍力装置が設けられている場合、吸気負圧が十分でなかったり、吸気負圧が変動したりした場合には、マスタシリンダ圧に基づいて推定される運転者の要求駆動力に誤差が生じる(実際の値から乖離する)ことがある。例えば、運転者によるアクセル操作やエンジン回転数の変化、あるいは、車両用駆動力制御装置100によるスロットル弁7aの開度調節等により、エンジン5の運転状態が変化し、その結果、吸気負圧が変動したり不足したりする場合である。この場合、ギヤ段選択システム104により選択される目標変速段が運転者の意図と合致しないものとなってしまう。
【0034】
本実施形態の車両用駆動力制御装置100には、吸気負圧を推定するエンジン負圧推定手段105が設けられており、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧に基づいて、変速線図の変速線が補正される。これにより、吸気負圧が十分でなかったり、吸気負圧が変動したりした場合であっても、運転者の要求減速意図に沿った変速段の算出を実施することが可能となる。よって、吸気負圧が十分でなかったり、吸気負圧が変動したりした場合であっても、運転者の意図に沿った自動変速機2の変速制御を行うことが可能となる。
【0035】
図2は、本実施形態の車両用駆動力制御装置100が適用される車両の要部を示す概略図である。
【0036】
ブレーキ装置200は、車両の運動エネルギ(慣性力)を熱エネルギに変換して、車両の制動を行う装置であり、ブレーキペダルに対する操作力を、液圧により摩擦ブレーキに伝達するいわゆるハイドロリック(液圧式)ブレーキである。
【0037】
ブレーキ装置200は、運転者により操作される操作部材としてのブレーキペダル210と、ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLの作動により車輪と係合する部材に摩擦力を生じさせて制動する出力機構としての摩擦ブレーキ90FR,90RL,90RR,90FLと、ブレーキペダル210に加えられた操作力を、ブレーキ液(作動流体)の圧力(以下、単に「液圧」と記す)に変換するマスタシリンダ222と、マスタシリンダ222内のブレーキ液の圧力(以下、マスタシリンダ圧と記す)を、ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLに伝達する圧力伝達機構としてのブレーキアクチュエータ230と、ブレーキペダルの操作力を倍力して、マスタシリンダ222に伝達するブレーキ倍力装置220を有している。加えて、ブレーキ装置200には、ブレーキアクチュエータ230を制御する制御手段として、ブレーキ装置用電子制御装置180(以下、ブレーキECUと記す)が設けられている。
【0038】
なお、ブレーキ装置200の説明において、符号末尾の英字「FR」は車両前方右側の車輪に対応して設けられていることを示し、「RL」は車両後方左側の車輪に対応して設けられていることを示し、「RR」は、車両後方右側の車輪に対応して設けられていることを示し、「FL」は車両前方左側の車輪に対応して設けられていることを示している。
【0039】
車両には、2つの駆動輪を含む4つの車輪(図示せず)に対応して、摩擦ブレーキ90FR,90RL,90FL,90RRが設けられている。これら摩擦ブレーキ90FR,90RL,90FL,90RRは、いわゆるディスク式ブレーキであり、駆動輪を含む車輪と共に回転するロータディスク(図示せず)と、ロータディスクを挟み込むブレーキパッド(図示せず)と、ブレーキパッドを押圧することで、ロータディスクとブレーキパッドとの間に摩擦力を生じさせるブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLとを有している。
【0040】
ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLは、それぞれブレーキアクチュエータ230の液圧管路281,282,283,284から液圧の供給を受ける。ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLに供給される液圧(以下、単に「ブレーキシリンダ圧」と記す)は、ブレーキアクチュエータ230により制御される。
【0041】
ブレーキペダル210は、運転者により踏面211が踏み込まれて操作され、その操作力をブレーキ倍力装置220に伝達する。ブレーキ倍力装置220は、負圧源であるエンジン5から供給された負圧と大気圧との圧力差を利用して、ブレーキペダル210に対する操作力を、倍力することで、所望の制動力を得るために必要な運転者によるブレーキペダル210の操作力を軽減する、いわゆる真空式倍力装置(ブレーキブースタ)である。ブレーキ倍力装置220には、負圧を蓄えるための負圧室(図示せず)が設けられている。
【0042】
ブレーキ倍力装置220と、エンジン5のインテークマニホールド7cとの間は、負圧管路218で接続されており、ブレーキ倍力装置220の負圧室と、負圧源であるインテークマニホールド7c内とは、図示しない逆止弁を介して連通している。
【0043】
エンジン5を作動状態にして、機関出力軸を回転させると、ピストン6が往復運動して、インテークマニホールド7cから気筒内に空気が吸入され、インテークマニホールド7c内には、負圧が生じる。このようにしてエンジン5により生じた負圧を、以下「吸気負圧」と記す。
【0044】
ブレーキ倍力装置220は、エンジン5に生じた吸気負圧を、負圧管路218から負圧室に取り入れ、負圧室に蓄える。ブレーキ倍力装置220は、負圧室に蓄えられた負圧(以下、ブースタ負圧と記す)と大気圧との差圧を利用して、ブレーキペダル210からの操作力を、倍力、すなわち増大させて、マスタシリンダ222に伝達する。
【0045】
マスタシリンダ222は、内部に油圧室(図示せず)を有しており、油圧室には、作動流体であるブレーキ液が充填されている。また、マスタシリンダ222には、油圧室に隣接してブレーキ液を貯蔵するリザーバタンク221が設けられている。マスタシリンダ222は、ブレーキ倍力装置220により増大されたブレーキペダル210に対する操作力を受けて、油圧室内のブレーキ液の液圧(マスタシリンダ圧)に変換する。
【0046】
マスタシリンダ222の油圧室には、ブレーキアクチュエータ230に液圧を供給する2つの液圧管路226,227が接続されている。一方の液圧管路227には、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ228が設けられている。マスタシリンダ圧センサ228は、検出したマスタシリンダ圧に係る信号を、ブレーキECU180および車両用駆動力制御装置100に送出している。
【0047】
ブレーキアクチュエータ230は、マスタシリンダ222からの液圧を、各ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLごとに調整して伝達するものであり、ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLに対応して、ブレーキシリンダ圧を保持する保持弁240,241,242,243と、ブレーキシリンダ圧を減圧する減圧弁248,249,250,251を有している。
【0048】
また、ブレーキアクチュエータ230は、ブレーキシリンダ95FR,95RLとマスタシリンダ222との間におけるブレーキ液の流通を遮断可能にするマスタカット弁232と、ブレーキシリンダ95RR,95FLとマスタシリンダ222との間におけるブレーキ液の流通を遮断可能にするマスタカット弁233とを備えている。マスタカット弁232,233は、それぞれ、液圧管路226,227を介してマスタシリンダ222と接続されている。
【0049】
また、ブレーキアクチュエータ230には、ブレーキ液を貯蔵するリザーバタンク254,255と、リザーバタンク254,255のブレーキ液を昇圧して、マスタカット弁232,233と保持弁240,241,242,243との間を接続する液圧管路234,235に圧送することが可能なオイルポンプ259,260とを有している。
【0050】
保持弁240,241は、一方が、それぞれ液圧管路281,282を介してブレーキシリンダ95FR,95RLと接続されており、他方が、液圧管路234,237を介してマスタカット弁232と接続されている。保持弁242,243は、一方が、それぞれ液圧管路283,284を介してブレーキシリンダ95RR,95FLと接続されており、他方が液圧管路235,238を介してマスタカット弁233と接続されている。
【0051】
マスタカット弁232,233が開弁状態である場合、保持弁240,241,242,243が開弁すると、マスタシリンダ222と、ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLのそれぞれとの間でブレーキ液が流通可能となる。保持弁240,241,242,243の開閉は、ブレーキECU180により制御される。
【0052】
減圧弁248,249は、一方が、それぞれ液圧管路281,282を介してブレーキシリンダ95FR,95RLと接続されており、他方が、液圧管路252を介してリザーバタンク254と接続されている。減圧弁250,251は、それぞれ液圧管路283,284を介してブレーキシリンダ95RR,95FLと接続されており、他方が、液圧管路253を介してリザーバタンク255と接続されている。
【0053】
マスタカット弁232,233が開弁状態である場合、減圧弁248,249,250,251が開弁すると、ブレーキシリンダ95FR,95RLとリザーバタンク254との間でブレーキ液が流通可能となり、ブレーキシリンダ95RR,95FLとリザーバタンク255との間でブレーキ液が流通可能となる。減圧弁248,249,250,251の開閉は、ブレーキECU180により制御される。
【0054】
マスタカット弁232は、一方が、液圧管路226および液圧管路267を介して逆止弁269を備えたリザーバタンク254と接続されており、他方が、液圧管路234および液圧管路256を介してリザーバタンク254と接続されている。液圧管路256の途中には、リザーバタンク254からマスタカット弁232に向けてブレーキ液を圧送するオイルポンプ259と逆止弁261が設けられている。
【0055】
マスタカット弁233は、一方が、液圧管路227、液圧管路268を介して逆止弁270を備えたリザーバタンク255と接続されており、他方が、液圧管路235および液圧管路257を介してリザーバタンク255と接続されている。液圧管路257の途中には、リザーバタンク255からマスタカット弁233に向けてブレーキ液を圧送するオイルポンプ260と、逆止弁262が設けられている。
【0056】
以上のように構成されたブレーキ装置200は、マスタカット弁232,233が開弁状態である場合、保持弁240,241,242,243を開弁状態にすると共に減圧弁248,249,250,251を閉弁状態にすることで、マスタシリンダ222と各ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLとを連通させる。これにより、マスタシリンダ圧が、そのままブレーキシリンダ圧にすることができ、ブレーキペダル210の操作力が増大するに従って、ブレーキシリンダ圧を増大させることができる。
【0057】
一方、マスタカット弁232,233が開弁状態である場合、保持弁240,241,242,243を閉弁状態にすると共に減圧弁248,249,250,251を閉弁状態にすることで、ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLと、マスタシリンダ222およびリザーバタンク254,255との間におけるブレーキ液の流通を遮断する。これにより、ブレーキ装置200は、ブレーキペダル210の操作に関係なく、ブレーキシリンダ圧を、そのまま一定の圧力に保持することができる。
【0058】
また、マスタカット弁232,233が開弁状態である場合、保持弁240,241,242,243を閉弁状態にすると共に減圧弁248,249,250,251を開弁状態にすることで、ブレーキシリンダ95FR,95RL,95RR,95FLとリザーバタンク254,255を、減圧弁248,249,250,251を介して連通させる。これにより、ブレーキ装置200は、ブレーキペダルの操作に関係なく、ブレーキシリンダ圧を減圧することができる。
【0059】
以上説明したブレーキ装置200において、ブレーキ倍力装置220は、エンジン5のインテークマニホールド7cから導入された吸気負圧を利用して、ブレーキペダル210に対する踏力(操作力)を高めてマスタシリンダ222に伝達するものである。このため、エンジン5の運転条件によって、吸気負圧が小さく(インテークマニホールド7cの圧力と大気圧との差圧が小さく)なったり、吸気負圧が変動したりした場合には、運転者による踏力が同じであっても、マスタシリンダ圧が異なる場合がある。この場合、マスタシリンダ圧から算出される運転者の踏力の推定値と実際の踏力との間に乖離が生じることとなる。その結果、マスタシリンダ圧に基づいて推定される要求駆動力に誤差が生じる(実際の値から乖離する)こととなる。
【0060】
推定される要求駆動力に誤差が生じた場合、複数の駆動力制御手段において要求駆動力に基づいてそれぞれ設定される制御指令値のうち、特定の駆動力制御手段で設定される制御指令値、例えば、ギヤ段選択システム104において設定される目標変速段が運転者の意図と合致しないものとなってしまう虞がある。
【0061】
本実施形態では、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧に基づいて、以下に図4を参照して説明するように、変速線図の変速線が補正される。すなわち、推定された吸気負圧に基づいて、予め定められた特定の駆動力制御手段における制御指令値が可変に設定される。
【0062】
エンジン負圧推定手段105は、インテークマニホールド7c内の圧力を推定し、推定されたインテークマニホールド7c内の圧力と大気圧との差圧である吸気負圧を算出する。インテークマニホールド7c内の圧力の推定方法については、従来公知の方法を用いることができる。エンジン5の筒内の空気量を推定するエンジンエアモデル等により、インテークマニホールド7c内の圧力を推定することができる。例えば、特開2005−69021号公報に開示された方法により、インテークマニホールド7c内の圧力を推定することができる。エンジン負圧推定手段105は、吸気負圧の推定値をギヤ段選択システム104に出力する。
【0063】
図4は、変速線の補正内容について説明するための図である。
【0064】
図4において、符号301aは、変速線301における減速側(要求駆動力が負である側)の変速線(以下、「減速側の変速線301a」と記す)を示す。要求駆動力が負である場合には、減速側の変速線301aに基づいて自動変速機2の目標変速段が選択される。
【0065】
本実施形態では、以下に図5を参照して説明するように、以下の(1)または(2)の条件が満たされる場合、すなわち、ブレーキ倍力装置220がブレーキペダル210に対する踏力を十分に高めてマスタシリンダ222に伝達できない場合には、変速線が補正される。
(1)エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧が予め定められた限界値(後述する負圧限界値)よりも小さい(インテークマニホールド7cの圧力と大気圧との差圧が小さい)場合
(2)エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧が負圧限界値よりも大きいものの、吸気負圧が基準値に対して大きく変動している場合
【0066】
ブレーキ倍力装置220がブレーキペダル210に対する踏力を十分に高めることができない場合、ブレーキペダル210に対する実際の踏力に対して、マスタシリンダ圧に基づいて算出される踏力の推定値を小さく見積もってしまうこととなる。言い換えると、運転者の減速要求を実際よりも小さく見積もってしまうこととなる。その結果、マスタシリンダ圧に基づいて算出される要求駆動力は、実際に運転者が要求する駆動力と比較して大きな(駆動力の正方向にずれた)値となってしまう。この場合、ギヤ段選択システム104による変速判断が運転者の意図しないものとなる。
【0067】
これに対して、本実施形態では、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧に基づいて、吸気負圧の不足または変動に起因する要求駆動力の推定値と実際に要求される駆動力とのずれに応じて、変速線が駆動側(駆動力の正方向)に補正される。図4に矢印Y2で示すように、減速側の変速線301aが、駆動力の正方向に移動された符号301bで示す変速線に変更される。これにより、ブレーキ操作がなされた場合に、同じ車速に対して、より大きな要求駆動力(小さな減速要求)でダウンシフトされることができる。すなわち、吸気負圧の不足または変動により、算出される要求駆動力が実際に要求される駆動力と比較して大きな値になった(運転者の減速要求を実際よりも小さく見積もった)としても、変速判断が運転者の意図しないものとなることを抑制できる。
【0068】
次に、図5を参照して、吸気負圧に基づく変速線の補正が必要か否かを判定する方法について説明する。
【0069】
図5は、エンジン5の運転条件に対応する吸気負圧の基準値を定めた基準エンジン負圧マップである。図5には、予め定められた通常環境下においてエンジン5を定常状態で運転した場合のエンジン回転数[rpm]とアクセル開度[%]との組み合わせに対する吸気負圧の推定値をマップ化したものである。インテークマニホールド7c内の圧力の推定方法については、従来公知の方法を用いることができる。例えば、特開2005−69021号公報に開示された方法により、インテークマニホールド7c内の圧力を推定することができる。
【0070】
図5において、符号P1は、負圧限界値を示す。負圧限界値P1は、ブレーキ倍力装置220によりブレーキペダル210に対する踏力を十分に増加させることができる吸気負圧の限界値として定められている。言い換えると、吸気負圧が負圧限界値P1よりも大きい(図5で負圧限界値P1よりも下側にある)場合には、ブレーキ倍力装置220により必要アシスト液圧が得られる。この場合、吸気負圧が変動している状態でなければ、マスタシリンダ圧から推定される運転者の減速要求と実際の減速要求との間には、実質的に乖離が生じないと判定することができる。
【0071】
次に、図6を参照して、ブレーキペダル210に対する踏力の推定値、および要求駆動力の補正量の算出方法について説明する。本実施形態では、算出された要求駆動力の補正量に基づいて、変速線が変更される。
【0072】
図6は、マスタシリンダ圧とブレーキペダル210に対する踏力との関係を示す図(ブレーキ性能線図)である。なお、図6において、横軸は、運転者がブレーキペダル210に入力する踏力とブレーキペダル210のレバー比との積である。
【0073】
図6において、符号401は、踏力推定理論線を示す。踏力推定理論線401とは、吸気負圧が十分である場合、例えば、吸気負圧が負圧限界値P1よりも大きい場合における理論上のマスタシリンダ圧とブレーキペダル210に対する踏力との関係を示す特性線である。要求駆動力算出部101,102は、マスタシリンダ圧とブレーキペダル210に対する踏力とが踏力推定理論線401に示す関係にあることを前提として要求駆動力を算出する。吸気負圧が十分である場合には、踏力推定理論線401に基づいて、マスタシリンダ圧からブレーキペダル210に対する踏力を精度よく推定することができる。
【0074】
しかしながら、吸気負圧が十分でない場合や、吸気負圧が変動している過渡状態においては、ブレーキ倍力装置220がブレーキペダル210に対する踏力を十分にアシストする(増加させる)ことができない。このため、マスタシリンダ圧とブレーキペダル210に対する踏力とは、図6に符号402から407に示す特性線の関係となる。特性線402から407は、吸気負圧のレベルごとのマスタシリンダ圧とブレーキペダル210に対する踏力との間の関係を示す。例えば、吸気負圧が26.7kPaである場合のマスタシリンダ圧とブレーキペダル210に対する踏力との関係は、符号404の特性線で示される。
【0075】
検出されたマスタシリンダ圧が5MPaである場合に、要求駆動力算出部101,102は、踏力推定理論線401上のA点に対応する踏力の推定値F1に基づいて、要求駆動力を算出する。この場合に、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧が26.7kPaであったとすると、ブレーキペダル210に対する実際の踏力(真値)は、特性線404上のB点に対応する踏力F2と推定することができる。真の踏力F2と要求駆動力算出部102により推定された踏力F1とのずれ量に基づいて、要求駆動力の補正量が算出される。この要求駆動力の補正量に基づいて、図4に示すように、減速側の変速線301aが変速線301bに補正される。補正前の減速側の変速線301aと補正後の減速側の変速線301bとの差分、つまり、矢印Y2で示す駆動力の大きさ(移動量)が、上記要求駆動力の補正量に基づいて決定される。
【0076】
次に、図7を参照して、本実施形態の動作について説明する。図7は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。
【0077】
まず、ステップS10では、要求駆動力算出部102により、ギヤ段選択用の要求駆動力が算出される。要求駆動力算出部102は、アクセル入力検出手段106から取得したアクセル開度、および、ブレーキ入力検出手段107から取得したマスタシリンダ圧に基づいて要求駆動力を算出する。
【0078】
次に、ステップS20では、ギヤ段選択システム104により、以下に示す(a)または(b)の条件のうち少なくともいずれか一方が成立するか否かを判定する。
(a)基準エンジン負圧マップ(図5参照)に定められた吸気負圧の基準値に対して、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧が予め定められた一定値以上減少している
(b)エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧が負圧限界値P1以下である
【0079】
ギヤ段選択システム104は、現在のエンジン回転数とアクセル開度とに基づいて、図5に示す基準エンジン負圧マップを参照して吸気負圧の基準値を算出する。算出された吸気負圧の基準値に対して、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧が上記一定値以上減少している場合には、(a)の条件が成立している(エンジン負圧変化あり)と判定される。なお、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧が負圧限界値P1以上であったとしても、吸気負圧が基準値に対して一定値以上減少していれば、(a)の条件が成立していると判定される。
【0080】
また、ギヤ段選択システム104は、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧が負圧限界値P1以下である(図5で吸気負圧が負圧限界値P1よりも上側にある)場合には、(b)の条件が成立していると判定する。
【0081】
ステップS20の判定の結果、(a)または(b)の条件のうち少なくともいずれか一方が成立すると判定された場合(ステップS20−Y)には、ステップS30に進み、そうでない場合(ステップS20−N)には、ステップS40に進む。
【0082】
ステップS30では、ギヤ段選択システム104により、負圧の変化量に応じて変速線図が補正される。ギヤ段選択システム104は、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧に基づき、図6に示すマスタシリンダ圧とブレーキペダル210に対する踏力との関係を示す特性線402から407を参照して要求駆動力の補正量を算出する。ギヤ段選択システム104は、算出した要求駆動力の補正量に基づき、図4に矢印Y2で示すように減速側の変速線301aを補正して変速線301bとする。ギヤ段選択システム104は、補正後の減速側の変速線301bに基づいて、自動変速機2の目標変速段を選択する。これにより、自動変速機2の変速制御において、吸気負圧の不足や変動に起因して要求駆動力に生じる誤差を相殺し、運転者の意図に沿った減速度を実現することが可能となる。ステップS30が実行されると、本制御フローは終了される。
【0083】
ステップS20で否定判定がなされてステップS40に進むと、ステップS40では、ギヤ段選択システム104により、通常の変速線図による変速判断制御がなされる。ギヤ段選択システム104は、補正前の減速側の変速線301aに基づいて自動変速機2の目標変速段を選択する。ステップS40が実行されると、本制御フローは終了される。
【0084】
本実施形態によれば、吸気負圧が不足したり、変動したりしていると判定された場合(ステップS20−Y)には、吸気負圧の推定値に応じて変速線図が補正される。吸気負圧の不足や変動に起因して生じる要求駆動力の推定値と実際に運転者が要求する駆動力との間の乖離に応じて変速線の補正量が決定される。これにより、運転者の意図に合致した駆動力制御を行うことができる。
【0085】
本実施形態では、吸気負圧の推定値に基づいて制御指令値が可変に設定される特定の駆動力制御手段が、自動変速機2の変速制御を行うギヤ段変速システム(変速制御手段)104であったが、特定の駆動力制御手段は、変速制御手段には限定されない。
【0086】
特定の駆動力制御手段としては、例えば、複数の駆動力制御手段のうち、吸気負圧の影響を直接受けない(または、影響を直接受にくい)ものが挙げられる。自動変速機2の変速制御では、吸気負圧が不足したり変動したりしても、その不足や変動は自動変速機2による駆動力制御には直接影響しない。一方、エンジン5の制御では、吸気負圧が不足したり変動したりした場合、エンジン5の出力に直接影響する。このように、複数の駆動力制御手段において、吸気負圧の影響を直接受けるものと吸気負圧の影響を直接受けないものとが並存する場合に、吸気負圧の影響を直接受けない駆動力制御において吸気負圧の推定値に基づいて制御指令値を可変に設定することで、運転者の意図に合致した駆動力制御を行うことが可能となる。
【0087】
あるいは、複数の駆動力制御手段のうち、要求駆動力の算出に比較的高い精度が要求されるものを特定の駆動力制御手段としてもよい。本実施形態の車両用駆動力制御装置100が備える複数の駆動力制御手段のうち、自動変速機2の変速制御では、エンジン5の制御と比較して要求駆動力が高い精度で算出されることが望ましい。要求駆動力の算出に比較的高い精度が要求される駆動力制御手段において吸気負圧の推定値に基づいて制御指令値を可変に設定することで、吸気負圧の影響を適切に反映させて運転者の意図に合致した駆動力制御を行うことが可能となる。
【0088】
本実施形態では、吸気負圧に基づいて、制御指令値が可変に設定される。これにより、吸気負圧に基づいて要求駆動力自体を補正する場合と比較して、特定の駆動力制御手段に応じてより適切に吸気負圧の影響を反映させることが可能となる。例えば、特定の駆動力制御手段が複数存在する場合に、特定の駆動力制御手段のそれぞれの特性に応じて要求駆動力と要求駆動力に対応する制御指令値との間の関係を変更する(制御指令値を可変に設定する)ことができる。これにより、それぞれの駆動力制御手段による駆動力制御を運転者の意図に沿ったものとすることができる。
【0089】
なお、本実施形態では、自動変速機2が有段式の自動変速機である場合を例に説明したが、自動変速機2は、有段式には限定されない。本実施形態の車両用駆動力制御装置100は、自動変速機(AT、CVT、ハイブリッド車に搭載されたAT、MMT(自動変速モード付きマニュアルトランスミッション))等に適用することができる。
【0090】
本実施形態では、吸気負圧が、エンジン負圧推定手段105により推定されたが、これに代えて、インテークマニホールド7c内の圧力を圧力センサにより検出することにより、吸気負圧が検出されてもよい。なお、エンジン負圧推定手段105により吸気負圧を推定する場合、スロットル弁7aの開度等に基づいて、吸気負圧の不足や変動を事前に予測することが可能である。この場合、吸気負圧を直接検出する場合と比較して、吸気負圧の変動に対する応答性が向上し、より運転者の意図に沿った駆動力制御を実現することが可能である。
【0091】
(第2実施形態)
図8を参照して第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0092】
上記第1実施形態では、吸気負圧が不足したり、変動したりした場合に、吸気負圧に基づいて変速線が補正されることにより、吸気負圧に基づく補正が変速制御に選択的に反映された。これに代えて、本実施形態では、変速制御手段と変速制御手段以外の駆動力制御手段とで異なる要求駆動力に基づいて駆動力の制御がなされることにより、変速制御に選択的に吸気負圧の状態が反映される。
【0093】
より具体的には、エンジン5の制御に用いられる要求駆動力は、吸気負圧にかかわらず、マスタシリンダ圧に基づいて算出される。一方、自動変速機2の目標変速段を選択する際に用いられる要求駆動力は、マスタシリンダ圧に加えて、吸気負圧に基づいて算出される。これにより、吸気負圧が不足したり変動したりした場合であっても、運転者の意図に沿った変速制御を実行することができると共に、エンジン5の制御には、吸気負圧に基づく補正を行わない(吸気負圧の影響が二重に反映されない)ようにすることができる。
【0094】
図8は、本実施形態の車両用駆動力制御装置に係るブロック図である。
【0095】
本実施形態では、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧は、要求駆動力算出部102に出力される。要求駆動力算出部102は、マスタシリンダ圧に加えて、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧に基づいて要求駆動力(第二要求駆動力)を算出する第二駆動力算出手段として機能する。一方、要求駆動力算出部101は、マスタシリンダ圧に基づいて要求駆動力を算出する第一駆動力算出手段として機能する。
【0096】
要求駆動力算出部101は、上記第1実施形態の場合と同様に、マスタシリンダ圧に基づき、踏力推定理論線401(図6)を参照してブレーキペダル210に対する踏力を推定する。
【0097】
要求駆動力算出部102は、上記第1実施形態のギヤ段選択システム104と同様に、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧に基づいて、図6に示すマスタシリンダ圧とブレーキペダル210に対する踏力との関係を示す特性線402から407を参照して要求駆動力の補正量を算出する。踏力推定理論線401に基づいて算出される要求駆動力である補正前の要求駆動力に対して、特性線402から407を参照して算出された補正量による補正を行い、補正後の要求駆動力をギヤ段選択システム104に出力する。あるいは、要求駆動力算出部102は、特性線402から407を参照して運転者の要求駆動力(減速意図)を直接推定してもよい。
【0098】
ギヤ段選択システム104は、要求駆動力算出部102で算出された要求駆動力に基づいて、自動変速機2の目標変速段を選択する。言い換えると、マスタシリンダ圧に加えて、エンジン負圧推定手段105により推定された吸気負圧に基づいて算出された要求駆動力を用いて、目標変速段が選択される。よって、吸気負圧が不足したり、変動したりした場合であっても、運転者の意図に沿った変速制御を実行することができる。その結果、運転性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態に係るブロック図である。
【図2】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態に係る装置が適用される車両の要部を示す概略図である。
【図3】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態において自動変速機の変速段を選択するための変速線図である。
【図4】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態における変速線の補正内容について説明するための図である。
【図5】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態においてエンジンの運転条件に対応する吸気負圧の基準値を定めた基準エンジン負圧マップを示す図である。
【図6】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態におけるマスタシリンダ圧とブレーキペダルに対する踏力との関係を示す図である。
【図7】本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の車両用駆動力制御装置の第2実施形態に係るブロック図である。
【符号の説明】
【0100】
2 自動変速機
5 エンジン
6 ピストン
7a スロットル弁
7c インテークマニホールド
90FR,90RL,90RR,90FL 摩擦ブレーキ
95FR,95RL,95RR,95FL ブレーキシリンダ
100 車両用駆動力制御装置
101,102 要求駆動力算出部
103 エンジン制御システム
104 ギヤ段選択システム
105 エンジン負圧推定手段
106 アクセル入力検出手段
107 ブレーキ入力検出手段
180 ブレーキECU
200 ブレーキ装置
210 ブレーキペダル
218 負圧管路
220 ブレーキ倍力装置
221 リザーバタンク
222 マスタシリンダ
226,227 液圧管路
228 マスタシリンダ圧センサ
230 ブレーキアクチュエータ
232,233 マスタカット弁
234,235 液圧管路
240,241,242,243 保持弁
248,249,250,251 減圧弁
254,255 リザーバタンク
259,260 オイルポンプ
281,282,283,284 液圧管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に生じる負圧である吸気負圧を利用して運転者の操作部材に対する操作力を高め、前記高められた前記操作力が発生させる作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両に設けられ、前記作動流体の圧力に基づいて前記運転者の要求駆動力を算出する駆動力算出手段と、前記駆動力算出手段により算出された前記要求駆動力に基づいて設定される制御指令値に応じて前記車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段とを備える車両用駆動力制御装置であって、
前記吸気負圧を検出または推定する負圧検出推定手段を備え、
前記複数の前記駆動力制御手段のうち、予め定められた特定の前記駆動力制御手段における前記制御指令値が、前記負圧検出推定手段により検出または推定された前記吸気負圧に応じて可変に設定される
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
内燃機関の吸気通路に生じる負圧である吸気負圧を利用して運転者の操作部材に対する操作力を高め、前記高められた前記操作力が発生させる作動流体の圧力により車両を制動する制動装置を有する車両に設けられ、前記運転者の要求駆動力に基づいて前記車両の制駆動力を制御する複数の駆動力制御手段を備える車両用駆動力制御装置であって、
前記吸気負圧を検出または推定する負圧検出推定手段と、
前記作動流体の圧力に基づいて算出される前記要求駆動力である第一要求駆動力を算出する第一駆動力算出手段と、
前記作動流体の圧力と、前記負圧検出推定手段により検出または推定された前記吸気負圧とに基づいて算出される前記要求駆動力である第二要求駆動力を算出する第二駆動力算出手段とを備え、
前記複数の前記駆動力制御手段のうち、予め定められた特定の前記駆動力制御手段は、前記第二要求駆動力に基づいて前記制駆動力を制御し、
前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記特定の前記駆動力制御手段以外の前記駆動力制御手段は、前記第一要求駆動力に基づいて前記制駆動力を制御する
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記特定の前記駆動力制御手段における前記制御指令値、または、前記第二要求駆動力は、前記操作部材に対する前記操作力と、前記作動流体の圧力と、前記吸気負圧との関係に基づいて算出される
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記特定の前記駆動力制御手段とは、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記吸気負圧の状態の影響を受けにくい前記駆動力制御手段であり、前記特定の前記駆動力制御手段以外の前記駆動力制御手段とは、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記吸気負圧の状態の影響を受けやすい前記駆動力制御手段である
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記特定の前記駆動力制御手段とは、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記要求駆動力に高い精度が要求される前記駆動力制御手段であり、前記特定の前記駆動力制御手段以外の前記駆動力制御手段とは、前記複数の前記駆動力制御手段のうち、前記要求駆動力に高い精度が要求されない前記駆動力制御手段である
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記特定の前記駆動力制御手段とは、前記内燃機関の出力を前記車両の駆動軸に伝達する自動変速機の変速制御を行う変速制御手段である
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記制御指令値とは、前記自動変速機の目標変速比であり、
前記負圧検出推定手段により検出または推定された前記吸気負圧に応じて前記自動変速機の変速線が可変とされることで、前記目標変速比が可変とされる
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記特定の前記駆動力制御手段以外の前記駆動力制御手段とは、前記内燃機関の運転制御を行う運転制御手段である
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−234383(P2009−234383A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81868(P2008−81868)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】