説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】電動機の出力が低下した場合であっても走行性を確保し、且つ、回生効率を向上させることが可能な車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】車両用駆動装置1は、エアコン用クラッチ121を介して第1主軸11に連結されるエアコン用コンプレッサ112を備える。制御装置2は、エアコン用クラッチ121はPWM制御で締結と開放の制御がなされ、エアコン用コンプレッサ112を作動中にモータ7の出力が低下したとき、エアコン用コンプレッサ112の出力を下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン用コンプレッサを備えた車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関と、電動機と、車室内の空調を行なうエアコン用コンプレッサと、を備える車両用駆動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の車両用駆動装置200は、図9に示すように、電動機210に接続されるとともに第1断接手段205によって選択的に内燃機関出力軸204と連結される第1入力軸202aと、第2断接手段206によって選択的に内燃機関出力軸204に連結される第2入力軸202bと、被駆動部に動力を出力する出力軸203と、第1入力軸202a上に配置され第1同期装置230、231を介して第1入力軸202aに選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、第2入力軸202b上に配置され第2同期装置216、217を介して第2入力軸202bに選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、出力軸203上に配置され第1ギヤ群のギヤと第2ギヤ群のギヤと噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備えたツインクラッチ式変速機構を備え、電動機210に副装置としてのエアコン用コンプレッサ260がエアコン用クラッチ261を介して連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−89594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1には、具体的にどのようにエアコン用コンプレッサ260を制御するのか記載されておらず、例えばEV走行中にバッテリのSOCが低下した場合にエアコン用コンプレッサ260を作動していると走行性を十分確保することができず、また回生時においてもエアコン用コンプレッサ260を作動していると回生効率が悪くSOCを確保することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、その目的は、電動機の出力が低下した場合であっても走行性を確保し、且つ、回生効率を向上させることが可能な車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
内燃機関(例えば、後述の実施形態のエンジン6)と、
電動機(例えば、後述の実施形態のモータ7)と、
前記電動機に電力を供給する蓄電装置(例えば、後述の実施形態のバッテリ3)と、
前記電動機に接続されるとともに第1断接手段(例えば、後述の実施形態の第1クラッチ41)を介して選択的に前記内燃機関に接続される第1入力軸(例えば、後述の実施形態の第1主軸11)と、第2断接手段(例えば、後述の実施形態の第2クラッチ42)を介して選択的に前記内燃機関に接続される第2入力軸(例えば、後述の実施形態の第2中間軸16)と、第1同期装置(例えば、後述の実施形態のロック機構61、第1変速用シフター51)を介して選択的に前記第1入力軸と連結されるとともに第2同期装置(例えば、後述の実施形態の第2変速用シフター52)を介して選択的に前記第2入力軸に連結される出力軸(例えば、後述の実施形態のカウンタ軸14)と、を備えた変速機構(例えば、後述の実施形態の変速機20)と、
エアコン用クラッチ(例えば、後述の実施形態のエアコン用クラッチ121)を介して前記第1入力軸に連結されるエアコン用コンプレッサ(例えば、後述の実施形態のエアコン用コンプレッサ112)と、を備えた車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の車両用駆動装置1)の制御装置(例えば、後述の実施形態の制御装置2)であって、
前記エアコン用クラッチはPWM制御で締結と開放の制御がなされ、
前記エアコン用コンプレッサを作動中に前記電動機の出力が低下したとき、前記エアコン用コンプレッサの出力を下げることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、
前記第1及び第2断接手段を切断してEV走行中に、前記エアコン用クラッチを開放するタイミングを多くして前記エアコン用コンプレッサの出力を下げることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、
前記第1及び第2断接手段を切断して前記電動機で回生中に、前記エアコン用クラッチを開放するタイミングを多くして前記エアコン用コンプレッサの出力を下げることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明の構成に加えて、
前記電動機の出力の低下は、前記電動機又は前記制御装置の故障又は過熱に起因することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明の構成に加えて、
前記電動機の出力の低下は、前記蓄電装置のSOCの低下に起因することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明の構成に加えて、
前記蓄電装置のSOCが低下してEV走行が禁止される領域(例えば、後述の実施形態のBゾーン)に突入した場合には、前記エアコン用クラッチを開放して前記エアコン用コンプレッサの出力を下げ、前記内燃機関を始動することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項2に記載の発明の構成に加えて、
前記エアコン用クラッチを開放するタイミングを多くして前記エアコン用コンプレッサの出力を下げた状態の冷却性能と要求冷却性能との偏差が所定以上あるときは、EV走行からエンジン走行に切り替えることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明の構成に加えて、
エンジン走行に切り替えた後、車速が低く前記エアコン用コンプレッサの回転数が低い場合、前記第2断接手段を締結して前記第2入力軸を介して走行するとともに、前記第1断接手段を開放し且つ前記第1同期装置をニュートラルにした状態で前記電動機を駆動して前記エアコン用コンプレッサが要求冷却性能を満たすように作動させる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の車両用駆動装置の制御装置によれば、エアコン用コンプレッサを作動中に電動機の出力が低下したとき、エアコン用コンプレッサの出力を下げることにより、EV走行中であれば走行負荷を低減して走行性を確保することができ、減速回生中であれば回生効率を向上させることができる。
【0016】
請求項2の車両用駆動装置の制御装置によれば、EV走行中にエアコン用クラッチを開放するタイミングを多くしてエアコン用コンプレッサの出力を下げることで、EV走行時の負荷を低減することができEV走行距離を延ばすことができる。これにより、燃費を向上させることができる。
【0017】
請求項3の車両用駆動装置の制御装置によれば、回生中にエアコン用クラッチを開放するタイミングを多くしてエアコン用コンプレッサの出力を下げることで、回生中の負荷を低減することができ回生効率を向上させることができる。
【0018】
請求項4の車両用駆動装置の制御装置によれば、インバータ、コンタクタ、電動機などの故障、過熱時のフェイルセーフとして機能させることができる。
【0019】
請求項5の車両用駆動装置の制御装置によれば、蓄電装置のSOCに応じてエアコン用コンプレッサの出力を抑制することで、エアコン用コンプレッサにより蓄電装置のSOCを消費して走行距離が短くなるのを抑制することができる。
【0020】
請求項6の車両用駆動装置の制御装置によれば、蓄電装置のSOCが低下してEV走行が禁止される領域に突入した場合には、エアコン用クラッチを開放してエアコン用コンプレッサの出力を下げて内燃機関を始動することで、内燃機関の始動時間を短縮することができる。
【0021】
請求項7の車両用駆動装置の制御装置によれば、燃費を重視しつつもEV走行中に車室内を乗員の要求通りに冷却できない事態を解消するため、アコン用コンプレッサの出力を下げた状態の冷却性能と要求冷却性能との偏差が所定以上あるときは、EV走行からエンジン走行に切り替えることにより乗員の快適性の悪化を防止することができる。
【0022】
請求項8の車両用駆動装置の制御装置によれば、電動機が接続された第1入力軸を介して走行中に車速が低くエアコン用コンプレッサの回転数が低い場合、電動機が接続されていない第2入力軸で走行するともに電動機でエアコン用コンプレッサを作動させることで車速によらず要求冷却性能を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の制御装置を適用可能な車両用駆動装置の一例を示す断面図である。
【図2】図1の車両用駆動装置の概略構成図である。
【図3】制御マップの説明図である。
【図4】冷凍サイクルと本発明の制御装置の構成を概略的に示す図である。
【図5】第3速EV走行時における図であり、(a)は速度共線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図6】第3速走行における車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図7】第2速走行における車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図8】第3速EV回生時における図であり、(a)は速度共線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図9】特許文献1の車両用駆動装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の制御装置を搭載可能なハイブリッド車両用駆動装置の一実施形態ついて図1及び図2を参照しながら説明する。
本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1(以下、車両用駆動装置と呼ぶ。)は、車両(図示せず)の駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DW(被駆動部)を駆動するためのものであり、駆動源である内燃機関(以下「エンジン」という)6と、電動機(以下「モータ」という)7と、動力を駆動輪DW,DWに伝達するための変速機20と、を備えている。
【0025】
エンジン6は、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、このエンジン6のクランク軸6aには、変速機20の第1クラッチ41(第1断接手段)と第2クラッチ(第2断接手段)が設けられている。
【0026】
モータ7は、3相ブラシレスDCモータであり3n個の電機子71aで構成されたステータ71と、このステータ71に対向するように配置されたロータ72とを有している。各電機子71aは、鉄芯71bと、この鉄芯71bに巻き回されたコイル71cで構成されており、不図示のケーシングに固定され、回転軸を中心に周方向にほぼ等間隔で並んでいる。3n個のコイル71cは、n組のU相、V相,W相の3相コイルを構成している。
【0027】
ロータ72は、鉄芯72aと、回転軸を中心にほぼ等間隔で並んだn個の永久磁石72bを有しており、隣り合う各2つの永久磁石72bの極性は、互いに異なっている。鉄芯72aを固定する固定部72cは、中空円筒状を有し、後述する遊星歯車機構30のリングギヤ35の外周側に配置され、遊星歯車機構30のサンギヤ32に連結されている。これにより、ロータ72は、遊星歯車機構30のサンギヤ32と一体に回転するように構成されている。
【0028】
遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、このサンギヤ32と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ32の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、サンギヤ32とリングギヤ35に噛合されたプラネタリギヤ34と、このプラネタリギヤ34を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリア36とを有している。このようにして、サンギヤ32とリングギヤ35とキャリア36が、相互に差動回転自在に構成されている。
【0029】
リングギヤ35には、同期機構(シンクロナイザー機構)を有しリングギヤ35の回転を停止(ロック)可能に構成されたロック機構61(第1同期装置)が設けられている。なお、ロック機構61としてブレーキ、スリーブによる摩擦係合装置を用いてもよい。ロック機構61
【0030】
変速機20は、前述した第1クラッチ41と第2クラッチ42と、遊星歯車機構30と、後述する複数の変速ギヤ群を備えた、いわゆるツインクラッチ式変速機である。
【0031】
より具体的に、変速機20は、エンジン6のクランク軸6aと同軸(回転軸線A1)上に配置された第1主軸11(第1の入力軸)と、第2主軸12と、連結軸13と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線B1を中心として回転自在なカウンタ軸14(出力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線C1を中心として回転自在な第1中間軸15と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線D1を中心として回転自在な第2中間軸16(第2の入力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線E1を中心として回転自在なリバース軸17を備えている。
【0032】
第1主軸11には、エンジン6側に第1クラッチ41が設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のサンギヤ32とモータ7のロータ72が取り付けられている。従って、第1主軸11は、第1クラッチ41によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結されるとともにモータ7と直結され、エンジン6及び/又はモータ7の動力がサンギヤ32に伝達されるように構成されている。
【0033】
第2主軸12は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、第2主軸12には、エンジン6側に第2クラッチ42が設けられ、エンジン6側とは反対側にアイドル駆動ギヤ27aが一体に取り付けられている。従って、第2主軸12は、第2クラッチ42によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結され、エンジン6の動力がアイドル駆動ギヤ27aへ伝達されるように構成されている。
【0034】
連結軸13は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側とは反対側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、連結軸13には、エンジン6側に第3速用駆動ギヤ23aが一体に取り付けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のキャリア36が一体に取り付けられている。従って、プラネタリギヤ34の公転により連結軸13に取り付けられたキャリア36と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するように構成されている。
【0035】
さらに、第1主軸11には、第1主軸11と相対回転自在に第5速用駆動ギヤ25aが設けられるとともに第1主軸11と一体に回転するリバース従動ギヤ28bが取り付けられている。さらに第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aとの間には、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第1変速用シフター51が設けられている。そして、第1変速用シフター51が第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、第5速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが一体に回転し、第1変速用シフター51がニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。なお、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するとき、第1主軸11に取り付けられたサンギヤ32と第3速用駆動ギヤ23aに連結軸13で連結されたキャリア36が一体に回転するとともに、リングギヤ35も一体に回転し、遊星歯車機構30が一体となる。この遊星歯車機構30が一体となって回転するとき、後述する第3速走行がなされる。また、第1変速用シフター51がニュートラル位置にあって前述のロック機構61が第1速用接続位置で接続されると、リングギヤ35がロックされ、サンギヤ32の回転が減速されてキャリア36に伝達される。これにより後述する第1速走行がなされる。
【0036】
第1中間軸15には、第2主軸12に取り付けられたアイドル駆動ギヤ27aと噛合する第1アイドル従動ギヤ27bが一体に取り付けられている。
【0037】
第2中間軸16には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第2アイドル従動ギヤ27cが一体に取り付けられている。第2アイドル従動ギヤ27cは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第1アイドルギヤ列27Aを構成している。また、第2中間軸16には、第1主軸11周りに設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aと対応する位置にそれぞれ第2中間軸16と相対回転可能な第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとが設けられている。さらに第2中間軸16には、第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとの間に、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第2変速用シフター52が設けられている。そして、第2変速用シフター52が第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aとが一体に回転し、第2変速用シフター52が第4速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとが一体に回転し、第2変速用シフター52がニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0038】
カウンタ軸14には、エンジン6側とは反対側から順に第1共用従動ギヤ23bと、第2共用従動ギヤ24bと、パーキングギヤ21と、ファイナルギヤ26aとが一体に取り付けられている。
ここで、第1共用従動ギヤ23bは、連結軸13に取り付けられた第3速用駆動ギヤ23aと噛合して第3速用駆動ギヤ23aと共に第3速用ギヤ対23を構成し、第2中間軸16に設けられた第2速用駆動ギヤ22aと噛合して第2速用駆動ギヤ22aと共に第2速用ギヤ対22を構成する。
第2共用従動ギヤ24bは、第1主軸11に設けられた第5速用駆動ギヤ25aと噛合して第5速用駆動ギヤ25aと共に第5速用ギヤ対25を構成し、第2中間軸16に設けられた第4速用駆動ギヤ24aと噛合して第4速用駆動ギヤ24aと共に第4速用ギヤ対24を構成する。
ファイナルギヤ26aは差動ギヤ機構8と噛合して、差動ギヤ機構8は、駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに連結されている。従って、カウンタ軸14に伝達された動力はファイナルギヤ26aから差動ギヤ機構8、駆動軸9,9、駆動輪DW,DWへと出力される。
【0039】
リバース軸17には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第3アイドル従動ギヤ27dが一体に取り付けられている。第3アイドル従動ギヤ27dは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第2アイドルギヤ列27Bを構成している。また、リバース軸17には、第1主軸11に取り付けられた後進用従動ギヤ28bと噛合する後進用駆動ギヤ28aがリバース軸17と相対回転自在に設けられている。後進用駆動ギヤ28aは、後進用従動ギヤ28bとともに後進用ギヤ列28を構成している。さらに後進用駆動ギヤ28aのエンジン6側とは反対側にリバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとを連結又は開放する後進用シフター53が設けられている。そして、後進用シフター53が後進用接続位置でインギヤするときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが一体に回転し、後進用シフター53がニュートラル位置にあるときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが相対回転する。
【0040】
なお、第1変速用シフター51、第2変速用シフター52、後進用シフター53は、接続する軸とギヤの回転数を一致させる同期機構(シンクロナイザー機構)を有するクラッチ機構を用いている。
【0041】
このように構成された変速機20は、2つの変速軸の一方の変速軸である第1主軸11上に第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aからなる奇数段ギヤ群(第1ギヤ群)が設けられ、2つの変速軸の他方の変速軸である第2中間軸16上に第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aからなる偶数段ギヤ群(第2ギヤ群)が設けられる。
【0042】
また、車両用駆動装置1には、さらにエアコン用コンプレッサ112とオイルポンプ122とが設けられ、オイルポンプ122は、回転軸線A1〜E1と平行に配置されたオイルポンプ用補機軸19上にオイルポンプ用補機軸19と一体回転可能に取り付けられている。オイルポンプ用補機軸19には、後進用駆動ギヤ28aと噛合するオイルポンプ用従動ギヤ28cと、エアコン用駆動ギヤ29aとが一体回転可能に取り付けられて、第1主軸11を回転させるエンジン6及び/又はモータ7の動力が伝達される。また、エアコン用コンプレッサ112は、回転軸線A1〜E1と平行に配置されたエアコン用補機軸18上にエアコン用クラッチ121を介して設けられている。エアコン用補機軸18には、エアコン用駆動ギヤ29aからチェーン29cを介して動力が伝達されるエアコン用従動ギヤ29bがエアコン用補機軸18と一体回転可能に取り付けられて、オイルポンプ用補機軸19からエンジン6及び/又はモータ7の動力がエアコン用駆動ギヤ29a、チェーン29c及びエアコン用従動ギヤ29bで構成されるエアコン用伝達機構29を介して伝達される。従って、エアコン用コンプレッサ112は、第1主軸11の回転数に後進用ギヤ列28とオイルポンプ用従動ギヤ28cとエアコン用伝達機構29のプーリ比をかけ合せた回転数で回転することとなる。なお、エアコン用コンプレッサ112は、不図示のエアコン作動用ソレノイドによりエアコン用クラッチ121を断接することで、動力の伝達が遮断することができるように構成される。
【0043】
以上の構成により、本実施形態の車両用駆動装置1は、以下の第1〜第5の伝達経路を有している。
(1)第1伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。ここで、遊星歯車機構30の減速比は、第1伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されるエンジントルクが第1速相当となるように設定されている。即ち、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ対23の減速比をかけ合わせた減速比が第1速相当となるように設定されている。
【0044】
(2)第2伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第1アイドルギヤ列27A(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第2アイドル従動ギヤ27c)、第2中間軸16、第2速用ギヤ対22(第2速用駆動ギヤ22a、第1共用従動ギヤ23b)又は第4速用ギヤ対24(第4速用駆動ギヤ24a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0045】
(3)第3伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、遊星歯車機構30を介さずに、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0046】
(4)第4伝達経路は、モータ7が、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0047】
(5)第5伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第2アイドルギヤ列27B(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第3アイドル従動ギヤ27d)、リバース軸17、後進用ギヤ列28(後進用駆動ギヤ28a、後進用従動ギヤ28b)、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0048】
また、本実施形態の車両用駆動装置1において、モータ7は、車両全体の各種制御をする制御装置2を介して不図示のバッテリ3に接続され、バッテリ3からの電力供給と、バッテリ3へのエネルギー回生が制御装置2を介して行われるようになっている。即ち、モータ7は、バッテリ3から制御装置2を介して供給された電力によって駆動され、また、減速走行時における駆動輪DW,DWの回転やエンジン6の動力により回生発電を行って、バッテリ3の充電(エネルギー回収)を行うことが可能である。この制御装置2は、インバータ、PDU(Power Drive Unit)、ECU(Electric Control Unit)、コンタクタ等を備えて構成され、加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ回転数、モータ温度、第1,第2主軸11、12の回転数、カウンタ軸14等の回転数、車速、シフトポジション、SOC(State of Charge)などが入力される一方、エンジン6を制御する信号、モータ7を制御する信号、バッテリ3における発電状態・充電状態・放電状態などを示す信号、第1,第2変速シフター51、52、後進用シフター53を制御する信号、ロック機構61の接続(ロック)と開放(ニュートラル)を制御する信号、エアコン用クラッチ121の締結と開放をPWM制御する出力信号などが出力される。
【0049】
この制御装置2は、バッテリ3のSOCに応じて各種制御の実施可否を判断する図3に示すような制御マップMapを有しており、基本的にはこの制御マップMapに基づいて、ENG始動、アイドルストップ、減速回生、ENG切離し、EV走行、エアコン用コンプレッサ駆動の可否が判断される。なお、図3中、○は実施可能、×は禁止、△は条件付実施可能となっている。
【0050】
この制御マップMapでは、SOCを少ない方から多い方にCゾーン、Bゾーン、Aゾーン、Dゾーンの4つに分類するとともに、さらにAゾーンをSOCの少ない方から多い方にA−Lゾーン、A−Mゾーン、A−Hゾーンの3つに分類し、トータルで6つのゾーンに区分けしている。そして、最大充電量に近いDゾーンでは、減速回生やENG切離しを条件付で許容し、BゾーンとCゾーンではEV走行やアイドルストップを禁止し、Aゾーンを目標充電量として制御している。
【0051】
このように構成された車両用駆動装置1は、ロック機構61、第1及び第2クラッチ41、42の断接を制御するとともに第1変速用シフター51、第2変速用シフター52および後進用シフター53の接続位置を制御することにより、エンジン6で第1〜第5速走行および後進走行を行うことができる。
【0052】
第1速走行は、第1クラッチ41を締結しロック機構61を接続することで第1伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。第2速走行は、第2クラッチ42を締結して第2変速用シフター52を第2速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達され、第3速走行は、第1クラッチ41を締結して第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤすることで第3伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。
【0053】
また、第4速走行は、第2変速用シフター52を第4速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達され、第5速走行は、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤすることで第2伝達経路を介して駆動力が駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、第2クラッチ42を締結して後進用シフター53を接続することで、第5伝達経路を介して後進走行がなされる。
【0054】
また、エンジン走行中にロック機構61を接続したり、第1及び第2変速用シフター51、52をプレシフトすることでモータ7でアシストしたり回生したり、さらにアイドリング中であってもエンジン6をモータ7で始動したりバッテリ3を充電することもできる。さらに、第1及び第2クラッチ41、42を切断してモータ7でEV走行を行うこともできる。EV走行の走行モードとしては、第1及び第2クラッチ41、42を切断して、ロック機構61を接続することで第4伝達経路を介して走行する第1速EVモードと、第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第3速EVモードと、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤすることで第4伝達経路を介して走行する第5速EVモードとが存在する。
【0055】
また、エアコン用コンプレッサ112は第1主軸11に連結されているため、奇数段ギヤで走行中は第1主軸11が必然的に回転するためエアコン用コンプレッサ112を作動させることができるが、偶数段ギヤで走行中にエアコン用コンプレッサ112を作動させるためには、(i)奇数段ギヤをニュートラルにするとともにモータ7で第1主軸11を回転させるか、(ii)ロック機構61又は第1変速用シフター51をプレシフトして第1主軸11を回転させるか、又は(iii)ロック機構61又は第1変速用シフター51をニュートラルにするとともに第1クラッチ41を締結して第1主軸11をエンジン6で回転させる必要がある。
【0056】
従って、エアコンの作動要求があると、奇数段ギヤで走行中であっても偶数段ギヤで走行中であってもエアコン用クラッチ121を締結してエアコン用コンプレッサ112を作動させることができる。
【0057】
ここで、EV走行の一例として第3速EV走行について図5を参照して説明する。
第3速EV走行は、図5に示すように、第1変速用シフター51を第3速用接続位置にインギヤした状態でモータ7を駆動(正転方向にトルクを印加)することにより、図5(a)に示すように、ロータ72に接続された遊星歯車機構31は一体で正転方向に回転する。このとき、第1及び第2クラッチ41、42が切断されているため、サンギヤ32に伝達された動力は第1主軸11からエンジン6のクランク軸6aに伝達されることはなく、モータトルクが、図5(b)に示すように、第3速用ギヤ対23を通る第4伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されEV走行がなされる。
【0058】
そして、このEV走行中にエアコン作動要求があると、制御装置2によりエアコン用クラッチ121が締結され、上述したように第1主軸11の回転が伝達されてエアコン用コンプレッサ112が作動する。
【0059】
ここで、エアコン用コンプレッサ112を備える冷凍サイクル111は、図4に示すように、エアコン用コンプレッサ112の吐出口→オイルセパレータ113→コンデンサ114→レシーバ115→冷凍バルブ116→エキスパンションバルブ117→エバポレータ118→コンプレッサ112の吸入口の経路で冷媒が循環するように冷媒配管で接続して構成されている。なお、図中符号101は冷媒配管の圧力を切替可能なプレッシャスイッチであり、102はエバポレータ118に付着した霧を取り除く除霧バルブである。
【0060】
エアコン用コンプレッサ112の作動中は、エアコン用コンプレッサ112で圧縮されて高温になった冷媒がコンデンサ114に送られて放熱凝縮して液化した後、レシーバ115と冷凍バルブ116を介してエキスパンションバルブ117に送られる。そして、このエキスパンションバルブ117にて冷媒が液化状態から膨張させられて低温・低圧の霧状となった後、エバポレータ118へ送られる。このエバポレータ118内で冷媒が蒸発気化することで、その蒸発潜熱によりエバポレータ118が冷却される。これにより、エバポレータ118に沿って流れる風が冷却されて車室内に吹き出される。このエバポレータ118内で気化した冷媒は、エバポレータ118からエアコン用コンプレッサ112に吸入されて圧縮され、再びコンデンサ114に送られ、以後、上述した作用を繰り返す。
【0061】
エアコン用コンプレッサ112の作動・停止(エアコン用クラッチ121の締結・解放)を制御する制御装置2は、バッテリ3のSOCを検出するSOCセンサ130、アクセルペダルの踏み込み量を検出するAPセンサ、空調温度(冷房温度)の設定温度を設定する空調温度設定スイッチ134、空調運転をオン・オフするエアコンスイッチ135等から出力信号等を読み込み、空調運転中(エアコンスイッチ135のオン中)に車室内温度を設定温度に調節するようにエアコン用コンプレッサ112の作動・停止(エアコン用クラッチ121の締結・解放)をPWM制御で制御する。
【0062】
制御装置2は、エアコン用コンプレッサ112の回転数から求まる冷却性能と空調温度設定スイッチ134からの要求冷却性能を比べて、冷却性能が要求冷却性能より低ければエアコン用コンプレッサ112の回転数をあげるために変速し、冷却性能と要求冷却性能が等しければ現状を維持し、冷却性能が要求冷却性能より高ければ回転数を減らすために変速するか又はエアコン用クラッチ121を開放するタイミングを増やして冷却性能を下げて要求冷却性能に合わせる。
【0063】
図5に戻って、車両が第3速EV走行中であって、例えば図3に示した制御マップMapにおいてバッテリ3のSOCがA−Lゾーンであるとき、エアコン用コンプレッサ112を作動し続けてさらにSOCが減るとEV走行が禁止されるBゾーンに突入するため、EV走行からエンジン6を始動してエンジン走行に切り替える必要がある。ハイブリッド車両においては、EV走行可能距離をできるだけ長くすることが燃費の向上に大きく影響することとなる。また、エンジン始動に伴うエネルギーの損失も減らすことが好ましい。
【0064】
また、カウンタ軸14からの動力が伝達可能にエアコン用クラッチ121を介して連結された車両用駆動装置1のエアコン用コンプレッサ112は、エンジンにプーリを介して連結されたエアコン用コンプレッサに比べてトルクコンバータやフライホイールで衝撃が緩和されないのでカウンタ軸14への影響が大きい。このためエンジン6を切り離したEV走行時には、モータ7の動力を用いてエアコン用コンプレッサ112を動かすのにPWM制御のON時に駆動力要求トルクにエアコン作動トルクを付加してエアコン用クラッチ121の断接時のショックを低減しており、そのためSOCの消費が早くなる。
【0065】
従って、本実施形態においては、EV走行中にバッテリ3のSOCがA−Lゾーンに突入してモータ7の出力が低下した際、エアコン用クラッチ121を開放するタイミングを多くしてエアコン用コンプレッサ112の出力を下げることにより、EV走行中におけるモータ7の負荷を軽減することとしている。これにより消費電力を低減させてEV走行可能距離を確保することができる。なお、EV走行中にバッテリ3のSOCがA−LゾーンからBゾーンに突入した場合には、制御マップMapに従ってエンジン6を始動してエンジン走行に移行する。このとき、エアコン用クラッチ121を開放してエアコン用コンプレッサ112の出力を下げることで、エンジン6の始動時間を短縮することができる。
【0066】
さらに、図5に示す第3速EV走行中にバッテリ3のSOCがA−Lゾーンに突入してモータ7の出力が低下し、エアコン用クラッチ121を開放するタイミングを多くしてエアコン用コンプレッサ112の出力を下げた際、出力を下げた状態のエアコン用コンプレッサ112の冷却性能と乗員による要求冷却性能との偏差が所定以上あるときは、EV走行からエンジン走行に切り替える。これにより、走行性能を維持しつつ冷却性能を確保することで乗員の快適性の悪化を防止することができる。具体的には、図5に示す第3速EV走行中に、出力を下げた状態のエアコン用コンプレッサ112の冷却性能と乗員による要求冷却性能との偏差が所定以上あるとの判断がなされると、SOCがA−Lゾーンであっても第1クラッチ41を締結してモータ7でエンジン6を始動し、例えば図6に示す第3速走行に移行する。そしてエンジン6の動力で要求冷却性能を満たすようにエアコン用コンプレッサ112を作動させる。これにより、乗員の快適性の悪化を防止することができる。
【0067】
ただし、エンジン走行に切替後に車速が低く乗員による要求冷却性能と比べてエアコン用コンプレッサ112の回転数が低い場合、奇数段ギヤから偶数段ギヤに変速段を変速してエンジン6で偶数段走行を行いつつモータ7でエアコン用コンプレッサ112を作動させる。例えば図6に示す第3速走行に移行した後、車速が低く要求冷却性能と比べてエアコン用コンプレッサ112の回転数が低い場合、第1変速用シフター51のシフト位置を第3速用接続位置からニュートラルに移動させるとともに第2変速用シフター52のシフト位置をニュートラルから第2速用接続位置に移動させ、第1及び第2クラッチ41、42をつなぎかえることで例えば図7に示す第2速走行に移行する。このとき、奇数段ギヤである第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aは空転し第1主軸11にはエンジン6の動力が伝達されない。この状態で、要求冷却性能を満たすようにモータ7を駆動することで車速によらずモータ7の動力で第1主軸11を回転させることができ、エアコン用コンプレッサ112を作動させることができる。
【0068】
図8は第3速EV回生時のトルク伝達状況を示している。図8(a)及び(b)に示すように、図5に示す第3速EV走行中にモータ7を発電機として利用することで、図8に示すようにモータ7に回生トルクが作用し、回生発電することができる。このときも、エアコン用コンプレッサ112を作動し続けるとエアコン用コンプレッサ112が負荷となって回生量を十分確保できない場合がある。本実施形態においては、バッテリ3のSOCがA−Lゾーンに突入してモータ7で回生発電している間は、エアコン用クラッチ121を開放するタイミングを多くしてエアコン用コンプレッサ112の出力を下げることにより、EV回生中における回生量を増加させて、回生効率を向上させることとしている。
【0069】
なお、モータ7の出力が低下した場合として、バッテリ3のSOCが減少した場合を例に説明したが、これに限らず、モータ7やインバータ、コンタクタ等のモータ7の制御回路等の故障や過熱によりモータ7の出力が低下した場合も、エアコン用クラッチ121を開放するか、又は、エアコン用クラッチ121を開放するタイミングを多くしてエアコン用コンプレッサ112の出力を下げることにより、フェイルセールとして使用することができる。
【0070】
以上説明したように、本実施形態によれば、エンジン6と、モータ7と、モータ7に電力を供給するバッテリ3と、モータ7に接続されるとともに第1クラッチ41を介して選択的にエンジン6に接続される第1入力軸としての第1主軸11と、第2クラッチ42を介して選択的にエンジン6に接続される第2入力軸としての第2中間軸16と、ロック機構61又は第1変速用シフター51を介して選択的に第1主軸11に連結されるとともに第2変速用シフター52を介して選択的に第2中間軸16に連結されるカウンタ軸14と、を備えた変速機20と、エアコン用クラッチ121を介して第1主軸11に連結されるエアコン用コンプレッサ112と、を備えた車両用駆動装置1の制御装置2であって、エアコン用クラッチ121はPWM制御で締結と開放の制御がなされ、エアコン用コンプレッサ112を作動中にモータ7の出力が低下したとき、エアコン用コンプレッサ112の出力を下げるので、EV走行中であれば走行負荷を低減して走行性を確保することができ、減速回生中であれば回生効率を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、モータ7の出力の低下が、モータ7又は制御装置2の故障又は過熱に起因する場合、インバータ、コンタクタ、モータ7などの故障、過熱時のフェイルセーフとして機能させることができる。一方、モータ7の出力の低下が、バッテリ3のSOCの低下に起因する場合、バッテリ3のSOCに応じてエアコン用コンプレッサ112の出力を抑制することで、エアコン用コンプレッサ112によりバッテリ3のSOCを消費して走行距離が短くなるのを抑制することができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、バッテリ3のSOCが低下してEV走行が禁止される領域に突入した場合には、エアコン用クラッチ121を開放してエアコン用コンプレッサ112の出力をさげてエンジン6を始動するので、エンジン6の始動時間を短縮することができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、エアコン用クラッチ121を開放するタイミングを多くしてエアコン用コンプレッサ112の出力を下げた状態の冷却性能と要求冷却性能との偏差が所定以上あるときは、EV走行からエンジン走行に切り替えることにより、乗員の快適性の悪化を防止することができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、エンジン走行に切り替えた後、車速が低くエアコン用コンプレッサ112の回転数が低い場合、第2クラッチ42を締結して第2中間軸12を介して走行するとともに、第1クラッチ41を開放し、ロック機構61を開放且つ第1変速用シフター51をニュートラルにした状態でモータ7を駆動してエアコン用コンプレッサ112が要求冷却性能を満たすように作動させることにより、車速によらず要求冷却性能を満たすことができる。
【0075】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、車両用駆動装置1は、ツインクラッチ式変速機のモータ7が接続された入力軸である第1主軸11に奇数段ギヤを配置し、モータ7が接続されていない入力軸である第2中間軸16に偶数段ギヤを配置したが、これに限定されず、モータ7が接続された入力軸である第1主軸11に偶数段ギヤを配置し、モータ7が接続されていない入力軸である第2中間軸16に奇数段ギヤを配置してもよい。
【0076】
また、奇数段の変速段として第1速用駆動ギヤとしての遊星歯車機構30と、第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aに加えて、第7、9・・速用駆動ギヤを、偶数段の変速段として第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aに加えて、第6、8・・速用駆動ギヤを設けてもよい。
【0077】
また、カウンタ軸14に取り付けられる従動ギヤを第2速用駆動ギヤ22aと第3速用駆動ギヤ23aと共同して噛合する第1共用従動ギヤ23bと、第4速用駆動ギヤ24aと第5速用駆動ギヤ25aと共同して噛合する第2共用従動ギヤ24bとしたが、これに限らず、それぞれのギヤと噛合する従動ギヤを複数設けてもよい。また、第1速用駆動ギヤとして遊星歯車機構30を例示したが、これに限らず第3速用駆動ギヤ23aなどと同様に第1速用駆動ギヤを設けてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 車両用駆動装置
2 制御装置
3 バッテリ(蓄電手段)
6 エンジン(内燃機関)
7 モータ(電動機)
11 第1主軸(第1入力軸)
14 カウンタ軸(出力軸)
16 第2中間軸(第2入力軸)
20 変速機(変速機構)
22a 第2速用駆動ギヤ
23a 第3速用駆動ギヤ
23b 第1共用従動ギヤ
24a 第4速用駆動ギヤ
24b 第2共用従動ギヤ
25a 第5速用駆動ギヤ
30 遊星歯車機構
41 第1クラッチ(第1断接手段)
42 第2クラッチ(第2断接手段)
51 第1変速用シフター(第1同期装置)
52 第2変速用シフター(第2同期装置)
61 ロック機構(第1同期装置)
112 エアコン用コンプレッサ
121 エアコン用クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
電動機と、
前記電動機に電力を供給する蓄電装置と、
前記電動機に接続されるとともに第1断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第1入力軸と、第2断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第2入力軸と、第1同期装置を介して選択的に前記第1入力軸に連結されるとともに第2同期装置を介して選択的に前記第2入力軸に連結される出力軸と、を備えた変速機構と、
エアコン用クラッチを介して前記第1入力軸に連結されるエアコン用コンプレッサと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記エアコン用クラッチはPWM制御で締結と開放の制御がなされ、
前記エアコン用コンプレッサを作動中に前記電動機の出力が低下したとき、前記エアコン用コンプレッサの出力を下げることを特徴とする車両用駆装置の制御装置。
【請求項2】
前記第1及び第2断接手段を切断してEV走行中に、前記エアコン用クラッチを開放するタイミングを多くして前記エアコン用コンプレッサの出力を下げることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆装置の制御装置。
【請求項3】
前記第1及び第2断接手段を切断して前記電動機で回生中に、前記エアコン用クラッチを開放するタイミングを多くして前記エアコン用コンプレッサの出力を下げることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆装置の制御装置。
【請求項4】
前記電動機の出力の低下は、前記電動機又は前記制御装置の故障又は過熱に起因することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用駆装置の制御装置。
【請求項5】
前記電動機の出力の低下は、前記蓄電装置のSOCの低下に起因することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用駆装置の制御装置。
【請求項6】
前記蓄電装置のSOCが低下してEV走行が禁止される領域に突入した場合には、前記エアコン用クラッチを開放して前記エアコン用コンプレッサの出力を下げ、前記内燃機関を始動することを特徴とする請求項5に記載の車両用駆装置の制御装置。
【請求項7】
前記エアコン用クラッチを開放するタイミングを多くして前記エアコン用コンプレッサの出力を下げた状態の冷却性能と要求冷却性能との偏差が所定以上あるときは、EV走行からエンジン走行に切り替えることを特徴とする請求項2に記載の車両用駆装置の制御装置。
【請求項8】
エンジン走行に切り替えた後、車速が低く前記エアコン用コンプレッサの回転数が低い場合、前記第2断接手段を締結して前記第2入力軸を介して走行するとともに、前記第1断接手段を開放し且つ前記第1同期装置をニュートラルにした状態で前記電動機を駆動して前記エアコン用コンプレッサが要求冷却性能を満たすように作動させることを特徴とする請求項7に記載の車両用駆装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−213159(P2011−213159A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81003(P2010−81003)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】