説明

車載回転電機用電力変換装置の冷却システム

【課題】消費エネルギを低減することができる車載回転電機用電力変換装置の冷却システムの提供。
【解決手段】冷却システムは、不凍液を含む冷却液を循環する循環ポンプ6を有して、冷却液により車載回転電機用電力変換装置のパワー素子を冷却する冷却回路と、パワー素子の発熱量を算出する制御信号計算部110と、パワー素子の温度を検出するパワー素子温度センサ113と、冷却液の温度を検出する冷却液温度センサ115と、制御信号計算部110とを備えている。制御信号計算部110は、発熱量、パワー素子の温度および冷却液の温度に基づいて、パワー素子から冷却液へ伝達される単位温度差当たりの熱伝達量であるパワー素子冷却性能を算出し、算出されたパワー素子冷却性能が所定の判定基準値より大きい場合に循環ポンプ6の駆動力を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載回転電機用電力変換装置の冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車において、車両駆動用モータやインバータ等の機器を冷却する際に冷却液を循環させる冷却システムでは、冷却システムでの消費エネルギー低減を狙いとして、冷却システムの状態に応じて冷却液の流量を適正化する制御装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の発明では、冷却液を循環させるポンプの運転状態とパワー素子の温度から冷却液の流量を適正化する制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−156711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パワー素子と冷却液との間の熱伝達率は、冷却液の状態(不凍液濃度、流量、温度)によって変化する。しかし、特許文献1に記載の発明では、例えば冷却液の不凍液濃度に応じて制御ができないため、不凍液濃度に応じた適切なポンプ運転をすることが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明による車載回転電機用電力変換装置の冷却システムは、不凍液を含む冷却液を循環する循環ポンプを有して、冷却液により車載回転電機用電力変換装置のパワー素子を冷却する冷却回路と、パワー素子の発熱量を算出する発熱量演算手段と、パワー素子の温度を取得する第1温度取得手段と、冷却液の温度を取得する第2温度取得手段と、発熱量、パワー素子の温度および冷却液の温度に基づいて、パワー素子から前記冷却液へ伝達される単位温度差当たりの熱伝達量である熱伝達率を算出する熱伝達率演算手段と、算出された前記熱伝達率が所定の熱伝達率基準値より大きい場合に循環ポンプの吐出量を低下させるポンプ制御手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、第2温度取得手段は、発熱量演算手段で算出されたパワー素子の発熱量と第1温度取得手段で取得されたパワー素子の温度とに基づいて、冷却液の温度を算出することを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、第1温度取得手段で取得されたパワー素子の温度の高低に応じて熱伝達率基準値を設定する、基準値設定手段を備えたことを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、ポンプ制御手段は、算出された熱伝達率が所定の熱伝達率基準値より小さい場合に循環ポンプの吐出量を増加させることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、冷却回路中に設けられ、外気と冷却液との熱交換を行う熱交換器と、熱交換器に外気を送風する送風機と、外気温を取得する第3温度取得手段と、熱伝達率、冷却液の温度および外気温に基づいて、外気と冷却液との間の熱交換率を算出する熱交換率演算手段と、算出された熱交換率が所定の熱交換率基準値より大きい場合に送風機の送風量を低下させる送風制御手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項5に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、第3温度取得手段は、冷却システム始動時に第1温度取得手段または第2温度取得手段で取得される温度を、外気温として用いることを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、発熱量演算手段は、回転電機のトルク情報と回転数情報とに基づいて発熱量を算出することを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、発熱量演算手段は、パワー素子に流れる電流値に基づいて発熱量を算出することを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、第2温度取得手段で取得された冷却液の温度、熱伝達率演算手段により算出される熱伝達率、およびポンプ制御手段から出力される制御信号に基づいて、冷却液の不凍液濃度を算出する濃度演算手段と、濃度演算手段で算出された不凍液濃度に基づいて、冷却液の凍結を警告する警報を発生する警報装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車載回転電機用電力変換装置の冷却システムの消費エネルギを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施の形態の冷却システムの概略構成を示す図である。
【図2】循環ポンプ6および送風ファン8を制御する冷却制御装置13の概略構成を示す図である。
【図3】第1の実施の形態における、循環ポンプ6および送風ファン8の制御を説明するフローチャートである。
【図4】ステップS14の制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】ステップS16の制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施の形態における冷却制御装置13の概略構成を示す図である。
【図7】第2の実施の形態における、循環ポンプ6および送風ファン8の制御を説明するフローチャートである。
【図8】第3の実施の形態における冷却制御装置13の概略構成を示す図である。
【図9】第3の実施の形態における、循環ポンプ6および送風ファン8の制御を説明するフローチャートである。
【図10】第4の実施の形態における冷却制御装置13の概略構成を示す図である。
【図11】第4の実施の形態における、循環ポンプ6および送風ファン8の制御を説明するフローチャートである。
【図12】メモリ110bに格納されている数値マップの一例を示す図である。
【図13】冷却液温度Ta=Ta0の場合の、不凍液m、流量n、パワー素子冷却性能αのマップを示す図である。
【図14】電力変換装置10の電気回路構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は第1の実施の形態の冷却システムの概略構成を示す図であり、HEVやEV等の電動車両に用いられる電力変換装置用冷却システム100を示したものである。なお、図1の実線矢印は冷却液の流れを示し、点線矢印は電流の流れを示す。
【0009】
電力変換装置10は、バッテリ1からの直流電力を交流電力に変換して車載回転電機であるモータ2に供給する装置であり、インバータ回路を構成するパワー素子3を備えている。パワー素子3は制御部11からの指令により駆動される。後述するように、制御部11は、車両側の上位制御装置12から入力されるモータ2のトルク指令値などに基づいて制御信号を生成し、その制御信号に基づいてパワー素子3を駆動制御する。
【0010】
図14は電力変換装置10の電気回路構成を説明する図である。図14に示すように、電力変換装置10にはインバータ装置140とコンデンサモジュール500とが備えられ、インバータ装置140はインバータ回路144と制御部11とを有している。インバータ回路144は3相ブリッジ回路により構成されており、U相、V相およびW相に対応した3つの上下アーム直列回路150(150U〜150W)を備えている。
【0011】
各上下アーム直列回路150は、パワー素子3としてのIGBT328(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)IGBT330を備えている。それぞれの上下アーム直列回路150の中点部分の交流端子159には、モータ2への交流電力線186が接続されている。交流電力線186は、交流コネクタ188を介してモータ2の電機子巻線の対応する相巻線に電気的に接続されている。制御部11は、インバータ回路144を駆動制御するドライバ回路174と、ドライバ回路174へ制御信号を供給する制御回路172とを有している。
【0012】
IGBT328,330は制御部170から出力された駆動信号を受けて動作し、バッテリ1から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。コンデンサモジュール500は、IGBT328,330のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制する平滑回路を構成するためのものである。
【0013】
制御部11はIGBT328,330を作動させるためのものであり、制御回路172とドライバ回路174とを備えている。制御回路172は、他の制御装置やセンサなどからの入力情報に基づいて、IGBT328,330のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する。ドライバ回路174は、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、IGBT328,330をスイッチング動作させるためのドライブ信号を生成する。
【0014】
制御回路172はIGBT328,330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と記述する)を備えている。マイコンには入力情報として、モータ2に対して要求される目標トルク値、上下アーム直列回路150からモータ2の電機子巻線に供給される電流値、及びモータ2の回転子の磁極位置が入力される。目標トルク値は、上位の制御装置12から出力されたトルク指令値に基づくものである。電流値は、電流センサ(パワー素子電流センサ)116から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、前述したモータ回転数センサ112から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。
【0015】
制御回路172内のマイコンは、目標トルク値に基づいてモータ2のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電圧指令値を、検出された磁極位置に基づいてU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、マイコンは、U相、V相、W相の電圧指令値に基づく基本波(正弦波)と搬送波(三角波)との比較に基づいてパルス状の変調波を生成し、この生成された変調波をPWM(パルス幅変調)信号としてドライバ回路174に出力する。
【0016】
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、PWM信号を増幅し、これをドライブ信号として下アームのIGBT330のゲート電極に出力する。一方、上アームを駆動する場合には、PWM信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからPWM信号を増幅し、これをドライブ信号として上アームのIGBT328のゲート電極に出力する。これにより、各IGBT328,330は、入力されたドライブ信号に基づいてスイッチング動作する。
【0017】
図1に戻って、電力変換装置10には冷却液が流れる冷却流路が設けられており、パワー素子3は冷却流路内に配置された放熱板7に固着されている。放熱板7は、冷却流路中の冷却液とパワー素子3との熱交換を行うものである。電力変換装置10に設けられた冷却流路は、冷却システム100の冷却回路4の一部を構成している。冷却回路4には、冷却液と空気(外気)との間で熱交換を行う熱交換器5と、冷却液を循環させる循環ポンプ6と、上記放熱板7とが順に接続されている。冷却回路4を循環する冷却液には、例えば、エチレングリコール水溶液が用いられる。熱交換器5には、空気を送風する送風ファン8が備えられている。冷却システム100には、循環ポンプ6および送風ファン8の動作を制御する冷却制御装置13が設けられている。
【0018】
パワー素子3は、発生した熱を放熱板7を通して冷却液へ伝達することにより冷却される。パワー素子3から熱を受け取った冷却液は、循環ポンプ6により熱交換器5へと循環され、送風ファン8により送風された空気(外気)と熱交換することで放熱する。
【0019】
図2は、循環ポンプ6および送風ファン8を制御する冷却制御装置13の概略構成を示す図である。なお、図2の実線矢印は制御信号の流れを示す。冷却制御装置13は、制御に用いる信号を検出するための検出部109と、循環ポンプ6および送風ファン8の制御信号を計算する制御信号計算部110を備えている。
【0020】
検出部109は、モータ2の駆動状態であるトルクを検出するモータトルクセンサ111と、モータ2の駆動状態である回転数を検出するモータ回転数センサ112と、パワー素子3の温度を検出するパワー素子温度センサ113と、外気温度を検出する外気温度センサ114と、冷却液の温度を検出する冷却液温度センサ115とを備えている。パワー素子温度センサ113は、パワー素子3と放熱板7との固着部に設けられている。モータトルクセンサ111にはひずみゲージなどが用いられる。モータ回転数センサ112にはホール素子などが用いられる。パワー素子温度センサ113、外気温度センサ114および冷却液温度センサ115にはサーミスタなどが用いられる。
【0021】
各センサ111〜115からの各信号は、制御信号計算部110に入力される。制御信号計算部110に設けられたマイクロコンピュータ110aは、入力された信号に基づいて循環ポンプ6および送風ファン8の駆動状態を決める制御信号を計算し、各制御信号を循環ポンプ6および送風ファン8へ出力する。また、制御信号計算部110に設けられたメモリ110bには、制御信号の計算に必要なデータ(後述する数値マップ)が予め記憶されている。
【0022】
図3は制御信号計算部110における、循環ポンプ6および送風ファン8の制御を説明するフローチャートである。制御信号計算部110に設けられたマイクロコンピュータ110aは、ソフトウェア処理により図3に示す処理を順に実行する。なお、マイクロコンピュータ110aは、車両のイグニッションキースイッチがオンされると、図3に示すプログラムの処理を開始する。
【0023】
ステップS11では、モータトルクセンサ111およびモータ回転数センサ112の検出値からパワー素子3の発熱量を計算する。上述したように、パワー素子3を駆動する制御部11は、上位制御装置12から入力されるモータ2のトルク指令値や回転数指令値に基づいてパワー素子3に制御信号を出力する。そして、パワー素子3は制御信号に基づいて駆動し、トルク指令値や回転数指令値に基づく電流値をモータ2へ出力する。したがって、パワー素子3の発熱量は、モータ2のトルクと回転数とを用いた計算により推定することができる。
【0024】
本実施の形態では、モータ2のトルクおよび回転数とパワー素子3の発熱量との対応関係を示す数値マップが、制御信号計算部110が備えるメモリ110b内に格納されている。ステップS11の処理では、この数値マップを検索することによりパワー素子3の発熱量を求める。
【0025】
ステップS13では、ステップS11で算出したパワー素子3の発熱量Qと、冷却液温度センサ115の温度検出値Taと、パワー素子温度センサ113の温度検出値Twとに基づいて、次式(1)により冷却液によるパワー素子冷却性能αを計算する。α×(Tw−Ta)はパワー素子3から冷却液への放熱量を表しているが、この放熱量がパワー素子3の発熱量Qと等しくなるようにパワー素子3の温度Twが決定される。このようにしてパワー素子冷却性能αを算出することにより、現在の冷却液の状態を反映したパワー素子冷却性能を取得することができる。
Q=α×(Tw−Ta) …(1)
【0026】
式(1)からも分かるように、パワー素子冷却性能αとは、パワー素子3が設けられた放熱板7から冷却液に伝達される単位温度差当たりの熱量(熱伝達率)に相当する。また、このパワー素子冷却性能αは、冷却回路4を循環する冷却液の状態、すなわち流量n、温度Taおよび不凍液濃度mにより変化し、α(m,n,Ta) のように表される。
【0027】
例えば、循環ポンプ6の駆動力を上げることにより吐出量を増やし、冷却液の流量nを増加させると、放熱板7と冷却液との熱交換部分での冷却液の流速が増加するため、パワー素子冷却性能αは向上する。また、冷却液の温度Taが上昇した場合には、不凍液を含んだ冷却液の粘度が下がるため、放熱板7と冷却液との熱交換部分での冷却液の流速が増加し、パワー素子冷却性能αは向上する。冷却液の不凍液濃度mに関しては、濃度が減少すると冷却液の粘度が下がるので、放熱板7と冷却液との熱交換部分での冷却液の流速が増加して、パワー素子冷却性能αが向上する。
【0028】
図12は、特定の冷却液温度Taにおけるパワー素子冷却性能αを図示したものであり、縦軸はパワー素子冷却性能α、横軸は循環ポンプ流量nである。流量nは制御信号計算部110からの制御信号によって決まる。なお、図12では、3種類の不凍液濃度mに対してパワー素子冷却性能αの曲線が示されているが、実際には所定範囲内の不凍液濃度に十分対応できるマップとなっている。上述したように、流量nが増加するとパワー素子冷却性能αも増加する。また、不凍液濃度mが減少するとパワー素子冷却性能αが向上するため、曲線全体が図示上方に移動している。図12のようなマップは冷却液の温度範囲に対応できる数だけ用意されている。本実施の形態では、図12に示されるようなパワー素子冷却性能α(m,n,Ta)に関するマップが、制御信号計算部110のメモリ110bに数値マップとして予め格納されている。
【0029】
ステップS14では、ステップS13で算出した冷却液のパワー素子冷却性能αに基づいて、循環ポンプ6の制御信号を計算し、その制御信号により循環ポンプ6を制御する。
【0030】
図4はステップS14の制御処理の詳細を示すフローチャートである。ステップS041では、冷却液温度センサ115の温度検出値Taに基づいて、循環ポンプ6を制御する際のパワー素子冷却性能αの設定値αthを計算する。この設定値αthはステップS042の判定における判定基準値である。なお、設定値αthの設定方法については後述する。
【0031】
ステップS042では、ステップS13で算出した現状のパワー素子冷却性能αと、ステップS041で設定したパワー素子冷却性能αの設定値αthとを比較し、α≧αthか否かを判定する。この判定処理は、放熱板7におけるパワー素子3から冷却液への放熱性能が、所定の放熱量(設定値αthで決まる放熱量)に対して余裕があるかそれとも不足しているかを判定するものである。設定変更する前の設定値αthとしては、例えば、システム設計時の条件(m0,n0,Ta0)におけるパワー素子冷却性能α(m0,n0,Ta0)を用いるようにしても良い。
【0032】
上述したように、放熱板7における冷却液のパワー素子冷却性能αは、冷却液の状態、すなわち不凍液濃度m、冷却液の流量n、冷却液温度Taに依存して変化する。そのため、冷却液の状態が変化してパワー素子冷却性能αが、所定の設定値αthよりも大きくなっている場合には、パワー素子の冷却に関して余裕がある状態なので、循環ポンプ6の駆動力を下げて吐出量を減らし、パワー素子冷却性能αを設定値αthのレベルまで下げることが可能である。
【0033】
一例として、不凍液濃度mが変化した場合を、図13を参照しながら説明する。図13は、冷却液温度TaがTa0の場合のマップである。曲線L0は不凍液濃度がm0の場合のパワー素子冷却性能を示しており、同様に、曲線L1,L2は不凍液濃度がm1、m2の場合のパワー素子冷却性能を示している。ここでは、m1<m0<m2のように設定されており、上述したように不凍液濃度mが小さくなるほどパワー素子冷却性能が向上するので、曲線L0〜L2はm2、m0、m1の順に上方にずれている。不凍液濃度m0はシステム設計時の不凍液濃度であり、これを基準として不凍液濃度mが高くなったか低くなったかを考える。
【0034】
例えば、冷却液を交換するなどして不凍液濃度が変化し、実際の冷却液の状態が(m1、n0、Ta0)であった場合、パワー素子冷却性能α1=α(m1,n0,Ta0)は図13に示す曲線L1のA点の値となる。一方、設定値αthは曲線L0上のB点の値となる。この場合にはα(m1,n0,Ta0)>αthとなっており、冷却液のパワー素子冷却性能にα(m1,n0,Ta0)−αthだけの余裕があることになる。すなわち、不凍液濃度m1の場合には、流量をn0からn1まで下げることが可能である。
【0035】
逆に、曲線L2上の点Cで示すように不凍液濃度がm2であった場合には、パワー素子冷却性能α2=α(m2,n0,Ta0)となり、設定値αthに対してパワー素子冷却性能がαth−α(m2,n0,Ta0)だけ不足しているので、流量nをn2まで増やす必要がある。
【0036】
ステップS042でα≧αthと判定されると、ステップS043へ進んで循環ポンプ6の駆動力(すなわち吐出量)を予め設定した値だけ小さくして冷却液の流量を減少させる。すなわち、冷却液のパワー素子冷却性能αに余裕があると判定されると、循環ポンプ6の駆動力(すなわち吐出量)を小さくして冷却液の流量を減少させる。その結果、パワー素子3に対する冷却性能を保持しつつ、循環ポンプ6の駆動に用いられる消費エネルギを低減することができる。
【0037】
なお、図13で説明した例では、流量n0、冷却液温度Ta0および不凍液濃度m1を仮定して説明したが、実際の不凍液濃度mは不明であるので流量n1が正確に求まるわけではない。例えば、流量n≠n0で不凍液濃度がm3であった場合には、算出されたパワー素子冷却性能αは曲線L3上のD点におけるパワー素子冷却性能となる。そのため、ステップS043における駆動力の低減のさせ方として、上述のように予め設定した流量低減量Δnだけ行うようにしても良いし、差=α(m1,n0,Ta0)−αthに応じて低減量を変えるようにしても良い。
【0038】
一方、ステップS042でα<αthと判定されると、ステップS044へ進んで循環ポンプ6の駆動力を大きくして冷却液の流量を増加させる。すなわち、冷却液のパワー素子冷却性能αが不足していると判定された場合には、循環ポンプ6の駆動力を大きくして冷却液の流量を増加させる。その結果、パワー素子3の過度な温度上昇を防止でき、パワー素子3の信頼性向上を図ることができる。なお、ステップS044での流量増加量の設定についても、上述したステップS043における流量低減量と同様に行う。
【0039】
ステップS043で循環ポンプ6の駆動力を低下させると冷却液の流量がn1に減少するので、パワー素子冷却性能はα(m1,n0,Ta0)からα(m1,n1,Ta0)へと低下する。その結果、放熱量が減少し、パワー素子温度Twは式(1)を満足するTwまで、すなわち発熱量Qと放熱量とが等しくなるまで上昇する。上述のように、パワー素子冷却性能α(m1,n0,Ta0)は性能的に余裕があったので、そのときのパワー素子温度Twは低めとなっており、このように流量nを低減してパワー素子温度Twを上昇させるだけの余裕があった。一方、ステップS044で流量をn2へと増加させた場合には、パワー素子冷却性能はα(m1,n2,Ta0)へと向上するので、パワー素子温度Twは低下することになる。
【0040】
ステップS042においてはα≧αthか否かを判定したが、α>αth、α=αth、α<αthのいずれであるかを判定するようにしても良い。そして、α=αthと判定された場合には、循環ポンプ6の駆動力を変更せずそのまま維持するように制御する。
【0041】
このように、冷却液の状態(不凍液濃度m、流量n、冷却液の温度Ta)が変化すると冷却液のパワー素子冷却性能αは変化する。本実施の形態では、算出されたパワー素子3の発熱量および計測されたパワー素子3の温度Twからパワー素子冷却性能αを推定し、それを設定値αthと比較することで、冷却液の状態の変化によるパワー素子冷却性能αの変化を検出するようにした。そして、冷却液の状態が変化したことでパワー素子冷却性能αに余裕が生じた場合には、循環ポンプ6の駆動力を低下させることで、消費エネルギーの低減を図ることができる。一方、パワー素子冷却性能αが不足していると推定された場合には、循環ポンプ6の駆動力を大きくして冷却液の流量を増加させることにより、パワー素子3の信頼性向上を図るようにした。
【0042】
図13を用いた説明では、冷却液の状態として不凍液濃度mの変化が原因でパワー素子冷却性能αが変化した場合について説明した。この場合、「不凍液濃度mの低下→パワー素子冷却性能αの上昇→パワー素子温度Twの低下」という関係があることから、パワー素子温度Twに基づいて算出されたパワー素子冷却性能αを基準値αthと比較することで、上述のような循環ポンプ6の制御を行った。
【0043】
パワー素子冷却性能αに関係する冷却液の状態としては、不凍液濃度mの他に冷却液の流量nおよび冷却液の温度Taがあるが、これらに関しても、不凍液濃度mの場合と同様の関係、「冷却液温度Taの上昇→パワー素子冷却性能αの上昇→パワー素子温度Twの低下」、「流量nの増加→パワー素子冷却性能αの上昇→パワー素子温度Twの低下」が成り立つ。そのため、上述のように、パワー素子温度Twに基づいて算出されたパワー素子冷却性能αを基準値αthと比較することにより、不凍液濃度m、冷却液の流量nおよび冷却液の温度Taのいずれが変化した場合にも対応ができていることになる。
【0044】
ところで、冷却液温度Taが変化した場合、一般的には、冷却液温度Taに対応してパワー素子3の温度Twが変化する。すなわち、式(1)からTw=Ta+Q/α(m,n,Ta)となっているので、発熱量Qが一定であっても、冷却液温度Taの変化によってパワー素子温度Twが変化する。ただし、冷却液温度Taが低下すると冷却液の粘度が低下してα(m,n,Ta)も低下するので、Q/α(m,n,Ta)は増加することになる。そのため、冷却液温度Taが低下しても、必ずしもパワー素子温度Twが低下するとは限らない。冷却液温度Taが上昇した場合も同様のことが言える。
【0045】
本実施の形態では、パワー素子3の温度を検出するパワー素子温度センサ113を備えているので、パワー素子温度Twを直接検知することができる。パワー素子温度Twが低下すると、パワー素子温度Twの上限温度に対する余裕ができることになり、その分だけパワー素子冷却性能の設定値αthを下げることが可能となる。
【0046】
そのため、上述したステップS041の処理では、パワー素子温度Twが低下したならば上述した設定値αthを下げる。逆に、パワー素子温度Twが上昇した場合には、設定値αthを上げてパワー素子3の発熱増大に対応できるようにする。
【0047】
続く図3のステップS15では、ステップS13で計算したパワー素子冷却性能αと、冷却液温度センサ115により検出された温度Taと、外気温度センサ14の温度検出値(外気温度)Tgとに基づいて、冷却液の外気放熱性能βを式(2)により算出する。
β=Q÷(Ta−Tg) …(2)
【0048】
外気放熱性能βは、熱交換器5において冷却液から外気に伝達される単位温度差当たりの熱量に相当する熱交換率である。外気放熱性能βは、循環する冷却液の流量n、冷却液温度Ta、不凍液濃度mおよび熱交換器5へ送風する外気の送風量γに依存して変化する。依存関係は以下のようになっている。
(a)循環ポンプ6により循環される冷却液の流量nが低下すると、熱交換器5と冷却液との熱交換部分における冷却液の流速が減少するため、外気放熱性能βは低下することになる。
(b)冷却液温度Taが低下すると、冷却液の粘度が上がり、熱交換器5と冷却液との熱交換部分における冷却液の流速が減少するため、外気放熱性能βは低下する。
(c)不凍液濃度mが増加すると、冷却液の粘度は上がり、熱交換器5と冷却液との熱交換部分における冷却液の流速が減少するため、外気放熱性能βは低下する。
(d)送風ファン8を用いて送風する外気の送風量γを増加させると、熱交換器5と外気との熱交換部分での外気の流速が増加するため、外気放熱性能βは向上する。
【0049】
ステップS06では、ステップS15で計算した冷却液の外気放熱性能βと、冷却液温度センサ115で検出された冷却液温度Taと、外気温度センサ114の温度検出値Tgとに基づいて、送風ファン8の駆動信号を算出し、その駆動信号によって送風ファン8の駆動を制御する。すなわち、送風量γを変化させる。
【0050】
図5は、ステップS06の駆動制御処理の詳細を示すフローチャートである。ステップS061では、検出された冷却液温度Taと、外気温度センサ114の温度検出値Tgとから、送風ファン8を制御する際の外気放熱性能βの判定基準値である設定値βthを計算する。なお、設定値βthの詳細については、ステップS062の説明において説明する。
【0051】
ステップS062では、ステップS15で算出した外気放熱性能βと、ステップS061で計算した外気放熱性能の設定値βthとを比較し、β≧βthか否かを判定する。この判定処理は、所定の熱交換量基準値(すなわち、設定値βthのときの交換熱量)に対して、熱交換器5における現状の交換熱量は余裕があるのか不足しているのかを判定するものである。
【0052】
ところで、設定値βthのときの交換熱量は、熱交換器5における交換熱量基準値を表しており、設定値βthとしては、例えば、システム設計時の条件における交換熱量である。しかし、熱交換器5における交換熱量は、外気と冷却液との温度差および外気放熱性能βに依存して変化する。そのため、例えば、外気温が低下して温度差が大きくなったり不凍液濃度mが下がって外気放熱性能βが向上したりすると、交換熱量も大きくなることになる。
【0053】
ステップS062の判定では、熱交換量そのものを判定する代わりに外気放熱性能βを判定しているので、同一の外気放熱性能であっても外気温が変化して温度差が変化すると、判定すべき熱交換量の大きさが変化することになる。そのため、上述したステップS061においては、外気温度センサ114の温度検出値Tgに応じて外気放熱性能の設定値βthを設定するようにしている。例えば、予め設定した設定値β0(例えば、上述したシステム設計時の条件における外気放熱性能)に予め設定されている所定量Δβを加算したり減算したりして、設定値βthを設定する。
【0054】
外気温度Tgが低下すると温度差が大きくなり、外気放熱性能βが変化せず一定であっても外気と冷却液との間での交換熱量が増加するので、外気放熱性能βがより低くても外気温度Tgが低下する前と同等の交換熱量が可能となる。そのため、外気温度Tgが低下した場合には、外気放熱性能βに対する設定値βthを下げる。逆に、外気温度Tgが上昇したときには、外気放熱性能βをより高くしないと熱交換量が不足する可能性があるので、設定値βthを上げる。
【0055】
また、冷却液温度Taが低下した場合には、図4の制御処理でも説明したようにパワー素子3の温度も低くなり、パワー素子3の上限温度に対する余裕がある。そのため、外気放熱性能βの設定値βthを下げて、熱交換器5における交換熱量の基準を下げることが可能となる。逆に、冷却液温度Taが上昇したときには、外気放熱性能βの設定値βthを上げて熱交換器5における交換熱量を大きくする。その結果、冷却液の温度Taを下げることで、パワー素子3の信頼性を向上させることができる。
【0056】
ステップS062でβ≧βthと判定されるとステップS063に進み、送風ファン8の駆動力を小さくする。すなわち、熱交換器5における現状の熱交換量に余裕があると判定されると、送風ファン8の駆動力を小さくして送風する空気の流量を減少させ、熱交換量を抑制する。例えば、不凍液濃度mが低い場合には、冷却液の外気放熱性能βが向上して熱交換量が大きくなるので、ステップS063の送風ファン8の駆動力を小さくする処理が行われ、送風ファン8の消費エネルギを低減することができる。
【0057】
一方、ステップS062でβ<βthと判定された場合には、ステップS064に進んで送風ファン8の駆動力を大きくする。その結果、送風する空気の流量が増大し、熱交換器5における熱交換量が大きくなる。このような制御を行うことで、例えば、不凍液濃度mが高く冷却液の外気放熱性能βが低い場合でも、熱交換器5における熱交換量の低下を抑えることができる。
【0058】
図3のステップS16の処理が終了したなら、ステップS11へ戻る。ステップS11からステップS16までの一連の処理は、車両のイグニッションキースイッチがオフされるまで繰り返し実行される。
【0059】
−第2の実施形態−
図6,7を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図6は、第2の実施の形態における冷却制御装置13の概略構成を示す図である。図6に示す構成は、図2に示した冷却液温度センサ115を省略した点が第1の実施の形態と異なる。
【0060】
図7は制御信号計算部110における、循環ポンプ6および送風ファン8の制御を説明するフローチャートである。制御信号計算部10に設けられたマイクロコンピュータ110aは、ソフトウェア処理により図7に示す処理を順に実行する。なお、マイクロコンピュータ110aは、車両のイグニッションキースイッチがオンされると、図7に示すプログラムの処理を開始する。以下では、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0061】
ステップS01では、モータトルクセンサ111およびモータ回転数センサ112の検出値からパワー素子3の発熱量を計算する。ステップS02では、ステップS01で計算したパワー素子3の発熱量Qと、パワー素子温度センサ113で検出されたパワー素子3の温度検出値Twとに基づいて、式(3)により冷却液の温度Taを計算する。このように、本実施の形態では、冷却液の温度を検出する温度センサを省略し、計算により冷却液の温度を推定するような構成とした。
Ta=Tw (ただしQ=0となって所定時間経過後) …(3)
【0062】
ステップS03では、ステップS01で算出したパワー素子3の発熱量Qと、ステップS02で計算した冷却液の温度Taと、パワー素子温度センサ113で検出された温度Twとに基づいて、前述した式(1)を用いて冷却液によるパワー素子冷却性能αを計算する。すなわち、現在の冷却液の状態を反映したパワー素子冷却性能αを推定する。
【0063】
ステップS04では、ステップS03で算出した冷却液のパワー素子冷却性能αに基づいて、循環ポンプ6の制御信号を計算し、その制御信号に基づいて循環ポンプ6を制御する。ステップS04の制御処理の図3のステップS14の制御処理と同様のものであり、ステップS04においても図4に示した一連の処理が行われる。
【0064】
続くステップS05では、ステップS03で計算したパワー素子冷却性能αと、ステップS02で計算した冷却液の温度Taと、外気温度センサ114の温度検出値(外気温度)Tgとに基づいて、冷却液の外気放熱性能βを上述した式(2)により算出する。これは、図3のステップS15と同様の処理であり、詳細説明は省略する。
【0065】
ステップS06では、ステップS05で計算した冷却液の外気放熱性能βと、ステップS02で算出した冷却液の温度Taと、外気温度センサ114の温度検出値Tgとに基づいて、送風ファン8の駆動を制御する。ステップS06の制御処理は図3のステップS16の制御処理と同様のものであり、ステップS06においても図5に示した一連の処理が行われる。
【0066】
ステップS06の処理が終了したなら、ステップS01へ戻る。ステップS01からステップS06までの一連の処理は、車両のイグニッションキースイッチがオフされるまで繰り返し実行される。
【0067】
上述したように、第2の実施の形態では、ステップS02のようにパワー素子3の発熱量Qと、パワー素子温度センサ113で検出されたパワー素子3の温度検出値Twとに基づいて、式(3)により冷却液の温度Taを計算するようにした。これにより、冷却液の温度を検出する温度センサを省略することができる。その他の点については第1の実施の形態と同様である。
【0068】
すなわち、パワー素子3の温度Taやパワー素子3の発熱から、冷却液の状態(不凍液濃度m、流量n、冷却液の温度Ta)の変化によるパワー素子冷却性能αの変化を推定し、冷却液の状態の変化によりパワー素子冷却性能αに余裕が生じた場合には、循環ポンプ6の駆動力を低下させることで、消費エネルギーの低減を図るようにした。逆に、パワー素子冷却性能αが不足していると推定された場合には、循環ポンプ6の駆動力を大きくして冷却液の流量を増加させることにより、パワー素子3の信頼性向上を図るようにした。
【0069】
なお、上述の説明では、ステップS05、ステップS06において外気温度センサ114の温度検出値Tgを用いたが、パワー素子3の発熱が止まり一定時間後の冷却液の温度Taおよびパワー素子3の温度Twは外気温度とほぼ同等になるため、イグニッションキースイッチがオンにされたときのパワー素子温度センサ113の温度検出値を外気温度センサ114の温度検出値の代わりに用いてもよい。これにより、外気温度センサ114を設けることなく送風ファン8の制御処理を行うことができる。
【0070】
−第3の実施の形態−
図8,9を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。図8は第3の実施の形態における冷却制御装置13の概略構成を示す図であり、図6に示すモータトルクセンサ111およびモータ回転数センサ112に代えて、パワー素子3を流れる電流を検出するパワー素子電流センサ116を設けた。なお、図6に示す要素と同様の要素に対しては同一の符号を付し、以下では相違点を中心に説明する。
【0071】
図9は制御信号計算部110における、循環ポンプ6および送風ファン8の制御を説明するフローチャートである。前述したように、パワー素子3は、要求されたモータ2のトルクと回転数に対して、おおむね決まった電流量をモータ2へ出力する。また、パワー素子3の発熱量はモータ2へ流れる電流値に依存する。したがって、パワー素子3の発熱量Qは、パワー素子3を流れる電流量Iから計算することができる。
【0072】
そこで、ステップS21では、パワー素子電流センサ116の電流検出値Iからパワー素子3の発熱量Qを算出する。パワー素子3を流れる電流量Iからパワー素子3の発熱量までの対応関係は、制御信号計算部110が備えるメモリ110b内に数値マップとして格納されている。ステップS21では、この数値マップを検索することでパワー素子3の発熱量Qを求める。
【0073】
ステップS22は冷却液の温度を計算するステップであり、図7に示すステップS02の場合と同様に、ステップS21で算出したパワー素子3の発熱量Qと、パワー素子温度センサ113で検出されたパワー素子3の温度検出値Twとに基づいて、前述した式(3)により冷却液の温度Taを計算する。
【0074】
ステップS23では、ステップS21で計算したパワー素子3の発熱量Qと、ステップS22で算出した冷却液の温度Taと、パワー素子温度センサ113の温度検出値Twとから、前述した式(1)により冷却液のパワー素子冷却性能αを計算する。
【0075】
ステップS24では、ステップS23で計算した冷却液のパワー素子冷却性能αに基づいて、循環ポンプ6の制御信号を計算し、その制御信号により循環ポンプ6も制御を行う。ステップS24の制御処理は図3のステップS14の制御処理と同様のものであり、ステップS24においても図4に示した一連の処理が行われる。
【0076】
ステップS25では、ステップS23で計算したパワー素子冷却性能αと、ステップS22で算出した冷却液の温度Taと、外気温度センサ114の温度検出値Twとに基づいて、前述した式(2)により熱交換器5における冷却液の外気放熱性能βを算出する。
【0077】
ステップS26では、ステップS25で算出した冷却液の外気放熱性能β、ステップS22で算出した冷却液の温度Taおよび外気温度センサ114の温度検出値Tgに基づいて、送風ファン8の駆動を制御する。ステップS26の制御処理は図3のステップS16の制御処理と同様のものであり、ステップS26においても図5に示した一連の処理が行われる。
【0078】
図9のステップS26の処理が終了したなら、ステップS21へ戻る。ステップS21からステップS26までの一連の処理は、車両のイグニッションキースイッチがオフされるまで繰り返し実行される。
【0079】
−第4の実施の形態−
図10,11を参照して、本発明の第4の実施の形態について説明する。図10は第4の実施の形態における制御装置の概略構成を示す図であり、図6に示した制御装置に冷却液凍結警告ランプ117を設けた点が異なる。なお、図6に示す要素と同様の要素に対しては同一の符号を付し、以下では相違点を中心に説明する。
【0080】
図11は制御信号計算部110における、循環ポンプ6および送風ファン8への制御を説明するフローチャートである。なお、ステップS31からステップS36までの処理は、図6のステップS01からステップ06と同様の処理であるので、ここでは説明を省略する。
【0081】
ステップS37では、ステップS33で計算した冷却液のパワー素子冷却性能αと、ステップS34で計算した循環ポンプ6への制御信号に基づいて、冷却液温度Taにおける冷却液の不凍液濃度mを計算する。前述したように、冷却液の不凍液濃度mが高くなると冷却液の粘度が増加し、パワー素子冷却性能αは低下する。また、循環ポンプ6による冷却液の流量nが増加すると、パワー素子冷却性能αは向上する。
【0082】
ステップS37では、不凍液濃度mの計算に図12,13に示したマップを用いる。例えば、冷却液温度Ta0の場合には図13に示すTa=Ta0のマップを使用し、循環ポンプ6の制御信号に基づく流量nとパワー素子冷却性能αとを指定すると、座標点(n、α)が決まる。そして、その座標点(n、α)を通る曲線Lの不凍液濃度mが、求めようとしている不凍液濃度である。例えば、流量がn1でパワー素子冷却性能がαthであった場合には、不凍液濃度としてm1が得られる。
【0083】
ステップS38では、ステップS37で計算した不凍液濃度と、外気温度センサ114で検出した外気温Tgとを比較して、冷却液の凍結の可能性を判定する。冷却液は、不凍液濃度mに応じて凝固点が異なり、不凍液濃度mが低くなると凝固点が高くなって凍結しやすくなる。メモリ110bには、冷却液の不凍液濃度mと凝固点との関係がマップとして記憶されており、ステップS38では、ステップS37で算出された不凍液濃度mにおける凝固点と外気温度センサ14の検出結果Tgとを比較し、凝固点と外気温Tgとの温度差が設定値以下となった場合に、冷却液が凍結する可能性があると判定する。
【0084】
ステップS38において凍結の可能性があると判定された場合には、ステップS39へ進んで冷却液凍結警告ランプ117を点灯し、その後、ステップS31へ戻る。一方、ステップS38で凍結の可能性がないと判定されると、ステップS39をスキップしてステップS31へ戻る。
【0085】
なお、上述したステップS38では、外気温Tgとして外気温度センサ114の検出結果を用いたが、例えば、車両に設けられた車載ナビゲーション装置の走行計画情報を利用し、走行計画情報が示す車両の目的地情報から将来の外気温度を予測し、その外気温予測値を用いてステップS38の判定を行うようにしても良い。このような構成とすることにより、車両の周囲環境が冷却液の凝固温度以下になる前に冷却液の凍結の警告を発することができる。
【0086】
また、上述のステップS39では、冷却液凍結警告ランプ117を点灯することで警告を行ったが、以下のような処理を追加したり、ステップS39の処理と置き換えたりしても良い。すなわち、冷却回路4に、冷却液を冷却回路4の外へ排出する排出口と、排出口を開閉する電磁弁とを設け、ステップS38で冷却液が凍結する可能性があると判定した場合には、制御信号計算部110からの制御信号により排出口の電磁弁を開いて冷却液を排出することで、冷却液が冷却回路4の中での凍結するのを防止する。これにより、冷却回路4の破裂を防止することができる。その場合、排出口を冷却回路4の下方に設けることで、冷却液を効率的に排出することができる。
【0087】
(1)上述した実施の形態における車載回転電機用電力変換装置の冷却システムは、
不凍液を含む冷却液を循環する循環ポンプ6を有して、冷却液により車載回転電機用電力変換装置のパワー素子3を冷却する冷却回路4と、パワー素子3の発熱量Qを算出する発熱量演算手段としての制御信号計算部110と、パワー素子3の温度を取得する第1温度取得手段としてのパワー素子温度センサ113と、冷却液の温度を取得する第2温度取得手段としての冷却液温度センサ115と、発熱量Q、パワー素子の温度および冷却液の温度に基づいて、放熱板7を介してパワー素子3から冷却液へ伝達される単位温度差当たりの熱伝達量である熱伝達率(パワー素子冷却性能α)を算出する熱伝達率演算手段としての制御信号計算部110と、算出された熱伝達率(α)が所定の熱伝達率基準値(αth)より大きい場合に循環ポンプ6の吐出量を低下させるポンプ制御手段としての制御信号計算部110と、を備えている。
【0088】
このように、パワー素子3の発熱量Q、パワー素子3の温度および冷却液の温度に基づいて熱伝達率(パワー素子冷却性能α)を算出することにより、冷却液の状態(不凍液濃度m、流量n、冷却液の温度Ta)が反映された熱伝達率(パワー素子冷却性能α)を得ることができる。そして、その熱伝達率(パワー素子冷却性能α)を基準値αthと比較することにより、現時点のパワー素子冷却性能に余裕があるか否かを判定することが可能となり、パワー素子冷却性能に余裕がある場合(熱伝達率が所定の熱伝達率基準値より大きい場合)に、循環ポンプ6の駆動力を低下させることで、パワー素子3の冷却に支障を与えることなく冷却システムの消費エネルギ低減を図ることができる。
【0089】
(2)なお、算出されたパワー素子の発熱量Qと、第1温度取得手段であるパワー素子温度センサ113で検出して取得されたパワー素子の温度とに基づき、第2温度取得手段としての制御信号計算部110において冷却液の温度を算出するようにしても良い。このような構成とすることで、冷却液の温度を検出するための温度センサを省略することができ、冷却システムのコスト低減を図ることができる。
【0090】
(3)さらに、第1温度取得手段としてのパワー素子温度センサ113で取得されたパワー素子の温度の高低に応じて、基準値設定手段としての制御信号計算部110において熱伝達率基準値(αth)を設定することにより、冷却液の温度Taが変化した場合でも、循環ポンプ6の制御を適切に行うことができる。
【0091】
(4)また、算出された熱伝達率(パワー素子冷却性能α)が所定の熱伝達率基準値(αth)より小さい場合に循環ポンプ6の吐出量を増加させることで、冷却液の流量が増加して冷却液のパワー素子冷却性能が向上し、パワー素子3の信頼性向上を図ることができる。
【0092】
(5)さらにまた、冷却回路4中に設けられ、外気と冷却液との熱交換を行う熱交換器5と、熱交換器5に外気を送風する送風機(送風ファン8)と、外気温を取得する第3温度取得手段としての外気温度センサ114と、熱伝達率(パワー素子冷却性能α)、冷却液の温度Taおよび外気温Tgに基づいて、外気と冷却液との間の熱交換率を算出する熱交換率演算手段としての制御信号計算部110と、算出された熱交換率が所定の熱交換率基準値(βth)より大きい場合に送風機の送風量を低下させる送風制御手段としての制御信号計算部110と、を備えるようにしても良い。このように、熱交換率が所定の熱交換率基準値(βth)より大きく熱交換器5における放熱量に余裕がある場合に、送風機の送風量を低下させることで冷却システムの消費エネルギを低減することができる。
【0093】
(6)さらに、冷却システム始動時に第1温度取得手段(パワー素子温度センサ113)または第2温度取得手段(冷却液温度センサ115)で取得される温度を、外気温として用いることにより、外気温検出用のセンサを省略することができ、冷却システムのコスト削減を図ることができる。
【0094】
(7)なお、発熱量Qは、回転電機(モータ2)のトルク情報と回転数情報とに基づいて算出しても良いし、パワー素子3に流れる電流値に基づいて算出しても良い。
【0095】
(8)また、冷却液の温度、算出された熱伝達率(パワー素子冷却性能α)、およびポンプ制御手段としての制御信号計算部110から出力される制御信号に基づいて、冷却液の不凍液濃度を算出し、算出された不凍液濃度に基づいて、冷却液の凍結を警告する警報を発生する警報装置(不凍液凍結警告ランプ117)を備えたことにより、不凍液凍結を事前に知ることができ、不凍液凍結に対して適切に対処することが可能になる。
【0096】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0097】
1:バッテリ、2:モータ、3:パワー素子、5:熱交換器、6:循環ポンプ、7:放熱板、8:送風ファン、10:電力変換装置、11:制御部、12:上位制御装置、13:冷却制御装置、100:冷却システム、109:検出部、110:制御信号計算部、111:モータトルクセンサ、112:モータ回転数センサ、113:パワー素子温度センサ、114:外気温度センサ、115:冷却液温度センサ、116:パワー素子電流センサ、117:不凍液凍結警告ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不凍液を含む冷却液を循環する循環ポンプを有して、前記冷却液により車載回転電機用電力変換装置のパワー素子を冷却する冷却回路と、
前記パワー素子の発熱量を算出する発熱量演算手段と、
前記パワー素子の温度を取得する第1温度取得手段と、
前記冷却液の温度を取得する第2温度取得手段と、
前記発熱量、前記パワー素子の温度および前記冷却液の温度に基づいて、前記パワー素子から前記冷却液へ伝達される単位温度差当たりの熱伝達量である熱伝達率を算出する熱伝達率演算手段と、
算出された前記熱伝達率が所定の熱伝達率基準値より大きい場合に前記循環ポンプの吐出量を低下させるポンプ制御手段と、を備えた車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、
前記第2温度取得手段は、前記発熱量演算手段で算出されたパワー素子の発熱量と前記第1温度取得手段で取得されたパワー素子の温度とに基づいて、前記冷却液の温度を算出することを特徴とする車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、
前記第1温度取得手段で取得されたパワー素子の温度の高低に応じて前記熱伝達率基準値を設定する、基準値設定手段を備えたことを特徴とする車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、
前記ポンプ制御手段は、算出された前記熱伝達率が所定の熱伝達率基準値より小さい場合に前記循環ポンプの吐出量を増加させることを特徴とする車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、
前記冷却回路中に設けられ、外気と前記冷却液との熱交換を行う熱交換器と、
前記熱交換器に外気を送風する送風機と、
外気温を取得する第3温度取得手段と、
前記熱伝達率、前記冷却液の温度および前記外気温に基づいて、外気と前記冷却液との間の熱交換率を算出する熱交換率演算手段と、
算出された前記熱交換率が所定の熱交換率基準値より大きい場合に前記送風機の送風量を低下させる送風制御手段と、を備えたことを特徴とする車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。
【請求項6】
請求項5に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、
前記第3温度取得手段は、冷却システム始動時に前記第1温度取得手段または第2温度取得手段で取得される温度を、前記外気温として用いることを特徴とする車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、
前記発熱量演算手段は、回転電機のトルク情報と回転数情報とに基づいて前記発熱量を算出することを特徴とする車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、
前記発熱量演算手段は、前記パワー素子に流れる電流値に基づいて前記発熱量を算出することを特徴とする車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の車載回転電機用電力変換装置の冷却システムにおいて、
前記第2温度取得手段で取得された冷却液の温度、前記熱伝達率演算手段により算出される熱伝達率、および前記ポンプ制御手段から出力される制御信号に基づいて、前記冷却液の不凍液濃度を算出する濃度演算手段と、
前記濃度演算手段で算出された不凍液濃度に基づいて、前記冷却液の凍結を警告する警報を発生する警報装置と、を備えたことを特徴とする車載回転電機用電力変換装置の冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−151975(P2012−151975A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8009(P2011−8009)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】