説明

車載用アクチュエータシステム

【課題】車載用アクチュエータシステムにおいて、電動機で発生した電力を車両電源系統が吸収できない場合や車両電源系統が電力を吸収できる場合でも電動機が外力によって高速に回されると電動機のトルク又は電流を小さくできなくなる場合に起る電動機がトルクを発生できなくなる事態、また、高速回転、停止、低速回転と運転状態が頻繁に切り替ることによる車両電源系統の電圧の急変、電磁波によるノイズの発生を防止、低減すること。
【解決手段】電動機に流れる三相電流の位相を進めるか遅らせるように制御するか、電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、電動機に流れるd軸電流を流すことにより、電動機が常に電源系統から供給された電力を消費するか又は前記電源系統へ電力を供給しないように電動機を制御すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相電流によって駆動する電動機を備えた車載用アクチュエータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術や制御技術の発展に伴って、駆動、制動または操舵といった車両運動を決定づける操作に対して、車両側の出力機構と運転者側の入力機構を独立に制御できるバイワイヤ技術が脚光を浴びてきている。バイワイヤ技術によれば、運転者の操作と車両運動の関係を電子的に制御できるため運転者の受けるフィーリングや操作性を向上したり、運転による疲労を軽減したりすることができる。また、運転者の意図とは独立して、制動をかけたり、車両を一定速度で走行したり、先行車との車間を一定に保ったり、車線に沿った走行を自動的に行うことも可能である。さらに、回生などの従来なかった機能に対しても、従来の出力機構の出力を制御して協調していくことが可能である。
【0003】
バイワイヤ技術のアクチュエータの殆どのものは、高トルクと高速回転の電動機により構成される。電動機を用いた車載用アクチュエータシステムとしては、電動機で反力を発生させるペダル装置や、ブレーキロータに摩擦材を押し付けるための推力を発生させる電動ブレーキや、運転者の踏み込みに応じてマスタシリンダに油圧を発生させる電動ブースタなどが開発されている。例えば、特許文献1は、変位センサを用いて入力部材への入力推力を正確に推定し、この入力推力に基づいて電動アクチュエータを駆動することで、微小踏み込み時のジャンプイン特性付与によるペダルフィーリング改善、大入力踏み込み時のブレーキアシスト動作制御を適切に果たすことができる電動倍力装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−281992号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動機は、スイッチング素子をパルス幅変調方式で駆動することによって制御されるのが一般的である。複数のスイッチング素子を含んで構成されたインバータ回路は、車両電源系統から電力供給を受けるが、電動機が発電または回生する場合には、電動機から車両電源系統へ電力を供給する。ここで、電動機の印加電圧を調整するために車両電源系統がDC−DCコンバータで構成されていたり、インバータ回路におけるキャパシタの地絡故障や+端子と−端子の逆接による故障を避けるため、車両電源系統とインバータ回路の間にダイオードがあったりする。車両電源系統がDC−DCコンバータであったり、車両電源系統とインバータ回路の間にダイオードがあったりする場合には、電動機で発生した電力を車両電源系統が吸収できない場合が発生する。また、車両電源系統がバッテリやキャパシタを備えていても、バッテリやキャパシタの蓄電余裕がないため、電動機が出力した電力を吸収できない場合が発生する。
【0006】
電動機で発生した電力を車両電源系統が吸収できない場合、電流を流すことができないので、電動機のトルクを発生できない場合が起こる。また、車両電源系統が電力を吸収できる場合においても、電動機が外力によって高速に回されると電動機のトルクや電流を小さくできない場合が起こる。電動機を用いた車載用アクチュエータシステムには、静的にトルクを発生させたままその状態を保持する場合、高速回転中に動的にトルクを変化させる場合、外力によって回されながらトルクを変化させる場合があり、回転速度に関わらず任意にトルクを制御する必要があるため、トルクと電流の制御範囲の制約をなくすことが課題となっていた。
【0007】
また、電動機を用いた車載用アクチュエータシステムは、高速回転状態、低速回転状態および停止状態が頻繁に切り替わるので、短時間に大きな電流がインバータ回路から車両電源系統へ流れる場合が多くなるため、車両電源系統の電圧を急変させたり、電磁波によるノイズを発生させたりする場合が起こり、車両電源系統や車載用アクチュエータシステム周辺の他のシステムへ悪影響を与える可能性があり、この解決も課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車載用アクチュエータシステムは、三相電流によって駆動する電動機と、前記電動機を駆動するためのスイッチング素子を有するインバータ回路を備え、前記電動機及び前記インバータ回路に電力を供給する電源系統が前記インバータ回路に接続されて、前記スッチング素子の駆動を制御することにより、前記電動機に流れる電流又は前記電動機に印加される電圧を制御する制御手段を備えた車載用アクチュエータシステムにおいて、前記電動機は、操作入力装置又は車両出力装置に備えられるものであって、前記制御手段は、静的に操作入力又は車両出力の大きさに基づいた力又はトルクを発生させ、動的には操作入力の変化量又は車両出力の変化量に基づいた力又はトルクを発生させると共に、前記制御手段は、前記電動機において所望の力又はトルクを回転速度で制御すること、並びに前記電動機が外力により外力と同じ方向に回され、かつ、前記電動機が外力に逆らうように力又はトルクを発生する場合に、前記制御手段は、前記電動機に流れる三相電流の位相を進めるか若しくは遅らせるように制御するか、又は前記電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、又は前記電動機に流れるd軸電流を流すこと、並びに前記操作入力手段がペダルであり、該ペダルの踏み込み速度とペダル反力の積が負であって予め定められた閾値よりも負の方向に大きい場合に、前記制御手段は前記電動機に流れる三相電流の位相を進めるか若しくは遅らせるように制御するか、又は前記電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、又は前記電動機にd軸電流を流すこと、を特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、上記の特徴に加えて、前記電源系統は、他の電源系統からの電力を昇圧又は降圧して、前記インバータ回路に供給できるが、前記インバータ回路からの電力を前記他の電源系統へ供給できない電源系統となっていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の車載用アクチュエータシステムは、上記の特徴に加えて、前記電動機は、操作入力装置又は車両出力装置に備えられるものであって、前記電動機がシステムを構成する部材又は人力又は他のアクチュエータシステムから外力を受け、前記インバータ回路による制御が行われない場合に、前記電動機が外力により回される構成となっていること特徴とするものである。
【0011】
本発明の車載用アクチュエータシステムは、上記の特徴に加えて、前記電動機のトルクと回転速度の積が負であって、予め定められた所定の閾値よりも負の方向に大きい場合に、前記制御手段は、前記電動機に流れる三相電流の位相を進めるか若しくは遅らせるように制御するか、又は前記電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、又は前記電動機にd軸電流を流すことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の車載用アクチュエータシステムは、上記の特徴に加えて、前記電動機に流れるq軸電流と回転速度の積が、負であって予め定められた閾値よりも負の方向に大きい場合に、前記制御手段は、前記電動機に流れる三相電流の位相を進めるか若しくは遅らせるように制御するか、又は前記電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、又は前記電動機にd軸電流を流すことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の車載用アクチュエータシステムは、上記の特徴に加えて、前記ペダルは、ブレーキペダル又はアクセルペダルであり、前記電動機が主としてペダル反力を発生させることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の車載用アクチュエータシステムは、上記の特徴に加えて、前記車載用アクチュエータシステムが電動キャリパ装置であって、前記電動機が主として制動力を発生させることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の車載用アクチュエータシステムは、上記の特徴に加えて、前記車載用アクチュエータシステムが電動ブースタ装置であって、前記電動機が主として制動力を発生させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電動機が発電または回生をする場合でも、車両電源系統に電力を出力しないので、車両電源系統での電力の吸収を想定せずにシステムを構成することが可能となる。そのため、電動機が外部から回された場合においても、回転速度によらずにトルクを制御することが可能となる。高速回転状態と、停止状態または低速回転状態が頻繁に切り替わるような動作においてもインバータ回路から車両電源系統へ電力が流れなくなるため、車両電源系統や車載用アクチュエータシステム周辺の他のシステムへ悪影響を与える可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1を示すシステムの模式図である。
【図2】本発明の実施例1の操作入力装置の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例1の操作入力装置の他の例を示す模式図である。
【図4】実施例1の操作入力装置の操作反力を示す一例である。
【図5】パッシブ反力手段を備えた操作入力装置を示す例である。
【図6】操作入力装置の操作位置と操作反力の関係を示す一例である。
【図7】車両出力装置の一例である電動キャリパ装置の模式図である。
【図8】電動キャリパ装置における推力とピストン位置の関係の一例を示す。
【図9】図9は、電動機の回転速度によって変化するトルクまたはq軸電流の範囲の特性を示す一例である。
【図10】図10は、本発明に係る車載用アクチュエータシステムが備える制御装置の一例を示す。
【図11】図11は、図10に示された制御手段550の一例を示すブロック図である。
【図12】図12は、本発明に係る制御を行うかどうかの判断用の制御手段のテーブルの一例である。
【図13】図13は、本発明による車載用アクチュエータシステムの動作の一例を示した電流波形図である。
【図14】図14は、車載用アクチュエータシステムがペダル装置である場合の時間軸に対する動作を示す一例である。
【図15】図15は、車載用アクチュエータシステムが電動キャリパ装置である場合の時間軸に対する動作を示す一例である。
【図16】本発明の実施例2を示すシステムの模式図である。
【図17】本発明の実施例2の電動ブースタ装置の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態であるいくつかの実施例について、以下、図面を参照して説明する。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
図1は、本発明による車載用アクチュエータシステムの一形態である操作入力装置を備えた車両システムを模式的に示す。101は運転者が車両を運転するために操作する操作入力装置であり、操作入力部103と、制御装置102を備えている。操作入力装置101は、電動機により操作反力を発生させ、かつ、これを任意に変化させることができる。また、制御装置102は、車両電源系統145につながる電源経路104を介して、電力を受けたり供給したりし、操作入力部103の電動機を駆動するように電動機の電流や電圧を制御する。また、制御装置102は、操作入力装置からの情報を、通信経路105を介して、車両出力装置に伝達する。
【0020】
操作入力装置は、運転者がペダルを踏み込む踏力によって、ペダル位置やペダル速度が変化するペダル装置に限定されるものではなく、例えばステアリングを回す操舵力により舵角や舵角速度が変化するステアリング装置であってもよい。ここでは、こうした操作入力装置に対して運転者が行う全ての入力を「操作入力」と定義する。「操作入力」には、「操作力」、「操作位置」、「操作速度」等の情報が含まれ得る。
【0021】
操作入力装置101は、操作力に応じて操作位置や操作速度が変化する。また、操作位置や操作速度に応じて、操作反力が発生する。このように操作力に対して操作反力を発生させ、運転者に操作フィーリングを与える。操作入力装置101において、操作位置または操作速度および操作反力または操作力との関係は、電気的な制御によって任意の特性とおりに実現することができる。
【0022】
ここで、「操作位置」は、操作入力装置が操作された移動幅または操作距離に相当する。「操作位置」は、「操作ストローク」または単に「ストローク」と置き換えてもよいし、操作入力装置がペダル装置である場合は、「ペダル位置」または「ペダルストローク」としてもよい。また、操作入力装置がステアリング装置である場合には、「舵角」または「ステアリング角」としてもよい。
【0023】
「操作速度」は「ストローク速度」としてもよいし、操作入力装置がペダル装置である場合は、「ペダル速度」または「ペダルストローク速度」としてもよい。また、操作入力装置がステアリング装置である場合は、「舵角速度」または「ステアリング角速度」としてもよい。操作速度は、操作位置の時間単位の変位量または操作位置を微分した値であり、操作位置から演算で求めることができる。
【0024】
「操作力」は、運転者が操作入力装置を動かすために加える力であり、操作入力装置がペダル装置である場合、足による「踏み込み力」または「踏力」に相当する。また、操作入力装置がステアリング装置である場合、「操舵力」に相当する。
【0025】
また、「操作反力」は、運転者が操作入力部を操作している時に操作入力装置から運転者に加えられる力であり、操作入力装置がペダル装置である場合、「ペダル反力」に相当する。また、操作入力装置がステアリング装置である場合、「操舵反力」に相当する。「操作反力」は単に「反力」と置き換えてもよい。操作反力は操作力と対になる力であり、一般的に操作力と反対向きの力である。ここでは、操作力と操作反力は、ほぼ等価の力として扱う。
【0026】
次に、車両の運動に影響を与える出力を「車両出力」と定義する。車両出力は、例えば車両を減速させる「制動力」、車両を加速させる「駆動力」または車両の走行方向を曲げる「回転力」である。
【0027】
111、121、131、141、151は、いずれも車両出力装置ということができる。このうち、111、121、131、141は、制動装置であり、車両の制動力を発生する装置である。また、151は、駆動装置であり、車両の駆動力を発生する装置である。操作入力装置と車両出力装置は、その間で電気的な信号のやり取りがなされるように接続されている。
【0028】
操作入力装置に与えられる操作入力は、電気的な信号として車両出力装置に伝えられ、車両出力装置は、伝えられた信号情報に基づいて車両出力を発生する。操作入力装置と車両出力装置の間は、機械的な接続がないか、または機械的な接続があっても、通常の作動においてはお互いに機械的な干渉がないか、もしくは干渉が少ないように接続されている。そのため、操作入力装置における操作位置や操作反力の制御は、車両出力装置における車両出力の制御とは独立して行うことができる。
【0029】
図1に示された実施例1では、操作入力装置101はブレーキペダル装置であるので、対応する車両出力装置は、制動装置111、121、131、141となる。なお、操作入力装置101がアクセルペダルである場合には、これに対応する車両出力装置は駆動装置151となる。
【0030】
図1に示された制動装置111、121、131、141は、電動キャリパ装置である。制動装置111は、電動キャリパ112と制御装置113を備えている。電動キャリパ112は、電動機を使ってピストンを動かし、パッドをブレーキロータ114に押し付けることにより車両に制動力を発生させる。
【0031】
制御装置113は、車両電源系統145につながる電源経路116を介して電力供給を受けて制動装置111の電動機を駆動するように電流や電圧を制御する。また、制御装置113は、通信経路115を介して伝達される操作入力装置101からの指示および制動装置111の情報に基づいて、制動装置111の電動機を制御する。図1の実施例では、電動キャリパ112と制御装置113を別体として構成したが、両者を一体としてもよい。他の制動装置121、131、141についても、これらの基本的な構造は、制動装置111と同じである。そして、制動装置111は車両の右後輪、制動装置121は右前輪、制動装置131は左後輪、制動装置141は左前輪に装着されている。
【0032】
151は車両に駆動力を発生させるための駆動装置であり、図1に示された実施例では内燃機関であるが、これに限定されるものではなく、電動機であってもよいし、エンジンと電動機の両方を備えたハイブリッドシステムでもよい。
【0033】
152は制御装置であり、車両電源系統145につながる電源経路156を介して電力の供給を受け、通信経路153を介して操作入力装置101から伝達された指示と駆動装置151内の情報に基づいて、駆動装置を制御する。
【0034】
161は蓄電手段であり、車両電源系統145に電力を供給したり、車両電源系統145から電力の供給を受けたりする。蓄電手段161は、例えばバッテリや大容量のキャパシタである。また、162は別の蓄電手段であり、車両電源系統145に電力を供給するが、車両電源系統145と異なる電圧である場合、変圧手段163を介して車両電源系統145に接続される。蓄電手段162は、例えばバッテリや大容量のキャパシタである。蓄電手段162がある場合、蓄電手段161はあってもよいし、なくてもよい。逆に蓄電手段161がある場合、蓄電手段162はあってもよいし、なくてもよい。変圧手段163は、蓄電手段162から車両電源系統145に電力を供給できるように電圧を変換することができる。また、変圧手段163は、車両電源系統145から蓄電手段162へ電力を供給できるように電圧を変換することができてもよいし、できなくてもよい。
【0035】
164は、発電手段であり、電源系統145と同じ電圧または蓄電手段162と同じ電圧で発電を行う。発電手段164が電源系統145と同じ電圧である場合、発電手段164は電源系統145と直接接続する。また、発電手段164が蓄電手段162と同じ電圧である場合、発電手段164は変圧手段163を介して電源系統145と接続する。また、発電手段が二つ備わって、一方が電源系統145に直接接続し、他方が変圧手段163を介して電源系統145に接続するようにしてもよい。
【0036】
駆動装置151が内燃機関の場合、車両に電力を供給するための発電手段164は、内燃機関の回転エネルギーを電力に変換するものであって、オルタネータでよい。なお、駆動装置151が電動機である場合には、駆動装置自体が発電の力を持つため、発電手段164がなくてもよいし、別にあってもよい。
【0037】
車両通信系統146は、操作入力装置と車両出力装置の間を接続している電気信号を伝送する情報経路であり、物理的には電線で構成されている。操作入力装置と車両出力装置は空間的に離れた場所に設置されている場合が多く、制御用の情報はその間を結ぶ車両通信系統146を介して、一般的に時分割多重通信方式の電気信号を用いて伝送される。車両通信系統146に用いられる電気信号の形式は、シリアル通信でもよいし、CAN、FlaxRay、LAN等の多重通信でもよい。
【0038】
車両電源系統145と車両通信系統146は、万一の失陥時に備えて多重化して構成されていてもよい。例えば、車両電源系統145が、独立した二系統から成り立っており、各々が電力供給源となる蓄電手段や発電手段を備えている構成となっていてもよい。また、例えば車両通信系統146が独立した二系統から成り立っていてもよい。また、電源系統と通信系統がそれぞれ、制動装置111と141が属する系統と、制動装置121と131が属する系統に分かれており、操作入力装置101は、両系統から独立して電力の供給を受け、両系統に独立した信号を伝達できるように構成されていてもよい。
【0039】
電源系統と通信系統が二つ一組になって接続されている場合、二重系としての信頼性が確保できる。操作入力装置101は、両系統に接続されるが、片方の系統が失陥しても、もう一方の系統の機能は維持できるように設計される。二重系の構成としては、例えば制動装置121と141が一方の系統で、制動装置111と131が他方の系統として、前後二重系としてもよい。
【0040】
図2は、図1の操作入力装置101の一例を示すものであり、制御装置102と電気的に制御可能な電動機205を備えている。電動機205は三相電流によって駆動する電動機である。電動機205は、例えば同期電動機であってもよいし、誘導電動機であってもよいし、DCブラシレスモータであってもよい。
【0041】
電動機205が電力を発電するか、電力を消費するか、電動機205に電流を流すと、回転軸周りに部材203が回転するか、または回転方向の力が発生する。制御装置102は電動機205を駆動するための三相電流を生成するインバータ回路207と、インバータ回路207を制御する制御手段208を備えている。インバータ回路207は、6ないし6の倍数の数のスイッチング素子によって電源経路104から供給される直流電流を、電動機205を駆動するための三相電流に変換する。
【0042】
制御装置102が電動機205を制御することにより、操作入力装置の操作位置、操作速度、操作反力を任意に制御する。また、制御装置102は、通信経路105を介して、車両出力装置に操作入力の情報や車両出力指令を伝達し、車両出力装置は操作入力に応じた車両出力を発生させる。
【0043】
操作入力装置101は、足で踏み込む作用点となる操作入力部202を備えている。操作入力部202に踏力がかかると操作入力部202と部材203がストロークする。
【0044】
ここで、「操作位置」は、手前から奥方向へ行くほど大きな値をとり、奥から手前方向へ行くほど小さな値をとものとする。また、操作入力装置がペダルである場合、ペダルを手前から奥に移動させる時「ペダルを踏む」または「踏み込む」といい、また、ペダルを奥から手前に移動させる時、「ペダルを放す」または「戻す」と定義する。さらに、ペダル位置を変更しないようにペダルを維持している時、ペダルを「保持する」と定義する。一般的なペダル装置では、最大限にストロークさせた時のペダル位置は0.03〜0.1m程度である。
【0045】
操作入力装置は、操作量検出手段204と操作力検出手段201を備えている。操作量検出手段204は、操作量として操作位置または操作速度を検出する。操作量検出手段204が検出する操作量は、回転軸周りに部材203が回転した量でよいし、操作入力部202が移動またはストロークした量でよい。また、操作量検出手段204は、操作速度を直接検出してもよいし、操作位置に基づいて演算を行うことで操作速度の検出を行ってもよい。
【0046】
操作量検出手段204は、電動機205の回転角度または回転位相を検出する電動機制御用センサを用いてもよいし、電動機制御用センサとして、光または磁気を用いたエンコーダであってもよいし、レゾルバであってもよい。また、操作量検出手段204は回転軸に対して部材203が回転した角度を検出することができる回転角センサであってもよく、回転角センサは可変抵抗を用いたポテンショメータまたはロータリエンコーダであってもよいし、回転スリットを用いて光ピックアップで検知する方式であってもよいし、磁気素子を用いて磁気の変化を検知する方式であってもよい。さらに、操作量検出手段204は、部材203または操作入力部202がストロークした量または操作位置を検出することができるストロークセンサであってもよい。ストロークセンサは可変抵抗を用いたポテンショメータであってもよいし、磁気回路を用いて磁気抵抗の変化として変位幅を検出する方法であってもよい。
【0047】
操作力検出手段201は、操作力である踏力を検出し、同時に操作反力であるペダル反力を検出する。ここで、操作力検出手段201は、力を検出する手段であるため、操作力と操作反力を同じものとして検出する。操作力検出手段201が検出する力は、回転軸周りに部材203を回転させるために加えられた力であってもよいし、ペダル入力部202を移動またはストロークさせるために加えられた力であってもよい。操作力検出手段201は、例えば歪みゲージの抵抗変化を用いて力を検出するものでもよい。
【0048】
また、電動機205は、操作入力部と減速機206を介して接続されている。減速機206は、歯車によるものであってもよいし、遊星ギアまたは差動減速機によるものであってもよい。
【0049】
図3は、図1に示された操作入力装置101の別の一例を示すものである。この例では、回転直動変換機構211を備え、電動機213が回転すると、その回転は回転直動変換機構211によって直動方向に変換され、ロッド215を押したり引いたりする。ロッド215の直動運動または直動力によって、部材203の操作位置、操作速度、操作力が決定される。回転直動変換機構211は、例えばボールネジ、台形ネジなどを用いてもよいし、その他の機構を用いるものでもよい。操作力は、力センサ212によって検出される。力センサ212は、図2に示された一例の操作力検出手段201に相当するものである。操作位置や操作速度は、電動機213の回転センサ214によって検出される。回転センサ214は、図2に示された一例の操作量検出手段204に相当するものである。
【0050】
操作入力装置101は、その制御装置102が電動機を制御することにより、好適な操作反力を発生する。その操作反力は、剛性反力と粘性反力に分けて、数式1のように表すことができる。
(数式1)ペダル反力 = 剛性反力 + 粘性反力
【0051】
ここで、剛性反力とは、操作位置に応じて大きさが変わる反力であって、操作位置がより大きくなるとより大きな値となるものである。同じ操作位置に対する剛性反力が大きい操作入力装置は、操作者による操作時に堅いフィーリングを与える。これに対して、同じ操作位置に対する剛性反力が小さい操作入力装置は、操作者に柔らかいフィーリングを与える。
【0052】
粘性反力は、操作速度に応じて大きさが変わる反力であり、操作速度がより大きくなるとより大きな値となる。同じ操作速度に対する粘性反力が大きい操作入力装置は、操作時にねばねばしたフィーリングを与える。これに対して、同じ操作速度に対する粘性反力が小さい操作入力装置は、バネ感の強いフィーリングを与える。
【0053】
図4は、操作入力装置101が発生する操作反力の一例を示す。図4(a)において、251は操作速度が略0場合の操作反力を示し、252、253は操作速度が異なる場合の操作反力を示す。図4(b)において、261は、操作速度が極めて小さい速度である場合であり、この場合の操作反力は、図4(a)における251である。251は、数式1における剛性反力に略相当するものである。操作速度が大きい場合は、粘性反力は大きくなるので、操作反力も大きくなる。251が剛性反力に略相当するので、操作速度が図4(b)における262、更に263のように大きくなった場合、図4(a)における、差分は数式1における粘性反力に相当する。
【0054】
図4(c)と図4(d)は、それぞれ操作速度と操作位置によって変化する粘性反力を示す。図4(c)において、271は、操作位置254における操作速度に対する粘性反力の関係の一例を、同じく272と273は、それぞれ操作位置255と256における操作速度に対する粘性反力の関係を示す一例である。また、図4(d)において、281は、操作速度が261の場合の粘性反力の一例で、粘性反力が非常に小さいものになることを示している。同じく、282と283は、それぞれ操作速度272と273の場合の粘性反力を示している。
【0055】
電動機は、操作入力装置に操作反力を発生させるように必要なトルクを発生する。電動機にトルクを発生させるためには、電動機に電流を流す必要がある。そのため、制御装置102は、例えば図4に示された操作反力を発生させるために、電動機に流れる電流を制御する。
【0056】
三相電流によって駆動される電動機では、トルクを発生させる電流は、q軸電流であり、制御装置102が制御する電動機のq軸電流は、次の数式2により与えられる。
(数式2)q軸電流=K1×(目標の操作反力−操作力+メカ機構による抵抗力)+加減速に使われる電流
【0057】
ここで、「K1」は電動機のトルク定数や操作入力装置の減速比によって決まる比例定数、「メカ機構による抵抗力」は、操作入力装置各部の摺動部の摩擦や減速機の効率等に依存する抵抗力、更に、操作入力装置の変形による反力や、操作入力装置にバネ要素による機構が取り付けてある場合はその反力も含まれるものである。
【0058】
図5は、操作反力を発生させるための手段として、パッシブ反力手段を備えた操作入力装置を示す例を示したものであり、図5(a)から(d)は、パッシブ反力手段を備えた操作入力装置の種々の形態を示している。図5(a)と図5(b)が示す例では、パッシブ反力手段223は、バネ224によってロッド226にバネ反力を発生させることにより操作入力部202に操作反力を発生させる。図5(c)と図5(d)が示す例では、パッシブ反力手段229は、バネ230と油圧回路231によってロッド226にバネ反力と油圧の反力を発生させることにより操作入力部202に操作反力を発生させる。また、図5(a)と図5(c)が示す例では、電動機221は回転軸222にトルクを発生させ操作入力部202に操作反力を発生させる。図5(b)と図5(d)が示す例では、電動機221のトルクは、回転直動変換機構228によって直動方向の力に変換され、ロッド226の反力と合わさってロッド227に伝達され、操作入力部202で操作反力となる。
【0059】
図5(a)〜(d)が示す操作入力装置は、いずれのものも電動機とパッシブ反力手段の両方を合わせたペダル反力を生成することができる。パッシブ反力手段によって生成される反力(パッシブ反力)は、パッシブ反力手段の機械的特性によって定まり、電気的に制御することができないが、電気的に制御できる電動機による操作反力(電動機反力)が加えられるか減じられることにより、全体の操作反力を適宜、発生させることができる。
【0060】
図6は、操作入力装置の操作位置と操作反力の関係を示す一例である。231はパッシブ反力を示す。パッシブ反力は電気的な要素によって変化しないものであって、操作位置が大きくなればなるほど大きくなる。これに対し、電動機反力で変化させることのできる操作反力の幅は操作位置に関わらず一定であるので、全体の操作反力は、231を中心に電動機反力分の幅を持った領域内で制御可能となる。図6において、234は操作反力の最小値、235は操作反力の最大値とすると、232は電動機反力を制御することによって実現した任意の操作反力を示す。操作反力が232であった時、矢印233は、制御された電動機反力を示している。操作反力がパッシブ反力より大きい時は電動機反力が正であり、操作反力がパッシブ反力より小さい時には電動機反力は負である。
【0061】
一般的に、操作入力装置の操作反力には好適な特性の幅がある程度決まっており、操作反力の全てを電動機反力で賄うより、パッシブ反力を利用して、図6の最小値234から最大値235の間で電動機反力を可変にして所望の操作反力を実現することにより、電動機の容量・サイズの小型化と消費電力の抑制が可能となる。
【0062】
パッシブ反力手段を備えた操作入力装置の場合、制御装置102が制御する電動機のq軸電流は、次の数式3により与えられる。
(数式3)q軸電流=K1×(目標の操作反力−操作力+パッシブ反力+メカ機構による抵抗力)+加減速に使われる電流
【0063】
図7は車両出力装置の一例である電動キャリパ装置の模式図である。図7では、キャリパ出力部292と制御装置291が一体となった一例を示すが、キャリパ出力部292が車両の外側、制御装置291は車両の内側に設置される場合等、キャリパ出力部292と制御装置291は別体としてもよい。キャリパ出力部292は、ブレーキロータ294にパッド301を押し付けた際のロータとパットの間に発生する摩擦力により車両の制動力と減速度を発生させる。キャリパ出力部292は、電動機311を備えている。ピストン302は、電動機311の回転やトルクによって押し付け方向に移動したり離間方向に移動したり、推力を大きくしたり、推力を小さくしたりすることができる。
【0064】
電動機311の回転やトルクは、減速機304によって減速され、回転直動変換機構303によって直動方向の運動や力に変換される。ここで、電動機311の回転とピストン302の移動量の関係は、減速機304と回転直動変換機構303により一意に決定される一対一の関係にある。また、電動機311のトルクとピストン302の推力の関係は、減速機304と回転直動変換機構303によって決定され、摩擦等のロス、温度変化、ヒステリシス等を考慮しない理想的な状態であれば一対一の関係にある。電動機311とピストン302の定量的な関係は、電動機311、減速機304、回転直動変換機構303の設計により異なるものとなり、車両電源系統の電圧や電力容量、車両重量、重量配分、更に対象とする運転者等に応じて、様々に決定されるものである。ここで、推力とは、ピストン302がパッドをロータに押し付ける力であり、押付力や押圧力と同じ力である。さらに、ピストン302からパッド301に推力を発生している場合には、パッド301からピストン302に推力と同じ大きさの反力が発生する。
【0065】
電動機311は、制御装置291によって電気的に制御可能である。ここで、電動機311は、三相電流によって駆動する電動機であるが、同期電動機であってもよいし、誘導電動機であってもよいし、DCブラシレス電動機であってもよい。電動機311が同期電動機またはDCブラシレス電動機である場合、電動機311は、ステータ312とロータ313で構成される。電動機ロータ313には磁性体が埋め込まれるか、表面に磁性体が貼り付けてあり、ステータ312で発生させた磁界により回転する。ステータ312は磁界を発生させるためのコイルであり、インバータ回路321で整流された三相電流により回転磁界を発生する。そのためステータ312とインバータ回路321の電力経路315は、三本の電力経路で結ばれる。
【0066】
制御装置291は制御手段322を備えており、制御手段322はインバータ回路321の制御やPKB(パーキングブレーキ)機構305の制御を行う。PKB機構305は、電動機311への電力供給がなくなった場合でもピストン302が発生する推力を保持しつづけることができる機構である。インバータ回路321は、6ないし6の倍数のスイッチング素子によって、電源経路296から供給される直流電流を、電動機311を駆動するための三相電流に変換する。
【0067】
電動機311には、電動機回転センサ314が備えられている。電動機回転センサ314は、電動機ロータ313の回転角度を検出することができる。電動機回転センサ214は、例えば、レゾルバであったり、磁気もしくは光学によるエンコーダであったり、ホール素子であったりしてもよい。また、例えば、電動機回転センサ314がレゾルバである場合、制御手段322は、回転センサI/F(インターフェランス)として、レゾルバ素子における磁気変化による電気信号をデジタル信号に変換するためのR/D変換回路を備えていてもよい。
【0068】
温度検出手段316は、キャリパ出力部292または電動機311の温度を検出する。温度検出手段316は、例えば熱電対であってもよいし、サーミスタであってもよい。推力検出手段317は、ピストン302で発生している推力を検出する。推力検出手段317には、例えば歪ゲージなどが用いられてもよいし、予め弾性係数がわかっている部材と、その歪量から推力を計測するセンサであってもよい。
【0069】
制御装置291は、通信経路295から伝達された情報に基づいて、電動機を制御することによってピストン302に推力を発生させる。ここで、通信経路295から伝達される情報は、ピストン推力であってもよいし、車両減速度であってもよいし、また、情報単位に従来の油圧ブレーキのブレーキ液圧に相当する物理単位を用いてもよいし、ペダル装置の場合では、ペダル位置、ペダル速度または踏力であってもよい。通信経路295から伝達された情報は、制御手段322によって、ピストン速度、ピストン位置、推力または電動キャリパ装置が制御目標とする状態量に変換される。ここで、電動キャリパ装置が発生する推力は、ピストン位置がパッドをロータに押し付ける方向に進む程、より大きくなる。図8は、電動キャリパ装置における推力とピストン位置の関係の一例を示す。
【0070】
制御装置291は、電動キャリパ装置に推力を発生させるためのトルクを電動機に発生させるために、電動機に流れる電流を制御する。ここで、制御装置291が制御する電動機のq軸電流は、次の数式4で与えられる。
(数式4)q軸電流=K2×(目標の推力+メカ機構による抵抗力)+加減速に使われる電流
【0071】
ここで、K2は、電動機のトルク定数や電動キャリパ装置の減速比によって決まる比例定数である。メカ機構による抵抗力は、電動キャリパ装置各部の摺動する面の摩擦や減速機の効率等に依存するものであり、電動キャリパ装置の変形による反力、電動キャリパ装置にバネ要素による機構が取り付けられている場合には、その反力も含むものである。
【0072】
電動機が発生することができるトルクまたは電動機に流すことのできるq軸電流の範囲は、電動機の回転速度によって変化する。図9は、電動機の回転速度によって変化するトルクまたはq軸電流の範囲の特性を示す一例である。図9における330は、電動機が発生することができるトルクまたは電動機に流すことのできるq軸電流の最大値を示し、同じく331は、電動機が発生することができるトルクまたは電動機に流すことのできるq軸電流の最小値を示す。
【0073】
334と335は、無負荷回転速度を示す。無負荷回転速度とは、電動機が無負荷状態、すなわち外力が0であって摩擦等のロストルクも0である場合において、電動機が回転できる最も速い回転速度を意味する。一般的に電動機には負荷や摩擦などのロストルクがあるので、電動機が回転することができる最大回転速度は、無負荷回転速度よりも遅くなって、例えば336または337で示される回転速度となる。
【0074】
電動機に流れる三相電流は、電動機の回転角度に対して異なる位相を持つ交流電流であり、電動機の電気角または電動機が備える磁極一組辺りの角度に対して、位相が120度異なる三相の交流電流である。また、電動機に流れる三相電流は、正弦波であってもよい。三相電流の各相をそれぞれU相、V相、W相とし、各相に流れる電流を、Iu、Iv、Iwとする。また、電動機の電気角または電動機が備える磁極一組辺りの角度または位相をθとした場合、次の数式5と数式6により、d軸電流Idおよびq軸電流Iqが定義される。
(数式5)Id=Ad×(Iu×cosθ+Iv×cos(θ−2π/3)+Iw×cos(θ+2π/3))
(数式6)Iq=Aq×(−Iu×sinθ−Iv×sin(θ−2π/3)−Iw×sin(θ+2π/3))
【0075】
ここで、AdおよびAqは一般的には√(2/3)となる比例定数である。数式6で求めたq軸電流は電動機のトルクに比例するので、電動機のトルクを制御するために、制御手段は、三相電流を制御してq軸電流を制御する。
【0076】
数式5で求めたd軸電流は、電動機のトルクとは相関がない。d軸電流が正に流れた場合、電動機のトルク定数または誘起電圧定数が見かけ上、大きくなる。また、d軸電流が負に流れた場合、電動機のトルク定数または誘起電圧定数が見かけ上、小さくなる。したがって、d軸電流が正に流れた場合、電動機の無負荷回転速度が小さくなり、d軸電流が負に流れた場合、電動機の無負荷回転速度が大きくなる。d軸電流を負に流した場合、例えば、図9において330が338に変化し、331が339に変化する。その結果無負荷回転数334が340に速くなり、335が341に速くなる。
【0077】
図10は、本発明に係る車載用アクチュエータシステムが備える制御装置の一例を示す。制御装置521は、制御手段550とインバータ回路547を備えている。インバータ回路547は、少なくとも6個のスイッチング素子532〜537を備え、それぞれのスイッチング素子毎にフライホイールダイオード538〜543を有する。スイッチング素子とフライホイールダイオードは二重に備えられていてもよい。スイッチング素子を多重に備えている場合、インバータ回路の備えるスイッチング素子の数は6の倍数となる。インバータ回路は、車両電源系統146から電力供給を受けて、三相電流を生成して電動機552を駆動する。
【0078】
スイッチング素子は、パワートランジスタ、MOSFET、IGBT等でよい。一般的に、電動機の定格容量が数百W以下であればMOSFETを、数kW以上であればIGBTが用いられる。また、インバータ回路547は、電流センサ544〜546を有して、電動機552に流れる電流を検出する。電流センサ546はなくてもよい。電流センサは、ホール素子、カレントトランスまたはシャント抵抗により実現されていてもよい。
【0079】
制御手段550は、回転センサ548によって電動機の回転角度と回転速度を検出する。また、制御手段550は、車両通信系統146を介して必要な情報の伝達を行う。さらに、制御手段550は、情報検出手段551を備えており、情報検出手段551により踏力や推力を検出できてもよい。制御手段550は、電流センサによって検出した電流値、情報検出手段によって検出した情報に基づいて、電動機に流れる電流を制御する。インタフェースIC531は、制御手段550の出力した電気信号を、スイッチング素子駆動用の信号に変換する。制御手段550は、スイッチング素子を駆動するためにパルス幅変調方式のパルス信号を出力する。電動機552にかかる電圧は、車両電源系統145の電圧と制御手段550から出力されるパルス信号のデューティ比によって決定される。
【0080】
図10に示された実施例では、上アーム素子(532、533、534)のいずれかの素子がONとなり、下アーム素子(535、536、537)のいずれかの素子がONとなると、電力供給源である車両電源系統145から電流が上アーム素子のうちでONとなったアーム素子を通過して電動機552に流れ、更に電動機を通った電流は、下アーム素子のうちでONとなったアーム素子を通過して、アースGNDへと流れる。そのため、制御手段550は、上アーム素子と下アーム素子のON(駆動)タイミングを好適に制御することにより、電動機に流れる電流を制御して、電動機に必要なトルクを発生させることができる。ここで、制御手段550は、回転センサ548から検出した電動機の電気角と、電流センサ544〜546によって検出した三相の電流を用いて、例えばベクトル制御によって三相電流を制御してもよい。
【0081】
図11は、制御手段550の一例を示すブロック図である。図11において、三相二軸変換602は、数式5および6により、d軸電流およびq軸電流を算出する。601は、電動機で発生させたい目標のトルク指令をq軸電流指令Iqcに変換する。q軸電流とトルクは比例関係にあるので、Ktは比例定数である。PI制御603は、d軸電流指令Idcとd軸電流Idの偏差について、次の数式7によるPI制御を行い、d軸電圧Vdを計算する。
(数式7)Vd=Kp×(Idc−Id)+Ki×∫(Idc−Id)dt
【0082】
PI制御604は、q軸電流指令Iqcとq軸電流Iqの偏差に、次の数式8によるPI制御を行い、q軸電圧Vqを計算する。
(数式8)Vq=Kp×(Iqc−Iq)+Ki×∫(Iqc−Iq)dt
ここで、Kp、Kiは制御ゲインである。Kp、Kiは、数式7と数式8で異なる値を用いてもよい。
【0083】
二軸三相変換605は、次の数式9、10、11によって、d軸電圧Vdとq軸電圧Vqから、各相の電圧Vu、Vv、Vwを計算する。
(数式9)Vu=Au×(Vd×cosθ−Vq×sinθ)
(数式10)Vv=Av×(Vd×cos(θ−2π/3)−Vq×sin(θ−2π/3))
(数式11)Vw=Aw×(Vd×cos(θ+2π/3)−Vq×sin(θ+2π/3))
【0084】
ここで、Au、Av、Awは、一般的には√(2/3)となる比例定数である。PWN変調606、607、608は、各相の電圧を、パルス幅変調してそれぞれの上または下アームのパルス信号に変換する。
【0085】
図11に示された制御方式により、d軸電流およびq軸電流を指令通りに制御すると共に、各相の電流Iu、Iv、Iwを、電動機を駆動するための三相電流として制御することができる。
【0086】
以上、電動機にトルクを発生させる場合について説明したが、本発明に係る、車載用アクチュエータシステムでは、外力により電動機が回転させられることがある。例えば、車載用アクチュエータシステムの電動機には、例えば踏力や操舵力のように人力による外力がかかる場合がある。また、車載用アクチュエータシステムが複数の電動機を備えている場合、一つの電動機は他の電動機から力またはトルクを外力として受ける。また、車載用アクチュエータシステムが、弾性体や油圧による機構を備えている場合、電動機は、この機構から外力を受ける。例えば、操作入力装置では、電動機がパッシブ反力機構から外力を受けて回される場合がある。また、例えば、車両出力装置では、パッド反力が外力となってピストンが押し戻され、電動機が外部から回される場合がある。
【0087】
電動機は、外部から回されると発電または回生がおこり、電力を生み出す場合がある。また、回転速度を減速させるようなトルクを発生した場合、電動機が電力を生み出す場合がある。発電または回生による電力は、回転速度が大きい程より大きくなり、また、電動機で発生したトルクが大きい程より大きくなる。
【0088】
回生は、図9において、第2象限および第4象限でおこる。したがって、トルクまたは電流に対して反対方向に回転している場合に回生が起こる。ただし、電動機やインバータ回路における損失があるため、図9における第2、第4象限にあっても、回転速度、トルクまたは電流が小さい場合には回生が起こらない場合がある。ここで、電動機やインバータ回路における損失には、例えば抵抗による損失、スイッチング損失またはダイオードによる損失等が含まれる。
【0089】
一般的な用法に従うと、「発電」とは、電動機が無負荷回転速度以上に回された時に電動機が電力を生み出すことを意味し、「回生」とは、電動機が無負荷回転速度以下の回転速度で回転されて電力を生み出すことを意味するが、本発明においては、電動機の「発電」には、「回生」を含めて意味するものとし、特に説明のない限り、電動機が電力を生み出す場合には、その回転速度に関わらず「発電」という。
【0090】
図10において、電動機が発電した場合、電動機は電力の供給源となり、車両電源系統145に電力を供給する。電動機が車両電源系統に電力を供給する場合、蓄電手段に電動機が発電した電力を蓄電するだけの余裕があれば、車両電源系統は電動機から電力の供給を受けることが可能である。しかし、車両が走行している場合、蓄電手段には発電手段から常に電力が供給されているため、必ずしも電力を蓄電する余裕があるとは限らない。蓄電手段に蓄電する余裕がない場合には、発電された電流の行き場がなくなってしまう場合が起り得る。
【0091】
また、他の電源系統からの電力を昇圧または降圧してインバータ回路に供給することはできるが、インバータ回路からの電力を他の電源系統へ供給できない電源系統となっている場合でも、発電された電流の行き場がなくなってしまう場合が起り得る。
【0092】
例えば、車両電源系統に蓄電手段が直接接続されておらず、蓄電手段からの電力をDC−DCコンバータ等の変圧手段によって車両電源系統の電力として変換するものであって、変圧手段が車両電源系統から蓄電手段への電力供給ができないものである場合、発電された電流の行き場がなくなってしまうことが起り得る。
【0093】
また、例えばハイブリッド自動車のような数百V以上の電圧を持つ発電手段や蓄電手段を備える車両において、車載用アクチュエータがより低い電圧で動作するような場合、インバータ回路につながる車両電源系統は、発電手段や蓄電手段からの電力の電圧を変圧手段によって降圧した電源系統となり、インバータ回路につながる車両電源系統から蓄電手段への電力供給ができない場合、発電された電流の行き場がなくなってしまうことが起り得る。
【0094】
また、車載用アクチュエータが車両の備える発電手段や蓄電手段よりも高い電圧で動作する場合、インバータ回路につながる車両電源系統は、発電手段や蓄電手段からによる電力の電圧を変圧手段によって昇圧した電源系統となり、インバータ回路につながる車両電源系統から蓄電手段への電力供給ができない場合、発電された電流の行き場がなくなってしまうことが起り得る。
【0095】
また、車両電源系統とインバータ回路の間に半導体があり、車両電源系統からインバータ回路には電力が供給できても、インバータ回路から車両電源系統へは電力が供給できない場合でも、発電された電流の行き場がなくなってしまう場合が起り得る。
【0096】
例えばインバータ回路には、キャパシタが備えられていてもよい。インバータ回路にキャパシタ備えられている場合、車両電源系統が地絡すると、インバータ回路のキャパシタから大きな電流が流れ出して電流経路を焼損する可能性がある。そのため、インバータ回路にキャパシタ備えられている場合、車両電源系統とインバータ回路の間にダイオードを挿入し、インバータ回路から車両電源系統へ電流が流れないような構成にすることがあり得る。
【0097】
以上に例示した場合では、電動機が発電しても車両電源系統に十分電流が流れないので、車載用アクチュエータシステムの状態に関わらず、車載用アクチュエータシステムの電動機は電力を正常に発電できなくなってしまう。また、電力は、電圧と電流の積であるため、車両電源系統、電動機またはインバータ回路の電圧が異常に高くなる可能性があり、制御装置、電動機または車両電源系統に接続されている他のコントローラや電気装置に悪影響を及ぼしたり、故障させてしまったりする可能性がある。
【0098】
また、電動機が発電しても車両電源系統に十分電流が流れない場合には、発電量が制限されてしまう。発電量は、電動機のトルクまたは電流と回転速度の積の大きさにともなって大きくなる。電動機が外部から回されている場合、回転速度は外力に依存するので、発電量が制限されると電動機のトルクまたは電流が制限される。そのため、車載用アクチュエータとして必要なトルクまたは電流の制御ができなくなってしまう可能性がある。
【0099】
また、回転方向に対してトルクまたは電流の向きが逆であるような場合において、無負荷回転速度よりも速い速度で電動機が回された場合、図9に示す通り、330以上または331以下の低トルクを発生させたり、少電流を流したりすることができなくなり、車載用アクチュエータとして必要なトルクまたは電流の制御ができなくなってしまう可能性がある。
【0100】
そこで、制御手段は、電動機の回転速度、回転方向、トルク、q軸電流に関わらず、常に電動機が車両電源系統から電力を供給されるか、少なくとも車両電源系統へ電力を供給しないように電動機またはインバータ回路を制御すること、すなわち、制御手段は、電動機が常に電力の発電または電力の回生をしないように電動機またはインバータ回路を制御するようにしてもよい。また、例えば、電動機における電力を計算し、電動機が電力を常に消費するか少なくとも消費量が負にならないように制御してもよい。
【0101】
ここで、制御手段が車両電源系統に電力を供給しないか、あるいは電力を発電しないようにする制御を行うのは、電動機が発生しているトルクまたは力の方向と電動機が回転している回転方向が反対の場合であってもよいし、電動機が外力によって外力と同じ方向に回されており、電動機が外力に逆らうように力またはトルクを発生している場合であってもよいし、電動機の回転速度が減じる方向にトルクまたは力を発生させている場合であってもよい。
【0102】
図12は、車両電源系統に電力を供給しないか、または電力を発電しないようにする制御を行うかどうかの判断用の制御手段のテーブルの一例であり、電動機で発生するトルクまたは電動機に流れるq軸電流を縦軸に、電動機の回転速度を横軸にしたものである。
【0103】
図12において、回転速度に対するトルクまたはq軸電流の関係は、閾値401よりも上側または閾値402よりも下側の斜線部内にある場合、制御手段は、電動機が電力を発電すると判断して、発電しないように制御を行う。
【0104】
閾値401と402は、回転速度405と406において無限大または負の無限大のトルクまたはq軸電流となる。回転速度405と406より小さい回転速度では、発生した電力は、制御装置またはインバータ回路による電気的なロスとなる。かかるロスは、具体的には、ダイオードやスイッチング素子のドロップやスイッチング損失、上下アーム素子が電動機を介さず短絡するのを防ぐためのデットタイム等の制御上の制約に基づくものである。また、回転速度は、減速機の減速比などによっても変化するので、この閾値は、装置全体の最適化を考慮して設計されるべき値である。また、破線403と404は、数式2、数式3、数式4における「メカ機構による抵抗力」に相当するものであり、閾値401と402の上限または下限を与えるものとなる。
【0105】
図12のようなテーブルを作成するためには、電動機やインバータ回路のパラメータを正確に取得する必要がある。しかし、d軸電流はトルクとは相関がないため、電力の余剰消費を許容するならば、図12の401より下側または402より上側の領域でd軸電流が流れてしまってもよい。そのためトルクと回転速度の積またはq軸電流と回転速度の積が負で、予め定められた積の閾値よりも負方向に大きい場合、制御手段は、車両電源系統に電力を供給しないか、または電力を発電しないようにする制御を行うようにしてもよい。
【0106】
また、車載用アクチュエータシステムがペダル装置の場合、電動機の発生するトルクはペダル反力として作用し、電動機の回転速度はペダル速度と等価である。そのため、制御手段が車両電源系統に電力を供給しないようにするか、電力を発電しないようにする制御を行うかどうかについて、ペダル反力とペダル速度によって判断してもよい。すなわち、ペダル反力とペダル速度の積が負で、あらかじめ定められた閾値よりも負方向に大きい場合、制御手段は、車両電源系統に電力を供給しないか、または電力を発電しないようにする制御を行ってもよい。
【0107】
常に車両電源系統から電力を供給されるようにしたり、常に電力の発電も電力の回生もしないようにしたり、常に電動機が電力を消費するようにしたりするためには、制御手段は、電動機にd軸電流を流すことにより電力を消費し、電動機が発電しないようにして、車両電源系統に電力を供給しないように電動機またはインバータ回路を制御する。d軸電流はトルクと相関がないので、d軸電流を流すことにより、電動機のトルクやq軸電流の制御に影響を与えずに、電力を消費したり、電動機が発電しないようにしたりして、車両電源系統に電力を供給しないようにすることで、車載用アクチュエータシステムとしての機能や動作は影響を与えることを避けることができる。
【0108】
ここで、制御手段が発電量を相殺するためにd軸に流す電流は、例えば次の数式12で計算してもよい。
(数12)Id=±√(Iq×Iq+T×ω/R+Welse/R)
【0109】
ここで、Rは電動機の相抵抗であり、電動機の巻き線抵抗に場合によっては、インバータ回路におけるスイッチング素子や、インバータ回路と電動機間のハーネス抵抗が含まれる抵抗値である。Tは電動機が出力するトルク、ωは電動機の回転速度である。また、Welseは、その他の電力で、インバータのスイッチング損失や車両電源系統とインバータの間の抵抗による熱損失、電動機の鉄損等が含まれる。
【0110】
d軸電流は、電力を消費するためであれば正負どちらでもよいが、負の値にするのが一般的である。また、電動機がトルクと反対向きに無負荷回転数以上で回された場合、低トルクをかけたり、小q軸電流を流したりすることができなくなるが、d軸電流を負に流すと、無負荷回転数が速くなる。そのため、d軸電流を負に流すことによって、必要なトルクまたはq軸電流の制御をできるようにすることが望ましい。
【0111】
また、数式12における各パラメータは、バラツキや温度変化による影響があるため、正確な値を求めることが難しい。また、除積演算や平方根演算が含まれるため、計算負荷が大きい。そのため、例えば制御手段はトルクまたはq軸電流を一つの軸にして、回転速度を他の軸にした二次元テーブルを備えて、このテーブルから必要なIdを求めるようにしてもよい。また、制御手段は、数式12を用いる場合では、d軸電流を流さなければ電動機が発電する場合におけるd軸電流量を、数式12よりも予め定められた電流分多くすることによって、パラメータのばらつきや温度変化によらず、電動機が発電しないようする制御としてもよい。d軸電流を、数式12で得られた電流よりも多く流した場合、電動機は車両電源系統から供給される電力を消費する。そのため、d軸電流を流しすぎると、本来、不要なエネルギー損失になったり、余分な発熱原因になったりする。数式12が与える電流値よりどのくらい大きくd軸電流を流すのが好ましいかは、パラメータの変動幅やどの程度余剰にd軸電流を流すことが許容できるかによるので、各システムにより異なるものとなる。
【0112】
図13は、本発明による車載用アクチュエータシステムの動作の一例を示した電流波形図である。図13において、Iu、Iv、Iwは、電動機に流れる三相電流を示す。ここで、例えば電動機内の磁石のS極とN極の組が4組で構成された電動機を用いており、電動機の出力軸の回転角度が782で示す範囲で一周(360度)であるとすると、781は電動機の電気角360度に相当する。三相電流は、電動機が備える磁極一組辺りの角度に対して正弦波である場合、d軸電流が流れていないときは、三相電流が751、752、753が示すようになる。ここで、d軸電流を正に大きくした場合、三相電流の位相が遅れ、761、762、763のようになる。また、d軸電流を負に大きくした場合、三相電流の位相が進み、771、772、773のようになる。d軸電流を正に流した場合には、d軸電流を0にした場合と比べて、三相電流は最大で電気角−90度まで遅れ、d軸電流を負に流した場合には、d軸電流を0にした場合と比べて、三相電流は最大で電気角+90度まで進む。
【0113】
三相電流の実効値を三相電流の振幅の1/√2と定義する。一般的に電動機が消費する電力は、三相電流の実効値の二乗に比例する。また、トルクになる電流はq軸電流であり、q軸電流の大きさは、三相電流の振幅で表される。すなわち、d軸電流が0の場合、トルクになる電流は三相電流の実効値に比例する。電動機にd軸電流を流した場合、図13に示されているように、三相電流の実効値が大きくなる。
【0114】
そこで、制御手段は、常に車両電源系統から電力を供給されるようにしたり、常に電力の発電や回生をしないようにしたり、常に電力を消費するようにしたりするために、三相電流の実効値を大きくして電動機が消費する電力を大きくするとともに、三相電流の位相を進めるかまたは遅らせることにより、三相電流の実効値に対するトルクの割合を小さくし、目標のトルクを発生するように制御しながら電動機が発電しないように制御してもよい。
【0115】
車載用アクチュエータシステムがペダル装置である場合、電動機が発生するトルクはペダル反力として作用し、電動機の回転速度はペダル速度と等価である。図14に電動機が電力を発電する場合の一例を示す。図14は、ペダル反力、ペダル速度、トルク、q軸電流、d軸電流、発電電流または車両電源系統への供給電流の関係について横軸を時間として示した一例である。図14の実線701は、ペダル反力の変化を示す。破線702は、パッシブ反力またはペダル装置の機構が持つ反力や摩擦力を示す。ペダル反力はペダル位置に従って増減するため、ペダル速度はペダル反力の傾きと似た変化をする。すなわち、ペダル反力の傾きの大きいところがペダル速度の大きいところである。ペダル反力の傾きが正であればペダル速度も正であり、ペダル反力の傾きが負であればペダル速度も負である。
【0116】
図14では、ペダル速度は703で示される。また、電動機がペダル装置として外部に伝達するトルクは、ペダル反力とパッシブ反力との差またはペダル反力とペダル装置の機構が持つ反力や摩擦力との差である。また、ペダルに与えられる外力に対して反力を出さなければならないので、ペダル反力が正に増える時に、トルクが負に増える方向にトルクが必要である。図14では、トルクは704で示される。q軸電流はトルクに比例する成分と、電動機の加減速度に比例する成分の和になる。したがって、ペダル速度の傾きが大きい時はq軸電流が大きくなる。図14では、q軸電流は705で示される。
【0117】
ここで、本発明による制御を行わない場合のd軸電流が破線707で示されるとすると、電動機の発電電流または車両電源系統への供給電流は、破線709で示される。ここで、ペダル反力701が702より大きく、かつ、ペダル反力701が増加している場合、電動機の発電電流(または車両電源系統への供給電流)が発生する。また、ペダル反力701が702より小さく、かつ、ペダル反力701が減少し、かつ、ペダル速度が小さい場合、電動機の発電電流(または車両電源系統への供給電流)が発生する。また、ペダル速度が減少する場合に、電動機の発電電流(あるいは車両電源系統への供給電流)が発生する。
【0118】
ここで、本発明による制御を行なうと、d軸電流を実線706のように流すので、電動機の発電電流(あるいは車両電源系統への供給電流)は実線708のようになる。すなわち、本発明による制御を行うと、電動機の発電電流(または車両電源系統への供給電流)を発生させずに、ペダル反力を制御することができる。
【0119】
車載用アクチュエータシステムが電動キャリパ装置の場合、電動機の発生するトルクは推力として作用し、電動機の回転速度はピストン速度と等価である。電動キャリパ装置の場合、例えば図15に示す動作をすると電力を発電する。図15は、横軸を時間として、推力が出ている状態から推力を減少させる際の推力、ピストン速度、トルク、q軸電流、d軸電流および発電電流(または車両電源系統への供給電流)の関係について示した一例である。
【0120】
図15において、破線で示した推力721、ピストン速度722、トルク723、q軸電流724、d軸電流725、発電電流726は、制御手段が電動機を制御せず、電動機に電流が流れなかった場合を示している。
【0121】
破線で示した推力721となるようにアクチュエータを制御する場合において、本発明の制御手段を適用しないと、電動キャリパ装置のピストンがパッド反力によって押し返されて推力が急激に減少する。そして、ここでは、d軸電流は0であるから、発電電流(電源電流)が746のようになり、電動機は発電したり車両電源系統へ電力を供給したりするという問題が発生する。
【0122】
これに対し、本発明の制御手段を適用し、アクチュエータシステムの出力が、例えば731で示すように減少するように電動機を制御すると、ピストン速度732、トルク733、q軸電流734は、それぞれ実線で示すような動作となり、q軸電流の発生により前記の発電電流を相殺して、発電電流(電源電流)は736で示すようになる。
【0123】
図15において、制御手段が制御を行わなかった場合の推力721よりも、制御手段が制御を行った場合の推力731が、よりゆっくりとした速度で推力を少なくするので、電動機の回転方向と電動機のトルクの方向は逆になる。
【0124】
区間740において、電動機が発電を行うと判断された場合、本発明によるアクチュエータシステムは、735で示すようにd軸電流を流すので、発電電流は736で示すようになり、電動機は発電を行わず、車両電源系統へ電力を供給しないのである。
【0125】
以上のように、本発明によれば、電動機がトルクの向きと反対方向に回される場合や、電動機が無負荷回転数以上に回される場合でも、電動機が発電しないようにする。そのため、車両電源系統の構成によらない車載用アクチュエータシステムを実現することが可能となる。
【0126】
[実施例2]
図16は、実施例2を示すシステムの模式図である。801は電動ブースタ装置、802は運転者が車両を運転するために操作する入力機構を備えたアクチュエータ機構である制動出力装置であり、制動出力装置であると共に操作入力装置としての機能を備えている。803は運転者が車両を運転するために操作する入力機構であり、実施例2においてはペダルであるが、システムの構成によっては、ハンドルやレバーを採用してもよい。831,841,851,861は車両に制動力を発生させるためのキャリパである。電動ブースタ装置801は、入力機構803に操作反力を発生させ、また、配管807,808には油圧を発生させる。油圧装置821は、配管807,808の油圧を配管823,824,825,826に分配する。配管823,824,825,826に発生した油圧は、それぞれ、キャリパ831,841,851,861のピストン推力となり、摩擦材をロータ832,842,852,862に押し付ける。ロータは車輪と接続しているので、ロータに摩擦材が押し付けられると、摩擦力により車両に制動力が発生する。
【0127】
電動ブースタ装置801のアクチュエータ機構802は、電動機809を備えている。また、電動ブースタ装置801は、制御装置804を備えている。制御装置804は、電動機809を制御する。電動機809は、電源系統872から電力の供給を受ける。図16に示された実施例2では、アクチュエータ機構802と制御装置804は、別体となっているが、システムの構成により、両者を一体構造としてもよい。
【0128】
電源系統872には、電源装置871が接続されており、電動ブースタ装置801に電力を供給する。電源装置871は、バッテリでもよいし、オルタネータや発電機であってもよいし、異なる電圧から電動ブースタ装置801に必要な電圧に変換するDC−DCコンバータであってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0129】
図17は、電動ブースタ装置を示す一例である。904はペダルである。運転者は、ペダル端912を踏むことによって、車両運動を操作しようとすると共に、ペダル端912からペダル反力を感じる。ペダル端には踏力を計測するセンサが備えられていてもよい。インプットロッド905は、ペダル904によって、押し込まれる。インプットロッド905には、ロッド力を計測するセンサが備えられていてもよい。931はマスタシリンダである。マスタシリンダ931は、内部がシリンダ932とシリンダ933に分かれており、内部はブレーキ液で満たされている。インプットロッド905とプライマリピストン903が押し込まれることにより、シリンダ933の油圧が高まると同時に、シリンダ932の油圧も高まり、配管807および808を介して、キャリパを動作させて制動力を発生させる。ここで、回転子922は磁性体を含んでおり、固定子921が発生する磁界によって回転したりトルクを発生したりする。回転子922の回転やトルクは、ボールねじ923を介して、プライマリピストン903に伝達され、プライマリピストンの直線運動や直動力に変換される。回転子922の回転は、回転センサ924により検出されており、回転センサ924で検出された情報は、固定子921に流す電流の制御に用いられたり、プライマリピストンの位置や速度を制御するために用いられたりする。
【0130】
図17に示された固定子921と回転子922を含むアクチュエータ901は、主として制動出力装置として制動出力を発生させるアクチュエータである。プライマリピストン903とインプットロッド905は、第1のオフセットバネ925と第2のオフセットバネ926で接続している。また、プライマリピストンとインプットロッドはマスタシリンダ931内部で、ブレーキ液を介しても接続されている。マスタシリンダからの油圧は断面積に比例した力として、プライマリピストンとインプットロッドに伝達される。したがって、インプットロッド905にかかる力が直接マスタシリンダ931に伝達され、アクチュエータ901による力が更にマスタシリンダに加わることによって、運転者の踏力とアクチュエータによる力がキャリパに伝わり、車両に制動力を発生させる。実施例2の構成において、制動出力はマスタシリンダで発生するブレーキ油圧であり、アクチュエータ901を制御することによって、ペダル端912の操作位置に応じた制動出力を電気的に制御することが可能である。
【0131】
実施例2においては、操作入力装置と制動出力装置は一体になっている。そのため、制御手段は制御装置804となる。
【0132】
電動ブースタ装置では、マスタシリンダからの油圧の反力、オフセットバネの反力および運転者による人力が、外力として電動機に加えられる。そのため、電動機は、外部から回されながら、ペダル反力と制動出力を制御する。また、電動ブースタ装置は、静的には入力機構の操作量または制動出力の大きさに基づいた力またはトルクを発生させ、動的には入力機構の変化量または制動出力の変化量に基づいた力またはトルクを発生させると共に、前記制御手段は前記電動機において所望の力またはトルクを任意の回転速度で制御する。
【0133】
したがって、電動機が電力を発電する場合に、本発明を適用することにより、実施例1と同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明によれば、内燃機関、電気自動車、ハイブリッド自動車等の各種の車両のブレーキ系統、アクセル系統等に関するものであるが、更に三相電流によって駆動される電動機を備えた装置において、かかる電動機が発電または回生するような場合の対策として、幅広い分野において、利用可能である。
【符号の説明】
【0135】
101 操作入力装置(ペダル装置)、
102 制御装置、
103 操作入力部、
104 電源経路、
105 通信経路、
111,121,131,141 電動キャリパ装置、
113 制御装置、
145 車両電源系統、
146 車両通信系統、
151 駆動装置(エンジン)、
161,162 蓄電手段、
721 本発明の制御手段が電動機を制御しない場合の推力、
722 同じくピストン速度、
723 同じくトルク、
724 同じくq軸電流、
725 同じくd軸電流、
726 同じく発電電流、
731 本発明の制御手段が電動機を制御した場合の推力、
732 同じくピストン速度、
733 同じくトルク、
734 同じくq軸電流、
735 同じくd軸電流、
736 同じく発電電流、
740 同じく発電電流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相電流によって駆動する電動機と、前記電動機を駆動するためのスイッチング素子を有するインバータ回路を備え、前記電動機及び前記インバータ回路に電力を供給する電源系統が前記インバータ回路に接続されて、前記スッチング素子の駆動を制御することにより、前記電動機に流れる電流又は前記電動機に印加される電圧を制御する制御手段を備えた車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記電動機は、操作入力装置又は車両出力装置に備えられるものであって、前記制御手段は、静的に操作入力又は車両出力の大きさに基づいた力又はトルクを発生させ、動的には操作入力の変化量又は車両出力の変化量に基づいた力又はトルクを発生させると共に、前記制御手段は、前記電動機において所望の力又はトルクを回転速度で制御すること、並びに
前記電動機が外力により外力と同じ方向に回され、かつ、前記電動機が外力に逆らうように力又はトルクを発生する場合に、前記制御手段は、前記電動機に流れる三相電流の位相を進めるか若しくは遅らせるように制御するか、又は前記電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、又は前記電動機に流れるd軸電流を流すこと、並びに
前記操作入力手段がペダルであり、該ペダルの踏み込み速度とペダル反力の積が負であって予め定められた閾値よりも負の方向に大きい場合に、前記制御手段は前記電動機に流れる三相電流の位相を進めるか若しくは遅らせるように制御するか、又は前記電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、又は前記電動機にd軸電流を流すこと、
を特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項2】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記電源系統は、他の電源系統からの電力を昇圧又は降圧して、前記インバータ回路に供給できるが、前記インバータ回路からの電力を前記他の電源系統へ供給できない電源系統となっていることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項3】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記電動機は、操作入力装置又は車両出力装置に備えられるものであって、前記電動機がシステムを構成する部材又は人力又は他のアクチュエータシステムから外力を受け、前記インバータ回路による制御が行われない場合に、前記電動機が外力により回される構成となっていること特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項4】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記電動機のトルクと回転速度の積が負であって、予め定められた所定の閾値よりも負の方向に大きい場合に、前記制御手段は、前記電動機に流れる三相電流の位相を進めるか若しくは遅らせるように制御するか、又は前記電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、又は前記電動機にd軸電流を流すことを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項5】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記電動機に流れるq軸電流と回転速度の積が、負であって予め定められた閾値よりも負の方向に大きい場合に、前記制御手段は、前記電動機に流れる三相電流の位相を進めるか若しくは遅らせるように制御するか、又は前記電動機に流れる三相電流の実効値に対する発生トルクの割合が小さくなるように制御するか、又は前記電動機にd軸電流を流すことを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項6】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記ペダルは、ブレーキペダル又はアクセルペダルであり、前記電動機が主としてペダル反力を発生させることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項7】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記車載用アクチュエータシステムが電動キャリパ装置であって、前記電動機が主として制動力を発生させることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。
【請求項8】
請求項1に記載された車載用アクチュエータシステムにおいて、
前記車載用アクチュエータシステムが電動ブースタ装置であって、前記電動機が主として制動力を発生させることを特徴とする車載用アクチュエータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−41470(P2011−41470A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242290(P2010−242290)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【分割の表示】特願2007−196363(P2007−196363)の分割
【原出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】