説明

車輪用軸受装置

【課題】 ハウジングの内周に嵌合する転がり軸受を止め輪により抜け止めした車輪用軸受装置において、前記止め輪の形状を工夫することで、比較的小さな押し込み圧力で、ハウジングおよび止め輪を傷付けることなく、ハウジングの止め輪溝に止め輪を嵌め込むことができるようにする。
【解決手段】 車輪用軸受装置1は、転がり軸受2と、この転がり軸受の外輪4が内周に嵌合した環状のハウジング7とを備える。外輪4は、一端面がハウジング7の段差部11bに当接し、他端面が止め輪14に当接することで抜け止めされる。止め輪14は、径方向に弾性的に拡縮自在であり、ハウジング7の内周に収縮状態で挿入され、止め輪溝14の位置まで押し込まれて弾性復元力で拡張する。止め輪14の一端側の端面14bの断面形状は、少なくとも外径部が、外径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラック、バス等の大型車両用のアクスルユニットとして使用される車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大型車両用のアクスルユニットとして、例えば特許文献1に開示された構造のものが知られている。図7に示すように、このアクスルユニットは、ユニット化された複列の転がり軸受2と、この転がり軸受2の外輪4が内周に嵌合する環状のハウジング7とを備え、ハウジング7の一端に、ボルト31により車輪のホイール取付け用のハブ32およびブレーキロータ33を取付けたものである。ホイールはハブ32に取付けられる。
【0003】
この種のアクスルユニットでは、通常、転がり軸受2の外輪4がハウジング7の内周に圧入により嵌合させてある。その場合、アクスルユニットに高荷重が負荷されたときに、外輪4がクリープして軸方向に抜けるのを防止するために、外輪4の軸方向の移動を規制する止め輪14がハウジング7に取付けられる。図7の例では、外輪4の一端面をハウジング7の段差面11bに当接させ、かつ他端面を止め輪14に当接させることで、外輪4が抜け止めされている。止め輪14は、ハウジング7の内周に形成された環状の止め輪溝13に嵌め込まれている。
【特許文献1】特開2003−312205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記止め輪14は、例えば円周方向の一箇所が分断された円環状で、径方向に拡縮可能な弾性を有する。この弾性を利用して、収縮させた状態の止め輪14をハウジング7の内周に挿入し、止め輪14をそのままハウジング7の内周に沿って止め輪溝13の側へ押し込んで、止め輪溝13に嵌め込む。止め輪14が止め輪溝13に嵌め込まれた状態では、止め輪14は弾性により拡張した状態に保たれるため、止め輪溝13から外れない。
【0005】
上記の方法で止め輪14を止め輪溝13に嵌め込む場合、止め輪14の押し込み時に、ハウジング7の内周に止め輪14の外周が引っ掛かりやすく、止め輪14の押し込みに大きな力を要する。また、無理に止め輪14を押し込むと、ハウジング7および止め輪14が傷付くおそれがある。
【0006】
この発明の目的は、ハウジングの内周に嵌合する転がり軸受を止め輪により抜け止めした車輪用軸受装置において、前記止め輪の形状を工夫することで、比較的小さな押し込み力で、ハウジングおよび止め輪を傷付けることなく、ハウジングの止め輪溝に止め輪を嵌め込むことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる車輪用軸受装置は、転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備え、前記ハウジングは、内周の一端側に内径側へ突出した段差部を有し、かつ他端側に環状の止め輪溝を有し、この止め輪溝には、径方向に弾性的に拡縮自在な止め輪が拡張状態で嵌め込まれ、前記外輪は、一端面が前記段差部に当接し、他端面が前記止め輪に当接することで抜け止めされた車輪用軸受装置であって、前記止め輪は、前記他端側から前記ハウジングの内周に収縮状態で挿入し、前記止め輪溝の位置まで押し込んで弾性復元力で拡張させたものであり、この止め輪の前記一端側の端面の断面形状は、少なくとも外径部が、外径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面であることを特徴とする。
この構成によれば、止め輪の一端側の端面の断面形状は、少なくとも外径部が、外径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面であるため、止め輪を止め輪溝に嵌め込む際に、ハウジングの内周に止め輪の外周が引っ掛からない。そのため、比較的小さな押し込み力で止め輪を押し込むことができ、かつハウジングおよび止め輪を傷付けない。
【0008】
この発明において、前記止め輪の前記一端側の端面の断面形状は、径方向幅の中間部から外径側および内径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面であってもよい。また、径方向幅の中間部から外径端までの範囲が外径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面であり、径方向幅の中間部から内径端までの範囲が軸方向を向く平面であってもよい。
前記端面における径方向幅の中間部から内径端まで断面形状については、内径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面であっても、あるいは軸方向を向く平面であってもよいが、後者である場合には、前記平面で転がり軸受を受けることになるため、転がり軸受の軸方向移動を最小限に抑えられる。
【0009】
この発明において、前記ハウジングは球状黒鉛鋳鉄製とすることができる。
球状黒鉛鋳鉄は、引張り強さ、伸び、粘り強さ(靭性)に優れ、自動車部品に多く使用されており、この発明の構成である場合にも球状黒鉛鋳鉄を好適に使用することができる。
前記ハウジングは低、中炭素鋼製としてもよい。
【0010】
前記ハウジングの外周に車輪取付用のフランジを有する構成とすることができる。
ハウジングの外周に車輪取付用のフランジを有する構成、有しない構成のいずれにも、この発明を適用できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の車輪用軸受装置は、転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備え、前記ハウジングは、内周の一端側に内径側へ突出した段差部を有し、かつ他端側に環状の止め輪溝を有し、この止め輪溝には、径方向に弾性的に拡縮自在な止め輪が拡張状態で嵌め込まれ、前記外輪は、一端面が前記段差部に当接し、他端面が前記止め輪に当接することで抜け止めされた車輪用軸受装置であって、前記止め輪は、前記他端側から前記ハウジングの内周に収縮状態で挿入し、前記止め輪溝の位置まで押し込んで弾性復元力で拡張させたものであり、この止め輪の前記一端側の端面の断面形状は、少なくとも外径部が、外径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面であるため、比較的小さな押し込み力で、ハウジングおよび止め輪を傷付けることなく、ハウジングの止め輪溝に止め輪を嵌め込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の実施形態を図1と共に説明する。この実施形態の車輪用軸受装置1は、外輪回転タイプで、例えばトラック、バス等の従動輪用アクスルユニットに適用されるものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0013】
この車輪用軸受装置1は、転がり軸受2と、この転がり軸受2の外周に嵌合するハウジング7とからなる。転がり軸受2は、外周面に軌道面3aを有する一対の内輪3と、この一対の内輪3の軌道面3aに対向する複列の軌道面4aを内周面に有する外輪4と、これら内外輪3,4間に組み込まれた複列の転動体5とを備えている。この実施形態の場合、転動体5は円すいころであって、円すいころ軸受として構成されている。転動体5である複列の円すいころは、背面組合せで配列され、各列毎に保持器6で保持されている。内輪3と外輪4間の軸受空間の両端は、シール8,9によりそれぞれ密封されている。
【0014】
ハウジング7は環状の部材であり、その内周面11は、前記外輪4が圧入される圧入面部11aと、この圧入面部11aに段差面11bを介してアウトボード側へ続き前記圧入面部11aよりも小径な内側突出部11cとからなる段付き円筒面状に形成されている。ハウジング7のアウトボード側の端面における周方向複数箇所に、車輪取付用のボルト孔12が設けられている。
【0015】
ハウジング7は鋳造により製作することができる。ハウジング7の材料としては、球状黒鉛鋳鉄、または低、中炭素鋼、またはその他の鋳鉄を用いることができる。低、中炭素鋼は、低炭素鋼または中炭素鋼のことである。球状黒鉛鋳鉄は、引張り強さ、伸び、粘り強さ(靭性)に優れる。球状黒鉛鋳鉄を用いる場合、硬さがHB130〜330であるのが好ましい。低、中炭素鋼を用いる場合、硬さがHRC13〜30であるのが好ましい。また、いずれの材料を用いる場合も、材料疲労強度が200MPa以上であるのが好ましい。
【0016】
転がり軸受2は、その外輪4をハウジング7の内周面圧入面部11aにインボード側から圧入することにより、ハウジング7に組み込まれる。組み込んだ後、ハウジング7の内周に形成された環状の止め輪溝13に止め輪14が嵌め込まれる。転がり軸受2をハウジング7に組込んだ状態では、外輪4は、そのアウトボード側の端面がハウジング7の内周面段差部11bに当接して、アウトボード側への移動が規制され、かつインボード側の端面が止め輪14に当接して抜け止めされる。
【0017】
止め輪14は、例えば円周方向の一箇所が分断された円環状で、径方向に拡縮可能な弾性を有する。止め輪14の断面形状は、インボード側の端面14aは平面で、アウトボード側の端面14bは、径方向幅の中間部では軸方向を向き、外径側および内径側へいくほどインボード側に位置し、外径端および内径端では軸方向に沿う変曲点の無い曲線、例えば円弧とされている。換言すると、アウトボード側の端面14bは、少なくとも外径部が、外径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面である。外周面および内周面に相当する面は無く、アウトボード側の端面14bとインボード側の端面14aとがそれぞれの外径端および内径端で直接繋がっている。アウトボード側の端面14bとインボード側の端面14aの接続部には、面取りを施しておくのが好ましい。
【0018】
止め輪14の嵌め込み方法を、図2と共に説明する。止め輪14の嵌め込みには、案内治具15および押圧治具16を用いる。案内治具15は環状の治具であり、一端面15aは、ハウジング7のインボード側端部の外周に嵌合可能な段差部15aaを有し、内周面15bは、前記端面15aの内周縁に続きハウジング7の内径と同径の円筒面部15baと、この円筒面部15baに続き端面15aから遠ざかるほど大径となるテーパ面部15bbを有する。押圧治具16は円柱状の治具であり、外径が、ハウジング7の内径よりも小さく、かつ拡張状態の止め輪14の内径よりも大きく形成されている。
【0019】
案内治具15を、その段差部15aaをハウジング7のインボード側の端部に嵌合させて設け、この案内治具15の内周に拡張状態の止め輪14を配置する(図2(A))。そして、押圧治具16により上記止め輪14をアウトボード側に押すと、止め輪14は、案内治具15内周のテーパ面部15bbから円筒面部15baへと移動し、それに伴い拡張状態から収縮状態へと縮径する(図2(B))。止め輪14のアウトボード側の端面が前記断面形状であるため、移動時に、ハウジング7の内周に止め輪14の外周が引っ掛からない。そのため、比較的小さな押し込み力で止め輪14を押し込むことができ、かつハウジング7および止め輪14を傷付けない。
【0020】
止め輪14を押し続けると、止め輪14は収縮状態のままハウジング7の内周に押し込まれる(図2(C))。さらに、止め輪14を押して、止め輪14が止め輪溝13の位置に達すると、止め輪14が自らの弾性で拡張して止め輪溝13に嵌り込む(図2(D))。弾性により止め輪14が拡張した状態に保たれるため、止め輪14は止め輪溝13から外れない。
【0021】
止め輪14は、図3に示す断面形状としてもよい。すなわち、この止め輪14は、アウトボード側の端面14bの断面形状が、径方向幅の中間部から外径端までの曲線部14baと、径方向幅の中間部から内径端までの平面部14bbとでなる。曲線部14baは、径方向幅の中間部では軸方向を向き、径方向幅の中間部から外径側へいくほどインボード側に位置し、外径端では軸方向に沿う変曲点の無い曲線、例えば円弧とされる。また、平面部14bbは、軸方向を向く平面とされる。アウトボード側の端面14bの外径端とインボード側の端面14aの外径端とが直接繋がり、アウトボード側の端面14bの内径端とインボード側の端面14aの内径端との間には、円筒状の内周面14cが形成されている。
【0022】
この止め輪14の断面形状であると、止め輪14を止め輪溝13に嵌め込む際に、ハウジング7の内周に止め輪14の外周が引っ掛からず、比較的小さな押し込み力で止め輪14を押し込むことができ、かつハウジング7および止め輪14を傷付けないという効果に加えて、アウトボード側の端面14bの平面部14baにより転がり軸受1の外輪4を受けることになるため、外輪4の軸方向移動を最小限に抑えられるという効果が得られる。
【0023】
図1および図3の止め輪14は、外周面に相当する面は無く、アウトボード側の端面14bとインボード側の端面14aとがそれぞれの外径端で直接繋がっているが、図4および図5に示す止め輪14のように、アウトボード側の端面14bとインボード側の端面14aの外径端間に円筒状の外周面14dを設けてもよい。この場合も、止め輪14を止め輪溝13に嵌め込む際に、ハウジング7の内周に止め輪14の外周が引っ掛かることが防げる。
【0024】
図6は異なる実施形態を示す。この実施形態の車輪用軸受装置1は、外輪回転タイプで、例えばトラック、バス等の駆動輪用アクスルユニットに適用される。この実施形態が前記実施形態と異なる点は、ハウジング7の外周に車輪のホイール取付用のフランジ21を有することである。フランジ21には、周方向の複数箇所にボルト挿通孔22が設けられている。ハウジング7のアウトボード側の端面に設けたボルト孔23は、車軸結合用である。
【0025】
この実施形態の車輪用軸受装置1も、前記同様、転がり軸受2の外輪4をハウジング7の内周面圧入面部11aにインボード側から圧入して、転がり軸受2をハウジング7に組み込んだ後、止め輪溝13に止め輪14を嵌め込んで、外輪4の抜け止めをする。止め輪14としては、前記実施形態と同様のものが用いられ、同様の作用効果が得られる。なお、図6には図1の止め輪14が図示されているが、図3ないし図5のいずれかの止め輪14を用いてもよい。
【0026】
上記各実施形態では、転がり軸受2を円すいころ軸受型としているが、アンギュラ玉軸受等の玉軸受型としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(A)はこの発明の実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図、(B)はその一部を省略したIB部拡大図である。
【図2】止め輪の嵌め込み手順の説明図である。
【図3】異なる止め輪を用いた車輪用軸受装置の部分断面図である。
【図4】さらに異なる止め輪の部分断面図である。
【図5】さらに異なる止め輪の部分断面図である。
【図6】(A)はこの発明の異なる実施形態にかかる車輪用軸受装置の断面図、(B)はその一部を省略したVIB部拡大図である。
【図7】従来のアクスルユニットの断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…車輪用軸受装置
2…転がり軸受
3…内輪
4…外輪
7…ハウジング
13…止め輪溝
14…止め輪
14b…アウトボード側の端面
14ba…曲面部
14bb…平面部
21…フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受と、この転がり軸受の外輪が内周に嵌合した環状の車輪取付用ハウジングとを備え、前記ハウジングは、内周の一端側に内径側へ突出した段差部を有し、かつ他端側に環状の止め輪溝を有し、この止め輪溝には、径方向に弾性的に拡縮自在な止め輪が拡張状態で嵌め込まれ、前記外輪は、一端面が前記段差部に当接し、他端面が前記止め輪に当接することで抜け止めされた車輪用軸受装置であって、
前記止め輪は、前記他端側から前記ハウジングの内周に収縮状態で挿入し、前記止め輪溝の位置まで押し込んで弾性復元力で拡張させたものであり、この止め輪の前記一端側の端面の断面形状は、少なくとも外径部が、外径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面であることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記止め輪の前記一端側の端面の断面形状は、径方向幅の中間部から外径側および内径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面である車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1において、前記止め輪の前記一端側の端面の断面形状は、径方向幅の中間部から外径端までの範囲が外径側へいくほど前記他端側に位置する凸曲面であり、径方向幅の中間部から内径端までの範囲が軸方向を向く平面である車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記ハウジングは球状黒鉛鋳鉄からなる車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記ハウジングは低、中炭素鋼からなる車輪用軸受装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記ハウジングの外周に車輪取付用のフランジを有する車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−190655(P2009−190655A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35780(P2008−35780)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】