説明

車輪装置

【課題】ホイール毎に電磁モータを搭載し、電磁モータによってホイールを駆動する車輪装置の実用性を向上させる。
【解決手段】ホイール40と、ホイールを回転可能に保持する保持部材52と、固定子94が保持部材に固定され、回転子92の回転によってホイールを駆動する電磁モータ88と、摩擦材82をブレーキ回転体50に摺接させることでホイールを制動するブレーキ装置80とを備えた車輪装置において、ブレーキ回転体の少なくとも摩擦材に摺接する部分と電磁モータの全体との一方が、ホイールのリム部44とディスク部46とによって囲まれる空間の内部に位置し、他方がその空間の外部に位置するように構成する。このように構成することで、小径のホイールであっても電磁モータとブレーキ装置とを搭載することが可能となり、また、走行に伴ない発熱する可能性のある電磁モータとブレーキ装置とを離して配設することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイール毎に電磁モータを搭載し、その電磁モータの発生させる力によってホイールを駆動する車輪装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホイールと、電磁モータによってホイールを駆動する駆動装置とを備え、ホイールを回転可能に保持するホイール保持部材に電磁モータの固定子を固定し、電磁モータの回転子の回転によってホイールを駆動する構造の車輪装置の開発が進められている。下記特許文献に記載されている車輪装置は、そのような構造の車輪装置の一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−90696号公報
【特許文献2】特開2002−337554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような構造の車輪装置では、ホイール毎に電磁モータが装着されている。また、ホイールには、通常、ブレーキ装置が装着されている。つまり、上述したような構造の車輪装置においては、1つのホイールに、電磁モータとブレーキ装置とを装着する必要がある。ただし、ホイールを駆動するための電磁モータは比較的大きいため、電磁モータの装着スペースは比較的大きなものとなる。また、ブレーキ装置は、ホイールとともに回転するブレーキ回転体、つまり、ディスクロータ,ブレーキドラム等と、摩擦材との摺接によって制動力を発生させるものであり、ブレーキ回転体は径方向に大きく、そのブレーキ回転体に摩擦材を押付けるための機構も必要である。このため、ブレーキ装置の装着スペースも比較的大きなものとなる。このようなことから、ホイールへの電磁モータとブレーキ装置との装着位置に工夫を凝らすことで、電磁モータの発生させる力によってホイールを駆動する車輪装置の実用性が向上すると考えられる。
【0005】
さらに言えば、駆動に伴って駆動源の電磁モータは発熱する傾向にあり、制動に伴ってブレーキ装置は発熱する傾向にある。このようなことからも、車両走行時において発熱する傾向にある電磁モータとブレーキ装置との装着位置に工夫を凝らすことで、電磁モータの発生させる力によってホイールを駆動する車輪装置の実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車輪装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の車輪装置は、ブレーキ回転体の少なくとも摩擦材に摺接する部分と電磁モータの全体との一方が、ホイールを構成するリム部とディスク部とによって囲まれる空間の内部に位置し、他方が、その空間の外部に位置するように構成される。
【発明の効果】
【0007】
ブレーキ回転体は、通常、径方向に大きく、ブレーキ回転体の外周に近い部分において、摩擦材と摺接するものが多い。このため、ブレーキ回転体の摩擦材に摺接する部分の占有スペースは比較的大きなものとなる。したがって、本発明の車輪装置によれば、1つのホイールに、比較的余裕をもって電磁モータおよびブレーキ装置を装着することが可能となり、実用性の高い車輪装置を提供することが可能となる。また、制動に伴って発熱するブレーキ装置のうちでブレーキ回転体の摩擦材に摺接する部分が、特に発熱する傾向にある。したがって、本発明の車輪装置によれば、車両走行時において、特に発熱する傾向にあるブレーキ回転体の摩擦材に摺接する部分と電磁モータとを互いに離れた位置に配設することが可能となり、実用性の高い車輪装置を提供することが可能となる。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0009】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1または請求項2に(3)項および(4)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項3に(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(10)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、それぞれ相当する。
【0010】
(1)リム部と、そのリム部と連続するディスク部とを有するホイールと、
そのホイールを回転可能に保持するホイール保持部材と、
固定子と回転子とを含んで構成される回転型の電磁モータを有し、その電磁モータの前記固定子が前記ホイール保持部材に固定され、前記回転子の回転によって前記ホイールを駆動する駆動装置と、
前記ホイールとともに回転するブレーキ回転体と、前記ホイール保持部材に支持された摩擦材とを有し、その摩擦材を前記ブレーキ回転体に摺接させることによって制動力を発生させるブレーキ装置と
を備えた車輪装置であって、
前記ブレーキ回転体の少なくとも前記摩擦材に摺接する部分と前記電磁モータの全体との一方が、前記リム部と前記ディスク部とによって囲まれる空間の内部に位置し、他方が、その空間の外部に位置する車輪装置。
【0011】
近年、ホイール毎に電磁モータを装着し、その電磁モータの発生させる力によってホイールを駆動する車輪装置の開発が進められている。また、ホイールには、通常、ブレーキ装置が装着されている。つまり、このような車輪装置では、1つのホイールに、電磁モータとブレーキ装置とを装着する必要がある。ただし、ホイールのリム径にによっては、電磁モータとブレーキ装置とを装着することが困難となる場合がある。また、車両走行時において発熱する傾向にある電磁モータとブレーキ装置とを近い位置に配設することは望ましくない。このため、本項に記載された車輪装置においては、ブレーキ回転体の少なくとも摩擦材に摺接する部分と電磁モータの全体との一方を、ホイールの内側の空間に配設し、他方をその空間の外部に配設している。
【0012】
ブレーキ回転体は、通常、径方向に大きく、ブレーキ回転体の外周に近い部分において、摩擦材と摺接するものが多い。このため、ブレーキ回転体の摩擦材に摺接する部分の占有スペースは比較的大きなものとなる。また、ブレーキ回転体の摩擦材に摺接する部分の近傍には、ブレーキ回転体に摩擦材を押付けるための機構が配設される。つまり、ブレーキ装置の占有スペースのうちの多くの部分が、ブレーキ回転体の摩擦材に摺接する部分および、その部分の周辺に位置している。したがって、本項に記載の車輪装置によれば、リム径の小さいホイールであっても、電磁モータおよびブレーキ装置を装着することが可能となる。また、制動に伴ってブレーキ装置は発熱し、特に、ブレーキ回転体の摩擦材に摺接する部分が発熱する傾向にある。したがって、本項に記載の車輪装置によれば、車両走行時において、発熱する傾向にあるブレーキ回転体の摩擦材に摺接する部分と電磁モータとを互いに離れた位置に配設することが可能となる。
【0013】
本項に記載の「リム部とディスク部とによって囲まれる空間」は、いわゆるホイールの内側の空間を意味しており、別の言い方をすれば、ホイールの回転軸線に垂直な方向から見た場合にホイールからはみ出さない空間を意味している。さらに、別の言い方をすれば、ホイールの幅方向におけるホイールの開口する側の端を含む仮想的な平面とリム部とディスク部とによって囲まれる空間を意味している。つまり、本項に記載の車輪装置は、ブレーキ回転体の少なくとも摩擦材に摺接する部分と電磁モータの全体との一方が、その仮想的な平面とホイールとによって囲まれる空間の内部に位置し、他方が、その仮想的な平面のディスク部とは反対側に位置するものであればよい。
【0014】
本項に記載の「電磁モータ」は、ホイールを駆動するものであることから、その電磁モータがホイールの内側の空間の外に位置する場合であっても、ホイールを駆動するための軸は、必然的にホイールの内側の空間に入り込む。このような軸は、回転子に直結されていたとしても、本項に記載の「電磁モータ」の構成要素としては扱わないこととする。つまり、本項に記載の車輪装置においては、電磁モータを構成する固定子と回転子とが完全にホイールの内側の空間若しくは、その空間の外に位置していればよい。
【0015】
本項に記載の「駆動装置」は、電磁モータの回転を減速する減速機を有するものであってもよく、電磁モータのみから構成されるものであってもよい。つまり、電磁モータの回転を減速機を介してホイールに伝達することで、ホイールを駆動する構造であってもよく、電磁モータの回転軸線とホイールの回転軸線とを同軸的に配設し、電磁モータの回転を直接ホイールに伝達することで、ホイールを駆動する構造であってもよい。また、本項に記載の「ブレーキ装置」は、ディスクブレーキ装置であってもよく、ドラムブレーキ装置であってもよい。つまり、本項に記載の「ブレーキ回転体」は、ブレーキドラムであってもよく、ディスクロータであってもよい。
【0016】
(2)前記電磁モータと前記ブレーキ回転体とが、前記ホイール保持部材を挟んで位置する(1)項に記載の車輪装置。
【0017】
本項に記載の車輪装置においては、電磁モータとブレーキ回転体との間にホイール保持部材が配設されている。したがって、本項に記載の車輪装置によれば、電磁モータとブレーキ回転体との間に別の部材を介在させることで、電磁モータとディスクロータとの発熱対策を図ることが可能となっている。
【0018】
(3)前記ホイール保持部材が、車両の前後方向に延びるようにして配設されて一端部において車体に揺動可能に保持されるサスペンションアームに取付けられた(1)項または(2)項に記載の車輪装置。
【0019】
ホイール保持部材は、通常、サスペンション装置を構成するアームによって車体に対して揺動可能に支持されている。ただし、ブレーキ回転体の一部と電磁モータとの一方が、ホイールの内側の空間の外に位置すると、その一方とサスペンション装置を構成するアームとが干渉する虞がある。特に、ホイール保持部材の車両内側の端面に、ブレーキ回転体の一部と電磁モータとの一方が位置すると、車幅方向に延びるようにして配設されるアームでは、ホイール保持部材を支持することは困難である。本項に記載の車輪装置においては、ホイール保持部材は、トレーリングアーム,リーディングアーム等の車両の前後方向に延びるようにして配設されるアームによって支持されている。したがって、本項に記載の車輪装置によれば、ブレーキ回転体の一部と電磁モータとの一方がホイールの内側の空間の外に位置する車輪装置を、適切に懸架することが可能となる。
【0020】
(4)前記電磁モータと前記ブレーキ回転体とが、前記ホイール保持部材と前記サスペンションアームとを挟んで位置する(3)項に記載の車輪装置。
【0021】
本項に記載の車輪装置によれば、電磁モータとブレーキ回転体との間にさらに別の部材を介在させることで、より一層、電磁モータとディスクロータとの発熱対策を図ることが可能となっている。
【0022】
(5)前記サスペンションアームが、トーションビーム式サスペンション装置を構成するものである(3)項または(4)項に記載の車輪装置。
【0023】
本項に記載の車輪装置においては、車輪装置を懸架するサスペンション装置の構造が具体的に限定されている。本項に記載の車輪装置においては、トーションビームをホイール保持部材の車幅方向の位置からずらして配設することが可能となり、ブレーキ回転体の一部と電磁モータとの一方をホイールの内側の空間の外に位置させ易くなる。したがって、本項に記載の態様は、ブレーキ回転体の一部と電磁モータとの一方がホイールの内側の空間の外に位置する車輪装置に好適な態様である。
【0024】
(6)当該車輪装置が、前記ホイールの回転軸線と同軸的に配設されて一端部において前記ホイールの前記ディスク部に固定的に連結されるシャフトを備え、
前記シャフトが、前記ホイール保持部材を貫通し、
前記電磁モータの前記回転子と前記ブレーキ回転体との一方が、前記シャフトの他端部に固定的に連結された(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の車輪装置。
【0025】
本項に記載の車輪装置によれば、比較的簡便な構造によって、電磁モータとブレーキ回転体とをホイール保持部材を挟んで位置させるとともに、電磁モータの回転子とブレーキ回転体とを、ホイールとともに回転させることが可能となる。本項に記載の「シャフト」は、電磁モータの回転子とホイールとを一体的に回転、若しくは、ブレーキ回転体とホイールと一体的に回転させるものであればよく、ホイールを駆動するための駆動軸、つまり、アクスルシャフトであってもよく、ホイールの回転をブレーキ回転体に伝達するものであってもよい。
【0026】
(7)前記電磁モータの前記回転子が、前記シャフトの他端部に固定的に連結された(6)項に記載の車輪装置。
【0027】
(8)前記ブレーキ回転体が、前記シャフトの他端部に固定的に連結された(6)項に記載の車輪装置。
【0028】
上記2つの項に記載の車輪装置においては、電磁モータおよびブレーキ回転体の配設位置が具体的に限定されている。ちなみに、前者の項の車輪装置では、ブレーキ回転体の少なくとも摩擦材に摺接する部分がホイールの内側の空間に位置し、電磁モータの全体はその空間の外に位置しており、後者の項の車輪装置では、電磁モータの全体がホイールの内側の空間に位置し、ブレーキ回転体の少なくとも摩擦材に摺接する部分はその空間の外に位置している。
【0029】
(9)前記ブレーキ装置が、ディスクブレーキ装置であり、前記ブレーキ回転体が、ディスクロータである(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の車輪装置。
【0030】
本項に記載の車輪装置においは、ブレーキ装置の構造が具体的に限定されている。ディスクロータは、ブレーキドラムと比較すると、車幅方向に占有スペースを小さくすることが可能である。このため、本項に記載の態様は、ブレーキ回転体の一部がホイールの内側の空間の外に位置する車輪装置に好適な態様である。
【0031】
(10)前記ホイールのリム径が、12インチ以下である(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車輪装置。
【0032】
本項に記載の車輪装置においては、ホイールが比較的小径のものとされている。したがって、本項に記載の車輪装置によれば、ブレーキ回転体の一部と電磁モータとの一方をホイールの内側の空間の外に位置させる効果が充分に活かされる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】請求可能発明の実施例である車輪装置が搭載された車両の概略側面図である。
【図2】図1に示す車両の概略平面図である。
【図3】図1に示す車両に搭載される請求可能発明の実施例である車輪装置を示す概略断面図である。
【図4】図3に示す車輪装置を車両中央部からの視点において示す模式図である。
【図5】変形例の車輪装置を示す概略断面図である。
【図6】もう1つ別の変形例の車輪装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、請求可能発明の実施例および変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0035】
図1,2に、実施例の車輪装置10が搭載された車両を示す。本車両は、菱形車輪配置の車両であり、次世代コミュータとして期待されている。本車両は、車体20と、それの前方部に設けられた前輪22と、その前輪22の後方において車体20の左部,右部にそれぞれ設けられた車輪装置10を構成する左輪24L,右輪24Rと、それら左輪24L,右輪24Rの後方に設けられた後輪26とを有している。当該車両の平面視を示す図2から解るように、前輪22,後輪26は、車幅方向における中央に配設されており、左輪24L,右輪24Rは、左右対称に配設されている。
【0036】
本車両では、前輪22,後輪26が転舵輪とされており、左輪24L,右輪24Rは転舵輪とはされていない。また、左輪24L,右輪24Rが駆動輪(車両を駆動するために回転駆動される車輪)とされてはいるものの、前輪22,後輪26は、駆動輪とはされていない。同様に、左輪24L,右輪24Rが制動輪(車両を制動するために回転が制動される車輪)とされてはいるものの、前輪22,後輪26は、制動輪とはされていない。なお、以下の説明において、左輪24L,右輪24Rの区別を要しない場合には、駆動輪24と総称し、左輪24L,右輪24Rに関係する構成要素等についても同様とする。
【0037】
本車両には、運転者が当該車両を操作するための操作部材として、3つの操作部材が設けられている。その1つが、車両に旋回動作を行わせるためのステアリング操作部材であるステアリングホイール30であり、もう1つが、車両を加速させるためのアクセル操作部材であるアクセルペダル32,さらにもう1つが、車両を減速させるためのブレーキ操作部材であるブレーキペダル34である。
【0038】
本実施例の車輪装置10は、駆動輪24によって構成されるものであり、前輪22,後輪26とは関係が無いため、前輪22,後輪26に関する説明は省略し、駆動輪24に関して説明する。駆動輪24は、図3に示すように、ホイール40と、そのホイール40の外周に装着されたタイヤ42とを備えており、ホイール40は、リム部44と、そのリム部44から連続するディスク部46とから構成されている。ディスク部46の中央部には貫通穴が形成され、その環通穴にアクスルハブ48が嵌入されている。アクスルハブ48は、後に詳しく説明するディスクロータ50とともに、ディスク部46にボルト締結されており、アクスルハブ48とディスクロータ50とはホイール40とともに回転するようになっている。なお、ホイール40のリム部44の外径、つまり、リム径は12インチとされており、駆動輪24は比較的小径の車輪とされている。
【0039】
アクスルハブ48は、アクスルキャリア52のボス部54において回転可能に保持されており、そのアクスルキャリア52は、アクスルハブ48を介してホイール40を回転可能に保持するホイール保持部材として機能している。アクスルキャリア52は、ホイール40の内部空間に位置するボス部54と、そのボス部54から連続してその内部空間から車両の内側(図3での右側)に向かって突出する本体部56とから構成されており、アクスルキャリア52は、ホイール40の内部空間から車両内側に向かって突出するようにして配設されている。ちなみに、ホイール40の内部空間とは、ホイール40の幅方向でのホイール40の開口する側、つまり、車両内側の端を含む仮想的な平面57とリム部44とディスク部46とによって囲まれる空間である。アクスルキャリア52は、本体部56においてサスペンション装置を構成するサスペンションアームとしてのトレーディングアーム58に固定されており、車体に対して揺動可能とされている。詳しく言えば、トレーディングアーム58は、図4に示すように、車両の前後方向に延びるようにして配設されるとともに、車両前方側の一端部において車体20に回動可能に保持されており、アクスルキャリア52は、トレーディングアーム58の前端部を中心に車体に対して揺動するようになっている。
【0040】
トレーディングアーム58の後端部には、液圧式のショックアブソーバ60の下端部が取付られ、このショックアブアブソーバ60の上端部は、車体20に支持されている。ショックアブソーバ60は、ロアチューブ62とアッパチューブ64とを有し、それらが相対移動可能とされていることで、伸縮可能とされている。ロアチューブ62には、下部リテーナ66が、アッパチューブ64には、上部リテーナ68が、それぞれ固定されており、それら下部リテーナ66と上部リテーナ68とによって、サスペンションスプリング70が挟持されている。このような構造により、アクスルキャリア52、つまり、駆動輪24は、弾性的に揺動可能とされており、その揺動に対して減衰力が生じるようになっている。
【0041】
左輪24Lのトレーディングアーム58と右輪24Rのトレーディングアーム58とは、車幅方向に伸びるように配設されたトーションビーム72によって連結されており、左輪24L,右輪24Rは、トーションビーム式サスペンション装置、さらに言えば、カップルドビーム式サスペンション装置によって懸架されている。トーションビーム72は、左右の駆動輪24が上下方向に同じように動作する場合、つまり、同相的に動作する場合には捩れず、左右の駆動輪24の一方が上方向に動作し、他方が下方向に動作する場合、つまり、左右の駆動輪24が逆相的に動作する場合には捩れる構造とされており、車体のロールを好適に抑制することが可能となっている。
【0042】
また、駆動輪24を構成するホイール40の内部空間には、図3に示すように、ホイール40の回転を制動するディスクブレーキ装置(以下、「ブレーキ装置」と略す場合がある)80が設けられている。ブレーキ装置80は、ホイール40のディスク部46に固定されてホイール40とともに回転するブレーキ回転体としてのディスクロータ50と、摩擦材としての1対のブレーキパッド82との摺接により制動力を発生させるものであり、それら1対のブレーキパッド82を保持するキャリパ装置84とディスクロータ50とによって構成されている。キャリパ装置84は、ホイール40の内部空間に位置するアクスルキャリア52の本体部56の端面に固定されており、1対のブレーキパッド82がディスクロータ50の両側面の各々の外周に近い部分(以下、「摺接面」という場合がある)に対向するように、かつ、その摺接面に対して接近離間可能に保持している。キャリパ装置84は、上記ブレーキペダル34の操作に伴って1対のブレーキパッド82をディスクロータ50に押し付けるようにされており、それら1対のブレーキパッド82をディスクブレーキ50の摺接面に摺接させることで制動力を発生させている。
【0043】
また、アクスルハブ48には、ホイール40の回転軸線と同軸的に配設されたアクスルシャフト86が固定的に嵌合されており、そのアクスルシャフト86は、車両内部に向かって延び出している。アクスルキャリア52の本体部56の中央部には、車幅方向に貫通する貫通穴が形成されており、シャフトとしてのアクスルシャフト86は、アクスルキャリア52のボス部54および本体部56を貫通している。アクスルキャリア52の本体部56は、先に述べたように、ホイール40の内部空間から車両の内側に向かって突出しており、アクスルシャフト86のアクスルキャリア52から車両内側に向かって延び出す端部は、ホイール40の内部空間の外に位置している。そのアクスルキャリア52から延び出す端部において、アクスルシャフト86は回転型の電磁モータ88によって駆動されるようになっている。
【0044】
詳しく言えば、アクスルキャリア52の車両内部側の端面には、中空円筒状のモータハウジング90が固定されており、そのモータハウジング90によって、アクスルシャフト86のアクスルキャリア52から延び出す端部が、ベアリングを介して回転可能に保持されている。モータハウジング90内に位置するアクスルシャフト86の外周には、電磁モータ88の回転子としての複数の永久磁石92が固定して配設されており、モータハウジング90の周壁の内面に沿って一円周上に回転子としての複数のコイル94が固定して配設されている。それら複数の永久磁石92とコイル94とは互いに向かい合っており、それらは、ブラシレスDCモータを構成するものとなっている。つまり、駆動輪24は、アクスルキャリア52に固定された電磁モータ88によって回転駆動され、その電磁モータ88は、車輪装置10における駆動装置として機能するものとされている。なお、詳しい説明は省略するが、電磁モータ88は、駆動輪24の回転によって発電機としても機能する。この電磁モータ88が起電力によって発生させる電流を回生することで、駆動装置は、回生ブレーキ装置としても機能するようにされているのである。
【0045】
上記のような構成から、本車輪装置10は、駆動輪24を回転可能に保持するアクスルキャリア52に固定された電磁モータ88の作動によって、駆動輪24を駆動するとともに、アクスルキャリア52に固定されたブレーキ装置80のキャリパ装置84を作動させて、ディスクロータ50の摺接面とブレーキパッド82とを摺接させることによって、駆動輪24を制動する構造とされている。つまり、車輪毎に電磁モータとブレーキ装置とが設けられ、電磁モータによって車輪を駆動し、ブレーキ装置によって車輪を制動する構造とされている。車輪毎に電磁モータとブレーキ装置とが設けられる従来の車輪装置では、通常、ホイール40の内部空間に電磁モータおよびブレーキ装置が配設されており、小径の車輪には、電磁モータおよびブレーキ装置を装着することは困難とされていた。
【0046】
本車輪装置10を構成するホイール40のリム径は、上述したように、12インチとされており、比較的小径であるが、本車輪装置10では、図3から判るように、ブレーキ装置80はホイール40の内部空間に配設されるとともに、電磁モータ88はその内部空間の外に配設されており、駆動輪24に比較的余裕をもって電磁モータ88およびブレーキ装置80が装着されている。したがって、本車輪装置10によれば、小径の車輪に、比較的余裕をもって電磁モータ88およびブレーキ装置80を装着することが可能となっている。
【0047】
また、車輪毎に電磁モータとブレーキ装置とが設けられる車輪装置では、車輪の駆動に伴って、駆動源の電磁モータは発熱する傾向にあり、車輪の制動に伴って、ブレーキ装置、特に、ディスクロータの摺接面は発熱する傾向にある。このように、車両走行時において発熱する傾向にある電磁モータとディスクロータとを、狭いホイールの内部空間に近接して配設することは望ましくない。本車輪装置10では、ディスクロータ50はホイール40の内部空間に配設されているが、電磁モータ88はその内部空間の外に配設されている。さらに、それらディスクロータ50と電磁モータ88との間には、アクスルキャリア52およびトレーリングアーム58が配設されている。したがって、本車輪装置によれば、車両走行時において発熱する傾向にある電磁モータ88とディスクロータ50とを互いに離れた位置に配設するとともに、それらの間に別の部材を介在させることで、電磁モータ88とディスクロータ50との発熱対策を図ることが可能となっている。
【0048】
また、本車輪装置10では、アクスルキャリア52の車両内側の端面に電磁モータ88が取付けられており、電磁モータ88の外径はアクスルキャリア52の外径より大きい。このため、アクスルキャリア52は、図4から判るように、車両内側の視点からみれば、電磁モータ88によって視認することができない。つまり、アクスルキャリア52を車幅方向に延びるようにして配設されるサスペンションアームによって支持することは困難である。本車輪装置10では、アクスルキャリア52は、車両前後方向に延びるようにして配設されるトレーリングアーム58によって支持されており、そのトレーリングアーム58は、トーションビーム式サスペンション装置を構成している。したがって、本車両装置10によれば、車幅方向に延びるようにして配設されるサスペンションアームによって、アクスルキャリア52を支持する必要が無く、駆動輪24を無理なく懸架することが可能となっている。
【変形例1】
【0049】
図5に、上記車輪装置10を変形した車輪装置100を示す。変形例の車輪装置100は、電磁モータ102およびブレーキ装置104を除いて、上記車輪装置10と略同様の構成であるため、それらを中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0050】
上記車輪装置10では、ホイール40の内部空間にブレーキ装置80が配設されるとともに、ホイール40の内部空間の外に電磁モータ88が配設されていたが、変形例の車輪装置100では、図5に示すように、ホイール40の内部空間に電磁モータ102が配設されるとともに、ホイール40の内部空間の外にブレーキ装置104が配設されている。詳しく言えば、変形例の車輪装置100のホイール40のディスク部46の中央部に形成された貫通穴には、アクスルハブ108がホイール40の回転軸線と同軸的に挿入されている。アクスルハブ108は、ディスク部46の貫通穴に挿入される円筒部110と、その円筒部110の外周から径方向に延び出すとともに、ホイール40のディスク部46にボルト締結されるフランジ部112と、そのフランジ部112の外縁から車幅方向の車両内側に延び出す磁石保持部114とから構成されており、その磁石保持部114の内周面に沿って一円周上に回転子としての複数の永久磁石116が固定して配設されている。また、アクスルハブ108の円筒部110を回転可能に保持するアクスルキャリア52は、そのアクスルキャリア52のボス部54の外周に短円筒状のコイル保持部118を有しており、そのコイル保持部118の外周には、固定子としての複数のコイル120が固定して配設されている。それら複数の永久磁石116とコイル120とは互いに向かい合っており、それら永久磁石116とコイル120とによって駆動装置としての電磁モータ102が構成されている。
【0051】
アクスルキャリア52の本体部56の中央部に形成された貫通穴には、一端部にフランジ部122が形成された円筒部材124が挿入されており、そのフランジ部122をアクスルキャリア52の本体部56から車両内側に突出させた状態で円筒部材124がその本体部52によって回転可能に保持されている。本体部56から車両内側に突出しているフランジ部122には、ブレーキ回転体としてのディスクロータ126がボルト締結されており、アクスルキャリア52の本体部56の車両内側の端面には、キャリパ装置84がボルト締結されている。キャリパ装置84の有する1対のブレーキパッド82は、ディスクロータ126の両側面の各々の外周に近い部分(以下、「摺接面」という場合がある)に対向しており、キャリパ装置84の作動に伴って、摺接面に対して接近離間するものとされている。また、円筒部材124とアクスルハブ108の円筒部110とは、同軸上に配設されており、それら円筒部材124とアクスルハブ108の円筒部110とにアクスルシャフト86が固定的に嵌合されている。なお、アクスルキャリア52は、トレーリングアーム58に固定されており、上記車輪装置10と同様に、変形例の車輪装置100においても、トーションビーム式サスペンション装置によって駆動輪24が懸架されている。
【0052】
上記のような構成から、変形例の車輪装置100も、駆動輪24を回転可能に保持するアクスルキャリア52に設けられた電磁モータ102の作動によって、駆動輪24を駆動するとともに、ブレーキ装置104のキャリパ装置84を作動させることで、駆動輪24を制動する構造とされている。また、変形例の車輪装置100と上記車輪装置10との相違点は、電磁モータの配設位置とブレーキ装置の配設位置とが逆になっていることだけであり、変形例の車輪装置100においても、上記車輪装置10と同様の効果を得ることが可能となっている。
【変形例2】
【0053】
図6に、変形例の車輪装置100をさらに変形した車輪装置150を示す。さらなる変形例、つまり第2変形例の車輪装置150は、ブレーキ装置152を除いて、変形例の車輪装置100と略同様の構成であるため、それらを中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0054】
第2変形例の車輪装置150の備えるブレーキ装置152は、図6に示すように、ホイール40のリム部44にボルト締結され、車両内側に向かって延び出すディスクロータ154と、アクスルキャリア52の本体部56に固定されるキャリパ装置156とによって構成されている。ディスクロータ154は、リム部44の内径より僅かに径の小さい外径の短円筒状の支持部158と、その支持部158の車両内側の端部からホイール40の回転軸線に向かって延び出す円環状の円環部160とによって構成されており、支持部158の円環部160が延び出す端部とは反対側の端部(図では左側の端部)において、ホイール40のリム部44の車両内側の端部(図では左側の端部)にボルト締結されている。このため、ディスクロータ154の円環部160は、ホイール40の内部空間の外に位置している。その内部空間の外に位置する円環部160の両側面の各々の内周に近い部分(以下、「摺接面」という場合がある)に、キャリパ装置156の有する1対のブレーキパッド162が対向しており、キャリパ装置156の作動に伴って、それら1対のブレーキパッド162が摺接面に対して接近離間するものとされている。なお、アクスルキャリア52は、それの車両内側の端面において、トレーリングアーム58に固定されており、第2変形例の車輪装置150においても、トーションビーム式サスペンション装置によって駆動輪24が懸架されている。
【0055】
第2変形例の車輪装置150においては、ホイール40の内部空間に電磁モータ102全体が配設されるとともに、その内部空間の外にブレーキ装置152の配設スペースの大部分を占めるキャリパ装置156およびディスクロータ154の一部、詳しく言えば、ディスクロータ154の円環部160が配設されている。したがって、第2変形例の車輪装置150においても、小径の車輪に、比較的余裕をもって電磁モータ102およびブレーキ装置152を装着することが可能となっている。また、車輪の制動に伴って、ブレーキ装置152は発熱する傾向にあり、特に、ディスクロータ154の摺接面が発熱する傾向にある。第2変形例の車輪装置150においては、電磁モータ102はホイール40の内部空間に配設されているが、ディスクロータ154の摺接面はその内部空間の外に配設されている。したがって、第2変形例の車輪装置150によれば、電磁モータ102とディスクロータ154との発熱対策を図ることが可能となっている。
【符号の説明】
【0056】
10:車輪装置 40:ホイール 44:リム部 46:ディスク部 50:ディスクロータ(ブレーキ回転体) 52:アクスルキャリア(ホイール保持部材) 58:トレーディングアーム(サスペンションアーム)(トーションビーム式サスペンション装置) 72:トーションビーム(トーションビーム式サスペンション装置) 80:ディスクブレーキ装置(ブレーキ装置) 82:ブレーキパッド(摩擦材) 86:アクスルシャフト(シャフト) 88:電磁モータ(駆動装置) 92:永久磁石(回転子) 94:コイル(固定子) 100:車輪装置 102:電磁モータ(駆動装置) 104:ディスクブレーキ装置(ブレーキ装置) 116:永久磁石(回転子) 118:コイル保持部(ホイール保持部材) 120:コイル(固定子) 126:ディスクロータ(ブレーキ保持部材) 150:車輪装置 152:ディスクブレーキ装置(ブレーキ装置) 154:ディスクロータ(ブレーキ回転体) 162:ブレーキパッド(摩擦材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リム部と、そのリム部と連続するディスク部とを有するホイールと、
そのホイールを回転可能に保持するホイール保持部材と、
固定子と回転子とを含んで構成される回転型の電磁モータを有し、その電磁モータの前記固定子が前記ホイール保持部材に固定され、前記回転子の回転によって前記ホイールを駆動する駆動装置と、
前記ホイールとともに回転するブレーキ回転体と、前記ホイール保持部材に支持された摩擦材とを有し、その摩擦材を前記ブレーキ回転体に摺接させることによって制動力を発生させるブレーキ装置と
を備えた車輪装置であって、
前記ブレーキ回転体の少なくとも前記摩擦材に摺接する部分と前記電磁モータの全体との一方が、前記リム部と前記ディスク部とによって囲まれる空間の内部に位置し、他方が、その空間の外部に位置する車輪装置。
【請求項2】
前記電磁モータと前記ブレーキ回転体とが、前記ホイール保持部材を挟んで位置する請求項1に記載の車輪装置。
【請求項3】
前記ホイール保持部材が、車両の前後方向に延びるようにして配設されて一端部において車体に揺動可能に保持されるサスペンションアームに取付けられ、
前記電磁モータと前記ブレーキ回転体とが、前記ホイール保持部材と前記サスペンションアームとを挟んで位置する請求項1または請求項2に記載の車輪装置。
【請求項4】
前記サスペンションアームが、トーションビーム式サスペンション装置を構成するものである請求項3に記載の車輪装置。
【請求項5】
当該車輪装置が、前記ホイールの回転軸線と同軸的に配設されて一端部において前記ホイールの前記ディスク部に固定的に連結されるシャフトを備え、
前記シャフトが、前記ホイール保持部材を貫通し、
前記電磁モータの前記回転子と前記ブレーキ回転体との一方が、前記シャフトの他端部に固定的に連結された請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車輪装置。
【請求項6】
前記ホイールのリム径が、12インチ以下である請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車輪装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−16980(P2012−16980A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154391(P2010−154391)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】