軸固定型動圧流体軸受モータ及び薄型記録ディスク装置
【課題】
新規な潤滑流体封止構造を提案して,薄型化に適する両端軸固定型動圧流体軸受モータ及び薄型記録ディスク装置を実現する。
【解決手段】
回動するスリーブを二重構成としてそれらの間にスリーブ内周面上端近傍からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域を形成し,スリーブ内周面上端近傍の潤滑流体を遠心力により連通領域内に振り切りスリーブ下端外径近傍にまで移送させ,固定軸とスリーブ間には潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送する動圧グルーブを有して動圧グルーブと遠心力により潤滑流体を循環させて潤滑流体を封止する。軸受形状として円錐軸受,円筒軸受を挙げて薄型化が可能であることを示し,テーパーシールに比して軸長方向スペースが小であることを利用して薄型の記録ディスク装置を実現可能とする。
新規な潤滑流体封止構造を提案して,薄型化に適する両端軸固定型動圧流体軸受モータ及び薄型記録ディスク装置を実現する。
【解決手段】
回動するスリーブを二重構成としてそれらの間にスリーブ内周面上端近傍からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域を形成し,スリーブ内周面上端近傍の潤滑流体を遠心力により連通領域内に振り切りスリーブ下端外径近傍にまで移送させ,固定軸とスリーブ間には潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送する動圧グルーブを有して動圧グルーブと遠心力により潤滑流体を循環させて潤滑流体を封止する。軸受形状として円錐軸受,円筒軸受を挙げて薄型化が可能であることを示し,テーパーシールに比して軸長方向スペースが小であることを利用して薄型の記録ディスク装置を実現可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,記録ディスク装置用の動圧流体軸受モータ及び薄型記録ディスク装置に拘わり,特に従来のテーパーシールに替わる新規の潤滑流体封止構造を用いた軸固定型動圧流体軸受モータ及びそれを用いた薄型記録ディスク装置に拘わる。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気ディスク装置(HDD)用動圧流体軸受モータの軸受構造は潤滑流体と大気との境界を唯一つとして潤滑流体封止が容易な軸回転構造が主体であった。これに対して軸の両端を固定する両端軸固定型動圧流体軸受モータは振動環境下でも回転部の高精度な姿勢保持能力に優れ,また超小型HDDで筐体中央部を軸で支持出来る利点もある。その為,両端軸固定型動圧流体軸受モータの小型化が待望されていたのであるが,比較的大型のモータしか実現されていない。
【0003】
これは潤滑流体と大気との境界を二以上有して潤滑流体漏れを起こしやすい事,部材数が多くて小型化が難しい事等の理由に依る。動圧流体軸受の主要部である動圧グルーブは回転時に潤滑流体を一方に圧送するポンプ作用により局所的に潤滑流体圧力を高めて回動する部材を非接触で支持している。しかしながら動圧グルーブによる潤滑流体圧送能力は動圧グルーブの寸法形状及び部材間の間隙等に大きく依存し,それら諸元はサブミクロンメートルレベルの精度を要して量産で均一に寸法形状を維持する事は事実上不可能である。設計上は平衡で有る筈のヘリングボーングルーブが間隙の傾斜或いは加工精度のばらつきから何れかの方向に潤滑流体を圧送してしまう事は屡々起こり得る。量産時に於ける加工精度ばらつきを許容して尚かつ潤滑流体封止の完全を期すると,米国特許5516212に記述されるように全ての動圧グルーブに圧力平衡用チャネルを具備する非現実的な構造となる。
【0004】
米国特許5516212と趣旨を同じくしながら実現可能な構造として加工精度のばらつき,或いは遠心力存在下でも潤滑流体漏れを解決し得た構造は数例のみである。しかしながら,過去に実現された両端軸固定型動圧流体軸受モータの例は専ら多数の磁気ディスクを搭載して高速回転を前提にした大型の構造であり,小径の磁気ディスク2枚程度以下の小型用途には適合させ難い。すなわち,一以上のスラストプレートを有して軸長方向に部材が多いのでそのまま小型化しても上下ラジアルベアリング間のスパンを確保出来ずに回転部の姿勢を高精度に維持出来ない。また何よりも部材数が多く,低コスト化が困難である。
【0005】
薄型HDDに適用可能な動圧流体軸受モータには特開平06−315242,特開2003−32961に提案された円錐軸受,特開2000−350408,特開2004−173377のシングルスラスト構造等の提案がある。しかしながら特開平06−315242,特開2003−32961に提案された円錐軸受は軸回転構造或いは片端軸固定構造であって直ちに両端軸固定型動圧流体軸受モータに適用は出来ない。特開2000−350408は固定軸にラジアル及びスラストベアリングをそれぞれ一つ有した構造である。ラジアル及びスラストベアリングをヘリングボーングルーブとした構造,ラジアル及びスラストベアリングをそれぞれ不平衡のヘリングボーングルーブ,スパイラルグルーブとした構造を挙げている。前者の構造は量産段階での加工バラツキを考えれば潤滑流体漏れの可能性が残る構造であり,後者の構造は潤滑流体漏れを生じ難いが,回転部の姿勢維持に必要な回転モーメント力を得る事が出来ない。特開2004−173377は潤滑流体封止には成功しているが,上下の不平衡ヘリングボーングルーブは互いに潤滑流体を押し合う方向で不平衡分が上下端にあり,実効的なラジアルベアリングスペースを縮めるので薄型で回転部姿勢を高精度に維持するに難点がある。また,ラジアルベアリング上端に無潤滑の領域が原理的に存在する点も懸念材料となる。
【0006】
動圧流体軸受モータの潤滑流体封止構造に長年用いられてきたテーパーシールもまた薄型HDDでは大きな制約条件である。テーパーシールは潤滑流体の表面張力を利用した封止方法で一般にテーパーシールの開角は10度以下が強度の点で望ましいとされる。さらにテーパーシールの最大間隙は0.3ミリメートル程度が妥当であるが,各部の精度を上げて0.2ミリメートルに抑えてもテーパーシールの長さは開角を10度とすると1.1ミリメートル余となる。厚み3ミリメートル程度以下のHDD用動圧流体軸受モータを潤滑流体封止を満足できるレベルで実現することは不可能となる。
【0007】
【特許文献1】米国特許5516212「Hydrodynamic bearing with controlled lubricant pressure distribution」
【特許文献2】特開平06−315242「スピンドルモータ」
【特許文献3】特開2000−350408「記録ディスク駆動用モータ」
【特許文献4】特開2003−32961「磁気吸引力と平衡させた単円錐動圧流体軸受を有するモータ」
【特許文献5】特開2004−173377「記録ディスク用駆動モータ及び記録ディスク駆動装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって,解決しようとする課題は,テーパーシールに替わる新規な潤滑流体封止構造を提案して,薄型に於いても回転部の姿勢を高精度に維持する軸固定型動圧流体軸受モータ及び薄型記録ディスク装置を創出提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明による軸固定型動圧流体軸受モータは,固定された軸と,軸外周と微小隙間を有して回転自在に嵌合するスリーブと,軸に固定されてスリーブ下端及び外周下部と間隙を持って対向する環状部材と,スリーブと軸及び環状部材との間隙に連続的に存在して大気との境界面をスリーブ内周面上端近傍とスリーブ外周下部の少なくとも2カ所に持つ潤滑流体と,軸及びスリーブ間に軸方向の磁気吸引力を発生させる磁気的手段とを少なくとも有して構成される。スリーブと対向面の何れかに有する動圧グルーブが局部的に潤滑流体圧力を高めて発生する軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡する位置で回転部を浮上支持し,スリーブ内にはスリーブ内周面上端近傍の吸入部からスリーブ下端外径近傍の排出部に至る連通領域を有して吸入部は排出部より内径側に位置する構成とする。回転時にスリーブと軸との間隙中では少なくとも一つの前記動圧グルーブを不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとしてスリーブ内周面上端方向に潤滑流体圧送能力を持たせて潤滑流体を移送し,スリーブ内周面上端近傍で潤滑流体を遠心力で吸入部内に振り切り,吸入部から排出部までは遠心力により潤滑流体を移送することを特徴とする。
【0010】
連通領域はスリーブ外周の潤滑流体境界面より内径側に存在するので回転時に連通領域内に滞留する潤滑流体は無く,連通領域中の大半は空気で占め,流れる潤滑流体は僅かであるので軸受に注入する潤滑流体量の管理は容易であり,また潤滑流体偏在,揺動による回転バランスへの影響も無い。
【0011】
前記動圧グルーブのスリーブ上端方向への潤滑流体圧送能力の許容範囲は広く設定できるので十分に大に設定し,量産時での動圧グルーブバラツキ或いは動圧グルーブの存在する間隙の傾斜等の不具合を吸収してスリーブ上端へ潤滑流体を移送する。
【0012】
請求項2の発明は,請求項1に於いて,上端面と外周面を有する外筒と軸及び或いは環状部材との対向面を有する内筒とでスリーブを構成し,スリーブ内周面の上端近傍からスリーブ下端外径近傍への連通領域を内筒及び外筒間の微小間隙として形成する。小型薄型構造に於いて連通領域を任意形状に容易に形成できる特徴がある。
【0013】
請求項3の発明は,請求項2に於いて,スリーブ内筒の外表面或いはスリーブ外筒の内表面に形成した溝或いは凹凸を有するスリーブ外筒により前記連通領域を構成する。連通領域形成或いは連通領域を構成する断面形状の制御を容易に出来る特徴がある。特に外筒を薄い金属板から絞り加工或いはプレス加工等で形成する工程が容易である。
【0014】
請求項4の発明は,請求項2に於いて,外筒上端面の開口径は内筒内周面上端の口径より小とし,スリーブ内周面上端近傍の潤滑流体が外部に漏洩し難い構造とする。回転時にスリーブ内周面を上端方向に移送された潤滑流体が内筒及び外筒間の微小間隙として形成された連通領域に遠心力により円滑に流入させられる事も期待できる。
【0015】
請求項5の発明は,請求項2に於いて,スリーブ内筒は微小な空孔を有する多孔質素材で構成してスリーブ内周面からスリーブ下端の外周近傍への連通領域を微小空孔で形成する事を特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は,請求項5に於いて,前記多孔質素材で構成された内筒表面の外筒との境界近傍を除いた表面領域に封孔処理を施し,動圧グルーブ領域で潤滑流体がスリーブ内筒内に浸透して潤滑流体不足に陥る事を回避する。
【0017】
請求項7の発明は,請求項1に於いて,連通領域の一部として表面張力により潤滑流体を保持出来る程に小さい間隙部を排出部から連続して有し,静止時に表面張力によって潤滑流体を連通領域内に吸収保持して潤滑流体の大気との境界面を内部に引き込んで潤滑流体を漏れ難くし,回転時には遠心力により潤滑流体を連通領域からスリーブと軸及び環状部材との間隙に供給して動圧流体軸受を構成させる。
【0018】
静止時に潤滑流体の殆どをスリーブ内の連通領域に吸収するので潤滑流体漏れの危険を軽減させる。潤滑流体を表面張力により保持できる程度に小さい連通領域の間隙は潤滑流体の粘度及び周囲の材質によって異なるが,0.2ミリメートル程度以下の適当な値を選択する。
【0019】
請求項8の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内周面上端近傍に於いて固定軸とスリーブとの間隙が大となる領域に連通領域吸入部を配置し,吸入部より下方のスリーブ内周面に微小高さの環状凸部を形成して回転時には前記環状凸部を超えて吸入部へ潤滑流体を振り切るとして所定深さの潤滑流体溜まりを形成させることを特徴とする。
【0020】
潤滑流体は吸入部から連通領域内に遠心力により振り切られるが,川の滝の上流で流速が早くなり水深が浅くなるように吸入部に近い動圧グルーブ端で潤滑流体が不足する事態となる可能性がある。吸入部と動圧グルーブの間に微小高さの環状凸部を設けることにより潤滑流体溜まりを設けて前記動圧グルーブ端での潤滑流体不足を回避させる。環状凸部の高さは固定軸とスリーブとの間隙程度に設定する事が望ましい。
【0021】
請求項9の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内連通領域の吸入部近傍の間隙を他の連通領域部分の間隙より小に設定して連通領域内での潤滑流体蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制する。
【0022】
請求項10の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内に形成した連通領域を回転時に潤滑流体及び空気を外周側に駆動するようなスパイラル形状の間隙で構成し,回転時に潤滑流体及び空気を排出部側に駆動して潤滑流体を排出部側に移送すると共に連通領域内に於いて内径側に向かう空気及び潤滑流体蒸気の流路抵抗を大として潤滑流体蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制する。
【0023】
請求項11の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内に形成した連通領域の経路は吸入部から排出部まで少なくとも半径が小と成らないよう構成し,回転時に遠心力で駆動される潤滑流体が円滑に排出部側に移動し,連通領域内に滞留する潤滑流体量を小とすることを特徴とする。
【0024】
請求項12の発明は,請求項1に於いて,スリーブと軸及び或いは環状部材との対向面の何れかに動圧グルーブを複数個有する場合には,少なくとも最外径に位置する動圧グルーブにスリーブ内周面上端方向への潤滑流体圧送能力を持たせ,動圧グルーブ間に負圧を発生しないように構成することを特徴とする。内径側の動圧グルーブのみに潤滑流体圧送能力を持たせた場合には動圧グルーブ間に負圧を発生させ,潤滑流体循環に支障を生じさせると共に潤滑流体漏れを生じる可能性がある。
【0025】
請求項13の発明は,請求項1に於いて,スリーブ外周下部はスリーブ下端面より離れるに従って縮径させ,スリーブ外周部と環状部材とで構成する潤滑流体溜まり部に於いて潤滑流体の大気との境界面とスリーブ外周部との交点が径方向最外側に存在する動圧グルーブ外径より内径側に存在するよう配置構成し,高速流動する潤滑流体に作用する遠心力により前記動圧グルーブ外径近傍に圧力を加え,前記動圧グルーブ外径近傍で生じやすい負圧拡大を防止し,気泡滞留を阻止する。スリーブ端と対向する面上にスリーブ端より大径のスパイラルグルーブを形成すれば最も望ましい構成となる。
【0026】
請求項14の発明は,請求項1に於いて,スリーブ外周下部はスリーブ下端面より離れるに従って縮径すると共に対向する環状部材との間隙を徐々に大として潤滑流体の大気との境界を保持して潤滑流体溜まり部を形成すると共にスリーブの軸方向への移動を規制する契合部をスリーブ外周面及び環状部材内周面間の潤滑流体が接する部分に持つ。過大な衝撃によりスリーブが軸方向上方に移動して契合部で接触摺動しても潤滑流体が存在するので損傷或いは摩耗扮発生等の重大な支障を回避できる。
【0027】
請求項15の発明は,請求項1に於いて,固定軸は上端方向に先細となる円錐凸形状として,スリーブは前記固定軸に嵌合する円錐凹形状とし,固定軸及びスリーブ間に一以上の動圧グルーブを有し,少なくともその一つはスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有する。固定軸及びスリーブ共に拡開する円錐形状で型整形によって製造容易で低コスト量産に適する構造である。また厚みに比してベアリング面を長く出来るので複数の動圧グルーブでも収納が容易となる。動圧グルーブを軸方向に唯一つとした場合でも円錐頂点を支点とした姿勢復元力を発生出来,最も薄型の軸固定型の動圧流体軸受モータを実現できる。
【0028】
請求項16の発明は,請求項1に於いて,固定軸は円筒状とし,スリーブは円筒状内周面を有して固定軸に回動可能に嵌合し,且つ固定軸と直交するスリーブ下端面で環状部材と対向し,互いに対向する固定軸外周面とスリーブ内周面の何れかの面及び互いに対向する環状部材とスリーブ下端面の何れかの面のそれぞれに動圧グルーブを有する構造とし,少なくともスリーブ下端面近傍に配置された動圧グルーブは内周方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとする。
【0029】
請求項17の発明は,請求項16に於いて,円筒状固定軸とスリーブ内周面との対向面には一以上のヘリングボーングルーブを有し,環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかには潤滑流体を内周方向に圧送する能力を有する不平衡のヘリングボーングルーブを配置する。スリーブ内周面と固定軸対向面間にヘリングボーングルーブが唯一つである場合には環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかに有する不平衡のヘリングボーングルーブで回転部姿勢の復元力を発生させる。
【0030】
請求項18の発明は,請求項16に於いて,円筒状固定軸とスリーブとの対向面の何れかに二つのヘリングボーングルーブを有して少なくとも一方のヘリングボーングルーブはスリーブ下端面方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブとし,環状部材とスリーブ下端面の対向面の何れかにポンプインのスパイラルグルーブを有し,前記スパイラルグルーブの潤滑流体圧送能力は遠心力及び前記不平衡グルーブの潤滑流体圧送能力に抗してスリーブ上端方向に潤滑流体を圧送出来る程に大としたことを特徴とする。
【0031】
請求項19の発明は,請求項16に於いて,スリーブ下端面と対向する環状部材の一部を円筒軸のフランジ部として一体化したT字状軸とし,フランジ部の径方向面で位置を規制し,スリーブ下端面と対向するフランジ面外周とベースプレートの一部とが軸方向に対向固定される構造とする。フランジ部分の厚みを小としてもT字状軸のベースプレートに対する直角度及び固定強度を確保してラジアルベアリング領域を大に出来る事を特徴とする。
【0032】
請求項20の発明は,筐体と,記録ディスクと,記録ディスクを搭載回転させるモータと,記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを少なくとも有する記録ディスク装置であって,前記モータとして請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータを使用した薄型記録ディスク装置である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば,二つの潤滑流体境界面を有する軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,回動するスリーブ内にスリーブ内周面上端近傍からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域を形成し,スリーブ内周面上端近傍の潤滑流体を遠心力により連通領域に振り切りスリーブ下端外径近傍にまで移送させ,固定軸とスリーブ間には潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送する動圧グルーブを有し,動圧グルーブと遠心力により潤滑流体を循環させて潤滑流体を封止する。
【0034】
さらに,連通領域は潤滑流体を表面張力によって保持できる程に小さい間隙で構成し,静止時には潤滑流体を連通領域に吸収保持して漏れ難くし,回転時には遠心力により潤滑流体を連通領域から排出してベアリング領域に供給する。
【0035】
両端軸固定型軸受でスリーブ上端近傍での潤滑流体漏れが最も懸念されるが,潤滑流体に作用する遠心力によりスリーブ中の連通路に振り切る新規な潤滑流体封止構造として軸方向にスペースを要する従来のテーパーシールを不要とし,気泡排除機能も同時に実現する。単円錐形状の軸受,円筒状軸受等に適用できて薄型の軸固定型動圧流体軸受モータを実現する。
【0036】
また,上記軸固定型動圧流体軸受モータを用いて薄型記録ディスク装置を容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に本発明による軸固定型動圧流体軸受モータ及びそれを用いた薄型記録ディスク装置について,その実施例及び原理作用等を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0038】
図1は,本発明の第一の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。固定軸(以下、円錐状軸11又は軸11と呼ぶ)は円錐凸状面を有し,スリーブは外筒12及び内筒13とより構成され,内筒13は円錐状軸11外周と微小隙間を有して回転自在に嵌合するよう円錐状内周面を有する。軸11は下端の径方向の面1eをベースプレート16との位置確定に用い,軸長方向の面1dで接着強度を確保してベースプレート16に固定する。外筒12,内筒13を含む回転部を軸方向に磁気吸引するためにローターマグネット17に対向してベースプレート16に固定された磁性体片19を有する。番号15は磁気ディスクを搭載するハブを,番号18はステータコアを,番号1aは回転駆動用のコイルをそれぞれ示す。外筒12の外周下部と対向する環状部材1cはベースプレート16の一部として形成されている。潤滑流体は軸11と内筒13との間隙及び外筒12外周と環状部材1cとの間隙に連続して充填され,図3に拡大して示すように大気との境界面33,34を内筒13の上端近傍及び外筒12外周下部に有する。番号1bは外筒12,内筒13を含む回転部の軸長方向への移動量規制の為の抜け止めであって,環状部材1cの上端に固定して外筒12外周の段差部分に契合させる。
【0039】
図2は図1のモータのスリーブを構成する内筒13及び外筒12の斜視図である。図2(a),図2(b)はそれぞれ外筒12,内筒13を示す。外筒12はアルミ板をプレス成形で形成し,内筒13はSUS材を切削加工して形成する。内筒13表面には外筒12と組み合わせて連通領域14を形成させるための径方向溝25を二カ所形成し,軸11を挿通させる孔22周囲には連通領域14の吸入部を構成する周回溝23が設けられている。
【0040】
内筒13外周面を外筒12内周面に嵌合し,内筒13表面の溝25以外の凸部24で外筒12の内周面に接着固定する。外筒12の上端開口21の径は内筒13内周面22の径より小とする。溝25の深さを例えば50ミクロンメートル程度とすることで、形成された連通領域14に表面張力により潤滑流体を保持できる能力を持たせる。
【0041】
連通領域14は内筒13表面に形成した溝25で形成するので連通領域の間隙制御は容易であり,また溝25を内筒13外周表面を平面上に研削加工して連通領域14断面を狭間隙部及び大間隙部を有する三日月状とすることも容易である。
【0042】
内筒13は切削加工によって形成する他に焼結合金の型整形によっても形成でき,その場合には上記周回溝23及び溝25を型により形成できるので製造コストを低減できる。また,外筒12をプレス成形によって構成する際に外筒12の内周面に凹凸を同時に形成して連通領域14とすることも出来る。
【0043】
図2は円錐状ベアリング面を有するスリーブの構成を示したが,円筒状のベアリング面を有するスリーブ構成にも適用できる。
【0044】
軸11が内筒13と対向する表面に動圧発生用のグルーブとしてヘリングボーングルーブ1f,1gを形成し,外径側のヘリングボーングルーブ1gは遠心力に抗して潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送するよう不平衡に形成する。内径側の動圧グルーブに潤滑流体圧送能力を持たせても本発明の目的とする機能を発揮できるが,動圧グルーブ間に負圧発生の可能性が残る。複数の動圧グルーブが存在する場合には最外径の動圧グルーブに潤滑流体圧送能力を持たせて潤滑流体を押すようにして循環させる方法が望ましい。
【0045】
図3は図1に於ける軸受部を拡大して示し,動作原理を説明する。図3では判りやすいように左半分のみに連通領域14,ヘリングボーングルーブ1f,1gを示し,右半分には潤滑流体の移動方向31,32を点線で示す。番号33,34は潤滑流体のエアとの境界面を示す。
【0046】
ヘリングボーングルーブは互いの方向に潤滑流体を圧送する対のスパイラルグルーブで構成され,潤滑流体の圧送能力を等しく構成しない場合は不平衡のヘリングボーングルーブとして一方向に潤滑流体圧送能力を有する。ヘリングボーングルーブ1gは内径方向,つまりスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有するよう設定する。
【0047】
内筒13及び外筒12が回転すると,ヘリングボーングルーブ1f,1gはそれぞれの中央近傍で潤滑流体圧力を局所的に高め,内筒13及び外筒12を非接触で支持する。同時にヘリングボーングルーブ1gは不平衡に構成されて潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送するので潤滑流体は点線31で示す方向に流動し,吸入部となる内筒13上端近傍で潤滑流体に作用する遠心力により連通領域14内に振り切られる。連通領域14内の潤滑流体は遠心力によって更に加速されて外筒12の内周面に沿って排出部となる外筒12の下端外径近傍に導かれる。点線32は連通領域14内を流動する潤滑流体の方向を示している。最も潤滑流体漏れが懸念されるスリーブ上端近傍に於いては潤滑流体に直接作用する遠心力により潤滑流体は連通領域14内に振り切られるので漏れは完全に阻止される。
【0048】
また上記潤滑流体封止の構造は気泡排除の機能をも有する。すなわち,軸11と内筒13間に気泡が存在しても潤滑流体の点線31に示す流れによってスリーブ上端近傍にまで運ばれ,この吸入部で潤滑流体には遠心力が働いて点線32に示すように振り切られるが,気泡には遠心力が働かないので大気に解放されることになる。
【0049】
図4を用いて静止時及び回転時に於ける潤滑流体の挙動をさらに説明する。同図に於いて,左半分は静止時の状態を示して内筒13は軸11に一部が接触し,右半分は回転時の状態を示して内筒13は浮上して軸11とは非接触となる様子を示している。図4の左右の図に於いて,注目すべき点は潤滑流体の位置である。同図左半分では潤滑流体が連通領域14(番号41で示す)及び軸11と内筒13間にのみ存在する。同図右半分で潤滑流体は軸11と内筒13間及び外筒12と環状部材1c間(番号42で示す)に存在する。
【0050】
静止時には連通領域14内の間隙が50ミクロンメートル程度と小さいのでその間隙より大の間隙である外筒12と環状部材1c間の潤滑流体を排出部から吸収し,回転時には遠心力により潤滑流体を連通領域14から外筒12と環状部材1c間及び軸11と内筒13間に供給する。したがって,スリーブ上端近傍に於いて,外筒12,内筒13,軸11の3者で構成する空間43の間隙を連通領域14を構成する間隙より大に設定すれば,静止時に潤滑流体は表面張力により連通領域14に引き込まれて上記空間43に存在することは無く,また回転時には遠心力により潤滑流体が連通領域14に振り切られてしまうのでやはり上記空間43に存在することは無い。従来のテーパーシール構造に比して短い軸長スペースで潤滑流体を効果的に封止出来る。
【0051】
連通領域14を単一の微小孔で形成した場合に気泡が入り込むと静止時に潤滑流体を吸収し難くなる。本実施例では少なくとも連通領域14は内筒13表面に形成した複数の幅の広い溝で形成するので気泡の影響を受け難い。さらに連通領域14を構成する前記溝の断面を間隙が徐々に変化するテーパー状とすれば間隙大の部分を通気領域として気泡は解放され,気泡による不具合の可能性は無くなる。スリーブを内筒13,外筒12で構成する場合には連通領域14を構成する溝断面形状の調整も容易である。
【0052】
静止時に潤滑流体を連通領域14に引き込む量は連通領域14の収容能力による。連通領域14の容積を調整することによって静止時に外筒12と環状部材1c間に滞留させる潤滑流体(番号42で示す)の量を調整できる。これはまた連通領域14内の間隙と外筒12と環状部材1c間の間隙にも依存する。回転起動するに際して潤滑流体は連通領域14から供給されるが,時間遅れがあるので起動時の潤滑が不十分となる可能性があり,これは上記寸法諸元の調整により静止時にも外筒12と環状部材1c間に適当な量の潤滑流体が常に滞留するよう設定する。静止時に潤滑流体を連通領域14に吸収しないよう設定するには連通領域14を構成する間隙を表面張力によって潤滑流体を保持し難い程大の間隙,例えば0.5ミリメートル程度以上に設定する。
【0053】
外筒12上端面の開口径は内筒13の内周面の径より小に設定した。回転時に内筒13内周面に沿って流動する潤滑流体を堰き止める作用も期待できるが,潤滑流体は外筒12上端面に至る前に連通領域14に振り切られるので漏れ防止の完全を期す安全策である。むしろ静止時に潤滑流体は連通領域14に保持され,潤滑流体の境界が吸入部に存在するので潤滑流体境界をモータ外より内部に遠ざけ,漏れの可能性を小にする役割が大である。さらに外筒12上端面の開口と軸11との間隙を小にする事で空間43内に於ける潤滑流体蒸気圧を高めて潤滑流体の蒸発を抑制する効果がある。
【0054】
図5は連通領域14に所要量の潤滑流体を吸収保持できることを利用して潤滑流体が注入された軸受を容易に組み立てることが出来る例を示す。図5(a)は外筒12及び内筒13とを組み合わせたスリーブ51の下端を潤滑流体53中に浸して連通領域14内に表面張力を利用して潤滑流体を所定量吸収させる事を示す。番号52は潤滑流体の容器を,番号54はスリーブ51を潤滑流体53内に浸す深さ調整用部材をそれぞれ示す。
【0055】
図5(b)は軸11,ベースプレート16,磁性体片19,ステータコア18,コイル1a等の組み立て体を示す。図5(a)で示した潤滑流体を所定量保持するスリーブ51を図5(b)に示す組み立て体に挿入して潤滑流体注入を完了する。その後に図5(c)に示すように抜け止め部材1b,ハブ15を順次固定して組み立てを終了する。組み立て後にモータを回転駆動すれば遠心力により潤滑流体は連通領域14より排出されて上記に説明した動作原理に従って所定の位置に移動する。
【0056】
このようにスリーブ内の連通領域14内に潤滑流体を保持できることを利用して容易に潤滑流体注入を行うことが出来,従来必要であった潤滑流体注入用の真空プロセスは全く不要として製造コストを低減できる。また,本発明の潤滑流体封止構造がほぼ完全な気泡排除機構を有することを利用して,図5(b)の組み立て体に所定量の潤滑流体を滴下して潤滑流体注入を行うとする工程も,軸受部の組み立て後にスリーブ外周と環状部材との間隙部に潤滑流体を滴下して潤滑流体注入を行うとする工程も採用できる。何れの方法によっても大気圧下で特別の機器を必要とする事の無い工法であって製造コスト低減に有効である。
【0057】
磁性体片19は珪素鋼板,フェライト,パーマロイ等の磁性体で構成してローターマグネット17と協働して回転部と固定部間に磁気吸引力を発生させる。ローターマグネット17は回転駆動用に磁化が交互に反転するよう着磁されているので回転時に磁性体片19に渦電流を生じさせる。珪素鋼板よりパーマロイ或いはフェライトが渦電流の影響を受け難いので高速回転用には適している。磁性体片19のみで磁気吸引力が不足する場合にはステータコア18とローターマグネット17の位置を軸方向に偏倚させて磁気吸引力を発生させて補うことが出来る。
【0058】
ヘリングボーングルーブ1f,1gが発生させる負荷容量の軸方向成分と磁気吸引力とを平衡する位置で回転部を浮上支持する。モータを使用する姿勢条件,つまり正立,倒立,横置き等によって回転部重量のベアリング部に拘わる負荷は異なり,回転部の浮上量は異なる。磁気吸引力は外筒12,内筒13,ハブ15,ローターマグネット17,さらに搭載する磁気ディスク等を含む回転部総重量の3倍程度以上に設定してHDDの如何なる姿勢においても軸方向下方には一定以上の負荷を加え,回転部姿勢を精密に保持する。
【0059】
動圧グルーブの構成に関し,軸11の円錐面に二つのヘリングボーングルーブを用いた例を示したが,軸11の円錐面上に一つのヘリングボーングルーブのみでも回転部の浮上支持と回転部姿勢の制御が可能であり,さらに薄型の動圧流体軸受モータを構成できる。軸受部分の構造及び回転部姿勢制御の動作原理は特開2003−32961に詳述されているので説明は省略する。
【0060】
本実施例では連通領域14を内筒13,外筒12間の間隙として形成したが,スリーブ内筒13を微小な隙間を多く有する多孔質素材で形成してそれら微小隙間で連通領域14を形成することも可能である。外筒12内に焼結合金素材を充填させて内筒13を形成する構造で同時にヘリングボーングルーブ1f,1gをも形成できる。微小な隙間はヘリングボーングルーブ1f,1gの形成された領域表面にも存在し,潤滑流体はそれら表面の隙間からも内筒13内に浸透し,ヘリングボーングルーブ1fでは潤滑流体不足を生じる可能性がある。この場合には外筒12との境界近傍を除く内筒13の表面の微小隙間に潤滑性の良い樹脂を含浸させて封孔処理を行って構成する。
【0061】
本実施例で構成及び動作原理を説明した新規な潤滑流体封止構造はスリーブ上端近傍で必要な軸長方向のスペースを小と出来ることに特徴がある。図4を参照すれば軸長方向に必要なスペースは外筒12の厚みと外筒12,内筒13,軸11の3者で構成する空間43の軸長方向の長さの和である。外筒12は0.2ミリメートル程度の薄板をプレス或いは絞り加工で形成するとし,後者は連通領域14の間隙50ミクロンメートルより大の0.1ミリメートルに設定するとして0.3ミリメートルで構成できる。これらの値はさらに詰めることが出来,従来のテーパーシールに比して軸長方向にかなり小さな値で信頼できる潤滑流体封止構造を実現できる。
【実施例2】
【0062】
第一の実施例は円錐軸受の例であったが,図6に示す第二の実施例は円筒軸に本発明の潤滑流体封止構造を適用した例である。T字状円筒軸61に回動可能に嵌合するスリーブは内筒63,外筒62で形成し,外筒62と内筒63間の間隙に連通領域64を有する。潤滑流体は軸61と内筒63間及び外筒62と環状部材1c間に連続して存在する。内筒63の内周面に一つのヘリングボーングルーブ66を有し,内筒63の下端面と対向する軸61のフランジ部分65には遠心力に抗して内周方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ67を形成することで、スラストベアリングを構成する。ベースプレートの一部である環状部1c及び軸61のフランジ部分65が請求項1に記述する環状部材に相当する。その他の部分は図1に示した第一の実施例と同じで同一の部材には同一の番号を付している。
【0063】
ラジアル及びスラストベアリングの動圧グルーブの組み合わせに関しては特開2000−350408の例に近いが,内筒53下端面近傍に不平衡のヘリングボーングルーブ67を配置して潤滑流体を内筒63内周面の上端方向に流動させる点が異なっている。特開2000−350408の例では量産時のバラツキによりそれぞれのヘリングボーングルーブが潤滑流体を流動させ,潤滑流体漏れをかなりの確率で生じさせる可能性があるが,図6の例では本発明の潤滑流体封止構造を採用して潤滑流体が漏れることは無い。
【0064】
図7は図6に於ける軸61及びスリーブ近傍を拡大して示す。不平衡ヘリングボーングルーブ67には遠心力に抗して潤滑流体を内筒63の上端方向に圧送するに十分な潤滑流体圧送能力を持たせる。潤滑流体はヘリングボーングルーブ67外周から内筒63内周面上端近傍まで点線71で示すように圧送され,内筒63内周面上端近傍で遠心力により連通領域64内に振り切られ,ヘリングボーングルーブ67外周近傍に環流する。潤滑流体が効果的に封止される事,気泡が分離される原理等は図3,図4を用いて説明した第一の実施例と同じである。点線71,72はそれぞれ図3に於ける点線31,32に対応している。
【0065】
点線73で示す円内にはスリーブ上端近傍の構造をさらに拡大して示す。番号74は軸61の肩部を示し,番号74より下の領域がラジアルベアリングの領域である。ヘリングボーングルーブ66の上端はほぼこの番号74のレベル近傍にある。番号75は内筒63内周面に周回するよう設けた環状凸部であり,その高さは図7では内筒63と軸61間の間隙2ミクロンメートルのほぼ半分に設定してある。不平衡ヘリングボーングルーブ67により圧送された潤滑流体76はこの環状凸部75を乗り越えて連通領域54に振り切らせ,ヘリングボーングルーブ66上端近傍に常に潤滑流体76溜まり部が形成される事を目的としている。環状凸部75の高さは内筒63と軸61間の間隙程度が望ましくそれ以上に大としても効果はあまり変わらない。また環状凸部75を形成する替わりにヘリングボーングルーブ66の上端を連通領域64の吸入部近傍まで延伸させることもヘリングボーングルーブ66上端近傍に潤滑流体を存在させることに効果がある。
【0066】
図6,図7に於いて,ラジアルベアリングは内筒63内周面のヘリングボーングルーブ66のみであり,回転部を軸61に調芯させることは出来ても,回転部が傾いた場合に十分な姿勢復元モーメント力を発生させることは出来ない。本実施例ではスラストベアリングである不平衡ヘリングボーングルーブ67により回転部姿勢の復元モーメント力を発生させる。すなわち,回転部が傾くと内筒63の下端面も傾き,フランジ部分65との間隙が変化する。間隙が大小に変化した領域近傍で不平衡ヘリングボーングルーブ67がその径方向中間で局部的に圧力を高める程度は間隙に反比例するので回転部の姿勢復元のモーメント力を発生し,回転部姿勢を復元する。ラジアルベアリングが一つのみであるので薄型HDDに適する。
【0067】
図6に示すような軸固定構造で通常は軸をベースプレートに圧入して接着固定する。その場合に締結強度及び両者の直角度精度を考慮すると締結部の軸方向厚みとして1ミリメートル弱程度は確保したい。第二の実施例では内筒63下端面と対向する部分をフランジ部分65として軸と一体化したT字状軸61とした。フランジ部65の厚みの必要最小限を0.5ミリメートル程度とすると,0.5ミリメートル程度をラジアルベアリングスペースとして捻出できることになる。ただ,T字状軸61とベースプレート16との締結強度及び直角度は確保しにくくなるので図6ではT字状軸61のフランジ部分65の径方向の面1eでT字状軸61のベースプレート16に対する位置を規制し,スラストベアリングを形成するフランジ面の外周面1dでベースプレート16との接着固定強度と直角度を確保している。
【0068】
本実施例ではスラストベアリングを唯一つとして動圧による軸方向の負荷容量と磁気吸引力とを平衡させている。しかし,これは回転起動時及び停止時に内筒63下端面をフランジ部分65に磁気吸引力を加えて接触摺動させる結果となっている。本実施例では接触摺動による損傷を避ける為に内筒63下端面には二流化モリブデンを主とする固体潤滑剤を10ミクロンメートル程度塗布している。他に固体潤滑膜としてDLC膜を1ミクロンメートル程度形成しても効果がある。また更に回転時の摩擦力を減少させて起動を容易にする為に内筒63下端面或いはフランジ部分65の一部に数ミクロンメートルの高さの突起を円周状或いはスポット状に形成する方法も考えられるが,既にフライイングヘッド技術で公知であるので説明は省略する。
【実施例3】
【0069】
図8は第三の実施例を示す。第二の実施例と同じく円筒軸の例であり,図6に示した第二の実施例と異なる点を中心にして説明する。
【0070】
T字状円筒軸61に回動可能に嵌合するスリーブは内筒85,外筒84で形成し,外筒84と内筒85間の間隙に連通領域86を有する。T字状軸61と内筒85内周面との間にはラジアルベアリングとして二つのヘリングボーングルーブ81,82とを有し,下側のヘリングボーングルーブ82は下方に潤滑流体圧送能力を有するよう不平衡に形成する。さらに内筒85下端面と対向する軸61のフランジ部分65にはポンプインのスパイラルグルーブ83を形成してある。回転時に不平衡ヘリングボーングルーブ82とスパイラルグルーブ83は潤滑流体を押し合うことで内筒85下端面の潤滑流体圧力を高め,得られた軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡に達した点で回転部を非接触で支持する。
【0071】
スリーブを構成する外筒84及び内筒85が回転すると,潤滑流体はヘリングボーングルーブ81,82及びスパイラルグルーブ83により局部的に圧力を高められスリーブを構成する外筒84,内筒85を非接触で支持する。ここでヘリングボーングルーブ82が下側に潤滑流体圧送能力を有するように構成され,所定の回転速度に於いて,ヘリングボーングルーブ82の潤滑流体圧送能力をスパイラルグルーブ83のそれよりも小に設定してあるので潤滑流体はヘリングボーングルーブ82,81を超えて内筒85の上端方向に流れ続け,外筒84及び内筒85の間隙に形成されている連通領域86に遠心力で振り切られ,さらに外筒84の内周近傍に移送され,結局は内筒85の下端外周近傍の排出部に至る。
【0072】
外筒84,内筒85間に形成する連通領域86の形状は他の実施例と異なっている。すなわち,図9(a)に示すように内筒85内周面に開口する連通領域86の吸入部は番号91で示すように内筒75内周面に周回して開口する形状とし(図2に示す周回する溝23に対応),吸入部91から外径方向に伸びる連通領域86はポンプアウトのスパイラル形状の溝92で形成する。番号93はスパイラル形状の溝92に連続して内筒85外周面と外筒84外周面を上方から下方に形成された溝を示す。番号94は回転部の回転方向を示す。
【0073】
回転時に潤滑流体が内筒85内周面に沿って上端方向に移送され,遠心力により吸入部91内に振り切られる。潤滑流体は更に遠心力で外径方向に駆動され,スパイラル状溝92部を介して外径側に移送される。連通領域86を構成する溝92,93には移送される潤滑流体及び空気及び潤滑流体の蒸気が存在するが,スパイラル状溝92により外径方向に駆動され,空気及び潤滑流体蒸気の内径方向への流路抵抗を実質的に大として溝92,93に於ける潤滑流体の蒸気圧を高め,潤滑流体の更なる蒸発を抑制する。溝92,93の形状は複雑であるが,内筒85の型成形,或いは外筒84のプレス成形で容易に形成できコストアップさせることは無い。
【0074】
さらに内筒85上端に構成する連通領域86の吸入部91は軸長方向には数ミクロンメートルの間隙として構成すれば十分であり,吸入部91近傍に於ける空気の流路抵抗を大にして溝92,93で形成する連通領域86内の潤滑流体蒸気圧を高めて潤滑流体の蒸発抑制に寄与出来る。
【0075】
回転部の軸長方向移動量規制の為には潤滑流体の接する部分に契合部分88を有する。図10に拡大して示すように外筒84の外周下部は下端から上方へ離れるに従って縮径し環状部材87(図1の実施例の1cに対応)との間隙を徐々に大としてテーパーシール部を形成させる。さらに環状部材87の面101と外筒84外周部から突出させた面102とが契合する構造として契合部とする。環状部材87の内周面は僅かに外筒84外周側に傾斜させているが,この傾斜をさらに明確として外筒84外周下部の傾斜と契合させて位置規制を行わせる構造も可能である。過大な衝撃によりスリーブが上方に移動して契合部で接触摺動しても潤滑流体が存在するので損傷或いは摩耗扮発生等の重大な支障を回避できる。
【0076】
高速回転でスパイラルグルーブ83外周部は負圧を生じやすい部分であるので拡大した図10を用いて対処策を説明する。スパイラルグルーブ83では潤滑流体が内径方向に圧送される一方で,外径方向への遠心力が働いて外周部では潤滑流体圧力は低下して負圧となり,気泡が滞留しやすくなる。一方,潤滑流体103のエアとの境界104で環状部材87に接する境界106は静止し,外筒84に接する境界105は外筒84と共に高速で流動する。
【0077】
本実施例ではスパイラルグルーブ83の外径が内筒85外径より大に,つまり潤滑流体の境界103の高速流動側(番号105で示す)より外径側に配置してある。したがって高速で回転流動する潤滑流体に作用する遠心力が外筒84表面に沿って積算され,潤滑流体内の圧力は内筒85下端の外周近傍で最も高くなる。このようにスパイラルグルーブ83の外径近傍に遠心力を利用して圧力を加え,負圧発生を防止する構造としている。
【0078】
さらに本実施例では潤滑流体注入を容易にする手段として図8,9に示すように外筒84及び環状部材87間の潤滑流体溜まり部に中空パイプ89を配置してある。本発明の潤滑流体封止構造はほぼ完全な気泡排除機能を有するので大気中で潤滑流体を滴下することで潤滑流体注入を完了できる。しかし,本実施例のように番号88で示すような契合部を有する場合には軸受部の組み立て後に外筒84,環状部材87間の間隙から潤滑流体を注入しなければならず,間隙が小さい場合には容易ではない。
【0079】
本実施例では組み立て時に一端が外筒84及び環状部材87間の潤滑流体溜まり部に開口する中空のパイプ89を埋め込む。軸受部の組み立てが終了した後に中空パイプ89を介して潤滑流体を注入し,中空パイプ89を封じきって注入工程を終了する。中空パイプ89の素材としては金属,樹脂,ガラス等が使用でき,一端を封止する手段には溶融,押し潰し等がある。
【0080】
本発明では従来のテーパーシールに替わる新規な潤滑流体封止構造を提案し,動作原理と共にその特徴を説明した。適用例として軸受面を直線とした円錐軸受,円筒軸受等を実施例を挙げて説明したが,それらに加えて軸受面を曲線とした構造にも適用できる。
【0081】
また,本発明で提案した新規な潤滑流体封止構造はテーパーシールとの併用を排除する訳では無い。テーパーシールを持つ動圧流体軸受モータのスリーブ内に連通領域を配置して潤滑流体封止を強化することも可能である。
【実施例4】
【0082】
本発明の第四の実施例として薄型記録ディスク装置を構成した例を示す。図11には第三の実施例である図8の軸固定構造動圧流体軸受モータを用いて構成した薄型記録ディスク装置(薄型HDD)構成の例を示す。
【0083】
図11(a)に示した薄型HDDはベースプレート16となる筐体111上に軸固定構造動圧流体軸受モータ116が形成される。磁気ディスク113が前記モータ116に装着され,磁気ディスク113上の所定位置に磁気ヘッド114を位置決めするアクチュエータ115が配置されている。カバー112は筐体111に固定され,軸61はカバー112に下側から当接してカバー112を支持する構成としてある。電子回路或いはHDD内環境を制御するフィルター機構等は図示されてない。
【0084】
図11に於いて,軸固定構造動圧流体軸受モータ116には内部の軸受のみを示し,図11(b)に拡大図を示す。本実施例で磁気ディスクの径として25ミリメートル程度,薄型HDDの厚みとして3ミリメートル程度を想定している。
【0085】
HDDの厚みが制約されているので軸61をカバー112に固定するボルトは略し,軸61はカバー112に内部から当接してカバー112の内側への変形防止の支柱として使用している。番号118はカバー112の厚みを,番号119はカバー112内側からスリーブ表面までの距離を,番号11aは外筒84の軸長方向の厚みを,番号11bは外筒84の下側から軸61の肩(ヘリングボーングルーブ81の上端レベル)迄の距離を,番号117は筐体111下面からヘリングボーングルーブ82下端までの距離をそれぞれ示す。番号11cはヘリングボーングルーブ81の上端(軸61の肩)からヘリングボーングルーブ82下端までの距離を示してラジアルベアリング部に確保した長さを示している。
【0086】
番号118,番号119,番号11a,番号11bで示す寸法はそれぞれ0.1ミリメートルに設定し,また番号117で示す寸法は0.5ミリメートルに設定すると,HDDの全体の厚み3ミリメートルから有効なラジアルベアリング部の長さ11cとして2.1ミリメートルが確保できる。ヘリングボーングルーブ81,82としてそれぞれ1ミリメートル弱程度を割り当てれば十分であるので中間にヘリングボーングルーブ82の不平衡分を配置しても3ミリメートル厚の薄型HDDは構成できることになる。
【0087】
本発明の軸固定型動圧流体軸受モータが薄型のHDD実現に適している事を示した。これは本発明のポテンシャルの高さを示すものであり、厚みに余裕のあるHDDに適用すれば従来構造に比して格段に軸振れの小さな動圧流体軸受モータを実現する。本発明は原理的に高速回転に適し,20,000RPM程度の高速回転を必要とする小型のサーバークラスHDDにも適する。さらにラジアルベアリングとして軸長方向に唯一つの動圧グルーブで構成する第二の実施例の軸固定型動圧流体軸受モータを第四の実施例に適用すれば,厚み2ミリメートル弱のHDDを実現できる。
【0088】
以上,実施例を挙げて本発明の動作原理及び構造を説明した。上記実施例は本発明の動作原理を説明するために数例を挙げたのみであって本発明の趣旨を逸脱しない範囲で材料及び構造等の変形が可能なことはもちろんで上記の説明が本発明の範囲を限定しない。例えば,適用例として軸受面を直線とした円錐軸受,円筒軸受等を実施例を挙げて説明したが,それらに加えて軸受面を曲線とした構造にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
動圧流体軸受内の潤滑流体挙動を検討して薄型でも潤滑流体漏れの無い軸固定型動圧流体軸受モータを実現したので回転部姿勢を高精度に維持する必要のある高速の記録ディスク装置用モータ及び筐体カバーの支柱が必要な薄型記録ディスク装置に特に適する。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】第一の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図2】図1に於けるスリーブの内筒及び外筒の斜視図を示す。
【図3】図1に於ける軸受部の拡大された縦断面図を示す。
【図4】図1に於ける軸受部の拡大された縦断面図を示す。
【図5】図1に於ける潤滑流体注入の工程例を示す。
【図6】第二の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図7】図6に於ける軸受部の拡大された縦断面図を示す。
【図8】第三の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図9】図8の軸受部の拡大図,連通領域を構成する溝形状を示す。
【図10】図8のスリーブ下端外周近傍の形状を拡大して示す。
【図11】第四の実施例である薄型HDDの縦断面図を示す。
【符号の説明】
【0091】
11・・・円錐状軸, 12・・・スリーブ外筒,
13・・・スリーブ内筒, 14・・・連通領域,
15・・・ハブ, 16・・・ベースプレート,
17・・・ローターマグネット, 18・・・ステータコア,
19・・・磁性体片, 1a・・・コイル,
1b・・・抜け止め, 1c・・・環状部材,
1d,1e・・軸11のベースプレート16との接合面,
1f・・・ヘリングボーングルーブ, 1g・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,
21・・・外筒12の上端開口, 22・・・内筒13の内周面開口,
23・・・周回溝, 24・・・内筒13表面の凸部,
25・・・内筒13表面の溝,
31,32・・潤滑流体の移動方向, 33,34・・潤滑流体のエアとの境界面,
41・・・連通領域14内の潤滑流体, 42・・・スリーブ外筒12外周の潤滑流体,
43・・・スリーブ外筒12,スリーブ内筒13,軸11の3者で構成する空間,
51・・・スリーブ, 52・・・潤滑流体容器,
53・・・潤滑流体, 54・・・深さ調整用部材,
61・・・T字状軸, 62・・・スリーブ外筒,
63・・・スリーブ内筒, 64・・・連通領域,
65・・・フランジ部分, 66・・・ヘリングボーングルーブ,
67・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,
71,72・・潤滑流体の移動方向,
73・・・スリーブ上端近傍の拡大図, 74・・・軸61の肩部,
75・・・環状凸部, 76・・・潤滑流体,
81・・・ヘリングボーングルーブ, 82・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,
83・・・スパイラルグルーブ, 84・・・スリーブ外筒,
85・・・スリーブ内筒, 86・・・連通領域,
87・・・環状部材, 88・・・契合部分,
89・・・中空パイプ,
91・・・吸入部, 92・・・スパイラル形状の溝,
93・・・連通領域を形成する溝, 94・・・回転方向,
101・・・環状部材87の契合面, 102・・・スリーブ外筒84の契合面,
103・・・潤滑流体, 104・・・潤滑流体の境界面,
105・・・潤滑流体の境界面の外筒84と接する領域,
106・・・潤滑流体の境界面の環状部材87と接する領域,
111・・・筐体, 112・・・カバー,
113・・・磁気ディスク, 114・・・磁気ヘッド,
115・・・アクチュエータ, 116・・・軸固定構造動圧流体軸受モータ,
117・・・筐体111下面からヘリングボーングルーブ82下端までの距離,
118・・・カバー112の厚み,
119・・・カバー112内側からスリーブ表面までの距離,
11a・・・外筒84の軸長方向の厚み,
11b・・・外筒84の下側から軸61の肩迄の距離,
11c・・・ラジアルベアリング部に確保した長さ
【技術分野】
【0001】
本発明は,記録ディスク装置用の動圧流体軸受モータ及び薄型記録ディスク装置に拘わり,特に従来のテーパーシールに替わる新規の潤滑流体封止構造を用いた軸固定型動圧流体軸受モータ及びそれを用いた薄型記録ディスク装置に拘わる。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気ディスク装置(HDD)用動圧流体軸受モータの軸受構造は潤滑流体と大気との境界を唯一つとして潤滑流体封止が容易な軸回転構造が主体であった。これに対して軸の両端を固定する両端軸固定型動圧流体軸受モータは振動環境下でも回転部の高精度な姿勢保持能力に優れ,また超小型HDDで筐体中央部を軸で支持出来る利点もある。その為,両端軸固定型動圧流体軸受モータの小型化が待望されていたのであるが,比較的大型のモータしか実現されていない。
【0003】
これは潤滑流体と大気との境界を二以上有して潤滑流体漏れを起こしやすい事,部材数が多くて小型化が難しい事等の理由に依る。動圧流体軸受の主要部である動圧グルーブは回転時に潤滑流体を一方に圧送するポンプ作用により局所的に潤滑流体圧力を高めて回動する部材を非接触で支持している。しかしながら動圧グルーブによる潤滑流体圧送能力は動圧グルーブの寸法形状及び部材間の間隙等に大きく依存し,それら諸元はサブミクロンメートルレベルの精度を要して量産で均一に寸法形状を維持する事は事実上不可能である。設計上は平衡で有る筈のヘリングボーングルーブが間隙の傾斜或いは加工精度のばらつきから何れかの方向に潤滑流体を圧送してしまう事は屡々起こり得る。量産時に於ける加工精度ばらつきを許容して尚かつ潤滑流体封止の完全を期すると,米国特許5516212に記述されるように全ての動圧グルーブに圧力平衡用チャネルを具備する非現実的な構造となる。
【0004】
米国特許5516212と趣旨を同じくしながら実現可能な構造として加工精度のばらつき,或いは遠心力存在下でも潤滑流体漏れを解決し得た構造は数例のみである。しかしながら,過去に実現された両端軸固定型動圧流体軸受モータの例は専ら多数の磁気ディスクを搭載して高速回転を前提にした大型の構造であり,小径の磁気ディスク2枚程度以下の小型用途には適合させ難い。すなわち,一以上のスラストプレートを有して軸長方向に部材が多いのでそのまま小型化しても上下ラジアルベアリング間のスパンを確保出来ずに回転部の姿勢を高精度に維持出来ない。また何よりも部材数が多く,低コスト化が困難である。
【0005】
薄型HDDに適用可能な動圧流体軸受モータには特開平06−315242,特開2003−32961に提案された円錐軸受,特開2000−350408,特開2004−173377のシングルスラスト構造等の提案がある。しかしながら特開平06−315242,特開2003−32961に提案された円錐軸受は軸回転構造或いは片端軸固定構造であって直ちに両端軸固定型動圧流体軸受モータに適用は出来ない。特開2000−350408は固定軸にラジアル及びスラストベアリングをそれぞれ一つ有した構造である。ラジアル及びスラストベアリングをヘリングボーングルーブとした構造,ラジアル及びスラストベアリングをそれぞれ不平衡のヘリングボーングルーブ,スパイラルグルーブとした構造を挙げている。前者の構造は量産段階での加工バラツキを考えれば潤滑流体漏れの可能性が残る構造であり,後者の構造は潤滑流体漏れを生じ難いが,回転部の姿勢維持に必要な回転モーメント力を得る事が出来ない。特開2004−173377は潤滑流体封止には成功しているが,上下の不平衡ヘリングボーングルーブは互いに潤滑流体を押し合う方向で不平衡分が上下端にあり,実効的なラジアルベアリングスペースを縮めるので薄型で回転部姿勢を高精度に維持するに難点がある。また,ラジアルベアリング上端に無潤滑の領域が原理的に存在する点も懸念材料となる。
【0006】
動圧流体軸受モータの潤滑流体封止構造に長年用いられてきたテーパーシールもまた薄型HDDでは大きな制約条件である。テーパーシールは潤滑流体の表面張力を利用した封止方法で一般にテーパーシールの開角は10度以下が強度の点で望ましいとされる。さらにテーパーシールの最大間隙は0.3ミリメートル程度が妥当であるが,各部の精度を上げて0.2ミリメートルに抑えてもテーパーシールの長さは開角を10度とすると1.1ミリメートル余となる。厚み3ミリメートル程度以下のHDD用動圧流体軸受モータを潤滑流体封止を満足できるレベルで実現することは不可能となる。
【0007】
【特許文献1】米国特許5516212「Hydrodynamic bearing with controlled lubricant pressure distribution」
【特許文献2】特開平06−315242「スピンドルモータ」
【特許文献3】特開2000−350408「記録ディスク駆動用モータ」
【特許文献4】特開2003−32961「磁気吸引力と平衡させた単円錐動圧流体軸受を有するモータ」
【特許文献5】特開2004−173377「記録ディスク用駆動モータ及び記録ディスク駆動装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって,解決しようとする課題は,テーパーシールに替わる新規な潤滑流体封止構造を提案して,薄型に於いても回転部の姿勢を高精度に維持する軸固定型動圧流体軸受モータ及び薄型記録ディスク装置を創出提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明による軸固定型動圧流体軸受モータは,固定された軸と,軸外周と微小隙間を有して回転自在に嵌合するスリーブと,軸に固定されてスリーブ下端及び外周下部と間隙を持って対向する環状部材と,スリーブと軸及び環状部材との間隙に連続的に存在して大気との境界面をスリーブ内周面上端近傍とスリーブ外周下部の少なくとも2カ所に持つ潤滑流体と,軸及びスリーブ間に軸方向の磁気吸引力を発生させる磁気的手段とを少なくとも有して構成される。スリーブと対向面の何れかに有する動圧グルーブが局部的に潤滑流体圧力を高めて発生する軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡する位置で回転部を浮上支持し,スリーブ内にはスリーブ内周面上端近傍の吸入部からスリーブ下端外径近傍の排出部に至る連通領域を有して吸入部は排出部より内径側に位置する構成とする。回転時にスリーブと軸との間隙中では少なくとも一つの前記動圧グルーブを不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとしてスリーブ内周面上端方向に潤滑流体圧送能力を持たせて潤滑流体を移送し,スリーブ内周面上端近傍で潤滑流体を遠心力で吸入部内に振り切り,吸入部から排出部までは遠心力により潤滑流体を移送することを特徴とする。
【0010】
連通領域はスリーブ外周の潤滑流体境界面より内径側に存在するので回転時に連通領域内に滞留する潤滑流体は無く,連通領域中の大半は空気で占め,流れる潤滑流体は僅かであるので軸受に注入する潤滑流体量の管理は容易であり,また潤滑流体偏在,揺動による回転バランスへの影響も無い。
【0011】
前記動圧グルーブのスリーブ上端方向への潤滑流体圧送能力の許容範囲は広く設定できるので十分に大に設定し,量産時での動圧グルーブバラツキ或いは動圧グルーブの存在する間隙の傾斜等の不具合を吸収してスリーブ上端へ潤滑流体を移送する。
【0012】
請求項2の発明は,請求項1に於いて,上端面と外周面を有する外筒と軸及び或いは環状部材との対向面を有する内筒とでスリーブを構成し,スリーブ内周面の上端近傍からスリーブ下端外径近傍への連通領域を内筒及び外筒間の微小間隙として形成する。小型薄型構造に於いて連通領域を任意形状に容易に形成できる特徴がある。
【0013】
請求項3の発明は,請求項2に於いて,スリーブ内筒の外表面或いはスリーブ外筒の内表面に形成した溝或いは凹凸を有するスリーブ外筒により前記連通領域を構成する。連通領域形成或いは連通領域を構成する断面形状の制御を容易に出来る特徴がある。特に外筒を薄い金属板から絞り加工或いはプレス加工等で形成する工程が容易である。
【0014】
請求項4の発明は,請求項2に於いて,外筒上端面の開口径は内筒内周面上端の口径より小とし,スリーブ内周面上端近傍の潤滑流体が外部に漏洩し難い構造とする。回転時にスリーブ内周面を上端方向に移送された潤滑流体が内筒及び外筒間の微小間隙として形成された連通領域に遠心力により円滑に流入させられる事も期待できる。
【0015】
請求項5の発明は,請求項2に於いて,スリーブ内筒は微小な空孔を有する多孔質素材で構成してスリーブ内周面からスリーブ下端の外周近傍への連通領域を微小空孔で形成する事を特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は,請求項5に於いて,前記多孔質素材で構成された内筒表面の外筒との境界近傍を除いた表面領域に封孔処理を施し,動圧グルーブ領域で潤滑流体がスリーブ内筒内に浸透して潤滑流体不足に陥る事を回避する。
【0017】
請求項7の発明は,請求項1に於いて,連通領域の一部として表面張力により潤滑流体を保持出来る程に小さい間隙部を排出部から連続して有し,静止時に表面張力によって潤滑流体を連通領域内に吸収保持して潤滑流体の大気との境界面を内部に引き込んで潤滑流体を漏れ難くし,回転時には遠心力により潤滑流体を連通領域からスリーブと軸及び環状部材との間隙に供給して動圧流体軸受を構成させる。
【0018】
静止時に潤滑流体の殆どをスリーブ内の連通領域に吸収するので潤滑流体漏れの危険を軽減させる。潤滑流体を表面張力により保持できる程度に小さい連通領域の間隙は潤滑流体の粘度及び周囲の材質によって異なるが,0.2ミリメートル程度以下の適当な値を選択する。
【0019】
請求項8の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内周面上端近傍に於いて固定軸とスリーブとの間隙が大となる領域に連通領域吸入部を配置し,吸入部より下方のスリーブ内周面に微小高さの環状凸部を形成して回転時には前記環状凸部を超えて吸入部へ潤滑流体を振り切るとして所定深さの潤滑流体溜まりを形成させることを特徴とする。
【0020】
潤滑流体は吸入部から連通領域内に遠心力により振り切られるが,川の滝の上流で流速が早くなり水深が浅くなるように吸入部に近い動圧グルーブ端で潤滑流体が不足する事態となる可能性がある。吸入部と動圧グルーブの間に微小高さの環状凸部を設けることにより潤滑流体溜まりを設けて前記動圧グルーブ端での潤滑流体不足を回避させる。環状凸部の高さは固定軸とスリーブとの間隙程度に設定する事が望ましい。
【0021】
請求項9の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内連通領域の吸入部近傍の間隙を他の連通領域部分の間隙より小に設定して連通領域内での潤滑流体蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制する。
【0022】
請求項10の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内に形成した連通領域を回転時に潤滑流体及び空気を外周側に駆動するようなスパイラル形状の間隙で構成し,回転時に潤滑流体及び空気を排出部側に駆動して潤滑流体を排出部側に移送すると共に連通領域内に於いて内径側に向かう空気及び潤滑流体蒸気の流路抵抗を大として潤滑流体蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制する。
【0023】
請求項11の発明は,請求項1に於いて,スリーブ内に形成した連通領域の経路は吸入部から排出部まで少なくとも半径が小と成らないよう構成し,回転時に遠心力で駆動される潤滑流体が円滑に排出部側に移動し,連通領域内に滞留する潤滑流体量を小とすることを特徴とする。
【0024】
請求項12の発明は,請求項1に於いて,スリーブと軸及び或いは環状部材との対向面の何れかに動圧グルーブを複数個有する場合には,少なくとも最外径に位置する動圧グルーブにスリーブ内周面上端方向への潤滑流体圧送能力を持たせ,動圧グルーブ間に負圧を発生しないように構成することを特徴とする。内径側の動圧グルーブのみに潤滑流体圧送能力を持たせた場合には動圧グルーブ間に負圧を発生させ,潤滑流体循環に支障を生じさせると共に潤滑流体漏れを生じる可能性がある。
【0025】
請求項13の発明は,請求項1に於いて,スリーブ外周下部はスリーブ下端面より離れるに従って縮径させ,スリーブ外周部と環状部材とで構成する潤滑流体溜まり部に於いて潤滑流体の大気との境界面とスリーブ外周部との交点が径方向最外側に存在する動圧グルーブ外径より内径側に存在するよう配置構成し,高速流動する潤滑流体に作用する遠心力により前記動圧グルーブ外径近傍に圧力を加え,前記動圧グルーブ外径近傍で生じやすい負圧拡大を防止し,気泡滞留を阻止する。スリーブ端と対向する面上にスリーブ端より大径のスパイラルグルーブを形成すれば最も望ましい構成となる。
【0026】
請求項14の発明は,請求項1に於いて,スリーブ外周下部はスリーブ下端面より離れるに従って縮径すると共に対向する環状部材との間隙を徐々に大として潤滑流体の大気との境界を保持して潤滑流体溜まり部を形成すると共にスリーブの軸方向への移動を規制する契合部をスリーブ外周面及び環状部材内周面間の潤滑流体が接する部分に持つ。過大な衝撃によりスリーブが軸方向上方に移動して契合部で接触摺動しても潤滑流体が存在するので損傷或いは摩耗扮発生等の重大な支障を回避できる。
【0027】
請求項15の発明は,請求項1に於いて,固定軸は上端方向に先細となる円錐凸形状として,スリーブは前記固定軸に嵌合する円錐凹形状とし,固定軸及びスリーブ間に一以上の動圧グルーブを有し,少なくともその一つはスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有する。固定軸及びスリーブ共に拡開する円錐形状で型整形によって製造容易で低コスト量産に適する構造である。また厚みに比してベアリング面を長く出来るので複数の動圧グルーブでも収納が容易となる。動圧グルーブを軸方向に唯一つとした場合でも円錐頂点を支点とした姿勢復元力を発生出来,最も薄型の軸固定型の動圧流体軸受モータを実現できる。
【0028】
請求項16の発明は,請求項1に於いて,固定軸は円筒状とし,スリーブは円筒状内周面を有して固定軸に回動可能に嵌合し,且つ固定軸と直交するスリーブ下端面で環状部材と対向し,互いに対向する固定軸外周面とスリーブ内周面の何れかの面及び互いに対向する環状部材とスリーブ下端面の何れかの面のそれぞれに動圧グルーブを有する構造とし,少なくともスリーブ下端面近傍に配置された動圧グルーブは内周方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとする。
【0029】
請求項17の発明は,請求項16に於いて,円筒状固定軸とスリーブ内周面との対向面には一以上のヘリングボーングルーブを有し,環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかには潤滑流体を内周方向に圧送する能力を有する不平衡のヘリングボーングルーブを配置する。スリーブ内周面と固定軸対向面間にヘリングボーングルーブが唯一つである場合には環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかに有する不平衡のヘリングボーングルーブで回転部姿勢の復元力を発生させる。
【0030】
請求項18の発明は,請求項16に於いて,円筒状固定軸とスリーブとの対向面の何れかに二つのヘリングボーングルーブを有して少なくとも一方のヘリングボーングルーブはスリーブ下端面方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブとし,環状部材とスリーブ下端面の対向面の何れかにポンプインのスパイラルグルーブを有し,前記スパイラルグルーブの潤滑流体圧送能力は遠心力及び前記不平衡グルーブの潤滑流体圧送能力に抗してスリーブ上端方向に潤滑流体を圧送出来る程に大としたことを特徴とする。
【0031】
請求項19の発明は,請求項16に於いて,スリーブ下端面と対向する環状部材の一部を円筒軸のフランジ部として一体化したT字状軸とし,フランジ部の径方向面で位置を規制し,スリーブ下端面と対向するフランジ面外周とベースプレートの一部とが軸方向に対向固定される構造とする。フランジ部分の厚みを小としてもT字状軸のベースプレートに対する直角度及び固定強度を確保してラジアルベアリング領域を大に出来る事を特徴とする。
【0032】
請求項20の発明は,筐体と,記録ディスクと,記録ディスクを搭載回転させるモータと,記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを少なくとも有する記録ディスク装置であって,前記モータとして請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータを使用した薄型記録ディスク装置である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば,二つの潤滑流体境界面を有する軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,回動するスリーブ内にスリーブ内周面上端近傍からスリーブ下端外径近傍に至る連通領域を形成し,スリーブ内周面上端近傍の潤滑流体を遠心力により連通領域に振り切りスリーブ下端外径近傍にまで移送させ,固定軸とスリーブ間には潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送する動圧グルーブを有し,動圧グルーブと遠心力により潤滑流体を循環させて潤滑流体を封止する。
【0034】
さらに,連通領域は潤滑流体を表面張力によって保持できる程に小さい間隙で構成し,静止時には潤滑流体を連通領域に吸収保持して漏れ難くし,回転時には遠心力により潤滑流体を連通領域から排出してベアリング領域に供給する。
【0035】
両端軸固定型軸受でスリーブ上端近傍での潤滑流体漏れが最も懸念されるが,潤滑流体に作用する遠心力によりスリーブ中の連通路に振り切る新規な潤滑流体封止構造として軸方向にスペースを要する従来のテーパーシールを不要とし,気泡排除機能も同時に実現する。単円錐形状の軸受,円筒状軸受等に適用できて薄型の軸固定型動圧流体軸受モータを実現する。
【0036】
また,上記軸固定型動圧流体軸受モータを用いて薄型記録ディスク装置を容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に本発明による軸固定型動圧流体軸受モータ及びそれを用いた薄型記録ディスク装置について,その実施例及び原理作用等を図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0038】
図1は,本発明の第一の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。固定軸(以下、円錐状軸11又は軸11と呼ぶ)は円錐凸状面を有し,スリーブは外筒12及び内筒13とより構成され,内筒13は円錐状軸11外周と微小隙間を有して回転自在に嵌合するよう円錐状内周面を有する。軸11は下端の径方向の面1eをベースプレート16との位置確定に用い,軸長方向の面1dで接着強度を確保してベースプレート16に固定する。外筒12,内筒13を含む回転部を軸方向に磁気吸引するためにローターマグネット17に対向してベースプレート16に固定された磁性体片19を有する。番号15は磁気ディスクを搭載するハブを,番号18はステータコアを,番号1aは回転駆動用のコイルをそれぞれ示す。外筒12の外周下部と対向する環状部材1cはベースプレート16の一部として形成されている。潤滑流体は軸11と内筒13との間隙及び外筒12外周と環状部材1cとの間隙に連続して充填され,図3に拡大して示すように大気との境界面33,34を内筒13の上端近傍及び外筒12外周下部に有する。番号1bは外筒12,内筒13を含む回転部の軸長方向への移動量規制の為の抜け止めであって,環状部材1cの上端に固定して外筒12外周の段差部分に契合させる。
【0039】
図2は図1のモータのスリーブを構成する内筒13及び外筒12の斜視図である。図2(a),図2(b)はそれぞれ外筒12,内筒13を示す。外筒12はアルミ板をプレス成形で形成し,内筒13はSUS材を切削加工して形成する。内筒13表面には外筒12と組み合わせて連通領域14を形成させるための径方向溝25を二カ所形成し,軸11を挿通させる孔22周囲には連通領域14の吸入部を構成する周回溝23が設けられている。
【0040】
内筒13外周面を外筒12内周面に嵌合し,内筒13表面の溝25以外の凸部24で外筒12の内周面に接着固定する。外筒12の上端開口21の径は内筒13内周面22の径より小とする。溝25の深さを例えば50ミクロンメートル程度とすることで、形成された連通領域14に表面張力により潤滑流体を保持できる能力を持たせる。
【0041】
連通領域14は内筒13表面に形成した溝25で形成するので連通領域の間隙制御は容易であり,また溝25を内筒13外周表面を平面上に研削加工して連通領域14断面を狭間隙部及び大間隙部を有する三日月状とすることも容易である。
【0042】
内筒13は切削加工によって形成する他に焼結合金の型整形によっても形成でき,その場合には上記周回溝23及び溝25を型により形成できるので製造コストを低減できる。また,外筒12をプレス成形によって構成する際に外筒12の内周面に凹凸を同時に形成して連通領域14とすることも出来る。
【0043】
図2は円錐状ベアリング面を有するスリーブの構成を示したが,円筒状のベアリング面を有するスリーブ構成にも適用できる。
【0044】
軸11が内筒13と対向する表面に動圧発生用のグルーブとしてヘリングボーングルーブ1f,1gを形成し,外径側のヘリングボーングルーブ1gは遠心力に抗して潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送するよう不平衡に形成する。内径側の動圧グルーブに潤滑流体圧送能力を持たせても本発明の目的とする機能を発揮できるが,動圧グルーブ間に負圧発生の可能性が残る。複数の動圧グルーブが存在する場合には最外径の動圧グルーブに潤滑流体圧送能力を持たせて潤滑流体を押すようにして循環させる方法が望ましい。
【0045】
図3は図1に於ける軸受部を拡大して示し,動作原理を説明する。図3では判りやすいように左半分のみに連通領域14,ヘリングボーングルーブ1f,1gを示し,右半分には潤滑流体の移動方向31,32を点線で示す。番号33,34は潤滑流体のエアとの境界面を示す。
【0046】
ヘリングボーングルーブは互いの方向に潤滑流体を圧送する対のスパイラルグルーブで構成され,潤滑流体の圧送能力を等しく構成しない場合は不平衡のヘリングボーングルーブとして一方向に潤滑流体圧送能力を有する。ヘリングボーングルーブ1gは内径方向,つまりスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有するよう設定する。
【0047】
内筒13及び外筒12が回転すると,ヘリングボーングルーブ1f,1gはそれぞれの中央近傍で潤滑流体圧力を局所的に高め,内筒13及び外筒12を非接触で支持する。同時にヘリングボーングルーブ1gは不平衡に構成されて潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送するので潤滑流体は点線31で示す方向に流動し,吸入部となる内筒13上端近傍で潤滑流体に作用する遠心力により連通領域14内に振り切られる。連通領域14内の潤滑流体は遠心力によって更に加速されて外筒12の内周面に沿って排出部となる外筒12の下端外径近傍に導かれる。点線32は連通領域14内を流動する潤滑流体の方向を示している。最も潤滑流体漏れが懸念されるスリーブ上端近傍に於いては潤滑流体に直接作用する遠心力により潤滑流体は連通領域14内に振り切られるので漏れは完全に阻止される。
【0048】
また上記潤滑流体封止の構造は気泡排除の機能をも有する。すなわち,軸11と内筒13間に気泡が存在しても潤滑流体の点線31に示す流れによってスリーブ上端近傍にまで運ばれ,この吸入部で潤滑流体には遠心力が働いて点線32に示すように振り切られるが,気泡には遠心力が働かないので大気に解放されることになる。
【0049】
図4を用いて静止時及び回転時に於ける潤滑流体の挙動をさらに説明する。同図に於いて,左半分は静止時の状態を示して内筒13は軸11に一部が接触し,右半分は回転時の状態を示して内筒13は浮上して軸11とは非接触となる様子を示している。図4の左右の図に於いて,注目すべき点は潤滑流体の位置である。同図左半分では潤滑流体が連通領域14(番号41で示す)及び軸11と内筒13間にのみ存在する。同図右半分で潤滑流体は軸11と内筒13間及び外筒12と環状部材1c間(番号42で示す)に存在する。
【0050】
静止時には連通領域14内の間隙が50ミクロンメートル程度と小さいのでその間隙より大の間隙である外筒12と環状部材1c間の潤滑流体を排出部から吸収し,回転時には遠心力により潤滑流体を連通領域14から外筒12と環状部材1c間及び軸11と内筒13間に供給する。したがって,スリーブ上端近傍に於いて,外筒12,内筒13,軸11の3者で構成する空間43の間隙を連通領域14を構成する間隙より大に設定すれば,静止時に潤滑流体は表面張力により連通領域14に引き込まれて上記空間43に存在することは無く,また回転時には遠心力により潤滑流体が連通領域14に振り切られてしまうのでやはり上記空間43に存在することは無い。従来のテーパーシール構造に比して短い軸長スペースで潤滑流体を効果的に封止出来る。
【0051】
連通領域14を単一の微小孔で形成した場合に気泡が入り込むと静止時に潤滑流体を吸収し難くなる。本実施例では少なくとも連通領域14は内筒13表面に形成した複数の幅の広い溝で形成するので気泡の影響を受け難い。さらに連通領域14を構成する前記溝の断面を間隙が徐々に変化するテーパー状とすれば間隙大の部分を通気領域として気泡は解放され,気泡による不具合の可能性は無くなる。スリーブを内筒13,外筒12で構成する場合には連通領域14を構成する溝断面形状の調整も容易である。
【0052】
静止時に潤滑流体を連通領域14に引き込む量は連通領域14の収容能力による。連通領域14の容積を調整することによって静止時に外筒12と環状部材1c間に滞留させる潤滑流体(番号42で示す)の量を調整できる。これはまた連通領域14内の間隙と外筒12と環状部材1c間の間隙にも依存する。回転起動するに際して潤滑流体は連通領域14から供給されるが,時間遅れがあるので起動時の潤滑が不十分となる可能性があり,これは上記寸法諸元の調整により静止時にも外筒12と環状部材1c間に適当な量の潤滑流体が常に滞留するよう設定する。静止時に潤滑流体を連通領域14に吸収しないよう設定するには連通領域14を構成する間隙を表面張力によって潤滑流体を保持し難い程大の間隙,例えば0.5ミリメートル程度以上に設定する。
【0053】
外筒12上端面の開口径は内筒13の内周面の径より小に設定した。回転時に内筒13内周面に沿って流動する潤滑流体を堰き止める作用も期待できるが,潤滑流体は外筒12上端面に至る前に連通領域14に振り切られるので漏れ防止の完全を期す安全策である。むしろ静止時に潤滑流体は連通領域14に保持され,潤滑流体の境界が吸入部に存在するので潤滑流体境界をモータ外より内部に遠ざけ,漏れの可能性を小にする役割が大である。さらに外筒12上端面の開口と軸11との間隙を小にする事で空間43内に於ける潤滑流体蒸気圧を高めて潤滑流体の蒸発を抑制する効果がある。
【0054】
図5は連通領域14に所要量の潤滑流体を吸収保持できることを利用して潤滑流体が注入された軸受を容易に組み立てることが出来る例を示す。図5(a)は外筒12及び内筒13とを組み合わせたスリーブ51の下端を潤滑流体53中に浸して連通領域14内に表面張力を利用して潤滑流体を所定量吸収させる事を示す。番号52は潤滑流体の容器を,番号54はスリーブ51を潤滑流体53内に浸す深さ調整用部材をそれぞれ示す。
【0055】
図5(b)は軸11,ベースプレート16,磁性体片19,ステータコア18,コイル1a等の組み立て体を示す。図5(a)で示した潤滑流体を所定量保持するスリーブ51を図5(b)に示す組み立て体に挿入して潤滑流体注入を完了する。その後に図5(c)に示すように抜け止め部材1b,ハブ15を順次固定して組み立てを終了する。組み立て後にモータを回転駆動すれば遠心力により潤滑流体は連通領域14より排出されて上記に説明した動作原理に従って所定の位置に移動する。
【0056】
このようにスリーブ内の連通領域14内に潤滑流体を保持できることを利用して容易に潤滑流体注入を行うことが出来,従来必要であった潤滑流体注入用の真空プロセスは全く不要として製造コストを低減できる。また,本発明の潤滑流体封止構造がほぼ完全な気泡排除機構を有することを利用して,図5(b)の組み立て体に所定量の潤滑流体を滴下して潤滑流体注入を行うとする工程も,軸受部の組み立て後にスリーブ外周と環状部材との間隙部に潤滑流体を滴下して潤滑流体注入を行うとする工程も採用できる。何れの方法によっても大気圧下で特別の機器を必要とする事の無い工法であって製造コスト低減に有効である。
【0057】
磁性体片19は珪素鋼板,フェライト,パーマロイ等の磁性体で構成してローターマグネット17と協働して回転部と固定部間に磁気吸引力を発生させる。ローターマグネット17は回転駆動用に磁化が交互に反転するよう着磁されているので回転時に磁性体片19に渦電流を生じさせる。珪素鋼板よりパーマロイ或いはフェライトが渦電流の影響を受け難いので高速回転用には適している。磁性体片19のみで磁気吸引力が不足する場合にはステータコア18とローターマグネット17の位置を軸方向に偏倚させて磁気吸引力を発生させて補うことが出来る。
【0058】
ヘリングボーングルーブ1f,1gが発生させる負荷容量の軸方向成分と磁気吸引力とを平衡する位置で回転部を浮上支持する。モータを使用する姿勢条件,つまり正立,倒立,横置き等によって回転部重量のベアリング部に拘わる負荷は異なり,回転部の浮上量は異なる。磁気吸引力は外筒12,内筒13,ハブ15,ローターマグネット17,さらに搭載する磁気ディスク等を含む回転部総重量の3倍程度以上に設定してHDDの如何なる姿勢においても軸方向下方には一定以上の負荷を加え,回転部姿勢を精密に保持する。
【0059】
動圧グルーブの構成に関し,軸11の円錐面に二つのヘリングボーングルーブを用いた例を示したが,軸11の円錐面上に一つのヘリングボーングルーブのみでも回転部の浮上支持と回転部姿勢の制御が可能であり,さらに薄型の動圧流体軸受モータを構成できる。軸受部分の構造及び回転部姿勢制御の動作原理は特開2003−32961に詳述されているので説明は省略する。
【0060】
本実施例では連通領域14を内筒13,外筒12間の間隙として形成したが,スリーブ内筒13を微小な隙間を多く有する多孔質素材で形成してそれら微小隙間で連通領域14を形成することも可能である。外筒12内に焼結合金素材を充填させて内筒13を形成する構造で同時にヘリングボーングルーブ1f,1gをも形成できる。微小な隙間はヘリングボーングルーブ1f,1gの形成された領域表面にも存在し,潤滑流体はそれら表面の隙間からも内筒13内に浸透し,ヘリングボーングルーブ1fでは潤滑流体不足を生じる可能性がある。この場合には外筒12との境界近傍を除く内筒13の表面の微小隙間に潤滑性の良い樹脂を含浸させて封孔処理を行って構成する。
【0061】
本実施例で構成及び動作原理を説明した新規な潤滑流体封止構造はスリーブ上端近傍で必要な軸長方向のスペースを小と出来ることに特徴がある。図4を参照すれば軸長方向に必要なスペースは外筒12の厚みと外筒12,内筒13,軸11の3者で構成する空間43の軸長方向の長さの和である。外筒12は0.2ミリメートル程度の薄板をプレス或いは絞り加工で形成するとし,後者は連通領域14の間隙50ミクロンメートルより大の0.1ミリメートルに設定するとして0.3ミリメートルで構成できる。これらの値はさらに詰めることが出来,従来のテーパーシールに比して軸長方向にかなり小さな値で信頼できる潤滑流体封止構造を実現できる。
【実施例2】
【0062】
第一の実施例は円錐軸受の例であったが,図6に示す第二の実施例は円筒軸に本発明の潤滑流体封止構造を適用した例である。T字状円筒軸61に回動可能に嵌合するスリーブは内筒63,外筒62で形成し,外筒62と内筒63間の間隙に連通領域64を有する。潤滑流体は軸61と内筒63間及び外筒62と環状部材1c間に連続して存在する。内筒63の内周面に一つのヘリングボーングルーブ66を有し,内筒63の下端面と対向する軸61のフランジ部分65には遠心力に抗して内周方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ67を形成することで、スラストベアリングを構成する。ベースプレートの一部である環状部1c及び軸61のフランジ部分65が請求項1に記述する環状部材に相当する。その他の部分は図1に示した第一の実施例と同じで同一の部材には同一の番号を付している。
【0063】
ラジアル及びスラストベアリングの動圧グルーブの組み合わせに関しては特開2000−350408の例に近いが,内筒53下端面近傍に不平衡のヘリングボーングルーブ67を配置して潤滑流体を内筒63内周面の上端方向に流動させる点が異なっている。特開2000−350408の例では量産時のバラツキによりそれぞれのヘリングボーングルーブが潤滑流体を流動させ,潤滑流体漏れをかなりの確率で生じさせる可能性があるが,図6の例では本発明の潤滑流体封止構造を採用して潤滑流体が漏れることは無い。
【0064】
図7は図6に於ける軸61及びスリーブ近傍を拡大して示す。不平衡ヘリングボーングルーブ67には遠心力に抗して潤滑流体を内筒63の上端方向に圧送するに十分な潤滑流体圧送能力を持たせる。潤滑流体はヘリングボーングルーブ67外周から内筒63内周面上端近傍まで点線71で示すように圧送され,内筒63内周面上端近傍で遠心力により連通領域64内に振り切られ,ヘリングボーングルーブ67外周近傍に環流する。潤滑流体が効果的に封止される事,気泡が分離される原理等は図3,図4を用いて説明した第一の実施例と同じである。点線71,72はそれぞれ図3に於ける点線31,32に対応している。
【0065】
点線73で示す円内にはスリーブ上端近傍の構造をさらに拡大して示す。番号74は軸61の肩部を示し,番号74より下の領域がラジアルベアリングの領域である。ヘリングボーングルーブ66の上端はほぼこの番号74のレベル近傍にある。番号75は内筒63内周面に周回するよう設けた環状凸部であり,その高さは図7では内筒63と軸61間の間隙2ミクロンメートルのほぼ半分に設定してある。不平衡ヘリングボーングルーブ67により圧送された潤滑流体76はこの環状凸部75を乗り越えて連通領域54に振り切らせ,ヘリングボーングルーブ66上端近傍に常に潤滑流体76溜まり部が形成される事を目的としている。環状凸部75の高さは内筒63と軸61間の間隙程度が望ましくそれ以上に大としても効果はあまり変わらない。また環状凸部75を形成する替わりにヘリングボーングルーブ66の上端を連通領域64の吸入部近傍まで延伸させることもヘリングボーングルーブ66上端近傍に潤滑流体を存在させることに効果がある。
【0066】
図6,図7に於いて,ラジアルベアリングは内筒63内周面のヘリングボーングルーブ66のみであり,回転部を軸61に調芯させることは出来ても,回転部が傾いた場合に十分な姿勢復元モーメント力を発生させることは出来ない。本実施例ではスラストベアリングである不平衡ヘリングボーングルーブ67により回転部姿勢の復元モーメント力を発生させる。すなわち,回転部が傾くと内筒63の下端面も傾き,フランジ部分65との間隙が変化する。間隙が大小に変化した領域近傍で不平衡ヘリングボーングルーブ67がその径方向中間で局部的に圧力を高める程度は間隙に反比例するので回転部の姿勢復元のモーメント力を発生し,回転部姿勢を復元する。ラジアルベアリングが一つのみであるので薄型HDDに適する。
【0067】
図6に示すような軸固定構造で通常は軸をベースプレートに圧入して接着固定する。その場合に締結強度及び両者の直角度精度を考慮すると締結部の軸方向厚みとして1ミリメートル弱程度は確保したい。第二の実施例では内筒63下端面と対向する部分をフランジ部分65として軸と一体化したT字状軸61とした。フランジ部65の厚みの必要最小限を0.5ミリメートル程度とすると,0.5ミリメートル程度をラジアルベアリングスペースとして捻出できることになる。ただ,T字状軸61とベースプレート16との締結強度及び直角度は確保しにくくなるので図6ではT字状軸61のフランジ部分65の径方向の面1eでT字状軸61のベースプレート16に対する位置を規制し,スラストベアリングを形成するフランジ面の外周面1dでベースプレート16との接着固定強度と直角度を確保している。
【0068】
本実施例ではスラストベアリングを唯一つとして動圧による軸方向の負荷容量と磁気吸引力とを平衡させている。しかし,これは回転起動時及び停止時に内筒63下端面をフランジ部分65に磁気吸引力を加えて接触摺動させる結果となっている。本実施例では接触摺動による損傷を避ける為に内筒63下端面には二流化モリブデンを主とする固体潤滑剤を10ミクロンメートル程度塗布している。他に固体潤滑膜としてDLC膜を1ミクロンメートル程度形成しても効果がある。また更に回転時の摩擦力を減少させて起動を容易にする為に内筒63下端面或いはフランジ部分65の一部に数ミクロンメートルの高さの突起を円周状或いはスポット状に形成する方法も考えられるが,既にフライイングヘッド技術で公知であるので説明は省略する。
【実施例3】
【0069】
図8は第三の実施例を示す。第二の実施例と同じく円筒軸の例であり,図6に示した第二の実施例と異なる点を中心にして説明する。
【0070】
T字状円筒軸61に回動可能に嵌合するスリーブは内筒85,外筒84で形成し,外筒84と内筒85間の間隙に連通領域86を有する。T字状軸61と内筒85内周面との間にはラジアルベアリングとして二つのヘリングボーングルーブ81,82とを有し,下側のヘリングボーングルーブ82は下方に潤滑流体圧送能力を有するよう不平衡に形成する。さらに内筒85下端面と対向する軸61のフランジ部分65にはポンプインのスパイラルグルーブ83を形成してある。回転時に不平衡ヘリングボーングルーブ82とスパイラルグルーブ83は潤滑流体を押し合うことで内筒85下端面の潤滑流体圧力を高め,得られた軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡に達した点で回転部を非接触で支持する。
【0071】
スリーブを構成する外筒84及び内筒85が回転すると,潤滑流体はヘリングボーングルーブ81,82及びスパイラルグルーブ83により局部的に圧力を高められスリーブを構成する外筒84,内筒85を非接触で支持する。ここでヘリングボーングルーブ82が下側に潤滑流体圧送能力を有するように構成され,所定の回転速度に於いて,ヘリングボーングルーブ82の潤滑流体圧送能力をスパイラルグルーブ83のそれよりも小に設定してあるので潤滑流体はヘリングボーングルーブ82,81を超えて内筒85の上端方向に流れ続け,外筒84及び内筒85の間隙に形成されている連通領域86に遠心力で振り切られ,さらに外筒84の内周近傍に移送され,結局は内筒85の下端外周近傍の排出部に至る。
【0072】
外筒84,内筒85間に形成する連通領域86の形状は他の実施例と異なっている。すなわち,図9(a)に示すように内筒85内周面に開口する連通領域86の吸入部は番号91で示すように内筒75内周面に周回して開口する形状とし(図2に示す周回する溝23に対応),吸入部91から外径方向に伸びる連通領域86はポンプアウトのスパイラル形状の溝92で形成する。番号93はスパイラル形状の溝92に連続して内筒85外周面と外筒84外周面を上方から下方に形成された溝を示す。番号94は回転部の回転方向を示す。
【0073】
回転時に潤滑流体が内筒85内周面に沿って上端方向に移送され,遠心力により吸入部91内に振り切られる。潤滑流体は更に遠心力で外径方向に駆動され,スパイラル状溝92部を介して外径側に移送される。連通領域86を構成する溝92,93には移送される潤滑流体及び空気及び潤滑流体の蒸気が存在するが,スパイラル状溝92により外径方向に駆動され,空気及び潤滑流体蒸気の内径方向への流路抵抗を実質的に大として溝92,93に於ける潤滑流体の蒸気圧を高め,潤滑流体の更なる蒸発を抑制する。溝92,93の形状は複雑であるが,内筒85の型成形,或いは外筒84のプレス成形で容易に形成できコストアップさせることは無い。
【0074】
さらに内筒85上端に構成する連通領域86の吸入部91は軸長方向には数ミクロンメートルの間隙として構成すれば十分であり,吸入部91近傍に於ける空気の流路抵抗を大にして溝92,93で形成する連通領域86内の潤滑流体蒸気圧を高めて潤滑流体の蒸発抑制に寄与出来る。
【0075】
回転部の軸長方向移動量規制の為には潤滑流体の接する部分に契合部分88を有する。図10に拡大して示すように外筒84の外周下部は下端から上方へ離れるに従って縮径し環状部材87(図1の実施例の1cに対応)との間隙を徐々に大としてテーパーシール部を形成させる。さらに環状部材87の面101と外筒84外周部から突出させた面102とが契合する構造として契合部とする。環状部材87の内周面は僅かに外筒84外周側に傾斜させているが,この傾斜をさらに明確として外筒84外周下部の傾斜と契合させて位置規制を行わせる構造も可能である。過大な衝撃によりスリーブが上方に移動して契合部で接触摺動しても潤滑流体が存在するので損傷或いは摩耗扮発生等の重大な支障を回避できる。
【0076】
高速回転でスパイラルグルーブ83外周部は負圧を生じやすい部分であるので拡大した図10を用いて対処策を説明する。スパイラルグルーブ83では潤滑流体が内径方向に圧送される一方で,外径方向への遠心力が働いて外周部では潤滑流体圧力は低下して負圧となり,気泡が滞留しやすくなる。一方,潤滑流体103のエアとの境界104で環状部材87に接する境界106は静止し,外筒84に接する境界105は外筒84と共に高速で流動する。
【0077】
本実施例ではスパイラルグルーブ83の外径が内筒85外径より大に,つまり潤滑流体の境界103の高速流動側(番号105で示す)より外径側に配置してある。したがって高速で回転流動する潤滑流体に作用する遠心力が外筒84表面に沿って積算され,潤滑流体内の圧力は内筒85下端の外周近傍で最も高くなる。このようにスパイラルグルーブ83の外径近傍に遠心力を利用して圧力を加え,負圧発生を防止する構造としている。
【0078】
さらに本実施例では潤滑流体注入を容易にする手段として図8,9に示すように外筒84及び環状部材87間の潤滑流体溜まり部に中空パイプ89を配置してある。本発明の潤滑流体封止構造はほぼ完全な気泡排除機能を有するので大気中で潤滑流体を滴下することで潤滑流体注入を完了できる。しかし,本実施例のように番号88で示すような契合部を有する場合には軸受部の組み立て後に外筒84,環状部材87間の間隙から潤滑流体を注入しなければならず,間隙が小さい場合には容易ではない。
【0079】
本実施例では組み立て時に一端が外筒84及び環状部材87間の潤滑流体溜まり部に開口する中空のパイプ89を埋め込む。軸受部の組み立てが終了した後に中空パイプ89を介して潤滑流体を注入し,中空パイプ89を封じきって注入工程を終了する。中空パイプ89の素材としては金属,樹脂,ガラス等が使用でき,一端を封止する手段には溶融,押し潰し等がある。
【0080】
本発明では従来のテーパーシールに替わる新規な潤滑流体封止構造を提案し,動作原理と共にその特徴を説明した。適用例として軸受面を直線とした円錐軸受,円筒軸受等を実施例を挙げて説明したが,それらに加えて軸受面を曲線とした構造にも適用できる。
【0081】
また,本発明で提案した新規な潤滑流体封止構造はテーパーシールとの併用を排除する訳では無い。テーパーシールを持つ動圧流体軸受モータのスリーブ内に連通領域を配置して潤滑流体封止を強化することも可能である。
【実施例4】
【0082】
本発明の第四の実施例として薄型記録ディスク装置を構成した例を示す。図11には第三の実施例である図8の軸固定構造動圧流体軸受モータを用いて構成した薄型記録ディスク装置(薄型HDD)構成の例を示す。
【0083】
図11(a)に示した薄型HDDはベースプレート16となる筐体111上に軸固定構造動圧流体軸受モータ116が形成される。磁気ディスク113が前記モータ116に装着され,磁気ディスク113上の所定位置に磁気ヘッド114を位置決めするアクチュエータ115が配置されている。カバー112は筐体111に固定され,軸61はカバー112に下側から当接してカバー112を支持する構成としてある。電子回路或いはHDD内環境を制御するフィルター機構等は図示されてない。
【0084】
図11に於いて,軸固定構造動圧流体軸受モータ116には内部の軸受のみを示し,図11(b)に拡大図を示す。本実施例で磁気ディスクの径として25ミリメートル程度,薄型HDDの厚みとして3ミリメートル程度を想定している。
【0085】
HDDの厚みが制約されているので軸61をカバー112に固定するボルトは略し,軸61はカバー112に内部から当接してカバー112の内側への変形防止の支柱として使用している。番号118はカバー112の厚みを,番号119はカバー112内側からスリーブ表面までの距離を,番号11aは外筒84の軸長方向の厚みを,番号11bは外筒84の下側から軸61の肩(ヘリングボーングルーブ81の上端レベル)迄の距離を,番号117は筐体111下面からヘリングボーングルーブ82下端までの距離をそれぞれ示す。番号11cはヘリングボーングルーブ81の上端(軸61の肩)からヘリングボーングルーブ82下端までの距離を示してラジアルベアリング部に確保した長さを示している。
【0086】
番号118,番号119,番号11a,番号11bで示す寸法はそれぞれ0.1ミリメートルに設定し,また番号117で示す寸法は0.5ミリメートルに設定すると,HDDの全体の厚み3ミリメートルから有効なラジアルベアリング部の長さ11cとして2.1ミリメートルが確保できる。ヘリングボーングルーブ81,82としてそれぞれ1ミリメートル弱程度を割り当てれば十分であるので中間にヘリングボーングルーブ82の不平衡分を配置しても3ミリメートル厚の薄型HDDは構成できることになる。
【0087】
本発明の軸固定型動圧流体軸受モータが薄型のHDD実現に適している事を示した。これは本発明のポテンシャルの高さを示すものであり、厚みに余裕のあるHDDに適用すれば従来構造に比して格段に軸振れの小さな動圧流体軸受モータを実現する。本発明は原理的に高速回転に適し,20,000RPM程度の高速回転を必要とする小型のサーバークラスHDDにも適する。さらにラジアルベアリングとして軸長方向に唯一つの動圧グルーブで構成する第二の実施例の軸固定型動圧流体軸受モータを第四の実施例に適用すれば,厚み2ミリメートル弱のHDDを実現できる。
【0088】
以上,実施例を挙げて本発明の動作原理及び構造を説明した。上記実施例は本発明の動作原理を説明するために数例を挙げたのみであって本発明の趣旨を逸脱しない範囲で材料及び構造等の変形が可能なことはもちろんで上記の説明が本発明の範囲を限定しない。例えば,適用例として軸受面を直線とした円錐軸受,円筒軸受等を実施例を挙げて説明したが,それらに加えて軸受面を曲線とした構造にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
動圧流体軸受内の潤滑流体挙動を検討して薄型でも潤滑流体漏れの無い軸固定型動圧流体軸受モータを実現したので回転部姿勢を高精度に維持する必要のある高速の記録ディスク装置用モータ及び筐体カバーの支柱が必要な薄型記録ディスク装置に特に適する。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】第一の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図2】図1に於けるスリーブの内筒及び外筒の斜視図を示す。
【図3】図1に於ける軸受部の拡大された縦断面図を示す。
【図4】図1に於ける軸受部の拡大された縦断面図を示す。
【図5】図1に於ける潤滑流体注入の工程例を示す。
【図6】第二の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図7】図6に於ける軸受部の拡大された縦断面図を示す。
【図8】第三の実施例である軸固定型動圧流体軸受モータの縦断面図を示す。
【図9】図8の軸受部の拡大図,連通領域を構成する溝形状を示す。
【図10】図8のスリーブ下端外周近傍の形状を拡大して示す。
【図11】第四の実施例である薄型HDDの縦断面図を示す。
【符号の説明】
【0091】
11・・・円錐状軸, 12・・・スリーブ外筒,
13・・・スリーブ内筒, 14・・・連通領域,
15・・・ハブ, 16・・・ベースプレート,
17・・・ローターマグネット, 18・・・ステータコア,
19・・・磁性体片, 1a・・・コイル,
1b・・・抜け止め, 1c・・・環状部材,
1d,1e・・軸11のベースプレート16との接合面,
1f・・・ヘリングボーングルーブ, 1g・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,
21・・・外筒12の上端開口, 22・・・内筒13の内周面開口,
23・・・周回溝, 24・・・内筒13表面の凸部,
25・・・内筒13表面の溝,
31,32・・潤滑流体の移動方向, 33,34・・潤滑流体のエアとの境界面,
41・・・連通領域14内の潤滑流体, 42・・・スリーブ外筒12外周の潤滑流体,
43・・・スリーブ外筒12,スリーブ内筒13,軸11の3者で構成する空間,
51・・・スリーブ, 52・・・潤滑流体容器,
53・・・潤滑流体, 54・・・深さ調整用部材,
61・・・T字状軸, 62・・・スリーブ外筒,
63・・・スリーブ内筒, 64・・・連通領域,
65・・・フランジ部分, 66・・・ヘリングボーングルーブ,
67・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,
71,72・・潤滑流体の移動方向,
73・・・スリーブ上端近傍の拡大図, 74・・・軸61の肩部,
75・・・環状凸部, 76・・・潤滑流体,
81・・・ヘリングボーングルーブ, 82・・・不平衡ヘリングボーングルーブ,
83・・・スパイラルグルーブ, 84・・・スリーブ外筒,
85・・・スリーブ内筒, 86・・・連通領域,
87・・・環状部材, 88・・・契合部分,
89・・・中空パイプ,
91・・・吸入部, 92・・・スパイラル形状の溝,
93・・・連通領域を形成する溝, 94・・・回転方向,
101・・・環状部材87の契合面, 102・・・スリーブ外筒84の契合面,
103・・・潤滑流体, 104・・・潤滑流体の境界面,
105・・・潤滑流体の境界面の外筒84と接する領域,
106・・・潤滑流体の境界面の環状部材87と接する領域,
111・・・筐体, 112・・・カバー,
113・・・磁気ディスク, 114・・・磁気ヘッド,
115・・・アクチュエータ, 116・・・軸固定構造動圧流体軸受モータ,
117・・・筐体111下面からヘリングボーングルーブ82下端までの距離,
118・・・カバー112の厚み,
119・・・カバー112内側からスリーブ表面までの距離,
11a・・・外筒84の軸長方向の厚み,
11b・・・外筒84の下側から軸61の肩迄の距離,
11c・・・ラジアルベアリング部に確保した長さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された軸と,軸外周と微小隙間を有して回転自在に嵌合するスリーブと,軸に固定されてスリーブ下端及び外周下部と間隙を持って対向する環状部材と,スリーブと軸及び環状部材との間隙に連続的に存在して大気との境界面をスリーブ内周面上端近傍とスリーブ外周下部の少なくとも2カ所に持つ潤滑流体と,軸及びスリーブ間に軸方向の磁気吸引力を発生させる磁気的手段とを少なくとも有して構成される動圧流体軸受モータに於いて,スリーブと対向面の何れかに有する動圧グルーブが局部的に潤滑流体圧力を高めて発生する軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡する位置で回転部を浮上支持し,スリーブ内にはスリーブ内周面上端近傍の吸入部からスリーブ下端外径近傍の排出部に至る連通領域を有して吸入部は排出部より内径側に位置するとし,回転時にスリーブと軸との間隙中では少なくとも一つの前記動圧グルーブを不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとしてスリーブ内周面上端方向に潤滑流体圧送能力を持たせて潤滑流体を移送し,スリーブ内周面上端近傍で潤滑流体を遠心力で吸入部内に振り切り,吸入部から排出部に遠心力により潤滑流体を移送することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項2】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,上端面と外周面を有する外筒と軸及び環状部材との対向面を有する内筒とでスリーブを構成し,スリーブ内周面の上端近傍からスリーブ下端外径近傍への連通領域を内筒及び外筒間の間隙として形成する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項3】
請求項2記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内筒の外表面或いはスリーブ外筒の内表面に形成した溝或いは凹凸により前記連通領域を構成する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項4】
請求項2記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,外筒上端面の開口径は内筒内周面上端の口径より小とした事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項5】
請求項2記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,内筒は微小空孔を有する多孔質素材で構成してスリーブ内周面からスリーブ下端の外周近傍への連通領域を微小空孔で形成する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項6】
請求項5記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記多孔質素材で構成された内筒表面の外筒との境界近傍を除いた表面に封孔処理を施したことを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項7】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,連通領域の一部として表面張力により潤滑流体を保持出来る程に小さい間隙部を排出部から連続して有し,静止時に表面張力によって潤滑流体を排出部を介して前記連通領域内に吸収保持して潤滑流体の大気との境界面を内部に引き込み,回転時には遠心力により潤滑流体を前記連通領域から排出部を介してスリーブと軸及び環状部材との間隙に供給することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項8】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内周面上端近傍に於いて固定軸とスリーブとの間隙が大となる領域に連通領域の吸入部を配置し,吸入部より下方のスリーブ内周面に微小高さの環状凸部を形成して回転時には前記環状凸部を超えて吸入部へ潤滑流体を振り切るとして所定深さの潤滑流体溜まりを形成させることを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項9】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内連通領域の吸入部近傍の間隙を他の連通領域部分の間隙より小に設定して連通領域内での潤滑流体蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項10】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内に形成した連通領域の一部或いは全部を回転時に潤滑流体及び空気を排出部側に駆動するようなスパイラル形状の間隙で構成し,回転時に潤滑流体及び空気を排出部側に駆動して潤滑流体を排出部側に移送すると共に連通領域内に於いて吸入部側に向かう空気及び潤滑流体蒸気の流路抵抗を大として潤滑流体蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項11】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内に形成した連通領域の経路は吸入部から排出部方向に半径が小と成らないよう構成し,回転時に遠心力で駆動される潤滑流体が円滑に排出部側に移動し,連通領域内に滞留する潤滑流体量を小とすることを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項12】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブと軸及び或いは環状部材との対向面の何れかに複数個有する動圧グルーブの少なくとも最外径に位置する動圧グルーブにスリーブ内周面上端方向への潤滑流体圧送能力を持たせ,動圧グルーブ間に負圧を発生させないように構成することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項13】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ外周下部はスリーブ下端面より離れるに従って縮径させ,スリーブ外周部と環状部材とで構成する潤滑流体溜まり部に於いて潤滑流体の大気との境界面とスリーブ外周部との交点が径方向最外側に存在する動圧グルーブ外径より内径側に存在するよう配置構成し,高速流動する潤滑流体に作用する遠心力により前記動圧グルーブ外径近傍に圧力を加え,前記動圧グルーブ外径近傍で生じやすい負圧拡大を防止する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項14】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ外周下部はスリーブ下端面より離れるに従って縮径すると共に対向する環状部材との間隙を徐々に大として潤滑流体の大気との境界を保持して潤滑流体溜まり部を形成すると共に,スリーブの軸方向への移動を規制する契合部を潤滑流体が接するスリーブ外周面及び環状部材内周面間の一部で構成する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項15】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は上端方向に先細となる円錐凸形状として,スリーブは前記軸に嵌合する円錐凹形状とし,軸及びスリーブ間に一以上の動圧グルーブを有し,少なくともその一つの動圧グルーブはスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項16】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は円筒状とし,スリーブは円筒状内周面を有して軸に回動可能に嵌合し,且つ軸と直交する下端面で環状部材と対向し,軸外周面とスリーブ内周面の何れかの面及び環状部材とスリーブ下端面の何れかの面には動圧グルーブをそれぞれ有する構造とし,少なくともスリーブ下端面或いは対向する面の何れかに配置された動圧グルーブは内径方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとすることを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項17】
請求項16記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面には一以上のヘリングボーングルーブを有し,環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかには潤滑流体を内径方向に圧送する能力を有する不平衡のヘリングボーングルーブを配置したことを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項18】
請求項16記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面の何れかには二つのヘリングボーングルーブを有して少なくとも一方のヘリングボーングルーブはスリーブ下端面方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブとし,環状部材とスリーブ下端面の対向面の何れかにはポンプインのスパイラルグルーブを有し,前記スパイラルグルーブの潤滑流体圧送能力は遠心力及び前記不平衡ヘリングボーングルーブの潤滑流体圧送能力に抗してスリーブ上端方向に潤滑流体を圧送出来る程に大として潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送し,不平衡ヘリングボーングルーブとスパイラルグルーブとの協働でスリーブ下端面での潤滑流体圧力を高めて得られる軸方向負荷容量で回転部を非接触支持することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項19】
請求項16記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ下端面と対向する環状部材の一部は円筒軸のフランジ部として一体化したT字状軸とし,フランジ部の径方向面で位置を規制し,スリーブ下端面と対向するフランジ面外周とベースプレートの一部とが軸方向に対向固定される構造とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項20】
筐体と,記録ディスクと,記録ディスクを搭載回転させるモータと,記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを少なくとも有する記録ディスク装置であって,前記モータとして請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータを使用した薄型記録ディスク装置
【請求項1】
固定された軸と,軸外周と微小隙間を有して回転自在に嵌合するスリーブと,軸に固定されてスリーブ下端及び外周下部と間隙を持って対向する環状部材と,スリーブと軸及び環状部材との間隙に連続的に存在して大気との境界面をスリーブ内周面上端近傍とスリーブ外周下部の少なくとも2カ所に持つ潤滑流体と,軸及びスリーブ間に軸方向の磁気吸引力を発生させる磁気的手段とを少なくとも有して構成される動圧流体軸受モータに於いて,スリーブと対向面の何れかに有する動圧グルーブが局部的に潤滑流体圧力を高めて発生する軸方向負荷容量と磁気吸引力とが平衡する位置で回転部を浮上支持し,スリーブ内にはスリーブ内周面上端近傍の吸入部からスリーブ下端外径近傍の排出部に至る連通領域を有して吸入部は排出部より内径側に位置するとし,回転時にスリーブと軸との間隙中では少なくとも一つの前記動圧グルーブを不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとしてスリーブ内周面上端方向に潤滑流体圧送能力を持たせて潤滑流体を移送し,スリーブ内周面上端近傍で潤滑流体を遠心力で吸入部内に振り切り,吸入部から排出部に遠心力により潤滑流体を移送することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項2】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,上端面と外周面を有する外筒と軸及び環状部材との対向面を有する内筒とでスリーブを構成し,スリーブ内周面の上端近傍からスリーブ下端外径近傍への連通領域を内筒及び外筒間の間隙として形成する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項3】
請求項2記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内筒の外表面或いはスリーブ外筒の内表面に形成した溝或いは凹凸により前記連通領域を構成する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項4】
請求項2記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,外筒上端面の開口径は内筒内周面上端の口径より小とした事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項5】
請求項2記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,内筒は微小空孔を有する多孔質素材で構成してスリーブ内周面からスリーブ下端の外周近傍への連通領域を微小空孔で形成する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項6】
請求項5記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,前記多孔質素材で構成された内筒表面の外筒との境界近傍を除いた表面に封孔処理を施したことを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項7】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,連通領域の一部として表面張力により潤滑流体を保持出来る程に小さい間隙部を排出部から連続して有し,静止時に表面張力によって潤滑流体を排出部を介して前記連通領域内に吸収保持して潤滑流体の大気との境界面を内部に引き込み,回転時には遠心力により潤滑流体を前記連通領域から排出部を介してスリーブと軸及び環状部材との間隙に供給することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項8】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内周面上端近傍に於いて固定軸とスリーブとの間隙が大となる領域に連通領域の吸入部を配置し,吸入部より下方のスリーブ内周面に微小高さの環状凸部を形成して回転時には前記環状凸部を超えて吸入部へ潤滑流体を振り切るとして所定深さの潤滑流体溜まりを形成させることを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項9】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内連通領域の吸入部近傍の間隙を他の連通領域部分の間隙より小に設定して連通領域内での潤滑流体蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項10】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内に形成した連通領域の一部或いは全部を回転時に潤滑流体及び空気を排出部側に駆動するようなスパイラル形状の間隙で構成し,回転時に潤滑流体及び空気を排出部側に駆動して潤滑流体を排出部側に移送すると共に連通領域内に於いて吸入部側に向かう空気及び潤滑流体蒸気の流路抵抗を大として潤滑流体蒸気圧を高め,潤滑流体の蒸発を抑制することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項11】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ内に形成した連通領域の経路は吸入部から排出部方向に半径が小と成らないよう構成し,回転時に遠心力で駆動される潤滑流体が円滑に排出部側に移動し,連通領域内に滞留する潤滑流体量を小とすることを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項12】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブと軸及び或いは環状部材との対向面の何れかに複数個有する動圧グルーブの少なくとも最外径に位置する動圧グルーブにスリーブ内周面上端方向への潤滑流体圧送能力を持たせ,動圧グルーブ間に負圧を発生させないように構成することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項13】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ外周下部はスリーブ下端面より離れるに従って縮径させ,スリーブ外周部と環状部材とで構成する潤滑流体溜まり部に於いて潤滑流体の大気との境界面とスリーブ外周部との交点が径方向最外側に存在する動圧グルーブ外径より内径側に存在するよう配置構成し,高速流動する潤滑流体に作用する遠心力により前記動圧グルーブ外径近傍に圧力を加え,前記動圧グルーブ外径近傍で生じやすい負圧拡大を防止する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項14】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ外周下部はスリーブ下端面より離れるに従って縮径すると共に対向する環状部材との間隙を徐々に大として潤滑流体の大気との境界を保持して潤滑流体溜まり部を形成すると共に,スリーブの軸方向への移動を規制する契合部を潤滑流体が接するスリーブ外周面及び環状部材内周面間の一部で構成する事を特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項15】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は上端方向に先細となる円錐凸形状として,スリーブは前記軸に嵌合する円錐凹形状とし,軸及びスリーブ間に一以上の動圧グルーブを有し,少なくともその一つの動圧グルーブはスリーブ上端方向に潤滑流体圧送能力を有することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項16】
請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,固定軸は円筒状とし,スリーブは円筒状内周面を有して軸に回動可能に嵌合し,且つ軸と直交する下端面で環状部材と対向し,軸外周面とスリーブ内周面の何れかの面及び環状部材とスリーブ下端面の何れかの面には動圧グルーブをそれぞれ有する構造とし,少なくともスリーブ下端面或いは対向する面の何れかに配置された動圧グルーブは内径方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブ或いはスパイラルグルーブとすることを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項17】
請求項16記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面には一以上のヘリングボーングルーブを有し,環状部材とスリーブ下端面の対向する面の何れかには潤滑流体を内径方向に圧送する能力を有する不平衡のヘリングボーングルーブを配置したことを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項18】
請求項16記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,円筒状軸とスリーブ内周面との対向面の何れかには二つのヘリングボーングルーブを有して少なくとも一方のヘリングボーングルーブはスリーブ下端面方向に潤滑流体圧送能力を有する不平衡ヘリングボーングルーブとし,環状部材とスリーブ下端面の対向面の何れかにはポンプインのスパイラルグルーブを有し,前記スパイラルグルーブの潤滑流体圧送能力は遠心力及び前記不平衡ヘリングボーングルーブの潤滑流体圧送能力に抗してスリーブ上端方向に潤滑流体を圧送出来る程に大として潤滑流体をスリーブ上端方向に圧送し,不平衡ヘリングボーングルーブとスパイラルグルーブとの協働でスリーブ下端面での潤滑流体圧力を高めて得られる軸方向負荷容量で回転部を非接触支持することを特徴とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項19】
請求項16記載の軸固定型動圧流体軸受モータに於いて,スリーブ下端面と対向する環状部材の一部は円筒軸のフランジ部として一体化したT字状軸とし,フランジ部の径方向面で位置を規制し,スリーブ下端面と対向するフランジ面外周とベースプレートの一部とが軸方向に対向固定される構造とする軸固定型動圧流体軸受モータ
【請求項20】
筐体と,記録ディスクと,記録ディスクを搭載回転させるモータと,記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを少なくとも有する記録ディスク装置であって,前記モータとして請求項1記載の軸固定型動圧流体軸受モータを使用した薄型記録ディスク装置
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−71087(P2006−71087A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337220(P2004−337220)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(302014011)有限会社クラ技術研究所 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(302014011)有限会社クラ技術研究所 (29)
【Fターム(参考)】
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