説明

遮熱コーティング用材料、遮熱コーティング、タービン部材及びガスタービン、並びに、遮熱コーティング用材料の製造方法

【課題】YSZよりも高温安定性に優れ、高靭性と低熱伝導性を両立する遮熱コーティング用材料を提供することを目的とする。また、該遮熱コーティング用材料を用いて形成されたセラミックス層を有する熱サイクル耐久性に優れた遮熱コーティング、並びに、該遮熱コーティングを備えるタービン用部材及びガスタービンを提供することを目的とする。
【解決手段】組成式(1):Ln(x+y−3xy)TiTaZr(1−3x)(1−y)(2+1.5xy−0.5y)
(ただし、Lnは、Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素とされ、0.05≦x≦0.25、0≦y≦0.15)
で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れる遮熱コーティング用材料に係り、特に遮熱コーティングのトップコートとして用いられるセラミックス層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策の一つとして、火力発電の熱効率を高めることが検討されている。発電用ガスタービンの発電効率を向上させるためには、ガス入口温度を上昇させることが有効であり、その温度は1500℃程度とされる場合もある。そして、このように発電装置の高温化を実現するためには、ガスタービンを構成する静翼や動翼、あるいは燃焼器の壁材などを耐熱部材で構成する必要がある。しかし、タービン翼の材料は耐熱金属であるが、それでもこのような高温には耐えられないために、この耐熱金属の基材上に金属結合層を介して溶射等の成膜方法によって酸化物セラミックスからなるセラミックス層を積層した遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating,TBC)を形成して、耐熱金属基材を高温から保護することが行われている。セラミックス層としてはZrO系の材料、特にYで部分安定化又は完全安定化したZrOであるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)が、セラミックス材料の中では比較的低い熱伝導率と比較的高い熱膨張率を有しているためによく用いられている。
【0003】
ガスタービンの種類によっては、タービンの入口温度が1500℃を越える温度に上昇することが考えられている。また、近年環境対策の関係から、より熱効率の高いガスタービンの開発が進められており、タービンの入口温度が1700℃にも達すると考えられ、タービン翼の表面温度は1300℃もの高温になることが予想される。上記YSZからなるセラミックス層を備えた遮熱コーティング材によりガスタービンの動翼や静翼などを被覆した場合、1500℃を超える過酷な運転条件の下ではガスタービンの運転中に上記セラミックス層の一部が剥離し、耐熱性が損なわれるおそれがあった。また、YSZは1200℃を超える温度で脱安定化現象が生じ、タービンの耐久性が大幅に低減してしまう。
【0004】
非特許文献1には、酸化チタンを添加することによって、準安定性方晶のYSZの強靭化を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Schaedler et al., “Toughening of Non-Transformable t'-YSZ by Addition of Titania”, Journal of American Ceramic Society, 90, 3896-3901 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化チタン添加YSZは、高靭性であるものの、より高温のガスタービンの遮熱コーティングに適用するには、熱伝導率が高いという欠点があった。
【0007】
本発明は、YSZよりも高温安定性に優れ、高靭性と低熱伝導性を両立する遮熱コーティング用材料を提供することを目的とする。また、該遮熱コーティング用材料を用いて形成されたセラミックス層を有する熱サイクル耐久性に優れた遮熱コーティング、並びに、該遮熱コーティングを備えるタービン用部材及びガスタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、 組成式(1):
Ln(x+y−3xy)TiTaZr(1−3x)(1−y)(2+1.5xy−0.5y)
(ただし、Lnは、Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素とされ、0.05≦x≦0.25、0≦y≦0.15)
で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用材料を提供する。
【0009】
本発明の遮熱コーティング用材料は、安定化剤としてY,Sm,Yb,Ndを含むZrO系材料である。
上記遮熱コーティング用材料は、Y,Sm,Yb,Nd,Taを含むために、従来のYSZよりも熱伝導率が低下する。Tiは、安定化ジルコニアの靭性を向上させともに、Ti4+が、Ti4+よりもイオン半径が大きいZr4+と置換されることによって、状態図において正方晶が安定な領域を広げる効果を有する。TaはZrOを不安定化する元素である。不安定化したジルコニアが材料中に局在すると、昇温時及び降温時に正方晶から単斜晶への変態が生じるために、材料の強度が低下する。本発明の遮熱コーティング用材料は、上記組成の化合物でありTaの偏在が抑えられているために、温度変化による相変態が発生せず、高い靭性を有する。
【0010】
本発明は、耐熱合金基材上に、耐高温腐食合金材を含む金属結合層と、請求項1に記載の遮熱コーティング用材料を含むセラミックス層とが順に形成された遮熱コーティングを提供する。
【0011】
上記遮熱コーティング用材料からなるセラミックス層は、高温結晶安定性に優れ高い靭性を有する。また、従来のYSZよりも熱伝導率が低いセラミックス層となる。そのため、熱サイクル耐久性に優れる遮熱コーティングとなる。
【0012】
本発明は、上記遮熱コーティングを備えるタービン部材、及び、該タービン部材を備えたガスタービンを提供する。係る構成のタービン部材は、優れた熱サイクル耐久性を有する。そのため、例えば1700℃級のガスタービンの信頼性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明は、LnTiTaO(Ln:Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素)で表される原料粉末と、LnZr(1−y)(2−0.5y)(Ln:Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素、0≦y≦0.15)で表される原料粉末とを、モル比でx:1−3x(0.05≦x≦0.25)の割合で混合した混合粉末を作製する工程と、前記混合粉末を焼結する工程とを含む遮熱コーティング用材料の製造方法を提供する。
【0014】
各金属元素の酸化物を原料として混合し焼結すると、混合時のばらつきにより遮熱コーティング用材料中にTaが多い部分が存在しやすくなる。Taによってジルコニアが不安定化するために、材料強度が低下する。
本発明のように、LnTiTaOを原料として用いることにより、Taの偏在を抑制することができる。このため、高い靭性を有する遮熱コーティング用材料とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高靭性と低熱伝導性を両立する遮熱コーティング用材料を得ることができる。そのため、高い熱サイクル耐久性を示す遮熱コーティングを形成することができる。本発明の遮熱コーティングを例えば1700℃級ガスタービンに適用することにより、タービンの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の遮熱コーティング用材料を適用したタービン部材の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本実施形態に係る遮熱コーティング用材料を適用したタービン部材の断面の模式図である。タービン動翼などの耐熱合金基材11上に、遮熱コーティングとして金属結合層12及びセラミックス層13が順に形成される。
【0018】
耐熱合金基材11は、例えば、商標名:IN−738LC(化学組成:Ni−16Cr−8.5Co−1.75Mo−2.6W−1.75Ta−0.9Nb−3.4Ti−3.4Al(質量%))といった合金基材とされる。
【0019】
金属結合層12は、MCrAlY合金(Mは、Ni,Co,Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組合せを示す)などとされる。
【0020】
本実施形態のセラミックス層13は、組成式(1):
Ln(x+y−3xy)TiTaZr(1−3x)(1−y)(2+1.5xy−0.5y)
で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用材料を主として含む。Lnは、Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素とされる。
組成式(1)において、xは、0.05≦x≦0.25、好ましくは0.08≦x≦0.2とされる。yは、0≦y≦0.15、好ましくは0.07≦y≦0.12とされる。x<0.05であると、正方晶から単斜晶への変態が生じやすくなるため、破壊靭性が低下し遮熱コーティングとして適さない。x>0.25であると、Taが増加するために、破壊靭性が低下する。y>0.15であると、立方晶となる領域が生成するため、破壊靭性が低下する。
【0021】
組成式(1)の遮熱コーティング用材料は、以下の工程により合成される。
LnTiTaO粉末を合成する。Ln粉末(Ln:Y,Sm,Yb,Ndのうち1種類または2種類以上の元素)、TiO粉末、Ta粉末を、上記組成となるように秤量し、ボールミルなどにより固相混合する。混合粉末を乾燥させた後、1600℃4時間の条件で焼成する。
【0022】
次に、LnTiTaO粉末と、LnZr(1−y)(2−0.5y)粉末(Ln:Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素、0≦y≦0.15)を、モル比でLnTiTaO:LnZr(1−y)(2−0.5y)=x:1−3xとなるように秤量する。上記粉末を、ボールミルなどにより固相混合する。混合粉末を乾燥させた後、1600℃4時間の条件で焼成する。
【0023】
本実施形態のように、化合物であるLnTiTaOを原料として、LnZr(1−y)(2−0.5y)と混合することにより、Taの偏在を抑制することができる。その結果、高い靭性を示す遮熱コーティング用材料となる。Tiを含むことにより、結晶安定性に優れる。また、Y,Sm,Yb,Nd,Taを含むことにより、熱伝導率の低い遮熱コーティング用材料となる。
【0024】
本実施形態のセラミックス層13は、大気圧プラズマ溶射、電子ビーム物理蒸着などによって製膜される。大気圧プラズマ溶射を適用する場合、本実施形態の遮熱コーティング用材料は、スプレードライ法などにより溶射粉末とされる。
【0025】
以下、実施例により本実施形態の遮熱コーティング用材料を説明する。
(実施例1〜15)
表1に示す原料粉末を用いて、実施例1〜15の化学組成の遮熱コーティング用材料を合成した。焼成条件は、焼成温度:1600℃、焼成時間:4時間とした。
なお、表1におけるYTiTaO粉末、(Sm,Yb)TiTaO粉末、(Sm,Yb,Nd)TiTaO粉末は、TiO粉末、Ta粉末、Sm粉末、Yb粉末、Nd粉末を、原料とした。原料を所定の組成となるように秤量し、ボールミルを用いて混合し乾燥させた後、焼成温度:1600℃、焼成時間:4時間の条件で焼成して、作製した。
【0026】
(比較例1〜15)
表1に示す原料粉末を用いて、比較例1〜15の化学組成の遮熱コーティング用材料を、実施例と同様の焼成条件で合成した。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例及び比較例の焼結体の熱伝導率を、JIS R 1611で規定されるレーザフラッシュ法により測定した。また、破壊靭性値を、JIS R 1607に基づいて測定した。表2に結果を示す。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例の遮熱コーティング用材料は、いずれも熱伝導率が低く、高い破壊靭性値を示した。
比較例1の遮熱コーティング用材料は、高い破壊靭性を有するものの、熱伝導率が高かった。比較例2〜6の遮熱コーティング用材料は、熱伝導率は高いが、破壊靭性が低かった。比較例7の遮熱コーティング用材料は、破壊靭性が大幅に低下した。粉末X線回折測定により、比較例7は単斜晶が多く析出していることが確認された。実施例及び比較例8〜15の結果から、原料粉末としてLnTiTaO粉末を用いることにより、高靭性の遮熱コーティング用材料が得られることが証明された。
【符号の説明】
【0031】
11 耐熱合金基材
12 金属結合層
13 セラミックス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(1):
Ln(x+y−3xy)TiTaZr(1−3x)(1−y)(2+1.5xy−0.5y)
(ただし、Lnは、Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素とされ、0.05≦x≦0.25、0≦y≦0.15)
で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用材料。
【請求項2】
耐熱合金基材上に、耐高温腐食合金材を含む金属結合層と、請求項1に記載の遮熱コーティング用材料を含むセラミックス層とが順に形成された遮熱コーティング。
【請求項3】
請求項2に記載の遮熱コーティングを備えるタービン部材。
【請求項4】
請求項3に記載のタービン部材を備えるガスタービン。
【請求項5】
LnTiTaO(Ln:Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素)で表される原料粉末と、LnZr(1−y)(2−0.5y)(Ln:Y,Sm,Yb,Ndからなる群から選択される1種類または2種類以上の元素、0≦y≦0.15)で表される原料粉末とを、モル比でx:1−3x(0.05≦x≦0.25)の割合で混合した混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末を焼結する工程とを含む遮熱コーティング用材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−235415(P2010−235415A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87503(P2009−87503)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】