配向多結晶基材およびその製造方法と酸化物超電導導体
【課題】良好な結晶配向性を維持しつつも中間層を薄膜化することで、膜の内部応力に起因する基板の反り返りを防止し、生産性にも優れた配向多結晶基材とそれを備えた酸化物超電導導体を提供する。
【解決手段】金属基材11上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように成膜された岩塩構造の第一層13と、この第一層13上に3回対称に配向するように成膜された配向調整層12と、この配向調整層12上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように成膜された蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層14とを具備する中間層15を形成する。
【解決手段】金属基材11上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように成膜された岩塩構造の第一層13と、この第一層13上に3回対称に配向するように成膜された配向調整層12と、この配向調整層12上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように成膜された蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層14とを具備する中間層15を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な結晶配向性の多結晶薄膜を備えた多結晶基材およびその作製方法と多結晶基材上に酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBa2Cu3O7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。
そして、酸化物超電導体を線材に加工するための方法としては、強度が高く、耐熱性もあり、線材に加工することが容易な金属を長尺のテープ状に加工し、この金属基材上に酸化物超電導体を薄膜状に形成する方法が検討されている。
ところで、酸化物超電導体はその結晶自体、結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいという電気的異方性を有している。従って、基材上に酸化物超電導体を形成する場合には、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要がある。
【0003】
しかしながら、金属基材自体は非結晶もしくは多結晶体であり、その結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、基材上に上記のような結晶配向性の良好な酸化物超電導体膜を形成することは困難である。また、基材と超電導体との間には熱膨張率及び格子定数の差があるため、超電導臨界温度までの冷却の過程で、超電導体に歪みが生じたり、酸化物超電導体膜が基板から剥離する等の問題もある。
そこで、上記のような問題を解決するために、まず金属基板上に熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基板と超電導体との中間的な値を示すMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SrTiO3 等の材料から成る中間層(バッファー層)を形成し、この中間層の上に酸化物超電導体膜を形成することが行われている。
この中間層は基板面に対して直角にc軸が配向するものの、基板面内でa軸(又はb軸)がほぼ同一の方向に面内配向しないため、この上に形成される酸化物超電導層もa軸(又はb軸)がほぼ同一の方向に面内配向せず、臨界電流密度Jcが向上しないという問題があった。
【0004】
イオンビームアシスト法(IBAD法:Ion Beam Assisted Deposition)は、この問題を解決する技術であり、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオン銃から発生されたアルゴンイオンと酸素イオン等を同時に斜め方向(例えば、45度)から照射しながら堆積させるもので、この方法によれば、基材上の成膜面に対して、高いc軸配向性及びa軸面内配向性を有する中間層が得られる。
図12及び図13は、前記IBAD法により、中間層をなす多結晶薄膜を基材上に形成した一例を示すものであり、図12において100は板状の基材、110は基材100の上面に形成された多結晶薄膜を示している。
【0005】
前記多結晶薄膜110は、立方晶系の結晶構造を有する微細な結晶粒120が、多数、結晶粒界を介して接合一体化されてなり、各結晶粒120の結晶軸のc軸は基材100の上面(成膜面)に対して直角に向けられ、各結晶粒120の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしは、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。また、各結晶粒120のc軸が基材100の(上面)成膜面に対して直角に配向されている。そして、各結晶粒120のa軸(あるいはb軸)どうしは、それらのなす角度(図13に示す粒界傾角K)を30度以内にして接合一体化されている。
【0006】
IBAD法は、線材の機械的特性が優れる、安定した高特性が得られ易い等、実用性の高い製法であると言われているが、従来、IBAD法によって成膜された中間層(以下、「IBAD中間層」ともいう。)は、1000nm程度の膜厚がないと良好な配向性が得られないとされていた。一方、無配向の金属テープ上でイオンビーム衝撃によって結晶配向制御を行う関係で、IBAD法は蒸着速度が3nm/分程度と遅いため成膜に時間が掛かり、生産性の点で問題があった。
この問題を解決する方法として、YSZ、GdZrO等の蛍石構造系列の酸化物を用いる場合(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)と、MgO等の岩塩構造系列の酸化物を用いる場合(例えば、特許文献1を参照)があり、精力的に開発研究が進められている。また、IBAD法により作製可能なMgO膜として、MgO(111)軸が基板法線方向に向いたものと、MgO(100)軸が基板法線方向に向いたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6933065号明細書
【特許文献2】国際公開第01/040536号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蛍石構造系列の酸化物を用いる前者の技術においては積層の構造が単純で成膜条件が広く、長尺化が先行して進んだが、中間層膜厚を厚くする必要があるために、生産速度が遅くなるほか、膜の内部応力が大きくなって基材が反り返るという問題があった。
また、岩塩構造系列の酸化物を用いる後者の方法は、前述の問題を抜本的に解決するものとして期待されているが、この方法は数10nm以下の非常に薄い膜を多数積層する方法であるため、長尺にわたって同一の狭い成膜条件を維持するために多くのノウハウを要するという問題があった。
【0009】
次に、岩塩構造系列の酸化物であるMgO層を基材上に形成した場合、MgO自体が潮解性を有しているために、保管性に関し安定性に欠ける問題がある。従って、保存状態によってはMgO層を保護するために他の膜を積層して保護しておかないと、膜の欠陥につながるおそれがある。
また、IBAD法により形成したMgO層は極めて薄い膜であるため、膜質を検査するためのX線測定をすることが不可能であり、IBAD−MgO層の膜質を測定するには、IBAD−MgO層上にエピタキシャル膜を積層した上でエピタキシャル膜を含めてX線照射することで膜質を検査する必要があり、膜質の把握が容易ではない問題を有していた。更に、本発明者らの研究によれば、IBAD−MgO層のみを形成した場合、成膜条件を厳格に制御して好条件で成膜したとしても、IBAD−MgO層の一部に結晶配向が180゜回転している部分が存在することがわかってきたので、IBAD−MgO層上に他の層を積層する場合に更に優れた結晶配向性を望む場合、改善するべき課題を有することが判明した。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑み考案されたものであり、良好な結晶配向性を維持しつつも中間層を薄膜化することで、膜の内部応力に起因する基板の反り返りを防止し、膜質の安定性、生産性にも優れた配向多結晶基材とその製造方法を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、膜の内部応力に起因する基板の反り返りを防止できるとともに膜質の安定性と生産性に優れ、結晶配向性が良好で、臨界電流密度が高く超電導特性の良好な酸化物超電導導体を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。
本発明の配向多結晶基材は、金属基材上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように成膜された岩塩構造の第一層と、この第一層上に3回対称に配向するように成膜された配向調整層と、この配向調整層上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように成膜された蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層とを具備する中間層が形成されてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の配向多結晶基材は、前記第一層の回折ピークの半値幅よりも前記配向調整層の回折ピークの半値幅が小さくされてなることを特徴とする。
本発明の配向多結晶基材は、前記第一層がMgOからなり、前記配向調整層がCeO2からなり、前記第二層がGd2Zr2O7からなることを特徴とする。
本発明の配向多結晶基材は、前記基材と第一層との間に拡散防止層とベッド層の少なくとも一方が介在されてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導導体は、先のいずれかに記載の配向多結晶基材の第二層の上に酸化物超電導層が形成されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明の配向多結晶基材の製造方法は、金属基材上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように岩塩構造の第一層を形成し、その上に3回対称に配向するように配向調整層を成膜し、この配向調整層の上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層を形成することを特徴とする。
本発明の配向多結晶基材の製造方法は、前記第一層としてMgO層を成膜し、前記配向調整層としてCeO2層を成膜し、前記第二層としてGd2Zr2O7層を成膜することを特徴とする。
本発明の配向多結晶基材の製造方法は、前記配向調整層を成膜する際、成膜温度を700℃以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオンビームアシスト法により面内に3回対称に配向するように成膜された第一層及び配向調整層と、この上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように成膜された第二層とを具備する中間層が形成されてなるので、基材上に4回対称に配向するように第二層を単独で成膜する場合よりも、第一層及び配向調整層と第二層を合わせた膜厚であっても、遙かに薄い膜厚で面内方向の結晶軸分散の半値幅の小さい配向多結晶基材を得ることができる。
また、膜厚を薄くできるので、生産性が向上し、長尺の配向多結晶基材の製造面で有利な特徴がある。更に、MgOなどの第一層を用いる場合、潮解性を有する第一層を配向調整層と第二層で覆って構成できるので、成膜後の膜質安定性に優れ、次工程まで保管する場合も保管中に結晶配向性に問題を生じることがない。
第一層としてIBAD法によるMgO層を採用し、配向調整層としてCeO2層を採用し、第二層としてGZO層を採用することができ、これらの組み合わせにより確実に薄い膜厚で面内方向の結晶軸分散の半値幅を15度以下の優れた値とすることができる。
【0015】
従って、配向多結晶薄膜を製造後、酸化物超電導層を成膜するまでの間に保管しておいても保管中に結晶配向性の乱れを生じないので、目的の超電導特性を発揮する結晶配向性に優れた酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体を得ることができる。
また、薄い膜厚で面内方向の結晶軸分散の半値幅を15度以下の優れた値とすることにより、その上に形成する酸化物超電導層として優れた結晶配向性のものを確実に得ることができる結果、優れた超電導特性の酸化物超電導導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製造方法によって製造される酸化物超電導導体用の配向多結晶基材の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明に係る酸化物超電導導体の一例構造を示す概略部分断面図である。
【図3】中間層をIBAD法によって成膜する成膜装置の一例を示す模式図である。
【図4】図3に示す装置に適用されるイオンガンの一例を示す斜視図である。
【図5】実施例で得られたIBAD−MgO層の(220)正極点図である。
【図6】実施例でMgO層上に500℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図7】実施例でMgO層上に600℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図8】実施例でMgO層上に700℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図9】実施例でMgO層上に800℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図10】実施例でMgO層上に900℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図11】比較例で形成されたMgO層のX線回折図形。
【図12】従来方法により得られた基材上の多結晶薄膜の一例を示す概略構成図である。
【図13】同多結晶薄膜の粒界傾角を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、以下説明する。
<第一の実施形態>
図1は、本発明に係る多結晶薄膜10の一例を模式的に示す図である。
本発明の多結晶薄膜10は、金属基材11上に順に、拡散防止層9を介して、第一層13と配向調整層12と第二層14を積層してなる中間層15を構成し、第一層13と第二層14の結晶構造はそれぞれ、岩塩構造と蛍石構造であり、前記第一層13と配向調整層12は<111>配向し、前記第二層14は<100>配向していることを特徴とする。
【0018】
本発明では、中間層15を第一層13と配向調整層12と第二層14の積層体とし、第一層13と第二層14の結晶構造をそれぞれ、岩塩構造と蛍石構造とし、前記第一層13と配向調整層12は<111>配向し、前記第二層14は<100>配向していることで、良好な結晶配向性を維持しつつも中間層15を薄膜化することができる。これにより膜の内部応力が低減され、金属基材11の反り返りを防止した多結晶薄膜10を提供することができる。
また、配向調整層12は第一層13の一部に面内配向が180゜回転している反転粒子などを有していてもその180゜回転した反転粒子の配向を引き継ぐことなく、結晶配向性がより良好で均一な<111>配向となっている点に特徴を有する。
【0019】
岩塩構造を有する第一層13としては、組成式γOで示される酸化物もしくはδNで示される窒化物もしくはεCで示される炭化物が挙げられる。ここでγは2価、δは3価、εは4価の金属元素を示すが、γは特にアルカリ土類金属Be,Mg,Ca,Sr,Baが望ましく、δ、εは特にTi,Zr,Hf,V,Nb,Taが望ましい。第一層13は、これらの元素うち1つを含む構成例の他に、2つ以上を含む構成例としてもよい。
蛍石構造を有する第二層14としては、組成式(α1O2)2x(β2O3)(1−X) で示されるものが挙げられる。ここで、αはZr,Hf,Ti又は4価の希土類元素(例えばCeなど)であり、βは3価の希土類元素で、かつ0≦x≦1に属するものを指すが、特にαがZr、Hfで、0.4≦x≦1.0であるものが望ましい。
【0020】
より詳しくは、特徴の異なるIBAD中間層15を3種類の層の組み合わせた構造とすることによって、配向性の良好な中間層15全体をより薄く形成することができる。
従来技術では、1000nm以上の厚さが必要であった蛍石構造を有するGd2Zr2O7 (以下、「GZO」と略記する)からなる単層構造の中間層に対し、同じGZOからなる第二層14に、岩塩構造を有するMgOからなる第一層13を組合せることによって、300nm以下の厚さで面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を15度以下とすることができる。
その上、第一層13に部分的に面内配向が180゜回転している反転粒子などを有していても、配向調整層12を設けることで第一層13における配向不足の部分を補い、更に第二層14における面内配向性を高めることができる。
ゆえに、中間層15としての厚さが従来の1000nmのものよりも薄くなるため、製造速度を高めることができ、製造コストを低減することが可能となる。
【0021】
また、蛍石構造を有するGZOからなる第二層14を積層したことによって、MgOからなる第一層13においては、30nm以上の厚さ、の面内半値幅が15度を超える程度の品質であっても、反転粒子などの影響を抑制してより配向性に優れた配向調整層12を形成し、この上に配向調整層12の良好な配向性に習った良好な配向性の第二層14を形成することができ、この多結晶薄膜10上に酸化物超電導層(例えば、YBCO)を形成するならば、酸化物超電導層は第二層14にエピタキシャル配向して良好な配向性となるので、最終的に良好な配向性、高特性の酸化物超電導層を安定した歩留りで得ることができる。
【0022】
なお、金属基材11は、本実施形態ではテープ状のものを用いているが、これに限定されず、例えば板材、線材、条体等の種々の形状のものを用いることができ、例えば、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくは各種金属材料上に各種セラミックスを配したもの、等を適用することができる。
【0023】
また、本実施形態において用いられる拡散防止層9は、金属基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成されている。
なお、本実施形態の構造においては用いていないが、拡散防止層9と第一層13との間に更にベッド層を設けることができる。このベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性をより低減するためのものであり、その上に配される皮膜の配向性を得るために機能する。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、希土類酸化物層を用いることができる。希土類酸化物として、組成式(α1O2)2x(β2O3)(1−X)で示されるものを例示することができる。ここで、αとβは希土類元素で0≦x≦1に属するものを指す。より具体的には、Y2O3、CeO2、 Dy2O3、Er2O3、Eu2O3、Ho2O3、La2O3、Lu2O3、Nd2O3、Pr6O11、Sc2O3、Sm2O3、Tb4O7、Tm2O3、Yb2O3などを例示することができる。
このベッド層は、例えばスパッタリング法等により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
前記拡散防止層9とベッド層の2層構造とする場合、拡散防止層9をアルミナから構成し、ベッド層12をY2O3で形成する構造を例示できる。
なお、本発明では、拡散防止層9とベッド層の2層構造に限定するものではない。
【0024】
上述の如く拡散防止層9とベッド層の2層構造とするのは、ベッド層の上に後述の実施形態で説明する如く酸化物超電導層や他の層を形成する場合に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合、金属基材11の構成元素の一部が拡散防止層9を介して酸化物超電導層側に拡散することを抑制するためであり、拡散防止層9とベッド層の2層構造とすることで金属基材11側からの元素拡散を効果的に抑制することができる。
また、これらの拡散防止層9とベッド層の結晶配向性は特に問われないので、通常のスパッタ法などの成膜法により形成すれば良い。
【0025】
本実施形態の中間層15は、第一層13と配向調整層12と第二層14の積層体から構成される。
第一層13は、結晶構造が岩塩構造を有する。このような岩塩構造を有する材料としては、例えばMgO等が挙げられる。
第二層14は、結晶構造が蛍石構造を有する。このような蛍石構造を有する材料としては、例えばYSZ、GZO等が挙げられる。
【0026】
なお、図1に示すように、多結晶薄膜10をなす中間層15において、第一層13及び配向調整層12に対し、第二層14の配向軸が異なり、第一層13と配向調整層12は<111>配向し、第二層14は<100>配向している。このように、第一層13及び配向調整層12と第二層14の配向軸を異なるものとすることにより、第一層及び配向調整層の材料や膜構造の仕様について、選択の自由度を大きくすることができる。
本実施例では、第一層13と配向調整層12が<111>配向した膜であっても、第二層14は<100>配向するので、この第二層14を用いることでc軸垂直配向した酸化物超電導層の面内配向制御を問題なく実現できる。このとき、第一層13及び配向調整層12は、第二層14の面内軸を固定する機能を持つので、第二層14の厚さを従来よりも薄くすることができる。
【0027】
上述の構造の多結晶薄膜10上に酸化物超電導層(例えば、YBCO)を形成する場合、<111>配向したMgOの第一層13を採用することにより、MgOの第一層13が30nm以上の厚さであっても、酸化物超電導層において良好な配向性、高特性を得ることができ、さらに安定した歩留まりを得ることができる。
【0028】
本実施形態の構造において、前記第一層13の厚さは、5〜200nmの範囲が好ましく、配向調整層12の厚さは、5〜700nmの範囲が好ましく、第二層14の厚さは、100〜300nmの範囲が好ましい。
第一層の厚さが5nm未満であると、膜厚を安定に維持しにくくなって膜厚にばらつきを生じる虞がある。
配向調整層12の厚さが5nm未満では膜厚を安定にすることが難しく、700nmを超える厚さでは成膜時間が長くなり、製造時間が長くなると共に、厚くした効果があまり望めない。
【0029】
一方、第一層13と配向調整層12と第二層14を合わせた厚さが800nmを越えると第一層13と配向調整層12と第二層14の内部応力が増大し、これにより多結晶薄膜10全体の内部応力が大きくなり、多結晶薄膜10が金属基材11から剥離しやすくなるなどの問題を生じやすくなる。また、800nmを越えると表面粗さが大きくなり、その上に形成する酸化物超電導層の臨界電流密度が低下するおそれもある。なお、第一層13と配向調整層12と第二層14の膜厚は、それぞれの成膜時に金属基材11の送出速度を調整することにより容易に厚さ制御ができる。
【0030】
第二層14は、<111>配向している初期部と、<100>配向している成長部とからなることが好ましい。これにより、<111>配向した第一層13の上に<111>配向した配向調整層12と、第二層14との界面が安定する。したがって、<111>配向した配向調整層12上に、第二層14の<111>配向した初期部を介して、<100>配向した第二層14を、再現性よく、かつ広い製造条件で形成することができる。第二層14の初期部から成長部は、第一層13と第二層14との積層方向において、軸が倒れていき、次第に<111>配向から<100>配向するようになる。
【0031】
<酸化物超電導導体の構造>
次に、上述のような多結晶薄膜を用いた酸化物超電導導体について説明する。
図2は、本発明に係る酸化物超電導導体の一例を模式的に示す図である。
本実施形態の酸化物超電導導体30は、金属基材31上に順に、拡散防止層29とベッド層28を介して、第一層33と配向制御層32と第二層34を積層してなる中間層35と、キャップ層37と、酸化物超電導層38とを、少なくとも重ねて配した酸化物超電導導体であって、第一層33と配向調整層32と第二層34はそれぞれ、前記第1の実施形態の第一層13、配向調整層12、第二層14と同等の構造である。
【0032】
本実施形態では、多結晶薄膜において中間層35をなす第一層33及び配向調整層32と、第二層34の結晶構造をそれぞれ、岩塩構造と、蛍石構造とし、更に、第一層33と配向調整層32は<111>配向し、第二層34は<100>配向させることで、良好な結晶配向性を維持しつつも中間層を薄膜化することができる。これにより膜の内部応力が低減され、基材の反り返りが防止されるとともに、結晶配向性が良好で、臨界電流密度が高く超電導特性の良好な酸化物超電導導体を提供することができる。
【0033】
本実施形態のキャップ層37は例えばCeO2層で構成する。また、このCeO2層は、全てがCeO2からなる必要はなく、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで一部置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。このCeO2層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO2層の成膜条件としては、基材温度約500〜800℃、約0.6〜40Paの酸素ガス雰囲気中で、レーザーエネルギー密度が1〜5J/cm2で行うことができる。
CeO2層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましく、500nm以上であれば更に好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、500〜600nmとすることが好ましい。
【0034】
酸化物超電導層38の材料としては、RE−123系酸化物超電導体(REBa2Cu3O7−X:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)を用いることができる。RE−123系酸化物として好ましいのは、Y123(YBa2Cu3O7−X :以下では「YBCO」という。)又はSm123(SmBa2Cu3O7−X 、以下では「SmBCO」という。)、Gd123(GdBa2Cu3O7−X )である。
【0035】
酸化物超電導層38は、通常の成膜法によって成膜することができるが、生産性の点から、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)、PLD法又はCVD法を用いることが好ましい。
前記MOD法は、金属有機酸塩を塗布後熱分解させるもので、金属成分の有機化合物を均一に溶解した溶液を基材上に塗布した後、これを加熱して熱分解させることにより基材上に薄膜を形成する方法であり、真空プロセスを必要とせず、低コストで高速成膜が可能であるため長尺のテープ状酸化物超電導導体の製造に適している。
【0036】
ここで前述のように、良好な配向性を有する多結晶薄膜36上に酸化物超電導層37を形成すると、この多結晶薄膜36上に積層される酸化物超電導層37も多結晶薄膜36の配向性に整合するように結晶化する。よって前記多結晶薄膜36上に形成された酸化物超電導層37は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層37を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、金属基材31の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、金属基材2の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層12は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、金属基材2の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0037】
以上説明したように、本発明では、多結晶薄膜において、結晶構造の異なるIBAD中間層を組み合わせることによって、配向性の良好な中間層をより薄く形成することができる。従来1000nm以上の厚さが必要であった蛍石構造を有するGZOからなる単層構造の中間層に対し、岩塩構造を有するMgOからなる第一層と配向調整層を組合せることによって、300nm以下の厚さで面内半値幅15度以下とした中間層35を提供することができる。これにより膜の内部応力が低減され、金属基材の反り返りを防止することができる。
【0038】
以上、本発明の多結晶薄膜及び酸化物超電導導体について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態では、多結晶薄膜を酸化物超電導導体に適用した場合について説明したが、これに限定されず、本発明の多結晶薄膜を、光学薄膜、光磁気ディスクの磁性薄膜、集積回路用微細配線用薄膜、高周波導波路や高周波フィルタ及び空洞共振器等に用いられる誘電体薄膜のいずれにも適用することができる。
【0039】
即ち、結晶配向性の良好な多結晶薄膜上に、これらの薄膜をスパッタリング、レーザ蒸着、真空蒸着、CVD(化学蒸着)等の成膜法で形成するならば、多結晶薄膜と良好な整合性でこれらの薄膜が堆積または成長するので、配向性が良好になる。
これらの薄膜は、配向性の良好な高品質の薄膜が得られるので、光学薄膜においては光学特性に優れ、磁性薄膜においては磁気特性に優れ、配線用薄膜においてはマイグレーションの生じない、誘電体薄膜においては誘電特性の良好な薄膜が得られる。
【0040】
次に、本発明の製造方法において用いるIBAD法による成膜装置の一例について説明する。
図3は、多結晶薄膜を製造する装置の一例を示すものであり、この例の装置は、スパッタ装置にイオンビームアシスト用のイオンガンを設けた構成とされている。
この成膜装置は、基材Aを保持する基材ホルダ51と、この基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって対向配置された板状のターゲット52と、前記基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって対向され、かつ、ターゲット52と離間して配置されたイオンガン53と、前記ターゲット52の下方においてターゲット52の下面に向けて配置されたスパッタビーム照射装置54を主体として構成されている。また、図中符号55は、ターゲット52を保持したターゲットホルダを示している。
また、前記装置は図示略の真空容器に収納されていて、基材Aの周囲を真空雰囲気に保持できるようになっている。更に前記真空容器には、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容器の内部を真空等の低圧状態で、かつ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。
【0041】
なお、基材Aとして長尺の金属テープを用いる場合は、真空容器の内部に金属テープの送出装置と巻取装置を設け、送出装置から連続的に基材ホルダ51に基材Aを送り出し、続いて巻取装置で巻き取ることでテープ状の基材上に多結晶薄膜を連続成膜することができるように構成することが好ましい。
前記基材ホルダ51は内部に加熱ヒータを備え、基材ホルダ51の上に位置された基材Aを所用の温度に加熱できるようになっている。また、基材ホルダ51の底部には、基材ホルダ51の水平角度を調整できる角度調整機構が付設されている。なお、角度調整機構をイオンガン53に取り付けてイオンガン53の傾斜角度を調整し、イオンの照射角度を調整するようにしても良い。
【0042】
前記ターゲット52は、目的とする多結晶薄膜を形成するためのものであり、目的の組成の多結晶薄膜と同一組成あるいは近似組成のもの等を用いる。ターゲット52として具体的には、MgOあるいはGZO等を用いるがこれらに限るものではなく、形成しようとする多結晶薄膜に見合うターゲットを用いれば良い。
前記イオンガン53は、容器の内部に、イオン化させるガスを導入し、正面に引き出し電極を備えて構成されている。そして、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。ガスをイオン化するには高周波励起方式、フィラメント式等の種々のものがある。フィラメント式はタングステン製のフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、高真空中でガス分子と衝突させてイオン化する方法である。また、高周波励起方式は、高真空中のガス分子を高周波電界で分極させてイオン化するものである。
本実施例においては、図4に示す構成の内部構造のイオンガン53を用いることができる。このイオンガン53は、筒状の容器56の内部に、引出電極57とフィラメント58とArガス等の導入管59とを備えて構成され、容器56の先端からイオンをビーム状に平行に照射できるものである。
【0043】
前記イオンガン53は、図4に示すようにその中心軸を基材Aの上面(成膜面)に対して傾斜角度θでもって傾斜させて対向されている。この傾斜角度θは30〜60度の範囲が好ましいが、MgOの場合に特に45度前後が好ましい。従ってイオンガン53は基材Aの上面に対して傾斜角θでもってイオンを照射できるように配置されている。なお、イオンガン53によって基材Aに照射するイオンは、He+、Ne+、Ar+、Xe+、Kr+ 等の希ガスのイオン、あるいは、それらと酸素イオンの混合イオン等で良い。
前記スパッタビーム照射装置54は、イオンガン53と同等の構成をなし、ターゲット52に対してイオンを照射してターゲット52の構成粒子を叩き出すことができるものである。なお、本発明装置ではターゲット53の構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、ターゲット52に高周波コイル等で電圧を印可してターゲット52の構成粒子を叩き出し可能なように構成し、スパッタビーム照射装置54を省略しても良い。
【0044】
前記構成の装置を用いて基材A上に多結晶薄膜を形成するには、所定のターゲットを用いるとともに、角度調整機構を調節してイオンガン53から照射されるイオンを基材ホルダ51の上面に45度前後の角度で照射できるようにする。次に基材を収納している容器の内部を真空引きして減圧雰囲気とする。そして、イオンガン53とスパッタビーム照射装置54を作動させる。スパッタビーム照射装置54からターゲット52にイオンを照射すると、ターゲット52の構成粒子が叩き出されて基材A上に飛来する。そして、基材A上に、ターゲット52から叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン53からArイオンと酸素イオンの混合イオンを照射する。このイオン照射する際の照射角度θは、たとえばMgOを形成する際には、40〜60度の範囲が好適である。
以上の操作により基材A上に目的のIBAD法による多結晶薄膜を成膜することができる。
【実施例】
【0045】
金属基材として、表面を研磨した10mm幅のハステロイテープを使用した。この金属基材上に、薄いイットリア膜(Y2O3膜)(約100nm)をスパッタリング法により形成した後、中間層を構成する第一層としてIBAD法によってMgO膜(約200nm)を形成した。このときMgO膜は、200℃以下の基材温度で、Ar等の希ガスイオンビームによるイオンビームアシストを行いながら作製した。
得られたIBAD−MgO膜についてMgO(220)正極点図を図5に示す。
図5に示す如くMgO(220)正極点図には、明瞭な3回対称性を示したので、本発明で意図する構造に好適であり、このIBAD−MgO膜上に仮にGZO膜を形成すると4回対称性を示すGZO膜を形成できることについては、本発明者らが特願2008−254812号において明らかにしている。
【0046】
本発明では、IBAD−MgO膜上に直にGZO膜を形成するのではなく、CeO2膜を形成した後に蛍石構造のGZO膜を形成するものとする。
前記MgO膜上に、PLD法(パルスレーザ蒸着法)により500℃〜900℃の温度でCeO2膜を形成した。CeO2膜の成膜には、MgO膜まで形成した複数の試料に対し、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃の各温度において個別にCeO2膜(厚さ100nm)を成膜して各試料を作製した。
【0047】
500℃、600℃、700℃、800℃、900℃の各温度において個別にCeO2膜を成膜して作製した各試料について、成膜温度毎のCeO2膜(220)正極点図を図6、図7、図8、図9、図10に示す。また、各試料における面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)の値を測定した結果を以下の表1に示す。
【0048】
図6、図7、図8に示すCeO2膜(220)正極点図から明らかなように、500℃〜700℃の温度域において成膜したCeO2膜は、大きなピークとピークの間に小さい他のピークが出ていることが判明した。これらの小さいピークは、CeO2膜の下地となったMgO膜中に180゜面内回転しているMgO粒子が含まれていることを示唆している。
【0049】
これらの試料に対し、図8に示す試料では大きなピークの間に小さなピークが減少し、図9、図10に示す如くMgO膜上に800℃と900℃でCeO2膜を成膜した試料では大きなピークの間に小さなピークが殆ど現れていないことが明らかとなった。これは、下地となるMgO膜中に180゜面内回転しているMgO粒子が含まれているとしても、800℃以上の温度でCeO2膜を成膜すると、下地のMgO膜の結晶配向性の乱れを補う形でCeO2膜を成膜できることが判明した。なお、PLD法などの成膜法により一般的にCeO2膜を成膜する場合、1000℃〜1200℃程度までは問題なく良好な結晶配向性のCeO2膜を成膜できることが知られているので、本願発明の如く特別に結晶配向性を制御したCeO2膜であっても、1000℃〜1200℃の範囲で上述の700℃、800℃、900℃で成膜したものと同等の膜質のCeO2膜を成膜することができるのは勿論である。
以上のことから、180゜面内回転しているMgO粒子が多少含まれているMgO膜上であっても、より結晶配向性に優れたCeO2膜を形成することができる。
【0050】
次いで、前記各試料のCeO2膜上に、中間層を構成する第二層としてIBAD法によって300nmの厚さのGZO膜を積層形成した。このときGZO膜は、200℃以下の基材温度で、Ar等の希ガスイオンビームによるイオンビームアシストを行いながら作製した。各試料のCeO2膜上に形成したIBAD−GZO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を測定した結果を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すIBAD−GZO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅を測定した結果から見れば、700℃以上の温度で成膜した試料においてΔΦが15度を下回って本発明で目的とする配向性を得られることが分かる。なお、ΔΦについて、本願発明者らの研究により、IBAD−GZO膜のΔΦが15度以下になれば、その上にエピタキシャル成膜する十分な高特性の酸化物超電導道層を成膜出来ることが分かっているので、IBAD−GZO膜としてΔΦ15以下のものを従来の1000nmよりもできるだけ薄い厚さで実現することを目標としている。
【0053】
なお、このようにCeO2膜上に形成したIBAD−GZO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)が15度以下の好ましい範囲となることは、IBAD−MgO膜上に500〜600℃で成膜したCeO2膜では下地のIBAD−MgO膜に含まれている面内配向性180度反転粒子の影響を打ち消すことができずに、CeO2膜中にも面内配向性180度反転粒子の影響が持ち越されるのに対し、700℃以上の温度でCeO2膜を成膜することで面内配向性180度反転粒子の影響を無くすることができるためであると思われる。
これらの事情を勘案すると、CeO2膜の成膜温度に関し、700℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましい。CeO2膜の成膜温度を700℃以上とすることにより、その上に形成したIBAD−GZO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を15度以下とすることができ、下地のIBAD−MgO膜に含まれている180度反転分子の影響を無くすることができる。そして、CeO2膜の成膜温度を800℃以上とするならば、CeO2膜(220)正極点図において大きなピークの間に700℃以下の成膜温度では出現していた小さなピークを殆ど無くすることができるようになり、下地のIBAD−MgO膜の結晶配向性の乱れを補う形でCeO2膜を成膜できることが明らかとなった。
【0054】
以上説明の如くIBAD−MgO膜の膜厚を200〜300nm、CeO2膜との膜厚を100〜200nm程度とすることで、300〜500nm程度の合計膜厚にすることにより、従来の1000nmの膜厚が必要であった単層GZO膜の構造に比べて遙かに薄い膜厚で目的の配向性の中間層を得ることができることが判明した。また、GZO膜の製造プロセスは他の膜の製造プロセスより時間がかかるので、GZO膜が薄くなることは全部の膜を製造するための全体プロセスの短縮の面から極めて効果が大きく、プロセス速度の大幅な改善となる。
【0055】
図11は上述の実施例の配向多結晶薄膜を製造する場合、薄いイットリア膜(Y2O3膜)(約100nm)上にIBAD法によってMgO膜(約200nm)を形成した状態でMgO膜の(220)正極点図からのピークを求めた結果を示すが、3回対称性を認めることは出来るが、そのピークは図8から図10に示すMgO膜上のCeO2の極点図のピークよりも鋭いわけではない。
図8から図10に示す極点図のピークの方が遙かに鋭いピークを有していることが明らかであるので、薄いイットリア膜上にIBAD法によって成膜したMgO膜の配向度が多少不十分であったとしても、その上に700℃〜900℃の温度でCeO2膜を成膜することで、MgO膜の配向不良部分に影響を受けずに、より優れた配向性のCeO2膜を成膜できていることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0056】
9、29…拡散防止層、11、31…基材、12、32…配向調整層、13、33…第一層、14、34…第二層、15、35…中間層、28…ベッド層、30…酸化物超電導層、37…キャップ層、38…酸化物超電導層、A…基材、51…基材ホルダ、53…イオンガン、52…ターゲット、55…ターゲットホルダ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な結晶配向性の多結晶薄膜を備えた多結晶基材およびその作製方法と多結晶基材上に酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBa2Cu3O7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。
そして、酸化物超電導体を線材に加工するための方法としては、強度が高く、耐熱性もあり、線材に加工することが容易な金属を長尺のテープ状に加工し、この金属基材上に酸化物超電導体を薄膜状に形成する方法が検討されている。
ところで、酸化物超電導体はその結晶自体、結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいという電気的異方性を有している。従って、基材上に酸化物超電導体を形成する場合には、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要がある。
【0003】
しかしながら、金属基材自体は非結晶もしくは多結晶体であり、その結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、基材上に上記のような結晶配向性の良好な酸化物超電導体膜を形成することは困難である。また、基材と超電導体との間には熱膨張率及び格子定数の差があるため、超電導臨界温度までの冷却の過程で、超電導体に歪みが生じたり、酸化物超電導体膜が基板から剥離する等の問題もある。
そこで、上記のような問題を解決するために、まず金属基板上に熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基板と超電導体との中間的な値を示すMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SrTiO3 等の材料から成る中間層(バッファー層)を形成し、この中間層の上に酸化物超電導体膜を形成することが行われている。
この中間層は基板面に対して直角にc軸が配向するものの、基板面内でa軸(又はb軸)がほぼ同一の方向に面内配向しないため、この上に形成される酸化物超電導層もa軸(又はb軸)がほぼ同一の方向に面内配向せず、臨界電流密度Jcが向上しないという問題があった。
【0004】
イオンビームアシスト法(IBAD法:Ion Beam Assisted Deposition)は、この問題を解決する技術であり、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオン銃から発生されたアルゴンイオンと酸素イオン等を同時に斜め方向(例えば、45度)から照射しながら堆積させるもので、この方法によれば、基材上の成膜面に対して、高いc軸配向性及びa軸面内配向性を有する中間層が得られる。
図12及び図13は、前記IBAD法により、中間層をなす多結晶薄膜を基材上に形成した一例を示すものであり、図12において100は板状の基材、110は基材100の上面に形成された多結晶薄膜を示している。
【0005】
前記多結晶薄膜110は、立方晶系の結晶構造を有する微細な結晶粒120が、多数、結晶粒界を介して接合一体化されてなり、各結晶粒120の結晶軸のc軸は基材100の上面(成膜面)に対して直角に向けられ、各結晶粒120の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしは、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。また、各結晶粒120のc軸が基材100の(上面)成膜面に対して直角に配向されている。そして、各結晶粒120のa軸(あるいはb軸)どうしは、それらのなす角度(図13に示す粒界傾角K)を30度以内にして接合一体化されている。
【0006】
IBAD法は、線材の機械的特性が優れる、安定した高特性が得られ易い等、実用性の高い製法であると言われているが、従来、IBAD法によって成膜された中間層(以下、「IBAD中間層」ともいう。)は、1000nm程度の膜厚がないと良好な配向性が得られないとされていた。一方、無配向の金属テープ上でイオンビーム衝撃によって結晶配向制御を行う関係で、IBAD法は蒸着速度が3nm/分程度と遅いため成膜に時間が掛かり、生産性の点で問題があった。
この問題を解決する方法として、YSZ、GdZrO等の蛍石構造系列の酸化物を用いる場合(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)と、MgO等の岩塩構造系列の酸化物を用いる場合(例えば、特許文献1を参照)があり、精力的に開発研究が進められている。また、IBAD法により作製可能なMgO膜として、MgO(111)軸が基板法線方向に向いたものと、MgO(100)軸が基板法線方向に向いたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6933065号明細書
【特許文献2】国際公開第01/040536号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蛍石構造系列の酸化物を用いる前者の技術においては積層の構造が単純で成膜条件が広く、長尺化が先行して進んだが、中間層膜厚を厚くする必要があるために、生産速度が遅くなるほか、膜の内部応力が大きくなって基材が反り返るという問題があった。
また、岩塩構造系列の酸化物を用いる後者の方法は、前述の問題を抜本的に解決するものとして期待されているが、この方法は数10nm以下の非常に薄い膜を多数積層する方法であるため、長尺にわたって同一の狭い成膜条件を維持するために多くのノウハウを要するという問題があった。
【0009】
次に、岩塩構造系列の酸化物であるMgO層を基材上に形成した場合、MgO自体が潮解性を有しているために、保管性に関し安定性に欠ける問題がある。従って、保存状態によってはMgO層を保護するために他の膜を積層して保護しておかないと、膜の欠陥につながるおそれがある。
また、IBAD法により形成したMgO層は極めて薄い膜であるため、膜質を検査するためのX線測定をすることが不可能であり、IBAD−MgO層の膜質を測定するには、IBAD−MgO層上にエピタキシャル膜を積層した上でエピタキシャル膜を含めてX線照射することで膜質を検査する必要があり、膜質の把握が容易ではない問題を有していた。更に、本発明者らの研究によれば、IBAD−MgO層のみを形成した場合、成膜条件を厳格に制御して好条件で成膜したとしても、IBAD−MgO層の一部に結晶配向が180゜回転している部分が存在することがわかってきたので、IBAD−MgO層上に他の層を積層する場合に更に優れた結晶配向性を望む場合、改善するべき課題を有することが判明した。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑み考案されたものであり、良好な結晶配向性を維持しつつも中間層を薄膜化することで、膜の内部応力に起因する基板の反り返りを防止し、膜質の安定性、生産性にも優れた配向多結晶基材とその製造方法を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、膜の内部応力に起因する基板の反り返りを防止できるとともに膜質の安定性と生産性に優れ、結晶配向性が良好で、臨界電流密度が高く超電導特性の良好な酸化物超電導導体を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。
本発明の配向多結晶基材は、金属基材上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように成膜された岩塩構造の第一層と、この第一層上に3回対称に配向するように成膜された配向調整層と、この配向調整層上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように成膜された蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層とを具備する中間層が形成されてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の配向多結晶基材は、前記第一層の回折ピークの半値幅よりも前記配向調整層の回折ピークの半値幅が小さくされてなることを特徴とする。
本発明の配向多結晶基材は、前記第一層がMgOからなり、前記配向調整層がCeO2からなり、前記第二層がGd2Zr2O7からなることを特徴とする。
本発明の配向多結晶基材は、前記基材と第一層との間に拡散防止層とベッド層の少なくとも一方が介在されてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導導体は、先のいずれかに記載の配向多結晶基材の第二層の上に酸化物超電導層が形成されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明の配向多結晶基材の製造方法は、金属基材上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように岩塩構造の第一層を形成し、その上に3回対称に配向するように配向調整層を成膜し、この配向調整層の上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層を形成することを特徴とする。
本発明の配向多結晶基材の製造方法は、前記第一層としてMgO層を成膜し、前記配向調整層としてCeO2層を成膜し、前記第二層としてGd2Zr2O7層を成膜することを特徴とする。
本発明の配向多結晶基材の製造方法は、前記配向調整層を成膜する際、成膜温度を700℃以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオンビームアシスト法により面内に3回対称に配向するように成膜された第一層及び配向調整層と、この上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように成膜された第二層とを具備する中間層が形成されてなるので、基材上に4回対称に配向するように第二層を単独で成膜する場合よりも、第一層及び配向調整層と第二層を合わせた膜厚であっても、遙かに薄い膜厚で面内方向の結晶軸分散の半値幅の小さい配向多結晶基材を得ることができる。
また、膜厚を薄くできるので、生産性が向上し、長尺の配向多結晶基材の製造面で有利な特徴がある。更に、MgOなどの第一層を用いる場合、潮解性を有する第一層を配向調整層と第二層で覆って構成できるので、成膜後の膜質安定性に優れ、次工程まで保管する場合も保管中に結晶配向性に問題を生じることがない。
第一層としてIBAD法によるMgO層を採用し、配向調整層としてCeO2層を採用し、第二層としてGZO層を採用することができ、これらの組み合わせにより確実に薄い膜厚で面内方向の結晶軸分散の半値幅を15度以下の優れた値とすることができる。
【0015】
従って、配向多結晶薄膜を製造後、酸化物超電導層を成膜するまでの間に保管しておいても保管中に結晶配向性の乱れを生じないので、目的の超電導特性を発揮する結晶配向性に優れた酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体を得ることができる。
また、薄い膜厚で面内方向の結晶軸分散の半値幅を15度以下の優れた値とすることにより、その上に形成する酸化物超電導層として優れた結晶配向性のものを確実に得ることができる結果、優れた超電導特性の酸化物超電導導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製造方法によって製造される酸化物超電導導体用の配向多結晶基材の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明に係る酸化物超電導導体の一例構造を示す概略部分断面図である。
【図3】中間層をIBAD法によって成膜する成膜装置の一例を示す模式図である。
【図4】図3に示す装置に適用されるイオンガンの一例を示す斜視図である。
【図5】実施例で得られたIBAD−MgO層の(220)正極点図である。
【図6】実施例でMgO層上に500℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図7】実施例でMgO層上に600℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図8】実施例でMgO層上に700℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図9】実施例でMgO層上に800℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図10】実施例でMgO層上に900℃で成膜されたCeO2層の(220)極点図である。
【図11】比較例で形成されたMgO層のX線回折図形。
【図12】従来方法により得られた基材上の多結晶薄膜の一例を示す概略構成図である。
【図13】同多結晶薄膜の粒界傾角を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、以下説明する。
<第一の実施形態>
図1は、本発明に係る多結晶薄膜10の一例を模式的に示す図である。
本発明の多結晶薄膜10は、金属基材11上に順に、拡散防止層9を介して、第一層13と配向調整層12と第二層14を積層してなる中間層15を構成し、第一層13と第二層14の結晶構造はそれぞれ、岩塩構造と蛍石構造であり、前記第一層13と配向調整層12は<111>配向し、前記第二層14は<100>配向していることを特徴とする。
【0018】
本発明では、中間層15を第一層13と配向調整層12と第二層14の積層体とし、第一層13と第二層14の結晶構造をそれぞれ、岩塩構造と蛍石構造とし、前記第一層13と配向調整層12は<111>配向し、前記第二層14は<100>配向していることで、良好な結晶配向性を維持しつつも中間層15を薄膜化することができる。これにより膜の内部応力が低減され、金属基材11の反り返りを防止した多結晶薄膜10を提供することができる。
また、配向調整層12は第一層13の一部に面内配向が180゜回転している反転粒子などを有していてもその180゜回転した反転粒子の配向を引き継ぐことなく、結晶配向性がより良好で均一な<111>配向となっている点に特徴を有する。
【0019】
岩塩構造を有する第一層13としては、組成式γOで示される酸化物もしくはδNで示される窒化物もしくはεCで示される炭化物が挙げられる。ここでγは2価、δは3価、εは4価の金属元素を示すが、γは特にアルカリ土類金属Be,Mg,Ca,Sr,Baが望ましく、δ、εは特にTi,Zr,Hf,V,Nb,Taが望ましい。第一層13は、これらの元素うち1つを含む構成例の他に、2つ以上を含む構成例としてもよい。
蛍石構造を有する第二層14としては、組成式(α1O2)2x(β2O3)(1−X) で示されるものが挙げられる。ここで、αはZr,Hf,Ti又は4価の希土類元素(例えばCeなど)であり、βは3価の希土類元素で、かつ0≦x≦1に属するものを指すが、特にαがZr、Hfで、0.4≦x≦1.0であるものが望ましい。
【0020】
より詳しくは、特徴の異なるIBAD中間層15を3種類の層の組み合わせた構造とすることによって、配向性の良好な中間層15全体をより薄く形成することができる。
従来技術では、1000nm以上の厚さが必要であった蛍石構造を有するGd2Zr2O7 (以下、「GZO」と略記する)からなる単層構造の中間層に対し、同じGZOからなる第二層14に、岩塩構造を有するMgOからなる第一層13を組合せることによって、300nm以下の厚さで面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を15度以下とすることができる。
その上、第一層13に部分的に面内配向が180゜回転している反転粒子などを有していても、配向調整層12を設けることで第一層13における配向不足の部分を補い、更に第二層14における面内配向性を高めることができる。
ゆえに、中間層15としての厚さが従来の1000nmのものよりも薄くなるため、製造速度を高めることができ、製造コストを低減することが可能となる。
【0021】
また、蛍石構造を有するGZOからなる第二層14を積層したことによって、MgOからなる第一層13においては、30nm以上の厚さ、の面内半値幅が15度を超える程度の品質であっても、反転粒子などの影響を抑制してより配向性に優れた配向調整層12を形成し、この上に配向調整層12の良好な配向性に習った良好な配向性の第二層14を形成することができ、この多結晶薄膜10上に酸化物超電導層(例えば、YBCO)を形成するならば、酸化物超電導層は第二層14にエピタキシャル配向して良好な配向性となるので、最終的に良好な配向性、高特性の酸化物超電導層を安定した歩留りで得ることができる。
【0022】
なお、金属基材11は、本実施形態ではテープ状のものを用いているが、これに限定されず、例えば板材、線材、条体等の種々の形状のものを用いることができ、例えば、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくは各種金属材料上に各種セラミックスを配したもの、等を適用することができる。
【0023】
また、本実施形態において用いられる拡散防止層9は、金属基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成されている。
なお、本実施形態の構造においては用いていないが、拡散防止層9と第一層13との間に更にベッド層を設けることができる。このベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性をより低減するためのものであり、その上に配される皮膜の配向性を得るために機能する。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、希土類酸化物層を用いることができる。希土類酸化物として、組成式(α1O2)2x(β2O3)(1−X)で示されるものを例示することができる。ここで、αとβは希土類元素で0≦x≦1に属するものを指す。より具体的には、Y2O3、CeO2、 Dy2O3、Er2O3、Eu2O3、Ho2O3、La2O3、Lu2O3、Nd2O3、Pr6O11、Sc2O3、Sm2O3、Tb4O7、Tm2O3、Yb2O3などを例示することができる。
このベッド層は、例えばスパッタリング法等により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
前記拡散防止層9とベッド層の2層構造とする場合、拡散防止層9をアルミナから構成し、ベッド層12をY2O3で形成する構造を例示できる。
なお、本発明では、拡散防止層9とベッド層の2層構造に限定するものではない。
【0024】
上述の如く拡散防止層9とベッド層の2層構造とするのは、ベッド層の上に後述の実施形態で説明する如く酸化物超電導層や他の層を形成する場合に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合、金属基材11の構成元素の一部が拡散防止層9を介して酸化物超電導層側に拡散することを抑制するためであり、拡散防止層9とベッド層の2層構造とすることで金属基材11側からの元素拡散を効果的に抑制することができる。
また、これらの拡散防止層9とベッド層の結晶配向性は特に問われないので、通常のスパッタ法などの成膜法により形成すれば良い。
【0025】
本実施形態の中間層15は、第一層13と配向調整層12と第二層14の積層体から構成される。
第一層13は、結晶構造が岩塩構造を有する。このような岩塩構造を有する材料としては、例えばMgO等が挙げられる。
第二層14は、結晶構造が蛍石構造を有する。このような蛍石構造を有する材料としては、例えばYSZ、GZO等が挙げられる。
【0026】
なお、図1に示すように、多結晶薄膜10をなす中間層15において、第一層13及び配向調整層12に対し、第二層14の配向軸が異なり、第一層13と配向調整層12は<111>配向し、第二層14は<100>配向している。このように、第一層13及び配向調整層12と第二層14の配向軸を異なるものとすることにより、第一層及び配向調整層の材料や膜構造の仕様について、選択の自由度を大きくすることができる。
本実施例では、第一層13と配向調整層12が<111>配向した膜であっても、第二層14は<100>配向するので、この第二層14を用いることでc軸垂直配向した酸化物超電導層の面内配向制御を問題なく実現できる。このとき、第一層13及び配向調整層12は、第二層14の面内軸を固定する機能を持つので、第二層14の厚さを従来よりも薄くすることができる。
【0027】
上述の構造の多結晶薄膜10上に酸化物超電導層(例えば、YBCO)を形成する場合、<111>配向したMgOの第一層13を採用することにより、MgOの第一層13が30nm以上の厚さであっても、酸化物超電導層において良好な配向性、高特性を得ることができ、さらに安定した歩留まりを得ることができる。
【0028】
本実施形態の構造において、前記第一層13の厚さは、5〜200nmの範囲が好ましく、配向調整層12の厚さは、5〜700nmの範囲が好ましく、第二層14の厚さは、100〜300nmの範囲が好ましい。
第一層の厚さが5nm未満であると、膜厚を安定に維持しにくくなって膜厚にばらつきを生じる虞がある。
配向調整層12の厚さが5nm未満では膜厚を安定にすることが難しく、700nmを超える厚さでは成膜時間が長くなり、製造時間が長くなると共に、厚くした効果があまり望めない。
【0029】
一方、第一層13と配向調整層12と第二層14を合わせた厚さが800nmを越えると第一層13と配向調整層12と第二層14の内部応力が増大し、これにより多結晶薄膜10全体の内部応力が大きくなり、多結晶薄膜10が金属基材11から剥離しやすくなるなどの問題を生じやすくなる。また、800nmを越えると表面粗さが大きくなり、その上に形成する酸化物超電導層の臨界電流密度が低下するおそれもある。なお、第一層13と配向調整層12と第二層14の膜厚は、それぞれの成膜時に金属基材11の送出速度を調整することにより容易に厚さ制御ができる。
【0030】
第二層14は、<111>配向している初期部と、<100>配向している成長部とからなることが好ましい。これにより、<111>配向した第一層13の上に<111>配向した配向調整層12と、第二層14との界面が安定する。したがって、<111>配向した配向調整層12上に、第二層14の<111>配向した初期部を介して、<100>配向した第二層14を、再現性よく、かつ広い製造条件で形成することができる。第二層14の初期部から成長部は、第一層13と第二層14との積層方向において、軸が倒れていき、次第に<111>配向から<100>配向するようになる。
【0031】
<酸化物超電導導体の構造>
次に、上述のような多結晶薄膜を用いた酸化物超電導導体について説明する。
図2は、本発明に係る酸化物超電導導体の一例を模式的に示す図である。
本実施形態の酸化物超電導導体30は、金属基材31上に順に、拡散防止層29とベッド層28を介して、第一層33と配向制御層32と第二層34を積層してなる中間層35と、キャップ層37と、酸化物超電導層38とを、少なくとも重ねて配した酸化物超電導導体であって、第一層33と配向調整層32と第二層34はそれぞれ、前記第1の実施形態の第一層13、配向調整層12、第二層14と同等の構造である。
【0032】
本実施形態では、多結晶薄膜において中間層35をなす第一層33及び配向調整層32と、第二層34の結晶構造をそれぞれ、岩塩構造と、蛍石構造とし、更に、第一層33と配向調整層32は<111>配向し、第二層34は<100>配向させることで、良好な結晶配向性を維持しつつも中間層を薄膜化することができる。これにより膜の内部応力が低減され、基材の反り返りが防止されるとともに、結晶配向性が良好で、臨界電流密度が高く超電導特性の良好な酸化物超電導導体を提供することができる。
【0033】
本実施形態のキャップ層37は例えばCeO2層で構成する。また、このCeO2層は、全てがCeO2からなる必要はなく、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで一部置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。このCeO2層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO2層の成膜条件としては、基材温度約500〜800℃、約0.6〜40Paの酸素ガス雰囲気中で、レーザーエネルギー密度が1〜5J/cm2で行うことができる。
CeO2層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましく、500nm以上であれば更に好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、500〜600nmとすることが好ましい。
【0034】
酸化物超電導層38の材料としては、RE−123系酸化物超電導体(REBa2Cu3O7−X:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)を用いることができる。RE−123系酸化物として好ましいのは、Y123(YBa2Cu3O7−X :以下では「YBCO」という。)又はSm123(SmBa2Cu3O7−X 、以下では「SmBCO」という。)、Gd123(GdBa2Cu3O7−X )である。
【0035】
酸化物超電導層38は、通常の成膜法によって成膜することができるが、生産性の点から、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)、PLD法又はCVD法を用いることが好ましい。
前記MOD法は、金属有機酸塩を塗布後熱分解させるもので、金属成分の有機化合物を均一に溶解した溶液を基材上に塗布した後、これを加熱して熱分解させることにより基材上に薄膜を形成する方法であり、真空プロセスを必要とせず、低コストで高速成膜が可能であるため長尺のテープ状酸化物超電導導体の製造に適している。
【0036】
ここで前述のように、良好な配向性を有する多結晶薄膜36上に酸化物超電導層37を形成すると、この多結晶薄膜36上に積層される酸化物超電導層37も多結晶薄膜36の配向性に整合するように結晶化する。よって前記多結晶薄膜36上に形成された酸化物超電導層37は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層37を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、金属基材31の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、金属基材2の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層12は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、金属基材2の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0037】
以上説明したように、本発明では、多結晶薄膜において、結晶構造の異なるIBAD中間層を組み合わせることによって、配向性の良好な中間層をより薄く形成することができる。従来1000nm以上の厚さが必要であった蛍石構造を有するGZOからなる単層構造の中間層に対し、岩塩構造を有するMgOからなる第一層と配向調整層を組合せることによって、300nm以下の厚さで面内半値幅15度以下とした中間層35を提供することができる。これにより膜の内部応力が低減され、金属基材の反り返りを防止することができる。
【0038】
以上、本発明の多結晶薄膜及び酸化物超電導導体について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態では、多結晶薄膜を酸化物超電導導体に適用した場合について説明したが、これに限定されず、本発明の多結晶薄膜を、光学薄膜、光磁気ディスクの磁性薄膜、集積回路用微細配線用薄膜、高周波導波路や高周波フィルタ及び空洞共振器等に用いられる誘電体薄膜のいずれにも適用することができる。
【0039】
即ち、結晶配向性の良好な多結晶薄膜上に、これらの薄膜をスパッタリング、レーザ蒸着、真空蒸着、CVD(化学蒸着)等の成膜法で形成するならば、多結晶薄膜と良好な整合性でこれらの薄膜が堆積または成長するので、配向性が良好になる。
これらの薄膜は、配向性の良好な高品質の薄膜が得られるので、光学薄膜においては光学特性に優れ、磁性薄膜においては磁気特性に優れ、配線用薄膜においてはマイグレーションの生じない、誘電体薄膜においては誘電特性の良好な薄膜が得られる。
【0040】
次に、本発明の製造方法において用いるIBAD法による成膜装置の一例について説明する。
図3は、多結晶薄膜を製造する装置の一例を示すものであり、この例の装置は、スパッタ装置にイオンビームアシスト用のイオンガンを設けた構成とされている。
この成膜装置は、基材Aを保持する基材ホルダ51と、この基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって対向配置された板状のターゲット52と、前記基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって対向され、かつ、ターゲット52と離間して配置されたイオンガン53と、前記ターゲット52の下方においてターゲット52の下面に向けて配置されたスパッタビーム照射装置54を主体として構成されている。また、図中符号55は、ターゲット52を保持したターゲットホルダを示している。
また、前記装置は図示略の真空容器に収納されていて、基材Aの周囲を真空雰囲気に保持できるようになっている。更に前記真空容器には、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容器の内部を真空等の低圧状態で、かつ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。
【0041】
なお、基材Aとして長尺の金属テープを用いる場合は、真空容器の内部に金属テープの送出装置と巻取装置を設け、送出装置から連続的に基材ホルダ51に基材Aを送り出し、続いて巻取装置で巻き取ることでテープ状の基材上に多結晶薄膜を連続成膜することができるように構成することが好ましい。
前記基材ホルダ51は内部に加熱ヒータを備え、基材ホルダ51の上に位置された基材Aを所用の温度に加熱できるようになっている。また、基材ホルダ51の底部には、基材ホルダ51の水平角度を調整できる角度調整機構が付設されている。なお、角度調整機構をイオンガン53に取り付けてイオンガン53の傾斜角度を調整し、イオンの照射角度を調整するようにしても良い。
【0042】
前記ターゲット52は、目的とする多結晶薄膜を形成するためのものであり、目的の組成の多結晶薄膜と同一組成あるいは近似組成のもの等を用いる。ターゲット52として具体的には、MgOあるいはGZO等を用いるがこれらに限るものではなく、形成しようとする多結晶薄膜に見合うターゲットを用いれば良い。
前記イオンガン53は、容器の内部に、イオン化させるガスを導入し、正面に引き出し電極を備えて構成されている。そして、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。ガスをイオン化するには高周波励起方式、フィラメント式等の種々のものがある。フィラメント式はタングステン製のフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、高真空中でガス分子と衝突させてイオン化する方法である。また、高周波励起方式は、高真空中のガス分子を高周波電界で分極させてイオン化するものである。
本実施例においては、図4に示す構成の内部構造のイオンガン53を用いることができる。このイオンガン53は、筒状の容器56の内部に、引出電極57とフィラメント58とArガス等の導入管59とを備えて構成され、容器56の先端からイオンをビーム状に平行に照射できるものである。
【0043】
前記イオンガン53は、図4に示すようにその中心軸を基材Aの上面(成膜面)に対して傾斜角度θでもって傾斜させて対向されている。この傾斜角度θは30〜60度の範囲が好ましいが、MgOの場合に特に45度前後が好ましい。従ってイオンガン53は基材Aの上面に対して傾斜角θでもってイオンを照射できるように配置されている。なお、イオンガン53によって基材Aに照射するイオンは、He+、Ne+、Ar+、Xe+、Kr+ 等の希ガスのイオン、あるいは、それらと酸素イオンの混合イオン等で良い。
前記スパッタビーム照射装置54は、イオンガン53と同等の構成をなし、ターゲット52に対してイオンを照射してターゲット52の構成粒子を叩き出すことができるものである。なお、本発明装置ではターゲット53の構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、ターゲット52に高周波コイル等で電圧を印可してターゲット52の構成粒子を叩き出し可能なように構成し、スパッタビーム照射装置54を省略しても良い。
【0044】
前記構成の装置を用いて基材A上に多結晶薄膜を形成するには、所定のターゲットを用いるとともに、角度調整機構を調節してイオンガン53から照射されるイオンを基材ホルダ51の上面に45度前後の角度で照射できるようにする。次に基材を収納している容器の内部を真空引きして減圧雰囲気とする。そして、イオンガン53とスパッタビーム照射装置54を作動させる。スパッタビーム照射装置54からターゲット52にイオンを照射すると、ターゲット52の構成粒子が叩き出されて基材A上に飛来する。そして、基材A上に、ターゲット52から叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン53からArイオンと酸素イオンの混合イオンを照射する。このイオン照射する際の照射角度θは、たとえばMgOを形成する際には、40〜60度の範囲が好適である。
以上の操作により基材A上に目的のIBAD法による多結晶薄膜を成膜することができる。
【実施例】
【0045】
金属基材として、表面を研磨した10mm幅のハステロイテープを使用した。この金属基材上に、薄いイットリア膜(Y2O3膜)(約100nm)をスパッタリング法により形成した後、中間層を構成する第一層としてIBAD法によってMgO膜(約200nm)を形成した。このときMgO膜は、200℃以下の基材温度で、Ar等の希ガスイオンビームによるイオンビームアシストを行いながら作製した。
得られたIBAD−MgO膜についてMgO(220)正極点図を図5に示す。
図5に示す如くMgO(220)正極点図には、明瞭な3回対称性を示したので、本発明で意図する構造に好適であり、このIBAD−MgO膜上に仮にGZO膜を形成すると4回対称性を示すGZO膜を形成できることについては、本発明者らが特願2008−254812号において明らかにしている。
【0046】
本発明では、IBAD−MgO膜上に直にGZO膜を形成するのではなく、CeO2膜を形成した後に蛍石構造のGZO膜を形成するものとする。
前記MgO膜上に、PLD法(パルスレーザ蒸着法)により500℃〜900℃の温度でCeO2膜を形成した。CeO2膜の成膜には、MgO膜まで形成した複数の試料に対し、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃の各温度において個別にCeO2膜(厚さ100nm)を成膜して各試料を作製した。
【0047】
500℃、600℃、700℃、800℃、900℃の各温度において個別にCeO2膜を成膜して作製した各試料について、成膜温度毎のCeO2膜(220)正極点図を図6、図7、図8、図9、図10に示す。また、各試料における面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)の値を測定した結果を以下の表1に示す。
【0048】
図6、図7、図8に示すCeO2膜(220)正極点図から明らかなように、500℃〜700℃の温度域において成膜したCeO2膜は、大きなピークとピークの間に小さい他のピークが出ていることが判明した。これらの小さいピークは、CeO2膜の下地となったMgO膜中に180゜面内回転しているMgO粒子が含まれていることを示唆している。
【0049】
これらの試料に対し、図8に示す試料では大きなピークの間に小さなピークが減少し、図9、図10に示す如くMgO膜上に800℃と900℃でCeO2膜を成膜した試料では大きなピークの間に小さなピークが殆ど現れていないことが明らかとなった。これは、下地となるMgO膜中に180゜面内回転しているMgO粒子が含まれているとしても、800℃以上の温度でCeO2膜を成膜すると、下地のMgO膜の結晶配向性の乱れを補う形でCeO2膜を成膜できることが判明した。なお、PLD法などの成膜法により一般的にCeO2膜を成膜する場合、1000℃〜1200℃程度までは問題なく良好な結晶配向性のCeO2膜を成膜できることが知られているので、本願発明の如く特別に結晶配向性を制御したCeO2膜であっても、1000℃〜1200℃の範囲で上述の700℃、800℃、900℃で成膜したものと同等の膜質のCeO2膜を成膜することができるのは勿論である。
以上のことから、180゜面内回転しているMgO粒子が多少含まれているMgO膜上であっても、より結晶配向性に優れたCeO2膜を形成することができる。
【0050】
次いで、前記各試料のCeO2膜上に、中間層を構成する第二層としてIBAD法によって300nmの厚さのGZO膜を積層形成した。このときGZO膜は、200℃以下の基材温度で、Ar等の希ガスイオンビームによるイオンビームアシストを行いながら作製した。各試料のCeO2膜上に形成したIBAD−GZO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を測定した結果を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すIBAD−GZO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅を測定した結果から見れば、700℃以上の温度で成膜した試料においてΔΦが15度を下回って本発明で目的とする配向性を得られることが分かる。なお、ΔΦについて、本願発明者らの研究により、IBAD−GZO膜のΔΦが15度以下になれば、その上にエピタキシャル成膜する十分な高特性の酸化物超電導道層を成膜出来ることが分かっているので、IBAD−GZO膜としてΔΦ15以下のものを従来の1000nmよりもできるだけ薄い厚さで実現することを目標としている。
【0053】
なお、このようにCeO2膜上に形成したIBAD−GZO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)が15度以下の好ましい範囲となることは、IBAD−MgO膜上に500〜600℃で成膜したCeO2膜では下地のIBAD−MgO膜に含まれている面内配向性180度反転粒子の影響を打ち消すことができずに、CeO2膜中にも面内配向性180度反転粒子の影響が持ち越されるのに対し、700℃以上の温度でCeO2膜を成膜することで面内配向性180度反転粒子の影響を無くすることができるためであると思われる。
これらの事情を勘案すると、CeO2膜の成膜温度に関し、700℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましい。CeO2膜の成膜温度を700℃以上とすることにより、その上に形成したIBAD−GZO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を15度以下とすることができ、下地のIBAD−MgO膜に含まれている180度反転分子の影響を無くすることができる。そして、CeO2膜の成膜温度を800℃以上とするならば、CeO2膜(220)正極点図において大きなピークの間に700℃以下の成膜温度では出現していた小さなピークを殆ど無くすることができるようになり、下地のIBAD−MgO膜の結晶配向性の乱れを補う形でCeO2膜を成膜できることが明らかとなった。
【0054】
以上説明の如くIBAD−MgO膜の膜厚を200〜300nm、CeO2膜との膜厚を100〜200nm程度とすることで、300〜500nm程度の合計膜厚にすることにより、従来の1000nmの膜厚が必要であった単層GZO膜の構造に比べて遙かに薄い膜厚で目的の配向性の中間層を得ることができることが判明した。また、GZO膜の製造プロセスは他の膜の製造プロセスより時間がかかるので、GZO膜が薄くなることは全部の膜を製造するための全体プロセスの短縮の面から極めて効果が大きく、プロセス速度の大幅な改善となる。
【0055】
図11は上述の実施例の配向多結晶薄膜を製造する場合、薄いイットリア膜(Y2O3膜)(約100nm)上にIBAD法によってMgO膜(約200nm)を形成した状態でMgO膜の(220)正極点図からのピークを求めた結果を示すが、3回対称性を認めることは出来るが、そのピークは図8から図10に示すMgO膜上のCeO2の極点図のピークよりも鋭いわけではない。
図8から図10に示す極点図のピークの方が遙かに鋭いピークを有していることが明らかであるので、薄いイットリア膜上にIBAD法によって成膜したMgO膜の配向度が多少不十分であったとしても、その上に700℃〜900℃の温度でCeO2膜を成膜することで、MgO膜の配向不良部分に影響を受けずに、より優れた配向性のCeO2膜を成膜できていることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0056】
9、29…拡散防止層、11、31…基材、12、32…配向調整層、13、33…第一層、14、34…第二層、15、35…中間層、28…ベッド層、30…酸化物超電導層、37…キャップ層、38…酸化物超電導層、A…基材、51…基材ホルダ、53…イオンガン、52…ターゲット、55…ターゲットホルダ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように成膜された岩塩構造の第一層と、この第一層上に3回対称に配向するように成膜された配向調整層と、この配向調整層上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように成膜された蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層とを具備する中間層が形成されてなることを特徴とする配向多結晶基材。
【請求項2】
前記第一層の回折ピークの半値幅よりも前記配向調整層の回折ピークの半値幅が小さくされてなることを特徴とする請求項1に記載の配向多結晶基材。
【請求項3】
前記第一層がMgOからなり、前記配向調整層がCeO2からなり、前記第二層がGd2Zr2O7からなることを特徴とする請求項1または2に記載の配向多結晶基材。
【請求項4】
前記基材と第一層との間に拡散防止層とベッド層の少なくとも一方が介在されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の配向多結晶基材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の配向多結晶基材の第二層の上に酸化物超電導層が形成されてなることを特徴とする酸化物超電導導体。
【請求項6】
金属基材上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように岩塩構造の第一層を形成し、その上に3回対称に配向するように配向調整層を成膜し、この配向調整層の上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層を形成することを特徴とする配向多結晶基材の製造方法。
【請求項7】
前記第一層としてMgO層を成膜し、前記配向調整層としてCeO2層を成膜し、前記第二層としてGd2Zr2O7層を成膜することを特徴とする請求項6に記載の配向多結晶基材の製造方法。
【請求項8】
前記配向調整層を成膜する際、成膜温度を700℃以上とすることを特徴とする請求項6または7に記載の配向多結晶基材の製造方法。
【請求項1】
金属基材上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように成膜された岩塩構造の第一層と、この第一層上に3回対称に配向するように成膜された配向調整層と、この配向調整層上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように成膜された蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層とを具備する中間層が形成されてなることを特徴とする配向多結晶基材。
【請求項2】
前記第一層の回折ピークの半値幅よりも前記配向調整層の回折ピークの半値幅が小さくされてなることを特徴とする請求項1に記載の配向多結晶基材。
【請求項3】
前記第一層がMgOからなり、前記配向調整層がCeO2からなり、前記第二層がGd2Zr2O7からなることを特徴とする請求項1または2に記載の配向多結晶基材。
【請求項4】
前記基材と第一層との間に拡散防止層とベッド層の少なくとも一方が介在されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の配向多結晶基材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の配向多結晶基材の第二層の上に酸化物超電導層が形成されてなることを特徴とする酸化物超電導導体。
【請求項6】
金属基材上に、イオンビームアシスト法(IBAD法)により面内に3回対称に配向するように岩塩構造の第一層を形成し、その上に3回対称に配向するように配向調整層を成膜し、この配向調整層の上にIBAD法により面内に4回対称に配向するように蛍石構造あるいはそれに準じた希土類C型あるいはパイロクロア構造の第二層を形成することを特徴とする配向多結晶基材の製造方法。
【請求項7】
前記第一層としてMgO層を成膜し、前記配向調整層としてCeO2層を成膜し、前記第二層としてGd2Zr2O7層を成膜することを特徴とする請求項6に記載の配向多結晶基材の製造方法。
【請求項8】
前記配向調整層を成膜する際、成膜温度を700℃以上とすることを特徴とする請求項6または7に記載の配向多結晶基材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−6751(P2011−6751A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152568(P2009−152568)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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