説明

配線用Cu合金及びそれを用いた接続構造

【課題】Moなどの密着層を省略し、熱処理もすることなく、ガラスなどの絶縁層に直接配線をCu合金により形成でき、また、表面平滑性の良好な配線を形成する技術を提供する。
【解決手段】本発明は、0.01at%〜0.5at%のBiと、0.05at%〜0.5at%のInと、残部がCu及び不可避不純物とからなることを特徴とする配線用Cu合金とした。また、本発明は、絶縁層とCu合金配線とが直接接合された接続構造において、Cu合金はBi及びInを含有しており、Cu合金配線は、絶縁層との接合界面側にBi偏析層が形成されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスなどの絶縁層と金属配線を備える半導体素子などに好適な配線用Cu合金及びそれを用いた接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器、AV機器、家電製品等の表示デバイスとして液晶表示装置が多く使用されている。このような表示デバイスには、薄膜トランジスタ(略称:TFT)などの半導体素子が用いられている。また、最近では、いわゆる太陽電池パネルなどにも、半導体素子が利用されている。この素子構造においては、絶縁層としてガラスなどが使用され、AlやCuなどの金属が配線材料として用いられている。
【0003】
半導体素子などの配線材料としては、Alよりもエレクトロマイグレーションやストレスマイグレーションについて耐性が高く、低抵抗特性を備える銅(Cu)を主体としたCu合金が採用されることがある。例えば、マグネシウム(Mg)を添加したCu−Mg合金(特許文献1参照)や、銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)又はクロム(Cr)などを含むCu合金(特許文献2参照)、錫(Sn)を添加したCu−Sn合金などが提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
これら先行技術で提案されている配線用のCu合金を用いて、ガラスなどの絶縁層に配線を形成すると、絶縁層に含まれるケイ素(Si)が配線用のCu合金に侵入して低抵抗特性が維持できなくなる傾向がある。また、絶縁層と配線との接合強度が低下する場合も生じる。そのため、絶縁層とCu合金の配線との間に、タンタル(Ta)(特許文献4参照)、窒化タンタル(TaN)や窒化チタン(TiN)などによるバリア層(特許文献5参照)を形成する技術が提案されている。
【0005】
このバリア層の形成は、素子の製造工程を複雑にするため、バリア層を形成せずに、直接、絶縁層に配線を形成することができるCu合金として、マンガン(Mn)を添加したCu−Mn合金も提案されている(特許文献6参照)。このCu−Mn合金は熱処理をすると、Mnが接合界面側に偏析して、バリア層を自己形成する性質がある。
【0006】
また、半導体素子を形成する際のダマシン法に好適な配線用Cu合金として、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、ジスプロシウム(Dy)の少なくとも一種を含むCu合金(特許文献7参照)が提案されている。このダマシン法に好適なCu合金は、溝や孔に埋め込みを行う際に好適なものである。しかし、この特許文献7におけるダマシン法に好適な配線用Cu合金は、ガラスなどの絶縁層に、直接配線形成した場合に、どのような接合特性を示すかは検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−054458号公報
【特許文献2】特開平02−050432号公報
【特許文献3】特開2007−72428号公報
【特許文献4】特開平11−186273号公報
【特許文献5】特開2004−266178号公報
【特許文献6】特開2005−277390号公報
【特許文献7】特開2006−93629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、Alよりもエレクトロマイグレーションやストレスマイグレーションについて耐性が高く、低抵抗特性を備える銅(Cu)を配線用の材料として使用することが行われているが、スパッタリングによりガラス基板上にCu層を形成しても、ガラスへの密着性が良くないため、MoやMo合金などを密着層として介在させることが通常である。また、Cuによる配線をアモルファスシリコンの半導体層と接合した場合、ケイ素(Si)がCuに拡散するために、半導体層とCu層との間にMoやMo合金などのバリア層が必要となる。このような密着層やバリア層を形成することは、半導体素子の製造工程が複雑になる。
【0009】
そのため、例えば、特許文献6のようなCu−Mn合金により配線を形成することで、密着層やバリア層を省略する技術が提案されている。このCu−Mn合金の場合、200℃〜400℃の熱処理をすることにより析出物を形成することで、配線抵抗を下げるとともに、Mnが配線表面に偏析することで、密着層やバリア層を省略することを可能とする。しかしながら、熱処理を必要とするCu合金の場合、有機フィルムのようなフレキシブル基板に適用するのが困難である。
【0010】
さらに、半導体素子における半導体層のチャネルの部分はゲート配線の表面に接することになるが、ゲート配線の表面に凹凸があると、半導体特性に影響することが知られている。このゲート配線をCu合金で形成する場合、その配線の表面平滑性については十分な検討がされていないのが現状である。
【0011】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、Moなどの密着層を省略し、熱処理をすることなく、ガラスなどの絶縁層に直接配線を形成でき、また、ゲート配線に採用しても、半導体特性を良好に維持できる表面平滑性を有する配線を形成できるCu合金を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者らは、Cuにビスマス(Bi)とインジウム(In)を添加して、そのCu合金を鋭意研究したところ、このCu合金で配線を形成すると、特段の熱処理を行わなくても、Biが配線の表面側に偏析する現象を見出し、本発明を想到した。このBi偏析は、Cu合金の配線回路の断面でみると、配線回路断面の外周部分側に発生する現象である。
【0013】
本発明は、0.01at%〜0.5at%のBiと、0.05at%〜0.5at%のInと、残部がCu及び不可避不純物とからなることを特徴とする配線用Cu合金、及びこの配線用Cu合金からなるスパッタリングターゲットに関する。
【0014】
本発明に係る配線用Cu合金により、スパッタリングなどの物理気相成長法により、ガラスなどの絶縁層の表面にCu合金薄膜を形成し、このCu合金薄膜をフォトリソグラフィとエッチングで加工をして配線を形成すると、絶縁層との接合界面側に、ビスマス(Bi)が偏析し、MoやMo合金などの密着層を形成しなくても、Bi偏析層が絶縁層と配線との接合強度を保持できる。この本発明に係る配線用Cu合金は、先行技術で提案されているCu−Mn合金とは異なり、特段の熱処理を施さなくても、Biの偏析が生じるものである。
【0015】
本発明の配線用Cu合金は、Biが0.01at%未満であると、Biの偏析量が少なくなり、Bi偏析による密着性効果が低下する傾向になる。また、Biが0.5at%を超えると、密着性、平滑性が低下する傾向となる。そして、本発明の配線用Cu合金は、インジウム(In)が0.05at%未満となると、熱処理後の結晶粒界における凹凸が大きくなり平滑性が低下する傾向となり、0.5at%を超えると熱処理をしない状態での密着性が低下し、比抵抗値も高くなる傾向となる。本発明の配線用Cu合金であれば、スパッタリングでCu合金薄膜を形成した状態、つまり、熱処理を加えない状態で、比抵抗値が4μΩcm以下となり、ガラスによる絶縁層との密着性に優れ、その薄膜表面の表面平滑性が良好となる。尚、本発明の配線用Cu合金は不可避不純物を含むものであるが、BiとInとCuの合計を100at%として、BiやInの含有量割合を表している。
【0016】
そして、本発明は、絶縁層とCu合金配線とが直接接合された接続構造において、Cu合金はBi及びInを含有しており、Cu合金配線は、絶縁層との接合界面側にBi偏析層が形成されている接続構造に関する。この接続構造におけるCu合金は、0.01at%〜0.5at%のBiと、0.05at%〜0.5at%のInと、残部がCu及び不可避不純物とからなることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、絶縁層とCu合金配線とが直接接合された接続構造の形成方法であって、Cu合金配線は、絶縁層表面にスパッタリング法で形成したCu合金薄膜をエッチングすることにより形成し、直接接合のための熱処理を施すことなく、絶縁層とCu合金配線とが直接接合される接続構造の形成方法に関する。本発明に係る配線用Cu合金は、熱処理を施すことなく、Biが偏析するので、絶縁層表面にスパッタリング法で形成したCu合金薄膜をエッチングすることによりCu合金配線を形成するだけで、絶縁層とCu合金配線との接続が可能となる。熱処理を必要としないため、ガラスのような絶縁層のみならず、有機フィルムなどの熱処理に耐性がない材料に対しても有効なものである。尚、熱処理を行った方が、よりBiの偏析が進行するため、比抵抗が小さくなり、密着性が高くなる傾向になるので、可能であれば熱処理工程を備えた方がよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Moなどの密着層を省略し、熱処理もすることなく、ガラスなどの絶縁層に直接配線をCu合金により形成でき、また、表面平滑性の良好な配線をCu合金により容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】GDSによる深さ分析測定図。
【図1B】図1Aの部分拡大図。
【図2】実施例1の表面観察SEM写真(1万倍)。
【図3】実施例2の表面観察SEM写真(1万倍)。
【図4】比較例1の表面観察SEM写真(1万倍)。
【図5】比較例7の表面観察SEM写真(1万倍)。
【図6】比較例8の表面観察SEM写真(1万倍)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明における実施形態について、実施例、比較例を参照して説明する。
【0021】
本実施形態では、表1に示す各組成のCu合金に関して、その材料特性を評価した。まず、表1に示す各試料に示す添加元素をCuに含有させたスパッタリングターゲットを形成した。このスパッタリングターゲットは、各組成含有量となるように、純度99.99wt%以上のCuに各金属を混合して、真空中で溶解攪拌した後、不活性ガス雰囲気中で鋳造した後、得られたインゴットを圧延、成型加工をし、スパッタに供する表面を平面加工して製造した。
【0022】
そして、表1に示す組成となったスパッタリングターゲットを用いてCu合金薄膜を形成して評価を行った。この評価は、膜の比抵抗、表面平滑性、ガラスとの密着性、偏析層の観察について行った。
以下に各特性評価の条件について説明する。
【0023】
比抵抗:各組成膜の比抵抗値は、ガラス基板上にスパッタリングにより単膜(厚み2800Å)を形成し、真空中(1×10−3Pa)、320℃、30分間の熱処理を行った後、4端子抵抗測定装置(B−1500A:アジレントテクノロジー社製)により測定した。スパッタリング条件は、マグネトロン・スパッタリング装置を用い、投入電力3.0W/cm、アルゴンガス流量100sccm、アルゴン圧力0.5Paとした。そして、スパッタリング後、何ら熱処理もしない状態(as−depo)の比抵抗と、大気雰囲気中、300℃、30分間の熱処理後の比抵抗とを測定した。
【0024】
密着性:ガラスとの密着性評価は、0.7mm厚のガラス基板(50mm×50mm)上に、スパッタリングにより各組成膜を1000Å、2000Å、3000Åの三水準の膜厚で形成し、ガラス切りにてガラス基板を半分(横25mm×縦50mm)にカットした。そして、そのカットしたガラス基板の薄膜上に、クラフトナイフと金定規とを用いて縦方向に2mm間隔で10本の切り傷を形成し、次に横方向に2mm間隔で23本の切り傷を形成した。これにより、ガラス基板の薄膜には、9マス×22マス(2mm各)の格子を形成した。このように格子状の切り傷を形成したガラス基板の薄膜に対してセロハンテープ(登録商標:型番CT−18)を貼り付け密着させた。貼り付けてから1分間経過後、セロハンテープを基板と垂直方向に剥がした。剥がしたセロハンテープに貼り付いた格子数をカウントし、初期のマス目数(198個)に対する割合を算出した。このセロハンテープに剥がれ着いたマスのカウントの仕方は、2mm角全部のものは1個、半分以上の大きさのものは0.5個、半分以下の大きさのものは0.1個として行った。表1に示す密着性評価の結果において100%となっているものは、剥がしたセロハンテープには薄膜の付着がなかったものを示す。
【0025】
表面平滑性:各組成膜の表面平滑性については、上記比抵抗測定を行った各組成膜(300℃、30分間の熱処理後)を走査電子顕微鏡(SEM:Carl Zeiss社製:SUPRAA55VP)を用い、1万倍の倍率で表面を観察し、その観察表面に0.2μm径以上の突起或いは窪みがいくつ存在するかを確認することによって行った。この表面平滑性の評価は、0.2μm径以上の突起或いは窪みが全く無いものを◎、1〜3個存在していたものを○、4〜6個存在していたものを△、7個以上存在していたものを×とした。尚、図2〜図6には、実施例1、2、比較例1、7、8についての表面観察したSEM写真を示す。0.2μm径以上の突起或いは窪みの存在確認については、SEM写真に基づいて行った。
【0026】
偏析層の観察:偏析層の観察は、各組成膜(3000Å)をグロー放電発光分析装置(GDS:堀場製作所製:JY5000RF)にて深さ方向分析を実施することにより測定した。測定条件としては、印加電圧30Wに試料のφ4mm領域をパルスモードにてArガスによるスパッタリングを行い、0.01秒毎に各構成元素の発光強度を取得した。そして、このスパッタリング時間に対する発光強度を比較することにより偏析層を評価した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示す実施例1〜7の結果より、本発明に係る配線用Cu合金であると、熱処理後の比抵抗値が4μΩcm以下であり、ガラスによる絶縁層との密着性に優れていることが判明した。また、表面平滑性は、比較例1、4、5、7、8について、0.2μm径以上の突起或いは窪みが観察表面に7個以上存在しているものが判明した。これに対して、実施例の場合は、実施例3、5、6では、0.2μm径以上の突起或いは窪みが観察表面に4〜6個存在していたが、その他は表面の平滑性に優れていることが確認された。
【0029】
図1Aには、実施例2の場合のGDSによる深さ分析の結果を示している。図1Bは、図1Aの分析結果のうち、表面近傍付近(☆部分)の分析結果を拡大したものである。この図1Bを見ると分かるように、実施例2の薄膜では、表面近傍にBiが偏析していることが判明した。また、図示は省略するが、実施例1、3〜7の薄膜についても、表面近傍にBiが偏析していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、ガラスなどの絶縁層に密着層を形成することもなく、熱処理を要せず、Cu合金による配線を直接形成することができるので、素子の製造工程を簡略化できる。また、熱処理を必要としないため、有機フィルムなどの材料にもCu合金配線を形成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01at%〜0.5at%のBiと、0.05at%〜0.5at%のInと、残部がCu及び不可避不純物とからなることを特徴とする配線用Cu合金。
【請求項2】
絶縁層とCu合金配線とが直接接合された接続構造において、
Cu合金はBi及びInを含有しており、
Cu合金配線は、絶縁層との接合界面側にBi偏析層が形成されていることを特徴とする接続構造。
【請求項3】
Cu合金は、0.01at%〜0.5at%のBiと、0.05at%〜0.5at%のInと、残部がCu及び不可避不純物とからなる請求項2に記載の接続構造。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の接続構造の形成方法であって、
Cu合金配線は、絶縁層表面にスパッタリング法で形成したCu合金薄膜をエッチングすることにより形成し、
直接接合のための熱処理を施すことなく、絶縁層とCu合金配線とが直接接合されることを特徴とする接続構造の形成方法。
【請求項5】
0.01at%〜0.5at%のBiと、0.05at%〜0.5at%のInと、残部がCu及び不可避不純物とから構成される配線用Cu合金からなるスパッタリングターゲット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−126981(P2012−126981A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281365(P2010−281365)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】