説明

酸化物蒸着材と蒸着薄膜並びに太陽電池

【課題】酸化インジウムを主成分としセリウムを含むと共に表面から内部まで同一の組成を有する蒸着用酸化物タブレット(酸化物蒸着材)を提供し、かつこの酸化物蒸着材を用いて製造される蒸着薄膜とこの薄膜を電極に用いた太陽電池を提供すること。
【解決手段】この蒸着用酸化物タブレットは、酸化インジウムを主成分としセリウムを含み焼結後の表面研削加工がされていない焼結体により構成されており、焼結体表面から5μmの深さまでの表面層におけるセリウム含有量をCe/In原子数比(Comp)とし、焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値をCe/In原子数比(Comp)とした場合、Comp/Comp=0.9〜1.1であることを特徴とする。また、蒸着薄膜は本発明の蒸着用酸化物タブレットを用いて成膜されていることを特徴とし、太陽電池は上記蒸着薄膜を電極に用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法等の各種真空蒸着法にて透明導電膜や高屈折率光学膜を製造する際に使用される酸化物蒸着材と、この酸化物蒸着材を用いて製造される透明導電膜や光学膜等の蒸着薄膜および上記透明導電膜を電極に用いた太陽電池に係り、特に、酸化インジウムを主成分としかつセリウムを含むと共に焼結後の表面研削加工がされていない焼結体により構成される酸化物蒸着材の改良と、この酸化物蒸着材を用いて製造される蒸着薄膜並びに太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、高い導電性と可視光領域での高い光透過率を有する。そして、この特性を生かし、上記透明導電膜は、太陽電池、液晶表示素子、その他各種受光素子の電極等に利用され、更に、近赤外線領域での反射吸収特性を生かして、自動車や建築物の窓ガラス等に用いられる熱線反射膜や、各種の帯電防止膜、冷凍ショーケース等の防曇用透明発熱体としても利用されている。
【0003】
また、上記透明導電膜には、一般に、アンチモンやフッ素をドーパントとして含む酸化錫(SnO2)、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズをドーパントとして含む酸化亜鉛(ZnO)、スズ、タングステン、チタンをドーパントとして含む酸化インジウム(In23)等が広範に利用されている。特に、錫をドーパントとして含む酸化インジウム膜、すなわちIn23−Sn系膜はITO(Indium tin oxide)膜と称され、低抵抗の透明導電膜が容易に得られることからこれまで工業的に幅広く用いられてきた。
【0004】
そして、これ等透明導電膜の製造方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、透明導電層形成用塗液を塗布する方法等が一般に用いられている。その中でも真空蒸着法やスパッタリング法は、蒸気圧の低い材料を使用する際や精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、かつ、操作が非常に簡便であるため工業的には有用である。また、真空蒸着法とスパッタリング法を比較すると、真空蒸着法の方が高速に成膜することができるため量産性に優れている。
【0005】
ところで、真空蒸着法は、一般に、10-3〜10-2Pa程度の真空中で、蒸発源である固体または液体を加熱して一度気体分子や原子に分解させた後、再び基板表面上に薄膜として凝縮させる方法である。また、上記蒸発源の加熱方式は、抵抗加熱法(RH法)、電子ビーム加熱法(EB法、電子ビーム蒸着法)が一般的であるが、レーザー光による方法や高周波誘導加熱法等もある。更に、フラッシュ蒸着法、アークプラズマ蒸着法、反応性蒸着法等も知られており、これ等の方法は真空蒸着法に含まれる。
【0006】
そして、上記ITOのような酸化物膜を堆積させる場合、歴史的には、上記電子ビーム蒸着法がよく利用されてきた。すなわち、蒸発源にITOの酸化物蒸着材(ITOタブレットあるいはITOペレットとも呼ぶ)を用い、成膜室(チャンバー)に反応ガスであるO2ガスを導入し、熱電子発生用フィラメント(主にW線)から飛び出した熱電子を電界で加速させてITOの酸化物蒸着材に照射すると、照射された部分は局所的に高温になり、蒸発して基板に堆積される。また、熱電子エミッタやRF放電を用いてプラズマを発生させ、このプラズマで蒸発物や反応ガス(O2ガス等)を活性化させることにより、低温基板上で低抵抗の膜を作製することができる活性化反応性蒸着法(ARE法)もITO成膜には有用な方法である。更に、最近ではプラズマガンを用いた高密度プラズマアシスト蒸着法(HDPE法)もITO成膜に有効な手法であることが明らかとなり、工業的に広範に用いられはじめてきた(非特許文献1参照)。この方法では、プラズマ発生装置(プラズマガン)を用いたアーク放電を利用するが、プラズマガンに内蔵されたカソードと蒸発源の坩堝(アノード)との間でアーク放電が維持される。カソードから放出される電子が磁場により案内(ガイド)されて、坩堝に仕込まれたITOの酸化物蒸着材の局部に集中して照射される。この電子ビームが照射されて局所的に高温となった部分から、蒸発物が蒸発して基板に堆積される。気化した蒸発物や導入したO2ガスは、このプラズマ内で活性化されるため、良好な電気特性を持つITO膜を作製することができる。また、これ等の各種真空蒸着法の別の分類法として、蒸発物や反応ガスのイオン化を伴うものは総称してイオンプレーティング法(IP法)と呼ばれ、低抵抗で高光透過率のITO膜を得る方法として有効である(非特許文献2参照)。
【0007】
そして、上記透明導電膜が適用される何れのタイプの太陽電池でも、光が当たる表側の電極には上記透明導電膜が不可欠であり、従来は、上述したITO膜や、アルミニウムがドーピングされた酸化亜鉛(AZO)膜、あるいは、ガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(GZO)膜が利用されてきた。そして、これ等の透明導電膜には、低抵抗であることや、可視光の光透過率が高いこと等の特性が求められている。また、これ等の透明導電膜の製造方法としては、上述したイオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法等の真空蒸着法が用いられている。
【0008】
ところで、上述したITO膜、AZO膜、GZO膜は、低抵抗で可視域の透過率が高い材料であるが、近赤外域の透過率は低い。これ等の材料は、キャリア濃度が高いため近赤外光の吸収・反射が生じてしまうからである。しかし、近年、可視域〜近赤外域の透過率が高くて高い導電性を有する透明導電膜を表側の電極に用い、近赤外光のエネルギーも有効に利用した高効率の太陽電池の開発が急がれている。そして、このような透明導電膜として、タングステンを含有した酸化インジウムから成る結晶性の透明導電膜(結晶性In−W−O)が特許文献1(特開2004−43851号公報)に紹介されている。また、本発明者等は、セリウムを含有した酸化インジウムから成る結晶性の透明導電膜も上記結晶性In−W−O膜と同様の特徴を有することを明らかにしており、より優れた近赤外域透過性と導電性を発揮することを見出している。
【0009】
一方、上述した酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛を主成分とする薄膜は、光学膜としても利用されている。これ等の薄膜は、可視域における屈折率が1.9〜2.1を示す高屈折率材料であり、可視域における屈折率が1.3〜1.5を示す酸化シリコン膜や金属フッ化物膜等の低屈折率膜と組み合わせて積層体とすることにより、光の干渉効果を発揮させることができる。すなわち、積層体の各膜厚を精密に制御することにより、特定波長領域の反射防止効果や反射増強効果を持たせることができる。この用途の場合、高屈折率膜の屈折率は高い程、強い干渉効果を容易に得ることができるので有用である。
【0010】
そして、特許文献2(特開2005−242264号公報)には、セリウムを含有する酸化インジウム膜が、上述の酸化スズや酸化亜鉛膜等より高い屈折率を有することが示され、光学膜として利用されている例が紹介されている。更に、特許文献3(特許第3445891号公報)や特許文献4(特開2005−290458号公報)にはセリウムを含有した酸化インジウムのスパッタターゲット材(In−Ce−O)と、このスパッタターゲット材からスパッタリング法で得られる透明導電膜に関する技術が紹介されている。すなわち、特許文献3では、セリウムを含む酸化インジウム系の透明導電膜はAgとの反応性が乏しいことから、Ag系極薄膜と積層することにより高透過性で耐熱性に優れた透明導電膜を実現できることが紹介され、特許文献4では、エッチング性に優れた膜を得られることが紹介されている。
【0011】
ところで、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法等の真空蒸着法にて上述した透明導電膜や光学膜等の薄膜を製造する場合、この真空蒸着法に用いられる酸化物蒸着材は、小さいサイズ(例えば直径が10〜50mmで高さが10〜50mm程度の円柱形状)の焼結体が使われるため、一つの酸化物蒸着材で成膜できる膜量には限界があった。そして、酸化物蒸着材の消耗量が多くなり残量が少なくなると、成膜を中断し、真空中の成膜室を大気導入して未使用の酸化物蒸着材に交換し、かつ、成膜室を再び真空引きする必要があり、生産性を悪くする要因となっていた。
【0012】
また、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法等の真空蒸着法にて透明導電膜や光学膜等の薄膜を量産する場合に必要不可欠な技術として、上記酸化物蒸着材の連続供給法が挙げられ、その一例が、非特許文献1に記載されている。この連続供給法では、円筒形状のハースの内側に円柱形状の酸化物蒸着材が連なって収納されており、昇華面の高さが一定に維持されたまま酸化物蒸着材が順次押し出されて連続供給されるようになっている。そして、酸化物蒸着材の連続供給法により、真空蒸着法による透明導電膜や光学膜等の薄膜の大量生産が実現できるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−43851号公報
【特許文献2】特開2005−242264号公報
【特許文献3】特許第3445891号公報
【特許文献4】特開2005−290458号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「真空」、Vol.44, No.4, 2001年, p. 435-439
【非特許文献2】「透明導電膜の技術」、オーム社、1999年刊, p. 205-211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、セリウムを含有する酸化インジウム膜については、通常、特許文献3や特許文献4で紹介されているようにスパッタリング法により製造されているが、近年、生産性に有利な各種の真空蒸着法で製造する要望が強い。
【0016】
しかし、真空蒸着法によりセリウムを含有する酸化インジウム膜を安定して成膜するための酸化物蒸着材に関する技術が乏しいことから、この酸化物蒸着材については、これまでスパッタリングターゲット焼結体の製造技術が転用されてきた。
【0017】
但し、スパッタリングターゲットの転用技術による方法では、焼成後における焼結体は表面の組成が内部と異なるため、研削加工して表面を削り取り、所定の形状のタブレット(酸化物蒸着材)に仕上げている。これによって表面から内部まで均一組成のタブレットを得ることができるが、製造コストが高い等の課題があった。更に、転用技術による方法では、得られる焼結体の密度が高密度となり、焼結時の収縮が大きいため、焼結後に所望の寸法にすることが難しいという問題も存在した。従って、焼結体表面の組成ズレと焼結時における収縮の問題があるため、予め大きめの焼結体を作製し、研削加工して表面を削り取り、組成ズレの無い、所望寸法の焼結体を得ているが、そもそも得られる焼結体の密度が高くなるため、熱応力により蒸着中にタブレットが割れる等の問題が存在した。
【0018】
他方、予め焼結収縮の割合を考慮した焼結法を実施することで、焼成後に上記研削加工等を行わずに所定の形状とすることができる。例えば、ITOタブレットの製造方法を適用することにより、焼成後の研削加工なしで所望の寸法を有するタブレット(酸化物蒸着材)を得ることは可能となる。しかし、このような方法で製造されたセリウムを含む酸化インジウムの焼結体でも表面と内部で組成が異なる。セリウムを含む酸化インジウムの焼結体においては、セリウムが固溶した酸化インジウムの結晶相と酸化セリウムの結晶相に分離した2相の混合物で構成されているため、焼結体製造時における高温時の焼結体表面では蒸気圧の高い酸化インジウム相が揮発し易いからである。これに対し、上記ITOの焼結体においては、スズが固溶した酸化インジウムの結晶相とインジウム酸スズ化合物の結晶相で構成されて酸化スズ相が残存しないことから上記問題は起こり難い。そして、表面と内部で組成が異なる焼結体から得た酸化物蒸着材を用いて成膜を行うと、成膜初期における薄膜組成の変動が大きいため、初期に成膜された膜部分は利用することができない。このため、一つのタブレットからの薄膜の生産量が少ない等の課題があった。
【0019】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、酸化インジウムを主成分としかつセリウムを含むと共に表面から内部まで同一の組成を有する蒸着用酸化物タブレット(酸化物蒸着材)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そこで、上記課題を解決するため本発明者等が鋭意研究を継続した結果、セリウムを含む酸化インジウムの焼結体を製造する際、高温焼成時における焼結体表面からの酸化インジウム成分の揮発が防止される手法を採用することで、酸化インジウムを主成分としかつセリウムを含むと共に表面から内部まで同一の組成を有する蒸着用酸化物タブレット(酸化物蒸着材)が得られることを発見するに至った。本発明はこのような技術的発見により完成されている。
【0021】
すなわち、請求項1に係る発明は、
酸化インジウムを主成分とし、かつ、セリウムを含むと共に、焼結後の表面研削加工がされていない焼結体により構成された酸化物蒸着材において、
焼結体表面から5μmの深さまでの表面層におけるセリウム含有量をCe/In原子数比(Comp)とし、焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値をCe/In原子数比(Comp)とした場合、
Comp/Comp=0.9〜1.1であることを特徴とする。
【0022】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る酸化物蒸着材において、
上記焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値Ce/In原子数比(Comp)が0.001〜0.538であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る酸化物蒸着材において、
上記焼結体が円柱形状を有することを特徴とするものである。
【0023】
次に、請求項4に係る発明は、
酸化インジウムを主成分とし、かつ、セリウムを含む蒸着薄膜において、
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物蒸着材を原料として用い、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法若しくは高密度プラズマアシスト蒸着法により成膜され、かつ、成膜された薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.001〜0.538であることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項4に記載の発明に係る蒸着薄膜において、
成膜された薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.004〜0.056であり、かつ、比抵抗が3.5×10-4Ωcm以下である導電性の透明結晶膜により構成されることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の発明に係る蒸着薄膜において、
ホール移動度が80cm2/V・s以上、キャリア濃度が3.3×1020cm-3以下である導電性の透明結晶膜により構成されることを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項4〜6のいずれかに記載の発明に係る蒸着薄膜において、
波長800〜1200nmにおける薄膜自体の平均透過率が80%以上であることを特徴とする。
【0024】
また、請求項8に係る発明は、
太陽電池において、
請求項4〜7のいずれかに記載の蒸着薄膜を電極として用いていることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項4に記載の発明に係る蒸着薄膜において、
成膜された薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.090〜0.538であり、かつ、波長550nmにおける屈折率が2.15以上である高屈折率性の透明膜により構成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
酸化インジウムを主成分としかつセリウムを含むと共に焼結後の表面研削加工がされていない焼結体により構成される本発明の酸化物蒸着材は、
焼結体表面から5μmの深さまでの表面層におけるセリウム含有量をCe/In原子数比(Comp)とし、焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値をCe/In原子数比(Comp)とした場合、Comp/Comp=0.9〜1.1であることから、焼結体表面の組成が内部と略同一であるため、焼成後に研削加工を行わなくとも蒸着材としてそのまま使用することができる。
【0026】
従って、製造コストが大幅に削減されて蒸着用酸化物タブレット(酸化物蒸着材)を安価に提供することが可能となり、かつ、タブレットの表面から内部まで略同一の組成を有するため、タブレットの使用初期から薄膜の製造に利用することができ、タブレット1個当たりの薄膜生産量を増大させることが可能となる効果を有する。
【0027】
また、本発明の酸化物蒸着材を用いて成膜されかつ薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.004〜0.056、かつ、比抵抗が3.5×10-4Ωcm以下である導電性の透明結晶膜により構成された蒸着薄膜によれば、可視〜近赤外域において高透過率を有しかつ高い導電性を有するため、太陽電池の表面側電極として適用できる効果を有している。
【0028】
更に、本発明の酸化物蒸着材を用いて成膜されかつ薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.090〜0.538であり、かつ、波長550nmにおける屈折率が2.15以上である高屈折率性の透明膜により構成された蒸着薄膜によれば、低屈折率膜と組み合わせて積層体とすることにより、反射防止膜等の光学膜用途として適用できる効果も有している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る透明導電膜を電極層として用いたシリコン系太陽電池の概略構成を示す説明図。
【図2】本発明に係る透明導電膜により構成される電極層をガラス基板側に用いた化合物薄膜系太陽電池の概略構成を示す説明図。
【図3】本発明に係る透明導電膜により構成される電極層をガラス基板とは反対側に用いた化合物薄膜系太陽電池の概略構成を示す説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
(1)酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)
本発明の酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)は、酸化インジウムを主成分としかつセリウムを含むと共に焼結後の表面研削加工がされていない焼結体により構成されており、焼結体表面から5μmの深さまでの表面層におけるセリウム含有量をCe/In原子数比(Comp)とし、焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値をCe/In原子数比(Comp)とした場合、Comp/Comp=0.9〜1.1であることを特徴とし、かつ、上述したように焼成後に焼結体表面を研削加工せずに製造されることを最大の特徴としている。
【0032】
焼結体表面層におけるCe/In原子数比(Comp)の測定法としては、例えば、焼結体を破断してその破断面を露出させ、この破断面に対して、焼結体表面から5μm以内に相当する領域のEPMA(Electron Probe Micro Analyzer:電子線マイクロアナライザ)組成分析を行うことで測定する方法が挙げられる。すなわち、上記破断面の焼結体表面から5μm以内に相当する領域(破断面の断面外周縁部から5μm以内の部位)に対してEPMAによる点分析を行い、20〜30箇所の分析値を平均することで焼結体表層の組成を決定することができる。
【0033】
また、上記焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値[Ce/In原子数比(Comp)]については、焼結体を粉砕し、得られた粉末を攪拌し、上述した同様のEPMA分析にてCe/In原子数比を測定し求めることができる。
【0034】
尚、焼成後において焼結体表面を研削加工することなしに、Comp/Comp=0.9〜1.1の酸化物蒸着材を製造するには、セリウムを含む酸化インジウムの焼結体を製造する際、高温焼成時における焼結体表面からの「酸化インジウム」成分の揮発が防止される後述の手法を採用することで製造することができる。すなわち、本発明に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)は、酸化インジウム、酸化セリウムの各粉末を原料とし、これ等原料を混合し成型して圧粉体を形成すると共に、圧粉体の高温焼成の際、焼結体表面から「酸化インジウム」成分が揮発されない後述の手法を採用し、反応・焼結させて製造することができる。尚、酸化インジウムと酸化セリウムの各粉末は、特別なものではなく、従来から用いられている酸化物焼結体用の原料でよい。また、使用する粉末の平均粒径は1.5μm以下であり、好ましくは0.1〜1.1μmである。
【0035】
まず、上記酸化物焼結体を製造する際の一般的な原料粉末の混合法として、ボールミル混合法が利用されているが、本発明の焼結体を製造する場合にも有効である。ボールミルは、セラミック等の硬質のボール(ボール径10〜30mm)と材料の粉を容器にいれて回転させることによって、材料をすりつぶしながら混合して微細な混合粉末を作る装置である。ボールミル(粉砕メディア)は、缶体として、鋼、ステンレス、ナイロン等があり、内張りとして、アルミナ、磁気質、天然ケイ石、ゴム、ウレタン等を用いる。ボールは、アルミナを主成分とするアルミナボール、天然ケイ石、鉄芯入りナイロンボール、ジルコニアボール等がある。湿式と乾式の粉砕方法があり、焼結体を得るための原料粉末の混合・粉砕に広範に利用されている。
【0036】
また、ボールミル混合以外の方法としては、ビーズミル法やジェットミル法も有効である。特に、酸化セリウム粉末は硬質材料であるため、大きな平均粒径の原料を用いる場合や、短時間で粉砕混合する必要がある場合は非常に有効である。ビーズミル法とは、ベッセルと呼ばれる容器の中に、ビーズ(粉砕メディア、ビーズ径0.005〜3mm)を70〜90%充填しておき、ベッセル中央の回転軸を周速7〜15m/秒で回転させることによりビーズに運動を与える。ここに、原料粉末等の被粉砕物を液体に混ぜたスラリーをポンプで送り込み、ビーズを衝突させることによって微粉砕・分散させる。ビーズミルの場合、被粉砕物に合わせてビーズ径を小さくすれば効率が上がる。一般的に、ビーズミルはボールミルの1千倍近い加速度で微粉砕と混合を実現することができる。このような仕組みのビーズミルは、様々な名称で呼ばれており、例えば、サンドグラインダー、アクアマイザイー、アトライター、パールミル、アベックスミル、ウルトラビスコミル、ダイノーミル、アジテーターミル、コボールミル、スパイクミル、SCミル等が知られており、本発明においてはいずれも使用できる。また、ジェットミルとは、ノズルから音速前後で噴射される高圧の空気あるいは蒸気を、超高速ジェットとして原料粉末等の被粉砕物に対し衝突させ、粒子同士の衝撃によって微粒子に粉砕する方法である。
【0037】
上述したように酸化インジウム粉末と酸化セリウム粉末を所望の割合でボールミル用ポットに投入し、乾式あるいは湿式混合して混合粉末をまず調製する。そして、本発明の酸化物焼結体を得るためには、上記原料粉末の配合割合について、インジウムとセリウムの含有量がCe/In原子数比で、好ましくは0.001〜0.538となるように調製する。
【0038】
こうして調製された混合粉末に、水および分散材・バインダー等の有機物を加えてスラリーを製造する。スラリーの粘度は150〜5000cPが好ましく、より好ましくは400〜3000cPである。
【0039】
次に、得られたスラリーとビーズとをビーズミルの容器に入れて処理する。ビーズ材としては、ジルコニア、アルミナ等を挙げることができるが、耐摩耗性の点でジルコニアが好ましい。ビーズの直径は、粉砕効率の点から1〜3mmが好ましい。パス数は1回でもよいが、2回以上が好ましく、5回以下で十分な効果が得られる。また、処理時間としては、好ましくは10時間以下、更に好ましくは4〜8時間である。
【0040】
このような処理を行うことによって、スラリー中における酸化インジウム粉末と酸化セリウム粉末の粉砕・混合が良好となる。
【0041】
次に、このようにして処理されたスラリーを用いて成形を行う。成形方法としては、鋳込み成形法、プレス成形法のいずれも採用することができる。鋳込み成形を行う場合、得られたスラリーを鋳込み成型用の型に注入して成形体を製造する。ビーズミルの処理から鋳込みまでの時間は10時間以内とするのが好ましい。こうすることにより得られたスラリーがチクソトロピー性を示すことを防ぐことができるからである。また、プレス成形を行う場合、得られたスラリーにポリビニルアルコール等のバインダー等を添加し、必要に応じて水分調節を行ってからスプレードライヤー等で乾燥させて造粒する。得られた造粒粉末を所定の大きさの金型に充填し、その後、プレス機を用いて100〜1000kg/cmの圧力で1軸加圧成形を行い成形体とする。このときの成形体の厚みは、この後の焼成工程による収縮を考慮して、所定の大きさの焼結体を得ることができる厚さに設定することが好ましい。
【0042】
上述の混合粉末から作製した成形体を用いれば、ホットプレス法でも常圧焼結法でも本発明の酸化物焼結体を得ることができるが、製造コストの低い常圧焼結法で製造することがより好ましい。そして、常圧焼結法を用い、焼結体表面から「酸化インジウム」成分が揮発されない手法を採用して発明の酸化物焼結体を得る場合、以下のようになる。
【0043】
まず、得られた成形体に対し300〜500℃の温度で5〜20時間程度加熱して脱バインダー処理を行う。その後、昇温させて焼結を行うが、昇温速度は、効果的に内部の空孔を外部へ放出させるため150℃/時間以下、好ましくは100℃/時間以下、更に好ましくは80℃/時間以下とする。焼結温度は、1150〜1350℃、好ましくは、1200〜1250℃とし、焼結時間は1〜20時間、好ましくは2〜5時間焼結する。
【0044】
上記脱バインダー処理〜焼結工程は、炉内容積0.1m3当たり5リットル/分以上の割合の酸素を炉に導入して行うことが重要である。上記焼結工程において酸素を導入して行う理由は、焼結工程時における焼結体表面からの表面成分の揮発を防止して表面から内部まで同一の組成を有する焼結体を得るためである。すなわち、焼結体は1150℃以上で酸素を解離し易く、過剰の還元状態に進むと酸化物焼結体の表面成分(特に酸化インジウム)が揮発し易くなるからである。また、焼結温度の上限を1350℃としている理由は、1350℃を超える高温で焼成すると、焼結工程において上記酸素の導入を行なっても焼結体からの酸素の解離が激しくなり、還元状態が進み過ぎて酸化物焼結体の表面成分が揮発してしまうからである。更に、表面から内部まで同一の組成を有する焼結体を得るためには、目的とする酸化物焼結体と同一組成のセリウムを含有する酸化インジウムの粉末(この粉末を以下「雰囲気調整用パウダー」と称する)若しくは圧粉体(この圧粉体を以下「雰囲気調整用圧粉体」と称する)を焼結体周囲に配置することが好ましい。焼結体の周囲に上記雰囲気調整用パウダー(若しくは雰囲気調整用圧粉体)が配置されることにより、雰囲気調整用パウダー(若しくは雰囲気調整用圧粉体)から揮発した金属酸化物成分で焼結炉内は満たされるため、焼結体表面からの金属酸化物の揮発を極力抑制することができ、表面から内部まで同一の組成を有する焼結体を製造することが可能となる。尚、雰囲気調整用パウダー若しくは雰囲気調整用圧粉体は、目的とする酸化物焼結体と同一組成のセリウムを含有する酸化インジウムの粉末であることが好ましい。このように焼結工程は、焼結温度が1150〜1350℃の条件で酸素を導入しながら行ない、かつ、焼結体の周囲に上記雰囲気調整用パウダー若しくは雰囲気調整用圧粉体を配置して行なうことが重要である。そして、これ等条件を具備させた場合、焼結後において表面研削加工をすることなく、焼結体の表面と内部において同じ組成のセリウムが含まれる酸化インジウム焼結体を得ることができる。
【0045】
そして、焼結後は10℃/分の条件で室温まで降温し、室温にて炉から取り出すことができるが、降温途中の950〜1100℃の温度にて適度な酸素量を含む雰囲気下において行なう加熱処理すなわち最適な還元処理を行なうことも有効である。
【0046】
このようにして得られた焼結体は焼結体表面と内部の組成が同一であるため、焼結後において研削等による加工を行なわなくても、酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)としてそのまま使用することができる。その際、焼結の収縮率も考慮に入れて、焼成後に所定の寸法となるように予め大きさが調整された成形体を用いることにより、焼結後に最適な寸法の酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を得ることができる。
【0047】
尚、本発明に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)において、焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値Ce/In原子数比(Comp)が0.001〜0.538であることが好ましい。上記平均値が0.001未満であると、この酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を用いて成膜された薄膜におけるキャリア濃度や移動度増加の効果が小さいため、低抵抗の蒸着薄膜を得ることができないことがある。また、上記平均値が0.538を超えると、酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)中のセリウム量が多過ぎて実用的な強度を有する焼結体が得られないだけでなく、タブレット自体の必要とする導電性を得ることが難しくなり、電子ビーム蒸着法による安定使用に供することが困難になる場合があるため好ましくない。すなわち、セリウム量が多過ぎると、電子移動の際の中性不純物散乱が大きくなってしまい、移動度が低下して低抵抗の蒸着薄膜が得られない。更に、高い移動度を発揮して低抵抗の蒸着薄膜を得るためのより好ましいセリウムの含有量は、Ce/In原子数比で0.004〜0.056である。
【0048】
また、本発明に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)については円柱形状を有することが好ましい。このような形状を有する場合、円形上面の安定した昇華が推進されるため、タブレットを連続供給するのに都合が良い。すなわち、一つのタブレットの消費が完了し、次のタブレットに成膜が続く際、本発明の酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を用いることにより、表面層の組成が内部と同じであるため薄膜特性を変動させない等の利点がある。
【0049】
また、本発明に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)については、インジウム、セリウム、酸素以外の他の元素として、例えば、スズ、タングステン、モリブデン、亜鉛、カドミウム、ニオブ等が含まれていても、本発明の特性が損なわれないことを条件に許される。但し、金属イオンの中でも、その酸化物の蒸気圧が酸化インジウムや酸化セリウムの蒸気圧と較べて極めて高い場合には、各種真空蒸着法で蒸発させることが困難となるため含有されない方が好ましい。例えば、アルミニウム、チタン、シリコン、ゲルマニウム、ジルコニウムのような金属は、これ等酸化物の蒸気圧が酸化インジウムや酸化セリウムと較べて極めて高いため、酸化物蒸着材に含ませた場合、酸化インジウムや酸化セリウムと共に蒸発させることが困難となる。このため、酸化物蒸着材に残存して高濃度化し、最終的には酸化インジウムと酸化セリウムの蒸発の妨げになる等の悪影響を及ぼすことから含有させてはならない。
【0050】
(2)蒸着薄膜
次に、本発明に係る蒸着薄膜は、上述した本発明の酸化物蒸着材を原料として用い、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法若しくは高密度プラズマアシスト蒸着法により成膜された酸化インジウムを主成分としかつセリウムを含む薄膜で構成される。
【0051】
そして、成膜された薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.004〜0.056である結晶膜で構成されることが好ましい。結晶膜とすることでセリウムが酸化インジウムのインジウムサイトに置換固溶されたときに高い移動度を発揮することができる。結晶膜は、成膜中の基板を180℃以上に加熱することで得られるが、非加熱成膜にて得られた薄膜を180℃以上でアニールする方法でも得ることができる。また、Ce/In原子数比で0.004〜0.056の範囲とすることで、ホール移動度が80cm2/V・s以上、キャリア濃度が3.3×1020cm-3以下で、比抵抗が3.5×10-4Ωcm以下の透明導電膜を実現することができる。また、本発明に係る蒸着薄膜(透明導電膜)は、キャリア濃度が低いため、波長800〜1200nmにおける薄膜自体の平均透過率が80%以上と非常に高い。
【0052】
また、成膜された薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.090〜0.538で、かつ、波長550nmにおける屈折率が2.15以上である高屈折率性の透明膜により構成されてもよい。Ce/In原子数比で0.090以上とすることで可視域の屈折率を高めることができる。そして、上記透明膜の屈折率を2.15以上と高めることで、可視域における屈折率が1.3〜1.5を示す酸化シリコン膜や金属フッ化物膜等の低屈折率膜と積層体を形成することで、光の干渉効果を発揮することが可能となる。すなわち、積層体の各膜厚を精密に制御することにより特定の波長領域の反射防止効果や反射増強効果を持たせることができる。この場合、上記蒸着薄膜は結晶膜でも非晶質膜でもよく、結晶と非晶質が混在した膜でもよい。
【0053】
また、本発明の蒸着薄膜は、上述した酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)と同様、インジウム、セリウム、酸素以外の他の元素として、例えば、スズ、タングステン、モリブデン、亜鉛、カドミウム等が含まれていても、本発明の特性が損なわれないことを条件に許される。
【0054】
(3)太陽電池
本発明に係る太陽電池は、上述した蒸着薄膜(以下、透明導電膜と称する)を電極として用いていることを特徴とする光電変換素子である。太陽電池素子の構造は特に限定されず、p型半導体とn型半導体を積層したPN接合型、p型半導体とn型半導体の間に絶縁層(I層)を介在させたPIN接合型等が挙げられる。
【0055】
また、太陽電池は、半導体の種類によって大別され、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系半導体を用いた太陽電池、CuInSe系やCu(In,Ga)Se系、Ag(In,Ga)Se系、CuInS系、Cu(In,Ga)S系、Ag(In,Ga)S系やこれらの固溶体、GaAs系、CdTe系等で代表される化合物半導体の薄膜を用いた化合物薄膜系太陽電池、および、有機色素を用いた色素増感型太陽電池(グレッツェルセル型太陽電池とも呼ばれる)に分類されるが、本発明に係る太陽電池は何れの場合も含まれ、上述した透明導電膜を電極として用いることで高効率を実現できる。特に、アモルファスシリコンを用いた太陽電池や化合物薄膜系太陽電池では、太陽光が入射する側(受光部側、表側)の電極には透明導電膜が必要不可欠であり、本発明の透明導電膜を用いることで高い変換効率の特性を発揮することができる。
【0056】
上記シリコン系の太陽電池について概説すると、PN接合型の太陽電池素子は、例えば厚み0.2〜0.5mm程度、大きさ180mm角程度の単結晶や多結晶のシリコン基板が用いられ、素子のシリコン基板内部にはボロン等のP型不純物を多く含んだP層と、リン等のN型不純物を多く含んだN層が接したPN接合が形成される。
【0057】
また、上記シリコン基板の代わりに、ガラス板、樹脂板、樹脂フィルム等の透明基板も使用される。本発明においては、透明基板であることが好ましい。この場合、基板に本発明の透明導電膜を電極として形成した後、アモルファスあるいは多結晶のシリコンが積層されて、薄膜シリコン系太陽電池として大別される。
【0058】
アモルファスシリコンでは、PN接合の間に絶縁層(I層)が介在したPIN接合とされる。すなわち、図1に示すように、ガラス基板1の上に、表側(受光部側)透明電極膜2と、p型アモルファスシリコン膜または水素化アモルファスシリコンカーバイド膜3と、不純物を含まないアモルファスシリコン膜4と、n型アモルファスシリコン膜5と、裏側透明電極膜(接触改善層)6と、裏側金属電極すなわち裏面電極7が積層された構造を有している。尚、上記p型アモルファスシリコン膜または水素化アモルファスシリコンカーバイド膜3、不純物を含まないアモルファスシリコン膜4、および、n型アモルファスシリコン膜5は、通常、プラズマCVD法によって形成される。これ等のアモルファスシリコン膜と水素化アモルファスシリコン膜には、光吸収波長を制御するためにゲルマニウム、炭素、窒素、スズ等が含まれていてもよい。
【0059】
尚、シリコン薄膜を用いた薄膜太陽電池は、シリコン薄膜を含む光電変換層が、アモルファスシリコン系薄膜で構成されたもの、微結晶シリコン系薄膜で構成されたもの、アモルファスシリコン系薄膜と微結晶シリコン系薄膜で構成されたもの(タンデム型薄膜系光電変換層)に分類される。そして、本発明の透明導電膜が電極として用いられていれば、本発明に係る太陽電池はそれら全ての構造が含まれる。その他、単結晶シリコン板あるいは多結晶シリコン板の光電変換層と、上記薄膜系光電変換層が積層されたハイブリッド型の光電変換層を有するものも、本発明の透明導電膜が電極として用いられていれば、本発明に係る太陽電池に含まれる。
【0060】
次に、上記化合物薄膜系太陽電池について説明する。化合物薄膜を用いた太陽電池は、通常は広いバンドギャップを持つ化合物半導体薄膜(n型半導体の中間層)と狭いバンドギャップを持つ化合物半導体(p型半導体の光吸収層)のヘテロ結合で構成されている。一般的な構造は、表面電極(透明導電膜)/窓層/中間層/光吸収層/裏面電極(金属または透明導電膜)となる。
【0061】
具体的には、図2に示すように、ガラス基板12の上に、本発明の透明導電膜から成る透明電極膜11と、ZnO薄膜から成る窓層10と、半導体の中間層9と、p型半導体の光吸収層8と、Au膜から成る裏面電極7が積層されている。また、図3には、ガラス基板12の上に、下部電極すなわち裏面電極13と、p型半導体の光吸収層8と、半導体の中間層9と、窓層10と、本発明の透明導電膜から成る透明電極膜11が積層されている。いずれの構造も、透明電極膜11側が太陽光線の入射方向となっている。
【0062】
尚、基板としては、上記ガラス、樹脂、金属、セラミック等その材質によって特に限定されず、透明でも非透明でもよいが、透明基板が好ましい。樹脂の場合、板状、フィルム等様々な形状のものが使用でき、例えば150℃以下の低融点のものであってもよい。金属の場合、ステンレス鋼、アルミニウム等が挙げられ、セラミックとしては、アルミナ、酸化亜鉛、カーボン、窒化珪素、炭化珪素等を挙げることができる。アルミナ、酸化亜鉛以外の酸化物として、Ga,Y,In,La,Si,Ti,Ge,Zr,Sn,NbまたはTaから選ばれる酸化物を含んだものでもよい。これ等の酸化物としては、例えば、Ga23,Y23,In23,La23,SiO2,TiO2,GeO2,ZrO2,SnO2,Nb25,Ta25等を挙げることができる。本発明においては、これ等ガラス、樹脂、セラミック製の基板を非金属基板と称する。基板表面は、少なくとも一方に山型の凹凸を設けること、エッチング等で粗面化することにより、入射する太陽光線を反射し易くしておくことが望ましい。
【0063】
また、上記裏面電極13としては、Mo、Ag、Au、Al、Ti、Pd、Ni、これ等の合金等導電性電極材料が使用され、Mo、Ag、AuまたはAlのいずれかが好ましい。通常、0.5〜5μm、好ましくは1〜3μmの厚さとされる。その形成手段は、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ法、真空蒸着法やCVD法等が利用できる。
【0064】
また、上記光吸収層8を構成するp型半導体としては、CuInSe、CuInS、CuGaSe、CuGaS、AgInSe、AgInS、AgGaSe、AgGaSおよびこれ等の固溶体やCdTeが利用可能である。より高いエネルギー変換効率を得るために必要とされる条件は、より多くの光電流を得るための光学的な最適設計と、界面または特に吸収層においてキャリアの再結合のない高品質なヘテロ接合および薄膜を作ることである。通常、1〜5μm、好ましくは2〜3μmの厚さとされる。その形成手段としては特に限定されないが、例えば、真空蒸着法やCVD法等が利用できる。また、高品質なヘテロ界面は中間層/吸収層の組み合わせと関係が深く、CdS/CdTe系やCdS/CuInSe系、CdS/Cu(In,Ga)Se系、CdS/Ag(In,Ga)Se系等において有用なヘテロ接合が得られる。
【0065】
また、太陽電池を高効率化するには、より広いバンドギャップをもつ半導体、例えば、中間層9を構成する半導体薄膜としてCdSやCdZnS等が用いられる。これ等半導体薄膜によって、太陽光における短波長の感度向上を図ることができる。通常、10〜200nm、好ましくは30〜100nmの厚さとされる。上記中間層9の形成手段としては特に限定されないが、CdS薄膜の場合、溶液析出法で、CdI2、NH4Cl2、NH3およびチオ尿素の混合溶液を用いて形成される。更に、中間層9であるCdSや(Cd,Zn)Sの入射光側には、これ等の薄膜よりもバンドギャップの大きな半導体を窓層10として配置することができる。これにより、再現性の高い高性能な太陽電池となる。上記窓層10は、例えばZnOや(Zn,Mg)O薄膜等その導電率がCdS薄膜と同程度の薄膜で構成され、通常、50〜300nm、好ましくは100〜200nmの厚さとされる。また、窓層10の形成手段としては特に限定されないが、ZnO等のターゲットとスパッタガスとしてArを用いた直流マグネトロンスパッタ法等により形成される。
【0066】
本発明に係る太陽電池は、化合物薄膜系太陽電池においてその太陽光が入射する側(表面および/または裏面)の電極に本発明の透明導電膜を用いたものであり、本発明の透明導電膜は従来の透明導電膜よりも低抵抗で透過率が高いため高い変換効率を実現できる。
【0067】
ところで、上述したいずれの型の太陽電池素子でも、その受光面(表面)側および裏面側には、銀ペーストを用いたスクリーンプリント法等によりバスバー電極とフィンガー電極がそれぞれ形成され、かつ、これ等電極表面は、その保護と接続タブを取り付け易くするため、そのほぼ全面に亘りハンダコートされる。尚、太陽電池素子がシリコン基板の場合、受光面側に、ガラス板、樹脂板、樹脂フィルム等の透明な保護材が設けられる。
【0068】
また、上記電極を構成する本発明に係る透明導電膜の厚さについては、特に制限されることはなく、材料の組成等にもよるが、150〜1500nm、特に200〜900nmであることが望ましい。そして、本発明の透明導電膜は、低抵抗であり、波長380nm〜1200nmの可視光線から近赤外線までを含む太陽光の透過率が高いため、太陽光の光エネルギーを極めて有効に電気エネルギーに変換することができる。
【0069】
尚、本発明に係る透明導電膜は、太陽電池以外に、光検出素子、タッチパネル、フラットパネルディスプレイ(LCD、PDP、EL等)、発光デバイス(LED、LD等)の透明電極としても有用である。例えば、光検出素子の場合、ガラス電極、光入射側の透明電極、赤外線等の光検知材料層、裏面電極を積層させた構造を含んでいる。赤外線を検出するための上記光検知材料層には、GeやInGeAsをベースとする半導体材料を用いたタイプ[フォトダイオード(PD)やアバランシェフォトダイオード(APD)]、アルカリ土類金属元素の硫化物あるいはセレン化物に、Eu、Ce、Mn、Cuの中から選ばれる1種類以上の元素と、Sm、Bi、Pbの中から選ばれる1種類以上の元素を添加した材料等を用いるタイプがある。この他に、非晶質珪素ゲルマニウムと非晶質珪素との積層体を用いたAPDも知られており、いずれも使用できる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0071】
[実施例1]
酸化物蒸着材の作製
平均粒径が0.8μmのIn粉末、および、平均粒径が1μmのCeO粉末を原料粉末とし、これ等のIn粉末とCeO粉末をCe/Inの原子数比が0.008となるような割合で調合し、かつ、樹脂製ポットに入れて湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を20時間とした。
【0072】
混合後、スラリーを取り出し、得られたスラリーにポリビニルアルコールのバインダーを添加し、スプレードライヤー等で乾燥させて造粒した。
【0073】
この造粒物を用い1ton/cm2の圧力で1軸加圧成形を行い、直径30mm、厚み40mmの円柱形状成形体を複数個作製した。
【0074】
次に、得られた複数個の成形体を以下のようにして焼結した。
【0075】
まず、In粉末とCeO粉末をCe/Inの原子数比が0.008となるような割合で混合した混合粉(雰囲気調整用パウダー)を焼結炉内の底に敷き詰め、この雰囲気調整用パウダー上に成形体を配置した。
【0076】
そして、焼結炉内の大気中、300℃の温度で10時間程度加熱して成形体の脱バインダー処理を行った後、炉内容積0.1m3当たり5リットル/分の割合で酸素を導入する雰囲気下において1℃/分の速度で昇温し、1250℃で2時間焼結した(常圧焼結法)。
【0077】
尚、焼結条件を以下の表1にまとめて示す。また、焼結後における冷却の際も、酸素を導入しながら1000℃までを10℃/分で降温した。
【0078】
得られた焼結体から分析用焼結体を選出し、この分析用焼結体を破断してその破断面を露出させ、かつ、この破断面の焼結体表面から5μm以内に相当する領域に対しEPMA(Electron Probe Micro Analyzer:電子線マイクロアナライザ)による組成分析を行なって、焼結体表面から5μmの深さまでの表面層におけるセリウム含有量[Ce/In原子数比(Comp)]とした。すなわち、表面から5μm以内の焼結体断面領域に対し30箇所のEPMA点分析を実施し、その平均値を表層5μm以内のCe/In原子数比(Comp)とした。EPMAの測定条件は加速電圧30kVで行った。
【0079】
次に、上記分析用焼結体を粉砕し、得られた粉末を攪拌し、同様にEPMAによる組成分析を行い、30箇所のCe/In原子数比を測定して平均値を算出し、焼結体全体の平均のCe/In原子数比(Comp)とした。そして、表面層における組成ズレの割合を示すComp/Comp値を算出した。
【0080】
この結果を以下の表1に示すが、組成ズレは極めて小さいことが分かった。
【0081】
尚、上記分析用焼結体も含め、焼結後の焼結体(酸化物蒸着材)は成形体と略同一の形状、寸法を維持していた。
【0082】
また、得られた焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ5.2〜5.4g/cmであった。更に、焼結体(酸化物蒸着材)の破断面の走査型電子顕微鏡による観察から上記焼結体中における100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、何れも2〜7μmであった。また、焼結体(酸化物蒸着材)の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計で表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、1kΩcm以下であった。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
[蒸着薄膜(透明導電膜)の作製と膜特性評価、成膜評価]
(1)蒸着薄膜(透明導電膜)の作製には磁場偏向型電子ビーム蒸着装置を用いた。
【0086】
真空排気系はロータリーポンプによる低真空排気系とクライオポンプによる高真空排気系から構成されており、5×10-5Paまで排気することが可能である。電子ビームはフィラメントの加熱により発生し、カソード−アノード間に印加された電界によって加速され、永久磁石の磁場中で曲げられた後、タングステン製の坩堝内に設置された酸化物蒸着材に照射される。電子ビームの強度はフィラメントへの印加電圧を変化させることで調整できる。また、カソード−アノード間の加速電圧を変化させるとビームの照射位置を変化させることができる。
【0087】
成膜は以下の条件で実施した。
【0088】
真空室内にArガスとOガスを導入して圧力を1.5×10-2Paに保持した。この際、真空室内に導入するArガスとOガスの混合割合について、Oガス導入量を1%刻みで調整しながら変化させ、各条件に対応した複数の蒸着薄膜(透明導電膜)を製造し、かつ、最も比抵抗が小さかった蒸着薄膜(透明導電膜)について下記特性を評価した。
【0089】
すなわち、実施例1の円柱状酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)をタングステン製坩堝に立てて配置し、酸化物蒸着材の円形面中央部に電子ビームを照射し、厚み1.1mmのコーニング7059ガラス基板上に膜厚200nmの透明導電膜を形成した。電子銃の設定電圧は9kV、電流値は150mAとし、基板は200℃に加熱した。
【0090】
(2)得られた蒸着薄膜(透明導電膜)の特性は以下の手順で評価した。
【0091】
得られた蒸着薄膜(透明導電膜)の表面抵抗を四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で測定し、その膜厚は接触式表面粗さ計(テンコール社製)を用いて未成膜部分と成膜部分の段差測定から評価し、比抵抗を算出した。そして、最も比抵抗が小さかった蒸着薄膜(透明導電膜)[以下、膜と略称する場合がある]について下記評価を行なった。
【0092】
まず、分光光度計(日立製作所社製、U−4000)でガラス基板を含めた膜(膜L付ガラス基板B)の透過率[TL+B(%)]を測定し、同様の方法で測定したガラス基板のみ(ガラス基板B)の透過率[(T(%)]から、[TL+B÷T]×100(%)で膜自体の透過率を算出した。尚、可視域における膜自体の平均透過率は波長400〜800nmにおいて測定し、近赤外域における膜自体の平均透過率は波長800〜1200nmにおいて測定した。
【0093】
次に、膜の結晶性はX線回折測定で評価した。すなわち、X線回折装置はX‘PertPROMPD(PANalytical社製)を用い、測定条件は広域測定でCuKα線を用い、電圧45kV、電流40mAで測定を行った。そして、X線回折ピークの有無から膜の結晶性を評価した。また、膜の組成(Ce/Inの原子数比)についてはICP発光分析法で測定し、更に、ホール効果測定装置(東陽テクニカ社製 ResiTest)を用いて、Van der Pauw法により蒸着薄膜(透明導電膜)の室温におけるキャリア濃度、ホール移動度をそれぞれ測定した。
【0094】
そして、実施例1に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)の使用開始(電子銃による電子線照射の開始)から20分以内に製造した膜(「初期の膜」と称する)と、使用開始から1時間ほど継続使用した後に製造した膜(「1時間後の膜」と称する)について上述の膜評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0095】
(3)実施例1に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)は、表1に示すように表面層におけるCe/In原子数比(Comp)が「0.0083」、焼結体全体の平均値Ce/In原子数比(Comp)が「0.0079」であることから、酸化物蒸着材の表面から内部まで略同一の組成[Comp/Comp=1.05]を有することが確認される。
【0096】
また、表2に示すように「初期の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.0083」、「1時間後の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.0082」であり、実施例1に係る蒸着用酸化物タブレットを用いて得られる蒸着薄膜(透明導電膜)の組成は成膜初期と1時間後においてほとんど変化が無いことも確認され、かつ、「比抵抗」「キャリア濃度」「ホール移動度」「透過率」においても同様であることが確認される。
【0097】
このような蒸着用焼結体タブレットは、焼結体の表面層を利用する使用初期から膜組成や特性の変動がなく安定しているため、焼結後において焼結体の表面研磨加工を行なわずに蒸着用焼結体タブレットとして使用することができる。すなわち、焼結体の表面層を研削加工することなくそのまま蒸着材として使うことができるので、蒸着用焼結体タブレットの製造コストも安価になる等の利点がある。更に、タブレットを連続供給しながら長時間連続成膜するときにはタブレット交換時にも連続的に成膜することができるので、蒸着薄膜(透明導電膜)の生産性の面でも非常に有利である。
【0098】
また、得られた蒸着薄膜(透明導電膜)は、表2に示すようにホール移動度が非常に高く低抵抗であり、かつ、可視域での透過率も高い(91%)結晶膜である。更に、キャリア濃度が低いため近赤外域での透過率も85%と非常に高い。
【0099】
このような蒸着薄膜(透明導電膜)は太陽電池の透明電極として非常に有用といえる。
【0100】
[比較例1]
実施例1の「雰囲気調整用パウダー」を使用しなかった以外は実施例1と同じ条件で比較例1に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を製造し、かつ、実施例1と同様の評価を行なうと共に、比較例1に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を用いて実施例1と同様の蒸着薄膜(透明導電膜)を成膜しかつ同様の評価を行なった。
【0101】
これ等の結果を上記表1と表2に示す。
【0102】
尚、焼結後の焼結体(酸化物蒸着材)は、実施例1と同様、成形体と略同一の形状、寸法を維持していた。得られた焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ5.0〜5.2g/cmであった。
【0103】
まず、比較例1に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)は、表1に示すように表面層におけるCe/In原子数比(Comp)が「0.0093」、焼結体全体の平均値Ce/In原子数比(Comp)が「0.0081」であり、タブレット全体の平均組成が目的の組成とほぼ同等であったが、タブレット表面の組成が全体の平均組成と比べてインジウム量が少なめであった。
【0104】
また、表2に示すように「初期の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.0090」、「1時間後の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.0084」であり、比較例1に係る蒸着用酸化物タブレットを用いて得られる蒸着薄膜(透明導電膜)の組成は成膜初期と1時間後において相違し、かつ、「比抵抗」「キャリア濃度」「ホール移動度」等の電気特性においても同様に相違することが確認される。
【0105】
このような蒸着用焼結体タブレットを用いた場合、焼結体の表面層を利用する使用初期において、異なった特性の膜が成膜されてしまうことから、膜の製造に利用することができない。特に、タブレットを連続供給しながら長時間成膜する大量生産の際には、タブレット交換時に膜の特性が異なってしまうので使うことができない。
【0106】
膜の製造に利用するには、焼結体の表面を研削加工して組成の異なる表面層を削り取る必要があり、蒸着用焼結体タブレットの製造コストが大幅に増加してしまう。
【0107】
[比較例2]
成形体の焼成中に酸素を導入しなかった以外は実施例1と同じ条件で比較例2に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を製造し、かつ、実施例1と同様の評価をすると共に、比較例2に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を用いて実施例1と同様の蒸着薄膜(透明導電膜)を成膜しかつ同様の評価を行なった。
【0108】
これ等の結果を上記表1と表2に示す。
【0109】
尚、焼結後の焼結体(酸化物蒸着材)は、実施例1と同様、成形体と略同一の形状、寸法を維持していた。得られた焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ4.9〜5.1g/cmであった。
【0110】
まず、比較例2に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)は、表1に示すように表面層におけるCe/In原子数比(Comp)が「0.0111」、焼結体全体の平均値Ce/In原子数比(Comp)が「0.0082」であり、タブレット全体の平均組成が目的の組成とほぼ同等であったが、タブレット表面の組成が全体の平均組成と比べてインジウム量が少なめであった。
【0111】
また、表2に示すように「初期の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.0105」、「1時間後の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.0083」であり、比較例2に係る蒸着用酸化物タブレットを用いて得られる蒸着薄膜(透明導電膜)の組成は成膜初期と1時間後において相違し、かつ、「比抵抗」「キャリア濃度」「ホール移動度」等の電気特性においても同様に相違することが確認される。
【0112】
このような蒸着用焼結体タブレットを用いた場合、焼結体の表面層を利用する使用初期において、異なった特性の膜が成膜されてしまうことから、膜の製造に利用することができない。特に、タブレットを連続供給しながら長時間成膜する大量生産の際には、タブレット交換時に膜の特性が異なってしまうので使うことができない。
【0113】
膜の製造に利用するには、焼結体の表面を研削加工して組成の異なる表面層を削り取る必要があり、蒸着用焼結体タブレットの製造コストが大幅に増加してしまう。
【0114】
[比較例3]
次に、特開2005−290458号公報(特許文献4)に紹介されたスパッタターゲットの焼結体作製技術に従ってセリウムを含有する酸化インジウム焼結体を製造した。
【0115】
まず、平均粒径が1μm以下のIn粉末および平均粒径が1μm以下のCeO粉末を原料粉末とし、Ce/Inの原子数比が0.008となるような割合でIn粉末とCeO粉末を調合し、かつ、樹脂製ポットに入れて湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を20時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥後、造粒した。そして、得られた造粒粉を用い、3t/cmの圧力を加えて冷間静水圧プレスで成形を実施した。
【0116】
得られた成形体を、焼結炉に入れて、炉内容積0.1m当たり5リットル/分の割合で酸素を導入して雰囲気を作り、1450℃で8時間焼結した。この際、1000℃までを1℃/分、1000〜1450℃を2℃/分で昇温した。その後、酸素導入をとめて、1450〜1300℃を5℃/分で降温した。そして、炉内容積0.1m当たり10リットル/分の割合でアルゴンガスを導入する雰囲気で、1300℃を3時間保持した後、放冷した。
【0117】
焼成後の焼結体は、直径28mm、厚み36mmの大きさの円柱形状に収縮していた。また、焼結体の密度は6.4g/cm3、比抵抗は0.8mΩcmで、結晶粒経は10〜15μmであった。更に、焼結体表面の組成と全体の平均組成を実施例1と同様に測定しかつ評価した結果を表1に示した。
【0118】
そして、表1に示すように表面層におけるCe/In原子数比(Comp)が「0.0145」、焼結体全体の平均値Ce/In原子数比(Comp)が「0.0078」であり、焼結体全体の平均組成は仕込み組成とほぼ同等であったが、焼結体表面の組成が全体の平均組成と比べてインジウム量が少なめであった。
【0119】
また、実施例1と同様に成膜評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0120】
そして、表2に示すように「初期の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.0125」、「1時間後の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.0079」であり、比較例3に係る焼結体タブレットを用いて得られる蒸着薄膜(透明導電膜)の組成は成膜初期と1時間後において相違し、かつ、「比抵抗」「キャリア濃度」「ホール移動度」等の電気特性においても同様に相違することが確認される。
【0121】
このような焼結体タブレットを用いた場合、焼結体の表面層を利用する使用初期において異なった特性の膜が成膜されてしまうことから、膜の製造に利用することができない。特に、タブレットを連続供給しながら長時間成膜する大量生産の際には、タブレット交換時に膜の特性が異なってしまうので使うことができない。
【0122】
膜の製造に利用するには、焼結体の表面を研削加工して組成の異なる表面層を削り取る必要があり、蒸着用焼結体タブレットの製造コストが大幅に増加してしまう。
【0123】
[実施例2〜7]
原料であるIn粉末とCeO粉末を調合する際、Ce/Inの原子数比を0.001(実施例2)、0.002(実施例3)、0.004(実施例4)、0.051(実施例5)、0.061(実施例6)、0.110(実施例7)となるような割合で調合した以外は、実施例1と同じ条件で焼結体(蒸着用酸化物タブレット)を作製した。
【0124】
そして、焼成後における焼結体表面と焼結体全体の平均の組成を評価したところ、いずれもComp/Comp=0.9〜1.1であり、焼結体表面の組成は焼結体全体の平均組成とほぼ同じであり、また仕込み組成とほぼ同等の組成であった。焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ4.9〜5.4g/cmであった。
【0125】
また、得られた焼結体(蒸着用酸化物タブレット)を用いて製造された膜の特性についても実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0126】
そして、表2に示すように「初期の膜」と「1時間後の膜」の組成、および、「比抵抗」「キャリア濃度」「ホール移動度」等の電気特性はほぼ同じであった。
【0127】
このような蒸着用焼結体タブレットは、焼結体の表面層を利用する使用初期から膜組成や特性の変動がなく安定しているため、焼結後において焼結体の表面研磨加工を行なわずに蒸着用焼結体タブレットとして使用することができる。すなわち、焼結体の表面層を研削加工することなくそのまま蒸着材として使うことができるので、蒸着用焼結体タブレットの製造コストも安価になる等の利点がある。更に、タブレットを連続供給しながら長時間連続成膜するときには、タブレット交換時にも連続的に成膜することができるので、蒸着薄膜(透明導電膜)の生産性の面でも非常に有利である。
【0128】
次に、実施例1を含め実施例1〜7で得られた蒸着薄膜(透明導電膜)の特性を比較すると、酸化インジウムを主成分としCe/In原子数比で0.004〜0.056の割合でセリウムを含有する結晶膜(表2に記載されたデータから実施例1、4、5の結晶膜)においては、ホール移動度が80cm/V・s以上、キャリア濃度が3.3×1020cm-3以下、比抵抗が3.5×10-4Ωcm以下の透明導電膜を得ることができ、波長800〜1200nmにおける膜自体の平均透過率は80%以上と非常に高かった。
【0129】
このような蒸着薄膜(透明導電膜)は太陽電池の透明電極として非常に有用といえる。
【0130】
[実施例8]
In粉末とCeO粉末を調合する際にCe/Inの原子数比を0.346となるような割合で調合し、焼結温度を1350℃で2時間とした以外は、実施例1と同一条件で焼結体(蒸着用酸化物タブレット)を作製した。得られた焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ5.2〜5.4g/cmであった。
【0131】
そして、焼成後における焼結体表面と焼結体全体の平均の組成を評価したところ、Comp/Comp=1.03で、焼結体表面の組成は焼結体全体の平均組成とほぼ同じであり、仕込み組成とほぼ同等の組成であった。
【0132】
次に、得られた焼結体を蒸着用酸化物タブレットとして用い、かつ、成膜時に基板を加熱しなかった以外は実施例1と同様の方法で成膜試験を実施した。成膜時における酸素量が少ないと蒸着薄膜は着色していたが、酸素量を増加させると透明度が増加した。そして、透明度が最大となる酸素量のときを最適な条件とし、その時の蒸着薄膜についてエリプソメーターを用い波長550nmにおける屈折率を測定した。また、可視域における膜自体の透過率も実施例1と同様に求めた。その結果を以下の表3に示す。
【0133】
【表3】

【0134】
表3に示されたデータから、蒸着用酸化物タブレットの使用初期と1時間後における蒸着薄膜(前者が「初期の膜」、後者が「1時間後の膜」)の組成、および、光学特性(屈折率、透過率)はほぼ同じであった。また、X線回折測定による結晶性の評価において各蒸着薄膜は何れも非晶質膜であった。
【0135】
このような蒸着用焼結体タブレットは、焼結体の表面層を利用する使用初期から膜組成や特性の変動がなく安定しているため、焼結後において焼結体の表面研磨加工を行なわずに蒸着用焼結体タブレットとして使用することができる。すなわち、焼結体の表面層を研削加工することなくそのまま蒸着材として使うことができるので、蒸着用焼結体タブレットの製造コストも安価になる等の利点がある。更に、タブレットを連続供給しながら長時間連続成膜するときには、タブレット交換時にも連続的に成膜することができるので、蒸着薄膜(透明導電膜)の生産性の面でも非常に有利である。
【0136】
次に、得られた蒸着薄膜の波長550nmの屈折率は、表3に示すように「2.42」であり、従来の酸化インジウム系薄膜(例えばITO膜は1.9〜2.1)と較べて高い数値となっている。このため、可視域における屈折率が1.3〜1.5を示す酸化シリコン膜や金属フッ化物膜等の低屈折率膜と組み合わせて積層体とし、光の干渉効果を発揮させた光学部品(例えば反射防止膜等)を製造するときに非常に有利である。
【0137】
[比較例4]
実施例8の「雰囲気調整用パウダー」を使用しなかった以外は実施例8と同じ条件で比較例4に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を製造し、かつ、実施例8と同様の評価を行なうと共に、比較例4に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を用いて実施例8と同様の蒸着薄膜を成膜しかつ同様の評価を行なった。
【0138】
これ等の結果を上記表1と表3に示す。
【0139】
尚、焼結後の焼結体(酸化物蒸着材)は、実施例8と同様、成形体と略同一の形状、寸法を維持していた。焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ5.0〜5.1g/cmであった。
【0140】
まず、比較例4に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)は、表1に示すように表面層におけるCe/In原子数比(Comp)が「0.4086」、焼結体全体の平均値Ce/In原子数比(Comp)が「0.3463」であり、タブレット全体の平均組成が目的の組成とほぼ同等であったが、タブレット表面の組成が全体の平均組成と比べてインジウム量が少なめであった。
【0141】
また、表3に示すように「初期の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.3938」、「1時間後の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.3485」であり、比較例4に係る蒸着用酸化物タブレットを用いて得られる蒸着薄膜の組成は成膜初期と1時間後において相違し、かつ、光学特性(屈折率)も相違することが確認される。
【0142】
このような蒸着用焼結体タブレットを用いた場合、焼結体の表面層を利用する使用初期において、異なった特性の膜が成膜されてしまうことから、膜の製造に利用することができない。特に、タブレットを連続供給しながら長時間成膜する大量生産の際には、タブレット交換時に膜の特性が異なってしまうので使うことができない。
【0143】
膜の製造に利用するには、焼結体の表面を研削加工して組成の異なる表面層を削り取る必要があり、蒸着用焼結体タブレットの製造コストが大幅に増加してしまう。
【0144】
[比較例5]
成形体の焼成中に酸素を導入しなかった以外は実施例8と同じ条件で比較例5に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を製造し、かつ、実施例8と同様の評価をすると共に、比較例5に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)を用いて実施例8と同様の蒸着薄膜を成膜しかつ同様の評価を行なった。
【0145】
これ等の結果を上記表1と表3に示す。
【0146】
尚、焼結後の焼結体(酸化物蒸着材)は、実施例8と同様、成形体と略同一の形状、寸法を維持していた。また、焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ4.9〜5.0g/cmであった。
【0147】
まず、比較例5に係る酸化物蒸着材(蒸着用酸化物タブレット)は、表1に示すように表面層におけるCe/In原子数比(Comp)が「0.5788」、焼結体全体の平均値Ce/In原子数比(Comp)が「0.3463」であり、タブレット全体の平均組成が目的の組成とほぼ同等であったが、タブレット表面の組成が全体の平均組成と比べてインジウム量が少なめであった。
【0148】
また、表3に示すように「初期の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.5342」、「1時間後の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.3467」であり、比較例5に係る蒸着用酸化物タブレットを用いて得られる蒸着薄膜の組成は成膜初期と1時間後において相違し、かつ、光学特性(屈折率)も相違することが確認される。
【0149】
このような蒸着用焼結体タブレットを用いた場合、焼結体の表面層を利用する使用初期において、異なった特性の膜が成膜されてしまうことから、膜の製造に利用することができない。特に、タブレットを連続供給しながら長時間成膜する大量生産の際には、タブレット交換時に膜の特性が異なってしまうので使うことができない。
【0150】
膜の製造に利用するには、焼結体の表面を研削加工して組成の異なる表面層を削り取る必要があり、蒸着用焼結体タブレットの製造コストが大幅に増加してしまう。
【0151】
[比較例6]
次に、比較例3と同様、特開2005−290458号公報(特許文献4)に紹介されたスパッタターゲットの焼結体作製技術に従ってセリウムを含有する酸化インジウム焼結体を製造した。
【0152】
まず、平均粒径が1μm以下のIn粉末および平均粒径が1μm以下のCeO粉末を原料粉末とし、Ce/Inの原子数比が0.3460となるような割合でIn粉末とCeO粉末を調合し、かつ、樹脂製ポットに入れて湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を20時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥後、造粒した。そして、得られた造粒粉を用い、3t/cmの圧力を加えて冷間静水圧プレスで成形を実施した。
【0153】
得られた成形体を、焼結炉に入れて、炉内容積0.1m当たり5リットル/分の割合で酸素を導入して雰囲気を作り、1450℃で8時間焼結した。この際、1000℃までを1℃/分、1000〜1450℃を2℃/分で昇温した。その後、酸素導入をとめて、1450〜1300℃を5℃/分で降温した。そして、炉内容積0.1m当たり10リットル/分の割合でアルゴンガスを導入する雰囲気で、1300℃を3時間保持した後、放冷した。
【0154】
焼成後の焼結体は、直径27mm、厚み35mmの大きさの円柱形状に収縮していた。また、焼結体の密度は6.1g/cm3、比抵抗は1.0mΩcmで、結晶粒経は10〜15μmであった。更に、焼結体表面の組成と全体の平均組成を実施例8と同様に測定しかつ評価した結果を表1に示した。
【0155】
そして、表1に示すように表面層におけるCe/In原子数比(Comp)が「0.5404」、焼結体全体の平均値Ce/In原子数比(Comp)が「0.3464」であり、焼結体全体の平均組成は仕込み組成とほぼ同等であったが、焼結体表面の組成が全体の平均組成と比べてインジウム量が少なめであった。
【0156】
また、実施例8と同様に成膜評価を実施した。その結果を表3に示す。
【0157】
そして、表3に示すように「初期の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.5124」、「1時間後の膜」の組成が「Ce/In原子数比=0.3473」であり、比較例6に係る焼結体タブレットを用いて得られる蒸着薄膜の組成は成膜初期と1時間後において相違し、かつ、光学特性(屈折率)も相違することが確認される。
【0158】
このような蒸着用焼結体タブレットを用いた場合、焼結体の表面層を利用する使用初期において、異なった特性の膜が成膜されてしまうことから、膜の製造に利用することができない。特に、タブレットを連続供給しながら長時間成膜する大量生産の際には、タブレット交換時に膜の特性が異なってしまうので使うことができない。
【0159】
膜の製造に利用するには、焼結体の表面を研削加工して組成の異なる表面層を削り取る必要があり、蒸着用焼結体タブレットの製造コストが大幅に増加してしまう。
【0160】
[実施例9〜11]
原料であるIn粉末とCeO粉末を調合する際、Ce/Inの原子数比を0.090(実施例9)、0.142(実施例10)、0.538(実施例11)となるような割合で調合した以外は、実施例8と同じ条件で焼結体(蒸着用酸化物タブレット)を作製した。
【0161】
得られた焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ4.9〜5.4g/cmであった。そして、焼成後における焼結体表面と焼結体全体の平均の組成を評価したところ、表1に示すようにいずれもComp/Comp=0.9〜1.1であり、焼結体表面の組成は焼結体全体の平均組成とほぼ同じであり、また仕込み組成とほぼ同等の組成であった。
【0162】
また、得られた焼結体(蒸着用酸化物タブレット)を用いて製造された膜の特性についても実施例8と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0163】
表3に示されたデータから、蒸着用酸化物タブレットの使用初期と1時間後における蒸着薄膜(前者が「初期の膜」、後者が「1時間後の膜」)の組成、および、光学特性(屈折率、透過率)はほぼ同じであった。また、X線回折測定による結晶性の評価において各蒸着薄膜は何れも非晶質膜であった。
【0164】
このような蒸着用焼結体タブレットは、焼結体の表面層を利用する使用初期から膜組成や特性の変動がなく安定しているため、焼結後において焼結体の表面研磨加工を行なわずに蒸着用焼結体タブレットとして使用することができる。すなわち、焼結体の表面層を研削加工することなくそのまま蒸着材として使うことができるので、蒸着用焼結体タブレットの製造コストも安価になる等の利点がある。更に、タブレットを連続供給しながら長時間連続成膜するときには、タブレット交換時にも連続的に成膜することができるので、蒸着薄膜(透明導電膜)の生産性の面でも非常に有利である。
【0165】
次に、得られた実施例9〜11に係る蒸着薄膜の波長550nmの屈折率は、表3に示すように「2.15〜2.52」であり、従来の酸化インジウム系薄膜(例えばITO膜は1.9〜2.1)と較べて高い数値となっている。このため、可視域における屈折率が1.3〜1.5を示す酸化シリコン膜や金属フッ化物膜等の低屈折率膜と組み合わせて積層体とし、光の干渉効果を発揮させた光学部品(例えば反射防止膜等)を製造するときに非常に有利である。
【産業上の利用可能性】
【0166】
表面組成が内部組成と略同一の焼結体により構成される本発明に係る蒸着用酸化物タブレット(酸化物蒸着材)は、焼結体の表面研削加工を施さなくとも蒸着材としてそのまま使用することができるため製造コストの削減が図れ、かつ、タブレットの使用初期から薄膜の製造に利用できるためタブレット1個当たりの薄膜生産量を増大できることから、各種太陽電池の透明電極を形成するための蒸着用酸化物タブレットあるいは低屈折率膜と組み合わせて反射防止膜等を構成する場合の蒸着用酸化物タブレットとして利用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0167】
1 ガラス基板
2 表側(受光部側)透明電極膜
3 p型アモルファスシリコン膜または水素化アモルファスシリコンカーバイド膜
4 不純物を含まないアモルファスシリコン膜
5 n型アモルファスシリコン膜
6 裏側透明電極膜(接触改善層)
7 裏側金属電極(裏面電極)
8 光吸収層
9 半導体の中間層
10 窓層
11 透明電極膜
12 ガラス基板
13 下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウムを主成分とし、かつ、セリウムを含むと共に、焼結後の表面研削加工がされていない焼結体により構成された酸化物蒸着材において、
焼結体表面から5μmの深さまでの表面層におけるセリウム含有量をCe/In原子数比(Comp)とし、焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値をCe/In原子数比(Comp)とした場合、
Comp/Comp=0.9〜1.1であることを特徴とする酸化物蒸着材。
【請求項2】
上記焼結体全体におけるセリウム含有量の平均値Ce/In原子数比(Comp)が0.001〜0.538であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物蒸着材。
【請求項3】
上記焼結体が円柱形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物蒸着材。
【請求項4】
酸化インジウムを主成分とし、かつ、セリウムを含む蒸着薄膜において、
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物蒸着材を原料として用い、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法若しくは高密度プラズマアシスト蒸着法により成膜され、かつ、成膜された薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.001〜0.538であることを特徴とする蒸着薄膜。
【請求項5】
成膜された薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.004〜0.056であり、かつ、比抵抗が3.5×10-4Ωcm以下である導電性の透明結晶膜により構成されることを特徴とする請求項4に記載の蒸着薄膜。
【請求項6】
ホール移動度が80cm2/V・s以上、キャリア濃度が3.3×1020cm-3以下である導電性の透明結晶膜により構成されることを特徴とする請求項5に記載の蒸着薄膜。
【請求項7】
波長800〜1200nmにおける薄膜自体の平均透過率が80%以上であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の蒸着薄膜。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかに記載の蒸着薄膜を電極として用いていることを特徴とする太陽電池。
【請求項9】
成膜された薄膜中におけるセリウム含有量の平均値がCe/In原子数比で0.090〜0.538であり、かつ、波長550nmにおける屈折率が2.15以上である高屈折率性の透明膜により構成されることを特徴とする請求項4に記載の蒸着薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−149082(P2011−149082A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13313(P2010−13313)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】