説明

酸化錫膜形成方法

【課題】大気中で熱処理を実施することにより、トンネル炉等の気密性の低い簡易な設備を用いて行うことができるフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法の提供。
【解決手段】フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を280〜540℃の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、大気中での加熱時において、フッ素ドープ酸化錫膜から酸素の脱離が起こり、かつ、該フッ素ドープ酸化錫膜への酸素の再吸着が起こらないように、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値を設定することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化錫膜の形成方法に関する。具体的には、キャリア電子の移動度が高く、薄膜系太陽電池のような光電変換素子の入射光側電極として好適に用いられるフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子である薄膜系太陽電池には、発電層の種類により、アモルファスシリコン(a−Si)系、多結晶シリコン系などがあるが、これらの薄膜シリコン系太陽電池には、その入射光側電極として透明導電性酸化物膜が使用されている。この透明導電性酸化物膜は、光電変換効率を高めるために低抵抗・高透明であり、かつ、光散乱性能が大きいことが要求されている。
【0003】
透明導電性酸化物膜としては酸化スズ膜や酸化インジウム膜などが知られている。中でも酸化錫膜は化学的に安定な材料であり、また低価格であることから、光電変換素子の入射光側電極として用いられる透明導電性酸化物膜として有用であり、特に、ドーパントとしてフッ素を含有するフッ素ドープ酸化錫膜は、膜の光線吸収が少なく高透明であることから好ましい。
【0004】
一般に、透明導電性酸化物膜では低抵抗、高透明であることが要求されるが、導電性を左右するキャリア電子密度を高くするにつれて近赤外から可視光域で徐々に光吸収が増加するという矛盾する側面をもっているため、低抵抗、高透明を両立させることは極めて困難である。しかし、光電変換素子の入射光側電極として用いられる透明導電性酸化物膜においては導電性をできるだけ高く維持したまま透明化を図ることが重要であるとされている。
フッ素ドープ酸化錫膜は比抵抗が10-4Ω・cm台まで到達し、導電性の高い膜が比較的容易に得られる反面、逆に透過率の高い膜は得にくい傾向があった。これはフッ素ドープ酸化錫膜ではキャリア電子密度を比較的容易に増大することが低抵抗化を可能にしているのであるが、キャリア電子の増加は光学吸収を招くため透過率は低下してしまうためである。
【0005】
フッ素ドープ酸化錫膜を含む透明導電性酸化物膜の比抵抗は下記式を満たす。
比抵抗ρ(Ω・cm)=1/{キャリア電荷q(C)×キャリア電子密度n(個/cm3)×キャリア電子移動度μ(cm2/V・s)}
上記式から明らかなように、キャリア電子の増加による光学吸収を生じることなしに、フッ素ドープ酸化錫膜の比抵抗を下げるには、キャリア電子の移動度を増加させることが好ましい。
【0006】
透明導電性酸化物膜の成膜後、該透明導電性酸化物膜の低抵抗化するために、アニール処理(熱処理)を行うことが広く行われている(特許文献1〜5参照)。
これらのアニール処理(熱処理)のうち、特許文献1、2に記載のアニール処理(熱処理)は、キャリア密度を高める効果を有するものであるが、上述したように、キャリア密度が高くなると光学吸収を招くため、透過率の低下が問題となる。
これに対し、特許文献3〜5に記載のアニール処理(熱処理)によれば、キャリア電子の移動度を増加させることにより、フッ素ドープ酸化錫膜の比抵抗を下げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−19713号公報
【特許文献2】特開昭58−223620号公報
【特許文献3】特開平7−105166号公報
【特許文献4】特開2003−81633号公報
【特許文献5】特開2006−140388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フッ素ドープ酸化錫膜において、キャリア電子の移動度を左右する因子は、導電性を担う酸素空孔の数であり、酸化錫からの酸素の脱離、または、酸化錫への酸素の吸着により、下記式で示される反応が、右または左方向に進む。
SnO2 = SnO +1/2O2
上記式の左辺は酸素空孔の消滅した状態、右辺は酸素空孔の形成を示す。
大気中などの酸素を含む雰囲気中でアニール処理(熱処理)を実施した場合、酸化錫表面に酸素が吸着するので、酸素空孔が減少し、キャリア電子の移動度が減少することになる。
キャリア電子の移動度を増加するためには、酸素空孔を増加させる必要がある。そのためには、酸素濃度がきわめて低い非酸化性雰囲気(例えば、窒素雰囲気)でアニール処理(熱処理)を実施する必要があると考えられていた。
【0009】
この点に関して、特許文献3では、酸素分圧が100Torr以下の非酸化性雰囲気でアニール処理(熱処理)を実施している。
透明導電基板の量産設備として、一般に、基板上に酸化スズ膜をCVD法により成膜した後、連続的にアニール処理(熱処理)および冷却を行う、トンネル型マッフル炉(以下、単に「トンネル炉」という。)が用いられているが、このトンネル炉は密閉系の装置ではないため、成膜直後に雰囲気を置換するなどして酸素濃度を最も低くした場合でも、酸素濃度は0.2〜0.3vol%程度であり、特許文献3に記載されているような、酸素濃度がきわめて低い非酸化性雰囲気を実現することは困難である。
【0010】
特許文献4では、アニール処理(熱処理)を実施する雰囲気に水蒸気を導入することによって、雰囲気中の酸素濃度0.3%以下で水蒸気濃度14%以上では有用な低抵抗化が実現できるもの、空気雰囲気(およそ酸素20%)では十分な低抵抗化効果が得られないことが判明している。また、水蒸気濃度14%以上では露点はおよそ53℃であり、冷却過程で露点よりも低い部分と接すると結露して水滴となるため、設備の腐食や水滴落下によるガラス割れなど不都合が多いことが判明している。
【0011】
特許文献5では、アニール処理(熱処理)を実施する雰囲気に、酸素を脱離する作用を有すると考えられるアルコール類を導入することにより、雰囲気中の主成分に空気を使用できるとしている。特許文献5のアニール処理(熱処理)では、処理雰囲気として高純度の窒素や多量の水蒸気を使用する必要がなく、主成分として空気を用いることが可能であり、雰囲気を確保するために気密性の高い設備や高純度のガス原料を使用する必要がないため、安価な設備および原料を用いることができるとされている。
【0012】
上述したように、大気中でアニール処理(熱処理)を実施した場合、酸化錫表面に酸素が吸着するので、酸素空孔が減少し、キャリア電子の移動度が減少すると考えられているが、何らかの方法で酸化錫表面への酸素の吸着を抑制することができれば、特許文献5に記載のアニール処理(熱処理)よりも、さらに安価な設備を用いることができる。また、雰囲気中にアルコールを導入する必要がなくなることで、低環境負荷でのアニール処理(熱処理)の実施が可能となる。
【0013】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明は、大気中でアニール処理(熱処理)を実施することにより、トンネル炉等の気密性の低い簡易な設備を用いて行うことができるフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成するため、本願発明者らは、鋭意検討することにより、以下の知見を得た。
フッ素ドープ酸化錫膜からの酸素の脱離は、熱を駆動力とするため、大気中などの酸素を含む雰囲気中でも、所定の温度まで昇温すると酸素の脱離が起こる。酸素の脱離の度合いをフッ素ドープ酸化錫膜の比抵抗の低下を指標とした場合、昇温時の最高温度に到達した直後に比抵抗が最小となる。
酸素を酸素濃度がきわめて低い非酸化性雰囲気中では、一旦酸素が脱離されれば、昇温した状態に保持しても、酸素の再吸着が起こらないので酸素空孔は消失しないが、大気中などの酸素を含む雰囲気中では、酸素の脱離後、昇温した状態に保持すると、酸素の脱離後、酸素の再吸着が起こり、脱離によって形成された酸素空孔が次第に消滅して、酸素空孔の数が減少することによって、フッ素ドープ酸化錫膜の比抵抗が上昇する。
酸素の脱離後、再吸着までにはわずかな時間的な遅れがあるため、酸素の脱離後一定時間内に酸素の再吸着が起こらない温度まで降温すれば、酸素の再吸着がほとんど起こらず、脱離によって形成された酸素空孔をほぼ完全に維持することができ、フッ素ドープ酸化錫膜の比抵抗が低い状態に維持することができる。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を280〜540℃の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、大気中での加熱時において、フッ素ドープ酸化錫膜から酸素の脱離が起こり、かつ、該フッ素ドープ酸化錫膜への酸素の再吸着が起こらないように、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値を設定することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法を提供する。
【0016】
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法の第1態様は、フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を280〜300℃の温度域まで大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が、20,000〜10,000,000℃/秒を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法である。
【0017】
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法の第2態様は、フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が、500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を300℃超320℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が15,000〜250,000℃/秒、かつ、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜1,500,000℃/秒を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法である。
【0018】
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法の第3態様は、フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を320℃超350℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜320℃の温度域における積分温度値が100〜200,000℃/秒、320℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が100〜200,000℃/秒、かつ、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜1,500,000℃/秒を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法である。
【0019】
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法の第4態様は、フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を350℃超390℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜320℃の温度域における積分温度値が100〜200,000℃/秒、320〜350℃の温度域における積分温度値が100〜200,000℃/秒、350℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が1,000〜150,000℃/秒、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜600,000℃/秒、かつ、前記成膜面の最高到達温度における保持時間が5分以内を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法である。
【0020】
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法の第5態様は、フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を390℃超450℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜350℃の温度域における積分温度値が100〜60,000℃/秒、350〜390℃の温度域における積分温度値が100〜40,000℃/秒、390℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が500〜20,000℃/秒、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜500,000℃/秒、かつ、前記成膜面の最高到達温度における保持時間が5分以内を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法である。
【0021】
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法の第6態様は、フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を450℃超500℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜350℃の温度域における積分温度値が100〜60,000℃/秒、350〜390℃の温度域における積分温度値が100〜40,000℃/秒、390〜450℃の温度域における積分温度値が100〜20,000℃/秒、450℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が500〜10,000℃/秒、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜300,000℃/秒、かつ、前記成膜面の最高到達温度における保持時間が5分以内を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法である。
【0022】
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法の第7態様は、フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を500℃超540℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜350℃の温度域における積分温度値が100〜60,000℃/秒、350〜390℃の温度域における積分温度値が100〜40,000℃/秒、390〜450℃の温度域における積分温度値が100〜20,000℃/秒、450〜500℃の温度域における積分温度値が100〜10,000℃/秒、500℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が500〜10,000℃/秒、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜300,000℃/秒、かつ、前記成膜面の最高到達温度における保持時間が5分以内を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、大気中での熱処理により、キャリア電子の移動度が高く、該移動度が、非酸化性雰囲気でアニール処理する従来の方法や、アニール処理する雰囲気に水蒸気やアルコールを導入する従来の方法と同程度のフッ素ドープ酸化錫膜を形成することができる。
本発明によれば、大気中で熱処理を実施することで、処理設備の気密性、結露や腐食の問題から解放されるため、廉価な設備、例えば、トンネル炉等の気密性の低い簡易な設備が使用可能となる。
また、熱処理を実施する雰囲気中にアルコールを導入する必要がないため、コストの削減が可能であり、また、低環境負荷での熱処理の実施が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法について説明する。
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法では、基体表面の温度(以下、「成膜面温度」という。)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成する。
CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を形成するのは、膜厚の制御がしやすく、膜の被覆性に優れているからである。
また、成膜面温度が500℃以上となる条件で、フッ素ドープ酸化錫膜を形成するのは、酸化錫微粒子の結晶性が改善されるため、フッ素ドープ酸化錫膜を低抵抗化するうえで好ましいからである。
酸化錫微粒子の結晶性改善のため、成膜面温度は530℃以上であることが好ましく、560℃以上であることがより好ましく、580℃以上であることがさらに好ましい。
なお、成膜面温度は、成膜面上、または、成膜面から3mm以内の空間に配した熱電対により測定することができる。
【0025】
本発明のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法で使用する基体や、フッ素ドープ酸化錫膜の形成時の条件について、さらに記載する。
【0026】
<基体>
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体の形状としては、平面で板状であるのが一般的であるが、必ずしも平面で板状である必要はなく、曲面でも異型状でもよい。該基体としては、ガラス基体、セラミックス基体、プラスチック基体、金属基体などが挙げられる。該基体は透光性に優れた透明の基体であることが好ましく、ガラス基板であることが強度および耐熱性の点から好ましい。ガラス基板としては、無色透明なソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、石英ガラス、ホウ珪酸ガラス基板、無アルカリガラス基板、その他の各種ガラスからなる透明ガラス板を用いることができる。
太陽電池のような光電変換素子の入射光側電極として用いる場合、ガラス基板の厚さは0. 2〜6. 0mmであることが好ましい。この範囲であると、ガラス基板の強度が強く、透過率が高い。また、十分絶縁性で、かつ化学的、物理的耐久性が高いことが望ましい。
なお、ソーダライムシリケートガラスなどのナトリウムを含有するガラスからなるガラス基板、または低アルカリ含有ガラスからなるガラス基板の場合には、ガラスからその上面に形成される透明導電性酸化物膜へのアルカリ成分の拡散を最小限にするために、酸化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜などのアルカリバリア層をガラス基板面に施してもよい。
また、ガラス基板の表面に、ガラス基板の表面と、その上に設けられる層との屈折率の差異を軽減するための層をさらに有していてもよい。
【0027】
<フッ素ドープ酸化錫膜の形成>
CVD法を用いて、フッ素ドープ酸化錫膜を形成するには、成膜面温度が300℃以上となるように加熱し、原料ガスである四塩化スズ(SnCl4)、水(H2O)、および、フッ化水素(HF)を、窒素、アルゴン等のキャリアガスとともに原料ガス供給ノズルから同時に吹き付けることで、基体上(該基体の成膜面上フッ素ドープ酸化錫膜を形成することができる。
【0028】
フッ素ドープ酸化錫膜形成時において、原料ガス中の四塩化スズ(SnCl4)に対する水(H2O)の量が流量比(H2O/SnCl4)で30〜400であることが好ましい。H2OはSnCl4からSnO2への酸化反応を進行させるための酸化剤として作用する。そのため、H2Oが少なすぎると酸化反応が不十分になり、形成される膜が着色する場合があるので、流量比(H2O/SnCl4)で30以上とすることが好ましい。一方、H2Oが多い場合、形成される膜の特性的には問題はないが、設備上大量のH2Oを供給することは困難となるため、流量比(H2O/SnCl4)で400以下であることが好ましい。
流量比(H2O/SnCl4)が50〜300であることがより好ましく、80〜120であることがさらに好ましい。
【0029】
フッ素ドープ酸化錫膜形成時において、原料ガス中の四塩化スズ(SnCl4)に対するフッ化水素(HF)の量が流量比(HF/SnCl4)で3〜40であることが好ましい。ドーパントの原料であるHFが少なすぎると、形成される膜中のキャリア濃度が低くなるので、流量比(HF/SnCl4)で3以上であることが好ましい。HFが多すぎるとキャリアを作るドーパントとして働かず、単なる不純物として取り込まれるフッ素が増加し、移動度低下の要因となるので、流量比(HF/SnCl4)で40以下であることが好ましい。
【0030】
フッ素ドープ酸化錫膜形成時において、原料ガス中の四塩化スズ(SnCl4)に対するキャリアガス(例えば、窒素)の量が流量比(キャリアガス/SnCl4)で1〜50であることが好ましい。
【0031】
フッ素ドープ酸化錫膜形成時において、原料ガス中の水(H2O)に対するキャリアガス(例えば、窒素)の量が流量比(キャリアガス/H2O)で0.2〜5であることが好ましい。
【0032】
基体上に形成するフッ素ドープ酸化錫膜の膜厚は、必要に応じて適宜選択するものであるが、フッ素ドープ酸化錫膜におけるキャリア電子の移動度という点では、フッ素ドープ酸化錫膜の膜厚が大きいほうが以下の理由から好ましい。
フッ素ドープ酸化錫膜の形成時において、膜形成初期段階では結晶粒のサイズが小さいので、該膜におけるキャリア電子の移動度が低いが、膜厚に応じて結晶粒のサイズが大きくなり、キャリア電子の移動度が高くなる。
【0033】
本発明では、フッ素ドープ錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却する。
成膜面温度が280℃以下になるまで冷却する理由は以下の通り。
本発明では、280℃以下に冷却した後、成膜面温度を280℃以上の温度域に大気中で加熱するので、フッ素ドープ錫膜を大気中に保持することになる。
本願発明者らは、成膜面温度が280℃以下であれば、大気中のような酸素を含有する雰囲気中に保持しても、フッ素ドープ酸化錫膜への酸素の吸着がほとんど起こらないという知見を得ている。そのため、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却すれば、大気中での加熱実施前のフッ素ドープ錫膜に酸素が吸着することが防止される。
また、成膜面温度が500℃以上となる条件でフッ素ドープ酸化錫膜を形成した後、該成膜面温度を200℃以上冷却することになるため、形成されるフッ素ドープ酸化錫膜を低抵抗化するうえで好ましい。
ここで、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却する際の条件は特に限定されない。例えば、冷却速度は特に限定されず、急冷したり、放冷したりしてもよい。
また、280℃以下である限り、成膜面温度が何度になるまで冷却してもよい。但し、次に実施する大気中での加熱時のエネルギー効率を考えると、280℃に近い温度(好ましくは、150℃以上、より好ましくは、200℃以上、さらに好ましくは、250℃以上である。
なお、フッ素ドープ酸化錫膜形成後の成膜面温度は、フッ素ドープ酸化錫膜の膜表面外縁または膜表面から3mm以内の空間に配した熱電対により測定することができる。
【0034】
次に、本発明では、成膜面温度を280〜540℃の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却することで、フッ素ドープ酸化錫膜におけるキャリア電子の移動度を増加させる。
但し、キャリア電子の移動度を増加させるためには、フッ素ドープ錫膜中の酸素空孔を増加させる必要があるので、大気中での加熱時において、フッ素ドープ酸化錫膜から酸素の脱離が起こり、かつ、該フッ素ドープ酸化錫膜への酸素の再吸着が起こらないように、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値を設定する。
ここで、280℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値とは、280℃から成膜面の最高到達温度まで昇温する際の積分温度値、成膜面の最高到達温度で一定時間保持する場合は、該温度保持する際の積分温度値、および、成膜面の最高到達温度から280℃まで冷却する際の積分温度値を全て含めたものを指す。
また、本明細書における積分温度値は、成膜面温度をTn(℃)、温度測定の時間間隔をΔT(秒)とするとき下記式で表わされる。
【数1】


ここで、温度測定の時間間隔ΔTは、成膜面温度の上昇速度および下降速度に応じて適宜選択することができる。例えば、成膜面温度の上昇速度および下降速度が大きい場合は、温度測定の時間間隔ΔTを小さくし、成膜面温度の上昇速度および下降速度が小さい場合は、温度測定の時間間隔ΔTを大きくすることができる。なお、後述する実施例では、温度測定の時間間隔ΔTを0.5秒とした。
【0035】
上述したように、大気中での加熱時においても、フッ素ドープ酸化錫膜からの酸素の脱離が起こる。但し、大気中での加熱では、フッ素ドープ錫膜から酸素が脱離した後、酸素の再吸着が起こる前に、酸素の再吸着がほとんど起こらない温度である280℃以下まで冷却する必要がある。
この点に関して、本発明では、大気中での加熱時において、フッ素ドープ酸化錫膜から酸素の脱離が起こり、かつ、該フッ素ドープ酸化錫膜への酸素の再吸着が起こらないように、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値を設定する。
ここで、280℃よりも高い温度域では、成膜面温度が高くなるほど酸素が再吸着する速度が速くなるので、成膜面の最高到達温度付近を通過する時間が短くなるように積分温度値を設定する必要がある。この点については、成膜面の最高到達温度が高くなるほど重要である。
このため、本発明では、成膜面の最高到達温度に応じて、280℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域をさらにいくつかの温度域に分けて、各温度域ごとに積分温度値を設定する。この点については、以下に示す本発明の第1態様から第7態様を参照のこと。
また、成膜面温度が540℃よりも高くなると、酸素の脱離後、酸素が再吸着するまでの時間がきわめて短くなるので、フッ素ドープ酸化錫膜への酸素の再吸着によるキャリア電子の移動度の減少を防止することが困難であるので、本発明では、大気中での加熱時の成膜面温度の上限を540℃とする。
本発明における大気中での加熱の具体的な手順を以下に示す。
【0036】
本発明の第1態様では、フッ素ドープ酸化錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後に、成膜面温度を280〜300℃の温度域まで大気中で加熱した後、成膜面温度を280℃以下に冷却する。
ここで、280℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が、20,000〜10,000,000℃/秒を満たすように大気中での加熱を実施する。
本態様では、成膜面の最高到達温度が比較的低いため、280℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値についての制約が比較的少ない。
以下に示す態様では、成膜面の最高到達温度が高くなるにつれて、280℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値についての制約がよりきびしくなる。
【0037】
本発明の第2態様では、フッ素ドープ酸化錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後に、成膜面温度を300℃超320℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、成膜面温度を280℃以下に冷却するように大気中での加熱を実施する。
ここで、各温度域における積分温度値が下記を満たすように大気中での加熱を実施する。
280〜300℃の温度域:100〜300,000℃/秒
300℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域:15,000〜250,000℃/秒
280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値:20,000〜1,500,000℃/秒
【0038】
本発明の第3態様では、フッ素ドープ酸化錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後に、成膜面温度を320℃超350℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、成膜面温度を280℃以下に冷却する。
ここで、各温度域における積分温度値が下記を満たすように大気中での加熱を実施する。
280〜300℃の温度域:100〜300,000℃/秒
300〜320℃の温度域:100〜200,000℃/秒
320℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域:100〜200,000℃/秒
280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値:20,000〜1,500,000℃/秒
【0039】
本発明の第4態様は、フッ素ドープ酸化錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後に、成膜面温度を350℃超390℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、成膜面温度を280℃以下に冷却する。
ここで、各温度域における積分温度値が下記を満たすように大気中での加熱を実施する。
280〜300℃の温度域:100〜300,000℃/秒
300〜320℃の温度域:100〜200,000℃/秒
320〜350℃の温度域:100〜200,000℃/秒
350℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域:1,000〜150,000℃/秒
280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値:20,000〜500,000℃/秒
また、本態様では、成膜面の最高到達温度が350℃超390℃以下と高いため、該最高到達温度における保持時間を5分以内とする。
【0040】
本発明の第5態様では、フッ素ドープ酸化錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後に、成膜面温度を390℃超450℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、成膜面温度を280℃以下に冷却する。
ここで、各温度域における積分温度値が下記を満たすように大気中での加熱を実施する。
280〜300℃の温度域:100〜300,000℃/秒
300〜350℃の温度域:100〜60,000℃/秒
350〜390℃の温度域:100〜40,000℃/秒
390℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域:500〜20,000℃/秒
280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値:20,000〜500,000℃/秒
また、本態様では、成膜面の最高到達温度が390℃超450℃以下と高いため、該最高到達温度における保持時間を5分以内とする。
【0041】
本発明の第6態様では、フッ素ドープ酸化錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後に、成膜面温度を450℃超500℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、成膜面温度を280℃以下に冷却する。
ここで、各温度域における積分温度値が下記を満たすように大気中での加熱を実施する。
280〜300℃の温度域:100〜300,000℃/秒
300〜350℃の温度域:100〜60,000℃/秒
350〜390℃の温度域:100〜40,000℃/秒
390〜450℃の温度域:100〜20,000℃/秒
450℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域:500〜10,000℃/秒
280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値:20,000〜300,000℃/秒
また、本態様では、成膜面の最高到達温度が450℃超500℃以下と高いため、該最高到達温度における保持時間を5分以内とする。
【0042】
本発明の第7態様では、フッ素ドープ酸化錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後に、成膜面温度を500℃超540℃以下の温度域まで大気中で加熱した後、成膜面温度を280℃以下に冷却する。
ここで、各温度域における積分温度値が下記を満たすように大気中での加熱を実施する。
280〜300℃の温度域:100〜300,000℃/秒
300〜350℃の温度域:100〜60,000℃/秒
350〜390℃の温度域:100〜40,000℃/秒
390〜450℃の温度域:100〜20,000℃/秒
450〜500℃の温度域:100〜10,000℃/秒
500℃と成膜面の最高到達温度との間の温度域:500〜10,000℃/秒
280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値:20,000〜300,000℃/秒
また、本態様では、成膜面の最高到達温度が500℃超540℃以下と高いため、該最高到達温度における保持時間を5分以内とする。
【0043】
ここで、加熱手段としては、成膜面温度を280〜540℃の温度域に大気中で加熱し得るものなら何でも良く種々の汎用機器が利用可能である。例えば各種の電熱ヒーターによる加熱や、赤外線等の各種電気ランプでの加熱、重油・石油等の液体燃料を用いた火炎バーナーによる加熱、都市ガス・プロパン・石炭ガス等の気体燃料を用いた火炎バーナーによる加熱、燃焼・溶解炉の廃熱などを用いることができる。特に各種の液体および気体燃料を用いた火炎バーナーの場合には、空燃比等により火炎中の一酸化炭素や炭化水素等の還元性ガス濃度を容易に制御できる。還元性ガス濃度を高めることにより、フッ素ドープ酸化錫膜からの酸素の脱離を促進する一方で、酸素の再吸着を遅らせる効果を生じることが予想される。このため、他の加熱方法よりも優れたキャリア電子の移動度改善効果が得られる可能性がある。
【0044】
本発明において、大気中での加熱後、成膜面温度が280℃に達した後の冷却条件は特に限定されない。たとえば、成膜面温度が280℃に達した後の冷却速度は特に限定されず、該成膜面温度が常温となるまで、急冷したり、放冷してもよい。
【0045】
本発明では、大気中で熱処理を行うため、フッ素ドープ錫膜の熱処理に一般的なトンネル炉を用いることができる。トンネル炉を用いることにより、CVD法を用いたフッ素ドープ錫膜の形成、成膜面温度が280℃以下になるまで冷却する手順、大気中での熱処理、および、成膜面温度が280℃に達した後の冷却手順を、連続して実施できることが可能となる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1〜22、比較例1〜15)
本実施例では、基体として、ソーダライムシリケートガラス製の基体(30cm×40cm×1mm)を用意し、十分に洗浄を行った後、該基体上にアルカリバリア層として、32nmの層厚のSiO2層を下記手順で形成した。
基体をベルトコンベア炉中で、予め成膜面温度が500℃になるように加熱した。
ここで、成膜面温度は、成膜面上に配したK熱電対(線径φ0.2mm)により測定した(以下、同様)。
一定方向に移動する基体に対して、毎分0.1Lのシランガスと毎分5Lの酸素ガスを基体の成膜面に吹き付けてSiO2層を形成させた。
次に、下記手順で0.5μmの層厚のフッ素ドープ酸化錫膜を形成した。
さらに、SiO2層が形成された基体を、成膜面温度が520℃になるように加熱して、四塩化錫、水およびフッ化水素を同時に含有するガスを吹き付けて、フッ素が3.5mol%ドープされたフッ素ドープ酸化錫膜を形成させた。ここで、四塩化錫を45℃に保持したバブラータンクに入れ、ボンベから窒素を導入して気化させた。水は100℃以上に保持したボイラーから供給した。フッ化水素ガスは、40℃に加熱したボンベから気化させた。これらを混合したガスを2つのインジェクターを利用して、基体の移動方向に対して上流側と下流側の2個所で吹き付けた。四塩化錫と水との混合比は、上流側の第1のインジェクタでは四塩化錫:水=1:20であり、下流側の第2のインジェクタでは、四塩化錫:水=1:100とした。
フッ素ドープ酸化錫膜の形成後、成膜面温度が280℃以下になるまで放冷した後、成膜面温度が表に記載の最高温度になるまで赤外線加熱ランプを用いて、大気中で加熱した後、成膜面温度が280℃になるまで冷却した。昇温時および降温時の積分温度値を下記表に示した。
なお、表中、成膜面の最高温度を含む温度域での積分温度値は、当該温度域の下限から成膜面の最高温度までの温度域での積分温度値である。
成膜面温度が280℃に達した後は、成膜面温度が常温になるまで放冷し、フッ素ドープ酸化錫膜におけるキャリア電子の移動度をVan der Pauw法を用いたホール効果測定装置で測定した。結果を下記表に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を280〜540℃の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、大気中での加熱時において、フッ素ドープ酸化錫膜から酸素の脱離が起こり、かつ、該フッ素ドープ酸化錫膜への酸素の再吸着が起こらないように、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値を設定することを特徴とするフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。
【請求項2】
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を280〜300℃の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が、20,000〜10,000,000℃/秒を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とする、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。
【請求項3】
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が、500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を300℃超320℃以下の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が15,000〜250,000℃/秒、かつ、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜1,500,000℃/秒を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とする、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。
【請求項4】
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を320℃超350℃以下の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜320℃の温度域における積分温度値が100〜200,000℃/秒、320℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が100〜200,000℃/秒、かつ、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜1,500,000℃/秒を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とする、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。
【請求項5】
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を350℃超390℃以下の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜320℃の温度域における積分温度値が100〜200,000℃/秒、320〜350℃の温度域における積分温度値が100〜200,000℃/秒、350℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が1,000〜150,000℃/秒、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜600,000℃/秒、かつ、前記成膜面の最高到達温度における保持時間が5分以内を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とする、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。
【請求項6】
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を390℃超450℃以下の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜350℃の温度域における積分温度値が100〜60,000℃/秒、350〜390℃の温度域における積分温度値が100〜40,000℃/秒、390℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が500〜20,000℃/秒、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜500,000℃/秒、かつ、前記成膜面の最高到達温度における保持時間が5分以内を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とする、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。
【請求項7】
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を450℃超500℃以下の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜350℃の温度域における積分温度値が100〜60,000℃/秒、350〜390℃の温度域における積分温度値が100〜40,000℃/秒、390〜450℃の温度域における積分温度値が100〜20,000℃/秒、450℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が500〜10,000℃/秒、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜300,000℃/秒、かつ、前記成膜面の最高到達温度における保持時間が5分以内を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とする、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。
【請求項8】
フッ素ドープ酸化錫膜を形成する基体表面の温度(成膜面温度)が500℃以上となる条件で、CVD法を用いてフッ素ドープ酸化錫膜を該基体上に形成し、該成膜面温度が280℃以下になるまで冷却した後、該成膜面温度を500℃超540℃以下の温度域に大気中で加熱した後、該成膜面温度を280℃以下に冷却するフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法であって、280〜300℃の温度域における積分温度値が100〜300,000℃/秒、300〜350℃の温度域における積分温度値が100〜60,000℃/秒、350〜390℃の温度域における積分温度値が100〜40,000℃/秒、390〜450℃の温度域における積分温度値が100〜20,000℃/秒、450〜500℃の温度域における積分温度値が100〜10,000℃/秒、500℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における積分温度値が500〜10,000℃/秒、280℃と該成膜面の最高到達温度との間の温度域における合計積分温度値が20,000〜300,000℃/秒、かつ、前記成膜面の最高到達温度における保持時間が5分以内を満たすように、前記大気中での加熱を実施することを特徴とする、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化錫膜の形成方法。

【公開番号】特開2013−49912(P2013−49912A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189479(P2011−189479)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】