金属塩化物ガスの発生装置および金属塩化物ガスの発生方法、並びに、ハイドライド気相成長装置、窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイス、窒化物半導体発光ダイオード用ウエハ、窒化物半導体自立基板の製造方法および窒化物半導体結晶
【課題】金属塩化物ガス濃度の安定性の向上と金属塩化物ガスの濃度変化の応答性の向上が図れる金属塩化物ガスの発生装置を提供する。
【解決手段】金属原料Mを収容する原料容器1と、原料容器1内に塩素系ガスを含む塩素系含有ガスG1を供給する、原料容器1に設けられたガス供給口2と、塩素系含有ガスG1に含まれる塩素系ガスと金属原料Mとの反応により生成される金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスG2を原料容器1外に排出する、原料容器1に設けられたガス排出口2と、原料容器1内の金属原料Mの上方の空間Sを仕切って、ガス供給口2からガス排出口3へと続くガス流路Pを形成する仕切板6とを備え、ガス流路Pは、ガス供給口2からガス排出口3へと至る一通りの経路Rとなるように形成され、ガス流路Pの水平方向の流路幅Wが5cm以下であり、且つガス流路Pには屈曲部Eを有する金属塩化物ガスの発生装置である。
【解決手段】金属原料Mを収容する原料容器1と、原料容器1内に塩素系ガスを含む塩素系含有ガスG1を供給する、原料容器1に設けられたガス供給口2と、塩素系含有ガスG1に含まれる塩素系ガスと金属原料Mとの反応により生成される金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスG2を原料容器1外に排出する、原料容器1に設けられたガス排出口2と、原料容器1内の金属原料Mの上方の空間Sを仕切って、ガス供給口2からガス排出口3へと続くガス流路Pを形成する仕切板6とを備え、ガス流路Pは、ガス供給口2からガス排出口3へと至る一通りの経路Rとなるように形成され、ガス流路Pの水平方向の流路幅Wが5cm以下であり、且つガス流路Pには屈曲部Eを有する金属塩化物ガスの発生装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属塩化物ガスの発生装置とこれを用いた金属塩化物ガスの発生方法およびハイドライド気相成長装置、並びに、窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイス、窒化物半導体発光ダイオード用ウエハ、窒化物半導体自立基板の製造方法および窒化物半導体結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN、AlGaN、GaInNなどの窒化物系化合物半導体は、赤色から紫外の発光が可能な発光素子材料として注目を集めている。これらの窒化物半導体材料の結晶成長法の一つに、金属塩化物ガスとアンモニア(NH3)を原料とするハイドライド気相成長法(HVPE法)がある。HVPE法の特徴としては、有機金属気相成長法(MOVPE法)や分子線エピタキシー法(MBE法)などの他の結晶成長法で典型的な1μm/hr程度の成長速度と比較して、格段に大きな10μm/hr以上或いは100μm/hr以上
の成長速度が得られる点が挙げられる。このため、GaN自立基板やAlN自立基板の製造に良く用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、窒化物半導体からなる発光ダイオード(LED)は、通常サファイア基板上に形成され、窒化物半導体の結晶成長に際しては、基板の表面にバッファ層を形成したのちに、その上にn型クラッド層を含む10μm弱の厚いGaN層を成長し、その上にInGaN/GaN多重量子井戸の発光層(合計で数100nm厚)およびp型クラッド層(20
0〜500nm厚)の順に成長が行われる。発光層の下側のGaN層が厚いのは、サファイア基板上のGaNの結晶性を改善するなどのためである。その後、電極形成などを行い最終的には図15のようなLED素子構造が形成される。MOVPEによってサファイア基板上にLED用の窒化物半導体結晶を成長する場合、結晶成長工程は典型的には6時間程度の時間を要するが、このうちの半分程度は発光層の下側のGaN層を成長するために必要な時間である。
【0004】
このサファイア基板上に厚いGaN膜を成長した部分をテンプレートと呼ぶが、このテンプレートのGaN厚膜の成長に成長速度の格段に速いHVPE法を適用できれば、大幅な成長時間の短縮が可能となり、LEDウエハの製造コストを劇的に低減することが可能となる。
【0005】
HVPE法の欠点としては、成長ごとに成長速度が変化する点と、急峻な原料ガスのOn/Off制御が難しい点が挙げられる。これらの欠点は、HVPE装置の構造自体に起因するものであるため、これまで完全な解決策は得られておらず、窒化物半導体自立基板の製造上、あるいは、テンプレートの製造上の課題となっている。
【0006】
HVPE装置の典型的な構造を図19に示す。HVPE装置は、窒化物半導体の結晶成長を行う反応容器20を備え、反応容器20内には、GaCl等の金属塩化物ガスを発生する発生装置の原料容器(金属保管容器)100が設けられている。原料部ヒータ21により加熱される原料容器100内には、Ga、In、AlなどのIII族の金属原料Mが収
容され、原料容器100には、HClガスなどの塩素系ガスを含む塩素系含有ガスG1を供給する塩素系ガス供給管4が接続されている。塩素系ガス供給管4から原料容器100内に供給された塩素系ガスと金属原料Mとの反応により、原料容器100内には金属塩化物ガスが生成される。生成された金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスG2は、原料
容器100に接続された金属塩化物ガス排出管5から導出され、反応容器20内の成長部ヒータ22により加熱される成長部に設置された基板(ウエハ)25へと送られる。また、反応容器20には、V族原料のアンモニアガス(NH3ガス)を含むNH3含有ガスG3を供給するNH3ガス供給管23と、ドーピング原料ガスを含むドーピング原料含有ガスG4を供給するドーピング原料ガス供給管24とが設けられている。基板25へと送られてきた金属塩化物ガス排出管5からの金属塩化物ガスと、NH3ガス供給管23からのNH3ガスとが反応して、基板25にIII族窒化物半導体結晶が成長する。
【0007】
原料容器100は、供給された全ての塩素系ガスが金属塩化物ガスに変換されるように、金属原料Mの表面積(ないし液面)を広くして塩素系ガスとの接触面積が大きくなるようにボート形状のものが一般に用いられる。一方、NH3ガス供給管23やドーピング原料ガス供給管24は単なる細い管が一般に用いられる。
【0008】
HVPE法では成長を繰り返すと成長速度が低下してしまうという欠点を改善するための技術が特許文献2に提案されている。特許文献2には、HVPE装置の原料容器に収容された液体状態の金属原料と塩素系ガスとの距離を概ね一定に保つために、原料容器に収容された金属原料の量に応じて原料容器の設定角度などを調整できる構造が記載されている。更に、原料容器の内部をガスが通過する空間の形状を概ね一定にするために、原料容器に収容された金属原料の量に応じて特定形状の原料容器の設定角度などを調整できる構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3886341号公報
【特許文献2】特開2006−120857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
反応容器の成長部に供給されるガスに含まれる金属塩化物ガスの濃度は、原料容器内に供給される塩素系ガスの流量、原料容器内のガスの流れ方(経路、流速など)、原料容器内の温度などにより決定される。
例えば、ある窒化物半導体の成長において金属原料を消費した場合には、次の成長では原料容器内の金属原料上方の空間の体積が前回の成長時よりも大きくなるということが生じる。従来のHVPE装置に用いられる金属塩化物ガスの発生装置の原料容器は、金属塩化物ガスの発生効率が、原料容器内の金属原料上方の空間の体積に依存する場合がほとんどであったため、成長を繰り返すごとに上記体積が大きくなって金属塩化物ガスの発生量が低下し、反応容器の成長部における成長速度が低下するという事態が生じていた。これが、HVPE法において成長速度が安定しない原因である。
【0011】
この成長速度の不安定性は、特に、1回の成長で大量の金属を消費する窒化物半導体自立基板の製造においては非常な困難をもたらす。すなわち、自立基板となる窒化物半導体の成長中に、徐々に成長速度が低下していくため、所望の膜厚を得ることが困難になるのである。また、例えばサファイア基板上にGaN厚膜を成長した、いわゆるテンプレートを製造する場合にも、この成長速度の不安定性は困難をもたらす。この場合には、1回の成長での金属消費量が少ないため、数回程度の成長では成長速度が変化することは無い。しかし、数100回〜数1000回も成長を繰り返す、テンプレートの量産においては、いつのまにか成長速度が低下し、規定のGaN膜厚に満たないテンプレートとなってしまったり、成長速度の低下に伴いテンプレートの特性(特に、転位密度、シート抵抗)が劣化するということが発生する。
【0012】
また、原料容器内のガスの流路がある程度の面積、体積を有するため、原料容器に導入する塩素系ガスの濃度を変えたとしても、原料容器内部のガスの濃度は徐々にしか変化せず、原料容器から導出されて成長部に供給される金属塩化物ガスの濃度も数10秒〜数分の時間(遷移時間)をかけて徐々に変化するという挙動を示す。このため、従来のHVPE法においては急に成長を開始したり停止したり、あるいは、急に成長速度を変えたり、または、急峻なヘテロ界面を形成するということはできなかった。
【0013】
サファイア基板上にHVPE法によりGaN膜を成長し、テンプレートを形成する場合を例として考える。この場合、GaN膜の最上層はn型のGaNであり、成長の最終段階としてはドーピングしつつGaN層を成長している状況、つまり、HClガス、NH3ガス、ドーピング原料の全てがキャリアガス(水素、窒素など)と共に供給されている状態である。この状況から、HClガスを供給するIII族ラインとドーピング原料を供給する
ドーピングラインへの原料供給を止め、キャリアガスのみとして、GaNの成長を終える場合を考える。アンモニア以外の原料の供給を止めると、基板表面に供給されるドーピング原料は1秒以内に濃度が0(ゼロ)となるが、GaClガスについては、すぐには供給が止まらず徐々に濃度が減っていき、数10秒〜数分の遷移時間をかけて濃度が0となる。すなわち、成長を止めたと思った時点には、実際にはドーピング原料の供給だけが止まり、アンドープに近い低キャリア濃度のGaN層がテンプレートの表面に形成されてしまう。
ドーピングラインは一般的に細い管(1/4インチ管であれば6mm直径)が用いられるので、上流端から基板(ウエハ)までのガスの通過時間が1秒程度である。一方、III
族ラインでは、成長を止めたと思った時点には、原料容器内の空間に多量のGaClガスが残存しており、これを全て追い出すまではGaClの供給が完全には止まらずGaNの成長が継続するため、上記のような状況となるのである。
【0014】
もちろん、原料容器を小さくすることで、原料供給から基板へのGaClの供給が完全に停止するまでの時間を、ある程度短縮することはできる。しかし、その場合にはHClとGa金属表面の接触面積が減り、GaClの発生効率が低下してしまうというデメリットや、収容するGaの量が減るためにGaを補給する頻度が増加するというデメリットが生じるので、現実的な解決策とはなりえない。実用的な原料容器の寸法としては、Ga融液の表面積としては10cm×10cm以上のものが好ましいが、その場合には、GaCl濃度の遷移時間は、ほとんどの場合1分程度かそれ以上となってしまうのが現状である。
【0015】
テンプレート表面に、上述のような低いキャリア濃度の層が形成されると、この上にMOVPE法などにより発光層およびp型層を成長してLED構造を形成した場合、発光層の下に意図しない低キャリア濃度の層を含むことになる。図15に示すような通常構造のLED素子は、半導体層の表面から発光層35とn型層34(またはGaN層32上層のn型GaN層)の一部までをエッチングにより除去した部分にn型層への電気的な接続のための電極(n側電極)38を設ける。上記のHVPE法によるテンプレートを含むLED用ウエハにプロセスを施し、LED素子を製造する場合、上記のエッチングの深さが、もし低キャリア濃度層の深さと一致してしまうと、n側電極と低キャリア濃度のGaNとの間に電気的な障壁が形成され、LEDの駆動電圧が実用的な値(典型的には、20mA通電時の電圧として3.6V以下)を超えてしまう。
【0016】
このため、従来のHVPE法によるテンプレートを用いたLED用ウエハにプロセスを施してLED素子を製作する場合は、全てMOVPE法で製作したLED用ウエハからLED素子を製作する場合よりも、精密なエッチング深さの制御を行わないと、駆動電圧の点でLED素子の歩留が低下してしまう。しかしながら、エッチング深さを精密に制御するためには、エッチングの前に予備実験を行うこと、エッチング速度を落とすこと、など
プロセスコストの増大を招く対策が必要であり、低コスト化のためにHVPEを用いる意味がなくなってしまう。
更に、HVPE法により、テンプレート部分のみならず、その上のInGaN発光層やp型層を成長した場合にも、急峻な原料の切り替えができないために、急峻なヘテロ界面が形成できないため、HVPEを用いて製造したLEDの特性はMOVPEを用いて製造したLEDよりも劣っているのが現状である。
【0017】
本発明は、金属塩化物ガス濃度の安定性の向上と金属塩化物ガスの濃度変化の応答性の向上が図れる金属塩化物ガスの発生装置および金属塩化物ガスの発生方法を提供し、更に、この金属塩化物ガスの発生装置を用いたハイドライド気相成長装置および窒化物半導体自立基板の製造方法、並びに窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイス、窒化物半導体発光ダイオード用ウエハ、および窒化物半導体結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様は、金属原料を収容する原料容器と、前記原料容器内に塩素系ガスを含む塩素系含有ガスを供給する、前記原料容器に設けられたガス供給口と、前記塩素系含有ガスに含まれる塩素系ガスと前記金属原料との反応により生成される金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスを前記原料容器外に排出する、前記原料容器に設けられたガス排出口と、前記原料容器内の前記金属原料の上方の空間を仕切って、前記ガス供給口から前記ガス排出口へと続くガス流路を形成する仕切板とを備え、前記ガス流路は、前記ガス供給口から前記ガス排出口へと至る一通りの経路となるように形成され、前記ガス流路の水平方向の流路幅が5cm以下であり、且つ前記ガス流路には屈曲部を有することを特徴とする金属塩化物ガスの発生装置である。
【0019】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の金属塩化物ガスの発生装置において、前記屈曲部が3箇所以上に形成されている金属塩化物ガスの発生装置である。
【0020】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の金属塩化物ガスの発生装置を備えたハイドライド気相成長装置である。
【0021】
本発明の第4の態様は、第1又は第2の態様に記載の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記ガス供給口から前記ガス排出口までの前記ガス流路を流れるガスの滞在時間を5秒以上とする金属塩化物ガスの発生方法である。
【0022】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の金属塩化物ガスの発生方法において、前記金属原料がGaであり、前記塩素系含有ガスがHCl含有ガスであり、前記原料容器を700℃〜950℃に加熱し、前記金属塩化物含有ガスであるGaCl含有ガスを前記ガス排出口から排出する金属塩化物ガスの発生方法である。
【0023】
本発明の第6の態様は、金属塩化物ガスとアンモニアガスを基板に供給して前記基板上にGaN、AlN、InNまたはこれらの混晶からなる膜を形成した窒化物半導体ウエハにおいて、少なくとも前記膜の上部はキャリア濃度が4×1017〜3×1019の範囲にあって、前記膜の上部の少なくとも表面より60nmの深さから1μmまでの深さにおいては、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差σが5%以内であり、前記膜の最表面の低キャリア濃度層の厚さが60nm以下である窒化物半導体ウエハである。
【0024】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の窒化物半導体ウエハ上に半導体デバイス構造を形成した窒化物半導体デバイスである。
【0025】
本発明の第8の態様は、基板と、前記基板上にHVPE法により形成したn型窒化物半導体膜と、前記n型窒化物半導体膜上にMOVPE法により形成した窒化物半導体発光構造層とを有し、前記n型窒化物半導体膜は最表面側に60nm以下の厚さの低キャリア濃度層を備え、前記n型窒化物半導体膜の最表面側の60nmの深さから1μmまでの深さでは、キャリア濃度が4×1018〜8×1018の範囲にあって、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差が5%以内である窒化物半導体発光ダイオード用ウエハである。
【0026】
本発明の第9の態様は、第1又は第2の態様に記載の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記金属塩化物ガスの発生装置から発生した金属塩化物ガスとアンモニアガスとを基板に供給して、前記基板上に窒化物半導体膜を成長し、前記窒化物半導体膜から窒化物半導体自立基板を製造する窒化物半導体自立基板の製造方法である。
【0027】
本発明の第10の態様は、金属塩化物ガスとアンモニアガスとから形成される、GaN、AlN、InNまたはこれらの混晶を含む厚さ1000μm以上の窒化物半導体結晶からなり、前記窒化物半導体結晶の厚さ方向の不純物濃度のばらつきが±10%以下であり、且つ偏差が10%以内である窒化物半導体結晶である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、金属塩化物ガス濃度の安定性の向上と金属塩化物ガスの濃度変化の応答性の向上が図れる金属塩化物ガスの発生装置および金属塩化物ガスの発生方法を提供できる。また、本発明によれば、成長速度の安定性と金属塩化物ガスの濃度変化の急峻な制御が可能なHVPE装置を提供できる。更に、本発明によれば、窒化物半導体自立基板を生産性よく製造可能な窒化物半導体自立基板の製造方法、並びに特性に優れた歩留の高い窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイス、窒化物半導体発光ダイオード用ウエハおよび窒化物半導体結晶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属塩化物ガスの発生装置を示すもので、(a)は横断面図、(b)は側断面図である。
【図2】図1の金属塩化物ガスの発生装置を用いた本発明の一実施形態に係るHVPE装置の概略構成図である。
【図3】実施例で検討した各種の原料容器をそれぞれ示す横断面図である。
【図4】図3(b)の原料容器の側断面図である。
【図5】原料容器の仕切板の有無によるGaCl濃度の変化の様子を示すグラフである。
【図6】図3の各原料容器におけるGa深さと遅れ時間との関係を示すグラフである。
【図7】図3の各原料容器におけるGa深さと遷移時間との関係を示すグラフである。
【図8】図3の各原料容器におけるGa深さと安定時のGaCl濃度との関係を示すグラフである。
【図9】仕切板を有する各種の原料容器におけるガス流路幅と遅れ時間との関係を示すグラフである。
【図10】仕切板を有する各種の原料容器におけるガス流路幅と遷移時間との関係を示すグラフである。
【図11】仕切板を有する各種の原料容器におけるガス流路幅と安定時のGaCl濃度との関係を示すグラフである。
【図12】仕切板を有する原料容器と仕切板の無い原料容器とをそれぞれ用いたHVPE装置でテンプレートを製造したときの、テンプレート表面部のGaN膜の表面部のSi濃度分布を示すグラフである。
【図13】仕切板を有する各種の原料容器を用いたHVPE装置でテンプレートを製造したときの、原料容器の流路幅とテンプレートの低Si濃度層の厚さとの関係を示すグラフである。
【図14】仕切板を有する各種の原料容器を用いたHVPE装置でテンプレートを製造し、これらテンプレート上にLEDを作製したときの、原料容器の流路幅とLEDの歩留との関係を示すグラフである。
【図15】HVPE法により製造したテンプレートを用いて、テンプレート上に作製した窒化物半導体デバイスとしてのLED素子の一例を示す断面図である。
【図16】本発明の他の実施例にかかる金属塩化物ガスの発生装置を示す横断面図である。
【図17】本発明の他の実施例に係る金属塩化物ガスの発生装置を示す横断面図である。
【図18】本発明に係る窒化物半導体デバイスの一実施例であるショットキーバリアダイオードを示すもので、(a)は横断面図、(b)は斜視図である。
【図19】従来の金属塩化物ガスの発生装置を用いたHVPE装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、従来の原料容器(後述の実施例の図3(a)に示すような原料容器)のように、原料容器内に広い空間がありこの空間をガスが比較的自由に拡散して流れるような場合に、金属塩化物ガス濃度が不安定となり、遷移時間(金属塩化物ガス濃度が徐々に変化し、一定となるまでの時間)が長くなるという現象が顕著に現れることを見出した。そこで、上記現象を改善するために、本発明の金属塩化物ガスの発生装置では、原料容器内を仕切板で仕切ることによってガス流路を区画形成し、このガス流路をガス供給口からガス排出口へと至る概ね分岐のない一通りの経路となるように形成し、さらにガス流路の水平方向の流路幅を5cm以下とし、且つガス流路に屈曲部を設ける。これにより、金属塩化物ガス濃度の安定性と、デバイス応用に際して許容できる程度に短い遷移時間を実現することに成功した。
【0031】
以下に、本発明の一実施形態に係る金属塩化物ガスの発生装置および金属塩化物ガスの発生方法、並びに、ハイドライド気相成長装置、窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイスおよび窒化物半導体自立基板の製造方法を説明する。
【0032】
(金属塩化物ガスの発生装置)
図1は、本発明の一実施形態に係る金属塩化物ガスの発生装置を示す。図1(a)は横断面図、図1(b)は側断面図である。
【0033】
本実施形態の金属塩化物ガスの発生装置は、図1に示すように、Ga、In、AlなどのIII族の金属原料Mを収容する原料容器(金属保管室)1を備える。金属原料Mは液体
状態であっても固体状態であってもよい。例えば、原料容器1内の温度が800℃付近ではGa、In、Alともに液体となるが、500℃付近ではAlは固体のままである。なお、図1では、金属原料Mが液体状態の場合を図示している。本実施形態の原料容器1は、石英製で直方体形状の容器である。原料容器1の外側には原料容器1を高温に加熱して原料容器1内の金属原料を溶融または加熱するためのヒータ(図示せず)が設けられる。原料容器1の対向する一対の側壁7a,7cうち、一方の側壁7aには塩素系ガス(HCl、Cl2など)を含む塩素系含有ガスG1を原料容器1内に供給するガス供給口2が形成され、他方の側壁7cには、原料容器1内で生成された金属塩化物ガス(GaCl、InCl、AlCl3など)を含む金属塩化物含有ガスG2を原料容器1外に排出するガス排出口3が形成されている。ガス供給口2には塩素系ガス供給管4が接続され、また、ガ
ス排出口3には金属塩化物ガス排出管5が接続されている。
【0034】
原料容器1内には、金属原料Mの上方の空間Sを仕切って、ガス流路Pを形成する仕切板6が設けられている。本実施形態の仕切板6は、石英製の平板状のもので、図1(a)に示すように、原料容器1の天井壁8から底壁9の近くにまで延出させて形成されており、金属原料Mの上方の空間Sのみならず原料容器1内に収容された金属原料Mも仕切板6により区画され仕切られたような状態になっている。また、本実施形態の原料容器1では、図1(b)に示すように、3枚の仕切板6が、ガス供給口2、ガス排出口3が形成された側壁7a,7cに平行に、かつガス供給口2とガス排出口3との間に等間隔に設けられ、ガス流路Pの水平方向の流路幅Wが5cm以下に形成されている。3枚の仕切板6のうち、ガス供給口2側及びガス排出口3側の2枚の仕切板6は、ガス供給口2、ガス排出口3が形成されていない一対の側壁7b,7dにおいて、側壁7bから側壁7dへと延出され、また、中央の1枚の仕切板6は、側壁7dから側壁7bへと延出されている。このように、ガス供給口2からガス排出口3に向かって側壁7b,7dから互い違いに延出された3枚の仕切板6によって、原料容器1内には、ガス供給口2からガス排出口3へと蛇行したガス流路Pが形成され、このガス流路Pに沿ってガスが流れる分岐のない経路Rが形成される。また、仕切板6によって仕切られるガス流路Pには、仕切板6と側壁7bまたは側壁7dとの間のガス流路Pを含む3箇所に、ガス流路Pの屈曲部Eが形成されている。
【0035】
上記実施形態の原料容器1において仕切板6を設けない、図3(a)に示すような従来構造である原料容器では、ガス供給口から塩素系含有ガスが原料容器内に広く拡散して流れ、原料容器内の金属原料と接触して生成された金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスがガス排出口に集合されて排出される。この場合、原料容器内にはガスの滞留部や滞留領域が多く、金属塩化物ガスの発生効率が低く、また金属原料の減少に伴って金属塩化物ガス濃度の低下が大きくなり、金属塩化物ガス濃度が安定しない。更に、ある時点で原料容器内に存在する金属塩化物ガス等のガスを全て追い出すには時間(遷移時間)を要し、急速な金属塩化物ガスの濃度変化に対応できない。
【0036】
これに対し、上記実施形態の原料容器1では、原料容器1内には、仕切板6により、ガス供給口2からガス排出口3へと続くガス流路Pが形成され、原料容器1内に供給されたガスはガス供給口2からガス排出口3へと至る一通りに制限された経路Rを流れる。このため、原料容器1内にはガスの滞留部や滞留領域が少なく、ガス供給口2から供給された塩素系含有ガスは、ガス流路Pを流れる間に原料容器1内のほぼ全域の金属原料Mの表面と効率的に効果的に接触し、金属塩化物ガスの発生効率・変換効率が高く、また金属原料Mが減少しても金属塩化物ガス濃度の低下を抑えることができ、金属塩化物ガス濃度を安定化できる。さらに、水平方向の流路幅Wが5cm以下の細長いガス流路Pであるため、原料容器1内に存在するガスを短時間で効率よく追い出すことができ、金属塩化物ガスの濃度変化の遷移時間を大幅に短縮できると共に、金属塩化物ガスの発生効率・変換効率が高い。また、ガス流路Pには屈曲部Eが形成されているため、ガス流路Pの屈曲部Eで大きなガス流の乱れが生じ、塩素系ガスと金属原料Mとの反応が促進され、金属塩化物ガスの発生効率・変換効率を向上できると共に、金属原料が減少しても金属塩化物ガス濃度の安定性を向上できる。屈曲部Eにおける仕切板6と側壁7b,7dとの間隔(幅)も、流路幅Wと同様に5cm以下とするのが好ましい。なお、図1に例示する形態では、仕切板6と側壁7b,7dとの間隔(幅)を流路幅Wより狭く設定している。
【0037】
上記金属塩化物ガスの発生装置の原料容器1には、ガス流路Pの途中に屈曲部Eが少なくとも1箇所設けられるが、3箇所以上の屈曲部Eをガス流路Pに設けるのが好ましい。
また、上記の原料容器1は、10cm×10cm以上の面積を有しているのが好ましい。この場合の面積とは、原料容器1を上方から見たときの、金属原料Mが収容される原料
容器1内の金属収容部の面積(液体状の金属原料Mの場合における液面の面積)のことである。原料容器1の面積が10cm×10cmよりも小さいと、塩素系ガスと液体金属原料Mとの接触面積が減り、金属塩化物ガスの発生効率・変換効率が低下し、また金属原料の補充を頻繁に行う必要が生じる。本実施形態の原料容器1では、10cm×10cm以上の面積を有していても、金属塩化物ガスの濃度変化の遷移時間を、十分に許容できる程度に短縮できる。
【0038】
なお、上記実施形態の仕切板6は、図1(a)に示すように、原料容器1の天井壁8から底壁9の近くにまで達するが、底壁9にはつながっていない。これは、仕切板6が、原料容器1の天井壁8から底壁9まで連続してつながった状態にあると、ヒータ等の加熱により発生する応力によって原料容器1が損傷するおそれがあるからである。但し、原料容器1の損傷を防止する対策を施せば、仕切板6を原料容器1の天井壁8から底壁9まで連続してつながった状態に設けてもよい。
【0039】
(金属塩化物ガスの発生方法)
本発明の一実施形態に係る金属塩化物ガスの発生方法は、上記実施形態に代表されるような本発明の金属塩化物ガスの発生装置を用い、原料容器1のガス供給口2からガス排出口3までのガス流路Pを流れるガスの滞在時間を5秒以上とした金属塩化物ガスの発生方法である。ここでガスの滞在時間とは、原料容器1内の金属原料M上方の空間Sの体積と、ガス供給口2から原料容器1内に供給するガスの流量と、原料容器1内の温度とから計算した、理論的なガスの通過時間を意味する。
ガス流路Pを流れるガスの滞在時間を5秒以上とすると、塩素系ガスの供給を開始した後に、金属塩化物ガス濃度が一定となった安定時(最大濃度時)の金属塩化物ガス濃度が低下することを抑えることができる。
【0040】
上記の原料容器1に収容する金属原料Mとしては、Ga、In、Alのいずれかであるのが好ましい。
上記の金属塩化物ガスの発生方法において、上記金属原料MがGaの場合、上記原料容器1の温度は700〜950℃であるのが好ましく、上記ガス供給口2からHCl含有ガスを導入し、上記ガス排出口3からGaCl含有ガスを発生するのが好ましい。
上記の金属塩化物ガスの発生方法において、上記金属原料MがInの場合、上記原料容器1の温度は300〜800℃であるのが好ましく、上記ガス供給口2からHCl含有ガスを導入し、上記ガス排出口3からInCl含有ガスを発生するのが好ましい。また、上記金属原料MがInの場合、上記ガス供給口2から導入するガスはCl2含有ガスでも良い。この場合、上記原料容器1の温度は300〜800℃とし、InCl3含有ガスを発生するのが好ましい。
上記の金属塩化物ガスの発生方法において、上記金属原料MがAlの場合、上記原料容器1の温度は400〜700℃であるのが好ましく、上記ガス排出口3からHCl含有ガスを導入し、記ガス排出口3からAlCl3含有ガスを発生するのが好ましい。金属原料MがAlの場合、原料容器1内のAlは、液体状態ではなく、固体状態の場合もある。
【0041】
上記HCl含有ガスは、HClのほかに水素を含んでも良い。また、上記HCl含有ガスは、HClのほかに不活性ガスを含んでも良く、不活性ガスとしては窒素、アルゴンまたはヘリウムのいずれか、あるいはこれらの混合ガスでも良い。
【0042】
(ハイドライド気相成長装置)
図2に、本発明の一実施形態に係るハイドライド気相成長装置を示す。本実施形態に係るハイドライド気相成長装置は、上記実施形態の金属塩化物ガスの発生装置を備えたハイドライド気相成長装置である。
【0043】
ハイドライド気相成長装置は、図2に示すように、窒化物半導体の結晶成長を行う反応容器20を備える。反応容器20は金属塩化物ガスを発生する発生装置の原料容器1が設けられる原料部と、原料部からの金属塩化物ガス等の原料ガスが供給され窒化物半導体の結晶成長がなされる基板25が設置される成長部とを有する。反応容器20の原料部の外周には、原料部ヒータ21が設けられ、反応容器20の成長部の外周には、成長部ヒータ22が設けられている。反応容器20の原料部に設置される原料容器1のガス供給口には、反応容器20の側壁を貫通させて塩素系ガス供給管4が接続されている。また、原料容器1のガス排出口には金属塩化物ガス排出管5が接続され、金属塩化物ガス排出管5は成長部の基板25に向けて配置されている。反応容器20には、反応容器20の側壁を貫通させ且つ金属塩化物ガス排出管5と平行に、NH3ガス(アンモニアガス)を含むNH3含有ガスG3を供給するNH3ガス供給管23と、ドーピング原料ガスを含むドーピング原料含有ガスG4を供給するドーピング原料ガス供給管24とが設けられている。反応容器20の成長部の基板25は、サセプタ26に例えば垂直状態で保持されており、サセプタ26は支持軸27により回転可能に支持されている。塩素系ガス供給管4、NH3ガス供給管23、ドーピング原料ガス供給管24には、それぞれ図示省略の塩素系含有ガス供給ライン、NH3含有ガス供給ライン、ドーピング原料含有ガス供給ラインが接続されており、それぞれキャリアガスと共に塩素系ガス、NH3ガス、ドーピング原料ガスが供給される。また、反応容器20の成長部側の側壁には、反応容器20内のガスを排気するガス排気管28が設けられ、ガス排気管28には図示省略の排気ラインが接続されている。
【0044】
原料容器1は原料部ヒータ21により加熱される。原料容器1内には金属原料Mが収容される。塩素系ガス供給管4から供給された塩素系含有ガスG1中の塩素系ガスは、仕切板6によって形成されたガス流路Pを流れる間に金属原料Mと接触し、生成された金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスG2が金属塩化物ガス排出管5から成長部へと送られる。また、NH3ガス供給管23、ドーピング原料ガス供給管24からそれぞれNH3ガス、ドーピング原料ガスが成長部に供給される。成長部の基板25に供給された金属塩化物ガスとNH3ガスとが反応して、基板25上にIII族窒化物半導体結晶が成長する。更
に、ドーピング原料ガス供給管24からドーピング原料ガスを供給することで、基板25上に導電性のIII族窒化物半導体結晶が成長する。
【0045】
上述したように、原料容器1内は仕切板6によって仕切られて、金属原料M上方の空間Sにはガス供給口からガス排出口へと続き、流路幅Wが5cm以下と狭く、途中に屈曲部Eを有するガス流路Pが形成されている。このため、安定したガス濃度の金属塩化物ガスが金属塩化物ガス排出管5から排出され、基板25上に成長する窒化物半導体結晶の成長速度が安定したHVPE装置が得られる。また、原料容器1を用いた金属塩化物ガスの発生装置は、発生させる金属塩化物ガスの濃度を応答性よく変化させることができるため、基板25に供給される金属塩化物ガスの濃度を急速に変化させることが可能なHVPE装置が得られる。従って、従来のHVPE装置では困難であったこと、すなわち、例えば、急に窒化物半導体結晶の成長を開始したり停止したりすること、急に成長速度を変化させること、あるいは、急峻なヘテロ界面を形成することなどが可能となる。
【0046】
(窒化物半導体ウエハ)
本発明の一実施形態にかかる窒化物半導体ウエハは、金属塩化物ガスとアンモニアガスを基板に供給して前記基板上にGaN、AlN、InNまたはこれらの混晶からなる膜を形成した窒化物半導体ウエハであって、少なくとも前記膜の上部はキャリア濃度が4×1017〜3×1019の範囲にあって、前記膜の上部の少なくとも表面より60nmの深さから1μmまでの深さにおいては、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差(標準偏差)σが5%以内であり、前記膜の最表面の低キャリア濃度層の厚さが60nm以下である窒化物半導体ウエハである。
本実施形態にかかる窒化物半導体ウエハは、上記実施形態に代表されるような本発明の
HVPE装置を用いることで実現することができる。金属塩化物ガスの供給を停止してから、金属塩化物ガス濃度が徐々に変化して一定(ゼロ)となるまでの遷移時間を短縮できる上記原料容器1を用いることで、低キャリア濃度層の厚さを60nm以下にすることができる。窒化物半導体ウエハには、例えばサファイア基板上にGaN厚膜を成長した、いわゆるテンプレートが含まれる。
【0047】
(窒化物半導体デバイス)
本発明の一実施形態にかかる窒化物半導体デバイスは、上記実施形態の窒化物半導体ウエハ上に半導体機能部となる半導体積層体や電極からなる半導体デバイス構造を形成した窒化物半導体デバイスである。この窒化物半導体デバイスは、上記窒化物半導体ウエハの最表面の低キャリア濃度層が薄いため、従来のHVPE装置によって製造した窒化物半導体ウエハを用いた場合よりも、格段に歩留が高くなる。
【0048】
(窒化物半導体自立基板の製造方法)
本発明の一実施形態にかかる窒化物半導体自立基板の製造方法は、上記実施形態の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記金属塩化物の発生装置から発生した金属塩化物ガスとアンモニアガスとを基板に供給して、前記基板上にGaNなどの窒化物半導体膜を成長し、前記窒化物半導体膜から窒化物半導体自立基板を製造する窒化物半導体自立基板の製造方法である。本実施形態の窒化物半導体自立基板の製造方法によれば、上記実施形態の金属塩化物ガスの発生装置を用いることにより、成長速度を安定的に維持することができ、また、窒化物半導体自立基板の製造にかかる時間を大幅に短縮できる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
実施例1では、図2に示す構成のHVPE装置において、Gaを収容する原料容器の構造を図3(a)〜(f)に示すように様々に変更した場合に、原料容器内へのHClガスの導入をOn/Offしたときに、HVPE装置の成長部でのGaCl濃度の変化を調べた。GaCl濃度の測定は、HVPE装置の反応容器内に下流側から成長部に石英管を挿入し、この石英管から成長部のガスをHVPE装置の外に吸引し、ガスの一部をピンホールを介して四重極質量分析計に導入してGaClガスに起因する信号強度を計測するという方法で行った。
【0051】
実施例1で用いた、図3(a)〜(f)に示す原料容器1a〜1fは、図1の原料容器1と同様に直方体状の容器であり、ガス供給口2からガス排出口3までの水平方向の長さが20cm、それに垂直な水平方向の幅が10cm、高さが5cmである。これら原料容器1a〜1f内に深さ1〜3cmの範囲でGa融液を入れた。
図3(a)の原料容器1aは、原料容器1a内に仕切板が無い従来構造と同様な場合である。また、図3(b)〜(f)に示す原料容器内には様々な仕切板を設けた。図3(b)の原料容器1bは、天井壁から底壁側へと1.5cmの長さの仕切板11を、ガス供給
口2からガス排出口3の間に4枚設置した場合である。原料容器1b内には深さ1〜3cmの範囲でGa融液を入れたので、原料容器1bの側断面図である図4に示すように、Ga融液の深さに応じて、仕切板11下端とGa融液の液面との間には0.5〜2.5cmの間隙があり、この間隙をガスが流れる。
また、図3(c)〜(f)に示す原料容器1c〜1fは、図1の原料容器1と同様に、天井壁から底壁近くにまで達する仕切板6を様々な形態で設置したものである。原料容器1c、1e、1fは、図1の原料容器1と同様に、ガス供給口2、ガス排出口3が形成された側壁に平行に、且つガス供給口2とガス排出口3との間を等間隔に分ける仕切板6が
設けられている。原料容器1c、1e、1fにおいて、ガス流路の屈曲部における仕切板6と原料容器の側壁との間には、2cmの間隙を形成した。原料容器1cには1枚の仕切板6が、原料容器1eには2枚の仕切板6が、原料容器1fには5枚の仕切板6がそれぞれ設けられており、ガス流路の流路幅Wが原料容器1c、原料容器1e、原料容器1fの順番で狭くなっている。
また、図3(d)の原料容器1dは、ガス排出口3側の角部からガス供給口2側の角部へと対角線上に伸びる仕切板6が設けられた場合である。
【0052】
図2に示す構造のHVPE装置において、上流側(図の左側)より、V族ライン(NH3ガス供給管23)とドーピングライン(ドーピング原料ガス供給管24)に水素、窒素の混合ガスを流し、III族ライン(塩素系ガス供給管4)にはHClと水素、窒素の混合
ガスを原料容器に流した。III族ラインの総流量は800sccmで一定とした。
原料容器1a〜1fを用い、時刻t=0(秒)以前はIIIラインに水素・窒素の混合ガ
スのみを800sccm供給しておき、時刻t=0(秒)でIII族ラインへのHCl含有
ガス(HCl流量=50sccm、水素・窒素の混合ガス流量=750sccm)の導入を開始し、時刻t=200(秒)でHClガスの導入を終了し、再び水素・窒素の混合のみを800sccm流した。原料容器1aと原料容器1fを用いた場合のGaClに起因する信号強度(GaCl濃度)の変化を図5に示す。
【0053】
図5に示すように、原料容器1a、原料容器1fのどちらの場合にも、HCl供給をOnあるいはOffしてからGaCl濃度が変化するまでには若干の遅れがあり(遅れ時間)、またGaCl濃度が変化し始めてから、GaCl濃度が一定(最大濃度、あるいは0濃度(ゼロ濃度))になるまでにもある程度の時間(遷移時間)を要した。更に、HClの供給を開始した後に、GaCl濃度が一定となった際のGaCl濃度(安定時のGaCl濃度)も、Gaを収容する原料容器の種類により異なっていた。
【0054】
原料容器1a〜1fと遅れ時間との関係を、原料容器内のGaの深さが1、2、3cmの場合について図6に示す。また、原料容器内のGaの深さが1、2、3cmの場合に、原料容器1a〜1fと遷移時間との関係を図7に、原料容器1a〜1fと安定時(最大濃度時)のGaCl濃度との関係を図8に示す。また、これらの関係を表1にまとめて示す。
【0055】
【表1】
【0056】
まず、Gaの深さが3cmの場合について述べる。従来構造の仕切り板の無い原料容器1aの場合には、遅れ時間が4秒、遷移時間が88秒、最大濃度時(安定時)のGaCl濃度は6.7であった。なお、GaCl濃度については、導入したHClが全てGaCl
に変化した場合の値を10としており、最大濃度時のGaCl濃度が6.7である原料容
器1aの場合には、導入したHClのうち最大時でも67%しか、GaClに変化してい
ないということである。
仕切板がGa融液に達していない下開きの仕切板11を用いた原料容器1bの場合、および仕切板がGa融液中に挿入された下閉じの仕切板6を1枚設置した原料容器1cの場合には、遅れ時間が若干のび(それぞれ5秒、7秒)、遷移時間が多少減少した(それぞれ73秒、56秒)。また、最大濃度時(安定時)のGaCl濃度は上昇した(それぞれ7.2、9)。
一方、対角線配置の下閉じ仕切板6を設置した原料容器1dの場合には、遅れ時間が9秒、遷移時間が72秒、最大濃度時のGaCl濃度は、導入したHClが全てGaClに変化したとした値の10であった。
原料容器1cの場合よりも仕切板6の枚数を増やしてガス流路を細く区切った原料容器1e、1fの場合には、遅れ時間はいずれも8秒程度であったが、遷移時間が劇的に短縮し、それぞれ15秒と2秒となった。また、最大濃度時のGaCl濃度はいずれも10であった。
【0057】
原料容器内のGaの深さが減少した場合には、いずれの原料容器も遅れ時間が増大した。この場合の遅れ時間は、いずれの原料容器においても、原料容器内のGa液面上の空間の高さ(すなわち空間の体積)にほぼ比例した値であった。原料容器1a〜1dに関しては、Ga深さが小さくなると、遷移時間が増大し、安定時(最大濃度時)のGaCl濃度が低下した。これに対して、原料容器内を細いガス流路に区切った原料容器1e、1fの場合には、Ga深さが変化しても、遷移時間と安定時(最大濃度時)のGaCl濃度の変化は僅かか、あるいは、全く変化しなかった。
【0058】
表1及び図6〜図8から、原料容器1dのように極端に大きな袋小路・滞留部がある場合以外は、下閉じの仕切板6が増えて、ガスが通るガス流路の流路幅Wが細く(狭く)なればなるほど、遷移時間が短くなり、安定時のGaCl濃度が増加すると言える。また、ガス流路の流路幅Wが細くなればなるほど、Ga深さが減少した場合の、遷移時間の増加および安定時のGaCl濃度の低下を抑制できる傾向にある。
【0059】
以上の結果より、原料容器1aや原料容器1bのように、ガスが原料容器内の比較的自由な広い空間を流れる場合や、原料容器1dのように原料容器内に大きな袋小路や滞留部が有る場合には、遷移時間が長くなるということが言える。
また、特に原料容器1c、1e、1fのように、原料容器内のガス流路が概ね分岐の無い1通りに限定するように下閉じの仕切板を設置し、更に、仕切板を増やしてガス流路の流路幅を狭くしていくと、遷移時間が減少し、安定時のGaCl濃度が増加し、更に遷移時間および安定時のGaCl濃度に対するGa深さの影響を抑制できると言える。
【0060】
上記の考えを確かめるために、原料容器1c、1e、1fのように、下閉じの仕切板で原料容器内のガス流路を概ね分岐の無い蛇行した1通りに限定した原料容器を作製し、これら原料容器の仕切板の数を1枚〜9枚と変えて、ガス流路の流路幅Wを10cm〜2cmとした場合について、上記と同様にGaCl濃度を調べた。結果を表2と図9〜図11に示す。原料容器内のGaの深さが1、2、3cmの場合について、ガス流路の流路幅と遅れ時間との関係を図9に、ガス流路の流路幅と遷移時間との関係を図10に、ガス流路の流路幅と安定時(最大濃度時)のGaCl濃度との関係を図11にそれぞれ示す。流路幅10cmの原料容器が上記の原料容器1cの場合であり、流路幅6.7cmの原料容器
が上記の原料容器1eの場合であり、流路幅3.3cmの原料容器が上記の原料容器1f
の場合である。
表2及び図9〜図11により、予想した通りに、ガス流路の幅が広い場合には、遷移時間が長く、安定時(最大濃度時)のGaCl濃度が低く、かつ、これらに対するGa深さの影響が大きいことが確認された。また、ガス流路の幅を狭めていくと、遷移時間が短くなり、安定時(最大濃度時)のGaCl濃度が上昇し、更に、これらに対するGa深さの
影響が小さくなることも確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
特に、ガス流路の流路幅Wが5cm以下(仕切板の数が3つ以上)の場合には、Ga深さが1cmと小さい場合、すなわち、空間Sが最も広い場合でも、遷移時間はわずか9秒であり、安定時のGaCl濃度はHClが完全にGaClに変化した場合の値10であった。
一方、遅れ時間に関しては、ガス流路の流路幅Wを狭くした場合に増大する傾向が見られた。これは、ガス流路の流路幅が広い場合に存在した、原料容器内をショートカットしてガスが流れる経路が、新たに追加された仕切り板により断ち切られた効果である。ガス流路の流路幅を狭くした場合に、遅れ時間が長くなることは実用上問題があるようにも思われるが、図9に見られるように成長時のGa深さから遅れ時間を推測できるために、遅れ時間が安定してさえいれば、実用上の深刻な問題とはならない。
【0063】
上記の結果から、流れ方向に垂直なガス流路の流路幅を5cm以下とすることが、遷移時間を短くし、かつ、安定時のGaCl濃度を10(100%の変換)とし、更にこれらに対するGa深さの影響を抑制するために重要と思われる。
安定時のGaCl濃度が10の場合に、GaCl濃度に対するGa深さの影響が小さくなるのは、HClのGaClへの変換効率が100%となっているためである。Ga深さが変わると、原料容器内のガスの流れも変化する。このため、変換効率が100%以下の場合には、Ga深さが安定時のGaCl濃度に影響するのであるが、変換効率が100%という状況であれば、100%以上の変換効率はありえないために、Ga深さの変化がGaCl濃度に影響しなくなるのである。
【0064】
図3(a)と類似の仕切板を用いない原料容器の構造で、原料容器内のガスの流れ方向に垂直な幅を5cm以下と細長くすることも可能である。実際にそのような原料容器を製作し、ガス供給口からガス排出口までの長さを60cmと大きくして、上記と同様の実験を行った。しかし、この場合には、遷移時間は予想通り7〜10秒と短くなったものの、安定時のGaCl濃度は最良の場合でも8.5程度に留まった。この結果は、図3の原料
容器1c、1e、1fなどに存在する、ガス流路の屈曲部がGaCl濃度の増大に寄与していることを示している。
すなわち、ガスを5cm以下の狭い流路幅の流路に流すことで、原料容器内に高速のガス流が生じる。また、この高速のガス流が屈曲部を通ることで、大きなガス流の乱れが生じ、これがHClと金属Gaとの反応を促進し、安定時のGaCl濃度の増大と、Ga深さのGaCl濃度への影響とを抑制することが考えられる。また、流路幅5cmの原料容器は、仕切板の数が3枚の場合に相当することから、ガス流路の屈曲部の数としては3箇所以上が好ましいということも言える。
【0065】
以上の結果をまとめると、遷移時間を短くし、かつ、安定時のGaCl濃度を10(100%の変換)とし、更に遷移時間及び安定時のGaCl濃度に対する原料容器内のGa深さの影響を抑制するためには、原料容器内のガス流路を概ね分岐の無い1通りに限定し、流れ方向に垂直なガス流路の流路幅を5cm以下とし、更に、そのガス流路に3箇所以上の屈曲を持たせることが有効な手段であると言える。
【0066】
(実施例2)
次に実施例1と同様の実験を、原料容器内に導入するガスの総流量を100〜2000sccmの間で変えて行った。この場合、添加するHClは50sccmで固定し、水素・窒素の混合ガスの流量により総流量を調整した。
総流量が100sccm以上、1300sccm未満の場合には、実施例1と同様の結果が得られた。総流量が1300sccm以上の場合には、遷移時間については実施例1と同様の結果が得られたものの、安定時のGaCl濃度は実施例1の場合よりも低下し、HClからGaClへの変換効率は最良の場合でも90%程度しか得られなかった。
総流量を1300sccm以上とした場合には、原料容器へ導入したガスがその内部に留まっている時間(滞在時間)は計算上5秒未満と非常に短いものとなる。このことから、原料容器への総流量を大きくしすぎた場合には、滞在時間が短くなり、導入したHClが完全に反応しないうちに外に出てしまうため、HClからGaClへの変換効率が低下するものと考えられる。
【0067】
(実施例3)
次に、実施例2と同様の実験を、原料容器のサイズを変えて行った。
原料容器のサイズが大きい場合には、上記混合ガスの総流量が1300sccm以上であっても、ガスの滞在時間が5秒以上の場合には実施例1と同様の結果が得られた。しかし、原料容器のサイズを小さくして、ガスの滞在時間が5秒未満となると、安定時のGaCl濃度が低下した。これも、実施例2と同様に、原料容器内のガスの滞在時間が短い場合には、導入したHClが完全にGaClに変化できないためと考えられる。
以上の実施例2及び実施例3の結果は、本発明の金属塩化物ガスの発生装置を用いる際の好適な適用範囲を規定する。すなわち、原料容器へのガス流量が大き過ぎる場合やサイズが小さ過ぎる原料容器の場合には、本発明の金属塩化物ガスの発生装置は適しておらず、原料容器内のガスの滞在時間が5秒以上となる、ガス流量および原料容器の大きさの場合に好適であると言える。
【0068】
(実施例4)
次に、実施例1で用いた図3に示す様々な形態の原料容器1a〜1fを備えた、図2に示す構造のHVPE装置を用いて、基板上にGaNバッファ層、アンドープGaN層、n型GaN層を順次積層し、テンプレートを製作した。
基板としては、2〜6インチ径のサファイア基板で、表面がC面からA軸方向に0.3
度傾いたものを用いた。このサファイア基板をHVPE装置に導入し、原料容器の温度を850℃、成長部の温度を1100℃として基板の水素クリーニングを行った。その後、成長部の温度を600℃としてGaNバッファ層を30nm成長し、次に成長部の温度を1100℃としてアンドープGaN層を6μmとn型GaN層を2μm成長してテンプレートを完成した。
GaNバッファ層の成長時には、III族ラインにHClを10sccm、水素・窒素の
混合ガスを790sccm流し、ドーピングラインには窒素ガスを1slm流し、V族ラインにはNH3を1slm、水素・窒素の混合ガスを2slm流した。これにより、200nm/分の成長速度でアンドープのGaNバッファ層を成長した。
一方、1100℃での成長においては、III族ラインにHClを50sccm、水素・
窒素の混合ガスを750sccm流し、ドーピングラインには、アンドープGaN層の成長時は窒素ガスを1slm流し、n型GaN層の成長時はジクロロシランとHCl50s
ccmを窒素キャリアガスと合計で1slm流し、V族ラインにはNH3を1slm、水素・窒素の混合ガスを2slm流した。これにより、1μm/分の成長速度でGaN層を成長した。
【0069】
また、成長実験は、実施例1で調べた遅れ時間を加味して行った。すなわち、n型GaN層の成長終了に際しては、まずHClガスをOffとして、その後、あらかじめ測定した遅れ時間が経過した後に、ジクロロシランをOffとした。このようにすることで、遅れ時間に起因したアンドープ層が成長しないようにした。しかしながら、この場合にも遷移時間内には成長領域にGaClが供給されるため、これに起因したアンドープ層が成長するため、得られたテンプレートの表面にはその遷移時間に対応する厚さの低Siドープ層が形成される。
【0070】
成長により得られたテンプレートのGaN膜はいずれも平坦な表面と、0.5〜8×1
08/cm2程度の転位密度を有していた。しかしながら、原料容器の違いにより、GaN膜の表面近傍のSi濃度分布は異なるものとなっていた。図12は図3(a)、(f)に示す原料容器1a、1fを用いて成長したテンプレートのGaN表面近傍の不純物(Si)濃度分布をSIMSにより調べた結果である。いずれの場合も、結晶の表面から遠い位置では7×1018/cm3程度の一定のSi濃度となっている。しかし、図3(a)の何も仕切り板の無い原料容器1aを用いた場合には、GaN膜の表面から700nm程度にわたってSi濃度が低下しており、最もSi濃度が低下している位置ではSi濃度は1×1017/cm3程度にまで低下していた。一方、図3(f)の原料容器1fを用いた場合には、GaN膜の表面でSi濃度が低下している厚さは僅か17nmであり、また、キャリア濃度の最小値も5.5×1018/cm3程度と僅かの減少に留まっていた。
本実施例では、17nmより深い箇所においては、キャリア濃度の平均は7.0×10
18/cm3であり、キャリア濃度はキャリア濃度の平均値から±10%以内であった。また、偏差(標準偏差)σを計算したところ、5%内に制御できていた。
次に、ターゲットとするキャリア濃度を4×1017/cm3〜3×1019/cm3まで変更し、試料作製を繰り返し実施した。そして、全ての試料において、目標のキャリア濃度(平均から±10%以内)、かつキャリア濃度の偏差σを5%以下に制御することができた。供給するSi原料(ジクロロシラン)の量を変化させ気相成長中のSi原料濃度を変化させたところ、ターゲットとするGaN膜中のキャリア濃度を上記17乗台から19乗台としても、原料の変化量に応じて安定的にキャリア濃度の調整をすることができた。また、遷移時間の調整・制御が可能になるので、表面の低Siドープ層の厚さを制御することができた。
【0071】
(実施例5−1)
次に、実施例4で製作した最表面に薄い低Si濃度層を有するテンプレートを用いて、窒化物半導体デバイスとして青色のLED素子を作製した。
【0072】
LED素子を作製に先だって、まず、表2に示すガス流路の流路幅を2〜10cmの範囲で変えた原料容器を用いて製作したテンプレートに対する同様の実験を行った。その結果を図13に示す。図13に示すように、ガス流路の流路幅の減少に伴い、低Si濃度層の厚さを薄くできることが確認された。また同時に、低Si濃度層内の最低Si濃度も、低Si濃度層厚の減少に伴い増加した。
低Si濃度層厚とSiの最低濃度は、それぞれ流路幅10cmの原料容器1cでは470nmと8.4×1017/cm3、流路幅6.7cmの原料容器1eでは130nmと1.2×1018/cm3、流路幅5cmの原料容器では60nmと4.0×1018/cm3、流路幅4cmの原料容器では48nmと4.7×1018/cm3、流路幅3.3cmの原料容器1fでは17nmと5.5×1018/cm3、流路幅2cmの原料容器では
10nmと6.0×1018/cm3であった。
【0073】
次に、ガス流路の流路幅2〜10cmの原料容器を用いて、実施例4で製作したテンプレートを、MOVPE装置に設置し、図15に示すように、テンプレート33上に青色LED構造の半導体層を成長した。テンプレート33は、サファイア基板30上に、GaNバッファ層31と、下層のアンドープGaN層及び上層のn型GaN層からなるGaN層32とが積層されたものである。MOVPE装置を用いたLED構造の半導体層の成長手順を次に説明する。
まず、300Torrの圧力下で、水素、窒素、アンモニアを流しつつテンプレート33の温度を1050℃に昇温する。その後、Ga原料としてトリメチルガリウム(TMG)とともにn型ドーパントとしてシランガスをMOVPE装置に導入し、2μm/時の成長速度で1μmのn型GaN層34を成長した。n型GaN層34のキャリア濃度は、5×1018/cm3であった。
n型GaN層34の成長に引き続き、成長温度は700℃として、窒素、アンモニアガスを流しつつ、6ペアのInGaN/GaN多重量子井戸層35(InGaNの厚さ2nm、GaNの厚さ15nm)を成長した。その上には、成長温度1000℃で、厚さ50nmのp型AlGaN層36(Al組成=0.15)およびp型GaNコンタクト層37
(厚さ=0.3μm、キャリア濃度=5×1017/cm3)を成長した。Ga原料とし
てトリメチルガリウム(TMG)、In原料としてトリメチルインジウム(TMI)、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)、p型ドーパントとしてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
上記の積層構造成長後に、基板温度を室温付近に下げ、基板をMOVPE装置より取出した。その後、得られた基板表面の半導体層をRIE(Reactive Ion Etching)により部分的にエッチング除去し、n型GaN層34(またはGaN層32上層のn型GaN層)の一部を露出させてTi/Alのn側電極38を形成した。さらにp型GaNコンタクト層37上にNi/Au半透明電極およびp電極パッド39を形成して、図15に示す構造の青色LEDを作製した。
【0074】
表2に示す流路幅を異にする各原料容器を用いて製作したテンプレートをそれぞれ30枚ずつ準備し、テンプレート上に上記MOVPE成長及び電極形成を行ってLEDを製作し、ウエハ全面から1万個ずつのLED素子を選択し、LED素子の特性を調べた。発光波長はいずれも440〜475nmとほぼ一定であった。また、20mA通電時の光出力は4〜6mWであり、駆動電圧は3.4〜5Vの間であった。このうち、駆動電圧が実用
レベルにある3.6V以下のLED素子を合格とし、これより大きい駆動電圧の素子を不
合格として各GaN膜におけるLEDの歩留を調べた結果を図14に示す。
【0075】
表2の各原料容器を用いて製作したテンプレートにより作製したLED素子のうち、ガス流路の幅が5cm以下の原料容器を用いた場合には、歩留が80%以上であったが、ガス流路の幅が5cmよりも広くなると、歩留は80%未満に低下している。サファイア基板上に全てMOVPE成長で上記と同様のLED構造を成長した場合の歩留は81%であったので、HVPE成長のテンプレートを用いた上記LEDにおいて、従来の全てMOVPEで半導体層を作製したLEDと同等の歩留を得るためには、ガス流路の幅を5cm以下にし、図13に示したようにテンプレート表面の低Si濃度層の厚さを60nm以下とする必要があるということが言える。
【0076】
上記の歩留低下の原因は、テンプレート表面の低Si濃度層の存在と、n側電極38の形成のために行ったRIEによるエッチング深さのふらつきによる。先に述べたようにガス流路の幅が5cmより大きい場合には、テンプレート表面の低キャリア濃度層が厚くなり、また、その層の最小キャリア濃度も小さくなる。上記のエッチングにおけるエッチング深さはMOVPE成長のn型GaN層34に十分届く深さとして1μmを狙ったが、生産性向上のためにRIEの反応室全体(直径200mm)にウエハを敷き詰めるため、反
応室の中心と端でのエッチング速度の違い(1〜1.6μm/hr)が生じる影響で、エ
ッチングにより表れたn側電極38を形成する面が上述のテンプレート表面の低Si濃度層になる場合があり、低Si濃度層が厚い場合には、エッチングによるn側電極の形成面が低Si濃度層となる割合が増えるとともに、低Si濃度層のSi濃度自体が低いためにコンタクト抵抗が上昇し、歩留が低下したのである。
【0077】
上述の80%以上という高い歩留のLEDを、HVPE法によるテンプレートを用いて実現するためには、本発明の金属塩化物ガスの発生装置が不可欠であった。すなわち、本発明の金属塩化物ガスの発生装置を備えたHVPE装置により作製されたテンプレート(テンプレートの最上部が導電型を制御する不純物を含む膜であり、上記不純物濃度が、少なくとも表面から60nmの深さから1μmの深さまでは概ね一定であり、最表面の低不純物濃度層の厚さが60nm以下であるHVPE法によるテンプレート)を用いることで、全てMOVPE法でサファイア基板上に半導体層を形成したLEDと同等の歩留を、HVPE法によるテンプレートを用いて初めて実現できたのである。
【0078】
(実施例5−2)
上記の最表面に薄い低キャリア濃度層を有する窒化物半導体ウエハを用いて、窒化物半導体デバイスとしてショットキーバリアダイオード(SBD)を作製した。SBDの場合、最表面のキャリア濃度が高すぎるとダイオードの逆リーク電流が増え、一方、最表面のキャリア濃度が低すぎるとオーミック抵抗が増えるので、最表面のキャリア濃度は厳密に制御することが必要である。SBDでは、最表面の低キャリア濃度層を60nm以下、好ましくは20nm以下に形成するとよい。本発明では、GaN層中だけでなく、表面近傍の濃度制御も可能なので、SBDの形成にも好適である。
図18に、作製したショットキーバリアダイオード(SBD)41を示す。SBD41は、まず、サファイア基板42上に、本発明のHVPE装置を用いて、n型GaN層(厚さ5〜8μm、キャリア濃度4×1017/cm3)43を形成した窒化物半導体ウエハを作製し、この窒化物半導体ウエハのn型GaN層43上にオーミック電極44とショットキー電極45を形成したものである。この実施例では、n型GaN層43上の中央にショットキー電極45を形成し、ショットキー電極45を囲むようにその外周にオーミック電極44を形成した。本発明のHVPE装置、製法を採用することで、n−GaN層43におけるキャリア濃度分布を、キャリア濃度の平均値から±10%以内、且つ偏差を5%以内で、最表面の低キャリア濃度層を20nm以下に制御することができ、良好な特性のSBDが得られた。
【0079】
(実施例6)
実施例4、5と同様の実験を、原料容器の温度を700〜950℃の間で行ったところ、実施例4,5と同様の結果を得た。
原料容器の温度が700℃未満の場合には、安定時のGaClの濃度が減少し、これに伴いHVPE装置の成長部におけるGaN層の成長速度が低下した。また、GaN層の転位密度も増加した。これらは、原料容器の温度が低すぎたために未反応のHClが発生したためと思われる。一方、原料容器の温度が950℃よりも高い場合には、安定時のGaCl濃度は高い値を維持したが、成長したGaN表面に点状の異常部が高密度に発生し、LEDを成長可能なテンプレートとならなかった。この場合、原料容器の温度が高いため、GaClと同時に蒸気状態のGaも成長部に運ばれ、成長中のGaN表面にGa液滴が発生し、これが核となり異常成長が発生したものと思われる。
【0080】
(実施例7)
実施例1〜実施例4と同様であるが、GaをInに変えて、Inを収容する原料容器の温度を300〜800℃の間とし、発生したInClガスを用い、成長部の温度を500℃としてInNテンプレートを製作したところ、実施例4と同様の結果をえた。
原料容器の温度が300℃未満の場合と、800℃より高い場合には、実施例6と同様に、成長速度の低下と転位密度の増加、あるいは、点状の異常成長が観察された。
【0081】
(実施例8)
実施例7と同様の実験を、HClガスをCl2ガスに変えて行った。この場合には、InClガスだけでなく、InCl3ガスも発生する。この場合にも、実施例7とほぼ同様の結果が得られた。
【0082】
(実施例9)
実施例1〜実施例4と同様であるが、GaをAlに変えて、Al保管室の温度を400〜700℃に加熱し、上記入口からHCl含有ガスを導入することで発生するAlCl3含有ガスを用いてAlNテンプレートを製作したところ、実施例1〜実施例4と同様の結果をえた。
Al保管室の温度が400℃より低い場合には、実施例6と同様に成長速度の低下と転位密度の増加が観察された。また、Al保管室の温度を700℃にすると、AlClが発生し、成長装置を構成する石英を腐食するので、Al保管室の温度は700℃以下とした。
【0083】
(実施例10)
上記の実施例1〜実施例9と同様の実験において、窒素ガスを、他の不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、あるいはこれらの混合ガス)に変えて行ったところ、実施例1〜実施例9とほぼ同様の結果を得た。
【0084】
(実施例11)
図3(a)の原料容器1aを設置したHVPE装置、および実施例に係る流路幅が5cm以下で3つ以上の屈曲を持つ原料容器のいずれかを設置したHVPE装置により、上記特許文献1に記載の方法でGaN自立基板を製作した。すなわち、サファイア基板上にアンドープGaN層を成長し、さらにアンドープGaN層上にTi膜を蒸着した基板を、H2とNH3を混合した気流中で熱処理する。これにより、上記Ti膜は微小な穴が形成されたTiN膜となり、上記アンドープGaN層には多数のボイドが形成される。このボイドが形成されたアンドープGaN層及び微小な穴が形成されたTiN膜を有するサファイア基板をテンプレートとし、その上にGaN自立基板となるGaN層を成長した。
GaN層の成長は、実施例4と同様の条件で、GaN成長中の原料容器へのHCl導入量を200sccmとして成長を行った。この条件で、実験的に数μmのGaN膜をサファイア基板上に成長した場合の成長速度は、図3(a)の原料容器1aの場合は160μm/hrであり、上記実施例の原料容器を用いた場合には240μm/hrであった。
【0085】
上記実施例の原料容器を用いた場合には、上記の成長条件で4時間の成長を行ったときに、960μmのGaN自立基板が得られた。このことは、GaN自立基板の成長全体を通じて一定の成長速度が保たれたことを意味する。一方、図3(a)の原料容器1aを用いた場合には、6時間の成長で780μmのGaN自立基板が得られた。この場合の平均成長速度は130μm/hrであり、上記の数μmのGaN膜を成長した実験の結果よりも成長速度が低下していた。これは、図3(a)の仕切板のない原料容器1aを用いた場合には、長時間のGaN自立基板の成長中にGaが消費されることにより、徐々に成長速度が低下したためである。
【0086】
すなわち、本発明の金属塩化物ガスの発生装置を用いて窒化物半導体自立基板を製造することで、従来よりも原料効率を高めることができ、また安定した成長速度で自立基板を製造することが可能となった。この成長速度の安定性は、不純物をドープしたn型、p型、あるいは、半絶縁性のGaN自立基板を成長する際には、極めて重要である。すなわち
、成長速度が時間とともに変化すると、その成長速度の変化率に対応して、結晶中の不純物濃度も変化するため、均一ドープした自立基板を製作することが不可能となるのはもちろん、所望の不純物ドープ量を得ることさえできなくなるからである。
【0087】
本発明の実施例の原料容器を用いることにより、例えば1000μm厚のGaN自立基板製作時の成長速度の変化を、±2%以下に抑制できる。このため不純物濃度の深さ方向のバラツキが±2%以下の不純物ドープのGaN自立基板を製作できる。
上述した1000μm〜2000μm厚のGaN自立基板の製作を、20回繰り返したところ、本発明の実施例の原料容器を用いた場合、GaN成長中の成長速度の変化は±10%以下であった。また、GaN基板(GaN結晶)の不純物濃度のばらつきが±10%以下であり、かつ偏差が±10%以内にある不純物ドープのGaN自立基板を作製できた。原料容器のサイズを変更した本発明の塩化物発生装置を備えるHVPE装置を用いることで、厚さ2000μmを超えるGaN基板の作製もできる。
【0088】
以下に、本発明の変形例を述べる。
【0089】
(変形例1)
図16(a)、(b)および図17に、本発明の金属塩化物ガスの発生装置に用いられる原料容器の変形例を示す。図16(a)の原料容器1gは、図3の原料容器1c、1e、1fと同様の仕切板6が配置された構造であるが、ガス供給口2及びガス排出口3を一方の側壁7に近づけた位置に設け、ガス供給口2の周囲およびガス排出口3の周囲に、袋小路や滞留部となる部分ができるだけ最小限となるようにした原料容器である。
また、図16(b)の原料容器1hは、円形の原料容器であって、原料容器1hの外側のガス供給口2から中心のガス排出口3に向かって、らせん状にガスが流れるガス流路が仕切板12によって形成されている。ガス流路には、3箇所以上の屈曲部Eを有する配置である。この場合、導入されたガスは中心部のガス排出口3から上方あるいは下方に導出されることになる。図16(b)の原料容器1hのような形状の原料容器を用いた場合でも、上記の実施例とほぼ同じ結果が得られている。つまり、本発明にかかる原料容器の要件さえ満たせば、原料容器が円形その他の形状であっても、本発明の効果を得ることができるということである。
また、図17に示す原料容器1iは、図3の原料容器1c、1e、1fと同様の仕切板6が配置された構造において、更にガス流路Pのガス流を乱す構造を付加した例を示す。具体的には、図17に示すように、原料容器内を仕切る仕切板を上記平板状の仕切板6に代えて波板状の仕切板15としたり、仕切板6に突起部16を設けたり、ガス流路P中に棒材17を設けたりしてもよい。
【0090】
(変形例2)
本発明の窒化物半導体ウエハは、使用される窒化物半導体成長用の基板に依存することなく、窒化物半導体膜の最表面の低Si濃度層厚を低減できる。このため、サファイア基板上に窒化物半導体を成長したテンプレートのみならず、GaAs基板、Ga2O3基板、ZnO基板、SiC基板、あるいはSi基板など、サファイア以外の異種基板上にGaN膜を形成したテンプレートにも適用可能である。
【0091】
(変形例3)
更に、本発明は、上述した変形例2と同様の理由から、他の方法で成長したテンプレート上、あるいはGaN、AlN、InN単結晶基板上にGaN膜を形成して、デバイス用の下地を製作する目的にも適用可能である。
【0092】
(変形例4)
本発明に係る上記実施形態あるいは上記実施例などからなる、複数の金属塩化物ガス発
生装置を組み合わせて、GaN、InN、AlNの混晶からなるテンプレートや、窒化物半導体膜を形成することも可能である。
【0093】
(変形例5)
また、本発明の金属塩化物ガスの発生装置は、金属塩化物ガスの急峻なOn/Offが必要な用途全般のみならず、金属塩化物ガス濃度を急峻に増減する用途に対しても効果的である。
一例を挙げると、実施例4のテンプレート上に、HVPE法により実施例5−1と同様のLED構造を積層した場合、従来のHVPE法では不可能であった急峻なヘテロ界面を形成できるため、全てMOVPE法により成長したLEDと同等の特性のLEDを実現することができた。
【0094】
(変形例6)
実施例4のテンプレートにおいては、600℃で成長するGaNバッファに代えて、1100℃でAlNバッファを20nm〜100nm成長し、その上に1100℃にてアンドープGaNとn型GaNを形成しても良い。
【0095】
(変形例7)
本明細書に記載した成長温度、ガス流量、基板の面方位などは、実用上の目的のために、適宜変更しても構わない。例えば、上記実施例4ではHVPE成長温度を1100℃と記述したが、実用的な温度範囲としては1000〜1200℃である。
【符号の説明】
【0096】
1、1a〜1i 原料容器
2 ガス供給口
3 ガス排出口
4 塩素系ガス供給管
5 金属塩化物ガス排出管
6 仕切板
7,7a〜7d 側壁
20 反応容器
25 基板
E 屈曲部
G1 塩素系含有ガス
G2 金属塩化物含有ガス
G3 NH3含有ガス
G4 ドーピング原料含有ガス
M 金属原料
P ガス流路
R 経路
S 空間
W 流路幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属塩化物ガスの発生装置とこれを用いた金属塩化物ガスの発生方法およびハイドライド気相成長装置、並びに、窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイス、窒化物半導体発光ダイオード用ウエハ、窒化物半導体自立基板の製造方法および窒化物半導体結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN、AlGaN、GaInNなどの窒化物系化合物半導体は、赤色から紫外の発光が可能な発光素子材料として注目を集めている。これらの窒化物半導体材料の結晶成長法の一つに、金属塩化物ガスとアンモニア(NH3)を原料とするハイドライド気相成長法(HVPE法)がある。HVPE法の特徴としては、有機金属気相成長法(MOVPE法)や分子線エピタキシー法(MBE法)などの他の結晶成長法で典型的な1μm/hr程度の成長速度と比較して、格段に大きな10μm/hr以上或いは100μm/hr以上
の成長速度が得られる点が挙げられる。このため、GaN自立基板やAlN自立基板の製造に良く用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、窒化物半導体からなる発光ダイオード(LED)は、通常サファイア基板上に形成され、窒化物半導体の結晶成長に際しては、基板の表面にバッファ層を形成したのちに、その上にn型クラッド層を含む10μm弱の厚いGaN層を成長し、その上にInGaN/GaN多重量子井戸の発光層(合計で数100nm厚)およびp型クラッド層(20
0〜500nm厚)の順に成長が行われる。発光層の下側のGaN層が厚いのは、サファイア基板上のGaNの結晶性を改善するなどのためである。その後、電極形成などを行い最終的には図15のようなLED素子構造が形成される。MOVPEによってサファイア基板上にLED用の窒化物半導体結晶を成長する場合、結晶成長工程は典型的には6時間程度の時間を要するが、このうちの半分程度は発光層の下側のGaN層を成長するために必要な時間である。
【0004】
このサファイア基板上に厚いGaN膜を成長した部分をテンプレートと呼ぶが、このテンプレートのGaN厚膜の成長に成長速度の格段に速いHVPE法を適用できれば、大幅な成長時間の短縮が可能となり、LEDウエハの製造コストを劇的に低減することが可能となる。
【0005】
HVPE法の欠点としては、成長ごとに成長速度が変化する点と、急峻な原料ガスのOn/Off制御が難しい点が挙げられる。これらの欠点は、HVPE装置の構造自体に起因するものであるため、これまで完全な解決策は得られておらず、窒化物半導体自立基板の製造上、あるいは、テンプレートの製造上の課題となっている。
【0006】
HVPE装置の典型的な構造を図19に示す。HVPE装置は、窒化物半導体の結晶成長を行う反応容器20を備え、反応容器20内には、GaCl等の金属塩化物ガスを発生する発生装置の原料容器(金属保管容器)100が設けられている。原料部ヒータ21により加熱される原料容器100内には、Ga、In、AlなどのIII族の金属原料Mが収
容され、原料容器100には、HClガスなどの塩素系ガスを含む塩素系含有ガスG1を供給する塩素系ガス供給管4が接続されている。塩素系ガス供給管4から原料容器100内に供給された塩素系ガスと金属原料Mとの反応により、原料容器100内には金属塩化物ガスが生成される。生成された金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスG2は、原料
容器100に接続された金属塩化物ガス排出管5から導出され、反応容器20内の成長部ヒータ22により加熱される成長部に設置された基板(ウエハ)25へと送られる。また、反応容器20には、V族原料のアンモニアガス(NH3ガス)を含むNH3含有ガスG3を供給するNH3ガス供給管23と、ドーピング原料ガスを含むドーピング原料含有ガスG4を供給するドーピング原料ガス供給管24とが設けられている。基板25へと送られてきた金属塩化物ガス排出管5からの金属塩化物ガスと、NH3ガス供給管23からのNH3ガスとが反応して、基板25にIII族窒化物半導体結晶が成長する。
【0007】
原料容器100は、供給された全ての塩素系ガスが金属塩化物ガスに変換されるように、金属原料Mの表面積(ないし液面)を広くして塩素系ガスとの接触面積が大きくなるようにボート形状のものが一般に用いられる。一方、NH3ガス供給管23やドーピング原料ガス供給管24は単なる細い管が一般に用いられる。
【0008】
HVPE法では成長を繰り返すと成長速度が低下してしまうという欠点を改善するための技術が特許文献2に提案されている。特許文献2には、HVPE装置の原料容器に収容された液体状態の金属原料と塩素系ガスとの距離を概ね一定に保つために、原料容器に収容された金属原料の量に応じて原料容器の設定角度などを調整できる構造が記載されている。更に、原料容器の内部をガスが通過する空間の形状を概ね一定にするために、原料容器に収容された金属原料の量に応じて特定形状の原料容器の設定角度などを調整できる構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3886341号公報
【特許文献2】特開2006−120857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
反応容器の成長部に供給されるガスに含まれる金属塩化物ガスの濃度は、原料容器内に供給される塩素系ガスの流量、原料容器内のガスの流れ方(経路、流速など)、原料容器内の温度などにより決定される。
例えば、ある窒化物半導体の成長において金属原料を消費した場合には、次の成長では原料容器内の金属原料上方の空間の体積が前回の成長時よりも大きくなるということが生じる。従来のHVPE装置に用いられる金属塩化物ガスの発生装置の原料容器は、金属塩化物ガスの発生効率が、原料容器内の金属原料上方の空間の体積に依存する場合がほとんどであったため、成長を繰り返すごとに上記体積が大きくなって金属塩化物ガスの発生量が低下し、反応容器の成長部における成長速度が低下するという事態が生じていた。これが、HVPE法において成長速度が安定しない原因である。
【0011】
この成長速度の不安定性は、特に、1回の成長で大量の金属を消費する窒化物半導体自立基板の製造においては非常な困難をもたらす。すなわち、自立基板となる窒化物半導体の成長中に、徐々に成長速度が低下していくため、所望の膜厚を得ることが困難になるのである。また、例えばサファイア基板上にGaN厚膜を成長した、いわゆるテンプレートを製造する場合にも、この成長速度の不安定性は困難をもたらす。この場合には、1回の成長での金属消費量が少ないため、数回程度の成長では成長速度が変化することは無い。しかし、数100回〜数1000回も成長を繰り返す、テンプレートの量産においては、いつのまにか成長速度が低下し、規定のGaN膜厚に満たないテンプレートとなってしまったり、成長速度の低下に伴いテンプレートの特性(特に、転位密度、シート抵抗)が劣化するということが発生する。
【0012】
また、原料容器内のガスの流路がある程度の面積、体積を有するため、原料容器に導入する塩素系ガスの濃度を変えたとしても、原料容器内部のガスの濃度は徐々にしか変化せず、原料容器から導出されて成長部に供給される金属塩化物ガスの濃度も数10秒〜数分の時間(遷移時間)をかけて徐々に変化するという挙動を示す。このため、従来のHVPE法においては急に成長を開始したり停止したり、あるいは、急に成長速度を変えたり、または、急峻なヘテロ界面を形成するということはできなかった。
【0013】
サファイア基板上にHVPE法によりGaN膜を成長し、テンプレートを形成する場合を例として考える。この場合、GaN膜の最上層はn型のGaNであり、成長の最終段階としてはドーピングしつつGaN層を成長している状況、つまり、HClガス、NH3ガス、ドーピング原料の全てがキャリアガス(水素、窒素など)と共に供給されている状態である。この状況から、HClガスを供給するIII族ラインとドーピング原料を供給する
ドーピングラインへの原料供給を止め、キャリアガスのみとして、GaNの成長を終える場合を考える。アンモニア以外の原料の供給を止めると、基板表面に供給されるドーピング原料は1秒以内に濃度が0(ゼロ)となるが、GaClガスについては、すぐには供給が止まらず徐々に濃度が減っていき、数10秒〜数分の遷移時間をかけて濃度が0となる。すなわち、成長を止めたと思った時点には、実際にはドーピング原料の供給だけが止まり、アンドープに近い低キャリア濃度のGaN層がテンプレートの表面に形成されてしまう。
ドーピングラインは一般的に細い管(1/4インチ管であれば6mm直径)が用いられるので、上流端から基板(ウエハ)までのガスの通過時間が1秒程度である。一方、III
族ラインでは、成長を止めたと思った時点には、原料容器内の空間に多量のGaClガスが残存しており、これを全て追い出すまではGaClの供給が完全には止まらずGaNの成長が継続するため、上記のような状況となるのである。
【0014】
もちろん、原料容器を小さくすることで、原料供給から基板へのGaClの供給が完全に停止するまでの時間を、ある程度短縮することはできる。しかし、その場合にはHClとGa金属表面の接触面積が減り、GaClの発生効率が低下してしまうというデメリットや、収容するGaの量が減るためにGaを補給する頻度が増加するというデメリットが生じるので、現実的な解決策とはなりえない。実用的な原料容器の寸法としては、Ga融液の表面積としては10cm×10cm以上のものが好ましいが、その場合には、GaCl濃度の遷移時間は、ほとんどの場合1分程度かそれ以上となってしまうのが現状である。
【0015】
テンプレート表面に、上述のような低いキャリア濃度の層が形成されると、この上にMOVPE法などにより発光層およびp型層を成長してLED構造を形成した場合、発光層の下に意図しない低キャリア濃度の層を含むことになる。図15に示すような通常構造のLED素子は、半導体層の表面から発光層35とn型層34(またはGaN層32上層のn型GaN層)の一部までをエッチングにより除去した部分にn型層への電気的な接続のための電極(n側電極)38を設ける。上記のHVPE法によるテンプレートを含むLED用ウエハにプロセスを施し、LED素子を製造する場合、上記のエッチングの深さが、もし低キャリア濃度層の深さと一致してしまうと、n側電極と低キャリア濃度のGaNとの間に電気的な障壁が形成され、LEDの駆動電圧が実用的な値(典型的には、20mA通電時の電圧として3.6V以下)を超えてしまう。
【0016】
このため、従来のHVPE法によるテンプレートを用いたLED用ウエハにプロセスを施してLED素子を製作する場合は、全てMOVPE法で製作したLED用ウエハからLED素子を製作する場合よりも、精密なエッチング深さの制御を行わないと、駆動電圧の点でLED素子の歩留が低下してしまう。しかしながら、エッチング深さを精密に制御するためには、エッチングの前に予備実験を行うこと、エッチング速度を落とすこと、など
プロセスコストの増大を招く対策が必要であり、低コスト化のためにHVPEを用いる意味がなくなってしまう。
更に、HVPE法により、テンプレート部分のみならず、その上のInGaN発光層やp型層を成長した場合にも、急峻な原料の切り替えができないために、急峻なヘテロ界面が形成できないため、HVPEを用いて製造したLEDの特性はMOVPEを用いて製造したLEDよりも劣っているのが現状である。
【0017】
本発明は、金属塩化物ガス濃度の安定性の向上と金属塩化物ガスの濃度変化の応答性の向上が図れる金属塩化物ガスの発生装置および金属塩化物ガスの発生方法を提供し、更に、この金属塩化物ガスの発生装置を用いたハイドライド気相成長装置および窒化物半導体自立基板の製造方法、並びに窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイス、窒化物半導体発光ダイオード用ウエハ、および窒化物半導体結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様は、金属原料を収容する原料容器と、前記原料容器内に塩素系ガスを含む塩素系含有ガスを供給する、前記原料容器に設けられたガス供給口と、前記塩素系含有ガスに含まれる塩素系ガスと前記金属原料との反応により生成される金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスを前記原料容器外に排出する、前記原料容器に設けられたガス排出口と、前記原料容器内の前記金属原料の上方の空間を仕切って、前記ガス供給口から前記ガス排出口へと続くガス流路を形成する仕切板とを備え、前記ガス流路は、前記ガス供給口から前記ガス排出口へと至る一通りの経路となるように形成され、前記ガス流路の水平方向の流路幅が5cm以下であり、且つ前記ガス流路には屈曲部を有することを特徴とする金属塩化物ガスの発生装置である。
【0019】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の金属塩化物ガスの発生装置において、前記屈曲部が3箇所以上に形成されている金属塩化物ガスの発生装置である。
【0020】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の金属塩化物ガスの発生装置を備えたハイドライド気相成長装置である。
【0021】
本発明の第4の態様は、第1又は第2の態様に記載の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記ガス供給口から前記ガス排出口までの前記ガス流路を流れるガスの滞在時間を5秒以上とする金属塩化物ガスの発生方法である。
【0022】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の金属塩化物ガスの発生方法において、前記金属原料がGaであり、前記塩素系含有ガスがHCl含有ガスであり、前記原料容器を700℃〜950℃に加熱し、前記金属塩化物含有ガスであるGaCl含有ガスを前記ガス排出口から排出する金属塩化物ガスの発生方法である。
【0023】
本発明の第6の態様は、金属塩化物ガスとアンモニアガスを基板に供給して前記基板上にGaN、AlN、InNまたはこれらの混晶からなる膜を形成した窒化物半導体ウエハにおいて、少なくとも前記膜の上部はキャリア濃度が4×1017〜3×1019の範囲にあって、前記膜の上部の少なくとも表面より60nmの深さから1μmまでの深さにおいては、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差σが5%以内であり、前記膜の最表面の低キャリア濃度層の厚さが60nm以下である窒化物半導体ウエハである。
【0024】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の窒化物半導体ウエハ上に半導体デバイス構造を形成した窒化物半導体デバイスである。
【0025】
本発明の第8の態様は、基板と、前記基板上にHVPE法により形成したn型窒化物半導体膜と、前記n型窒化物半導体膜上にMOVPE法により形成した窒化物半導体発光構造層とを有し、前記n型窒化物半導体膜は最表面側に60nm以下の厚さの低キャリア濃度層を備え、前記n型窒化物半導体膜の最表面側の60nmの深さから1μmまでの深さでは、キャリア濃度が4×1018〜8×1018の範囲にあって、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差が5%以内である窒化物半導体発光ダイオード用ウエハである。
【0026】
本発明の第9の態様は、第1又は第2の態様に記載の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記金属塩化物ガスの発生装置から発生した金属塩化物ガスとアンモニアガスとを基板に供給して、前記基板上に窒化物半導体膜を成長し、前記窒化物半導体膜から窒化物半導体自立基板を製造する窒化物半導体自立基板の製造方法である。
【0027】
本発明の第10の態様は、金属塩化物ガスとアンモニアガスとから形成される、GaN、AlN、InNまたはこれらの混晶を含む厚さ1000μm以上の窒化物半導体結晶からなり、前記窒化物半導体結晶の厚さ方向の不純物濃度のばらつきが±10%以下であり、且つ偏差が10%以内である窒化物半導体結晶である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、金属塩化物ガス濃度の安定性の向上と金属塩化物ガスの濃度変化の応答性の向上が図れる金属塩化物ガスの発生装置および金属塩化物ガスの発生方法を提供できる。また、本発明によれば、成長速度の安定性と金属塩化物ガスの濃度変化の急峻な制御が可能なHVPE装置を提供できる。更に、本発明によれば、窒化物半導体自立基板を生産性よく製造可能な窒化物半導体自立基板の製造方法、並びに特性に優れた歩留の高い窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイス、窒化物半導体発光ダイオード用ウエハおよび窒化物半導体結晶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属塩化物ガスの発生装置を示すもので、(a)は横断面図、(b)は側断面図である。
【図2】図1の金属塩化物ガスの発生装置を用いた本発明の一実施形態に係るHVPE装置の概略構成図である。
【図3】実施例で検討した各種の原料容器をそれぞれ示す横断面図である。
【図4】図3(b)の原料容器の側断面図である。
【図5】原料容器の仕切板の有無によるGaCl濃度の変化の様子を示すグラフである。
【図6】図3の各原料容器におけるGa深さと遅れ時間との関係を示すグラフである。
【図7】図3の各原料容器におけるGa深さと遷移時間との関係を示すグラフである。
【図8】図3の各原料容器におけるGa深さと安定時のGaCl濃度との関係を示すグラフである。
【図9】仕切板を有する各種の原料容器におけるガス流路幅と遅れ時間との関係を示すグラフである。
【図10】仕切板を有する各種の原料容器におけるガス流路幅と遷移時間との関係を示すグラフである。
【図11】仕切板を有する各種の原料容器におけるガス流路幅と安定時のGaCl濃度との関係を示すグラフである。
【図12】仕切板を有する原料容器と仕切板の無い原料容器とをそれぞれ用いたHVPE装置でテンプレートを製造したときの、テンプレート表面部のGaN膜の表面部のSi濃度分布を示すグラフである。
【図13】仕切板を有する各種の原料容器を用いたHVPE装置でテンプレートを製造したときの、原料容器の流路幅とテンプレートの低Si濃度層の厚さとの関係を示すグラフである。
【図14】仕切板を有する各種の原料容器を用いたHVPE装置でテンプレートを製造し、これらテンプレート上にLEDを作製したときの、原料容器の流路幅とLEDの歩留との関係を示すグラフである。
【図15】HVPE法により製造したテンプレートを用いて、テンプレート上に作製した窒化物半導体デバイスとしてのLED素子の一例を示す断面図である。
【図16】本発明の他の実施例にかかる金属塩化物ガスの発生装置を示す横断面図である。
【図17】本発明の他の実施例に係る金属塩化物ガスの発生装置を示す横断面図である。
【図18】本発明に係る窒化物半導体デバイスの一実施例であるショットキーバリアダイオードを示すもので、(a)は横断面図、(b)は斜視図である。
【図19】従来の金属塩化物ガスの発生装置を用いたHVPE装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、従来の原料容器(後述の実施例の図3(a)に示すような原料容器)のように、原料容器内に広い空間がありこの空間をガスが比較的自由に拡散して流れるような場合に、金属塩化物ガス濃度が不安定となり、遷移時間(金属塩化物ガス濃度が徐々に変化し、一定となるまでの時間)が長くなるという現象が顕著に現れることを見出した。そこで、上記現象を改善するために、本発明の金属塩化物ガスの発生装置では、原料容器内を仕切板で仕切ることによってガス流路を区画形成し、このガス流路をガス供給口からガス排出口へと至る概ね分岐のない一通りの経路となるように形成し、さらにガス流路の水平方向の流路幅を5cm以下とし、且つガス流路に屈曲部を設ける。これにより、金属塩化物ガス濃度の安定性と、デバイス応用に際して許容できる程度に短い遷移時間を実現することに成功した。
【0031】
以下に、本発明の一実施形態に係る金属塩化物ガスの発生装置および金属塩化物ガスの発生方法、並びに、ハイドライド気相成長装置、窒化物半導体ウエハ、窒化物半導体デバイスおよび窒化物半導体自立基板の製造方法を説明する。
【0032】
(金属塩化物ガスの発生装置)
図1は、本発明の一実施形態に係る金属塩化物ガスの発生装置を示す。図1(a)は横断面図、図1(b)は側断面図である。
【0033】
本実施形態の金属塩化物ガスの発生装置は、図1に示すように、Ga、In、AlなどのIII族の金属原料Mを収容する原料容器(金属保管室)1を備える。金属原料Mは液体
状態であっても固体状態であってもよい。例えば、原料容器1内の温度が800℃付近ではGa、In、Alともに液体となるが、500℃付近ではAlは固体のままである。なお、図1では、金属原料Mが液体状態の場合を図示している。本実施形態の原料容器1は、石英製で直方体形状の容器である。原料容器1の外側には原料容器1を高温に加熱して原料容器1内の金属原料を溶融または加熱するためのヒータ(図示せず)が設けられる。原料容器1の対向する一対の側壁7a,7cうち、一方の側壁7aには塩素系ガス(HCl、Cl2など)を含む塩素系含有ガスG1を原料容器1内に供給するガス供給口2が形成され、他方の側壁7cには、原料容器1内で生成された金属塩化物ガス(GaCl、InCl、AlCl3など)を含む金属塩化物含有ガスG2を原料容器1外に排出するガス排出口3が形成されている。ガス供給口2には塩素系ガス供給管4が接続され、また、ガ
ス排出口3には金属塩化物ガス排出管5が接続されている。
【0034】
原料容器1内には、金属原料Mの上方の空間Sを仕切って、ガス流路Pを形成する仕切板6が設けられている。本実施形態の仕切板6は、石英製の平板状のもので、図1(a)に示すように、原料容器1の天井壁8から底壁9の近くにまで延出させて形成されており、金属原料Mの上方の空間Sのみならず原料容器1内に収容された金属原料Mも仕切板6により区画され仕切られたような状態になっている。また、本実施形態の原料容器1では、図1(b)に示すように、3枚の仕切板6が、ガス供給口2、ガス排出口3が形成された側壁7a,7cに平行に、かつガス供給口2とガス排出口3との間に等間隔に設けられ、ガス流路Pの水平方向の流路幅Wが5cm以下に形成されている。3枚の仕切板6のうち、ガス供給口2側及びガス排出口3側の2枚の仕切板6は、ガス供給口2、ガス排出口3が形成されていない一対の側壁7b,7dにおいて、側壁7bから側壁7dへと延出され、また、中央の1枚の仕切板6は、側壁7dから側壁7bへと延出されている。このように、ガス供給口2からガス排出口3に向かって側壁7b,7dから互い違いに延出された3枚の仕切板6によって、原料容器1内には、ガス供給口2からガス排出口3へと蛇行したガス流路Pが形成され、このガス流路Pに沿ってガスが流れる分岐のない経路Rが形成される。また、仕切板6によって仕切られるガス流路Pには、仕切板6と側壁7bまたは側壁7dとの間のガス流路Pを含む3箇所に、ガス流路Pの屈曲部Eが形成されている。
【0035】
上記実施形態の原料容器1において仕切板6を設けない、図3(a)に示すような従来構造である原料容器では、ガス供給口から塩素系含有ガスが原料容器内に広く拡散して流れ、原料容器内の金属原料と接触して生成された金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスがガス排出口に集合されて排出される。この場合、原料容器内にはガスの滞留部や滞留領域が多く、金属塩化物ガスの発生効率が低く、また金属原料の減少に伴って金属塩化物ガス濃度の低下が大きくなり、金属塩化物ガス濃度が安定しない。更に、ある時点で原料容器内に存在する金属塩化物ガス等のガスを全て追い出すには時間(遷移時間)を要し、急速な金属塩化物ガスの濃度変化に対応できない。
【0036】
これに対し、上記実施形態の原料容器1では、原料容器1内には、仕切板6により、ガス供給口2からガス排出口3へと続くガス流路Pが形成され、原料容器1内に供給されたガスはガス供給口2からガス排出口3へと至る一通りに制限された経路Rを流れる。このため、原料容器1内にはガスの滞留部や滞留領域が少なく、ガス供給口2から供給された塩素系含有ガスは、ガス流路Pを流れる間に原料容器1内のほぼ全域の金属原料Mの表面と効率的に効果的に接触し、金属塩化物ガスの発生効率・変換効率が高く、また金属原料Mが減少しても金属塩化物ガス濃度の低下を抑えることができ、金属塩化物ガス濃度を安定化できる。さらに、水平方向の流路幅Wが5cm以下の細長いガス流路Pであるため、原料容器1内に存在するガスを短時間で効率よく追い出すことができ、金属塩化物ガスの濃度変化の遷移時間を大幅に短縮できると共に、金属塩化物ガスの発生効率・変換効率が高い。また、ガス流路Pには屈曲部Eが形成されているため、ガス流路Pの屈曲部Eで大きなガス流の乱れが生じ、塩素系ガスと金属原料Mとの反応が促進され、金属塩化物ガスの発生効率・変換効率を向上できると共に、金属原料が減少しても金属塩化物ガス濃度の安定性を向上できる。屈曲部Eにおける仕切板6と側壁7b,7dとの間隔(幅)も、流路幅Wと同様に5cm以下とするのが好ましい。なお、図1に例示する形態では、仕切板6と側壁7b,7dとの間隔(幅)を流路幅Wより狭く設定している。
【0037】
上記金属塩化物ガスの発生装置の原料容器1には、ガス流路Pの途中に屈曲部Eが少なくとも1箇所設けられるが、3箇所以上の屈曲部Eをガス流路Pに設けるのが好ましい。
また、上記の原料容器1は、10cm×10cm以上の面積を有しているのが好ましい。この場合の面積とは、原料容器1を上方から見たときの、金属原料Mが収容される原料
容器1内の金属収容部の面積(液体状の金属原料Mの場合における液面の面積)のことである。原料容器1の面積が10cm×10cmよりも小さいと、塩素系ガスと液体金属原料Mとの接触面積が減り、金属塩化物ガスの発生効率・変換効率が低下し、また金属原料の補充を頻繁に行う必要が生じる。本実施形態の原料容器1では、10cm×10cm以上の面積を有していても、金属塩化物ガスの濃度変化の遷移時間を、十分に許容できる程度に短縮できる。
【0038】
なお、上記実施形態の仕切板6は、図1(a)に示すように、原料容器1の天井壁8から底壁9の近くにまで達するが、底壁9にはつながっていない。これは、仕切板6が、原料容器1の天井壁8から底壁9まで連続してつながった状態にあると、ヒータ等の加熱により発生する応力によって原料容器1が損傷するおそれがあるからである。但し、原料容器1の損傷を防止する対策を施せば、仕切板6を原料容器1の天井壁8から底壁9まで連続してつながった状態に設けてもよい。
【0039】
(金属塩化物ガスの発生方法)
本発明の一実施形態に係る金属塩化物ガスの発生方法は、上記実施形態に代表されるような本発明の金属塩化物ガスの発生装置を用い、原料容器1のガス供給口2からガス排出口3までのガス流路Pを流れるガスの滞在時間を5秒以上とした金属塩化物ガスの発生方法である。ここでガスの滞在時間とは、原料容器1内の金属原料M上方の空間Sの体積と、ガス供給口2から原料容器1内に供給するガスの流量と、原料容器1内の温度とから計算した、理論的なガスの通過時間を意味する。
ガス流路Pを流れるガスの滞在時間を5秒以上とすると、塩素系ガスの供給を開始した後に、金属塩化物ガス濃度が一定となった安定時(最大濃度時)の金属塩化物ガス濃度が低下することを抑えることができる。
【0040】
上記の原料容器1に収容する金属原料Mとしては、Ga、In、Alのいずれかであるのが好ましい。
上記の金属塩化物ガスの発生方法において、上記金属原料MがGaの場合、上記原料容器1の温度は700〜950℃であるのが好ましく、上記ガス供給口2からHCl含有ガスを導入し、上記ガス排出口3からGaCl含有ガスを発生するのが好ましい。
上記の金属塩化物ガスの発生方法において、上記金属原料MがInの場合、上記原料容器1の温度は300〜800℃であるのが好ましく、上記ガス供給口2からHCl含有ガスを導入し、上記ガス排出口3からInCl含有ガスを発生するのが好ましい。また、上記金属原料MがInの場合、上記ガス供給口2から導入するガスはCl2含有ガスでも良い。この場合、上記原料容器1の温度は300〜800℃とし、InCl3含有ガスを発生するのが好ましい。
上記の金属塩化物ガスの発生方法において、上記金属原料MがAlの場合、上記原料容器1の温度は400〜700℃であるのが好ましく、上記ガス排出口3からHCl含有ガスを導入し、記ガス排出口3からAlCl3含有ガスを発生するのが好ましい。金属原料MがAlの場合、原料容器1内のAlは、液体状態ではなく、固体状態の場合もある。
【0041】
上記HCl含有ガスは、HClのほかに水素を含んでも良い。また、上記HCl含有ガスは、HClのほかに不活性ガスを含んでも良く、不活性ガスとしては窒素、アルゴンまたはヘリウムのいずれか、あるいはこれらの混合ガスでも良い。
【0042】
(ハイドライド気相成長装置)
図2に、本発明の一実施形態に係るハイドライド気相成長装置を示す。本実施形態に係るハイドライド気相成長装置は、上記実施形態の金属塩化物ガスの発生装置を備えたハイドライド気相成長装置である。
【0043】
ハイドライド気相成長装置は、図2に示すように、窒化物半導体の結晶成長を行う反応容器20を備える。反応容器20は金属塩化物ガスを発生する発生装置の原料容器1が設けられる原料部と、原料部からの金属塩化物ガス等の原料ガスが供給され窒化物半導体の結晶成長がなされる基板25が設置される成長部とを有する。反応容器20の原料部の外周には、原料部ヒータ21が設けられ、反応容器20の成長部の外周には、成長部ヒータ22が設けられている。反応容器20の原料部に設置される原料容器1のガス供給口には、反応容器20の側壁を貫通させて塩素系ガス供給管4が接続されている。また、原料容器1のガス排出口には金属塩化物ガス排出管5が接続され、金属塩化物ガス排出管5は成長部の基板25に向けて配置されている。反応容器20には、反応容器20の側壁を貫通させ且つ金属塩化物ガス排出管5と平行に、NH3ガス(アンモニアガス)を含むNH3含有ガスG3を供給するNH3ガス供給管23と、ドーピング原料ガスを含むドーピング原料含有ガスG4を供給するドーピング原料ガス供給管24とが設けられている。反応容器20の成長部の基板25は、サセプタ26に例えば垂直状態で保持されており、サセプタ26は支持軸27により回転可能に支持されている。塩素系ガス供給管4、NH3ガス供給管23、ドーピング原料ガス供給管24には、それぞれ図示省略の塩素系含有ガス供給ライン、NH3含有ガス供給ライン、ドーピング原料含有ガス供給ラインが接続されており、それぞれキャリアガスと共に塩素系ガス、NH3ガス、ドーピング原料ガスが供給される。また、反応容器20の成長部側の側壁には、反応容器20内のガスを排気するガス排気管28が設けられ、ガス排気管28には図示省略の排気ラインが接続されている。
【0044】
原料容器1は原料部ヒータ21により加熱される。原料容器1内には金属原料Mが収容される。塩素系ガス供給管4から供給された塩素系含有ガスG1中の塩素系ガスは、仕切板6によって形成されたガス流路Pを流れる間に金属原料Mと接触し、生成された金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスG2が金属塩化物ガス排出管5から成長部へと送られる。また、NH3ガス供給管23、ドーピング原料ガス供給管24からそれぞれNH3ガス、ドーピング原料ガスが成長部に供給される。成長部の基板25に供給された金属塩化物ガスとNH3ガスとが反応して、基板25上にIII族窒化物半導体結晶が成長する。更
に、ドーピング原料ガス供給管24からドーピング原料ガスを供給することで、基板25上に導電性のIII族窒化物半導体結晶が成長する。
【0045】
上述したように、原料容器1内は仕切板6によって仕切られて、金属原料M上方の空間Sにはガス供給口からガス排出口へと続き、流路幅Wが5cm以下と狭く、途中に屈曲部Eを有するガス流路Pが形成されている。このため、安定したガス濃度の金属塩化物ガスが金属塩化物ガス排出管5から排出され、基板25上に成長する窒化物半導体結晶の成長速度が安定したHVPE装置が得られる。また、原料容器1を用いた金属塩化物ガスの発生装置は、発生させる金属塩化物ガスの濃度を応答性よく変化させることができるため、基板25に供給される金属塩化物ガスの濃度を急速に変化させることが可能なHVPE装置が得られる。従って、従来のHVPE装置では困難であったこと、すなわち、例えば、急に窒化物半導体結晶の成長を開始したり停止したりすること、急に成長速度を変化させること、あるいは、急峻なヘテロ界面を形成することなどが可能となる。
【0046】
(窒化物半導体ウエハ)
本発明の一実施形態にかかる窒化物半導体ウエハは、金属塩化物ガスとアンモニアガスを基板に供給して前記基板上にGaN、AlN、InNまたはこれらの混晶からなる膜を形成した窒化物半導体ウエハであって、少なくとも前記膜の上部はキャリア濃度が4×1017〜3×1019の範囲にあって、前記膜の上部の少なくとも表面より60nmの深さから1μmまでの深さにおいては、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差(標準偏差)σが5%以内であり、前記膜の最表面の低キャリア濃度層の厚さが60nm以下である窒化物半導体ウエハである。
本実施形態にかかる窒化物半導体ウエハは、上記実施形態に代表されるような本発明の
HVPE装置を用いることで実現することができる。金属塩化物ガスの供給を停止してから、金属塩化物ガス濃度が徐々に変化して一定(ゼロ)となるまでの遷移時間を短縮できる上記原料容器1を用いることで、低キャリア濃度層の厚さを60nm以下にすることができる。窒化物半導体ウエハには、例えばサファイア基板上にGaN厚膜を成長した、いわゆるテンプレートが含まれる。
【0047】
(窒化物半導体デバイス)
本発明の一実施形態にかかる窒化物半導体デバイスは、上記実施形態の窒化物半導体ウエハ上に半導体機能部となる半導体積層体や電極からなる半導体デバイス構造を形成した窒化物半導体デバイスである。この窒化物半導体デバイスは、上記窒化物半導体ウエハの最表面の低キャリア濃度層が薄いため、従来のHVPE装置によって製造した窒化物半導体ウエハを用いた場合よりも、格段に歩留が高くなる。
【0048】
(窒化物半導体自立基板の製造方法)
本発明の一実施形態にかかる窒化物半導体自立基板の製造方法は、上記実施形態の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記金属塩化物の発生装置から発生した金属塩化物ガスとアンモニアガスとを基板に供給して、前記基板上にGaNなどの窒化物半導体膜を成長し、前記窒化物半導体膜から窒化物半導体自立基板を製造する窒化物半導体自立基板の製造方法である。本実施形態の窒化物半導体自立基板の製造方法によれば、上記実施形態の金属塩化物ガスの発生装置を用いることにより、成長速度を安定的に維持することができ、また、窒化物半導体自立基板の製造にかかる時間を大幅に短縮できる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
実施例1では、図2に示す構成のHVPE装置において、Gaを収容する原料容器の構造を図3(a)〜(f)に示すように様々に変更した場合に、原料容器内へのHClガスの導入をOn/Offしたときに、HVPE装置の成長部でのGaCl濃度の変化を調べた。GaCl濃度の測定は、HVPE装置の反応容器内に下流側から成長部に石英管を挿入し、この石英管から成長部のガスをHVPE装置の外に吸引し、ガスの一部をピンホールを介して四重極質量分析計に導入してGaClガスに起因する信号強度を計測するという方法で行った。
【0051】
実施例1で用いた、図3(a)〜(f)に示す原料容器1a〜1fは、図1の原料容器1と同様に直方体状の容器であり、ガス供給口2からガス排出口3までの水平方向の長さが20cm、それに垂直な水平方向の幅が10cm、高さが5cmである。これら原料容器1a〜1f内に深さ1〜3cmの範囲でGa融液を入れた。
図3(a)の原料容器1aは、原料容器1a内に仕切板が無い従来構造と同様な場合である。また、図3(b)〜(f)に示す原料容器内には様々な仕切板を設けた。図3(b)の原料容器1bは、天井壁から底壁側へと1.5cmの長さの仕切板11を、ガス供給
口2からガス排出口3の間に4枚設置した場合である。原料容器1b内には深さ1〜3cmの範囲でGa融液を入れたので、原料容器1bの側断面図である図4に示すように、Ga融液の深さに応じて、仕切板11下端とGa融液の液面との間には0.5〜2.5cmの間隙があり、この間隙をガスが流れる。
また、図3(c)〜(f)に示す原料容器1c〜1fは、図1の原料容器1と同様に、天井壁から底壁近くにまで達する仕切板6を様々な形態で設置したものである。原料容器1c、1e、1fは、図1の原料容器1と同様に、ガス供給口2、ガス排出口3が形成された側壁に平行に、且つガス供給口2とガス排出口3との間を等間隔に分ける仕切板6が
設けられている。原料容器1c、1e、1fにおいて、ガス流路の屈曲部における仕切板6と原料容器の側壁との間には、2cmの間隙を形成した。原料容器1cには1枚の仕切板6が、原料容器1eには2枚の仕切板6が、原料容器1fには5枚の仕切板6がそれぞれ設けられており、ガス流路の流路幅Wが原料容器1c、原料容器1e、原料容器1fの順番で狭くなっている。
また、図3(d)の原料容器1dは、ガス排出口3側の角部からガス供給口2側の角部へと対角線上に伸びる仕切板6が設けられた場合である。
【0052】
図2に示す構造のHVPE装置において、上流側(図の左側)より、V族ライン(NH3ガス供給管23)とドーピングライン(ドーピング原料ガス供給管24)に水素、窒素の混合ガスを流し、III族ライン(塩素系ガス供給管4)にはHClと水素、窒素の混合
ガスを原料容器に流した。III族ラインの総流量は800sccmで一定とした。
原料容器1a〜1fを用い、時刻t=0(秒)以前はIIIラインに水素・窒素の混合ガ
スのみを800sccm供給しておき、時刻t=0(秒)でIII族ラインへのHCl含有
ガス(HCl流量=50sccm、水素・窒素の混合ガス流量=750sccm)の導入を開始し、時刻t=200(秒)でHClガスの導入を終了し、再び水素・窒素の混合のみを800sccm流した。原料容器1aと原料容器1fを用いた場合のGaClに起因する信号強度(GaCl濃度)の変化を図5に示す。
【0053】
図5に示すように、原料容器1a、原料容器1fのどちらの場合にも、HCl供給をOnあるいはOffしてからGaCl濃度が変化するまでには若干の遅れがあり(遅れ時間)、またGaCl濃度が変化し始めてから、GaCl濃度が一定(最大濃度、あるいは0濃度(ゼロ濃度))になるまでにもある程度の時間(遷移時間)を要した。更に、HClの供給を開始した後に、GaCl濃度が一定となった際のGaCl濃度(安定時のGaCl濃度)も、Gaを収容する原料容器の種類により異なっていた。
【0054】
原料容器1a〜1fと遅れ時間との関係を、原料容器内のGaの深さが1、2、3cmの場合について図6に示す。また、原料容器内のGaの深さが1、2、3cmの場合に、原料容器1a〜1fと遷移時間との関係を図7に、原料容器1a〜1fと安定時(最大濃度時)のGaCl濃度との関係を図8に示す。また、これらの関係を表1にまとめて示す。
【0055】
【表1】
【0056】
まず、Gaの深さが3cmの場合について述べる。従来構造の仕切り板の無い原料容器1aの場合には、遅れ時間が4秒、遷移時間が88秒、最大濃度時(安定時)のGaCl濃度は6.7であった。なお、GaCl濃度については、導入したHClが全てGaCl
に変化した場合の値を10としており、最大濃度時のGaCl濃度が6.7である原料容
器1aの場合には、導入したHClのうち最大時でも67%しか、GaClに変化してい
ないということである。
仕切板がGa融液に達していない下開きの仕切板11を用いた原料容器1bの場合、および仕切板がGa融液中に挿入された下閉じの仕切板6を1枚設置した原料容器1cの場合には、遅れ時間が若干のび(それぞれ5秒、7秒)、遷移時間が多少減少した(それぞれ73秒、56秒)。また、最大濃度時(安定時)のGaCl濃度は上昇した(それぞれ7.2、9)。
一方、対角線配置の下閉じ仕切板6を設置した原料容器1dの場合には、遅れ時間が9秒、遷移時間が72秒、最大濃度時のGaCl濃度は、導入したHClが全てGaClに変化したとした値の10であった。
原料容器1cの場合よりも仕切板6の枚数を増やしてガス流路を細く区切った原料容器1e、1fの場合には、遅れ時間はいずれも8秒程度であったが、遷移時間が劇的に短縮し、それぞれ15秒と2秒となった。また、最大濃度時のGaCl濃度はいずれも10であった。
【0057】
原料容器内のGaの深さが減少した場合には、いずれの原料容器も遅れ時間が増大した。この場合の遅れ時間は、いずれの原料容器においても、原料容器内のGa液面上の空間の高さ(すなわち空間の体積)にほぼ比例した値であった。原料容器1a〜1dに関しては、Ga深さが小さくなると、遷移時間が増大し、安定時(最大濃度時)のGaCl濃度が低下した。これに対して、原料容器内を細いガス流路に区切った原料容器1e、1fの場合には、Ga深さが変化しても、遷移時間と安定時(最大濃度時)のGaCl濃度の変化は僅かか、あるいは、全く変化しなかった。
【0058】
表1及び図6〜図8から、原料容器1dのように極端に大きな袋小路・滞留部がある場合以外は、下閉じの仕切板6が増えて、ガスが通るガス流路の流路幅Wが細く(狭く)なればなるほど、遷移時間が短くなり、安定時のGaCl濃度が増加すると言える。また、ガス流路の流路幅Wが細くなればなるほど、Ga深さが減少した場合の、遷移時間の増加および安定時のGaCl濃度の低下を抑制できる傾向にある。
【0059】
以上の結果より、原料容器1aや原料容器1bのように、ガスが原料容器内の比較的自由な広い空間を流れる場合や、原料容器1dのように原料容器内に大きな袋小路や滞留部が有る場合には、遷移時間が長くなるということが言える。
また、特に原料容器1c、1e、1fのように、原料容器内のガス流路が概ね分岐の無い1通りに限定するように下閉じの仕切板を設置し、更に、仕切板を増やしてガス流路の流路幅を狭くしていくと、遷移時間が減少し、安定時のGaCl濃度が増加し、更に遷移時間および安定時のGaCl濃度に対するGa深さの影響を抑制できると言える。
【0060】
上記の考えを確かめるために、原料容器1c、1e、1fのように、下閉じの仕切板で原料容器内のガス流路を概ね分岐の無い蛇行した1通りに限定した原料容器を作製し、これら原料容器の仕切板の数を1枚〜9枚と変えて、ガス流路の流路幅Wを10cm〜2cmとした場合について、上記と同様にGaCl濃度を調べた。結果を表2と図9〜図11に示す。原料容器内のGaの深さが1、2、3cmの場合について、ガス流路の流路幅と遅れ時間との関係を図9に、ガス流路の流路幅と遷移時間との関係を図10に、ガス流路の流路幅と安定時(最大濃度時)のGaCl濃度との関係を図11にそれぞれ示す。流路幅10cmの原料容器が上記の原料容器1cの場合であり、流路幅6.7cmの原料容器
が上記の原料容器1eの場合であり、流路幅3.3cmの原料容器が上記の原料容器1f
の場合である。
表2及び図9〜図11により、予想した通りに、ガス流路の幅が広い場合には、遷移時間が長く、安定時(最大濃度時)のGaCl濃度が低く、かつ、これらに対するGa深さの影響が大きいことが確認された。また、ガス流路の幅を狭めていくと、遷移時間が短くなり、安定時(最大濃度時)のGaCl濃度が上昇し、更に、これらに対するGa深さの
影響が小さくなることも確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
特に、ガス流路の流路幅Wが5cm以下(仕切板の数が3つ以上)の場合には、Ga深さが1cmと小さい場合、すなわち、空間Sが最も広い場合でも、遷移時間はわずか9秒であり、安定時のGaCl濃度はHClが完全にGaClに変化した場合の値10であった。
一方、遅れ時間に関しては、ガス流路の流路幅Wを狭くした場合に増大する傾向が見られた。これは、ガス流路の流路幅が広い場合に存在した、原料容器内をショートカットしてガスが流れる経路が、新たに追加された仕切り板により断ち切られた効果である。ガス流路の流路幅を狭くした場合に、遅れ時間が長くなることは実用上問題があるようにも思われるが、図9に見られるように成長時のGa深さから遅れ時間を推測できるために、遅れ時間が安定してさえいれば、実用上の深刻な問題とはならない。
【0063】
上記の結果から、流れ方向に垂直なガス流路の流路幅を5cm以下とすることが、遷移時間を短くし、かつ、安定時のGaCl濃度を10(100%の変換)とし、更にこれらに対するGa深さの影響を抑制するために重要と思われる。
安定時のGaCl濃度が10の場合に、GaCl濃度に対するGa深さの影響が小さくなるのは、HClのGaClへの変換効率が100%となっているためである。Ga深さが変わると、原料容器内のガスの流れも変化する。このため、変換効率が100%以下の場合には、Ga深さが安定時のGaCl濃度に影響するのであるが、変換効率が100%という状況であれば、100%以上の変換効率はありえないために、Ga深さの変化がGaCl濃度に影響しなくなるのである。
【0064】
図3(a)と類似の仕切板を用いない原料容器の構造で、原料容器内のガスの流れ方向に垂直な幅を5cm以下と細長くすることも可能である。実際にそのような原料容器を製作し、ガス供給口からガス排出口までの長さを60cmと大きくして、上記と同様の実験を行った。しかし、この場合には、遷移時間は予想通り7〜10秒と短くなったものの、安定時のGaCl濃度は最良の場合でも8.5程度に留まった。この結果は、図3の原料
容器1c、1e、1fなどに存在する、ガス流路の屈曲部がGaCl濃度の増大に寄与していることを示している。
すなわち、ガスを5cm以下の狭い流路幅の流路に流すことで、原料容器内に高速のガス流が生じる。また、この高速のガス流が屈曲部を通ることで、大きなガス流の乱れが生じ、これがHClと金属Gaとの反応を促進し、安定時のGaCl濃度の増大と、Ga深さのGaCl濃度への影響とを抑制することが考えられる。また、流路幅5cmの原料容器は、仕切板の数が3枚の場合に相当することから、ガス流路の屈曲部の数としては3箇所以上が好ましいということも言える。
【0065】
以上の結果をまとめると、遷移時間を短くし、かつ、安定時のGaCl濃度を10(100%の変換)とし、更に遷移時間及び安定時のGaCl濃度に対する原料容器内のGa深さの影響を抑制するためには、原料容器内のガス流路を概ね分岐の無い1通りに限定し、流れ方向に垂直なガス流路の流路幅を5cm以下とし、更に、そのガス流路に3箇所以上の屈曲を持たせることが有効な手段であると言える。
【0066】
(実施例2)
次に実施例1と同様の実験を、原料容器内に導入するガスの総流量を100〜2000sccmの間で変えて行った。この場合、添加するHClは50sccmで固定し、水素・窒素の混合ガスの流量により総流量を調整した。
総流量が100sccm以上、1300sccm未満の場合には、実施例1と同様の結果が得られた。総流量が1300sccm以上の場合には、遷移時間については実施例1と同様の結果が得られたものの、安定時のGaCl濃度は実施例1の場合よりも低下し、HClからGaClへの変換効率は最良の場合でも90%程度しか得られなかった。
総流量を1300sccm以上とした場合には、原料容器へ導入したガスがその内部に留まっている時間(滞在時間)は計算上5秒未満と非常に短いものとなる。このことから、原料容器への総流量を大きくしすぎた場合には、滞在時間が短くなり、導入したHClが完全に反応しないうちに外に出てしまうため、HClからGaClへの変換効率が低下するものと考えられる。
【0067】
(実施例3)
次に、実施例2と同様の実験を、原料容器のサイズを変えて行った。
原料容器のサイズが大きい場合には、上記混合ガスの総流量が1300sccm以上であっても、ガスの滞在時間が5秒以上の場合には実施例1と同様の結果が得られた。しかし、原料容器のサイズを小さくして、ガスの滞在時間が5秒未満となると、安定時のGaCl濃度が低下した。これも、実施例2と同様に、原料容器内のガスの滞在時間が短い場合には、導入したHClが完全にGaClに変化できないためと考えられる。
以上の実施例2及び実施例3の結果は、本発明の金属塩化物ガスの発生装置を用いる際の好適な適用範囲を規定する。すなわち、原料容器へのガス流量が大き過ぎる場合やサイズが小さ過ぎる原料容器の場合には、本発明の金属塩化物ガスの発生装置は適しておらず、原料容器内のガスの滞在時間が5秒以上となる、ガス流量および原料容器の大きさの場合に好適であると言える。
【0068】
(実施例4)
次に、実施例1で用いた図3に示す様々な形態の原料容器1a〜1fを備えた、図2に示す構造のHVPE装置を用いて、基板上にGaNバッファ層、アンドープGaN層、n型GaN層を順次積層し、テンプレートを製作した。
基板としては、2〜6インチ径のサファイア基板で、表面がC面からA軸方向に0.3
度傾いたものを用いた。このサファイア基板をHVPE装置に導入し、原料容器の温度を850℃、成長部の温度を1100℃として基板の水素クリーニングを行った。その後、成長部の温度を600℃としてGaNバッファ層を30nm成長し、次に成長部の温度を1100℃としてアンドープGaN層を6μmとn型GaN層を2μm成長してテンプレートを完成した。
GaNバッファ層の成長時には、III族ラインにHClを10sccm、水素・窒素の
混合ガスを790sccm流し、ドーピングラインには窒素ガスを1slm流し、V族ラインにはNH3を1slm、水素・窒素の混合ガスを2slm流した。これにより、200nm/分の成長速度でアンドープのGaNバッファ層を成長した。
一方、1100℃での成長においては、III族ラインにHClを50sccm、水素・
窒素の混合ガスを750sccm流し、ドーピングラインには、アンドープGaN層の成長時は窒素ガスを1slm流し、n型GaN層の成長時はジクロロシランとHCl50s
ccmを窒素キャリアガスと合計で1slm流し、V族ラインにはNH3を1slm、水素・窒素の混合ガスを2slm流した。これにより、1μm/分の成長速度でGaN層を成長した。
【0069】
また、成長実験は、実施例1で調べた遅れ時間を加味して行った。すなわち、n型GaN層の成長終了に際しては、まずHClガスをOffとして、その後、あらかじめ測定した遅れ時間が経過した後に、ジクロロシランをOffとした。このようにすることで、遅れ時間に起因したアンドープ層が成長しないようにした。しかしながら、この場合にも遷移時間内には成長領域にGaClが供給されるため、これに起因したアンドープ層が成長するため、得られたテンプレートの表面にはその遷移時間に対応する厚さの低Siドープ層が形成される。
【0070】
成長により得られたテンプレートのGaN膜はいずれも平坦な表面と、0.5〜8×1
08/cm2程度の転位密度を有していた。しかしながら、原料容器の違いにより、GaN膜の表面近傍のSi濃度分布は異なるものとなっていた。図12は図3(a)、(f)に示す原料容器1a、1fを用いて成長したテンプレートのGaN表面近傍の不純物(Si)濃度分布をSIMSにより調べた結果である。いずれの場合も、結晶の表面から遠い位置では7×1018/cm3程度の一定のSi濃度となっている。しかし、図3(a)の何も仕切り板の無い原料容器1aを用いた場合には、GaN膜の表面から700nm程度にわたってSi濃度が低下しており、最もSi濃度が低下している位置ではSi濃度は1×1017/cm3程度にまで低下していた。一方、図3(f)の原料容器1fを用いた場合には、GaN膜の表面でSi濃度が低下している厚さは僅か17nmであり、また、キャリア濃度の最小値も5.5×1018/cm3程度と僅かの減少に留まっていた。
本実施例では、17nmより深い箇所においては、キャリア濃度の平均は7.0×10
18/cm3であり、キャリア濃度はキャリア濃度の平均値から±10%以内であった。また、偏差(標準偏差)σを計算したところ、5%内に制御できていた。
次に、ターゲットとするキャリア濃度を4×1017/cm3〜3×1019/cm3まで変更し、試料作製を繰り返し実施した。そして、全ての試料において、目標のキャリア濃度(平均から±10%以内)、かつキャリア濃度の偏差σを5%以下に制御することができた。供給するSi原料(ジクロロシラン)の量を変化させ気相成長中のSi原料濃度を変化させたところ、ターゲットとするGaN膜中のキャリア濃度を上記17乗台から19乗台としても、原料の変化量に応じて安定的にキャリア濃度の調整をすることができた。また、遷移時間の調整・制御が可能になるので、表面の低Siドープ層の厚さを制御することができた。
【0071】
(実施例5−1)
次に、実施例4で製作した最表面に薄い低Si濃度層を有するテンプレートを用いて、窒化物半導体デバイスとして青色のLED素子を作製した。
【0072】
LED素子を作製に先だって、まず、表2に示すガス流路の流路幅を2〜10cmの範囲で変えた原料容器を用いて製作したテンプレートに対する同様の実験を行った。その結果を図13に示す。図13に示すように、ガス流路の流路幅の減少に伴い、低Si濃度層の厚さを薄くできることが確認された。また同時に、低Si濃度層内の最低Si濃度も、低Si濃度層厚の減少に伴い増加した。
低Si濃度層厚とSiの最低濃度は、それぞれ流路幅10cmの原料容器1cでは470nmと8.4×1017/cm3、流路幅6.7cmの原料容器1eでは130nmと1.2×1018/cm3、流路幅5cmの原料容器では60nmと4.0×1018/cm3、流路幅4cmの原料容器では48nmと4.7×1018/cm3、流路幅3.3cmの原料容器1fでは17nmと5.5×1018/cm3、流路幅2cmの原料容器では
10nmと6.0×1018/cm3であった。
【0073】
次に、ガス流路の流路幅2〜10cmの原料容器を用いて、実施例4で製作したテンプレートを、MOVPE装置に設置し、図15に示すように、テンプレート33上に青色LED構造の半導体層を成長した。テンプレート33は、サファイア基板30上に、GaNバッファ層31と、下層のアンドープGaN層及び上層のn型GaN層からなるGaN層32とが積層されたものである。MOVPE装置を用いたLED構造の半導体層の成長手順を次に説明する。
まず、300Torrの圧力下で、水素、窒素、アンモニアを流しつつテンプレート33の温度を1050℃に昇温する。その後、Ga原料としてトリメチルガリウム(TMG)とともにn型ドーパントとしてシランガスをMOVPE装置に導入し、2μm/時の成長速度で1μmのn型GaN層34を成長した。n型GaN層34のキャリア濃度は、5×1018/cm3であった。
n型GaN層34の成長に引き続き、成長温度は700℃として、窒素、アンモニアガスを流しつつ、6ペアのInGaN/GaN多重量子井戸層35(InGaNの厚さ2nm、GaNの厚さ15nm)を成長した。その上には、成長温度1000℃で、厚さ50nmのp型AlGaN層36(Al組成=0.15)およびp型GaNコンタクト層37
(厚さ=0.3μm、キャリア濃度=5×1017/cm3)を成長した。Ga原料とし
てトリメチルガリウム(TMG)、In原料としてトリメチルインジウム(TMI)、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)、p型ドーパントとしてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
上記の積層構造成長後に、基板温度を室温付近に下げ、基板をMOVPE装置より取出した。その後、得られた基板表面の半導体層をRIE(Reactive Ion Etching)により部分的にエッチング除去し、n型GaN層34(またはGaN層32上層のn型GaN層)の一部を露出させてTi/Alのn側電極38を形成した。さらにp型GaNコンタクト層37上にNi/Au半透明電極およびp電極パッド39を形成して、図15に示す構造の青色LEDを作製した。
【0074】
表2に示す流路幅を異にする各原料容器を用いて製作したテンプレートをそれぞれ30枚ずつ準備し、テンプレート上に上記MOVPE成長及び電極形成を行ってLEDを製作し、ウエハ全面から1万個ずつのLED素子を選択し、LED素子の特性を調べた。発光波長はいずれも440〜475nmとほぼ一定であった。また、20mA通電時の光出力は4〜6mWであり、駆動電圧は3.4〜5Vの間であった。このうち、駆動電圧が実用
レベルにある3.6V以下のLED素子を合格とし、これより大きい駆動電圧の素子を不
合格として各GaN膜におけるLEDの歩留を調べた結果を図14に示す。
【0075】
表2の各原料容器を用いて製作したテンプレートにより作製したLED素子のうち、ガス流路の幅が5cm以下の原料容器を用いた場合には、歩留が80%以上であったが、ガス流路の幅が5cmよりも広くなると、歩留は80%未満に低下している。サファイア基板上に全てMOVPE成長で上記と同様のLED構造を成長した場合の歩留は81%であったので、HVPE成長のテンプレートを用いた上記LEDにおいて、従来の全てMOVPEで半導体層を作製したLEDと同等の歩留を得るためには、ガス流路の幅を5cm以下にし、図13に示したようにテンプレート表面の低Si濃度層の厚さを60nm以下とする必要があるということが言える。
【0076】
上記の歩留低下の原因は、テンプレート表面の低Si濃度層の存在と、n側電極38の形成のために行ったRIEによるエッチング深さのふらつきによる。先に述べたようにガス流路の幅が5cmより大きい場合には、テンプレート表面の低キャリア濃度層が厚くなり、また、その層の最小キャリア濃度も小さくなる。上記のエッチングにおけるエッチング深さはMOVPE成長のn型GaN層34に十分届く深さとして1μmを狙ったが、生産性向上のためにRIEの反応室全体(直径200mm)にウエハを敷き詰めるため、反
応室の中心と端でのエッチング速度の違い(1〜1.6μm/hr)が生じる影響で、エ
ッチングにより表れたn側電極38を形成する面が上述のテンプレート表面の低Si濃度層になる場合があり、低Si濃度層が厚い場合には、エッチングによるn側電極の形成面が低Si濃度層となる割合が増えるとともに、低Si濃度層のSi濃度自体が低いためにコンタクト抵抗が上昇し、歩留が低下したのである。
【0077】
上述の80%以上という高い歩留のLEDを、HVPE法によるテンプレートを用いて実現するためには、本発明の金属塩化物ガスの発生装置が不可欠であった。すなわち、本発明の金属塩化物ガスの発生装置を備えたHVPE装置により作製されたテンプレート(テンプレートの最上部が導電型を制御する不純物を含む膜であり、上記不純物濃度が、少なくとも表面から60nmの深さから1μmの深さまでは概ね一定であり、最表面の低不純物濃度層の厚さが60nm以下であるHVPE法によるテンプレート)を用いることで、全てMOVPE法でサファイア基板上に半導体層を形成したLEDと同等の歩留を、HVPE法によるテンプレートを用いて初めて実現できたのである。
【0078】
(実施例5−2)
上記の最表面に薄い低キャリア濃度層を有する窒化物半導体ウエハを用いて、窒化物半導体デバイスとしてショットキーバリアダイオード(SBD)を作製した。SBDの場合、最表面のキャリア濃度が高すぎるとダイオードの逆リーク電流が増え、一方、最表面のキャリア濃度が低すぎるとオーミック抵抗が増えるので、最表面のキャリア濃度は厳密に制御することが必要である。SBDでは、最表面の低キャリア濃度層を60nm以下、好ましくは20nm以下に形成するとよい。本発明では、GaN層中だけでなく、表面近傍の濃度制御も可能なので、SBDの形成にも好適である。
図18に、作製したショットキーバリアダイオード(SBD)41を示す。SBD41は、まず、サファイア基板42上に、本発明のHVPE装置を用いて、n型GaN層(厚さ5〜8μm、キャリア濃度4×1017/cm3)43を形成した窒化物半導体ウエハを作製し、この窒化物半導体ウエハのn型GaN層43上にオーミック電極44とショットキー電極45を形成したものである。この実施例では、n型GaN層43上の中央にショットキー電極45を形成し、ショットキー電極45を囲むようにその外周にオーミック電極44を形成した。本発明のHVPE装置、製法を採用することで、n−GaN層43におけるキャリア濃度分布を、キャリア濃度の平均値から±10%以内、且つ偏差を5%以内で、最表面の低キャリア濃度層を20nm以下に制御することができ、良好な特性のSBDが得られた。
【0079】
(実施例6)
実施例4、5と同様の実験を、原料容器の温度を700〜950℃の間で行ったところ、実施例4,5と同様の結果を得た。
原料容器の温度が700℃未満の場合には、安定時のGaClの濃度が減少し、これに伴いHVPE装置の成長部におけるGaN層の成長速度が低下した。また、GaN層の転位密度も増加した。これらは、原料容器の温度が低すぎたために未反応のHClが発生したためと思われる。一方、原料容器の温度が950℃よりも高い場合には、安定時のGaCl濃度は高い値を維持したが、成長したGaN表面に点状の異常部が高密度に発生し、LEDを成長可能なテンプレートとならなかった。この場合、原料容器の温度が高いため、GaClと同時に蒸気状態のGaも成長部に運ばれ、成長中のGaN表面にGa液滴が発生し、これが核となり異常成長が発生したものと思われる。
【0080】
(実施例7)
実施例1〜実施例4と同様であるが、GaをInに変えて、Inを収容する原料容器の温度を300〜800℃の間とし、発生したInClガスを用い、成長部の温度を500℃としてInNテンプレートを製作したところ、実施例4と同様の結果をえた。
原料容器の温度が300℃未満の場合と、800℃より高い場合には、実施例6と同様に、成長速度の低下と転位密度の増加、あるいは、点状の異常成長が観察された。
【0081】
(実施例8)
実施例7と同様の実験を、HClガスをCl2ガスに変えて行った。この場合には、InClガスだけでなく、InCl3ガスも発生する。この場合にも、実施例7とほぼ同様の結果が得られた。
【0082】
(実施例9)
実施例1〜実施例4と同様であるが、GaをAlに変えて、Al保管室の温度を400〜700℃に加熱し、上記入口からHCl含有ガスを導入することで発生するAlCl3含有ガスを用いてAlNテンプレートを製作したところ、実施例1〜実施例4と同様の結果をえた。
Al保管室の温度が400℃より低い場合には、実施例6と同様に成長速度の低下と転位密度の増加が観察された。また、Al保管室の温度を700℃にすると、AlClが発生し、成長装置を構成する石英を腐食するので、Al保管室の温度は700℃以下とした。
【0083】
(実施例10)
上記の実施例1〜実施例9と同様の実験において、窒素ガスを、他の不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、あるいはこれらの混合ガス)に変えて行ったところ、実施例1〜実施例9とほぼ同様の結果を得た。
【0084】
(実施例11)
図3(a)の原料容器1aを設置したHVPE装置、および実施例に係る流路幅が5cm以下で3つ以上の屈曲を持つ原料容器のいずれかを設置したHVPE装置により、上記特許文献1に記載の方法でGaN自立基板を製作した。すなわち、サファイア基板上にアンドープGaN層を成長し、さらにアンドープGaN層上にTi膜を蒸着した基板を、H2とNH3を混合した気流中で熱処理する。これにより、上記Ti膜は微小な穴が形成されたTiN膜となり、上記アンドープGaN層には多数のボイドが形成される。このボイドが形成されたアンドープGaN層及び微小な穴が形成されたTiN膜を有するサファイア基板をテンプレートとし、その上にGaN自立基板となるGaN層を成長した。
GaN層の成長は、実施例4と同様の条件で、GaN成長中の原料容器へのHCl導入量を200sccmとして成長を行った。この条件で、実験的に数μmのGaN膜をサファイア基板上に成長した場合の成長速度は、図3(a)の原料容器1aの場合は160μm/hrであり、上記実施例の原料容器を用いた場合には240μm/hrであった。
【0085】
上記実施例の原料容器を用いた場合には、上記の成長条件で4時間の成長を行ったときに、960μmのGaN自立基板が得られた。このことは、GaN自立基板の成長全体を通じて一定の成長速度が保たれたことを意味する。一方、図3(a)の原料容器1aを用いた場合には、6時間の成長で780μmのGaN自立基板が得られた。この場合の平均成長速度は130μm/hrであり、上記の数μmのGaN膜を成長した実験の結果よりも成長速度が低下していた。これは、図3(a)の仕切板のない原料容器1aを用いた場合には、長時間のGaN自立基板の成長中にGaが消費されることにより、徐々に成長速度が低下したためである。
【0086】
すなわち、本発明の金属塩化物ガスの発生装置を用いて窒化物半導体自立基板を製造することで、従来よりも原料効率を高めることができ、また安定した成長速度で自立基板を製造することが可能となった。この成長速度の安定性は、不純物をドープしたn型、p型、あるいは、半絶縁性のGaN自立基板を成長する際には、極めて重要である。すなわち
、成長速度が時間とともに変化すると、その成長速度の変化率に対応して、結晶中の不純物濃度も変化するため、均一ドープした自立基板を製作することが不可能となるのはもちろん、所望の不純物ドープ量を得ることさえできなくなるからである。
【0087】
本発明の実施例の原料容器を用いることにより、例えば1000μm厚のGaN自立基板製作時の成長速度の変化を、±2%以下に抑制できる。このため不純物濃度の深さ方向のバラツキが±2%以下の不純物ドープのGaN自立基板を製作できる。
上述した1000μm〜2000μm厚のGaN自立基板の製作を、20回繰り返したところ、本発明の実施例の原料容器を用いた場合、GaN成長中の成長速度の変化は±10%以下であった。また、GaN基板(GaN結晶)の不純物濃度のばらつきが±10%以下であり、かつ偏差が±10%以内にある不純物ドープのGaN自立基板を作製できた。原料容器のサイズを変更した本発明の塩化物発生装置を備えるHVPE装置を用いることで、厚さ2000μmを超えるGaN基板の作製もできる。
【0088】
以下に、本発明の変形例を述べる。
【0089】
(変形例1)
図16(a)、(b)および図17に、本発明の金属塩化物ガスの発生装置に用いられる原料容器の変形例を示す。図16(a)の原料容器1gは、図3の原料容器1c、1e、1fと同様の仕切板6が配置された構造であるが、ガス供給口2及びガス排出口3を一方の側壁7に近づけた位置に設け、ガス供給口2の周囲およびガス排出口3の周囲に、袋小路や滞留部となる部分ができるだけ最小限となるようにした原料容器である。
また、図16(b)の原料容器1hは、円形の原料容器であって、原料容器1hの外側のガス供給口2から中心のガス排出口3に向かって、らせん状にガスが流れるガス流路が仕切板12によって形成されている。ガス流路には、3箇所以上の屈曲部Eを有する配置である。この場合、導入されたガスは中心部のガス排出口3から上方あるいは下方に導出されることになる。図16(b)の原料容器1hのような形状の原料容器を用いた場合でも、上記の実施例とほぼ同じ結果が得られている。つまり、本発明にかかる原料容器の要件さえ満たせば、原料容器が円形その他の形状であっても、本発明の効果を得ることができるということである。
また、図17に示す原料容器1iは、図3の原料容器1c、1e、1fと同様の仕切板6が配置された構造において、更にガス流路Pのガス流を乱す構造を付加した例を示す。具体的には、図17に示すように、原料容器内を仕切る仕切板を上記平板状の仕切板6に代えて波板状の仕切板15としたり、仕切板6に突起部16を設けたり、ガス流路P中に棒材17を設けたりしてもよい。
【0090】
(変形例2)
本発明の窒化物半導体ウエハは、使用される窒化物半導体成長用の基板に依存することなく、窒化物半導体膜の最表面の低Si濃度層厚を低減できる。このため、サファイア基板上に窒化物半導体を成長したテンプレートのみならず、GaAs基板、Ga2O3基板、ZnO基板、SiC基板、あるいはSi基板など、サファイア以外の異種基板上にGaN膜を形成したテンプレートにも適用可能である。
【0091】
(変形例3)
更に、本発明は、上述した変形例2と同様の理由から、他の方法で成長したテンプレート上、あるいはGaN、AlN、InN単結晶基板上にGaN膜を形成して、デバイス用の下地を製作する目的にも適用可能である。
【0092】
(変形例4)
本発明に係る上記実施形態あるいは上記実施例などからなる、複数の金属塩化物ガス発
生装置を組み合わせて、GaN、InN、AlNの混晶からなるテンプレートや、窒化物半導体膜を形成することも可能である。
【0093】
(変形例5)
また、本発明の金属塩化物ガスの発生装置は、金属塩化物ガスの急峻なOn/Offが必要な用途全般のみならず、金属塩化物ガス濃度を急峻に増減する用途に対しても効果的である。
一例を挙げると、実施例4のテンプレート上に、HVPE法により実施例5−1と同様のLED構造を積層した場合、従来のHVPE法では不可能であった急峻なヘテロ界面を形成できるため、全てMOVPE法により成長したLEDと同等の特性のLEDを実現することができた。
【0094】
(変形例6)
実施例4のテンプレートにおいては、600℃で成長するGaNバッファに代えて、1100℃でAlNバッファを20nm〜100nm成長し、その上に1100℃にてアンドープGaNとn型GaNを形成しても良い。
【0095】
(変形例7)
本明細書に記載した成長温度、ガス流量、基板の面方位などは、実用上の目的のために、適宜変更しても構わない。例えば、上記実施例4ではHVPE成長温度を1100℃と記述したが、実用的な温度範囲としては1000〜1200℃である。
【符号の説明】
【0096】
1、1a〜1i 原料容器
2 ガス供給口
3 ガス排出口
4 塩素系ガス供給管
5 金属塩化物ガス排出管
6 仕切板
7,7a〜7d 側壁
20 反応容器
25 基板
E 屈曲部
G1 塩素系含有ガス
G2 金属塩化物含有ガス
G3 NH3含有ガス
G4 ドーピング原料含有ガス
M 金属原料
P ガス流路
R 経路
S 空間
W 流路幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原料を収容する原料容器と、
前記原料容器内に塩素系ガスを含む塩素系含有ガスを供給する、前記原料容器に設けられたガス供給口と、
前記塩素系含有ガスに含まれる塩素系ガスと前記金属原料との反応により生成される金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスを前記原料容器外に排出する、前記原料容器に設けられたガス排出口と、
前記原料容器内の前記金属原料の上方の空間を仕切って、前記ガス供給口から前記ガス排出口へと続くガス流路を形成する仕切板とを備え、
前記ガス流路は、前記ガス供給口から前記ガス排出口へと至る一通りの経路となるように形成され、前記ガス流路の水平方向の流路幅が5cm以下であり、且つ前記ガス流路には屈曲部を有することを特徴とする金属塩化物ガスの発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の金属塩化物ガスの発生装置において、前記ガス流路には前記屈曲部が3箇所以上に形成されていることを特徴とする金属塩化物ガスの発生装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属塩化物ガスの発生装置を備えたことを特徴とするハイドライド気相成長装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記ガス供給口から前記ガス排出口までの前記ガス流路を流れるガスの滞在時間を5秒以上とすることを特徴とする金属塩化物ガスの発生方法。
【請求項5】
請求項4に記載の金属塩化物ガスの発生方法において、前記金属原料がGaであり、前記塩素系含有ガスがHCl含有ガスであり、前記原料容器を700℃〜950℃に加熱し、前記金属塩化物含有ガスであるGaCl含有ガスを前記ガス排出口から排出することを特徴とする金属塩化物ガスの発生方法。
【請求項6】
金属塩化物ガスとアンモニアガスを基板に供給して前記基板上にGaN、AlN、InNまたはこれらの混晶からなる膜を形成した窒化物半導体ウエハにおいて、
少なくとも前記膜の上部はキャリア濃度が4×1017〜3×1019の範囲にあって、前記膜の上部の少なくとも表面より60nmの深さから1μmまでの深さにおいては、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差σが5%以内であり、前記膜の最表面の低キャリア濃度層の厚さが60nm以下であることを特徴とする窒化物半導体ウエハ。
【請求項7】
請求項6に記載の窒化物半導体ウエハ上に半導体デバイス構造を形成したことを特徴とする窒化物半導体デバイス。
【請求項8】
基板と、
前記基板上にHVPE法により形成したn型窒化物半導体膜と、
前記n型窒化物半導体膜上にMOVPE法により形成した窒化物半導体発光構造層とを有し、
前記n型窒化物半導体膜は最表面側に60nm以下の厚さの低キャリア濃度層を備え、
前記n型窒化物半導体膜の最表面側の60nmの深さから1μmまでの深さでは、キャリア濃度が4×1018〜8×1018の範囲にあって、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差が5%以内である、
ことを特徴とする窒化物半導体発光ダイオード用ウエハ。
【請求項9】
請求項1または2に記載の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記金属塩化物ガスの発生装置から発生した金属塩化物ガスとアンモニアガスとを基板に供給して、前記基板上に窒化物半導体膜を成長し、前記窒化物半導体膜から窒化物半導体自立基板を製造することを特徴とする窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項10】
金属塩化物ガスとアンモニアガスとから形成される、GaN、AlN、InNまたはこれらの混晶を含む厚さ1000μm以上の窒化物半導体結晶からなり、前記窒化物半導体結晶の厚さ方向の不純物濃度のばらつきが±10%以下であり、且つ偏差が10%以内であることを特徴とする窒化物半導体結晶。
【請求項1】
金属原料を収容する原料容器と、
前記原料容器内に塩素系ガスを含む塩素系含有ガスを供給する、前記原料容器に設けられたガス供給口と、
前記塩素系含有ガスに含まれる塩素系ガスと前記金属原料との反応により生成される金属塩化物ガスを含む金属塩化物含有ガスを前記原料容器外に排出する、前記原料容器に設けられたガス排出口と、
前記原料容器内の前記金属原料の上方の空間を仕切って、前記ガス供給口から前記ガス排出口へと続くガス流路を形成する仕切板とを備え、
前記ガス流路は、前記ガス供給口から前記ガス排出口へと至る一通りの経路となるように形成され、前記ガス流路の水平方向の流路幅が5cm以下であり、且つ前記ガス流路には屈曲部を有することを特徴とする金属塩化物ガスの発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の金属塩化物ガスの発生装置において、前記ガス流路には前記屈曲部が3箇所以上に形成されていることを特徴とする金属塩化物ガスの発生装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属塩化物ガスの発生装置を備えたことを特徴とするハイドライド気相成長装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記ガス供給口から前記ガス排出口までの前記ガス流路を流れるガスの滞在時間を5秒以上とすることを特徴とする金属塩化物ガスの発生方法。
【請求項5】
請求項4に記載の金属塩化物ガスの発生方法において、前記金属原料がGaであり、前記塩素系含有ガスがHCl含有ガスであり、前記原料容器を700℃〜950℃に加熱し、前記金属塩化物含有ガスであるGaCl含有ガスを前記ガス排出口から排出することを特徴とする金属塩化物ガスの発生方法。
【請求項6】
金属塩化物ガスとアンモニアガスを基板に供給して前記基板上にGaN、AlN、InNまたはこれらの混晶からなる膜を形成した窒化物半導体ウエハにおいて、
少なくとも前記膜の上部はキャリア濃度が4×1017〜3×1019の範囲にあって、前記膜の上部の少なくとも表面より60nmの深さから1μmまでの深さにおいては、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差σが5%以内であり、前記膜の最表面の低キャリア濃度層の厚さが60nm以下であることを特徴とする窒化物半導体ウエハ。
【請求項7】
請求項6に記載の窒化物半導体ウエハ上に半導体デバイス構造を形成したことを特徴とする窒化物半導体デバイス。
【請求項8】
基板と、
前記基板上にHVPE法により形成したn型窒化物半導体膜と、
前記n型窒化物半導体膜上にMOVPE法により形成した窒化物半導体発光構造層とを有し、
前記n型窒化物半導体膜は最表面側に60nm以下の厚さの低キャリア濃度層を備え、
前記n型窒化物半導体膜の最表面側の60nmの深さから1μmまでの深さでは、キャリア濃度が4×1018〜8×1018の範囲にあって、キャリア濃度分布はキャリア濃度の平均値から±10%以内の範囲にあり且つ偏差が5%以内である、
ことを特徴とする窒化物半導体発光ダイオード用ウエハ。
【請求項9】
請求項1または2に記載の金属塩化物ガスの発生装置を用い、前記金属塩化物ガスの発生装置から発生した金属塩化物ガスとアンモニアガスとを基板に供給して、前記基板上に窒化物半導体膜を成長し、前記窒化物半導体膜から窒化物半導体自立基板を製造することを特徴とする窒化物半導体自立基板の製造方法。
【請求項10】
金属塩化物ガスとアンモニアガスとから形成される、GaN、AlN、InNまたはこれらの混晶を含む厚さ1000μm以上の窒化物半導体結晶からなり、前記窒化物半導体結晶の厚さ方向の不純物濃度のばらつきが±10%以下であり、且つ偏差が10%以内であることを特徴とする窒化物半導体結晶。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−248803(P2012−248803A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121737(P2011−121737)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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