金属板の外観評価方法
【課題】研磨部及び再研磨部の仕上がり具合を簡単な手法で定量的に評価できる金属板の外観評価方法を提供する。
【解決手段】この金属板の外観評価方法では、金属板1の表面のデジタル画像10をスキャナ4によって取得し、デジタル画像10の一部画像11に含まれる各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値の波形パターンに基づいて研磨部2及び再研磨部3の外観の可否を判断する。波形パターンを用いることで、研磨部2及び再研磨部3の外観を容易かつ定量的に判断できる。また、この方法では、波形パターンに基づいて、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と一致しているデジタル画像10を判断対象として選別する。この前処理により、外観判断工程で用いる波形パターンのS/N比が向上し、判断精度が高められる。
【解決手段】この金属板の外観評価方法では、金属板1の表面のデジタル画像10をスキャナ4によって取得し、デジタル画像10の一部画像11に含まれる各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値の波形パターンに基づいて研磨部2及び再研磨部3の外観の可否を判断する。波形パターンを用いることで、研磨部2及び再研磨部3の外観を容易かつ定量的に判断できる。また、この方法では、波形パターンに基づいて、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と一致しているデジタル画像10を判断対象として選別する。この前処理により、外観判断工程で用いる波形パターンのS/N比が向上し、判断精度が高められる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の外観評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば鉄道車両の外板として用いられる金属板では、予めベルトグラインダ等による研磨が表面に施されている場合がある。例えば特許文献1に記載の鉄道車両構体では、2枚の板状部材の重ね合わせ部分をレーザビームによって加熱溶融して接合する方法において、レーザビームによる溶接線方向と研磨目とがほぼ平行な方向となるように、予め外板の表面に研磨加工を施すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−274914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属板における研磨部は、研磨目自体が意匠性を有している。また、そのため、金属板を研磨した後、その一部が著しく変化した場合などに修復のための再研磨を行う場合もある。しかしながら、現状では、研磨部及び再研磨部の仕上がり具合(外観)の評価は目視に頼っており、評価者に熟練した技能が要求されているという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、研磨部及び再研磨部の仕上がり具合を簡単な手法で定量的に評価できる金属板の外観評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る金属板の外観評価方法は、所定方向に研磨されてなる研磨部と、研磨部が所定方向に更に研磨されてなり、当該研磨部よりも細かい研磨目を有する再研磨部とを表面に有する金属板の外観評価方法であって、金属板の表面をスキャナで走査し、表面のデジタル画像を取得する画像取得工程と、デジタル画像を構成する各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値を行方向及び列方向についてそれぞれ算出し、行方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンと、列方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンとに基づいて、研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と一致しているデジタル画像を選別する画像選別工程と、研磨部及び再研磨部が含まれるように画像選別工程で選別されたデジタル画像の一部画像を抽出する画像抽出工程と、一部画像を構成する各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値を研磨部及び再研磨部における研磨方向に垂直な方向について算出し、研磨方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンに基づいて、研磨部及び再研磨部の外観の可否を判断する外観判断工程と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
この金属板の外観評価方法では、金属板の表面のデジタル画像をスキャナによって取得し、デジタル画像の一部画像に含まれる各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値の波形パターンに基づいて、研磨部及び再研磨部の外観の可否を判断する。このような波形パターンを用いることで、研磨部及び再研磨部の外観を容易かつ定量的に判断することができる。また、この金属板の外観評価方法では、Ac値の波形パターンに基づいて、研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と一致しているデジタル画像を判断対象として選別する。この前処理により、外観判断工程で用いる波形パターンのS/N比が向上し、判断精度を高めることができる。
【0008】
また、画像選別工程において、波形パターンのAc値及び振幅が所定の閾値以下である場合に、デジタル画像における研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と一致していると判断することが好ましい。
【0009】
研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と交差している場合、研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と一致している場合に比べて波形パターンの平均値が高くなり、さらに、行方向及び列方向のいずれかの波形パターンにおいて振幅が大きく乱れる傾向を有する。したがって、波形パターンのAc値及び振幅に閾値を設けることで、S/N比が高いデジタル画像を容易に選別できる。
【0010】
また、外観判断工程において、再研磨部の形成方向に沿って一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の位置が所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、再研磨部の位置ずれの可否を判断することが好ましい。
【0011】
再研磨部の位置ずれは、一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の位置ずれとして現れる。したがって、これらの波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の位置に対して管理限界を設けることで、再研磨部の位置ずれの可否を精度良く判断できる。
【0012】
また、外観判断工程において、再研磨部の形成方向に沿って一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の傾きが所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、研磨部と再研磨部との境界部分のぼかし状態の可否を判断することが好ましい。
【0013】
研磨部と再研磨部との境界部分のぼかし状態は、一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の傾きとして現れる。したがって、これらの波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の傾きに対して管理限界を設けることで、研磨部と再研磨部との境界部分のぼかし状態の可否を精度良く判断できる。
【0014】
また、外観判断工程において、再研磨部の形成方向に沿って一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の裾部の高さが所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、研磨部及び再研磨部の汚れの可否を判断することが好ましい。
【0015】
研磨部及び再研磨部の汚れは、一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の裾部の高さの違いとして現れる。したがって、これらの波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の裾部の高さに対して管理限界を設けることで、研磨部及び再研磨部の汚れの可否を精度良く判断できる。
【0016】
また、外観判断工程において、再研磨部の形成方向に沿って一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分の傾きの絶対値と立ち下がり部分の傾きの絶対値との差が所定の閾値以下であるか否かに基づいて、研磨部と再研磨部との境界部分の研磨ムラの可否を判断することが好ましい。
【0017】
研磨部と再研磨部との境界部分の研磨ムラは、一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分の傾きの絶対値と立ち下がり部分の傾きの絶対値との差として現れる。したがって、これらの波形パターンの立ち上がり部分の傾きの絶対値と立ち下がり部分の傾きの絶対値との差に閾値を設けることで、研磨部と再研磨部との境界部分の研磨ムラの可否を精度良く判断できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る金属板の外観評価方法によれば、研磨部及び再研磨部の仕上がり具合を簡単な手法で定量的に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る金属板の外観評価方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】外観評価の対象となる金属板の一例を示す図である。
【図3】画像取得工程の一例を示す図である。
【図4】画像選別工程におけるデジタル画像のAc値の算出例を示す図である。
【図5】画像選別工程におけるデジタル画像のAc値の波形パターンの一例を行方向について示す図である。
【図6】画像選別工程におけるデジタル画像のAc値の波形パターンの一例を列方向について示す図である。
【図7】画像抽出工程の一例を示す図である。
【図8】外観判断工程における再研磨部の位置ずれの可否の判断例を示す図である。
【図9】外観判断工程における研磨部と再研磨部との境界部分のぼかし状態の可否の判断例を示す図である。
【図10】外観判断工程における研磨部及び再研磨部の汚れの可否の判断例を示す図である。
【図11】外観判断工程における研磨部と再研磨部との境界部分の研磨ムラの可否の判断例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る金属板の外観評価方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[外観評価方法の工程]
図1は、本発明に係る金属板の外観評価方法の一実施形態を示すフローチャートである。この金属板の外観評価方法は、例えば鉄道車両用構体の外板に用いられる金属板の評価に適用される方法であり、図1に示すように、画像取得工程(ステップS01)と、画像選別工程(ステップS02)と、画像抽出工程(ステップS03)と、外観判断工程(ステップS04)とを備えて構成されている。
【0022】
[評価対象物]
図2は、外観評価の対象となる金属板の一例を示す図である。図2に示すように、金属板1は、例えばステンレス鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金などによって形成され、厚さ数mm程度の板状をなしている。金属板1の一面側には、例えばベルトグラインダによって形成された研磨部2が全面に形成されている。研磨部2の研磨目は、例えば鉄道車両の長手方向に沿う向きに形成されている。
【0023】
また、研磨部2の一部は、研磨部2が更に研磨されることにより更に細かい研磨目となった再研磨部3となっている。再研磨部3は、溶接痕や傷などを目立たなくする目的で形成されるものであり、例えば鉄道車両の長手方向に沿って帯状に延びている。再研磨部3の研磨目は、研磨部2の研磨目と同方向に形成されている。研磨部2を形成する研磨材の番手は、例えば40番〜60番であり、再研磨部3を形成する研磨材の番手は、例えば180番〜240番である。
【0024】
以下、金属板の外観評価方法の各工程について説明する。
【0025】
[画像取得工程]
画像取得工程は、金属板1の表面のデジタル画像を取得する工程である。この画像取得工程では、図3に示すように、金属板1の表面をスキャナ4で所定の方向に走査し、例えば2000×500ピクセルで表面のデジタル画像を取得する。スキャナ4の走査は、金属板1の表面において、少なくとも再研磨部3の一部が含まれるように行う。また、スキャナ4の走査は、走査方向を変えて複数回行ってもよい。スキャナ4は、公知の装置を用いることができる。
【0026】
[画像選別工程]
画像選別工程は、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と一致しているデジタル画像を選別する工程である。研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と交差する場合、研磨目での光の複雑な反射がノイズとなり、後続の外観判断工程での判断精度が低下するおそれがある。そこで、ノイズの少ないデジタル画像を外観判断工程で用いるべく、画像選別工程を実施する。
【0027】
この画像選別工程では、まず、画像取得工程で取得したデジタル画像を構成する各ピクセルのRGB値を以下の式(1)を用いてグレースケール変換し、Ac値を得る。この式(1)は、テレビ放送の規格NTSC(National Television System Committee)で使用されているYIQカラーモデルに基づく変換式である。
【数1】
【0028】
次に、各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られたAc値を行方向及び列方向についてそれぞれ算出し、行方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンと、列方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンとを算出する。
【0029】
図4に示す例では、画像取得工程で取得したデジタル画像の任意の箇所を所定の範囲で切り出している。この範囲において、1行目〜n行目の各ピクセルのAc値の平均値Ac(x1)〜Ac(Xn)と、1列目〜n列目の各ピクセルのAc値の平均値Ac(y1)〜Ac(Yn)とを算出し、行方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンと、列方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンとをそれぞれ得る。
【0030】
図5は、行方向についてのAc値の波形パターンの一例を示す図であり、図6は、列方向についてのAc値の波形パターンの一例を示す図である。この図5及び図6では、デジタル画像の任意の箇所を250×1500ピクセルの範囲で切りだし、横軸をピクセル位置、縦軸をAc値の平均値としている。
【0031】
この図5及び図6では、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して平行になっている場合の波形パターン(グラフA)、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して斜め(45°程度)になっている場合の波形パターン(グラフB)、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して垂直になっている場合の波形パターン(グラフC)がそれぞれ例示されている。
【0032】
同図に示す結果から、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して垂直になっている場合には、Ac値の波形パターンの振幅に大きな変動が現れることがわかる(図5のグラフC参照)。また、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して平行になっている場合には、垂直及び斜めの場合に比べてAc値が3分の1程度になっていることがわかる(図5及び図6のグラフA参照)。
【0033】
そこで、画像選別工程では、波形パターンのAc値及び振幅に対して閾値を設け、波形パターンのAc値及び振幅がいずれも閾値以下となるデジタル画像を、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と一致しているデジタル画像であると判断し、画像取得工程で取得したデジタル画像の中から選別する。
【0034】
[画像抽出工程]
画像抽出工程は、研磨部2及び再研磨部3が含まれるように画像選別工程で選別されたデジタル画像の一部画像を抽出する工程である。より具体的には、例えば図7に示すように、デジタル画像10の全領域の中から、再研磨部3が中央部分で略直交するような範囲で複数(本実施形態では3箇所)の一部画像11(11a,11b,11c)を抽出する。一部画像11a,11b,11cは、例えば2000×500ピクセルの範囲で、再研磨部3の延在方向に沿って互いに離間して抽出することが好ましい。
【0035】
[外観判断工程]
外観判断工程は、研磨部2及び再研磨部3の外観の可否を判断する工程である。この外観判断工程では、まず、画像選別工程と同様の手法で、一部画像11a,11b,11cに含まれる各ピクセルのRGB値をグレースケール変換し、Ac値を得る。次に、行方向(再研磨部3に垂直な方向)について、1行目〜n行目の各ピクセルのAc値の平均値Ac(x1)〜Ac(Xn)を算出し、行方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンを一部画像11a,11b,11cごとに算出する。
【0036】
本実施形態では、金属板1の外観評価項目として、再研磨部3の位置ずれ、研磨部2と再研磨部3との境界部分のぼかし状態、研磨部2及び再研磨部3の汚れ、及び研磨部2と再研磨部3との境界部分の研磨ムラの4項目を例示する。
【0037】
図8は、再研磨部3の位置ずれの可否の判断例を示す図である。同図では、横軸をピクセル位置、縦軸をAc値とし、一部画像11a,11b,11cからそれぞれ算出される3つの波形パターンA,B,Cを示している。波形パターンA,B,Cは、基本的な形として、再研磨部3に対応する凸部A1,B1,C1と、研磨部2に対応する裾部A2,B2,C2とを有している。また、波形パターンA,B,Cは、一方側の研磨部2と再研磨部3との境界部分に対応する立ち上がり部分A3,B3,C3と、他方側の研磨部2と再研磨部3との境界部分に対応する立ち下がり部分A4,B4,C4とを有している。
【0038】
再研磨部3の位置ずれは、例えば管理限界を用いた波形解析によって評価する。この波形解析では、予め基準用(位置ずれに異常がないと判断されるもの)の波形パターンのAc値の移動平均を求め、移動平均化後の波形パターンに含まれる各Ac値を、その標準偏差σに基づいて正規化する。次に、標準偏差σを3倍して得られる正規化値を移動平均値に加算したものを上管理限界(+3σ)、標準偏差を3倍して得られる正規化値を移動平均値から減算したものを下管理限界(−3σ)とする。
【0039】
ここで、再研磨部3の位置ずれは、図8に示すように、一部画像11a,11b,11cから算出される各波形パターンA,B,Cの立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4の横軸方向の位置ずれとして現れる。したがって、立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4の全てが上管理限界と下管理限界との間に収まっている場合には、位置ずれに異常がないと判断し、立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4のいずれかが上管理限界と下管理限界との間に収まっていない場合には、位置ずれに異常があると判断する。
【0040】
図9は、研磨部2と再研磨部3との境界部分のぼかし状態の可否の判断例を示す図である。ここでのぼかし状態とは、研磨部2と再研磨部3との相似性を指している。研磨部2と再研磨部3との境界部分のぼかし状態は、一部画像11a,11b,11cから算出される各波形パターンA,B,Cの立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4の傾きとして現れる。
【0041】
したがって、図8の場合と同様の手法で、予め基準用(ぼかし状態が設計どおりであると判断されるもの)の波形パターンから上管理限界(+3σ)及び下管理限界(−3σ)を設定し、立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4の全てが上管理限界と下管理限界との間に収まっている場合には、ぼかし状態が設計どおりであると判断し、立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4のいずれかが上管理限界と下管理限界との間に収まっていない場合には、ぼかし状態が設計どおりでないと判断する。
【0042】
図10は、研磨部2及び再研磨部3の汚れの可否の判断例を示す図である。ここでの汚れとは、例えばけがき跡、ペン跡、油汚れ、指紋、シンナー汚れなどを指している。研磨部2及び再研磨部3の汚れは、一部画像11a,11b,11cから算出される各波形パターンA,B,Cの裾部A2,B2,C2の高さの違いとして現れる。
【0043】
したがって、図8の場合と同様の手法で、予め基準用(汚れに異常がないと判断されるもの)の波形パターンから上管理限界(+3σ)及び下管理限界(−3σ)を設定し、裾部A2,B2,C2の全てが上管理限界と下管理限界との間に収まっている場合には、汚れの異常がないと判断し、裾部A2,B2,C2のいずれかが上管理限界と下管理限界との間に収まっていない場合には、汚れの異常があると判断する。
【0044】
図11は、研磨部2と再研磨部3との境界部分の研磨ムラの可否の判断例を示す図である。ここでの研磨ムラとは、研磨部2と再研磨部3との境界部分の一部で研磨不足(かすれ)が生じていることを指している。研磨部2と再研磨部3との境界部分の研磨ムラは、一部画像11a,11b,11cから算出される各波形パターンA,B,Cの立ち上がり部分A3,B3,C3の傾きの絶対値と立ち下がり部分A4,B4,C4の傾きの絶対値との差として現れる。
【0045】
したがって、立ち上がり部分A3,B3,C3の傾きの絶対値と立ち下がり部分A4,B4,C4の傾きの絶対値との差に閾値を設けておき、傾きの絶対値の差が閾値以下である場合には、研磨ムラの異常がないと判断し、傾きの絶対値の差が閾値を超える場合には、研磨ムラの異常があると判断する。
【0046】
なお、傾きの絶対値の差は、波形パターンごとに算出すればよい。すなわち、立ち上がり部分A3の傾きの絶対値と立ち下がり部分A4の傾きの絶対値との差、立ち上がり部分B3の傾きの絶対値と立ち下がり部分B4の傾きの絶対値との差、立ち上がり部分C3の傾きの絶対値と立ち下がり部分C4の傾きの絶対値との差をそれぞれ算出し、いずれかの傾きの絶対値の差が閾値を超える場合に、研磨ムラの異常があると判断すればよい。
【0047】
以上説明したように、この金属板の外観評価方法では、金属板1の表面のデジタル画像をスキャナ4によって取得し、デジタル画像10の一部画像11に含まれる各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値の波形パターンに基づいて、研磨部2及び再研磨部3の外観の可否を判断する。このような波形パターンを用いることで、研磨部2及び再研磨部3の外観を容易かつ定量的に判断することができる。
【0048】
また、この金属板の外観評価方法では、Ac値の波形パターンに基づいて、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と一致しているデジタル画像10を判断対象として選別する。この前処理により、外観判断工程で用いる波形パターンのS/N比が向上し、判断精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…金属板、2…研磨部、3…再研磨部、4…スキャナ、10…デジタル画像、11(11a,11b,11c)…一部画像、A,B,C…波形パターン、A2,B2,C2…裾部、A3,B3,C3…立ち上がり部分、A4,B4,C4…立ち下がり部分。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の外観評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば鉄道車両の外板として用いられる金属板では、予めベルトグラインダ等による研磨が表面に施されている場合がある。例えば特許文献1に記載の鉄道車両構体では、2枚の板状部材の重ね合わせ部分をレーザビームによって加熱溶融して接合する方法において、レーザビームによる溶接線方向と研磨目とがほぼ平行な方向となるように、予め外板の表面に研磨加工を施すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−274914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属板における研磨部は、研磨目自体が意匠性を有している。また、そのため、金属板を研磨した後、その一部が著しく変化した場合などに修復のための再研磨を行う場合もある。しかしながら、現状では、研磨部及び再研磨部の仕上がり具合(外観)の評価は目視に頼っており、評価者に熟練した技能が要求されているという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、研磨部及び再研磨部の仕上がり具合を簡単な手法で定量的に評価できる金属板の外観評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る金属板の外観評価方法は、所定方向に研磨されてなる研磨部と、研磨部が所定方向に更に研磨されてなり、当該研磨部よりも細かい研磨目を有する再研磨部とを表面に有する金属板の外観評価方法であって、金属板の表面をスキャナで走査し、表面のデジタル画像を取得する画像取得工程と、デジタル画像を構成する各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値を行方向及び列方向についてそれぞれ算出し、行方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンと、列方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンとに基づいて、研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と一致しているデジタル画像を選別する画像選別工程と、研磨部及び再研磨部が含まれるように画像選別工程で選別されたデジタル画像の一部画像を抽出する画像抽出工程と、一部画像を構成する各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値を研磨部及び再研磨部における研磨方向に垂直な方向について算出し、研磨方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンに基づいて、研磨部及び再研磨部の外観の可否を判断する外観判断工程と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
この金属板の外観評価方法では、金属板の表面のデジタル画像をスキャナによって取得し、デジタル画像の一部画像に含まれる各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値の波形パターンに基づいて、研磨部及び再研磨部の外観の可否を判断する。このような波形パターンを用いることで、研磨部及び再研磨部の外観を容易かつ定量的に判断することができる。また、この金属板の外観評価方法では、Ac値の波形パターンに基づいて、研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と一致しているデジタル画像を判断対象として選別する。この前処理により、外観判断工程で用いる波形パターンのS/N比が向上し、判断精度を高めることができる。
【0008】
また、画像選別工程において、波形パターンのAc値及び振幅が所定の閾値以下である場合に、デジタル画像における研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と一致していると判断することが好ましい。
【0009】
研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と交差している場合、研磨部及び再研磨部の研磨方向がスキャナの走査方向と一致している場合に比べて波形パターンの平均値が高くなり、さらに、行方向及び列方向のいずれかの波形パターンにおいて振幅が大きく乱れる傾向を有する。したがって、波形パターンのAc値及び振幅に閾値を設けることで、S/N比が高いデジタル画像を容易に選別できる。
【0010】
また、外観判断工程において、再研磨部の形成方向に沿って一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の位置が所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、再研磨部の位置ずれの可否を判断することが好ましい。
【0011】
再研磨部の位置ずれは、一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の位置ずれとして現れる。したがって、これらの波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の位置に対して管理限界を設けることで、再研磨部の位置ずれの可否を精度良く判断できる。
【0012】
また、外観判断工程において、再研磨部の形成方向に沿って一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の傾きが所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、研磨部と再研磨部との境界部分のぼかし状態の可否を判断することが好ましい。
【0013】
研磨部と再研磨部との境界部分のぼかし状態は、一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の傾きとして現れる。したがって、これらの波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の傾きに対して管理限界を設けることで、研磨部と再研磨部との境界部分のぼかし状態の可否を精度良く判断できる。
【0014】
また、外観判断工程において、再研磨部の形成方向に沿って一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の裾部の高さが所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、研磨部及び再研磨部の汚れの可否を判断することが好ましい。
【0015】
研磨部及び再研磨部の汚れは、一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の裾部の高さの違いとして現れる。したがって、これらの波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の裾部の高さに対して管理限界を設けることで、研磨部及び再研磨部の汚れの可否を精度良く判断できる。
【0016】
また、外観判断工程において、再研磨部の形成方向に沿って一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分の傾きの絶対値と立ち下がり部分の傾きの絶対値との差が所定の閾値以下であるか否かに基づいて、研磨部と再研磨部との境界部分の研磨ムラの可否を判断することが好ましい。
【0017】
研磨部と再研磨部との境界部分の研磨ムラは、一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分の傾きの絶対値と立ち下がり部分の傾きの絶対値との差として現れる。したがって、これらの波形パターンの立ち上がり部分の傾きの絶対値と立ち下がり部分の傾きの絶対値との差に閾値を設けることで、研磨部と再研磨部との境界部分の研磨ムラの可否を精度良く判断できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る金属板の外観評価方法によれば、研磨部及び再研磨部の仕上がり具合を簡単な手法で定量的に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る金属板の外観評価方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】外観評価の対象となる金属板の一例を示す図である。
【図3】画像取得工程の一例を示す図である。
【図4】画像選別工程におけるデジタル画像のAc値の算出例を示す図である。
【図5】画像選別工程におけるデジタル画像のAc値の波形パターンの一例を行方向について示す図である。
【図6】画像選別工程におけるデジタル画像のAc値の波形パターンの一例を列方向について示す図である。
【図7】画像抽出工程の一例を示す図である。
【図8】外観判断工程における再研磨部の位置ずれの可否の判断例を示す図である。
【図9】外観判断工程における研磨部と再研磨部との境界部分のぼかし状態の可否の判断例を示す図である。
【図10】外観判断工程における研磨部及び再研磨部の汚れの可否の判断例を示す図である。
【図11】外観判断工程における研磨部と再研磨部との境界部分の研磨ムラの可否の判断例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る金属板の外観評価方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[外観評価方法の工程]
図1は、本発明に係る金属板の外観評価方法の一実施形態を示すフローチャートである。この金属板の外観評価方法は、例えば鉄道車両用構体の外板に用いられる金属板の評価に適用される方法であり、図1に示すように、画像取得工程(ステップS01)と、画像選別工程(ステップS02)と、画像抽出工程(ステップS03)と、外観判断工程(ステップS04)とを備えて構成されている。
【0022】
[評価対象物]
図2は、外観評価の対象となる金属板の一例を示す図である。図2に示すように、金属板1は、例えばステンレス鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金などによって形成され、厚さ数mm程度の板状をなしている。金属板1の一面側には、例えばベルトグラインダによって形成された研磨部2が全面に形成されている。研磨部2の研磨目は、例えば鉄道車両の長手方向に沿う向きに形成されている。
【0023】
また、研磨部2の一部は、研磨部2が更に研磨されることにより更に細かい研磨目となった再研磨部3となっている。再研磨部3は、溶接痕や傷などを目立たなくする目的で形成されるものであり、例えば鉄道車両の長手方向に沿って帯状に延びている。再研磨部3の研磨目は、研磨部2の研磨目と同方向に形成されている。研磨部2を形成する研磨材の番手は、例えば40番〜60番であり、再研磨部3を形成する研磨材の番手は、例えば180番〜240番である。
【0024】
以下、金属板の外観評価方法の各工程について説明する。
【0025】
[画像取得工程]
画像取得工程は、金属板1の表面のデジタル画像を取得する工程である。この画像取得工程では、図3に示すように、金属板1の表面をスキャナ4で所定の方向に走査し、例えば2000×500ピクセルで表面のデジタル画像を取得する。スキャナ4の走査は、金属板1の表面において、少なくとも再研磨部3の一部が含まれるように行う。また、スキャナ4の走査は、走査方向を変えて複数回行ってもよい。スキャナ4は、公知の装置を用いることができる。
【0026】
[画像選別工程]
画像選別工程は、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と一致しているデジタル画像を選別する工程である。研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と交差する場合、研磨目での光の複雑な反射がノイズとなり、後続の外観判断工程での判断精度が低下するおそれがある。そこで、ノイズの少ないデジタル画像を外観判断工程で用いるべく、画像選別工程を実施する。
【0027】
この画像選別工程では、まず、画像取得工程で取得したデジタル画像を構成する各ピクセルのRGB値を以下の式(1)を用いてグレースケール変換し、Ac値を得る。この式(1)は、テレビ放送の規格NTSC(National Television System Committee)で使用されているYIQカラーモデルに基づく変換式である。
【数1】
【0028】
次に、各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られたAc値を行方向及び列方向についてそれぞれ算出し、行方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンと、列方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンとを算出する。
【0029】
図4に示す例では、画像取得工程で取得したデジタル画像の任意の箇所を所定の範囲で切り出している。この範囲において、1行目〜n行目の各ピクセルのAc値の平均値Ac(x1)〜Ac(Xn)と、1列目〜n列目の各ピクセルのAc値の平均値Ac(y1)〜Ac(Yn)とを算出し、行方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンと、列方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンとをそれぞれ得る。
【0030】
図5は、行方向についてのAc値の波形パターンの一例を示す図であり、図6は、列方向についてのAc値の波形パターンの一例を示す図である。この図5及び図6では、デジタル画像の任意の箇所を250×1500ピクセルの範囲で切りだし、横軸をピクセル位置、縦軸をAc値の平均値としている。
【0031】
この図5及び図6では、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して平行になっている場合の波形パターン(グラフA)、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して斜め(45°程度)になっている場合の波形パターン(グラフB)、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して垂直になっている場合の波形パターン(グラフC)がそれぞれ例示されている。
【0032】
同図に示す結果から、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して垂直になっている場合には、Ac値の波形パターンの振幅に大きな変動が現れることがわかる(図5のグラフC参照)。また、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向に対して平行になっている場合には、垂直及び斜めの場合に比べてAc値が3分の1程度になっていることがわかる(図5及び図6のグラフA参照)。
【0033】
そこで、画像選別工程では、波形パターンのAc値及び振幅に対して閾値を設け、波形パターンのAc値及び振幅がいずれも閾値以下となるデジタル画像を、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と一致しているデジタル画像であると判断し、画像取得工程で取得したデジタル画像の中から選別する。
【0034】
[画像抽出工程]
画像抽出工程は、研磨部2及び再研磨部3が含まれるように画像選別工程で選別されたデジタル画像の一部画像を抽出する工程である。より具体的には、例えば図7に示すように、デジタル画像10の全領域の中から、再研磨部3が中央部分で略直交するような範囲で複数(本実施形態では3箇所)の一部画像11(11a,11b,11c)を抽出する。一部画像11a,11b,11cは、例えば2000×500ピクセルの範囲で、再研磨部3の延在方向に沿って互いに離間して抽出することが好ましい。
【0035】
[外観判断工程]
外観判断工程は、研磨部2及び再研磨部3の外観の可否を判断する工程である。この外観判断工程では、まず、画像選別工程と同様の手法で、一部画像11a,11b,11cに含まれる各ピクセルのRGB値をグレースケール変換し、Ac値を得る。次に、行方向(再研磨部3に垂直な方向)について、1行目〜n行目の各ピクセルのAc値の平均値Ac(x1)〜Ac(Xn)を算出し、行方向のピクセル位置に対するAc値の波形パターンを一部画像11a,11b,11cごとに算出する。
【0036】
本実施形態では、金属板1の外観評価項目として、再研磨部3の位置ずれ、研磨部2と再研磨部3との境界部分のぼかし状態、研磨部2及び再研磨部3の汚れ、及び研磨部2と再研磨部3との境界部分の研磨ムラの4項目を例示する。
【0037】
図8は、再研磨部3の位置ずれの可否の判断例を示す図である。同図では、横軸をピクセル位置、縦軸をAc値とし、一部画像11a,11b,11cからそれぞれ算出される3つの波形パターンA,B,Cを示している。波形パターンA,B,Cは、基本的な形として、再研磨部3に対応する凸部A1,B1,C1と、研磨部2に対応する裾部A2,B2,C2とを有している。また、波形パターンA,B,Cは、一方側の研磨部2と再研磨部3との境界部分に対応する立ち上がり部分A3,B3,C3と、他方側の研磨部2と再研磨部3との境界部分に対応する立ち下がり部分A4,B4,C4とを有している。
【0038】
再研磨部3の位置ずれは、例えば管理限界を用いた波形解析によって評価する。この波形解析では、予め基準用(位置ずれに異常がないと判断されるもの)の波形パターンのAc値の移動平均を求め、移動平均化後の波形パターンに含まれる各Ac値を、その標準偏差σに基づいて正規化する。次に、標準偏差σを3倍して得られる正規化値を移動平均値に加算したものを上管理限界(+3σ)、標準偏差を3倍して得られる正規化値を移動平均値から減算したものを下管理限界(−3σ)とする。
【0039】
ここで、再研磨部3の位置ずれは、図8に示すように、一部画像11a,11b,11cから算出される各波形パターンA,B,Cの立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4の横軸方向の位置ずれとして現れる。したがって、立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4の全てが上管理限界と下管理限界との間に収まっている場合には、位置ずれに異常がないと判断し、立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4のいずれかが上管理限界と下管理限界との間に収まっていない場合には、位置ずれに異常があると判断する。
【0040】
図9は、研磨部2と再研磨部3との境界部分のぼかし状態の可否の判断例を示す図である。ここでのぼかし状態とは、研磨部2と再研磨部3との相似性を指している。研磨部2と再研磨部3との境界部分のぼかし状態は、一部画像11a,11b,11cから算出される各波形パターンA,B,Cの立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4の傾きとして現れる。
【0041】
したがって、図8の場合と同様の手法で、予め基準用(ぼかし状態が設計どおりであると判断されるもの)の波形パターンから上管理限界(+3σ)及び下管理限界(−3σ)を設定し、立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4の全てが上管理限界と下管理限界との間に収まっている場合には、ぼかし状態が設計どおりであると判断し、立ち上がり部分A3,B3,C3及び立ち下がり部分A4,B4,C4のいずれかが上管理限界と下管理限界との間に収まっていない場合には、ぼかし状態が設計どおりでないと判断する。
【0042】
図10は、研磨部2及び再研磨部3の汚れの可否の判断例を示す図である。ここでの汚れとは、例えばけがき跡、ペン跡、油汚れ、指紋、シンナー汚れなどを指している。研磨部2及び再研磨部3の汚れは、一部画像11a,11b,11cから算出される各波形パターンA,B,Cの裾部A2,B2,C2の高さの違いとして現れる。
【0043】
したがって、図8の場合と同様の手法で、予め基準用(汚れに異常がないと判断されるもの)の波形パターンから上管理限界(+3σ)及び下管理限界(−3σ)を設定し、裾部A2,B2,C2の全てが上管理限界と下管理限界との間に収まっている場合には、汚れの異常がないと判断し、裾部A2,B2,C2のいずれかが上管理限界と下管理限界との間に収まっていない場合には、汚れの異常があると判断する。
【0044】
図11は、研磨部2と再研磨部3との境界部分の研磨ムラの可否の判断例を示す図である。ここでの研磨ムラとは、研磨部2と再研磨部3との境界部分の一部で研磨不足(かすれ)が生じていることを指している。研磨部2と再研磨部3との境界部分の研磨ムラは、一部画像11a,11b,11cから算出される各波形パターンA,B,Cの立ち上がり部分A3,B3,C3の傾きの絶対値と立ち下がり部分A4,B4,C4の傾きの絶対値との差として現れる。
【0045】
したがって、立ち上がり部分A3,B3,C3の傾きの絶対値と立ち下がり部分A4,B4,C4の傾きの絶対値との差に閾値を設けておき、傾きの絶対値の差が閾値以下である場合には、研磨ムラの異常がないと判断し、傾きの絶対値の差が閾値を超える場合には、研磨ムラの異常があると判断する。
【0046】
なお、傾きの絶対値の差は、波形パターンごとに算出すればよい。すなわち、立ち上がり部分A3の傾きの絶対値と立ち下がり部分A4の傾きの絶対値との差、立ち上がり部分B3の傾きの絶対値と立ち下がり部分B4の傾きの絶対値との差、立ち上がり部分C3の傾きの絶対値と立ち下がり部分C4の傾きの絶対値との差をそれぞれ算出し、いずれかの傾きの絶対値の差が閾値を超える場合に、研磨ムラの異常があると判断すればよい。
【0047】
以上説明したように、この金属板の外観評価方法では、金属板1の表面のデジタル画像をスキャナ4によって取得し、デジタル画像10の一部画像11に含まれる各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値の波形パターンに基づいて、研磨部2及び再研磨部3の外観の可否を判断する。このような波形パターンを用いることで、研磨部2及び再研磨部3の外観を容易かつ定量的に判断することができる。
【0048】
また、この金属板の外観評価方法では、Ac値の波形パターンに基づいて、研磨部2及び再研磨部3の研磨方向がスキャナ4の走査方向と一致しているデジタル画像10を判断対象として選別する。この前処理により、外観判断工程で用いる波形パターンのS/N比が向上し、判断精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…金属板、2…研磨部、3…再研磨部、4…スキャナ、10…デジタル画像、11(11a,11b,11c)…一部画像、A,B,C…波形パターン、A2,B2,C2…裾部、A3,B3,C3…立ち上がり部分、A4,B4,C4…立ち下がり部分。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に研磨されてなる研磨部と、前記研磨部が前記所定方向に更に研磨されてなり、当該研磨部よりも細かい研磨目を有する再研磨部とを表面に有する金属板の外観評価方法であって、
前記金属板の表面をスキャナで走査し、前記表面のデジタル画像を取得する画像取得工程と、
前記デジタル画像を構成する各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値を行方向及び列方向についてそれぞれ算出し、前記行方向のピクセル位置に対する前記Ac値の波形パターンと、前記列方向のピクセル位置に対する前記Ac値の波形パターンとに基づいて、前記研磨部及び前記再研磨部の研磨方向が前記スキャナの走査方向と一致しているデジタル画像を選別する画像選別工程と、
前記研磨部及び前記再研磨部が含まれるように前記画像選別工程で選別された前記デジタル画像の一部画像を抽出する画像抽出工程と、
前記一部画像を構成する各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値を前記研磨部及び前記再研磨部における研磨方向に垂直な方向について算出し、前記研磨方向のピクセル位置に対する前記Ac値の波形パターンに基づいて、前記研磨部及び前記再研磨部の外観の可否を判断する外観判断工程と、を備えたことを特徴とする金属板の外観評価方法。
【請求項2】
前記画像選別工程において、前記波形パターンのAc値及び振幅が所定の閾値以下である場合に、前記デジタル画像における前記研磨部及び前記再研磨部の研磨方向が前記スキャナの走査方向と一致していると判断することを特徴とする請求項1記載の金属板の外観評価方法。
【請求項3】
前記外観判断工程において、前記再研磨部の形成方向に沿って前記一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の位置が所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、前記再研磨部の位置ずれの可否を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の外観評価方法。
【請求項4】
前記外観判断工程において、前記再研磨部の形成方向に沿って前記一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の傾きが所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、前記研磨部と前記再研磨部との境界部分のぼかし状態の可否を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の外観評価方法。
【請求項5】
前記外観判断工程において、前記再研磨部の形成方向に沿って前記一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の裾部の高さが所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、前記研磨部及び前記再研磨部の汚れの可否を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の外観評価方法。
【請求項6】
前記外観判断工程において、前記再研磨部の形成方向に沿って前記一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分の傾きの絶対値と立ち下がり部分の傾きの絶対値との差が所定の閾値以下であるか否かに基づいて、前記研磨部と前記再研磨部との境界部分の研磨ムラの可否を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の外観評価方法。
【請求項1】
所定方向に研磨されてなる研磨部と、前記研磨部が前記所定方向に更に研磨されてなり、当該研磨部よりも細かい研磨目を有する再研磨部とを表面に有する金属板の外観評価方法であって、
前記金属板の表面をスキャナで走査し、前記表面のデジタル画像を取得する画像取得工程と、
前記デジタル画像を構成する各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値を行方向及び列方向についてそれぞれ算出し、前記行方向のピクセル位置に対する前記Ac値の波形パターンと、前記列方向のピクセル位置に対する前記Ac値の波形パターンとに基づいて、前記研磨部及び前記再研磨部の研磨方向が前記スキャナの走査方向と一致しているデジタル画像を選別する画像選別工程と、
前記研磨部及び前記再研磨部が含まれるように前記画像選別工程で選別された前記デジタル画像の一部画像を抽出する画像抽出工程と、
前記一部画像を構成する各ピクセルのRGB値をグレースケール変換して得られるAc値を前記研磨部及び前記再研磨部における研磨方向に垂直な方向について算出し、前記研磨方向のピクセル位置に対する前記Ac値の波形パターンに基づいて、前記研磨部及び前記再研磨部の外観の可否を判断する外観判断工程と、を備えたことを特徴とする金属板の外観評価方法。
【請求項2】
前記画像選別工程において、前記波形パターンのAc値及び振幅が所定の閾値以下である場合に、前記デジタル画像における前記研磨部及び前記再研磨部の研磨方向が前記スキャナの走査方向と一致していると判断することを特徴とする請求項1記載の金属板の外観評価方法。
【請求項3】
前記外観判断工程において、前記再研磨部の形成方向に沿って前記一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の位置が所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、前記再研磨部の位置ずれの可否を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の外観評価方法。
【請求項4】
前記外観判断工程において、前記再研磨部の形成方向に沿って前記一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の傾きが所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、前記研磨部と前記再研磨部との境界部分のぼかし状態の可否を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の外観評価方法。
【請求項5】
前記外観判断工程において、前記再研磨部の形成方向に沿って前記一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分及び立ち下がり部分の裾部の高さが所定の管理限界の範囲内であるか否かに基づいて、前記研磨部及び前記再研磨部の汚れの可否を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の外観評価方法。
【請求項6】
前記外観判断工程において、前記再研磨部の形成方向に沿って前記一部画像を複数抽出し、これらの一部画像から算出される各波形パターンの立ち上がり部分の傾きの絶対値と立ち下がり部分の傾きの絶対値との差が所定の閾値以下であるか否かに基づいて、前記研磨部と前記再研磨部との境界部分の研磨ムラの可否を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の金属板の外観評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−68583(P2013−68583A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209303(P2011−209303)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(712004783)株式会社総合車両製作所 (40)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(712004783)株式会社総合車両製作所 (40)
【Fターム(参考)】
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