説明

鉄道車両の上下振動制御装置

【課題】本発明の目的は、鉄道車両の高速化に対応して、車体の傾斜動作と車体の上下振動制御を良好に作用させることができ、また、車体の傾斜をアシストできる鉄道車両用の上下振動制御装置を提供する。
【解決手段】鉄道車両は、台車1上に空気ばね2を介して支持された車体3と、空気ばね2の伸縮量により車体3を傾斜動作させる車体傾斜装置を備えている。制御器12は、車体3の上下振動加速度を検知する加速度検知手段11a、11bの検知結果を制御入力として、車体3の振動を抑制するよう制御入力を補償した信号により、上下液圧式アクチュエータ10a,10bを制御する。上下液圧式アクチュエータ10a,10bの各液圧室を連通又は遮断する切換弁が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の乗り心地を改善するための振動制御装置に係り、特に上下アクチュエータを用いた鉄道車両の上下振動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両の車体傾斜装置として、台車上に左右一対の空気ばねを介して車体を支持し、左右空気ばね間で一定容積のエアを移動させる容積移動シリンダを有し、容積移動シリンダを作動させて左右の空気ばねの高さを変えることにより車体を傾斜させる。具体的には、一定容積の空気を移動させて車体を曲線内側に傾斜させ、次に曲線区間から出る際に該一定容積の空気を元に戻す装置が公知である(特許文献1)。
【0003】
一方、従来の鉄道車両用振動制御装置として、車体の左右方向の変位を検出する左右変位センサと、左右変位センサの検出信号に基づいて制御信号を補正する減衰力補正部を設け、鉄道車両が曲線路を通過する際に車体が上下方向に振動し、車体が上下方向及び左右方向の力を受けて、これによりダンパが傾いても、車体の左右方向の変位を左右変位センサが検出し、ダンパの傾き角に応じた補正信号を算出し、制御信号を補正信号により補正し、補正して得られた制御信号を減衰力制御部に入力する装置が提案されている(特許文献1)。この制御装置によれば、車体に上下動及び左右方向の振動が作用しても、ダンパが適正な大きさの減衰力を発生し、車体の上下振動を低減できる。
【0004】
鉄道車両における速達性向上のためには、直線区間及び曲線区間共に速度向上が必要であり、従来車の現行速度と同等以上の乗り心地確保や走行の安全性確保が必要である。特に、曲線区間ではカント角で決まる基準速度を大幅に向上させて走行する必要があるため、超過遠心加速度の増大により人が感じる左右定常加速度が増加して、左右乗り心地の悪化や車体の外倒れによる内軌側輪重減少による脱線係数が低下し、走行安全性を低下させる原因となる。また、直線区間においても同様に、従来車の現行速度と同等以上の上下振動及び左右振動の乗り心地確保が必須となる。
【0005】
特許文献1に記載の従来技術においては、走行安全性確保と左右乗り心地確保のために、空気ばね式車体傾斜装置を用い、曲線走行時に外軌側の空気ばねを伸ばして、人が感じる左右定常加速度を低減する構成となっている。また、外側の空気ばねを伸ばすことで、内軌側の輪重減少も防止できることになる。
【0006】
特許文献2に記載の従来技術においては、台車から車体側への上下振動を低減させるために、上下ダンパを用いて適正な大きさの減衰力を発生させるものである。これにより、車体上下振動を低減できることになる。
【0007】
しかしながら、上記従来の技術における車体傾斜装置においては、傾斜動作時と上下振動制御状態においては、空気ばねと併設して上下ダンパを用いると、車体傾斜時に上下ダンパの減衰作用が作用し、空気ばねの伸縮作用を妨げることになり、併用が困難であるという問題が発生していた。
【特許文献1】特開平11−34868号公報
【特許文献2】特開2000−71982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、鉄道車両の高速化に対応して、車体の傾斜動作と車体の上下振動制御を良好に作用させることができ、また、車体の傾斜をアシストできる鉄道車両用の上下振動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、台車上に空気ばねを介して支持された車体と、該空気ばねの伸縮量により該車体を傾斜動作させる車体傾斜装置を備えた鉄道車両において、前記空気ばねに併設して設けられた上下液圧式アクチュエータと、車体の上下振動加速度を検知する加速度検知手段と、該加速度検知手段の検知結果を制御入力として車体の振動を抑制するよう制御入力を補償した信号により、該上下液圧式アクチュエータを制御する制御器とから構成し、前記上下液圧式アクチュエータの各液圧室を連通する連通手段を設けたことである。
【0010】
また、台車上に空気ばねを介して支持された車体と、該空気ばねの伸縮量により該車体を傾斜動作させる車体傾斜装置を備えた鉄道車両において、前記空気ばねに併設して設けられた上下液圧式アクチュエータと、車体の上下振動加速度を検知する加速度検知手段と、該加速度検知手段の検知結果を制御入力として車体の振動を抑制するよう制御入力を補償した信号により、該上下液圧式アクチュエータを制御する制御器とから構成し、前記上下液圧式アクチュエータの絞り減衰係数と前記空気ばねの内部減衰係数を合わせた減衰係数が、前記空気ばねの減衰係数と同等となるようにしたことである。
【0011】
さらに、曲線通過時の車体傾斜動作時に、前記連通手段を連通動作させることである。また、曲線通過時の車体傾斜動作時に、前記上下液圧式アクチュエータにより傾斜に必要な上下力を付加することである。
【0012】
さらに、台車上に空気ばねを介して支持された車体と、該空気ばねの伸縮量により該車体を傾斜動作させる車体傾斜装置を備えた鉄道車両において、前記空気ばねに併設して設けられた上下電磁式アクチュエータと、車体の上下振動加速度を検知する加速度検知手段と、該加速度検知手段の検知結果を制御入力として車体の振動を抑制するよう制御入力を補償した信号により、該上下電磁式アクチュエータを制御する制御器とから構成し、車体傾斜時に前記上下電磁式アクチュエータの制御力をカットすることである。また、曲線通過時の車体傾斜動作時に、前記上下電磁式アクチュエータにより傾斜に必要な上下力を付加することである。
【0013】
これによれば、鉄道車両の高速化に対応して、車体の傾斜動作と車体の上下振動制御を良好に作用させることができ、また、車体の傾斜をアシストできる鉄道車両用の上下振動制御装置を提供でき、車体傾斜時の空気ばねへの給気に必要なコンプレッサ容量を少なくでき、機器の重量低減を図れる効果がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉄道車両の高速化に対応して、車体の傾斜動作と車体の上下振動制御を良好に作用させることができ、また、車体の傾斜をアシストできる鉄道車両用の上下振動制御装置を提供でき、車体傾斜時の空気ばねへの給気に必要なコンプレッサ容量を少なくでき、機器の重量低減を図れる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1及び図2を参照して、本発明による車両用振動制御装置の一実施例を説明する。図1に示す車両用振動制御装置は、台車1と、台車1上に車体傾斜装置としての空気ばね2,2を介して支持された車体3とを備える鉄道車両に適用されている振動制御装置であって、台車1と車体3との間に、空気ばね2,2に併設して設けられた上下液圧アクチュエータ10a,10bと、車体の上下振動加速度を検知する加速度検知手段11a,11bと、加速度検知手段11a,11bの検知結果を制御入力として車体の上下振動を抑制するよう制御入力を補償して、上下液圧アクチュエータ10a,10bを制御する制御器12から構成されている。車体の中心ピン9と台車1との左右方向には、左右動ダンパ8が併設されている。4は車輪、5は車軸、6は軸箱、7は軸ばねである。
【0016】
図2には、上下液圧アクチュエータ10a,10bの詳細が断面図として示されている。上下液圧アクチュエータ10a,10bは、液圧媒体を供給する液圧源17と、液圧源17において液圧媒体の供給量を制御する電動モータ16と、電動モータ16により駆動される双方向ポンプ15を有している。
【0017】
上下液圧アクチュエータ10a,10bの各液圧室は、連通配管と連通手段である切換弁21により連通可能である。上下液圧アクチュエータ10a,10bにおいて、シリンダ19内部のピストン13には絞り手段20が固定されて伸縮動作を行う。絞り手段20の絞り径の寸法は、固定としている。上下液圧アクチュエータ10a,10bと液圧源17とを繋ぐ電磁弁ブロック18に、液圧媒体の供給を遮断する遮断手段を設けている。液圧源17は、与圧をかけたアキュムレータからなり、少量のタンク容量での流量供給や圧力供給ができるものである。連通手段21又は絞り手段20は、電磁弁ブロック18等の内部に配置しても良い。
【0018】
このような構成において、曲線走行時の動作について説明する。車体傾斜装置としての空気ばね2,2による車体の傾斜時には、切換弁21により上下液圧アクチュエータ10a,10bの各液圧室を連通させる。これにより、空気ばね2,2の伸縮動作にダンパの減衰作用が発生しないため、傾斜動作への悪影響がなくなる。当然のことであるが、直線における上下の振動制御を付加する場合には、切換弁21を締切ることにより、通常の振動制御が可能となる。上記作用は、曲線区間において動作させるものであるが、曲線位置の検知として、地点信号を用いる場合、傾斜指令に対応させた場合、車体左右加速度信号を用いて曲線位置を検知する手段でも良い。
【0019】
次に、車両の上下系における減衰係数について説明する。空気ばね2,2の内部減衰係数に対して、上下液圧アクチュエータ10a,10bは内部の絞り手段20による減衰が上下系の減衰として作用することになる。このため、車両の上下系の減衰係数として、空気ばね2,2の内部減衰係数に併設した上下液圧アクチュエータ10a,10bの減衰係数が加わり、高周波数域での振動絶縁効果が低下することが懸念される。このため、空気ばね2単体における減衰係数に合うように、空気ばね2の減衰係数と併設した上下液圧アクチュエータ10a,10bの減衰係数の総和が、従来の空気ばね減衰係数とほぼ同等となるように設定されている。これにより、上下液圧アクチュエータ10a,10bの内部の絞り手段20の減衰係数は小さくなるため、傾斜動作時の空気ばね2,2伸縮動作に対して抵抗が少なくなる。
【0020】
次に、車体傾斜をアシストする場合について説明する。上記の手段で曲線位置を検知した場合、予め記憶された傾斜目標角に対応して、上下液圧アクチュエータ10a,10bの伸縮量を制御して、空気ばね2,2の傾斜動作時に上下力を付加するようにしたことである。これにより、空気ばね2,2による車体傾斜時に上下力を付加できるため、空気ばね2,2のみによる空気の給気量を減少することができる。その結果、コンプレッサの容量を少なくでき、機器重量の小型化が可能となる。
【0021】
さらに、上下液圧アクチュエータ10a,10bに替えて、電磁式のアクチュエータを用いても良い。このとき、車体傾斜動作時には、電磁式アクチュエータの電磁力をゼロとして、車体傾斜の抵抗とならないようにできる。また、前述同様に車体傾斜時に電磁式アクチュエータにより上下力を付加しても良い。
【0022】
以上のように、曲線区間では、空気ばね2,2による車体傾斜時に傾斜動作を抑制することなく、また、上下力を付加できる効果も得られる。なお、直線区間では通常の上下振動抑制が可能となる。
【0023】
図3の実施例について説明する。同図において、先の実施例と同一部材には同一符号を付しているので、再度の説明を省略する。本実施例の先の実施例との相違点は、空気ばね2,2と直列に電磁アクチュエータ22a,22bを設けたことである。これにより、車体傾斜動作に関係なく、上下振動制御が可能となり、電磁アクチュエータ22a,22bの伸縮量と空気ばね2,2の伸縮量で、必要な傾斜角を満足すれば良いことになる。
【0024】
本発明は、上下系の振動制御装置について述べたが、左右系の振動制御にも応用可能であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例の鉄道車両の振動制御装置である。
【図2】図1の上下液圧アクチュエータ部の概観図である。
【図3】本発明の一実施例の鉄道車両の振動制御装置である。
【符号の説明】
【0026】
1…台車、2…空気ばね、3…車体、8…左右動ダンパ、9…中心ピン、10a,10b…液圧アクチュエータ、11a、11b…加速度検知手段、12…制御器、13…ピストン、15…双方向ポンプ、16…電動モータ、17…液圧源、18…電磁弁ブロック、19…シリンダ、20…絞り手段、21…切換弁(連通手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車上に空気ばねを介して支持された車体と、前記空気ばねの伸縮量により前記車体を傾斜動作させる車体傾斜装置を備えた鉄道車両において、
前記空気ばねに併設して設けられた上下液圧式アクチュエータと、前記車体の上下振動加速度を検知する加速度検知手段と、該加速度検知手段の検知結果を制御入力として前記車体の振動を抑制するよう制御入力を補償した信号により、前記上下液圧式アクチュエータを制御する制御器とから構成したこと、
を特徴とする鉄道車両の上下振動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の上下振動制御装置において、
前記上下液圧式アクチュエータは、絞りを通じて連通する二つの液圧室と、前記制御器からの前記信号に基づいて前記両液圧室を選択的に連通又は遮断させる連通手段とを備えていること、
を特徴とする鉄道車両の上下振動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両の上下振動制御装置において、
前記上下液圧式アクチュエータの前記絞りの絞り減衰係数と前記空気ばねの内部減衰係数を合わせた減衰係数が、前記空気ばねの減衰係数と同等となるようにしたこと、
を特徴とする鉄道車両の上下振動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の鉄道車両の上下振動制御装置において、
曲線通過時の車体傾斜動作時に前記連通手段を連通動作させること、
を特徴とする鉄道車両の振動制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の鉄道車両の上下振動制御装置において、
曲線通過時の車体傾斜動作時に、前記上下液圧式アクチュエータにより傾斜に必要な上下力を付加すること、
を特徴とする鉄道車両の振動制御装置。
【請求項6】
台車上に空気ばねを介して支持された車体と、前記空気ばねの伸縮量により前記車体を傾斜動作させる車体傾斜装置を備えた鉄道車両において、
前記空気ばねに併設して設けられた上下電磁式アクチュエータと、前記車体の上下振動加速度を検知する加速度検知手段と、該加速度検知手段の検知結果を制御入力として前記車体の振動を抑制するよう制御入力を補償した信号により、前記上下電磁式アクチュエータを制御する制御器とから構成したこと、
を特徴とする鉄道車両の振動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の鉄道車両の上下振動制御装置において、
前記上下電磁式アクチュエータは、前記空気ばねに並列に配置されており、車体傾斜時に前記上下電磁式アクチュエータの制御力をカットすること、
を特徴とする鉄道車両の上下振動制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の鉄道車両の上下振動制御装置において、
前記上下電磁式アクチュエータは、前記空気ばねに直列に配置されており、車体傾斜時に前記上下電磁式アクチュエータにより傾斜に必要な上下力を付加すること、
を特徴とする鉄道車両の上下振動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−176400(P2007−176400A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378989(P2005−378989)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】