説明

長繊維強化樹脂成形材料の製造方法およびその製造装置

【課題】ペレット状の長繊維強化樹脂成形材料の毛羽の発生を抑制する。
【解決手段】回巻体から引き出された複数本の強化繊維ストランド4を束ねて樹脂含浸ダイ2中を連続的に通過させながら、該樹脂含浸ダイに設けた開繊具6により開繊させて熱可塑性樹脂を含浸させた後、所定の線径に引き出してペレット状の長繊維強化樹脂成形材料を製造する方法において、多数の孔10を有する多孔板1を回巻体と該樹脂含浸ダイ2との間に設置し、前記強化繊維ストランド4を該多孔板の孔に1本づつ挿通して分離しながら取り出したあと束ねて樹脂含浸ダイ2に導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペレット状の長繊維強化樹脂成形材料、特に毛羽立ちの少ないペレット状の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス繊維や炭素繊維などの強化繊維に、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として含浸させて、これをペレットとした長繊維強化樹脂成形材料(以下、FRTPということもある)が知られている。このFRTPの製造方法としては、マトリックス樹脂原料を押出機で可塑化して溶融した熱可塑性樹脂を充填した樹脂含浸ダイに、回巻体等から引き出された強化繊維すなわちフィラメントの集合体である強化繊維束(ストランド)を導入して通過させることにより強化繊維中に樹脂を含浸せしめ、樹脂が含浸されたストランドを樹脂含浸ダイの出口に設けたノズル等により賦形して線棒状の連続強化複合物(ロッド)とし、これを所定の寸法に切断することにより得られる。(特許文献1参照)。
【0003】
この場合、強化繊維は紡糸された多数の繊維(フィラメント)を集束してストランドにして巻き取りした回巻体から引き出して使用される。
【0004】
このようなFRTPの製造において、前記ストランドのフィラメント数が極めて多い(例えば、4000本以上)場合には、主として1本のストランドを樹脂含浸ダイを通過させて1本のロッドに成形し、これを切断することによりペレットを製造している。一方、1本のストランドのフィラメント数が例えば3000本以下になるように巻き取った、フィラメント集束本数が少ないストランドの回巻体の場合には、2個以上の回巻体から引き出したストランドを取り揃えて樹脂含浸ダイを通過させて一本のロッドを形成し、これを切断することによりペレットを製造している。
【特許文献1】特開平11−1385334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フィラメント集束本数の多いストランドを用いる場合は、ストランド中のフィラメントの長さが、回巻体の内外周によって異なるためにカテナリーの影響が生じ、FRTPの製造の際にカテナリーによる繊維の絡まり(ループ)が発生するといった問題を有していた。
【0006】
一方、フィラメント集束本数の少ないストランドをロッド当たりに複数本用いる場合は、繊維束本数の増減により繊維含有率を調整できるほか、集束本数が少ないことによりカテナリーの影響が少ないため、カテナリーによる繊維の絡まり(ループ)の発生を回避することができる。
【0007】
しかし、フィラメント集束本数が少ないストランドを用いた場合、ロッド当たりに複数本のストランドを用いるため、多数の回巻体から引き出された複数本のストランドは、ひとまとめに取り揃えて密集して樹脂含浸ダイへ入ることになる。この場合、回巻体から引き出された複数本のストランドは、回巻体と樹脂含浸ダイとの間において絡まないようにガイドピンで横方向に隔置しながら取り出したあと、取り揃えて樹脂含浸ダイに導入される。このため、ストランド本数が増加すると、それに伴ってガイドピン数が多くなり、これらのガイドピンが横方向に広がるため、外側のストランドはガイドピンで強く屈曲されながら進行し、その後ひとまとめに取り揃えて樹脂含浸ダイに導入されることになる。その結果、ストランド同士の交差や接触またはガイドピンとの接触によって、毛羽の発生やフィラメントの切断などが発生し易いという問題を有していた。
【0008】
また、多数の回巻体から取り出されたあと、ひとまとめに取り揃えて樹脂含浸ダイに供給されるストランドのうちの一部は、樹脂含浸ダイへの進入角度が大きくなるため、異なった屈曲や張力で樹脂含浸ダイに供給される。そのため、ループの発生を招き毛羽発生に至るという問題も有していた。
【0009】
本発明は、多数の回巻体から引き出された複数本のストランドをまとめて樹脂含浸ダイに導入し、該樹脂含浸ダイにおいて樹脂を含浸させてFRTPを製造する際の毛羽立ちを少なくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、ガイドピンの代わりに多孔板を設け、回巻体から引き出した複数本のストランドを1本づつ該多孔板の孔に挿通して横方向および縦方向に分離しながら取り出し、該ストランドの樹脂含浸ダイへの進入角度を小さく抑えることにより、フィラメントの脱落やループの発生を防止し、毛羽の少ない長繊維強化樹脂組成物の製造が可能となることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は次の長繊維強化樹脂組成物の製造方法および製造装置を提供する。
(1) 回巻体から引き出された2本以上の強化繊維ストランドを束ねて樹脂含浸ダイ中を連続的に通過させながら、該樹脂含浸ダイに設けた開繊具により開繊させて熱可塑性樹脂を含浸させた後、所定の線径に引き出してペレット状の長繊維強化樹脂成形材料を製造する方法において、
前記回巻体と樹脂含浸ダイとの間に多孔板を設置し、前記強化繊維ストランドを該多孔板の孔に1本づつ挿通して縦・横方向に分離しながら取り出したあと束ねて樹脂含浸ダイに導入することを特徴とする長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
(2) 前記孔を多孔板の横方向および縦方向に所定の間隔で設ける上記(1)の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
(3) 強化繊維ストランドが、100〜3000本のフィラメントを集束してなる上記(1)または(2)の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
(4) 強化繊維ストランドの、樹脂含浸ダイへの進入角度または該樹脂含浸ダイの手前にストランド加熱装置が設けられているときには該ストランド加熱装置への進入角度が、該樹脂含浸ダイの入口直後における強化繊維ストランドの進行方向に対して15°以内である上記(1)、(2)または(3)の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
(5) 多孔板の孔の直径(D)と該孔に挿通される強化繊維ストランドの幅(L)との比(D/L)が0.5〜3.0である上記(1)〜(4)のいずれかの長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
(6) 多孔板と樹脂含浸ダイとの間にストランド加熱装置を設け、強化繊維ストランドを多孔板の孔に1本づつ挿通して分離しながら取り出したあと束ねて該ストランド加熱装置の入口孔に導入し予熱する上記(1)〜(5)のいずれかの長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
(7) 回巻体から引き出された強化繊維ストランドを束ねて樹脂含浸ダイ中を連続的に通過させながら、該樹脂含浸ダイに設けた開繊具により開繊させて熱可塑性樹脂を含浸させた後、所定の線径に引き出してペレット状の長繊維強化樹脂成形材料を製造する装置であって、多数の孔が横方向および縦方向に設けられている多孔板を回巻体と樹脂含浸ダイとの間に具備し、前記強化繊維ストランドを該多孔板の孔に1本づつ挿通させることにより横方向および縦方向に分離しながら取り出したあと束ねて樹脂含浸ダイ等に導入するように構成したことを特徴とする長繊維強化樹脂成形材料の製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、回巻体から引き出した2本以上の強化繊維ストランド(以下、ストランドとする)を多孔版の孔に個別に挿通することにより、これらのストランドを縦・横両方向に分離しながら取り出したあと束ねて樹脂含浸ダイに小さい進入角度で導入できる。これにより、各ストランドにかかる張力や開繊状態を均一にしてループの発生を抑制し、また樹脂含浸ダイに入る前でのストランド同士の接触や混線を回避できるので、単糸(フィラメント)切れを抑制し毛羽の発生量を減らすことができる。
【0013】
また、多孔板の孔の大きさをストランドの断面寸法に対して適切に設定することにより、回巻体から引き出されるストランドに生じた毛羽を効果的に除去することが可能となる。
【0014】
さらに、常用する孔数より多い孔を多孔板に設けることにより、ストランドを含浸ダイにセットする準備段階において、回巻体から引き出した複数のストランドを多孔板に待機させ、所定の本数が揃ったらそれを束ねて含浸ダイに通すことができ、前記の準備段階での作業の効率化を図ることができる。
【0015】
また、多孔板を、樹脂含浸ダイの入口手前または該樹脂含浸ダイの前部に設けたストランド予熱装置の入口手前に、ストランドの進入角度がこれらの入口以降のストランド進行方向に対して15°以内となるように配置することにより、ストランド間の張力差を小さくできるので、樹脂含浸ダイにおける開繊具への掛り角度のバラツキを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、ペレット状の長繊維強化樹脂成形材料に用いる熱可塑性樹脂および強化繊維は特別なものでなく、これまでに知られているものや使用されているものの中から選択して使用できる。例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、AS(アクリロニトリルスチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEI(ポリエーテルイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等を挙げることができる。なかでもポリプロピレン、ポリアミドなどが好適する。これらは、一種類で用いてもよくまたは二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、この熱可塑性樹脂には、用途や成形条件に応じて、着色剤、改質剤、強化繊維以外の充填材および公知の添加剤等を常法に従って適宜混練させることができる。
【0017】
一方、強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維や合成繊維等の長繊維を使用できるが、通常のFRTPではガラス繊維と炭素繊維が一般的である。特にガラス繊維は経済的な点で好ましく使用される。これらの強化繊維は紡糸された多数のフィラメント(モノフィラメント)を集束してストランドの形態にし、該ストランドを2本以上束ねてFRTPを製造する。
【0018】
強化繊維がガラス繊維の場合には、ガラス繊維製造装置で紡糸された多数のフィラメントを集束して1本のストランドを形成し、該ストランドを円筒状のダイレクトワインドロービングまたは太鼓状のケーキ等の回巻体に巻き取る。そして、FRTPを製造するときには2個以上の回巻体からそれぞれストランドを引き出し、引き出したストランドを束ねて、すなわち取り揃えて樹脂含浸ダイに供給する。なお、上記回巻体は図示はしないがストランドを巻き取りしたものの総称で、ガラス繊維製造等において一般的に使用されている。
【0019】
本発明において、1本のストランドのフィラメント集束本数は100〜3000本が好ましく、より好ましくは200〜2000本である。ストランドを構成するフィラメントの集束本数は少ない方が、開繊しやすく樹脂の含浸性がよい、繊維束本数の増減により繊維含有率を容易に調整できる、およびループの要因となるカテナリーの影響を少なくできるなどの点で好ましい。しかし、前記集束本数が100本未満では、多数の回巻体に分けて巻き取らなければならないためストランドの生産性が低下し、またFRTPを製造するのに多数の回巻体が必要になり作業が煩雑となるので好ましくない。一方、前記集束本数が3000本超になると、開繊がしにくくなるため樹脂の含浸性が悪くなると共に、強化繊維の含有率や全ストランドの合計径をきめ細かく管理することが困難となる。
【0020】
本発明においてFRTP(ペレット)を製造するときは、前記したように2本以上のストランドを束ねて使用する。この使用本数は、ストランド1本当たりのフィラメント集束本数、FRTPの強化繊維含有率またはペレット径などによって決めるが、例えば200〜2000本のフィラメントからなるストランドの場合には、好ましくは3本以上である。また、1ロッド当たりのストランド使用本数の上限は多くても60本程度である。したがって、該使用本数は通常2〜60本程度であり、より好ましくは3〜30本である。ストランド本数が2本未満では、補強繊維の含有率との関係でペレット径が小さくなるために、ペレットの生産効率が低下する。一方、ストランドの本数が60本を超えると、ストランド内部に樹脂を均一に含浸させることが困難となると共に、作業性が低下する。なお、ストランド本数が1本の場合には、多孔板でなくても従来のガイドピンで支障なく対応できる。
【0021】
次に、本発明に係るペレット状のFRTPの製造方法を強化繊維がガラス繊維の場合について図面に従って説明する。図面は本発明の製造方法によるFRTPの製造装置の実施例であり、本発明はこれら図面に限定されない。
【0022】
図1は本発明に係る製造装置の全体を概略的に示したものである。図1に示すように複数のガラス繊維回巻体、例えばケーキ3を用意し、該ケーキ3から内取りで引き出したストランド4を後述する多孔板1で分離して取り出した後、これらの複数本のストランド4を取り揃えて樹脂含浸ダイ2に導入する。この樹脂含浸ダイ2には、ストランド4を取り揃えた形態で挿通するための入口孔11(図2参照)と該入口孔の反対側に出口孔(ダイノズル)13が設けられており、これら入口孔11とダイノズル13の間の、ストランド4が通過する領域には、加熱混練され溶融した熱可塑性樹脂が押出機5から供給されると共に、ストランド4を開繊するための開繊具として例えば開繊ロール6がストランド4と直交する方向に設置されている。
【0023】
熱可塑性樹脂が含浸されたストランド4は、樹脂含浸ダイ2のダイノズル13を通過するとき過剰の樹脂が除去され、断面がほぼ円形の線棒状の成形物(ロッド)に賦形される。このロッドは、冷却器7を通る間に冷却固化されたあと、引取りロール8により連続的に引き出されてペレタイザ9に送られ、該ペレタイザ9において所定長さのペレットに切断される。
【0024】
なお、開繊具としては、例示の開繊ロール6に代えてこれまでに開繊手段として知られている開繊バーなども使用できる。また、図示はしないが開繊具のストランド4が接触する箇所に湾曲凸部を設け、ストランド4を該湾曲凸部にテンションを利用して押し付けることにより、ストランド4の開繊を効率よく確実に行うことができる。
【0025】
図2は、図1においてケーキ3から引き出されたストランド4を多孔板1で分離して樹脂含浸ダイ2に供給する部分の拡大斜視図である。本例は樹脂含浸ダイ2に4個の入口孔11を設け、多孔板1で分離して取り出したストランド4を4グループに束ねて該入口孔11に導入し、樹脂含浸ダイ2によって4本のロッドを同時に形成する場合である。樹脂含浸ダイ2に設ける入口孔11の個数をこのように増すことによって、樹脂含浸ダイ2のFRTPの生産性を上げることができる。一つの樹脂含浸ダイ2に設ける入口孔11は単一でもよいが、通常はこのような理由から複数個が好ましい。
【0026】
本発明は、回巻体から引き出された2本以上のストランドを回巻体と樹脂含浸ダイとの間において多孔板で分離しながら取り出し、これらのストランドを樹脂含浸ダイに束ねて導入することを特徴とする。図2は、典型的な多孔板1の一つを示し、ストランド4を挿通するための36個の孔10が12個(横方向)×3個(縦方向)に設けられている。該多孔板1によれば、最大で36本のストランドをこれらの孔10に1本づつ挿通して取り出し、次いでこれらのストランドを9本づつ4つのグループに束ねて樹脂含浸ダイ2の入口孔11に供給できる。
【0027】
しかし、本発明において多孔板1に設ける孔10の数は、樹脂含浸ダイ2に設ける入口孔11の個数や1個の入口孔11に導入するストランドの本数(以下、ストランド導入本数とする)などによって変わり限定されない。因みに、本例の多孔板1において入口孔11を減らしたり、ストランド導入本数を9本より少なくすれば、孔10の個数を減らすことができ、逆にこれらを増加すれば、孔10は増やす必要がある。さらに、多孔板1には常用する孔のほかに予備の孔を設けておくことが好ましい。このように多孔板1に予備の孔を設けておくと、入口孔11やストランド導入本数の増加に容易に対応できる。
【0028】
多孔板1の孔10の形状としては円形または楕円形状が好ましい。このような形状の孔10は、ストランド4が挿通しやすく、かつ毛羽の発生を抑制できる点で適している。また、孔10の大きさとしては、孔10の直径(D)とストランドの幅(L)の比(D/L)が0.5〜3.0の範囲であるのが好ましく、0.7〜2.5の範囲であればより好ましい。ここで、ストランドの幅(L)は、回巻体から引き出され多孔板を通過する前におけるストランドの最大幅をいう。前記比(D/L)が上記の範囲内であれば、ストランドの詰まりを発生させずに、ストランド4に毛羽がある場合には該毛羽を効果的に取ることができる。前記比(D/L)が3.0超になると、孔10内においてストランド4が踊ったり、絡まったりするので好ましくない。
【0029】
また、本発明においては孔10を多孔板1の横・縦両方向に分散させて設ける。そして、これらの孔10は多孔板1に均一またはほぼ均一に分散させて設けるのが好ましい。このように孔10を多孔板1の横方向ばかりでなく、縦方向にも分散して設けることによって、ストランドを縦・横両方向に分散させて取り出すことができるため、ストランド導入本数が増加しても対応できる。さらに、ストランド導入本数が増加しても、孔10を挿通した後のストランド4を樹脂含浸ダイ2に小さい進入角度で導入させることができるので、ストランド4の進入が円滑となり毛羽の発生を抑えることができる。
【0030】
次に、このストランド4の進入角度について説明する。図3は多孔板1で分離されたストランド4が束ねられて樹脂含浸ダイ2、更に正確にはその入口孔11に導入される状態を示したものである。図3に示す如く、多孔板1を挿通したストランド4は、束ねられて樹脂含浸ダイ2に導入されたあと、樹脂含浸ダイ2内を矢印方向に進行する。ストランド4の進入角度は、樹脂含浸ダイ2に導入された直後のストランドの進行方向12と樹脂含浸ダイ2に進入するストランド4との角度である。この進入角度は多孔板1の孔と樹脂含浸ダイ2の入口孔11との位置関係によって決まるので、ストランド4が進行方向12の周りのどの方向にあっても同じであり、多孔板1の孔10が樹脂含浸ダイ2の入口孔11に対し偏倚しているほど大きくなる。
【0031】
本発明においては、束ねて樹脂含浸ダイ2に導入されるすべてのストランド4の進入角度が15度以内であるのが望ましい。この進入角度が15度超になると、樹脂含浸ダイとの接触抵抗が大きくなるため、ストランド4を樹脂含浸ダイ2に円滑に導入し難くなる、さらに進入角度が15度以内の他のストランドとの張力に差異が生じるなどの理由により、毛羽が発生しやすくなるので好ましくない。ストランド4を分離するための孔10を縦・横両方向に分散して設ける本発明の多孔板1は、該進入角度を15度以内に管理するのに好適する。そして、ストランド4の進入角度を15度以内にできれば、多孔板1に配設する孔10は、横方向および/または縦方向において適宜増減できる。なお、多孔板1の材質としては、金属、合成樹脂またはセラミックスなどが挙げられる。
【0032】
図4は、本発明の他の実施形態を示すFRTP製造装置の概略図で、図1の多孔板1と樹脂含浸ダイ2との間にストランド加熱装置14を設けた例である。樹脂含浸ダイ2に供給されるストランドは、熱可塑性樹脂との馴染みをよくするために、樹脂含浸ダイ2の手前において予熱する場合がある。このようにストランドを予熱する場合には、ケーキ3から引き出されたストランド4を、図1と同様に多孔板1で1本づつ縦・横両方向に分離しながらストランド加熱装置14の入口孔に束ねて供給し、該ストランド加熱装置14内を通過させながら予熱し、次いでストランド加熱装置14から樹脂含浸ダイ2の入口孔に導入する。本発明はこのようにストランド4がストランド加熱装置14を介在して樹脂含浸ダイ2に導入される場合も含んでいる。
【0033】
本発明において、多孔板としては、例示したような単板に多数の孔を縦・横両方向に所定の間隔で設けたものが、構造的にも作業性の面でも特に優れている。すなわち、単板であるので設置が容易であり、かつストランドの本数に応じて多孔板の孔を選択的に使用できる。また、この回巻体から引き出されたストランドを1本づつ孔に挿通して縦・横両方向に分離して取り出すため、従来のピンガイドと異なり回巻体が前記孔より高い位置にあっても、ストランドを分離して取り出すことができる。
【0034】
しかし、多孔板はストランドを縦・横両方向において分離しながら取り出す機能を有していればよく、これに限定されない。例えば、図示はしないが図2に示す多孔板を横方向に配列されている孔に沿って分割して得られる、すなわち横方向のみに多数の孔が配列している多孔板を、使用時に縦方向に2個以上段設してもよい。さらに、横方向のみに多数の孔が配列している多孔板の場合には、図5に示すように孔10を上部が欠けた不完全孔で形成した多孔板を縦方向に間隔をあけて2個以上段設して使用することもできる。そして、この場合には、ストランドを前記不完全孔の欠部から挿通できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の好ましい実施形態に係るFRTP製造装置の概略図。
【図2】図1の多孔板部分の拡大斜視図。
【図3】図2におけるストランド導入部の説明図。
【図4】本発明の他の実施形態に係るFRTP製造装置の概略図。
【図5】本発明の他の実施形態に係る多孔板の正面図。
【符号の説明】
【0036】
1:多孔板 2:樹脂含浸ダイ
3:ケーキ 4:ストランド
5:押出機 6:開繊ロール
7:冷却器 8:引取りロール
9:ペレタイザ 10:孔
11:入口孔 12:進行方向
13:ダイノズル 14:ストランド加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回巻体から引き出された2本以上の強化繊維ストランドを束ねて樹脂含浸ダイ中を連続的に通過させながら、該樹脂含浸ダイに設けた開繊具により開繊させて熱可塑性樹脂を含浸させた後、所定の線径に引き出してペレット状の長繊維強化樹脂成形材料を製造する方法において、
前記回巻体と樹脂含浸ダイとの間に多孔板を設置し、前記強化繊維ストランドを該多孔板の孔に1本づつ挿通して縦・横方向に分離しながら取り出したあと束ねて樹脂含浸ダイに導入することを特徴とする長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
【請求項2】
前記孔を多孔板の横方向および縦方向に所定の間隔で設ける請求項1に記載の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
【請求項3】
強化繊維ストランドが、100〜3000本のフィラメントを集束してなる請求項1または2に記載の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
【請求項4】
強化繊維ストランドの、樹脂含浸ダイへの進入角度または該樹脂含浸ダイの手前にストランド加熱装置が設けられているときには該ストランド加熱装置への進入角度が、該樹脂含浸ダイの入口直後における強化繊維ストランドの進行方向に対して15°以内である、請求項1、2または3に記載の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
【請求項5】
多孔板の孔の直径(D)と該孔に挿通される強化繊維ストランドの幅(L)との比(D/L)が0.5〜3.0である請求項1〜4のいずれかに記載の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
【請求項6】
多孔板と樹脂含浸ダイとの間にストランド加熱装置を設け、強化繊維ストランドを多孔板の孔に1本づつ挿通して分離しながら取り出したあと束ねて該ストランド加熱装置の入口孔に導入し予熱する請求項1〜5のいずれかに記載の長繊維強化樹脂成形材料の製造方法。
【請求項7】
回巻体から引き出された強化繊維ストランドを束ねて樹脂含浸ダイ中を連続的に通過させながら、該樹脂含浸ダイに設けた開繊具により開繊させて熱可塑性樹脂を含浸させた後、所定の線径に引き出してペレット状の長繊維強化樹脂成形材料を製造する装置であって、多数の孔が横方向および縦方向に設けられている多孔板を回巻体と樹脂含浸ダイとの間に具備し、前記強化繊維ストランドを該多孔板の孔に1本づつ挿通させることにより横方向および縦方向に分離しながら取り出したあと束ねて樹脂含浸ダイ等に導入するように構成したことを特徴とする長繊維強化樹脂成形材料の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−15565(P2006−15565A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194495(P2004−194495)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】