説明

防食コーティング層の補修方法、部材、回転機械

【課題】耐食性を向上させ、補修の信頼性及び効率を向上させる防食コーティング層の補修方法を提供する。
【解決手段】本実施の形態に係る防食コーティング層の補修方法は、部材に施した無電解Ni−Pめっき層の補修を行うにあたり、前記無電解Ni−Pめっき層の欠陥箇所の洗浄を行う第一の洗浄工程S11と、前記欠陥箇所を研削し、滑らかにするグラインディング工程S12と、研削した無電解Ni−Pめっき層の前記欠陥箇所とその周辺の洗浄を行う第二の洗浄工程S13と、SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物が溶解された溶剤を前記欠陥箇所に塗布するコーティング工程S14と、前記欠陥箇所に塗布した前記溶剤を、蒸発し乾燥させる乾燥工程S15と、前記乾燥工程S15後、前記SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物を焼成し、硬化させ、SiC粒子含有ポリイミド樹脂層を形成する焼成工程S16とを含む工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流通する気体が接する部材に施した硬質の防食コーティング層の欠陥箇所にSiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物を利用した防食コーティング層の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転機械の動翼、インペラ等の部材は流通する蒸気やガスに接触するため、それら気体の成分、例えばCO2、H2S、H2Oのほか、蒸気やガス中に含まれるCl、NaCl、NaOH等の腐食性成分による腐食環境に曝され、気体に接触する部材が腐食を受け易い。
【0003】
回転機械として例えば気体を圧縮する圧縮機においては、圧縮対象ガス中に腐食性の成分を含む場合が多く、流通するガスに直接接触する部位となるインペラやダイヤフラム等の圧縮機の部材が腐食環境に曝され、荷重とともに腐食作用を受ける。
【0004】
また、回転機械として例えば気体によって駆動される蒸気タービンにおいても、作動流体である高温高圧の蒸気が動翼に作用して回転動力を発生させるものであるため、動翼には高温と大きな遠心加速度が加えられ、動翼表面が腐食環境に曝される。そのため、動翼等の蒸気流通部の表面は、作動流体である蒸気に含まれる塩素Cl、NaCl、NaOH等の不純物の影響を受け、腐食作用を受けることになる。
【0005】
このように、回転機械の気体に接触する部材の表面には部材の耐食性を向上させ、且つ荷重に対する強度を備える防食コーティングを施すことが求められる。
【0006】
そのため、回転機械のCO2圧縮機内部品、車室などの腐食性成分を含んだ蒸気、ガス等に接する部材の製造時施工する防食コーティングの例として、例えば、ポリイミド樹脂等の原料組成物を防食コーティングとして利用して樹脂コーティングを施し、防食用金属めっきの補修を行う方法が提案されている(特許文献1、2)。
【0007】
また、腐食性成分を含んだ蒸気、ガス等に接する部材の製造時施工する防食コーティングとして、他に例えば無電解Niめっきを施すようにしている。腐食性成分気体に接触する炭素鋼、炭素鋼鋳鋼材などの基材にNi等の防食性の高いめっきで防食コーティングを施す際には、無電解めっき(化学めっき)によりNi−Pめっきが行なわれる。また、無電解めっきにおいては、その性質上Ni単体めっきではなく、Ni−Pめっきとすることで、Niの防食性に加えPの作用により非晶質めっきとなって耐食性を向上させている(特許文献3)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−193216号公報
【特許文献2】特開2007−211600号公報
【特許文献3】特開2007−197766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、無電解Ni−Pめっきを用いる方法は、基材表面に表面欠陥や汚れ等が残存した場合には、Ni−Pめっき層の析出が阻害され欠陥や、無電解Ni−Pめっき層の剥離など不具合を生じる場合があるため、無電解Ni−Pめっきを補修する際には、所謂筆めっきにてNiめっきで補修を行うようにしている。
【0010】
この筆めっきの原理について図3、4を用いて説明する。図3に示すように、めっきしたい基材101を図示しない電源の陰極側のリード線102aに接続し、めっきを行う筆具103を図示しない電源の陽極側のリード線102bに接続して、筆具103の先端は例えば脱脂綿104で覆うようにする。そして、脱脂綿104を例えばめっきしたいめっき液に浸し、めっき液を脱脂綿104に浸み込ませる。そして、図4に示すように、めっき液の浸み込んでいる脱脂綿104を筆具103で基材101に接触させることで、脱脂綿104が基材101と触れた箇所には、電気が流れ、基材101にめっき105が施される。
【0011】
これにより、図5に示すように、基材101の表面の無電解Ni−Pめっき層(膜厚:50〜60μm)106の欠陥箇所107に筆めっきにより、例えば膜厚が10μm程度のNiめっき層108を形成することができる。
【0012】
しかしながら、ポリイミド樹脂等の原料組成物を防食コーティングとして利用し樹脂コーティングを施す場合、ポリイミド樹脂等の原料組成物を基材上でいきなり例えば350℃程度にして蒸発乾燥させると、ポリイミド樹脂等の原料組成物を溶解している溶剤が一度に蒸発するため、均一なポリイミド樹脂層が形成されず、耐食性が低下する、という問題がある。
【0013】
また、筆めっきで基材101上にNiめっき層108を施す場合には、Niめっきの成膜速度が小さく、例えば100mm四方当たりを膜厚10μm程度にまで成膜するのに約2時間程度必要となるため、時間当たりの処理面積が小さい、という問題がある。
【0014】
また、筆めっきにより補修されるNiめっき層108の膜厚は約10μm程度であり、Niめっき層108の膜厚を厚くできないため、補修めっきとしての信頼性が低い、という問題がある。
【0015】
また、筆めっきで補修される欠陥箇所はニッケルであり、それ以外の補修しない部分はNi−P合金であり、欠陥箇所とそれ以外の補修しない部分とでめっきの組成が異なるため、めっき自体の耐食性が劣る、という問題がある。
【0016】
更に、異種金属同士が接触しているとガルバニック腐食が生じるため、防食の観点から好ましくない、という問題がある。
【0017】
本発明は、前記問題に鑑み、耐食性を向上させ、補修の信頼性及び効率を向上させる防食コーティング層の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、気体が流通し該気体が接する部材に施した防食コーティング層の補修を行うにあたり、防食コーティング層の欠陥箇所をセラミックス粒子を含有するポリイミド樹脂を用いて補修することを特徴とする防食コーティング層の補修方法にある。
【0019】
第2の発明は、第1の発明において、(a)前記防食コーティング層の前記欠陥箇所を有機溶剤を用いて洗浄を行う第一の洗浄工程と、(b)前記欠陥箇所を研削し、滑らかにするグラインディング工程と、(c)前記グラインディング工程後、研削した防食コーティング層の前記欠陥箇所とその周辺を有機溶剤を用いて再度洗浄を行う第二の洗浄工程と、(d)セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物が溶解された溶剤を前記欠陥箇所に塗布するコーティング工程と、(e)前記コーティング工程後、前記欠陥箇所に塗布した前記溶剤を蒸発し乾燥させる乾燥工程と、(f)前記乾燥工程後、前記セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物を焼成し、硬化させ、セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂層を形成する焼成工程と、を含むことを特徴とする防食コーティング層の補修方法にある。
【0020】
第3の発明は、第2の発明において、前記溶剤の乾燥後、前記コーティング工程及び前記乾燥工程を少なくとも二回以上繰り返し行なった後、前記焼成工程に移行することを特徴とする防食コーティング層の補修方法にある。
【0021】
第4の発明は、第2又は3の発明において、(e)の前記乾燥工程の乾燥温度が、80〜120℃であることを特徴とする防食コーティング層の補修方法にある。
【0022】
第5の発明は、第2乃至4の何れか一つの発明において、(f)の前記焼成工程の焼成温度が、280〜350℃であることを特徴とする防食コーティング層の補修方法にある。
【0023】
第6の発明は、第1乃至5の何れか一つの発明において、前記セラミックス粒子が、SiC粒子であることを特徴とする防食コーティング層の補修方法にある。
【0024】
第7の発明は、第2乃至6の何れか一つの発明の防食コーティング層の補修方法を用いて前記防食コーティング層の前記欠陥箇所に前記セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂層が形成されていることを特徴とする部材にある。
【0025】
第8の発明は、第7の発明において、前記部材を備えた回転機械であって、前記部材が、圧縮機のインペラ、ダイヤフラム、蒸気タービンの動翼及びそれを支持するタービンディスクの何れかであることを特徴とする回転機械にある。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、防食コーティング層の補修箇所にセラミックス粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤を塗布し、前記溶剤を蒸発し乾燥させる工程を少なくとも1回以上行なった後、前記セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物を焼成し、硬化させ、セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂層を形成するため、従来法よりも耐食性を向上させると共に、補修効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0028】
本発明による実施例に係る防食コーティング層の補修方法について、図面を参照して説明する。
まず、基材の防食コーティング層の欠陥箇所を本発明による実施例に係る防食コーティング層の補修方法を用いて補修した状態について説明する。
図1は、本発明による実施例に係る防食コーティング層の補修方法を用いて補修した防食コーティング層と基材との断面を示す概念図である。
図1に示すように、本発明による実施例に係る防食コーティング層の補修方法を用いて補修した基材11には、基材11の表面11aに施された防食コーティング層として無電解Ni−Pめっき層12が形成され、その無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13にはポリイミド樹脂層14と、このポリイミド樹脂層14の内部に炭化珪素(SiC)粒子15を均一に分散させた複合構造となっているSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16が形成されている。
【0029】
本発明による実施例に係る防食コーティング層の補修方法を用いて補修した基材11は、例えば圧縮機のような回転機械の内部を流通させる気体に直接接するインペラやダイヤフラム、蒸気タービンの動翼等の基材である。基材11は、炭素鋼(例えばSS400)、炭素鋼鋳鋼材(例えばSC480)、ステンレス鋼(例えばSUS410J1)、アルミニウム板等からなる。基材11の表面11aの無電解Ni−Pめっき層12側が、回転機械においてCO2、H2S、H2Oガス等の腐食性成分を含む気体に直接接触する部位である。
【0030】
基材11の表面11aを平滑化、洗浄等して前処理を行なった後、防食コーティングとして無電解めっきによる無電解Ni−Pめっき層12が施されている。基材11には無電解Ni−Pめっき層12の膜厚t1が例えば50〜60μm程度施されている。
【0031】
また、防食コーティング層としてNi等防食性の高いめっきで防食コーティングを施す際には、無電解めっき(化学めっき)によりNi−Pめっきが行なわれる。これは、電気めっきによりNiめっき等を行なう場合、圧縮機のような大型で複雑な形状のインペラ、蒸気タービンの動翼等では、電解液中の電極として通電し易い箇所に偏ってめっき皮膜が形成され、通電が少ない奥まった箇所等には充分なめっき皮膜が形成され難いためである。
【0032】
本実施例では、防食コーティング層として無電解Ni−Pめっき層12を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ニッケル、銅等を用いた防食コーティング層としてもよい。
【0033】
本実施例では、図1に示すように、無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13には、ポリイミド樹脂層14と、このポリイミド樹脂層14の内部にSiC粒子15を均一に分散させたSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16が形成されている。
【0034】
SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16を構成するポリイミド樹脂層14自体は、単体で樹脂として防食性に優れ、比較的硬度が高いほか、特に耐熱性に優れている。
【0035】
また、SiC粒子15は防食性に優れているため、後述のようにSiC粒子15を多量に含有するポリイミド樹脂層14は、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16として防食性を発揮する。
【0036】
また、SiC粒子15はポリイミド樹脂層14に後述の割合で含有され、ポリイミド樹脂層14の表面においてもSiC粒子15が分散して存在している。このため、SiC粒子15によって、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の表面における実効的硬度が高くなる。このため、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16は、支持面への剪断力、衝撃力等への強度、耐久性がポリイミド樹脂層14が単体の場合に比べて飛躍的に向上する。
【0037】
よって、本実施例のSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16は、硬度が高く、耐熱温度が例えば約350℃程度と耐熱性に優れ、基材11にかかる荷重、衝撃、及び機械的接触による剪断力等に対しても高い強度を示すと共に、耐粒子エロージョン性及び高い密着性を有すことができる。
【0038】
従って、無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13にSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16を形成することで、耐食性を向上させ、補修の信頼性を向上させることができる。
【0039】
また、本実施例においては、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の膜厚t2は30〜80μmとするのが好ましい。これは、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の膜厚t2が30μm以下の場合には、貫通欠陥が存在することにより十分な耐食性が確保できないためであり、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の膜厚t2が80μm以上では、膜のふくれによる欠陥が発生しやすく、健全なコーティングができにくいためである。
【0040】
また、本実施例においては、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16は、無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13に第一のSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16−1と第二のSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16−2の二層形成しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、無電解Ni−Pめっき層12の膜厚に応じて何層に形成してもよい。
【0041】
ポリイミド樹脂層14内に含有させるSiC粒子15は、10〜30wt%の範囲が好ましく、更には平均20wt%程度が好ましい。これは、SiC粒子15が10wt%以下であるとSiC粒子15によるSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の硬質化の効果が得難くなり、SiC粒子15が30wt%を超えるとSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16が脆くなるためである。
【0042】
ポリイミド樹脂層14内に含有させるSiC粒子15の粒子径は、0.5〜10μm、好ましくは1.0〜5.0μm、更には1.0〜3.0μmの範囲であるのが好ましい。これは、0.5〜10μmの粒子径であればSiC粒子15が安定してポリイミド樹脂層14中に均一に分散し、SiC粒子間が適切なために,マトリックスの有するSiC粒子固定力が十分であり、耐粒子エロージョン性が優れるためである。また、SiC粒子15の粒子径が10μm以上になるとコーティング中でのSiC粒子15間の距離が大きくなり、マトリックスの持つSiC粒子固定力が弱まるため、平均粒子径としては1.2μm程度のものが好ましい。
【0043】
ポリイミド樹脂層14の内部に含有させるセラミックス粒子としてSiC粒子15を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、セラミックス粒子として例えば、SiN、SiC粒子15以外の他の金属炭化物、金属酸化物、金属ほう化物等があるが、本発明は特にこれらに限定されるものではなく、硬度の高いものであるのが好ましい。
【0044】
<防食コーティング層の補修方法>
ここで、本実施の形態に係る防食コーティング層の補修方法について具体的に説明する。
図2は、本発明による実施例に係る防食コーティング層の補修方法の工程を示す工程図である。
本実施例では、防食コーティング層として無電解Ni−Pめっき層12を用い、セラミックス粒子としてSiC粒子15を用いて説明する。
図2に示すように、本実施の形態に係る防食コーティング層の補修方法は、気体が流通し該気体が接する部材に施した無電解Ni−Pめっき層12の補修を行うにあたり、無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13をSiC粒子15を含有複合ポリイミド樹脂を用いて補修するものである。
即ち、本実施の形態に係る防食コーティング層の補修方法は、以下の(a)〜(f)工程からなる。
(a)無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13を有機溶剤を用いて洗浄を行う第一の洗浄工程(S11)。
(b)欠陥箇所13を研削し、滑らかにするグラインディング工程(S12)。
(c)グラインディング工程S12後、研削した無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13とその周辺を有機溶剤を用いて再度洗浄を行う第二の洗浄工程(S13)。
(d)SiC粒子含有SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物が溶解された溶剤を欠陥箇所13に塗布するコーティング工程(S14)。
(e)コーティング工程S14後、欠陥箇所13に塗布した前記溶剤を蒸発し乾燥させる乾燥工程(S15)。
(f)乾燥工程S15後、前記SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物を焼成し、硬化させ、SiC粒子含有ポリイミド樹脂層16を形成する焼成工程(S16)を含む工程。
【0045】
第一の洗浄工程S11では、無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13をアルコール等の有機溶剤を用いて洗浄する。これは、欠陥箇所13に残っているごみや油等を除去するためである。
【0046】
そして、グラインディング工程S12では、無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13を例えばグラインダー等を用いて研削し、欠陥箇所13とその周辺を滑らかにする。これは、欠陥箇所13の研削した後の欠陥箇所13とその周辺を滑らかにしなければ、SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤を塗布し、ポリイミド樹脂層14を形成しても、ポリイミド樹脂層14が剥離するためである。
【0047】
そして、第二の洗浄工程S13では、欠陥箇所13とその周辺を滑らかにした後、再度欠陥箇所13とその周辺を有機溶剤を用いて再度洗浄を行う。これは、研削したことで生じたゴミ等がそのまま欠陥箇所13とその周辺に残っていると、無電解Ni−Pめっき層12、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の剥離の原因となるためである。
【0048】
そして、コーティング工程S14では、SiC粒子15を含有するポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤を無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13とその周辺に塗布する。この時、SiC粒子15を含有するポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤はへら、刷毛を用いて塗布している。
【0049】
本実施例においては、前記ポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤をコーティングする方法として、はけ塗り法を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、スプレーガンを用いて均一にコーティングを行うスプレー法、浸漬引き上げ法等、部材11に応じて適した塗布方法を用いるようにしてもよい。
【0050】
本実施例において使用されるポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤としては、例えばU−ワニス(商品名:宇部興産社製)を用いることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
そして、乾燥工程S15では、欠陥箇所13に塗布したSiC粒子15を含有するポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤をヒータなどを用いて約80〜120℃に昇温して30分程度蒸発させ乾燥させる。これは、前記ポリイミド樹脂等の原料組成物が溶解された溶剤を基材11上でいきなり350℃程度に加熱させると、ポリイミド樹脂等の原料組成物が溶解された溶剤が一気に蒸発するため、基材まで貫通した欠陥が多いポリイミド樹脂層14が形成され、耐食性が低下するためである。この結果、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の耐食性が低下することとなる。
【0052】
よって、前記溶剤を約80〜120℃に昇温して30分程度蒸発させ、欠陥箇所13に残る前記ポリイミド樹脂等の原料組成物を後述の焼成工程S16で焼成し、硬化させることで、均一なポリイミド樹脂層14を形成することができる。これにより、ポリイミド樹脂層14の耐久性を維持することができ、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の耐食性を向上させることができる。
【0053】
また、前記ポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤を蒸発させることで、欠陥箇所13には、前記ポリイミド樹脂等の原料組成物のみが残るため、再度、前記ポリイミド樹脂等の原料組成物の溶解している溶剤を塗布し、溶剤のみを蒸発させることで、欠陥箇所13には任意の膜厚のポリイミド樹脂層14を形成することができる。
【0054】
そして、80℃以下となったら、上述のコーティング工程S14と乾燥工程S15とを例えば2、3回繰返し行ない、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の膜厚を30〜60μmとする。
【0055】
また、コーティング工程S14と乾燥工程S15とを繰返し行なう回数は、特に限定されるものではなく、無電解Ni−Pめっき層12等のコーティング層の膜厚、欠陥箇所13の状態に応じて任意の膜厚とすることができる。
【0056】
そして、焼成工程S16では、乾燥工程S15においてSiC粒子を含有するポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤を乾燥させた後、前記SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物を約280〜350℃程度に昇温して30分程度焼成し、硬化させる。これは、前記SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物を280℃以下で焼成すると、前記SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物がポリイミド化し反応が進行しないためである。また、350℃以上で焼成すると、前記SiC粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物が焼けるためである。
【0057】
よって、前記ポリイミド樹脂原料組成物を約280〜350℃で加熱処理することで、無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13には、図1に示すようなSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16が形成される。これにより、欠陥箇所13をポリイミド樹脂層14で塞ぐことができる。
【0058】
従って、図2に示すような本発明の実施例に係る防食コーティング層の補修方法を実施することにより、図3に示すような従来の筆めっきで補修する場合より大面積で補修することができる。これにより、ヒータ面積を大きくすることにより大面積施工が可能となるため、欠陥箇所13の単位面積当たりの補修施工時間を短縮することができる。
【0059】
また、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の耐食性は、無電解Ni−Pめっき層12と同等であるため、めっき自体の耐食性が劣ることはなく、図5に示すような従来の筆めっきを用いてNiめっきでの補修に伴うガルバニック腐食が生じることもないため、耐久性に優れた補修を行うことができる。
【0060】
例えば、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16の試験片と無電解Ni−Pめっき層12の試験片とを3%NaCl水溶液中に約450時間程度浸漬しても、両方の試験片からは腐食による損傷が発生せず、ほとんど違いは見られなかった。よって、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16は無電解Ni−Pめっき層12と同等の耐食性を有しているといえる。
【0061】
このように、本実施の形態に係る防食コーティング層の補修方法を用いれば、SiC粒子を含有するポリイミド樹脂原料組成物の溶解している溶剤を無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13に塗布し、蒸発させ乾燥させる工程を少なくとも1回以上繰り返し行なった後、ポリイミド樹脂原料組成物を焼成し、硬化させ、SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16を形成することで、無電解Ni−Pめっき層12の剥離箇所や無電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13には欠陥箇所13の欠陥具合に応じて任意の膜厚のSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16を形成し、欠陥箇所13の補修を行うことができる。
【0062】
また、ヒータ面積を大きくすることにより、大面積での補修が可能となるため、欠陥箇所13が大きい場合でも図3に示すような従来の筆めっきで補修する場合より大面積を短時間で欠陥箇所13の現地補修を行うことができるため、補修効率を向上させることができる。
【0063】
また、電解Ni−Pめっき層12と同等の耐食性を有するSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層16を電解Ni−Pめっき層12の欠陥箇所13に形成することができるため、補修の信頼性を向上させることができる。
【0064】
従って、従来法より耐食性に優れた防食コーティング層の補修を行うことで、回転機械としての信頼性と保守性を向上し、運転の安定性、安全性、効率を向上させることができる。
【0065】
本発明の防食コーティング層の補修方法は、圧縮機、蒸気タービン等の回転機械に限定されるものではなく、基板や封止材等の電子部品、絶縁ワニス、耐食構造材料、耐食コーティング膜等に用いるのにも有用なものである。
【0066】
また、化学プラント等の腐食性環境で使用される圧縮機等の回転機械の流通する気体中の腐食性成分に直接接する部位等にも用いることができ、回転機械の信頼性と効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明に係る防食コーティング層の補修方法は、セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物が溶解された溶剤を防食コーティング層の欠陥箇所に塗布し、蒸発、乾燥させる工程を少なくとも1回以上繰り返し行なった後、セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂層を形成することで、防食コーティング層の欠陥箇所にSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層を形成することができるため、従来より耐食性に優れた防食コーティングの補修を行うのに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】防食コーティング層の補修方法を用いて補修した防食コーティング層と基材との断面を示す概念図である。
【図2】本発明による実施例に係る防食コーティング層の補修方法の工程を示す工程図である。
【図3】筆めっきの原理についての説明図である。
【図4】筆めっき先端部分の拡大図である。
【図5】無電界ニッケルめっき層の欠陥箇所にNiめっき層を施した断面概略図である。
【符号の説明】
【0069】
11 基材
11a 表面
12 無電解Ni−Pめっき層
13 欠陥箇所
14 ポリイミド樹脂層
15 SiC粒子
16 SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層
16−1 第一のSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層
16−2 第二のSiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層
1 無電解Ni−Pめっき層の膜厚
2 SiC粒子含有複合ポリイミドコーティング層の膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体が流通し該気体が接する部材に施した防食コーティング層の補修を行うにあたり、
防食コーティング層の補修箇所をセラミックス粒子を含有するポリイミド樹脂を用いて補修することを特徴とする防食コーティング層の補修方法。
【請求項2】
請求項1において、
(a)前記防食コーティング層の前記欠陥箇所を有機溶剤を用いて洗浄を行う第一の洗浄工程と、
(b)前記欠陥箇所を研削し、滑らかにするグラインディング工程と、
(c)前記グラインディング工程後、研削した防食コーティング層の前記欠陥箇所とその周辺を有機溶剤を用いて再度洗浄を行う第二の洗浄工程と、
(d)セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物が溶解された溶剤を前記欠陥箇所に塗布するコーティング工程と、
(e)前記コーティング工程後、前記欠陥箇所に塗布した前記溶剤を蒸発し乾燥させる乾燥工程と、
(f)前記乾燥工程後、前記セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂原料組成物を焼成し、硬化させ、セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂層を形成する焼成工程と、
を含むことを特徴とする防食コーティング層の補修方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記溶剤の乾燥後、前記コーティング工程及び前記乾燥工程を少なくとも二回以上繰り返し行なった後、前記焼成工程に移行することを特徴とする防食コーティング層の補修方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、
(e)の前記乾燥工程の乾燥温度が、80〜120℃であることを特徴とする防食コーティング層の補修方法。
【請求項5】
請求項2乃至4の何れか一つにおいて、
(f)の前記焼成工程の焼成温度が、280〜350℃であることを特徴とする防食コーティング層の補修方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一つにおいて、
前記セラミックス粒子が、SiC粒子であることを特徴とする防食コーティング層の補修方法。
【請求項7】
請求項2乃至6の何れか一つの防食コーティング層の補修方法を用いて前記防食コーティング層の前記欠陥箇所に前記セラミックス粒子含有ポリイミド樹脂層が形成されていることを特徴とする部材。
【請求項8】
請求項7において、
前記部材を備えた回転機械であって、
前記部材が、圧縮機のインペラ、ダイヤフラム、蒸気タービンの動翼及びそれを支持するタービンディスクの何れかであることを特徴とする回転機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−112946(P2009−112946A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288773(P2007−288773)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】