説明

電動ブレーキ装置およびその制御方法

【課題】
装置の小型化や部品コストの低減を図りながら、定常通電に耐え得る電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】
回転トルクを発生する三相ブラシレスモータ1311と、三相ブラシレスモータ1311の回転運動を直線運動に変換する回転直動変換機構と、回転直動変換機構の直線運動によって移動するピストンと、ピストンによって車輪と共に回転するディスクロータを押圧するブレーキパッドと、三相ブラシレスモータ1311を駆動するスイッチング回路1601〜1606と、相間短絡を行う相間短絡スイッチ1607,1608とを有する三相インバータ1517と、三相インバータ1517のスイッチング回路1601〜1606及び相間短絡スイッチ1607,1608を制御する制御回路と、を有する電動ブレーキ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電動ブレーキ装置およびその制御方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
電動モータのロータの回転運動を回転直動変換機構によってピストンの進退動に変換し、ピストンによってブレーキパッドをディスクロータに押圧させることにより、制動力を発生させるようにした電動ブレーキ装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この電動ブレーキは、運転者によるブレーキペダル踏力(または変位量)をセンサによって検出し、検出した踏力や変位量に応じて電動モータの回転をコントローラによって制御して、所望の制動力を得る。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−206766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば赤信号に従って交差点に停止しているときや渋滞時には、ブレーキペダルが長時間踏まれている状態が続く。その間、制動力を保持するためには、電動ブレーキ装置に指令されたブレーキ力を保持するだけの電流を連続的に通電させなければならない。
【0005】
電流を連続的に流すためには、制御回路駆動素子の耐圧及び放熱の設計を、瞬間的な時間領域ではなく定常領域に拡大し、定常通電で装置の機能が満足するような設計を施すのが常套である。しかしながら、定常通電に耐え得る設計は、放熱機構の表面積ひいては体積の増大,素子耐圧,消費電力の増加などを招き、電動ブレーキ装置自体の大きさの増大,コストの増大を招く。
【0006】
本発明は上記に鑑み、装置の小型化や部品コストの低減を図りながら、定常通電に耐え得る電動ブレーキ装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
回転トルクを発生する三相ブラシレスモータと、三相ブラシレスモータの回転運動を直線運動に変換する回転直動変換機構と、回転直動変換機構の直線運動によって移動するピストンと、ピストンによって車輪と共に回転するディスクロータを押圧するブレーキパッドと、三相ブラシレスモータを駆動するスイッチング回路を有する三相インバータとを有する電動ブレーキ装置において、三相インバータの相間短絡を発生させる手段を備える。
【発明の効果】
【0008】
装置の小型化や部品コストの低減を図りながら、定常通電に耐えうる電動ブレーキ装置およびその制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0010】
図2は、本発明の実施例1をなす電動ブレーキ装置を搭載した車両の概略構成図を示す。なお、走行のための駆動機構の説明は省略する。
【0011】
第1電動ブレーキ装置1201は、右側の前輪1211側に、車軸1221に近接して搭載される。第2電動ブレーキ装置1202は、左側の前輪1212側に、車軸1221に近接して搭載される。第3電動ブレーキ装置1203は、右側の後輪1213側に、車軸1222に近接して搭載される。第4ブレーキ装置1204は、左側の後輪1214側に、車軸1222に近接して搭載される。
【0012】
各電動ブレーキ装置1201〜1204は基本的な構造は同じであるが、前輪側に対応する第1電動ブレーキ装置1201及び第2電動ブレーキ装置1202は、後輪側に対応する第3ブレーキ装置1203及び第4電動ブレーキ1204より大きな制動力を発生するように構成されることが好ましい。
【0013】
前輪の車軸1221および後輪の車軸1222には、それぞれの車軸に固定されたディスクロータ1231〜1234が設けられる。図2では図示されていないが、各電動ブレーキ装置の機構部1241〜1244は、ディスクロータ1231〜1234の各面側に対向する一対のブレーキパッドを備える。さらに、機構部1241〜1244に備えられた電動モータは回転トルクを発生し、回転トルクに基づきブレーキパッドで各ディスクロータ1231〜1234を挟むように押圧することによって制動力を発生させる。
【0014】
各電動ブレーキ装置1201〜1204において、各電動モータを駆動するための電流を制御する電気回路部1251〜1254は、それぞれの機構部1241〜1244に固定される一体構造になっている。電気回路部1251〜1254は、車軸方向において、機構部1241〜1244に備えられたブレーキパッドとは反対側の面に取り付けられる。
【0015】
前輪側の第1電動ブレーキ装置1201および第2電動ブレーキ装置1202には、第1バッテリ1261から第1電源ライン1271を介して電力が供給される。後輪側の第3電動ブレーキ装置1203および第4電動ブレーキ装置1204には、第2バッテリ
1262から第2電源ライン1272を介して電力が供給される。
【0016】
なお、右前輪の第1電動ブレーキ装置1201および左後輪の第4電動ブレーキ装置
1204には第1バッテリ1261から電力が供給され、左前輪の第2電動ブレーキ装置1202および右後輪の第3電動ブレーキ装置1203には第2バッテリ1262から電力が供給されるようにしてもよい。電源ラインを2系統にすることで一方の電源ラインに異常が発生しても他方の電源ラインによる制動が可能で、安全性が向上する。
【0017】
図2に示した車両のブレーキシステムにおいて、ブレーキペダル1281のストロークまたはペダル踏力に関する情報は、ペダル操作量検出器1282により検出され、データ信号線1290を介して制御回路1299に入力される。制御回路1299は、例えば車室内に配置され、各電動ブレーキの電気回路部に対し、ブレーキシステムとして上位の制御処理を行う(以下「上位制御回路」と記す)。
【0018】
上位制御回路1299は、第1〜第4電動ブレーキ装置1201〜1204から、それぞれデータ信号線1291〜1294を介して、第1〜第4電動ブレーキ装置1201〜1204の状態、たとえば押し付け力の現在値,動作モード現在値の情報等を受信する。さらに電動モータの状態を監視しながら、ブレーキペダル1281のストロークまたはペダル踏力に関する情報に応じた制御信号をデータ信号線1291〜1294を介して、各電動ブレーキ装置1201〜1204に送信し、各電動ブレーキ装置1201〜1204を制御する。なお、上位制御装置1299は、車室内に配置される。
【0019】
上述のように、電動ブレーキ装置は、発生させるべきブレーキ指令を電気信号として取得し、その信号変化に応じてブレーキ力を制御できる。この電気信号は、アナログ信号や通信化された信号など、どのような形態でも実現することが可能である。
【0020】
なお、上位制御回路1299は、各電動ブレーキ装置1201〜1204をそれぞれ単独に制御したり、前輪側の第1電動ブレーキ装置1201と第2ブレーキ装置1202を一グループとするとともに後輪側の第3電動ブレーキ装置1203と第4ブレーキ装置
1204を他のグループとして各グループを制御したり、あるいは、前輪側の第1電動ブレーキ装置1201と後輪側の第4電動ブレーキ装置1204を一グループとするとともに前輪側の第2電動ブレーキ装置1202と後輪側の第3電動ブレーキ装置1203を他のグループとして各グループを制御したりしてもよい。グループ分けして制御することで、制御の応答性の改善,制御回路の処理負荷低減,フェールセーフの処理機能の増大といった効果が得られる。
【0021】
このような構成からなる自動車の電動ブレーキ装置1201〜1204は、たとえばサスペンション等を介することなく車体に直接取り付けられることから振動による影響を受けやすく、また、雨天時の走行によって水分が内部に浸入し易いという環境下で使用されることになる。
【0022】
また、この実施例において電動ブレーキ装置1201〜1204は、上述したように機構部1241〜1244に制御回路を含む電気回路部1251〜1254が一体化して構成され、該制御回路には多数の半導体装置が備えられている。半導体装置は熱によって特性が変化する性質を有することから、車輪と共に回転するディスクロータ1231〜1232に対する機構部1241〜1244内のブレーキパッドの押圧によって発生する高熱の摩擦熱が該電気回路部1251〜1254へ伝導されるのを極力抑制させる必要が生じ、また、半導体装置がそれ自体で発生する熱においても効率よく放散させる必要が生じる。
【0023】
図3は、図2の電動ブレーキ装置の概念図を示す。以下、代表例として第1電動ブレーキ装置1201を説明する。
【0024】
電動ブレーキ装置1201は、互いに対向して配置される一対のブレーキパッド1306,1307を備える。車軸の回転に伴って回転するディスクロータ1231の一部が各ブレーキパッド1306,1307の間に配置される。
【0025】
電動ブレーキ装置1201は、機構部1241と電気回路部1251とが互いに一体化されて構成される。機構部1241と電気回路部1251は領域的に別個であるため、該機構部1241と電気回路部1251を構造的に分離させることも可能である。
【0026】
機構部1241は、キャリパ1301内に、たとえば三相ブラシレスモータ1311と、三相ブラシレスモータ1311の回転を減速する減速機1321と、減速機1321によって減速された三相ブラシレスモータ1311の回転運動を直線運動に変換してピストン1331を進退動させる回転直動機構1326を備える。
【0027】
ブレーキパッド1307は、ピストン1331に取り付けられ、ピストン1331の推力によりディスクロータ1231を一方の面側から押圧する。この際に、ディスクロータ1231の一方の面側からの押圧力を反力として電動ブレーキ装置1201が図中矢印α方向に移動することにより、ブレーキパッド1306がディスクロータ1231を他方の面側から押圧する。
【0028】
機構部1241は、パーキングブレーキ(PKB)機構1341を備える。パーキングブレーキ機構1341は、ピストン1331がディスクロータ1231に推力を供給している状態のまま三相ブラシレスモータ1311の回転を止めることにより、三相ブラシレスモータ1311に電力を供給することなく、制動力を保持することができる。
【0029】
三相ブラシレスモータ1311の近傍には、三相ブラシレスモータ1311の回転角を検出する回転角検出センサ1351,三相ブラシレスモータ1311の駆動によって生じる推力を検出する推力センサ1353、及び三相ブラシレスモータ1311の温度を検出する温度センサ1355が配置される。回転角検出センサ1351,推力センサ1353、及び温度センサ1355の出力信号は、電気回路部1251内に配置される下位制御回路
1399に出力される。
【0030】
電気回路部1251は、車体側に配置されるバッテリ1261から電力供給を受ける。また、エンジンコントロールユニット1381,ATコントロールユニット1383,ペダル操作量検出器1282等が接続されたCAN(Controller Area Network) を介して、あるいは該CANから上位制御回路1299を介して、種々の制御信号を取得する。
【0031】
電気回路部1251は、インバータ回路1391及び下位制御装置1399を備える。インバータ回路1391は、三相ブラシレスモータ1311に印加する電圧を制御するための回路である。下位制御回路1399は、CAN経由により制御信号を取得し、さらに機構部1241側からの回転角検出センサ1351,推力センサ1353、及び温度センサ
1355等の出力情報信号を取得し、これらの信号に基づいてインバータ回路1391を制御する。
【0032】
三相ブラシレスモータ1311は、インバータ回路1391からの出力を取得し、ピストン1331に所定の推力を発生させるように回転トルクを発生する。なお、図中符号1395は車両側の構造物を示している。
【0033】
図4は、図2の電動ブレーキ装置の断面図を示す。
【0034】
図4中の線分X−Xは、機構部1241と電気回路部1251の境界を示し、線分X−Xの図中左側は機構部1241を、図中右側は電気回路部1251を示す。
【0035】
キャリパ1301は、略C字形に形成された爪部1302と、ボルト(図示せず)によって一体的に結合される。爪部1302は、ディスクロータ1231を跨いで形成される。ブレーキパッド1307は、車輪とともに回転するディスクロータ1231とキャリパ1301との間に設けられる。さらに、ブレーキパッド1306は、ディスクロータ1231と爪部1302の先端部との間に設けられる。
【0036】
車体側に固定されるキャリヤ1303は、電動ブレーキ装置1201をキャリヤ1303に取り付けられたスライドピン(図示せず)によって、ディスクロータ1231の回転軸方向に沿って摺動可能に支持する。また、キャリヤ1303は、ブレーキパッド1306とディスクロータ1231との接触により発生する制動トルクを受ける。
【0037】
キャリパ1301は、三相ブラシレスモータ1311のステータと、三相ブラシレスモータ1311のロータ1342と、差動減速機構1321と、ボールランプ機構1326と、パッド磨耗補償機構1304と、駐車ブレーキ機構1341(ロック機構)とを収納する。
【0038】
電動モータのロータ1342は、インバータ回路1391からの駆動電圧によって回転し、回転角検出センサ1351によって、その回転位置が検出される。なお、ステータは、ステータ自体が発熱した際に効率的に放熱できるように、金属製のキャリパ1301と接触するように配置される。
【0039】
差動減速機構1321は、電動モータのロータ1342の回転を減速する。
【0040】
ボールランプ機構1326は、回転ディスク1327および直動ディスク1328に形成されたボール溝(傾斜溝)間にボール1329が装入され、回転ディスク1327が回転すると、ボール1329が溝内を転動することにより、その回転角度に応じて直動ディスク1328が軸方向に沿って移動する。これにより、ボールランプ機構1326は、差動減速機構1321によって減速されたロータ1342の回転運動を直線運動に変換して、ブレーキパッド1307に当接するピストン1331を進退動させる。
【0041】
また、ボールランプ機構1326の軸元には、戻りバネ1343が内蔵されている。この戻りバネ1343は、キャリパに推力が発生している際に、電動モータへの通電が遮断され、回転トルクが発生しなくなると、ボールランプ機構1326を推力が減少する方向にバネ力で回転させ機械的にブレーキパッド1306の推力を解除する機能を有する。これにより、電動ブレーキ装置の故障等、車両に対して意図しないブレーキ力が発生することを抑え、車両走行の安定性を損なわないようにすることができる。
【0042】
パッド磨耗補償機構1304は、電動モータのロータ1342の回転を一方向クラッチおよびバネを介して直動ディスク1328に伝達することにより、回転ディスク1327と直動ディスク1328とが一体なり回転させ、ピストン1331を前進させる。これにより、ブレーキパッド1307が磨耗してピストン1331との間に隙間が生じたときに、ブレーキパッド1307の磨耗を調整することができる。
【0043】
駐車ブレーキ機構1341は、電動モータのロータ1342の外周部に一体に設けられた爪車と、この爪車に係合する係合爪を有するロック手段とを備える。そして、指令信号に応じたアクチュエータ等(たとえば、ソレノイド)によって、ロック手段が係合爪を爪車に係合させることにより、ロータ1342の回転をロックする。ブレーキパッド1306,1307とディスクロータ1231とが接触した状態において、電力を供給することなく機械的に制動力を保持することができる。
【0044】
スラストプレート1421は、機構部1241内の電気回路部1251側に配置され、ピストン1331の推力を反力として受ける機能を有する。推力センサ1353が、スラストプレート1241の中央部に配置される。
【0045】
スラストプレート1421は、機構部1241のキャリパ1301の端面(図中線分X−Xの部分)に対して、ブレーキパッド部側へ若干奥まった箇所に配置される。キャリパ1301を除いた機構部1241の構成部材と電気回路部1251との間には、隙間(空間)が形成される。一方、推力センサ1353は、キャリパ1301の端面(図中線分X−Xの部分)を越えて電気回路部1251側に若干突出する。しかしながら、電気回路部1251に備えられたインターフェースモジュール200は、推力センサ1353との干渉を回避するように凹陥部が形成される。
【0046】
キャリパ1301を含む機構部1241の各構成部材の大部分は、金属製であるため、熱の伝導効率が高い。そのため、ブレーキパッド部(ブレーキパッド1306,1307およびその周辺部)からの熱は、周辺の機構部1241に伝達され、キャリパ1301を介して外部へ放熱され易い。
【0047】
また、電気回路部1251は、機構部1241を間にして、ブレーキパッド部と反対側の面に形成されるため、電気回路部1251へ熱の伝達が極力少なくなる。さらに、機構部1241の構成部材と電気回路部1251との間には、上述した隙間(空間)が形成されるため、機構部1241から電気回路部1251への熱の伝導をさらに少なくなる。
【0048】
図5は、図3の電気回路部1251の回路構成図を示す。
【0049】
図中太線枠1251は図3に示された電気回路部1251に相当し、さらに一点鎖線枠1391は図3に示されたインバータ回路1391に相当する。図中点線枠1503は、機構部1241内の回路に相当する。
【0050】
図5に示された機構部1241内回路及び電気回路部は、図示されていないが、金属製の筐体で被われているため、飛び石等の外的傷害の要因から保護される。また、伝熱性の高い金属製の筐体を用いることにより、各回路等から発生する熱の放熱を図ることができる。さらに、遮蔽性の高い金属製の筐体を用いることにより、電磁波等に対するシールド効果を備える。
【0051】
まず、電気回路部1251の回路において、車両内の電源ラインを介して供給される電力が、電源回路1511に供給される。電源回路1511により安定化された電力(Vcc,Vdd)は、中央制御回路(CPU)1599に供給される。なお、電源回路1511からの電源(Vcc)は、VCC高電圧検知回路1513によって検知される。VCC高電圧検知回路1513が高電圧を検知した場合には、フェールセーフ回路1515を動作させる。
【0052】
フェールセーフ回路1515は、後述の三相モータインバータ1517に供給する電力をスイッチングするリレー1519を動作させる。VCC高電圧検知回路1513によって高電圧が検知された場合、電力の供給をOFF状態にする。
【0053】
フィルタ回路1521は、リレー1519を介して電気回路部1251内に供給される電力のノイズを除去し、ノイズが除去された電力を三相モータインバータ1517に供給する。
【0054】
中央制御回路1599は、上位制御回路1299からの制御信号を、CAN通信インターフェース回路1523を介して取得し、また機構部1241側に配置された推力センサ1353,回転角検出センサ1351及び温度センサ1355からの出力信号を、それぞれ、推力センサインターフェース回路1525,回転角検出センサインターフェース回路1527及び温度センサインターフェース回路1529を介して取得する。三相ブラシレスモータ1311の現時点における状況等に関する情報を取得し、上位制御回路1299からの制御信号に基づきフィードバック制御をすることにより、三相ブラシレスモータ
1311に適切な回転トルクを発生させる。すなわち、中央制御回路1599は、上位制御回路1299からの制御信号及び各センサの検出値に基づいて、三相モータプリドライバ回路1531に適切な信号を出力させる。また、中央制御回路1599は、インターフェース1571を介して、電源線1570の電圧値を、アナログ信号として取得し、電源電圧の変動による、制御補正を行う。
【0055】
三相モータインバータ1517には、相電流モニタ回路1533および相電圧モニタ回路1535U,1535V,1535Wが具備される。相電流モニタ回路1535U,
1535V,1535Wおよび相電圧モニタ回路1535は、それぞれ相電流および相電圧を監視し、監視結果を中央制御回路1599に出力する。中央制御回路1599は、監視結果に応じて、三相モータプリドライバ回路1531を適切に動作させる。なお、三相モータインバータ1517は、三相ブラシレスモータ1311を駆動させる電流および電圧を制御することから、出力が比較的大きな半導体装置を内蔵する。
【0056】
また、中央制御回路1599は、上位制御回路1299からの制御信号、および各センサの検出値等に基づいて、パーキングブレーキ(以下、PKB)ソレノイドドライバ回路1537を介して、機構部1241内のPKBソレノイド1342を動作させ、パーキングブレーキを作用させる。PKBソレノイドドライバ回路1537は、三相モータインバータ1517に供給される電力の一部が供給される。
【0057】
また、電気回路部1251は、中央制御回路1599との間で信号の送受がなされる監視用制御回路1539、たとえば故障情報等が格納されたEEPROMからなる記憶回路1541を備える。
【0058】
電気回路部1251は、機構部1241との間での結線は多いが、機構部1241以外の回路(バッテリ1261,上位制御装置1299)との間の結線は極めて少ない。これにより、機構部1241と電気回路部1251との一体構造からなる電動ブレーキ装置
1201の製造工程において、機構部1241と電気回路部1251との間の複雑な結線を行い、電動ブレーキ装置1201が完成した後に、電動ブレーキ装置1201を車体に取り付ける際には、バッテリ1261あるいは上位制御装置1299との間の結線を極めて容易に行うことができる。
【0059】
このような電動ディスクブレーキ装置では、各種センサを用いて、各車輪の回転速度,車両速度,車両加速度,操舵角,車両横加速度等の車両状態を検出し、コントローラによってこれらの検出に基づいて電動モータの回転を制御することにより、倍力制御,アンチロック制御,トラクション制御および車両安定化制御を得ることができる。
【0060】
図1は、本発明の実施例1をなす電動ブレーキ装置における三相モータインバータの回路図を示す。
【0061】
三相モータインバータ1517は、UVW相に対応する上アームスイッチング素子1601,1602,1603と、下アームスイッチング素子1604,1605,1606を有する。本実施形態では、相間短絡スイッチ1607,1608を有する。これらの相間短絡スイッチ1607,1608は、図5における三相モータプリドライバを介したCPU1599からの制御信号により開閉される。
【0062】
ここで、相間短絡について説明する。三相ブラシレスモータは、ステータによって回転磁界を発生させ、その回転磁界とロータに埋め込まれた永久磁石の吸引力によって回転磁界に同期した回転がロータに発生する。ここで、三相のうちの所定の2相の間に相間短絡が発生した状態で、ロータに外力による回転トルクが発生すると、ロータの磁力線とステータコイルが交差し、ロータの回転により相対運動が発生して、フレミング左手の法則により短絡回路に電流が発生する。そして、それに伴い短絡回路上のステータコイルのインダクタンス成分により逆起電力が発生し、この逆起電力により、フレミング左手の法則により発生していた短絡電流とは逆向きの電流が発生する。この逆向きの電流は、外力によるトルクと逆向きのトルク(ロックトルク)を発生し、ロータの回転をロックする。
【0063】
本実施形態では、相間短絡スイッチ1607,1608を操作することによって相間短絡を発生させ、それにより発生したロックトルクによって電動ブレーキのピストンを推進するモータをロックさせ、電力をほぼ消費せずにそれ以前に発生していた制動力を維持する。
【0064】
図6は、図1の例におけるロックトルク制御のフローチャートを示し、図7は、図6の制御によるタイムチャートを示す。これは、車両側で運転者が操作するブレーキ操作において、推力を保持する場合の動作を示す。
【0065】
図6のステップ601で、ブレーキペダル操作量が所定値S0を超えた状態が所定時間続いたかどうか判断する。この処理は、CPU112によって常時連続的に一定時間間隔で実行するか、瞬間低電圧を検知することをトリガーとした、ハードウェアによる割り込み処理で実行する。尚、ブレーキペダル操作量は上位制御装置1299及び車内ネットワークを通じて電動ブレーキ装置が入手しても良いし、またブレーキペダル操作量が所定値S0を超えた状態が所定時間続いたということを示す情報を上位制御装置が電動ブレーキ装置に与えても良い。後述するブレーキペダル操作量が所定値S0を下回ったことを判定する際も同様である。ブレーキペダル操作量が所定値S0を超えた状態が所定時間続いていなければ、このルーチンを終了して通常のブレーキ制御に戻る。
【0066】
ここで例えば図7の時点t1から時点t2にかけて、ブレーキペダル操作量が所定値
S0を超えた状態が続いたとする。すると、図6の601において、ブレーキペダル操作量が所定値S0を超えた状態が所定時間続いたと判断され、ステップ602に進む。
【0067】
ステップ602では、インバータの制御を停止するとともに、ステップ603で、ロックトルク制御信号により相間短絡スイッチ1607,1608を操作して相間短絡を発生させ、モータにロックトルクを発生させる。インバータの制御を停止させると、モータにはトルクが発生しなくなり、キャリパ1301内蔵の先述の戻りバネ1343の作用により、推力が解除される方向にモータが回転しようとする。しかし、処理603において、ロックトルク制御信号がロック側になり、電動モータ9の各相が短絡され、ロックトルクが発生し、キャリパ1301内のピストン1331の位置を保持し、発生推力が保持される。
【0068】
ここで、発生するロックトルクが戻りバネ1343の最大バネ力に打ち勝つように、モータのコイル長,コイル径,コイルターン数を考慮して設計されることが好ましい。
【0069】
次に処理604において、ブレーキペダル操作量をモニタし、時点t3において、ブレーキペダル操作量が所定値S0を下回れば、処理605によりロックトルク制御信号を開放し、処理606においてインバータ制御を復帰させ、通常のブレーキ制御を再開する。
【0070】
本実施形態によれば、車両側から出力される制動力保持指令に対して、相間短絡スイッチ1607,1608をONに維持する電力だけで制動力を保持することが可能になり、駆動回路の電気的,放熱容量を大きくする必要がなく、装置のコスト,重量,サイズ,消費電力の削減を図ることが可能となる。
【実施例2】
【0071】
図8は、本発明の実施例2をなす電動ブレーキ装置におけるロックトルク制御のフローチャートを示し、図9は、図8の制御によるタイムチャートを示す。これは、電源電圧の瞬間的な低下により発生させている推力制御が維持できなくなる場合の動作を示す。
【0072】
図8のステップ801で、電動ブレーキ装置に供給される電源電圧の瞬間低下が発生したかどうか判断する。この処理は、CPU112によって常時連続的に一定時間間隔で実行するか、瞬間低電圧を検知することをトリガーとした、ハードウェアによる割り込み処理で実行する。電源電圧の瞬間低下が発生していなければ、このルーチンを終了して通常のブレーキ制御に戻る。
【0073】
ここで例えば図9の時点0から時点t4にかけて、推力指令に応じて推力を発生させている状態から、電源電圧が時点t4において装置の最低動作電圧であるV0を下回るような瞬間低電圧状態が発生したとする。すると、図8の801において、電源電圧の瞬間低下が発生したと判断され、ステップ802に進む。
【0074】
ステップ802では、インバータの制御を停止するとともに、ステップ803で、ロックトルク制御信号により相間短絡スイッチ1607,1608を操作して相間短絡を発生させ、モータにロックトルクを発生させる。インバータの制御を停止させると、モータにはトルクが発生しなくなり、キャリパ1301内蔵の先述の戻りバネ1343の作用により、推力が解除される方向にモータが回転しようとする。しかし、処理803において、ロックトルク制御信号がロック側になり、電動モータ9の各相が短絡され、ロックトルクが発生し、キャリパ1301内のピストン1331の位置を保持し、発生推力が保持される。
【0075】
次に処理804において、電源電圧をモニタし、時点t5において、電源電圧が最低動作電圧以上に復帰すれば、処理805によりロックトルク制御信号を開放し、処理806においてインバータ制御を復帰させ、推力制御を再開する。
【0076】
本実施例によれば、電動ブレーキの発生推力を、電源からのエネルギーをほとんど使用せず保持可能なため、電源が瞬間的に低下したりした場合に、ブレーキ力が完全に解除されることを回避することが可能である。また、瞬間的に発生する低電圧によって、推力が解除されて、車両が坂道などで後退するような状況を回避することが可能となる。
【実施例3】
【0077】
図10は、本発明の実施例3をなす電動ブレーキ装置における三相モータインバータの回路図を示す。
【0078】
図1では相間短絡スイッチ1607,1608によって相間短絡を発生させたが、本実施例では相間短絡スイッチ1607,1608を無くし、その代わりにインバータ回路の上アームスイッチング素子1601,1602,1603をすべてONさせる方法、または下アームスイッチング素子1604,1605,1606スイッチをONさせる方法により、相間短絡を発生させる。他の構成は、実施例1と同様である。また、実施例2と組み合わせても良い。
【0079】
本実施例によれば、相間短絡スイッチ1607,1608が不要となり、新たなインバータを用意することなく、制御によって制動力の維持が可能になり、より低コストに装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施例1をなす電動ブレーキ装置における三相モータインバータの回路図を示す。
【図2】本発明の実施例1をなす電動ブレーキ装置を搭載した車両の概略構成図を示す。
【図3】図2の電動ブレーキ装置の概念図を示す。
【図4】図2の電動ブレーキ装置の断面図を示す。
【図5】図3の電気回路部1251の回路構成図を示す。
【図6】図1の例におけるロックトルク制御のフローチャートを示す。
【図7】図6の制御によるタイムチャートを示す。
【図8】本発明の実施例2をなす電動ブレーキ装置におけるロックトルク制御のフローチャートを示す。
【図9】図8の制御によるタイムチャートを示す。
【図10】本発明の実施例3をなす電動ブレーキ装置における三相モータインバータの回路図を示す。
【符号の説明】
【0081】
1311 三相ブラシレスモータ
1517 三相モータインバータ
1601〜1603 上アームスイッチング回路
1604〜1606 下アームスイッチング回路
1607,1608 相間短絡スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転トルクを発生する三相ブラシレスモータと、
前記三相ブラシレスモータの回転運動を直線運動に変換する回転直動変換機構と、
前記回転直動変換機構の直線運動によって移動するピストンと、
前記ピストンによって車輪と共に回転するディスクロータを押圧するブレーキパッドと、
前記三相ブラシレスモータを駆動するスイッチング回路と、相間短絡を行う相間短絡スイッチとを有する三相インバータと、
前記三相インバータのスイッチング回路及び前記相間短絡スイッチを制御する制御回路と、
を有する電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動ブレーキ装置であって、
前記制御回路は、ブレーキペダル操作量が所定値を超えた状態が所定時間続いた場合、前記相間短絡スイッチを動作させる電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2記載の電動ブレーキ装置であって、
前記制御回路は、前記相間短絡スイッチを動作させた後、前記ブレーキペダル操作量が前記所定値を下回った場合、前記相間短絡スイッチを解除する電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1記載の電動ブレーキ装置であって、
前記制御回路は、電源電圧が装置の最低動作電圧を下回るような瞬間低電圧状態が発生した場合、前記相間短絡スイッチを動作させる電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4記載の電動ブレーキ装置であって、
前記制御回路は、前記相間短絡スイッチを動作させた後、前記電源電圧が前記最低動作電圧に復帰した場合、前記相間短絡スイッチを解除する電動ブレーキ装置。
【請求項6】
回転トルクを発生する三相ブラシレスモータと、
前記三相ブラシレスモータの回転運動を直線運動に変換する回転直動変換機構と、
前記回転直動変換機構の直線運動によって移動するピストンと、
前記ピストンによって車輪と共に回転するディスクロータを押圧するブレーキパッドと、
前記三相ブラシレスモータを駆動するスイッチング回路を有する三相インバータと、
所定の条件が成立した場合に、前記三相インバータのスイッチング回路を操作して相間短絡を発生させる制御回路と、
を有する電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項6記載の電動ブレーキ装置であって、
前記制御回路は、ブレーキペダル操作量が所定値を超えた状態が所定時間続いた場合、前記三相インバータのスイッチング回路を操作して相間短絡を発生させる電動ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項7記載の電動ブレーキ装置であって、
前記制御回路は、前記相間短絡を発生させた後、前記ブレーキペダル操作量が前記所定値を下回った場合、前記相間短絡を解除する電動ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項6記載の電動ブレーキ装置であって、
前記制御回路は、電源電圧が装置の最低動作電圧を下回るような瞬間低電圧状態が発生した場合、前記三相インバータのスイッチング回路を操作して相間短絡を発生させる電動ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項9記載の電動ブレーキ装置であって、
前記制御回路は、前記相間短絡を発生させた後、前記電源電圧が前記最低動作電圧に復帰した場合、前記相間短絡を解除する電動ブレーキ装置。
【請求項11】
回転トルクを発生する三相ブラシレスモータと、
前記三相ブラシレスモータの回転運動を直線運動に変換する回転直動変換機構と、
前記回転直動変換機構の直線運動によって移動するピストンと、
前記ピストンによって車輪と共に回転するディスクロータを押圧するブレーキパッドと、
前記三相ブラシレスモータを駆動するスイッチング回路と、相間短絡を行う相間短絡スイッチとを有する三相インバータと、を有する電動ブレーキ装置の制御方法であって、
所定の条件が成立した場合に、前記相間短絡スイッチを動作させる電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項12】
請求項11記載の電動ブレーキ装置の制御方法であって、
ブレーキペダル操作量が所定値を超えた状態が所定時間続いた場合、前記相間短絡スイッチを動作させる電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項13】
請求項12記載の電動ブレーキ装置の制御方法であって、
前記相間短絡スイッチを動作させた後、前記ブレーキペダル操作量が前記所定値を下回った場合、前記相間短絡スイッチを解除する電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項14】
請求項11記載の電動ブレーキ装置の制御方法であって、
電源電圧が装置の最低動作電圧を下回るような瞬間低電圧状態が発生した場合、前記相間短絡スイッチを動作させる電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項15】
請求項14記載の電動ブレーキ装置の制御方法であって、
前記相間短絡スイッチを動作させた後、前記電源電圧が前記最低動作電圧に復帰した場合、前記相間短絡スイッチを解除する電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項16】
回転トルクを発生する三相ブラシレスモータと、
前記三相ブラシレスモータの回転運動を直線運動に変換する回転直動変換機構と、
前記回転直動変換機構の直線運動によって移動するピストンと、
前記ピストンによって車輪と共に回転するディスクロータを押圧するブレーキパッドと、
前記三相ブラシレスモータを駆動するスイッチング回路を有する三相インバータと、を有する電動ブレーキ装置の制御方法であって、
所定の条件が成立した場合に、前記三相インバータのスイッチング回路を操作して相間短絡を発生させる電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項17】
請求項16記載の電動ブレーキ装置の制御方法であって、
ブレーキペダル操作量が所定値を超えた状態が所定時間続いた場合、前記三相インバータのスイッチング回路を操作して相間短絡を発生させる電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項18】
請求項17記載の電動ブレーキ装置の制御方法であって、
前記相間短絡を発生させた後、前記ブレーキペダル操作量が前記所定値を下回った場合、前記相間短絡を解除する電動ブレーキ装置の制御方法。
【請求項19】
請求項16記載の電動ブレーキ装置の制御方法であって、
電源電圧が装置の最低動作電圧を下回るような瞬間低電圧状態が発生した場合、前記三相インバータのスイッチング回路を操作して相間短絡を発生させる電動ブレーキ装置。
【請求項20】
請求項19記載の電動ブレーキ装置の制御方法であって、
前記相間短絡を発生させた後、前記電源電圧が前記最低動作電圧に復帰した場合、前記相間短絡を解除する電動ブレーキ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−207679(P2008−207679A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46368(P2007−46368)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】