説明

電動モータ駆動装置

【課題】車両のスペース制約を満足することができる電動モータ駆動装置を提供する。
【解決手段】電動モータ駆動装置1のモータ側回転部材22は、モータ11から軸方向一方側に突出する。減速部31は、管状の内側回転軸33i及び管状の外側回転軸33oを含む第1シャフト33と、平行に配置されて車輪側に回転を伝達する第2シャフト34と、第1減速比で減速して第2シャフト34へ伝達する第1減速部G1と、第2減速比で減速して第2シャフト34へ伝達する第2減速部G2とを有する。断接部21は、内側回転軸33iのモータ11から遠い方の端部に設けられて内側回転軸33iとモータ側回転部材22とを接続する第1クラッチC1と、外側回転軸33oのモータ11から遠い方の端部に設けられて外側回転軸33oとモータ側回転部材22とを接続する第2クラッチC2とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として電動モータを備え、電動モータの出力を減速して車輪へ伝達する電動モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車およびハイブリッド車両の駆動装置に用いられる電動モータ駆動装置としては従来、例えば、特開2006−22879号公報(特許文献1)に記載のごときものが知られている。特許文献1に記載の電動モータ駆動装置は、電動モータと、電動モータの出力を高減速比で減速する第1の減速部と、電動モータの出力を低減速比で減速する第2の減速部と、これら第1,第2の減速部にそれぞれ設けられて、これら第1,第2の減速部を選択的に断絶する第1,第2の断続手段を備える。この電動モータ駆動装置は、電動モータの出力トルクを伝達する第1のシャフト及び第1のシャフトに平行配置された第2のシャフトが設けられ、第1の減速部は、前記第1のシャフトに一体回転可能に配置された第1のギヤ及び前記第2のシャフトに相対回転可能に配置された第2のギヤを備える。また、第2の減速部は、前記第1のシャフトに相対回転可能に配置された第3のギヤ及び前記第2のシャフトに一体回転可能に配置された第4のギヤを備える。そして、第1の断続手段は、第2のシャフト及び第2のギヤ間を断続する2ウェイオーバーランニングクラッチであり、第2の断続手段は、第1のシャフト及び第3のギヤ間を断続する多板摩擦クラッチである。
【特許文献1】特開2006−22879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来のような電動モータ駆動装置にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。つまり、2つの別個のクラッチを、第2のシャフトおよび第1のシャフトにそれぞれ設けることは、車両のスペース制約上困難である。しかも、電動モータ駆動装置が大型化してしまうという問題があった。
【0004】
本発明は、上述の実情に鑑み、車両のスペース制約を満足することができる電動モータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のため本発明による電動モータ駆動装置は、モータ側回転部材を回転駆動するモータと、モータ側回転部材の回転を減速して車輪側に伝達する減速部と、減速部の回転伝達を遮断または接続する断接部とを備える。そして、記モータ側回転部材は、モータから軸方向一方側に突出し、減速部は、モータ側回転部材が挿通される管状の内側回転軸および内側回転軸が挿通される管状の外側回転軸を含む第1シャフトと、第1シャフトと平行に配置されて車輪側に回転を伝達する第2シャフトと、内側回転軸のモータに近い方の端部に設けられて内側回転軸の回転を第1減速比で減速して第2シャフトへ伝達する第1減速部と、外側回転軸のモータに近い方の端部に設けられて外側回転軸の回転を第1減速比と異なる第2減速比で減速して第2シャフトへ伝達する第2減速部とを有し、断接部は、内側回転軸のモータから遠い方の端部に設けられて内側回転軸とモータ側回転部材とを接続する第1クラッチと、外側回転軸のモータから遠い方の端部に設けられて外側回転軸とモータ側回転部材とを接続する第2クラッチとを有する。
【0006】
かかる本発明によれば、第1シャフトが外側回転軸および内側回転軸を含む2重シャフト構造であるから、この第1シャフト上に2つのクラッチを配置することが可能となり、車両のスペース制約上有利なものとなる。したがって、電動モータ駆動装置の小型化に資する。また本発明によれば、モータから軸方向一方側に突出するモータ側回転部材が内側回転軸および外側回転軸に挿通され、第1減速部が内側回転軸のモータに近い方の端部に設けられ、第2減速部が外側回転軸のモータに近い方の端部に設けられ、第1クラッチが内側回転軸のモータから遠い方の端部に設けられ、第2クラッチが外側回転軸のモータから遠い方の端部に設けられる。これにより、モータの軸方向一端側に減速部と、断接部とを順次配置して減速部を電動モータ駆動装置の中央部に配置することが可能になる。したがって、減速部の出力を左右輪に分配するディファレンシャルギヤ装置を車両の車幅方向中央部に配置し得て、車両の重量バランスが向上する。
【0007】
ここで好ましくは、減速部は、第1シャフトの回転を第1減速比および第2減速比と異なる第3減速比で減速して第2シャフトへ伝達する第3減速部をさらに有する。かかる実施形態によれば、それぞれ減速比の異なる第1ないし第3減速部を備えることから、低速走行時と、中速走行時と、高速走行時のそれぞれに対応して、電動モータを運転効率の良い回転数で運転することができ、エネルギー効率が益々向上する。
【0008】
好ましくは、第1クラッチは、モータ側回転部材と同軸に設けられて一体回転する第1モータ側摩擦要素と、内側回転軸と一体回転する第1シャフト側摩擦要素と、第1シャフト側摩擦要素または第1モータ側摩擦要素の一方を他方へ押圧してこれらを締結する第1圧力部材とを有し、第2クラッチは、モータ側回転部材と同軸に設けられて一体回転する第2モータ側摩擦要素と、外側回転軸と一体回転する第2シャフト側摩擦要素と、第2シャフト側摩擦要素または第2モータ側摩擦要素の一方を他方へ押圧してこれらを締結する第2圧力部材とを有する。かかる実施形態によれば、電動モータから内側回転軸または外側回転軸を経由して車輪側へ伝達する動力伝達経路を、摩擦要素の掛け替え操作によって切り替えることが可能になる。したがって、特許文献1の電動モータ駆動装置のように2ウェイクラッチを用いた場合に第1および第2減速部間の切り替えに伴って発生するショックを、解消することができる。
【0009】
好ましくは、第1圧力部材および第2圧力部材は、共通する圧力ディスクの一方面および他方面であり、第1モータ側摩擦要素および第1シャフト側摩擦要素は、圧力ディスクの一方面側に配置され、第2モータ側摩擦要素および第2シャフト側摩擦要素は、圧力ディスクの他方面側に配置され、断接部は、圧力ディスクを一方面側および他方面側へ移動させるアクチュエータをさらに有する。かかる実施形態によれば、圧力ディスクの一方面側に第1クラッチを配置し、圧力ディスクの他方面側に第2クラッチを配置することから、1つのアクチュエータによって共通する圧力ディスクを移動させて第1および第2減速部間の切り替えることが可能になる。したがって、電動モータ駆動装置の一層の小型化を図ることが可能となり、車両のスペース制約上益々有利なものとなる。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明は、モータ側回転部材と同軸に配置された管状の外側回転軸および外側回転軸に挿通された内側回転軸を含む第1シャフトを有することから、第1シャフト上に、第1クラッチおよび第2クラッチをまとめて配置することが可能となる。したがって、電動モータ駆動装置の小型化を図るとともに、車両のスペース制約上有利な電動モータ駆動装置を実現することができる。また減速部を電動モータ駆動装置の中央部に配置することから、車両の重量バランスが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1になる電動モータ駆動装置を示す要部展開断面図である。実施例1の電動モータ駆動装置1は、モータ11と、断接部21と、減速部31とを備える。モータ11は、モータケーシング12に固定されるステータ13と、ステータ13の内側に径方向に開いた隙間を介して対面する位置に配置されるロータ14と、ロータ14の内側に固定連結されてロータ14と一体回転するモータ出力軸15とを備えるラジアルギャップモータである。
【0013】
モータケーシング12は、モータ11の軸方向一端側でケーシング32と結合する。モータ出力軸15は両端でモータケーシング12にそれぞれ回転自在に支持され、モータ出力軸15の一端は、モータ側回転部材22の一端と結合する。モータ側回転部材22は、モータ11から軸方向一方側に突出する。モータ11に近いモータ側回転部材22の根元部には、減速部31を配置する。モータ11から遠いモータ側回転部材22の先端部には、断接部21を配置する。モータ側回転部材22の先端部は、リンク部材22dを介して断接部21のセンタープレート23と連結する。センタープレート23はモータ側回転部材22と同軸に設けられ、モータ側回転部材22と一体回転する。センタープレート23は、両面に摩擦材を備えた円盤形状であり、中心孔を有する。
【0014】
減速部31は、ケーシング32を筐体とし、ケーシング32の内部に配置された第1減速部G1および第2減速部G2を備える。第1減速部G1は、モータ出力軸15の回転を所定の第1減速比で減速して図示しない車輪側へ伝達する。第2減速部G2は、モータ出力軸15の回転を第1減速比よりも減速の度合いが小さな第2減速比で減速して車輪側へ伝達する。
【0015】
これがため、減速部31は、モータ側回転部材22が挿通される管状の第1シャフト33と、この第1シャフト33と平行に延在する第2シャフト34とを有する。第1シャフト33は、モータ側回転部材22が挿通される管状の内側回転軸33iと、内側回転軸33iが挿通される管状の外側回転軸33oとからなる二重シャフトである。内側回転軸33iの両端は、外側回転軸33oの両端からそれぞれ突出し、モータ11側にある内側回転軸33iの一端は、転がり軸受63を介してケーシング32に回転自在に支持される。内側回転軸33iの他端は、転がり軸受64を介してリンク部材22dに回転自在に支持される。外側回転軸33oの一端は、転がり軸受65を介してケーシング32に回転自在に支持される。また外側回転軸33oの他端は、転がり軸受66を介してセンタープレート23の中心孔に回転自在に支持される。
【0016】
モータ11側にある内側回転軸33iの一端部には、第1駆動ギヤ41が形成される。モータ11側にある外側回転軸33oの一端には、第2駆動ギヤ42が形成される。第2シャフト34のモータ11に近い軸方向部位には、第2従動ギヤ72が固定され、さらに近い部位には第1従動ギヤ71が固定されている。これらギヤ41,42,71,72の半径は、第1駆動ギヤ41が最も小さく、第2駆動ギヤ42、第2従動ギヤ72、第1従動ギヤ71の順に大きくなる。第1駆動ギヤ41は第1従動ギヤ71と常時噛合し、これらギヤ41,71は第1減速部G1として機能する。第2駆動ギヤ42は第2従動ギヤ72と常時噛合し、これらギヤ42,72は第2減速部G2として機能する。
【0017】
第1シャフト33は減速部31から断接部21まで延在するのに対し、第2シャフト34はモータ11と断接部21との間に位置し、減速部31の内部のみで延在する。第2シャフト34の一端はモータ11近傍で転がり軸受67を介してケーシング32に回転自在に支持される。転がり軸受67は転がり軸受63と軸方向同位置になる。第2シャフト34の他端は断接部21近傍で転がり軸受68を介してケーシング32に回転自在に支持される。第2シャフト34の断接部21に近い部位には、第2従動ギヤ72よりも小径のピニオン35が形成される。ピニオン35は、ディファレンシャルギヤケース52に取り付けられたリングギヤ53と常時噛合する。
【0018】
第1シャフト33および第2シャフト34の距離は、後述する断接部21の半径寸法と略等しい。これにより電動モータ駆動装置1における減速部31のレイアウトが最適なものとなり、電動モータ駆動装置1の車両への取り付けが容易になる。
【0019】
断接部21は、ケーシング32を筐体とし、ケーシング32の内部に配置された第1クラッチC1および第2クラッチC2を備える。センタープレート23の一方面側には、摩擦材を備えた第1クラッチディスク25と、第1圧力ディスク27とを順次配置する。第1クラッチディスク25は内側回転軸33iのモータ11から遠い方の端部に取り付けられて内側回転軸33iと一体回転する。これらセンタープレート23、第1クラッチディスク25、および第1圧力ディスク27は、第1クラッチC1として機能する。センタープレート23の他方面側には、摩擦材を備えた第2クラッチディスク24と、第2圧力ディスク26とを順次配置する。第2クラッチディスク24は外側回転軸33oのモータ11から遠い方の端部に取り付けられて外側回転軸33oと一体回転する。これらセンタープレート23、第2クラッチディスク24、および第2圧力ディスク26は、第2クラッチC2として機能する。断接部21は、これら第1クラッチC1および第2クラッチC2を後述するように解放または締結させて、減速部31の回転伝達を遮断または接続する。
【0020】
つまり断接部21は、モータ側回転部材22と内側回転軸33iとを接続する第1クラッチC1と、モータ側回転部材22と外側回転軸33oとを接続する第2クラッチC2とを有する。そして2つのクラッチC1,C2は、第1シャフト33上に配置される。
【0021】
また断接部21の径方向寸法は、モータ11と略等しい。これにより電動モータ駆動装置1における断接部21のレイアウトが最適なものとなり、電動モータ駆動装置1の車両への取り付けが容易になる。
【0022】
ケーシング32の内部には、ディファレンシャルギヤ装置51が取り付けられている。ディファレンシャルギヤ装置51につき説明すると、ディファレンシャルギヤケース52内には、ピニオンメートシャフト54をリングギヤ53の回転面に対し平行に配置して貫通設置し、このシャフト54上に回転自在に支持して一対のピニオンメートギヤ55,56をディファレンシャルギヤケース52内に設ける。ディファレンシャルギヤケース52内には更に、ピニオンメートギヤ55,56間にあってこれらに噛合する一対のサイドギヤ57,58を回転自在に配置する。一方のサイドギヤ57は、その中心孔が一方のドライブシャフト59の一端とセレーション嵌合する。他方のサイドギヤ58も、その中心孔が他方のドライブシャフト60の一端とセレーション嵌合する。一方のドライブシャフト59の他端は、図示しない左輪と駆動結合し、他方のドライブシャフト60の他端は、図示しない右輪と駆動結合する。
【0023】
ケーシング32には、断接部21に隣接して、アクチュエータユニット28が取り付けられている。アクチュエータユニット28は減速部31と軸方向同位置にあって、2個のアクチュエータ28a,28bを備える。一方のアクチュエータ28aはリンク部材29aを介して第1圧力ディスク27と連結する。他方のアクチュエータ28bはリンク部材29bを介して第2圧力ディスク26と連結する。
【0024】
アクチュエータユニット28は、第1シャフト33を中心とする径方向寸法の大きな断接部21と、比較的小径のギヤ41,42を収容する減速部31の第1シャフト33側との間の径方向段差部分に配置される。これにより電動モータ駆動装置1におけるアクチュエータユニット28のレイアウトが最適なものとなり、電動モータ駆動装置1の車両への取り付けが容易になる。
【0025】
上記の構成になる電動モータ駆動装置1の作用を説明する。モータ11が通電されモータ側回転部材22が回転駆動されると、センタープレート23がモータ側回転部材22とともに一体回転する。ディファレンシャルギヤ装置51の回転数が所定の低速回転領域にあるとき、アクチュエータユニット28が第1クラッチC1を締結するとともに第2クラッチC2を解放して、モータ11の回転駆動を第1減速部G1で減速してディファレンシャルギヤ装置51へ伝達する。これによりディファレンシャルギヤ装置51の回転数が低速領域にあっても、モータ11の回転数を運転効率の高い領域にすることができる。
【0026】
これに対し、ディファレンシャルギヤ装置51の回転数が所定の高速回転領域にあるとき、アクチュエータユニット28が第1クラッチC1を解放するとともに第2クラッチC2を締結して、モータ11の回転駆動を第2減速部G2で減速してディファレンシャルギヤ装置51へ伝達する。これによりディファレンシャルギヤ装置51の回転数が高速領域のときモータ11の回転数を運転効率の高い領域にすることができる。
【0027】
具体的には、ディファレンシャルギヤ装置51の回転数が所定回転数未満の低速回転領域にあるとき、アクチュエータ28aが第1圧力ディスク27を軸方向に移動させて、第1圧力ディスク27が第1クラッチディスク25をセンタープレート23に押圧する。これにより第1クラッチディスク25およびセンタープレート23はともに回転して第1クラッチC1は回転トルクを伝達する。そして内側回転軸33iが第1クラッチディスク25と一体回転し、第1駆動ギヤ41が回転する。第1シャフト33の回転数は、第1従動ギヤ71で減速されて、第2シャフト34に伝達される。第2シャフト34の回転トルクはピニオン35からリングギヤ53に入力され、ディファレンシャルギヤ装置51に伝達される。このとき外側回転軸33oは第2従動ギヤ72に連れ回されるが、第2圧力ディスク26がセンタープレート23から離れた位置にあって第2クラッチディスク24を押圧しない。第2クラッチディスク24は外側回転軸33oとともに回転するがセンタープレート23と離隔して空回りする。つまり第2クラッチC2は回転トルクを伝達しない。
【0028】
これに対し、ディファレンシャルギヤ装置51の回転数が所定回転数以上の高速回転領域にあるとき、アクチュエータ28bが第2圧力ディスク26を軸方向に移動させて、第2圧力ディスク26が第2クラッチディスク24をセンタープレート23に押圧する。これにより第2クラッチディスク24およびセンタープレート23はともに回転して第2クラッチC2は回転トルクを伝達する。そして外側回転軸33oが第2クラッチディスク24と一体回転し、第2駆動ギヤ42が回転する。第1シャフト33の回転数は、第2従動ギヤ72で減速されて、第2シャフト34に伝達される。第2シャフト34の回転トルクはピニオン35からリングギヤ53に入力され、ディファレンシャルギヤ装置51に伝達される。このとき内側回転軸33iは第1従動ギヤ71に連れ回されるが、第1圧力ディスク27がセンタープレート23から離れた位置にあって第1クラッチディスク25を押圧しない。第1クラッチディスク25は内側回転軸33iとともに回転するがセンタープレート23と離隔して空回りする。つまり第1クラッチC1は回転トルクを伝達しない。
【0029】
2つのクラッチC1,C2は摩擦材を有する摩擦クラッチであることから、クラッチC1,C2の掛け替え操作によって低速領域と高速領域との間を滑らかに切り替えることが可能になる。したがって、特許文献1の電動モータ駆動装置のように2ウェイクラッチを用いた場合に第1および第2減速部間の切り替えに伴って発生するショックを、解消することができる。
【0030】
なお図には示さなかったが、減速部31は、第1シャフト33の回転を第1減速部G1の減速比および第2減速部G2の減速比と異なる第3の減速比で減速して第2シャフト34へ伝達する第3減速部をさらに有してもよい。さらに減速部31は、第1減速部G1、第2減速部G2および第3減速部の他、第4減速部、第5減速部等を有するものであってもよい。
【0031】
第3減速部は例えば、内側回転軸33iの一端部に形成される第3駆動ギヤと、第2シャフト34に同軸に取り付けられて第3駆動ギヤと噛合する第3従動ギヤから構成される。第1従動ギヤ71および第3従動ギヤは、第2シャフト34上に相対回転可能に取り付けられる。第1従動ギヤ71と第3従動ギヤとの間で、第2シャフト34と同軸に取り付けられるシンクロメッシュ機構は、第2シャフト34の軸方向に進退動して第1従動ギヤ71または第3従動ギヤ73と選択的に係合し、ギヤ71,73のいずれか一方を第2シャフト34と一体回転させる。あるいは、軸方向中立位置にあってギヤ71,73のいずれにも係合せず、第1従動ギヤ71および第3従動ギヤ73の双方を第2シャフト34から切り離す。
【0032】
それぞれ減速比の異なる第1減速部G1、第2減速部G2、および第3減速部を備えることにより、低速回転時と、中速回転時と、高速回転時のそれぞれ回転数区分に対応して、モータ11を運転効率の良い回転数で駆動することができる。
【0033】
あるいはより多くの減速部を備えることにより、さらに多くの回転数区分に対応して、モータ11を一層効率良く駆動することができる。
【実施例2】
【0034】
図2は、実施例2になる電動モータ駆動装置を示す要部展開断面図である。この実施例2の基本構成は、上述した実施例1と共通するため、同一部材については、共通する符号を付して説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0035】
電動モータ駆動装置1との相違点として実施例2の電動モータ駆動装置2は、断接部21の圧力ディスクを1個にまとめている。
【0036】
モータ側回転部材22の先端部は、リンク部材22dを介して断接部21の第1プレート231および第2プレート232と連結する。これらプレート231,232はモータ側回転部材22と同軸に設けられ、モータ側回転部材22と一体回転する。これらプレート231,232は、モータ側回転部材22と同軸に配置され、一方面にそれぞれ摩擦材を備えた円盤形状であり、中心孔を有する。中心孔には第1シャフト33が貫通する。
【0037】
第1プレート231の一方面側には、第1クラッチディスク25を同軸に対向配置する。第1プレート231の一方面と向き合う第1クラッチディスク25の面は摩擦材を備える。第1クラッチディスク25を挟んで第1プレート231と反対側には1枚の圧力ディスク20を同軸に配置する。圧力ディスク20を挟んで第1クラッチディスク25と反対側には第2クラッチディスク24を同軸に配置する。第2クラッチディスク24を挟んで圧力ディスク20と反対側には第2プレート232を配置する。第2プレート232の摩擦材を備えた面と向き合う第2クラッチディスク24の面は摩擦材を備える。
【0038】
ケーシング32のうち、減速部31と軸方向同位置に、アクチュエータユニット28が取り付けられている。アクチュエータユニット28は断接部21と隣接し、1個のアクチュエータ28cを備える。アクチュエータ28cはリンク部材29cを介して圧力ディスク20と連結する。
【0039】
上記の構成になる電動モータ駆動装置2の作用を説明する。ディファレンシャルギヤ装置51の回転数が所定回転数未満の低速回転領域にあるとき、第1クラッチC1のみが回転トルクを伝達する。即ちアクチュエータ28cが圧力ディスク20を軸方向一方に移動させて、圧力ディスク20の第1クラッチディスク25側の面が第1クラッチディスク25を第1プレート231に押圧する。これにより第1クラッチディスク25および第1プレート231はともに回転する。そして内側回転軸33iが第1クラッチディスク25と一体回転し、第1駆動ギヤ41が回転する。第1シャフト33の回転数は、第1従動ギヤ71で減速されて、第2シャフト34に伝達される。第2シャフト34の回転トルクはピニオン35からリングギヤ53に入力され、ディファレンシャルギヤ装置51に伝達される。このとき外側回転軸33oは第2従動ギヤ72に連れ回されるが、圧力ディスク20が第2クラッチディスク24から離れた位置にあって第2クラッチディスク24を押圧しない。第2クラッチディスク24は外側回転軸33oとともに回転するが第2プレート232と離隔して空回りする。つまり第2クラッチC2は回転トルクを伝達しない。
【0040】
これに対し、ディファレンシャルギヤ装置51の回転数が所定回転数以上の高速回転領域にあるとき、第2クラッチC2のみが回転トルクを伝達する。即ちアクチュエータ28cが圧力ディスク20を軸方向他方に移動させて、圧力ディスク20の第2クラッチディスク24側の面が第2クラッチディスク24を第2プレート232に押圧する。これにより第2クラッチディスク24および第2プレート232はともに回転する。そして外側回転軸33oが第2クラッチディスク24と一体回転し、第2駆動ギヤ42が回転する。第1シャフト33の回転数は、第2従動ギヤ72で減速されて、第2シャフト34に伝達される。第2シャフト34の回転トルクはピニオン35からリングギヤ53に入力され、ディファレンシャルギヤ装置51に伝達される。このとき内側回転軸33iは第1従動ギヤ71に連れ回されるが、圧力ディスク20が第1クラッチディスク25から離れた位置にあって第1クラッチディスク25を押圧しない。第1クラッチディスク25は内側回転軸33iとともに回転するが第1プレート231と離隔して空回りする。つまり第1クラッチC1は回転トルクを伝達しない。
【0041】
実施例2によれば、圧力ディスク20の一方面側に第1クラッチディスク25を配置し、圧力ディスク20の他方面側に第2クラッチディスク24を配置することから、1つのアクチュエータ28cによって共通する圧力ディスク20を移動させて第1減速部G1および第2減速部G2間を切り替えることが可能になる。したがって、電動モータ駆動装置の一層の小型化を図ることが可能となる。また、圧力ディスク20が第1クラッチディスク25または第2クラッチディスク24を選択的に押圧するので、実施例1と比較してリンク部材を1つのリンク部材29cにまとめることが可能となり、部品点数の削減およびコスト上有利なものとなる。
【0042】
ところで実施例1および実施例2によれば、第1シャフト33が外側回転軸33oおよび内側回転軸33iを含む2重シャフト構造であるから、この第1シャフト33上に2つのクラッチC1,C2を配置することが可能となり、車両のスペース制約上有利なものとなる。
【0043】
また、電動モータ駆動装置1および電動モータ駆動装置2の配置レイアウトが、第1シャフト33の軸方向にモータ11、減速部31、断接部21、の順に整列することから、減速部31を電動モータ駆動装置1,2の中央部に配置することになり、減速部31の出力を左右輪に分配するディファレンシャルギヤ装置51を車両の車幅方向中央部に配置し得て、車両の重量バランスが向上する。
【0044】
また、第1クラッチC1および第2クラッチC2が摩擦材を備えた摩擦クラッチであることから、モータ11から内側回転軸33iまたは外側回転軸33oを経由して車輪側へ伝達する動力伝達経路を、第1クラッチC1と第2クラッチC2との掛け替え操作によって滑らかに切り替えることが可能になる。
【0045】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1になる電動モータ駆動装置を示す要部展開断面図である。
【図2】実施例2になる電動モータ駆動装置を示す要部展開断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1,2 電動モータ駆動装置、11 モータ、12 モータケーシング、13 ステータ、14 ロータ、15 モータ出力軸、20 圧力ディスク、21 断接部、22 モータ側回転部材、23 センタープレート、24 第2クラッチディスク、25 第1クラッチディスク、26 第2圧力ディスク、27 第1圧力ディスク、28 アクチュエータユニット、31 減速部、32 ケーシング、33 第1シャフト、33i 内側回転軸、33o 外側回転軸、34 第2シャフト、35 ピニオン、51 ディファレンシャルギヤ装置、231 第1プレート、232 第2プレート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ側回転部材を回転駆動するモータと、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側に伝達する減速部と、前記減速部の回転伝達を遮断または接続する断接部とを備え、
前記モータ側回転部材は、前記モータから軸方向一方側に突出し、
前記減速部は、前記モータ側回転部材が挿通される管状の内側回転軸および前記内側回転軸が挿通される管状の外側回転軸を含む第1シャフトと、前記第1シャフトと平行に配置されて車輪側に回転を伝達する第2シャフトと、前記内側回転軸のモータに近い方の端部に設けられて内側回転軸の回転を第1減速比で減速して第2シャフトへ伝達する第1減速部と、前記外側回転軸のモータに近い方の端部に設けられて外側回転軸の回転を前記第1減速比と異なる第2減速比で減速して第2シャフトへ伝達する第2減速部とを有し、
前記断接部は、前記内側回転軸のモータから遠い方の端部に設けられて内側回転軸と前記モータ側回転部材とを接続する第1クラッチと、前記外側回転軸のモータから遠い方の端部に設けられて外側回転軸と前記モータ側回転部材とを接続する第2クラッチとを有する、電動モータ駆動装置。
【請求項2】
前記減速部は、前記第1シャフトのモータに近い方の端部に設けられて第1シャフトの回転を前記第1減速比および前記第2減速比と異なる第3減速比で減速して前記第2シャフトへ伝達する第3減速部をさらに有する、請求項1に記載の電動モータ駆動装置。
【請求項3】
前記第1クラッチは、前記モータ側回転部材と同軸に設けられて一体回転する第1モータ側摩擦要素と、前記内側回転軸と一体回転する第1シャフト側摩擦要素と、前記第1シャフト側摩擦要素または前記第1モータ側摩擦要素の一方を他方へ押圧してこれらを締結する第1圧力部材とを有し、
前記第2クラッチは、前記モータ側回転部材と同軸に設けられて一体回転する第2モータ側摩擦要素と、前記外側回転軸と一体回転する第2シャフト側摩擦要素と、前記第2シャフト側摩擦要素または前記第2モータ側摩擦要素の一方を他方へ押圧してこれらを締結する第2圧力部材とを有する、請求項1または2に記載の電動モータ駆動装置。
【請求項4】
前記第1圧力部材および前記第2圧力部材は、共通する圧力ディスクの一方面および他方面であり、
前記第1モータ側摩擦要素および前記第1シャフト側摩擦要素は、前記圧力ディスクの一方面側に配置され、
前記第2モータ側摩擦要素および前記第2シャフト側摩擦要素は、前記圧力ディスクの他方面側に配置され、
前記断接部は、前記圧力ディスクを一方面側および他方面側へ移動させるアクチュエータをさらに有する、請求項3に記載の電動モータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−106907(P2010−106907A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277809(P2008−277809)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】