説明

電動車両の制御装置

【課題】走行時、変速機損失とモータ損失を考慮して変速段を選択する変速制御を行うことにより、駆動エネルギーの消費量を低減することができる電動車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】駆動系の上流側から順に、第2モータジェネレータ5と、有段変速機6と、駆動輪32,32と、を備え、有段変速機6は、変速条件が成立したとき、摩擦クラッチ7とドグクラッチ8の掛け替え制御により選択された変速段へ変速する。このハイブリッド車両において、変速制御手段(図3)は、「ローモード」と「ハイモード」の各変速段における有段変速機6のクラッチ引き摺り損失PCL(Lo),PCL(Hi)を予測し(ステップS103)、各変速段における第2モータジェネレータ5のモータ損失PM(Lo),PM(Hi)を予測し(ステップS104)、各変速段での損失和のうち、最小となる変速段を選択し(ステップS105)、選択した変速段へ変速する(ステップS107,ステップS108)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系の上流側から順に、駆動モータと、有段変速機と、駆動輪と、を備えた電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド駆動装置としては、主動力源のトルクが出力部材に伝達され、その出力部材からデファレンシャルを介して駆動輪にトルクが伝達されていた。一方、走行のための駆動力を出力する力行制御あるいはエネルギーを回収する回生制御の可能なアシスト動力源が設けられており、このアシスト動力源が変速機を介して出力部材に連結されていた。これにより、アシスト動力源と出力部材との間で伝達トルクを変速機で設定する変速比に応じて増減していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、低速段から高速段に切り換える場合には、第2ブレーキを係合させていた状態からこれを開放させ、同時に第1ブレーキを係合させることにより、低速段から高速段への変速が実行されていた。この変速の過程では、各ブレーキでのトルク容量が低下するので、第2モータジェネレータから出力軸に付加させるトルクが、各ブレーキでのトルク容量に制限されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−203220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のハイブリッド駆動装置にあっては、回転電機と出力軸の間に配置されている変速機構に摩擦係合装置を使用していると、締結していない変速段のクラッチで引き摺り損失が発生し、その分、要求駆動力が増大し、エンジンの要求出力が大きくなり燃料消費量が多くなる。また、変速段によって回転電機の動作点も変わり、回転電機効率マップ上で動作するポイントが変化するので動作効率が変わり、これに伴いモータ損失が変わって電力消費量が大きくなる、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、走行時、変速機損失とモータ損失を考慮して変速段を選択する変速制御を行うことにより、駆動エネルギーの消費量を低減することができる電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の電動車両の制御装置では、駆動系の上流側から順に、駆動モータと、有段変速機と、駆動輪と、を備え、前記有段変速機は、変速機構と変速要素を有し、変速条件が成立したとき、前記変速要素の締結・開放の掛け替え制御により選択された変速段へ変速する変速制御手段を備えている。
この電動車両の制御装置において、前記変速制御手段は、各変速段における前記有段変速機の変速機損失を予測し、各変速段における前記駆動モータのモータ損失を予測し、予測した変速機損失とモータ損失の和が最小となる変速段を選択し、選択した変速段が現変速段と異なるとき選択した変速段へ変速する。
【発明の効果】
【0008】
よって、本発明の電動車両の制御装置にあっては、走行時、変速制御手段において、各変速段における有段変速機の変速機損失が予測され、各変速段における駆動モータのモータ損失が予測される。そして、予測された変速機損失とモータ損失の和が最小となる変速段が選択され、選択された変速段が現変速段と異なるとき選択した変速段へ変速される。
すなわち、車両情報(車速、アクセル開度、バッテリー充電容量、等)に基づく通常の変速制御に代え、予測された変速機損失とモータ損失の和が最小となる変速段を選択することで、例えば、電気自動車の場合には、駆動モータによる電力消費量が少なく抑えられ、ハイブリッド車両の場合には、エンジンの燃料消費量と駆動モータの電力消費量を合わせた駆動エネルギー消費量が少なく抑えられる。
この結果、走行時、変速機損失とモータ損失を考慮して変速段を選択する変速制御を行うことにより、駆動エネルギーの消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両(電動車両の一例)の駆動系と制御系の構成を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の駆動系に有する各回転要素の回転速度(回転数)を縦軸にとってあらわした速度線図である。
【図3】実施例1のハイブリッドコントローラ48にて実行される変速制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1の変速制御における変速モード(ローモード、ハイモード)毎の駆動力マップとローモード時の動作点とハイモード時の動作点を示す図である。
【図5】実施例1の変速制御における最大モータ出力ラインを重ね合わせたモータ効率マップとローモード時のモータ動作点とハイモード時のモータ動作点を示す図である。
【図6】実施例2の制御装置が適用されたハイブリッド車両(電動車両の一例)の駆動系と制御系の構成を示す全体システム図である。
【図7】実施例2の制御装置が適用されたハイブリッド車両の駆動系に有する各回転要素の回転速度(回転数)を縦軸にとってあらわした速度線図である。
【図8】実施例2のハイブリッドコントローラ48にて実行される変速制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例2の変速制御における変速モード(ローモード、ミドルモード、ハイモード)毎の駆動力マップとローモード時の動作点とミドルモード時の動作点とハイモード時の動作点を示す図である。
【図10】本発明の制御装置が適用された電気自動車(電動車両の一例)の駆動系と制御系の構成例を示す全体システム図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電動車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両(電動車両の一例)の駆動系と制御系の構成を示す全体システム図である。以下、図1に基づき駆動系構成と制御系構成を説明する。
【0012】
実施例1のハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、ダンパー2と、第1モータジェネレータ3と、オイルポンプ4と、第2モータジェネレータ5(駆動モータ)と、有段変速機6と、摩擦クラッチ7(変速要素)と、ドグクラッチ8(変速要素)と、遊星歯車装置10と、を備えている。
【0013】
前記エンジン1は、その出力トルクを、遊星歯車装置10にて第1モータジェネレータ3への発電トルク分と走行トルク分に分配する。そして、第1モータジェネレータ3が発電した電力を使って第2モータジェネレータ5が、有段変速機6を介してトルクを出力する。そして、遊星歯車装置10からの出力トルクと、有段変速機6からの出力トルクを、最終出力軸23にて合成している。
【0014】
前記遊星歯車装置10は、リングギア11と、ピニオン12と、サンギア13と、ピニオン12を支持するキャリア14と、を有するシングルピニオン型遊星歯車により構成されている。前記リングギア11には、出力ギア15が接続される。前記キャリア14には、ダンパー2を介してエンジン1が接続される。前記サンギア13には、第1モータジェネレータ3が接続される。前記サンギア13とキャリア14には、オイルポンプ4が接続される。すなわち、第1モータジェネレータ3(サンギア13)の回転速度と、エンジン1(キャリア14)の回転速度が決まると、出力ギア15(リングギア11)の回転速度が自動的に決まる無段変速機能を有する。なお、出力ギア15は、最終出力軸23に固定されたハイ側出力ギア21に噛み合う。
【0015】
前記有段変速機6は、第2モータジェネレータ5が接続されるモータ出力軸29にベアリング27を介して回転可能に支持されたハイ側入力ギア25と、モータ出力軸29とハイ側入力ギア25を滑り断接する湿式多板による摩擦クラッチ7と、第2モータジェネレータ5が接続されるモータ出力軸29にベアリング28を介して回転可能に支持されたロー側入力ギア24と、モータ出力軸29とロー側入力ギア24を噛み合い断接するドグクラッチ8と、を有している。そして、前記ハイ側入力ギア25には、最終出力軸23に固定されたハイ側出力ギア21が噛み合う。前記ロー側入力ギア24には、最終出力軸23に固定されたロー側出力ギア22が噛み合う。以上の構成により変速機構と変速要素を有する実施例1の有段変速機6が構成される。
そして、摩擦クラッチ7を締結し、ドグクラッチ8を開放すると、ハイ側入力ギア25とハイ側出力ギア21の歯数比により決まる「ハイモード」になり、摩擦クラッチ7を開放し、ドグクラッチ8を締結すると、ロー側入力ギア24とロー側出力ギア22の歯数比により決まる「ローモード」になる。すなわち、切り替え変速段として、「ハイモード」による高速段と「ローモード」による低速段を持つ2段変速機能を有する。
【0016】
前記最終出力軸23は、ベアリング26,26により両端部が支持され、ハイ側出力ギア21とロー側出力ギア22と共に、最終出力ギア30が固定されている。この最終出力ギア30に伝達されたトルクは、図示しない終減速ギアとデファレンシャル装置31を介して、一対の駆動輪32,32へ伝達される。
【0017】
実施例1のハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、第1インバータ41と、第2インバータ42と、バッテリー43と、第1モータコントローラ44と、第2モータコントローラ45と、エンジンコントローラ46と、トランスミッションコントローラ47と、バッテリーコントローラ48と、ハイブリッドコントローラ49と、を備えている。
【0018】
前記第1モータコントローラ44は、第1インバータ41に対する制御指令により第1モータジェネレータ3の動作点(第1トルクTm1、第1回転数Nm1)を制御する。また、前記第2モータコントローラ45は、第2インバータ42に対する制御指令により第2モータジェネレータ5の動作点(第2トルクTm2、第2回転数Nm2)を制御する。
【0019】
前記エンジンコントローラ46は、図示しない電子制御スロットルアクチュエータへの制御指令によりエンジン1の動作点(エンジントルクTe、エンジン回転数Ne)を制御する。
【0020】
前記トランスミッションコントローラ47は、図示しない摩擦クラッチアクチュエータへの制御指令により摩擦クラッチ7の動作点(締結・スリップ締結・開放)を制御する。また、図示しないドグクラッチアクチュエータへの制御指令によりドグクラッチ8の動作点(締結・開放)を制御する。
【0021】
前記バッテリーコントローラ48は、バッテリー43の充電容量(SOC)を監視し、SOC情報やバッテリー温度情報等を、ハイブリッドコントローラ49へ供給する。
【0022】
前記ハイブリッドコントローラ49は、車両全体の消費エネルギーを管理し、要求駆動力を確保しながら最高効率でハイブリッド車両を走らせるための機能を担うもので、双方向通信線を介して、第1モータコントローラ44と第2モータコントローラ45とエンジンコントローラ46とトランスミッションコントローラ47とバッテリーコントローラ48等に接続される。このハイブリッドコントローラ49は、アクセル開度センサ50や車速センサ51等から必要情報を入力する。そして、入力した情報に基づいて、所定の演算処理を行い、各コントローラ44,45,46,47に対し動作点指令値を出力する。
【0023】
図2は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の駆動系に有する各回転要素の回転速度(回転数)を縦軸にとってあらわした速度線図である。
【0024】
電気変速部分は、図2に示すように、遊星歯車装置10に接続される第1モータジェネレータ3と、エンジン1と、出力ギア15により構成される。そして、電気変速部分は、2自由度系の遊星歯車装置10により、第1モータジェネレータ3の回転速度と、エンジン1の回転速度が決まると、出力ギア15の回転速度が自動的に決まる無段変速機能を有する。
【0025】
モータ変速部分は、図2に示すように、有段変速機6にモータ出力軸29を介して接続される第2モータジェネレータ5と、摩擦クラッチ7と、ドグクラッチ8と、噛み合い対によるハイ側入力ギア25とハイ側出力ギア21と、噛み合い対によるロー側入力ギア24とロー側出力ギア22と、により構成される。そして、モータ変速部分は、摩擦クラッチ7の締結(ドグクラッチ8の開放)による「ハイモード(高速段)」と、ドグクラッチ8の締結(摩擦クラッチ7の開放)による「ローモード(低速段)」と、を切り替える2段変速機能を有する。
【0026】
そして、最終出力軸23において、図2に示すように、電気変速部分からのエンジン直行駆動トルクとモータ変速部分からのモータ駆動トルクが合成され、最終出力ギア30に伝達された合成駆動トルクは、終減速ギアとデファレンシャル装置31を介して、一対の駆動輪32,32へ伝達され、車速Vとされる。
【0027】
ここで、「ハイモード」で摩擦クラッチ7を用い、「ローモード」でドグクラッチ8を用いる理由を説明する。例えば、両方共に摩擦クラッチとした場合、引き摺り損失や油圧ポンプ損失が生じ、特に、伝達されるトルクが大きい「ローモード」において損失が顕著になる。また、例えば、両方共にドグクラッチとした場合、損失を伴わないという利点があるが、変速の際に締結側も開放側も完全に開放し、回転同期をとって締結させる必要がある。つまり、回転同期制御が必要であると共に、変速過渡期にトルク抜けが生じる。そこで、「ハイモード」では、回転同期制御を必要としない摩擦クラッチ7を用い、「ローモード」では、損失を抑えたドグクラッチ8を用い、「ハイモード」から「ローモード」への変速過渡期には、摩擦クラッチ7での摩擦力によりトルク抜けを補償している。
【0028】
すなわち、モータ変速部分において、「ハイモード」から「ローモード」へ移行する変速過渡期には、第2モータジェネレータ5を目標トルクに一致させるモータトルク制御から、目標回転数に一致させるモータ回転数制御に変更する。そして、摩擦クラッチ7をスリップ締結状態とし、摩擦力による駆動トルクの抜けを抑える駆動力補償を行いながら、第2モータジェネレータ5の回転数を上昇させ、ドグクラッチ8の入力回転数(=第2モータジェネレータ5の回転数)をドグクラッチ8の出力回転数(車速やギア比で決まる)に同期させ、回転数同期タイミングにてドグクラッチ8を噛み合い締結させる。
【0029】
図3は、実施例1のハイブリッドコントローラ49にて実行される変速制御処理の流れを示すフローチャートである(変速制御手段)。以下、図3の各ステップについて説明する。
【0030】
ステップS101では、アクセル開度センサ50からのアクセル開度APO(または、要求駆動力)と、車速センサからの車速Vspと、バッテリー充電量SOC等の必要情報を読み込み、ステップS102へ進む。
【0031】
ステップS102では、運転者操作もしくは交通インフラ情報等により低駆動力要求モードであるか否かを判断し、YES(低駆動力要求モードである)の場合はステップS103へ進み、NO(低駆動力要求モードでない)の場合はステップS109へ進む。
ここで、「低駆動力要求モード」であるかどうかの具体的な判断は、例えば、下記の手法を用いてなされる。
(a) 運転者操作により駆動力要求値が低くてよいと選択された場合
例えば、車両に設けられた第2モータジェネレータMG2のみで走行させることを意味するスイッチ(例:EVスイッチ)を運転者により押されたときに要求駆動力が低くて良いと判断する。
例えば、車両に設けられた低燃費走行することを意味するスイッチ(例:ECOスイッチ)を運転者により押されたときに要求駆動力が低くて良いと判断する。
(b) 交通インフラ情報により駆動力要求値が低くてよいと選択された場合
例えば、カーナビゲーションシステムと連動し、交通インフラ情報をVICS(Vehicle Information and Communication Systemの略)等により入手した場合、目的地までに通過する道路が渋滞等であることが判明すると、要求駆動力が低くて良いと判断する。なお、「VICS」とは、FM多重放送や道路上の発信機から受信した交通情報を、図形・文字で表示するシステムのことをいう。
【0032】
ステップS103では、ステップS102での低駆動力要求モードであるとの判断に続き、読み込まれた情報に基づき、変速段毎の変速機損失として、「ローモード」の選択時、「ハイモード」時に締結する摩擦クラッチ7で生じるクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)と、「ハイモード」の選択時、「ローモード」時に締結するドグクラッチ8で生じるクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)を計算し、ステップS104へ進む。なお、クラッチ引き摺り損失の詳しい計算手法については後述する。
【0033】
ステップS104では、ステップS103でのクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)、PCL(Hi)の計算に続き、読み込まれた情報に基づき、変速段毎のモータ損失として、「ローモード」の選択時、モータ動作点(モータの最大出力、最高回転数、最大トルク以内の範囲での動作点)におけるモータ損失PM(Lo)と、「ハイモード」の選択時、モータ動作点(モータの最大出力、最高回転数、最大トルク以内の範囲での動作点)におけるモータ損失PM(Hi)を計算し、ステップS105へ進む。なお、モータ損失の詳しい計算手法については後述する。
【0034】
ステップS105では、ステップS104でのモータ損失PM(Lo)、PM(Hi)の計算に続き、「ローモード」の選択時におけるクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)とモータ損失PM(Lo)の和{PCL(Lo)+PM(Lo)}と、「ハイモード」の選択時におけるクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)とモータ損失PM(Hi)の和{PCL(Hi)+PM(Hi)}を算出し、その後、{PCL(Lo)+PM(Lo)}が{PCL(Hi)+PM(Hi)}より大きいか否かを判断し、YES({PCL(Lo)+PM(Lo)}>{PCL(Hi)+PM(Hi)})の場合はステップS106へ進み、NO({PCL(Lo)+PM(Lo)}≦{PCL(Hi)+PM(Hi)})の場合はステップS108へ進む。
【0035】
ステップS106では、ステップS105での{PCL(Lo)+PM(Lo)}>{PCL(Hi)+PM(Hi)}であるとの判断に続き、現段階で選択されている変速モードが「ローモード」であるとき、「ローモード」から「ハイモード」へ変速したと仮定した場合、「ハイモード」における駆動力が、運転者に駆動力の不足感を与えないか否かを判断し、YES(運転者に駆動力の不足感を与えない)の場合はステップS107へ進み、NO(運転者に駆動力の不足感を与える)の場合はステップS108へ進む。なお、運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの詳しい判断手法については後述する。
【0036】
ステップS107では、ステップS106での運転者に駆動力の不足感を与えないとの判断に続き、「ローモード」のときは「ハイモード」に変速し、「ハイモード」のときは「ハイモード」を維持し、リターンへ進む。
【0037】
ステップS108では、ステップS105での{PCL(Lo)+PM(Lo)}≦{PCL(Hi)+PM(Hi)}であるとの判断、あるいは、ステップS106での運転者に駆動力の不足感を与えるとの判断に続き、「ハイモード」のときは「ローモード」に変速し、「ローモード」のときは「ローモード」を維持し、リターンへ進む。
【0038】
ステップS109では、ステップS102での低駆動力要求モードではないとの判断に続き、車両情報(車速Vsp、アクセル開度APO(要求駆動力)、バッテリー充電量SOC等からある決められた変速マップの変速線に従って変速する(通常変速)、もしくは、クラッチ引き摺り損失とモータ損失の和が小さい方の変速モードを選択し、選択した変速モードに従って変速し(最小損失による変速)、リターンへ進む。
【0039】
次に、作用を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「クラッチ引き摺り損失の計算手法」、「モータ損失の計算手法」、「運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの判断手法」、「変速制御作用」に分けて説明する。
【0040】
[クラッチ引き摺り損失の計算手法]
図3のステップS103でのクラッチ引き摺り損失PCLの計算手法について説明する。
例えば、「ローモード」の選択時、摩擦クラッチ7は、ドライブプレートとドリブンプレートが、ある差回転{例えば、((MG2の回転数)×(MG2からドリブンプレートまでのギア比))−((車輪回転数)×(ドライブプレートまでのギア比))}で相対回転している。このときドライブプレートとドリブンプレートの間では差回転があるので、各プレートが引き摺られてこれが損失となっている。
よって、クラッチ引き摺り損失PCL(Lo)は、
PCL(Lo)=Nc×T=Nc×[ρ・v・N・π・R・{(Do/2)2-(Di/2)2}/(h/2)]×A
Nc:フリクションプレート差回転
T:引き摺りトルク
ρ:ATF粘度
v:クラッチ周速(2πNc/60)
N:フリクションプレート対向面数
R:フリクションプレート有効半径
Do:フリクションプレート外径
Di:フリクションプレート内径
h:フリクションプレートクリアランス
A:定数(ATF介入係数、温度補正など)
の式で算出される。
なお、「ハイモード」の選択時、ドグクラッチ8は、差回転が生じているが、ドグクラッチ8の場合、引き摺り無く切り離された状態であるため、クラッチ引き摺り損失PCL(Hi)は、ほぼゼロとなる。
【0041】
[モータ損失の計算手法]
図5にモータ損失PMの算出の考え方を示す。
例えば、実施例1のように、第2モータジェネレー5により駆動される有段変速機6の変速段数が2段の場合、ある走行シーン時(車速Vsp、駆動力Tv等)の「ローモード」の選択時における第2モータジェネレー5のモータ動作点Aが、回転数NLo、トルクTLoであり、「ハイモード」の選択時における第2モータジェネレー5のモータ動作点Bが、回転数NHi、トルクTHiとなる。これらの動作点AとBは走行シーンが等しく、要求出力Wも等しくなるため、
Lo×TLo=NHi×THi=W
となる。各動作点A,Bでのモータ損失のうち、「ローモード」の選択時におけるモータ動作点Aでのモータ損失PM(Lo)は、モータ効率マップ(例)によると効率が95%であるので、
PM(Lo)=NLo×TLo×(1−0.95)=0.05W
となり、「ハイモード」の選択時におけるモータ動作点Bでのモータ損失PM(Hi)は、モータ効率マップ(例)によると効率が85%であるので、
PM(Hi)=NHi×THi×(1−0.85)=0.15W
となる。
【0042】
このように、モータ損失PM(Lo)、PM(Hi)を、走行シーンと要求出力Wが等しいという条件で「ローモード」と「ハイモード」の各変速段における第2モータジェネレータ5のモータ動作点A,Bを決め、モータ効率マップ上での各モータ動作点A,Bでの効率を用いて算出するようにしている。
このため、各変速段における第2モータジェネレータ5での電力消費量を推定するためのモータ損失PM(Lo)、PM(Hi)を、精度良く予測することができる。
【0043】
[運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの判断手法]
図5に運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの判断の考え方を示す。
例えば、実施例1のように、有段変速機6の変速段数が2段の場合、「ローモード」の選択時における動作点Aは、車速Vsp1、駆動力TvLoとなり、「ハイモード」の選択時における動作点Bは、車速Vsp1、駆動力TvHiとなる。
したがって、車速Vsp1での「ローモード」の選択時、駆動力TvLoによる加速GLoは、
GLo=(TvLo−走行抵抗)/(車重+車両慣性)/重力加速度g2
となる。また、車速Vsp1での「ハイモード」の選択時、駆動力TvHiによる加速GHiは、
GHi=(TvHi−走行抵抗)/(車重+車両慣性)/重力加速度g2
となる。そして、
GLo−GHi<0.2G
が成り立つとき、つまり、加速GLoと加速GHiの差が0.2G以下のとき、「ローモード」から「ハイモード」に変速しても、運転者に対し加速時の駆動力不足を大きく感じさせないとする。ただし、この加速Gの判断しきい値0.2Gは、車両や目標動力性能によって変わるものとする。
【0044】
[変速作用]
変速作用を、図3のフローチャートに基づき説明する。
まず、走行時であって、低駆動力要求モードでないときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS109→リターンへと進む流れが繰り返される。
したがって、ステップS109では、車速Vsp、アクセル開度APO、バッテリー充電量SOC等に基づいて、ある決められた変速マップの変速線に従って変速する通常変速が行われる。もしくは、クラッチ引き摺り損失とモータ損失の和が小さい方の変速モードを選択し、選択した変速モードに従って変速する最小損失による変速が行われる。
【0045】
一方、走行時であって、低駆動力要求モードであるときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS104→ステップS105へと進む。そして、ステップS105にて{PCL(Lo)+PM(Lo)}≦{PCL(Hi)+PM(Hi)}と判断されると、ステップS105からステップS108へと進み、判断時に選択されている変速モードが「ローモード」であれば、「ローモード」が維持され、判断時に選択されている変速モードが「ハイモード」であれば、「ローモード」への変速が行われる。
【0046】
また、ステップS105にて{PCL(Lo)+PM(Lo)}>{PCL(Hi)+PM(Hi)}と判断されると、ステップS105からステップS106へ進み、ステップS106にて、現段階にて「ローモード」が選択されているとき、「ハイモード」に変速した場合に運転者に駆動力の不足感を与えないか否かが判断される。そして、駆動力不足感を与えるときは、ステップS106からステップS108へ進み、ステップS105での損失和条件にかかわらず、「ローモード」の選択が維持される。また、ステップS106にて、駆動力不足感を与えないと判断されると、ステップS106からステップS107へ進み、ステップS105での損失和条件に従って「ローモード」から「ハイモード」へ変速される。なお、現段階にて「ハイモード」が選択されているときには、ステップS106からステップS107へ進み、「ハイモード」の選択が維持される。
【0047】
上記のように、実施例1の変速制御では、「ローモード」と「ハイモード」の各変速段における有段変速機6のクラッチ引き摺り損失PCL(Lo),PCL(Hi)を予測し(ステップS103)、各変速段における第2モータジェネレータ5のモータ損失PM(Lo),PM(Hi)を予測し(ステップS104)、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)とモータ損失PM(Lo)の和と予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)とモータ損失PM(Hi)の和のうち、基本的に最小となる変速段を選択し(ステップS105)、選択した変速段が現変速段と異なるとき選択した変速段へ変速するようにしている(ステップS107,ステップS108)。
したがって、ハイブリッド車両において、エンジン1の燃料消費量と第2モータジェネレータ5の電力消費量を合わせた駆動エネルギー消費量が少なく抑えられる。
【0048】
さらに、実施例1の変速制御では、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)とモータ損失PM(Lo)の和と予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)とモータ損失PM(Hi)の和のうち、最小となる変速段を判断すると共に(ステップS105)、「ローモード」の駆動力TvLoによる加速GLoと「ハイモード」の駆動力TvHiによる加速GHiの差(GLo−GHi)が所定値(例えば、0.2G)以内かどうかを判断し(ステップS106)、(GLo−GHi)>0.2Gであれば損失和が最小となる変速段の選択を禁止し(ステップS106→ステップS108)、(GLo−GHi)≦0.2Gであれば損失和が最小となる変速段の選択を実行するようにしている(ステップS106→ステップS107)。
したがって、変速に伴って運転者に駆動力不足感を与えることを抑えつつ、駆動エネルギーの消費量を低減することができる。
【0049】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0050】
(1) 駆動系の上流側から順に、駆動モータ(第2モータジェネレータ5)と、有段変速機6と、駆動輪32,32と、を備え、前記有段変速機6は、変速機構と変速要素(摩擦クラッチ7,ドグクラッチ8)を有し、変速条件が成立したとき、前記変速要素の締結・開放の掛け替え制御により選択された変速段へ変速する変速制御手段を備えたハイブリッド車両の制御装置において、前記変速制御手段(図3)は、「ローモード」と「ハイモード」の各変速段における有段変速機6のクラッチ引き摺り損失PCL(Lo),PCL(Hi)を予測し(ステップS103)、各変速段における第2モータジェネレータ5のモータ損失PM(Lo),PM(Hi)を予測し(ステップS104)、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)とモータ損失PM(Lo)の和と予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)とモータ損失PM(Hi)の和のうち、基本的に最小となる変速段を選択し(ステップS105)、選択した変速段が現変速段と異なるとき選択した変速段へ変速する(ステップS107,ステップS108)。
このため、走行時、変速機損失とモータ損失を考慮して変速段を選択する変速制御を行うことにより、駆動エネルギーの消費量を低減することができる。
【0051】
(2) 前記変速制御手段(図3)は、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)とモータ損失PM(Lo)の和と予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)とモータ損失PM(Hi)の和のうち、最小となる変速段を判断すると共に(ステップS105)、「ローモード」の駆動力TvLoによる加速GLoと「ハイモード」の駆動力TvHiによる加速GHiの差(GLo−GHi)が所定値(例えば、0.2G)以内かどうかを判断し(ステップS106)、(GLo−GHi)>0.2Gであれば損失和が最小となる変速段の選択を禁止し(ステップS106→ステップS108)、(GLo−GHi)≦0.2Gであれば損失和が最小となる変速段の選択を実行する(ステップS106→ステップS107)。
このため、変速に伴って運転者に駆動力不足感を与えることを抑えつつ、駆動エネルギーの消費量を低減することができる。
【0052】
(3) 前記変速制御手段(図3)は、モータ損失PM(Lo)、PM(Hi)を、走行シーンと要求出力Wが等しいという条件で「ローモード」と「ハイモード」の各変速段における第2モータジェネレータ5のモータ動作点A,Bを決め、モータ効率マップ上での各モータ動作点A,Bでの効率を用いて算出する(ステップS104)。
このため、各変速段における第2モータジェネレータ5での電力消費量を推定するためのモータ損失PM(Lo)、PM(Hi)を、精度良く予測することができる。
【実施例2】
【0053】
実施例2は、有段変速機として、3速の変速段を有する変速機を用いると共に、変速要素として3つの湿式多板による摩擦クラッチを用いた例である。
【0054】
まず、構成を説明する。
図6は、実施例2の制御装置が適用されたハイブリッド車両(電動車両の一例)の駆動系と制御系の構成を示す全体システム図である。以下、図6に基づき駆動系構成と制御系構成を説明する。
【0055】
実施例2のハイブリッド車両の駆動系は、図6に示すように、エンジン1と、ダンパー2と、第1モータジェネレータ3と、オイルポンプ4と、第2モータジェネレータ5(駆動モータ)と、有段変速機6’と、ハイクラッチ7’(変速要素)と、ミドルクラッチ33(変速要素)と、ロークラッチ8’(変速要素)と、遊星歯車装置10と、を備えている。
【0056】
前記有段変速機6’は、第2モータジェネレータ5が接続されるモータ出力軸29にベアリング27を介して回転可能に支持されたハイ側入力ギア25と、モータ出力軸29とハイ側入力ギア25を滑り断接する湿式多板によるハイクラッチ7’と、第2モータジェネレータ5が接続されるモータ出力軸29にベアリング36を介して回転可能に支持されたミドル側入力ギア34と、モータ出力軸29とミドル側入力ギア34を滑り断接する湿式多板によるミドルクラッチ33と、第2モータジェネレータ5が接続されるモータ出力軸29にベアリング28を介して回転可能に支持されたロー側入力ギア24と、モータ出力軸29とロー側入力ギア24を噛み合い断接するロークラッチ8’と、を有している。そして、前記ハイ側入力ギア25には、最終出力軸23に固定されたハイ側出力ギア21が噛み合う。前記ミドル側入力ギア34には、最終出力軸23に固定されたミドル側出力ギア35が噛み合う。前記ロー側入力ギア24には、最終出力軸23に固定されたロー側出力ギア22が噛み合う。以上の構成により変速機構と変速要素を有する実施例2の有段変速機6’が構成される。
そして、ハイクラッチ7’を締結し、ミドルクラッチ33とロークラッチ8’を開放すると、ハイ側入力ギア25とハイ側出力ギア21の歯数比により決まる「ハイモード」になる。ミドルクラッチ33を締結し、ハイクラッチ7’とロークラッチ8’を開放すると、ミドル側入力ギア34とミドル側出力ギア35の歯数比により決まる「ミドルモード」になる。ロークラッチ8’を締結し、ハイクラッチ7’とミドルクラッチ33を開放すると、ロー側入力ギア24とロー側出力ギア22の歯数比により決まる「ローモード」になる。すなわち、切り替え変速段として、「ハイモード」による高速段と「ミドルモード」による中速段と「ローモード」による低速段を持つ3段変速機能を有する。
【0057】
実施例2のハイブリッド車両の制御系は、図6に示すように、第1インバータ41と、第2インバータ42と、バッテリー43と、第1モータコントローラ44と、第2モータコントローラ45と、エンジンコントローラ46と、トランスミッションコントローラ47’と、バッテリーコントローラ48と、ハイブリッドコントローラ49と、を備えている。
【0058】
前記トランスミッションコントローラ47’は、図示しない摩擦クラッチアクチュエータへの制御指令によりハイクラッチ7’の動作点(締結・開放)と、ミドルクラッチ33の動作点(締結・開放)と、ロークラッチ8’の動作点(締結・開放)を制御する。
なお、他の構成は、実施例1の図1と同様であるので、説明を省略する。
【0059】
図7は、実施例2の制御装置が適用されたハイブリッド車両の駆動系に有する各回転要素の回転速度(回転数)を縦軸にとってあらわした速度線図である。
【0060】
電気変速部分は、図7に示すように、遊星歯車装置10に接続される第1モータジェネレータ3と、エンジン1と、出力ギア15により構成される。そして、電気変速部分は、2自由度系の遊星歯車装置10により、第1モータジェネレータ3の回転速度と、エンジン1の回転速度が決まると、出力ギア15の回転速度が自動的に決まる無段変速機能を有する。
【0061】
モータ変速部分は、図7に示すように、有段変速機6’にモータ出力軸29を介して接続される第2モータジェネレータ5と、ハイクラッチ7’と、ミドルクラッチ33と、ロークラッチ8’と、噛み合い対によるハイ側入力ギア25とハイ側出力ギア21と、噛み合い対によるミドル側入力ギア34とミドル側出力ギア35と、噛み合い対によるロー側入力ギア24とロー側出力ギア22と、により構成される。そして、モータ変速部分は、ハイクラッチ7’の締結による「ハイモード(高速段)」と、ミドルクラッチ33の締結による「ミドルモード(中速段)」と、ロークラッチ8’の締結による「ローモード(低速段)」と、を切り替える3段変速機能を有する。
【0062】
そして、最終出力軸23において、図7に示すように、電気変速部分からのエンジン直行駆動トルクとモータ変速部分からのモータ駆動トルクが合成され、最終出力ギア30に伝達された合成駆動トルクは、終減速ギアとデファレンシャル装置31を介して、一対の駆動輪32,32へ伝達され、車速Vとされる。
【0063】
図8は、実施例2のハイブリッドコントローラ49にて実行される変速制御処理の流れを示すフローチャートである(変速制御手段)。以下、図8の各ステップについて説明する。なお、ステップS201、ステップS202は、図3のフローチャートのステップS101、ステップS102と同じ処理であるため、説明を省略する。
【0064】
ステップS203では、ステップS202での低駆動力要求モードであるとの判断に続き、読み込まれた情報に基づき、変速段毎の変速機損失として、「ローモード」の選択時、ハイクラッチ7’とミドルクラッチ33で生じるクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)と、「ミドルモード」の選択時、ハイクラッチ7’とロークラッチ8’で生じるクラッチ引き摺り損失PCL(Mid)と、「ハイモード」の選択時、ミドルクラッチ33とロークラッチ8’で生じるクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)を計算し、ステップS204へ進む。なお、クラッチ引き摺り損失の計算手法は、実施例1と同様である。
【0065】
ステップS204では、ステップS203でのクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)、PCL(Mid)、PCL(Hi)の計算に続き、読み込まれた情報に基づき、変速段毎のモータ損失として、「ローモード」の選択時、モータ動作点(モータの最大出力、最高回転数、最大トルク以内の範囲での動作点)におけるモータ損失PM(Lo)と、「ミドルモード」の選択時、モータ動作点(モータの最大出力、最高回転数、最大トルク以内の範囲での動作点)におけるモータ損失PM(Mid)と、「ハイモード」の選択時、モータ動作点(モータの最大出力、最高回転数、最大トルク以内の範囲での動作点)におけるモータ損失PM(Hi)を計算し、ステップS205へ進む。なお、モータ損失の計算手法は、実施例1と同様である。
【0066】
ステップS205では、ステップS204でのモータ損失PM(Lo)、PM(Mid)、PM(Hi)の計算に続き、「ローモード」の選択時におけるクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)とモータ損失PM(Lo)の和{PCL(Lo)+PM(Lo)}と、「ミドルモード」の選択時におけるクラッチ引き摺り損失PCL(Mid)とモータ損失PM(Mid)の和{PCL(Mid)+PM(Mid)}と、「ハイモード」の選択時におけるクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)とモータ損失PM(Hi)の和{PCL(Hi)+PM(Hi)}を算出し、その後、{PCL(Lo)+PM(Lo)}と{PCL(Mid)+PM(Mid)}と{PCL(Hi)+PM(Hi)}のうち、何れが最小損失であるかを判断し、「ハイモード」選択時の損失が最小のときはステップS206へ進み、「ミドルモード」選択時の損失が最小のときはステップS208へ進み、「ローモード」選択時の損失が最小のときはステップS210へ進む。
【0067】
ステップS206では、ステップS205でのHi損失最小であるとの判断に続き、現段階で選択されている変速モードが「ミドルモード」であるとき、「ミドルモード」から「ハイモード」へ変速したと仮定した場合、「ハイモード」における駆動力が、運転者に駆動力の不足感を与えないか否かを判断し、YES(運転者に駆動力の不足感を与えない)の場合はステップS207へ進み、NO(運転者に駆動力の不足感を与える)の場合はステップS208へ進む。なお、運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの詳しい判断手法については後述する。
【0068】
ステップS207では、ステップS206での運転者に駆動力の不足感を与えないとの判断に続き、「ミドルモード」のときは「ハイモード」に変速し、「ハイモード」のときは「ハイモード」を維持し、リターンへ進む。
【0069】
ステップS208では、ステップS205でのMid損失最小であるとの判断、あるいは、ステップS206での運転者に駆動力の不足感を与えるとの判断に続き、現段階で選択されている変速モードが「ローモード」であるとき、「ローモード」から「ミドルモード」へ変速したと仮定した場合、「ミドルモード」における駆動力が、運転者に駆動力の不足感を与えないか否かを判断し、YES(運転者に駆動力の不足感を与えない)の場合はステップS209へ進み、NO(運転者に駆動力の不足感を与える)の場合はステップS210へ進む。なお、運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの詳しい判断手法については後述する。
【0070】
ステップS209では、ステップS208での運転者に駆動力の不足感を与えないとの判断に続き、「ローモード」のときは「ミドルモード」に変速し、「ミドルモード」のときは「ミドルモード」を維持し、リターンへ進む。
【0071】
ステップS210では、ステップS205でのLo損失最小であるとの判断、あるいは、ステップS208での運転者に駆動力の不足感を与えるとの判断に続き、「ミドルモード」のときは「ローモード」に変速し、「ローモード」のときは「ローモード」を維持し、リターンへ進む。
【0072】
ステップS211では、ステップS202での低駆動力要求モードではないとの判断に続き、車両情報(車速Vsp、アクセル開度APO(要求駆動力)、バッテリー充電量SOC等からある決められた変速マップの変速線に従って変速する(通常変速)、もしくは、クラッチ引き摺り損失とモータ損失の和が小さい方の変速モードを選択し、選択した変速モードに従って変速し(最小損失による変速)、リターンへ進む。
【0073】
次に、作用を説明する。
実施例2のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの判断手法」、「変速制御作用」に分けて説明する。
【0074】
[運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの判断手法]
図9に運転者に駆動力の不足感を与えるか否かの判断の考え方を示す。
例えば、実施例2のように、有段変速機6’の変速段数が3段の場合、「ローモード」の選択時における動作点Aは、車速Vsp1、駆動力TvLoとなり、「ミドルモード」の選択時における動作点Bは、車速Vsp1、駆動力TvMidとなり、「ミドルモード」の選択時における動作点B’は、車速Vsp2、駆動力TvMid'となり、「ハイモード」の選択時における動作点Cは、車速Vsp2、駆動力TvHiとなる。
【0075】
したがって、車速Vsp1での「ローモード」の選択時、駆動力TvLoによる加速GLoは、
GLo=(TvLo−走行抵抗)/(車重+車両慣性)/重力加速度g2
となる。また、車速Vsp1での「ミドルモード」の選択時、駆動力TvMidによる加速GMidは、
GMid=(TvMid−走行抵抗)/(車重+車両慣性)/重力加速度g2
となる。したがって、両者の差が0.2Gであるとき、すなわち、
GLo−GMid<0.2G
が成り立つとき、「ローモード」から「ミドルモード」に変速しても、運転者に対し加速時の駆動力不足を大きく感じさせないとする。ただし、この加速Gの判断しきい値0.2Gは、車両や目標動力性能によって変わるものとする。
【0076】
また、車速Vsp2での「ミドルモード」の選択時、駆動力TvMid'による加速GMid'は、
GMid'=(TvMid'−走行抵抗)/(車重+車両慣性)/重力加速度g2
となる。また、車速Vsp2での「ハイモード」の選択時、駆動力TvHiによる加速GHiは、
GHi=(TvHi−走行抵抗)/(車重+車両慣性)/重力加速度g2
となる。したがって、両者の差が0.2Gであるとき、すなわち、
GMid'−GHi<0.2G
が成り立つとき、「ミドルモード」から「ハイモード」に変速しても、運転者に対し加速時の駆動力不足を大きく感じさせないとする。ただし、この加速Gの判断しきい値0.2Gは、車両や目標動力性能によって変わるものとする。
【0077】
[変速作用]
変速作用を、図8のフローチャートに基づき説明する。
まず、走行時であって、低駆動力要求モードでないときは、図8のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS202→ステップS211→リターンへと進む流れが繰り返される。
したがって、ステップS211では、車速Vsp、アクセル開度APO、バッテリー充電量SOC等に基づいて、ある決められた変速マップの変速線に従って変速する通常変速が行われる。もしくは、「ハイモード」、「ミドルモード」、「ローモード」のうち、クラッチ引き摺り損失とモータ損失の和が小さい変速モードを選択し、選択した変速モードに従って変速する最小損失による変速が行われる。
【0078】
一方、走行時であって、低駆動力要求モードであるときは、図8のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS202→ステップS203→ステップS204→ステップS205へと進む。そして、ステップS205にてLo損失最小と判断されると、ステップS205からステップS210へと進み、判断時に選択されている変速モードが「ローモード」であれば、「ローモード」が維持され、判断時に選択されている変速モードが「ミドルモード」であれば、「ローモード」への変速が行われる。
【0079】
ステップS205にてMid損失最小と判断されると、ステップS205からステップS208へ進み、ステップS208にて、現段階にて「ローモード」が選択されているとき、「ミドルモード」に変速した場合に運転者に駆動力の不足感を与えないか否かが判断される。そして、駆動力不足感を与えるときは、ステップS208からステップS210へ進み、ステップS205でのMid損失最小判断にかかわらず、「ローモード」の選択が維持される。また、ステップS208にて、駆動力不足感を与えないと判断されると、ステップS208からステップS209へ進み、ステップS205でのMid損失最小判断に従って「ローモード」から「ミドルモード」へ変速される。なお、現段階にて「ミドルモード」が選択されているときには、ステップS208からステップS209へ進み、「ミドルモード」の選択が維持される。
【0080】
ステップS205にてHi損失最小と判断されると、ステップS205からステップS206へ進み、ステップS206にて、現段階にて「ミドルモード」が選択されているとき、「ハイモード」に変速した場合に運転者に駆動力の不足感を与えないか否かが判断される。そして、駆動力不足感を与えるときは、ステップS206からステップS208へ進み、ステップS205でのHi損失最小判断にかかわらず、「ミドルモード」の選択が維持される。また、ステップS206にて、駆動力不足感を与えないと判断されると、ステップS206からステップS207へ進み、ステップS205でのHi損失最小判断に従って「ミドルモード」から「ハイモード」へ変速される。なお、現段階にて「ハイモード」が選択されているときには、ステップS206からステップS207へ進み、「ハイモード」の選択が維持される。
【0081】
上記のように、実施例2の変速制御では、「ローモード」と「ハイモード」の各変速段における有段変速機6のクラッチ引き摺り損失PCL(Lo),PCL(Mid),PCL(Hi)を予測し(ステップS203)、各変速段における第2モータジェネレータ5のモータ損失PM(Lo),PM(Mid),PM(Hi)を予測し(ステップS204)、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)とモータ損失PM(Lo)の和と、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Mid)とモータ損失PM(Mid)の和と、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)とモータ損失PM(Hi)の和のうち、基本的に最小となる変速段を選択し(ステップS205)、選択した変速段が現変速段と異なるとき選択した変速段へ変速するようにしている(ステップS207,ステップS209,ステップS210)。
したがって、ハイブリッド車両において、エンジン1の燃料消費量と第2モータジェネレータ5の電力消費量を合わせた駆動エネルギー消費量が少なく抑えられる。
【0082】
さらに、実施例2の変速制御では、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Lo)とモータ損失PM(Lo)の和と、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Mid)とモータ損失PM(Mid)の和と、予測したクラッチ引き摺り損失PCL(Hi)とモータ損失PM(Hi)の和のうち、最小となる変速段を判断すると共に(ステップS205)、「ローモード」の駆動力TvLoによる加速GLoと「ミドルモード」の駆動力TvMidによる加速GMidの差(GLo−GMid)が所定値(例えば、0.2G)以内かどうかを判断し(ステップS208)、(GLo−GMid)>0.2Gであれば「ミドルモード」の選択を禁止し(ステップS208→ステップS210)、(GLo−GMid)≦0.2Gであれば「ミドルモード」の選択を実行するようにしている(ステップS208→ステップS209)。また、「ミドルモード」の駆動力TvMid'による加速GMid'と「ハイモード」の駆動力TvHiによる加速GHiの差(GMid'−GHi)が所定値(例えば、0.2G)以内かどうかを判断し(ステップS206)、(GMid'−GHi)>0.2Gであれば「ハイモード」の選択を禁止し(ステップS206→ステップS208)、(GMid'−GHi)≦0.2Gであれば「ハイモード」の選択を実行するようにしている(ステップS206→ステップS207)。
したがって、変速に伴って運転者に駆動力不足感を与えることを抑えつつ、駆動エネルギーの消費量を低減することができる。
【0083】
以上、本発明の電動車両の制御装置を実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0084】
実施例1では、有段変速機6の変速要素として、摩擦クラッチ7(ウェットクラッチ)とドグクラッチ8を用いる例を示した。また、実施例2では、有段変速機6’の変速要素として、半締結可能な摩擦係合装置であるウェットクラッチによるハイクラッチ7’、ミドルクラッチ33、ロークラッチ8’を用いる例を示した。しかし、噛み合い係合装置としてのドグブレーキや半締結可能な摩擦係合装置としてのブレーキを用いる例も含む。さらに、有段変速機6,6’として、実施例1,2に示す変速構造のものに限らず、クラッチおよびブレーキを使用して変速する遊星歯車等による他の変速機構であっても良い。
【0085】
実施例1では、変速機損失として、クラッチ引き摺り損失を計算する例を示した。しかし、変速機損失として、クラッチ引き摺り損失以外に、ギア損失やベアリング損失等を含めるような例としても良い。
【0086】
実施例1,2では、制御装置をエンジンと第1モータジェネレータと第2モータジェネレータを搭載したハイブリッド車両へ適用例を示したが、他の型式のハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車等の他の電動車両に対しても本発明の制御装置を適用することができる。例えば、図10に示すように、駆動系に、第2モータジェネレータ5と有段変速機6と左右駆動輪32,32を有する電気自動車に対しても適用することもできる。要するに、駆動系に、駆動モータと、有段変速機と、駆動輪を備えた電動車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 エンジン
2 ダンパー
3 第1モータジェネレータ
4 オイルポンプ
5 第2モータジェネレータ(駆動モータ)
6,6’ 変速機(有段変速機)
7 摩擦クラッチ(変速要素)
7’ ハイクラッチ(変速要素)
33 ミドルクラッチ(変速要素)
8 ドグクラッチ(変速要素)
8’ ロークラッチ(変速要素)
10 遊星歯車装置
32 駆動輪
41 第1インバータ
42 第2インバータ
43 バッテリー
44 第1モータコントローラ
45 第2モータコントローラ
46 エンジンコントローラ
47,47’ トランスミッションコントローラ
48 バッテリーコントローラ
49 ハイブリッドコントローラ
49’ 統合コントローラ
50 アクセル開度センサ
51 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動系の上流側から順に、駆動モータと、有段変速機と、駆動輪と、を備え、
前記有段変速機は、変速機構と変速要素を有し、変速条件が成立したとき、前記変速要素の締結・開放の掛け替え制御により選択された変速段へ変速する変速制御手段を備えた電動車両の制御装置において、
前記変速制御手段は、各変速段における前記有段変速機の変速機損失を予測し、各変速段における前記駆動モータのモータ損失を予測し、予測した変速機損失とモータ損失の和が最小となる変速段を選択し、選択した変速段が現変速段と異なるとき選択した変速段へ変速することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両の制御装置において、
前記変速制御手段は、予測した変速機損失とモータ損失の和が最小となる変速段を判断すると共に、現変速段での駆動力予測値と判断した変速段での駆動力予測値の差が所定値以内かどうかを判断し、駆動力予測値差が所定値を超えていれば損失和が最小となる変速段の選択を禁止し、駆動力予測値差が所定値以内であれば損失和が最小となる変速段の選択を実行することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動車両の制御装置において、
前記変速制御手段は、前記モータ損失を、走行シーンと要求出力が等しいという条件で各変速段における前記駆動モータのモータ動作点を決め、モータ効率特性上での各モータ動作点での効率を用いて算出することを特徴とする電動車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−210050(P2010−210050A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58834(P2009−58834)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】