説明

電動車両の制御装置

【課題】ユーザによってブレーキ操作がなされる状況下、車両の運動エネルギをモータジェネレータ10の発電エネルギに変換して高圧バッテリ48(第1バッテリ)を充電する主機回生制御処理が行われる電動車両がある。この車両において、主機回生制御処理を適切に行うことができず、車両の運動エネルギを有効に利用することができないおそれがあること。
【解決手段】主機回生制御処理が行われる状況下において、車両の運動エネルギをコンプレッサ30の駆動エネルギ及びオルタネータ18の発電エネルギに変換し、蓄熱器34に蓄熱したり、低圧バッテリ40(第2バッテリ)を充電したりする処理である補機回生制御処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリを電力供給源とする車載主機としての回転機を備える電動車両に適用され、ユーザによってブレーキ操作がなされる状況下において、前記車両の運動エネルギを前記回転機の発電エネルギに変換して前記バッテリを充電する処理を行う発電回生手段を備える電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、下記特許文献1,2に見られるように、ブレーキによって車両に制動力が付与される状況において、車両の運動エネルギを回転機の発電エネルギとして変換してバッテリを充電する回生制御を行うものが知られている。
【0003】
ところで、バッテリの信頼性の確保等を目的として、バッテリには、充電時に受入れ可能な電力の上限値が設定されている。ここでバッテリの蓄電量が十分となる状況下においては、回生制御による回転機の発電可能な電力が、バッテリに受入れ可能な電力の上限値を上回ることがある。この場合、バッテリに過度に電力が供給されることに起因して、バッテリの信頼性が低下するおそれがある。
【0004】
こうした問題を解決すべく、下記特許文献3に見られるように、回転機の印加電圧を低下させることで回転機に流れる電流を増大させ、回転機の銅損を増大させる技術も知られている。この技術では、回生制御によって回収できない電力を熱エネルギと消費させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−271607号公報
【特許文献2】特許第3784914号公報
【特許文献3】特許第3156340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記技術では、回生制御によって車両の運動エネルギを有効に利用することができない懸念がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ユーザによってブレーキ操作がなされる状況下における車両の運動エネルギを有効に利用することのできる電動車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明は、バッテリをエネルギ供給源として駆動される車載主機としての回転機を備える電動車両に適用され、ユーザによってブレーキ操作がなされる状況下において、前記車両の運動エネルギを前記回転機の発電エネルギに変換することで前記バッテリを充電する処理を行う回生制御手段を備える電動車両の制御装置において、前記車両には、前記バッテリをエネルギ供給源として駆動される空調用の圧縮機と、該圧縮機の駆動によって生成された熱を蓄える蓄熱器と、前記車両の運動エネルギを前記圧縮機の駆動エネルギに変換する運動エネルギ変換手段とが備えられ、前記回生制御手段は、ユーザによってブレーキ操作がなされる状況下において、前記運動エネルギ変換手段によって前記車両の運動エネルギを前記圧縮機の駆動エネルギに変換することで、前記蓄熱器に蓄熱する処理を行うことを特徴とする。
【0010】
上記発明では、運動エネルギ変換手段を備えることで、回転機の発電可能な電力がバッテリに受入れ可能な電力を上回る場合であっても、車両の運動エネルギを圧縮機の駆動によって生成された熱エネルギとして蓄熱器に蓄えることができる。これにより、車両の運動エネルギを有効に利用することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記車両には、自身の駆動トルクを調節可能な前記圧縮機以外の車載補機が備えられ、前記運動エネルギ変換手段は、前記車両の駆動輪に接続された駆動軸、前記圧縮機及び前記車載補機の間の動力伝達を可能とする動力伝達機構であって、前記駆動軸、前記圧縮機及び前記車載補機のそれぞれに機械的に連結される第1の回転体、第2の回転体及び第3の回転体の回転速度を共線図上において1直線上に並ばせる動力伝達機構を備えるものであり、前記回生制御手段は、前記車載補機及び前記圧縮機のそれぞれの駆動トルクを調節することで、前記蓄熱器に蓄熱する処理を行うことを特徴とする。
【0012】
上記発明では、上記動力伝達機構を備えるため、駆動軸の回転速度、圧縮機の回転速度及び車載補機の回転速度が共線図上において1直線に並ぶこととなる。ここで車載補機や圧縮機の駆動トルクを変化させると、共線図上における駆動軸、圧縮機及び車載補機のそれぞれの回転速度に関する上述した関係を維持しつつ、車載補機及び圧縮機のそれぞれの回転速度が連続的に変化する。
【0013】
この点に鑑み、上記発明では、上記態様にて車載補機及び圧縮機のそれぞれの駆動トルクを調節することで、圧縮機の回転速度を調節することができ、圧縮機を含む冷凍サイクルの冷媒循環量を適切に調節することができる。このため、蓄熱器に蓄熱する熱エネルギを適切に生成することができる。
【0014】
なお、上記発明において、圧縮機の回転を停止させるためのブレーキ機構を更に備え、圧縮機の回転速度を徐々に低下させて0とした後、ブレーキ機構によって圧縮機の駆動を停止させる制御を行ってもよい。この制御によれば、例えば圧縮機と第2の回転体との間の動力を伝達又は遮断するクラッチ機構を採用する場合と比較して、圧縮機の駆動及び駆動の停止を切り替えることに伴うショックの発生を抑制することができ、ドライバビリティの低下を好適に回避することもできる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記車載補機は、発電機であり、前記バッテリは、前記回生制御手段によって前記車両の運動エネルギが前記回転機の発電エネルギに変換されることで充電される第1バッテリと、前記発電機の発電によって充電される第2バッテリとを備えて構成されるものであり、前記回生制御手段は、前記発電機及び前記圧縮機のそれぞれの駆動トルクを調節することで、前記蓄熱器に蓄熱しつつ前記第2バッテリを充電する処理を行うことを特徴とする。
【0016】
上記発明では、発電機及び圧縮機の駆動トルクの調節によってこれら補機の回転速度を適切に調節することができる。このため、例えば回転機の発電可能な電力が第1バッテリの受入れ可能な電力を上回ると想定される状況下、この上回る分の電力を用いて蓄熱器に蓄熱するとともに、第2バッテリに充電することができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記回生制御手段は、前記蓄熱器及び前記第2バッテリのうちエネルギ蓄積量が少ない方に、前記動力伝達機構を介して前記車両の運動エネルギを優先して分配すべく、前記圧縮機及び前記発電機のそれぞれの回転速度を調節することを特徴とする。
【0018】
上記発明では、上記態様にて圧縮機及び発電機のそれぞれの回転速度を調節することで、蓄熱器及び第2バッテリのうち一方のエネルギ蓄電量が過度に小さくなる事態の発生を回避することができる。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記回生制御手段によって前記回転機に発電させることで前記バッテリを充電する処理が行われる期間以外の期間において、前記蓄熱器及び前記第2バッテリのうち少なくとも一方のエネルギ蓄積量が不足しているか否かを判断する判断手段と、前記判断手段によって前記不足していると判断された場合、前記エネルギ蓄積量の不足を補償すべく前記圧縮機及び前記発電機のうち少なくとも1つを強制的に駆動させる強制駆動手段を更に備えることを特徴とする。
【0020】
上記発明では、強制駆動手段を備えることで、蓄熱器や第2バッテリのエネルギ蓄積量が不足する事態を好適に回避することができる。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項3〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記車両には、車輪に制動力を付与すべくユーザによって操作されるブレーキ操作部材と、該ブレーキ操作部材及び電動式のアクチュエータのうち少なくとも1つの操作によって前記車輪に制動力を付与するブレーキ装置とが備えられ、前記ブレーキ操作部材の操作状態に基づき、前記車輪に付与する制動トルクを算出する制動トルク算出手段と、前記回生制御手段による前記圧縮機及び前記車載補機の駆動によって前記駆動輪に付与される制動トルクが、前記制動トルク算出手段によって算出される制動トルクに対して不足する場合、該不足する制動トルクを前記アクチュエータの操作によって補償するブレーキ制御手段とを更に備えることを特徴とする。
【0022】
上記発明では、制動トルク算出手段を備えることで、ユーザの減速意思を反映した制動トルクを算出することができる。そして、制動トルク算出手段によって算出された制動トルクを基準として、回生制御手段によって上記駆動輪に付与される制動トルクの不足分を、アクチュエータの操作によって補償する。これにより、ユーザの意図する制動力を車輪に付与しつつ、上記回生制御手段によって蓄熱器に蓄熱したり、バッテリに充電したりすることができる。
【0023】
請求項7記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記運動エネルギ変換手段は、前記回転機と、該回転機の発電電力を所定に変換する電力変換装置とを備えるものであり、前記圧縮機は、前記電力変換装置を介して供給される電力によって駆動されるものであり、前記回生制御手段は、前記蓄熱器に蓄熱する処理として、前記バッテリに受入れ可能な電力を上回る電力を前記回転機に発電させ、該上回る分の電力を前記電力変換装置を介して前記圧縮機に供給することで、該圧縮機を駆動させる処理を行うことを特徴とする。
【0024】
上記発明では、バッテリに受入れ可能な電力を上回る分の電力によって圧縮機を駆動させることで、蓄熱器に蓄熱する熱エネルギを適切に生成することができ、ひいては車両の運動エネルギを有効に利用することができる。
【0025】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記バッテリは、前記回転機と電力の授受を行って且つ前記電力変換装置に電力を供給する第1バッテリと、前記電力変換装置から供給される電力によって充電されて且つ車載補機の電力供給源となる第2バッテリとを備えて構成されるものであり、前記回生制御手段は、前記第1バッテリに受入れ可能な電力を上回る電力を前記回転機に発電させ、該上回る分の電力のうち、一部を前記電力変換装置を介して前記圧縮機に供給することで該圧縮機を駆動させて且つ、残余を前記第2バッテリに供給することで該第2バッテリを充電する処理を行うことを特徴とする。
【0026】
上記発明では、第1バッテリに受入れ可能な電力を上回る分の電力によって、圧縮機を駆動させて蓄熱器に蓄熱したり、第2バッテリを充電したりすることができる。
【0027】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記回生制御手段によって前記回転機に発電させることで前記バッテリを充電する処理が行われる期間以外の期間において、前記蓄熱器及び前記第2バッテリのうち少なくとも一方のエネルギ蓄積量が不足しているか否かを判断する判断手段と、前記判断手段によって前記不足していると判断された場合、前記エネルギ蓄積量の不足を補償すべく、前記第1バッテリから前記電力変換装置を介した電力の供給によって、前記第2バッテリを充電する処理及び前記圧縮機を駆動させる処理のうち少なくとも一方を強制的に行う手段を更に備えることを特徴とする。
【0028】
上記発明によれば、蓄熱器や第2バッテリのエネルギ蓄積量が過度に不足する事態を好適に回避することができる。
【0029】
請求項10記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記蓄熱器に蓄えられた熱を用いて空調制御を行う空調制御手段を更に備えることを特徴とする。
【0030】
上記発明では、蓄熱器に蓄えられた熱を用いて空調制御を行うことで、その後空調制御のために圧縮機が駆動される頻度を低下させることができる。これにより、バッテリの蓄電量の低下を抑制することができ、ひいては車両の航続距離が短くなることを好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる回生制御処理の手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態にかかる回生制御処理の概要を示す図。
【図4】同実施形態にかかる回生制御処理の概要を示す図。
【図5】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図6】同実施形態にかかる回生制御処理の手順を示すフローチャート。
【図7】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図8】同実施形態にかかる回生制御処理の手順を示すフローチャート。
【図9】その他の実施形態にかかるシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる制御装置を車載主機として回転機のみを備える電動車両に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図1に本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0034】
図示されるように、電動車両には、発電機兼電動機であるモータジェネレータ10、ブレーキ装置12、空気調節システム(エアコンシステム14)、動力伝達機構16及び発電機(オルタネータ18)等が備えられている。詳しくは、モータジェネレータ10は、駆動軸20と機械的に連結されて且つ、駆動軸20及び減速機構22等を介して駆動輪24と動力伝達が可能なものであり、車両の走行動力源となるものである。
【0035】
上記ブレーキ装置12は、駆動輪24に対して制動トルクを付与するためのものであり、電動式のブレーキアクチュエータ12a等を備えて構成されている。詳しくは、ブレーキ装置12は、駆動軸20の回転を妨げる方向に駆動軸20にトルクを付与することで、駆動輪24に制動トルクを付与する。ここで駆動輪24に付与される制動トルクは、ユーザによるブレーキペダル26の踏み込み量(ブレーキ操作量)が大きくなったり、ブレーキアクチュエータ12aが駆動されたりすることによってブレーキ油圧系統の油圧(ブレーキ油圧)が高くなることで大きくなる。なお本実施形態では、ブレーキ装置12として、ブレーキアクチュエータ12aへの通電によってブレーキ油圧を上昇・維持させ、通電の停止によってブレーキ油圧が低下するものを想定している。また、ブレーキ油圧系統には、ブレーキ油圧(例えばマスタシリンダ圧)を検出する油圧センサ28が設けられている。
【0036】
エアコンシステム14は、冷凍サイクルに冷媒を循環させるべく冷媒を吸入・吐出するコンプレッサ30、熱交換器32及び蓄熱器34等を備えて構成されている。詳しくは、上記コンプレッサ30は、これが備える図示しない電磁駆動式のコントロールバルブの通電操作によって冷媒の吐出容量を連続的に可変設定可能な可変容量式のものである。コンプレッサ30は、冷媒吐出容量が大きくなるほど、コンプレッサ30の駆動トルク(コンプレッサトルク)が大きくなる。また、コンプレッサ30は、その消費動力が大きくなるほど、空調のための熱生成量が多くなる。なお、本実施形態では、コンプレッサ30として、動力伝達機構16からコンプレッサ30へと動力が直接伝達されるクラッチレス式のものを想定している。また、以下の説明では、コンプレッサ30の回転中に吐出容量が0よりも大きくなる状態をコンプレッサ30が駆動されるものとし、コンプレッサ30の回転が停止されたり(回転速度が0となったり)、吐出容量が0となったりする状態をコンプレッサ30の駆動が停止されるものとする。
【0037】
上記熱交換器32は、コンプレッサ30から吐出された冷媒が空気と熱交換する部材であり、冷房又は暖房のために車室内に供給する空気を冷却又は加熱する機能を有する。詳しくは、エアコンシステム14の冷媒循環経路に備えられる図示しない四方弁が通電操作されることで、冷房運転又はヒートポンプ運転が行われ、上記空気を冷却又は加熱する。
【0038】
蓄熱器34は、その内部に封入される蓄熱剤(例えば、パラフィンや、凍結防止用の添加剤を添加した水である不凍液)により冷媒の熱を蓄える部材である。蓄熱器34は、コンプレッサ30の駆動中に冷凍サイクルで生成された冷房又は暖房のための熱量の余剰分を蓄え、コンプレッサ30の停止期間において上記蓄えられた熱を冷房又は暖房に使用するための構成である。
【0039】
詳しくは、コンプレッサ30が駆動されることで熱交換器32に供給された冷媒と上記蓄熱剤との熱交換によって、冷媒の熱が蓄熱器34に蓄えられる。その後、コンプレッサ30が停止される状況下、図示しないファンから送風された空気と蓄熱剤とが熱交換することにより、上記送風された空気が冷却又は加熱され、冷却又は加熱された空気が吹出し口を介して車室へと送られる。これにより、コンプレッサ30の停止中において車室内を冷房又は暖房することが可能となる。なお、蓄熱器34には、蓄熱器34の温度(蓄熱剤の温度)を検出する温度センサ36が設けられている。
【0040】
上記動力伝達機構16(動力分割機構ともいう)は、モータジェネレータ10、オルタネータ18及びコンプレッサ30間で互いに動力伝達を可能とするものである。詳しくは、動力伝達機構16は、サンギアSと、リングギアRと、サンギアS及びリングギアR間の動力伝達を可能とする複数のピニオンギアP(図中、4つを例示)と、キャリアCとを備えて構成される遊星歯車機構である。ここでキャリアCには、コンプレッサ30の回転軸が機械的に連結されており、リングギアRには、駆動軸20(モータジェネレータ10)が機械的に連結されている。また、サンギアSには、オルタネータ18の回転軸が機械的に連結されている。
【0041】
特に本実施形態では、コンプレッサ30の回転軸及びキャリアCは同一の回転速度(角速度)で回転し、オルタネータ18の回転軸及びサンギアSは同一の角速度で回転し、更にはモータジェネレータ10及びリングギアRは同一の角速度で回転する。また、モータジェネレータ10の角速度(リングギア角速度)、コンプレッサ30の角速度(キャリア角速度)及びオルタネータ18の角速度(サンギア角速度)の順に、これら角速度が共線図上において一直線上に並ぶこととなる。
【0042】
コンプレッサ30とキャリアCとの間の動力伝達経路上には、コンプレッサ30の回転を停止させるための電子制御式のブレーキ機構38が設けられている。このブレーキ機構38は、コンプレッサ30に一体として備えられていてもよいし、コンプレッサ30とは別に設けられていてもよい。
【0043】
オルタネータ18は、これが回転駆動されて発電するものであり、図示しないレギュレータ及びロータコイル等を備えて構成されている。詳しくは、レギュレータによってロータコイルに流れる励磁電流が調節されることでオルタネータ18の発電電力が調節される。具体的には、この発電電力は、オルタネータ18の駆動トルク(オルタネータトルク)が大きくなったり、オルタネータ18の回転速度が高くなったりするほど大きくなる。
【0044】
オルタネータ18の発電電力は、第2バッテリとしての車載低圧バッテリ40(例えば鉛バッテリ)及び車室内の照明等の種々の車載電気負荷42等に供給される。
【0045】
モータジェネレータ10は、インバータ44及びシステムメインリレー46を介して、第1バッテリとしての車載高圧バッテリ48(例えばリチウムイオンバッテリ)と電力のやりとりを行う。なお本実施形態において、高圧バッテリ48は、その電圧(端子電圧)が低圧バッテリ40よりも高いものである。更に、高圧バッテリ48は、そのエネルギ密度や蓄電量が低圧バッテリ40よりも大きいものである。
【0046】
モータジェネレータ10等を操作対象とする電子制御装置(以下、ECU50)は、低圧バッテリ40を電力供給源として駆動され、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU50には、ユーザのブレーキペダル26の踏み込み力(ブレーキ踏力)を検出するブレーキセンサ52や、駆動軸20(リングギアR)の回転速度を検出する回転速度センサ54、高圧バッテリ48の状態(電圧、入出力電流、温度等)を検出する高圧バッテリセンサ56、低圧バッテリ40の状態(電圧、入出力電流、温度等)を検出する低圧バッテリセンサ58、コンプレッサ30の駆動を指示すべくユーザによって操作されるA/Cスイッチ59、更には油圧センサ28等の検出信号が逐次入力される。そしてECU50は、これら入力信号に基づき、インバータ44の通電操作によるモータジェネレータ10の駆動制御処理や、コンプレッサ30等の通電操作による空調制御処理等を行う。
【0047】
特にECU50は、主機回生制御処理を行う。この処理は、ユーザによるブレーキ操作がなされる車両の減速時において、車両の運動エネルギをブレーキ装置12によって熱エネルギに変換する代わりに、モータジェネレータ10の発電エネルギとして利用することで、高圧バッテリ48を充電するためのものである。これにより、モータジェネレータ10の電力供給源となる高圧バッテリ48の蓄電量(SOC)を増大させることができ、車両の航続距離の低下を抑制することが可能となる。なお、ブレーキ操作がなされるか否かは、例えばブレーキセンサ52の出力値に基づくブレーキ踏力が0よりも大きいか否かで判断すればよい。また、主機回生制御処理が行われる状況としては、ブレーキ操作によって車両が減速する状況のみならず、例えばブレーキ操作によって所定の走行速度を維持しつつ車両が下り坂を走行する状況も考えられる。
【0048】
ところで、高圧バッテリ48には通常、充電時に受入れ可能な電力の上限値(高圧側入力上限値)が設定されている。この高圧側入力上限値は、高圧バッテリ48の信頼性を確保すること等を目的として設定される。つまり、主機回生制御処理によるモータジェネレータ10の発電電力が過度に大きくなったり、高圧バッテリ48のSOCが十分である状況下において高圧バッテリ48に電力が供給されたりすることに起因して、高圧バッテリ48が発熱したり劣化したりする等、高圧バッテリ48の信頼性が低下するおそれがある。このため、高圧側入力上限値を設定することで、高圧バッテリ48の信頼性の低下を回避する。なお、高圧側入力上限値は、高圧バッテリ48の出力密度も加味して設定される。具体的には、出力密度が小さいと、高圧側入力上限値が小さく設定される傾向にある。
【0049】
ここで主機回生制御処理によるモータジェネレータ10の発電可能な電力が、高圧側入力上限値を上回る場合、この上限値を上回る分を発電することができず、主機回生制御処理によって車両の運動エネルギを有効に利用することができなくなるおそれがある。
【0050】
こうした問題の解決策として、例えば、高圧バッテリ48の容量を増大させること等も考えられる。しかしながらこの場合、車両の重量やコストが増大するなどが懸念される。
【0051】
そこで本実施形態では、主機回生制御処理に加えて、ブレーキ操作がなされると判断される状況下、車両の運動エネルギをコンプレッサ30の駆動エネルギ及びオルタネータ18の発電エネルギに変換し、蓄熱器34に蓄熱したり、低圧バッテリ40を充電したりする処理である補機回生制御処理を行うことで、車両の運動エネルギの有効利用を図る。
【0052】
図2に、本実施形態にかかる補機回生制御処理及び主機回生制御処理の手順を示す。この処理は、ECU50によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、以降、リングギア角速度の符号は、車両を進行させる側を正と定義する。また、リングギアRに作用するトルクであるリングギアトルクの符号は、動力伝達機構16の外部(駆動軸20)からリングギアRに動力が入力される場合におけるその動力の符号が正となるように定義する。そして、キャリアCに作用するトルクであるキャリアトルクの符号は、キャリアCから動力伝達機構16の外部(コンプレッサ30)に動力が出力される場合におけるその動力の符号が正となるように定義する。更に、サンギアSに作用するトルクであるサンギアトルクの符号は、サンギアSから動力伝達機構16の外部(オルタネータ18)に動力が出力される場合におけるその動力の符号が正となるように定義する。
【0053】
この一連の処理では、まずステップS10において、高圧バッテリセンサ56の出力値から算出される高圧バッテリ48の状態(電圧VH、入出力電流IH、温度TH)に基づき、高圧側入力上限値Pimaxを算出する。なお、高圧側入力上限値Pimaxの設定に高圧バッテリ48の状態を用いるのは、高圧側入力上限値Pimaxが上記状態に影響を及ぼされるためである。また、以降、高圧側入力上限値Pimaxの符号について、高圧バッテリ48に充電される側を正と定義する。
【0054】
続くステップS12では、低圧バッテリセンサ58の出力値から算出される低圧バッテリ40の状態(電圧VL、入出力電流、温度等)に基づき、低圧バッテリ40の実際の蓄電量(低圧実SOC)を算出する。また、温度センサ36の出力値から算出される蓄熱器34の温度Tacに基づき、蓄熱器34に蓄えられている実際の熱量(実蓄熱量)を算出する。
【0055】
続くステップS14では、熱回収最大パワーPhmax及び低圧回収最大パワーPblmaxを設定する。ここで熱回収最大パワーPhmaxとは、コンプレッサ30の駆動によって蓄熱器34に蓄熱する際に、キャリアCを介してコンプレッサ30に分配可能なリングギアRのパワーの上限値である。また、低圧回収最大パワーPblmaxとは、オルタネータ18の発電によって低圧バッテリ40に充電する際に、サンギアSを介してオルタネータ18に分配可能なリングギアRのパワーの上限値とする。ここでリングギアRのパワーとは、リングギア角速度ωr及びリングギアトルクの乗算値である。
【0056】
ここで、コンプレッサ30に分配可能なリングギアRのパワーの上限値は、コンプレッサ30の仕様等に応じて定まるものである。また、オルタネータ18に分配可能なリングギアRのパワーの上限値は、低圧バッテリ40の電圧や温度等に応じて、低圧バッテリ40の信頼性確保の観点から設定される値(低圧側入力上限値)に基づき設定されるものである。ただし、本実施形態では、リングギアRのパワーをキャリアC及びサンギアSに分配する際の制約から、熱回収最大パワーPhmax及び低圧回収最大パワーPblmaxの双方を、上記分配可能なリングギアRのパワーの上限値とすることは必ずしも可能とはならない。このことに鑑み、基本的には、いずれか一方を優先して上記分配可能なリングギアRのパワーの上限値に設定する。
【0057】
詳しくは、蓄熱器34のエネルギ蓄積量を、蓄熱器34の蓄熱量の上限値に対する実蓄熱量の比率と定義し、低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量を、低圧バッテリ40のSOCの上限値に対する低圧実SOCの比率と定義し、蓄熱器34及び低圧バッテリ40のうちエネルギ蓄積量が少ない方を上記分配可能なリングギアRのパワーの上限値となるように、熱回収最大パワーPhmax及び低圧回収最大パワーPblmaxを設定する。これは、キャリア角速度及びサンギア角速度の調節によって行うことができるため、このステップS14の処理では、これら角速度のそれぞれの目標値を設定する。以下、これについて説明する。
【0058】
まず、キャリアCからコンプレッサ30へと出力されるパワー(キャリアCのパワーPc)及びサンギアSからオルタネータ18へと出力されるパワー(サンギアSのパワーPs)は、キャリアトルクをTc、サンギアトルクをTs、キャリア角速度をωc、サンギア角速度をωsとすると、それぞれ下式(1),(2)で表される。
Pc=Tc×ωc …(1)
Ps=Ts×ωs …(2)
上記キャリアCのパワーPc及びサンギアSのパワーPsの加算値は、下式(3)で表されるように、リングギアRのパワーPrと等しくなる。
Pr=Pc+Ps …(3)
ここで、αを(リングギアRの歯数)/(サンギアSの歯数)とすると、リングギアトルクTrに対するキャリアトルクTc、サンギアトルクTsの比率を、下式(4)で表されるように一定とした場合、リングギア角速度ωr、キャリア角速度ωc及びサンギア角速度ωsが一定となる。
Tr:Tc:Ts=1:(1+α)/α:(−1/α) …(4)
上式(4)をキャリアトルクTc及びサンギアトルクTsのそれぞれについて表すと、下式(5),(6)が導かれる。
Tc=(1+α)/α×Tr …(5)
Ts=(−1/α)×Tr …(6)
ここで上式(1),(2)のそれぞれに、上式(5),(6)のそれぞれを代入すると、キャリアCのパワーPc及びサンギアSのパワーPsはそれぞれ、下式(7),(8)で表される。
Pc=(1+α)/α×Tr×ωc …(7)
Ps=(−1/α)×Tr×ωs …(8)
上式(7),(8)から、キャリアCのパワーPcは、キャリア角速度ωcが高くなるほど大きくなる。また、サンギアSのパワーPcは、サンギア角速度ωsが負であって且つその絶対値が大きくなるほど大きくなる。このため、キャリア角速度ωc及びサンギア角速度ωsを調節することで、コンプレッサ30及びオルタネータ18のそれぞれに対するリングギアRのパワーPrの分配比率を調節することが可能となる。
【0059】
ここでキャリア角速度ωc及びサンギア角速度ωsのそれぞれについては、下式(9)で表される関係を満たすことが要求される。
ωr={(1+α)/α}×ωc−(1/α)×ωs …(9)
すなわち、回転速度センサ54の出力値から算出されるリングギア角速度ωrを入力として、上式(9)を満たして且つ、コンプレッサ30及びオルタネータ18の少なくとも一方に分配するパワーが上記分配可能なリングギアRのパワーの上限値となるように、キャリア角速度ωc及びサンギア角速度ωsの目標値を算出する。
【0060】
ここで、キャリアCのパワーPc及びサンギアSのパワーPsのそれぞれを、コンプレッサ30の駆動による単位時間あたりの生成熱量及びオルタネータ18の発電電力のそれぞれに変換する変換効率εh,εe(0<εh<1,0<εe<1)と、上式(7),(8)とから、コンプレッサ30の駆動による熱回収最大パワーPhmaxに対応した単位時間あたりの生成熱量Qmaxと、オルタネータ18の発電による低圧回収最大パワーPblmaxに対応した電力Blmaxとが、それぞれ下式(10),(11)で表される。
Qmax=εh×Phmax …(10)
Blmax=εe×Pblmax …(11)
図3に、オルタネータ18及びコンプレッサ30のそれぞれに対してリングギアRのパワーPrを分配するためのサンギア角速度ωs及びキャリア角速度ωcのそれぞれの目標値の設定態様の一例を示す。
【0061】
低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量が蓄熱器34のエネルギ蓄積量よりも小さい場合、図中実線にて示すように、キャリア角速度及びサンギア角速度のそれぞれの目標値をωc1,ωs1とすることで、コンプレッサ30及びオルタネータ18のうちオルタネータ18にリングギアRのパワーPrが優先的に分配される。一方、蓄熱器34のエネルギ蓄積量が低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量よりも小さい場合、図中一点鎖線にて示すように、キャリア角速度及びサンギア角速度のそれぞれの目標値をωc2,ωs2とすることで、コンプレッサ30及びオルタネータ18のうちコンプレッサ30にリングギアRのパワーPrが優先的に分配される。
【0062】
図2の説明に戻り、続くステップS16では、コンプレッサ30の駆動によって蓄熱器34に蓄熱する際におけるキャリアCのパワーPcの要求値(要求蓄熱パワーPhrq)と、オルタネータ18の発電によって低圧バッテリ40に充電する際におけるサンギアSのパワーPsの要求値(要求低圧パワーPblrq)とを「0」とする初期化処理を行う。
【0063】
続くステップS18では、蓄熱器34及び低圧バッテリ40のうち少なくとも一方のエネルギ蓄積量が現在不足しているか否かを判断する。この処理は、上記エネルギ蓄積量が不足することに起因して、空調制御等を適切に行うことができなくなるおそれのある状況であるか否かを判断するためのものである。
【0064】
ここで蓄熱器34のエネルギ蓄積量が不足しているか否かの判断手法について説明すると、例えば、車室内の温度を目標温度とするために要求されるエネルギ蓄積量が蓄熱器34に蓄えられているか否かで判断すればよい。また、低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量が不足しているか否かの判断手法について説明すると、例えば、ECU50や電気負荷42等の各種車載機器の動作の信頼性を確保可能な電圧未満であるか否かで判断すればよい。
【0065】
ステップS18において肯定判断された場合には、ステップS20に進み、蓄熱器34や低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量の不足を補償するための要求蓄熱パワーPhrq及び要求低圧パワーPblrqを算出する。ここで要求蓄熱パワーPhrqは例えば、車室内の温度を目標温度とするために要求される蓄熱器34のエネルギ蓄積量から実際のエネルギ蓄積量を減算した値が大きいほど大きくする。また、要求低圧パワーPblrqは例えば、各種車載機器の動作の信頼性を確保可能な低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量から実際のエネルギ蓄積量を減算した値が大きいほど大きくする。
【0066】
なお本実施形態では、蓄熱器34及び低圧バッテリ40のうちエネルギ蓄積量の少ないほうにリングギアRのパワーを優先して分配するように、要求蓄熱パワーPhrq及び要求低圧パワーPblrqを算出する。ここでエネルギ蓄積量に応じた上記分配手法は、上記ステップS14において説明した手法と同様の手法を採用すればよい。また、A/Cスイッチ59がオフされていると判断された場合、要求蓄熱パワーPhrqを「0」とする。
【0067】
続くステップS22では、要求蓄熱パワーPhrq及び熱回収最大パワーPhmaxのうち小さい方を要求蓄熱パワーの指令値Phoutとして算出する処理を行う。また、要求低圧パワーPblrq及び低圧回収最大パワーPblmaxのうち小さい方を要求低圧パワーの指令値Pbloutとして算出する処理を行う。ただし、本ステップにおける処理によって、要求蓄熱パワーPhrq及び要求低圧パワーPblrqのいずれか一方が、上記熱回収最大パワーPhmaxや低圧回収最大パワーPblmaxによって制約されることがある。この場合、熱回収最大パワーPhmax及び低圧回収最大パワーPblmaxのうち制約されていない方については、上記制約の下、実現可能なパワーとなるように再び算出する。
【0068】
上記ステップS18において否定判断された場合や、ステップS22の処理が完了した場合には、ステップS24に進み、ブレーキ操作がなされているか否かを判断する。この処理は、主機回生制御処理及び補機回生制御処理を行う状況であるか否かを判断するためのものである。
【0069】
ステップS24においてブレーキ操作がなされていると判断された場合には、主機回生制御処理及び補機回生制御処理を行う状況であると判断し、ステップS26において、ブレーキ踏力に基づき駆動軸20(リングギアR)に出力すべき制動トルク(要求制動トルク)を算出する。ここで要求制動トルクは、ユーザの減速意思を反映した制動トルクであり、ブレーキ踏力が大きいほど大きく設定される。具体的には、ブレーキ踏力と要求制動トルクとが関係付けられたマップを用いて要求制動トルクを算出すればよい。
【0070】
続くステップS28では、要求制動トルクを要求制動パワーPbkallに換算する。要求制動パワーPbkallは、ユーザの減速意思を反映した車両制動のためのパワーである。ここで要求制動パワーPbkallは、リングギア角速度ωrを減速機構22の減速比で除算した値に要求トルクを乗算した値として算出すればよい。なお、要求制動パワーPbkallの符号について、車両を制動させる側を正と定義する。
【0071】
続くステップS30では、熱回収最大パワーPhmaxを要求蓄熱パワーの指令値Phoutとして設定し、低圧回収最大パワーPblmaxを要求低圧パワーの指令値Pbloutとして設定する。
【0072】
上記ステップS24においてブレーキ操作がなされていないと判断された場合や、ステップS30の処理が完了した場合には、ステップS32に進み、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgを算出する。主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgは、主機回生制御処理によってモータジェネレータ10から駆動輪24に付与される制動パワーである。本実施形態では、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgの符号について、車両を制動させる側を正と定義する。また、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgの最小値を「0」とし、この要求パワーが「0」となる場合、主機回生制御処理が行われないこととする。
【0073】
ここで主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgの算出手法について説明すると、まず、要求制動パワーPbkallから、要求蓄熱パワーの指令値Phoutと、要求低圧パワーの指令値Pbloutと、規定制動パワーPbkbsとの加算値を減算した値を算出する。ここで規定制動パワーPkbsは、フォールトトレランスや車両姿勢制御等の観点から確保されるブレーキ装置12によって付与される制動パワーのことをいう。そして、上記減算した値と、高圧側入力上限値Pimaxとのうち小さい方を、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgとして算出する。なお、規定制動パワーPbkbsの符号について、車両を制動させる側を正と定義する。
【0074】
続くステップS34では、ブレーキ装置12によって駆動輪24に付与される制動パワーである摩擦ブレーキ要求パワーPbkfを算出する。詳しくは、要求制動パワーPbkallから、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmg、要求蓄熱パワーの指令値Phout及び要求低圧パワーの指令値Pbloutの加算値を減算した値として摩擦ブレーキ要求パワーPbkfを算出する。なお、要求制動パワーPbkall、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmg、要求蓄熱パワーの指令値Phout及び要求低圧パワーの指令値Pbloutの上述した符号の定義によれば、摩擦ブレーキ要求パワーPbkfの符号については、車両を制動させる側が正となる。
【0075】
続くステップS36では、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmg、摩擦ブレーキ要求パワーPbkf、要求蓄熱パワーの指令値Phout及び要求低圧パワーの指令値Pbloutのそれぞれに基づき、モータジェネレータ10による主機回生制御処理、ブレーキアクチュエータ12aによる制動制御処理、コンプレッサ30の駆動制御処理及びオルタネータ18の発電制御処理をそれぞれ行い、この一連の処理を一旦終了する。
【0076】
なお、コンプレッサ30の駆動制御処理は、要求蓄熱パワーの指令値Phoutに対応するキャリア角速度ωcの目標値に実際のキャリア角速度ωcを制御すべく、コンプレッサトルクを制御するものとなる。具体的には、まず、要求蓄熱パワーの指令値Phoutをキャリア角速度ωcで除算した値としてコンプレッサトルクの目標値を算出する。そして、コンプレッサトルクの目標値とコンプレッサ30の通電操作量(規定期間に対する通電期間の比率であるデューティ比)と関係付けられたマップ演算によりコンプレッサ30の通電操作を行う。すなわち、実際のキャリア角速度ωcをその目標値にフィードフォワード制御する。
【0077】
また、オルタネータ18の発電制御処理は、上記コンプレッサ30の駆動制御処理と同様に、要求低圧パワーの指令値Pbloutに対応するサンギア角速度ωsの目標値に実際のサンギア角速度ωsを制御すべく、オルタネータトルクを制御するものとなる。具体的には、まず、要求低圧パワーの指令値Pbloutをサンギア角速度ωsで除算した値としてオルタネータトルクの目標値を算出する。そして、オルタネータトルクの目標値とオルタネータ18の通電操作量と関係付けられたマップ演算によるオルタネータ18の通電操作を行う。すなわち、実際のサンギア角速度ωsをその目標値にフィードフォワード制御する。
【0078】
図4に、本実施形態にかかる補機回生制御処理の一例を示す。詳しくは、図4(A)に、A/Cスイッチ59がオンされる場合の一例を示し、図4(B)に、このスイッチがオフされた場合の一例を示す。
【0079】
A/Cスイッチ59がオンされる場合、図4(A)に示すように、オルタネータ18の発電に伴うサンギアトルクTsと、コンプレッサ30の駆動に伴うキャリアトルクTcとに応じたリングギアトルクTrが発生する。そして、このトルクに加えて、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgに応じた制動トルクTbkmgと、摩擦ブレーキ要求パワーPbkfに応じた制動トルクTbkfとが駆動輪24に作用する。
【0080】
一方、A/Cスイッチ59がオフされる場合、図4(B)に示すように、キャリア角速度ωcを徐々に低下させて0とした後、ブレーキ機構38によってキャリアCを固定させる。これにより、コンプレッサ30の駆動を滑らかに停止させつつ、オルタネータ18の発電制御処理のみを行うことができる。なお、オルタネータ18の発電が不要な場合には、オルタネータ18に励磁電流を流さないようにすることで、オルタネータ18を空転させることとなる。
【0081】
ちなみに、キャリア角速度ωcの符号が負となる場合、コンプレッサ30の駆動が禁止される。これは、コンプレッサ30の冷媒吐出・吸入方向が予め定められた方向とは逆になることで、コンプレッサ30等の信頼性が低下することを回避するためである。
【0082】
また、サンギア角速度ωsの符号が正に反転する前に、オルタネータ18に吸収されるトルクを減少させる。これは、サンギア角速度ωs、キャリア角速度ωc及びリングギア角速度ωrについて上式(9)を満たすことが要求されることに鑑み、サンギア角速度ωsの符号が正となる場合、車両を制動させるためにはオルタネータ18を力行させることが要求されるため、これを回避するためである。
【0083】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0084】
(1)主機回生制御処理が行われる状況下において、車両の運動エネルギをコンプレッサ30の駆動エネルギ及びオルタネータ18の発電エネルギに変換して蓄熱器34に蓄熱したり、低圧バッテリ40を充電したりする処理である補機回生制御処理を行った。これにより、車両の運動エネルギの有効に利用することができる。
【0085】
(2)蓄熱器34に蓄えられた熱を用いて車室内の空調制御を行った。モータジェネレータ10の電力供給源となる高圧バッテリ48のエネルギ密度は、例えば車載主機としてエンジンを備える車両の燃料(ガソリン等)のエネルギ密度と比較して低く、コンプレッサ30等の駆動による高圧バッテリ48の電力消費が車両の航続距離に及ぼす影響が大きい。また、電動車両においては、車載主機としてエンジンを備えないため、暖房用の熱源の確保が重要となる。このため、上記態様の空調制御を行う本実施形態は、補機回生制御処理を行うメリットが大きい。
【0086】
(3)蓄熱器34及び低圧バッテリ40のうち少なくとも一方のエネルギ蓄積量が現在不足していると判断された場合、上記エネルギ蓄積量の不足を補償するための要求蓄熱パワーPhrqや要求低圧パワーPblrqを算出した。このため、主機回生制御処理が行われない期間である通常走行時において、強制的にコンプレッサ30を駆動させたりオルタネータ18に発電させたりすることができ、蓄熱器34及び低圧バッテリ40のうち一方のエネルギ蓄積量が過度に小さくなる事態の発生を回避することができる。これにより、空調制御等を適切に行うことができなくなる事態の発生を好適に回避することができる。
【0087】
(4)摩擦ブレーキ要求パワーPbkfに基づきブレーキアクチュエータ12aによって駆動輪24に制動トルクを付与した。これにより、ユーザの意図する制動トルクを駆動輪に付与しつつ、補機回生制御処理によって蓄熱器34に蓄熱したり、低圧バッテリ40に充電したりすることができる。
【0088】
(5)コンプレッサ30の駆動を停止させる場合、オルタネータトルクを調節することでキャリア角速度ωcを徐々に低下させて0にした後、ブレーキ機構38によってキャリアCを固定した。このため、例えばコンプレッサ30とキャリアCとの間の動力を伝達又は遮断する電磁クラッチを備える場合と比較して、コンプレッサ30を停止させることに伴うショックの発生を回避することができる。これにより、ドライバビリティの低下を好適に回避することができる。
【0089】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0090】
図5に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図5において、先の図1に示した部材と同一又は対応する部材については、便宜上同一の符号を示している。
【0091】
図示されるように、本実施形態では、コンプレッサ30として、これが備えるモータ30aによって駆動される電動式のものを想定している。
【0092】
上記モータ30a、電気負荷42及び低圧バッテリ40には、DCDCコンバータ60を介して高圧バッテリ48やモータジェネレータ10から電力が供給される。DCDCコンバータ60は、高圧バッテリ48やモータジェネレータ10の出力電圧を、所定電圧に降圧して出力するものである。
【0093】
ECU50は、蓄熱器34及び低圧バッテリ40のうち少なくとも一方のエネルギ蓄積量が現在不足していると判断した場合、上記エネルギ蓄積量の不足を補償すべく、高圧バッテリ48からDCDCコンバータ60を介した電力の供給によって、強制的に低圧バッテリ40を充電したり、コンプレッサ30を駆動させたりする処理を行う。これにより、蓄熱器34及び低圧バッテリ40のうちいずれかのエネルギ蓄積量が過度に低下する事態の発生を回避することが可能となる。
【0094】
次に、本実施形態にかかる補機回生制御処理について説明する。
【0095】
本実施形態では、主機回生制御処理によってモータジェネレータ10に高圧側入力上限値Pimaxを上回る電力を発電させ、上記上回る分の電力をDCDCコンバータ60を介してモータ30aに供給することでコンプレッサ30を駆動させたり、DCDCコンバータ60を介して低圧バッテリ40に供給して充電したりする処理を行う。
【0096】
図6に、本実施形態にかかる補機回生制御処理及び主機回生制御処理の手順を示す。この処理は、ECU50によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図6において、先の図2に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0097】
この一連の処理では、ステップS14において、熱回収最大パワーPhmax及び低圧回収最大パワーPblmaxを算出する。本実施形態では、熱回収最大パワーPhmaxを、コンプレッサ30の駆動によって蓄熱器34に蓄熱する際に、DCDCコンバータ60を介してモータ30aに供給される電力の生成に要するモータジェネレータ10のパワーの上限値とする。具体的には例えば、熱回収最大パワーPhmaxを、蓄熱器34のエネルギが小さいほど大きくすればよい。また、低圧回収最大パワーPblmaxを、DCDCコンバータ60を介して低圧バッテリ40に供給される電力の生成に要するモータジェネレータ10のパワーの上限値とする。具体的には例えば、低圧回収最大パワーPblmaxを、その上限値を上記低圧側入力上限値とすることを条件として、例えば低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量が小さいほど大きくすればよい。なお、熱回収最大パワーPhmax及び低圧回収最大パワーPblmaxは、例えば駆動軸20の回転速度ωrに基づくモータジェネレータ10の発電可能な電力に応じて制限される。
【0098】
その後、ステップS24において否定判断された場合や、ステップS30の処理が完了した場合には、ステップS32aにおいて、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgを算出する。本実施形態では、要求制動パワーPbkallから規定制動パワーPbkbsを減算した値と、高圧側入力上限値Pimaxとのうちの小さい方と、要求蓄熱パワーの指令値Phoutと、要求低圧パワーの指令値Pbloutとの加算値として、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgを算出する。すなわち、高圧側入力上限値Pimaxを上回る電力をモータジェネレータ10に発電させることとなる。
【0099】
続くステップS34aでは、要求制動パワーPbkallから主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgを減算した値として摩擦ブレーキ要求パワーPbkfを算出する。
【0100】
続くステップS36では、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmg、摩擦ブレーキ要求パワーPbkf、要求蓄熱パワーの指令値Phout及び要求低圧パワーの指令値Pbloutのそれぞれに基づき、モータジェネレータ10による主機回生制御処理、ブレーキアクチュエータ12aによる制動制御処理及びコンプレッサ30の駆動制御処理をそれぞれ行う。
【0101】
なお、ステップS36の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0102】
このように、本実施形態では、ブレーキ操作がなされる状況下において、高圧側入力上限値Pimaxを上回る電力をモータジェネレータ10に発電させ、この上回る分の電力によってコンプレッサ30を駆動させる処理等を行い、蓄熱器34に蓄熱したり、低圧バッテリ40に充電したりする。
【0103】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0104】
図7に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。なお、図7において、先の図1に示した部材と同一又は対応する部材については、便宜上同一の符号を示している。
【0105】
図示されるように、モータジェネレータ10と減速機構22との間には、コンプレッサ30に動力を伝達するための伝達機構62が設けられている。そして、伝達機構62とコンプレッサ30との間には、コンプレッサ30と伝達機構62との間の動力を伝達又は遮断すべく通電操作される電磁クラッチ30bが設けられている。詳しくは、本実施形態では、通電によってコンプレッサ30と伝達機構62との間の動力を伝達させ、通電の停止によってコンプレッサ30と伝達機構62との間の動力を遮断するものとする。なお、電磁クラッチ30bは、コンプレッサ30の駆動を停止させたい場合、コンプレッサ30を空転させる動力の損失を回避するためのものである。
【0106】
上記電気負荷42及び低圧バッテリ40には、DCDCコンバータ60を介して高圧バッテリ48やモータジェネレータ10から電力が供給される。
【0107】
次に、本実施形態にかかる補機回生制御処理について説明する。
【0108】
本実施形態では、ブレーキ操作がなされると判断される状況下において、電磁クラッチ30bに通電し、車両の運動エネルギをコンプレッサ30の駆動エネルギに変換して蓄熱器34に蓄熱する処理を行う。
【0109】
なお本実施形態では、主機回生制御処理によってモータジェネレータ10に高圧側入力上限値Pimaxを上回る電力を発電させ、上回る分の電力によってDCDCコンバータ60を介した低圧バッテリ40の充電処理をも行う。
【0110】
図8に、本実施形態にかかる補機回生制御処理及び主機回生制御処理の手順を示す。この処理は、ECU50によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図8において、先の図2に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0111】
この一連の処理では、ステップS14において、熱回収最大パワーPhmax及び低圧回収最大パワーPblmaxを算出する。本実施形態では、熱回収最大パワーPhmaxを、コンプレッサ30の駆動によって蓄熱器34に蓄熱する際に、コンプレッサ30の駆動に要するパワーの上限値とする。また、低圧回収最大パワーPblmaxを、上記第2の実施形態と同様に、DCDCコンバータ60を介して低圧バッテリ40に供給される電力の生成に要するモータジェネレータ10のパワーの上限値とする。
【0112】
その後、ステップS24において否定判断された場合や、ステップS30の処理が完了した場合、ステップS32bにおいて、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgを算出する。本実施形態では、要求制動パワーPbkallから規定制動パワーPbkbsを減算した値と、高圧側入力上限値Pimaxとのうちの小さい方と、要求低圧パワーの指令値Pbloutとの加算値として、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgを算出する。
【0113】
続くステップS34bでは、要求制動パワーPbkallから、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmg及び要求蓄熱パワーの指令値Phoutの加算値を減算した値として摩擦ブレーキ要求パワーPbkfを算出する。
【0114】
そしてステップS36では、モータジェネレータ10による主機回生制御処理及びブレーキアクチュエータ12aによる制動制御処理とともに、要求蓄熱パワーの指令値Phoutに基づきコンプレッサ30の駆動制御処理が行われる。具体的には、要求蓄熱パワーの指令値Phoutが大きいほど、コンプレッサトルクが大きくなるように上記駆動制御処理が行われる。
【0115】
なお、ステップS36の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0116】
このように、本実施形態では、ブレーキ操作がなされる状況下において、電磁クラッチ30bに通電してコンプレッサ30を駆動させることで、蓄熱器34に蓄熱する。
【0117】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0118】
・上記第1の実施形態において、図9に示すように、高圧バッテリ48及びインバータ44と電力の授受を行うDCDCコンバータ60を設けてもよい。この場合、主機回生制御処理によって発電するモータジェネレータ10や、高圧バッテリ48を電力供給源として、DCDCコンバータ60を介して低圧バッテリ40に充電することができる。このため、例えば低圧バッテリ40の容量が極めて小さい場合であっても、低圧バッテリ40のSOCが過度に低くなる事態を回避することができる。
【0119】
・第1の実施形態では、補機回生制御処理によって、コンプレッサ30やオルタネータ18にリングギアRのパワーPrを優先的に分配した後、残余のリングギアRのパワーPrに基づき主機回生制御処理によって高圧バッテリ48に充電するための主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgを算出したがこれに限らない。例えば、高圧バッテリ48に充電するための主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgにリングギアRのパワーPrを優先的に分配した後、残余のリングギアRのパワーPrに基づき補機回生制御処理によってコンプレッサ30やオルタネータ18に分配するパワーを算出してもよい。なおこの場合、主機回生ブレーキ要求パワーPbkmgを、要求制動パワーPbkallを上限値として制限すればよい。
【0120】
・上記各実施形態におけるエアコンシステム14には、熱交換器32とは別に、蓄熱器34が備えられたがこれに限らない。例えば、熱交換器32と蓄熱器34とを一体としたものが備えられてもよい。
【0121】
・要求制動トルクの算出手法としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、ユーザのブレーキペダルの踏み込み量(ブレーキ操作量)を検出するセンサを備え、このセンサの出力値から算出されるブレーキ操作量に基づき、要求制動トルクを算出してもよい。具体的には例えば、ブレーキ操作量が大きいほど、要求制動トルクを大きく算出すればよい。
【0122】
・蓄熱器34に蓄熱された熱の用途としては、上記各実施形態に例示したもの(空調制御)に限らない。例えば、車両の航続距離を長くすることを目的として、モータジェネレータ10の電力供給源となる高圧バッテリ48に充電するための発電機と、この発電機の動力供給源となるエンジンとを備えるシリーズ式ハイブリッド車両(いわゆるレンジエクステンダ車両)において、蓄熱器34に蓄熱された熱をエンジンの暖機に用いてもよい。
【0123】
・コンプレッサ30としては可変容量式のものに限らない。例えば、駆動中は吐出容量が一定の固定容量式のものであってもよい。この場合、例えば上記第1,2の実施形態において、コンプレッサ30の回転速度を調節することで、冷凍サイクルの冷媒循環量を調節することができる。
【0124】
・上記第1の実施形態では、コンプレッサ30(オルタネータ18)の駆動制御について、実際のキャリア角速度ωc(サンギア角速度ωs)をその目標値にフィードフォワード制御するロジックとしたがこれに限らない。例えば、実際のキャリア角速度ωc(サンギア角速度ωs)をその目標値にフィードバック制御するロジックを加えたり、フィードバック制御のみのロジックとしたりしてもよい。
【0125】
・蓄熱器34や低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量が不足しているか否かの判断手法としては、上記第1の実施形態に例示したものに限らない。例えば、実蓄熱量が予め定められた規定量以下になると判断された場合に蓄熱器34のエネルギ蓄積量が不足していると判断したり、低圧実SOCが予め定められた規定SOC以下になると判断された場合に低圧バッテリ40のエネルギ蓄積量が不足していると判断したりしてもよい。
【0126】
・補機回生制御処理手法としては、上記第1の実施形態に例示したものに限らない。例えば、モータジェネレータ10について、単位入力エネルギあたりの発電電力が高い動作点(トルク及び回転速度にて規定される動作点)となるようにオルタネータトルクを調節する処理を行ってもよい。
【0127】
・上記第1の実施形態において、オルタネータ18に代えて、発電機能とともに駆動力発生機能を有する車載補機としての回転機(補機回転機)を備えてもよい。この場合、補機回転機を補助的な車両の駆動力源として用いてもよい。ここで補助的に用いられる補機回転機の慣性モーメントが、車載主機であるモータジェネレータ10の慣性モーメントよりも小さいならば、補機回転機のトルク制御の応答性は、モータジェネレータ10のトルク応答性よりも高くなると考えられる。こうした点に鑑み、トルク制御の応答性が相違する動力供給源(モータジェネレータ10、補機回転機)を用いることで、ユーザの意図する車両走行を実現しやすくなることなどが期待できる。
【0128】
・第1バッテリ(高圧バッテリ48)及び第2バッテリ(低圧バッテリ40)としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、第1バッテリの電圧が、第2バッテリの電圧よりも低かったり、第2バッテリの電圧と同じであったりするような第1バッテリ及び第2バッテリを採用してもよい。
【0129】
・自身の駆動トルクを調節可能な車載補機としては、発電機に限らず、例えば電動機であってもよい。
【符号の説明】
【0130】
10…モータジェネレータ、12…ブレーキ装置、16…動力伝達機構、18…オルタネータ、20…駆動軸、30…コンプレッサ、34…蓄熱器、40…低圧バッテリ、48…高圧バッテリ、50…ECU(電動車両の制御装置の一実施形態)、60…DCDCコンバータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリをエネルギ供給源として駆動される車載主機としての回転機を備える電動車両に適用され、ユーザによってブレーキ操作がなされる状況下において、前記車両の運動エネルギを前記回転機の発電エネルギに変換することで前記バッテリを充電する処理を行う回生制御手段を備える電動車両の制御装置において、
前記車両には、前記バッテリをエネルギ供給源として駆動される空調用の圧縮機と、該圧縮機の駆動によって生成された熱を蓄える蓄熱器と、前記車両の運動エネルギを前記圧縮機の駆動エネルギに変換する運動エネルギ変換手段とが備えられ、
前記回生制御手段は、ユーザによってブレーキ操作がなされる状況下において、前記運動エネルギ変換手段によって前記車両の運動エネルギを前記圧縮機の駆動エネルギに変換することで、前記蓄熱器に蓄熱する処理を行うことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両には、自身の駆動トルクを調節可能な前記圧縮機以外の車載補機が備えられ、
前記運動エネルギ変換手段は、前記車両の駆動輪に接続された駆動軸、前記圧縮機及び前記車載補機の間の動力伝達を可能とする動力伝達機構であって、前記駆動軸、前記圧縮機及び前記車載補機のそれぞれに機械的に連結される第1の回転体、第2の回転体及び第3の回転体の回転速度を共線図上において1直線上に並ばせる動力伝達機構を備えるものであり、
前記回生制御手段は、前記車載補機及び前記圧縮機のそれぞれの駆動トルクを調節することで、前記蓄熱器に蓄熱する処理を行うことを特徴とする請求項1記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記車載補機は、発電機であり、
前記バッテリは、前記回生制御手段によって前記車両の運動エネルギが前記回転機の発電エネルギに変換されることで充電される第1バッテリと、前記発電機の発電によって充電される第2バッテリとを備えて構成されるものであり、
前記回生制御手段は、前記発電機及び前記圧縮機のそれぞれの駆動トルクを調節することで、前記蓄熱器に蓄熱しつつ前記第2バッテリを充電する処理を行うことを特徴とする請求項2記載の電動車両の制御装置。
【請求項4】
前記回生制御手段は、前記蓄熱器及び前記第2バッテリのうちエネルギ蓄積量が少ない方に、前記動力伝達機構を介して前記車両の運動エネルギを優先して分配すべく、前記圧縮機及び前記発電機のそれぞれの回転速度を調節することを特徴とする請求項3記載の電動車両の制御装置。
【請求項5】
前記回生制御手段によって前記回転機に発電させることで前記バッテリを充電する処理が行われる期間以外の期間において、前記蓄熱器及び前記第2バッテリのうち少なくとも一方のエネルギ蓄積量が不足しているか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段によって前記不足していると判断された場合、前記エネルギ蓄積量の不足を補償すべく前記圧縮機及び前記発電機のうち少なくとも1つを強制的に駆動させる強制駆動手段を更に備えることを特徴とする請求項3又は4記載の電動車両の制御装置。
【請求項6】
前記車両には、車輪に制動力を付与すべくユーザによって操作されるブレーキ操作部材と、該ブレーキ操作部材及び電動式のアクチュエータのうち少なくとも1つの操作によって前記車輪に制動力を付与するブレーキ装置とが備えられ、
前記ブレーキ操作部材の操作状態に基づき、前記車輪に付与する制動トルクを算出する制動トルク算出手段と、
前記回生制御手段による前記圧縮機及び前記車載補機の駆動によって前記駆動輪に付与される制動トルクが、前記制動トルク算出手段によって算出される制動トルクに対して不足する場合、該不足する制動トルクを前記アクチュエータの操作によって補償するブレーキ制御手段とを更に備えることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の電動車両の制御装置。
【請求項7】
前記運動エネルギ変換手段は、前記回転機と、該回転機の発電電力を所定に変換する電力変換装置とを備えるものであり、
前記圧縮機は、前記電力変換装置を介して供給される電力によって駆動されるものであり、
前記回生制御手段は、前記蓄熱器に蓄熱する処理として、前記バッテリに受入れ可能な電力を上回る電力を前記回転機に発電させ、該上回る分の電力を前記電力変換装置を介して前記圧縮機に供給することで、該圧縮機を駆動させる処理を行うことを特徴とする請求項1記載の電動車両の制御装置。
【請求項8】
前記バッテリは、前記回転機と電力の授受を行って且つ前記電力変換装置に電力を供給する第1バッテリと、前記電力変換装置から供給される電力によって充電されて且つ車載補機の電力供給源となる第2バッテリとを備えて構成されるものであり、
前記回生制御手段は、前記第1バッテリに受入れ可能な電力を上回る電力を前記回転機に発電させ、該上回る分の電力のうち、一部を前記電力変換装置を介して前記圧縮機に供給することで該圧縮機を駆動させて且つ、残余を前記第2バッテリに供給することで該第2バッテリを充電する処理を行うことを特徴とする請求項7記載の電動車両の制御装置。
【請求項9】
前記回生制御手段によって前記回転機に発電させることで前記バッテリを充電する処理が行われる期間以外の期間において、前記蓄熱器及び前記第2バッテリのうち少なくとも一方のエネルギ蓄積量が不足しているか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段によって前記不足していると判断された場合、前記エネルギ蓄積量の不足を補償すべく、前記第1バッテリから前記電力変換装置を介した電力の供給によって、前記第2バッテリを充電する処理及び前記圧縮機を駆動させる処理のうち少なくとも一方を強制的に行う手段を更に備えることを特徴とする請求項8記載の電動車両の制御装置。
【請求項10】
前記蓄熱器に蓄えられた熱を用いて空調制御を行う空調制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電動車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−147636(P2012−147636A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6085(P2011−6085)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】