説明

電気自動車用ダイナモメータ

【課題】実路走行時のモータの回生制動も含めてモータの単体試験を可能にする。
【解決手段】電気自動車用モータ1とダイナモメータ3を直結し、モータ用コントローラ21からモータのトルク指令を発生して電気自動車用インバータ4でモータを駆動し、ダイナモ用コントローラ25からダイナモメータのトルク指令を発生してダイナモ用インバータ8でダイナモメータを駆動する電気自動車用ダイナモメータにおいて、モータを減速制御するときに、モータブレーキ量算出部26にはモータに設定された回生運転のリミッタ値のトルク範囲に制限して電気自動車用インバータを回生制御し、モータで回生しきれないトルク分をダイナモブレーキ量算出部29と制御部30によってダイナモ用インバータのトルク指令に加算することでダイナモメータによる減速および停止制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台上ベンチにおいて、電気自動車用モータとダイナモメータを直結し、モータ単体での各種性能試験をする電気自動車用ダイナモメータに係り、特に路上運転の回生状態を模擬した制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用モータの単体試験にはその動力性能の評価試験のみでなく、エネルギー消費率や1回の充電で走行できる距離などの評価試験、モータにはラジエータがないために生じる温度上昇の評価試験なども要求される。
【0003】
現在、電気自動車用モータの単体試験設備は、ガソリンエンジンを単体試験する設備と同様の構成にされている。この構成は、図2に示すように、電気自動車用モータ(交流電動機)1は、従来のガソリンエンジンに代えてベンチ上に設置され、これに結合軸2を介してダイナモメータ(交流電動機)3が直結される。モータ1は直流電源4Aをもつインバータ4で駆動され、このインバータ4はモータ用コントローラ5による周波数および電圧制御によってモータ1を速度制御(電気自動車の車速制御)する。この速度制御は、試験用コンピュータ6からの車速指令と、速度検出器7の検出速度とによるフィードバック制御により行われる。
【0004】
ダイナモメータ3は直流電源8Aをもつインバータ8で駆動され、このインバータ8はダイナモ用コントローラ9による電流制御によってダイナモメータ3をトルク制御する。このトルク制御は、試験用コンピュータ10からのトルク指令と、ロードセル11の検出トルクとによるフィードバック制御により行われる。
【0005】
なお、同図におけるダイナモメータ3のトルク制御は、電気自動車の慣性分をフライホイールで設定するのに代えて、電気自動車の慣性分がモータに加えられるトルク分も含めた電気慣性制御とする場合を示す。
【0006】
コンピュータ6は、試験目的に応じた車速指令を発生し、コンピュータ10は試験目的に応じたトルク指令を発生する。車速指令は、図3に例を示すように、試験目的に応じて決められる加減速と一定速の各モードと時間が設定される車速制御パターンである。トルク指令は、電気自動車の走行速度等により求められる走行抵抗に、電気自動車の慣性抵抗(電気慣性制御分)を加えたものになる。
【0007】
ここで、電気自動車用モータの単体試験では、制動時(減速時)の制御方法が実路走行時のそれと大きく異なってしまう。すなわち、実路走行時の制動は、アクセルペダルを全閉し、ブレーキペダルを踏み込んだときにその踏み込み量に応じてモータの回生トルクを制御し、モータ自体に制動力を発生させると共にその発電電力で車載バッテリを充電し、モータによる制動力の不足分を車両の機械ブレーキ(例えば、ディスクブレーキ)で補い、最終的な停止には車両ブレーキで行う。この制動方法に対し、台上ベンチ試験における減速は、アクセル全閉に対応する制御状態として電気自動車用モータの制御をフリー制御(ガソリンエンジンのエンジンブレーキ状態)にし、ダイナモメータに付属の機械ブレーキ(例えば、ディスクブレーキ)、またはダイナモメータの電気ブレーキにより減速させる(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3231258号
【特許文献2】特許第2818855号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように、電気自動車は、実路走行での制動(減速)には、減速指令によりモータをその定格まで回生制御し、モータで回生しきれない分を車両に付属するディスクブレーキ等で停止させている。このようなモータ制御には、自動車全体を統括するECUと、モータ用インバータのみを制御するCPUなど、各制御部を専用のCPUでコントロールしている。
【0009】
このような実車の制御系構成を電気自動車用ダイナモメータにおいても設備構成すれば、統括ECUによりブレーキ信号を取り入れ、必要な分の回生信号をインバータ用のCPUへ指令を送り、ブレーキ信号としての出力をダイナモメータの回生量として制御することができるが、エンジン単体試験用ダイナモメータにおいては統括ECUが用意されない場合が多い。この場合、モータには速度指令と検出速度の速度偏差に応じた加減速と一定速駆動のための速度制御のみを行うことになり、実路走行でのモータの回生制御と制動を模擬できない問題があった。
【0010】
本発明の目的は、実路走行時のモータの回生制動も含めてモータの単体試験ができる電気自動車用ダイナモメータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記の課題を解決するため、電気自動車の減速運転を模擬するために電気自動車用モータを減速制御するときに、電気自動車用モータをそれに設定された回生運転のリミッタ値のトルク範囲で電気自動車用インバータを回生制御し、電気自動車用モータで回生しきれないトルク分をダイナモ用インバータのトルク制御で減速および停止制御することで、電気自動車用モータの実路での減速時の回生運転をテストベンチ上で再現可能にしたもので、以下の構成を特徴とする。
【0012】
(1)電気自動車用モータとダイナモメータを直結し、モータ用コントローラから前記モータのトルク指令を発生し、このトルク指令に応じて電気自動車用インバータで前記モータを駆動し、ダイナモ用コントローラから前記ダイナモメータのトルク指令を発生し、このトルク指令に応じてダイナモ用インバータで前記ダイナモメータを駆動し、前記モータの単体試験を行う電気自動車用ダイナモメータにおいて、
前記モータを減速制御するときに、該モータに設定された回生運転のリミッタ値のトルク範囲で前記電気自動車用インバータを回生制御し、該モータで回生しきれないトルク分を前記ダイナモ用インバータのトルク制御で減速および停止制御する制御手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
(2)前記モータ用コントローラは、車速運転モードプログラマからの車速指令と、速度検出器からの検出車速との偏差を車速制御部でリミッタ機能を有してPI(比例積分)演算し、さらにアンプによって増幅したトルク指令を電気自動車用インバータへ与え、このインバータにより電気自動車用モータ1を速度制御する構成とし、
前記ダイナモ用コントローラは、路上の走行抵抗を模擬するため走行抵抗設定部の出力と、電気慣性分を発生する電気慣性指令部の出力を加えてダイナモトルク指令とし、この指令とロードセルからの検出トルクとの偏差を走行抵抗制御部でPI演算し、ダイナモ用インバータへ電流指令として与え、このインバータによりダイナモメータをトルク制御する構成とし、
前記アンプと同じ増幅度を有して車速制御部の出力を入力としてモータトルク指令を出力し、このリミッタ値がモータの回生制御量(ブレーキ量)に相当する回生トルク範囲に設定されるモータブレーキ量算出部と、
前記車速運転モードプログラマが制動モードになった時に発生するブレーキオン指令で、それまでの前記アンプの出力から前記モータブレーキ量算出部の出力に切り替えてインバータへのモータトルク指令とする切り替えスイッチと、
前記モータブレーキ量算出部の入力と、設定器のブレーキ量設定値との偏差を増幅し、ダイナモブレーキ制御部によってPI演算したダイナモ用電気ブレーキ指令を、前記モータブレーキ量算出部のリミット値を超えたブレーキ量として求めるダイナモブレーキ量算出部と、
前記切り替えスイッチと同期して、前記車速運転モードプログラマが発生するブレーキオン指令で切り替えられ、前記ダイナモ用電気ブレーキ指令を前記制御部の出力に加算してインバータの電流指令とする切り替えスイッチとを備えたことを特徴とする。
【0014】
(3)前記電気自動車用インバータの直流電源を電気自動車に搭載されるバッテリとし、前記モータの単体試験に並行して前記バッテリの性能評価試験を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
電気自動車用モータの単独試験において、電気自動車用モータとダイナモメータを直結することで電気自動車用モータの定格トルクや回転運転時の温度特性など定常的な試験は従来でも可能であったが、実路での運転模擬は、減速時に電気自動車用モータが回生運転に転じるため模擬できなかった。
【0016】
本発明によれば、電気自動車用モータを減速制御するときに、電気自動車用モータをそれに設定された回生運転のリミッタ値のトルク範囲で電気自動車用インバータを回生制御し、電気自動車用モータで回生しきれないトルク分をダイナモ用インバータのトルク制御で減速および停止制御するようにしたため、実路走行に準じた試験が台上ベンチで可能となる。
【0017】
また、電気自動車用インバータの電源に実車のバッテリを使用し、試験にバッテリの充放電を行わせることで、モータの回生電力はバッテリの充電になるため、バッテリの充放電機能の評価も台上ベンチで可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態を示す電気自動車用ダイナモメータの制御ブロック図であり、図2と同等の部分には同一符号を付して示す。
【0019】
図2のモータ用コントローラ5に相当するブロックは、コンピュータ6にソフトウェア構成で搭載される車速運転モードプログラマ20からの車速指令と、速度検出器7からの検出車速との偏差を車速制御部21でリミッタ機能を有してPI(比例積分)演算し、さらにアンプ22によって増幅したトルク指令を電気自動車用インバータ4へ与え、このインバータ4により電気自動車用モータ1を速度制御する。
【0020】
図2のダイナモ用コントローラ9に相当するブロックは、コンピュータ10にソフトウェア構成で搭載される路上の走行抵抗を模擬するため走行抵抗設定部23の出力と、電気慣性分を発生する電気慣性指令部24の出力を加えてダイナモトルク指令とし、この指令とロードセル11からの検出トルクとの偏差を走行抵抗制御部25でPI演算し、ダイナモ用インバータ8へ電流指令として与え、このインバータ8によりダイナモメータ3をトルク制御する。
【0021】
以上までの構成は従来の電気自動車用ダイナモメータがもつ機能ブロックである。本実施形態では、以上の構成に加えて、モータの回生制御用の制御ブロック26〜31を設ける。
【0022】
モータブレーキ量算出部26は、アンプ22と同じ増幅度を有して車速制御部21の出力を入力とし、モータトルク指令を出力するが、そのリミッタ値がモータの回生制御量(ブレーキ量)に相当する回生トルク範囲に設定される。このリミッタ値設定は、モータ回生ブレーキ量設定器27で設定され、例えば、上限はモータの出力トルク定格が10Vの場合、それに相当する10Vとし、下限は0Vとする。
【0023】
切り替えスイッチ28は、車速運転モードプログラマ20が制動モードになった時に発生するブレーキオン指令で、それまでのアンプ22の出力からモータブレーキ量算出部26の出力に切り替えてインバータ4へのモータトルク指令とする。
【0024】
ダイナモブレーキ量算出部29は、モータブレーキ量算出部26の入力と、設定器27のブレーキ量設定値との偏差を増幅し、モータブレーキ量算出部26のリミット値を超えたブレーキ量として求める。このブレーキ量はダイナモブレーキ制御部30によってPI演算し、モータの回生による制動力の不足分をダイナモメータによる電気ブレーキ指令値として求める。
【0025】
切り替えスイッチ31は、スイッチ28と同期して、車速運転モードプログラマ20が発生するブレーキオン指令で切り替えられ、制御部30からのダイナモ用電気ブレーキ指令を制御部25の出力に加算してインバータ8の電流指令とする。
【0026】
したがって、算出部29では算出部26のリミッタ値以上の出力が発生した場合にダイナモブレーキ量を求め、制御部30では算出部26の回生制動出力では不足する回生量までPI制御にて増幅し、ダイナモ用電気ブレーキ指令となる。
【0027】
なお、車速制御部21のリミッタ値を11Vにしたのは、モータの回生ブレーキ量を100%設定(10V)にした場合、モータのトルク指令が10V出力され、これ以上の回生状態が発生した場合のみダイナモ用電気ブレーキ指令を出力させるためである。
【0028】
以上の構成および動作になる本実施形態によれば、モータの減速時にモータ回生ブレーキ設定までの回生はモータで回生制動し、モータの回生ブレーキ設定以上の減速指令が与えられた場合は、ダイナモメータで減速量をアシストすることが可能となる。よって、電気自動車用モータのみ単体で実路走行を模擬した運転を台上ベンチで実現できる。
【0029】
また、電気自動車用インバータ4の直流電源4Aに実車のバッテリを使用し、試験にバッテリ32の充放電を行わせれば、モータの回生電力はバッテリの充電になるため、バッテリの充放電機能の評価も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態を示す電気自動車用ダイナモメータの制御ブロック図。
【図2】電気自動車用モータの単体試験設備の構成例。
【図3】車速制御パターンの例。
【符号の説明】
【0031】
1 電気自動車用モータ
3 ダイナモメータ
4 電気自動車用インバータ
5 モータ用コントローラ
8 ダイナモ用インバータ
9 ダイナモ用コントローラ
20 車速運転モードプログラマ
21 車速制御部
22 アンプ
23 走行抵抗設定部
24 電気慣性指令部
25 走行抵抗制御部
26 モータブレーキ量算出部
27 モータ回生ブレーキ量設定器
28、31 切り替えスイッチ
29 ダイナモブレーキ量算出部
30 ダイナモブレーキ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車用モータとダイナモメータを直結し、モータ用コントローラから前記モータのトルク指令を発生し、このトルク指令に応じて電気自動車用インバータで前記モータを駆動し、ダイナモ用コントローラから前記ダイナモメータのトルク指令を発生し、このトルク指令に応じてダイナモ用インバータで前記ダイナモメータを駆動し、前記モータの単体試験を行う電気自動車用ダイナモメータにおいて、
前記モータを減速制御するときに、該モータに設定された回生運転のリミッタ値のトルク範囲で前記電気自動車用インバータを回生制御し、該モータで回生しきれないトルク分を前記ダイナモ用インバータのトルク制御で減速および停止制御する制御手段を備えたことを特徴とする電気自動車用ダイナモメータ。
【請求項2】
前記モータ用コントローラは、車速運転モードプログラマからの車速指令と、速度検出器からの検出車速との偏差を車速制御部でリミッタ機能を有してPI(比例積分)演算し、さらにアンプによって増幅したトルク指令を電気自動車用インバータへ与え、このインバータにより電気自動車用モータ1を速度制御する構成とし、
前記ダイナモ用コントローラは、路上の走行抵抗を模擬するため走行抵抗設定部の出力と、電気慣性分を発生する電気慣性指令部の出力を加えてダイナモトルク指令とし、この指令とロードセルからの検出トルクとの偏差を走行抵抗制御部でPI演算し、ダイナモ用インバータへ電流指令として与え、このインバータによりダイナモメータをトルク制御する構成とし、
前記アンプと同じ増幅度を有して車速制御部の出力を入力としてモータトルク指令を出力し、このリミッタ値がモータの回生制御量(ブレーキ量)に相当する回生トルク範囲に設定されるモータブレーキ量算出部と、
前記車速運転モードプログラマが制動モードになった時に発生するブレーキオン指令で、それまでの前記アンプの出力から前記モータブレーキ量算出部の出力に切り替えてインバータへのモータトルク指令とする切り替えスイッチと、
前記モータブレーキ量算出部の入力と、設定器のブレーキ量設定値との偏差を増幅し、ダイナモブレーキ制御部によってPI演算したダイナモ用電気ブレーキ指令を、前記モータブレーキ量算出部のリミット値を超えたブレーキ量として求めるダイナモブレーキ量算出部と、
前記切り替えスイッチと同期して、前記車速運転モードプログラマが発生するブレーキオン指令で切り替えられ、前記ダイナモ用電気ブレーキ指令を前記制御部の出力に加算してインバータの電流指令とする切り替えスイッチとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用ダイナモメータ。
【請求項3】
前記電気自動車用インバータの直流電源を電気自動車に搭載されるバッテリとし、前記モータの単体試験に並行して前記バッテリの性能評価試験を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の電気自動車用ダイナモメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−139527(P2007−139527A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332279(P2005−332279)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】