説明

電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板およびそれを用いた電子素子の製造方法

【課題】本発明は、安定的に電子素子部を形成可能な電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、可撓性を有する金属基材と、上記金属基材の少なくとも一方の表面上に形成された絶縁層と、上記金属基材の他方の表面上に形成され、電磁波剥離性を有する電磁波剥離性粘着樹脂を含む電磁波剥離性粘着層と、を有することを特徴とする電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を提供することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定的に電子素子部を形成可能な電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、エレクトロルミネッセンスをELと称する場合がある。)や薄膜トランジスタ(以下、薄膜トランジスタをTFTと称する場合がある。)などの電子素子部は、水分に対する耐性が弱く、水分により素子特性が低下する。
水分による素子特性の低下を抑制する手法としては、封止部材や封止構造によって素子を封止するなど、外部から素子への水分の浸入を防止する手法が主流である。この際、ガスバリア性を有する基材が用いられる。
【0003】
ガスバリア性を有する基材としては、ガラス基材、ガスバリア性が付与されたプラスチックフィルム、金属基材などが用いられる。
ガラス基材は、平滑性や耐熱性に優れるが、フレキシブル性に欠け、薄型・軽量化に不向きであり、耐衝撃性に劣るという難点がある。
プラスチックフィルムは一般的にガラスや金属に比べてガスバリア性が劣るため、水分の浸入を阻止するためには、ガスバリア性を付与する必要がある。ガスバリア性が付与されたプラスチックフィルムは、フレキシブル性を有し、軽量であり、耐衝撃性も有するという利点をもつが、耐熱性が十分ではなく、線熱膨張係数が大きいために寸法安定性に劣り、また吸湿性が大きいという難点がある。
一方、金属基材は、金属の種類や厚みに関しては多種多様なものが入手でき適宜選択可能であり、耐熱性、軽量性、フレキシブル性を満たすことができる。しかしながら、金属基材は、表面平坦性がガラス基材に比べて劣る傾向にあり、導電性を有するので、金属基材上に有機EL素子やTFT等の電子素子部を作製するためには絶縁層を設ける必要がある。例えば特許文献1には、表面に絶縁層が形成された金属基材が提案されている。
【0004】
ところで、このような基材上に形成される電子素子部は、有機エレクトロルミネッセンス素子や薄膜トランジスタを構成する複数の部材をパターン状に形成することにより作製される。
しかしながら、このような部材を形成する際に、フレキシブル性を有する基材を用いた場合、上記電子素子部の形成時に上記基材が変形することにより、上記電子素子部を安定的に形成できない場合があるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−324368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、安定的に電子素子部を形成可能な電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、可撓性を有する金属基材と、上記金属基材の少なくとも一方の表面上に形成された絶縁層と、上記金属基材の他方の表面上に形成され、電磁波剥離性を有する電磁波剥離性粘着樹脂を含む電磁波剥離性粘着層と、を有することを特徴とする電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を提供する。
【0008】
本発明によれば、上記電磁波剥離性粘着層(以下、単に粘着層とする場合がある。)が粘着性および電磁波剥離性を有するため、例えば、上記粘着層を支持基板に貼り合わせることにより、上記金属基材が可撓性を有する場合であっても、上記絶縁層上に有機ELやTFTなどの電子素子部を安定的に形成することができる。
また、上記粘着層に、電磁波剥離粘着層を用いることにより、剥離時において電磁波照射により粘着力を低下させることが可能であることから、通常の粘着剤に比べて、剥離時にフレキシブルデバイス部にかかる応力を小さくすることが可能であり、素子に対するダメージを小さくするとともに、ハンドリング性に優れたものとすることができる。
さらに、熱剥離性粘着層を用いる場合、剥離温度より高温のプロセスを適用することが困難であるとともに、剥離時に加熱する必要があるのに対して、適用プロセスの幅を広げるとともに素子に対するダメージを小さくすることができる。
【0009】
本発明においては、上記電磁波剥離性粘着樹脂が、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤およびポリイミド系粘着剤のいずれかと、電磁波重合性モノマーまたは電磁波重合性オリゴマーと、電磁波重合開始剤と、を含むことが好ましい。上記金属基材および支持基板への粘着性および露光後の被着体(金属基材および支持基板)からの剥離性に優れるため、よりハンドリング性に優れたものとすることができるからである。
【0010】
本発明においては、上記電磁波剥離性粘着樹脂の1%重量減少温度が200℃以上であることが好ましい。上記絶縁層上に有機ELやTFTなどの電子素子部の形成時に加熱された場合であっても、上記金属基材および支持基板への粘着性および露光後の被着体からの剥離性の低下を抑制することができるからである。
【0011】
本発明においては、上記絶縁層が、ポリイミド樹脂を含むものであることが好ましい。耐熱性および絶縁性に優れたものとすることができるからである。
【0012】
本発明においては、上記ポリイミド樹脂が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するものであることが好ましい。耐熱性および絶縁性により優れたものとすることができるからである。
【0013】
【化1】

【0014】
(式(1)中、R1は4価の有機基、R2は2価の有機基であり、繰り返されるR1同士およびR2同士はそれぞれ同じであってもよく異なっていてもよい。nは1以上の自然数である。)
【0015】
本発明においては、上記電磁波剥離性粘着層の表面上に剥離フィルムが形成されていることが好ましい。ハンドリング性に優れたものとすることができるからである。
【0016】
本発明においては、上記電磁波剥離性粘着層に支持基板が貼り合わされていることが好ましい。上記金属基材が可撓性を有する場合であっても、上記絶縁層上に有機ELやTFTなどの電子素子部を安定的に形成することができるからである。
【0017】
本発明は、可撓性を有する金属基材と、上記金属基材上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された電子素子部とを有する電子素子の製造方法であって、上記電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を準備する準備工程と、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の絶縁層上に電子素子部を形成する電子素子部形成工程と、上記電子素子部を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の上記電磁波剥離性粘着層に電磁波を照射する電磁波照射工程と、電磁波照射工程後の上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板から上記支持基板を剥離する剥離工程と、を有することを特徴とする電子素子の製造方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、上記電子素子部を形成する基板として上述の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を用いることにより、上記電子素子部形成工程を、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板が安定な状態で行うことができる。このため、上記電子素子部を安定的に形成することができる。
また、電磁波照射工程を行うことにより容易に電子素子を取り出すことができるため、ハンドリング性に優れたものとすることができる。
【0019】
本発明においては、上記準備工程が、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の電磁波剥離性粘着層上に、支持基板を貼り合わせるものであること、または、上記金属基材および上記金属基材上に形成された絶縁層を有する絶縁積層体と、上記支持基板および上記支持基板上に形成された電磁波剥離性粘着層を有する電磁波剥離性支持基板と、を準備し、上記絶縁積層体に含まれる金属基材と、上記電磁波剥離性支持基板に含まれる電磁波剥離性粘着層とを貼り合わせるものであることが好ましい。上記電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を安定的に形成することができるからである。
【0020】
本発明においては、上記電子素子部が、上記絶縁層上に形成された背面電極層と、上記背面電極層上に形成され、少なくとも有機発光層を含むEL層と、上記EL層上に形成された透明電極層とを有する有機EL素子であることが好ましい。
上記電磁波剥離性粘着層は、電磁波照射工程を行うことにより容易に剥離工程を行うことができるため、例えば、加熱により硬化する熱剥離性樹脂を含む熱剥離性粘着層を用いた場合と比較し、上記電子素子部が高温に曝さらされ、熱劣化する等の不具合のないものとすることができることから、上記EL素子が高温に曝されないものとすることができる。その結果、熱によってEL層が劣化し、輝度ムラが生じたり素子寿命が短くなったりすることを抑制することが可能だからである。
また、有機EL素子の発光時の熱を金属基材を通して放出することができることからも、上記EL素子が熱によっての劣化の少ないものとすることができるからである。
【0021】
本発明においては、上記電子素子部が、上記絶縁層上に形成された薄膜トランジスタとすることが好ましい。
上記電磁波剥離性粘着層は、電磁波照射工程を行うことにより容易に剥離工程を行うことができるため、例えば、加熱により硬化する熱剥離性樹脂を含む熱剥離性粘着層を用いた場合と比較し、上記電子素子部が高温に曝さらされ、熱劣化する等の不具合のないものとすることができることから、TFTが熱劣化し、トランジスタ特性が低下するのを抑制することが可能だからである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、安定的に電子素子部を形成可能な電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を提供できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の電子素子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図7】本発明に用いられる電子素子部の一例を示す概略断面図である。
【図8】本発明に用いられる電子素子部の他の例を示す概略断面図である。
【図9】本発明に用いられる電子素子部の他の例を示す概略断面図である。
【図10】本発明に用いられる電子素子部の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板およびこれを用いた電子素子の製造方法に関するものである。
以下、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板および電子素子の製造方法について詳細に説明する。
【0025】
A.電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板
本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板は、可撓性を有する金属基材と、上記金属基材の少なくとも一方の表面上に形成された絶縁層と、上記金属基材の他方の表面上に形成され、電磁波剥離性を有する電磁波剥離性粘着層と、を有することを特徴とするものである。
【0026】
このような本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板について図を参照して説明する。図1は、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板10は、金属基材1と、上記金属基材1の一方の表面上に形成された絶縁層2と、上記金属基材1の他方の表面上に形成され、電磁波剥離性を有する電磁波剥離性粘着層3と、を有するものである。
【0027】
本発明によれば、上記粘着層が粘着性および電磁波剥離性を有するため、例えば、上記粘着層を支持基板に貼り合わせることにより、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板に用いられる金属基材が可撓性を有する場合であっても、上記電子素子部を形成する際に、上記金属基材および絶縁層が変形することを防ぐことができる。
したがって、上記絶縁層上に有機ELやTFTなどの電子素子部を安定的に形成することができる。
また、電磁波照射のみで粘着性を喪失し、容易に剥離可能なものとなることから、上記粘着層を溶解する溶解液等の使用や、引き剥がすための大きな力を不要なものとし、剥離時にフレキシブルデバイス部にかかる応力を小さくすることが可能であり、素子に対するダメージを小さくするとともにハンドリング性に優れたものとすることができる。
さらに、熱剥離性粘着層を用いる場合、剥離温度より高温のプロセスを適用することが困難であるのに対して、適用プロセスの幅を広げることができるとともに、剥離時の加熱工程を不要とすることが可能であり、素子に対するダメージを小さくすることができる。
さらに、上記粘着層を溶解する溶解液等の使用を不要なものとできることから、上記電子素子部が溶解液により劣化する等の不具合を防ぐことができる。
また、金属基材は一般的に電磁波遮蔽性を有するため、例えば、絶縁層上に電子素子部を形成後に、金属基材の電磁波剥離性粘着層側から電磁波照射を行うことで、上記電子素子部への電磁波の影響を防ぐことができる。また、金属基材の電磁波剥離性粘着層が形成された面とは逆側の面について、フォトリソグラフィーによるパターニングなど、電磁波照射を伴うプロセスを適用することができる。
このようなことから、高品質な電子素子部を、安定的に、ハンドリング性良く形成することができる。
【0028】
本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板は、金属基材、絶縁層および電磁波剥離性粘着層を少なくとも有するものである。
以下、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の各構成について詳細に説明する。
【0029】
1.電磁波剥離性粘着層
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着層は、上記金属基材の他方の表面上に形成され、電磁波剥離性を有する電磁波剥離性粘着樹脂を含むものである。
ここで、電磁波剥離粘着性とは、電磁波照射前において粘着性を有し、電磁波照射後において硬化し容易に剥離可能なものとなる特性を示すものである。
【0030】
(1)電磁波剥離性粘着層
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着層の電磁波照射前における上記金属基材および支持基板に対する粘着性としては、上記金属基材および支持基板と安定的に貼り合わせて固定できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、上記金属基材および支持基板に対する粘着力が、0.5N/25mm以上であることが好ましく、なかでも1.0N/25mm以上であることがさらに好ましい。上記粘着力が上記範囲であることにより、上記支持基板と、金属基材とを安定的に固定することができるからである。
なお、上記粘着力は、JIS Z0237準拠した方法で、25mm幅のサンプルにつついて、180°引き剥がし粘着力を測定することにより求めることができる。
また、上記粘着力の上限については、高ければ高い程好ましいため、特に限定されるものではない。
【0031】
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着層の電磁波照射後の上記金属基材に対する粘着性としては、電磁波照射により上記金属基材より容易に剥離可能なものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、上記金属基材もしくは支持基板に対する粘着力が、0.4N/25mm以下であることが好ましく、なかでも0.2N/25mm以下であることが好ましい。また、特に、上記金属基材および支持基板に対する粘着力が、0.4N/25mm以下であることが好ましく、なかでも0.2N/25mm以下であることが好ましい。上記粘着力が上述の範囲内であることにより、上記被着体より容易に剥離することができ、ハンドリング性に優れたものとすることができるからである。また、上記被着体への上記電磁波剥離性粘着層の残存を抑制することができるからである。
【0032】
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着層の膜厚としては、上記金属基材および支持基板と安定的に貼り合わせて固定でき、電磁波照射により容易に剥離可能なものであれば特に限定されるものではなく、上記電磁波剥離性粘着層を構成する材料等に応じて異なるものであるが、例えば、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、なかでも5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。上記膜厚が上述範囲内であることにより、上記金属基材を上記支持基板に平滑に貼り合わせて固定することができるからである。
【0033】
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着層の形成箇所としては、上記金属基材を支持基板に安定的に貼り合わせて固定でき、電磁波照射により容易に剥離可能となる箇所であれば特に限定されるものではなく、例えば、上記金属基材の全表面または上記金属基材の表面の一部とすることができる。
本発明においては、なかでも、電磁波剥離性粘着層の形成箇所は、上記金属基材の表面の50%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。上記金属基材を上記支持基板に平滑に安定的に貼り合わせて固定することができるからである。
【0034】
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着層の形成方法としては、平滑性の良好な電磁波剥離性粘着層が得られる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、金属基材上に上記電磁波剥離樹脂および溶剤を含む上記電磁波剥離性粘着層形成用塗工液を塗布する方法、金属基材と上記電磁波剥離性粘着樹脂からなるフィルムとを加熱圧着する方法を用いることができる。
本発明においては、なかでも、上記電磁波剥離性粘着層形成用塗工液を塗布する方法が好ましい。平滑性に優れた電磁波剥離性粘着層が得られるからである。
なお、本発明においては、電磁波剥離性粘着層を金属基材上に形成する方法であっても良いが、電磁波剥離性粘着層を支持基板上に形成するものであっても良い。この場合、支持基板上に形成された電磁波剥離性粘着層上に、金属基材等を積層することにより電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板(支持基板付)を得ることができる。
【0035】
本発明においては、電磁波剥離性粘着層形成用塗工液に含まれる電磁波剥離性粘着樹脂の成分である粘着剤が架橋剤を含むものである場合には、通常、上記塗工液を塗布した後に、架橋処理が行われる。架橋処理には、例えば加熱のような一般的な条件を用いることができる。加熱を用いた架橋処理の温度・加熱時間については、用いる粘着剤の種類に応じて適宜設定されるものであり、一般的な条件を用いることができる。
また、電磁波剥離性粘着層形成用塗工液が溶剤を含むものである場合には、通常、上記塗工液を塗布した後に、溶剤を除去する乾燥処理が行われる。このような乾燥処理の方法等については、熱風を用いる方法等一般的な方法を用いることができる。また、このような乾燥処理は、上記架橋処理と同時に行われるものであっても良い。
【0036】
(2)電磁波剥離性粘着樹脂
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着樹脂としては、上記電磁波剥離性粘着層を電磁波剥離粘着性を有するものとすることができるのであれば特に限定されるものではない。
【0037】
このような電磁波剥離性粘着樹脂としては、例えば、特開2009−256452号公報に記載のものを用いることができる。
より具体的には、粘着剤、電磁波重合性モノマー又は電磁波重合性オリゴマー、電磁波重合開始剤を含むものを挙げることができる。上記樹脂を用いることにより、電磁波剥離粘着性に優れたものとすることができるからである。
【0038】
(a)粘着剤
本発明に用いられる粘着剤としては、電磁波剥離性粘着層として、金属基材と支持基板とに十分な強度で貼り合わせることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリイミド系粘着剤、シリコーン系粘着剤などを用いることができ、相溶性の観点から、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリイミド系粘着剤が好ましい。また、このような粘着剤を有すること、すなわち、上記電磁波剥離性粘着樹脂が、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤およびポリイミド系粘着剤のいずれかと、電磁波重合性モノマーまたは電磁波重合性オリゴマーと、電磁波重合開始剤と、を含むものであることにより、上記金属基材および支持基板への粘着性および露光後の被着体(金属基材および支持基板)からの剥離性に優れるため、よりハンドリング性に優れたものとすることができるからである。
また、耐熱性の観点から、ポリエステル系粘着剤、ポリイミド系粘着剤を用いることが好ましい。
なお、各粘着剤は、通常、粘着剤主剤および架橋剤を含むものである。
【0039】
(i)アクリル系粘着剤
本発明におけるアクリル系粘着剤としては、所望の粘着性を発揮するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、透明性、耐熱性、耐湿熱性、耐久性、塗工適性等に優れ、低コストであるアクリル系ポリマーを粘着剤主剤として含有するものを挙げることができる。
【0040】
本発明におけるアクリル系ポリマーとしては、所望の粘着性を発揮することができるものであれば特に限定されず、例えば、アクリル酸エステルと他の単量体とを共重合させたアクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0041】
アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸ヒドロキシルエチル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、アクリル酸グリシジル等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本発明では、上記アクリル酸エステルの中でも、特に、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが、透明性、耐熱性、耐湿熱性、耐久性、塗工適性等に優れ、また、低コストである点において好ましい。
【0042】
他の単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸ヒドロキシルエチル、メタクリル酸ヒドロキシルエチル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−tert−ブチルアミノエチル、メタクリル酸−n−エチルヘキシル等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本発明では、上記他の単量体の中でも、メタクリル酸−n−エチルヘキシルが好ましい。
【0043】
また、本発明におけるアクリル系ポリマーとしては、アクリル酸エステルを主成分とし、上記アクリル酸エステルと、共重合可能な水酸基含有モノマーとの共重合により得られるものまたはアクリル酸エステルを主成分とし、上記アクリル酸エステルと、共重合可能な水酸基含有モノマーおよびカルボキシル基含有モノマーとの共重合により得られるものも用いることができる。
【0044】
共重合可能な水酸基含有モノマーは、その構造中に、共重合可能な重合性基と、水酸基とを有していれば、特に限定されず、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0045】
共重合可能なカルボキシル基含有モノマーは、その構造中に、共重合可能な重合性基と、カルボキシル基とを有していれば、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0046】
本発明において、上記アクリル系ポリマーが上記アクリル酸エステルと、共重合可能な水酸基含有モノマーおよびカルボキシル基含有モノマーとの共重合により得られるものである場合には、水酸基含有モノマーと上記カルボキシル基含有モノマーとの質量比が51:49〜100:0の範囲内であることが好ましく、75:25〜100:0の範囲内であることがより好ましい。上記アクリル系ポリマー中の水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーとの質量比を上記範囲内とすることにより、被着体(金属基材および支持基板)に対しても、糊残りが生じない粘着剤組成物とすることができる。
【0047】
なお、アクリル酸エステルと、共重合可能な水酸基含有モノマーとの共重合比(質量比)は、アクリル酸エステルが主成分であれば、特に限定されず、所望の粘着強度を示すように、適宜、設定することができる。
【0048】
なお、主成分であるとは、共重合割合が51質量%以上であることを意味し、好ましくは65質量%以上であることを指すものである。
【0049】
アクリル系ポリマーがアクリル酸エステル共重合体の場合、該アクリル酸エステル共重合体の質量平均分子量(Mw)は、所望の粘着力を発揮するものであれば、特に限定されないが、10万〜110万の範囲内であることが好ましく、20万〜90万の範囲内であることがより好ましい。上記範囲であれば、十分な初期粘着力を発揮することができ、また、十分な強度の粘着層とすることができる。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際の、ポリスチレン換算の値である。
【0050】
本発明におけるアクリル系粘着剤に含まれる架橋剤としては、所望の粘着性が得られるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤等が挙げられる。
イソシアネート系架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物の3量体、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られるイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマー、該ウレタンプレポリマーの3量体等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,5−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4′−ジイソシアネート、リジンイソシアネート等が挙げられる。
なお、上記イソシアネート系架橋剤の市販品としては、例えば、L45(綜研化学株式会社製)、TD75(綜研化学株式会社製)、BXX5627(東洋インキ製造株式会社製)、X−301−422SK(サイデン化学株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0051】
また、エポキシ系架橋剤としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等の多官能エポキシ系化合物が挙げられる。
なお、上記エポキシ系架橋剤の市販品としては、例えば、E−5XM(綜研化学株式会社製)、E−5C(綜研化学株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0052】
上記架橋剤は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができ、上記アクリル系ポリマーの種類等に応じて、適宜選択するとよい。
【0053】
本発明におけるアクリル系粘着剤に含まれる架橋剤の含有量としては、架橋剤の種類によっても異なるが、例えば、イソシアネート系架橋剤の場合には、粘着剤主剤であるアクリル系ポリマーの固形分100質量部に対して、0.01質量部〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0.01質量部〜10質量部の範囲内であることがより好ましい。上記含有量が上記範囲であれば、粘着層と被着体(金属基材および支持基板)との密着性を向上させることができる。0.01質量部に満たないと、粘着層と被着体(金属基材および支持基板)との密着性が不十分なものとなったり、粘着層が十分な強度を有することが困難となり、被着体から剥離する際に粘着層が凝集破壊を起こし、糊残りが生じたりする場合がある。20質量部を超えると、必要以上に架橋して、粘着層の強度が低下するからである。
なお、固形分とは、水や溶剤などの揮発する物質を除いた固形部分をいい、固形分量は加熱により水や溶剤などの揮発成分を除去した後の、残存成分の質量を測定することにより求めることができる。
【0054】
また、エポキシ系架橋剤の場合には、粘着剤主剤であるアクリル系ポリマーの固形分100質量部に対して、0.01質量部〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0.01質量部〜10質量部の範囲内であることがより好ましい。上記範囲であれば、エネルギー線照射前における粘着力や凝集力を所望の強度に制御することができる。0.01質量部に満たないと、粘着層が十分な強度を有することが困難となり、被着体から剥離する際に粘着層が凝集破壊を起こし、糊残りが生じる場合がある。20質量部を超えると、エネルギー線照射前における粘着力が低下するため、素子形成プロセスの際に、支持基板から剥れる場合があるからである。
【0055】
(ii)ポリエステル系粘着剤
本発明に用いられるポリエステル系粘着剤としては、所望の粘着性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではなく、粘着剤主剤として、ポリエステル系樹脂を含有するものであり、具体的には、粘着剤主剤としてポリエステル系樹脂と、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤および/またはビスマレイミド系化合物とを含有するものを挙げることができる。
【0056】
ここで、ポリエステル系樹脂は、イソシアネート基に対して反応性の高い官能基を有することによって、架橋剤と反応することができ、ポリエステル系樹脂の相互間を架橋することができる。そして、ポリエステル系樹脂の相互間を架橋することによって、ポリエステル系粘着剤の硬度を向上させることができる。なお、ポリエステル系樹脂は、当該樹脂の末端(重合反応停止末端)に少なくとも1つは水酸基を有するので、イソシアネート基と反応することができる。
【0057】
上記ポリエステル系樹脂は、一般的に知られているエステル交換法、直接重合法等の種々の製造方法によって製造することができる。上記いずれの製造方法を使用した場合であっても、ポリエステル系樹脂は、その末端(重合反応停止末端)に水酸基を有する。上記ポリエステル系樹脂の製造方法としては、例えば、脂肪族又は芳香族カルボン酸を触媒の存在下で多価アルコールと反応させるエステル交換反応を例示することができる。
【0058】
上記製造方法において、使用することができる脂肪族カルボン酸としては、特に制限されるものではないが、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等を例示することができる。また、芳香族カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸を例示することができる。上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレングリコール等を例示することができる。
【0059】
また、上記ポリエステル系樹脂の製造方法としては、芳香族エステルと多価アルコールとを触媒の存在下において反応させる、エステル分解反応を例示することができる。上記製造方法において使用することができる芳香族エステルとしては、例えば、ジブチルフタレート、ジメチルテレフタレート、ジメチルフタレート等を例示することができ、多価アルコールとしては、上記と同様の多価アルコールを使用することができる。
【0060】
さらに、上記ポリエステル系樹脂の製造方法としては、多塩基酸、分岐ジオール及び水添ポリブタジエンポリオールを触媒の存在下で反応させる製造方法を例示することができる。上記製造方法において使用することができる多塩基酸は、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、ダイマー酸の水添物等を例示することができ、分岐ジオールとしては、2,2’−ブチルエチルプロパンジオール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等を例示することができる。
【0061】
上記ポリエステル系樹脂の分子量としては、所望の粘着性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、0.5万〜5.0万の範囲内であることが好ましい。ポリエステル系樹脂の分子量が0.5万以上であると、ポリエステル系樹脂の結晶性が向上し、粘着剤が200℃以上の高温においても耐熱性を有することができるため好ましく、5.0万以下であると、ポリエステル系樹脂製造上の観点より好ましい。
【0062】
また、上記ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−60〜25℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)が−60℃以上であると、ポリエステル系粘着剤を熱硬化させた場合であってもその凝集力を維持することができ、粘着剤としての粘着強度が低下しないため好ましく、25℃以下であると、ポリエステル系樹脂自体の粘着性が乏しくならないため好ましい。
【0063】
本発明におけるポリエステル系粘着剤に架橋剤として含まれるイソシアネート系架橋剤としては、ポリエステル系樹脂を架橋することができるものであれば、特に制限されるものではないが、上記ポリエステル系樹脂を高密度で架橋することができるものであることが好ましい。上記イソシアネート系架橋剤としては、1分子あたり2つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を含有していることが好ましい。イソシアネート化合物が2つ以上のイソシアネート基を有するものであれば、効果的にポリエステル系樹脂を架橋反応により重合させることができる。
【0064】
1分子あたり2つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、下記一般式で表されるイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0065】
【化2】

【0066】
(上記一般式中、R11は、炭素数1〜18の2価の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基、脂環基、その他の置換基を含んでいてもよい。)
【0067】
上記イソシアネート化合物としては、具体的に、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類等を例示することができる。
【0068】
また、イソシアヌレート体の付加物を使用することもできる。イソシアヌレート体の付加物としては、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業株式会社製)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(商品名「コロネートHL」、日本ポリウレタン工業株式会社製)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン工業株式会社製)等を例示することができる。なお、これらのイソシアネート化合物は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0069】
イソシアネート系架橋剤は、ポリエステル系粘着剤に架橋剤として含有されているものであるが、その含有量としては、所望の粘着性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル系樹脂の固形分100質量部に対して、1質量部〜40質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5質量部〜30質量部の範囲内で含有される。1質量部以上であるとポリエステル系樹脂の架橋度を大きくすることができ、粘着剤の耐熱性が優れたものになるため好ましく、40質量部以下であると粘着剤を粘着性に優れたものとすることができるため好ましい。
【0070】
本発明におけるポリエステル系粘着剤に架橋剤として含まれるビスマレイミド系化合物としては、加熱により硬化し、耐久性を向上させることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、下記一般式で表されるものを挙げることができる。
下記一般式で表されるビスマレイミド系化合物は、酸無水物である無水マレイン酸とアミンの反応により生成するマレイミド化合物二分子を架橋させたものである。また、下記一般式で表されるイミド化合物は、窒素原子を含有する五員環を2つ有し、各々の五員環が有機基で架橋されている構造を有している。このような化学構造を有するビスマレイミド系化合物をポリエステル系粘着剤に含有させることにより、当該粘着剤の耐熱性を向上させることができる。
【0071】
【化3】

【0072】
(上記一般式中、Zは、2価の有機基である。)
【0073】
上記ポリエステル系粘着剤に使用することができるビスマレイミド系化合物としては、具体的にN,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルオキシ)ビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジフェニルスルホン)ビスマレイミド、N,N’−p−フェニレンビスマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−2,4−トリレンビスマレイミド、N,N’−2,6−トリレンビスマレイミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−{4,4’−〔2,2’−ビス(4’’,4’’’−フェノキシフェニル)イソプロピリデン〕}ビスマレイミド、N,N’−{4,4’−〔2,2’−ビス(4’’,4’’’−フェノキシフェニル)ヘキサフルオロイソプロピリデン〕}ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−ビス(3,5−ジエチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−(3−メチル−5−エチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−ビス(3,5−ジイソプロピルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ジシクロヘキシルメタン)ビスマレイミド、N,N’−p−キシリレンビスマレイミド、N,N’−m−キシリレンビスマレイミド、N,N’−(1,3−ジメチレンシクロヘキサン)ビスマレイミド、N,N’−(1,4−ジメチレンシクロヘキサン)ビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド等を例示することができる。
【0074】
これらのビスマレイミド系化合物中でも、ポリエステル系粘着剤の耐熱性を向上させる観点からN,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド、N,N’−〔4,4’−(3−メチル−5−エチルフェニル)メタン〕ビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミドが好ましい。
【0075】
ポリエステル系粘着剤における架橋剤としてのビスマレイミド系化合物の含有量は、粘着剤主剤であるポリエステル系樹脂の固形分100質量部に対して、0.5質量部〜30質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1質量部〜20質量部の範囲内で含有される。0.5質量部以上であるとポリエステル系樹脂の架橋度を高くすることができ、粘着剤の耐熱性が優れたものになるため好ましく、30質量部以下であると粘着剤の粘着性を優れたものとすることができるため好ましい。
【0076】
(iii)ポリイミド系粘着剤
本発明に用いられるポリイミド系粘着剤としては、所望の粘着性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、粘着剤主剤であるポリイミドおよび架橋剤であるビスマレイミド化合物を含む熱硬化性ポリイミド系粘着剤を挙げることができる。
【0077】
このような熱硬化性ポリイミド系粘着剤(組成物(K))は、下記に示す、第1の工程から第3の工程を順次実施して製造されるものを挙げることができる。
【0078】
すなわち、化合物(Q)と脂肪族ジアミンとを加熱反応(イミド化反応)させてポリイミド(A)を合成する工程(第1の工程)、ポリイミド(A)と芳香族ジアミンとを加熱反応させてポリイミド(B)を合成する工程(第2の工程)、ポリイミド(B)とビスマレイミド化合物とを配合して所定の温度下で混合する工程(第3の工程)を実施することで、組成物(K)が製造される。
【0079】
(第1の工程について)
第1の工程では、上記したような脂肪族ジアミンと化合物(Q)を無溶剤下で加熱して脂肪族ジアミンと化合物(Q)のイミド化反応を行い、イミド化反応の反応生成物としてポリイミド(A)が合成される。
【0080】
イミド化反応は、ポリイミド(A)の両末端に酸無水物基またはイミド化可能なジカルボン酸誘導体の官能基を配させるようにする点と、イミド化可能な官能基を有するモノマーである化合物(Q)の残留量を抑制する点で、化合物(Q)のモル数のほうが脂肪族ジアミンのモル数よりも多くなるように配合して実施されることが好ましく、具体的には脂肪族ジアミン1モルに対して化合物(Q)を1モル以上2モル以下の比で配合して実施されることが好ましい。
【0081】
なお、第1の工程は、各種の有機溶媒中で脂肪族ジアミンと化合物(Q)をイミド化反応させることにて実施されても良い。使用できる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、m−クレゾール、フェノール、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどが使用可能であるが、N−メチルー2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンを単独または併用するのが好ましい。
【0082】
第1の工程においては、イミド化反応が、1〜12時間の反応時間、150〜200℃の反応温度という条件下で実施されることが好ましい。
【0083】
(化合物(Q))
化合物(Q)は、下記式(11)に示すテトラカルボン酸二無水物ならびに下記式(12)に示すテトラカルボン酸及びその誘導体からなる群より選ばれた1種以上の化合物である。
【0084】
【化4】

(R12は4価の有機基である)
【0085】
【化5】

【0086】
(R13は4価の有機基であり、Y〜Yは独立して水素または炭素数1〜8の炭化水素基である。)
【0087】
テトラカルボン酸二無水物としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物が例示できる。また所望の耐熱性を発現させるために必要に応じて例示した芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することも出来る。
【0088】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物などを例示できる。使用するものとして特に限定されるものではないが、好ましくは、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物であり、より好ましくは1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。
【0089】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2, 2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル) エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、3−カルボキシメチル−1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物等を挙げる事ができる。
【0090】
テトラカルボン酸及びその誘導体としては、脂肪族テトラカルボン酸及びその誘導体と、芳香族テトラカルボン酸及びその誘導体、をあげることができる。
【0091】
脂肪族テトラカルボン酸としては、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ジシクロヘキシルテトラカルボン酸などが例示される。脂肪族テトラカルボン酸の誘導体としては、上記した脂肪族テトラカルボン酸とアルコール(炭素数1〜8)とのエステルが例示される。
【0092】
芳香族テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4’−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、4,4’−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、エチレンテトラカルボン酸、3−カルボキシメチル−1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン等を挙げることができる。芳香族テトラカルボン酸の誘導体としては、上記した芳香族テトラカルボン酸とアルコール(炭素数1〜8)とのエステルが例示される。
【0093】
(脂肪族ジアミン)
脂肪族ジアミンは、下記式(13)に示すものである。
【0094】
【化6】

【0095】
(R14は、アミノ基に脂肪族基または脂環基が直接結合している炭素数1〜221の2価の有機基であり、その構造の一部に芳香族基、エーテル基、その他の置換基を含んでいてもよい。)
【0096】
したがって、脂肪族ジアミンは、アミノ基に脂肪族基または脂環基が直接結合している分子構造を有するジアミンである。脂肪族ジアミンには、分子構造の一部に芳香族基、エーテル基、その他の置換基を含んでいてもよい。脂肪族ジアミンとしては、ポリオキシアルキレンジアミンを挙げることができるほか、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ノルボルナンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、ビシクロヘキシルジアミン、シロキサンジアミン類などを挙げることができる。脂肪族ジアミンは、粘着剤組成物の硬化物を可撓性と粘着性に優れたものとするためには、ポリオキシアルキレンジアミンであることが好ましい。
【0097】
(第2の工程について)
第2の工程では、ポリイミド(A)に芳香族ジアミンを配合し無溶剤下で加熱してイミド化反応を行うことによりポリイミド(B)が合成される。
【0098】
第2の工程では、各種の有機溶媒中でポリイミド(A)と芳香族ジアミンのイミド化反応を実施しても良い。有機溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、テトラヒドロフラン、アセトン等を使用できる。また、m−クレゾール、フェノール、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ―ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなども使用可能であるが、N−メチルー2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンを単独または併用するのが好ましい。
【0099】
第2の工程においては、第1の工程と同じく、イミド化反応が、1〜12時間の反応時間、150〜200℃の反応温度という条件下で実施されることが好ましい。
【0100】
(芳香族ジアミン)
芳香族ジアミンは、下記式(14)に示すものである。
【0101】
【化7】

【0102】
(R15は、アミノ基に芳香族環が直接結合している炭素数6〜27の2価の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基、脂環基、その他の置換基を含んでいてもよい。)
【0103】
芳香族ジアミンは、アミノ基に芳香族環が直接結合しているジアミンである。芳香族ジアミンとしては、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−トルエンジアミン、ジアミノベンゾフェノン、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、α、α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、α、α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼンおよび2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン等が例示される。この中で耐熱性と粘着性の観点から3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0104】
(第3の工程について)
第3の工程では、第2の工程で合成された粘着剤主剤であるポリイミド(B)と架橋剤であるビスマレイミド化合物とを混合する。これにより得られるものが、ポリイミド系粘着剤(熱硬化性ポリイミド系粘着剤(組成物(K))である。
【0105】
なお、本発明において架橋剤として用いられるビスマレイミド化合物は、上記「(ii)ポリエステル系粘着剤」の項に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0106】
本発明におけるビスマレイミド化合物の含有量としては、ビスマレイミド化合物が架橋剤としての機能を示すものであれば特に限定されるものではなく、ポリイミド(A)を製造するために用いた脂肪族ジアミン1モルに対して0.25モル以上4モル以下で配合されることが、粘着剤の硬化物を可撓性に優れたものとするためには好ましい。
【0107】
本発明に用いられるポリイミド系粘着剤においては、架橋反応の進行時に触媒として作用する塩基性物質もしくはエネルギー感受性塩基発生剤などの潜在化された塩基性物質を用いても良い。なかでも本発明においては、保存安定性の観点から、潜在化された塩基性物質を用いることが好ましい。
【0108】
本発明において、潜在化された塩基性物質として用いられるエネルギー感受性塩基発生剤は、熱またはエネルギー線によって塩基を発生するものである。
【0109】
エネルギー線は、光線と電離放射線とを含んでなる概念であり、光線は、紫外線と可視光線と赤外線のいずれか1種以上含んでなる概念であり、電離放射線は、X線やγ線等といった物質を電離させるエネルギーを有する放射線と電子線などの粒子線とを含む概念であるものとする。
【0110】
エネルギー感受性塩基発生剤は、熱またはエネルギー線によって第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、アミジン系化合物のうちの少なくともいずれか1種の塩基を発生するものであることが好ましい。第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、は、特に限定されるものではないが、N−(イソプロポキシカルボニル)−2,6−ジメチルピペリジン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−2,6−ジメチルピペリジン、N−(ベンジロキシカルボニル)−2,6−ジメチルピペリジン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが例として挙げられる。また、アミジン系化合物は、下記式(21)に示すようなアミジンの構造を有する化合物とアミジンの部分構造を有する複素環式化合物とを含んでなる。具体的に、アミジン系化合物には、アミジンの部分構造を有する複素環式化合物のジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、イミダゾール、ピリミジン、プリンが含まれる。
【0111】
【化8】

【0112】
(R21からR24は、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、または炭素数6〜12のアリール基である。また、R21からR24は、相互に連結して環状構造を形成してもよい。)
【0113】
本発明においては、電磁波を用いて、剥離を行うことから、熱塩基発生剤などの電磁波を用いずに塩基を発生するエネルギー感受性塩基発生剤を用いることが好ましい。ただし、架橋時と剥離時に、波長の異なる電磁波を用いることなどにより、電磁波により塩基を発生するエネルギー感受性塩基発生剤を用いることも可能である。この場合電磁波により塩基を発生するエネルギー感受性塩基発生剤は公知のものを用いることが可能である。
【0114】
熱によって塩基を発生するエネルギー感受性塩基発生剤としては、公知の熱塩基発生剤を用いることができ、粘着剤組成物に使用可能な熱塩基発生剤としては、サンアプロ株式会社製U−CAT 5002などのU−CATシリーズを、具体的に挙げることができる。
【0115】
エネルギー感受性塩基発生剤のうち熱によって塩基を発生するもの(熱塩基発生剤)は、温度が200℃未満で塩基を生じるものであるが、温度が室温(25℃)以上200℃未満で塩基を生じるものであることが好ましく、温度が80℃以上180℃未満で塩基を生じるものであることがより好ましい。このようなエネルギー感受性塩基発生剤があまりに低い温度で塩基を生じるものであると、エネルギー感受性塩基発生剤の塩基発生反応の感受性が高くなりすぎて、粘着剤組成物を溶媒に溶かした塗工液の安定性が悪くなる虞がある。エネルギー感受性塩基発生剤が200℃を超えるようなあまりに高い温度条件下でないと塩基を生じないようなものであると、熱硬化性ポリイミド系樹脂組成物の架橋重合反応の触媒としての役割を果たすものではなくなってしまう虞がある。
【0116】
エネルギー感受性塩基発生剤の配合量は、粘着剤に含まれる粘着剤主剤の固形分100質量部に対して0.1質量部〜35質量部で、より好ましくは、1質量部〜10質量部である。粘着剤組成物においてエネルギー感受性塩基発生剤の配合量が0.1質量部未満であると、その配合量が少なすぎてエネルギー感受性塩基発生剤を配合した効果が不十分となる虞があり、粘着剤組成物においてエネルギー感受性塩基発生剤の配合量が35質量部を超えると、その配合量が多すぎてエネルギー感受性塩基発生剤などの低分子成分が硬化物からブリードする虞がある。
【0117】
(b)電磁波重合性モノマーまたは電磁波重合性オリゴマー
本発明における電磁波重合性モノマーまたは電磁波重合性オリゴマーとしては、電磁波の照射を受けた際に、電磁波剥離性粘着樹脂を3次元架橋により硬化させて粘着力を低下させるとともに、粘着剤の凝集力を高めて被接着面に転着しないようにする機能を有するものであれば良い。
このような電磁波重合性モノマーまたは電磁波重合性オリゴマーとしては、好ましくは一分子中にアクリロイル基を3個以上含む不飽和化合物であることが好ましい。
【0118】
具体的には、トリメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、それらのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等を使用することができる。
【0119】
電磁波重合性モノマー又は電磁波重合性オリゴマーの使用量は、所望の剥離性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、粘着剤に含まれる粘着剤主剤の固形分100質量部に対して、10質量部〜200質量部の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは20質量部〜200質量部の範囲内である。電磁波重合性モノマー又は電磁波重合性オリゴマーの使用量が少なすぎると、紫外線等の電磁波照射後の架橋密度が十分でなく、適正な剥離性を実現できないからである。電磁波重合性モノマー又は電磁波重合性オリゴマーの使用量が多過ぎると電磁波照射時の発熱量が多すぎるために、被着体に変形が生じたり、また、電磁波照射前は凝集力が低すぎて粘着剤のはみ出しが発生したりするからである。
【0120】
(c)電磁波重合開始剤
本発明における電磁波重合開始剤としては、一般的な電磁波重合開始剤を使用することができ、例えば、ベンゾイン及びそのアルキルエーテル化物、ベンジルケタール類、アセトフェノン類、アセトフェノン類としては、例えばヒドロキシアセトフェノン、アミノアセトフェノン、ジアルコキシアセトフェノン、ハロゲン化アセトフェノン等を使用することができる。
【0121】
本発明における電磁波重合開始剤の使用量は、所望の剥離性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、粘着剤に含まれる粘着剤主剤の固形分100質量部に対して0.1質量部〜30質量部の範囲内であることが好ましい。電磁波重合開始剤の使用量が少なすぎると、硬化後の粘着強度低下が十分でないので好ましくない。電磁波重合開始剤の使用量が多過ぎると、反応速度が速くなり過ぎて発生する反応熱が多くなり金属基材や支持基板の変形等を生じるので好ましくない。
【0122】
(d)その他の成分
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着樹脂には必要に応じて上記成分の他に酸化防止剤やバインダ樹脂、有機溶媒やフィラー等の成分を含有させることができる。例えば、塗工方式に併せて有機溶剤で希釈することができ、希釈に用いる有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶媒、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチルやセロソルブ等のエステル類系溶媒等が挙げられる。
【0123】
(酸化防止剤)
本発明に用いられる酸化防止剤としては、電磁波剥離性粘着樹脂の耐熱性を向上させることができるものであれば、特に限定されるものではない。酸化防止剤としては、具体的にヒンダードアミン誘導体、ヒンダードフェノール誘導体、リン系化合物、イオウ系化合物、ヒドロキシル系化合物、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体等が例示される。上記酸化防止剤の中でも、ヒンダードフェノール誘導体又はベンゾトリアゾール誘導体が好ましい。このような酸化防止剤が電磁波剥離性粘着樹脂に含まれることにより、たとえ200℃を超えるような高温熱履歴をかけた場合であってもポリエステル系粘着剤が劣化することを効果的に抑制することができるため好ましい。
【0124】
酸化防止剤の含有量は、所望の耐熱性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、粘着剤に含まれる粘着剤主剤の固形分100質量部に対して、0.1質量部〜10.0質量部の範囲内であることが好ましい。酸化防止剤の含有量が0.1質量部以上であると、粘着剤の酸化劣化を抑制する能力が向上するため好ましく、酸化防止剤の含有量が10.0質量部以下であると酸化防止剤のブリードによる糊残りが生じるおそれがないため好ましい。
【0125】
(フッ素系樹脂)
本発明におけるフッ素系樹脂は、電磁波剥離性粘着樹脂に再剥離性を付与するため、又は向上させるために含有されるものである。
【0126】
上記フッ素系樹脂としては、二フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル等のオレフィン系樹脂に反応性基を有するモノマーを共重合させた重合体、又はそれらの2種類以上を組み合わせた共重合体等を例示することができる。さらにエチレンやプロピレン、アルキルビニルエーテル等を加えて重合させてなるフッ素樹脂共重合体でもよい。これらのフッ素系樹脂の中でも、特に反応性基を有するフッ素含有オレフィン系樹脂は、含有するフッ素量が多く、耐熱性に優れたものであるため好ましい。
【0127】
さらに、好ましいフッ素系樹脂としては、具体的に(1)フルオロオレフィンと、(2)ビニルエーテル、ビニルエステル等の炭化水素系モノマーとを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体であり、かつ水酸基、カルボキシ基、エポキシ基等の官能基を有するフッ素系樹脂が挙げられる。なお、ここで、上記「(1)フルオロオレフィン」とは、オレフィンの水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されているものを包含する概念である。例えば、オレフィンの水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されている化合物と、下記に例示する様に、オレフィンの水素原子がフッ素原子で置換されるとともに、残りの水素原子の一部又は全部が塩素原子等の他の原子で置換されている化合物である。
【0128】
上記官能基を有するフッ素系樹脂は、例えば、原料モノマーに、上記(1)と(2)のモノマー原料を加えて、さらに反応性基を有するモノマー原料を配合し、共重合させることによって得ることができる。また、上記フッ素系樹脂のビニル基等の不飽和結合を有するフッ素系樹脂を製造した後、このビニル基等の不飽和結合にエポキシ基等の反応性基を導入することによって得ることができる。反応性基を有するモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のビニル結合と反応性基を有するモノマーを挙げることができる。
【0129】
これらのフッ素系樹脂の中でも、被着体と貼り合わせた場合に糊残りがなく剥離可能とすることができる電磁波剥離性粘着樹脂を提供できることから、フルオロオレフィンとビニルエーテルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体、フルオロオレフィンとビニルエステルを含むモノマー原料を重合させてなる共重合体が好ましい。特に上記共重合体は、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基等の官能基を有するフッ素系樹脂であることが好ましい。
【0130】
これらのフッ素系樹脂の中で市販されているものとしては、例えば、水酸基及びカルボキシル基を有するフルオロエチレンビニルエーテル共重合体(旭硝子社製 商品名:「ルミフロン」)を挙げることができる。
【0131】
フッ素系樹脂の含有量は、所望の剥離性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、粘着剤に含まれる粘着剤主剤の固形分100質量部に対して、好ましくは1質量部〜40質量部の範囲内、より好ましくは、10質量部〜30質量部の範囲内である。1質量部以上であると、電磁波剥離性粘着樹脂の剥離性が向上し、糊残りを防ぐことができるため好ましい。一方、40質量部以下であると、粘着剤等の他の樹脂成分との相溶性が向上し、製造上有利であるため好ましい。なお、上記フッ素系樹脂は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0132】
電磁波剥離性粘着樹脂の剥離力をさらに向上させる必要がある場合は、さらにフッ素系添加剤を含有させることもできる。上記フッ素系添加剤としては、含フッ素グラフトポリマー、含フッ素ブロックコポリマー、含フッ素脂肪族系ポリマーエステル(これらはオリゴマーであってもよい)等を挙げることができる。
【0133】
上記含フッ素グラフトポリマーとしては、具体的に含フッ素アクリル系グラフトポリマーを例示することができ、市販品としては、綜研化学社製の商品名:ケミトリー LF−700等を挙げることができる。なお、含フッ素アクリル系グラフトポリマーとは、幹ポリマーとこの幹ポリマーから伸びる複数の枝ポリマーとからなり、幹ポリマーはアクリル系ポリマーからなり、枝ポリマーは、フッ素を含有するポリマーからなるものである。
【0134】
上記含フッ素ブロックコポリマーとしては、フッ化アルキル基含有重合体セグメントとアクリル系重合体セグメントからなるブロックコポリマーを例示することができる。例えば、市販品として、日本油脂社製の商品名:モディパーFシリーズ(モディパーF200、モディパーF220、モディパーF2020、モディパーF3035、モディパーF600)を例示することができる。また、含フッ素脂肪族系ポリマーエステルとしては、ノニオン界面活性剤としての特性を有するものが好ましい。例えば、市販品として、スリーエム社製の商品名:ノベック FC−4430等を挙げることができる。これらの含フッ素ブロックコポリマーの中でも、電磁波剥離性粘着樹脂の糊残りをなくす観点から、含フッ素グラフトポリマー、又は含フッ素ブロックコポリマーが好ましい。
【0135】
(溶剤)
本発明における電磁波剥離性粘着樹脂は、金属基材等への良好な塗布性及びハンドリング適正を得るために溶剤成分が含まれていてもよい。このような溶剤成分としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル、N,N−ジメチルアセチルアミド、N−メチルピロリドン等のアミド、1,3−ジオキソラン等を挙げることができるが、これに限定されない。
なお、電磁波剥離性粘着樹脂は、粘着剤(粘着剤主剤および架橋剤)、電磁波重合性モノマーまたは電磁波重合性オリゴマー、電磁波重合開始剤等を含有し、その他必要に応じてその他の添加物を含有して構成されるが、粘着剤で使用される溶剤成分、電磁波重合性モノマーまたは電磁波重合性オリゴマーで使用される溶剤成分、電磁波重合開始剤で使用される溶剤成分、その他の添加剤で使用される溶剤、さらには、粘着剤を構成する各成分毎に使用される溶剤は、それぞれ独立に選択され、同一でも異なっていてもよい。
【0136】
(e)電磁波剥離性粘着樹脂
本発明に用いられる電磁波剥離性粘着樹脂の1%重量減少温度としては、所望の耐熱性を示すものであれば特に限定されるものではないが、200℃以上であることが好ましい。
上記絶縁層上に有機ELやTFTなどの電子素子部の形成時に加熱された場合であっても、上記金属基材および支持基板への粘着性および露光後の被着体の剥離性の低下を抑制することができるからである。なお、1%重量減少温度の上限については、高ければ高い程好ましいため特に限定されるものではなく、電磁波剥離性粘着樹脂に含有される各成分の種類や塗工性等に応じて適宜設定されるものである。
【0137】
ここで、1%重量減少温度が200℃以上であるとは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定する際に、窒素雰囲気下で、昇温速度10℃/minで100℃まで上昇させた後、100℃で60分加熱した後、15分以上窒素雰囲気下で放冷した後、昇温速度10℃/minで測定した際の放冷後の重量を基準として測定した1%重量減少温度が200℃以上のものをいう。
なお、1%重量減少温度とは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した場合に、サンプルの重量が初期重量から1%減少した時点(すなわち、サンプル重量が初期の99%となった時点)の温度である。また、測定される重量減少は、水分や溶剤による重量減少分の影響を除くため、測定サンプルについては、乾燥後のサンプルを用いる。
【0138】
本発明における電磁波剥離粘着樹脂の調整方法としては、上記の各成分を十分に混練させて得ることができる。電磁波剥離性粘着樹脂の上記の各成分を配合する方法は、特に制限されるものではないが、上記のように各成分を溶剤に溶解し混合する方法の他、ニーダーロール等の機械的方法によっても混練することができる。
【0139】
2.絶縁層
本発明に用いられる絶縁層は、上記金属基材の少なくとも一方の表面上に形成されるものであり、絶縁性を有するものである。
【0140】
このような絶縁層の絶縁性としては、上記絶縁層上に形成される電子素子部の種類等に応じて異なるものであるが、具体的には、1.0×109Ω・m以上であることが好ましく、1.0×1010Ω・m以上であることがより好ましく、1.0×1011Ω・m以上であることがさらに好ましい。
なお、体積抵抗は、JIS K6911、JIS C2318、ASTM D257 などの規格に準拠する手法で測定することが可能である。
【0141】
本発明に用いられる絶縁層の吸湿膨張係数としては、上記電子素子部を安定的に形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的に、吸湿膨張係数は、0ppm/%RH〜15ppm/%RHの範囲内であり、好ましくは0ppm/%RH〜12ppm/%RHの範囲内、さらに好ましくは0ppm/%RH〜10ppm/%RHの範囲内である。
上記吸湿膨張係数が上述の範囲内であることにより、吸湿による寸法が変化することを抑制することができる。その結果、TFT等の電子素子部にクラックや剥離が生じることを抑制することができるからである。
【0142】
なお、吸湿膨張係数は、次のように測定する。まず、絶縁層のみのフィルムを作製する。絶縁層フィルムの作製方法は、耐熱フィルム(ユーピレックス S 50S(宇部興産(株)製))やガラス基板上に絶縁層フィルムを作製した後、絶縁層フィルムを剥離する方法や金属基材上に絶縁層フィルムを作製した後、金属をエッチングで除去し絶縁層フィルムを得る方法などがある。次いで、得られた絶縁層フィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする。吸湿膨張係数は、湿度可変機械的分析装置(Thermo Plus TMA8310(リガク社製))によって測定する。例えば、温度を25℃で一定とし、まず、湿度を15%RHの環境下でサンプルが安定となった状態とし、概ね30分〜2時間その状態を保持した後、測定部位の湿度を20%RHとし、さらにサンプルが安定になるまで30分〜2時間その状態を保持する。その後、湿度を50%RHに変化させ、それが安定となった際のサンプル長と20%RHで安定となった状態でのサンプル長との違いを、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値をサンプル長で割った値を吸湿膨張係数(C.H.E.)とする。測定の際、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重は1g/25000μm2とする。
【0143】
本発明に用いられる絶縁層の線熱膨張係数としては、上記電子素子部を安定的に形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、寸法安定性の観点から、金属基材の線熱膨張係数との差が15ppm/℃以下であることが好ましく、より好ましくは10ppm/℃以下、さらに好ましくは5ppm/℃以下である。絶縁層と金属基材との線熱膨張係数が近いほど、反りが抑制されるとともに、電子素子部の熱環境が変化した際に、絶縁層と金属基材との界面の応力が小さくなり密着性が向上する。また、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板は、取り扱い上、0℃〜100℃の範囲の温度環境下では反らないことが好ましいのであるが、絶縁層の線熱膨張係数が大きいために絶縁層および金属基材の線熱膨張係数が大きく異なると、熱環境の変化により反ってしまう。
なお、電子素子部に反りが発生していないとは、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を幅10mm、長さ50mmの短冊状に切り出し、得られたサンプルの一方の短辺を水平で平滑な台上に固定した際に、サンプルのもう一方の短辺の台表面からの浮上距離が1.0mm以下であることをいう。
【0144】
さらに、上記絶縁層の線熱膨張係数は、上記絶縁層上に形成される電子素子部の種類に応じて適宜選択されることが好ましい。例えば電子素子部がTFTである場合、絶縁層の線熱膨張係数はTFTを構成する半導体層の線熱膨張係数との差が比較的小さいことが好ましい。また例えば電子素子部が有機EL素子である場合、絶縁層の線熱膨張係数は有機EL素子を構成する電極の線熱膨張係数との差が比較的小さいことが好ましい。
【0145】
具体的に、絶縁層の線熱膨張係数は、寸法安定性の観点から、0ppm/℃〜30ppm/℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内、さらに好ましくは0ppm/℃〜18ppm/℃の範囲内、特に好ましくは0ppm/℃〜12ppm/℃の範囲内である。中でも、電子素子部がTFTである場合、0ppm/℃〜7ppm/℃の範囲内であることが最も好ましい。また、電子素子部が有機EL素子である場合、0ppm/℃〜10ppm/℃程度であることが最も好ましい。
【0146】
なお、線熱膨張係数は、次のように測定する。まず、絶縁層のみのフィルムを作製する。絶縁層フィルムの作製方法は、上述したとおりである。次いで、得られた絶縁層を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする。線熱膨張係数は、熱機械分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製))によって測定する。測定条件は、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とし、100℃〜200℃の範囲内の平均の線熱膨張係数を線熱膨張係数(C.T.E.)とする。
【0147】
本発明に用いられる絶縁層の表面粗さRaとしては、精度良く上記電子素子部を形成可能であれば特に限定されるものではないが、上記金属基材の表面粗さRaよりも小さいことが好ましい。具体的に、絶縁層の表面粗さRaは25nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下である。絶縁層の表面粗さRaが大きすぎると、電子素子部がTFTである場合、凹凸によりTFTの電気的性能が劣化するおそれがあるからである。また、絶縁層の表面粗さRaが大きすぎると、電子素子部が有機EL素子である場合、凹凸により電極間で短絡が生じたり輝度ムラが発生したりするおそれがあるからである。
【0148】
なお、上記表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)もしくは走査型白色干渉計を用いて測定した値である。例えば、AFMを用いて測定する場合は、Nanoscope V multimode(Veeco社製)を用いて、タッピングモードで、カンチレバー:MPP11100、走査範囲:50μm×50μm、走査速度:0.5Hzにて、表面形状を撮像し、得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することよりRaを求めることができる。また、走査型白色干渉計を用いて測定する場合は、New View 5000(Zygo社製)を用いて、対物レンズ:100倍、ズームレンズ:2倍、Scan Length:15μmにて、50μm×50μmの範囲の表面形状を撮像し、得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することよりRaを求めることができる。
【0149】
このような絶縁層を構成する絶縁層形成材料としては、上述の特性を満たすものであり、フレキシブル性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、有機材料、無機材料、および、有機材料中に無機材料が分散されたもの等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、上記有機材料を主成分とするものであることが好ましい。フレキシブル性に優れたものとすることができるからである。
なお、主成分とするとは、上述の特性を満たす程度に、上記絶縁層形成材料が有機材料を含有することをいう。具体的には、有機材料の含有量が上記絶縁層形成材料中に75質量%以上の場合をいい、好ましくは90質量%以上であり、特に絶縁層形成材料が有機材料のみからなることが好ましい。特にフレキシブル性に優れたものとすることができるからである。
【0150】
本発明に用いられる有機材料としては、上述の特性を満たすものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PEK(ポリエーテルケトン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリフタルアミド、PTFE(ポリエチレンテレフタラート)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリシクロオキサイド、エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、耐熱性や絶縁性の観点から、ポリイミド樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
本発明においては、特に、ポリイミド樹脂を含むものであることが好ましい。上記有機材料がポリイミド樹脂であることにより、絶縁性、耐熱性、寸法安定性により優れた絶縁層とすることが可能となるからである。また、ポリイミド樹脂を用いることにより、上記絶縁層の薄膜化が可能となり、絶縁層の熱伝導性を向上させることができ、放熱性に優れたものとすることができるからである。
【0151】
本発明に用いられるポリイミド樹脂としては、上記絶縁層の線熱膨張係数や吸湿膨張係数を本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板に好適なものとする観点から、芳香族骨格を含むポリイミド樹脂であることが好ましい。ポリイミド樹脂の中でも芳香族骨格を含有するポリイミド樹脂は、その剛直で平面性の高い骨格に由来して、耐熱性や薄膜での絶縁性に優れ、線熱膨張係数も低いことから、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の絶縁層に好ましく用いられる。
【0152】
ポリイミド樹脂は、低吸湿膨張、低線熱膨張であることが求められるため、下記式(1)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。このようなポリイミド樹脂は、その剛直な骨格に由来する高い耐熱性や絶縁性を示すとともに、金属と同等の線熱膨張を示す。さらには、吸湿膨張係数も小さくすることが可能である。
【0153】
【化9】

【0154】
(式(1)中、R1は4価の有機基、R2は2価の有機基であり、繰り返されるR1同士およびR2同士はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。nは1以上の自然数である。)
【0155】
式(1)において、一般に、Rはテトラカルボン酸二無水物由来の構造であり、Rはジアミン由来の構造である。
【0156】
ポリイミド樹脂に適用可能なテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0157】
ポリイミド樹脂の耐熱性、線熱膨張係数などの観点から好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物である。特に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が挙げられる。
中でも、吸湿膨張係数を低減させる観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が特に好ましい。
【0158】
併用するテトラカルボン酸二無水物としてフッ素が導入されたテトラカルボン酸二無水物を用いると、ポリイミド樹脂の吸湿膨張係数が低下する。しかしながら、フッ素を含んだ骨格を有するポリイミド前駆体は、塩基性水溶液に溶解しにくく、アルコール等の有機溶媒と塩基性水溶液との混合溶液によって現像を行う必要がある。
また、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直なテトラカルボン酸二無水物を用いると、ポリイミド樹脂の線熱膨張係数が小さくなるので好ましい。中でも、線熱膨張係数と吸湿膨張係数とのバランスの観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0159】
テトラカルボン酸二無水物として脂環骨格を有する場合、ポリイミド前駆体の透明性が向上するため、高感度の感光性ポリイミド前駆体となる。一方で、ポリイミド樹脂の耐熱性や絶縁性が芳香族ポリイミド樹脂と比較して劣る傾向にある。
【0160】
芳香族のテトラカルボン酸二無水物を用いた場合、耐熱性に優れ、低線熱膨張係数を示すポリイミド樹脂となるというメリットがある。したがって、ポリイミド樹脂において、上記式(1)中のRのうち33モル%以上が、下記式で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0161】
【化10】

【0162】
ポリイミド樹脂が上記式のいずれかの構造を含むと、これら剛直な骨格に由来し、低線熱膨張および低吸湿膨張を示す。さらには、市販で入手が容易であり、低コストであるというメリットもある。
上記のような構造を有するポリイミド樹脂は、高耐熱性、低線熱膨張係数を示すポリイミド樹脂である。そのため、上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど好ましいが、少なくとも上記式(1)中のRのうち33%以上含有すればよい。中でも、上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、さらに70モル%以上であることが好ましい。
【0163】
一方、ポリイミド樹脂に適用可能なジアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は特に限定されるものではなく、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンが挙げられる。また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部もしくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、およびイソプロペニル基のいずれか1種または2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部もしくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0164】
ジアミンは、目的の物性によって選択することができ、p−フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いれば、ポリイミド樹脂は低膨張係数となる。剛直なジアミンとしては、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミンとして、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接または置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(2)により表されるものがある。具体例としては、ベンジジン等が挙げられる。
【0165】
【化11】

【0166】
(式(2)中、aは0または1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。)
【0167】
さらに、上記式(2)において、他のベンゼン環との結合に関与せず、ベンゼン環上のアミノ基が置換していない位置に置換基を有するジアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
また、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると吸湿膨張係数を低減させることができる。しかしながら、フッ素を含むポリイミド前駆体、特にポリアミック酸は、塩基性水溶液に溶解しにくく、金属基材上に絶縁層を部分的に形成する場合には、絶縁層の加工の際に、アルコールなどの有機溶媒との混合溶液で現像する必要がある場合がある。
【0168】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、金属基材との密着性を改善したり、ポリイミド樹脂の弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させたりすることができる。
【0169】
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いてもよい。
【0170】
また、ポリイミド樹脂においては、上記式(1)中のRのうち33モル%以上が下記式で表わされるいずれかの構造であることが好ましい。
【0171】
【化12】

【0172】
(Rは2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、またはスルホン基であり、RおよびRは1価の有機基、またはハロゲン原子である。)
【0173】
ポリイミド樹脂が上記式のいずれかの構造を含むと、これら剛直な骨格に由来し、低線熱膨張および低吸湿膨張を示す。さらには、市販で入手が容易であり、低コストであるというメリットもある。
上記のような構造を有する場合、ポリイミド樹脂の耐熱性が向上し、線熱膨張係数が小さくなる。そのため、上記式で表される構造の含有量は上記式(1)中のRのうち100モル%に近ければ近いほど好ましいが、上記式(1)中のRのうち少なくとも33%以上含有すればよい。中でも、上記式で表わされる構造の含有量は上記式(1)中のRのうち50モル%以上であることが好ましく、さらに70モル%以上であることが好ましい。
【0174】
一般に金属基材の線熱膨張係数、すなわち金属の線熱膨張係数はある程度定まっているため、使用する金属基材の線熱膨張係数に応じて絶縁層の線熱膨張係数を決定し、ポリイミド樹脂の構造を適宜選択することが好ましい。
また、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を用いてTFT基板を作製する場合には、TFTの線熱膨張係数に応じて金属基材の線熱膨張係数を決定し、その金属基材の線熱膨張係数に応じて絶縁層の線熱膨張係数を決定し、ポリイミド樹脂の構造を適宜選択することが好ましい。
さらに、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を用いて有機EL表示装置や電子ペーパーを作製する場合には、有機EL表示装置や電子ペーパーの線熱膨張係数に応じて金属基材の線熱膨張係数を決定し、その金属基材の線熱膨張係数に応じて絶縁層の線熱膨張係数を決定し、ポリイミド樹脂の構造を適宜選択することが好ましい。
【0175】
本発明においては、必要に応じて適宜、絶縁層が上述の式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂と他のポリイミド樹脂とを積層したり組み合わせたりして、絶縁層として用いてもよい。
【0176】
また、上記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂は、感光性ポリイミドまたは感光性ポリイミド前駆体を用いて得られるものであってもよい。感光性ポリイミドは、公知の手法を用いて得ることができる。例えば、ポリアミック酸のカルボキシル基にエステル結合やイオン結合でエチレン性二重結合を導入し、得られるポリイミド前駆体に光ラジカル開始剤を混合し、溶剤現像ネガ型感光性ポリイミド前駆体とすることができる。また例えば、ポリアミック酸やその部分エステル化物にナフトキノンジアジド化合物を添加し、アルカリ現像ポジ型感光性ポリイミド前駆体とする、あるいは、ポリアミック酸にニフェジピン系化合物を添加しアルカリ現像ネガ型感光性ポリイミド前駆体とするなど、ポリアミック酸に光塩基発生剤を添加し、アルカリ現像ネガ型感光性ポリイミド前駆体とすることができる。
【0177】
これらの感光性ポリイミド前駆体には、ポリイミド成分の重量に対して15%〜35%の感光性付与成分が添加されている。そのため、パターン形成後に300℃〜400℃で加熱したとしても、感光性付与成分由来の残渣がポリイミド樹脂中に残存する。これらの残存物が線熱膨張係数や吸湿膨張係数を大きくする原因となることから、感光性ポリイミド前駆体を用いると、非感光性のポリイミド前駆体を用いた場合に比べて、素子の信頼性が低下する傾向にある。しかしながら、ポリアミック酸に光塩基発生剤を添加した感光性ポリイミド前駆体は、添加剤である光塩基発生剤の添加量を15%以下にしてもパターン形成可能であることから、ポリイミド樹脂とした後も添加剤由来の分解残渣が少なく、線熱膨張係数や吸湿膨張係数などの特性の劣化が少なく、さらにアウトガスも少ないため、本発明に適用可能な感光性ポリイミド前駆体としては最も好ましい。
【0178】
ポリイミド樹脂に用いられるポリイミド前駆体は、塩基性水溶液によって現像可能であることが、金属基材上に絶縁層を部分的に形成する際に、作業環境の安全性確保およびプロセスコストの低減の観点から好ましい。塩基性水溶液は、安価に入手でき、廃液処理費用や作業安全性確保のための設備費用が安価であるため、より低コストでの生産が可能となる。
【0179】
本発明に用いられる無機材料としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等を挙げることができる。
【0180】
絶縁層には、必要に応じて、レベリング剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0181】
本発明に用いられる絶縁層の形成箇所としては、少なくとも上記金属基材の一方の表面上に形成されるものであれば良く、上記金属基材の他方の表面、すなわち、上記金属基材と上記電磁波剥離性粘着層との間にも配置されるものであっても良い。
【0182】
絶縁層は、金属基材上に全面に形成されていてもよく、金属基材上に部分的に形成されていてもよい。すなわち、金属基材の絶縁層が形成されている面に、絶縁層が存在せず、金属基材が露出している金属基材露出領域が設けられていてもよい。このような金属基材露出領域を有する場合には、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を用いて有機EL表示装置を作製する際に、封止部材と金属基材とを直に密着させることが可能となり、有機EL表示装置への水分の浸入をより強固に防ぐことが可能となる。また、封止部を金属基材露出領域に選択的に形成することで、有機EL表示装置を面内で区分けしたり、多面付けした状態で封止したりすることが可能となり、高い生産性で素子を製造できるといった利点を有する。また、金属基材露出領域は、絶縁層を貫通し金属基材に電気的に導通をとるための貫通孔にもなり得る。
【0183】
絶縁層が金属基材上に部分的に形成されている場合、図2(a)、(b)に例示するように、絶縁層2は、少なくとも金属基材1の外縁部を除いて形成されていてもよい。なお、図2(a)は図2(b)のA−A線断面図である。本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を用いて有機EL表示装置や電子ペーパーを作製した場合に、金属基材の全面に絶縁層が形成されており絶縁層の端部が露出していると、上記絶縁層形成材料としてポリイミド樹脂等の有機材料を含む場合には、一般に有機材料は吸湿性を示すため、製造時や駆動時に絶縁層の端面から素子内部に水分が浸入するおそれがある。この水分によって、素子性能が劣化したり、絶縁層の寸法が変化したりする。そのため、金属基材の外縁部には絶縁層が形成されておらず、直接外気にポリイミド樹脂を含有する絶縁層が曝される部分をできる限り少なくすることが好ましい。
【0184】
なお、本発明において、絶縁層が金属基材上に部分的に形成されているとは、絶縁層が金属基材の全面に形成されていないことを意味する。
絶縁層は、金属基材の外縁部を除いて金属基材上に一面に形成されていてもよく、金属基材の外縁部を除いて金属基材上にさらにパターン状に形成されていてもよい。
【0185】
絶縁層の厚みは、上述の特性を満たすことができる厚みであれば特に限定されないが、上記絶縁層形成材料が有機材料を主成分とする場合には、具体的には、1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1μm〜200μmの範囲内、さらに好ましくは1μm〜100μmの範囲内である。絶縁層の厚みが薄すぎると、絶縁性が維持できなかったり、金属基材表面の凹凸を平坦化することが困難であったりするからである。また、絶縁層の厚みが厚すぎると、フレキシブル性が低下したり、過重になったり、製膜時の乾燥が困難になったり、材料使用量が増えるためにコストが高くなったりするからである。さらには、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板に放熱機能を付与する場合には、絶縁層の厚みが厚いと、上記有機材料等を含む場合、上記有機材料等は金属よりも熱伝導率が低いために熱伝導性が低下する。
【0186】
また、上記絶縁層形成材料が無機材料からなる場合の絶縁層の膜厚としては、剥離等の不具合を生じないものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、0.1nm〜50nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜20nmの範囲内、さらに好ましくは1nm〜10nmの範囲内である。厚みが上記範囲より薄いと安定な絶縁層とすることが困難となり、厚すぎると、剥離やクラックが生じるおそれがあるからである。
【0187】
絶縁層の形成方法としては、平滑性の良好な絶縁層が得られる方法であれば特に限定されるものではなく、上記絶縁層形成材料が有機材料を主成分とする場合、上記金属基材上に、上記絶縁層形成材料および溶剤を含む絶縁層形成用塗工液を塗布する方法、金属基材と上記絶縁層形成材料からなるフィルムとを加熱圧着する方法を用いることができる。
本発明においては、なかでも、上記絶縁層形成用塗工液を塗布する方法が好ましい。平滑性に優れる絶縁層が得られるからである。
また、上記絶縁層形成材料がポリイミド樹脂である場合には、ポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗布する方法が好ましく、特に、ポリイミド前駆体溶液を塗布する方法が好適である。一般にポリイミドは溶媒への溶解性に乏しいからである。また、溶媒への溶解性が高いポリイミドは、耐熱性、線熱膨張係数、吸湿膨張係数などの物性に劣るからである。
【0188】
塗布方法としては、平滑性の良好な絶縁層を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート法、ダイコート法、ディップコート法、バーコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
ポリイミド樹脂溶液またはポリイミド前駆体溶液を塗布する場合、塗布後にポリイミドまたはポリイミド前駆体のガラス転移温度以上に加熱することで、膜の流動性を高め、平滑性を良くすることもできる。
【0189】
また、絶縁層を金属基材上に部分的に形成する場合、その形成方法としては、印刷法、フォトリソグラフィー法、レーザー等で直接加工する方法を用いることができる。フォトリソグラフィー法としては、例えば、上記絶縁層形成用塗工液を用いて金属基材上に絶縁層形成用層を形成後、上記絶縁層形成用層上に感光性樹脂膜を形成し、フォトリソグラフィー法により感光性樹脂膜パターンを形成し、その後、そのパターンをマスクとして、パターン開口部の絶縁層形成用層を除去した後、感光性樹脂膜パターンを除去する方法;上記感光性樹脂膜パターンの形成時に同時に絶縁層形成用層も現像し、その後、感光性樹脂膜パターンを除去する方法;金属基材と絶縁層形成用層と金属基材とが積層された積層体の一方の金属基材をパターニングし、そのパターンをマスクとして絶縁層をエッチングした後、金属パターンを除去する方法;上記絶縁層形成用塗工液を用いて、金属基材上に直接、絶縁層のパターンを形成する方法が挙げられる。印刷法としては、グラビア印刷やフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法など公知の印刷技術を用いた方法を例示することができる。
【0190】
また、上記絶縁層形成材料が無機材料からなる場合の絶縁層の形成方法としては、所望のパターンの絶縁層とすることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、DC(直流)スパッタリング法、RF(高周波)マグネトロンスパッタリング法、プラズマCVD(化学気相蒸着)法等を挙げることができる。
【0191】
3.金属基材
本発明に用いられる金属基材は、可撓性を有するものであり、上記電磁波剥離性粘着層、絶縁層および電子素子部等が形成されるものである。
【0192】
本発明に用いられる金属基材の厚みは、可撓性を示すものであれば特に限定されるものではないが、1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、なかでも、1μm〜200μmの範囲内であることが好ましく、特に、5μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。上記膜厚が上述の範囲内である場合、上記電磁波剥離性粘着層を含まない従来のフレキシブルデバイス用基板では、上記電子素子部の形成時に変形し、上記フレキシブルデバイス用基板上に電子素子部を安定的に形成することが困難となる場合があった。
これに対して、本発明においては、上記電磁波剥離性粘着層を有し、上記支持基板へ簡便に貼り合わせて固定させることにより、上記電子素子部を安定的に形成することが可能となるからである。また、上記電子素子部を形成後に、電磁波を照射するのみで容易に上記支持基板を容易に剥離することができるため、上記粘着層を溶解する溶解液等の使用や、引き剥がすための大きな力を不要なものとすることができる。したがって、上記膜厚が上述の範囲内であることにより、ハンドリング性に優れたものとすることができるとの本発明の効果をより効果的に発揮することができるからである。
また、上記金属基材の膜厚が厚すぎると、フレキシブル性が低下したり、過重になったり、コスト高になったりするからである。
【0193】
本発明に用いられる金属基材の線熱膨張係数としては、寸法安定性の観点から、0ppm/℃〜25ppm/℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0ppm/℃〜18ppm/℃の範囲内、さらに好ましくは0ppm/℃〜12ppm/℃の範囲内、特に好ましくは0ppm/℃〜7ppm/℃の範囲内である。
なお、上記線熱膨張係数の測定方法については、金属基材を幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとする以外は、上記絶縁層の線熱膨張係数の測定方法と同様である。
【0194】
本発明に用いられる金属基材の表面粗さRaとしては、上記絶縁層上に形成される電子部材を精度良く形成できるものであれば、特に限定されるものではないが、上記絶縁層の表面粗さRaよりも大きいものであり、例えば50nm〜200nm程度である。なお、上記表面粗さの測定方法については、上記絶縁層の表面粗さの測定方法と同様である。
【0195】
また、本発明においては、上記金属基材が耐酸化性を有することが好ましい。本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板がTFT基板の製造に用いられる場合、通常、TFTの作製時に高温処理が施されるからである。特に、TFTが酸化物半導体層を有する場合には、酸素の存在下、高温でアニール処理が行なわれることから、上記金属基材は耐酸化性を有することが好ましい。
【0196】
本発明に用いられる金属基材を構成する金属材料としては、上述の特性を満たすものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、銅、銅合金、リン青銅、ステンレス鋼(SUS)、金、金合金、ニッケル、ニッケル合金、銀、銀合金、スズ、スズ合金、チタン、鉄、鉄合金、亜鉛、モリブデン等が挙げられる。本発明においては、なかでも、大型の素子に適用する場合、SUSが好ましい。SUSは耐酸化性に優れ、また耐熱性にも優れている上、銅などに比べ線熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れる。また、SUS304については特に入手しやすいという利点があり、SUS430については入手しやすく、線熱膨張係数がSUS304より小さいという利点もある。
一方、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板がTFT基板の製造に用いられる場合、金属基材およびTFTの線熱膨張係数を考慮すると、線熱膨張係数の観点からは、SUS430よりさらに低線熱膨張係数のチタンやインバーが好ましい。ただし、線熱膨張係数のみでなく、耐酸化性、耐熱性、金属基材の展性および延性などに起因する箔の加工性や、コストも考慮に入れて選択するのが望ましい。
【0197】
本発明に用いられる金属基材の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、箔状や板状であってもよく、図3に例示するように金属基材1の電磁波剥離性粘着層側の形状が凹凸を有する形状であってもよい。特に、図3に例示するように本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板が有機EL素子基板の製造に用いられる場合には、金属基材1の電磁波剥離性粘着層側の形状が凹凸を有する形状であることが好ましい。上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を用いて有機EL素子基板等を製造した場合に、上記金属基材が空気との接触面に凹凸を有するものとすることができ、それにより、熱拡散が良好となり、放熱性を高めることができるからである。
【0198】
凹凸の形成方法としては、例えば金属基材の表面に直接、エンボス加工、エッチング加工、サンドブラスト加工、フロスト加工、スタンプ加工などの加工を施す方法、フォトレジスト等を用いて凹凸パターンを形成する方法が挙げられる。
【0199】
本発明に用いられる金属基材の作製方法としては、一般的な方法を用いることができ、金属材料の種類や金属基材の厚みなどに応じて適宜選択される。例えば、金属基材単体を得る方法であってもよく、ポリイミドフィルムからなる絶縁層上に金属材料を蒸着し、金属基材と絶縁層との積層体を得る方法であってもよい。中でも、ガスバリア性の観点から、金属基材単体を得る方法が好ましい。金属基材単体を得る方法の場合であって、金属基材が金属箔である場合、金属箔は圧延箔であってもよく電解箔であってもよいが、ガスバリア性が良好であることから、圧延箔が好ましい。
【0200】
4.その他
本発明に用いられる電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板は、上記電磁波剥離性粘着層、絶縁層および金属基材を少なくとも有するものであるが、必要に応じて他の構成を有するものであっても良い。このような他の構成としては、具体的には、上記電磁波剥離性粘着層の表面上に剥離フィルムが形成されていること、すなわち、上記電磁波剥離性粘着層の上記支持基板を貼り合わせる表面を保護する剥離フィルムを有するものとすることができる。
【0201】
上記剥離フィルムとしては、例えば、図4に例示するように、上記電磁波剥離性粘着層3の表面上に形成されるものであり、上記電磁波剥離性粘着層を上記支持基板に貼り合わせる前に、上記電磁波剥離性粘着層に他の部材が接着したり、ゴミが付着することを防ぎ、ハンドリング性を向上させることができるものであれば特に限定されるものではない。
このような剥離フィルムを構成する材料としては、電磁波照射前の上記電磁波剥離性粘着層に貼り合わせることができ、かつ、容易に剥離できるものであれば特に限定されるものではなく、種々の材料を用いることができる。
具体的には、接着面に、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂のいづれかの層を有するPETフィルムを用いることができ、なかでも、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂のいづれかの層を有するPETフィルムを好ましく用いることができる。特にハンドリング性に優れたものとすることができるからである。
【0202】
また、本発明においては、上記他の構成として、上記電磁波剥離性粘着層に貼り合わせられた支持基板を有するもの、より具体的には、図5に示すように、上記電磁波剥離性粘着層3の上記金属基材1が貼り合わせられている側の表面とは反対側の表面上に支持基板11が貼り合わされているものであることが好ましい。上記金属基材が可撓性を有する場合であっても、上記絶縁層上に有機ELやTFTなどの電子素子部を安定的に形成することができるからである。
なお、図5中における符号については、図2のものと同一のものである。
【0203】
本発明に用いられる支持基板は、上記電磁波剥離性粘着層と貼り合わすことができ、本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板が変形しないように支持するものである。
【0204】
このような支持基板を構成する材料としては、上記電磁波剥離性粘着層と貼り合わすことができ、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板が変形しないように支持できるものであり、かつ、電磁波を透過できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、透明樹脂基板、ガラスを挙げることができる。本発明においては、なかでも、透明性、耐熱性の観点からガラスであることが好ましい。
【0205】
本発明に用いられる支持基板の表面粗さRaとしては、上記絶縁層の表面を平滑なものとすることができるものであれば特に限定されるものではなく、上記金属基材等の厚み等に応じて異なるものであるが、具体的には、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらにより好ましい。
【0206】
本発明に用いられる支持基板の厚みとしては、上述の特性を満たすことができる厚みであれば特に限定されなく、製造プロセスで支障を生じない程度であれば、どのような厚さであってもよい。
【0207】
本発明における支持基板が貼り合わされる上記電磁波剥離性粘着層の領域としては、上記絶縁層が平滑とすることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、上記電磁波剥離性粘着層の全表面や上記電磁波剥離性粘着層の一部とすることができる。
本工程においては、なかでも、上記電磁波剥離性粘着層の全表面であることが好ましい。上記絶縁層をより平滑な状態で固定することができるからである。
【0208】
本発明において、上記支持基板を含む場合の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の製造方法としては、上記各構成を厚み精度良く形成できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、まず、金属基材、絶縁層および電磁波剥離性粘着層を含む電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を準備し、次いで、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の電磁波剥離性粘着層に、支持基板を貼り合わす方法や、上記金属基材および上記金属基材上に形成された絶縁層を有する絶縁積層体と、上記支持基板および上記支持基板上に形成された電磁波剥離性粘着層を有する電磁波剥離性支持基板と、を準備し、上記絶縁積層体に含まれる金属基材と、上記電磁波剥離性支持基板に含まれる電磁波剥離性粘着層とを貼り合わせる方法、支持基板、電磁波剥離性粘着層、金属基材および絶縁層をこの順で形成する方法等を挙げることができる。
本発明においては、なかでも、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の電磁波剥離性粘着層に、支持基板を貼り合わせる方法、または、上記金属基材および上記金属基材上に形成された絶縁層を有する絶縁積層体と、上記支持基板および上記支持基板上に形成された電磁波剥離性粘着層を有する電磁波剥離性支持基板と、を準備し、上記絶縁積層体に含まれる金属基材と、上記電磁波剥離性支持基板に含まれる電磁波剥離性粘着層とを貼り合わせる方法であることが好ましい。このような金属基材および支持基板をそれぞれ支持体とする積層体を準備し、貼り合わせる方法であることにより、工程通過性に優れ、上記電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を安定的に形成することができるからである。
【0209】
本発明の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の用途としては、TFT基板や有機EL素子基板に用いることができ、なかでも、TFTや有機EL素子等の電子素子部の劣化の少なく、高精度であることが要求されるTFT基板や有機EL素子に用いられることが好ましい。
なお、TFT基板としては、例えば、ディスプレイ装置のTFTアレイ基板として用いることができ、なかでも、優れたスイッチング特性が要求されるTFTアレイ基板に用いられることが好ましい。
このようなディスプレイ装置としては例えば、液晶表示ディスプレイ装置、有機ELディスプレイ装置、電子ペーパー等を挙げることができる。また、ディスプレイ装置以外には、RFIDなどの回路、およびセンサーを例示することができる。
また、電子素子部が有機EL素子である場合、用途としては、照明装置やパッシブマトリクス型有機EL表示装置が挙げられる。
【0210】
B.電子素子の製造方法
次に、本発明の電子素子の製造方法について説明する。
本発明の電子素子の製造方法は、可撓性を有する金属基材と、上記金属基材上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された電子素子部とを有する電子素子の製造方法であって、上記電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を準備する準備工程と、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の絶縁層上に電子素子部を形成する電子素子部形成工程と、上記電子素子部を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の上記電磁波剥離性粘着層に電磁波を照射する電磁波照射工程と、電磁波照射工程後の上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板から上記支持基板を剥離する剥離工程と、を有することを特徴とするものである。
【0211】
このような本発明の電子素子の製造方法について、図を参照して説明する。図6は本発明の電子素子の製造方法の一例を示す工程図である。図6に例示するように、本発明の電子素子の製造方法は、金属基材1と、上記金属基材1の一方の表面上に形成された絶縁層2と、上記金属基材1の他方の表面上に形成され、電磁波剥離性を有する電磁波剥離性粘着層3と、を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板10の電磁波剥離性粘着層3を、支持基板11に貼り合わせ、上記電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を準備する準備工程(図6(a))と、上記準備工程により電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板10の絶縁層2上に電子素子部として、TFT20を形成する電子素子部形成工程(図6(b))と、上記TFT20を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板10の上記電磁波剥離性粘着層3に電磁波を照射する電磁波照射工程(図6(c))と、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板から支持基板11を剥離する剥離工程(図6(d))と、を有し、電子素子としてTFT20を有するTFT基板30を得るものである。
なお、上記TFT20は、上記絶縁層3上に形成されたソース電極22Sおよびドレイン電極22Dならびに半導体層21と、上記ソース電極22Sおよびドレイン電極22Dならびに半導体層21上に形成されたゲート絶縁膜24と、上記ゲート絶縁膜24上に形成されたゲート電極23Gとを有している。
【0212】
本発明によれば、上記電子素子部を形成する基板として上述の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を用いることにより、上記電子素子部形成工程を、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板が安定な状態で行うことができる。このため、上記電子素子部を安定的に形成することができる。
また、電磁波照射工程を行うことにより、剥離工程において支持基板を容易に剥離し、電子素子を取出すことができるため、ハンドリング性に優れたものとすることができる。
【0213】
本発明の電子素子の製造方法は、上記準備工程、電子素子部形成工程、電磁波照射工程および剥離工程、を有するものである。
以下、本発明の電子素子の製造方法の各工程について説明する。
【0214】
1.準備工程
本発明における準備工程は、上述の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板、すなわち、上記電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を準備する工程である。
なお、上記電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板については、上記「A.電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板」の項に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0215】
本工程において、このような電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を準備する方法としては、各層が厚み精度良く形成されたものを準備できる方法であれば特に限定されるものではなく、上記「A.電磁波剥離性フレキシブルデバイス基板」の「4.その他」の項に記載の方法を用いることができるが、なかでも本工程においては、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の電磁波剥離性粘着層に、支持基板を貼り合わせる方法、または、上記金属基材および上記金属基材上に形成された絶縁層を有する絶縁積層体と、上記支持基板および上記支持基板上に形成された電磁波剥離性粘着層を有する電磁波剥離性支持基板と、を準備し、上記絶縁積層体に含まれる金属基材と、上記電磁波剥離性支持基板に含まれる電磁波剥離性粘着層とを貼り合わせる方法であることが好ましい。このような金属基材および支持基板をそれぞれ支持体とする積層体を準備し、貼り合わせる方法であることにより、工程通過性に優れ、上記電磁波剥離性粘着層上に支持基板を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を安定的に形成することができるからである。
本工程においては、必要に応じて、上記電磁波剥離性粘着層上に剥離フィルムが形成されている場合には、上記剥離フィルムを剥離する剥離フィルム剥離処理を行うものであっても良い。
【0216】
2.電子素子部形成工程
本発明における電子素子部形成工程は、上記準備工程により準備した上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の絶縁層上に電子素子部を形成する工程である。
【0217】
本工程において上記絶縁層上に形成される電子素子部としては、高い形成精度が要求されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、有機EL素子、TFTが挙げられる。以下、有機EL素子およびTFTに分けて説明する。
【0218】
(1)有機EL素子
本工程において形成される有機EL素子は、上記絶縁層上に形成された背面電極層と、上記背面電極層上に形成され、少なくとも有機発光層を含むEL層と、上記EL層上に形成された透明電極層とを有するものである。
このような有機EL素子について、図を参照して説明する。本発明に用いられる有機EL素子は、図7に例示するように、上記絶縁層上に形成される背面電極層41と、上記背面電極層41上に形成され、少なくとも有機発光層を含むEL層42と、上記EL層42上に形成された透明電極層43とを有している。上記有機EL素子40は、上記透明電極層43側から光Lを取り出すトップエミッション型となる。
【0219】
本工程は、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板が安定な状態で行うことができる。よって、上記電子素子部として有機EL素子を形成した場合には、上記有機EL素子を安定的に形成することができる。
また、上記電磁波剥離性粘着層に電磁波照射工程を行うことにより、剥離工程において容易に支持基板を剥離することができるため、例えば、加熱により硬化する熱剥離性樹脂を含む熱剥離性粘着層を用いた場合と比較し、上記電子素子部が高温に曝さらされ、熱劣化する等の不具合のないものとすることができることから、上記EL素子が高温に曝されないものとすることができる。その結果、熱によってEL層が劣化し、輝度ムラが生じたり素子寿命が短くなったりすることを抑制することができる。
また、このような電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を用いて有機EL素子基板を形成した場合には、上記金属基材を有するものとすることができることから、有機EL素子の発光時の熱を金属基材を通して放出することができることからも、上記EL素子が熱によっての劣化の少ないものとすることができる。
以下、このような有機EL素子の各構成について説明する。
【0220】
(a)背面電極層
本工程における背面電極層は、上記絶縁層上に形成されるものである。有機EL素子においては透明電極層側から光を取り出すため、背面電極層は透明性を有していてもよく有さなくてもよい。
【0221】
上記背面電極層の材料としては、導電性材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、Au、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、Cu、Mo、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属単体、これらの金属の酸化物、およびAlLi、AlCa、AlMg等のAl合金、MgAg等のMg合金、Ni合金、Cr合金、アルカリ金属の合金、アルカリ土類金属の合金等の合金などを挙げることができる。これらの導電性材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上を用いて積層させてもよい。また、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)等の導電性酸化物を用いることもできる。
【0222】
上記背面電極層は、絶縁層上に形成された金属電極と、金属電極層上に形成された透明電極とを有するものであってもよい。すなわち、背面電極層は、金属電極と透明電極とが積層されたものであってもよい。例えば、絶縁層上に、金属電極、透明電極、正孔注入輸送層、有機発光層、電子注入輸送層、および透明電極層が順に積層された有機EL素子とすることができる。この場合、背面電極層が金属電極と透明電極とが積層されたものであることで、透明電極にITO等の仕事関数が5.0eV近傍の導電性材料を使用することができ、この透明電極上に正孔注入輸送層を形成することで、電荷を輸送しやすくすることができる。また、透明電極の厚みを制御することにより、光路長を調整することが可能である。
上記金属電極の材料としては、上述の金属単体、これらの金属の酸化物、および合金などを用いることができる。また、透明電極の材料としては、上述の導電性酸化物を用いることができる。
【0223】
上記背面電極層は、一面に形成されていてもよく、パターン状に形成されていてもよい。本発明の電子素子を照明装置に用いる場合、背面電極層は一面に形成される。また、本発明の電子素子をパッシブマトリクス型有機EL表示装置に用いる場合、背面電極層はパターン状に形成される。
上記背面電極層の形成方法および厚みとしては、一般的な有機EL素子における電極と同様とすることができる。
【0224】
(b)EL層
本工程におけるEL層は、背面電極層上に形成され、有機発光層を含むものであり、少なくとも有機発光層を含む1層もしくは複数層の有機層を有するものである。すなわち、EL層とは、少なくとも有機発光層を含む層であり、その層構成が有機層1層以上の層をいう。通常、塗布法でEL層を形成する場合は、溶媒との関係で多数の層を積層することが困難であることから、EL層は1層もしくは2層の有機層を有する場合が多いが、溶媒への溶解性が異なるように有機材料を工夫したり、真空蒸着法を組み合わせたりすることにより、さらに多数層とすることも可能である。
【0225】
有機発光層以外にEL層内に形成される層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層および電子輸送層を挙げることができる。正孔注入層および正孔輸送層は一体化されている場合がある。同様に、電子注入層および電子輸送層は一体化されている場合がある。その他、EL層内に形成される層としては、キャリアブロック層のような正孔もしくは電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層等を挙げることができる。
このようにEL層は種々の層を積層した積層構造を有することが多く、積層構造としては多くの種類がある。
【0226】
EL層を構成する各層としては、一般的な有機EL表示装置に用いられるものと同様とすることができる。
【0227】
(c)透明電極層
本工程における透明電極層は、EL層上に形成されるものである。有機EL素子においては透明電極層側から光を取り出すため、透明電極層は透明性を有している。
【0228】
透明電極層の材料としては、透明電極を形成可能な導電性材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)等の導電性酸化物を用いることができる。
【0229】
透明電極層は、一面に形成されていてもよく、パターン状に形成されていてもよい。本発明の製造方法により製造される電子素子を照明装置に用いる場合、透明電極層は一面に形成される。また、本発明の製造方法により製造される電子素子をパッシブマトリクス型有機EL表示装置に用いる場合、透明電極層はパターン状に形成される。
透明電極層の形成方法および厚みとしては、一般的な有機EL素子における電極と同様とすることができる。
【0230】
(2)TFT
本工程において形成されるTFTは、上記絶縁層上に形成されるものである。
本工程においては、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板が上記支持基板に貼り合わせられ、固定された状態で行うことができ、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の変形を抑制することができる。このため、上記TFTを安定的に形成することができる。
また、上記電磁波剥離性粘着層は、電磁波照射工程を行うことにより容易に剥離工程を行うことができるため、例えば、加熱により硬化する熱剥離性樹脂を含む熱剥離性粘着層を用いた場合と比較し、上記電子素子部が高温に曝さらされ、熱劣化する等の不具合のないものとすることができることから、TFTが熱劣化し、トランジスタ特性が低下するのを抑制することができる。
【0231】
上記TFTの構造としては、例えば、既に説明した図6および図8に示すようなトップゲート構造(正スタガ型)、図9(a)および(b)に示すようなボトムゲート構造(逆スタガ型)、図10(a)および(b)に示すようなコプレーナ型構造を挙げることができる。トップゲート構造(正スタガ型)およびボトムゲート構造(逆スタガ型)の場合には、さらにトップコンタクト構造、ボトムコンタクト構造を挙げることができる。これらの構造は、TFTを構成する半導体層の種類に応じて適宜選択される。
なお、図8〜10中における符号については、図6のものと同一のものである。また、図9および10においては、保護層25が形成されている。
【0232】
上記TFTを構成する半導体層としては、絶縁層上に形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シリコン、酸化物半導体、有機半導体が用いられる。
【0233】
シリコンとしては、ポリシリコン、アモルファスシリコンを用いることができる。
酸化物半導体としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化マグネシウム亜鉛(MgZn1−xO)、酸化カドミウム亜鉛(CdZn1−xO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化インジウム(In)、酸化ガリウム(Ga)、酸化スズ(SnO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化タングステン(WO)、InGaZnO系、InGaSnO系、InGaZnMgO系、InAlZnO系、InFeZnO系、InGaO系、ZnGaO系、InZnO系を用いることができる。
有機半導体としては、例えば、π電子共役系の芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物等を挙げることができる。より具体的には、ペンタセン、テトラセン、チオフェンオリゴマ誘導体、フェニレン誘導体、フタロシアニン化合物、ポリアセチレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、シアニン色素等が挙げられる。
【0234】
中でも、半導体層は、上述の酸化物半導体からなる酸化物半導体層であることが好ましい。酸化物半導体は水や酸素の影響によりその電気特性が変化するが、金属基材が水蒸気に対するガスバリア性を有するため、半導体の特性劣化を抑制することができる。
上記半導体層の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0235】
上記TFTを構成するゲート電極、ソース電極およびドレイン電極としては、所望の導電性を備えるものであれば特に限定されるものではなく、一般的にTFTに用いられる導電性材料を用いることができる。このような材料の例としては、Ta、Ti、Al、Zr、Cr、Nb、Hf、Mo、Au、Ag、Pt、Mo−Ta合金、W−Mo合金、ITO、IZO等の無機材料、および、PEDOT/PSS等の導電性を有する有機材料を挙げることができる。
上記ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0236】
上記TFTを構成するゲート絶縁膜としては、一般的なTFTにおけるゲート絶縁膜と同様のものを用いることができ、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の絶縁性無機材料、および、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、カルド系樹脂、ビニル系樹脂、イミド系樹脂、ノボラック系樹脂等の絶縁性有機材料等の絶縁性有機材料を用いることができる。
上記ゲート絶縁膜の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0237】
上記TFT上には保護膜が形成されていてもよい。保護膜は、TFTを保護するために設けられるものである。例えば、半導体層が空気中に含有される水分等に曝露されることを防止することができる。保護膜が形成されていることにより、TFT性能の経時劣化を低減することができるのである。このような保護膜としては、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素が用いられる。
保護膜の形成方法および厚みとしては、一般的なものと同様とすることができる。
【0238】
3.電磁波照射工程
本発明における電磁波照射工程は、上記電子素子部を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の上記電磁波剥離性粘着層に電磁波を照射する工程である。
【0239】
本工程において、上記電磁波剥離性粘着層に電磁波を照射する方法としては、上記電磁波剥離性粘着層に含まれる電磁波剥離性粘着樹脂を硬化させ、被着体に対する粘着性を低下させ、剥離工程において支持基板を安定に剥離することができる方法であれば特に限定されるものではなく、上記電磁波剥離性粘着層の上記支持基板と貼り合わせられている接着領域の全ての領域に照射する方法や、上記接着領域の一部に照射する方法を用いることができる。
本発明においては、なかでも、上記接着領域の全ての領域に照射する方法であることが好ましい。上記電磁波剥離性粘着層の残存を抑制し、その後の加工性を良好なものとすることができるからである。
【0240】
また、上記電磁波の照射方向としては、上記電磁波剥離性粘着層に含まれる電磁波剥離性粘着樹脂が硬化し、被着体に対する粘着性を低下させることができる方法であれば特に限定されるものではなく、上記絶縁層側から、あるいは、上記支持基板側から電磁波を照射する方法を挙げることができるが、金属基材が電磁波を遮蔽するため、支持基板側から照射されることが好ましい。
【0241】
本工程において上記電磁波を照射する光源としては、一般的な電磁波光源を使用することができ、例えば、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0242】
4.剥離工程
本発明における剥離工程は、上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板から支持基板を剥離する工程である。
【0243】
本工程において、上記支持基板を剥離する方法としては、上記電子素子を安定的に取出すことができるものであれば特に限定されるものではなく、上記電子素子を固定した状態で、上記支持基板の端部から剥離する等の一般的な剥離方法を用いることができる。
【0244】
5.電子素子の製造方法
本発明の電子素子の製造方法は、上記準備工程、電子素子部形成工程、電磁波照射工程および剥離工程、を少なくとも有するものである。
【0245】
本発明によって製造される電子素子は、上記金属基材および絶縁層を有するものである。このような金属基材および絶縁層については、上記「A.電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板」の項に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0246】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0247】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
【0248】
[調製例1]
1.電磁波剥離性粘着樹脂の調製
アクリル系粘着剤組成物(商品名:E−306,アクリル系ポリマー(粘着剤主剤)+エネルギー線重合性オリゴマー+エネルギー線重合性モノマー+重合開始剤,アクリル系ポリマー:n−ブチルアクリレートとメチルメタクリレートと2−ヒドロキシエチルアクリレートとアクリロニトリルとの共重合体,構成モノマーの質量比:n−ブチルアクリレート+メチルメタクリレート+2−ヒドロキシエチルアクリレート/アクリロニトリル(95/5),アクリル系ポリマーの質量平均分子量:約65万,エネルギー線重合性オリゴマー:ポリウレタンアクリレートオリゴマー,エネルギー線重合性モノマー:ジペンタエリスリトールトリアクリレート,重合開始剤:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)100質量部に、架橋剤(商品名:L−45,イソシアネート系架橋剤,固形分45%,日本ポリウレタン株式会社製)5質量を配合し、トルエン及びメチルエチルケトンの混合溶媒(商品名:KT11,質量比1:1,DICグラフィックス株式会社製)87質量部で希釈し、十分に分散させて、電磁波剥離性粘着層形成用塗工液1を調製した。
【0249】
[電磁波剥離性粘着層の評価]
次いで、支持基板(無アルカリガラスOA−10GF(0.7mm厚 日本電気硝子社製))上に、乾燥後の膜厚が10μmとなるように、上記電磁波剥離性粘着層形成用塗工液1をアプリケータにより全面塗工し、粘着層を形成した。その後、80℃で15分間加熱した後、剥離シート(PETセパレータ,商品名:SP−PET−01,膜厚:38μm,三井化学東セロ株式会社製)をラミネートした。このようにして、電磁波剥離性粘着層1を有する電磁波剥離性粘着層形成ガラス基材1を作製した。
【0250】
ガラス基材(支持基板)上の電磁波剥離性粘着層1をサンプリングした後、熱分析装置(TG 8120((株)リガク製))を用いて、窒素雰囲気下で、昇温速度10℃/minで100℃まで上昇させた後、100℃で60分加熱した後、15分以上窒素雰囲気下で放冷した後、昇温速度10℃/minで測定した際の放冷後の重量を基準とした際の、熱重量・示差熱(TG−DTA)測定を行い、試料の重量が1%減る温度を測定したところ、236℃であった。
【0251】
[調製例2]
粘着剤組成物からなる硬化物の調製にあたり、次のような粘着剤組成物2を含む電磁波剥離性粘着層形成用塗工液2を調製した。塗工液は、1,3−ジオキソランを用いて、固形分濃度(重量%)が32.9%となるように電磁波剥離性粘着層形成用塗工液2が希釈されるように、室温で粘着剤組成物を1時間攪拌し完全に溶解させることで得られた。
【0252】
(粘着剤組成物2)
ポリエステル系樹脂:高分子量飽和共重ポリエステル樹脂(「NP−101S50EO」日本合成化学工業社製) 100重量部(固形分量で)
イソシアネート系架橋剤:トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート付加物(商品名「コロネートL」) 7.5重量部
ビスマレイミド系化合物:N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド(BMI−1) 5重量部
酸化防止剤:ヒンダード系酸化防止剤(商品名「IRGANOX1010」) 3重量部
フッ素系樹脂:フルオロエチレン/ビニルエーテル交互重合体(商品名「ルミフロンLF200」) 12重量部
エネルギー線重合性オリゴマー:ポリウレタンアクリレートオリゴマー:15重量部
エネルギー線重合性モノマー:ジペンタエリスリトールトリアクリレート:15重量部
重合開始剤:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン:5重量部
【0253】
次いで、支持基板(無アルカリガラスOA−10GF(0.7mm厚 日本電気硝子社製))上に、乾燥後の膜厚が10μmとなるように、上記電磁波剥離性粘着層形成用塗工液2をアプリケータにより全面塗工し、粘着層を形成した。その後、120℃で5分間加熱した後乾燥、剥離シート(PETセパレータ,商品名:SP−PET−01,膜厚:38μm,三井化学東セロ株式会社製)をラミネートした。このようにして、電磁波剥離性粘着層2を有する電磁波剥離性粘着層形成ガラス基材2を作製した。
【0254】
ガラス基材(支持基板)上の電磁波剥離性粘着層2をサンプリングした後、熱分析装置(TG 8120((株)リガク製))を用いて、窒素雰囲気下で、昇温速度10℃/minで100℃まで上昇させた後、100℃で60分加熱した後、15分以上窒素雰囲気下で放冷した後、昇温速度10℃/minで測定した際の放冷後の重量を基準とした際の、熱重量・示差熱(TG−DTA)測定を行い、試料の重量が1%減る温度を測定したところ、243℃であった。
【0255】
[調製例3]
熱硬化性ポリイミドとして、次のようにポリイミド(A)を合成し、さらにポリイミド(B)を合成した。
【0256】
<ポリイミド(A、B)の合成>
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物20.35g(0.090モル)、ポリオキシプロピレンジアミン(三井化学ファイン株式会社製、ジェファーミンD2000)118.81g(0.060モル)、N−メチル−2−ピロリドン91.50gを窒素気流下で加え合わせ、200℃に昇温して3時間イミド化反応を行い、ディーンスターク装置を用いて生成水を分離した。反応後、水の留出がないことを確認し、室温(23℃)まで放冷し反応物(ポリイミド(A))を得た。ポリイミド(A)の生成有無は、IRスペクトルを確認して、ν(C=O)1770、1706cm−1のイミド環の特性吸収を確認することで判定できる。次に、ポリイミド(A)に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル12.08g(0.060モル)、N−メチル−2−ピロリドン9.74gを加え、200℃に昇温して3時間イミド化反応を行い、ディーンスターク装置で生成水を分離した。イミド化反応後、水の留出が止まったことを確認し、反応生成物溶液を室温まで放冷し、反応生成物溶液中に反応物(ポリイミド(B))を得た。ポリイミド(B)の生成有無は、IRスペクトルから確認された。
【0257】
粘着剤組成物からなる硬化物の調整にあたり、次のような粘着剤組成物3を含む電磁波剥離性粘着層形成用塗工液3を調製した。塗工液は、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)と1,3−ジオキソランの混合液(混合液の混合比率は、体積比率でDMAc:1,3−ジオキソラン=30%:70%とした)を用いて、固形分濃度(重量%)が25%となるように電磁波剥離性粘着層形成用塗工液3が希釈されるように、室温で粘着剤組成物を1時間攪拌し完全に溶解させることでえられた。
【0258】
(粘着剤組成物3)
ポリイミド(B) :100重量部
架橋剤N,N’−(4,4’−ジフェニルメタン)ビスマレイミド: 15重量部
熱塩基発生剤(サンアプロ株式会社製、U−CAT 5002): 1重量部
酸化防止剤(チバ・ジャパン株式会社製、IRGANOX1098): 3重量部
エネルギー線重合性オリゴマー:ポリウレタンアクリレートオリゴマー:15重量部
エネルギー線重合性モノマー:ジペンタエリスリトールトリアクリレート:15重量部
重合開始剤:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン):5重量部
【0259】
次いで、支持基板(無アルカリガラスOA−10GF(0.7mm厚 日本電気硝子社製))上に、乾燥後の膜厚が10μmとなるように、上記電磁波剥離性粘着層形成用塗工液3をアプリケータにより全面塗工し、粘着層を形成した。その後、180℃で5分間加熱した後乾燥、剥離シート(PETセパレータ,商品名:SP−PET−01,膜厚:38μm,三井化学東セロ株式会社製)をラミネートした。このようにして、電磁波剥離性粘着層3を有する電磁波剥離性粘着層形成ガラス基材3を作製した。
【0260】
ガラス基材(支持基板)上の電磁波剥離性粘着層3をサンプリングした後、熱分析装置(TG 8120((株)リガク製))を用いて、窒素雰囲気下で、昇温速度10℃/minで100℃まで上昇させた後、100℃で60分加熱した後、15分以上窒素雰囲気下で放冷した後、昇温速度10℃/minで測定した際の放冷後の重量を基準とした際の、熱重量・示差熱(TG−DTA)測定を行い、試料の重量が1%減る温度を測定したところ、341℃であった。
【0261】
[実施例1]
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA) 4.0g(20mmol)とパラフェニレンジアミン(PPD) 8.65g(80mmol)とを500mlのセパラブルフラスコに投入し、200gの脱水されたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させ、窒素気流下、オイルバスによって液温が50℃になるように熱電対でモニターし加熱しながら撹拌した。それらが完全に溶解したことを確認した後、そこへ、少しずつ30分かけて3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸2無水物(BPDA) 29.1g(99mmol)を添加し、添加終了後、50℃で5時間撹拌した。その後室温まで冷却し、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0262】
15cm角に切り出した厚さ20μmのSUS304箔(東洋精箔社製)の表面に、上記ポリイミド前駆体溶液をダイコーターでコーティングし、80℃のオーブン中、大気下で60分乾燥させた後、窒素雰囲気下、350℃、1時間熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚10μmのポリイミド膜(絶縁層)を形成し、薄膜デバイス基材1を得た。薄膜デバイス基材1は、温度や湿度環境の変化に対しても反りが発生しなかった。
【0263】
次いで、薄膜デバイス基材1上に、乾燥後の膜厚が10μmとなるように、上記電磁波剥離性粘着層形成用塗工液1をアプリケータにより全面塗工し、電磁波剥離性粘着層を形成した。その後、80℃で15分間加熱した後、剥離シート(PETセパレータ,商品名:SP−PET−01,膜厚:38μm,三井化学東セロ株式会社製)をラミネートした。このようにして、電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板1を作製した。
【0264】
[実施例2]
薄膜デバイス基材1上に、乾燥後の膜厚が10μmとなるように、上記電磁波剥離性粘着層形成用塗工液2をアプリケータにより全面塗工し、電磁波剥離性粘着層を形成した。その後、120℃で5分間加熱した後、剥離シート(PETセパレータ,商品名:SP−PET−01,膜厚:38μm,三井化学東セロ株式会社製)をラミネートした。このようにして、電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板2を作製した。
【0265】
[実施例3]
薄膜デバイス基材1上に、乾燥後の膜厚が10μmとなるように、上記電磁波剥離性粘着層形成用塗工液3をアプリケータにより全面塗工し、電磁波剥離性粘着層を形成した。その後、180℃で5分間加熱した後乾燥、剥離シート(PETセパレータ,商品名:SP−PET−01,膜厚:38μm,三井化学東セロ株式会社製)をラミネートした。このようにして、電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板3を作製した。
【0266】
[実施例4]
電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板1の剥離シートを剥がした後、粘着層を下側にして、支持基板(無アルカリガラスOA−10GF(0.7mm厚 日本電気硝子社製))上に、支持基板が上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の電磁波剥離性粘着層に接触するように配置し、2kgのローラーを用いてラミネートし、常温常湿下にて20分間放置した後、150℃にて60分間加熱した。
【0267】
上記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板に含まれるポリイミド膜(絶縁層)に下記のデバイス素子を積層した。第1密着層としてのアルミニウム膜をDCスパッタリング法(成膜圧力0.2Pa(アルゴン)、投入電力1kW、成膜時間10秒)により厚さ5nmで形成した。次いで、第2密着層としての酸化シリコン膜をRFマグネトロンスパッタリング法(成膜圧力0.3Pa(アルゴン:酸素=3:1)、投入電力2kW、成膜時間30分)により厚さ100nmで形成してフレキシブルデバイス用基板を得た。
【0268】
次いで、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造のTFTを上記フレキシブルデバイス用基板上に作製した。まず、厚さ100nmのアルミニウム膜をゲート電極膜として成膜した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後に燐酸溶液でウェットエッチングし、アルミニウム膜を所定パターンにパターニングしてゲート電極を形成した。次に、そのゲート電極を覆うように厚さ300nmの酸化ケイ素をゲート絶縁膜として全面に形成した。このゲート絶縁膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、6インチのSiOターゲットに投入電力:1.0kW(=3W/cm)、圧力:1.0Pa、ガス:アルゴン+O(50%)の成膜条件で形成した。この後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後にドライエッチングを施し、コンタクトホールを形成した。次に、ゲート絶縁膜上の全面に厚さ100nmのチタン膜、アルミニウム膜、IZO膜をソース電極及びドレイン電極とするために蒸着した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後に過酸化水素水溶液、燐酸溶液で連続的にウェットエッチングし、チタン膜を所定パターンにパターニングしてソース電極及びドレイン電極を形成した。このとき、ソース電極及びドレイン電極は、ゲート絶縁膜上であってゲート電極の中央部直上以外に離間したパターンとなるように形成した。
【0269】
次に、ソース電極及びドレイン電極を覆うように、全面に、In:Ga:Znが1:1:1のInGaZnO系アモルファス酸化物薄膜(InGaZnO)を厚さ25nmとなるように形成した。アモルファス酸化物薄膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、室温(25℃)、Ar:Oを30:50とした条件下で、4インチのInGaZnO(In:Ga:Zn=1:1:1)ターゲットを用いて形成した。その後、アモルファス酸化物薄膜上にレジスト層をスピンコートにより塗布し、ホットプレートにより乾燥後、レジストパターンをフォトリソグラフィーで形成した後、シュウ酸溶液でウェットエッチングし、そのアモルファス酸化物薄膜をパターニングし、所定パターンからなるアモルファス酸化物薄膜を形成した。こうして得られたアモルファス酸化物薄膜は、ゲート絶縁膜上であってソース電極及びドレイン電極に両側で接触するとともに該ソース電極及びドレイン電極を跨ぐように形成されていた。続いて全体を覆うように、厚さ100nmの酸化ケイ素を保護膜としてRFマグネトロンスパッタリング法で形成した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後にドライエッチングを施した。
次いで、大気中200℃1時間のアニールを施した後、アクリル系のポジ型レジストを用いてELの隔壁層を形成し、TFT基板を作製した。このTFT基板上に白色となるようにEL層を蒸着した後、電極としてIZO膜を蒸着し、バリアフィルムを用いてELの封止を行った。
【0270】
ガラス基材側からフュージョン社製のH・バルブランプを光源とする紫外線を照射(積算光量:500mj/cm)した後、作製したフレキシブルデバイスをガラス板(支持基板)から剥離した。その後、次にPENフィルム上に形成したフレキシブルなカラーフィルターを貼り合わせ、フレキシブルな対角4.7インチ、解像度85dpi、320×240×RGB(QVGA)のアクティブマトリックス駆動のフルカラーELディスプレイを作製した。作製したフルカラーELディスプレイについて、スキャン電圧15V、ベータ電圧10V、電源電圧10Vにて作動を確認した。
【0271】
[実施例5]
電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板1の代わりに電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板2を用いた以外は素子の実施例4と同様の方法により、EL素子を作製した。
【0272】
[実施例6]
電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板1の代わりに電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板3を用いた以外は素子の実施例4と同様の方法により、EL素子を作製した。
【0273】
[実施例7]
電磁波剥離性粘着層形成ガラス基材1の剥離シートを剥がした後、粘着層の上に上記薄膜デバイス基材1をSUS304箔の露出面がガラス基材上の電磁波剥離性粘着層に接触するように配置し、2kgのローラーを用いてラミネートし、常温常湿下にて20分間放置した後、150℃にて60分間加熱した。これにより、電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板4(支持基板付電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板)を得た。
以降は素子の実施例4と同様の方法により、EL素子を作製した。
【0274】
[実施例8]
電磁波剥離性粘着層形成ガラス基材2の剥離シートを剥がした後、粘着層の上に上記薄膜デバイス基材1をSUS304箔の露出面がガラス基材上の電磁波剥離性粘着層に接触するように配置し、2kgのローラーを用いてラミネートし、常温常湿下にて20分間放置した後、150℃にて60分間加熱した。これにより、電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板5(支持基板付電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板)を得た。
以降は素子の実施例4と同様の方法により、EL素子を作製した。
【0275】
[実施例9]
電磁波剥離性粘着層形成ガラス基材3の剥離シートを剥がした後、粘着層の上に上記薄膜デバイス基材1をSUS304箔の露出面がガラス基材上の電磁波剥離性粘着層に接触するように配置し、2kgのローラーを用いてラミネートし、常温常湿下にて20分間放置した後、150℃にて60分間加熱した。これにより、電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板6(支持基板付電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板)を得た。
以降は素子の実施例4と同様の方法により、EL素子を作製した。
【0276】
[比較例]
薄膜デバイス基材1に含まれるポリイミド膜(絶縁層)に下記のデバイス素子を積層した。第1密着層としてのアルミニウム膜をDCスパッタリング法(成膜圧力0.2Pa(アルゴン)、投入電力1kW、成膜時間10秒)により厚さ5nmで形成した。次いで、第2密着層としての酸化シリコン膜をRFマグネトロンスパッタリング法(成膜圧力0.3Pa(アルゴン:酸素=3:1)、投入電力2kW、成膜時間30分)により厚さ100nmで形成してフレキシブルデバイス用基板を得た。
【0277】
次いで、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造のTFTを上記フレキシブルデバイス用基板上に作製した。まず、厚さ100nmのアルミニウム膜をゲート電極膜として成膜した後、レジストパターンをフォトリソグラフィー法で形成した後に燐酸溶液でウェットエッチングする際に、基板に折れが生じ、アルミニウム膜を所定パターンにパターニングすることが不可能であった。
【符号の説明】
【0278】
1 … 金属基材
2 … 絶縁層
3 … 電磁波剥離性粘着層
10 … 電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板
11 … 支持基板
20 … TFT
21 … 半導体層
22S … ソース電極
22D … ドレイン電極
23G … ゲート電極
24 … ゲート絶縁層
25 … 保護層
30 … TFT基板
40 … 有機EL素子
41 … 背面電極層
42 … EL層
43 … 透明電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する金属基材と、
前記金属基材の少なくとも一方の表面上に形成された絶縁層と、
前記金属基材の他方の表面上に形成され、電磁波剥離性を有する電磁波剥離性粘着樹脂を含む電磁波剥離性粘着層と、
を有することを特徴とする電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板。
【請求項2】
前記電磁波剥離性粘着樹脂が、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤およびポリイミド系粘着剤のいずれかと、電磁波重合性モノマーまたは電磁波重合性オリゴマーと、電磁波重合開始剤と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板。
【請求項3】
前記電磁波剥離性粘着樹脂の1%重量減少温度が200℃以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板。
【請求項4】
前記絶縁層が、ポリイミド樹脂を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板。
【請求項5】
前記ポリイミド樹脂が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するものであることを特徴とする請求項4に記載の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板。
【化1】

(式(1)中、R1は4価の有機基、R2は2価の有機基であり、繰り返されるR1同士およびR2同士はそれぞれ同じであってもよく異なっていてもよい。nは1以上の自然数である。)
【請求項6】
前記電磁波剥離性粘着層の表面上に剥離フィルムが形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板。
【請求項7】
前記電磁波剥離性粘着層に支持基板が貼り合わされていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板。
【請求項8】
可撓性を有する金属基材と、前記金属基材上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に形成された電子素子部とを有する電子素子の製造方法であって、
請求項7に記載の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板を準備する準備工程と、
前記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の絶縁層上に電子素子部を形成する電子素子部形成工程と、
前記電子素子部を有する電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の前記電磁波剥離性粘着層に電磁波を照射する電磁波照射工程と、
電磁波照射工程後の前記電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板から前記支持基板を剥離する剥離工程と、
を有することを特徴とする電子素子の製造方法。
【請求項9】
前記準備工程が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の電磁波剥離性フレキシブルデバイス用基板の電磁波剥離性粘着層に、支持基板を貼り合わせるものであることを特徴とする請求項8に記載の電子素子の製造方法。
【請求項10】
前記準備工程が、前記金属基材および前記金属基材上に形成された絶縁層を有する絶縁積層体と、前記支持基板および前記支持基板上に形成された電磁波剥離性粘着層を有する電磁波剥離性支持基板と、を準備し、前記絶縁積層体に含まれる金属基材と、前記電磁波剥離性支持基板に含まれる電磁波剥離性粘着層とを貼り合わせるものであることを特徴とする請求項8に記載の電子素子の製造方法。
【請求項11】
前記電子素子部が、前記絶縁層上に形成された背面電極層と、前記背面電極層上に形成され、少なくとも有機発光層を含むエレクトロルミネッセンス層と、前記エレクトロルミネッセンス層上に形成された透明電極層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれかの請求項に記載の電子素子の製造方法。
【請求項12】
前記電子素子部が、前記絶縁層上に形成された薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれかの請求項に記載の電子素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−77521(P2013−77521A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218104(P2011−218104)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】