説明

音響センサ

【課題】静電容量型の音響センサにおいて、小型化、耐ノイズ性の向上、及び高感度化を実現すると共に安価なものとする。
【解決手段】本実施形態の音響センサ1は、シリコン基板2に形成され音響によって振動する振動板3と、振動板3に対向するバックプレート4とを有し、両者間の容量変化を検出することによって音響を検出するセンサであって、容量変化の信号を受信して増幅する増幅部が参照するための容量成分10を基板2上に備えている。参照用の容量成分10は、半導体構造から成り、音響センサ1の本体の音響検知部を形成する材料と製造プロセスとによって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気等を媒体として伝わる可聴音や超音波などの音響を検知する静電容量型の音響センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音響によって対向電極型のコンデンサ、例えば、平行平板コンデンサ、の一方の電極を振動させ、音響圧力の変化をコンデンサの静電容量の電気的変化に変換して音響検出を行う音響センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような静電容量型の音響センサは、例えば、振動板、バックプレート、接続部、及び基板を構成要素としている。振動板とバックプレートは、互いに電気絶縁状態で接続部によって空隙を隔てて配置されると共に基板に保持されて平行平板コンデンサを形成する。振動板とバックプレートのそれぞれの少なくとも一部は、対向電極とするため導体である。接続部は、振動板の振動を妨げないように振動板とバックプレートの周辺において両者を支持する。基板の一部が、振動板又はバックプレートを構成することがある。また、このような音響センサは、音響を電気信号に変換する他に、電気信号を音響に変換することもでき、いわゆる、双方向の音響電気トランスデューサとして機能する。
【特許文献1】特開平6−217396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような、また、特許文献1に示されるような静電容量型の音響センサにおいては、これを携帯機器や補聴器などに用いる場合、要求される小型化を実現するには音響検出のための静電容量を構造上の制約から1pFレベル程度の小さなものにせざるを得ず、このため、配線の引き回しによる電磁ノイズや信号配線と接地ラインとの間に生じる寄生容量成分の影響を受けて、感度やSN比が低下するという問題がある。
【0005】
上述のような微小な静電容量の変化によって生じるわずかな電流を検知するため、電界効果トランジスタ(FET)を入力段に備えたプリアンプやオペアンプなどの増幅回路が用いられる。しかしながら、これらの増幅回路だけではノイズや寄生容量の影響を十分に排除できず、差動増幅器や電気量に比例した電圧を出力するチャージアンプ式の増幅器を用いてノイズ低減や寄生成分の排除が行われる。このような増幅器を用いる場合に、参照用の容量成分が用いられる。従って、音響センサの耐ノイズ性などの性能は、この参照用の容量成分の容量値の製造バラツキや温度変化による容量値変動の影響を受けてしまい、製品特性の安定した性能の良い音響センサを製造性良く安価に作ることが難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解消するものであって、小型化、耐ノイズ性の向上、及び高感度化を実現し、かつ、安価な静電容量型の音響センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、シリコン基板に形成され音響によって振動する振動板と、前記振動板に対向するバックプレートとを有し、前記両者間の容量変化を検出することによって前記音響を検出する音響センサにおいて、前記容量変化の信号を受信して増幅する増幅部が参照するための容量成分を前記基板上に備えたものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の音響センサにおいて、前記参照用の容量成分は、半導体構造から成るものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載の音響センサにおいて、前記参照用の容量成分は、半導体構造間に高誘電率材料を挿入して成るものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2に記載の音響センサにおいて、前記参照用の容量成分は、音響センサ本体を形成する材料によって形成されているものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の音響センサにおいて、前記参照用の容量成分は、前期増幅部が差動増幅器の場合に、前記振動板とバックプレート間の容量変化の信号を入力する差動増幅入力端子とは別の差動増幅入力端子に接続して用いられるものである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の音響センサにおいて、前記参照用の容量成分は、前記増幅部の帰還ループに用いられるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、増幅部が用いる参照用の容量成分を音響センサ本体と共に基板上に備えるので、音響センサ本体が受ける温度変動などの影響を参照用の容量成分が同様に受けることになり、参照用の容量成分によって温度補償をすることができ、小型化した場合においても、耐ノイズ性の向上と高感度化を実現した音響センサを提供できる。また、参照用の容量成分を、振動板やバックプレートなどからなる音響検出用の容量成分の形成と同時に形成することができるので、製造上の寸法バラツキなどの影響が両方の容量成分に対して同様に作用し、従って、音響センサ全体として寸法バラツキの影響を低減でき、結果として、出力が安定化し、小型化、耐ノイズ性の向上、及び高感度化を実現できる。
【0014】
請求項2の発明によれば、参照用の容量成分を音響センサ本体を形成するシリコン半導体プロセスによって同時に形成できるので、音響センサを安価に製造できる。
【0015】
請求項3の発明によれば、比誘電率を高くすることにより、同じ静電容量値を実現する面積を小さくでき、従って、参照用の容量成分を小さい面積で実現でき、音響センサの小型ができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、参照用の容量成分を音響センサ本体を形成するシリコン半導体プロセスによって同時に形成できるので、音響センサ全体としての性能のバラツキを一定レベルに抑えることができ、また、工程数も増えず、製造性も良く、高感度な音響センサを安価に実現できる。
【0017】
請求項5の発明によれば、音響センサ本体と参照用の容量成分とが、周囲環境からの電磁ノイズの影響を共通にいわゆるコモンノイズとして受けるので、差動増幅によってコモンノイズ成分を除去して、低ノイズで安定した出力の音響センサ実現できる。
【0018】
請求項6の発明によれば、音響検知用の静電容量の変動分のみを増幅する、いわゆるチャージアンプ式の増幅を行うことができるので、例えば、信号線と接地(グランド)との間に生じる寄生容量の影響を排除でき、高感度化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る静電容量型の音響センサについて、図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1(a)(b)は本発明の第1の実施形態に係る静電容量型の音響センサ1を示し、図2、図3は音響センサ1の外観を示す。本実施形態の音響センサ1は、シリコン基板2に形成され音響によって振動する振動板3と、振動板3に対向するバックプレート4とを有し、両者間の静電容量の変化を検出することによって音響を検出するセンサであって、容量変化の信号を受信して増幅する増幅部が参照するための容量成分10(静電容量素子)を基板2上に備えている。この参照用の容量成分10は、半導体構造から成り、振動板3とバックプレート4とを備える音響センサ本体(音圧検知部)を形成する材料と製造プロセスによって形成されている。
【0021】
次に、音響センサ1の各構成要素を説明する。なお、音響センサ1の製造工程については後述する(図4)。シリコン基板2(基板2と略す)は、平面視において略四角形状の枠体(フレーム)に凹部21と振動板とが形成されたものであり、枠体が音響センサ1の形を保持し、凹部21が音響を振動板3に導く。凹部21の底面が振動板3となっている。すなわち、振動板3の一面を凹部21に臨ませて振動板3の周囲を基板2が保持した構造になっている。凹部21に臨む振動板3が凹部21の開口側から伝播する音響によって振動する。
【0022】
凹部21は、例えば、シリコンウエハを半導体プロセスによりエッチング加工して形成される。本実施形態の凹部21は、四角錐台の形状をしており、シリコンの結晶異方性を利用したエッチングで形成される。また、結晶異方性を利用しない場合、例えば、ドライプロセス等の加工方法を用いる場合、凹部21の形状は、四角とは限らず、円形のマスク形状によって円形とするなど、所望の形状とすることができる。基板2は、材料がシリコンであり、外形大きさは一辺が1mm〜2mm程度の四角形であり、厚さは0.5mm程度である。
【0023】
振動板3は、外部から到達する音響の有する微小な音圧変化によって振動する部材であり、かつ、バックプレート4と共に平行板コンデンサを形成する部材である。振動板3は、平面視において一辺が約1.0mm程度の略四角形状をなし、断面視において基板2の枠体に比べ厚さが十分薄く、外部から到達する音響の有する微小な音圧変化によって振動するように、例えば、1〜2μm程度に形成されている。振動板3を形成する基板2は、例えば、抵抗率が1×10+3(Ω・cm)以上の高抵抗のシリコン基板である。このような高抵抗材から形成した振動板3は、その中央部を導体化され、平行板コンデンサの対向電極となる導体部31が形成される。
【0024】
上述の導体部31は、振動板3の中央部約0.5mm程度の略四角形の領域を、例えばリン等の不純物元素を半導体拡散プロセスによりドーピングすることで導体化されている。導体部31の抵抗率は、1×10−3(Ω・cm)以下が望ましい。これにより高抵抗の半導体基板との抵抗率の違いが10倍以上となり、効果的に導体部31の領域を限定できる。
【0025】
振動板3側のコンデンサ電極、すなわち導体部31、から電気信号を外部に出力するため、導体部31から延設したドーピング部による回路32と、回路32の終端部に配置した接続パッド33が形成されている。接続パッド33は、例えば、音響センサを実装基板に実装する際に、ワイヤボンディング用パッドとして用いられる。
【0026】
バックプレート4は、その主要部分が平面視において略四角形状であり、導電性を有する材料によって形成され、音響によって振動する振動板3、すなわち振動電極、に対する固定電極となっており、振動板3と共に平行板コンデンサを形成して音響による音圧変化を容量の変化として検出可能とする。また、バックプレート4は、その周辺部から空気が自在に流入又は流出するように、さらに、寄生容量の発生を抑えるように、最小限の外形寸法とされている。
【0027】
また、バックプレート4は、空気圧を受けて振動しないように、さらに、振動板3が音響に応じて遅滞なく自在に振動するように、振動板3とバックプレート4の間の空気を逃がして空気抵抗を減らす空気流通用の貫通孔、いわゆるアコースティックホール41を複数備えている。アコースティックホール41は、一辺が10μm程度の略四角形をしており、エッチング等の半導体プロセスにより形成される。アコースティックホール41は、音圧に対して振動板3を自由に変位可能とする。さらに、アコースティックホール41の形状や個数を適切に設計することにより、振動板3の過度な共振を抑制し、広帯域かつフラットな感度特性を有する音響センサ1を実現できる。
【0028】
バックプレート4の材料は、例えばCVD等の方法で成膜したポリシリコンであり、高抵抗のポリシリコンに導電性を付与するために不純物のドーピングが行われる。また、バックプレート4から電気信号を取り出すために、ワイヤーボンディングなどに用いる接続パッド42が設けられている。
【0029】
また、バックプレート4は、1つ以上の絶縁性のある接続部5を介して基板2上に構成されている。この接続部5は、振動板3とバックプレート4の間にあって、両者を電気絶縁した状態で一定の距離に保つものである。接続部5の材料は、例えば、半導体プロセスでは、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜などを用いることができる。バックプレート4と振動板3とは、接続部5の高さによって隙間が調整される。その隙間は、例えば、音響センサ1の特性設計に応じて1〜10μm以下程度とされる。接続部5は、本実施形態では、隙間から外部に出入りする空気の流通を妨げないように、最少の2ヶ所とされている。
【0030】
参照用の容量成分10は、シリコン基板2に不純物をドーピングして形成した導体化層から成る下部電極11、下部電極11の上に積層したシリコン酸化膜12、及びシリコン酸化膜の上に積層した上部電極13、を備えて、静電容量C2(図5の回路図)を有する。すなわち、容量成分10は、いわゆる、半導体構造を用いて構成されている。また、電極11,13間に挿入する誘電体は、比誘電率が空気の約4倍程度の高誘電率材料であるシリコン酸化膜12が用いられている。
【0031】
また、容量成分10は、外部回路への接続用に、上部電極13の上部に設けた接続パッド14と、下部電極11の導電下層から延設したドーピング部による回路15と、その端部に設けた接続パッド16とを備えている。
【0032】
このような容量成分10の構造は、振動板3、バックプレート4、及び接続部を備えて音響信号を検出する音響センサ本体と同一の製造プロセスと同一材料を用いて、同時に形成される。つまり、下部電極11は導体部31の形成と同時にドーピングすることにより形成され、シリコン酸化膜12は、接続部5と同時に形成され、上部電極13は、バックプレート4と同時に形成される。また、容量成分10の形状と配置は、音響センサ本体の形成に用いる露光用マスクなどに、容量成分10用のマスクパターンを組み込むことによって容易に行える。例えば、容量成分10の静電容量の大きさは、下部電極11と上部電極13のパターン形成用マスク形状を変更することにより所望の値が得られる。
【0033】
また、電極11,13間に挿入するシリコン酸化膜12の比誘電率が空気の約4倍程度あることから、容量成分10の小型化が可能である。例えば、音響センサ本体の静電容量C1(図5)と同程度の容量値を容量成分10に形成する場合、電極11,13の面積が導体部31の面積の大略1/4の面積で済むことになる。
【0034】
また、必要面積が広くなるが、シリコン基板2上に、音響センサ本体と同一寸法の半導体構造を同時に形成することにより、音響センサ本体と同等の静電容量を有する振動しない容量成分10を実現することができる(不図示)。この場合の容量成分10は、寸法や構造が音響センサ本体と同等であるので、温度変化などの環境変化に対して互いに同等の容量変動を生じるので、温度補償などに用いる参照容量として有効である。
【0035】
次に、図4(a)〜(d)を参照して、第1の実施形態の音響センサ1の製造工程を説明する。上述の、基板2に形成した、振動板3、導体部31、接続部5、バックプレート4、容量成分10などの構造は、半導体プロセスによって、薄膜の積層、高抵抗体の低抵抗体化(導体化)、エッチングによる形状形成などの工程を経て形成され、最終の3次元形状の音響センサ1とされる。また、音響センサ1は、一枚の広いシリコン基板に多数個が一括して製造され、最後にシリコン基板のダイシングによって個片化されて多数の音響センサ1が得られる、いわゆる多数個取りの製造方法によって製造される。
【0036】
音響センサ1は、図4(a)のドーピングを含む成膜工程と、その後のエッチング工程の、大略2段階で製造される。まず、図4(a)に示す積層構造が形成される。すなわち、シリコン基板2の導体部31となる領域、及び下部電極11となる領域が、不純物のドーピングにより導体化され、これらの領域を含む基板2の全面に、シリコン酸化膜50がCVD等の方法で形成され、その上に、バックプレート4形成用のポリシリコン層40が形成され、さらに、ポリシリコン層40がドーピングにより導体化される。
【0037】
シリコンからなる基板2は、前述したように、抵抗率が1×10+3(Ω・cm)以上の高抵抗であり、ドーピングによって導体化された導体部31は、抵抗率が1×10−3(Ω・cm)以下とされる。ドーピングには、例えば、ボロン(元素記号B)やリン(元素記号P)を不純物として用いることができる。
【0038】
シリコン酸化膜50は、一部は接続部5として残されるが、大部分は、上層のポリシリコン層40(バックプレート4)を立体的に形成するために、エッチングによって除去される、いわゆる犠牲層である。
【0039】
上述の導体化されたポリシリコン層40は、図4(b)に示すように、不要なポリシリコン部をエッチングによって除去され、貫通孔であるアコースティックホール41を備えたバックプレート4と、上部電極13とが形成される。これらのバックプレート4と上部電極13とは、全体が導電体であり、それぞれ、コンデンサの電極となる。
【0040】
次に、図4(c)に示すように、基板2の下側面にエッチングによって凹部21が形成される。このエッチングによって、基板2の上面である凹部21の底面が、振動板3として形成される。
【0041】
次に、図4(d)に示すように、フッ酸等の水溶液を用いてシリコン酸化膜50を等方的にエッチングすることにより、バックプレート4と振動板3との間に所定の隙間を確保する共に、接続部5と容量成分10のシリコン酸化膜12とを残す3次元構造が形成される(いわゆる犠牲層エッチング)。等方性エッチングでは、水溶液に接している被エッチング部のエッチングが略一様に進行する。そこで、アコースティックホール41の貫通孔は、バックプレート4の下層のシリコン酸化膜50(犠牲層)をエッチング除去する際のエッチング液供給孔として機能する。この犠牲層エッチングの後、接続パッド42,14等の形成やダイシングによる個片化などの後処理が行われ、音響センサ1が完成する。
【0042】
次に、図5の増幅回路を参照して、音響センサ1の動作を説明する。音響センサ1の音響検出信号は、例えば、図5に示した演算増幅器OPを用いる増幅回路によって増幅される。音響センサ本体(音圧検知部)の容量成分と参照用の容量成分10は、この増幅回路において、それぞれの等価回路である静電容量C1と静電容量C2で示されている。演算増幅器OPの反転増幅端子には、静電容量C1の一端(接続パッド33)が接続され、静電容量C1の他端(接続パッド42)は、直列接続した抵抗R1と直流電源Eを介してグランドに接続されている。また、演算増幅器OPの非反転増幅端子には、参照用の容量成分10すなわち静電容量C2の一端(接続パッド14)が接続され、静電容量C2の他端(接続パッド16)はグランドに接続されている。また、演算増幅器OPの反転増幅端子には帰還用の抵抗R2が接続されている。
【0043】
上述の増幅回路(差動増幅回路)において、音響センサ1に到来する音響の作用によって変化する静電容量C1の変化は、参照用の静電容量C2を基準にして検出されて増幅される。基準とされる参照用の静電容量C2は、音響センサ1において、音響センサ本体の静電容量C1と共に、同一のシリコン基板2上に同一のプロセスによって形成されている。すなわち、容量成分10は、振動板3とバックプレート4からなる音響検出用の容量成分(すなわち音響センサ本体)の形成と同時に形成されている。
【0044】
従って、静電容量C1と静電容量C2とは、製造上の寸法バラツキなどの影響が両方の容量成分に対して同様に作用し、それぞれの平行板コンデンサを形成する電極の面積や厚み、電極間の距離などの寸法が、共に大きく成ったり共に薄く成ったりする共通のバラツキ要因のもとで形成される。図5に示した増幅回路において、バラツキ要因が同じ製造条件のもとで形成された静電容量C1,C2の容量の差分を増幅して、音響センサ1の出力として取り出すので、製造バラツキに基づく信号劣化要因がキャンセルされ、安定した出力が得られると共に、外来電磁ノイズ成分を同等の効果でキャンセルでき、SN比の良好な音響センサ1を実現でき、小型化、耐ノイズ性の向上、及び高感度化を実現できる。
【0045】
また、音響センサ1は、増幅部が用いる参照用の容量成分10を音響センサ本体と共に同一基板2上に備えるので、音響センサ本体が受ける温度変動などの影響を参照用の容量成分10が同様に受けることになり、参照用の容量成分10によって温度補償をすることができる。また、音響センサ本体と参照用の容量成分とが、周囲環境からの電磁ノイズの影響を共通にコモンノイズとして受けるので、差動増幅によってコモンノイズ成分を除去して、低ノイズで安定した出力の音響センサ実現できる。従って、音響センサを小型化した場合においても、耐ノイズ性の向上と高感度化を実現した音響センサ1を提供できる。また、参照用の容量成分10を音響センサ本体を形成するシリコン半導体プロセスによって同時に形成できるので、工程数も増えず、製造性も良く、高感度な音響センサを安価に実現できる。
【0046】
(第2の実施形態)
図6(a)(b)は本発明の第2の実施形態に係る静電容量型の音響センサ1を示し、図7は音響センサ1の外観を示し、図8は音響センサ1の音響信号の出力を増幅する増幅部の回路の例を示す。この第2の実施形態の音響センサ1は、上述の第1の実施形態の音響センサ1において、音響センサ本体の接続パッド33と、容量成分10の接続パッド16とが1箇所にまとめられて、共通の接続パッド33となったものであり、この他の点は第1の実施形態の音響センサ1と同様である。この音響センサ1は、第1の実施形態の音響センサ1よりも接続パッドの数が減っており、音響センサ1を実装する際の接続の手間が減り、また、実装信頼性も向上できる。
【0047】
この音響センサ1の音響検出出力は、例えば、図8に示すように、演算増幅器OPを用いる増幅回路で増幅される。演算増幅器OPの反転増幅端子には、静電容量C1の一端(接続パッド33)が接続され、静電容量C1の他端(接続パッド42)は、直列接続した抵抗R1と直流電源Eを介してグランドに接続されている。また、演算増幅器OPの非反転増幅端子はグランドに接続されている。参照用の容量成分10すなわち静電容量C2は、演算増幅器OPの帰還ループに用いられており、静電容量C2の一端(接続パッド16)が演算増幅器OPの反転増幅端子に接続され、その他端(接続パッド14)は演算増幅器OPの出力側に接続されている。
【0048】
音響センサ1の音響検出信号を上述のような増幅回路を用いて増幅したときの出力は、音響センサ1を駆動する直流電源Eによるバイアス電圧Vを用いて、△C1/C2×V、と表されることが知られている。ここで、ΔC1は静電容量C1の変動分である。増幅された結果の出力が、変動分であるΔC1で表されて、C1を含まないことは、次のような意味を持つ。すなわち、音響センサ1の音響検知部の等価回路として用いられる静電容量C1には、通常、音響センサ本体から演算増幅器OPに至るまでの信号ラインとその信号ラインに近接した接地ラインなどとの間に生じる寄生容量を含んでいる。このような寄生容量は音響センサ1の感度低下の要因となるが、これらは変動することがないので、変動分であるΔC1から自動的に排除される。従って、このような構成によると、音響センサ本体の音響検知用の静電容量C1の変動分を増幅する(いわゆるチャージアンプ式の)増幅を行うことができるので、寄生容量の影響を排除でき、高感度化が実現できる。
【0049】
また、静電容量C1と静電容量C2とが、同一基板上に同一材料と同一製造プロセスによって形成されており、このことによる効果が得られることは、上述の第1の実施形態の音響センサ1と同様である。
【0050】
以上に述べたように、空気等を媒体として伝わる可聴音や超音波などの音響を検知する本発明の静電容量型の音響センサ1は、シリコンなどの半導体材料をベースとすると共に、IC(集積回路)などと同様の半導体プロセスを用いて非常に小型に製作され、携帯機器用のマイクロホンや超音波センサ、補聴器等に利用可能である。なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、音響信号を増幅する回路は、上述の差動増幅器とチャージアンプ式の増幅器を組み合わせて用いることもできる。また、参照用の容量成分10の形成方法は、上述の実施形態に限られるものではない。例えば、上下の電極13,11間に挟む誘電体材料として用いたシリコン酸化膜12の代わりに他の誘電体材料を用いたり、電極13,11間の距離をシリコン酸化膜50の厚さより薄くしたりできる。また、参照用の容量成分10の個数や配置、及び外形形状などは、上述の実施形態に限られるものではなく、複数にしたり、外形を円形にしたりできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る静電容量型の音響センサについての(b)のA−A線断面図、(b)は同音響センサの平面図。
【図2】同上音響センサの仮想的分解斜視図。
【図3】同上音響センサの斜視図。
【図4】(a)〜(d)は同上音響センサの製造工程を主要工程順に示す断面図。
【図5】同上音響センサの音響信号の出力を増幅する増幅部の回路図。
【図6】(a)は本発明の第2の実施形態に係る静電容量型の音響センサについての(b)のB−B線断面図、(b)は同音響センサの平面図。
【図7】同上音響センサの斜視図。
【図8】同上音響センサの音響信号の出力を増幅する増幅部の回路図。
【符号の説明】
【0052】
1 音響センサ
2 シリコン基板
3 振動板
4 バックプレート
10 容量成分
C1 静電容量(音響センサ本体の)
C2 静電容量(参照用容量成分の)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板に形成され音響によって振動する振動板と、前記振動板に対向するバックプレートとを有し、前記両者間の容量変化を検出することによって前記音響を検出する音響センサにおいて、
前記容量変化の信号を受信して増幅する増幅部が参照するための容量成分を前記基板上に備えたことを特徴とする音響センサ。
【請求項2】
前記参照用の容量成分は、半導体構造から成ることを特徴とする請求項1に記載の音響センサ。
【請求項3】
前記参照用の容量成分は、半導体構造間に高誘電率材料を挿入して成ることを特徴とする請求項2に記載の音響センサ。
【請求項4】
前記参照用の容量成分は、音響センサ本体を形成する材料によって形成されていることを特徴とする請求項2に記載の音響センサ。
【請求項5】
前記参照用の容量成分は、前期増幅部が差動増幅器の場合に、前記振動板とバックプレート間の容量変化の信号を入力する差動増幅入力端子とは別の差動増幅入力端子に接続して用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の音響センサ。
【請求項6】
前記参照用の容量成分は、前記増幅部の帰還ループに用いられることを特徴とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の音響センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−208549(P2007−208549A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23761(P2006−23761)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】