風力発電機のピッチ角制御装置
【課題】 風力発電機において発電電力の平準化を容易にするピッチ角制御装置、特に、パラメータ変動やウィンドシェアに対しても発電電力を平準化できるピッチ角制御装置を提供する。
【解決手段】 フィードバック型ピッチ角制御系に補償制御器10とパラメータ同定器12を付帯させて、補償制御器10で発電機出力と定格出力の偏差eを入力しパラメータを含む制御式をこの出力偏差に適用して制御補償指令値u2を算出し、パラメータ同定器12で出力偏差eと制御補償指令値u2を入力してこれらを変数とする評価関数を極値に近付けるように補償制御器10の制御式に含まれるパラメータを同定し、出力した制御補償指令値u2をフィードバック型制御系のピッチ角指令値u1に加えて風車のピッチ角制御をする。
【解決手段】 フィードバック型ピッチ角制御系に補償制御器10とパラメータ同定器12を付帯させて、補償制御器10で発電機出力と定格出力の偏差eを入力しパラメータを含む制御式をこの出力偏差に適用して制御補償指令値u2を算出し、パラメータ同定器12で出力偏差eと制御補償指令値u2を入力してこれらを変数とする評価関数を極値に近付けるように補償制御器10の制御式に含まれるパラメータを同定し、出力した制御補償指令値u2をフィードバック型制御系のピッチ角指令値u1に加えて風車のピッチ角制御をする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電機の出力電力変動を抑制するために用いられるピッチ角制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石炭石油などの化石燃料の枯渇やエネルギー消費に起因する環境汚染が問題となってきたため、化石燃料代替エネルギーとして自然エネルギーの有効利用が注目されている。自然エネルギー利用の形態の内でも特に風力発電の導入量が急速に増加している。
しかし、風力エネルギーは不規則であり、また風車出力は風速の3乗に比例するため、風速変動により出力が大きく変動する。風力発電の電源構成比率が大きくなると、連系系統の周波数変動が大きくなるので、風力発電機の大量挿入時には電力系統に影響を及ぼすことが懸念され、何らかの対策が必要となる。
【0003】
蓄電設備を用いて対策することもできるが、設備コストの増加をもたらすので蓄電容量を低減させるため、風力発電機自体における対策も重要である。風力発電機の出力を一定にするためには、風車ブレードのピッチ角を制御することによって風車が発生するトルクを調整するピッチ角制御が採用されている。
ピッチ角制御には、比例、微分、積分の要素を組み合わせたフィードバック制御を用いるのが普通である。欧州や米国では、地形の起伏が少なく風速の乱れが小さいところに設備できるため、固定パラメータ方式によるフィードバック制御で十分対応可能であるからである。しかし、日本では風力発電機を起伏の激しい山地に設置することも多く、風の乱れが大きくてフィードバック制御だけでは十分対応が取れず、出力が大きく変動する虞がある。すなわち、風車の慣性が非常に大きいため出力のフィードバック信号が遅れて、この修正動作の遅れのために出力が変動することになる。
【0004】
こうした問題に対して、バックステッピング法を用いたりフィードフォワード制御を用いて対処することができる。
特許文献1には、流入風速から発電機出力までの伝達特性と、ピッチ角から発電機出力までの伝達特性をモデル化し、計測した流入風速に対し、発電機出力を定格出力に制御するために必要なピッチ角を算出してフィードフォワードすることにより風車の動特性を補償して、風車発電機出力の変動を抑制する、フィードフォワード制御を用いたピッチ角制御方法が開示されている。
また、非特許文献1では、ピッチ角制御にフィードフォワード制御を導入して出力を安定化する方法が提案され、シミュレーションによりその有用性を証明したことが示されている。
【0005】
しかし、これらの手法では、風力発電システムにおけるパラメータ変化の影響や、風力発電設備で発生するウィンドシェアの効果を考慮していない。したがって、パラメータの変動やウィンドシェアの発生により制御特性が変化して効果的な出力調整ができず出力が不安定になったりする虞がある。
また、風力発電機は非線形性が強いため直接にモデル化すると、極めて高次の式が必要になり、オンライン制御を実行するためには演算負荷が過大となり実用性が未だ十分ではない。
【特許文献1】特開2002−048050号公報
【非特許文献1】松坂知行他「風力発電機の出力変動安定化制御に関する研究」電気学会論文集B、117巻5号、625−633頁、平成9年5月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、風力発電機を導入したときに発電電力の平準化を可能にするピッチ角制御装置を提供することであり、特に、パラメータ変動やウィンドシェアに対しても発電電力を平準化することができるピッチ角制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の風力発電機のピッチ角制御装置は、翼のピッチ角を変化させることによって回転調整ができる風車に繋がった発電機とピッチ角制御器とからなり、ピッチ角制御器が発電機出力と定格出力の偏差を入力し制御演算して算出したピッチ角指令値を出力し、ピッチ角指令値にしたがって翼のピッチ角を変化させることによって風速に対応する発電出力を得る風力発電装置に適用するもので、発電機出力と定格出力の偏差を入力しパラメータを含む制御式をこの偏差に適用して制御補償指令値を算出しこれを出力する補償制御器と、発電機出力と定格出力の偏差と制御補償指令値を入力してこれらを変数とする評価関数を極値に近付けるように補償制御器の制御式に含まれるパラメータを同定するパラメータ同定器を備えて、出力した制御補償指令値をピッチ角指令値に加えて風車発電機に入力してピッチ角制御をすることを特徴とする。
【0008】
さらに、補償制御器における制御式が下の式(1)で表され、下の式(2)で表される評価関数J1を最小にするような制御補償指令値を与えるようにして、また、未知パラメータ同定における評価関数が下の式(3)で表される評価関数J2であって、この評価関数J2を最小とするように式(1)の未知パラメータを決めるようにしてもよい。
【0009】
Ae(k)=q−dBu2(k)+w(k) (1)
A= 1+a1q−1+・・・・+anq−n
B=b0+b1q−1+・・・・+bmq−m
ここで、e(k)は発電機出力偏差、q−1はシフトオペレータ、dはむだ時間、u2(k)は制御補償指令値、w(k) はゆらぎ、kはサンプリング数であり、a1,・・・・,an、b0,b1,・・・・,bmはパラメータ、mとnはモデル次数である。
J1=E[e2(k+d)+Λu22(k)] (2)
ここで、Λは重み係数、Eは期待値(空間平均)を表す。
J2=Σw2(k) (3)
ここで、Nは評価期間内のサンプル数、Σはk=0からNまでの積算を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明の風力発電装置は、最小分散制御器(MVC)と同定器を有するセルフチューニングレギュレータ(STR)の概念を適用したものということができ、補償制御器で風力発電機の出力変動を最小化するための操作量を決定し、パラメータ同定器で風力発電機のパラメータをオンラインで同定し、同定したパラメータを補償制御器で利用するので、パラメータに変動や測定誤差があっても直ちに新しい値に適合する制御式を利用して最適な操作量を供給することができる。
なお、シミュレーションによって、風力発電装置におけるパラメータが安定している場合でも、風車タワーのウィンドシェアの影響など外乱をよく抑制し、従来手法による制御より数段優れた制御結果を得ることが確認されている。
【0011】
また、本発明の風力発電装置は、従来型の制御システムに補償制御器とパラメータ同定器を付与した形式のものであって、従来型の制御システムが算出する操作量に補償制御器の出力する制御補償指令値を加算して得た補償後操作量を使って風車のピッチ角を制御する。
したがって、同定パラメータが一定値に集束しない最悪の条件が発生したときにはピッチ角制御系が不安定になる虞があるが、このような場合でも単に補償制御器からの出力を遮断するだけで従来制御器の機能によって運転を持続することができる。また、従来制御器の出力形式にかかわらず利用することができるので、既存の風力発電設備に適用することが比較的容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は、本実施例に係るピッチ角制御装置を表すブロック図である。
本実施例の風力発電機のピッチ角制御装置は、従来型のフィードバック制御系に補償制御器とパラメータ同定器を付加し、適応制御の1種である、いわゆるセルフチューニングレギュレータ(STR)の概念を適用することによってより高性能な制御を達成したものである。
本実施例のピッチ角制御装置は、図2に示すような、風車と風車に直結する発電機1にピッチ角制御器2と油圧サーボ系3を備えた上記従来型のピッチ角制御系に対して、補償制御器10とパラメータ同定器12を付加して改良したものである。
【0013】
図2は、よく用いられるピッチ角制御システムの例を表すブロック図である。風車と風車に直結する発電機1にピッチ角制御器2と油圧サーボ系3を備えた制御系が組まれて出力電力の平準化を図る。
ピッチ角制御器2がピッチ角操作量βCMDを油圧サーボ系3に供給すると、油圧サーボ系3が風車の翼を操作してピッチ角βを変化させる。ピッチ角βが異なれば風速Vwと風車回転速度の関係が変化するので、発電機の出力Pgも変化する。ピッチ角制御器2は、出力定格Pgoに対する発電機出力Pgの偏差eを入力して風速Vwやピッチ角βに適応して出力電力Pgを平準化するようなピッチ角操作量βCMDを算出して出力する。
【0014】
以下、式を使って従来のピッチ角制御系についてさらに詳しく説明する。
まず、風車と発電機1の伝達関数は、次のようにして求めることができる。
風車から取り出しうる風車出力Pwは、式(4)で与えられる。
Pw=Cp(λ,β)Vw3ρA/2 (4)
ここで、Vw風速、ρは空気密度、Aは風車の回転断面積、Cpは出力係数である。出力係数Cpは、式(5)で近似できる。
Cp(λ,β)=c1(β)λ2+c2(β)λ3+c3(β)λ4 (5)
【0015】
式中のc1(β),c2(β),c3(β)は式(6)で表される。
c1(β)=c10+c11β+c12β2+c13β3+c14β4
c2(β)=c20+c21β+c22β2+c23β3+c24β4
c3(β)=c30+c31β+c32β2+c33β3+c34β4 (6)
ここで、c10〜c34は定数、βはピッチ角である。
【0016】
また、λは風車の性能を表すために風車のブレード先端速度と風速の比で定義される風速比で、式(7)で与えられる。
λ=Rω/Vw (7)
ここで、Rは風車の半径、ωは風車の回転角速度である。
風車の回転速度ωは、式(8)の風車の動特性式で与えられる。
ω2=∫2(Pw−Pg)/Jdt (8)
ここで、Jは風車の慣性モーメントである。
【0017】
すべりsを式(9)で定義する。
s=(ωo−ω)/ωo (9)
ここで、ωoは同期角速度である。風車が同期角速度以上で回転するとすべりsが負となり、誘導発電機は発電機動作となる。
本実施例においても、風力発電機としてよく用いられるかご形誘導発電機を用いる。風力発電機は慣性の大きい風車と結合されているので、電気的過渡現象は無視でき、発電機出力Pgは定常状態を表す式(10)で表現できる。
Pg=−3V2s(1+s)R2/((R2−sR1)2+s2(X1+X2)2) (10)
ここで、Vは相電圧、R1は固定子抵抗、R2は回転子抵抗、X1は固定子リアクタンス、X2は回転子リアクタンスである。
【0018】
定常状態でエネルギー損失を無視すれば、Pw=Pgとなり、Pwは式(11)で近似することができる。
Pw=a1(β)+a2(β)Vw2 (11)
ここで、a1(β),a2(β)はα11〜α24を定数として下式で表される。
a1(β)=α11+α12β+α13β2+α14β3
a2(β)=α21+α22β+α23β2+α24β3
以上の関係式に基づいて、風車と発電機1のシステムを図3のブロック図で表すことができ、ピッチ角βと風速Vwを入力として発電機出力Pwを求めることができる。
【0019】
油圧サーボ系3は、ピッチ角指令値βCMDを受けて風車ブレードのピッチ角βを調整するもので、伝達特性を図4のブロック図で表すことができる。
油圧サーボ系3は機械系の様々な動作で構成され、また非線形要素も含まれるので、非常に複雑であるが、風力発電装置におけるピッチ角制御系の要素としては1次遅れ系(1/(1+Tcs))で近似することができる。なお、ピッチ角指令値βCMDにはリミッターを設けて10度から90度の範囲を越えないようにしている。
【0020】
風車出力に変化ΔPwが生じたときにこれを抑制するために必要なピッチ角変化Δβはその時のピッチ角βと風速Vwによって異なる。風車出力変化ΔPwに対するピッチ角変化Δβをピッチ角調整量G(β)と呼ぶと、ピッチ角調整量G(β)は式(11)に基づいて、式(12)により与えられる。
G(β)=Δβ/ΔPw=1/(A1+A2Vw2) (12)
ここで、
A1=α12+2α13β+3α14β2
A2=α22+2α23β+3α24β2
である。
【0021】
式(12)は次のようにして導出できる。
式(11)において、出力PwがΔPwだけ変化したときのピッチ角βの変化をΔβとすると、
Pw+ΔPw=a1(β+Δβ)+a2(β+Δβ)Vw2
ここで、
a1(β+Δβ)=α11+α12(β+Δβ)+α13(β+Δβ)2+α14(β+Δβ)3
=a1(β)
+Δβ(α12+2α13β+α13Δβ+3α14β2+3α14βΔβ+Δβ2)
≒a1(β)+Δβ(α12+2α13β+3α14β2)
a2(β+Δβ)
=a2(β)
+Δβ(α22+2α23β+α23Δβ+3α24β2+3α24βΔβ+Δβ2)
≒a2(β)+Δβ(α22+2α23β+3α24β2)
これを代入すると、
Pw+ΔPw=a1(β)+Δβ(α12+2α13β+3α14β2)
+(a2(β)+Δβ(α22+2α23β+3α24β2))Vw2
したがって、
ΔPw =Δβ(α12+2α13β+3α14β2+(α22+2α23β+3α24β2)Vw2)
こうして、G(β)=Δβ/ΔPwを表す式(12)を得ることができる。
【0022】
G(β)は風速Vwに依存する。図5は、ある機種を例として、定格風速12.5m/sから停止風速24m/sまで、風速Vwをパラメータとしてピッチ角βとピッチ角調整量G(β)の関係をプロットした図面である。ただし、ピッチ角βが10度未満であるときは、それぞれの風速下でピッチ角βが10度のときのピッチ角調整量G(β)を取らせるようにしている。
また、起動風速以下のときは突風などで突然風車トルクが発生しないように、また運転限度の停止風速以上では風車を停止させるために、ピッチ角を90度にして風エネルギーを逸らしている。
【0023】
図6は、ピッチ角制御器の1例を示すブロック図である。この例では、PD制御器を取り込んで、偏差eから調整すべき出力変化ΔPwを算出するようにしている。また、図5の特性を表す参照テーブル4を内蔵し、ピッチ角βと風速Vwを測定ないし推定して入力し、参照テーブル4を使ってピッチ角調整量G(β)を求めて、ΔPwと乗算してピッチ角変化Δβを算出し、現在のピッチ角βに加算して新たなピッチ角指令値βCMDを決定する。
なお、ピッチ角制御器に選択器5を設けて、条件によって上記計算結果のピッチ角指令値βCMDをそのまま使ったり、強制的に10度に設定したり、90度に設定したりできるようになっている。
上記説明した各要素を図1に示すように組み上げたピッチ角制御系は、必要な動特性が全て把握されているので、各種の解析を精度良く行うことができる。
【0024】
本実施例の風力発電機のピッチ角制御装置は、図1に示したように、図2の従来型のフィードバック制御系に、最小分散制御器(MVC)として作用する補償制御器10とパラメータ同定器12を付加したものである。図1において、Pg(k)は発電機出力、Pgo(k)は定格出力、すなわち目標とする発電機出力、e(k)は発電機出力偏差、u2(k)は制御補償指令値、kはサンプリング数である。
本実施例のピッチ角制御装置は、フィードバック制御系では補償できない出力偏差e(k)を補償制御器10で算出された制御補償指令値u2(k)で補償する。
【0025】
補償制御器10は、出力偏差e(k)を入力しパラメータを含む制御式に適用して制御補償指令値u2(k)を算出する。制御補償指令値u2(k)は、フィードバック制御系のピッチ角制御器2が算出する操作出力u1(k)に加算して、油圧サーボ系3に与えるピッチ角指令値βCMDとする。
パラメータ同定器12は、発電機出力偏差e(k)と補償制御器10の制御補償指令値u2(k)を入力し、発電機出力偏差e(k)と制御補償指令値u2(k)の間のゆらぎw(k)の二乗積算値を最小とするようなパラメータベクトルを算出し、これに合うように補償制御器10のパラメータを決定する。
【0026】
ピッチ角制御系で補償できない出力偏差は、補償制御器10で算出される制御補償指令値u2(k)で補償する。制御補償指令値u2(k)と出力偏差e(k)との関係は式(13)で表される。
Ae(k)=q−dBu2(k)+w(k) (13)
A= 1+a1q−1+・・・・+anq−n
B=b0+b1q−1+・・・・+bmq−m
ここで、q−1はシフトオペレータ、dはむだ時間、w(k) は制御補償指令値u2(k)によって補償されるべき発電機出力と出力偏差e(k)と間のゆらぎあるいは誤差、kはサンプリング数であり、a1,・・・・,an、b0,b1,・・・・,bmはパラメータ、mとnはモデル次数である。
【0027】
式(13)に対して、出力偏差の分散と制御補償指令値を考慮した式(14)で表される評価関数J1 を最小にするような制御入力u2(k)を求める。
J1=E[e2(k+d)+Λu22(k)] (14)
ここで、Λは重み係数、Eは期待値(空間平均)を表す。
式(14)は、サンプリング数をkとしたとき、dサンプリング先の出力偏差e(k+d)と現時点kにおける制御補償指令値u2(k)の二乗に重みΛを掛けた値の和の期待値を表している。したがって、補償制御器10は最小分散制御器(MVC)として作用する。評価関数J1 を最小にするような制御補償指令値u2(k)は、dサンプリング先の出力偏差e(k+d)を小さくすることが可能である。また、重み係数Λを使って制御補償指令値u2(k)の変化に制限を掛け、制御補償指令値u2(k)の発散を防ぐことができる。
【0028】
評価関数J1 を最小にするような制御補償指令値u2(k)は偏分式∂J1/∂u2(k)=0で求めることができ、一般化最小分散制御としての式(15)で表される。
(BR+Λ/b0)u2(k)=−He(k) (15)
ここで、R,Hは多項式であり、変数の範囲を整数に限定した、式(16)のディオファントス方程式(Diophantine Equation)により一意に決定される。
1=AR+q−dH (16)
R= 1+r1q−1+・・・・+rd−1q−(d−1)
H=h0+h1q−1+・・・・+hnー1q−(n−1)
こうして、一意に決定された多項式R,Hにより、一般化最小分散制御に基づいた操作量u2(k)を得ることができる。
【0029】
式(15)の成立は次のようにして確認することができる。
式(16)のディオファントス方程式の両辺にe(k)を掛けると、
e(k)=ARe(k)+q−dHe(k)
となり、式(13)の関係を用いると、
e(k)=BRu2(k−d)+He(k−d)+w(k)R
となり、さらに、サンプリングdだけシフトさせると、
e(k+d)=BRu2(k)+He(k)+w(k+d)R
となる。ここで、次式によってd段最適予測値^e(k+d)を定義する。
^e(k+d)=BRu2(k)+He(k)
【0030】
式(14)の評価関数J1 における出力偏差e(k)を最適予測値^e(k+d)で置き換えると、
J1=E[(^e(k+d)+Rw(k+d))2+Λu22(k)]
=E[(^e(k+d))2+Λu22(k)]+ E[(Rw(k+d))2]
最小分散制御入力u2(k)を求めるために、まず、最適予測値^e(k+d)をu2(k) で偏分したものを求める。 ^e(k+d)の定義式を展開すると、
^e(k+d)=(b0+b0r1q−1+・・・・+b0rd−1q−(m+d−1) )u2(k)
+H(q−1)e(k)
この式をu2(k) で偏分すると、∂^e(k+d)/∂u2(k)の値はb0になる。
【0031】
この関係を使って整理すると、評価関数J1 の偏分は、
∂J1/∂u2(k)=2b0^e(k+d)+2Λu2(k)
=2b0(BRu2(k)+He(k))+2Λu2(k)
=2b0(BRu2(k)+He(k)+Λu2(k)/b0)
評価関数J1 を最小にするu2(k)については∂J1/∂u2(k)=0になるから、式(15)が成立する。
【0032】
しかし、実際に制御補償指令値u2(k)を計算するためには、式(13)における偏差方程式パラメータai,bj(1≦i≦n,1≦j≦m)を同定することが必要である。
そこで、パラメータ同定器12では、パラメータ同定法として最も一般的に用いられている最小二乗法を用いる。最小二乗法による未知パラメータの同定は、式(17)の評価関数J2を最小にするパラメータベクトルθを求めることである。
J2=Σw2(k) =Σ( e(k)−zT(k)θ)2 (17)
θT=(−a1,−a2,・・・・an,b0,b1,・・・・bm )
zT(k)=(e(k−1),e(k−2),・・・・e(k−n),
u2(k−d),u2(k−d−1),・・・・u2(k−d−m))
ここで、Σはk=0からNまでの積算、Nは評価期間内のサンプル数、またTは転置ベクトルを表す。
【0033】
∂J2/∂θ=0とおいてθの推定値〜θを求めると、最終的に式(18)で与えられる。
〜θ(N)=〜θ(N−1)
−P(N−1)z(N)(zT(N)〜θ(N−1)−e(N))
/(1+zT(N)P(N−1)z(N)) (18)
ここで、P(N)は式(19)で与えられる。
P(N)=P(N−1)−P(N−1)z(N)zT(N)P(N−1)
/(1+zT(N)P(N−1)z(N)) (19)
式(18)(19)によって逐次繰り返し最小二乗法のアルゴリズムとなり、パラメータ同定がオンラインで可能となる。こうして得られるパラメータベクトルθの推定値に基づいて補償制御器10のパラメータを書き換えて、制御補償指令値u2(k)を算出する。
【0034】
同定パラメータが一定の値に収束しない場合には、ピッチ角制御系が不安定になることがある。本実施例のシステムでは、従来型のピッチ角制御系で算定される操作量u1に補償制御器の制御補償指令値u2を補助として加えて操作量とするので、制御補償指令値u2を監視していて不安定になる状況を検知したときに制御補償指令値u2を遮断すれば、系の安定性を失うことはない。
また、本実施例のシステムは、操作量u1を決定するピッチ角制御系の種類にかかわらず適用が可能であるため、既存の風力発電設備にも比較的容易に適用できる。
さらに、本実施例のピッチ角制御装置では、制御式をパラメータで表し、評価関数を極小にするようなパラメータベクトルを求めてパラメータ同定するので、制御モデルが簡単でしかも対象に依らず同じ手法が利用できる。
【0035】
本実施例の風力発電機のピッチ角制御装置について、上記関係式で表すモデルに基づいてシミュレーションを行うことにより、性能を確認した。実状をより正確に模擬するため、風車タワーのウィンドシェアの影響も考慮している。なお、出力電力平準化の評価関数J3として、出力偏差の二乗積分値を用いた。
J3=∫(Pgo−Pg)2dt
シミュレーションの結果は、図7に示すような従来型のフィードフォワード付ピッチ角制御系と比較して表示した。比較に用いた従来型制御系は、上記説明したと同様のフィードバック制御系において伝達関数Tes/(1+Tds)のフィードフォワード要素6を付加して、風速Vwの変化による影響を予想してこれを相殺するための補償指令値u2をフィードバック制御器の出力u1に加えるものである。
シミュレーションで用いた風車、誘導発電機、制御器の諸元は図8の表に示すとおりである。サンプリング周期Tsは1msとした。
【0036】
(シミュレーション1)ノミナル時の結果
図9から図13は、パラメータ測定誤差がないときのノミナル時における制御結果例を示す図面である。補償制御器の重み係数Λや次数m,nなどは、良好な制御結果が得られる値を調べて設定した。図9から図12については、図中、点線で示すグラフは比較対象の従来型フィードフォワード付ピッチ角制御系、実線は本実施例の制御系で得られた制御結果である。図13は、各パラメータの収束状態を示している。
【0037】
実際の風速変動を模擬するため図9(a)に示すような風速パターンを設定した。このとき、図9(b)に示すように、従来型では発電機出力Pgが風速変化に同期して大きく揺れ、しかもウィンドシェアの影響を直接に被るのに対して、本実施例の制御系ではほぼ定格出力に維持されていることが分かる。
図10(a)は発電機出力偏差e、図10(b)は出力トルクTw、図10(c)は評価関数J3の経時変化を示したものである。発電機出力偏差eと出力トルクTwの変化は、図9(b)の発電機出力Pgの変動状況とほぼ同じで、図10(c)に示す評価関数J3の推移からも、本実施例の制御系の制御性が各段に優れていることが明確になった。評価関数J3は従来型では時間が経つにつれて徐々に増加するのに対して、本実施例の制御系では表示された全域に亘ってほぼ一定値を保持して誤差の蓄積が殆ど無いことを示している。
【0038】
図11(a)はピッチ角β、図11(b)はピッチ角指令値βCMDの変化を示すグラフである。ピッチ角とピッチ角指令値の変化はいずれも本実施例の方が大きく、ウィンドシェアなどの高周波成分について追従性が優れることが分かる。
図12(a)はフィードバック制御系の操作出力u1を示し、図12(b)はフィードバック系に付加したフィードフォワードあるいは本実施例の適応制御系の補償操作出力u2を示す。フィードバック制御系が風速変動によく追従しているが、さらに付与機構が高周波成分の補正値を出して制御性を向上させている。なお、フィードフォワード系を付与したものより本実施し例の制御系がより大きな補償出力を出していることが分かる。
図13(a)と図13(b)は、それぞれ本実施例におけるパラメータai、bjの同定状況を示したもので、運転開始後直ぐにパラメータ同定に成功することが示されている。
【0039】
(シミュレーション2)パラメータ測定誤差があった時の結果
図14から図18は、パラメータ測定誤差があった時における制御結果例を示す図面である。ここでは、風車と誘導発電機における特性パラメータc10からc34が正しい値の150%になっているとして、制御性を検査した。パラメータを除く条件はシミュレーション1の場合に準ずる。
風速変動パターンは、図14(a)に示す通り図9(a)に示すものと同じである。
図14(b),図15(a),図15(b)に示すように、発電機出力Pg、発電機出力偏差e、出力トルクTwは、従来型のフィードフォワード制御系を付与した制御系では、ノミナル時と比較して大きく揺れるのに対して、本実施例の制御系では殆ど揺れずに定格出力に維持されている。図15(c)に示した評価関数J3の推移状態によると、従来型の制御系では、ノミナル時の結果と比較して評価関数の値が時間と共に大きくなっているのに対して、本実施例の制御系では、制御開始の当初からほぼ一定値を保持し、パラメータ測定誤差があるときにも高い制御性があることを証明している。
【0040】
図16(a)(b),図17(a)(b)は、それぞれピッチ角β、ピッチ角指令値βCMD、フィードバック制御系の操作出力u1、付与した補償制御系の補償操作出力u2の変化を示す。
これらの変数の変化はノミナル時と類似しているが、付与した制御系に関する変数については、むしろ揺れが小さくなっている。これはシステムのパラメータが150%と大きいためゲインが大きくなった効果が見られたものと推定される。
図18(a)と図18(b)は、それぞれ本実施例におけるパラメータai、bjの同定状況を示したもので、運転開始後直ぐにパラメータ同定に成功している。なお、風車と誘導発電機に関するパラメータc10〜c34が150%に増加したため、制御器内のパラメータbjの同定値がノミナル時より小さい値になっている。
【0041】
以上のシミュレーションの結果から、従来の制御系と比較して、本実施例の制御系が発電機出力の安定化に著しい効果があること、パラメータの変化に対応して直ちに制御器内のパラメータを修正し要項な制御を持続することができることが分かる。
なお、上記実施例の説明では、油圧サーボ系を用いて翼のピッチ角を操作しているが、他のアクチュエータを用いても良いことは言うまでもない。
また、評価関数は評価目的にしたがって他の適当な関数を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る実施例に係るピッチ角制御装置を表すブロック図である。
【図2】本実施例に用いる従来のフィードバック型ピッチ角制御系を表すブロック図である。
【図3】本実施例における風車と発電機のシステムのブロック図である。
【図4】本実施例における油圧サーボ系の伝達特性示すブロック図である。
【図5】本実施例におけるピッチ角と制御量の関係を示すグラフである。
【図6】本実施例におけるピッチ角制御器の1例を示すブロック図である。
【図7】シミュレーションにおいて対比に使用するフィードフォワード型制御系のブロック図である。
【図8】シミュレーションしたときの各要素に適用した諸元の表である。
【図9】第1シミュレーションにおける風速パターンと発電機出力を表すグラフである。
【図10】第1シミュレーションにおける発電機出力偏差と出力トルクと評価関数J3の経時変化を示したグラフである。
【図11】第1シミュレーションにおけるピッチ角とピッチ角指令値の変化を表示したグラフである。
【図12】第1シミュレーションにおけるフィードバック制御系の操作出力と付加した適応制御系の補償操作出力を示すグラフである。
【図13】第1シミュレーションにおけるパラメータの同定状況を示すグラフである。
【図14】第2シミュレーションにおける風速パターンと発電機出力を表すグラフである。
【図15】第2シミュレーションにおける発電機出力偏差と出力トルクと評価関数J3の経時変化を示したグラフである。
【図16】第2シミュレーションにおけるピッチ角とピッチ角指令値の変化を表示したグラフである。
【図17】第2シミュレーションにおけるフィードバック制御系の操作出力と付加した適応制御系の補償操作出力を示すグラフである。
【図18】第2シミュレーションにおけるパラメータの同定状況を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 風車発電機
2 ピッチ角制御器
3 油圧サーボ系
4 参照テーブル
5 選択器
6 フィードフォワード要素
10 補償制御器
12 パラメータ同定器
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電機の出力電力変動を抑制するために用いられるピッチ角制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石炭石油などの化石燃料の枯渇やエネルギー消費に起因する環境汚染が問題となってきたため、化石燃料代替エネルギーとして自然エネルギーの有効利用が注目されている。自然エネルギー利用の形態の内でも特に風力発電の導入量が急速に増加している。
しかし、風力エネルギーは不規則であり、また風車出力は風速の3乗に比例するため、風速変動により出力が大きく変動する。風力発電の電源構成比率が大きくなると、連系系統の周波数変動が大きくなるので、風力発電機の大量挿入時には電力系統に影響を及ぼすことが懸念され、何らかの対策が必要となる。
【0003】
蓄電設備を用いて対策することもできるが、設備コストの増加をもたらすので蓄電容量を低減させるため、風力発電機自体における対策も重要である。風力発電機の出力を一定にするためには、風車ブレードのピッチ角を制御することによって風車が発生するトルクを調整するピッチ角制御が採用されている。
ピッチ角制御には、比例、微分、積分の要素を組み合わせたフィードバック制御を用いるのが普通である。欧州や米国では、地形の起伏が少なく風速の乱れが小さいところに設備できるため、固定パラメータ方式によるフィードバック制御で十分対応可能であるからである。しかし、日本では風力発電機を起伏の激しい山地に設置することも多く、風の乱れが大きくてフィードバック制御だけでは十分対応が取れず、出力が大きく変動する虞がある。すなわち、風車の慣性が非常に大きいため出力のフィードバック信号が遅れて、この修正動作の遅れのために出力が変動することになる。
【0004】
こうした問題に対して、バックステッピング法を用いたりフィードフォワード制御を用いて対処することができる。
特許文献1には、流入風速から発電機出力までの伝達特性と、ピッチ角から発電機出力までの伝達特性をモデル化し、計測した流入風速に対し、発電機出力を定格出力に制御するために必要なピッチ角を算出してフィードフォワードすることにより風車の動特性を補償して、風車発電機出力の変動を抑制する、フィードフォワード制御を用いたピッチ角制御方法が開示されている。
また、非特許文献1では、ピッチ角制御にフィードフォワード制御を導入して出力を安定化する方法が提案され、シミュレーションによりその有用性を証明したことが示されている。
【0005】
しかし、これらの手法では、風力発電システムにおけるパラメータ変化の影響や、風力発電設備で発生するウィンドシェアの効果を考慮していない。したがって、パラメータの変動やウィンドシェアの発生により制御特性が変化して効果的な出力調整ができず出力が不安定になったりする虞がある。
また、風力発電機は非線形性が強いため直接にモデル化すると、極めて高次の式が必要になり、オンライン制御を実行するためには演算負荷が過大となり実用性が未だ十分ではない。
【特許文献1】特開2002−048050号公報
【非特許文献1】松坂知行他「風力発電機の出力変動安定化制御に関する研究」電気学会論文集B、117巻5号、625−633頁、平成9年5月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、風力発電機を導入したときに発電電力の平準化を可能にするピッチ角制御装置を提供することであり、特に、パラメータ変動やウィンドシェアに対しても発電電力を平準化することができるピッチ角制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の風力発電機のピッチ角制御装置は、翼のピッチ角を変化させることによって回転調整ができる風車に繋がった発電機とピッチ角制御器とからなり、ピッチ角制御器が発電機出力と定格出力の偏差を入力し制御演算して算出したピッチ角指令値を出力し、ピッチ角指令値にしたがって翼のピッチ角を変化させることによって風速に対応する発電出力を得る風力発電装置に適用するもので、発電機出力と定格出力の偏差を入力しパラメータを含む制御式をこの偏差に適用して制御補償指令値を算出しこれを出力する補償制御器と、発電機出力と定格出力の偏差と制御補償指令値を入力してこれらを変数とする評価関数を極値に近付けるように補償制御器の制御式に含まれるパラメータを同定するパラメータ同定器を備えて、出力した制御補償指令値をピッチ角指令値に加えて風車発電機に入力してピッチ角制御をすることを特徴とする。
【0008】
さらに、補償制御器における制御式が下の式(1)で表され、下の式(2)で表される評価関数J1を最小にするような制御補償指令値を与えるようにして、また、未知パラメータ同定における評価関数が下の式(3)で表される評価関数J2であって、この評価関数J2を最小とするように式(1)の未知パラメータを決めるようにしてもよい。
【0009】
Ae(k)=q−dBu2(k)+w(k) (1)
A= 1+a1q−1+・・・・+anq−n
B=b0+b1q−1+・・・・+bmq−m
ここで、e(k)は発電機出力偏差、q−1はシフトオペレータ、dはむだ時間、u2(k)は制御補償指令値、w(k) はゆらぎ、kはサンプリング数であり、a1,・・・・,an、b0,b1,・・・・,bmはパラメータ、mとnはモデル次数である。
J1=E[e2(k+d)+Λu22(k)] (2)
ここで、Λは重み係数、Eは期待値(空間平均)を表す。
J2=Σw2(k) (3)
ここで、Nは評価期間内のサンプル数、Σはk=0からNまでの積算を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明の風力発電装置は、最小分散制御器(MVC)と同定器を有するセルフチューニングレギュレータ(STR)の概念を適用したものということができ、補償制御器で風力発電機の出力変動を最小化するための操作量を決定し、パラメータ同定器で風力発電機のパラメータをオンラインで同定し、同定したパラメータを補償制御器で利用するので、パラメータに変動や測定誤差があっても直ちに新しい値に適合する制御式を利用して最適な操作量を供給することができる。
なお、シミュレーションによって、風力発電装置におけるパラメータが安定している場合でも、風車タワーのウィンドシェアの影響など外乱をよく抑制し、従来手法による制御より数段優れた制御結果を得ることが確認されている。
【0011】
また、本発明の風力発電装置は、従来型の制御システムに補償制御器とパラメータ同定器を付与した形式のものであって、従来型の制御システムが算出する操作量に補償制御器の出力する制御補償指令値を加算して得た補償後操作量を使って風車のピッチ角を制御する。
したがって、同定パラメータが一定値に集束しない最悪の条件が発生したときにはピッチ角制御系が不安定になる虞があるが、このような場合でも単に補償制御器からの出力を遮断するだけで従来制御器の機能によって運転を持続することができる。また、従来制御器の出力形式にかかわらず利用することができるので、既存の風力発電設備に適用することが比較的容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は、本実施例に係るピッチ角制御装置を表すブロック図である。
本実施例の風力発電機のピッチ角制御装置は、従来型のフィードバック制御系に補償制御器とパラメータ同定器を付加し、適応制御の1種である、いわゆるセルフチューニングレギュレータ(STR)の概念を適用することによってより高性能な制御を達成したものである。
本実施例のピッチ角制御装置は、図2に示すような、風車と風車に直結する発電機1にピッチ角制御器2と油圧サーボ系3を備えた上記従来型のピッチ角制御系に対して、補償制御器10とパラメータ同定器12を付加して改良したものである。
【0013】
図2は、よく用いられるピッチ角制御システムの例を表すブロック図である。風車と風車に直結する発電機1にピッチ角制御器2と油圧サーボ系3を備えた制御系が組まれて出力電力の平準化を図る。
ピッチ角制御器2がピッチ角操作量βCMDを油圧サーボ系3に供給すると、油圧サーボ系3が風車の翼を操作してピッチ角βを変化させる。ピッチ角βが異なれば風速Vwと風車回転速度の関係が変化するので、発電機の出力Pgも変化する。ピッチ角制御器2は、出力定格Pgoに対する発電機出力Pgの偏差eを入力して風速Vwやピッチ角βに適応して出力電力Pgを平準化するようなピッチ角操作量βCMDを算出して出力する。
【0014】
以下、式を使って従来のピッチ角制御系についてさらに詳しく説明する。
まず、風車と発電機1の伝達関数は、次のようにして求めることができる。
風車から取り出しうる風車出力Pwは、式(4)で与えられる。
Pw=Cp(λ,β)Vw3ρA/2 (4)
ここで、Vw風速、ρは空気密度、Aは風車の回転断面積、Cpは出力係数である。出力係数Cpは、式(5)で近似できる。
Cp(λ,β)=c1(β)λ2+c2(β)λ3+c3(β)λ4 (5)
【0015】
式中のc1(β),c2(β),c3(β)は式(6)で表される。
c1(β)=c10+c11β+c12β2+c13β3+c14β4
c2(β)=c20+c21β+c22β2+c23β3+c24β4
c3(β)=c30+c31β+c32β2+c33β3+c34β4 (6)
ここで、c10〜c34は定数、βはピッチ角である。
【0016】
また、λは風車の性能を表すために風車のブレード先端速度と風速の比で定義される風速比で、式(7)で与えられる。
λ=Rω/Vw (7)
ここで、Rは風車の半径、ωは風車の回転角速度である。
風車の回転速度ωは、式(8)の風車の動特性式で与えられる。
ω2=∫2(Pw−Pg)/Jdt (8)
ここで、Jは風車の慣性モーメントである。
【0017】
すべりsを式(9)で定義する。
s=(ωo−ω)/ωo (9)
ここで、ωoは同期角速度である。風車が同期角速度以上で回転するとすべりsが負となり、誘導発電機は発電機動作となる。
本実施例においても、風力発電機としてよく用いられるかご形誘導発電機を用いる。風力発電機は慣性の大きい風車と結合されているので、電気的過渡現象は無視でき、発電機出力Pgは定常状態を表す式(10)で表現できる。
Pg=−3V2s(1+s)R2/((R2−sR1)2+s2(X1+X2)2) (10)
ここで、Vは相電圧、R1は固定子抵抗、R2は回転子抵抗、X1は固定子リアクタンス、X2は回転子リアクタンスである。
【0018】
定常状態でエネルギー損失を無視すれば、Pw=Pgとなり、Pwは式(11)で近似することができる。
Pw=a1(β)+a2(β)Vw2 (11)
ここで、a1(β),a2(β)はα11〜α24を定数として下式で表される。
a1(β)=α11+α12β+α13β2+α14β3
a2(β)=α21+α22β+α23β2+α24β3
以上の関係式に基づいて、風車と発電機1のシステムを図3のブロック図で表すことができ、ピッチ角βと風速Vwを入力として発電機出力Pwを求めることができる。
【0019】
油圧サーボ系3は、ピッチ角指令値βCMDを受けて風車ブレードのピッチ角βを調整するもので、伝達特性を図4のブロック図で表すことができる。
油圧サーボ系3は機械系の様々な動作で構成され、また非線形要素も含まれるので、非常に複雑であるが、風力発電装置におけるピッチ角制御系の要素としては1次遅れ系(1/(1+Tcs))で近似することができる。なお、ピッチ角指令値βCMDにはリミッターを設けて10度から90度の範囲を越えないようにしている。
【0020】
風車出力に変化ΔPwが生じたときにこれを抑制するために必要なピッチ角変化Δβはその時のピッチ角βと風速Vwによって異なる。風車出力変化ΔPwに対するピッチ角変化Δβをピッチ角調整量G(β)と呼ぶと、ピッチ角調整量G(β)は式(11)に基づいて、式(12)により与えられる。
G(β)=Δβ/ΔPw=1/(A1+A2Vw2) (12)
ここで、
A1=α12+2α13β+3α14β2
A2=α22+2α23β+3α24β2
である。
【0021】
式(12)は次のようにして導出できる。
式(11)において、出力PwがΔPwだけ変化したときのピッチ角βの変化をΔβとすると、
Pw+ΔPw=a1(β+Δβ)+a2(β+Δβ)Vw2
ここで、
a1(β+Δβ)=α11+α12(β+Δβ)+α13(β+Δβ)2+α14(β+Δβ)3
=a1(β)
+Δβ(α12+2α13β+α13Δβ+3α14β2+3α14βΔβ+Δβ2)
≒a1(β)+Δβ(α12+2α13β+3α14β2)
a2(β+Δβ)
=a2(β)
+Δβ(α22+2α23β+α23Δβ+3α24β2+3α24βΔβ+Δβ2)
≒a2(β)+Δβ(α22+2α23β+3α24β2)
これを代入すると、
Pw+ΔPw=a1(β)+Δβ(α12+2α13β+3α14β2)
+(a2(β)+Δβ(α22+2α23β+3α24β2))Vw2
したがって、
ΔPw =Δβ(α12+2α13β+3α14β2+(α22+2α23β+3α24β2)Vw2)
こうして、G(β)=Δβ/ΔPwを表す式(12)を得ることができる。
【0022】
G(β)は風速Vwに依存する。図5は、ある機種を例として、定格風速12.5m/sから停止風速24m/sまで、風速Vwをパラメータとしてピッチ角βとピッチ角調整量G(β)の関係をプロットした図面である。ただし、ピッチ角βが10度未満であるときは、それぞれの風速下でピッチ角βが10度のときのピッチ角調整量G(β)を取らせるようにしている。
また、起動風速以下のときは突風などで突然風車トルクが発生しないように、また運転限度の停止風速以上では風車を停止させるために、ピッチ角を90度にして風エネルギーを逸らしている。
【0023】
図6は、ピッチ角制御器の1例を示すブロック図である。この例では、PD制御器を取り込んで、偏差eから調整すべき出力変化ΔPwを算出するようにしている。また、図5の特性を表す参照テーブル4を内蔵し、ピッチ角βと風速Vwを測定ないし推定して入力し、参照テーブル4を使ってピッチ角調整量G(β)を求めて、ΔPwと乗算してピッチ角変化Δβを算出し、現在のピッチ角βに加算して新たなピッチ角指令値βCMDを決定する。
なお、ピッチ角制御器に選択器5を設けて、条件によって上記計算結果のピッチ角指令値βCMDをそのまま使ったり、強制的に10度に設定したり、90度に設定したりできるようになっている。
上記説明した各要素を図1に示すように組み上げたピッチ角制御系は、必要な動特性が全て把握されているので、各種の解析を精度良く行うことができる。
【0024】
本実施例の風力発電機のピッチ角制御装置は、図1に示したように、図2の従来型のフィードバック制御系に、最小分散制御器(MVC)として作用する補償制御器10とパラメータ同定器12を付加したものである。図1において、Pg(k)は発電機出力、Pgo(k)は定格出力、すなわち目標とする発電機出力、e(k)は発電機出力偏差、u2(k)は制御補償指令値、kはサンプリング数である。
本実施例のピッチ角制御装置は、フィードバック制御系では補償できない出力偏差e(k)を補償制御器10で算出された制御補償指令値u2(k)で補償する。
【0025】
補償制御器10は、出力偏差e(k)を入力しパラメータを含む制御式に適用して制御補償指令値u2(k)を算出する。制御補償指令値u2(k)は、フィードバック制御系のピッチ角制御器2が算出する操作出力u1(k)に加算して、油圧サーボ系3に与えるピッチ角指令値βCMDとする。
パラメータ同定器12は、発電機出力偏差e(k)と補償制御器10の制御補償指令値u2(k)を入力し、発電機出力偏差e(k)と制御補償指令値u2(k)の間のゆらぎw(k)の二乗積算値を最小とするようなパラメータベクトルを算出し、これに合うように補償制御器10のパラメータを決定する。
【0026】
ピッチ角制御系で補償できない出力偏差は、補償制御器10で算出される制御補償指令値u2(k)で補償する。制御補償指令値u2(k)と出力偏差e(k)との関係は式(13)で表される。
Ae(k)=q−dBu2(k)+w(k) (13)
A= 1+a1q−1+・・・・+anq−n
B=b0+b1q−1+・・・・+bmq−m
ここで、q−1はシフトオペレータ、dはむだ時間、w(k) は制御補償指令値u2(k)によって補償されるべき発電機出力と出力偏差e(k)と間のゆらぎあるいは誤差、kはサンプリング数であり、a1,・・・・,an、b0,b1,・・・・,bmはパラメータ、mとnはモデル次数である。
【0027】
式(13)に対して、出力偏差の分散と制御補償指令値を考慮した式(14)で表される評価関数J1 を最小にするような制御入力u2(k)を求める。
J1=E[e2(k+d)+Λu22(k)] (14)
ここで、Λは重み係数、Eは期待値(空間平均)を表す。
式(14)は、サンプリング数をkとしたとき、dサンプリング先の出力偏差e(k+d)と現時点kにおける制御補償指令値u2(k)の二乗に重みΛを掛けた値の和の期待値を表している。したがって、補償制御器10は最小分散制御器(MVC)として作用する。評価関数J1 を最小にするような制御補償指令値u2(k)は、dサンプリング先の出力偏差e(k+d)を小さくすることが可能である。また、重み係数Λを使って制御補償指令値u2(k)の変化に制限を掛け、制御補償指令値u2(k)の発散を防ぐことができる。
【0028】
評価関数J1 を最小にするような制御補償指令値u2(k)は偏分式∂J1/∂u2(k)=0で求めることができ、一般化最小分散制御としての式(15)で表される。
(BR+Λ/b0)u2(k)=−He(k) (15)
ここで、R,Hは多項式であり、変数の範囲を整数に限定した、式(16)のディオファントス方程式(Diophantine Equation)により一意に決定される。
1=AR+q−dH (16)
R= 1+r1q−1+・・・・+rd−1q−(d−1)
H=h0+h1q−1+・・・・+hnー1q−(n−1)
こうして、一意に決定された多項式R,Hにより、一般化最小分散制御に基づいた操作量u2(k)を得ることができる。
【0029】
式(15)の成立は次のようにして確認することができる。
式(16)のディオファントス方程式の両辺にe(k)を掛けると、
e(k)=ARe(k)+q−dHe(k)
となり、式(13)の関係を用いると、
e(k)=BRu2(k−d)+He(k−d)+w(k)R
となり、さらに、サンプリングdだけシフトさせると、
e(k+d)=BRu2(k)+He(k)+w(k+d)R
となる。ここで、次式によってd段最適予測値^e(k+d)を定義する。
^e(k+d)=BRu2(k)+He(k)
【0030】
式(14)の評価関数J1 における出力偏差e(k)を最適予測値^e(k+d)で置き換えると、
J1=E[(^e(k+d)+Rw(k+d))2+Λu22(k)]
=E[(^e(k+d))2+Λu22(k)]+ E[(Rw(k+d))2]
最小分散制御入力u2(k)を求めるために、まず、最適予測値^e(k+d)をu2(k) で偏分したものを求める。 ^e(k+d)の定義式を展開すると、
^e(k+d)=(b0+b0r1q−1+・・・・+b0rd−1q−(m+d−1) )u2(k)
+H(q−1)e(k)
この式をu2(k) で偏分すると、∂^e(k+d)/∂u2(k)の値はb0になる。
【0031】
この関係を使って整理すると、評価関数J1 の偏分は、
∂J1/∂u2(k)=2b0^e(k+d)+2Λu2(k)
=2b0(BRu2(k)+He(k))+2Λu2(k)
=2b0(BRu2(k)+He(k)+Λu2(k)/b0)
評価関数J1 を最小にするu2(k)については∂J1/∂u2(k)=0になるから、式(15)が成立する。
【0032】
しかし、実際に制御補償指令値u2(k)を計算するためには、式(13)における偏差方程式パラメータai,bj(1≦i≦n,1≦j≦m)を同定することが必要である。
そこで、パラメータ同定器12では、パラメータ同定法として最も一般的に用いられている最小二乗法を用いる。最小二乗法による未知パラメータの同定は、式(17)の評価関数J2を最小にするパラメータベクトルθを求めることである。
J2=Σw2(k) =Σ( e(k)−zT(k)θ)2 (17)
θT=(−a1,−a2,・・・・an,b0,b1,・・・・bm )
zT(k)=(e(k−1),e(k−2),・・・・e(k−n),
u2(k−d),u2(k−d−1),・・・・u2(k−d−m))
ここで、Σはk=0からNまでの積算、Nは評価期間内のサンプル数、またTは転置ベクトルを表す。
【0033】
∂J2/∂θ=0とおいてθの推定値〜θを求めると、最終的に式(18)で与えられる。
〜θ(N)=〜θ(N−1)
−P(N−1)z(N)(zT(N)〜θ(N−1)−e(N))
/(1+zT(N)P(N−1)z(N)) (18)
ここで、P(N)は式(19)で与えられる。
P(N)=P(N−1)−P(N−1)z(N)zT(N)P(N−1)
/(1+zT(N)P(N−1)z(N)) (19)
式(18)(19)によって逐次繰り返し最小二乗法のアルゴリズムとなり、パラメータ同定がオンラインで可能となる。こうして得られるパラメータベクトルθの推定値に基づいて補償制御器10のパラメータを書き換えて、制御補償指令値u2(k)を算出する。
【0034】
同定パラメータが一定の値に収束しない場合には、ピッチ角制御系が不安定になることがある。本実施例のシステムでは、従来型のピッチ角制御系で算定される操作量u1に補償制御器の制御補償指令値u2を補助として加えて操作量とするので、制御補償指令値u2を監視していて不安定になる状況を検知したときに制御補償指令値u2を遮断すれば、系の安定性を失うことはない。
また、本実施例のシステムは、操作量u1を決定するピッチ角制御系の種類にかかわらず適用が可能であるため、既存の風力発電設備にも比較的容易に適用できる。
さらに、本実施例のピッチ角制御装置では、制御式をパラメータで表し、評価関数を極小にするようなパラメータベクトルを求めてパラメータ同定するので、制御モデルが簡単でしかも対象に依らず同じ手法が利用できる。
【0035】
本実施例の風力発電機のピッチ角制御装置について、上記関係式で表すモデルに基づいてシミュレーションを行うことにより、性能を確認した。実状をより正確に模擬するため、風車タワーのウィンドシェアの影響も考慮している。なお、出力電力平準化の評価関数J3として、出力偏差の二乗積分値を用いた。
J3=∫(Pgo−Pg)2dt
シミュレーションの結果は、図7に示すような従来型のフィードフォワード付ピッチ角制御系と比較して表示した。比較に用いた従来型制御系は、上記説明したと同様のフィードバック制御系において伝達関数Tes/(1+Tds)のフィードフォワード要素6を付加して、風速Vwの変化による影響を予想してこれを相殺するための補償指令値u2をフィードバック制御器の出力u1に加えるものである。
シミュレーションで用いた風車、誘導発電機、制御器の諸元は図8の表に示すとおりである。サンプリング周期Tsは1msとした。
【0036】
(シミュレーション1)ノミナル時の結果
図9から図13は、パラメータ測定誤差がないときのノミナル時における制御結果例を示す図面である。補償制御器の重み係数Λや次数m,nなどは、良好な制御結果が得られる値を調べて設定した。図9から図12については、図中、点線で示すグラフは比較対象の従来型フィードフォワード付ピッチ角制御系、実線は本実施例の制御系で得られた制御結果である。図13は、各パラメータの収束状態を示している。
【0037】
実際の風速変動を模擬するため図9(a)に示すような風速パターンを設定した。このとき、図9(b)に示すように、従来型では発電機出力Pgが風速変化に同期して大きく揺れ、しかもウィンドシェアの影響を直接に被るのに対して、本実施例の制御系ではほぼ定格出力に維持されていることが分かる。
図10(a)は発電機出力偏差e、図10(b)は出力トルクTw、図10(c)は評価関数J3の経時変化を示したものである。発電機出力偏差eと出力トルクTwの変化は、図9(b)の発電機出力Pgの変動状況とほぼ同じで、図10(c)に示す評価関数J3の推移からも、本実施例の制御系の制御性が各段に優れていることが明確になった。評価関数J3は従来型では時間が経つにつれて徐々に増加するのに対して、本実施例の制御系では表示された全域に亘ってほぼ一定値を保持して誤差の蓄積が殆ど無いことを示している。
【0038】
図11(a)はピッチ角β、図11(b)はピッチ角指令値βCMDの変化を示すグラフである。ピッチ角とピッチ角指令値の変化はいずれも本実施例の方が大きく、ウィンドシェアなどの高周波成分について追従性が優れることが分かる。
図12(a)はフィードバック制御系の操作出力u1を示し、図12(b)はフィードバック系に付加したフィードフォワードあるいは本実施例の適応制御系の補償操作出力u2を示す。フィードバック制御系が風速変動によく追従しているが、さらに付与機構が高周波成分の補正値を出して制御性を向上させている。なお、フィードフォワード系を付与したものより本実施し例の制御系がより大きな補償出力を出していることが分かる。
図13(a)と図13(b)は、それぞれ本実施例におけるパラメータai、bjの同定状況を示したもので、運転開始後直ぐにパラメータ同定に成功することが示されている。
【0039】
(シミュレーション2)パラメータ測定誤差があった時の結果
図14から図18は、パラメータ測定誤差があった時における制御結果例を示す図面である。ここでは、風車と誘導発電機における特性パラメータc10からc34が正しい値の150%になっているとして、制御性を検査した。パラメータを除く条件はシミュレーション1の場合に準ずる。
風速変動パターンは、図14(a)に示す通り図9(a)に示すものと同じである。
図14(b),図15(a),図15(b)に示すように、発電機出力Pg、発電機出力偏差e、出力トルクTwは、従来型のフィードフォワード制御系を付与した制御系では、ノミナル時と比較して大きく揺れるのに対して、本実施例の制御系では殆ど揺れずに定格出力に維持されている。図15(c)に示した評価関数J3の推移状態によると、従来型の制御系では、ノミナル時の結果と比較して評価関数の値が時間と共に大きくなっているのに対して、本実施例の制御系では、制御開始の当初からほぼ一定値を保持し、パラメータ測定誤差があるときにも高い制御性があることを証明している。
【0040】
図16(a)(b),図17(a)(b)は、それぞれピッチ角β、ピッチ角指令値βCMD、フィードバック制御系の操作出力u1、付与した補償制御系の補償操作出力u2の変化を示す。
これらの変数の変化はノミナル時と類似しているが、付与した制御系に関する変数については、むしろ揺れが小さくなっている。これはシステムのパラメータが150%と大きいためゲインが大きくなった効果が見られたものと推定される。
図18(a)と図18(b)は、それぞれ本実施例におけるパラメータai、bjの同定状況を示したもので、運転開始後直ぐにパラメータ同定に成功している。なお、風車と誘導発電機に関するパラメータc10〜c34が150%に増加したため、制御器内のパラメータbjの同定値がノミナル時より小さい値になっている。
【0041】
以上のシミュレーションの結果から、従来の制御系と比較して、本実施例の制御系が発電機出力の安定化に著しい効果があること、パラメータの変化に対応して直ちに制御器内のパラメータを修正し要項な制御を持続することができることが分かる。
なお、上記実施例の説明では、油圧サーボ系を用いて翼のピッチ角を操作しているが、他のアクチュエータを用いても良いことは言うまでもない。
また、評価関数は評価目的にしたがって他の適当な関数を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る実施例に係るピッチ角制御装置を表すブロック図である。
【図2】本実施例に用いる従来のフィードバック型ピッチ角制御系を表すブロック図である。
【図3】本実施例における風車と発電機のシステムのブロック図である。
【図4】本実施例における油圧サーボ系の伝達特性示すブロック図である。
【図5】本実施例におけるピッチ角と制御量の関係を示すグラフである。
【図6】本実施例におけるピッチ角制御器の1例を示すブロック図である。
【図7】シミュレーションにおいて対比に使用するフィードフォワード型制御系のブロック図である。
【図8】シミュレーションしたときの各要素に適用した諸元の表である。
【図9】第1シミュレーションにおける風速パターンと発電機出力を表すグラフである。
【図10】第1シミュレーションにおける発電機出力偏差と出力トルクと評価関数J3の経時変化を示したグラフである。
【図11】第1シミュレーションにおけるピッチ角とピッチ角指令値の変化を表示したグラフである。
【図12】第1シミュレーションにおけるフィードバック制御系の操作出力と付加した適応制御系の補償操作出力を示すグラフである。
【図13】第1シミュレーションにおけるパラメータの同定状況を示すグラフである。
【図14】第2シミュレーションにおける風速パターンと発電機出力を表すグラフである。
【図15】第2シミュレーションにおける発電機出力偏差と出力トルクと評価関数J3の経時変化を示したグラフである。
【図16】第2シミュレーションにおけるピッチ角とピッチ角指令値の変化を表示したグラフである。
【図17】第2シミュレーションにおけるフィードバック制御系の操作出力と付加した適応制御系の補償操作出力を示すグラフである。
【図18】第2シミュレーションにおけるパラメータの同定状況を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 風車発電機
2 ピッチ角制御器
3 油圧サーボ系
4 参照テーブル
5 選択器
6 フィードフォワード要素
10 補償制御器
12 パラメータ同定器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼のピッチ角を変化させることによって回転調整ができる風車に繋がった発電機とピッチ角制御器とからなり、該ピッチ角制御器が前記発電機の出力と定格出力の偏差を入力し制御演算して算出したピッチ角指令値を出力し、該ピッチ角指令値にしたがって翼のピッチ角を変化させることによって風速に対応する発電出力を得る風力発電装置において、前記偏差を入力しパラメータによって決まる制御式を該偏差に適用して算出した制御補償指令値を出力する補償制御器と、前記偏差と前記制御補償指令値を入力してこれらを変数とする評価関数を極値に近付けるように前記パラメータを同定するパラメータ同定器を備えて、前記制御補償指令値を前記ピッチ角指令値に加えて風車発電機に入力することを特徴とする風力発電機のピッチ角制御装置。
【請求項2】
前記補償制御器における制御式が、下の式(1)で表され、下の式(2)で表される評価関数J1を最小にするような制御補償指令値を与えるようにして、前記パラメータ同定器における前記評価関数が下の式(3)で表される評価関数J2であって、該評価関数J2を最小とするように式(1)のパラメータを決めることを特徴とする請求項1記載の風力発電機のピッチ角制御装置。
Ae(k)=q−dBu2(k)+w(k) (1)
A= 1+a1q−1+・・・・+anq−n
B=b0+b1q−1+・・・・+bmq−m
J1=E[e2(k+d)+Λu22(k)] (2)
J2=Σw2(k) (3)
ここで、e(k)は発電機出力偏差、qはシフトオペレータ、dはむだ時間、u2(k)は制御補償指令値、w(k) はゆらぎ、kはサンプリング数であり、a1,・・・・,an、b0,b1,・・・・,bmはパラメータ、mとnはモデル次数であり、Λは重み係数、Eは期待値(空間平均)を表し、Nは評価期間内のサンプル数、Σはk=0からNまでの積算を表す。
【請求項1】
翼のピッチ角を変化させることによって回転調整ができる風車に繋がった発電機とピッチ角制御器とからなり、該ピッチ角制御器が前記発電機の出力と定格出力の偏差を入力し制御演算して算出したピッチ角指令値を出力し、該ピッチ角指令値にしたがって翼のピッチ角を変化させることによって風速に対応する発電出力を得る風力発電装置において、前記偏差を入力しパラメータによって決まる制御式を該偏差に適用して算出した制御補償指令値を出力する補償制御器と、前記偏差と前記制御補償指令値を入力してこれらを変数とする評価関数を極値に近付けるように前記パラメータを同定するパラメータ同定器を備えて、前記制御補償指令値を前記ピッチ角指令値に加えて風車発電機に入力することを特徴とする風力発電機のピッチ角制御装置。
【請求項2】
前記補償制御器における制御式が、下の式(1)で表され、下の式(2)で表される評価関数J1を最小にするような制御補償指令値を与えるようにして、前記パラメータ同定器における前記評価関数が下の式(3)で表される評価関数J2であって、該評価関数J2を最小とするように式(1)のパラメータを決めることを特徴とする請求項1記載の風力発電機のピッチ角制御装置。
Ae(k)=q−dBu2(k)+w(k) (1)
A= 1+a1q−1+・・・・+anq−n
B=b0+b1q−1+・・・・+bmq−m
J1=E[e2(k+d)+Λu22(k)] (2)
J2=Σw2(k) (3)
ここで、e(k)は発電機出力偏差、qはシフトオペレータ、dはむだ時間、u2(k)は制御補償指令値、w(k) はゆらぎ、kはサンプリング数であり、a1,・・・・,an、b0,b1,・・・・,bmはパラメータ、mとnはモデル次数であり、Λは重み係数、Eは期待値(空間平均)を表し、Nは評価期間内のサンプル数、Σはk=0からNまでの積算を表す。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−37850(P2006−37850A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219368(P2004−219368)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]