説明

駆動装置

【課題】電圧駆動型素子を駆動状態と非駆動状態の間で遷移させるときの遷移期間において、電圧駆動型素子のゲート電圧を柔軟に制御するための技術を提供する。
【解決手段】駆動装置1は、電圧駆動部3と電流駆動部4を備えている。電圧駆動型素子2を駆動状態と非駆動状態の間で遷移させるときの遷移期間のうちの一部の区間では、電圧駆動部3を利用した電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgの制御が停止され、電流駆動部4を利用した電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgの制御が実行されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧駆動型素子を駆動する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧駆動型素子は、駆動電圧を用いて特定機能を発揮することが可能な素子であり、様々な用途で広く用いられている。電圧駆動型素子の一例には、ゲートを備える電圧駆動型素子が知れられている。電圧駆動型素子は、ゲート電圧に基づいて電流値を制御するものであり、例えば直流電圧を交流電圧に変換するインバータ装置に用いられている。電圧駆動型素子の一例には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を含むパワー半導体スイッチング素子が挙げられる。
【0003】
このような電圧駆動型素子を駆動するために、電圧駆動型素子には駆動装置が接続されている。駆動装置は、電圧駆動型素子のゲート電圧を制御するように構成されている。例えば、駆動装置は、電圧駆動型素子のオン・オフを指示する制御信号に基づいて電圧駆動型素子のゲート電圧を制御することができる。駆動装置はまた、電圧駆動型素子の駆動状態を示す信号、又は外部環境の状態を示す信号に基づいてゲート電圧を制御することができる。
【0004】
このような駆動装置の駆動方式としては、電圧駆動が広く用いられている。電圧駆動では、電圧駆動型素子のゲートに電圧源からの所定電圧を印加して電圧駆動型素子のゲート電圧を制御する。
【0005】
特許文献1には、電圧駆動型素子を駆動状態と非駆動状態の間で遷移させるときの遷移期間のうちの一部の区間において、電圧駆動に電流駆動を重畳させて電圧駆動型素子のゲート電圧を高精度に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−228768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、電圧駆動を利用して電圧駆動型素子をターンオンさせる場合、電圧駆動型素子のゲートに印加される電圧は、電圧駆動型素子のゲート閾値電圧とゲート絶縁破壊電圧の間に設定されなければならない。ゲートに印加される電圧がゲート閾値電圧よりも低いと、電圧駆動型素子がオフしてしまう。ゲートに印加される電圧がゲート絶縁破壊電圧よりも高いと、ゲートが損傷してしまう。
【0008】
このため、電圧駆動を利用して電圧駆動型素子をターンオンさせる場合、ゲートに印加可能な電圧に制限があることから、電圧駆動型素子のゲート電圧の上昇速度にも制限がある。例えば、サージ電流又はリンギングを抑えるために、電圧駆動型素子のゲート電圧の上昇速度を遅く制御したいことがある。しかしながら、電圧駆動型素子のゲートに印加可能な電圧に制限があることから、電圧駆動を利用する限り、ゲート電圧の上昇速度の低速化にも限界がある。
【0009】
特許文献1の技術によれば、電流駆動を電圧駆動に重畳して用いることで、ゲート電圧の上昇速度を微調整することができる。しかしながら、特許文献1の技術では、遷移期間の全区間に亘って電圧駆動が利用されており、ゲート電圧の上昇速度の低速化に限界がある。
【0010】
本明細書では、電圧駆動型素子を駆動状態と非駆動状態の間で遷移させるときの遷移期間において、電圧駆動型素子のゲート電圧を柔軟に制御するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で開示される駆動装置は、電圧駆動型素子のゲートに接続可能に構成されている電圧駆動部と、電圧駆動型素子のゲートに接続可能に構成されている電流駆動部とを備えている。本明細書で開示される駆動装置は、電圧駆動型素子を駆動状態と非駆動状態の間で遷移させるときの遷移期間のうちの一部の区間において、電圧駆動部を利用した電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が停止され、電流駆動部を利用した電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が実行されるように構成されている。この態様の駆動装置は、遷移期間のうちの一部の区間において、電圧駆動型素子のゲート電圧を電流駆動部からの所定の電流に依存して変化させることができるので、電圧駆動型素子のゲート電圧を柔軟に制御することができる。
【0012】
本明細書で開示される駆動装置は、遷移期間のうちの第1区間では、電流駆動部を利用した電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が停止され、電圧駆動部を利用した電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が実行されるように構成されていてもよい。さらに、本明細書で開示される駆動装置は、遷移期間のうちの第2区間では、電圧駆動部を利用した電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が停止され、電流駆動部を利用した電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が実行されるように構成されていてもよい。この態様の駆動装置によると、柔軟な制御が必要なときのみ電流駆動部が利用され、柔軟な制御が必要でないときは電圧駆動部が利用される。これにより、電力損失の増加を抑えながら、電圧駆動型素子のゲート電圧を柔軟に制御することができる。
【0013】
本明細書で開示される駆動装置では、第1区間が遷移期間のうちの前半区間であり、第2期間が遷移期間のうちの後半区間であってもよい。例えば、ターンオンの遷移期間の後半区間は、サージ電流又はリンギングに影響を与えやすい区間である。また、ターンオフの遷移期間の後半区間は、サージ電圧に影響を与えやすい区間である。本明細書で開示される駆動装置では、このように遷移期間の後半区間において、電圧駆動型素子のゲート電圧を柔軟に制御することができる。
【0014】
電流駆動部は、電圧駆動型素子のゲート電圧の変化速度を複数のレベルに調整可能に構成されていてもよい。また、電流駆動部は、電圧駆動型素子のゲート電圧の変化速度を任意のレベルに調整可能に構成されていてもよい。これらの態様によると、電圧駆動型素子のゲート電圧をアクティブ駆動することが可能になる。
【0015】
電流駆動部は、電圧駆動型素子の駆動状態に応じて、電圧駆動型素子のゲート電圧の変化速度を調整可能に構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で開示される駆動装置は、遷移期間のうちの一部の区間において、電圧駆動型素子のゲート電圧を電流駆動部からの所定の電流に依存して変化させることができるので、電圧駆動型素子のゲート電圧を柔軟に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、第1実施例の駆動装置の概要を示す。
【図2】図2は、第1実施例の駆動装置の変形例の概要を示す。
【図3】図3は、第1実施例の駆動装置の詳細を示す。
【図4】図4は、第1実施例の駆動装置のタイミングチャートを示す。
【図5】図5は、ターンオンの遷移期間のタイミングチャートの詳細を示す。
【図6】図6は、第2実施例の駆動装置の概要を示す。
【図7】図7は、第2実施例の駆動装置の詳細を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本明細書で開示される駆動装置の特徴を整理しておく。
(第1特徴)電圧駆動型素子は、駆動電圧を用いて特定機能を発揮することが可能な素子である。電圧駆動型素子は、絶縁ゲートを有する電圧駆動型のスイッチング素子であってもよく、特にパワー半導体スイッチング素子であってもよい。
(第2特徴)電圧駆動型素子は、ワンドバンドギャップの半導体材料で形成されていてもよい。例えば、電圧駆動型素子は、炭化ケイ素、窒化ガリウム等の化合物半導体で形成されていてもよい。このようなワイドバンドギャップの半導体材料で形成される電圧駆動型素子では、サージやリンギングの問題を解決することが望まれている。本実施例で開示される駆動装置は、そのような問題を解決する点で有用である。
(第3特徴)電圧駆動型素子を駆動状態と非駆動状態の間で遷移させるときの遷移期間とは、電圧駆動型素子をターンオンさせるときの遷移期間とターンオフさせるときの遷移期間の双方を含む。ターンオンの遷移期間は、電圧駆動型素子のゲート電圧の立ち上がり開始時から定常状態になるまでの間である。ターンオフの遷移期間は、電圧駆動型素子のゲート電圧の立ち下がり開始時から定常状態になるまでの間である。
(第4特徴)本願明細書で開示される駆動装置では、電流駆動が実行されるときに、電圧駆動が停止される区間が少なくとも存在する。これにより、電圧駆動型素子のゲート電圧を高精度に制御することができる。
【実施例1】
【0019】
以下、図面を参照して各実施例を説明する。なお、各実施例で共通する構成要素に関しては共通の符号を付し、その説明を省略する。
【0020】
図1に、n型MOSFETの電圧駆動型素子2を駆動する駆動装置1の概要を示す。図1に示されるように、電圧駆動型素子2には、還流ダイオードが並列に接続されている。電圧駆動型素子2は、例えば、インバータ装置の上下アームを構成するパワー半導体スイッチング素子として用いられてもよい。
【0021】
駆動装置1は、電圧駆動型素子2の駆動状態(オン状態)と非駆動状態(オフ状態)を切換えるように構成されており、ゲート抵抗Rgと、一対のスイッチSW1,SW2と、電圧駆動部3と、電流駆動部4と、制御部5と、信号生成部6と、電圧源7を備えている。なお、この例では、電圧駆動型素子2をターンオンさせる遷移期間において電圧駆動と電流駆動を切換える構成を例示しているが、必要に応じて、電圧駆動型素子2をターンオフさせる遷移期間においても、電圧駆動と電流駆動を切換える構成が採用されていてもよい。
【0022】
ゲート抵抗Rgは、電圧駆動型素子2のゲートに接続されている固定抵抗素子である。ゲート抵抗Rgは、電圧駆動型素子2のゲート電流の充電速度と放電速度を決定している。
【0023】
第1スイッチSW1は、一端がゲート抵抗Rgに接続されており、他端が電圧駆動部3と電流駆動部4を介して電圧源7の正極性に接続されている。第2スイッチSW2は、一端がゲート抵抗Rgに接続されており、他端が電圧源7の負極性に接続されている。
【0024】
電圧駆動部3は、第1スイッチSW1を介して電圧駆動型素子2のゲート抵抗Rgに接続可能に構成されている。電圧駆動部3は、電圧駆動型素子2のゲートに所定の電圧を印加するように構成されている。また、電圧駆動部3には、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが入力している。電圧駆動部3は、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgに応じて、電圧駆動型素子2のゲートに所定の電圧を印加する状態(電圧駆動を実行する状態)と印加しない状態(電圧駆動を停止する状態)を切換え可能に構成されている。なお、後述するように、電圧駆動部3による電圧駆動が実行されているときは、電流駆動部4による電流駆動が停止され、電圧駆動部3による電圧駆動が停止されているときは、電流駆動部4による電流駆動が実行されるように構成されている。
【0025】
電流駆動部4は、第1スイッチSW1を介して電圧駆動型素子2のゲート抵抗Rgに接続可能に構成されている。電流駆動部4は、電圧駆動型素子2のゲートに所定の電流を供給するように構成されている。電流駆動部4には、信号生成部6からの指令信号Vordが入力している。また、電流駆動部4は、指令信号Vordに応じて、電圧駆動型素子2のゲートに供給するゲート電流値を調整することができる。
【0026】
制御部5は、図示しない電子制御ユニット(ECU)からのPWM信号に応答して、第1制御信号V1を第1スイッチSW1に出力し、第2制御信号V2を第2スイッチSW2に出力する。制御部5は、第1スイッチSW1と第2スイッチSW2のオン・オフを交互に切換えることにより、電圧駆動型素子2の駆動状態(オン状態)と非駆動状態(オフ状態)を切換えることができる。
【0027】
信号生成部6は、電流駆動部4に入力する指令信号Vordを生成する。指令信号Vordは、素子電流、素子電圧、素子温度の条件によって設定することが可能であり、その一例を図2に示す。図2の例では、電流検出回路8を利用して検出された電圧駆動型素子2のドレイン電流が信号生成部6に入力されるとともに、電圧駆動型素子2のドレイン・ソース間電圧も入力されている。信号生成部6は、これらドレイン電流及びドレイン・ソース間電圧を利用して、指令信号Vordを生成することができる。信号生成部6は、例えば、ドレイン電流の変化の様子(サージ電流、リンギング等)に基づいて、次回にターンオンさせるときの指令信号Vordを設定してもよい。また、信号生成部6は、例えば、ドレイン・ソース間電圧の変化の様子(変化速度等)に基づいて、次回にターンオンさせるときの指令信号Vordを設定してもよい。
【0028】
次に、図3を参照して、駆動装置1の構成の詳細を説明する。電圧駆動部3は、第1トランジスタTr1とゲート電圧検出回路3aを有する。第1トランジスタTr1では、ドレインが電圧源7の正極性に接続されており、ソースが第1スイッチSW1に接続されており、ゲートがゲート電圧検出回路3aに接続されている。ゲート電圧検出回路3aは、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgを入力しており、そのゲート電圧Vgを切換え閾値電圧と比較する。切換え閾値電圧は、電圧駆動型素子2をターンオンさせるときのサージ電流及びリンギングを効果的に抑制するために、電圧駆動から電流駆動に切換えるのに好適なタイミングとなるように設定されている。典型的には、切換え閾値電圧は、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgがミラー期間となるタイミングに設定されている。ゲート電圧検出回路3aは、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが切換え閾値電圧以下のときに第1トランジスタTr1をオンし、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが切換え閾値電圧を超えたときに第1トランジスタTr1をオフするように構成されている。ゲート電圧検出回路3aは、例えば、コンパレータを用いて構成してもよい。
【0029】
電流駆動部4は、カレントミラー回路4aと電流制御回路4bを有する。カレントミラー回路4aは、一対のpnp型のトランジスタTr2,Tr3で構成されており、第2トランジスタTr2が出力側に配置されており、第3トランジスタTr3が入力側に配置されている。電流制御回路4bは、カンレトミラー回路4aの入力側に接続されており、npn型の第4トランジスタTr4とオペアンプOP1と固定抵抗素子R1を有する。
【0030】
電流制御回路4bの第4トランジスタTr4は、コレクタがカレントミラー回路4aの第3トランジスタTr3のコレクタに接続されており、エミッタが固定抵抗素子R1に接続されている。オペアンプOP1では、反転入力端子に指令信号Vordが入力しており、非反転入力端子に第4トランジスタTr4と固定抵抗素子R1の接続点P1が接続されており、出力が第4トランジスタTr4の制御端子に接続されている。電流制御回路4bは、接続点P1の電圧が指令信号Vordと等しくなるように、第4トランジスタTr4を制御する。このため、指令信号Vordが低い場合、第4トランジスタTr4を流れる電流値も小さく制御され、その結果、カレントミラー回路4aの出力電流も小さく制御される。一方、指令信号Vordが高い場合、第4トランジスタTr4を流れる電流値も高く制御され、その結果、カレントミラー回路4aの出力電流も高く制御される。このように、電流駆動部4は、指令信号Vordに応じて、任意の駆動電流を生成することができる。
【0031】
次に、図4を参照し、電圧駆動型素子2がターンオンするときの動作の概要を説明する。タイミングt2において、第1制御信号V1が立ち上がり、第2制御信号V2が立ち下がる。これにより、第1スイッチSW1がオンとなり、第2スイッチSW2がオフとなる。なお、タイミングt2に先立って、タイミングt1において指令信号VordがオペアンプOP1に入力している。
【0032】
タイミングt2では、ゲート電圧Vgが切換え閾値電圧以下なので、ゲート電圧検出回路3aは第1トランジスタTr1をオンに制御している。このため、タイミングt2でスイッチSW1がオンすると、電圧駆動部3を介して電圧源7から電圧駆動型素子2のゲートに正電圧が印加され、ゲート電圧Vgが上昇する。このとき、電圧駆動部3の第1トランジスタTr1がオンしているので、カレントミラー回路4aは動作せず、カレントミラー回路4aから電圧駆動型素子2のゲートへの電流供給は停止されている。このため、電圧駆動部3を介してのみ電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが制御される。
【0033】
電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが上昇し、タイミングt3においてゲート電圧Vgが切換え閾値電圧を超えると、ゲート電圧検出回路3aは第1トランジスタTr1をオフに制御する。第1トランジスタTr1がオフすると、カレントミラー回路4aから電圧駆動型素子2のゲートへの電流供給が開始される。電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgは電流駆動により上昇し、タイミングt4において定常状態となる。
【0034】
ここで、図5を参照し、ターンオンの遷移期間をさらに詳細する。図5に示されるように、タイミングt2〜t4がターンオンの遷移期間である。前記したように、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが切換え閾値電圧Vaに達するまで(タイミングt3まで)は、電圧駆動部3を利用して電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが上昇する。このとき、電流駆動部4を利用した電流駆動は停止されている。電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが切換え閾値電圧Vaを超えた後(タイミングt3以降)は、電流駆動部4を利用して電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが上昇する。このとき、電圧駆動部3を介した電流駆動は停止されている。
【0035】
前記したように、電流駆動部4から供給される電流は、指令信号Vordに応じて任意に設定することができる。このため、図5の破線に示されるように、指令信号Vordが低く設定されていると、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgの上昇速度が相対的に遅くなり、指令信号Vordが高く設定されていると、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgの上昇速度が相対的に速くなる。このように、電流駆動部4を利用した電流駆動では、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgの上昇速度を指令信号Vordに応じて任意に設定することができる。電圧駆動型素子2をターンオンさせるときの後半区間は、サージ電流及びリンギングに影響を与えやすい区間である。本実施例の駆動装置1は、電圧駆動型素子2をターンオンさせるときの後半区間において、電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgの上昇速度を任意の大きさに且つ高精度に制御することができる。また、サージ電流及びリンギングは、電圧駆動型素子2のバラツキにも依存することが知られている。本実施例の駆動装置1は、指令信号Vordを適宜に変更することによって、電圧駆動型素子2毎に最適なゲート電圧Vgの上昇速度を設定することができるので、このようなバラツキにも容易に対処することができる。
【0036】
図4に戻る。電圧駆動型素子2のゲート電圧が定常状態になると、タイミングt5において、指令信号Vordの入力が停止する。これにより、定常状態では、電流駆動部4内のカレントミラー回路4aが停止され、第3トランジスタTr3、第4トランジスタTr4及び固定抵抗素子R1で発生する損失の増大が抑えられる。
【0037】
タイミングt6において、第1制御信号V1が立ち下がり、第2制御信号V2が立ちあがると、第1スイッチSW1がオフとなり、第2スイッチSW2がオンとなる。これにより、電圧駆動型素子2のゲートに蓄積していた電荷が放電され、電圧駆動型素子2がオフとなる。
【0038】
以下、本実施例の駆動装置1の特徴を整理する。
(1)通常の電圧駆動によるスイッチングでは、電圧駆動型素子2のゲート入力容量とゲート抵抗で決まるCR時定数によってゲート電圧信号が決定される。この場合、スイッチング遷移途中からゲート抵抗の切換え等を行うことでCR時定数を変化させることにより、サージ・リンギングの抑制等を行うことができる。しかし、電圧駆動型素子2のゲート入力容量のバラツキ、ゲート抵抗のバラツキ、素子温度、素子電流等により、実動作ではその効果が限定される。ロバスト性を持たせるために、切換えるゲート抵抗値を複数持たせることも考えられるが、回路規模が大きくなり実用に適さない。一方、本実施例の駆動装置1では、スイッチング遷移途中から、それまでの電圧駆動からゲート電流量を任意の値に設定可能な電流駆動にすることにより、高精度にゲート電圧Vgの上昇速度を制御することができる。
【0039】
(2)本実施例では、遷移期間のうちの前半区間において、電流駆動を停止し、電圧駆動のみを実行する。遷移期間の前半区間は、ゲート電圧の上昇速度を正確に制御する必要性が相対的に少ない。これにより、電力損失の増大を抑えながら、電圧駆動型素子2を駆動することができる。
【実施例2】
【0040】
図6に第2実施例の駆動装置10の概要を示し、図7にその詳細を示す。駆動装置10では、電圧駆動部13が第1実施例の駆動装置1と相違する。電圧駆動部13は、固定抵抗素子R2とツェナーダイオードZD1とpnp型の第5トランジスタTr5を有する。固定抵抗素子R2は、第5トランジスタTr5のエミッタとベースの間に接続されている。ツェナーダイオードZD1は、カソードが第5トランジスタTr5のベースに接続され、アノードが第5トランジスタTr5のコレクタに接続されている。
【0041】
電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが低い間は、ツェナーダイオードZD1が降伏しており、これにより、第5トランジスタTr5がオンになっている。電圧駆動型素子2のゲート電圧Vgが上昇し、ツェナーダイオードZD1が非導通になると、第5トランジスタTr5もオフとなる。このようにして、電圧駆動部13は、ゲート電圧Vgに応じて切換わることができる。その他の動作は、第1実施例の駆動装置1と同様である。第2実施例の電圧駆動部13は、簡単な構成を利用して電圧駆動と電流駆動を切換えることができるので、コスト面で有利である。
【0042】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0043】
1:駆動装置
2:電圧駆動型素子
3:電圧駆動部
4:電流駆動部
5:制御部
6:信号生成部
7:電圧源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動型素子を駆動する駆動装置であって、
前記電圧駆動型素子のゲートに接続可能に構成されている電圧駆動部と、
前記電圧駆動型素子のゲートに接続可能に構成されている電流駆動部と、を備えており、
前記電圧駆動型素子を駆動状態と非駆動状態の間で遷移させるときの遷移期間のうちの一部の区間では、前記電圧駆動部を利用した前記電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が停止され、前記電流駆動部を利用した前記電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が実行されるように構成されている駆動装置。
【請求項2】
前記遷移期間のうちの第1区間では、前記電流駆動部を利用した前記電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が停止され、前記電圧駆動部を利用した前記電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が実行されるように構成されており、
前記遷移期間のうちの第2区間では、前記電圧駆動部を利用した前記電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が停止され、前記電流駆動部を利用した前記電圧駆動型素子のゲート電圧の制御が実行されるように構成されている請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記第1区間が前記遷移期間のうちの前半区間であり、
前記第2区間が前記遷移期間のうちの後半区間である請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記電流駆動部は、前記電圧駆動型素子のゲート電圧の変化速度を複数のレベルに調整可能に構成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記電流駆動部は、前記電圧駆動型素子のゲート電圧の変化速度を任意のレベルに調整可能に構成されている請求項4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記電流駆動部は、前記電圧駆動型素子の駆動状態に応じて、前記電圧駆動型素子のゲート電圧の変化速度を調整可能に構成されている請求項4又は5に記載の駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−5231(P2013−5231A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134455(P2011−134455)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】