説明

駐車ブレーキ制御装置

【課題】サービスブレーキの影響により、ロック制御時にEPBにて発生させたいブレーキ力でないときにロック制御を解除してしまうことを防止する。
【解決手段】サービスブレーキの作動中にロック制御が行われた場合に、サービスブレーキが非作動のときと比べて、ブレーキケーブルに加えられている張力がサービスブレーキの影響により低下することを考慮し、ロック制御の終了条件となるロック制御目標張力値TTARをブレーキ液圧(M/C圧)に応じた値にする。これにより、サービスブレーキの影響により、ロック制御時にEPBにて発生させたいブレーキ力でないときにロック制御を解除してしまうことを防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキ(以下、EPB(Electric parking brake)という)のロック・リリース制御を行う駐車ブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、駐車時の車両の移動を規制するためにパーキングブレーキが用いられており、例えば、パーキングブレーキとして、操作レバーによってブレーキケーブルを引っ張ることで操作力をブレーキ機構に伝える手動式のものや、モータの回転力を利用し、モータ回転力をブレーキ機構に伝える電動式のもの等がある。
【0003】
電動式のパーキングブレーキであるEPBでは、例えばモータの回転力にてブレーキケーブルを引っ張り、このブレーキケーブルの張力をブレーキ機構(アクチュエータ)に伝えることでブレーキ力を発生させている。このようなEPBでは、ロック時には、モータをロック側に回転(正回転)させてモータ回転力をブレーキ機構(アクチュエータ)に伝えると共に、ブレーキ力を発生させた状態でモータ駆動を停止させ、リリース時には、モータをリリース側に回転(逆回転)させることでブレーキ力を解除する。
【0004】
このようなロック・リリース制御において、ロック時にはブレーキケーブルの張力が目標値になるとロック側へのモータ駆動を停止することで、所望のロック状態を保持し、リリース時にはブレーキケーブルの張力が略0になったことを検出することで、リリース状態になってブレーキ力が解除されたことを検出している。
【特許文献1】特表2001−514597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ビルトインブレーキのように、パーキングブレーキとサービスブレーキが共用されているタイプのアクチュエータに対してEPBが適用される場合、サービスブレーキの作動状況(油圧)の影響を受けるため、張力センサにて検出されるブレーキケーブルの張力とEPBにて発生させたいブレーキ力との相関関係にズレが生じる。このため、張力が目標値になるまでブレーキケーブルを引っ張るとEPBにて発生させたいブレーキ力よりも多くブレーキケーブルを引いてしまう等の問題が発生する。
【0006】
また、ロック状態にした後に張力が目標値から低下した場合、ロック状態を維持できるようにブレーキ力を調整すべく、ブレーキケーブルを増し引きすることにより、再度張力が目標値になるようにする増し引き制御を行うこともあるが、EPBにて発生させたいブレーキ力が低下していないにも関わらず、サービスブレーキの影響によって張力が低下し、必要が無い増し引きを行ってしまう等の問題も発生する。
【0007】
なお、ここではブレーキケーブルによりモータの回転力をブレーキ機構に伝えるタイプのEPBを例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、例えば、モータ回転力にて油圧ピストンを押圧し、それにより発生する油圧力にてブレーキパッドもしくはブレーキシューを押圧するようなタイプのEPBであっても同様の問題が発生する。具体的には、ブレーキケーブルを用いないEPBでは、EPBに備えられる電動モータを駆動することによりブレーキパッドもしくはブレーキシューなどの摩擦材を移動させるための押圧力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。このようなEPBの場合、摩擦材を移動させるための押圧力を検出し、その押圧力がEPBによるブレーキ力を解除したと想定される目標値に達した時にロック制御を終了させることができるが、このような制御形態とする場合に上記問題が発生することになる。勿論、ブレーキケーブルを用いる場合であっても、ブレーキケーブルの張力を検出せず、摩擦材を移動させるための押圧力に基づいてロック・リリース制御や増し引き制御を行うこともでき、この場合にも上記問題が発生する。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、パーキングブレーキとサービスブレーキが共用されているタイプのアクチュエータに対してEPBが適用される場合において、サービスブレーキの影響により、ロック制御時にEPBにて発生させたいブレーキ力でないときにロック制御を解除してしまうことを防止することを目的とする。
【0009】
また、パーキングブレーキとサービスブレーキが共用されているタイプのアクチュエータに対してEPBが適用される場合において、サービスブレーキの影響により、不必要にロック状態を維持するためのブレーキ力の調整が行われることを防止できるようにすることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電動モータ(11)を正回転駆動することにより押圧力を発生させることでEPB(2)によるブレーキ力を発生させたのち、発生させた押圧力が電動モータ(11)の駆動を停止させる目標値(TTAR)に達することを終了条件として電動モータ(11)の駆動を停止し、ブレーキ力を保持してロック状態にさせるロック制御を行うロック制御手段(150)を有し、ロック制御手段(150)に対して、サービスブレーキ(1)が作動中のときにサービスブレーキ(1)が非作動のときと比べて小さな値となるように目標値(TTAR)を設定する目標値設定手段(300)を備えることを特徴としている。
【0011】
このように、サービスブレーキ(1)の作動中にロック制御が行われた場合に、サービスブレーキ(1)が非作動のときと比べて、発生させられる押圧力がサービスブレーキ(1)の影響により低下することを考慮し、サービスブレーキ(1)が作動中のときにサービスブレーキ(1)が非作動のときと比べてロック制御の終了条件となる目標値(TTAR)が小さな値となるようにしている。このため、サービスブレーキ(1)の影響により、ロック制御時にEPB(2)にて発生させたいブレーキ力でないときにロック制御を解除してしまうことを防止することが可能となる。
【0012】
例えば、請求項2に示すように、目標値設定手段(300)では、目標値(TTAR)を設定するときに、摩擦材(15)を被摩擦材(16)に向かう方向に移動させるための押圧力と対応する物理量を確認し、該物理量が大きな値となるほど目標値(TTAR)を小さな値とすることができる。このような物理量としては、請求項3に示すように、ブレーキ液圧を用いることができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明では、ロック制御にてロック状態とされているときに、押圧力の目標値(TTAR)からの低下量(TDOWN)を演算したのち、該低下量(TDOWN)が閾値(TDLIM)を超えたときに電動モータ(11)を正回転駆動することにより押圧力を強める調整制御手段(160)を有し、調整制御手段(160)に対して、サービスブレーキ(1)が作動中のときにサービスブレーキ(1)が非作動のときと比べて大きな値となるように閾値(TDLIM)を設定する閾値設定手段(415)を備えることを特徴としている。
【0014】
調整制御が行われる際にサービスブレーキ(1)が作動中であっても、サービスブレーキ(1)が非作動のときと比べて、発生させていた押圧力がサービスブレーキ(1)の影響により低下することを考慮し、サービスブレーキ(1)が作動中のときにサービスブレーキ(1)が非作動のときと比べて押圧力の調整を行うか否かの判定基準となる閾値(TDLIM)が大きな値となるようにしている。このため、サービスブレーキ(1)の影響により、不必要に押圧力の調整が行われることを防止することが可能となる。
【0015】
例えば、請求項5に示すように、調整制御手段(160)では、閾値(TDLIM)を設定するときに、摩擦材(15)を被摩擦材(16)に向かう方向に移動させるための押圧力と対応する物理量を確認し、該物理量が大きな値となるほど閾値(TDLIM)を大きな値とすることができる。このような物理量としては、請求項6に示すように、ブレーキ液圧を用いることができる。
【0016】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【0019】
図1に示すように、ブレーキシステムには、ドライバの踏力に基づいてブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と駐車時に車両の移動を規制するためのEPB2とを有して構成されている。
【0020】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ5内に発生させ、このブレーキ液圧を各車輪のホイールシリンダ(以下、W/Cという)6に伝えることでブレーキ力を発生させる。また、マスタシリンダ5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられており、サービスブレーキ1により発生させるブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0021】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、ESC−ECU8にて実行される。例えば、ESC−ECU8からアクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ7に備えられる油圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。また、アクチュエータ7内にはM/C圧センサが備えられており、このM/C圧センサの検出信号がESC−ECU8に入力されることで、アクチュエータ7にてサービスブレーキ1の作動状態が検出できるようにされている。
【0022】
一方、EPB2は、ブレーキケーブル9やギア機構10およびモータ11を有して構成されたEPBアクチュエータ12と、EPB制御装置(以下、EPB−ECUという)13を有し、サービスブレーキ1と共用化されるW/C6を通じてブレーキ力を発生させる。
【0023】
本実施形態では、このようにサービスブレーキ1およびEPB2がブレーキ力を発生させるW/C6を備えた構成として、ビルトインブレーキ14を採用している。図2−aは、ビルトインブレーキ14の側面図、図2−bは、図2−aのA−A断面に対応するビルトインブレーキ14の詳細構造を示した断面図である。これら図2−aおよび図2−bに基づいてビルトインブレーキ14の詳細構造について説明する。
【0024】
ビルトインブレーキ14では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、W/C6にてブレーキパッド15を押圧し、ブレーキパッド15にてブレーキディスク16を挟み込むことにより、ブレーキパッド15とブレーキディスク16との間に発生する摩擦力にてブレーキ力を発生させる。
【0025】
図2−aに示されるように、ビルトインブレーキ14は、キャリパ17の端部に備えられたキャリパレバー18をブレーキケーブル9にて引っ張ることによりキャリパ17内に備えられたW/C6(図1、図2−b参照)内に油圧を発生させ、EPB2によるブレーキ力を発生させる。具体的には、キャリパレバー18はナット19を中心として回動可能に構成されている。このキャリパレバー18の一端にブレーキケーブル9の先端が固定され、他端にリターンスプリング20が固定されることで、ブレーキケーブル9が引っ張られていないときにはリターンスプリング20のバネ力にてキャリパレバー18が初期位置に戻され、ブレーキケーブル9が図中矢印A方向に引っ張られると、リターンスプリング20のバネ力に抗してキャリパレバー18が図中矢印Bのように回転させられる。
【0026】
キャリパ17内には、W/C6に加えて、ブレーキディスク16の端面の一部を挟み込むブレーキパッド15が収容されている。W/C6は、シリンダ部21内にランプシャフト22、プッシュロッド23、ナット24、リターンスプリング25およびピストン26などを備えて構成されている。
【0027】
ランプシャフト22は、一端がシリンダ部21に形成された挿入孔21aを通じてキャリパレバー18に連結され、キャリパレバー18がナット19の中心軸を中心として回動させられると、キャリパレバー18の回動に伴って回動させられる。
【0028】
このランプシャフト22におけるキャリパレバー18と連結された端部とは反対側の端部にはフランジ部22aが形成されており、シリンダ部21におけるフランジ部22aと対向する面にもフランジ部22aと対応する玉受け部27が形成されている。これらフランジ部22aと玉受け部27の向かい合う2面のうち少なくとも一方にはランプ溝(図示せず)が形成され、このランプ溝内に玉28が配置されている。ランプ溝は、ランプシャフト22の中心軸を中心とした周方向において深さが徐々に変化する傾斜溝となっている。このため、キャリパレバー18と共にランプシャフト22が回動させられると、フランジ部22aが回動させられるため、フランジ部22aと玉受け部27に形成されたランプ溝も相対的に回動させられ、ランプ溝の底面の傾斜によってランプシャフト22が中心軸方向に移動できるようになっている。
【0029】
プッシュロッド23は、ランプシャフト22におけるフランジ部22a側の端部と接触させられることにより、ランプシャフト22がブレーキパッド15側に移動させられる際にランプシャフト22から押圧力が加えられ、ランプシャフト22と共にブレーキパッド15側に移動させられる。このプッシュロッド23は、ランプシャフト22と接離可能に構成され、サービスブレーキ1が作動させられると、ランプシャフト22から離れてブレーキパッド15側に移動できる構造とされている。
【0030】
さらに、プッシュロッド23のうちランプシャフト22側の端部にもフランジ部23aが形成されており、このフランジ部23aによりリターンスプリング25のバネ力を受け止めている。リターンスプリング25は、シリンダ部21に固定されたスプリング受け29にて受け止められ、このスプリング受け29とプッシュロッド23のフランジ部23aとの間にて伸縮し、そのバネ力によりプッシュロッド23のフランジ部23aをランプシャフト22側に付勢している。このため、プッシュロッド23は、ブレーキパッド15側に押される力が働いていないときには、リターンスプリング25のバネ力によりランプシャフト22側に付勢される。
【0031】
また、プッシュロッド23の外周面には雄ネジ溝23bが形成されており、ナット24の内壁面に形成された雌ネジ溝24aに螺合されている。このため、プッシュロッド23がブレーキパッド15側に移動させられると、プッシュロッド23の外周面に形成された雄ネジ溝23bとナット24の内壁面に形成された雌ネジ溝24aとの摩擦力により、ナット24もブレーキパッド15側に移動させられる。
【0032】
さらに、ナット24の外周面にもフランジ部24bが形成されており、このフランジ部24bよりもブレーキパッド15側がピストン26の中空部に圧入などにより固定されることで、ナット24とピストン26とが一体化されている。このため、ナット24がブレーキパッド15側に移動させられると、これに伴ってピストン26もブレーキパッド15側に移動させられる。そして、シリンダ部21のうちプッシュロッド23におけるフランジ部23aとナット24におけるフランジ部24bとの間には、アクチュエータ7を通じてM/C圧もしくは車両安全性を向上させるための制御が行われているときの制御油圧がW/C圧として伝えられる圧力導入孔(図示せず)が形成されている。このW/C圧がナット24のフランジ部24bに作用し、ナット24およびピストン26がブレーキパッド15側に移動させられるように構成されている。
【0033】
このように、ビルトインブレーキ14では、サービスブレーキ1を作動させたときにはナット24のフランジ部24bにW/C圧が作用することによりピストン26を移動させてブレーキパッド15を押圧し、EPB2を作動させたときにはブレーキケーブル9を引っ張ることによってランプシャフト22を介してプッシュロッド23やナット24およびピストン26を移動させてブレーキパッド15を押圧する。つまり、サービスブレーキ1とEPB2のいずれを作動させても、W/C6にてブレーキパッド15を押圧する。これにより、ブレーキパッド15にてブレーキディスク16を挟み込むことにより発生する摩擦力にてブレーキ力を発生させることができる。なお、本実施形態の場合、このように構成されたビルトインブレーキ14のうち、ランプシャフト22がEPB2を作動させたときにW/C6におけるピストン26を移動させるための押圧力を発生させる部材となり、この押圧力に対応する力としてブレーキケーブル9の張力を検出している。
【0034】
ギア機構10は、図1モータ11の回転軸に備えられた入力用歯車10aと、減速歯車10bと、出力軸10cおよびドライブナット10dにて構成されている。減速歯車10bは、入力用歯車10aに噛合わされた第1平歯車10eと、この第1平歯車10eの回転軸と同軸的に備えられ、第1平歯車10eよりも歯数が少なくされた第2平歯車10fにて構成されている。出力軸10cは、雄ネジ溝が形成されたドライブスクリューであり、一端に減速歯車10bの第2平歯車10fに噛合わされた第3平歯車10gが備えられ、減速歯車10bを介して第3平歯車10gがモータ11にて駆動されると、この第3平歯車10gと同軸的に回転する。ドライブナット10dは、ギア機構10を収容するギアボックス10h内に備えられた図示しないガイドにより出力軸10cの平行方向に移動し、直線運動を行うように構成されている。このドライブナット10dにブレーキケーブル9が接続され、モータ回転に伴ってドライブナット10dが出力軸10cに沿って移動させられると、ブレーキケーブル9が引っ張られたり、緩められる。
【0035】
このようなギア機構10では、モータ11の回転を停止すると、その時点で各歯車の駆動も停止させられ、出力軸10cとドライブナット10dの嵌め合いによる摩擦力により、ブレーキケーブル9をその状態で保持することができる。このため、モータ11の回転に伴ってブレーキケーブル9を引っ張りパーキングブレーキ機構にてブレーキ力を発生させたときに、モータ11の回転を停止させると、そのブレーキ力が保持される。
【0036】
また、ギア機構10には、ブレーキケーブル9の張力を検出する張力センサ30が備えられている。張力センサ30は、例えばブレーキケーブル9の張力が大きくなるほど収縮するバネ(図示せず)を有して構成され、そのバネの収縮量に応じた検出信号を発生させることでブレーキケーブル9が発生させる張力を検出する。この張力センサ30の検出信号がEPB−ECU13に入力されることで、EPB−ECU13にてブレーキケーブル9の張力が検出される。
【0037】
EPB−ECU13は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ11の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。このEPB−ECU13が本発明の駐車ブレーキ制御装置に相当する。EPB−ECU13は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作スイッチ(SW)31の操作状態に応じた信号を入力したり、車内LAN32を通じてESC−ECU8からのM/C圧に関する情報を入力し、操作SW31の操作状態やM/C圧に応じてモータ11を駆動する。また、EPB−ECU13は、インストルメントパネルに備えられたロック/リリース表示ランプ33に対してモータ11の駆動状態に応じて、ロック中であるかリリース中であるかを示す信号を出力したり、故障表示ランプ34に対してEPB2の故障時にその旨の信号を出力する。
【0038】
具体的には、EPB−ECU13は、張力センサ30の検出信号に基づいてブレーキケーブル9に加えられる張力を検出する張力検出部、ロック制御を終了させるときのロック制御目標張力値TSLTを演算する目標値演算、発生している張力が目標張力に達したか否かを判定したり張力が0に達したか否かの判定、操作SW31の操作状態に基づいてモータ11を制御することによるEPBアクチュエータ12の駆動状態の制御、M/C圧に基づいてサービスブレーキ1の作動状態を判定する作動判定等、ロック・リリース制御を実行するための各種機能部を有している。このEPB−ECU13により操作SW31の状態やブレーキケーブル9に加えられる張力に基づいてモータ11を正回転や逆回転させたりモータ11の回転を停止させることで、EPB2をロック・リリースする制御を行う。以上のようにして、本実施形態にかかるブレーキシステムが構成されている。
【0039】
続いて、上記のように構成されたブレーキシステムを用いてEPB−ECU13が上記各種機能部および図示しない内蔵のROMに記憶されたプログラムに従って実行する駐車ブレーキ制御について説明する。図3は、駐車ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【0040】
まず、ステップ100において時間計測用カウンタやフラグリセットなどの一般的な初期化処理を行ったのち、ステップ110に進み、時間tが経過したか否かを判定する。ここでいう時間tは、制御周期を規定するものである。つまり、初期化処理が終了してからの時間もしくは前回本ステップで肯定判定されたときからの経過時間が時間tが経過するまで繰り返し本ステップでの判定が行われるようにすることで、時間tが経過するごとに駐車ブレーキ制御が実行されるようにしている。
【0041】
続く、ステップ120では、フェールセーフ処理を実行する。図4は、フェールセーフ処理の詳細を示したフローチャートである。フェールセーフ処理が実行されると、ステップ200に進み、EPB2が異常の状態であることを示すEPB異常フラグFEPBFがオンされているか否かを判定する。
【0042】
ここで否定判定された場合には、ステップ210に進み、増し引き回数カウンタMCOUNTが増し引き制御許可回数MLIを超えているか否かを判定する。増し引き回数カウンタMCOUNTとは、後述する増し引き制御において増し引きを行った回数を計数するものであり、増し引き制御許可回数MLIとは、増し引き制御が行われる可能性があると想定される許容数である。増し引き回数カウンタMCOUNTが増し引き制御許可回数MLIを超えているような場合には、異常に増し引き制御が行われている言える。このため、ここでも否定判定されればステップ220に進み、異常は発生していないとして、故障表示ランプ20を消灯して処理を終了する。そして、ステップ200もしくはステップ210で肯定判定されればステップ230に進み、故障表示ランプ20を点灯させると共に、EPB異常フラグFEPBFをオンにする。なお、ステップ200において、既にEPB異常フラグFEPBFがオンされていたときには、オンが維持され、故障表示ランプ20の点灯も維持される。このようにして、フェールセーフ処理が完了する。
【0043】
次に、図3のステップ130に進み、操作SW31がオンしているか否かを判定する。操作SW31がオンの状態とはドライバがEPB2を作動させてロック状態にしようとしていることを意味し、オフの状態とはドライバがEPB2をリリース状態にしようとしていることを意味している。このため、本ステップで肯定判定されればステップ140に進み、ロック状態フラグFLOCKがオンしているか否かを判定する。ロック状態フラグFLOCKとは、EPB2を作動させてロック状態になったときにオンされるフラグであり、このロック状態フラグFLOCKがオンになっているときには既にEPB2の作動が完了して所望のブレーキ力が発生させられている状態となる。したがって、ここで否定判定された場合にはステップ150のロック制御処理に進み、肯定判定された場合にはステップ160に進んで増し引き制御処理を実行する。そして、これらロック制御処理および増し引き制御処理を終えた後、ステップ170に進む。
【0044】
ロック制御処理では、モータ11を回転させることによりEPB2を作動させ、パーキングブレーキ機構にて所望のブレーキ力を発生させられる位置でモータ11の回転を停止し、この状態を維持するという処理を行う。図5にロック制御処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してロック制御処理について説明する。
【0045】
まず、ステップ300では、ブレーキ液圧、つまりM/C圧を確認し、ブレーキ液圧に対応する判定値を求め、この判定値をロック制御目標張力値TTARに設定する。図6は、ブレーキ液圧と判定値との関係を示したマップである。ブレーキ液圧が発生している場合には、サービスブレーキ1が作動中であることを示していることから、張力センサ値TENがサービスブレーキ1の影響を受けることになる。その影響の度合いは、ブレーキペダル3が強く踏み込まれていて大きなM/C圧が発生している程、それにより発生するW/C圧も大きくなるため、EPB2により発生させたいブレーキ力を発生させるときの張力も低下する。このため、図6に示されるように、ブレーキ液圧が大きくなるほど判定値、つまりロック制御目標張力値TTARが小さくなるようにしている。
【0046】
次に、ステップ305に進み、EPB異常フラグFEPBFがオンになっているか否かを判定する。ここで肯定判定された場合には、何らかの故障が発生している状態であるため、ステップ310に進んでEPB異常フラグFEPBFのオンを継続させたのち、ステップ315に進み、ロック状態フラグをオフにすると共に、モータロック駆動をオフ、つまりモータ11の駆動を行わないか、もしくは停止して処理を終了する。一方、ステップ305で否定判定されればステップ320に進む。
【0047】
ステップ320では、ロック制御時間カウンタCTLが予め決められた最小ロック制御時間KTLLGを超えているか否かを判定する。ロック制御時間カウンタCTLとは、ロック制御が開始されてからの経過時間を計測するカウンタであり、ロック制御処理開始と同時にカウントを始める。最小ロック制御時間KTLLGとは、ロック制御に掛かると想定される最小時間のことであり、ブレーキケーブル9の長さやモータ11の回転速度などに応じて予め決まる値である。後述するように、ブレーキケーブル9の張力がロック制御目標張力値TTARに到達した時にブレーキケーブル9の張力により発生させられたブレーキ力が所望の値に近づいたと判定するが、この時間が最小ロック制御時間KTLLGよりも短ければまだロック制御が終了になるとは考えられない。このため、ロック制御時間カウンタCTLが最小ロック制御時間KTLLGを超えていなければ、自動的にロック制御が継続されるようにする。
【0048】
したがって、ロック制御時間カウンタCTLが最小時間を超えていない状態であれば、まだロック制御が継続されることになるため、ステップ325に進んで後述するロック制御終了タイマCTLENDを0に初期化したのちステップ330に進み、リリース状態フラグFRELをオフすると共にロック制御時間カウンタCTLをインクリメントし、モータロックロック駆動をオン、つまりモータ11を正回転させる。これにより、モータ11の正回転に伴ってギア機構10が駆動され、ドライブナット10dが出力軸10cの軸方向に沿って移動してブレーキケーブル9がロック側に引っ張られる。
【0049】
一方、ステップ320で肯定判定されると、ロック制御時間カウンタCTLが予め決められた最大ロック制御時間KTLUG未満であるか否かを判定する。最大ロック制御時間KTLUGとは、ロック制御に掛かると想定される最大時間のことであり、ブレーキケーブル9の長さやモータ11の回転速度などに応じて予め決まる値である。ロック制御が開始されてから最大ロック制御時間KTLUG以上時間が経過しても未だロック制御時間カウンタCTLがカウントされ続けていれば何らかの故障が発生している場合と考えられる。例えば、ギア機構10もしくはブレーキケーブル9の破損によりロック制御目標張力値TTARに長時間到達しないような場合にこのような状況になり得る。このため、この場合にはステップ310に進み、EPB異常フラグFEPBFをオンしたのち、ステップ315の処理を行う。また、ステップ335で肯定判定されればステップ340に進む。
【0050】
ステップ340では、張力センサ値TENがロック制御目標張力値TTARを超えているか否かを判定する。張力センサ値TENとは、張力センサ30にて今回の制御周期のときに検出された張力のことである。ここで張力センサ値TENがロック制御目標張力値TTARに達していなければ、ブレーキケーブル9の張力により所望のブレーキ力が発生させられていない状態であるため、ステップ325に進み、ロック制御終了タイマCTLENDを0にしたのち、ステップ330の処理を行う。
【0051】
また、張力センサ値TENがロック制御目標張力値TTARに達すると、ブレーキケーブル9の張力により発生させているブレーキ力が所望のブレーキ力に近づいた状態、例えばブレーキパッド15の摩擦面がブレーキディスク16にある程度の力で押さえ付けられた状態になったと考えられる。このため、ステップ345に進み、ロック制御終了タイマCTLENDをインクリメントしたのち、ステップ350に進む。そして、ロック制御終了タイマCTLENDがロック制御終了時間KTILT、すなわち所望のブレーキ力に近づいてから経過した時間が所望のブレーキ力を発生させられたと想定される時間に達したか否かを判定し、達するまでは上記処理を繰り返し、達するとステップ355に進む。
【0052】
この後、ステップ355において、ロックが完了したことを意味するロック状態フラグFLOCKをオンすると共にロック制御時間カウンタCTLおよびロック制御終了タイマCTLENDを0にし、モータロック駆動を停止する。これにより、モータ11の回転が停止され、ギア機構10の駆動が停止させられる。そして、ギア機構10における出力軸10cとドライブナット10dとの噛合いによる摩擦力により、ブレーキケーブル9を引っ張ったままの状態で保持できるため、その時に発生させたブレーキ力が保持される。これにより、駐車中の車両の移動が規制される。このようにして、ロック制御処理が完了する。
【0053】
一方、図3のステップ140で肯定判定された場合にはステップ160に進み、増し引き制御処理を実行する。図7に増し引き制御処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照して増し引き制御処理について説明する。
【0054】
まず、ステップ400では、EPB2が異常の状態であることを示すEPB異常フラグFEPBFがオンされているか否かを判定する。ここでEPB2が異常の状態であれば、ステップ405に進んでモータロック駆動をオフとし、増し引きを行わない。また、EPB2が異常の状態でなければステップ410に進む。
【0055】
ステップ410では、ロック制御目標張力値TTARと今回の制御周期の張力センサ値TENとの差を演算することにより、張力値低下量TDOWNを演算する。すなわち、増し引き制御が実行されるのはロック制御にてロック状態とされた後であるため、ロック制御時に演算したロック制御目標張力値TTAR(図5のステップ300参照)が設定されたままになっている。このため、記憶されているロック制御目標張力値TTARから現在の張力センサ値TENを差し引くことで、ロック状態とするときに必要であたロック制御目標張力値TTARからの張力値低下量TDOWNを演算できる。
【0056】
続いて、ステップ415において、ブレーキ液圧、つまりM/C圧を確認し、ブレーキ液圧に対応する判定値1を求め、この判定値1を増し引きを行うか否かの閾値に相当する増し引き許可判定値TDLIMに設定する。図8は、ブレーキ液圧と判定値1との関係を示したマップである。この図に示されるように、ブレーキ液圧が発生している場合には、サービスブレーキ1が作動中であることを示していることから、張力センサ値TENがサービスブレーキ1の影響を受けることになる。その影響の度合いは、ブレーキペダル3が強く踏み込まれていて大きなM/C圧が発生している程、それにより発生するW/C圧も大きくなるため、EPB2により発生させたいブレーキ力を発生させるときの張力も低下する。このため、サービスブレーキ1が作動中のときには、張力センサ値TENがロック制御目標張力値TTARよりも低下したからといって、実際にはEPB2により発生させたいブレーキ力を発生させられている状態である可能性もある。このため、サービスブレーキ1の影響による張力の低下を考慮し、ブレーキ液圧が大きいほど張力が大きく低下している可能性が有ることから、ブレーキ液圧が大きくなるほど判定値1が大きな値となるようにしている。
【0057】
そして、ステップ420では、張力値低下量TDOWNが増し引き許可判定値TDLIMを超えているか否かを判定し、否定判定されれば増し引きの必要が無いため、そのまま制御を終了する。また、ここで肯定判定されれば増し引きの必要があるため、ステップ425に進む。
【0058】
ステップ425では、ロック制御処理と同様(図3のステップ300参照)に、ブレーキ液圧を確認し、上述した図6に示すマップから確認したブレーキ液圧に対応する判定値をロック制御目標張力値TTARに設定する。すなわち、増し引きが必要であると判定されたときのブレーキ液圧(M/C圧)を確認し、そのときのサービスブレーキ1の影響度合いに応じたロック制御目標張力値TTARを改めて求める。
【0059】
そして、ステップ430において、ロック制御処理のステップ340と同様、張力センサ値TENがロック制御目標張力値TTARを超えているか否かを判定し、否定判定されれば、ステップ435に進んでロック制御終了タイマCTLENDを0にしたのち、ステップ440にてモータロック駆動をオンさせる。これにより、増し引きが行われる。
【0060】
その後、増し引きによって張力センサ値TENが増加し、ロック制御目標張力値TTARに達すると、ステップ430で肯定判定され、ステップ445に進んでロック制御終了タイマCTLENDをインクリメントしたのち、ステップ450に進む。このステップ450において、ロック制御終了タイマCTLENDがロック制御終了時間KTILTに達したか否かを判定し、達するまでは上記処理を繰り返し、達するとステップ455に進む。そして、ステップ455において、ロック制御終了タイマCTLENDを0にし、増し引き回数カウンタMCOUNTを1つインクリメントしてモータロック駆動を停止する。これにより、モータ11の回転が停止され、ギア機構10の駆動が停止させられる。そして、ギア機構10における出力軸10cとドライブナット10dとの噛合いによる摩擦力により、ブレーキケーブル9を引っ張ったままの状態で保持できるため、その時に発生させたブレーキ力が保持される。これにより、増し引き制御処理が完了する。
【0061】
また、図3のステップ130で否定判定された場合にはステップ180に進み、リリース状態フラグFRELがオンしているか否かを判定する。リリース状態フラグFRELとは、EPB2を作動させてリリース状態、つまりEPB2によるブレーキ力を解除した状態になったときにオンされるフラグであり、このリリース状態フラグFRELがオンになっているときには既にEPB2の作動が完了してブレーキ力が解除させられている状態となる。したがって、ここで否定判定された場合にのみステップ190のリリース制御処理に進み、肯定判定された場合には既にロック制御処理が完了しているものとしてステップ170に進む。
【0062】
リリース制御処理では、モータ11を回転させることによりEPB2を作動させ、パーキングブレーキ機構にて発生させられているブレーキ力を解除するという処理を行う。図9にリリース制御処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してリリース制御処理について説明する。
【0063】
まず、ステップ500では、ロック制御目標張力値TTARを0に設定する。そして、ステップ505に進み、EPB異常フラグFEPBFがオンになっているか否かを判定する。ここで肯定判定された場合には、何らかの故障が発生している状態であるため、ステップ510に進んでEPB異常フラグFEPBFのオンを継続し、ステップ515に進んでリリース状態フラグをオフにすると共に、モータリリース駆動をオフ、つまりモータ11の駆動を行わないもしくは停止して処理を終了する。一方、ステップ500で否定判定されればステップ520に進む。
【0064】
ステップ520では、リリース制御時間を計測するリリース制御時間カウンタCTRが予め決められた最小リリース制御時間KTRLGを超えているか否かを判定する。リリース制御時間カウンタCTRとは、リリース制御が開始されてからの経過時間を計測するカウンタであり、リリース制御処理開始と同時にカウントを始める。最小リリース制御時間KTRLGとは、リリース制御に掛かると想定される最小時間のことであり、最小ロック制御時間KTLLGと対応する値とされ、ブレーキケーブル9の長さやモータ11の回転速度などに応じて予め決まる値である。ロック状態からリリース状態に移行する際に、リリースが完了するするまでに掛かる時間はある程度決まっている。このため、リリース制御時間カウンタCTRが最小リリース制御時間KTRLGよりも短いときは必ずリリース中であると想定し、リリース開始初期時の誤判定を防止して誤判定によりリリースを終了してしまわないようにしている。
【0065】
したがって、リリース制御時間カウンタCTRが最小時間を超えていない状態であれば、まだリリース制御が継続されることになるため、ステップ525に進んで後述するリリース制御終了タイマCTRENDを0に初期化したのちステップ530に進み、ロック状態フラグFLOCKをオフすると共にリリース制御時間カウンタCTRをインクリメントし、モータリリース駆動をオン、つまりモータ11を逆回転させる。これにより、モータ11の逆回転に伴ってギア機構10が駆動され、ドライブナット10dが出力軸10cの軸方向に沿って移動してブレーキケーブル9がリリース側に戻されることで張力が緩められる。
【0066】
一方、ステップ520で肯定判定されると、リリース制御時間カウンタCTRが予め決められた最大リリース制御時間KTRUG未満であるか否かを判定する。最大リリース制御時間KTRUGとは、リリース制御に掛かると想定される最大時間のことであり、最大ロック制御時間KTLUGと対応した値とされ、ブレーキケーブル9の長さやモータ11の回転速度などに応じて予め決まる値である。リリース制御が開始されてから最大リリース制御時間KTRUG以上時間が経過しても未だリリース制御時間カウンタCTRがカウントされ続けていれば何らかの故障が発生している場合と考えられる。例えば、ギア機構10もしくはブレーキケーブル9の破損が生じているような状況が想定される。このため、この場合にはステップ510に進み、EPB異常フラグFEPBFをオンしたのち、ステップ515の処理を行う。また、ステップ535で肯定判定されればステップ540に進む。
【0067】
ステップ540では、今回の制御周期のときの張力センサ値TENがリリース制御目標張力値TTAR以下になったか否か、つまりブレーキ力が解除したか否かを判定する。ここで肯定判定されればステップ545に進み、リリース制御終了タイマCTRENDをインクリメントしたのち、ステップ550に進んでリリース制御終了タイマCTRENDがリリース制御終了時間KTREND、すなわちブレーキ力が解除されてから所望の時間、具体的にはブレーキシュー11の摩擦面とドラム10の内壁面との間に遊び分の間隔が空いたと想定される時間に達したか否かを判定し、達するまでは上記各処理を繰り返し、達するとステップ555に進む。
【0068】
この後、ステップ555において、リリースが完了したことを意味するリリース状態フラグFRELをオンすると共にリリース制御時間カウンタCTRおよびリリース制御終了タイマCTRENDを0、増し引き制御カウンタMCOUNTを0にし、モータリリース駆動を停止する。これにより、モータ11の回転が停止され、ギア機構10の駆動が停止させられる。そして、ギア機構10における出力軸10cとドライブナット10dとの嵌め合いによる摩擦力により、ブレーキケーブル9が緩められたままの状態で保持される。このようにして、リリース制御処理が完了する。
【0069】
このようにして、ロック制御処理やリリース制御処理および増し引き制御処理が終了すると、図3のステップ170におけるロック・リリース表示処理を行う。図10にロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートを示し、この図を参照してロック・リリース表示処理について説明する。
【0070】
ステップ600では、ロック状態フラグFLOCKがオンされているか否かを判定する。ここで、否定判定されればステップ605に進んでロック・リリース表示ランプ33を消灯させ、肯定判定されればステップ610に進んでロック・リリース表示ランプ33を点灯させる。このように、ロック状態であればロック・リリース表示ランプ33を点灯し、リリース状態もしくはリリース制御が開始された状態のときにはロック・リリース表示ランプ33を消灯する。これにより、ドライバにロック状態であるか否かを認識させることが可能となる。このようにして、ロック・リリース表示処理が完了し、これに伴って駐車ブレーキ制御処理が完了する。
【0071】
以上説明したように、本実施形態では、サービスブレーキ1の作動中にロック制御が行われた場合に、サービスブレーキ1が非作動のときと比べて、ブレーキケーブル9に加えられている張力がサービスブレーキ1の影響により低下することを考慮し、ロック制御の終了条件となるロック制御目標張力値TTARをブレーキ液圧(M/C圧)に応じた値にしている。このため、サービスブレーキ1の影響により、ロック制御時にEPB2にて発生させたいブレーキ力でないときにロック制御を解除してしまうことを防止することが可能となる。
【0072】
また、増し引き制御が行われる際にサービスブレーキ1が作動中であっても、サービスブレーキ1が非作動のときと比べて、ブレーキケーブル9に加えられている張力がサービスブレーキ1の影響により低下することを考慮し、増し引きを行うか否かの判定基準となる増し引き許可判定値TDLIMをブレーキ液圧(M/C圧)に応じた値にしている。このため、サービスブレーキ1の影響により、不必要に増し引きが行われることを防止することが可能となる。
【0073】
(他の実施形態)
(1)上記実施形態では、ESC−ECU8からEPB−ECU13に対してM/C圧に関する情報が入力されるようにしているが、サービスブレーキ1の作動状態を認識できる他のもの、例えばブレーキペダルに対する踏力を検出する踏力センサやブレーキペダルの踏み込み量を検出するストロークセンサなどの検出信号がESC−ECU8を介して、もしくは、直接EPB−ECU13に入力されるようにしても構わない。
【0074】
(2)また、上記実施形態では、サービスブレーキ1の作動中にロック制御が行われるときのロック制御目標張力値TTARをブレーキ液圧に応じて小さくするように設定したが、サービスブレーキ1が作動中である場合にサービスブレーキ1が非作動の場合と比べてロック制御目標張力値TTARが小さな値となれば良いため、サービスブレーキ1が作動中の場合のロック制御目標張力値TTARを一定値としても良い。
【0075】
同様に、増し引き制御時にサービスブレーキ1が作動中になった場合、増し引き許容判定値TDLIMをブレーキ液圧に応じて大きくするように設定したが、サービスブレーキ1が作動中である場合にサービスブレーキ1が非作動の場合と比べて増し引き許容判定値TDLIMが大きい値となれば良いため、サービスブレーキ1が作動中の場合の増し引き許容判定値TDLIMを一定値としても良い。
【0076】
なお、これらの場合もM/C圧に限らず、サービスブレーキ1の作動状態、つまりブレーキペダル3の操作状態を検出できるものであれば他の物理量に基づいてサービスブレーキ1が作動中であるか非作動であるかを判定することができ、例えば上述した踏力センサやストロークセンサ等の検出信号に基づいて判定しても良い。
【0077】
(3)また、上記実施形態では、ディスクブレーキ式のEPB2を例に挙げて説明したが、モータ駆動によってホイールシリンダの圧力を調整することで摩擦材に相当するブレーキシューの摩擦面を非摩擦材に相当するブレーキドラムの内壁面に押し当て、ブレーキ力を発生させるようなドラム式のEPB2に関しても本発明を適用することができる。
【0078】
また、モータ11を駆動することでブレーキケーブル9を引っ張ることによりブレーキ力を発生させるものについて説明したが、モータ11によって摩擦材を移動させるための押圧力に対応する押圧力を発生させるものであればどのようなものであっても良い。例えば、モータ11を駆動することで直接油圧ピストンを押圧し、油圧を高めることでブレーキ力を発生させるようなブレーキシステムであっても構わない。なお、上記実施形態では、ブレーキケーブル9を引っ張る量をロック制御時よりも増やすことによりロック状態に保持しておくために必要なブレーキ力に調整しているため、増し引き制御という表現をしているが、言わばEPB2により発生させるブレーキ力の再調整を行う調整制御の一形態を表したものであり、ブレーキケーブル9を用いないタイプのブレーキシステムであっても、摩擦材を移動させるための押圧力に対応する押圧力を調整する調整制御を行うことで、上記増し引き制御と同様のことが行える。
【0079】
(4)同様に、上記実施形態では、EPB2にてブレーキ力を発生させる場合に摩擦材に相当するブレーキパッド15を移動させるための押圧力を検出するものとして、ブレーキケーブル9の張力を用いたが、他の手法にて押圧力を検出しても良い。例えば、押圧力に対応するものとして、ランプシャフト22がプッシュロッド23に加える荷重やキャリパレバー18の回転角度などを挙げることができる。これらに関しては、荷重センサや回転角度センサ等にて検出できる。そして、上記実施形態では、張力が0のときをEPB2によるブレーキ力が解除されたと想定される目標値として設定したが、押圧力に相当する物理量として用いられるものによりそれぞれに対応する目標値を設定すればよい。
【0080】
(5)なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、EPB−ECU13のうち、ステップ150のロック制御処理を実行する部分がロック制御手段、ステップ300のロック制御目標張力値TARRを設定する処理を実行する部分が目標値設定手段、ステップ160の増し引き制御を実行する部分が調整制御手段、ステップ415の増し引き許可判定値TDLIMを設定する部分が閾値設定手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる駐車ブレーキ制御装置が適用された車両用のブレーキシステムの全体概要を示した模式図である。
【図2−a】ビルトインブレーキ14の側面図である。
【図2−b】図2−aのA−A断面に対応するビルトインブレーキ14の詳細構造を示した断面図である。
【図3】駐車ブレーキ制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図4】フェールセーフ処理の詳細を示したフローチャートである。
【図5】ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図6】ブレーキ液圧と判定値との関係を示したマップである。
【図7】増し引き制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図8】ブレーキ液圧と判定値1との関係を示したマップである。
【図9】リリース制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図10】ロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
1…サービスブレーキ、2…EPB、3…ブレーキペダル、5…M/C、6…W/C、7…アクチュエータ、8…ESC−ECU、9…ブレーキケーブル、10…ギア機構、11…モータ、12…EPBアクチュエータ、13…EPB−ECU、14…ビルトインブレーキ、30…張力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(11)を正回転駆動することにより、摩擦材(15)を車輪に取り付けられた被摩擦材(16)に向かう方向に移動させるための押圧力を発生させ、前記摩擦材(15)と前記被摩擦材(16)との摩擦によってブレーキ力を発生させる電子パーキングブレーキ(2)と、ブレーキペダル(3)の操作により作動し、前記摩擦材(15)を前記被摩擦材(16)に向かう方向に移動させてブレーキ力を発生させるサービスブレーキ(1)とを有してなるブレーキシステムを用いて駐車ブレーキの制御を行う駐車ブレーキ制御装置であって、
前記電動モータ(11)を正回転駆動することにより前記押圧力を発生させることで前記電子パーキングブレーキ(2)によるブレーキ力を発生させたのち、前記押圧力が前記電動モータ(11)の駆動を停止させる目標値(TTAR)に達することを終了条件として前記電動モータ(11)の駆動を停止し、前記ブレーキ力を保持してロック状態にさせるロック制御を行うロック制御手段(150)を備え、
前記ロック制御手段(150)は、前記サービスブレーキ(1)が作動中のときに前記サービスブレーキ(1)が非作動のときと比べて小さな値となるように前記目標値(TTAR)を設定する目標値設定手段(300)を有していることを特徴とする駐車ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記目標値設定手段(300)は、前記目標値(TTAR)を設定するときに、前記摩擦材(15)を前記被摩擦材(16)に向かう方向に移動させるための前記押圧力と対応する物理量を確認し、該物理量が大きな値となるほど前記目標値(TTAR)を小さな値とすることを特徴とする請求項1に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記目標値設定手段(300)は、前記摩擦材(15)を前記被摩擦材(16)に向かう方向に移動させるための押圧力と対応する物理量として、ブレーキ液圧を用いていることを特徴とする請求項2に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記ロック制御にてロック状態とされているときに、前記押圧力の前記目標値(TTAR)からの低下量(TDOWN)を演算したのち、該低下量(TDOWN)が閾値(TDLIM)を超えたときに前記電動モータ(11)を正回転駆動することにより前記押圧力を強める調整制御手段(160)を有し、
前記調整制御手段(160)は、前記サービスブレーキ(1)が作動中のときに前記サービスブレーキ(1)が非作動のときと比べて大きな値となるように前記閾値(TDLIM)を設定する閾値設定手段(415)を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記調整制御手段(160)は、前記閾値(TDLIM)を設定するときに、前記摩擦材(15)を前記被摩擦材(16)に向かう方向に移動させるための押圧力と対応する物理量を確認し、該物理量が大きな値となるほど前記閾値(TDLIM)を大きな値とすることを特徴とする請求項4に記載の駐車ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記調整制御手段(160)は、前記摩擦材(15)を前記被摩擦材(16)に向かう方向に移動させるための押圧力と対応する物理量として、ブレーキ液圧を用いていることを特徴とする請求項5に記載の駐車ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2−a】
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【図2−b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−190551(P2009−190551A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33120(P2008−33120)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】