説明

3次元形状復元処理装置及び方法並びにそのプログラム

【課題】本発明は、死角領域をできるだけ少なくした対象物体全体の3次元形状データを得ることができる3次元形状復元処理装置及び方法並びにプログラムを提供することを目的とするものである。
【解決手段】対象物体Sに対して反射ミラー24及び25を介して撮像素子Dにより撮影を行う。反射ミラー25を光軸Aを中心とする円周C上に周回移動させて異なる角度位置から撮影を行い、各角度位置において焦点距離を変化させて撮影した複数の撮影画像の合焦領域に基づいて各角度位置の立体形状データを生成する。そして、立体形状データの死角領域を除去する編集処理を行った後、編集形状データを共通座標系に変換処理して統合することで死角領域の少ない3次元形状データを復元することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物体を撮影した撮影画像に基づいて対象物体の3次元形状を復元する3次元形状復元処理装置及び方法並びにそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
立体形状を有する対象物体を撮影する場合対象物体全体にピント(焦点)を合せることができないことから、対象物体に対する焦点距離を変化させた複数の撮影画像を用いた画像処理方法が提案されている。ここで、「焦点距離を変化させる」とは、対象物体と撮像レンズ系との間の距離又は撮像レンズ系と撮像素子との間の距離を変化させて撮像素子に結像する対象物体の像がぼけないようにピントを合せることを言い、焦点距離を変化させていくと撮影画像のピントの合った領域が対象物体との間の距離に応じて変化するようになる。
【0003】
そのため、こうした画像処理方法では、各撮影画像のピントの合った領域の画像データを使用してピントの合った全体画像を合成したり、焦点距離に基づいてピントの合った領域の対象物体までの相対的な距離が算出できることから撮影画像の立体形状を復元することができる。ピントの合っている程度を示すパラメータとしては合焦度が用いられており、例えば、画像領域の空間周波数分布における高周波成分に基づいて合焦度を定義し、合焦度の大小により合焦領域を抽出することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、空気と屈折率が異なるウエッジ基板ガラスを利用して合焦度の異なる対象物体像を同時に撮影し、これより測定対象の3次元形状を測定する方法が記載されている。また、特許文献2では、撮像レンズの光軸に対して斜めに設定した測定断面が合焦面となるように二次元撮像素子の受光面を設定して測定対象を走査することで測定対象の3次元形状を測定する方法が記載されている。また、特許文献3では、カメラの光軸に対し傾けた合焦面の回転により測定対象を走査する3次元物体形状測定方法において、回転軸を撮像レンズの前側焦点位置に設定して撮像システムを回転することで走査するようにした点が記載されている。
【0005】
また、対象物体を立体的に観察するために、特許文献4では、光軸反射ミラーと対象物体の周囲を周回する周回反射ミラーを備え、両反射ミラーを回転させながら対象物体の周囲を撮影することで対象物体を立体的に観察することが可能となる点が記載されている。
【特許文献1】特開平11−132748号公報
【特許文献2】特開平11−344321号公報
【特許文献3】特開2006−242930号公報
【特許文献4】特開平11−295053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の立体形状復元方法では、焦点距離を変化させることで撮影画像の合焦度に基づいて立体形状データを得ることができるが、対象物体の形状によっては撮影方向からみて死角領域が生じることがある。例えば、一般の光学顕微鏡のように、対象物体の載置面に垂直となるように撮像レンズの光軸が設定されていると、その方向から観察するだけでは対象物体全体の形状を観察することができず、対象物体の形状が見えない死角領域が生じるのは避けられない。特許文献4では、対象物体の周囲に周回反射ミラーを設けて対象物体全体を観察できるようにしているものの、立体形状データの作成に関しては検討されていない。
【0007】
そこで、本発明は、死角領域をできるだけ少なくした対象物体全体の3次元形状データを得ることができる3次元形状復元処理装置及び方法並びにプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る3次元形状復元処理装置は、対象物体に対して焦点距離を変化させて撮影した複数の撮影画像からなる画像データを用いて対象物体の3次元形状を復元する3次元形状復元処理装置であって、対象物体に対してそれぞれ異なった角度位置から撮影して得られた複数の前記画像データを用いて各画像データの撮影画像の合焦度に基づいて立体形状データを生成する生成処理手段と、前記立体形状データに基づいて各画像データの角度位置に対応して生じる死角領域を判定するとともに当該死角領域のデータを除去して編集形状データを生成する編集処理手段と、各画像データの前記編集形状データを共通座標系に変換処理し統合することで対象物体の3次元形状データを生成する統合処理手段とを備えていることを特徴とする。さらに、前記撮影画像を撮影する撮影部と、前記対象物体に対する前記撮影部の撮影方向を変更して異なった角度位置から撮影可能とする走査部とを備えていることを特徴とする。さらに、前記編集処理手段は、3点により画定されて所定の大きさを有する複数の単位領域により画面を区分し各単位領域を画定する3点位置の前記立体形状データに基づいて決定される平面の法線ベクトルを算出するとともに画像データを撮影した角度位置に沿った撮影方向ベクトルと当該法線ベクトルとの間の角度が所定の閾値以上である場合に当該単位領域を死角領域と判定することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る3次元形状復元処理方法は、対象物体に対して焦点距離を変化させて撮影した複数の撮影画像からなる画像データを用いてコンピュータによって対象物体の3次元形状を復元する3次元形状復元処理方法であって、対象物体に対してそれぞれ異なった角度位置から撮影して得られた複数の前記画像データを用いて各画像データの撮影画像の合焦度に基づいて立体形状データを生成するステップと、前記立体形状データに基づいて各画像データの角度位置に対応して生じる死角領域を判定し当該死角領域のデータを除去して編集形状データを生成するステップと、各画像データの前記編集形状データを共通座標系に変換処理して統合することで3次元形状データを生成するステップとを前記コンピュータに実行させることを特徴とする。さらに、編集形状データを生成するステップにおいて、3点により画定されて所定の大きさを有する複数の単位領域により画面を区分し各単位領域を画定する3点位置の前記立体形状データに基づいて決定される平面の法線ベクトルを算出するとともに画像データを撮影した角度位置に沿った撮影方向ベクトルと当該法線ベクトルとの間の角度が所定の閾値以上である場合に当該単位領域を死角領域と判定することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るプログラムは、対象物体に対して焦点距離を変化させて撮影した複数の撮影画像からなる画像データを用いて対象物体の3次元形状を復元する3次元形状復元処理装置を機能させるためのプログラムであって、前記3次元形状復元処理装置を、対象物体に対してそれぞれ異なった角度位置から撮影して得られた複数の前記画像データを用いて各画像データの撮影画像の合焦度に基づいて立体形状データを生成する手段、前記立体形状データに基づいて各画像データの角度位置に対応して生じる死角領域を判定するとともに当該死角領域のデータを除去して編集形状データを生成する手段、各画像データの前記編集形状データを共通座標系に変換処理して統合することで3次元形状データを生成する手段、として機能させる。さらに、前記編集形状データを生成する手段は、3点により画定されて所定の大きさを有する複数の単位領域により画面を区分し各単位領域を画定する3点位置の前記立体形状データに基づいて決定される平面の法線ベクトルを算出するとともに画像データを撮影した角度位置に沿った撮影方向ベクトルと当該法線ベクトルとの間の角度が所定の閾値以上である場合に当該単位領域を死角領域と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記のような構成を有することで、対象物体に対してそれぞれ異なった角度位置から撮影して得られた複数の画像データを用いて3次元形状データを作成するので、死角領域をできるだけ少なくした対象物体の3次元形状を復元することができる。
【0012】
すなわち、対象物体に対して異なった角度位置から撮影された複数の画像データは撮影方向が異なるためそれぞれ異なった領域が死角となることから、各画像データに基づいて生成された立体形状データから予め死角領域のデータを除去する編集を行った後編集された立体形状データを統合することで死角領域をできるだけ少なくした3次元形状を復元することが可能となる。そして、画像データを取得する際に、対象物体に対する角度位置を共通座標系に基づいて予め設定して撮影し、各画像データの立体形状データを統合する際にその共通座標系に変換処理して統合すれば、対象物体の3次元形状を精度よく復元することができる。
【0013】
また、各画像データから生成された立体形状データから死角領域を除去する編集処理を行う場合に、3点により画定されて所定の大きさを有する複数の単位領域により画面を区分し各単位領域を画定する3点位置の立体形状データに基づいて決定される平面の法線ベクトルを算出するとともに画像データを撮影した角度位置に沿った撮影方向ベクトルと当該法線ベクトルとの間の角度が所定の閾値以上である場合に当該単位領域を死角領域と判定すれば、その単位領域では撮影方向に対して対象物体の形状が死角となっているか又は大きく傾斜した面になっているため、精度のよい立体形状データが得られていない可能性が高く、こうした死角領域を正確に判定して効率よく編集処理を行うことが可能となる。
【0014】
また、撮影画像を撮影する撮影部と、対象物体に対する撮影部の撮影方向を変更して異なった角度位置から撮影可能とする走査部とを備えることで、1つの撮影部を用いて任意の角度位置から対象物体を効率よく撮影することができる。
【0015】
なお、本明細書では、「焦点距離」及び「合焦度」については、背景技術で述べたように、従来技術と同様の意味で用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明に係る実施形態に関するシステム構成図を示しており、3次元形状復元処理装置1は、公知のコンピュータにアプリケーションソフトとしてインストールされた3次元形状復元処理プログラム100を作動させてその機能が実現される。コンピュータの基本構成は公知のものであり、論理演算を処理するCPU10、論理演算に必要なデータやプログラム等を一時的に記憶するRAM11、論理演算を実行するためのプログラム等を記憶するROM12、アプリケーションソフトや各種画像情報を記憶する記憶部13、処理結果を表示するディスプレイ14、処理結果を出力するプリンタ15、処理に必要なデータや指令を入力する入力部16を備えており、これらを送受信用のバス17で接続してデータの送受信を行う。
【0018】
この例では、3次元形状復元処理装置1に撮影機構18が接続されており、撮影機構18では、後述するように対象物体に対してそれぞれ異なった角度位置から撮影して画像データを得ることができる。こうした画像データは、別体の撮影装置で予め撮影したものを装置に入力するようにしてもよく、撮影機構18を別体とすることも可能である。そのため、3次元形状を復元する対象物体によっては、後述するように顕微鏡に設けられた撮影装置から得られた画像データを用いたり、屋内又は屋外でデジタルカメラやビデオカメラ等を利用して撮影された画像データを用いることで多様な大きさの対象物体に関して3次元形状の復元処理を行うことができる。この例では、撮影機構18として顕微鏡を用いることを前提としている。
【0019】
図2は、顕微鏡を用いた撮影機構18の走査部に関する概略図である。顕微鏡Mには、図示しない2次元撮像素子及び結像光学系が設けられており、対象物体Sから反射された光が入射する開口部に走査部が取り付けられている。走査部は、取付フレーム20の上部が調整ネジ21により開口部に取り付けられており、取付フレーム20の下部には回転リング22がベアリング23を介して回転可能に設けられている。回転リング22は、顕微鏡Mの光学系の光軸に直交する平面において光軸を中心に回転するように設定されており、回転リング22の位置調整は調整ネジ21により行うことができる。また、回転リング22は、図示せぬ駆動モータにより回転駆動されて任意の回転角度位置に設定することができるようになっている。
【0020】
回転リング22の底面には、第一反射部材である反射ミラー24及び第二反射部材である反射ミラー25が取付固定されている。反射ミラー24は、回転リング22の回転中心に向かって突出するように設けられてその反射面が光軸を斜めに横切るように設定されており、反射ミラー25は、回転リングの底面に反射ミラー24に対向するように設けられている。そして、反射ミラー25は、その反射面が対象物体Sに向かうように調整ネジ25aにより調整され、反射ミラー25の反射面により反射された光は反射ミラー24の反射面により反射されて顕微鏡M内に入射するように設定されている。
【0021】
図3は、撮影機構18により対象物体Sを撮影する場合の動作制御に関する概略図である。顕微鏡M内には、受光素子が2次元配列された撮像面を有する撮像素子D及び結像光学系に含まれる対物レンズLが配置されている。撮像素子Dは、その撮像面が光軸Aと直交するように設定されており、撮像面の中心に光軸Aが設定される。そして、走査部の反射ミラー25が円周軌道C上を周回移動するように回転リング22が回転駆動される。円周軌道Cは光軸Aを中心として描かれる円上に設定されており、反射ミラー24は光軸Aを横切るように斜めに設けられているので、反射ミラー25が周回移動するのに同期して反射ミラー24も光軸を中心に回転するようになる。
【0022】
したがって、反射ミラー25の周回移動する任意の角度位置において、反射ミラー25の反射面において反射された光は、常に反射ミラー24の反射面に入射して撮像素子Dに向かって反射されるようになる。そして、光軸A上の基準点Oからの光は、どの角度位置の反射ミラー25に反射されても反射ミラー24から光軸Aに一致した光路に入射するようになっており、そのため、反射ミラー25の角度位置が変化しても、基準点Oの像は常に撮像素子Dの同じ画素位置に結像するようになる。
【0023】
撮像素子Dは、光軸A方向に移動可能に設けられており、図示せぬ位置決め機構によって光軸A方向の任意の位置に位置決めすることで結像光学系と撮像素子Dとの間の距離を変化させて焦点距離を変化させ、撮像面に結像する対象物体Sの撮影画像の合焦度を変化させる。そのため、焦点距離を変化させながら被写界深度に合せて複数回撮影することで、対象物体Sの全体を複数の領域に区分してそれぞれの領域で異なる合焦度を有する複数の撮影画像を得ることができる。なお、この例では、撮像素子Dを移動させて焦点距離を変化させるようにしているが、対象物体Sを載置したステージGを光軸A方向に移動させて焦点距離を変化させるようにしてもよい。
【0024】
以上説明した例では、反射ミラーを周回移動させることで対象物体に対する撮影方向を変更して異なった角度位置から撮影するようにしているが、撮影部自体を周回移動させて撮影方向を変更するようにしてもよい。また、対象物体を載置したステージを回転させて撮影方向を変更して異なった角度位置から撮影することもできる。この場合には、ステージの回転軸に対して撮影に用いる結像光学系の光軸を傾斜した状態に設定し、ステージを回転させれば異なった角度位置で対象物体を撮影することができる。
【0025】
図4は、3次元形状復元処理装置1に関する機能ブロック構成図である。制御部であるCPU10は、生成処理部10a、編集処理部10b、統合処理部10c及び撮影制御部10dを備えている。撮影制御部10dは、撮像素子Dを備えた撮影部18aを制御して対象物体の撮影画像を取得して記憶部13の撮影画像ファイル13aに蓄積する。また、反射ミラー24及び25並びに回転リング22を備えた走査部18bを制御して反射ミラー25の対象物体Sに対する角度位置を変化させる。反射ミラー25の角度位置は、対象物体Sの形状に合せて設定すればよく、そして、反射ミラー25が設定された角度位置において撮影部18aの撮像素子Dを移動制御して被写界深度に基づいて焦点距離を変化させ複数回撮影を行うように制御する。こうした撮影制御により、反射ミラー25の各角度位置において対象物体Sの全体画像を区分した各領域に対して合焦度が異なる複数の撮影画像を得ることができる。
【0026】
生成処理部10aは、取得された撮影画像を撮影画像ファイル13aから読み出して反射ミラー25の角度位置における立体形状データを生成する。まず、各角度位置における複数の撮影画像からなる画像データを用いて、画像を構成する画素毎の輝度情報に基づいて各撮影画像の合焦度を決定する。合焦度の決定は、公知の方法を用いて行えばよく、例えば、撮影画像の輝度分布に関する空間周波数分布の高周波成分に基づいて合焦度を設定すればよい。そして、撮影画像の焦点距離に基づいて対象物体Sとの間の距離を算出し、決定された合焦度から形状データを求める。この場合、形状データは対象物体Sまでの距離を示すことから撮影方向に沿った対象物体の高さを示すようになる。したがって、このような形状データの測定を撮影画像全体について実行することで、その角度位置から撮影された対象物体Sの全体画像を構成する画素毎あるいは複数の画素からなるブロック毎の撮影方向に沿った対象物体表面の高さを示す立体形状データを得ることができる。
【0027】
編集処理部10bは、生成された各角度位置毎の立体形状データに基づいて各画像データの角度位置に対応して生じる死角領域を判定するとともに当該死角領域のデータを除去して編集形状データを生成する。この場合、死角領域は、その角度位置からは対象物体の形状が見えない死角部分の他にその角度位置から見ると対象物体の形状が大きく傾斜しているためにその形状が正確に把握できない部分も含まれる。
【0028】
図5は、ある角度位置から対象物体Sを撮影する場合の模式図である。反射ミラー25に入射する撮影方向に沿った撮影方向ベクトルVc(実線の矢印で表記)を設定し、撮影領域に含まれる平面に対して法線ベクトル(点線の矢印で表記)を設定すると、ステージGの上面である平面部分Gr1及びGr2にはぞれぞれ法線ベクトルNG1及びNG2が設定され、対象物体Sの外面である平面部分Sr1及びSr2にはぞれぞれ法線ベクトルNS1及びNS2が設定される。この例では、反射ミラー25の角度位置から見ると、対象物体Sの外面である平面部分Sb及びステージGの上面である平面部分Gb部分が死角となって撮影されない。そのため、撮影画面上では、この死角部分に仮想の平面部分Srb(太い鎖線で表記)に対する法線ベクトルNSbが設定される。
【0029】
各平面部分での法線ベクトルと撮影方向ベクトルとの間の角度をみると、死角部分では両者の間の角度が大きくなることから、撮影方向ベクトルに対する平面部分の法線ベクトルの角度が所定値以上の場合にその平面部分を死角領域と判定してその平面部分の立体形状データを除去する編集処理を行えばよい。この場合、対象物体Sの表面が見えているものの撮影方向に対して傾斜が大きい平面についても形状が正確でない可能性が高いことから死角領域として除去する。例えば、撮影方向ベクトルに対する法線ベクトルの角度が70度以上の場合に死角領域と判定して除去すればよい。
【0030】
撮影方向ベクトルは、撮影した時の反射ミラー25の角度位置から設定することができる。また、法線ベクトルは、図6に示すように、撮影画面Wを3点P1、P2及びP3により画定される所定の大きさの単位領域Rijに区分し、3点P1、P2及びP3の画素位置における立体形状データに基づいて単位領域Rijを構成する平面の法線ベクトルを算出することができる。したがって、単位領域毎に撮影方向ベクトルに対する法線ベクトルの角度を算出して死角領域か否か判定する。こうして撮影画面W全体のうち死角領域を判定し死角領域の不正確な立体形状データを除去して編集形状データを生成する編集処理を行う。
【0031】
統合処理部10cは、各画像データの編集形状データを基準点Oに基づいて設定された共通座標系に変換処理し変換処理された各編集形状データを統合して対象物体Sの3次元形状データを生成する。図7は、変換処理を行う場合の共通座標系に関する説明図である。撮像素子D上の撮影面に撮像素子座標系(X−Y−Z)を設定し、対象物体Sを載置するステージG上に基準点Oを原点とする共通座標系(x−y−z)を設定する。
【0032】
撮像素子座標系(X−Y−Z)は、X軸及びY軸が撮影面上に設定されZ軸が撮影面と直交するように設定される。そして、撮影画面の画素位置はX座標及びY座標によって表され、画素位置における立体形状データはZ座標によって表わされる。
【0033】
また、共通座標系(x−y−z)は、x軸及びy軸がステージGの上面に設定し、z軸は基準点Oを通り光軸Aと一致するように設定する。
【0034】
反射ミラー25の角度位置は、x軸からの回転角度θ及び光軸(z軸)からの傾き角度φにより特定される。回転角度θは、反射ミラー25の反射面の中心点Mと基準点Oを結ぶ直線がxy平面に投影した直線とx軸との間の角度であり、傾き角度φは、中心点Mと基準点Oを結ぶ直線とz軸との間の角度である。
【0035】
図3に示すように、反射ミラー25は、光軸(z軸)に直交する平面内を光軸を中心に周回移動するため、傾き角度φは一定となり、回転角度θをθ0からθN-1までのN個の角度位置に回動させ、各回転角度位置において焦点距離を変化させながら撮影を行って複数の撮影画像を得る。この場合、各回転角度位置で撮影した場合、基準点Oは常に撮影面の中心位置に結像するように設定されている。
【0036】
生成処理部10a及び編集処理部10bでの処理は、撮像素子座標系(X−Y−Z)に基づいて行われるため、編集処理によって生成された各角度位置における編集形状データを以下の変換式を用いて共通座標系(x−y−z)に座標変換処理する。
【0037】
【数1】

ここで、θは反射ミラー25の回転角度で、φはその傾き角度、kはZ軸方向のキャリブレーション係数、また(Cx,Cy,Cz)は、反射ミラー25の回転に対する不動点である基準点Oを撮像素子座標系(X−Y−Z)から見た座標である。以上の変換式を用いてN個の角度位置における編集形状データを共通座標系(x−y−z)に変換して配置することで、対象物体Sの3次元形状が復元できる。復元された3次元形状は、死角領域を除去した複数の立体形状を統合処理されているため死角領域をできるだけ少なくした精度の高い形状に復元されている。
【0038】
座標変換に必要なパラメータθ、φ、k及び(Cx,Cy,Cz)は、次のように求められる。例えば、回転角度θは、反射ミラー25を周回移動させるステッピングモータを駆動制御するためのパルス数等から求めることができる。
【0039】
θ以外のパラメータは、測定用の特殊なパターン面を利用し、パターン面の予め決められた測定点の軌跡を測定すると共に、そのパターン面について撮影した画像データに基づいて生成処理部10aの生成処理を行って求めることができる。
【0040】
図8は測定用のパターンの一例である。図8は、立体形状の生成処理に適したテキスチャを有するパターン上に、軌跡の追跡に適した複数の測定点を配置したものである(この場合の測定点は4点表示されている)。反射ミラー25を周回移動させながらこのパターンを撮影すると、各測定点は図9に示すような軌跡を描く(これは蝸牛線として知られている)。この軌跡を構成する各点を、適当に仮定した点(Cx,Cy)を中心として、対応する反射ミラー25の回転角度θだけ回転すると、各軌跡は図10に示すような楕円群(この場合は点数に等しい4つの楕円が得られる)に変換される。
【0041】
ここで、中心と仮定した点(Cx,Cy)が、不動点である基準点Oに一致している場合には、図10における楕円の長軸の長さr1と短軸の長さr2の比 r2/r1は、各楕円にわたって一定値となり、図11に示すような楕円群が得られることが示される。そこで、比 r2/r1の分散が最小となる点(Cx,Cy)を探索して求めることにより、基準点の座標のXおよびY成分(Cx,Cy)が求められる。
【0042】
得られた楕円群は、静止した1点を反射ミラー25から、すなわち斜め上方の円軌道から撮影した場合の軌跡に相当するため、反射ミラー25の傾き角度φが大きいほど前記の楕円は扁平となり、比 r2/r1が大きくなる。反射ミラー25の傾き角度φと比 r2/r1の関係は、
【0043】
【数2】

よって与えられる。反射ミラー25の傾き角度φは、この関係を用いて、得られた楕円の長軸と短軸の比 r2/r1から求められる。楕円の軌跡が複数得られている場合は、各楕円の比 r2/r1の平均値を用いればよい。
また、パラメータk及びCzは、図8のパターン面に対して生成処理部10aによる生成処理で立体形状データを算出することによって求められる。図8のパターン面は平面でステージG上に載置されていることから、立体形状データは傾き角度φの平面となるように復元されなければならないが、Z軸方向の高さはX及びY方向に対する相対値であって、キャリブレーションパラメータkが正しくない場合には、平面の傾き角度がφに復元されない。そこで、復元された平面の傾き角度がφに一致するようにkの値を調整することによって、パラメータkの値が求められる。Czについては、前記平面を得られたパラメータkを用いて傾き角度がφに一致するように補正した後、基準点として得られている点(Cx,Cy)におけるこの平面のz座標を計測することにより求められる。
統合した3次元形状の一部が編集処理によって除去されたままとなっている場合には、その欠損領域が正確に撮影できる角度位置に反射ミラーを位置決めして、再度生成処理及び編集処理を行うことで欠損領域の編集形状データを生成し、座標変換を行って既に得られている対象物体の3次元形状に対して追加統合するようにすればよい。
また、測定誤差等のため、統合処理する際に同じ位置のデータが複数の編集形状データでずれた位置に変換された場合には、対象物体を構成する各点について、その近傍に予め決められたサイズの微小領域を設定し、その微小領域内に複数の点が存在する場合には、それらの平均値をとる等の処理を行って代表点1点に置き換える処理を行えばよい。
【0044】
以上の例では、基準点Oが不動点であることを前提に説明したが、こうした不動点がない場合でも共通座標系への変換・統合処理を行うことは可能である。例えば、図3に示すような円周軌道を反射ミラー25が移動しない場合や対象物体Sに対して固定の軌道からではない任意の位置から撮影する場合などでは不動点が存在しないため、2つの異なる角度位置毎に対象物体上の同一点に対応する画素位置を求め、求めた画素位置と撮影系の光学的配置(撮影を行う際の光軸の回転角度θ、傾き角度φ及びxy平面との交点の座標)から(Cx,Cy,Cz)を計算して、撮影画像の合焦度に基づいて生成された立体形状データを数1に示す変換式により変換・統合処理すればよい。
【0045】
図12は、3次元形状復元処理に関するフローである。まず、撮影機構18を駆動制御して反射ミラー25のN個の角度位置において焦点距離を変化させながら対象物体を撮影して複数の撮影画像を得る(S100)。図13は、矩形状の対象物体を撮影した撮影画像に関する例を示している。横一列に1つの角度位置から焦点距離を変化させて撮影した複数の撮影画像を示しており、上下方向で角度位置が異なるように配列されている。焦点距離を変化させることで各点の合焦度が変化し、ピントの合った合焦領域が変化していくのがわかる。
【0046】
次に、各角度位置における複数の撮影画像に基づいて合焦領域を抽出して立体形状データを生成する(S101)。図14は、各角度位置において生成された立体形状データに基づいて復元された対象物体の画像であり、死角領域において立体形状データが不正確になるため画像が乱れているのがわかる。
【0047】
そこで、生成された立体形状データの死角領域を除去した編集形状データを生成する編集処理を行う(S102)。上述したように単位領域を画定する3点位置の立体形状データに基づいて単位領域を構成する平面の法線ベクトルを算出して撮影方向ベクトルとの間の角度を求め、角度が所定値以上の単位領域を死角領域として除去する。図15は、死角領域を除去した編集形状データに基づいて復元された対象物体の画像であり、画像の乱れた部分が正確に除去されているのがわかる。
【0048】
次に、編集処理により生成された編集形状データを共通座標系に変換処理して統合し3次元形状データを生成する(S103)。そして、3次元形状データに欠損等がある場合には、追加修正等の処理を行う(S104)。
【0049】
以上の処理により、死角をできるだけ少なくした3次元形状データを復元することができる。図16は、3次元形状データに基づいて復元された対象物体を特定の方向から見た画像であり、様々な角度から対象物体の画像を復元した場合に死角領域の少ない画像として復元することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明した例では、本発明を顕微鏡に適用した場合について説明したが、屋内や屋外において様々な大きさや形状の対象物体についても対象物体の周囲から撮影することで3次元形状を復元することができ、様々な産業分野で要求される形状観測または測定装置として利用することが可能である。例えば、半導体集積回路の製造においてワイヤボンディング工程の検査、化学分野において結晶の3次元形状測定といった用途へ利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る実施形態に関するシステム構成図である。
【図2】顕微鏡に取り付けられた撮影機構18の走査部に関する概略図である。
【図3】撮影機構により対象物体を撮影する場合の動作制御に関する概略図である。
【図4】3次元形状復元処理装置に関する機能ブロック構成図である。
【図5】撮像素子Dによりある角度位置から対象物体Sを撮影する場合の模式図である。
【図6】撮影画像に設定される単位領域に関する説明図である。
【図7】変換処理を行う場合の共通座標系に関する説明図である。
【図8】測定用のパターンの一例を示す画像である。
【図9】パターンの測定点が反射ミラーの周回移動時に描く軌跡を示すグラフである。
【図10】パターンの測定点が仮定点を中心に描く軌跡を示すグラフである。
【図11】パターンの測定点が不動点を中心に描く軌跡を示すグラフである。
【図12】3次元形状復元処理に関するフローである。
【図13】各角度位置で撮影した撮影画像の一例である。
【図14】各角度位置における立体形状データから復元された対象物体の画像の一例である。
【図15】編集処理により除去された編集形状データから復元された対象物体の画像の一例である。
【図16】統合された3次元形状データから復元された対象物体の画像の一例である。
【符号の説明】
【0052】
1 3次元形状復元処理装置
10 CPU
11 RAM
12 ROM
13 記憶部
14 ディスプレイ
15 プリンタ
16 入力部
17 バス
18 撮影機構
22 回転リング
24 反射ミラー
25 反射ミラー
A 光軸
D 撮像素子
G ステージ
L 対物レンズ
S 対象物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物体に対して焦点距離を変化させて撮影した複数の撮影画像からなる画像データを用いて対象物体の3次元形状を復元する3次元形状復元処理装置であって、対象物体に対してそれぞれ異なった角度位置から撮影して得られた複数の前記画像データを用いて各画像データの撮影画像の合焦度に基づいて立体形状データを生成する生成処理手段と、前記立体形状データに基づいて各画像データの角度位置に対応して生じる死角領域を判定するとともに当該死角領域のデータを除去して編集形状データを生成する編集処理手段と、各画像データの前記編集形状データを共通座標系に変換処理して統合することで対象物体の3次元形状データを生成する統合処理手段とを備えていることを特徴とする3次元形状復元処理装置。
【請求項2】
前記撮影画像を撮影する撮影部と、前記対象物体に対する前記撮影部の撮影方向を変更して異なった角度位置から撮影可能とする走査部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の3次元形状復元処理装置。
【請求項3】
前記編集処理手段は、3点により画定されて所定の大きさを有する複数の単位領域により画面を区分し各単位領域を画定する3点位置の前記立体形状データに基づいて決定される平面の法線ベクトルを算出するとともに画像データを撮影した角度位置に沿った撮影方向ベクトルと当該法線ベクトルとの間の角度が所定の閾値以上である場合に当該単位領域を死角領域と判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の3次元形状復元処理装置。
【請求項4】
対象物体に対して焦点距離を変化させて撮影した複数の撮影画像からなる画像データを用いてコンピュータによって対象物体の3次元形状を復元する3次元形状復元処理方法であって、
対象物体に対してそれぞれ異なった角度位置から撮影して得られた複数の前記画像データを用いて各画像データの撮影画像の合焦度に基づいて立体形状データを生成するステップと、
前記立体形状データに基づいて各画像データの角度位置に対応して生じる死角領域を判定し当該死角領域のデータを除去して編集形状データを生成するステップと、
各画像データの前記編集形状データを共通座標系に変換処理して統合することで3次元形状データを生成するステップと
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする3次元形状復元処理方法。
【請求項5】
編集形状データを生成するステップにおいて、3点により画定されて所定の大きさを有する複数の単位領域により画面を区分し各単位領域を画定する3点位置の前記立体形状データに基づいて決定される平面の法線ベクトルを算出するとともに画像データを撮影した角度位置に沿った撮影方向ベクトルと当該法線ベクトルとの間の角度が所定の閾値以上である場合に当該単位領域を死角領域と判定することを特徴とする請求項4に記載の3次元形状復元処理方法。
【請求項6】
対象物体に対して焦点距離を変化させて撮影した複数の撮影画像からなる画像データを用いて対象物体の3次元形状を復元する3次元形状復元処理装置を機能させるためのプログラムであって、
前記3次元形状復元処理装置を、
対象物体に対してそれぞれ異なった角度位置から撮影して得られた複数の前記画像データを用いて各画像データの撮影画像の合焦度に基づいて立体形状データを生成する手段、
前記立体形状データに基づいて各画像データの角度位置に対応して生じる死角領域を判定するとともに当該死角領域のデータを除去して編集形状データを生成する手段、
各画像データの前記編集形状データを共通座標系に変換処理して統合することで3次元形状データを生成する手段、
として機能させるためのプログラム。
【請求項7】
前記編集形状データを生成する手段は、3点により画定されて所定の大きさを有する複数の単位領域により画面を区分し各単位領域を画定する3点位置の前記立体形状データに基づいて決定される平面の法線ベクトルを算出するとともに画像データを撮影した角度位置に沿った撮影方向ベクトルと当該法線ベクトルとの間の角度が所定の閾値以上である場合に当該単位領域を死角領域と判定することを特徴とする請求項6に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−275542(P2008−275542A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121922(P2007−121922)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 2006年映像メディア処理シンポジウム 主催者名 電子情報通信学会 画像工学研究専門委員会 開催日 平成18年11月8日〜10日 発行者名 電子情報通信学会 画像工学研究専門委員会 刊行物名 映像メディア処理シンポジウム 第11回シンポジウム資料 発行年月日 平成18年11月8日
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(591088456)三谷商事株式会社 (2)
【Fターム(参考)】