説明

4サイクル内燃機関

【課題】 高熱効率・低NOx排出である均質予混合圧縮着火燃焼を、機関負荷の幅広い範囲で実現する。
【解決手段】 排気弁8の閉弁時期EVCと吸気弁6の開弁時期IVOを制御可能な可変動弁機構10A,10Bを備え、機関低負荷時は排気弁8の閉弁時期EVCを進角し、吸気弁6の開弁時期IVOを遅角することで大量の内部EGRを行い、内部EGRと新気が均一に混合された高温の混合気を圧縮着火させ、高熱効率・低NOx排出の燃焼を実現する。機関高負荷時は排気弁8の閉弁時期EVC、吸気弁6の開弁時期IVOともにピストン上死点付近とし、点火プラグ9により点火、火炎伝播燃焼させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば自動車用ガソリンエンジンのような4サイクル内燃機関に関する。
【0002】
【従来の技術】4サイクル内燃機関の熱効率を向上する手段として、混合気をリーン化することによりポンプ損失を低減すると共に、作動ガスの比熱比を大きくして理論熱効率を向上させることが知られている。
【0003】しかしながら、従来のガソリンエンジンでは点火プラグによる火花点火と火炎伝播による燃焼が不安定化することから混合気のリーン化にも自ずと限界があり、また、リーン燃焼時には排気浄化のための触媒がいわゆる量論比での燃焼時ほど浄化性能、特にNOxの還元性能を発揮できないという問題がある。
【0004】一方、従来のディーゼルエンジンでは大幅なリーン燃焼を行うことが可能であるが、煤の排出を生じることがあり、また、リーン燃焼のため前述と同様に排気浄化のための触媒が有効に活性化できない問題がある。
【0005】そこで、このような問題を解決する手段として、特開平7−332141号公報に示されているように、予混合気を圧縮着火燃焼させることによって、リーン燃焼と低NOx排出を図った高圧縮比ガソリン内燃機関が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、前述の予混合気の圧縮着火現象は空燃比の影響が大きく、リーン域のリッチ側ではノッキングが生じ、逆にリーン域のリーン側では失火が生じることから、必然的に運転可能な空燃比範囲が制限されてしまう。即ち、運転可能な負荷範囲が制限されてしまう問題を生じる。
【0007】また、予混合気の圧縮着火燃焼により低NOx排出を図るとしても、EGRを行っていないことから未燃燃料としてシリンダ内に残ったHCはほぼ全て排気として排出されてしまうため、燃料を効率よく利用して熱効率を向上させることはできない。
【0008】一方、特開平5−321702号公報には低回転領域で吸排気弁のバルブタイミングを変えて内部EGRを行わせる技術が開示されているが、単純に低回転領域で内部EGRのために吸排気弁のバルブタイミングを変えただけでは、ノック性と燃焼安定性に大きな影響を及ぼし、この場合も運転可能な負荷範囲が制限されてしまう。
【0009】そこで、本発明は機関の高負荷時と低負荷時とで吸排気弁のバルブタイミングを切り替え、かつ、該低負荷時に負荷に応じたバルブタイミングに可変制御して、大量の内部EGRを行うことでそのEGRガスを熱源として混合気の着火性を促進し、機関のより広い負荷範囲で高熱効率かつ低NOxである均質予混合圧縮着火燃焼を実現すると共に、EGRガス中の未燃HCを再燃焼させて燃料を有効利用することで熱効率を向上し、併せてクリーンな排気の4サイクル内燃機関を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明にあっては、吸気弁と排気弁のバルブタイミングを機関の高負荷時と低負荷時とで切り替え可能な可変動弁機構を備え、高負荷時は前記排気弁がピストン上死点近辺にて閉弁されるバルブタイミングに設定する一方、低負荷時は負荷が小さいほど前記排気弁の閉弁時期がピストン上死点前の排気行程中途に進角されるバルブタイミングに設定し、かつ、高負荷時は燃焼室に設けた点火装置によりピストンの圧縮上死点付近にて混合気を点火・燃焼させる一方、低負荷時は前記点火装置による点火を行わずに混合気を圧縮着火・燃焼させるようにしたことを特徴としている。
【0011】請求項2の発明にあっては、請求項1に記載の吸気弁はその開弁時期を、高負荷時はピストン上死点近辺に開弁されるバルブタイミングに設定する一方、低負荷時はピストン上死点後の吸気行程中途にて開弁されるバルブタイミングに設定したことを特徴としている。
【0012】請求項3の発明にあっては、請求項1,2に記載の吸気弁はその開弁時期を、高負荷時はピストン上死点近辺にて開弁されるバルブタイミングに設定する一方、低負荷時は負荷が小さいほど、前記吸気弁の開弁時期がピストン上死点後の吸気行程中途に遅角されるバルブタイミングに設定したことを特徴としている。
【0013】請求項4の発明にあっては、請求項1〜3に記載の低負荷時における吸気弁の開弁時期を筒内圧力が吸気管圧力と略同等となる時期に設定したことを特徴としている。
【0014】請求項5の発明にあっては、請求項1〜4に記載の低負荷時における排気弁の負荷に応じた閉弁時期の進角制御範囲を、クランク角度60〜80deg・BTDCに設定したことを特徴としている。
【0015】請求項6の発明にあっては、請求項1〜5に記載の低負荷時には高負荷時に比較して、吸気弁の閉弁時期を進角させ、もしくは排気弁の閉弁時期を遅角させる、の少なくとも何れかを行わせることを特徴としている。
【0016】請求項7の発明にあっては、請求項1〜6に記載の低負荷時におけるバルブタイミングを負荷に応じて連続的に可変制御するようにしたことを特徴としている。
【0017】請求項8の発明にあっては、請求項1〜7に記載の機関の圧縮比を14〜18に設定したことを特徴としている。
【0018】請求項9の発明にあっては、請求項1〜8に記載の機関はその吸気通路に、少なくとも低負荷時に該吸気通路を部分的に遮蔽する部分遮蔽弁を備えていることを特徴としている。
【0019】
【発明の効果】請求項1に記載の発明によれば、機関の低負荷時には排気弁の閉弁時期が進角されてピストン上死点前の排気行程中途にて閉弁されるため、その時点でのシリンダ容積に相当する高温の既燃ガスを燃焼室に滞留させ、次サイクルへの内部EGRとすることができ、次サイクルでは新気が吸入されて内部EGRと撹拌・混合されることによって高温かつ均質な混合気が形成され、この高温の均一混合気が圧縮されることでリーンな混合気の圧縮着火がピストン上死点付近で実現される。
【0020】この時、混合気は高温・高圧雰囲気によって自ら着火・燃焼されるため、点火装置による点火の必要はなく、その燃焼形態は火花点火燃焼に見られるようないわゆる火炎伝播は存在せず、火炎伝播に伴う局所的な高温部が存在することがなく、しかも、火炎面が通過した後の既燃ガス部分が火炎の伝播に伴って圧縮・高温化されないこと、および大量の内部EGRを行っているために混合気中の酸素濃度が低下していること、からNOxの排出を極少量に抑えることができる。
【0021】また、混合気に局所的なリッチ領域が存在しないため煤が生じることがなく、更に、圧縮自己着火によって大幅なリーン燃焼が実現できることと、大量の内部EGRにより通常排出・放棄されてしまう未燃HCの燃焼回収を有効に行えることから、熱効率の向上を実現することができる。
【0022】特に、前記機関低負荷時における排気弁の閉弁時期の進角は負荷に応じて制御して、低負荷域の低負荷方向側では排気弁の閉弁時期の進角度合いを増大して内部EGR量を増大し、低負荷域の高負荷方向側では排気弁の閉弁時期の進角度合いを小さくして内部EGR量を減少させるため、より低負荷な状態、即ち、混合気がよりリーンな状態では内部EGRの増加により混合気の温度を更に高められるので、リーンな混合気に対しても確実に圧縮自己着火燃焼を行わせることができ、逆に低負荷域の高負荷方向側では内部EGRの減少によって混合気の温度上昇が比較的抑制されるため、比較的リッチな混合気においてもノッキングの発生を抑制することができる。
【0023】この結果、圧縮着火燃焼可能な混合気温度の範囲が拡大でき、即ち、広い負荷範囲において高熱効率・低NOx排出である予混合圧縮着火燃焼を実現することができる。
【0024】そして、機関の高負荷時には排気弁の閉弁時期を通常の4サイクル内燃機関と同様にピストン上死点付近とすることでシリンダ内の残留ガスを低減し、点火装置による火花点火と火炎伝播による燃焼形態におけるノッキングの発生を抑制し、充填効率の向上を実現できて高出力を得ることができる。
【0025】請求項2に記載の発明によれば、請求項1の発明の効果に加えて、機関の低負荷時に排気弁を排気行程中途で閉弁することに併せて、吸気弁をピストン上死点後の吸気行程中途で開弁することによって、排気弁の閉弁からピストン上死点までにシリンダ内の残留ガスを圧縮するために要した仕事を、ピストン上死点から吸気弁の開弁までに回収することができるため、より一層熱効率の向上に貢献することができる。
【0026】また、吸気弁の開弁時期がピストン上死点後の吸気行程中途に遅角されることにより、ピストン上死点付近で吸気弁を開弁することに較べてピストン速度が大きい時期に吸気が開始されることになり、吸気の流入速度が増大されて内部EGRと新気の撹拌・混合が促進されて混合気がより均一化され、更に圧縮着火による燃焼が良好となって熱効率の向上およびNOx排出の低減効果を高めることができる。
【0027】請求項3に記載の発明によれば、請求項1,2の発明の効果に加えて、吸気弁の開弁時期を機関の高負荷時はピストン上死点近辺で開弁させる一方、機関の低負荷時は負荷に応じて該吸気弁の開弁時期を遅角させ、低負荷域の低負荷方向側では吸気弁の開弁時期の遅角度合いを増大し、低負荷域の高負荷方向側では吸気弁の開弁時期の遅角度合いを小さくすることによって、排気弁の負荷に応じた閉弁時期に対応して変化する該排気弁の閉弁時期からピストン上死点までの間に燃焼室内の残留ガスを圧縮するために要した仕事を、ピストン上死点から吸気弁の開弁時期までの間に確実に回収できて、熱効率を更に高めることができる。
【0028】請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3の発明の効果に加えて、機関の低負荷時における吸気弁の開弁時期を、筒内の圧力が吸気管の圧力と同等となる時期としてあるため、残留ガスの圧縮に要した仕事を更に有効に回収できて、熱効率の向上に貢献することができる。
【0029】請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜4の発明の効果に加えて、機関の低負荷時における排気弁の負荷に応じた閉弁時期の進角制御範囲を、実験の結果から得られたノック強度、Pi変動率および燃料消費率に優れる最適値に設定してあるから、広い負荷範囲でより安定した予混合圧縮着火燃焼を実現することができる。
【0030】請求項6に記載の発明によれば、請求項1〜5の発明の効果に加えて、機関の低負荷時に吸気弁の閉弁時期を進角することで、吸気弁の閉弁時期からピストン上死点までの有効圧縮比が大きくなり、ピストン上死点における混合気の温度・圧力が大きくなるため更に圧縮着火が容易となる。
【0031】また、機関の低負荷時に排気弁の開弁時期を遅角すれば、ピストン上死点から排気弁の開弁時期までの有効膨張比が大きくなり、燃焼により高圧となった作動ガスから更に効率良く仕事を取り出すことが可能となる。
【0032】従って、これらの機関低負荷時における吸気弁閉弁時期の進角と、排気弁開弁時期の遅角との制御は、その何れか1つを行ってもよいし、両方を行えばより効果的である。
【0033】請求項7に記載の発明によれば、請求項1〜6の発明の効果に加えて、低負荷時における吸排気弁のバルブタイミングを負荷に応じて連続的に可変制御するため、要求される機関負荷に対してきめ細かく内部EGR量、即ち、混合気の温度、を制御して確実な予混合圧縮着火燃焼を実現することができ、また、残留ガスの圧縮に必要な仕事を常にほぼ完全に回収することができる。
【0034】請求項8に記載の発明によれば、請求項1〜7の発明の効果に加えて、機関の圧縮比を実験の結果得られたノック強度および燃焼安定性に優れる最適値に設定してあるため、高負荷時にノック発生を回避して高出力を得ることができる一方、低負荷時に安定した予混合圧縮着火燃焼を行わせてトルク、出力の向上を実現することができる。
【0035】請求項9に記載の発明によれば、請求項1〜8の効果に加えて、機関の低負荷時に吸気通路の一部を部分遮蔽弁で遮蔽することにより、吸気流速が増大されるため内部EGRと新気との撹拌・混合が良好に行われてより均一な高温の混合気を形成することができて、予混合圧縮着火燃焼の安定化に貢献することができる。
【0036】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を4サイクルガソリン機関を例に採って図面と共に詳述する。
【0037】図1において、1はシリンダブロック、2はピストン、3はシリンダヘッド、4はこれらシリンダブロック1、ピストン2、およびシリンダヘッド3で形成される燃焼室を示す。
【0038】シリンダヘッド3には吸気ポート5を開閉する吸気弁6、および排気ポート7を開閉する排気弁8を配設してあると共に、燃焼室4のほぼ中心位置に点火装置である点火プラグ9を配設してある。
【0039】吸気弁6および排気弁7は、それらの開弁時期と閉弁時期を変更可能な可動弁機構10A,10Bによってそれぞれ独立して開閉するようにしてある。
【0040】機関の諸制御はエンジンコントロールユニット(ECU)11によって行っており、ECU11にはクランク角センサ12a、アクセルペダルセンサ12b、水温センサ12c、エアフローメ−タ12d等の機関運転状態を検知するためのセンサ12が接続されており、ECU11はこれらセンサ12からの信号入力にもとづいて機関の運転状態を判断して所要の制御を行っており、前記点火プラグ9および可変動弁機構10A,10BもこのECU11からの信号出力により駆動制御される。
【0041】可変動弁機構10A,10Bとして、例えば特開昭55−137305号公報に示されているものを用いることができる。
【0042】図2は前記公報に示された可変動弁機構で、その作動原理は該公報に詳しいのでその詳細な説明は省略するが、揺動プレート13によりロッカーアーム14の支点を変位させて、揺動カム15の位相を変化させることで図3に示すようなバルブタイミングおよびバルブリフトの可変制御を可能としている。
【0043】図4はこのような可変動弁機構10A,10Bによる吸排気弁6,8の高負荷時と低負荷時におけるバルブタイミングの変化状況を示している。
【0044】図4の(イ)に示す機関高負荷時のバルブタイミングは、いわゆる通常の4サイクルガソリン機関のそれであり、排気弁8の閉弁時期EVCと吸気弁6の開弁時期IVOはともにピストン上死点(TDC)付近となっていて所定のバルブオーバーラップ(O/L)が設定されている。
【0045】図4の(ロ)に示す機関低負荷時におけるバルブタイミングは、前記高負荷時に対して排気弁8の閉弁時期EVCが進角されて排気行程中途となっており、同時に排気弁8の開弁時期EVOが遅角されてよりピストン下死点(BDC)に近い時期となっている。
【0046】この機関低負荷時には吸気弁6については、その開弁時期IVOが排気弁8の閉弁時期〜ピストン上死点までの期間と該吸気弁6のピストン上死点〜吸気弁6の開弁時期までの期間とがほぼ等しくなるように遅角して設定され、吸気弁6の閉弁時期IVCは同時に進角されてピストン下死点に近い時期となっている。この時、ピストン上死点付近におけるバルブオーバーラップは全く存在せず、マイナスオーバーラップ(マイナスO/L)とでも呼ぶべき状態になっている。
【0047】本実施形態における可変動機構10A,10Bは、機関の高負荷時と低負荷時とでバルブタイミングを切り替えると共に、低負荷時は負荷に応じてバルブタイミングを連続的に可変可能としてあり、従って、図4R>4の(ロ)に示した低負荷時におけるバルブタイミングは、ある負荷状況における1例を示しているに過ぎない。
【0048】この機関低負荷時におけるバルブタイミングについて、図5にクランク角の推移に対して吸排気弁6,8のリフトカーブを示している。
【0049】図6は前記機関低負荷時のマイナスO/Lを成すバルブタイミングにおける燃焼室4内のガス交換過程を説明したものである。
【0050】図6の(a)〜(f)について時間推移を追って説明すると、(a)は排気行程の途中であり、開弁された排気弁8から既燃ガスが排気ポート7へ排出される。
【0051】(b)で排気行程中途ではあるが、排気弁8が閉弁されるため、この時点で燃焼室4内に残っていた既燃ガスは該燃焼室4内に閉じ込められた形になり、この既燃ガスが次サイクルの内部EGRとなる。
【0052】その後(c)のピストン上死点まで燃焼室4内に閉じ込められた内部EGRを圧縮する。
【0053】この時に要した圧縮のための仕事は、次の(d)に示す吸気弁6の開弁までに内部EGRが膨張してピストン2を押し下げることで回収される。
【0054】(d)以降は(e)に示すように吸気弁6の開弁により吸気ポート5から新気を吸入し、内部EGRと撹拌・混合する。
【0055】この時、吸気弁6の開弁時期を遅角してあることにより、ピストン速度が比較的大きい時期に吸気が開始されることになり、吸入速度が大きくなるためこのようなバルブタイミングにおいても新気とEGRは十分に混合されるが、図1に仮想線で示すように吸気ポート5にその一部を遮蔽する部分遮蔽弁16を設け、低負荷時にはこの部分遮蔽弁16を閉弁させることによって吸気流速を増大させ、新気と内部EGRとの混合・撹拌をより積極的に行わせるようにしてもよい。
【0056】その後、高温の内部EGRと新気とが均一に混合された混合気は(f)に示すようにピストン2の上昇に伴って圧縮され、ピストン上死点付近で自己着火燃焼に至る。
【0057】この時の筒内圧の変化状況を図7の(ロ)に簡略化したP−V線図にて示しており、図7の(イ)に機関高負荷時におけるバルブタイミングによる筒内圧変化状況を比較してP−V線図にて示している。
【0058】図7の(ロ)から判るように、機関低負荷時には圧縮行程〜膨張行程の間の圧縮上死点と、排気行程〜吸気行程の間のピストン上死点に2つの圧力ピーク点Pa ,Pb を持っている。しかし、この機関低負荷時には大量の内部EGRとマイナスO/Lを成すバルブタイミングによって、機関高負荷時と同様にポンプ損失に相当する部分(図7の斜線部分)は小さく、熱効率が向上する所以の1つとなっている。
【0059】これは、前述のように機関低負荷時におけるバルブタイミングを、例えば図4の(ロ)に示す如くに設定することによって、図6の(a)〜(f)に示すようなガス交換過程を経て高温の内部EGRと新気との均質な混合気が形成され、これがピストン運動に伴って圧縮されることで自ら着火に至って燃焼される結果、大幅なリーン燃焼が可能となり熱効率の向上が得られるのであり、また、均質な自己着火燃焼により局所的な高温部が存在しないことからNOxの排出が極少量に抑制されるのである。
【0060】但し、高負荷時から低負荷時への負荷変化に伴って、該低負荷時に単純に所定のマイナスO/Lにバルブタイミングを切り替えても、即ち、単一のバルブタイミング設定を行っても、混合気をリーン域で次第にリッチ化して行けば圧縮着火燃焼と云えどもいずれノッキングが発生してリッチ限界が生じ、逆に、混合気をリーン域で次第にリーン化して行けば高温の内部EGRを利用しているとは云え、いずれ燃焼が不安定となってリーン限界が存在し、従って、高熱効率かつ低NOx排出である圧縮自己着火燃焼を実現できる負荷範囲が制限されてしまう。
【0061】一方、本実施形態では前述のように機関低負荷時には、負荷に応じて連続的にバルブタイミングを変化させて、例えば図8に示すように低負荷域における低負荷方向側ほど排気弁8の閉弁時期を進角すると共に吸気弁6の開弁時期を遅角させ、逆に高負荷方向側では排気弁8の閉弁時期の進角度合いを小さくすると共に、吸気弁6の開弁時期の遅角度合いを小さくすることによって、前記低負荷方向側では高温の内部EGR量が増大するためよりリーンな混合気に対しても十分な圧縮着火燃焼が維持され、また、高負荷方向側では高温の内部EGR量が減少してノッキングの発生を抑制することができる。
【0062】また、このように機関の低負荷時に負荷に応じて吸気弁6の開弁時期を遅角させ、低負荷域の低負荷方向側では吸気弁6の開弁時期の遅角度合いを増大し、低負荷域の高負荷方向側では吸気弁6の開弁時期の遅角度合いを小さくすることによって、排気弁8の負荷に応じた閉弁時期に対応して変化する該排気弁8の閉弁時期からピストン上死点までの間に燃焼室4内の残留ガスを圧縮するために要した仕事を、ピストン上死点から吸気弁6の開弁時期までの間に確実に回収できて、熱効率を一段と高めることができ、このような吸気弁6の開弁時期において、筒内圧力は必然的に吸気ポート圧力、即ち、過給機を用いない機関ではほぼ1気圧になっている。これは、排気弁8の閉弁時期における筒内圧力がほぼ1気圧であることから自明である。
【0063】更に、機関の低負荷時に吸気弁6の閉弁時期を進角することで、該吸気弁の閉弁時期からピストン上死点までの有効圧縮比が大きくなり、ピストン上死点における混合気の温度・圧力が大きくなるため更に圧縮着火が容易となり、かつ、該低負荷時に排気弁8の開弁時期を遅角することによって、ピストン上死点から排気弁8の閉弁時期までの有効膨張比が大きくなり、燃焼により高温となった作動ガスから更に効率良く仕事を取り出すことが可能となる。
【0064】図9は本発明者の実験結果を示すもので、機関の低負荷時における排気弁8の負荷に応じた閉弁時期EVCの進角制御範囲を、クランク角度60〜80deg・BTDCに設定したところ、同図の矢印A1 ,A2 ,A3 でそれぞれ示すように、EVC=60,70,80(deg・BTDC)の各閉弁時期において、ノック強度、Pi変動率、および燃料消費率のいずれにも優れた最も運転性の良い負荷範囲が存在し、従って、この進角制御範囲でEVCを負荷に応じて連続的に制御すれば、要求される機関負荷に対してきめ細かく内部EGR量、即ち、混合気の温度、を制御して確実な予混合圧縮着火燃焼を実現でき、幅広い負荷範囲において均質予混合圧縮着火燃焼を機関として成立できることが確認されている。
【0065】本実施形態では前述のように機関低負荷時に排気弁8の閉弁時期の進角制御を、負荷に応じて連続的に可変制御するようにしているが、これは勿論、前記各閉弁時期、即ち、EVC=60,70,80(deg・BTDC)の進角制御を負荷に応じて多段階に可変制御するようにしてもよい。
【0066】機関の低負荷時は前述のように負荷に応じたバルブタイミングの制御の下に圧縮自己着火燃焼を行わせるが、機関の高負荷時は前記図4の(イ)に示すように通常の4サイクルガソリン機関と同様のバルブタイミングに戻され、新気を吸気・圧縮して点火プラグ9により火花点火し、火炎伝播によって燃焼させる。
【0067】ここで、以上のように機関低負荷時における排気弁8の閉弁時期の進角制御範囲が最適値に設定されるが、実験の結果、機関の圧縮比を14〜18に設定することによって図10に示すように運転可能負荷範囲を広げられることが確認されている。
【0068】これは、機関の圧縮比が14よりも小さいと低負荷時に燃焼安定性が損なわれてトルク、出力が悪化してしまい、また、機関の圧縮比が18よりも大きいと高負荷時にノック発生が顕著となってしまうものであり、従って、機関の圧縮比を前述のように適切に設定することによって、高負荷時にノック発生を回避して高出力を得ることができる一方、低負荷時に安定した予混合圧縮着火燃焼を行わせてトルク、出力の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示す説明図。
【図2】同実施形態における可変動弁機構の一例を示す説明図。
【図3】図2に示す可変動弁機構のバルブタイミングとバルブリフトの変化を示す図。
【図4】図1に示す実施形態のバルブタイミングの設定を示す図で、(イ)は高負荷時を、(ロ)は低負荷時を示す。
【図5】図4に示すバルブタイミングをクランク角度に対して示した図。
【図6】図1に示す実施形態の低負荷時における燃焼室内のガス交換過程を示す説明図。
【図7】同実施形態における燃焼室内の圧力変化の推移をP−V線図にて示した図で、(イ)は高負荷時を、(ロ)は低負荷時を示す。
【図8】低負荷時における排気弁の閉弁時期および吸気弁の開弁時期の変化を示した図。
【図9】バルブタイミングによる圧縮着火燃焼の様子の違いを実験的に示した図。
【図10】機関の圧縮比による運転可能負荷範囲を示した図。
【符号の説明】
1 シリンダブロック
2 ピストン
3 シリンダヘッド
4 燃焼室
5 吸気ポート
6 吸気弁
7 排気ポート
8 排気弁
9 点火プラグ
10A,10B 可変動弁機構
16 部分遮蔽弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】 吸気弁と排気弁のバルブタイミングを機関の高負荷時と低負荷時とで切り替え可能な可変動弁機構を備え、高負荷時は前記排気弁がピストン上死点近辺にて閉弁されるバルブタイミングに設定する一方、低負荷時は負荷が小さいほど前記排気弁の閉弁時期がピストン上死点前の排気行程中途に進角されるバルブタイミングに設定し、かつ、高負荷時は燃焼室に設けた点火装置によりピストンの圧縮上死点付近にて混合気を点火・燃焼させる一方、低負荷時は前記点火装置による点火を行わずに混合気を圧縮着火・燃焼させるようにしたことを特徴とする4サイクル内燃機関。
【請求項2】 吸気弁はその開弁時期を、高負荷時はピストン上死点近辺にて開弁されるバルブタイミングに設定する一方、低負荷時はピストン上死点後の吸気行程中途にて開弁されるバルブタイミングに設定したことを特徴とする請求項1に記載の4サイクル内燃機関。
【請求項3】 吸気弁はその開弁時期を、高負荷時はピストン上死点近辺にて開弁されるバルブタイミングに設定する一方、低負荷時は負荷が小さいほど、前記吸気弁の開弁時期がピストン上死点後の吸気行程中途に遅角されるバルブタイミングに設定したことを特徴とする請求項1,2に記載の4サイクル内燃機関。
【請求項4】 低負荷時における吸気弁の開弁時期を筒内圧力が吸気管圧力と略同等となる時期に設定したことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の4サイクル内燃機関。
【請求項5】 低負荷時における排気弁の負荷に応じた閉弁時期の進角制御範囲を、クランク角度60〜80deg・BTDCに設定したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の4サイクル内燃機関。
【請求項6】 低負荷時には高負荷時に比較して、吸気弁の閉弁時期を進角させ、もしくは排気弁の閉弁時期を遅角させる、の少なくとも何れかを行わせることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の4サイクル内燃機関。
【請求項7】 低負荷時におけるバルブタイミングを負荷に応じて連続的に可変制御するようにしたことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の4サイクル内燃機関。
【請求項8】 機関の圧縮比を14〜18に設定したことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の4サイクル内燃機関。
【請求項9】 吸気通路に、少なくとも低負荷時に該吸気通路を部分的に遮蔽する部分遮蔽弁を備えていることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の4サイクル内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2000−64863(P2000−64863A)
【公開日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−235730
【出願日】平成10年8月21日(1998.8.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】