説明

AlN結晶の表面処理方法、AlN結晶基板、エピタキシャル層付AlN結晶基板および半導体デバイス

【課題】 本発明は、半導体デバイスに用いることができるAlN結晶基板を効率的に得るため、効率よくAlN結晶にモフォロジーの良好な表面を形成するAlN結晶の表面処理方法を提供する。
【解決手段】 AlN結晶の表面を機械研削または機械研磨する工程と、その表面をエッチングする工程とを含むAlN結晶の表面処理方法である。ここで、表面を機械研削または機械研磨する工程において、砥粒径が6μm以下の砥粒または砥石を用いることができる。また、表面をエッチングする工程をウエットエッチングにより行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、電子素子、半導体センサなどの半導体デバイスの基板などに用いられるAlN結晶の表面処理方法に関する。さらに、本発明は、AlN結晶の表面処理方法により得られたAlN結晶基板に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN結晶などのIII族窒化物結晶は、発光素子、電子素子、半導体センサなどの半導体デバイスの基板を形成するための材料として非常に有用なものである。
【0003】
従来は、AlN結晶からAlN結晶基板を形成する方法として、AlN結晶を所定の厚さにスライスした後、表面を研磨する方法が採られており、特に化学機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;以下CMPという)が広く行なわれていた(たとえば、特許文献1〜3を参照)。
【0004】
しかし、AlN結晶は硬質で反応性に乏しいため、CMPによる研磨では、研磨速度が非常に低く、非効率的である。
【0005】
一方、機械研削または機械研磨によりAlN結晶の表面を研磨すると、AlN結晶の表面側領域に厚い加工変質層が形成され、その結晶表面上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物結晶層の表面は凹凸が大きくなり白濁してしまい、良質な半導体デバイスを形成することができない。
【特許文献1】米国特許第6596079号明細書
【特許文献2】米国特許第6488767号明細書
【特許文献3】国際公開第03/043780号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、半導体デバイスに用いることができるAlN結晶基板を効率的に得るため、効率よくAlN結晶にモフォロジーの良好な表面を形成するAlN結晶の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、AlN結晶の表面を機械研削または機械研磨する工程と、その表面をエッチングする工程とを含むAlN結晶の表面処理方法である。
【0008】
本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法において、表面を機械研削または機械研磨する工程において、砥粒径が6μm以下の砥粒または砥石を用いることができる。また、表面を機械研削または機械研磨する工程後におけるAlN結晶の加工変質層の厚さを2000nm以下とすることができる。
【0009】
本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法において、表面をエッチングする工程をウェットエッチングにより行なうことができる。また、表面をエッチングする工程後のAlN結晶の表面粗さRyを40nm以下とすること、表面をエッチングする工程後のAlN結晶の表面粗さRaを4nm以下とすることができる。
【0010】
また、本発明は、上記のAlN結晶の表面処理方法により得られたAlN結晶基板である。さらに、本発明は、このAlN結晶基板を熱処理して得られたAlN結晶基板である。
【0011】
本発明にかかるAlN結晶基板において、AlN結晶基板の主面を、ウルツ鉱型構造におけるC面、A面、R面、M面およびS面のいずれかの面に平行とすることができる。また、AlN結晶基板の主面を、ウルツ鉱型構造におけるC面、A面、R面、M面およびS面のいずれかの面とのなす角であるオフ角が、0.05°以上15°以下とすることができる。
【0012】
また、本発明は、上記のAlN結晶基板上にエピタキシャル成長により形成された1層以上のIII族窒化物層を有するエピタキシャル層付AlN結晶基板である。
【0013】
また、本発明は、上記のAlN結晶基板を含む半導体デバイスである。さらに、本発明は、AlN結晶基板における一方の主面側にエピタキシャル成長された3層以上の半導体層と、AlN結晶基板の他方の主面に形成された第1の電極と、半導体層の最外半導体層上に形成された第2の電極とを含む発光素子と、前記発光素子を搭載する導電体とを備え、上記発光素子は、前記AlN結晶基板側が発光面側であり、前記最外半導体層側が搭載面側であり、上記半導体層は、p型半導体層と、n型半導体層と、p型半導体層とn型半導体層との間に形成される発光層とを含む半導体デバイスである。
【発明の効果】
【0014】
上記のように、本発明によれば、効率よくAlN結晶にモフォロジーの良好な表面を形成することができ、半導体デバイスに用いることができるAlN結晶基板を効率的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法は、図1を参照して、AlN結晶の表面を機械研削または機械研磨する工程と、その表面をエッチングする工程とを含む。AlN結晶表面のCMPに替えて機械研削または機械研磨を行なうことにより、効率的にAlN結晶表面を平坦化することができる。さらに、このAlN結晶表面のエッチングを行なうことにより、機械研削または機械研磨によって形成された加工変質層および表面の傷もしくは凹凸を除去または低減することができる。
【0016】
ここで、機械研削とは、図1(a)を参照して、たとえば、砥粒をボンドで固めた砥石12を砥石台金13に固定してその回転軸13cを中心に回転させながら、結晶ホルダ11に固定されその回転軸11cを中心に回転しているAlN結晶1の表面に送り出すことにより、AlN結晶1の表面を削り取りながら平滑化することをいう。また、機械研磨とは、図1(b)を参照して、たとえば定盤15をその回転軸15cを中心に回転させながら、定盤15上に砥粒16を分散したスラリーを供給するとともに、AlN結晶1を固定した結晶ホルダ11上に重り14を載せてその回転軸11cを中心にして回転させながら、AlN結晶1を上記定盤15に押し当てることにより、AlN結晶の表面を平滑化することをいう。機械研磨において、砥粒を分散したスラリーを用いることに替えて、図示はしないが、上記砥粒をボンドで固めた砥石をAlN結晶に回転させながら押し当てることにより、AlN結晶の表面を研磨することも可能である。
【0017】
AlN結晶表面の機械研削または機械研磨において用いられる砥粒は、通常AlNより硬度の高い材質で形成される。AlNより硬度の高い材質としては、たとえば、ダイヤモンド、SiC、Si34、BN、Al23、Cr23およびZrO2などから選ばれる1以上の材質が好ましく挙げられる。また、上記の砥粒とともに、SiO2、CeO2、TiO2、MnO2、Fe34、Fe23、NiO、ZnO、Co34、CoO2、Cu2O、CuO、SnO2、GeO2、MgO、CaO、Ga23、In23などで形成される砥粒を併用することもできる。
【0018】
なお、砥粒は、単一の金属元素を含む酸化物に限定されず、2種類以上の金属元素を含む酸化物(たとえば、フェライト、ペロブスカイト、スピネルまたはイルメナイトなどの構造を有するもの)であってもよい。また、AlN、GaN、InNなどの窒化物、CaCO3、BaCO3などの炭酸化物、Fe、Cu、Ti、Niなどの金属、炭素(具体的には、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、C60など)を用いることもできる。
【0019】
また、AlN結晶表面の機械研削または機械研磨において用いられる砥石は、上記砥粒をボンドで固めたものが好ましい。ボンドには、特に制限はなく、メタルボンド、ビトリファイドボンド、レジンボンドのいずれのボンドが用いられていてもよい。機械研削または機械研磨において砥粒の粒径が小さい砥石を用いる場合は、砥石をドレッシングすることにより砥石の目詰まりを抑制することができる。ドレッシングは、機械研削または機械研磨と交互に行なってもよいし、機械研削または機械研磨と同時に行なってもよい。砥石のドレッシング方法には、電圧を印加してボンドを溶出させる方法の他、超音波の印加、砥石加工により機械的にボンドを除去する方法などがある。
【0020】
本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法におけるAlN結晶の表面を機械研削または機械研磨する工程において、砥粒径が6μm以下の砥粒または砥石を用いることが好ましい。砥粒径を小さくするほど機械研削または機械研磨によってAlN結晶に形成される加工変質層を薄くすることができ、砥粒径を6μm以下とすることにより、加工変質層の厚さを2000nm以下にすることが可能となる。かかる観点から、砥粒径を3μm以下とすることがより好ましい。
【0021】
ここで、実際の機械研削または機械研磨においては、研削または研磨の進行とともに砥粒または砥石の砥粒径を段階的に小さくしていくのが能率的である。このように、機械研削または機械研磨において砥粒径が段階的に小さくなる場合には、AlN結晶の最終的な表面状態は最終段階の砥粒径により決まることから、本願において砥粒または砥石の砥粒径とは、最終段階の機械研削または機械研磨において用いられた砥粒または砥石の砥粒径をいうものとする。
【0022】
本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法において、AlN結晶の表面を機械研削または機械研磨する工程後におけるAlN結晶の加工変質層の厚さを2000nm以下とすることが好ましい。加工変質層の厚さを2000nm以下とすることにより、AlN結晶上にモフォロジーの良好なエピタキシャル層(エピタキシャル成長によって形成された層をいう、以下同じ)を形成することが可能となる。
【0023】
本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法において、表面をエッチングする工程には、特に制限なく、ウェットエッチングおよびドライエッチングのいずれをも用いることができるが、エッチングのコストおよび生産性の観点からはウェットエッチングの方が好ましい。
【0024】
ウェットエッチングとは、液体である化学薬品を用いて、液相−固相界面における化学反応を利用して、固体であるAlN結晶の表面を溶解除去する方法の総称をいう。ウェットエッチングにおいては、エッチング剤として塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸、蟻酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸、KOH、NaOH、NH4OH、アミンなどの塩基を含む液体が好ましく用いられる。また、必要に応じてこれらの液体を混合して用いてもよい。さらに、これらの液体に、次亜塩素酸、ジクロロイソシアヌル酸、トリクロロイソシアヌル酸、過酸化水素酸、過マンガン酸カリウム、オゾンなどを添加してもよい。また、エッチングを促進させるために、上記エッチング剤の温度を上げること、超音波を印加することなどが有効である。
【0025】
ドライエッチングとは、液体を用いずに、ガス、プラズマ、イオンまたは光などによる気相−固相界面における化学的または物理的反応を利用して、固体であるAlN結晶の表面を除去する方法の総称をいう。ドライエッチングとしては、RIE(反応性イオンエッチング)、ICP(誘導結合プラズマ)−RIE、ECR(電子サイクロトロン共鳴)−RIE、CAIBE(化学アシストイオンビームエッチング)、RIBE(反応性イオンビームエッチング)などが挙げられる。また、MOCVD(有機金属気相成長)法においてAlN結晶にエピタキシャル成長をさせる前に、HClなどのガスを用いてエッチングすることも可能である。
【0026】
本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法において、表面をエッチングする工程後のAlN結晶の表面粗さRyを40nm以下とすることが好ましい。本願において、表面粗さRyとは、粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積としてとして10μm角(100μm2)だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から最も高い山頂までの高さと最も低い谷底までの深さとの和をいう。表面粗さRyを40nm以下とすることにより、すなわち結晶表面の最も大きい凹凸差または最も深い傷が40nm以下となるように平坦化することにより、AlN結晶上にモフォロジーの良好なエピタキシャル層を形成することが可能となる。かかる観点から、表面粗さRyを10nm以下とすることがより好ましい。
【0027】
また、本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法において、表面をエッチングする工程後のAlN結晶の表面粗さRaを4nm以下とすることが好ましい。本願において、表面粗さRaとは、粗さ曲面から、その平均面の方向に基準面積として10μm角(100μm2)だけ抜き取り、この抜き取り部分の平均面から測定曲面までの偏差の絶対値を合計してそれを基準面積で平均した値をいう。表面粗さRaを4nm以下とすることにより、すなわち結晶表面における凹凸差の平均値が4nm以下となるように平坦化することにより、AlN結晶上にモフォロジーの良好なエピタキシャル層を形成することが可能となる。かかる観点から、表面粗さRaを1nm以下とすることがより好ましい。
【0028】
また、本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法において、エッチング工程後におけるAlN結晶の表面酸化層の厚さは3nm以下であることが好ましい。ここで、表面酸下層の厚さは、エリプソメトリー、XPS(X線光電子分光法)、AES(オージェ電子分光法)またはRBS(ラザフォード後方散乱法)などにより評価することができる。AlN結晶のエッチング工程後の表面酸化層を3nm以下にすることにより、AlN結晶上にモフォロジーの良好なエピタキシャル層を形成することができる。かかる観点から、上記表面酸化層の厚さは2nm以下であることがより好ましい。
【0029】
また、上記エッチング工程後におけるAlN結晶表面の不純物の量については、原子番号が19以上の元素の原子は1×1012atoms/cm2以下、O(酸素)およびC(炭素)を除く原子番号が1から18までの元素の原子は1×1014atoms/cm2以下であることが好ましい。また、O原子およびC原子は、AlN結晶表面に存在する全元素の原子に対して、それぞれ40原子%以下であることが好ましい。AlN結晶表面におけるAl原子およびN原子は、AlN結晶表面に存在するAl原子およびN原子の和に対して、それぞれ40原子%〜60原子%であることが好ましい。ここで、原子番号が19以上の元素の原子ならびにOおよびCを除く原子番号が1から18までの元素の原子の量は、TXRF(全反射蛍光X線分析法)により評価することができる。O、C、AlおよびNの原子の量は、XPS、AESなどにより評価することができる。AlN結晶表面を上記の化学組成とすることにより、AlN結晶上にモフォロジーの良好なエピタキシャル層を形成することができる。
【0030】
本発明にかかるAlN結晶基板は、上記のAlN結晶の表面処理方法により得られたAlN結晶基板である。上記の表面処理方法により得られたAlN結晶基板は、加工変質層がないかまたはあっても薄く、表面が平坦化されているため、この上にモフォロジーの良好なエピタキシャル層を形成することができる。本発明にかかるAlN結晶基板は、具体的には、各種方法により成長させたAlN結晶を、必要に応じて所定の面に平行にスライスした後、上記の方法により機械研削または機械研磨し、その表面を上記の方法によりエッチングすることによって得られる。
【0031】
なお、上記AlN結晶の成長方法には特に制限はないが、大きなバルク状のAlN結晶を効率的に成長させる観点から、昇華法またはHVPE(ハライドまたはハイドライド気相エピタキシャル成長)法などの気相成長法が好ましく用いられる。
【0032】
上記のようにして得られたAlN結晶基板をさらに熱処理することが好ましい。かかる熱処理により、AlN結晶基板の表面粗さRyおよび表面粗さRaの値を低減することができる。この熱処理は、非酸化性雰囲気下、より好ましくは還元性雰囲気下(具体的には、N2ガス雰囲気下、NH3雰囲気下、H2雰囲気下など)で、900℃〜1100℃程度で行なうことが好ましい。
【0033】
上記AlN結晶基板の主面は、ウルツ鉱型構造におけるC面、A面、R面、M面およびS面のいずれかの面に平行であることが好ましい。ここで、C面とは{0001}面および{000−1}面を、A面とは{11−20}面およびその等価面を、R面とは{01−12}面およびその等価面を、M面とは{10−10}面およびその等価面を、S面とは{10−11}面およびその等価面を意味する。AlN結晶基板の主面がウルツ鉱型構造における上記各面に平行または平行に近い状態とすることにより、AlN結晶基板上にモフォロジーの良好なエピタキシャル層を形成しやすくなる。
【0034】
また、上記AlN結晶基板の主面と、ウルツ鉱型構造におけるC面、A面、R面、M面およびS面のいずれかの面とのなす角であるオフ角が、0.05°以上15°以下であることが好ましい。0.05°以上のオフ角を設けることによりAlN結晶基板上に形成するエピタキシャル層の欠陥を低減することができる。しかし、オフ角が15°を超えるとエピタキシャル層に階段状の段差ができやすくなる。かかる観点から、オフ角は、0.1°以上10°以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明にかかるエピタキシャル層付AlN結晶基板は、上記のAlN結晶基板上にエピタキシャル成長により形成された1層以上のIII族窒化物層を有する。上記のAlN結晶基板は、加工変質層がないかまたはあっても薄く、表面が平坦化されているため、この上にエピタキシャル成長させられたIII族窒化物層は良好なモフォロジーを有する。ここで、III族窒化物層には、特に制限がなく、たとえばAlxGayIn1-x-yN層(0≦x、0≦y、x+y≦1)などが挙げられる。また、III族窒化物層エピタキシャル成長をさせる方法にも、特に制限がなく、HVPE法、MBE(分子線エピタキシ)法、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法などが好ましく挙げられる。
【0036】
本発明にかかる半導体デバイスは、上記のAlN結晶基板を含む。上記のAlN結晶基板は、加工変質層がないかまたはあっても薄く、表面が平坦化されているため、このAlN結晶基板上にモフォロジーの良好なエピタキシャル層を形成して品質のよい半導体デバイスを形成することができる。本発明にかかる半導体デバイスとしては、発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光素子、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)などの電子素子、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器などの半導体センサ、SAWデバイス(Surface Acoustic Wave Device;表面弾性波素子)などが挙げられる。
【0037】
また、本発明にかかる半導体デバイスは、図2を参照して、上記のAlN結晶基板210を含む半導体デバイス200であって、AlN結晶基板210における一方の主面側にエピタキシャル成長された3層以上の半導体層250と、AlN結晶基板210の他方の主面に形成された第1の電極261と、半導体層250の最外半導体層上に形成された第2の電極262とを含む発光素子と、発光素子を搭載する導電体282とを備え、発光素子は、AlN結晶基板210側が発光面側であり、最外半導体層側が搭載面側であり、半導体層250は、p型半導体層230と、n型半導体層220と、p型半導体層230とn型半導体層220との間に形成される発光層240とを含む。上記構成を有することにより、AlN結晶基板面側を発光面側とする半導体デバイスを形成することができる。
【0038】
かかる半導体デバイスは、半導体層側が発光面側である半導体デバイスと比較して、発光層での発熱に対する放熱性に優れる。そのため、高電力で作動させても半導体デバイスの温度上昇が緩和され、高輝度の発光を得ることができる。また、サファイア基板などの絶縁性基板では、半導体層にn側電極およびp側電極の2種類の電極を形成する片面電極構造をとる必要があるが、本発明にかかる半導体デバイスは、半導体層とAlN結晶基板にそれぞれ電極を形成する両面電極構造をとることができ、半導体デバイスの主面の大部分を発光面とすることができる。さらに、半導体デバイスの実装の際に、ワイヤボンデイングが1回で足りるなど製造工程が簡略化できるなどの利点がある。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
本実施例は、昇華法で成長させたAlN結晶の表面を、機械研削し、さらにエッチングすることにより処理する場合の実施例である。
【0040】
(1−1)AlN結晶の作製
AlN種結晶(直径50mm×厚さ1.5mm)のAl原子面側のC面((0001)面)上に、昇華法により以下のようにしてAlN結晶を成長させた。
【0041】
図3を参照して、BN製の坩堝32の下部にAlN粉末などのAlN原料5を収納し、内径48mmの坩堝32の上部にAlN種結晶9を配置した。AlN種結晶9は平坦に加工されており、このAlN種結晶9の裏面に種結晶保護材33であるBN材が密着するように配置して、AlN種結晶9の裏面からのAlNの昇華を防止した。
【0042】
次に、反応容器31内にN2ガスを流しながら、高周波加熱コイル35を用いて加熱体34を加熱することにより、坩堝32内の温度を上昇させた。坩堝32内の昇温中は、坩堝32のAlN種結晶9側の温度をAlN原料5側の温度よりも高くして、昇温中にAlN種結晶9の表面をエッチングにより清浄するとともに、昇温中にAlN種結晶9および坩堝32内部から放出された不純物を、坩堝32に設けた排気口32cを通じて除去した。
【0043】
次に、坩堝32のAlN種結晶9側の温度を2100℃、AlN原料5側の温度を2150℃にして、AlN原料5からAlNを昇華させて、坩堝32の上部に配置されたAlN種結晶9上で、AlNを再度固化させてAlN結晶1を成長させた。AlN結晶成長中も、反応容器31内の坩堝32の外側にN2ガスを流し続け、反応容器31内の坩堝32の外側のガス分圧が101.3hPa〜1013hPa程度になるように、N2ガス導入口31aにおけるN2ガス導入量とN2ガス排気口31cにおけるN2ガス排気量とを制御した。上記の結晶成長条件で50時間AlN結晶を成長させた後、室温(25℃)まで冷却して、AlN結晶を得た。
【0044】
得られたAlN結晶は、結晶の外周部において多結晶化が見られたが、結晶の中心から直径42mmの範囲内ではX線回折の半値幅は200arcsec以下であり、半導体デバイスの基板として使用可能なAlN単結晶であった。このAlN結晶の厚さは、厚い部分で7.5mm、薄い部分で4.5mmであった。
【0045】
次に、得られた上記のAlN結晶を、AlN種結晶9の(0001)面と平行な面でスライスし、また多結晶化した外周部を取り除き、直径42mm×厚さ1.5mmのAlN結晶基板を得た。
【0046】
(1−2)AlN結晶表面基板の機械研削
図1(a)を参照して、上記AlN結晶基板のN原子面側のC面をセラミックス製の結晶ホルダ11にワックスで貼り付けた。研削機としては、インフィード型のものを用いた。砥石12は、外径80mm×幅5mmのリング形状をした、ビトリファイドボンドのダイヤモンド砥石を用いた。AlN結晶1を結晶ホルダ11に固定してその回転軸11cを中心にして回転させるとともに、砥石12を砥石台金13に固定してその回転軸12cを中心にして回転させながら、砥石12をAlN結晶の表面に送り込むことによってAlN結晶の表面の機械研削を行なった。砥粒径が15μm、5μm、3μm、2μmの4種類のダイヤモンド砥石を準備し、機械研削の進行とともに、砥粒径を段階的に小さくしていった。本実施例においては、砥粒径が15μm、5μmの2種類のダイヤモンド砥石を、砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いた。砥粒径が15μmの砥石で研削した後のAlN結晶基板の表面には研削による傷と表面の破砕による深さ100nm以上の穴が見られたが、砥粒径が5μmの砥石で研削した後のAlN結晶基板の表面には研削による傷が低減し、表面の破砕による深さ100nm以上の穴は見られなかった。また、砥粒径が3μmまたは2μmの砥石で研削した後のAlN結晶基板の表面には研削による傷および表面の破砕による深さ100nm以上の穴はいずれも見られなかった。
【0047】
この機械研削後のAlN結晶基板の断面からTEM(透過型電子顕微鏡)により観察した加工変質層1aの厚さは、2000nmであり、AlN結晶基板の10μm角の範囲内におけるAFM(原子間力顕微鏡)により観察した表面粗さRyは35nm、表面粗さRaは3.3nmであった。ここで、加工変質層とは、結晶表面の研削または研磨によって結晶の表面側領域に形成される結晶格子が乱れた層をいい、TEM観察によりその層の存在およびその厚さを確認できる。
【0048】
(1−3)AlN結晶基板表面のエッチング
上記機械研削後のAlN結晶基板を、2規定濃度のKOH水溶液に浸漬し、液温を50℃に保持した後、このAlN結晶基板を取り出して、水洗いした。このエッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは40nm、表面粗さRaは4nmであった。
【0049】
(1−4)AlN結晶基板上へのエピタキシャル層の形成
上記エッチング後のAlN結晶基板をMOCVD装置内に設置し、NH3ガスを1slm(標準状態のガスが1分間に1リットル流れる流量の単位をいう、以下同じ)流しながら1000℃まで昇温した後、HN3ガスを0.5slm〜5slm流しながら1000℃で10分間保持することによって、AlN結晶基板の熱処理を行なった。
【0050】
その後、1000℃で、流量が2slmのTMA(トリメチルアルミニウム、以下同じ)ガスを30分間流すことにより、AlN結晶基板上に、エピタキシャル層として厚さが1μmのAlN層を形成した。
【0051】
このエピタキシャル層の表面粗さRyは18nm、表面粗さRaは2.0nmであった。結果を表1にまとめた。
【0052】
(実施例2)
機械研削において、砥粒径が15μm、5μm、3μmの2種類のダイヤモンド砥石を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと以外は、実施例1と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研削およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。
【0053】
機械研削後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは800nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは12nm、表面粗さRaは1.1nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは15nm、表面粗さRaは1.4nmであった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは7.2nm、表面粗さRaは0.71nmであった。結果を表1にまとめた。
【0054】
(実施例3)
機械研削において、砥粒径が15μm、5μm、3μm、2μmの4種類のダイヤモンド砥石を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと、エッチングにおいて、機械研削後のAlN結晶基板を、2規定濃度の硝酸水溶液に浸漬し、液温を75℃に保持したこと以外は、実施例1と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研削およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。結果を表1にまとめた。
【0055】
機械研削後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは500nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは7.3nm、表面粗さRaは0.82nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは9.2nm、表面粗さRaは1.1nmであった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは4.3nm、表面粗さRaは0.50nmであった。結果を表1にまとめた。
【0056】
(実施例4)
機械研削において、砥粒径が15μm、5μm、3μmの3種類のダイヤモンド砥石を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと、また、最終段階に用いたダイヤモンド砥石には砥粒径1μmのFe23が混合質量比は、ダイヤモンド:Fe23=80:20)されていたこと以外は、実施例1と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研削およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。
【0057】
機械研削後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは500nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは8.5nm、表面粗さRaは0.73nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは10nm、表面粗さRaは0.88nmであった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは5.2nm、表面粗さRaは0.42nmであった。結果を表1にまとめた。
【0058】
(実施例5)
機械研削において、砥粒径が15μm、5μm、3μmの3種類のダイヤモンド砥石を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと、エッチングにおいて、RIEによるドライエッチングを行なった以外は、実施例1と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研削およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。本実施例におけるドライエッチングは、平行平板式のRIE装置を用いてエッチングガスとしてCl2ガスとBCl3ガスを使用した。Cl2ガス流量は25sccm(標準状態のガスが1分間に1cm3流れる流量の単位をいう、以下同じ)、BCl3ガス流量は25sccm、圧力は2.66Pa、RFパワーは200Wであった。
【0059】
機械研削後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは800nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは9.6nm、表面粗さRaは0.94nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは11nm、表面粗さRaは1.2nmであった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは6.7nm、表面粗さRaは0.45nmであった。結果を表1にまとめた。
【0060】
(比較例1)
実施例1と同様にして機械研削をした後、エッチングを行なうことなく、AlN結晶基板上に実施例1と同様にしてエピタキシャル層を形成した。機械研削後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは2000nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは35nm、表面粗さRaは3.2nmであった。また、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層は白濁し、その表面粗さRyは100nmを超え、表面粗さRaは10nmを超えていた。結果を表1にまとめた。
【0061】
【表1】

【0062】
表1より明らかなように、AlN結晶を、その加工変質層の厚さが2000nm以下になるように機械研削した後、その表面粗さRyが40nm以下および/またはその表面粗さRaが4nm以下になるようにエッチングを行なうことにより、モフォロジーの良好なエピタキシャル層が得られた。特に、機械研削において、最終段階に用いられるダイヤモンド砥石の砥粒径を2μm、または砥粒径1μmのFe23砥粒が混合された砥粒径3μmのダイヤモンド砥石を用いることによって、機械研削後におけるAlN結晶の加工変質層の厚さが500nmとなった。なお、この場合には、1000℃で5分間の熱処理により、平坦なエピタキシャル層の形成が可能となった。
【0063】
(実施例6)
本実施例は、HVPE法で成長させたAlN結晶の表面を、機械研磨し、さらにエッチングすることにより処理する場合の実施例である。
【0064】
(2−1)AlN結晶の作製
AlN種結晶(直径50mm×厚さ0.5mm)のAl原子面側のC面((0001)面)上に、HVPE法により以下のようにしてAlN結晶を成長させた。
【0065】
図4を参照して、反応容器41内のペディスタル42上にAlN種結晶9を配置し、反応容器41に、Al原料ガス導入口41aからAl原料ガス7としてAlClガスまたはAlCl3ガスを、窒素原料ガス導入口41bから窒素原料ガス8としてNH3ガスを導入した。III族元素原料ガスおよび窒素原料ガスのキャリアガスとしてN2ガスを用いた。AlClガスまたはAlCl3ガスとNH3ガスとの比(モル比)を1:100、AlN種結晶の温度を1000℃として、AlN結晶の成長速度が20μm/hrとなるように調整して、上記AlN種結晶9上に厚さ5mmのAlN結晶1を成長させた。
【0066】
次に、得られた上記のAlN結晶を、AlN種結晶9の(0001)面と平行な面でスライスし、直径50mm×厚さ0.5mmのAlN結晶基板を得た。
【0067】
(2−2)AlN結晶表面基板の機械研磨
図1(b)を参照して、AlN結晶基板1のN原子面側のC面((000−1)面)をセラミックス製の結晶ホルダ11にワックスで貼り付けた。ラップ装置(図示せず)に直径300mmの定盤15を設置し、ダイヤモンドの砥粒16が分散されたスラリーを定盤15に供給しながら、定盤15をその回転軸15cを中心にして回転させるとともに、結晶ホルダ11上に重り14を載せることによりAlN結晶基板1を定盤15に押し付けながら、AlN結晶基板1を結晶ホルダ11の回転軸11cを中心にして回転させることにより、AlN結晶の表面の機械研磨を行なった。ここで、定盤15としては銅定盤または錫定盤を用いた。砥粒径が6μm、3μm、2μm、0.5μmの4種類のダイヤモンド砥粒を準備し、機械研磨の進行とともに、砥粒径を段階的に小さくしていった。本実施例においては、砥粒径が6μmの砥粒を用いた。研磨圧力は100g/cm2〜500g/cm2とし、AlN結晶1および定盤15の回転数はいずれも30rpm〜100rpmとした。
【0068】
この機械研磨後におけるAlN結晶基板の加工変質層1aの厚さは、2000nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは34nm、表面粗さRaは3.2nmであった。
【0069】
(2−3)AlN結晶基板表面のエッチング
上記機械研磨後のAlN結晶基板を、2規定濃度のKOH水溶液に浸漬し、液温を50℃に保持した後、このAlN結晶基板を取り出して、水洗いした。このエッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは40nm、表面粗さRaは4.0nmであった。
【0070】
(2−4)AlN結晶基板上へのエピタキシャル層の形成
上記エッチング後のAlN結晶基板をMOCVD装置内に設置し、NH3ガスを1slm流しながら1000℃まで昇温した後、NH3ガスを0.5slm〜5slm流しながら1000℃で10分間保持することによって、AlN結晶基板の熱処理を行なった。
【0071】
その後、1000℃で、流量が2slmのTMAガスを30分間流すことにより、AlN結晶基板上に、エピタキシャル層として厚さが1μmのAlN層を形成した。このエピタキシャル層の表面粗さRyは19nm、表面粗さRaは2.0nmであった。結果を表2にまとめた。
【0072】
(実施例7)
機械研磨において、砥粒径が6μm、3μmの2種類のダイヤモンド砥粒を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと以外は、実施例6と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研磨およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。
【0073】
機械研磨後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは800nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは14nm、表面粗さRaは1.3nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは18nm、表面粗さRaは1.8nmであった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは9.2nm、表面粗さRaは0.89nmであった。
【0074】
(実施例8)
機械研磨において、砥粒径が6μm、3μm、2μmの3種類のダイヤモンド砥粒を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと、エッチングにおいて、機械研磨後のAlN結晶基板を、2規定濃度の硝酸水溶液に浸漬し、液温を70℃に保持したこと以外は、実施例6と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研磨およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。
【0075】
機械研磨後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは500nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは7.9nm、表面粗さRaは0.82nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは10nm、表面粗さRaは1.1nmであった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは5.5nm、表面粗さRaは0.51nmであった。
【0076】
(実施例9)
機械研磨において、砥粒径が6μm、3μmの2種類のSiC砥粒を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと、定盤15に替えて不織布に樹脂を含浸させた研磨パッドを用いたこと以外は、実施例6と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研磨およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。
【0077】
機械研磨後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは500nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは7.2nm、表面粗さRaは0.74nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは9.4nm、表面粗さRaは0.96nmであった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは4.8nm、表面粗さRaは0.46nmであった。
【0078】
(実施例10)
機械研磨において、砥粒径が6μm、3μm、2μm、0.5μmの4種類のダイヤモンド砥粒を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと、エッチングにおいて、機械研磨後のAlN結晶基板を、2規定濃度の硝酸水溶液に浸漬し、液温を70℃に保持したこと以外は、実施例6と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研磨およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。
【0079】
機械研磨後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは200nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは4.2nm、表面粗さRaは0.41nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは5.0nm、表面粗さRaは0.52nmであった。エッチング後におけるAlN結晶基板の表面酸化層の厚さは2nmであり、このAlN結晶基板表面におけるAl原子とN原子の比率はそれぞれ50原子%と50原子%であった。ここで、表面酸下層の厚さおよびAl原子とN原子との比率の評価は、XPSにより行なった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは2.9nm、表面粗さRaは0.28nmであった。
【0080】
(実施例11)
機械研磨において、砥粒径が6μm、3μmの2種類のダイヤモンド砥粒を砥粒径の粗いものから細かいものを段階的に用いたこと、エッチングにおいて、RIEによるドライエッチングを行なった以外は、実施例6と同様にして、AlN結晶基板の表面の機械研磨およびエッチングを行なった後、そのAlN結晶基板上にエピタキシャル層を形成した。本実施例におけるドライエッチングは、平行平板式のRIE装置を用いてエッチングガスとしてCl2ガスとBCl3ガスを使用した。Cl2ガス流量は25sccm、BCl3ガス流量は25sccm、圧力は2.66Pa、RFパワーは200Wであった。
【0081】
機械研削後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは800nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは14nm、表面粗さRaは1.3nmであった。また、エッチング後のAlN結晶基板の表面粗さRyは16nm、表面粗さRaは1.5nmであった。さらに、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層の表面粗さRyは8.3nm、表面粗さRaは0.72nmであった。
【0082】
(比較例2)
実施例6と同様にして機械研磨をした後、エッチングを行なうことなく、AlN結晶基板上に実施例6と同様にしてエピタキシャル層を形成した。機械研磨後におけるAlN結晶基板の加工変質層の厚さは2000nmであり、AlN結晶基板の表面粗さRyは34nm、表面粗さRaは3.1nmであった。また、AlN結晶基板上に形成されたエピタキシャル層は白濁し、その表面粗さRyは100nmを超え、表面粗さRaは10nmを超えていた。
【0083】
【表2】

【0084】
表2より明らかなように、AlN結晶を、その加工変質層の厚さが2000nm以下になるように機械研磨した後、その表面粗さRyが40nm以下および/またはその表面粗さRaが4nm以下になるようにエッチングを行なうことにより、モフォロジーの良好なエピタキシャル層が得られた。特に、機械研磨において、最終段階に用いられるダイヤモンド砥粒の砥粒径を2μm以下、またはSiC砥の砥粒径を3μmとすることによって、機械研磨後におけるAlN結晶の加工変質層の厚さが500nm以下となった。なお、この場合には、1000℃で5分間の熱処理により、平坦なエピタキシャル層の形成が可能となった。
【0085】
(実施例12)
HVPE法によりAlN結晶を成長させる際に、SiをAlN結晶にドーピングしてn型のAlN結晶を得た。得られたn型のAlN結晶を、実施例8と同様にして、機械研磨、エッチングを行い、n型のAlN結晶基板を得た。
【0086】
次に、図2を参照して、このn型のAlN結晶基板210の一方の主面上に、MOCVD法により、n型半導体層220としての厚さ1μmのn型AlN層221(ドーパント:Si)および厚さ1μmのn型Al0.3Ga0.7N層222(ドーパント:Si)、発光層240、p型半導体層230としての厚さ50nmのp型Al0.3Ga0.7N層231(ドーパント:Mg)および厚さ150nmのp型Al0.2Ga0.8N層232(ドーパント:Mg)を順次形成して、半導体デバイスとしての発光素子を得た。ここで、発光層240は、厚さ10nmのAl0.25Ga0.70In0.05N層で形成される障壁層の6層と、厚さ10nmのAl0.20Ga0.75In0.05N層で形成される井戸層の5層とが交互に積層された多重量子井戸構造とした。
【0087】
次に、n型のAlN結晶基板の他方の主面上に第1の電極261として、厚さ200nmのTi層、厚さ1000nmのAl層、厚さ200nmのTi層、厚さ2000nmのAu層から形成される積層構造を形成し、窒素雰囲気中で加熱することにより、n側電極を形成した。一方、p型Al0.2Ga0.8N層232上に第2の電極262として、厚さ4nmのNi層、厚さ4nmのAu層から形成される積層構造を形成し、不活性ガス雰囲気中で加熱することにより、p側電極を形成した。上記積層体をチップ化した後に、上記p側電極をAuSnで形成されたはんだ層270で導電体282にボンディングした。さらに、上記n側電極と導電体281とをワイヤ290でボンディングして、発光装置としての半導体デバイス400を得た。
【0088】
このようにして、AlN結晶基板210側が発光面側であり、半導体層250の最外半導体層であるp型Al0.2Ga0.8N層232側が導電体282への搭載面側である発光装置が得られる。また、分光器を用いてこの発光装置の発光スペクトルを測定したところ330nmにピーク波長を有していた。
【0089】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明にかかるAlN結晶の表面処理方法を示す断面模式図である。ここで、(a)はAlN結晶の表面を機械研削する工程を示し、(b)はAlN結晶の表面を機械研磨する工程を示し、(c)はAlN結晶の表面をエッチングする工程を示す。
【図2】本発明にかかる一の半導体デバイスを示す断面模式図である。
【図3】本発明において、昇華法によりAlN結晶を成長させる昇華炉を示す模式図である。
【図4】本発明において、HVPE法によりAlN結晶を成長させるHVPE装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0091】
1 AlN結晶、1a 加工変質層、5 AlN原料、7 Al原料ガス、8 窒素原料ガス、9 AlN種結晶、11 結晶ホルダ、11c,13c,15c 回転軸、12 砥石、13 砥石台金、14 重り、15 定盤、16 砥粒、17 エッチング、30 昇華炉、31,41 反応容器、31a N2ガス導入口、31c N2ガス排気口、32 坩堝、33 種結晶保護材、34 加熱体、35 高周波加熱コイル、36 放射温度計、40 HVPE装置、41a Al原料ガス導入口、41b 窒素原料ガス導入口、42 ペディスタル、45 ヒータ、200 半導体デバイス、210 AlN結晶基板、220 n型半導体層、221 n型AlN層、222 n型Al0.3Ga0.7N層、230 p型半導体層、231 p型Al0.3Ga0.7N層、232 p型Al0.2Ga0.8N層、240 発光層、250 半導体層、261 第1の電極、262 第2の電極、270 はんだ層、281,282 導電体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlN結晶の表面を機械研削または機械研磨する工程と、前記表面をエッチングする工程とを含むAlN結晶の表面処理方法。
【請求項2】
前記表面を機械研削または機械研磨する工程において、砥粒径が6μm以下の砥粒または砥石を用いる請求項1に記載のAlN結晶の表面処理方法。
【請求項3】
前記表面を機械研削または機械研磨する工程後におけるAlN結晶の加工変質層の厚さが2000nm以下である請求項1または請求項2に記載のAlN結晶の表面処理方法。
【請求項4】
前記表面をエッチングする工程をウェットエッチングにより行なう請求項1から請求項3のいずれかに記載のAlN結晶の表面処理方法。
【請求項5】
前記表面をエッチングする工程後のAlN結晶の表面粗さRyが40nm以下である請求項1から請求項4のいずれかに記載のAlN結晶の表面処理方法。
【請求項6】
前記表面をエッチングする工程後のAlN結晶の表面粗さRaが4nm以下である請求項1から請求項5のいずれかに記載のAlN結晶の表面処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のAlN結晶の表面処理方法により得られたAlN結晶基板。
【請求項8】
請求項7に記載のAlN結晶基板を熱処理して得られたAlN結晶基板。
【請求項9】
前記AlN結晶基板の主面が、ウルツ鉱型構造におけるC面、A面、R面、M面およびS面のいずれかの面に平行である請求項7または請求項8に記載のAlN結晶基板。
【請求項10】
前記AlN結晶基板の主面と、ウルツ鉱型構造におけるC面、A面、R面、M面およびS面のいずれかの面とのなす角であるオフ角が、0.05°以上15°以下である請求項7に記載のAlN結晶基板。
【請求項11】
請求項7から請求項10のいずれかに記載のAlN結晶基板上にエピタキシャル成長により形成された1層以上のIII族窒化物層を有するエピタキシャル層付AlN結晶基板。
【請求項12】
請求項7から請求項10のいずれかに記載のAlN結晶基板を含む半導体デバイス。
【請求項13】
請求項7から請求項10のいずれかに記載のAlN結晶基板を含む半導体デバイスであって、
前記AlN結晶基板における一方の主面側にエピタキシャル成長された3層以上の半導体層と、前記AlN結晶基板の他方の主面に形成された第1の電極と、前記半導体層の最外半導体層上に形成された第2の電極とを含む発光素子と、前記発光素子を搭載する導電体とを備え、
前記発光素子は、前記AlN結晶基板側が発光面側であり、前記最外半導体層側が搭載面側であり、
前記半導体層は、p型半導体層と、n型半導体層と、前記p型半導体層と前記n型半導体層との間に形成される発光層とを含む半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−60069(P2006−60069A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241232(P2004−241232)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】