説明

CR発振回路およびその周波数補正方法

【課題】基準周波数信号を用いることなく、温度変動、電源電圧変動および回路定数のばらつきにかかわらず高精度な発振周波数を得る。
【解決手段】出荷検査時において、発振動作の環境温度と電源電圧を変化させながら発振周波数が目標周波数に一致するのに必要な抵抗5の抵抗値を順次求め、環境温度と電源電圧に対して当該抵抗値を対応付けたデータテーブルをメモリ18に記憶する。CR発振回路の実際の使用状態では、制御回路17は、所定の制御周期ごとに温度検出回路15と電源電圧検出回路16から電圧Va、Vbを入力しA/D変換する。メモリ18に予め記憶されたデータテーブルから電圧Va、Vbに対応した抵抗5の抵抗値を読み出し、抵抗5の抵抗値Rが当該読み出した指定値に等しくなるようにスイッチ7a〜7cを切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサの容量値と抵抗の抵抗値とに基づいて定まる周波数で発振するCR発振回路およびその周波数補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度が変化するとコンデンサの容量値および抵抗の抵抗値が変化するので、CR発振回路の発振周波数は温度変動特性を持つ。また、発振動作に用いる電源電圧が変動しても、例えばコンデンサへの充電電流が影響を受けるので発振周波数が変動する。そこで、従来から温度変動または電源電圧変動に対する発振周波数のずれを補償するCR発振回路が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載されたCR発振回路は、発振周波数と外部から入力した基準周波数とを比較し、発振周波数が基準周波数に対し予め規定された許容周波数の範囲内にあるか範囲外にあるかに基づいて抵抗値を変更する構成を備えている。また、特許文献2に記載されたCR発振回路は、電源電圧を検出し、その検出電圧に応じて抵抗値を変更する構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−140929号公報
【特許文献2】特開昭58−63824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたCR発振回路は、発振周波数のずれの有無および程度を検出するために正確な周波数を持つ基準周波数信号が必要になる。しかしながら、CR発振回路と基準周波数発振回路をともに設けることは冗長な構成となり、基準周波数発振回路を備えた他の装置からハーネスを介して基準周波数信号を入力することはノイズに対し極端に弱い構成となる。また、上記特許文献2に記載されたCR発振回路は、予め決められた電源電圧と抵抗値との間の固定的な関係を有しているので、例えば抵抗値のばらつきを原因とする発振周波数のずれが生じ易い。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、基準周波数信号を用いることなく、温度変動、電源電圧変動および回路定数のばらつきにかかわらず高精度な発振周波数が得られるCR発振回路およびその周波数補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した手段は、コンデンサと抵抗を備え、電源電圧の供給を受けてコンデンサの容量値と抵抗の抵抗値とに基づいて定まる周波数で発振するCR発振回路である。コンデンサと抵抗の少なくとも一方は、相異なる複数の容量値または抵抗値の中から指定された値に変更可能に構成されており、発振動作の環境温度を検出する温度検出回路、電源電圧を検出する電源電圧検出回路、不揮発性の記憶手段および制御回路を備えている。
【0008】
CR発振回路を使用するのに先立って、記憶手段には、発振動作の環境温度と電源電圧に対してコンデンサの容量値および/または抵抗の抵抗値が対応付けられたデータテーブルが書き込まれる。制御回路は、所定の制御周期で温度検出回路と電源電圧検出回路からそれぞれ検出温度と検出電圧を取得し、記憶手段に予め記憶されたデータテーブルから当該検出温度と検出電圧に対応したコンデンサの容量値および/または抵抗の抵抗値を読み出し、コンデンサの容量値および/または抵抗の抵抗値が当該読み出した指定値に等しくなるように制御する。
【0009】
本手段によれば、発振動作の環境温度と電源電圧を変化させながら発振周波数が目標の発振周波数に一致するのに必要なコンデンサの容量値および/または抵抗の抵抗値を順次求め、環境温度と電源電圧に対して当該容量値および/または抵抗値を対応付けたデータテーブルを予め記憶しておくことができる。この事前設定により、CR発振回路の実際の使用状態では、環境温度と電源電圧が変動しても、コンデンサ、抵抗その他の回路部品の定数ばらつきまで含めて、発振周波数を目標周波数に高精度に一致させることができる。本構成では基準周波数信号は不要である。
【0010】
請求項2に記載した手段によれば、抵抗は、抵抗素子とスイッチとの並列回路を複数直列接続して構成されている。制御回路は、記憶手段のデータテーブルから読み出した抵抗値に応じてスイッチを切り替えることにより、実際の抵抗値を読み出した抵抗値に等しく設定する。
【0011】
請求項3に記載した手段によれば、複数の抵抗素子は、2のべき乗により重み付けされた抵抗値を有している。スイッチが並列に接続された抵抗素子の数をnとした場合、抵抗は相異なる2通りの抵抗値を設定することができる。
【0012】
請求項4に記載した手段によれば、コンデンサは、コンデンサ素子とスイッチとの直列回路を複数並列接続して構成されている。制御回路は、記憶手段のデータテーブルから読み出した容量値に応じてスイッチを切り替えることにより、実際の容量値を読み出した容量値に等しく設定する。
【0013】
請求項5に記載した手段によれば、複数のコンデンサ素子は、2のべき乗により重み付けされた容量値を有している。スイッチが直列に接続されたコンデンサ素子の数をnとした場合、コンデンサは相異なる2通りの容量値を設定することができる。
【0014】
請求項6に記載した手段によれば、制御回路は、温度検出回路と電源電圧検出回路から取得した検出温度と検出電圧に対し、それぞれ前回の制御周期で読み出した容量値および/または抵抗値に対応する検出温度と検出電圧から所定の範囲内となるように制限を加える。その上で、記憶手段のデータテーブルから、当該制限を加えた検出温度と検出電圧に対応したコンデンサの容量値および/または抵抗の抵抗値を読み出す。
【0015】
この構成によれば、温度検出回路から取得した検出温度または電源電圧検出回路から取得した検出温度の急激な変化が制限されるので、発振周波数の急激な変化を防止できる。また、ノイズの侵入などにより、検出温度または検出電圧が制御周期の間に通常生じ得る最大変化量を超えて変化した場合、その変化が制限されるので、発振周波数が目標周波数から大きく外れることを防止できる。
【0016】
請求項7に記載した手段は、電源電圧の供給を受けてコンデンサの容量値と抵抗の抵抗値とに基づいて定まる周波数で発振するCR発振回路の周波数補正方法である。CR発振回路は、コンデンサと抵抗の少なくとも一方を、指定された容量値または抵抗値に変更可能に構成されている。例えば検査工程において、発振動作の環境温度と電源電圧を変化させながら発振周波数が目標周波数に一致するのに必要なコンデンサの容量値および/または抵抗の抵抗値を順次求め、環境温度と電源電圧に対して当該容量値および/または抵抗値を対応付けたデータテーブルを予め記憶する。
【0017】
出荷後のCR発振回路の実際の使用状態では、所定の制御周期で発振動作の環境温度と電源電圧を検出し、記憶したデータテーブルから当該検出温度と検出電圧に対応したコンデンサの容量値および/または抵抗の抵抗値を読み出し、コンデンサの容量値および/または抵抗の抵抗値が当該読み出した値に等しくなるように制御する。本手段によれば、CR発振回路の実際の使用状態で環境温度と電源電圧が変動しても、コンデンサ、抵抗その他の回路部品の定数ばらつきまで含めて、発振周波数を目標周波数に高精度に一致させることができる。本方法では基準周波数信号は不要となる。
【0018】
請求項8に記載した手段によれば、予め相異なる複数の目標発振周波数に対してそれぞれデータテーブルを作成して記憶し、その後の使用状態では、必要とする目標発振周波数に応じて読み出しに用いるデータテーブルを切り替える。これにより、1つのCR発振回路を複数の周波数で発振させることができる。
【0019】
請求項9に記載した手段によれば、発振信号をクロック信号などとして利用する装置の複数の相異なる動作モードで用いる目標発振周波数に対してそれぞれデータテーブルを作成して記憶し、その後の使用状態では、動作モードに応じて読み出しに用いるデータテーブルを切り替える。これにより、1つのCR発振回路を各動作モードに適した種々の周波数で発振させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すCR発振回路の構成図
【図2】コンデンサ電圧Vcの波形図
【図3】抵抗値の選択に用いるデータテーブルを示す図
【図4】本発明の第2の実施形態を示す図1相当図
【図5】容量値の選択に用いるデータテーブルを示す図
【図6】本発明の第3の実施形態を示す図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0021】
各実施形態において実質的に同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図1ないし図3を参照しながら説明する。図1はCR発振回路の構成図である。このCR発振回路1は、例えば車両の電子制御装置に搭載された半導体装置に組み込まれており、電源線2、3から電源電圧Vcc(例えば5V)の供給を受けて動作する。
【0022】
電源線2と3の間には、MOSトランジスタ4、20と抵抗5とが直列に接続されている。抵抗5は、抵抗素子6aとスイッチ7aとの並列回路、抵抗素子6bとスイッチ7bとの並列回路、抵抗素子6cとスイッチ7cとの並列回路および抵抗素子6dを直列接続して構成されている。ここで、抵抗素子6a、6b、6cの抵抗値は、2のべき乗に従ってr、2r、4rに設定されている。並列にスイッチを持たない抵抗素子6dは抵抗5の構成に必ず残るため、抵抗素子6dの抵抗値は発振周波数の上限値を決定する。スイッチ7a〜7cのオンオフ状態により8通りの異なる抵抗値が生成される。
【0023】
オペアンプ8は、上記MOSトランジスタ20および抵抗5とともに定電流回路を構成している。非反転入力端子には基準電圧Vrefが入力され、反転入力端子はMOSトランジスタ20のソース(抵抗5の高電位側端子;ノードNa)に接続されている。オペアンプ8の作用により抵抗5には基準電圧Vr(≒Vref)が印加される。このため、スイッチ7a〜7cを切り替えて抵抗5の抵抗値Rを変更すると、MOSトランジスタ20に流れる電流は抵抗値Rに反比例して変化する。
【0024】
電源線2と3の間には、充電用のMOSトランジスタ9とスイッチ10とコンデンサ11が直列に接続されている。MOSトランジスタ4と9のゲートとソースはそれぞれ共通に接続されてカレントミラー回路を構成している。MOSトランジスタ9には、トランジスタ4と9のサイズW/Lの比に応じてMOSトランジスタ4(MOSトランジスタ20)に流れる電流に比例した電流が流れる。コンデンサ11には放電用のMOSトランジスタ12が並列に接続されている。
【0025】
コンパレータ13は、コンデンサ11の電圧VcとノードNaの電圧Vrとを比較して発振信号である出力電圧Voを出力する。この出力電圧VoはMOSトランジスタ12のゲートに与えられるとともに、インバータ14を介してスイッチ10のオンオフを制御する。スイッチ10は、放電用のMOSトランジスタ12がオンしている期間、インバータ14からのLレベルの信号により充電用のMOSトランジスタ9からの電流を遮断するために設けられている。
【0026】
ここで、電圧Vcとの比較に基準電圧VrefではなくノードNaの電圧Vrを用いたのは、オペアンプ8の差動増幅回路におけるミスマッチが発振周波数に及ぼす影響を排除するためである。例えばMOSトランジスタ4と9に流れる電流が等しい場合、コンデンサ11の充電電流Icは(1)式となり、発振信号の周期Tは(2)式となる。
Ic=Vr/R …(1)
T=Vr/(Ic/C)=(Vr・C)/Ic …(2)
【0027】
(2)式に(1)式を代入すると発振信号の周期Tは(3)式となり、発振周期T(=1/発振周波数)は定数CRによって定まる。
T=(Vr・C)/(Vr/R)=CR …(3)
【0028】
これに対し、電圧Vcとの比較に基準電圧Vrefを用いると、発振信号の周期Tは(4)式となり、これに(1)式を代入すると(5)式となる。
T=Vref/(Ic/C)=(Vref・C)/Ic …(4)
T=(Vref・C)/(Vr/R)=(Vref/Vr)・CR …(5)
【0029】
(Vref/Vr)の項は上述したミスマッチにより1からずれるため、発振周波数を決める要素として定数CR以外の要素が入り込む。従って、本実施形態では電圧Vcとの比較にノードNaの電圧Vrを用いている。
【0030】
温度検出回路15は、電源線2、3間に直列に接続された抵抗15a、ダイオード15b、15c、15dから構成されており、温度によって変化するダイオード15b〜15dの順方向電圧Vaを出力する。電源電圧検出回路16は、電源線2、3間に直列に接続された抵抗16a、16bから構成されており、電源電圧Vccを所定比で分圧した電圧Vbを出力する。
【0031】
制御回路17は、CR発振回路1が自ら出力する発振信号(出力電圧Vo)を入力し、それを波形整形してクロック信号として動作する。制御回路17は、不揮発性のメモリ18(記憶手段)とA/D変換回路19を備えている。上述したオペアンプ8、コンパレータ13、インバータ14および制御回路17は、電源電圧Vccの供給を受けて動作する。
【0032】
次に、図2を参照しながらCR発振回路1の発振動作を説明する。図2は、コンデンサ11の電圧Vcの波形を示している。例えばMOSトランジスタ4と9に流れる電流が等しい場合、コンデンサ11は(1)式で示す定電流Icで充電される。充電期間中、コンデンサ11の電圧Vcは、定数1/Cに応じた一定の傾きで増大する。やがて電圧Vcが電圧Vrに達すると、コンパレータ13の出力電圧VoがHレベルに変化し、スイッチ10がオフ、MOSトランジスタ12がオンする。これによりコンデンサ11の電圧Vcは0Vにまで低下する。この電圧低下により、コンパレータ13の出力電圧Voが再びLレベルに変化し、MOSトランジスタ12がオフ、スイッチ10がオンする。その結果、周期Tで幅狭のHパルスを持つ発振信号が得られる。
【0033】
続いて、図3を参照しながらCR発振回路1の周波数補正方法について説明する。CR発振回路1が組み込まれた半導体装置の製造時または出荷時の検査工程等において、半導体装置を恒温槽に入れ、検査装置(図示せず)から電源電圧Vccを供給する。検査装置は、CR発振回路1の出力電圧Voをモニタするとともに、制御回路17に対してスイッチ7a〜7cのオンオフを指令することができる。
【0034】
検査装置は、CR発振回路1の実際の使用状態で生じ得る範囲内で、恒温槽の温度(半導体装置の環境温度)と電源電圧Vccを複数ポイントずつ順次変化させ、それぞれの温度と電源電圧Vccが与えられた状態で発振周波数が目標周波数に最も近付くように制御回路17を介してスイッチ7a〜7cを切り替える。
【0035】
このとき、発振周波数が目標周波数よりも高い場合には抵抗5の抵抗値を高めるように切り替え、発振周波数が目標周波数よりも低い場合には抵抗5の抵抗値を低下させるように切り替える。発振周波数が目標周波数に最も近付いた切替状態で、そのときの温度と電源電圧に対し当該抵抗値を対応付ける。温度は制御回路17による電圧VaのA/D変換値であり、電源電圧は制御回路17による電圧VbのA/D変換値である。
【0036】
図3は、このようにして作成した補正用のデータテーブルである。図中のR1〜R36は、組み合わせに係る上記8通りの抵抗値の何れかである。抵抗値に替えてスイッチ7a〜7cのオンオフ状態を例えば3ビットデータとして対応付けてもよいことは勿論である。この温度(電圧VaのA/D変換値)と電源電圧(電圧VbのA/D変換値)に対して抵抗値(またはスイッチ7a〜7cのオンオフ状態)を対応付けたデータテーブルは、検査装置からの指令により不揮発性のメモリ18に書き込まれる。
【0037】
半導体装置が出荷された後の実際の使用状態において、制御回路17は、所定の制御周期ごとに温度検出回路15と電源電圧検出回路16からそれぞれ電圧Va、Vbを入力しA/D変換する。上述したように、電圧Va、VbのA/D変換値はそれぞれ検出温度、検出電圧に相当する。続いて、メモリ18に予め記憶された補正用のデータテーブルから電圧Va、Vbに対応した抵抗5の抵抗値を読み出し、抵抗5の抵抗値Rが当該読み出した指定値に等しくなるようにスイッチ7a〜7cを切り替える。
【0038】
この制御により、CR発振回路1の環境温度と電源電圧Vccの変化に対する周波数誤差を補正することができる。車両の電子制御装置に搭載された半導体装置に組み込まれている場合、環境温度の変化幅が非常に広く、バッテリ電圧から作られる電源電圧Vccも変動し易いという事情がある。こうした環境下では、従来構成のCR発振回路に比べてより大きな周波数変動抑制効果が得られる。
【0039】
以上説明した本実施形態によれば、検査工程等においてCR発振回路1を実際に発振動作させて発振周波数を合わせ込みながら、環境温度と電源電圧に対する抵抗5の抵抗値をテーブル化している。従って、CR発振回路1の実際の使用状態で環境温度と電源電圧Vccが変動しても、コンデンサ11、抵抗5その他の回路部品の定数ばらつきまで含めて、発振周波数を目標周波数に高精度に一致させることができる。この場合、制御回路17は、自ら生成した発振信号をクロック信号として用いるので、他の回路で生成した基準周波数信号は不要となる。
【0040】
抵抗5は、スイッチ7a〜7cに対しそれぞれ並列接続された抵抗素子6a〜6cを直列に備え、抵抗素子6a〜6cは2のべき乗により重み付けされた抵抗値r、2r、4rを有している。これにより、抵抗値rごとの8通りの抵抗値を、少ない抵抗素子を用いて面積効率よく作り出すことができる。
【0041】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について図4および図5を参照しながら説明する。図4に示すCR発振回路21は、コンデンサ22の容量値を変更可能に構成することで周波数誤差を補正する。
【0042】
コンデンサ22は、コンデンサ素子23aとスイッチ24aとの直列回路、コンデンサ素子23bとスイッチ24bとの直列回路、コンデンサ素子23cとスイッチ24cとの直列回路およびコンデンサ素子23dを並列接続して構成されている。ここで、コンデンサ素子23a、23b、23cの容量値は、2のべき乗に従ってc、2c、4cに設定されている。直列にスイッチを持たないコンデンサ素子23dはコンデンサ22の構成に必ず残るため、コンデンサ素子23dの容量値は発振周波数の上限値を決定する。スイッチ24a〜24cのオンオフ状態により8通りの異なる容量値が生成される。なお、抵抗25は一定の抵抗値を有している。
【0043】
CR発振回路21の周波数補正方法は第1の実施形態と同様である。CR発振回路21が組み込まれた半導体装置の検査工程等において、温度と電源電圧が異なる各条件に対し発振周波数が目標周波数に最も近付くようにスイッチ24a〜24cを切り替えながら補正データを得る。この場合、発振周波数が目標周波数よりも高い場合にはコンデンサ22の容量値を高めるように切り替え、発振周波数が目標周波数よりも低い場合にはコンデンサ22の容量値を低下させるように切り替える。発振周波数が目標周波数に最も近付いた切替状態で、そのときの温度と電源電圧に対し当該容量値を対応付ける。図5は、このようにして作成した補正用のデータテーブルであり、このデータテーブルはメモリ18に書き込まれる。図中のC1〜C36は、組み合わせに係る8通りの容量値の何れかである。
【0044】
半導体装置の実際の使用状態において、制御回路17は、所定の制御周期ごとに温度検出回路15と電源電圧検出回路16からそれぞれ電圧Va、Vbを入力しA/D変換する。続いて、メモリ18に予め記憶された補正用のデータテーブルから電圧Va、Vbに対応したコンデンサ22の容量値(またはスイッチ24a〜24cのオンオフ状態)を読み出し、コンデンサ22の容量値Cが当該読み出した指定値に等しくなるようにスイッチ24a〜24cを切り替える。この制御により、CR発振回路21の環境温度と電源電圧Vccの変化に対する周波数誤差を補正することができる。その他、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0045】
(第3の実施形態)
図6は、第3の実施形態に係るCR発振回路の構成図である。このCR発振回路31は、第1の実施形態に係るCR発振回路1が備える抵抗5と、第2の実施形態に係るCR発振回路21が備えるコンデンサ22とを組み合わせた構成を有している。CR発振回路31の周波数補正方法は上記各実施形態と同様である。補正データを作成する際、温度と電源電圧Vccが与えられた状態で発振周波数が目標周波数に最も近付くようにスイッチ7a〜7cとスイッチ24a〜24cを切り替える。
【0046】
本実施形態によれば、上記各実施形態と同様の作用および効果が得られる。また、上記各実施形態に比べ補正の自由度が増すので、抵抗素子およびコンデンサ素子の数が同じであれば、発振周波数を目標周波数に一層高精度に一致させることが可能となる。
【0047】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形、拡張を行うことができる。
【0048】
実際の使用状態において、制御回路17は、温度検出回路15と電源電圧検出回路16から取得した検出温度と検出電圧に対し、それぞれ前回の制御周期で読み出した容量値および/または抵抗値に対応する検出温度と検出電圧から所定の範囲内となるように制限を加えてもよい。図3に示す場合には、例えば検出温度に相当する電圧Vaに対し±0.02V、検出電圧に相当する電圧Vbに対し±0.1Vとする。その上で、メモリ18のデータテーブルから、当該制限を加えた後の電圧Va、Vbに対応したコンデンサ22の容量値および/または抵抗5の抵抗値を読み出す。前回の制御周期で読み出した抵抗値がR9であった場合、今回の制御周期で読み出し可能な抵抗値はR2、R3、R4、R8、R10、R14、R15、R16である。
【0049】
このように構成すれば、温度検出回路15から取得した電圧Vaまたは電源電圧検出回路16から取得した電圧Vbの急激な変化が制限されるので、発振周波数の急激な変化を防止できる。また、ノイズの侵入などにより、電圧Vaまたは電圧Vbが制御周期の間に通常生じ得る最大変化量を超えて変化した場合、その変化が制限されるので、発振周波数が目標周波数から大きく外れることを防止できる。
【0050】
予め検査工程等において、相異なる複数の目標発振周波数(XMHz、YMHz、ZMHz、…)に対してそれぞれデータテーブルを作成してメモリ18に記憶し、実際の使用状態では、必要とする目標発振周波数に応じて読み出しに用いるデータテーブルを切り替えてもよい。これにより、1つのCR発振回路1、21、31を複数の周波数で発振させることができる。
【0051】
検査工程等において、発振信号をクロック信号などとして利用する装置の複数の相異なる動作モードで用いる各目標発振周波数に対してそれぞれデータテーブルを作成して記憶し、実際の使用状態では、各動作モードに応じて読み出しに用いるデータテーブルを切り替えてもよい。ここでの動作モードとは、例えば省電力動作モード(例えばローパワーモード、スリープモード、スタンバイモード)、通常電力動作モード(例えばノーマルモード)、起動動作モード(ウェイクアップモード)などである。これにより、1つのCR発振回路1、21、31を各動作モードに適した種々の周波数で発振させることができる。
【0052】
第1、第3の実施形態では8通りの抵抗値に切り替え可能であるが、抵抗素子とスイッチの並列回路の直列接続数nを増やせばより多くの2通りの抵抗値を設定可能となる。同様に、第2、第3の実施形態では8通りの容量値に切り替え可能であるが、コンデンサ素子とスイッチの直列回路の並列接続数nを増やせばより多くの2通りの容量値を設定可能となる。このように設定可能な値を増やすことにより、発振周波数を補正する際の精度(周波数分解能)を高めることができる。
【0053】
発振周波数を決定付けるコンデンサ、抵抗として、MOSトランジスタのゲート容量、オン抵抗を使用してもよい。この場合、制御回路17は、メモリ18に記憶されたデータテーブルから読み出した容量値、抵抗値に基づいて、MOSトランジスタのゲート・ソース間電圧を制御すればよい。
【符号の説明】
【0054】
図面中、1、21、31はCR発振回路、5、25は抵抗、6a〜6dは抵抗素子、7a〜7cはスイッチ、11、22はコンデンサ、23a〜23dはコンデンサ素子、24a〜24cはスイッチ、15は温度検出回路、16は電源電圧検出回路、18はメモリ(記憶手段)、17は制御回路である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサと抵抗を備え、電源電圧の供給を受けて前記コンデンサの容量値と前記抵抗の抵抗値とに基づいて定まる周波数で発振するCR発振回路において、
前記コンデンサと抵抗の少なくとも一方は、相異なる複数の容量値または抵抗値の中から指定された値に変更可能に構成されており、
発振動作の環境温度を検出する温度検出回路と、
前記電源電圧を検出する電源電圧検出回路と、
発振動作の環境温度と電源電圧に対して前記コンデンサの容量値および/または前記抵抗の抵抗値が対応付けられたデータテーブルを書き込み可能な不揮発性の記憶手段と、
所定の制御周期で前記温度検出回路と前記電源電圧検出回路からそれぞれ検出温度と検出電圧を取得し、前記記憶手段に予め記憶された前記データテーブルから当該検出温度と検出電圧に対応した前記コンデンサの容量値および/または前記抵抗の抵抗値を読み出し、前記コンデンサの容量値および/または前記抵抗の抵抗値が当該読み出した指定値に等しくなるように制御する制御回路とを備えたことを特徴とするCR発振回路。
【請求項2】
前記抵抗は、抵抗素子とスイッチとの並列回路を複数直列接続して構成されており、
前記制御回路は、前記記憶手段のデータテーブルから読み出した抵抗値に応じて前記スイッチを切り替えることを特徴とする請求項1記載のCR発振回路。
【請求項3】
前記複数の抵抗素子は、2のべき乗により重み付けされた抵抗値を有していることを特徴とする請求項2記載のCR発振回路。
【請求項4】
前記コンデンサは、コンデンサ素子とスイッチとの直列回路を複数並列接続して構成されており、
前記制御回路は、前記記憶手段のデータテーブルから読み出した容量値に応じて前記スイッチを切り替えることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のCR発振回路。
【請求項5】
前記複数のコンデンサ素子は、2のべき乗により重み付けされた容量値を有していることを特徴とする請求項4記載のCR発振回路。
【請求項6】
前記制御回路は、前記温度検出回路と前記電源電圧検出回路から取得した検出温度と検出電圧に対し、それぞれ前回の制御周期で読み出した容量値および/または抵抗値に対応する検出温度と検出電圧から所定の範囲内となるように制限を加えた上で、前記記憶手段のデータテーブルから当該制限した検出温度と検出電圧に対応した前記コンデンサの容量値および/または前記抵抗の抵抗値を読み出すことを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載のCR発振回路。
【請求項7】
電源電圧の供給を受けてコンデンサの容量値と抵抗の抵抗値とに基づいて定まる周波数で発振するCR発振回路の周波数補正方法において、
前記コンデンサと抵抗の少なくとも一方を指定された容量値または抵抗値に変更可能に構成し、
発振動作の環境温度と電源電圧を変化させながら発振周波数が目標周波数に一致するのに必要な前記コンデンサの容量値および/または前記抵抗の抵抗値を順次求め、環境温度と電源電圧に対して当該容量値および/または抵抗値を対応付けたデータテーブルを予め記憶し、
その後、所定の制御周期で発振動作の環境温度と電源電圧を検出し、前記記憶したデータテーブルから当該検出温度と検出電圧に対応した前記コンデンサの容量値および/または前記抵抗の抵抗値を読み出し、前記コンデンサの容量値および/または前記抵抗の抵抗値が当該読み出した値に等しくなるように制御することを特徴とするCR発振回路の周波数補正方法。
【請求項8】
相異なる複数の目標発振周波数に対してそれぞれ前記データテーブルを作成して記憶し、その後、必要とする目標発振周波数に応じて前記読み出しに用いるデータテーブルを切り替えることを特徴とする請求項7記載のCR発振回路の周波数補正方法。
【請求項9】
相異なる動作モードで用いる目標発振周波数に対してそれぞれ前記データテーブルを作成して記憶し、その後、動作モードに応じて前記読み出しに用いるデータテーブルを切り替えることを特徴とする請求項7記載のCR発振回路の周波数補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−5022(P2013−5022A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131143(P2011−131143)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】