DC/DCコンバータ装置、電気車両及びDC/DCコンバータの制御方法
【課題】デューティの上限値及び下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことを可能とする。
【解決手段】駆動デューティDHを上限値に制限し、あるいは、駆動デューティDLを下限値に制限する場合に、I項再設定処理部116は、PWM処理部112からの前記上限値又は前記下限値を示すリミット値通知信号Slに基づいて、前記上限値又は前記下限値に応じた補正デューティΔDiを逆算して求め、求めた補正デューティΔDiをI項成分の再設定値としてPID処理部114に出力する。
【解決手段】駆動デューティDHを上限値に制限し、あるいは、駆動デューティDLを下限値に制限する場合に、I項再設定処理部116は、PWM処理部112からの前記上限値又は前記下限値を示すリミット値通知信号Slに基づいて、前記上限値又は前記下限値に応じた補正デューティΔDiを逆算して求め、求めた補正デューティΔDiをI項成分の再設定値としてPID処理部114に出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1電力装置と第2電力装置との間に配置されたDC/DCコンバータを制御するDC/DCコンバータ装置及び該DC/DCコンバータ装置を備える電気車両、並びに、前記DC/DCコンバータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バッテリ(第1電力装置)と燃料電池(第2電力装置)とを併用して車両走行用の電動機を駆動する電気車両において、前記燃料電池をインバータを介して前記電動機に接続すると共に、前記バッテリをDC/DCコンバータを介して前記燃料電池に並列に接続することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この場合、前記電気車両に搭載されたDC/DCコンバータ装置の制御部は、前記DC/DCコンバータのスイッチング素子を所定のデューティにて駆動する際に、積分動作を含むフィードバック制御により前記デューティを調整する。
【0004】
【特許文献1】特開2007−159315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、デバイスに所定の駆動信号を供給して該デバイスを駆動する際に、前記デバイスの安全性や制御性を確保する観点から、前記駆動信号の大きさを所定の上限値と下限値との間に制限することが一般的に広く行われている。従って、上述したDC/DCコンバータ装置においても、フィードバック制御により調整したデューティが上限値以上又は下限値以下であれば、該デューティを前記上限値又は前記下限値に制限し、制限した前記デューティにてスイッチング素子を駆動することが望ましい。
【0006】
しかしながら、前記デューティの目標値(目標デューティ)が前記上限値以上又は前記下限値以下である場合に、制限した前記デューティと、前記目標デューティとを用いて前記フィードバック制御を行うと、制限した前記デューティと前記目標デューティとの偏差を0にすることができなくなり、この結果、前記フィードバック制御の積分項の値が増加又は減少し続けることになる。
【0007】
そこで、前記デューティの前記上限値又は前記下限値への制限時に、前記積分項の値を所定値に保持した状態で前記フィードバック制御を行えば、前記積分項の値の増加又は減少を防止することが可能になると想定される。
【0008】
ところが、前記所定値への保持がなければ前記上限値と前記下限値との間にデューティが納まって、本来ならば、上記の制限が不要となる(解除できる)ような場合でも、前記積分項の値が前記所定値に強制的に保持されていれば、前記デューティは、前記上限値以上又は前記下限値以下となって、前記上限値又は前記下限値に設定されてしまうので、上述した制限状態から速やかに復帰(抜け出す)することができないおそれがある。
【0009】
この発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、デューティの上限値及び下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことが可能となるDC/DCコンバータ装置及び該DC/DCコンバータ装置を備える電気車両、並びに、DC/DCコンバータの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るDC/DCコンバータ装置は、
第1電力装置と第2電力装置との間に配置され且つスイッチング素子を有するDC/DCコンバータと、前記スイッチング素子を所定のデューティにて駆動する制御部とを備え、
前記制御部は、
積分動作を含むフィードバック制御により前記デューティを調整し、
今回調整するデューティが所定の上限値よりも大きくなるときに該デューティを前記上限値に制限し、あるいは、前記今回調整するデューティが所定の下限値よりも小さくなるときに該デューティを前記下限値に制限する場合に、前記上限値又は前記下限値に基づいて前記フィードバック制御の積分項を変更することを特徴としている。
【0011】
また、この発明に係るDC/DCコンバータの制御方法は、
積分動作を含むフィードバック制御により所定のデューティを調整し、調整した前記デューティにて、第1電力装置と第2電力装置との間に配置されたDC/DCコンバータのスイッチング素子を駆動する場合に、
今回調整するデューティが所定の上限値よりも大きくなるか、あるいは、該デューティが所定の下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値に基づいて前記フィードバック制御の積分項を変更し、前記デューティを前記上限値又は前記下限値に制限することを特徴としている。
【0012】
これらの発明によれば、前記デューティを前記上限値又は前記下限値に制限する際に、前記デューティが前記上限値又は前記下限値となるように前記積分項を設定し直すので、前記デューティの前記上限値及び前記下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことが可能となる。また、前記上限値又は前記下限値に応じて前記積分項を設定し直すので、前記デューティの制限中に前記積分項の値を所定値に保持することが不要となる。
【0013】
ここで、前記制御部は、比例動作、前記積分動作及び微分動作を含む前記フィードバック制御を行い、前記デューティが前記上限値よりも大きくなるか、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値と前記フィードバック制御の比例項及び微分項との差に基づいて前記積分項を変更することが好ましい。
【0014】
また、前記制御部は、前記フィードバック制御と、前記DC/DCコンバータの前記第1電力装置側の電圧(以下、1次電圧という。)又は前記DC/DCコンバータの前記第2電力装置側の電圧(以下、2次電圧という。)を目標値に設定するためのフィードフォワード制御とを行い、前記デューティが前記上限値よりも大きくなるか、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値と、前記比例項、前記微分項及び前記フィードフォワード制御のフィードフォワード項との差に基づいて前記積分項を変更することが好ましい。
【0015】
さらに、前記1次電圧を制御する1次電圧制御モードと、前記2次電圧を制御する2次電圧制御モードとのうち、少なくとも1つのモードを動作モードとして備えている場合に、前記制御部は、前記1次電圧又は前記2次電圧の目標値に応じた前記デューティが前記上限値よりも大きくなるときに該デューティを前記上限値に制限し、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに該デューティを前記下限値に制限することが好ましい。
【0016】
従って、比例積分微分動作(PID動作)を含む前記フィードバック制御により前記DC/DCコンバータを制御するDC/DCコンバータ装置や、前記フィードバック制御と前記フィードフォワード制御とを併用するDC/DCコンバータ装置や、前記1次電圧制御モード又は前記2次電圧制御モードを前記動作モードとして備えるDC/DCコンバータ装置に、この発明を適用することが可能となる。
【0017】
この発明に係る電気車両は、上述したDC/DCコンバータ装置を備え、前記第1電力装置は、補機に接続され且つ該第1電力装置側の電圧を発生する蓄電装置であり、前記第2電力装置は、車輪を回転させる電動機と、駆動回路を介して前記電動機に接続され且つ発電電圧を発生する発電装置とを有し、前記発電電圧又は前記電動機が発電機として動作したときに前記駆動回路に発生する回生電圧を前記第2電力装置側の電圧とすることを特徴としている。
【0018】
前記電気車両に前記DC/DCコンバータ装置を搭載することにより、上述したDC/DCコンバータ装置の効果が容易に得られる。
【0019】
すなわち、前記デューティの制限中は、前記デューティを目標デューティに近づけることができない制限状態であるので、前記デューティの前記上限値又は前記下限値への制限が不要となったときに、前記制限状態から速やかに抜け出すことで、前記第2電力装置側の電圧を速やかに目標電圧に制御することが可能となる。
【0020】
また、前記上限値が前記発電装置における高出力状態での閾値である場合に、前記デューティが前記上限値に長時間保持され続けると、前記発電装置が前記高出力状態に維持され続けるので、該発電装置が劣化するか、あるいは、前記電気車両の効率が低下する原因となる。一方、前記下限値が過電圧状態での閾値である場合に、前記デューティが前記下限値に長時間保持されると、前記過電圧状態が維持され続けるので、前記DC/DCコンバータに接続される部品の劣化や故障の原因となる。
【0021】
従って、前記デューティの前記上限値及び前記下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに抜け出すようにすることで、前記発電装置の劣化や、前記電気車両の効率低下や、前記部品の劣化及び故障を確実に防止することが可能となる。
【0022】
そして、前記発電装置が燃料電池である場合に、前記デューティの前記上限値又は前記下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに抜け出すようにすることで、前記燃料電池を構成するセルの劣化を確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、デューティを上限値又は下限値に制限する際に、前記デューティが前記上限値又は前記下限値となるようにフィードバック制御の積分項を設定し直すので、前記デューティの前記上限値及び前記下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことが可能となる。また、前記上限値又は前記下限値に応じて前記積分項を設定し直すので、前記デューティの制限中に前記積分項の値を所定値に保持することが不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、この発明の一実施形態に係るハイブリッド直流電源システム10が適用された一実施形態に係る燃料電池車両(電気車両)20の回路図である。
【0026】
ハイブリッド直流電源システム10は、基本的には、エネルギストレージでありバッテリ電圧Vbatを発生する蓄電装置(以下、バッテリともいう。)24(第1電力装置)と、このバッテリ電圧Vbatより高い電圧である発電電圧Vfを発生する発電装置としての燃料電池22(第2電力装置)と、バッテリ24と燃料電池22との間に配置され電圧変換するDC/DCコンバータ36と、統括制御部56(上位制御部)から供給される電圧指令値に応じてDC/DCコンバータ36の電圧制御目標値を設定し、バッテリ24と燃料電池22との間での前記電圧変換を制御するコンバータ制御部54とから構成される。
【0027】
ここで、コンバータ制御部54とDC/DCコンバータ36とは、バッテリ24が接続される1次側1Sと、燃料電池22及びモータ26(インバータ34)が接続される2次側2Sとの間で、昇降圧の電圧変換を行うDC/DCコンバータ装置{VCU(Voltage Control Unit)という。}23を構成する。
【0028】
燃料電池車両20は、前記のハイブリッド直流電源システム10と、このハイブリッド直流電源システム10からモータ電流Im(電力)がインバータ(駆動回路)34を通じて供給される負荷としての走行用のモータ26(電動機)と、から構成される。
【0029】
モータ26の回転は、減速機12、シャフト14を通じて車輪16に伝達され、車輪16を回転させる。
【0030】
燃料電池22は、例えば、固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで両側から挟み込んで形成されたセルを積層したスタック構造である。燃料電池22には、水素タンク28とエアコンプレッサ30とが配管により接続されている。燃料電池22内で反応ガスである水素(燃料ガス)と空気(酸化剤ガス)との電気化学反応により生成された発電電流Ifは、電流センサ32及びダイオード(ディスコネクトダイオードともいう。)33を介して、インバータ34及び(又は)DC/DCコンバータ36側に供給される。
【0031】
インバータ34は、直流/交流変換を行い、モータ電流Imをモータ26に供給する一方、回生動作に伴う交流/直流変換後のモータ電流Imを2次側2SからDC/DCコンバータ36を通じて1次側1Sに供給する。
【0032】
この場合、回生電圧又は発電電圧Vfである2次電圧V2がDC/DCコンバータ36により低電圧に変換された1次電圧V1は、ダウンバータ42により降圧されてさらに低電圧とされ、ライト、パワーウインド、ワイパー用電動機等の補機44に補機電流Iauとして供給されると共に、余剰電力があればバッテリ電流Ibat(充電電流Ibc)としてバッテリ24に流し込まれバッテリ24を充電する。
【0033】
1次側1Sに電力ケーブル18を通じて接続されるバッテリ24は、例えば、リチウムイオン2次電池、ニッケル水素2次電池又はキャパシタを利用することができる。この実施形態では、リチウムイオン2次電池を利用している。
【0034】
バッテリ24は、ダウンバータ42を通じて補機44に補機電流Iauを供給すると共に、DC/DCコンバータ36を通じてインバータ34にモータ電流Imを供給するためのバッテリ電流Ibat(放電電流Ibd)を流し出す。
【0035】
なお、インバータ34に供給されるモータ電流Imは、バッテリ電流IbatがVCU23により変換された2次電流I2と発電電流Ifとの合成電流である。
【0036】
バッテリ24の正極側の出力端には、直列にバッテリ短絡保護用のヒューズ25が挿入されている。バッテリ24の負極側の線路と、図1中、1次側1Sが指すバッテリ24の正極側に繋がる線路との間が短絡された場合には、ヒューズ25は、バッテリ24を保護するために溶断する。
【0037】
ダウンバータ42は、出力側に絶縁トランスを有し、補機44の正極側には前記絶縁トランスの2次コイル側の整流電圧が供給され、負極側はシャーシに接地されている。
【0038】
1次側1S及び2次側2Sには、それぞれ平滑用のコンデンサ38、39が設けられている。
【0039】
燃料電池22を含むシステムはFC制御部50により制御され、インバータ34とモータ26とを含むシステムはインバータ駆動部を含むモータ制御部52により制御され、DC/DCコンバータ36を含むシステムはコンバータ駆動部を含むコンバータ制御部54により、それぞれ基本的に制御される。
【0040】
そして、これらFC制御部50、モータ制御部52及びコンバータ制御部54は、燃料電池22の総負荷量Lt等を決定する上位制御部としての統括制御部56により制御される。
【0041】
統括制御部56、FC制御部50、モータ制御部52及びコンバータ制御部54は、それぞれCPU、ROM、RAM、タイマの他、A/D変換器、D/A変換器等の入出力インタフェース、並びに、必要に応じてDSP(Digital Signal Processor)等を有している。
【0042】
統括制御部56、FC制御部50、モータ制御部52及びコンバータ制御部54は、車内LANであるCAN(Controller Area Network)等の通信線70を通じて相互に接続され、各種スイッチ及び各種センサからの入出力情報を共有し、これら各種スイッチ及び各種センサからの入出力情報を入力として各CPUが各ROMに格納されたプログラムを実行することにより各種機能を実現する。
【0043】
ここで、車両状態を検出する各種スイッチ及び各種センサとしては、発電電流Ifを検出する電流センサ32の他、1次電圧V1(バッテリ電圧Vbatに等しい。)を検出する電圧センサ61、1次電流I1{バッテリ電流Ibat(放電電流Ibd又は充電電流Ibc)}を検出する電流センサ62、2次電圧V2(ディスコネクトダイオード33が導通しているとき、略燃料電池22の発電電圧Vfに等しい。)を検出する電圧センサ63、2次電流I2を検出する電流センサ64、通信線70に接続されるイグニッションスイッチ(IGSW)65、アクセルセンサ66、ブレーキセンサ67、車速センサ68、及び上記したライト、パワーウインド、ワイパー用電動機等の補機44の操作部55等がある。
【0044】
統括制御部56は、燃料電池22の状態、バッテリ24の状態、モータ26の状態、及び補機44の状態の他、各種スイッチ及び各種センサからの入力(負荷要求)に基づき決定した燃料電池車両20の総負荷要求量Ltから、燃料電池22が負担すべき燃料電池分担負荷量(要求出力)Lfと、バッテリ24が負担すべきバッテリ分担負荷量(要求出力)Lbと、回生電源が負担すべき回生電源分担負荷量Lrとの配分(分担)を調停しながら決定し、FC制御部50、モータ制御部52及びコンバータ制御部54に指令を送出する。
【0045】
DC/DCコンバータ36は、バッテリ24と、燃料電池22又は回生電源(インバータ34とモータ26)との間に接続される、上アーム素子(上アームスイッチング素子81と並列ダイオード83)と下アーム素子(下アームスイッチング素子82と並列ダイオード84)とからなる相アーム(単相アーム)UAと、リアクトル90とから構成される。
【0046】
上アームスイッチング素子81と下アームスイッチング素子82とは、それぞれ例えば、MOSFET又はIGBT等で構成される。
【0047】
リアクトル90は、DC/DCコンバータ36により1次電圧V1と2次電圧V2との間で電圧を変換する際に、エネルギを放出及び蓄積するために、前記上アーム素子及び前記下アーム素子の接続点とバッテリ24との間に挿入されている。
【0048】
上アームスイッチング素子81は、コンバータ制御部54から出力される駆動信号(駆動電圧)UHによりオン又はオフされ、下アームスイッチング素子82は、駆動信号(駆動電圧)ULによりオン又はオフされる。
【0049】
1次電圧V1、代表的には、負荷が接続されていないときのバッテリ24の開放電圧OCV(Open Circuit Voltage)は、図2の燃料電池出力特性(電流電圧特性)91上に示すように、この燃料電池22の発電電圧Vfの最低電圧Vfminより高い電圧に設定されている。なお、図2において、バッテリ24の開放電圧OCVをOCV≒V1と描いている。
【0050】
2次電圧V2は、燃料電池22が発電動作しているときには燃料電池22の発電電圧Vfに等しい電圧にされる。
【0051】
ただし、燃料電池22の発電電圧Vfがバッテリ24の電圧Vbat(=V1)に等しくなったときには、図2に一点鎖線の太線で示す直結状態とされる。
【0052】
直結状態では、上アームスイッチング素子81に供給される駆動信号UHのデューティが、例えば100[%]にされ、下アームスイッチング素子82の駆動信号ULのデューティは、例えば0[%]にされる。直結状態において、2次側2Sから1次側1Sへ電流が流れる充電方向(回生方向)の場合には、上アームスイッチング素子81を通じて電流が流れ、1次側1Sから2次側2Sへ電流が流れる力行方向の場合には、ダイオード83を通じて電流が流れる。
【0053】
従って、この直結状態では、DC/DCコンバータ36では電圧変換がなされない。なお、上述したように、厳密には、下アームスイッチング素子82が最小オン時間以上の時間オン駆動されないと、実際に下アームスイッチング素子82がオンにならないので、下アームスイッチング素子82が最小オン時間より短いオン時間で駆動された場合には、駆動信号ULのデューティが0[%](駆動信号UHのデューティが100[%])になる前に直結状態となる。
【0054】
ここで、VCU23による燃料電池22の出力制御について説明する。
【0055】
水素タンク28からの燃料ガス及びエアコンプレッサ30からの圧縮空気が供給されている発電時に、燃料電池22の発電電流Ifは、図2に示した特性91{関数F(Vf)という。}上で2次電圧V2、すなわち、発電電圧Vfをコンバータ制御部54によりDC/DCコンバータ36を通じて設定することにより決定される。つまり、発電電流Ifは、発電電圧Vfの関数F(Vf)値として決定される。If=F(Vf)であり、例えば発電電圧VfをVf=Vfa=V2と設定すれば、その発電電圧Vfa(V2)の関数値としての発電電流Ifaが決定される。{Ifa=F(Vfa)=F(V2)}。
【0056】
具体的に、燃料電池22は、発電電圧Vfの減少に応じて流し出される電流である発電電流Ifが増加し、発電電圧Vfの増加に応じて流し出される発電電流Ifが減少する。
【0057】
このように、燃料電池22は、2次電圧V2(発電電圧Vf)を決定することにより発電電流Ifが決定されるので、燃料電池車両20等、燃料電池22を含むシステムでは、通常時には、DC/DCコンバータ36の2次側2Sの2次電圧V2(発電電圧Vf)が、コンバータ制御部54を含むVCU23のフィードバック制御の電圧制御目標値V2tar(図3参照)に設定される。すなわち、VCU23により燃料電池22の出力(発電電流If)が制御される。以上が、VCU23による燃料電池22の出力制御の説明である。
【0058】
図3は、2次電圧制御モード時(電圧制御目標値V2tar)におけるコンバータ制御部54の機能ブロック図である。
【0059】
この2次電圧制御モードでは、統括制御部56で演算された2次電圧指令値V2comが制限部102に供給される。制限部102は、2次電圧指令値V2comが時間的にステップ状に変化する場合(図5A及び図6Aの特性122)に、レートリミット機能により電圧制御目標値V2tarに変換し(図5A及び図6Aの特性124)、変換した電圧制御目標値V2tarを演算点104に加算信号として供給すると共に、演算点110に除算信号として供給する。
【0060】
また、電圧センサ61(図1参照)で検出された1次電圧V1が演算点110に乗算信号として供給され、一方で、電圧センサ63で検出された2次電圧V2が演算点104に減算信号として供給される。
【0061】
演算点104は、電圧制御目標値V2tarと、2次電圧V2との偏差e(e=V2−V2tar)を、PID演算部106のPID処理部114に出力する。PID処理部114は、比例(P)、積分(I)、微分(D)動作部であり、偏差eをデューティの補正値である補正デューティΔDに変換し、変換した補正デューティΔDを加算信号として演算点108に供給する。なお、補正デューティΔDは、下記の(1)式に示すように、P項成分による補正デューティΔDpと、I項成分による補正デューティΔDiと、D項成分による補正デューティΔDdとの合成値である。
ΔD=ΔDp+ΔDi+ΔDd (1)
【0062】
演算点110は、1次電圧V1から電圧制御目標値V2tarを除して得られる基準デューティDs(Ds=V1/V2tar)を加算信号として演算点108に供給する。
【0063】
演算点108は、一方の入力である補正デューティΔDと、他方の入力である基準デューティDsとを加算して、加算結果としての駆動デューティD(D=Ds+ΔD=V1/V2tar+ΔD)をPWM処理部112に出力し、PWM処理部112は、駆動デューティDに基づき、上アームスイッチング素子81に駆動デューティDH(DH=V1/V2tar+ΔD)の駆動信号UHを供給すると共に、下アームスイッチング素子82に駆動デューティDL{DL=1−(V1/V2tar+ΔD)}の駆動信号ULを供給する。
【0064】
この場合、PWM処理部112は、駆動デューティDHが所定の上限値(例えば、80[%])以上となる場合には、該駆動デューティDHを前記上限値に制限し、一方で、駆動デューティDLが所定の下限値(例えば、20[%])以下となる場合には、該駆動デューティDLを前記下限値に制限する。この場合、PWM処理部112は、前記上限値又は前記下限値を示すリミット値通知信号SlをPID演算部106のI項再設定処理部116に出力する。なお、前記上限値とは、例えば、前述した80[%]の駆動デューティDHであり、前記下限値とは、20[%]の駆動デューティDLである。
【0065】
I項再設定処理部116は、リミット値通知信号Slの入力に基づいて、駆動デューティDHが前記上限値に制限されたか、あるいは、駆動デューティDLが前記下限値に制限されたと判断し、補正デューティΔDのI項成分である補正デューティΔDiについて再設定処理を行う。
【0066】
すなわち、I項再設定処理部116は、リミット値通知信号Slの示す前記上限値又は前記下限値(以下、リミット値ともいう。)とに基づいて、PID処理部114にて今回算出する補正デューティΔDが前記リミット値となるように(今回のΔD=リミット値)、今回のΔDのI項成分(今回のΔDi)を逆算して求め、求めた今回のΔDiをPID処理部114での今回のPID動作(補正デューティΔDの算出)におけるI項成分として該PID処理部114に出力(再設定)する。
【0067】
PID処理部114は、入力された補正デューティΔDiを、今回のI項成分とみなして補正デューティΔDの算出処理を行う。従って、PID処理部114から出力される今回の補正デューティΔDは、前記リミット値に応じた補正デューティΔDとなる。
【0068】
ここで、I項再設定処理部116からPID処理部114に再設定される今回の補正デューティΔDi、PID処理部114から演算点108に出力される今回の補正デューティΔD、及び、演算点108にて算出される今回の駆動デューティD(=DH)は、下記の(2)式〜(4)式でそれぞれ表わされる。なお、「今回のDs」とは、演算点108に今回のΔDが入力されたときに、該演算点108に入力される基準デューティDsをいう。
今回のΔDi=(リミット値)−(今回のΔDp)−(今回のΔDd)
−(今回のDs) (2)
(今回のΔD)=(今回のΔDp)+{(2)式のΔDi}
+(今回のΔDd)
=(今回のΔDp)+{(リミット値)−(今回のΔDp)
−(今回のΔDd)−(今回のDs)}+(今回のΔDd)
=(リミット値)−(今回のDs) (3)
(今回のD)=(今回のΔD)+(今回のDs)
={(リミット値)−(今回のDs)}+(今回のDs)
=(リミット値) (4)
【0069】
また、電圧センサ61の電圧検出機能の失陥(故障)により、演算点110に1次電圧V1が入力されず、従って、コンバータ制御部54における制御がフィードバック制御のみとなる場合に、上記の(2)式〜(4)式は、次の(5)式〜(7)式に変更される。
今回のΔDi=(リミット値)−(今回のΔDp)−(今回のΔDd)
(5)
(今回のΔD)=(今回のΔDp)+{(5)式のΔDi}
+(今回のΔDd)
=(今回のΔDp)+{(リミット値)−(今回のΔDp)
−(今回のΔDd)}+(今回のΔDd)
=(リミット値) (6)
(今回のD)=(今回のΔD)=(リミット値) (7)
【0070】
なお、I項再設定処理部116は、リミット値通知信号Slの入力がなければ、上記のI項成分(今回のΔDi)の再設定処理を行わないことは勿論である。
【0071】
この実施形態に係る燃料電池車両20は、基本的には以上のように構成され且つ動作するものであり、次に、コンバータ制御部54によるDC/DCコンバータ36の制御に関して、上述の2次電圧制御モードで制御する場合について、図4〜図10を参照しながら説明する。
【0072】
図4のステップS11において、統括制御部56により、それぞれが負荷要求であるモータ26の電力要求と補機44の電力要求とエアコンプレッサ30の電力要求から総負荷要求量Ltが決定(算出)されると、ステップS12において、統括制御部56は、決定した総負荷要求量Ltを出力するための燃料電池分担負荷量Lfと、バッテリ分担負荷量Lbと、回生電源分担負荷量Lrの配分を決定し、FC制御部50、コンバータ制御部54及びモータ制御部52に指令を与える。この場合、コンバータ制御部54には、2次電圧指令値V2comが送出される。
【0073】
次いで、ステップS13において、統括制御部56により決定された燃料電池分担負荷量(実質的に、コンバータ制御部54に対する発電電圧Vfの2次電圧指令値V2comが含まれる。)Lfが通信線70を通じてコンバータ制御部54に指令として送信される。
【0074】
この場合、燃料電池分担負荷量Lfの指令(2次電圧指令値V2com)を受信したコンバータ制御部54は、ステップS14において、基本的に、2次電圧V2、換言すれば、燃料電池22の発電電圧Vfが、統括制御部56から指令された指令電圧V2comとなるように、DC/DCコンバータ36の各アームスイッチング素子81、82の駆動デューティを制御する(2次電圧制御モード)。
【0075】
次に、一例として、駆動信号UHのデューティDHを上限値(例えば、80[%])に制限する場合について、図5A〜図8Cを参照しながら説明する。
【0076】
図5A〜図5C及び図7A〜図7Cは、I項再設定処理部116によるI項成分の再設定処理を行わない場合の1次電圧V1、2次電圧V2、電圧制御目標値V2tar、2次電圧指令値V2com、駆動デューティDH、基準デューティDs、補正デューティΔDi及び補正デューティΔDpの時間的変化を示すグラフである。
【0077】
また、図6A〜図6C及び図8A〜図8Cは、I項再設定処理部116によるI項成分の再設定処理を行った場合の1次電圧V1、2次電圧V2、電圧制御目標値V2tar、2次電圧指令値V2com、駆動デューティDH、基準デューティDs、補正デューティΔDi及び補正デューティΔDpの時間的変化を示すグラフである。
【0078】
さらに、図5A〜図6Cは、駆動デューティDHを前記上限値に制限するときのグラフであり、一方で、図7A〜図8Cは、駆動デューティDHを制限状態から解除するときのグラフである。
【0079】
なお、図5A〜図8Cにおいて、フィードバック制御は、P動作及びI動作であり、D動作は行わないものとして説明する。
【0080】
図5Aに示すように、時刻t1から時刻t2までの時間帯において、時間tの経過に伴って2次電圧指令値V2comの特性122をステップ状に変化させたときに、電圧制御目標値V2tarの特性124は、制限部102(図3参照)の動作により、時間tの変化に対して比較的に滑らかに変化する。この場合、2次電圧V2の特性120は、特性124に略追従して変化する。なお、図5A中、参照数字126は、1次電圧V1の特性を示している。
【0081】
一方、図5B及び図5Cに示すように、時刻t1から時刻t2までの時間帯において、フィードフォワード項である基準デューティDsの特性130は、時間tの経過に伴って、上限値を示す特性132に向かい上昇し、一方で、I項成分の補正デューティΔDiの特性134と、P項成分の補正デューティΔDpの特性136とは、時間tの経過に伴って、僅かに上昇する。この結果、駆動デューティDHの特性128は、時間tの経過に伴って上限値を示す特性132に向かい上昇する。
【0082】
時刻t2にて、駆動デューティDHの特性128が上限値の特性132に到達した際に、補正デューティΔDiの特性134を所定値に保持することにより、該特性128は、時刻t2以降、特性132に保持される(前記上限値に制限される)。この結果、時刻t2以降、2次電圧V2の特性120、2次電圧指令値V2comの特性122及び電圧制御目標値V2tarの特性124も、所定値にそれぞれ制限される。
【0083】
一方、図7A〜図7Cに示すように、時刻t3から時刻t4までの時間帯において、2次電圧V2の特性160が所定値に保持され、駆動デューティDHの特性168が上限値の特性172に制限され、補正デューティΔDiの特性176が所定値に保持されている。また、この時間帯において、2次電圧指令値V2comの特性162及び電圧制御目標値V2tarの特性164は、時間tの経過に伴って上昇し、基準デューティDsの特性170、補正デューティΔDpの特性178、及び、前記上限値に制限する前の駆動デューティDの特性174は、それぞれ、時間tの経過に伴って下降している。
【0084】
そして、時刻t4にて、2次電圧指令値V2comの特性162及び電圧制御目標値V2tarの特性164が2次電圧V2の特性160を上回ると、電圧については、所定値に保持する(制限する)必要性がなくなる。そのため、本来であれば、この時刻t4にて駆動デューティDHの制限状態が解除されることが望ましい。
【0085】
しかしながら、補正デューティΔDiの特性176が所定値に強制的に制限、すなわち、前回値が保持され続けているので、補正デューティΔDi(の特性176)を用いて算出される駆動デューティDの特性174は、時刻t4の時点では、上限値の特性172を上回っている。この結果、駆動デューティDHの特性168は、時刻t4で制限状態から解除されず、駆動デューティDの特性174が特性172を下回る時刻t5まで、制限され続けることになる。
【0086】
すなわち、図5A〜図5C及び図7A〜図7Cのように、補正デューティΔDiの特性134、176を所定値に保持し続けると、2次電圧指令値V2comの特性162及び電圧制御目標値V2tarの特性164が2次電圧V2の特性160を上回っても、駆動デューティDHの制限状態を速やかに解除することができない。なお、図7A中、参照数字166は、1次電圧V1の特性を示している。
【0087】
これに対して、この実施形態では、図6A〜図6Cに示すように、時刻t2以降、駆動デューティDHの特性148が上限値の特性152に制限されるときに、I項再設定処理部116(図3参照)では、特性148が特性152に合致するように、補正デューティΔDi(の特性154)を逆算して求め、求めた補正デューティΔDiをI項成分の再設定値としてPID処理部114に出力するようにしている。
【0088】
そのため、図8A〜図8Cに示すように、時刻t3から時刻t6までの時間帯において、2次電圧V2の特性180が所定値に保持され、駆動デューティDHの特性188が上限値の特性192に制限されている場合に、駆動デューティDの特性194は、前記上限値に略等しくなり、この結果、時刻t6にて、2次電圧指令値V2comの特性182及び電圧制御目標値V2tarの特性184が、2次電圧V2の特性180を上回ると、駆動デューティDの特性194が前記上限値の特性192を下回ることになるので、駆動デューティDH(=D)に対する制限状態を速やかに解除することができる。
【0089】
これは、前述したように、この実施形態では、I項再設定処理部116(図3参照)は、特性148、188、194が特性152、192に合致するように、補正デューティΔDiの特性154、196を逆算して求めているので、特性182、184が特性180を上回ったときに、駆動デューティDHの特性188が速やかに前記上限値の特性192を下回ることができるためである。
【0090】
次に、I項再設定処理部116での再設定処理による効果について、図9及び図10を参照しながら詳細に説明する。
【0091】
図9及び図10は、ある時刻での駆動デューティDHにおける、I項成分(補正デューティΔDi)、P項成分(補正デューティΔDp)、D項成分(補正デューティΔDd)及びフィードフォワード項成分(基準デューティDs)の分担を模式的に示した棒グラフである。なお、図9及び図10では、I項成分を強調するために、駆動デューティDHにおけるI項成分の割合を誇張して図示している。
【0092】
ここで、図9は、図5A〜図5C及び図7A〜図7Cに示す、I項再設定処理部116(図3参照)での再設定処理を行わない場合を図示したものである。
【0093】
この場合、ある瞬間の駆動デューティDHが上限値を上回るので、次の制御周期では、該駆動デューティDHを前記上限値に制限するために、I項成分を所定値に保持して、P項成分、D項成分及びフィードフォワード(F/F)項成分を小さくするように設定する。しかしながら、前記所定値に保持された前記I項成分が不要に大きな値であれば、前記次の制御周期において駆動デューティDHは、再び前記上限値以上となる。すなわち、前記再設定処理を行わない場合では、駆動デューティDHを上述した制限状態から速やかに解除することができない。
【0094】
これに対して、図10は、図6A〜図6C及び図8A〜図8Cに示す、I項再設定処理部116(図3参照)での再設定処理を行った場合を図示したものであり、ある瞬間の駆動デューティDHが上限値を上回るときに、I項再設定処理部116では、この駆動デューティDHのうち、前記上限値以上の部分(図10の左の棒グラフ中、網掛けの部分)を不要分とし、該不要分だけI項成分を削除し、削除することで新たに生成したI項成分(再設定した補正デューティΔDi)をPID処理部114に出力する。この結果、次の制御周期では、駆動デューティDHが上限値を下回ることも可能となり、駆動デューティDHを制限状態から速やかに解除することができる。
【0095】
以上説明したように、上述した実施形態によれば、駆動デューティDHを上限値に制限し、あるいは、駆動デューティDLを下限値に制限する際に、駆動デューティDH、DLが上限値又は下限値となるように補正デューティΔDiを逆算して求める(設定し直す)ので、駆動デューティDH、DLの上限値又は下限値への制限が不要となったときに、該駆動デューティDH、DLの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことが可能となる。また、上限値又は下限値に応じて補正デューティΔDiを設定し直すので、駆動デューティDH、DLの制限中に補正デューティΔDiの値を所定値に保持することが不要となる。
【0096】
また、前述した(2)式〜(7)式に従って補正デューティΔDi、ΔD及び駆動デューティDを設定することにより、比例積分微分動作(PID動作)を含むフィードバック制御によりDC/DCコンバータ36を制御するVCU23や、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを併用するVCU23のような、2次電圧制御モードを動作モードとして備えるVCU23に、この実施形態を適用することが可能となる。
【0097】
さらに、燃料電池車両20にVCU23を搭載することにより、上述したVCU23の効果が容易に得られる。
【0098】
すなわち、駆動デューティDH、DLの制限中は、駆動デューティDH、DLを目標デューティに近づけることができない制限状態であるので、駆動デューティDH、DLの上限値及び下限値への制限が不要となったときに、前記制限状態から速やかに抜け出すことで、2次電圧V2を速やかに電圧制御目標値V2tar(又は2次電圧指令値V2com)に制御することが可能となる。
【0099】
ところで、上限値が燃料電池22における高出力状態(図2における直結状態の領域)での閾値である場合に、駆動デューティDHが上限値に長時間保持され続けると(燃料電池22が前記高出力状態に維持され続けると)、2次電圧V2を電圧制御目標値V2tar(又は2次電圧指令値V2com)に制御できない状態が長時間続くことになり、この結果、燃料電池車両20がガス欠運転の状態となって、燃料電池22内のセルが劣化するか、あるいは、燃料電池22に対して反応ガスが過供給となり、燃料電池車両20の効率が低下するおそれがある。
【0100】
一方、下限値が過電圧状態での閾値である場合に、駆動デューティDLが下限値に長時間保持され続けると(過電圧状態が維持され続けると)、DC/DCコンバータ36に接続される部品(バッテリ24、補機44等)の劣化や故障の原因となる。
【0101】
従って、駆動デューティDH、DLの上限値及び下限値への制限が不要となったときに、該駆動デューティDH、DLの制限状態から速やかに抜け出すようにすることで、燃料電池22のセルの劣化や、燃料電池車両20の効率低下や、前記部品の劣化及び故障を確実に防止することが可能となる。
【0102】
この実施形態は、上記の説明に限定されるものではなく、この明細書及び図面の記載内容に基づき、図11に示す1次電圧制御モードに適用する等、種々の構成に変更することが可能である。
【0103】
図11に示す1次電圧制御モードは、電力ケーブル18(図1参照)の断線故障等によりバッテリ24が開放状態にされる等、バッテリ24が故障とみなされる特殊な場合に行われるものであり、統括制御部56で演算された1次電圧指令値V1comが制限部102にて電圧制御目標値V1tarに変換され、変換された電圧制御目標値V1tarが加算信号として演算点104に供給されると共に、乗算信号として演算点110に供給される。また、1次電圧V1は、演算点104に減算信号として供給される。さらに、2次電圧V2は、演算点110に除算信号として供給される。演算点104は、電圧制御目標値V1tarと、1次電圧V1との偏差e(e=V1tar−V1)を、PID演算部106のPID処理部114に出力し、演算点110は、電圧制御目標値V1tarから2次電圧V2を除して得られる基準デューティDs(Ds=V1tar/V2)を演算点108に出力する。
【0104】
この1次電圧制御モードにおいても、PWM処理部112からI項再設定処理部116に上限値又は下限値を示すリミット値通知信号Slを出力し、I項再設定処理部116は、このリミット値通知信号Slの入力に基づいて、I項成分の再設定処理を行うことにより、前述した2次電圧制御モードと同様の効果を得ることができる。
【0105】
また、この実施形態では、PWM処理部112にて駆動デューティDHを前記上限値に直接制限し、あるいは、駆動デューティDLを前記下限値に直接制限する場合について説明したが、補正デューティΔDを所定の上限閾値又は下限閾値に制限することにより、間接的に、駆動デューティDHを前記上限値に制限し、あるいは、駆動デューティDLを前記下限値に制限することも可能である。
【0106】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書及び図面の記載内容に基づき、単相アームUAのDC/DCコンバータ36に限らず、U相、V相及びW相の3相アームのDC/DCコンバータを有するハイブリッド直流電源を備える燃料電池車両に適用する等、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】この発明の一実施形態に係る燃料電池車両の回路図である。
【図2】燃料電池の電流電圧特性の説明図である。
【図3】2次電圧制御モード時におけるコンバータ制御部の機能ブロック図である。
【図4】コンバータ制御部により駆動制御されるDC/DCコンバータの基本動作についての説明に供されるフローチャートである。
【図5】図5A〜図5Cは、図3のI項再設定処理部による再設定処理を行わない場合のグラフである。
【図6】図6A〜図6Cは、図3のI項再設定処理部による再設定処理を行った場合のグラフである。
【図7】図7A〜図7Cは、図3のI項再設定処理部による再設定処理を行わない場合のグラフである。
【図8】図8A〜図8Cは、図3のI項再設定処理部による再設定処理を行った場合のグラフである。
【図9】駆動デューティにおけるI項成分、P項成分、D項成分及びF/F項成分の分担を模式的に示す棒グラフである。
【図10】駆動デューティにおけるI項成分、P項成分、D項成分及びF/F項成分の分担を模式的に示す棒グラフである。
【図11】1次電圧制御モード時におけるコンバータ制御部の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0108】
10…ハイブリッド直流電源システム 20…燃料電池車両
22…燃料電池 23…VCU
24…バッテリ 26…モータ
34…インバータ 36…DC/DCコンバータ
54…コンバータ制御部 81…上アームスイッチング素子
82…下アームスイッチング素子 106…PID演算部
114…PID処理部 116…I項再設定処理部
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1電力装置と第2電力装置との間に配置されたDC/DCコンバータを制御するDC/DCコンバータ装置及び該DC/DCコンバータ装置を備える電気車両、並びに、前記DC/DCコンバータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バッテリ(第1電力装置)と燃料電池(第2電力装置)とを併用して車両走行用の電動機を駆動する電気車両において、前記燃料電池をインバータを介して前記電動機に接続すると共に、前記バッテリをDC/DCコンバータを介して前記燃料電池に並列に接続することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この場合、前記電気車両に搭載されたDC/DCコンバータ装置の制御部は、前記DC/DCコンバータのスイッチング素子を所定のデューティにて駆動する際に、積分動作を含むフィードバック制御により前記デューティを調整する。
【0004】
【特許文献1】特開2007−159315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、デバイスに所定の駆動信号を供給して該デバイスを駆動する際に、前記デバイスの安全性や制御性を確保する観点から、前記駆動信号の大きさを所定の上限値と下限値との間に制限することが一般的に広く行われている。従って、上述したDC/DCコンバータ装置においても、フィードバック制御により調整したデューティが上限値以上又は下限値以下であれば、該デューティを前記上限値又は前記下限値に制限し、制限した前記デューティにてスイッチング素子を駆動することが望ましい。
【0006】
しかしながら、前記デューティの目標値(目標デューティ)が前記上限値以上又は前記下限値以下である場合に、制限した前記デューティと、前記目標デューティとを用いて前記フィードバック制御を行うと、制限した前記デューティと前記目標デューティとの偏差を0にすることができなくなり、この結果、前記フィードバック制御の積分項の値が増加又は減少し続けることになる。
【0007】
そこで、前記デューティの前記上限値又は前記下限値への制限時に、前記積分項の値を所定値に保持した状態で前記フィードバック制御を行えば、前記積分項の値の増加又は減少を防止することが可能になると想定される。
【0008】
ところが、前記所定値への保持がなければ前記上限値と前記下限値との間にデューティが納まって、本来ならば、上記の制限が不要となる(解除できる)ような場合でも、前記積分項の値が前記所定値に強制的に保持されていれば、前記デューティは、前記上限値以上又は前記下限値以下となって、前記上限値又は前記下限値に設定されてしまうので、上述した制限状態から速やかに復帰(抜け出す)することができないおそれがある。
【0009】
この発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、デューティの上限値及び下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことが可能となるDC/DCコンバータ装置及び該DC/DCコンバータ装置を備える電気車両、並びに、DC/DCコンバータの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るDC/DCコンバータ装置は、
第1電力装置と第2電力装置との間に配置され且つスイッチング素子を有するDC/DCコンバータと、前記スイッチング素子を所定のデューティにて駆動する制御部とを備え、
前記制御部は、
積分動作を含むフィードバック制御により前記デューティを調整し、
今回調整するデューティが所定の上限値よりも大きくなるときに該デューティを前記上限値に制限し、あるいは、前記今回調整するデューティが所定の下限値よりも小さくなるときに該デューティを前記下限値に制限する場合に、前記上限値又は前記下限値に基づいて前記フィードバック制御の積分項を変更することを特徴としている。
【0011】
また、この発明に係るDC/DCコンバータの制御方法は、
積分動作を含むフィードバック制御により所定のデューティを調整し、調整した前記デューティにて、第1電力装置と第2電力装置との間に配置されたDC/DCコンバータのスイッチング素子を駆動する場合に、
今回調整するデューティが所定の上限値よりも大きくなるか、あるいは、該デューティが所定の下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値に基づいて前記フィードバック制御の積分項を変更し、前記デューティを前記上限値又は前記下限値に制限することを特徴としている。
【0012】
これらの発明によれば、前記デューティを前記上限値又は前記下限値に制限する際に、前記デューティが前記上限値又は前記下限値となるように前記積分項を設定し直すので、前記デューティの前記上限値及び前記下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことが可能となる。また、前記上限値又は前記下限値に応じて前記積分項を設定し直すので、前記デューティの制限中に前記積分項の値を所定値に保持することが不要となる。
【0013】
ここで、前記制御部は、比例動作、前記積分動作及び微分動作を含む前記フィードバック制御を行い、前記デューティが前記上限値よりも大きくなるか、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値と前記フィードバック制御の比例項及び微分項との差に基づいて前記積分項を変更することが好ましい。
【0014】
また、前記制御部は、前記フィードバック制御と、前記DC/DCコンバータの前記第1電力装置側の電圧(以下、1次電圧という。)又は前記DC/DCコンバータの前記第2電力装置側の電圧(以下、2次電圧という。)を目標値に設定するためのフィードフォワード制御とを行い、前記デューティが前記上限値よりも大きくなるか、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値と、前記比例項、前記微分項及び前記フィードフォワード制御のフィードフォワード項との差に基づいて前記積分項を変更することが好ましい。
【0015】
さらに、前記1次電圧を制御する1次電圧制御モードと、前記2次電圧を制御する2次電圧制御モードとのうち、少なくとも1つのモードを動作モードとして備えている場合に、前記制御部は、前記1次電圧又は前記2次電圧の目標値に応じた前記デューティが前記上限値よりも大きくなるときに該デューティを前記上限値に制限し、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに該デューティを前記下限値に制限することが好ましい。
【0016】
従って、比例積分微分動作(PID動作)を含む前記フィードバック制御により前記DC/DCコンバータを制御するDC/DCコンバータ装置や、前記フィードバック制御と前記フィードフォワード制御とを併用するDC/DCコンバータ装置や、前記1次電圧制御モード又は前記2次電圧制御モードを前記動作モードとして備えるDC/DCコンバータ装置に、この発明を適用することが可能となる。
【0017】
この発明に係る電気車両は、上述したDC/DCコンバータ装置を備え、前記第1電力装置は、補機に接続され且つ該第1電力装置側の電圧を発生する蓄電装置であり、前記第2電力装置は、車輪を回転させる電動機と、駆動回路を介して前記電動機に接続され且つ発電電圧を発生する発電装置とを有し、前記発電電圧又は前記電動機が発電機として動作したときに前記駆動回路に発生する回生電圧を前記第2電力装置側の電圧とすることを特徴としている。
【0018】
前記電気車両に前記DC/DCコンバータ装置を搭載することにより、上述したDC/DCコンバータ装置の効果が容易に得られる。
【0019】
すなわち、前記デューティの制限中は、前記デューティを目標デューティに近づけることができない制限状態であるので、前記デューティの前記上限値又は前記下限値への制限が不要となったときに、前記制限状態から速やかに抜け出すことで、前記第2電力装置側の電圧を速やかに目標電圧に制御することが可能となる。
【0020】
また、前記上限値が前記発電装置における高出力状態での閾値である場合に、前記デューティが前記上限値に長時間保持され続けると、前記発電装置が前記高出力状態に維持され続けるので、該発電装置が劣化するか、あるいは、前記電気車両の効率が低下する原因となる。一方、前記下限値が過電圧状態での閾値である場合に、前記デューティが前記下限値に長時間保持されると、前記過電圧状態が維持され続けるので、前記DC/DCコンバータに接続される部品の劣化や故障の原因となる。
【0021】
従って、前記デューティの前記上限値及び前記下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに抜け出すようにすることで、前記発電装置の劣化や、前記電気車両の効率低下や、前記部品の劣化及び故障を確実に防止することが可能となる。
【0022】
そして、前記発電装置が燃料電池である場合に、前記デューティの前記上限値又は前記下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに抜け出すようにすることで、前記燃料電池を構成するセルの劣化を確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、デューティを上限値又は下限値に制限する際に、前記デューティが前記上限値又は前記下限値となるようにフィードバック制御の積分項を設定し直すので、前記デューティの前記上限値及び前記下限値への制限が不要となったときに、該デューティの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことが可能となる。また、前記上限値又は前記下限値に応じて前記積分項を設定し直すので、前記デューティの制限中に前記積分項の値を所定値に保持することが不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、この発明の一実施形態に係るハイブリッド直流電源システム10が適用された一実施形態に係る燃料電池車両(電気車両)20の回路図である。
【0026】
ハイブリッド直流電源システム10は、基本的には、エネルギストレージでありバッテリ電圧Vbatを発生する蓄電装置(以下、バッテリともいう。)24(第1電力装置)と、このバッテリ電圧Vbatより高い電圧である発電電圧Vfを発生する発電装置としての燃料電池22(第2電力装置)と、バッテリ24と燃料電池22との間に配置され電圧変換するDC/DCコンバータ36と、統括制御部56(上位制御部)から供給される電圧指令値に応じてDC/DCコンバータ36の電圧制御目標値を設定し、バッテリ24と燃料電池22との間での前記電圧変換を制御するコンバータ制御部54とから構成される。
【0027】
ここで、コンバータ制御部54とDC/DCコンバータ36とは、バッテリ24が接続される1次側1Sと、燃料電池22及びモータ26(インバータ34)が接続される2次側2Sとの間で、昇降圧の電圧変換を行うDC/DCコンバータ装置{VCU(Voltage Control Unit)という。}23を構成する。
【0028】
燃料電池車両20は、前記のハイブリッド直流電源システム10と、このハイブリッド直流電源システム10からモータ電流Im(電力)がインバータ(駆動回路)34を通じて供給される負荷としての走行用のモータ26(電動機)と、から構成される。
【0029】
モータ26の回転は、減速機12、シャフト14を通じて車輪16に伝達され、車輪16を回転させる。
【0030】
燃料電池22は、例えば、固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで両側から挟み込んで形成されたセルを積層したスタック構造である。燃料電池22には、水素タンク28とエアコンプレッサ30とが配管により接続されている。燃料電池22内で反応ガスである水素(燃料ガス)と空気(酸化剤ガス)との電気化学反応により生成された発電電流Ifは、電流センサ32及びダイオード(ディスコネクトダイオードともいう。)33を介して、インバータ34及び(又は)DC/DCコンバータ36側に供給される。
【0031】
インバータ34は、直流/交流変換を行い、モータ電流Imをモータ26に供給する一方、回生動作に伴う交流/直流変換後のモータ電流Imを2次側2SからDC/DCコンバータ36を通じて1次側1Sに供給する。
【0032】
この場合、回生電圧又は発電電圧Vfである2次電圧V2がDC/DCコンバータ36により低電圧に変換された1次電圧V1は、ダウンバータ42により降圧されてさらに低電圧とされ、ライト、パワーウインド、ワイパー用電動機等の補機44に補機電流Iauとして供給されると共に、余剰電力があればバッテリ電流Ibat(充電電流Ibc)としてバッテリ24に流し込まれバッテリ24を充電する。
【0033】
1次側1Sに電力ケーブル18を通じて接続されるバッテリ24は、例えば、リチウムイオン2次電池、ニッケル水素2次電池又はキャパシタを利用することができる。この実施形態では、リチウムイオン2次電池を利用している。
【0034】
バッテリ24は、ダウンバータ42を通じて補機44に補機電流Iauを供給すると共に、DC/DCコンバータ36を通じてインバータ34にモータ電流Imを供給するためのバッテリ電流Ibat(放電電流Ibd)を流し出す。
【0035】
なお、インバータ34に供給されるモータ電流Imは、バッテリ電流IbatがVCU23により変換された2次電流I2と発電電流Ifとの合成電流である。
【0036】
バッテリ24の正極側の出力端には、直列にバッテリ短絡保護用のヒューズ25が挿入されている。バッテリ24の負極側の線路と、図1中、1次側1Sが指すバッテリ24の正極側に繋がる線路との間が短絡された場合には、ヒューズ25は、バッテリ24を保護するために溶断する。
【0037】
ダウンバータ42は、出力側に絶縁トランスを有し、補機44の正極側には前記絶縁トランスの2次コイル側の整流電圧が供給され、負極側はシャーシに接地されている。
【0038】
1次側1S及び2次側2Sには、それぞれ平滑用のコンデンサ38、39が設けられている。
【0039】
燃料電池22を含むシステムはFC制御部50により制御され、インバータ34とモータ26とを含むシステムはインバータ駆動部を含むモータ制御部52により制御され、DC/DCコンバータ36を含むシステムはコンバータ駆動部を含むコンバータ制御部54により、それぞれ基本的に制御される。
【0040】
そして、これらFC制御部50、モータ制御部52及びコンバータ制御部54は、燃料電池22の総負荷量Lt等を決定する上位制御部としての統括制御部56により制御される。
【0041】
統括制御部56、FC制御部50、モータ制御部52及びコンバータ制御部54は、それぞれCPU、ROM、RAM、タイマの他、A/D変換器、D/A変換器等の入出力インタフェース、並びに、必要に応じてDSP(Digital Signal Processor)等を有している。
【0042】
統括制御部56、FC制御部50、モータ制御部52及びコンバータ制御部54は、車内LANであるCAN(Controller Area Network)等の通信線70を通じて相互に接続され、各種スイッチ及び各種センサからの入出力情報を共有し、これら各種スイッチ及び各種センサからの入出力情報を入力として各CPUが各ROMに格納されたプログラムを実行することにより各種機能を実現する。
【0043】
ここで、車両状態を検出する各種スイッチ及び各種センサとしては、発電電流Ifを検出する電流センサ32の他、1次電圧V1(バッテリ電圧Vbatに等しい。)を検出する電圧センサ61、1次電流I1{バッテリ電流Ibat(放電電流Ibd又は充電電流Ibc)}を検出する電流センサ62、2次電圧V2(ディスコネクトダイオード33が導通しているとき、略燃料電池22の発電電圧Vfに等しい。)を検出する電圧センサ63、2次電流I2を検出する電流センサ64、通信線70に接続されるイグニッションスイッチ(IGSW)65、アクセルセンサ66、ブレーキセンサ67、車速センサ68、及び上記したライト、パワーウインド、ワイパー用電動機等の補機44の操作部55等がある。
【0044】
統括制御部56は、燃料電池22の状態、バッテリ24の状態、モータ26の状態、及び補機44の状態の他、各種スイッチ及び各種センサからの入力(負荷要求)に基づき決定した燃料電池車両20の総負荷要求量Ltから、燃料電池22が負担すべき燃料電池分担負荷量(要求出力)Lfと、バッテリ24が負担すべきバッテリ分担負荷量(要求出力)Lbと、回生電源が負担すべき回生電源分担負荷量Lrとの配分(分担)を調停しながら決定し、FC制御部50、モータ制御部52及びコンバータ制御部54に指令を送出する。
【0045】
DC/DCコンバータ36は、バッテリ24と、燃料電池22又は回生電源(インバータ34とモータ26)との間に接続される、上アーム素子(上アームスイッチング素子81と並列ダイオード83)と下アーム素子(下アームスイッチング素子82と並列ダイオード84)とからなる相アーム(単相アーム)UAと、リアクトル90とから構成される。
【0046】
上アームスイッチング素子81と下アームスイッチング素子82とは、それぞれ例えば、MOSFET又はIGBT等で構成される。
【0047】
リアクトル90は、DC/DCコンバータ36により1次電圧V1と2次電圧V2との間で電圧を変換する際に、エネルギを放出及び蓄積するために、前記上アーム素子及び前記下アーム素子の接続点とバッテリ24との間に挿入されている。
【0048】
上アームスイッチング素子81は、コンバータ制御部54から出力される駆動信号(駆動電圧)UHによりオン又はオフされ、下アームスイッチング素子82は、駆動信号(駆動電圧)ULによりオン又はオフされる。
【0049】
1次電圧V1、代表的には、負荷が接続されていないときのバッテリ24の開放電圧OCV(Open Circuit Voltage)は、図2の燃料電池出力特性(電流電圧特性)91上に示すように、この燃料電池22の発電電圧Vfの最低電圧Vfminより高い電圧に設定されている。なお、図2において、バッテリ24の開放電圧OCVをOCV≒V1と描いている。
【0050】
2次電圧V2は、燃料電池22が発電動作しているときには燃料電池22の発電電圧Vfに等しい電圧にされる。
【0051】
ただし、燃料電池22の発電電圧Vfがバッテリ24の電圧Vbat(=V1)に等しくなったときには、図2に一点鎖線の太線で示す直結状態とされる。
【0052】
直結状態では、上アームスイッチング素子81に供給される駆動信号UHのデューティが、例えば100[%]にされ、下アームスイッチング素子82の駆動信号ULのデューティは、例えば0[%]にされる。直結状態において、2次側2Sから1次側1Sへ電流が流れる充電方向(回生方向)の場合には、上アームスイッチング素子81を通じて電流が流れ、1次側1Sから2次側2Sへ電流が流れる力行方向の場合には、ダイオード83を通じて電流が流れる。
【0053】
従って、この直結状態では、DC/DCコンバータ36では電圧変換がなされない。なお、上述したように、厳密には、下アームスイッチング素子82が最小オン時間以上の時間オン駆動されないと、実際に下アームスイッチング素子82がオンにならないので、下アームスイッチング素子82が最小オン時間より短いオン時間で駆動された場合には、駆動信号ULのデューティが0[%](駆動信号UHのデューティが100[%])になる前に直結状態となる。
【0054】
ここで、VCU23による燃料電池22の出力制御について説明する。
【0055】
水素タンク28からの燃料ガス及びエアコンプレッサ30からの圧縮空気が供給されている発電時に、燃料電池22の発電電流Ifは、図2に示した特性91{関数F(Vf)という。}上で2次電圧V2、すなわち、発電電圧Vfをコンバータ制御部54によりDC/DCコンバータ36を通じて設定することにより決定される。つまり、発電電流Ifは、発電電圧Vfの関数F(Vf)値として決定される。If=F(Vf)であり、例えば発電電圧VfをVf=Vfa=V2と設定すれば、その発電電圧Vfa(V2)の関数値としての発電電流Ifaが決定される。{Ifa=F(Vfa)=F(V2)}。
【0056】
具体的に、燃料電池22は、発電電圧Vfの減少に応じて流し出される電流である発電電流Ifが増加し、発電電圧Vfの増加に応じて流し出される発電電流Ifが減少する。
【0057】
このように、燃料電池22は、2次電圧V2(発電電圧Vf)を決定することにより発電電流Ifが決定されるので、燃料電池車両20等、燃料電池22を含むシステムでは、通常時には、DC/DCコンバータ36の2次側2Sの2次電圧V2(発電電圧Vf)が、コンバータ制御部54を含むVCU23のフィードバック制御の電圧制御目標値V2tar(図3参照)に設定される。すなわち、VCU23により燃料電池22の出力(発電電流If)が制御される。以上が、VCU23による燃料電池22の出力制御の説明である。
【0058】
図3は、2次電圧制御モード時(電圧制御目標値V2tar)におけるコンバータ制御部54の機能ブロック図である。
【0059】
この2次電圧制御モードでは、統括制御部56で演算された2次電圧指令値V2comが制限部102に供給される。制限部102は、2次電圧指令値V2comが時間的にステップ状に変化する場合(図5A及び図6Aの特性122)に、レートリミット機能により電圧制御目標値V2tarに変換し(図5A及び図6Aの特性124)、変換した電圧制御目標値V2tarを演算点104に加算信号として供給すると共に、演算点110に除算信号として供給する。
【0060】
また、電圧センサ61(図1参照)で検出された1次電圧V1が演算点110に乗算信号として供給され、一方で、電圧センサ63で検出された2次電圧V2が演算点104に減算信号として供給される。
【0061】
演算点104は、電圧制御目標値V2tarと、2次電圧V2との偏差e(e=V2−V2tar)を、PID演算部106のPID処理部114に出力する。PID処理部114は、比例(P)、積分(I)、微分(D)動作部であり、偏差eをデューティの補正値である補正デューティΔDに変換し、変換した補正デューティΔDを加算信号として演算点108に供給する。なお、補正デューティΔDは、下記の(1)式に示すように、P項成分による補正デューティΔDpと、I項成分による補正デューティΔDiと、D項成分による補正デューティΔDdとの合成値である。
ΔD=ΔDp+ΔDi+ΔDd (1)
【0062】
演算点110は、1次電圧V1から電圧制御目標値V2tarを除して得られる基準デューティDs(Ds=V1/V2tar)を加算信号として演算点108に供給する。
【0063】
演算点108は、一方の入力である補正デューティΔDと、他方の入力である基準デューティDsとを加算して、加算結果としての駆動デューティD(D=Ds+ΔD=V1/V2tar+ΔD)をPWM処理部112に出力し、PWM処理部112は、駆動デューティDに基づき、上アームスイッチング素子81に駆動デューティDH(DH=V1/V2tar+ΔD)の駆動信号UHを供給すると共に、下アームスイッチング素子82に駆動デューティDL{DL=1−(V1/V2tar+ΔD)}の駆動信号ULを供給する。
【0064】
この場合、PWM処理部112は、駆動デューティDHが所定の上限値(例えば、80[%])以上となる場合には、該駆動デューティDHを前記上限値に制限し、一方で、駆動デューティDLが所定の下限値(例えば、20[%])以下となる場合には、該駆動デューティDLを前記下限値に制限する。この場合、PWM処理部112は、前記上限値又は前記下限値を示すリミット値通知信号SlをPID演算部106のI項再設定処理部116に出力する。なお、前記上限値とは、例えば、前述した80[%]の駆動デューティDHであり、前記下限値とは、20[%]の駆動デューティDLである。
【0065】
I項再設定処理部116は、リミット値通知信号Slの入力に基づいて、駆動デューティDHが前記上限値に制限されたか、あるいは、駆動デューティDLが前記下限値に制限されたと判断し、補正デューティΔDのI項成分である補正デューティΔDiについて再設定処理を行う。
【0066】
すなわち、I項再設定処理部116は、リミット値通知信号Slの示す前記上限値又は前記下限値(以下、リミット値ともいう。)とに基づいて、PID処理部114にて今回算出する補正デューティΔDが前記リミット値となるように(今回のΔD=リミット値)、今回のΔDのI項成分(今回のΔDi)を逆算して求め、求めた今回のΔDiをPID処理部114での今回のPID動作(補正デューティΔDの算出)におけるI項成分として該PID処理部114に出力(再設定)する。
【0067】
PID処理部114は、入力された補正デューティΔDiを、今回のI項成分とみなして補正デューティΔDの算出処理を行う。従って、PID処理部114から出力される今回の補正デューティΔDは、前記リミット値に応じた補正デューティΔDとなる。
【0068】
ここで、I項再設定処理部116からPID処理部114に再設定される今回の補正デューティΔDi、PID処理部114から演算点108に出力される今回の補正デューティΔD、及び、演算点108にて算出される今回の駆動デューティD(=DH)は、下記の(2)式〜(4)式でそれぞれ表わされる。なお、「今回のDs」とは、演算点108に今回のΔDが入力されたときに、該演算点108に入力される基準デューティDsをいう。
今回のΔDi=(リミット値)−(今回のΔDp)−(今回のΔDd)
−(今回のDs) (2)
(今回のΔD)=(今回のΔDp)+{(2)式のΔDi}
+(今回のΔDd)
=(今回のΔDp)+{(リミット値)−(今回のΔDp)
−(今回のΔDd)−(今回のDs)}+(今回のΔDd)
=(リミット値)−(今回のDs) (3)
(今回のD)=(今回のΔD)+(今回のDs)
={(リミット値)−(今回のDs)}+(今回のDs)
=(リミット値) (4)
【0069】
また、電圧センサ61の電圧検出機能の失陥(故障)により、演算点110に1次電圧V1が入力されず、従って、コンバータ制御部54における制御がフィードバック制御のみとなる場合に、上記の(2)式〜(4)式は、次の(5)式〜(7)式に変更される。
今回のΔDi=(リミット値)−(今回のΔDp)−(今回のΔDd)
(5)
(今回のΔD)=(今回のΔDp)+{(5)式のΔDi}
+(今回のΔDd)
=(今回のΔDp)+{(リミット値)−(今回のΔDp)
−(今回のΔDd)}+(今回のΔDd)
=(リミット値) (6)
(今回のD)=(今回のΔD)=(リミット値) (7)
【0070】
なお、I項再設定処理部116は、リミット値通知信号Slの入力がなければ、上記のI項成分(今回のΔDi)の再設定処理を行わないことは勿論である。
【0071】
この実施形態に係る燃料電池車両20は、基本的には以上のように構成され且つ動作するものであり、次に、コンバータ制御部54によるDC/DCコンバータ36の制御に関して、上述の2次電圧制御モードで制御する場合について、図4〜図10を参照しながら説明する。
【0072】
図4のステップS11において、統括制御部56により、それぞれが負荷要求であるモータ26の電力要求と補機44の電力要求とエアコンプレッサ30の電力要求から総負荷要求量Ltが決定(算出)されると、ステップS12において、統括制御部56は、決定した総負荷要求量Ltを出力するための燃料電池分担負荷量Lfと、バッテリ分担負荷量Lbと、回生電源分担負荷量Lrの配分を決定し、FC制御部50、コンバータ制御部54及びモータ制御部52に指令を与える。この場合、コンバータ制御部54には、2次電圧指令値V2comが送出される。
【0073】
次いで、ステップS13において、統括制御部56により決定された燃料電池分担負荷量(実質的に、コンバータ制御部54に対する発電電圧Vfの2次電圧指令値V2comが含まれる。)Lfが通信線70を通じてコンバータ制御部54に指令として送信される。
【0074】
この場合、燃料電池分担負荷量Lfの指令(2次電圧指令値V2com)を受信したコンバータ制御部54は、ステップS14において、基本的に、2次電圧V2、換言すれば、燃料電池22の発電電圧Vfが、統括制御部56から指令された指令電圧V2comとなるように、DC/DCコンバータ36の各アームスイッチング素子81、82の駆動デューティを制御する(2次電圧制御モード)。
【0075】
次に、一例として、駆動信号UHのデューティDHを上限値(例えば、80[%])に制限する場合について、図5A〜図8Cを参照しながら説明する。
【0076】
図5A〜図5C及び図7A〜図7Cは、I項再設定処理部116によるI項成分の再設定処理を行わない場合の1次電圧V1、2次電圧V2、電圧制御目標値V2tar、2次電圧指令値V2com、駆動デューティDH、基準デューティDs、補正デューティΔDi及び補正デューティΔDpの時間的変化を示すグラフである。
【0077】
また、図6A〜図6C及び図8A〜図8Cは、I項再設定処理部116によるI項成分の再設定処理を行った場合の1次電圧V1、2次電圧V2、電圧制御目標値V2tar、2次電圧指令値V2com、駆動デューティDH、基準デューティDs、補正デューティΔDi及び補正デューティΔDpの時間的変化を示すグラフである。
【0078】
さらに、図5A〜図6Cは、駆動デューティDHを前記上限値に制限するときのグラフであり、一方で、図7A〜図8Cは、駆動デューティDHを制限状態から解除するときのグラフである。
【0079】
なお、図5A〜図8Cにおいて、フィードバック制御は、P動作及びI動作であり、D動作は行わないものとして説明する。
【0080】
図5Aに示すように、時刻t1から時刻t2までの時間帯において、時間tの経過に伴って2次電圧指令値V2comの特性122をステップ状に変化させたときに、電圧制御目標値V2tarの特性124は、制限部102(図3参照)の動作により、時間tの変化に対して比較的に滑らかに変化する。この場合、2次電圧V2の特性120は、特性124に略追従して変化する。なお、図5A中、参照数字126は、1次電圧V1の特性を示している。
【0081】
一方、図5B及び図5Cに示すように、時刻t1から時刻t2までの時間帯において、フィードフォワード項である基準デューティDsの特性130は、時間tの経過に伴って、上限値を示す特性132に向かい上昇し、一方で、I項成分の補正デューティΔDiの特性134と、P項成分の補正デューティΔDpの特性136とは、時間tの経過に伴って、僅かに上昇する。この結果、駆動デューティDHの特性128は、時間tの経過に伴って上限値を示す特性132に向かい上昇する。
【0082】
時刻t2にて、駆動デューティDHの特性128が上限値の特性132に到達した際に、補正デューティΔDiの特性134を所定値に保持することにより、該特性128は、時刻t2以降、特性132に保持される(前記上限値に制限される)。この結果、時刻t2以降、2次電圧V2の特性120、2次電圧指令値V2comの特性122及び電圧制御目標値V2tarの特性124も、所定値にそれぞれ制限される。
【0083】
一方、図7A〜図7Cに示すように、時刻t3から時刻t4までの時間帯において、2次電圧V2の特性160が所定値に保持され、駆動デューティDHの特性168が上限値の特性172に制限され、補正デューティΔDiの特性176が所定値に保持されている。また、この時間帯において、2次電圧指令値V2comの特性162及び電圧制御目標値V2tarの特性164は、時間tの経過に伴って上昇し、基準デューティDsの特性170、補正デューティΔDpの特性178、及び、前記上限値に制限する前の駆動デューティDの特性174は、それぞれ、時間tの経過に伴って下降している。
【0084】
そして、時刻t4にて、2次電圧指令値V2comの特性162及び電圧制御目標値V2tarの特性164が2次電圧V2の特性160を上回ると、電圧については、所定値に保持する(制限する)必要性がなくなる。そのため、本来であれば、この時刻t4にて駆動デューティDHの制限状態が解除されることが望ましい。
【0085】
しかしながら、補正デューティΔDiの特性176が所定値に強制的に制限、すなわち、前回値が保持され続けているので、補正デューティΔDi(の特性176)を用いて算出される駆動デューティDの特性174は、時刻t4の時点では、上限値の特性172を上回っている。この結果、駆動デューティDHの特性168は、時刻t4で制限状態から解除されず、駆動デューティDの特性174が特性172を下回る時刻t5まで、制限され続けることになる。
【0086】
すなわち、図5A〜図5C及び図7A〜図7Cのように、補正デューティΔDiの特性134、176を所定値に保持し続けると、2次電圧指令値V2comの特性162及び電圧制御目標値V2tarの特性164が2次電圧V2の特性160を上回っても、駆動デューティDHの制限状態を速やかに解除することができない。なお、図7A中、参照数字166は、1次電圧V1の特性を示している。
【0087】
これに対して、この実施形態では、図6A〜図6Cに示すように、時刻t2以降、駆動デューティDHの特性148が上限値の特性152に制限されるときに、I項再設定処理部116(図3参照)では、特性148が特性152に合致するように、補正デューティΔDi(の特性154)を逆算して求め、求めた補正デューティΔDiをI項成分の再設定値としてPID処理部114に出力するようにしている。
【0088】
そのため、図8A〜図8Cに示すように、時刻t3から時刻t6までの時間帯において、2次電圧V2の特性180が所定値に保持され、駆動デューティDHの特性188が上限値の特性192に制限されている場合に、駆動デューティDの特性194は、前記上限値に略等しくなり、この結果、時刻t6にて、2次電圧指令値V2comの特性182及び電圧制御目標値V2tarの特性184が、2次電圧V2の特性180を上回ると、駆動デューティDの特性194が前記上限値の特性192を下回ることになるので、駆動デューティDH(=D)に対する制限状態を速やかに解除することができる。
【0089】
これは、前述したように、この実施形態では、I項再設定処理部116(図3参照)は、特性148、188、194が特性152、192に合致するように、補正デューティΔDiの特性154、196を逆算して求めているので、特性182、184が特性180を上回ったときに、駆動デューティDHの特性188が速やかに前記上限値の特性192を下回ることができるためである。
【0090】
次に、I項再設定処理部116での再設定処理による効果について、図9及び図10を参照しながら詳細に説明する。
【0091】
図9及び図10は、ある時刻での駆動デューティDHにおける、I項成分(補正デューティΔDi)、P項成分(補正デューティΔDp)、D項成分(補正デューティΔDd)及びフィードフォワード項成分(基準デューティDs)の分担を模式的に示した棒グラフである。なお、図9及び図10では、I項成分を強調するために、駆動デューティDHにおけるI項成分の割合を誇張して図示している。
【0092】
ここで、図9は、図5A〜図5C及び図7A〜図7Cに示す、I項再設定処理部116(図3参照)での再設定処理を行わない場合を図示したものである。
【0093】
この場合、ある瞬間の駆動デューティDHが上限値を上回るので、次の制御周期では、該駆動デューティDHを前記上限値に制限するために、I項成分を所定値に保持して、P項成分、D項成分及びフィードフォワード(F/F)項成分を小さくするように設定する。しかしながら、前記所定値に保持された前記I項成分が不要に大きな値であれば、前記次の制御周期において駆動デューティDHは、再び前記上限値以上となる。すなわち、前記再設定処理を行わない場合では、駆動デューティDHを上述した制限状態から速やかに解除することができない。
【0094】
これに対して、図10は、図6A〜図6C及び図8A〜図8Cに示す、I項再設定処理部116(図3参照)での再設定処理を行った場合を図示したものであり、ある瞬間の駆動デューティDHが上限値を上回るときに、I項再設定処理部116では、この駆動デューティDHのうち、前記上限値以上の部分(図10の左の棒グラフ中、網掛けの部分)を不要分とし、該不要分だけI項成分を削除し、削除することで新たに生成したI項成分(再設定した補正デューティΔDi)をPID処理部114に出力する。この結果、次の制御周期では、駆動デューティDHが上限値を下回ることも可能となり、駆動デューティDHを制限状態から速やかに解除することができる。
【0095】
以上説明したように、上述した実施形態によれば、駆動デューティDHを上限値に制限し、あるいは、駆動デューティDLを下限値に制限する際に、駆動デューティDH、DLが上限値又は下限値となるように補正デューティΔDiを逆算して求める(設定し直す)ので、駆動デューティDH、DLの上限値又は下限値への制限が不要となったときに、該駆動デューティDH、DLの制限状態から速やかに復帰(抜け出す)ことが可能となる。また、上限値又は下限値に応じて補正デューティΔDiを設定し直すので、駆動デューティDH、DLの制限中に補正デューティΔDiの値を所定値に保持することが不要となる。
【0096】
また、前述した(2)式〜(7)式に従って補正デューティΔDi、ΔD及び駆動デューティDを設定することにより、比例積分微分動作(PID動作)を含むフィードバック制御によりDC/DCコンバータ36を制御するVCU23や、フィードバック制御とフィードフォワード制御とを併用するVCU23のような、2次電圧制御モードを動作モードとして備えるVCU23に、この実施形態を適用することが可能となる。
【0097】
さらに、燃料電池車両20にVCU23を搭載することにより、上述したVCU23の効果が容易に得られる。
【0098】
すなわち、駆動デューティDH、DLの制限中は、駆動デューティDH、DLを目標デューティに近づけることができない制限状態であるので、駆動デューティDH、DLの上限値及び下限値への制限が不要となったときに、前記制限状態から速やかに抜け出すことで、2次電圧V2を速やかに電圧制御目標値V2tar(又は2次電圧指令値V2com)に制御することが可能となる。
【0099】
ところで、上限値が燃料電池22における高出力状態(図2における直結状態の領域)での閾値である場合に、駆動デューティDHが上限値に長時間保持され続けると(燃料電池22が前記高出力状態に維持され続けると)、2次電圧V2を電圧制御目標値V2tar(又は2次電圧指令値V2com)に制御できない状態が長時間続くことになり、この結果、燃料電池車両20がガス欠運転の状態となって、燃料電池22内のセルが劣化するか、あるいは、燃料電池22に対して反応ガスが過供給となり、燃料電池車両20の効率が低下するおそれがある。
【0100】
一方、下限値が過電圧状態での閾値である場合に、駆動デューティDLが下限値に長時間保持され続けると(過電圧状態が維持され続けると)、DC/DCコンバータ36に接続される部品(バッテリ24、補機44等)の劣化や故障の原因となる。
【0101】
従って、駆動デューティDH、DLの上限値及び下限値への制限が不要となったときに、該駆動デューティDH、DLの制限状態から速やかに抜け出すようにすることで、燃料電池22のセルの劣化や、燃料電池車両20の効率低下や、前記部品の劣化及び故障を確実に防止することが可能となる。
【0102】
この実施形態は、上記の説明に限定されるものではなく、この明細書及び図面の記載内容に基づき、図11に示す1次電圧制御モードに適用する等、種々の構成に変更することが可能である。
【0103】
図11に示す1次電圧制御モードは、電力ケーブル18(図1参照)の断線故障等によりバッテリ24が開放状態にされる等、バッテリ24が故障とみなされる特殊な場合に行われるものであり、統括制御部56で演算された1次電圧指令値V1comが制限部102にて電圧制御目標値V1tarに変換され、変換された電圧制御目標値V1tarが加算信号として演算点104に供給されると共に、乗算信号として演算点110に供給される。また、1次電圧V1は、演算点104に減算信号として供給される。さらに、2次電圧V2は、演算点110に除算信号として供給される。演算点104は、電圧制御目標値V1tarと、1次電圧V1との偏差e(e=V1tar−V1)を、PID演算部106のPID処理部114に出力し、演算点110は、電圧制御目標値V1tarから2次電圧V2を除して得られる基準デューティDs(Ds=V1tar/V2)を演算点108に出力する。
【0104】
この1次電圧制御モードにおいても、PWM処理部112からI項再設定処理部116に上限値又は下限値を示すリミット値通知信号Slを出力し、I項再設定処理部116は、このリミット値通知信号Slの入力に基づいて、I項成分の再設定処理を行うことにより、前述した2次電圧制御モードと同様の効果を得ることができる。
【0105】
また、この実施形態では、PWM処理部112にて駆動デューティDHを前記上限値に直接制限し、あるいは、駆動デューティDLを前記下限値に直接制限する場合について説明したが、補正デューティΔDを所定の上限閾値又は下限閾値に制限することにより、間接的に、駆動デューティDHを前記上限値に制限し、あるいは、駆動デューティDLを前記下限値に制限することも可能である。
【0106】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書及び図面の記載内容に基づき、単相アームUAのDC/DCコンバータ36に限らず、U相、V相及びW相の3相アームのDC/DCコンバータを有するハイブリッド直流電源を備える燃料電池車両に適用する等、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】この発明の一実施形態に係る燃料電池車両の回路図である。
【図2】燃料電池の電流電圧特性の説明図である。
【図3】2次電圧制御モード時におけるコンバータ制御部の機能ブロック図である。
【図4】コンバータ制御部により駆動制御されるDC/DCコンバータの基本動作についての説明に供されるフローチャートである。
【図5】図5A〜図5Cは、図3のI項再設定処理部による再設定処理を行わない場合のグラフである。
【図6】図6A〜図6Cは、図3のI項再設定処理部による再設定処理を行った場合のグラフである。
【図7】図7A〜図7Cは、図3のI項再設定処理部による再設定処理を行わない場合のグラフである。
【図8】図8A〜図8Cは、図3のI項再設定処理部による再設定処理を行った場合のグラフである。
【図9】駆動デューティにおけるI項成分、P項成分、D項成分及びF/F項成分の分担を模式的に示す棒グラフである。
【図10】駆動デューティにおけるI項成分、P項成分、D項成分及びF/F項成分の分担を模式的に示す棒グラフである。
【図11】1次電圧制御モード時におけるコンバータ制御部の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0108】
10…ハイブリッド直流電源システム 20…燃料電池車両
22…燃料電池 23…VCU
24…バッテリ 26…モータ
34…インバータ 36…DC/DCコンバータ
54…コンバータ制御部 81…上アームスイッチング素子
82…下アームスイッチング素子 106…PID演算部
114…PID処理部 116…I項再設定処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電力装置と第2電力装置との間に配置され、スイッチング素子を有するDC/DCコンバータと、
前記スイッチング素子を所定のデューティにて駆動する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
積分動作を含むフィードバック制御により前記デューティを調整し、
今回調整するデューティが所定の上限値よりも大きくなるときに該デューティを前記上限値に制限し、あるいは、前記今回調整するデューティが所定の下限値よりも小さくなるときに該デューティを前記下限値に制限する場合に、前記上限値又は前記下限値に基づいて前記フィードバック制御の積分項を変更する
ことを特徴とするDC/DCコンバータ装置。
【請求項2】
請求項1記載のDC/DCコンバータ装置において、
前記制御部は、
比例動作、前記積分動作及び微分動作を含む前記フィードバック制御を行い、
前記デューティが前記上限値よりも大きくなるか、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値と前記フィードバック制御の比例項及び微分項との差に基づいて前記積分項を変更する
ことを特徴とするDC/DCコンバータ装置。
【請求項3】
請求項2記載のDC/DCコンバータ装置において、
前記制御部は、
前記フィードバック制御と、前記DC/DCコンバータの前記第1電力装置側の電圧(以下、1次電圧という。)又は前記DC/DCコンバータの前記第2電力装置側の電圧(以下、2次電圧という。)を目標値に設定するためのフィードフォワード制御とを行い、
前記デューティが前記上限値よりも大きくなるか、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値と、前記比例項、前記微分項及び前記フィードフォワード制御のフィードフォワード項との差に基づいて前記積分項を変更する
ことを特徴とするDC/DCコンバータ装置。
【請求項4】
請求項3記載のDC/DCコンバータ装置において、
前記1次電圧を制御する1次電圧制御モードと、前記2次電圧を制御する2次電圧制御モードとのうち、少なくとも1つのモードを動作モードとして備えている場合に、
前記制御部は、前記1次電圧又は前記2次電圧の目標値に応じた前記デューティが前記上限値よりも大きくなるときに該デューティを前記上限値に制限し、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに該デューティを前記下限値に制限する
ことを特徴とするDC/DCコンバータ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のDC/DCコンバータ装置を備え、
前記第1電力装置は、補機に接続され、且つ該第1電力装置側の電圧を発生する蓄電装置であり、
前記第2電力装置は、車輪を回転させる電動機と、駆動回路を介して前記電動機に接続され且つ発電電圧を発生する発電装置とを有し、前記発電電圧又は前記電動機が発電機として動作したときに前記駆動回路に発生する回生電圧を前記第2電力装置側の電圧とする
ことを特徴とする電気車両。
【請求項6】
請求項5記載の電気車両において、
前記発電装置が、燃料電池である
ことを特徴とする電気車両。
【請求項7】
積分動作を含むフィードバック制御により所定のデューティを調整し、調整した前記デューティにて、第1電力装置と第2電力装置との間に配置されたDC/DCコンバータのスイッチング素子を駆動する場合に、
今回調整するデューティが所定の上限値よりも大きくなるか、あるいは、該デューティが所定の下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値に基づいて前記フィードバック制御の積分項を変更し、前記デューティを前記上限値又は前記下限値に制限する
ことを特徴とするDC/DCコンバータの制御方法。
【請求項1】
第1電力装置と第2電力装置との間に配置され、スイッチング素子を有するDC/DCコンバータと、
前記スイッチング素子を所定のデューティにて駆動する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
積分動作を含むフィードバック制御により前記デューティを調整し、
今回調整するデューティが所定の上限値よりも大きくなるときに該デューティを前記上限値に制限し、あるいは、前記今回調整するデューティが所定の下限値よりも小さくなるときに該デューティを前記下限値に制限する場合に、前記上限値又は前記下限値に基づいて前記フィードバック制御の積分項を変更する
ことを特徴とするDC/DCコンバータ装置。
【請求項2】
請求項1記載のDC/DCコンバータ装置において、
前記制御部は、
比例動作、前記積分動作及び微分動作を含む前記フィードバック制御を行い、
前記デューティが前記上限値よりも大きくなるか、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値と前記フィードバック制御の比例項及び微分項との差に基づいて前記積分項を変更する
ことを特徴とするDC/DCコンバータ装置。
【請求項3】
請求項2記載のDC/DCコンバータ装置において、
前記制御部は、
前記フィードバック制御と、前記DC/DCコンバータの前記第1電力装置側の電圧(以下、1次電圧という。)又は前記DC/DCコンバータの前記第2電力装置側の電圧(以下、2次電圧という。)を目標値に設定するためのフィードフォワード制御とを行い、
前記デューティが前記上限値よりも大きくなるか、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値と、前記比例項、前記微分項及び前記フィードフォワード制御のフィードフォワード項との差に基づいて前記積分項を変更する
ことを特徴とするDC/DCコンバータ装置。
【請求項4】
請求項3記載のDC/DCコンバータ装置において、
前記1次電圧を制御する1次電圧制御モードと、前記2次電圧を制御する2次電圧制御モードとのうち、少なくとも1つのモードを動作モードとして備えている場合に、
前記制御部は、前記1次電圧又は前記2次電圧の目標値に応じた前記デューティが前記上限値よりも大きくなるときに該デューティを前記上限値に制限し、あるいは、前記デューティが前記下限値よりも小さくなるときに該デューティを前記下限値に制限する
ことを特徴とするDC/DCコンバータ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のDC/DCコンバータ装置を備え、
前記第1電力装置は、補機に接続され、且つ該第1電力装置側の電圧を発生する蓄電装置であり、
前記第2電力装置は、車輪を回転させる電動機と、駆動回路を介して前記電動機に接続され且つ発電電圧を発生する発電装置とを有し、前記発電電圧又は前記電動機が発電機として動作したときに前記駆動回路に発生する回生電圧を前記第2電力装置側の電圧とする
ことを特徴とする電気車両。
【請求項6】
請求項5記載の電気車両において、
前記発電装置が、燃料電池である
ことを特徴とする電気車両。
【請求項7】
積分動作を含むフィードバック制御により所定のデューティを調整し、調整した前記デューティにて、第1電力装置と第2電力装置との間に配置されたDC/DCコンバータのスイッチング素子を駆動する場合に、
今回調整するデューティが所定の上限値よりも大きくなるか、あるいは、該デューティが所定の下限値よりも小さくなるときに、前記上限値又は前記下限値に基づいて前記フィードバック制御の積分項を変更し、前記デューティを前記上限値又は前記下限値に制限する
ことを特徴とするDC/DCコンバータの制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−268331(P2009−268331A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118517(P2008−118517)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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