説明

GPS受信機および位置検出方法

【課題】コストを増大させることなく、位置検出精度を向上させること。
【解決手段】GPS受信機は、x軸上に並べられたアンテナ素子A0,Axと、x軸に直交するy軸上に並べられたアンテナ素子A0,Ayとを有するアレイアンテナを備え、このアレイアナテナによって受信された衛星信号に基づいて、基準方角に対する衛星信号の到来角度を推定し、推定した到来角度と衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定し、角度差分が基準値未満であった場合に、当該衛星信号を用いて位置検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS受信機および位置検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大都市中心部への過剰な自動車の乗り入れによる交通渋滞、大気汚染などを緩和する対策として、都市部に課金対象エリアを設け、この課金対象エリアに進入する車両に対して一定額の課金を行う、いわゆるロードプライシングが実現されている。
このロードプライシングでは、課金対象エリアの各出入口に、課金用の無線通信装置が設置されたガントリが設けられているとともに、課金対象エリアに進入する車両には、車載器の搭載が義務付けられている。車両がガントリを通過して課金対象エリアに進入すると、課金用の無線通信装置と車載器との間で課金をするために必要となる情報の授受が行われ、電子的な手段によって車両に対する課金処理が行われる。
また、上述したように、ガントリと車載器との間で課金処理を行う方法のほか、例えば、車載器にGPS受信機を設け、このGPS受信機によって車両の位置を検出し、この車両の位置を地上波通信により総合センタへ送信し、総合センタにおいて車両が課金対象領域に侵入したか否かを判定して課金を行う課金システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3365296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、GPS受信機は、複数のGPS衛星から衛星信号を受信し、これら衛星信号から自己の位置を検出する装置である。
以下、GPS受信機における一般的な位置検出方法について図を参照して説明する。
図5は、GPS受信機での信号処理について説明するための説明図である。
まず、GPS衛星では、1575.25MHzの正弦波である搬送波を1.023MHzのPNコードで変調し、これを衛星信号として送信する。
GPS受信機は、この衛星信号を受信すると、この衛星信号に、遅延させたPNコードを乗算することにより衛星信号を復調する。ここで、PNコードの遅延量φが正しければ、このPNコードにより復調された衛星信号は、1575.25MHzの正弦波である搬送波と一致することとなり、図6に示すように、復調後の衛星信号と1575.25MHzの正弦波である搬送波との相関値は最大値Rmaxを示す。
【0004】
これに対し、遅延量が正確な遅延量φから徐々にずれると、復調後の衛星信号と1575.25MHzの正弦波である搬送波との相関値は最大値Rmaxから徐々に低下し、1チップ分ずれたところで、相関値は0(ゼロ)を示す。これにより、図6に示すように、遅延量と相関値との関係は、正しい遅延量φにおいて最大値Rmaxを持つ三角形状の特性を有することとなる。
【0005】
このような遅延量φにおける左右対称性に着目し、GPS受信機では、図6に示すように、復調後の衛星信号と搬送波との相関値が所定の基準値Rとなるときの遅延量φ1とφ2とを求め、この遅延量φ1とφ2との中間値を正確な遅延量φとみなし、この遅延量φを用いて衛星までの距離(以下「疑似距離」という。)を演算する。
【0006】
ここで、疑似距離Lは、以下の(1)式により求めることが可能である。
L=(相関値が最大Rmaxとなる遅延量φ)*(PNコードの1波長) (1)
【0007】
上述のように、GPS受信機は、少なくとも3つの衛星から受信した衛星信号に基づいてそれぞれの疑似距離Lを算出し、この疑似距離Lを用いて位置を検出するものであるが、ビル等が多い都市部にて位置検出を行う場合、衛星信号を受信できる衛星の数が減少する上、図7に示すように、ビルなどによって衛星信号が反射されることにより、疑似距離Lが実際の距離(例えば、直接波により求められる疑似距離)よりも長くなってしまい、疑似距離Lの検出精度が低下するという問題がある。
【0008】
図8及び図9は、ビル等によって衛星信号が反射された後に受信された場合の相関値(以下、「反射波相関値」という。)の一例と、ビル等に衛星信号が反射されることなく直接的に受信された場合の相関値(以下、「直接波相関値」という。)の一例とを比較して示した図であり、図8は、直接波と反射波とが同相の場合、図9は直接波と反射波とが逆相の場合を示している。
【0009】
このように、反射波と直接波とでは、最大相関値を示すときの遅延量にずれが生ずるため、これらの衛星信号に基づいて算出される疑似距離Lには、誤差が含まれることがわかる。このように、疑似距離Lに誤差が含まれると、これらの疑似距離Lを用いて検出された位置には、百m以上の誤差が生ずるおそれがある。
位置検出の誤差が大きいと、課金対象エリアの境界付近を走行している車両に対して誤った課金をしてしまうという問題がある。
これに対し、GPS受信機における位置検出の精度を向上させる技術として、DGPSが知られている。このDGPSは、地球の周り電離層や、衛星の軌道ずれ等による擬似距離の誤差を補正することが出来る。しかしながら、上述のようなビル等による反射波による擬似距離の誤差を補正することはできないとう問題がある。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、コストを増大させることなく、位置検出精度を向上させることのできるGPS受信機及び位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、第1の軸上に並べられたアンテナ素子と、前記第1の軸に交わる第2の軸上に並べられたアンテナ素子とを有するアレイアンテナを備えるGPS受信機を提供する。
【0012】
このような構成によれば、第1の軸上に並べられたアンテナ素子により受信される衛星信号と、第2の軸上に並べられたアンテナ素子により受信される衛星信号とを比較することにより、ビル等によって反射されて受信された衛星信号であるのか、或いは、ビル等に反射されることなく受信された衛星信号であるのかを判別することが可能となる。
【0013】
上記GPS受信機は、基準方角に対する前記衛星信号の到来角度を推定し、推定した前記到来角度と前記衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定し、前記角度差分が前記基準値未満であった場合に、当該衛星信号を用いて位置検出を行うこととしてもよい。
【0014】
このような構成によれば、基準方角(例えば、真北)に対する衛星信号の到来角度を推定し、推定した到来角度と衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定する。ここで、例えば、衛星からの衛星信号がビル等によって反射された後に受信された場合、疑似距離は実際の距離よりも長くなり、誤差が含まれることとなる。このため、衛星信号の到来角度と軌道情報から求められる到来角度との間には、基準値以上の誤差が生ずることとなる。従って、衛星信号の到来角度と軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値を超えた場合には、この衛星信号はビル等により反射された衛星信号である可能性が高いとして、位置検出に用いる衛星信号から除外し、一方、該角度差分が基準値未満であった場合には、ビル等に反射されることなく直接的に受信された信号であると判断する。本発明によれば、このように直接的に受信された衛星信号のみを用いて位置検出を行うので、位置検出の精度を向上させることが可能となる。
【0015】
上記GPS受信機は、例えば、前記第1の軸と前記衛星とを含む平面内における第1の仰角を求めるとともに、前記第2の軸と前記衛星とを含む平面内における第2の仰角を求め、前記第1の仰角および前記第2の仰角ならびに基準方角に対する前記アレイアンテナの設置角度を用いて、前記基準方角に対する前記衛星信号の到来角度を推定することとしてもよい。
【0016】
更に、上記GPS受信機は、例えば、各前記アンテナ素子により受信された前記衛星信号と位相をずらしたPNコードとの相関により、各前記アンテナ素子から前記衛星までの距離をそれぞれ求め、この距離の差分に基づいて前記第1の仰角および前記第2の仰角を求めることとしてもよい。
【0017】
上記GPS受信機において、同軸上に配置された各前記アンテナ素子については、共通の位相ずれ量を持つ前記PNコードを用いて前記衛星までの距離をそれぞれ求めることとしてもよい。
このように、同軸上に配置されたアンテナ素子については、共通の位相ズレ量を持つPNコードを用いて衛星までの距離をそれぞれ求める、より具体的には、衛星信号を共通の位相ズレ量を持つPNコードを用いて復調し、復調後の衛星信号と搬送波との相関値に基づいて疑似距離をそれぞれ求める。この結果、異なる位相ズレ量を持つPNコードを用いて疑似距離を求める場合に比べて、アレイアンテナの大型化を防止しつつ、低廉な価額で、かつ、位置検出の精度向上を図ることが可能となる。
【0018】
上記GPS受信機は、複数の衛星から衛星信号をそれぞれ受信し、基準方角を0°から360°まで連続的にまたは断続的に変位させたときの各前記基準方角に対する前記衛星信号の到来角度をそれぞれ求め、前記基準方角毎に、前記衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分を算出し、同一の前記基準方角における各前記衛星信号の前記角度差分を積算することにより、前記基準方角毎に積算角度差分を算出し、前記積算角度差分が最小となるときの前記基準方角を真の基準方角として特定し、前記衛星信号毎に、前記真の基準方角に対する前記衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定し、前記角度差分が基準値未満である前記衛星信号に基づいて位置を検出することとしてもよい。
【0019】
このような構成によれば、複数の衛星から衛星信号をそれぞれ受信し、基準方角を0°から360°まで連続的に、又は、断続的に変位させたときの各基準方角に対する衛星信号の到来角度をそれぞれ求める。続いて、基準方角ごとに、衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分を算出する。これにより、各基準方角における角度差分が、衛星信号毎に求められることとなる。
続いて、同一の基準方角毎に各衛星信号の角度差分を積算することにより、積算角度差分を基準方角毎に求め、この積算角度差分が最小となる基準方角を特定する。そして、この基準方角を真の基準方角(例えば、真北)とみなし、この真の基準方角に対する各衛星信号の到来角度と、軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満か否かを、衛星信号毎に判断する。この結果、角度差分が基準値未満である衛星信号については、ビル等に反射されることなく直接的に受信された信号である可能性が高いと判断し、このような信号のみを用いて位置検出を行うことで、位置検出の精度向上を図ることができる。
【0020】
上記GPS受信機は、例えば、車載器に搭載されるのに好適である。
本発明は、上記GPS受信機を搭載する車載器によって検出された車両の位置情報を受信し、該位置情報に基づいて前記車両が課金対象エリアに進入したか否かを判定し、前記課金対象エリアに進入していると判定した場合に課金を行う課金システムを提供する。
【0021】
本発明は、第1の軸上に並べられたアンテナ素子と、該第1の軸に交わる第2の軸上に並べられたアンテナ素子とを有するアレイアンテナによって衛星から送信される衛星信号を受信する過程と、基準方角に対する前記衛星信号の到来角度を推定する過程と、推定した前記到来角度と前記衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定する過程と、前記角度差分が前記基準値未満である前記衛星信号を用いて位置を検出する過程とを有する位置検出方法を提供する。
【0022】
本発明は、第1の軸上に並べられたアンテナ素子と、該第1の軸に交わる第2の軸上に並べられたアンテナ素子とを有するアレイアンテナによって複数の衛星から送信される衛星信号を受信する過程と、基準方角を0°から360°まで連続的にまたは断続的に変位させたときの各前記基準方角に対する前記衛星信号の到来角度をそれぞれ求める過程と、前記基準方角毎に、前記衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分を算出する過程と、同一の前記基準方角における各前記衛星信号の前記角度差分を積算することにより、前記基準方角毎に積算角度差分を算出する過程と、前記積算角度差分が最小となるときの前記基準方角を真の基準方角として特定する過程と、前記衛星信号毎に、前記真の基準方角に対する前記衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定する過程と、前記角度差分が基準値未満である前記衛星信号に基づいて位置を検出する過程とを有する位置検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、コストを増大させることなく、位置検出精度を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に係るGPS受信機及び位置検出方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係るGPS受信機が備えるアレイアンテナを示した図である。
図1に示すように、アレイアンテナは、x軸(第1の軸)上に並べられたアンテナ素子A0,Axと、x軸に直交するy軸(第2の軸)上に並べられたアンテナ素子A0,Ayとを備えている。本実施形態では、第1の軸と第2の軸とが直交している場合を例示して説明するが、これらの軸は互いに交わっていればよく、直交している場合に限定されない。また、アンテナ素子は、3つ以上備えられていればよく、3つの場合に限定されない。アンテナ素子A0,Ax,Ayは、例えば、パッチアンテナである。
【0025】
図2は、GPS受信機の概略構成を示したブロック図である。
図2に示すようにGPS受信機は、各アンテナ素子A0,Axに対してそれぞれ設けられる信号処理部1a,1b、及び信号処理部1a,1bからの衛星信号が与えられ、これらに基づいて位置検出処理等を行うCPU2を主な構成として備えている。
なお、図2において、図1に示したアンテナ素子Ayが図示されていないが、アンテナ素子Ayに対しても、アンテナA0,Axと同様の構成を備える信号処理部が設けられているとともに、その信号処理部からCPUに信号が出力される構成とされている。
【0026】
アンテナ素子A0に対応する信号処理部1aは、位相をずらしたPNコードを生成するPNコード発生器11a、アンテナ素子A0により受信された衛星信号とPNコード発生器11aにより生成されたPNコードとを乗算する乗算器12a、乗算器12aからの信号の相関をとる相関器13aを備えている。
信号処理部1bは、PNコードを生成するPNコード発生器11b、アンテナ素子Axにより受信された衛星信号とPNコード発生器11bにより生成されたPNコードとを乗算する乗算器12b、乗算器12bからの信号の相関をとる相関器13bを備えている。
相関器13a,13bからの出力は、CPU2に与えられ、CPU2において、各アンテナ素子A0,Axから衛星Sまでの擬似距離等がそれぞれ算出されるようになっている。
【0027】
相関器13aは、例えば、図3に示すように、I(同相)チャネルの搬送波が与えられ、Iチャネルの搬送波を復調後の衛星信号に乗算して出力する乗算器21と、乗算器21からの信号を積算し、相関信号I0として出力する積算器22と、Q(直交)チャネルの搬送波が与えられ、Qチャネルの搬送波を復調後の衛星信号に乗算して出力する乗算器23と、乗算器23からの信号を積算し、相関信号Q0として出力する積算器24とを備えている。また、相関器13bも同様の構成を備えており、相関信号Ixと相関信号QxとがCPU2に出力されるようになっている。
なお、上述した信号処理部1a,1bの構成は公知の構成を採用することが可能であり、詳しい説明は省略する。
【0028】
このような構成を備えるGPS受信機において、アンテナA0により受信された衛星信号は、乗算器12aに与えられる。乗算器12aでは、PNコード発生器11aにより生成された所定の位相ずれ量を有するPNコードが衛星信号に乗算されることにより復調され、復調後の衛星信号が相関器13aに出力される。相関器13aでは、復調後の衛星信号に対して同相チャネルの搬送波および直交チャネルの搬送波がそれぞれ乗算器21,23において乗算され、これらの各積算値が相関信号I0、相関信号Q0として相関器22,24から出力される。
また、アンテナAxにより受信された衛星信号においても、同様の手順により相関信号Ixおよび相関信号Qxが求められ、CPU2に出力される。
【0029】
CPU2は、相関信号I0,Q0,Ix,Qxを入力情報として受け付けると、これらの信号に基づいて相関値(I0+Q0,Ix+Qx)が最大となるPNコードの位相ズレ量(遅延量φ)を求め、この位相ズレ量に基づいて疑似距離L0,Lxを算出する。
続いて、図2に示すように、アンテナ素子A0による疑似距離L0と、アンテナ素子Axによる疑似距離Lxとの差分からアンテナ素子A0,Axおよび衛星Sを含む平面内での仰角αxを求める。仰角αxは以下の(2)式にて表される。
【0030】
αx=cos−1((L0−Lx)/dx) (2)
上記(2)式において、dxは、図1に示すように、アンテナ素子A0,Ax,Ayを含む平面内でのアンテナ素子A0とAxとの距離である。なお、dxはPNコードの1波長よりも小さい値に設定することが求められる。
【0031】
同様に、CPU2は、y軸上に並べられたアンテナ素子Ayについても同様の手順に基づいて、衛星Sまでの疑似距離Lyを求め、上記アンテナ素子A0における疑似距離L0との差分からアンテナ素子A0,Ayおよび衛星Sを含む平面内での仰角αyを求める。仰角αyは以下の(3)式にて表される。
【0032】
αy=cos−1((L0−Ly)/dy) (3)
上記(3)式において、dyはアンテナ素子A0,Ax,Ayを含む平面内でのアンテナ素子A0とAyとの距離である。なお、dyはPNコードの1波長よりも小さい値に設定することが求められる。
【0033】
続いて、CPU2は、上記仰角αx,αyを用いて相対的な仰角φa´および相対的な方位角θa´を算出する。
続いて、CPU2は、GPS受信機が搭載されている車両の車両方位検出手段からの角度情報を用いて、真北に対する現在のアレイアンテナの配置角度を計算し、この配置角度を用いて相対的な仰角φa´および相対的な方位角θa´を補正することによって、真北に対する電波の到来角度、即ち、真北を原点としたときの絶対的な仰角φaおよび絶対的な方位角θaを求める。
【0034】
上記車両方位検出手段としては、例えば、方位磁石、ジャイロスコープのような角速度検出手段の積分値等が一例として挙げられる。
続いて、CPU2は、上述した手順により求めた到来角度(φa,θa)と、衛星から受信した軌道情報(エフェメリス)を用いて計算した到来角度(φe,θe)との角度差分を算出し、これらの角度差分が基準値(例えば、90°)以上であるか否かを判定する。
つまり、以下の(4)及び(5)の条件を満たすか否かを判定する。
|φa−φe|<φref (4)
|θa−θe|<θref (5)
【0035】
この結果、CPU2は、上記(4)かつ(5)の条件を満たしていた場合には、衛星Sから受信した衛星信号は、ビル等に反射された信号ではなく、直接的に受信された信頼性の高い信号であるとみなして、この衛星信号に基づいて算出された疑似距離(例えば、疑似距離L0)を位置検出に使用可能と判断する。
一方、上記(4)かつ(5)の条件を満たしていない場合には、衛星Sから受信した衛星信号は、ビル等に反射された電波である可能性が高く、信頼性が低い信号であるとみなして、位置検出に用いる衛星信号からこの衛星信号を除外する。
【0036】
以上、説明してきたように、本実施形態に係るGPS受信機及び位置検出方法によれば、x軸上に並べられたアンテナ素子A0,Axにより受信される衛星信号と、y軸上に並べられたアンテナ素子A0,Ayにより受信される衛星信号に基づいて、衛星信号の到来角度(φa,θa)を求め、この到来角度(φa,θa)と衛星から受信した軌道情報(エフェメリス)を用いて計算した到来角度(φe,θe)との角度差分を算出する。そして、これらの角度差分が基準値(例えば、90°)以上であった場合に、ビル等によって反射されて受信された衛星信号である可能性が高いと判断して、この衛星信号を位置検出に用いる衛星信号から除外するので、直接波の可能性が高い衛星信号のみを用いて位置検出を行うことが可能となる。
【0037】
これにより、位置検出精度を向上させることができる。
そして、このようなGPS受信機を車載器に搭載し、ロードプライシング等のような課金システムに利用することにより、課金対象エリアへの進入の有無の判断精度を向上させることができる。
【0038】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について、図を用いて説明する。
本実施形態のGPS受信機及び位置検出方法が第1の実施形態と異なる点は、図4に示すように、各信号処理部1a,1bにおいて、共通のPNコード発生器11により生成されたPNコードを用いて各衛星信号を復調する点である。
以下、本実施形態のGPS受信機及び位置検出方法について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0039】
図4に示すように、本実施形態に係るGPS受信機では、共通のPNコード発生器11により生成されたPNコードが、各アンテナ素子の信号処理部1a,1bにおける乗算器12a,12bにそれぞれ与えられる。
乗算器12a,12bにより位相がずれた共通のPNコードが乗算されることによって復調された衛星信号は、それぞれの相関器13a,13bに入力されることにより、相関信号I0,Q0,Ix,Qxがそれぞれ算出され、CPU2´に与えられる。
【0040】
CPU2´は、相関信号I0,Q0,Ix,Qxを用いて、以下の(6)式に基づいて電波の位相差Δβxを求め、更に、この位相差Δβxおよび(7)式を用いてアンテナ素子A0,Axおよび衛星Sを含む平面内での仰角αxを求める。
【0041】
Δβ=atan2(I0,Q0)−atan2(Ix,Qx) (6)
αx=cos−1(Δβ・λ/2πdx) (7)
ここで、上記atan2(I0,Q0)は、複素数I0+iQ0の主偏角の逆正接である。
上記(7)式において、dyはアンテナ素子A0,Ax,Ayを含む平面内でのアンテナ素子A0とAxとの距離である。なお、dxは搬送波の1波長よりも小さい値に設定することが求められる。
【0042】
同様に、CPU2´は、y軸上に並べられたアンテナ素子Ayについても同様の手順に基づいて、位相差Δβyを求め、この位相差Δβyおよび(8)式を用いてアンテナ素子A0,Ayおよび衛星Sを含む平面内での仰角αyを求める。
αy=cos−1(Δβ・λ/2πdy) (8)
上記(8)式において、dyはアンテナ素子A0,Ax,Ayを含む平面内でのアンテナ素子A0とAyとの距離である。なお、dyは搬送波の1波長よりも小さい値に設定することが求められる。
【0043】
そして、CPU2´は、上記仰角αx,αyおよび車両の車両方位検出手段からの角度情報を用いて、真北を原点としたときの絶対的な仰角φaおよび絶対的な方位角θaを求め、これに基づいて当該衛星Sからの衛星信号を位置検出に用いるか否かを決定し、位置検出に使用可能と判断した衛星信号のみを用いて位置検出を行う。
【0044】
以上、説明してきたように、本実施形態に係るGPS受信機及び位置検出方法によれば、同軸上に配置されているアンテナ素子においては、同じ位相ズレ量のPNコードを用いて衛星信号を復調する。このように、同一の遅延量のPNコードを用いて衛星信号を復調することにより、各アンテナ素子間の距離dx、dyを数十cm以内に設定することが可能となる。これにより、アレイアンテナの大型化を防止しつつ、低廉な価額で、かつ、位置検出の精度向上を図ることが可能となる。
【0045】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について、図を用いて説明する。
本実施形態のGPS受信機が第1および第2の実施形態と異なる点は、CPU2が車両の方位検出手段からの角度情報を用いて絶対的な到来角度を求めるのではなく、このような方位検出手段からの情報を用いることなく、複数の衛星からの衛星信号を用いて絶対的な到来角度を求める点である。
以下、本実施形態のGPS受信機について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0046】
本実施形態に係るGPS受信機では、CPU2が、上述した第1または第2の実施形態と同様の手順に従って相対的な仰角φa´および方位角θa´を求めると、続いて、現在の真北に対するアレイアンテナの角度γを0〜360°まで仮定し、各仮定の下における絶対的な仰角φa及び絶対的な方位角θaを求め、これらと衛星から受信した軌道情報(エフェメリス)を用いて計算した到来角度(φe,θe)との差分を算出する。
【0047】
これにより、真北に対するアレイアンテナの角度γが0°であると仮定したときの、到来角度の角度差分|φa0−φe0|、真北に対するアレイアンテナの角度γが1°であると仮定したときの、到来角度の角度差分|φa1−φe1|、・・・、真北に対するアレイアンテナの角度γが360°であると仮定したときの、到来角度の角度差分|φa360−φe360|がそれぞれ求められる。
【0048】
そして、CPU2は、上述したような到来角度の角度差分の算出処理を、衛星信号が受信可能な全ての衛星に対して行う。
これにより、各衛星Si(i:衛星番号)に対して、アレイアンテナの角度γを0〜360の各角度に仮定した場合の到来角度の角度差分|φaγ−φeγ|がそれぞれ求められる。
【0049】
続いて、CPU2は、このようにして求めた到来角度の角度差分|φaγ−φeγ|をアレイアンテナの角度γ毎に積算することにより、積算値Int(γ)を求める。
具体的には、CPU2は、γ=0°と仮定した場合の各衛星Siの到来角度の角度差分|φa0−φe0|の積算値Int(0)、γ=1°と仮定した場合の各衛星Siの到来角度の差分|φa1−φe1|の積算値Int(1)、・・・、γ=360°と仮定した場合の各衛星Siの到来角度の角度差分|φa360−φe360|の積算値Int(360)をそれぞれ求める。
【0050】
続いて、CPU2は、これらの積算値Int(γ)が最小値を取るときのγを真の基準方角に対するアレイアンテナの実際の角度として決定し、この角度γを用いて各衛星の相対的な到来角度を補正することにより、絶対的な到来角度を衛星Si毎に算出する。
そして、CPU2は、上述した第1の実施形態と同様に、上記(4)及び(5)の条件を満たすか否かにより、位置検出に使用可能な衛星信号を決定する。
【0051】
以上説明してきたように、本実施形態に係るGPS受信機及び位置検出方法によれば、複数の衛星信号に基づいて真の基準方角を決定し、この真の基準方角に対する衛星信号の到来角度に基づいて、当該衛星信号を位置検出に用いるか否かを判別するので、上述した第1または第2の実施形態のように、基準方角に対するアレイアンテナの設置角度を用いる必要がなくなり、車両方位検出手段からの入力情報を不要とすることができる。
これにより、車両方位検出手段が計測誤差を含む場合でも、これらの誤差にかかわらず、常に安定した位置検出を行うことが可能となる。
また、アンテナ設置角度が変化した場合でも、その変化に追従することが可能となるので、位置検出を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るGPS受信機が備えるアレイアンテナを示した図である。
【図2】GPS受信機の概略構成を示したブロック図である。
【図3】図2に示した相関器の概略構成を示したブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るGPS受信機の概略構成を示したブロック図である。
【図5】GPS受信機における位置検出方法を説明するための図である。
【図6】PNコードの遅延量と相関値との関係を示した図である。
【図7】直接波と反射波とについて説明するための説明図である。
【図8】直接波と反射波とが同相の場合における反射波の相関値と直接波の相関値とを比較して示した図である。
【図9】直接波と反射波とが逆相の場合における反射波の相関値と直接波の相関値とを比較して示した図である。
【符号の説明】
【0053】
A0,Ax,Ay アンテナ素子
1a,1b 信号処理部
2,2´ CPU
12a,12b 乗算器
13a,13b 相関器
11,11a,11b PNコード発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸上に並べられたアンテナ素子と、前記第1の軸に交わる第2の軸上に並べられたアンテナ素子とを有するアレイアンテナを備えるGPS受信機。
【請求項2】
基準方角に対する前記衛星信号の到来角度を推定し、
推定した前記到来角度と前記衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定し、
前記角度差分が前記基準値未満であった場合に、当該衛星信号を用いて位置検出を行う請求項1に記載のGPS受信機。
【請求項3】
前記第1の軸と前記衛星とを含む平面内における第1の仰角を求めるとともに、前記第2の軸と前記衛星とを含む平面内における第2の仰角を求め、
前記第1の仰角および前記第2の仰角ならびに基準方角に対する前記アレイアンテナの設置角度を用いて、前記基準方角に対する前記衛星信号の到来角度を推定する請求項2に記載のGPS受信機。
【請求項4】
各前記アンテナ素子により受信された前記衛星信号と位相をずらしたPNコードとの相関により、各前記アンテナ素子から前記衛星までの距離をそれぞれ求め、この距離の差分に基づいて前記第1の仰角および前記第2の仰角を求める請求項3に記載のGPS受信機。
【請求項5】
同軸上に配置された各前記アンテナ素子については、共通の位相ずれ量を持つ前記PNコードを用いて前記衛星までの距離をそれぞれ求める請求項4に記載のGPS受信機。
【請求項6】
複数の衛星から衛星信号をそれぞれ受信し、
基準方角を0°から360°まで連続的にまたは断続的に変位させたときの各前記基準方角に対する前記衛星信号の到来角度をそれぞれ求め、
前記基準方角毎に、前記衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分を算出し、
同一の前記基準方角における各前記衛星信号の前記角度差分を積算することにより、前記基準方角毎に積算角度差分を算出し、
前記積算角度差分が最小となるときの前記基準方角を真の基準方角として特定し、
前記衛星信号毎に、前記真の基準方角に対する前記衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定し、
前記角度差分が基準値未満である前記衛星信号に基づいて位置を検出する請求項1に記載のGPS受信機。
【請求項7】
請求項1から請求項6に記載のGPS受信機を備える車載器。
【請求項8】
請求項7に記載の車載器によって検出された車両の位置情報を受信し、該位置情報に基づいて前記車両が課金対象エリアに進入したか否かを判定し、前記課金対象エリアに進入していると判定した場合に課金を行う課金システム。
【請求項9】
第1の軸上に並べられたアンテナ素子と、該第1の軸に交わる第2の軸上に並べられたアンテナ素子とを有するアレイアンテナによって衛星から送信される衛星信号を受信する過程と、
基準方角に対する前記衛星信号の到来角度を推定する過程と、
推定した前記到来角度と前記衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定する過程と、
前記角度差分が前記基準値未満である前記衛星信号を用いて位置を検出する過程と
を有する位置検出方法。
【請求項10】
第1の軸上に並べられたアンテナ素子と、該第1の軸に交わる第2の軸上に並べられたアンテナ素子とを有するアレイアンテナによって複数の衛星から送信される衛星信号を受信する過程と、
基準方角を0°から360°まで連続的にまたは断続的に変位させたときの各前記基準方角に対する前記衛星信号の到来角度をそれぞれ求める過程と、
前記基準方角毎に、前記衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分を算出する過程と、
同一の前記基準方角における各前記衛星信号の前記角度差分を積算することにより、前記基準方角毎に積算角度差分を算出する過程と、
前記積算角度差分が最小となるときの前記基準方角を真の基準方角として特定する過程と、
前記衛星信号毎に、前記真の基準方角に対する前記衛星信号の到来角度と該衛星信号の軌道情報から求められる到来角度との角度差分が基準値未満であるか否かを判定する過程と、
前記角度差分が基準値未満である前記衛星信号に基づいて位置を検出する過程と
を有する位置検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−139255(P2008−139255A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328269(P2006−328269)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】