説明

III族窒化物半導体光素子、及びIII族窒化物半導体光素子を作製する方法

【課題】活性層の歪みを低減可能なIII族窒化物半導体光素子を提供する。
【解決手段】III族窒化物半導体光素子11aでは、半導体領域13の主面13aは無極性又は半極性を示す。第1導電型バッファ層15は半導体領域13の主面13a上に設けられ、この主面13aは基準面RCに対して10度以上の角度を成す。第1導電型バッファ層15の材料は半導体領域13の材料と異なる。キャリアブロック層19は第3の六方晶系III族窒化物半導体からなる。活性層17は窒化ガリウム系半導体層21aを含む。第1導電型バッファ層15は半導体領域13の主面13a上において格子緩和する一方で、窒化ガリウム系半導体層は歪みを内包する。第1導電型バッファ層15の格子緩和により、窒化ガリウム系半導体層21aの材料と半導体領域13の主面13aの材料との格子定数差に起因する応力が、活性層17に加わることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体光素子、及びIII族窒化物半導体光素子を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、AlGaNを含むエピタキシャル層構造にクラックが発生し難い窒化物半導体発光素子が記載されている。この窒化物半導体発光素子は、GaN半導体からなる支持体、第1導電型AlGaN領域、第2導電型GaN系半導体層、及び活性層を備える。支持体のGaN半導体のc軸は、一方の側面から他方の側面に伸びているので、基板主面は実質的にm面またはa面である。AlGaN領域およびGaN系半導体層は、支持体の主面上に設けられている。AlGaN領域のアルミニウム組成は0.05以上であり、またAlGaN領域の厚さD1は500nm以上である。活性層は、第1導電型AlGaN領域と第2導電型GaN系半導体層との間に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−277539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化ガリウム系半導体光素子では、所望の導電型の半導体層(例えばn型半導体層)及び活性層は、下地の半導体領域、例えばc面GaN主面を有する窒化ガリウム系半導体基板上に成長される。活性層はn型半導体層上に設けられ、n型半導体層は、n型キャリア、つまり電子を活性層に提供するように働く。活性層がn型半導体層及び窒化ガリウム系半導体基板上に成長されるので、n型半導体層は、窒化ガリウム系半導体基板とn型半導体層との格子定数に基づく歪みを内包する。また、窒化ガリウム系半導体基板と活性層との格子定数に基づく歪みが活性層に加わる。n型半導体層の材料と活性層の材料との違いは不可避であるけれども、活性層への応力が低減されるとき、窒化ガリウム系半導体光素子の発光効率が向上する。
【0005】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、活性層の歪みを低減可能なIII族窒化物半導体光素子を提供することを目的し、またこのIII族窒化物半導体光素子を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、III族窒化物半導体光素子である。このIII族窒化物半導体光素子は、(a)第1の六方晶系III族窒化物半導体からなる主面を有する半導体領域上に設けられ、該第1の六方晶系III族窒化物半導体と異なる第2の六方晶系III族窒化物半導体からなる第1導電型バッファ層と、(b)窒化ガリウム系半導体層を含む活性層と、(c)第3の六方晶系III族窒化物半導体からなるキャリアブロック層とを備える。前記半導体領域の前記主面は、該第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸に直交する基準面に対して10度以上の角度を成し、前記第1導電型バッファ層は、前記半導体領域の前記主面上において格子緩和しており、前記第1導電型バッファ層、前記活性層及び前記キャリアブロック層は、前記半導体領域の前記主面の法線軸の方向に配列されており、該窒化ガリウム系半導体層は歪みを内包し、前記半導体領域の前記主面は無極性及び半極性のいずれかを示す。
【0007】
このIII族窒化物半導体光素子では、第1導電型バッファ層が、半導体領域のc軸に直交する基準面に対して10度以上の角度を成す主面上に設けられる。これ故に、第1導電型バッファ層を半導体領域の主面上において格子緩和させることができる。第1導電型バッファ層の格子緩和により、活性層が、窒化ガリウム系半導体層の材料と第1の六方晶系III族窒化物半導体との違いに起因する歪みの全てを内包することにはならない。このため、活性層に内包される歪みは、窒化ガリウム系半導体層の材料と第1の六方晶系III族窒化物半導体との違いによる応力の大きさに比べて小さくなる。
【0008】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d1の大きさとは格子ベクトルLVC1によって表され、前記第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d2の大きさとは格子ベクトルLVC2によって表され、前記格子ベクトルLVC1は前記法線軸の方向の縦成分V1と前記縦成分に直交する横成分V1とからなり、前記格子ベクトルLVC2は前記法線軸の方向の縦成分V2と前記縦成分に直交する横成分V2とからなり、前記横成分V1は前記横成分V2と異なる。
【0009】
このIII族窒化物半導体光素子では、格子緩和は、例えば横成分V1と横成分V2との違いにより観察される。上記の場合では、c軸の格子定数の関係を規定しているけれども、a軸及びm軸についてもc軸と同様に格子ベクトルを用いて格子定数の関係を規定できる。
【0010】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸の格子定数は前記第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸の格子定数と前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層に固有のc軸の格子定数との間にある。また、前記キャリアブロック層は歪みを内包する。
【0011】
このIII族窒化物半導体光素子では、第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸格子定数が第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸格子定数と活性層の窒化ガリウム系半導体層に固有のc軸格子定数との間にあるので、第2の六方晶系III族窒化物半導体の格子定数は、第1の六方晶系III族窒化物半導体の格子定数に比べて、活性層の窒化ガリウム系半導体層の格子定数に近い。これ故に、格子定数差により窒化ガリウム系半導体層に生成される歪みを低減できる。また、キャリアブロック層は歪みを内包するので、キャリアブロック層は格子緩和していない。これ故に、キャリアブロック層には、その格子緩和による欠陥が生成されない。したがって、該欠陥及び格子定数差の影響を活性層が受けることはない。
【0012】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1導電型バッファ層はInAlGa1−X−YN(0≦X≦0.50、0≦Y≦0.50)からなることができる。このIII族窒化物半導体光素子では、第1導電型バッファ層として様々な材料(InAlGa1−X−YN)を用いることができる。また、InAlGa1−X−YNの組成における臨界膜厚よりも、第1導電型バッファ層の膜厚は大きい。
【0013】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第2の六方晶系III族窒化物半導体はInGaNであり、前記窒化ガリウム系半導体層はInGaNからなることが好ましい。
【0014】
このIII族窒化物半導体光素子では、第1導電型バッファ層の膜厚はInGaNのインジウム組成における臨界膜厚より大きい。また、第2の六方晶系III族窒化物半導体がInGaNであると共に窒化ガリウム系半導体層がInGaNからなるので、第1導電型バッファ層と窒化ガリウム系半導体層との格子定数差を小さくできる。
【0015】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第2の六方晶系III族窒化物半導体はInAlGaNであることができる。
【0016】
このIII族窒化物半導体光素子では、第1導電型バッファ層の膜厚は、InAlGaNのインジウム組成及びアルミニウム組成における臨界膜厚より大きい。また、四元系InAlGaNを用いることによって、バンドギャップ及び屈折率と格子定数とを互いに独立して変更できる。これ故に、第1導電型バッファ層における電気的及び光学的な特性と活性層への応力の大きさとが互いに独立して調整可能になる。
【0017】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップは2.1エレクトロンボルト以上であり、前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップは2.8エレクトロンボルト以下であることができる。
【0018】
このIII族窒化物半導体光素子では、活性層への応力及び歪みの制約が低減されるので、広い波長範囲の光を発生可能な活性層が作製されることができる。
【0019】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1導電型バッファ層の膜厚は300nm以上であることができる。
【0020】
このIII族窒化物半導体光素子では、膜厚300nm以上であることによって、バッファ層としての機能を発揮可能になる。
【0021】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、非極性主面を有する支持体を更に備えることが好ましい。前記第1導電型バッファ層は前記支持体の前記主面上に設けられており、前記支持体の前記非極性主面は、前記第1の六方晶系III族窒化物半導体からなる前記半導体領域の主面を提供し、前記第1の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸の格子定数は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸の格子定数より小さい。
【0022】
このIII族窒化物半導体光素子では、支持体の材料におけるc軸格子定数と第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸格子定数との格子定数差が生じているけれども、支持体の主面上の第1導電型バッファ層が格子緩和させることによって、活性層の発光特性に上記の格子定数差が与える影響を低減できる。
【0023】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記支持体は導電性GaNからなることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子では、GaN支持体を用いることによって良好な結晶成長が可能になる。
【0024】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1導電型バッファ層と前記半導体領域との界面における転位は、1×10cm−2以上の密度を有することが好ましい。
【0025】
このIII族窒化物半導体光素子では、c軸が法線軸と有限な角度を成すことに起因してc面等のすべりによりすべり面が生成される。このすべり面の生成によって、上記の界面には転位が発生される。転位密度が1×10cm−2以上であるので、第1導電型バッファ層は、第1導電型バッファ層に格子緩和が引き起こされるために十分な密度ですべり面を含む。
【0026】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記転位は刃状転位の成分を含むことが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子では、刃状転位の導入により、格子定数差に起因する歪みを緩和することができる。
【0027】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子は、第4の六方晶系III族窒化物半導体からなる第1導電型クラッド層を更に備えることが好ましい。前記第1導電型クラッド層は前記第1導電型バッファ層と前記活性層との間に設けられ、前記第4の六方晶系III族窒化物半導体は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なり、前記第1導電型クラッド層は前記第1導電型バッファ層上において格子緩和していない。
【0028】
このIII族窒化物半導体光素子では、第1導電型クラッド層は第1導電型バッファ層上において格子緩和していないので、第1導電型クラッド層は歪みを内包する。第4の六方晶系III族窒化物半導体と活性層の窒化ガリウム系半導体層の材料との格子定数差が窒化ガリウム系半導体層における歪みの増加の原因になることはない。
【0029】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、第5の六方晶系III族窒化物半導体からなる第2導電型クラッド層を更に備えることが好ましい。前記キャリアブロック層は前記第2導電型クラッド層と前記活性層との間に設けられ、前記第5の六方晶系III族窒化物半導体は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なり、前記第2導電型クラッド層は前記第1導電型バッファ層上において格子緩和していない。
【0030】
このIII族窒化物半導体光素子では、第2導電型クラッド層は第1導電型バッファ層上において格子緩和していないので、第2導電型クラッド層は歪みを内包する。第2導電型クラッド層の格子緩和による欠陥による影響を活性層が受けることがない。
【0031】
本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第1導電型クラッド層はInAlGaNからなることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子では、InAlGaNは、そのバンドギャップ及び屈折率と格子定数とを互いに独立して変更可能であるので、第1導電型クラッド層と第1導電型バッファ層との格子定数差を調整できる。また、本発明の一側面に係るIII族窒化物半導体光素子では、前記第2導電型クラッド層はInAlGaNからなることが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子では、InAlGaNは、そのバンドギャップ及び屈折率と格子定数とを互いに独立して変更可能であるので、第2導電型クラッド層と第1導電型バッファ層との格子定数差を調整できる。
【0032】
本発明の別の側面に係る発明は、III族窒化物半導体光素子を作製する方法である。この方法は、(a)第1の六方晶系III族窒化物半導体からなる半導体領域の主面上に、第2の六方晶系III族窒化物半導体からなる第1導電型バッファ層を、該第1導電型バッファ層が格子緩和するように成長する工程と、(b)前記第1導電型バッファ層上に活性層を成長する工程と、(c)第3の六方晶系III族窒化物半導体からなるキャリアブロック層を前記活性層上に成長する工程と備える。前記半導体領域の前記主面は、該第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸に直交する基準面に対して10度以上の角度を成し、前記半導体領域の前記主面は無極性及び半極性のいずれかを示し、前記キャリアブロック層は歪みを内包し、前記活性層は、歪みを内包する窒化ガリウム系半導体層を含む。
【0033】
この方法では、半導体領域の主面が、第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸に直交する基準面に対して10度以上の角度を成すので、第1導電型バッファ層を格子緩和させることができる。活性層の窒化ガリウム系半導体層は歪みを内包するけれども、その歪みの大きさを上記の格子緩和により低減できる。
【0034】
本発明の別の側面に係る方法は、前記第2の六方晶系III族窒化物半導体はInGaN及びInAlGaNのいずれか一方であり、前記第1導電型バッファ層の膜厚は、該第2の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚より大きい。
【0035】
この方法では、第1導電型バッファ層の材料としてInGaN及びInAlGaNのいずれかを用いることができる。InGaNでは、第1導電型バッファ層の膜厚はInGaNのインジウム組成における臨界膜厚より大きい。また、窒化ガリウム系半導体層がInGaNからなるとき、第1導電型バッファ層と窒化ガリウム系半導体層との格子定数差を小さくできる。また、InAlGaNでは、第1導電型バッファ層の膜厚は、InAlGaNのインジウム組成及びアルミニウム組成における臨界膜厚より大きい。四元系InAlGaNを用いることによって、バンドギャップ及び屈折率と格子定数とを互いに独立して変更できる。これ故に、第1導電型バッファ層における電気的及び光学的な特性と活性層への応力の大きさとが互いに独立して調整可能になる。
【0036】
本発明の別の側面に係る方法では、前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップは2.1エレクトロンボルト以上であると共に2.8エレクトロンボルト以下であることが好ましい。この方法では、活性層への応力及び歪みの制約が低減されるので、広い波長範囲の光を発生可能な活性層を含むIII族窒化物半導体光素子を作製できる。
【0037】
本発明の別の側面に係る方法では、第4の六方晶系III族窒化物半導体からなる第1導電型クラッド層を前記第1導電型バッファ層上に成長する工程を更に備えることが好ましい。前記第4の六方晶系III族窒化物半導体は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なり、前記第1導電型クラッド層の膜厚は前記第4の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚以下である。
【0038】
この方法では、第1導電型クラッド層の膜厚は第4の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚以下であるので、第1導電型クラッド層は第1導電型バッファ層上において格子緩和していない。このため、第4の六方晶系III族窒化物半導体と活性層の窒化ガリウム系半導体層の材料との格子定数差が窒化ガリウム系半導体層における歪みの増加の原因になることはない。
【0039】
本発明の別の側面に係る方法では、第5の六方晶系III族窒化物半導体からなる第2導電型クラッド層を前記キャリアブロック層上に成長する工程を更に備えることが好ましい。前記第5の六方晶系III族窒化物半導体は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なり、前記第2導電型クラッド層の膜厚は前記第5の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚以下であり、前記第2導電型クラッド層は格子緩和していない。
【0040】
このIII族窒化物半導体光素子では、第2導電型クラッド層は第1導電型バッファ層上において格子緩和していない。第2導電型クラッド層の格子緩和による欠陥による影響を活性層が受けることがない。
【0041】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、本発明の一側面によれば、活性層の歪みを低減可能なIII族窒化物半導体光素子を提供できる。また、本発明の別の側面によれば、このIII族窒化物半導体光素子を作製する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体発光素子の一例を模式的に示す図面である。
【図2】図2は、図1に示されたIII族窒化物半導体光素子における格子定数の変化をエピタキシャル基板と対応づけて示す図面である。
【図3】図3は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体素子の別の例を模式的に示す図面である。
【図4】図4は、図3に示されたIII族窒化物半導体光素子における格子定数の変化をエピタキシャル基板と対応づけて示す図面である。
【図5】図5は、本実施の形態に係るエピタキシャル基板及びIII族窒化物半導体発光素子を作製する方法における工程フローを示す図面である。
【図6】図6は、図5に示された工程フローの作製方法における主要な工程における生産物を示す図面である。
【図7】図7は、実施例1において、InGaNバッファ層及びGaNバッファ層をそれぞれ用いた2種類の発光ダイオード構造と格子定数との関係を示す図面である。
【図8】図8は、InGaNバッファ層を用いた発光ダイオード構造の逆格子マッピングを示す図面である。
【図9】図9は、実施例2におけるレーザダイオード構造と格子定数との関係を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のIII族窒化物半導体光素子及びエピタキシャル基板、並びにエピタキシャル基板を作製する方法及びIII族窒化物半導体光素子を作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0045】
図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体光素子の構造を模式的に示す図面である。図2は、図1に示されたIII族窒化物半導体光素子における格子定数の変化をエピタキシャル基板と対応づけて示す図面である。図1及び図2には、直交座標系Sが示されている。図1及び図2に示された構造は、発光ダイオード(LED)といった面発光素子に好適である。III族窒化物半導体光素子11aは、第1導電型バッファ層15と、活性層17と、キャリアブロック層19とを備える。第1導電型バッファ層15、活性層17及びキャリアブロック層19は、半導体領域13の主面13aにおける法線軸Nxの方向に配列されている。法線軸Nxの方向は直交座標系SのZ軸の方向に延在し、主面13aは直交座標系SのX軸及びY軸によって規定される平面と平行である。半導体領域13の主面13aは無極性及び半極性のいずれかを示す。第1導電型バッファ層15は半導体領域13の主面13a上に設けられ、この主面13aは第1の六方晶系III族窒化物半導体からなる。半導体領域13の主面13aは、該第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸に直交する基準面RCに対して10度以上の角度を成す。図1には、c軸方向を示すc軸ベクトルVC13、VC15、VC19及び基準軸Cxが示されている。第1導電型バッファ層15は、第1の六方晶系III族窒化物半導体と異なる第2の六方晶系III族窒化物半導体からなる。キャリアブロック層19は第3の六方晶系III族窒化物半導体からなる。第3の六方晶系III族窒化物半導体は、例えばAlGaN、InAlGaNといった窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。活性層17は窒化ガリウム系半導体層21aを含むことができる。第1導電型バッファ層15は半導体領域13の主面13a上において格子緩和する一方で、窒化ガリウム系半導体層は歪みを内包する。
【0046】
このIII族窒化物半導体光素子11aでは、第1導電型バッファ層15が、半導体領域13の基準面RCに対して10度以上の角度ALPHAを成す主面上に設けられる。これ故に、第1導電型バッファ層15を半導体領域13の主面13a上において格子緩和させることができる。第1導電型バッファ層15の格子緩和により、窒化ガリウム系半導体層21aの材料と第1の六方晶系III族窒化物半導体との違いに起因する応力が、活性層17に加わることがない。このため、活性層17に内包される歪みは、窒化ガリウム系半導体層21aの材料と第1の六方晶系III族窒化物半導体との違いによる応力の大きさに比べて小さくなる。
【0047】
III族窒化物半導体光素子11aでは、第1導電型バッファ層15の膜厚は300nm以上であるとき、バッファ層としての機能を発揮可能になる。また、活性層17は量子井戸構造21を有することができる。活性層21は、InAlGa1−U−VN(0≦U≦0.50、0≦V≦0.50)からなることが好ましい。活性層17の窒化ガリウム系半導体層21aは例えば井戸層であり、量子井戸構造21は障壁層21bを含むことができる。障壁層21bは半導体層21aにキャリア障壁を提供する。井戸層は、例えばGaN、InGaN、AlGaN、InAlGaNといった窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。また、障壁層21bは、例えばGaN、InGaN、AlGaN、InAlGaNといった窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。
【0048】
活性層17の発光領域のバンドギャップは半導体領域13のバンドギャップエネルギE13より小さい。具体的には、窒化ガリウム系半導体層21aのバンドギャップエネルギE21aは、第1導電型バッファ層15のバンドギャップエネルギE15より小さいので、第1導電型バッファ層15のバンドギャップエネルギE15は、発光領域のバンドギャップに近いことが好ましい。第1導電型バッファ層15のバンドギャップエネルギE15は、半導体領域13のバンドギャップエネルギE13より小さいことが好ましい。
【0049】
本実施例では、第1導電型バッファ層15は半導体領域13と接合20aを成す。この接合20aにおける格子定数の関係を詳細に説明する。III族窒化物半導体光素子11aでは、第1の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d1の大きさとは格子ベクトルLVC1によって表される。格子ベクトルLVC1は法線軸Nxの方向の縦成分V1とこの縦成分に直交する横成分V1とからなる。また、第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d2の大きさとは格子ベクトルLVC2によって表される。格子ベクトルLVC2は法線軸Nxの方向の縦成分V2とこの縦成分に直交する横成分V2とからなる。横成分V1は横成分V2と異なる。
【0050】
このIII族窒化物半導体光素子11aでは、格子緩和は、例えば横成分V1と横成分V2との違いにより規定される。接合20aにおいて、横成分V1と横成分V2とが互いに異なる。このため、半導体領域13から第1導電型バッファ層15への応力が低減される。また、第1導電型バッファ層15の歪みの一部又は全部が解放される。上記の場合ではc軸の格子定数の関係を規定しているけれども、a軸及びm軸についてもc軸と同様に格子ベクトルを用いて格子定数の関係を規定できる。
【0051】
一方、本実施例では、第1導電型バッファ層15は活性層17と接合20bを成す。活性層17は第1導電型バッファ層15の主面15a上において格子緩和していないので、この接合20bにおいて、活性層17の窒化ガリウム系半導体層21aの材料におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数dwの大きさとは格子ベクトルLVCWによって表される。格子ベクトルLVCWは法線軸Nxの方向の縦成分VWとこの縦成分に直交する横成分VWとからなる。窒化ガリウム系半導体層21aが歪んで、横成分VWは横成分V2に合わされている。
【0052】
また、キャリアブロック層19も歪みを内包する。本実施例では、キャリアブロック層19は活性層17と接合20cを成す。この接合20cにおける格子定数の関係を詳細に説明する。第3の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d3の大きさとは格子ベクトルLVC3によって表される。格子ベクトルLVC3は法線軸Nxの方向の縦成分V3とこの縦成分に直交する横成分V3とからなる。キャリアブロック層19が歪んで、横成分V3は横成分V2に合わされている。
【0053】
III族窒化物半導体光素子11aは、キャリアブロック層19上に設けられたコンタクト層23を更に備えることができる。コンタクト層23も歪みを内包する。本実施例では、コンタクト層23はキャリアブロック層19と接合20dを成す。この接合20dにおける格子定数の関係を詳細に説明する。コンタクト層23は六方晶系III族窒化物半導体からなり、この六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数dCの大きさとは格子ベクトルLVCCによって表される。格子ベクトルLVCCは法線軸Nxの方向の縦成分VCとこの縦成分に直交する横成分VCとからなる。コンタクト層23が歪んで、横成分VCは横成分V2に合わされている。
【0054】
III族窒化物半導体光素子11aでは、第1導電型バッファ層15、活性層17、キャリアブロック層19及びコンタクト層23は、半導体積層25を構成する。半導体積層25内の半導体層の各々における格子ベクトルの横成分は、互いに実質的に同じである。緩和された第1導電型バッファ層15の転位は、第1導電型バッファ層15上の半導体層に伝搬することない。これ故に、活性層17は、第1導電型バッファ層15における格子緩和の影響を受けることなく、この格子緩和による発光特性の劣化はない。
【0055】
III族窒化物半導体光素子11aでは、上記のように、キャリアブロック層19は歪みを内包する。また、半導体領域13の主面13aにおけるc軸の格子定数が第1導電型バッファ層15におけるc軸の格子定数より小さい。さらに、第1導電型バッファ層15におけるc軸の格子定数は半導体領域13の主面13aのc軸の格子定数と窒化ガリウム系半導体層21aに固有のc軸の格子定数(歪んでいない格子定数)との間にある。第2の六方晶系III族窒化物半導体の格子定数は、第1の六方晶系III族窒化物半導体の格子定数に比べて、活性層17の窒化ガリウム系半導体層21aの格子定数に近い。これ故に、格子定数差により窒化ガリウム系半導体層21aに生成される歪みを低減できる。また、キャリアブロック層19は歪みを内包するので、キャリアブロック層19は格子緩和していない。これ故に、キャリアブロック層19には、その格子緩和による欠陥が生成されない。したがって、該欠陥及び格子定数差の影響を活性層17が受けることはない。
【0056】
III族窒化物半導体光素子11aでは、第1導電型バッファ層15はInAlGa1−X−YN(0≦X≦0.50、0≦Y≦0.50)からなることができる。このとき、第1導電型バッファ層15として様々な材料(InAlGa1−X−YN)を用いることができる。また、第1導電型バッファ層15の膜厚は、InAlGa1−X−YNの組成における臨界膜厚よりも大きい。
【0057】
具体的には、第1導電型バッファ層15の材料がInGaNであると共に、窒化ガリウム系半導体層21aがInGaNからなるとき、第1導電型バッファ層15と窒化ガリウム系半導体層21aとの格子定数差を小さくできる。第1導電型バッファ層15の膜厚は、当該InGaNのインジウム組成における臨界膜厚より大きい。
【0058】
また、第1導電型バッファ層15の材料はInAlGaNであることが好ましい。第1導電型バッファ層15の膜厚は、当該InAlGaNのインジウム組成及びアルミニウム組成における臨界膜厚より大きい。また、四元系InAlGaNを用いることによって、バンドギャップ及び屈折率と格子定数とを互いに独立して変更できる。これ故に、第1導電型バッファ層15における電気的及び光学的な特性と活性層17への応力の大きさとが互いに独立して調整可能になる。
【0059】
第1導電型半導体領域27a(15)と第2導電型半導体領域27b(23)との間に設けられた活性層17では、窒化ガリウム系半導体層21aのバンドギャップは2.1エレクトロンボルト(1eV=1.602×10−19ジュールで換算される)以上であることが好ましい。また、窒化ガリウム系半導体層21aのバンドギャップは2.8エレクトロンボルト以下であることができる。このIII族窒化物半導体光素子11aでは、活性層17への応力及び歪みの制約が低減される。これ故に、広い波長範囲の光を発生可能な活性領域を作製できる。例えば、活性層17の発光波長は例えば450nm以上600nm以下であることが好ましい。この活性層17は、様々な波長範囲の光を発光可能である。
【0060】
第1導電型バッファ層15と半導体領域13との接合(或いは、界面)20aにおける転位は、1×10cm−2以上の密度を有することが好ましい。このIII族窒化物半導体光素子11aでは、半導体領域13のc軸が法線軸Nxと有限な角度を成すことに起因してc面等のすべりによりすべり面が生成される。このすべり面の生成によって、上記の接合20aには転位が発生される。転位密度が1×10cm−2以上であるので、第1導電型バッファ層15は、この第1導電型バッファ層15に格子緩和が引き起こされるために十分な密度ですべり面を含む。また、接合20aにおける転位は刃状転位の成分を含むことが好ましい。刃状転位の導入により、格子定数差に起因する歪みを緩和することができる。III族窒化物半導体光素子11aでは、接合20aの転位密度は、他の接合20b〜20dにおける転位密度よりも大きい。
【0061】
III族窒化物半導体光素子11aは、非極性主面を有する支持体35を更に備えることが好ましい。第1導電型バッファ層15は支持体35の主面35a上に設けられている。支持体35の非極性主面35aは第1の六方晶系III族窒化物半導体からなる半導体領域13の主面13aを提供する。第1の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸の格子定数は第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸の格子定数より小さい。
【0062】
このIII族窒化物半導体光素子11aでは、支持体35の材料におけるc軸格子定数と第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸格子定数との格子定数差が生じているけれども、支持体35上の第1導電型バッファ層15を格子緩和させることによって、活性層17の発光特性に上記の格子定数差が与える影響を低減できる。
【0063】
支持体35は例えば導電性GaNからなることが好ましい。GaN支持体を用いることによって良好な結晶成長が可能になる。
【0064】
エピタキシャル基板EPIaは、第1導電型バッファ層15と、活性層17と、キャリアブロック層19と、第2導電型コンタクト層23とを備える。このコンタクト層23は、例えばGaN、InGaN、InAlGaNといった窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。
【0065】
エピタキシャル基板EPIa上には、第1電極31a(例えばアノード)及び第2電極31b(例えばカソード)が設けられている。コンタクト層23には第1電極31aが設けられており、例えば第1電極31aは絶縁膜29の開口を介してコンタクト層23に接触している。第2電極31bが支持体35の裏面35bに設けられており、第2電極31bは半導体領域13に電気的に接続される。裏面35bも非極性を示す。
【0066】
図3は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体光素子の構造を模式的に示す図面である。図4は、図3に示されたIII族窒化物半導体光素子における格子定数の変化をエピタキシャル基板と対応づけて示す図面である。図3及び図4には、直交座標系Sが示されている。図3及び図4に示された構造は、レーザダイオード(LD)といった端面発光素子に好適である。III族窒化物半導体光素子11bは、第1導電型バッファ層15と、発光層41と、キャリアブロック層19とを備える。III族窒化物半導体光素子11bでは、第1導電型半導体領域27aは、第1導電型バッファ層15と、第1導電型クラッド層37とを含む。発光層41は、活性層17と、第1の光ガイド層43と、第2の光ガイド層45とを含む。活性層17は第1の光ガイド層43と第2の光ガイド層45との間に位置する。第2導電型半導体領域27bは、第2導電型クラッド層39と、第2導電型のコンタクト層23とを含む。
【0067】
第1導電型クラッド層37は第4の六方晶系III族窒化物半導体からなり、この第4の六方晶系III族窒化物半導体は第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なる。第1導電型クラッド層37は第1導電型バッファ層15と活性層17との間に設けられる。第1導電型クラッド層37の厚さは第4の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚より薄く、第1導電型クラッド層37は第1導電型バッファ層15上において格子緩和していない。
【0068】
このIII族窒化物半導体光素子11bでは、第1導電型クラッド層37は第1導電型バッファ層15上において格子緩和していないので、第4の六方晶系III族窒化物半導体と活性層17の窒化ガリウム系半導体層21aの材料との格子定数差が窒化ガリウム系半導体層21aにおける歪みの増加の原因になることはない。
【0069】
第1導電型クラッド層37は第1導電型バッファ層15と接合20eを成す。第1導電型クラッド層37は第1導電型バッファ層15の主面15a上において格子緩和していない。この接合20eにおいて、第4の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d4の大きさとは格子ベクトルLVC4によって表される。格子ベクトルLVC4は法線軸Nxの方向の縦成分V4とこの縦成分に直交する横成分V4とからなる。第1導電型クラッド層37が歪んで、横成分V4は横成分V2に合わされている。
【0070】
第1導電型クラッド層37のバンドギャップは第1導電型バッファ層15のバンドギャップより大きく、また第1導電型クラッド層37の屈折率は第1導電型バッファ層15の屈折率より低い。第1導電型クラッド層37の屈折率は活性層17の平均屈折率より低い。
【0071】
第1導電型クラッド層37は発光層41と接合20fを成す。第1導電型クラッド層37上において活性層17が歪んで、横成分VWは横成分V2に合わされている。
【0072】
第2導電型クラッド層39は、第5の六方晶系III族窒化物半導体からなる。第5の六方晶系III族窒化物半導体は第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なる。キャリアブロック層19は第2導電型クラッド層39と活性層17との間に設けられる。第2導電型クラッド層39は第1導電型バッファ層15上において格子緩和していない。第2導電型クラッド層39の厚さは第5の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚より薄い。このIII族窒化物半導体光素子11bでは、第2導電型クラッド層39は第1導電型バッファ層15上において格子緩和していないので、第2導電型クラッド層39は格子緩和により欠陥を含まない。これ故に、活性層17は、第2導電型クラッド層39の格子緩和による欠陥による影響を受けることがない。
【0073】
第2導電型クラッド層39はコンタクト層23と接合20dを成す。また、第2導電型クラッド層39は発光層41と接合20gを成す。第2導電型クラッド層39は発光層41の主面上において格子緩和していない。この接合20gにおいて、第5の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d5の大きさとは格子ベクトルLVC5によって表される。格子ベクトルLVC5は法線軸Nxの方向の縦成分V5とこの縦成分に直交する横成分V5とからなる。第2導電型クラッド層39が歪んで、横成分V5は横成分V2に合わされている。
【0074】
第2導電型クラッド層39のバンドギャップは第1導電型バッファ層15のバンドギャップより大きく、また第2導電型クラッド層39の屈折率は第1導電型バッファ層15の屈折率より低い。第2導電型クラッド層39の屈折率は活性層17の平均屈折率より低い。第1導電型クラッド層37及び第2導電型クラッド層39により、活性層17からの光は発光層41に閉じ込められる。
【0075】
第1の光ガイド層43が第1導電型クラッド層37の主面上に設けられるので、第1の光ガイド層43のc軸が半導体領域13の主面13aに対して傾斜している。第1の光ガイド層43は、第1導電型クラッド層37上において格子緩和されず、歪みを内包する。第1の光ガイド層43は、例えばInGaN、GaN、InAlGaN等からなることができる。必要な場合には、第1の光ガイド層43は第1及び第2の部分43a、43bを含むことができる。第2の部分43bは第1の部分43aと活性層17との間に位置する。第1の部分43aのバンドギャップは第2の部分43bのバンドギャップより大きい。
【0076】
第2の光ガイド層45が活性層17の主面上に設けられるので、第2の光ガイド層45のc軸が半導体領域13の主面13aに対して傾斜している。第2の光ガイド層45は、第1導電型バッファ層15上において格子緩和されず、歪みを内包する。第1の光ガイド層45は、例えばInGaN、GaN、InAlGaN等からなることができる。必要な場合には、第2の光ガイド層45は第1及び第2の部分45a、45bを含むことができる。第1の部分45aは第2の部分45bと活性層17との間に位置する。第1の部分45aのバンドギャップは第2の部分45bのバンドギャップより小さい。キャリアブロック層19は、第1の部分45aと第2の部分45bとの間に位置することがきる。また、キャリアブロック層19は、第1の光ガイド層45aと活性層17との間に位置することがきる。さらに、キャリアブロック層19は、第2の光ガイド層45bと第2導電型クラッド層39との間に位置することがきる。
【0077】
III族窒化物半導体光素子11bでは、接合20aの転位密度は、他の接合20d〜20gにおける転位密度よりも大きい。
【0078】
図5は、本実施の形態に係るエピタキシャル基板及びIII族窒化物半導体発光素子を作製する方法における工程フローを示す図面である。図6は、上記の作製方法における主要な工程における生産物を示す図面である。
【0079】
有機金属気相成長法により発光素子のエピタキシャル構造を作製した。原料にはトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、アンモニア(NH)を用いる。ドーパントガスとして、シラン(SiH)及びビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CPMg)を用いる。引き続く説明では、例えば非極性主面を有するIII族窒化物半導体基板として、六方晶系窒化ガリウム基板を用いる。例えば無極性主面を有するIII族窒化物半導体基板として、六方晶系無極性窒化ガリウム基板を用いることができる。或いは、例えば半極性主面を有するIII族窒化物半導体基板として、六方晶系半極性窒化ガリウム基板を用いることができる。引き続く説明では、六方晶系半極性窒化ガリウム基板を参照しながら説明する。
【0080】
工程S101では、図6(a)に示されるように、窒化ガリウム(GaN)基板51を準備する。GaN基板51の主面51aには、法線ベクトルVNとc軸ベクトルVC51が示されている。GaN基板51の主面51aはc面からm面の方向又はc面からa面の方向に10〜170度の角度ALPHAで傾斜している。
【0081】
工程S102では、反応炉10内にGaN基板51を設置した後に、GaN基板51のサーマルクリーニングを成長炉10を用いて行う。摂氏1050度の温度で、NHとHを含むガスを成長炉10に流しながら、10分間の熱処理を行う。
【0082】
工程S103では、エピタキシャル基板を作製する。まず、図6(b)に示されるように、工程S104では、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスG0を成長炉10に供給して、GaN基板51の主面51a上に、第1導電型窒化ガリウム系半導体層53をエピタキシャルに成長する。GaN基板51の主面51a上に、窒化ガリウム系半導体層53は、窒化ガリウム系半導体からなる半導体層が格子緩和するように成長される。窒化ガリウム系半導体層53はn型バッファ層(以下、「n型バッファ層53」として説明を行う)として働く。n型バッファ層53として、例えばSiドープInGaN層及び/又はSiドープInAlGaN層を成長する。例えばInGaN半導体を非極性面上に成長するとき、格子緩和の有無は、成長するInGaN半導体の組成、膜厚及び格子定数差によって制御できる。この格子定数差は、GaN基板51の主面51aにおけるGaNと、これに接合を成すn型バッファ層53のInGaNとによって規定される。このInGaN層の厚さは例えば2μmである。n型バッファ層53のIn組成は、例えば0.06である。InGaN層の膜厚は、この組成において臨界膜厚を越えている。原料ガスG0は例えばTMG、TMI、NH、SiHを含み、成長温度は例えば摂氏870度である。n型バッファ層53が格子緩和しているので、基板51とn型バッファ層53との接合50aには多数の転位(例えばミスフィット転位)が生成される。
【0083】
次いで、工程S105では、n型バッファ層53上に、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含む半導体領域を成長する。半導体領域内のIII族窒化物半導体層は格子緩和していない。
【0084】
発光ダイオードを作製するとき、工程S105において、活性層55を成長する。活性層55の成長では、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスを成長炉10に供給して、工程S106aにおいて、摂氏870度の基板温度でInGaN障壁層をn型バッファ層53上に成長する。In組成は例えば0.06である。InGaN障壁層55aのための原料ガスは例えばTMG、TMI、NHを含む。このInGaN障壁層55aの厚さは例えば15nmである。次いで、摂氏750度に基板温度を下げる。工程S106bにおいて、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスを成長炉10に供給して、GaN障壁層55a上に、摂氏750度の基板温度で、アンドープInGaN井戸層55bをエピタキシャルに成長する。InGaN井戸層55bの厚さは例えば3nmである。InGaN井戸層55bのIn組成は例えば0.25である。必要な場合には、障壁層55a及び井戸層55bの成長を繰り返して活性層55を成長する。活性層55の障壁層55a及び井戸層55bの厚さは、それぞれ、障壁層55aの組成及び井戸層55bの組成における臨界膜厚に比べて薄い。例えば井戸層55bは歪みを内包する。活性層55の成長後に、電子ブロック層を成長する工程S110に進む。そして、電子ブロック層の成長後に、p型コンタクト層を成長する工程S112に進む。
【0085】
レーザダイオードを作製するとき、工程107では、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスを成長炉10に供給して、摂氏870度の基板温度で、格子緩和したn型バッファ層53上にn型クラッド層57をエピタキシャルに成長する。n型クラッド層57は例えばIn0.10Al0.10Ga0.80Nからなり、その厚さは例えば2μmである。n型クラッド層57は、In0.10Al0.10Ga0.80NのIn組成及びAl組成において臨界膜厚を超えていない。
【0086】
工程S108では、第1の光ガイド層59をn型クラッド層57上にエピタキシャルに成長する。第1の光ガイド層59は、格子緩和していない。この光ガイド層59は、例えばn型In0.06Ga0.94N層59a及びアンドープIn0.08Ga0.92N層59bからなる。In0.06Ga0.94Nの膜厚は例えば250ナノメートルであり、In0.08Ga0.92Nの膜厚は例えば50ナノメートルである。非極性面においては格子緩和の有無は、成長するInGaN半導体の組成、膜厚及び格子定数差によって制御できる。この格子定数差は、下地InGaNと、これに接合を成す光ガイド層59のInGaNとによって規定される。光ガイド層59の膜厚はこの厚さにおいて臨界膜厚を越えていない。これらのInGaNの成長温度は例えば摂氏870度である。原料ガスは、例えばTMG、TMI、NHを含む。
【0087】
引き続き、既に説明したように、工程S106では、量子井戸構造を有する活性層55を成長する。
【0088】
工程S109では、摂氏870度の基板温度において、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスを成長炉10に導入して、活性層55上に第2の光ガイド層61をエピタキシャルに成長する。第2の光ガイド層61は、活性層55上において格子緩和していない。この光ガイド層61は、例えばアンドープIn0.08Ga0.92N層61a及びp型In0.06Ga0.94N層61bからなる。In0.08Ga0.92Nの膜厚は例えば50ナノメートルであり、In0.06Ga0.94Nの膜厚は例えば250ナノメートルである。非極性面においては格子緩和の有無は、成長するInGaN半導体の組成、膜厚及び格子定数差によって制御できる。この格子定数差は、下地InGaN又はGaNと、これに接合を成す光ガイド層61のInGaNとによって規定される。光ガイド層61の膜厚はこの厚さにおいて臨界膜厚を越えていない。これらのInGaNの成長温度は例えば摂氏870度である。原料ガスは、例えばTMG、TMI、NHを含む。
【0089】
工程S110では、電子ブロック層63をエピタキシャルに成長する。原料ガスG2は、例えばTMG、TMA、NH、CPMgを含む。電子ブロック層63の厚さは例えば10nmであり、そのAl組成は例えば0.12である。電子ブロック層63の厚さはその臨界膜厚に比べて薄いので、電子ブロック層63は歪みを内包する。
【0090】
必要な場合には、電子ブロック層63を光ガイド層61の成長に先立って行うことができる。また、光ガイド層61の成長では、電子ブロック層63の成長に先立って光ガイド層61の一部分を成長でき、電子ブロック層63の成長の後に光ガイド層61の残りを成長できる。
【0091】
次いで、工程S111において、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスを成長炉10に導入して、第2の光ガイド層61上に、第2導電型窒化ガリウム系半導体クラッド層(以下「p型クラッド層」として説明を行う)65をエピタキシャルに成長する。第2の光ガイド層61の主面61c上に、p型クラッド層65は、p型クラッド層65が格子緩和しないように成長される。p型クラッド層65として、例えばMgドープInAlGaNクラッド層を成長する。非極性面においては格子緩和の有無は、成長するInAlGaN半導体の組成、膜厚及び格子定数差によって制御できる。この格子定数差は、第2の光ガイド層61の主面61cにおけるInGaNと、これに接合を成すp型クラッド層65のInAlGaNとによって規定される。このInAlGaN層の厚さは例えば400ナノメートルである。窒化ガリウム系半導体層65のAl組成は、例えば0.10である。In組成は例えば0.10である。このInAlGaN層の膜厚は臨界膜厚を越えない。成長温度は例えば摂氏870度である。
【0092】
続けて、工程S112において、III族原料及び窒素原料を含む原料ガスを成長炉10に導入して、p型クラッド層65上にp型コンタクト層67をエピタキシャルに成長する。原料ガスは、例えばTMG、NH、CPMgを含む。p型コンタクト層67の厚さは例えば50nmである。p型コンタクト層67の厚さはその臨界膜厚に比べて薄いので、p型コンタクト層67は歪みを内包する。
【0093】
引き続く工程では、コンタクト窓を有する絶縁膜を形成した後に、エピタキシャル基板EPI0のp型窒化ガリウム系半導体領域上にアノード電極を形成してp型コンタクト層67に電気的な接続を成すと共に基板51の裏面51bを必要に応じて研磨した後に研磨裏面にカソード電極を形成する。これらの電極は、例えば蒸着により作製される。
【0094】
(実施例1)
2枚のGaN基板を準備した。これらのGaN基板の主面は(20−21)面であった。有機金属気相成長法で、図7(a)及び図7(b)に示される発光ダイオード構造を以下のように作製した。
【0095】
一方のGaN基板に、図7(a)に示されるように、n型In0.06Ga0.94Nバッファ層を成長した。このn型バッファ層の成長温度は摂氏870度であった。n型バッファ層の厚さは2μmであった。次いで、このn型バッファ層上に活性層を形成した。活性層は3QWの量子井戸構造を有し、この量子井戸構造は、交互に配列されたIn0.25Ga0.75N井戸層及びIn0.06Ga0.94N障壁層を含む。障壁層の成長温度は摂氏870度であった。井戸層の成長温度は摂氏750度であった。井戸層及び障壁層の厚さは、それぞれ、3nm及び15nmであった。この後に、活性層上に、Al0.07Ga0.93N電子ブロック層及びp型In0.06Ga0.94Nコンタクト層を順に成長した。これらの成長温度は摂氏900度であった。電子ブロック層及びp型コンタクト層の厚さは、それぞれ、10nm及び50nmであった。これらの工程により、エピタキシャル基板Aが作製された。
【0096】
他方のGaN基板に、n型GaNバッファ層を成長した。このn型バッファ層の成長温度は摂氏1000度であった。n型バッファ層の厚さは2μmであった。次いで、n型バッファ層上に活性層を形成した。活性層は3QWの量子井戸構造を有し、この量子井戸構造は、交互に配列されたIn0.25Ga0.75N井戸層及びGaN障壁層を含む。障壁層の成長温度は摂氏870度であった。井戸層の成長温度は摂氏750度であった。井戸層及び障壁層の厚さは、それぞれ、3nm及び15nmであった。この後に、活性層上に、Al0.07Ga0.93N電子ブロック層及びp型GaNコンタクト層を順に成長した。これらの成長温度は摂氏900度であった。電子ブロック層及びp型コンタクト層の厚さは、それぞれ、10nm及び50nmであった。これらの工程により、エピタキシャル基板Cが作製された。
【0097】
これらのエピタキシャル基板に、フォトリソグラフィーおよび超音波洗浄等を用いてRIE法でメサを形成した。この後に、電極を形成した。電極の形成として、p側透明電極(Ni/Au)形成、p側パッド電極(Au)形成、n側電極(Ti/Al)の形成を蒸着により行った。電極の形成の後に、電極アニールを行った。アニール温度が摂氏550度であり、アニール時間は1分であった。これらの工程により、図7に示される発光ダイオードLED、LEDが作製された。これらのチップサイズは400μm角であった。これらの発光ダイオードに120mAの電流を印加して、発光波長及び発光パワーを測定すると共に、1mAから200mAにおけるブルーシフト量を測定した。
試料名称 発光波長 光パワー ブルーシフト
発光ダイオードLED:521nm、22mW、3nm
発光ダイオードLED:519nm、14mW、14nm
であった。
【0098】
発光ダイオードLEDでは、すべり面(例えばc面)を生成するように、半極性面上に、高In組成のInGaN厚膜を成長して、このInGaN厚膜を格子緩和させた。そして、格子緩和したInGaN厚膜上に、コヒーレントに光学素子構造を作製した。活性層の井戸層の歪みが小さくなり、この結晶の品質が向上した。GaN基板上に成長されるバッファ層として、より高In組成のInGaN厚膜に格子緩和を施すほど、活性層の結晶品質が向上した。例えば発光ダイオード構造を作製した場合には、上記のように、その発光出力が向上した。
【0099】
c面上においては高In組成のInGaN厚膜を成長してヘテロ接合を作製するとき、ある臨界膜厚以上の厚膜では多量の貫通転位が発生し、堆積物の表面が黒色化する。
【0100】
無極性面および半極性面上においては高In組成のInGaN厚膜を成長してヘテロ接合を作製するとき、すべり面の生成によりミスフィット転位が導入される。この転位が歪みを開放して、格子緩和が起こる。
【0101】
図8は、InGaNバッファ層を用いた発光ダイオード構造の逆格子マッピングを示す図面である。X線回折では、入射X線のスリットサイズは、縦0.2mm横2mmである。オフ方向をX線の入射方向に合わせた後、ステージの高さ調整し、(20−25)面を用いた軸立てを行い、(0002)面のオフセット角をゼロにセットした。縦軸はc軸の格子定数の逆数に係数を乗じたものを示し、横軸はa軸の格子定数の逆数に係数を乗じたものを示す。図8を参照すると、逆格子マッピングでは、信号SSUBはGaN基板からの信号を示し、信号SCOREは活性層及びp型半導体領域からの信号を示し、信号SBUFはバッファ層からの信号を示す。信号SCORE及び信号SBUFのピークは縦軸に平行に延びる直線上に並ぶけれども、信号SSUBのピークは、縦軸に平行に延びる先の直線上に並ばない。故に、これら2群の半導体領域の格子定数は互いに異なる。逆格子マッピングにおいて、縦軸に平行な線分上に信号ピークが並ぶとき、これらの信号に対応する半導体における格子定数の横成分は、それぞれの界面において同じである。故に、図8の結果は、基板とn型バッファ厚膜との界面で格子緩和が生じたことを示しており、またn型バッファ厚膜と活性層との界面、活性層と電子ブロック層及びp型コンタクト層との界面で格子緩和が生じていないことを示している。GaN基板上においてn型InGaNバッファ厚膜が格子緩和しているので、エピタキシャル基板が黒色化することなく高インジウム組成のバッファ厚膜が得られる。このため、InGaN層を含む活性層の歪みを低減できる。
【0102】
(実施例2)
GaN基板を準備した。これらのGaN基板の主面は(20−21)面であった。有機金属気相成長法で、図9に示されるレーザダイオード構造を以下のように作製した。
【0103】
GaN基板に、n型In0.06Ga0.94Nバッファ層を成長した。このn型バッファ層の成長温度は摂氏870度であった。n型バッファ層の厚さは2μmであった。次いで、n型バッファ層上にn型In0.10Al0.10Ga0.80Nクラッド層を成長した。n型クラッド層の成長温度は摂氏870度であった。n型クラッド層上に、光ガイド層として、n型In0.06Ga0.94N層とアンドープIn0.08Ga0.92N層とを順に成長した。光ガイド層の成長温度は摂氏870度であった。光ガイド層上に活性層を形成した。活性層は3QWの量子井戸構造を有し、この量子井戸構造は、交互に配列されたIn0.25Ga0.75N井戸層及びIn0.06Ga0.94N障壁層を含む。障壁層の成長温度は摂氏870度であった。井戸層の成長温度は摂氏750度であった。井戸層及び障壁層の厚さは、それぞれ、3nm及び15nmであった。この後に、まず、活性層上に、アンドープIn0.08Ga0.92N層、Al0.12Ga0.88N電子ブロック層、p型In0.06Ga0.94N層、p型In0.10Al0.10Ga0.80Nクラッド層及びp型In0.06Ga0.94Nコンタクト層を順に成長した。これらの成長温度は摂氏900度であった。アンドープIn0.08Ga0.92N層、Al0.12Ga0.88N電子ブロック層、p型In0.06Ga0.94N層、p型In0.10Al0.10Ga0.80Nクラッド層及びp型In0.06Ga0.94Nコンタクト層の厚さは、それぞれ、50nm、10nm、250nm、400nm及び50nmであった。これらの工程により、エピタキシャル基板Bが作製された。
【0104】
このエピタキシャル基板Bに、ストライプ窓を有するシリコン酸化膜を形成した後に電極を形成した。電極の形成として、p側電極(Ni/Au)形成及びp側パッド電極(Au)形成をエピ面に形成すると共に、GaN基板の裏面にn側電極(Ti/Al)を形成した。電極の形成の後に、電極アニールを行った。アニール温度が摂氏550度であり、アニール時間は1分であった。これらの工程により、基板生産物が作製された。この基板生産物を800μm間隔でa面劈開を行って、図9に示されるゲインガイド型レーザダイオードLDが作製された。レーザダイオードLDのしきい値は5kA/cmであり、また発振波長は長波長の500nmであった。
【0105】
このレーザダイオードLDでは、非極性GaN基板上に高In組成のInGaNバッファ厚膜を成長して、InGaNバッファ厚膜に格子緩和を引き起こす。一方、クラッド層以降の成長においては、InGaNバッファ厚膜に格子整合するように成長する。このエピタキシャル層の構造により、活性層の歪みを減らすことができ、これによって活性層の結晶品質が向上される。光閉じ込め向上と格子整合とを両立するために、クラッド層の材料として四元InAlGaN層を採用することが好ましい。このクラッド層は、InGaNバッファ厚膜よりも小さい屈折率と、バッファ層に格子整合する組成とを有する。レーザダイオードLDでは、光閉じ込めの向上と光出力の向上を両立できる。発振しきい値が大幅に低減される。
【0106】
実施例1及び実施例2では、半極性を示すGaN基板を用いたけれども、無極性を示すGaN基板を用いて作製された発光ダイオード及びレーザダイオードにおいても、同様の技術的寄与が得られる。故に、非極性主面の角度は、10度以上170度以下の範囲にあることが好ましい。また、半極性主面の傾斜角は、10度以上80度以下及び100度以上170度以下の範囲にあることが好ましい。さらに、半極性主面の傾斜角は、63度以上80度以下及び100度以上117度以下の範囲にあることが更に好適である。
【0107】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【符号の説明】
【0108】
10…反応炉、11a、11b…III族窒化物半導体光素子、13…半導体領域、13a…半導体領域主面、15…第1導電型バッファ層、17…活性層、19…キャリアブロック層、Nx…法線軸、RC…基準面、VC13、VC15、VC19、VC51…c軸ベクトル、Cx…基準軸、21a…窒化ガリウム系半導体層、21…量子井戸構造、21b…障壁層、23…第2導電型コンタクト層、LVC1、LVC2、LVC3、LVC4、LVC5、LVCW、LVCC…格子ベクトル、V1、V2、V3、V4、V5、VW、VC…縦成分、V1、V2、V3、V4、V5、VW、VC…横成分、20a〜20g…接合、27a…第1導電型半導体領域、27b…第2導電型半導体領域、29…絶縁膜、37…第1導電型クラッド層、39…第2導電型クラッド層、41…発光層、43…第1の光ガイド層、45…第2の光ガイド層、51…GaN基板、53…第1導電型窒化ガリウム系半導体層、55…活性層、55a…GaN障壁層、55b…InGaN井戸層、57…n型クラッド層、59…第1の光ガイド層、61…第2の光ガイド層、63…電子ブロック層、65…p型クラッド層、67…p型コンタクト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体光素子であって、
第1の六方晶系III族窒化物半導体からなる主面を有する半導体領域上に設けられ、該第1の六方晶系III族窒化物半導体と異なる第2の六方晶系III族窒化物半導体からなる第1導電型バッファ層と、
窒化ガリウム系半導体層を含む活性層と、
第3の六方晶系III族窒化物半導体からなるキャリアブロック層と
を備え、
前記第1導電型バッファ層のバンドギャップエネルギは前記半導体領域のバンドギャップエネルギより小さく、
前記窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップエネルギは前記第1導電型バッファ層のバンドギャップエネルギより小さく、
前記半導体領域の前記主面は、該第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸に直交する基準面に対して10度以上の角度を成し、
前記第1導電型バッファ層は、前記半導体領域の前記主面上において格子緩和しており、
前記第1導電型バッファ層、前記活性層及び前記キャリアブロック層は、前記半導体領域の前記主面の法線軸の方向に配列されており、
前記窒化ガリウム系半導体層は歪みを内包し、
前記半導体領域の前記主面は無極性及び半極性のいずれかを示す、ことを特徴とするIII族窒化物半導体光素子。
【請求項2】
前記第1の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d1の大きさとは格子ベクトルLVC1によって表され、
前記第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸方向と該c軸方向の格子定数d2の大きさとは格子ベクトルLVC2によって表され、
前記格子ベクトルLVC1は前記法線軸の方向の縦成分V1と前記縦成分に直交する横成分V1とからなり、
前記格子ベクトルLVC2は前記法線軸の方向の縦成分V2と前記縦成分に直交する横成分V2とからなり、
前記横成分V1は前記横成分V2と異なる、ことを特徴とする請求項1に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項3】
前記第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸の格子定数は前記第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸の格子定数と前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層に固有のc軸の格子定数との間にあり、前記キャリアブロック層は歪みを内包する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項4】
前記第1導電型バッファ層はInAlGa1−X−YN(0≦X≦0.50、0≦Y≦0.50)からなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項5】
前記第2の六方晶系III族窒化物半導体はInGaNであり、
前記窒化ガリウム系半導体層はInGaNからなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項6】
前記第2の六方晶系III族窒化物半導体はInAlGaNである、ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項7】
前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップは2.1エレクトロンボルト以上であり、
前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップは2.8エレクトロンボルト以上である、ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項8】
前記第1導電型バッファ層の膜厚は300nm以上である、ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項9】
非極性主面を有する支持体を更に備え、
前記第1導電型バッファ層は前記支持体の前記主面上に設けられており、
前記支持体の前記非極性主面は、前記第1の六方晶系III族窒化物半導体からなる前記半導体領域の主面を提供し、
前記第1の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸の格子定数は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体におけるc軸の格子定数より小さい、ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項10】
前記支持体は導電性GaNからなる、ことを特徴とする請求項9に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項11】
前記第1導電型バッファ層と前記半導体領域との界面における転位は、1×10cm−2以上の密度を有する、ことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項12】
前記転位は刃状転位の成分を含む、ことを特徴とする請求項11に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項13】
第4の六方晶系III族窒化物半導体からなる第1導電型クラッド層を更に備え、
前記第1導電型クラッド層は前記第1導電型バッファ層と前記活性層との間に設けられ、
前記第4の六方晶系III族窒化物半導体は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なり、
前記第1導電型クラッド層は前記第1導電型バッファ層上において格子緩和していない、ことを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項14】
第5の六方晶系III族窒化物半導体からなる第2導電型クラッド層を更に備え、
前記キャリアブロック層は前記第2導電型クラッド層と前記活性層との間に設けられ、
前記第5の六方晶系III族窒化物半導体は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なり、
前記第2導電型クラッド層は前記第1導電型バッファ層上において格子緩和していない、ことを特徴とする請求項13に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項15】
前記第1導電型クラッド層はInAlGaNからなり、
前記第2導電型クラッド層はInAlGaNからなる、ことを特徴とする請求項14に記載されたIII族窒化物半導体光素子。
【請求項16】
III族窒化物半導体光素子を作製する方法であって、
第1の六方晶系III族窒化物半導体からなる半導体領域の主面上に、第2の六方晶系III族窒化物半導体からなる第1導電型バッファ層を、該第1導電型バッファ層が格子緩和するように成長する工程と、
前記第1導電型バッファ層上に活性層を成長する工程と、
第3の六方晶系III族窒化物半導体からなるキャリアブロック層を前記活性層上に成長する工程と
を備え、
前記半導体領域の前記主面は、該第1の六方晶系III族窒化物半導体のc軸に直交する基準面に対して10度以上の角度を成し、
前記半導体領域の前記主面は無極性及び半極性のいずれかを示し、
前記活性層は、歪みを内包する窒化ガリウム系半導体層を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項17】
前記第2の六方晶系III族窒化物半導体はInGaN及びInAlGaNのいずれか一方であり、
前記第1導電型バッファ層の膜厚は、該第2の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚より大きい、ことを特徴とする請求項16に記載された方法。
【請求項18】
前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップは2.1エレクトロンボルト以上であり、
前記活性層の前記窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップは2.8エレクトロンボルト以下である、ことを特徴とする請求項16又は請求項17に記載された方法。
【請求項19】
第4の六方晶系III族窒化物半導体からなる第1導電型クラッド層を前記第1導電型バッファ層上に成長する工程を更に備え、
前記第4の六方晶系III族窒化物半導体は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なり、
前記第1導電型クラッド層の膜厚は前記第4の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚以下である、ことを特徴とする請求項16〜請求項18のいずれか一項に記載された方法。
【請求項20】
第5の六方晶系III族窒化物半導体からなる第2導電型クラッド層を前記キャリアブロック層上に成長する工程を更に備え、
前記第5の六方晶系III族窒化物半導体は前記第2の六方晶系III族窒化物半導体と異なり、
前記第2導電型クラッド層の膜厚は前記第5の六方晶系III族窒化物半導体の組成における臨界膜厚以下である、ことを特徴とする請求項16〜請求項18のいずれか一項に記載された方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−44669(P2011−44669A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193507(P2009−193507)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】