説明

III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ及びその製造方法

【課題】新規なIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタを提供する。
【解決手段】n型Si基板31上に、Al/Ti/Pt/Au多重金属層32、AuSnはんだ層33、Au/Ni/Al/Ti多重金属層15、n+コンタクト層(n+−GaN)14、ドリフト部(n−GaN)13が形成されている。ドリフト部13は、厚さ約0.5μmの電流狭窄部13bnを有しており、その左右には、AlN層21とp層(p−GaN)22が形成されている。ドリフト部13(電流狭窄部13bn)の最上部と、p層(p−GaN)22の最上部は同一平面となっている。それらの上には、チャネル層(n−GaN)12、電子供与層(AlGaN)11が形成されている。HEMT100は、サファイア基板にエピタキシャル成長させた後、シリコン基板を貼り付けてレーザーリフトオフ法でサファイア基板を除去すると得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてIII族窒化物系化合物半導体から成る新規な縦型トランジスタ及びその製造方法に関する。本発明は、特に、二次元電子ガスを利用する高電子移動度トランジスタ(HEMT)として作用するIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタに関する。本明細書においてIII族窒化物系化合物半導体とは、AlxGayIn1-x-yNで表される2元系又は3元系又は4元系の半導体と、それらに伝導型の制御等のために任意の元素を添加したものを包括して言うものとし、更には、III族元素の一部組成をB、Tlで、V族元素の一部組成をP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。また、縦型トランジスタの縦型とは、基板主面の法線方向に電流が流れるものを言うものとする。
【背景技術】
【0002】
高温下での動作や、高耐圧の素子として、III族窒化物系化合物半導体素子が種々検討されている。例えばIII族窒化物系化合物半導体を用いた電界効果トランジスタ(FET)としては、横方向に、即ち素子表面に並んでソース電極、ゲート電極、ドレイン電極を有するものが報告されている。これは高電子移動度トランジスタ(HEMT)として作用するIII族窒化物系化合物半導体トランジスタも同様である。
【特許文献1】特開2004−260140号公報
【特許文献2】特開2005−159207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、HEMTとして作用する新規な構成のIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタを検討した。縦型トランジスタを、例えば下層からドレイン部、ドレイン部の電流狭窄部(と領域制限のための絶縁領域等)、チャネル層、電子供与層をこの順にエピタキシャル成長により積層して形成することも考えられる。しかしこの順によった場合、電流狭窄部上部のチャネル層及び電子供与層の界面を平坦に形成することが困難であり、二次元電子ガスを利用した素子特性の良いHEMTの形成は困難であった。
【0004】
また、ドレイン電極を形成するためにはドレイン部を露出させるか、導電性の基板にHEMTを形成する必要があった。サファイア等の絶縁性基板にHEMTを形成してドレイン部を露出させる場合は、素子の占有面積に対して、実質的に素子として働く有効面積が小さいものとなる。また、現時点でIII族窒化物系化合物半導体を結晶性良くエピタキシャル成長可能な導電性の基板として、GaN自立基板やSiC基板等は非常に高価であり、しかも基板の大面積化が困難であるという問題がある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、全く新規なIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタの構成と、その製造方法を着想して完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、本発明者らが着想した新規な縦型トランジスタである。
その構成は、III族窒化物系化合物半導体を用いた縦型トランジスタであって、導電性の支持基板と、支持基板上に設けられ、III族窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る層を少なくとも1層有する導電層と、導電層の上に直接、又はIII族窒化物系化合物半導体層を介して形成されたIII族窒化物系化合物半導体から成るドリフト部と、ドリフト部上に設けられ、組成の異なる2種のIII族窒化物系化合物半導体からそれぞれ形成されたチャネル層及び電子供与層とを有し、ドリフト部は、絶縁領域、又はより低いキャリア濃度のIII族窒化物系化合物半導体領域若しくは伝導型の異なるIII族窒化物系化合物半導体領域により、横方向に領域制限された電流狭窄部を有し、ドリフト部の電流狭窄部上方の電子供与層表面に、絶縁体を介した、又はショットキー接続によるゲート電極を有し、チャネル層に電流を供給可能なソース電極を当該ゲート電極の横方向に有し、支持基板裏面にドレイン電極を有することを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタである。
【0007】
ここで、III族窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る層とは、例えば単層の金属層又は合金層、金属多重層、その他の導電性の材料から成る層であって、III族窒化物系化合物半導体ではないものを言うものとする。チャネル層に電流を供給可能なソース電極とは、例えばチャネル層に直接接触して設けても良く、或いは電子供与層を介している状態であっても、チャネル層に電流を供給可能であれば良いものとする。これらは、以下でも同様である。
【0008】
請求項2に係る発明は、ゲート電極により、チャネル層と電子供与層との界面近傍における、ドリフト部の電流狭窄部上方への横方向の二次元電子ガスの拡散を許容又は阻止することにより、ソース電極からドレイン電極へのキャリアの伝達を許容又は阻止する、高電子移動度トランジスタ(HEMT)であることを特徴とする。また請求項3に係る発明は、ドリフト部の電流狭窄部は、伝導型の異なるIII族窒化物系化合物半導体領域により横方向に領域制限されており、ソース電極の電位が、当該伝導型の異なるIII族窒化物系化合物半導体領域にも印加されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の、本発明者らが着想した新規な縦型トランジスタを製造するための方法である。
即ち、エピタキシャル成長基板に、少なくとも犠牲層と、少なくともアルミニウムを含むIII族窒化物系化合物半導体から成る第1の層と、III族窒化物系化合物半導体から成りチャネル層を構成する第2の層と、アクセプタ不純物が添加されたIII族窒化物系化合物半導体から成る第3の層とをエピタキシャル形成したのち、第3の層を一部エッチングして第2の層を一部露出させ、当該露出した第2の層上にIII族窒化物系化合物半導体から成りドリフト部を形成する第4の層をエピタキシャル成長したのち、ドリフト部に直接、又は更に他のIII族窒化物系化合物半導体層又は導電性の層を介して、表面に導電層の形成された導電性の支持基板の導電層側を接続し、エピタキシャル成長基板と、犠牲層とを少なくとも除去して第1の層を露出させ、当該露出した第1の層の、ドリフト部の電流狭窄部の上方にゲート電極をショットキー接続により、又は絶縁層を介して形成し、当該ゲート電極の横方向において、第2の層に電流供給可能なソース電極をオーミック接続により形成することを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタの製造方法である。
また、請求項5に係る発明は、ソース電極が、アクセプタ不純物が添加されたIII族窒化物系化合物半導体領域にも接するように形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1乃至3に係る縦型トランジスタは新規な構成を有し当該新規な縦型トランジスタは、請求項4又は5に記載の製造方法によって容易に製造可能である。
当該製造方法によれば、エピタキシャル成長基板に、犠牲層となるIII族窒化物系化合物半導体層を介して、まず電子供与層次にチャネル層の順に形成されるので、電子供与層とチャネル層の平坦性は高く、特にそれらの界面は極めて平坦に形成することが可能となる。これにより、例えばその界面のチャネル層側に、二次元電子ガスが効率的に形成され得る。界面が平坦な電子供与層とチャネル層を形成した後の、電流狭窄部やドリフト部を構成する工程は全く任意に設計でき、且つドリフト部を層膜厚10μm以上と大きくして、大電流に耐えうるパワートランジスタとすることも容易となる。
また、導電性の支持基板裏面をドレイン電極とできるので、素子の水平方向の面積全体をトランジスタとして有効利用することが可能となる。
【0011】
異なる伝導型の層でドリフト部の電流狭窄部を挟み、ソース電位を当該異なる伝導型の層に印加することで、電流を縦方向に流すアパーチャ構造を形成することができる。例えばドリフト部(の電流狭窄部)がn型であれば、2つのp型領域で当該電流狭窄部を挟む。すると、ソース電位が当該2つのp型領域に印加されることで、空乏層が当該電流狭窄部を完全に閉じる事ができる。これにより、オフ時の高耐圧特性を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
エピタキシャル成長基板をエピタキシャル膜から除去する場合には、レーザリフトオフ法と呼ばれる技術を用いることができる。これは当該エピタキシャル成長基板で吸収されず、例えばGaNで吸収される波長のレーザを当該GaN層とエピタキシャル成長基板との界面に焦点を併せて照射し、GaN層のエピタキシャル成長基板界面側のごく薄い一部(厚さで0.1μm以下)を溶融させる。当該レーザを走査して当該溶融部がエピタキシャル成長基板の全面となるようにすれば、エピタキシャル成長基板はエピタキシャル膜から容易に除去できる。レーザリフトオフに先立って、エピタキシャル膜のエピタキシャル成長基板とは逆側に支持基板を貼り付けておく。当該支持基板は、最終的に素子の基板となりうるよう、導電性の支持基板とすることが好適である。導電性の支持基板としては例えばn型シリコン基板が安価で好適に用いられる。
【0013】
電流狭窄部を形成するため、例えばp型層に孔又は空隙を設けてチャネル層を露出させる際は、フォトレジスト又は酸化ケイ素などの絶縁膜をマスクとしたドライエッチングを用いると良い。
【実施例1】
【0014】
図1.Aは本発明の具体的な第1の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の構成を示す断面図である。図1.AのIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の構成は次の通りである。
【0015】
n型Si基板31上に、アルミニウム(Al)層/チタン(Ti)層/白金(Pt)層/金(Au)層が順に積層された多重金属層32が、その上に金スズ(AuSn)はんだ層33が、その上に金(Au)層/ニッケル(Ni)層/アルミニウム(Al)層/チタン(Ti)層が順に積層された多重金属層15が形成されている。尚、後に示す通り、多重金属層15の内部構成はn+コンタクト層(n+−GaN)14に積層した順に記載するため、図1.Aでは、多重金属層15の表示はTi/Al/Ni/Auとした。
【0016】
多重金属層15の上には、膜厚0.1μm、電子濃度1×1018/cm3のシリコン(Si)が添加されたGaNから成るn+コンタクト層(n+−GaN)14が、その上には膜厚20μm、キャリア濃度2×1016/cm3のシリコン(Si)が添加されたGaNから成るドリフト部(n−GaN)13が形成されている。ドリフト部13は、厚さ約0.5μmの電流狭窄部13bnを有しており、当該電流狭窄部13bnの図1向って左右には、厚さ0.01μmのAlN層21とその上に厚さ0.5μmの正孔濃度2×1018/cm3のマグネシウム(Mg)が添加されたGaNから成るp層(p−GaN)22が形成されている。ドリフト部13(電流狭窄部13bn)の最上部と、p層(p−GaN)22の最上部は同一平面となっている。
【0017】
ドリフト部13(電流狭窄部13bn)とp層(p−GaN)22の上には、膜厚0.1μm、電子濃度1×1016/cm3のシリコン(Si)が添加されたGaNから成るチャネル層(n−GaN)12が、チャネル層(n−GaN)12の上には膜厚0.03μmの不純物無添加のAlGaNから成る電子供与層(AlGaN)11及び厚さ0.05μmのSiO2から成る絶縁膜10が形成されている。
【0018】
また、図1.Aに示す通り、SiO2から成る絶縁膜10の上に、電流狭窄部13bnの水平占有領域を含み且つそれよりも左右に広がってp層(p−GaN)22上部に達するように、多結晶シリコン(Poly−Si)から成るゲート電極41Gが形成されている。ゲート電極41Gから見て左右には、水平方向に間隔を置いて2つのソース電極40Sが形成されている。ソース電極40SはSiO2から成る絶縁膜10及び電子供与層(AlGaN)11を一部除去して露出したチャネル層(n−GaN)12に接する様に形成されている。また、n型Si基板31裏面には、ドレイン電極42Dが形成されている。ソース電極40Sの構成は、下側(チャネル層(n−GaN)12に接する側)からチタン(Ti)層/アルミニウム層(Al)/ニッケル(Ni)層/金(Au)層の順に積層されたものであり、ドレイン電極40Dの構成は、上側(n型Si基板31に接する側)からアルミニウム層(Al)/チタン(Ti)層/白金(Pt)層/金(Au)層の順に積層されたものである。
【0019】
図1のIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の各構成要素を、請求項1に係る発明の記載と対応させると次の通りである。
n型シリコン基板31が導電性の支持基板に当たる。
多重金属層32、はんだ層33及び多重金属層15の積層構造が、III族窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る層を少なくとも1層有する導電層に当たる。
ドリフト部13を領域制限して電流狭窄部13bnを形成するp−GaN層22が伝導型の異なるIII族窒化物系化合物半導体領域に当たる。
ドリフト部、チャネル層、電気供与層及び各電極の対応は明確である。
【0020】
次に、図1.AのIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の製造方法を図1.B乃至図1.Hの工程図として示す。尚、請求項4の記載との対応は個々に述べる。
【0021】
まず、図1.Bの構成のウエハ100s1が次のように形成される。C面を主面とするサファイア基板(エピタキシャル成長基板)1を用意し、公知の方法で、窒化アルミニウム(AlN)から成るバッファ層を形成し、その上に、不純物無添加の窒化ガリウムから成る犠牲層(i−GaN)2を4μmエピタキシャル成長させる。この後、犠牲層(i−GaN)2の上に、膜厚0.03μmの不純物無添加のAlGaNから成る電子供与層(AlGaN、第1の層)11、膜厚0.1μm、シリコンが添加された電子濃度1×1016/cm3のGaNから成るチャネル層(n−GaN、第2の層)12、厚さ0.5μm、マグネシウムが添加されたGaNから成るp層(p−GaN、アクセプタ不純物が添加された第3の層)22、厚さ0.01μmのAlN層21を順にエピタキシャル成長させる。この後、窒素雰囲気下の加熱によりp層(p−GaN、第3の層)22を活性化させて正孔濃度を2×1018/cm3とする。尚、図1.Bにおいては、サファイア基板(Sapph)1と犠牲層(i−GaN)2との間に形成されるAlNから成るバッファ層の記載を省略した。
【0022】
次に、n型のGaNから成るドリフト部13の電流狭窄部13bnを形成するため、AlN層21とp層(p−GaN、第3の層)22の中央部をエッチングして、空隙Hを形成する。この際、アルカリ水溶液によるウエットエッチングによりAlN層21をエッチングし、その後ドライエッチングによりp層(p−GaN)22をエッチングすると良い。こうして空隙Hの底にチャネル層(n−GaN、第2の層)12が露出する(図1.C)。
【0023】
次に、シリコンが添加された窒化ガリウム(GaN)をエピタキシャル成長させると、空隙Hにおいては、その底のチャネル層(n−GaN、第2の層)12表面から、また、AlN層21の表面からもエピタキシャル成長が生じて、空隙Hが埋められ、ウエハ全体として平坦なエピタキシャル成長が生じる。こうして、チャネル層(n−GaN、第2の層)12表面から20μmの厚さでキャリア濃度2×1016/cm3のGaNから成るドリフト部(n−GaN、第4の層)13を形成する。この際、空隙Hはキャリア濃度2×1016/cm3のGaNから成る電流狭窄部13bnとして埋められる(図1.D)。
【0024】
この後、膜厚0.1μm、電子濃度1×1018/cm3のシリコンが添加されたGaNから成るn+コンタクト層(n+−GaN)14をエピタキシャル成長により形成し、多重金属層15を蒸着により形成する。多重金属層15は、n+コンタクト層(n+−GaN)14に近い側から、チタン(Ti)層、アルミニウム(Al)層、ニッケル(Ni)層、金(Au)層の順に形成される。こうしてウエハ100s2が得られる(図1.E)。
【0025】
次に、ウエハ100s2(サファイア基板(Sapph)1)と同じ形状のn型シリコン基板(n−Si、導電性の支持基板)31を用意し、表面に順にアルミニウム(Al)層、チタン(Ti)層、白金(Pt)層、金(Au)層を成膜して多重金属層32を形成する。この後、金スズはんだ(AuSn)33を用いて、n型シリコン基板(n−Si)31の多重金属層32を形成した側(導電層側)と、ウエハ100s2の多重金属層15側とを接合させてウエハ100ssを得る(図1.F)。接合は350℃5分間の加熱で良い。
【0026】
この後、良く知られたレーザリフトオフ法により、ウエハ100ssの、犠牲層(i−GaN)2のサファイア基板(Sapph)1側の界面のごく一部(厚さ0.1μm以下)を溶融させて、サファイア基板(Sapph)1を除去する(図1.G)。この後、犠牲層(i−GaN)2をドライエッチングにより除去すれば、不純物無添加のAlGaNから成る電子供与層(AlGaN、第1の層)11が露出したウエハ100sが得られる(図1.H)。
【0027】
この後、不純物無添加のAlGaNから成る電子供与層(AlGaN、第1の層)11の表面に、電流狭窄部13bnの水平占有面を覆うように、絶縁膜10とゲート電極41Gを形成する。また、ゲート電極41Gと距離を置いてソース電極40Sを形成するため、絶縁膜10と不純物無添加のAlGaNから成る電子供与層(AlGaN、第1の層)11の一部をエッチングにより除去してGaNから成るチャネル層(n−GaN、第2の層)12を露出させる。ソース電極40Sの構成は、上述した通りである。また、n型シリコン基板(n−Si、導電性の支持基板)31の裏面にはドレイン電極42Dを形成する。ドレイン電極42Dの構成も、上述した通りである。
【0028】
図1.AのIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100においては、チャネル層(n−GaN)12の電子供与層(AlGaN)11との界面近傍に二次元電子ガス(2−DEG)が形成される。これを図1.Aで太い破線で示した。即ち、ソース40S/ドレイン42D間に電圧を印加し、ゲート電極41Gに閾値電圧以上の電圧を印加すると、ソース40Sから電流狭窄部13bn上方まで二次元電子ガス(2−DEG)が形成され、電流狭窄部13bnを通って、即ちドリフト部13を通ってドレイン電極42Dまで電子が伝導する。一方、ゲート電極41Gに閾値電圧以下の電圧を印加すると、二次元電子ガス(2−DEG)はソース40Sから電流狭窄部13bn上方まで達せず、電流狭窄部13bn(ドリフト部13)を通ってドレイン電極42Dまで電子が伝導することができない。
【実施例2】
【0029】
図2は本発明の具体的な第2の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)200の構成を示す断面図である。
図2のIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)200の構成は、p層(p−GaN)22を10μmと厚く形成して(電流狭窄部13bnも厚さ10μmとなる)、AlN層21を形成せず、p層(p−GaN)22がn+コンタクト層(n+−GaN)14に接する点、ソース電極40S2の電位をp層(p−GaN)22にも印加したこと、各電極と多重金属層152、金属層322、はんだ332の構成金属が異なる他は、基本的には図1.AのIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の構成と同様であって、製造方法もほぼ同様である。
【0030】
図2のIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)200のnドレインの電流狭窄部13bnを2つのp層22で挟んだ構成は、最小単位のスーパージャンクション構造である。即ち、2つのp層22にはソース電位が印加されており、電流狭窄部13bnと2つのp層22との界面は空乏層が広がり、電流狭窄部13bnを閉じるまで当該空乏層を形成することが可能である。これにより、高耐圧の縦型トランジスタとすることができる。
【0031】
当該スーパージャンクション構造を形成するためには、深いトレンチエッチングが必要である。この際、ドライエッチングに、TMAHを用いたウエットエッチングを組み合わせるとトレンチ側壁を垂直にすることが容易である。
【0032】
〔変形例について〕
上記実施例においては、不純物無添加のAlGaNから成る電子供与層とn−GaNから成るチャネル層の構成を示したが、本願発明はこれに限定されない。III族窒化物系化合物半導体により二次元電子ガスを生成する場合は、組成の異なる2つのIII族窒化物系化合物半導体層間の歪が重要であり、各々の伝導型は必ずしも重要ではない。即ち、電子供与層とチャネル層を異なる他の組成で構成し、界面に二次元電子ガスを生成するようにしても良い。この場合、いずれの層にドナー不純物を添加しても良く、或いはいずれの層にもドナー不純物を添加しなくても良い。
【0033】
また、実施例1では、図1.Aのように、p層(p−GaN)22の下面にAlN層21を設ける構成のIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100を示したが、AlN層をp層(p−GaN)22の上下にそれぞれ設ける構成としても良い。この構成によれば、深さ方向に精度の高い、即ち壁面が垂直の空孔Hを形成することが可能である。これを図3.A乃至図3.Cを用いて説明する。
【0034】
図3.Aは、図1.Bと同様に、C面を主面とするサファイア基板(エピタキシャル成長基板)1に、不純物無添加の窒化ガリウムから成る犠牲層(i−GaN)2、不純物無添加のAlGaNから成る電子供与層(AlGaN)11、シリコンが添加された電子濃度1×1016/cm3のGaNから成るチャネル層(n−GaN)12を形成した後、厚さ0.01μmのAlN層23、厚さ0.5μm、マグネシウムが添加されたGaNから成るp層(p−GaN)22、厚さ0.01μmのAlN層21を順にエピタキシャル成長させたものである。この後、実施例1と同様にp層(p−GaN)22を活性化させる。
次にn型のGaNから成るドリフト部13の電流狭窄部13bnを形成するため、アルカリ水溶液によるウエットエッチングによりAlN層21をエッチングし、その後ドライエッチングによりp層(p−GaN)22をエッチングする。この時、p層(p−GaN)22の下に位置するAlN層23がドライエッチングに対するストッパ層として働く(図3.B)。
この後、アルカリ水溶液によるウエットエッチングによりAlN層23をエッチングすれば、AlN層23のみをエッチングすることができ、チャネル層(n−GaN)12をエッチングすることはない(図3.C)。
このように、AlN層23を設けることにより、深さ方向に精度の高い空孔Hの形成が可能となる。
【0035】
上記実施例においては、高抵抗のAlGaNから成る電子供与層に酸化ケイ素から成る絶縁層を介してゲート電極40Gを設ける構成を示したが、例えば直接ゲート電極を形成してショットキーゲートとしても良い。
【0036】
上記実施例においては二次元電子ガスを利用したHEMTを示したが、HEMTでないFETを構成しても本願発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1.A】本願の具体的な第1の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の構成を示す断面図。
【図1.B】III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の製造方法の1工程における断面図。
【図1.C】III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の製造方法の1工程における断面図。
【図1.D】III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の製造方法の1工程における断面図。
【図1.E】III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の製造方法の1工程における断面図。
【図1.F】III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の製造方法の1工程における断面図。
【図1.G】III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の製造方法の1工程における断面図。
【図1.H】III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)100の製造方法の1工程における断面図。
【図2】本願の具体的な第2の実施例に係るIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)200の構成を示す断面図。
【図3.A】変形例の製造方法の1工程における断面図。
【図3.B】変形例の製造方法の1工程における断面図。
【図3.C】変形例の製造方法の1工程における断面図。
【符号の説明】
【0038】
100、200:III族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ(HEMT)
1:サファイア基板(エピタキシャル成長基板)
2:GaNからなる犠牲層(i−GaN)
11:AlGaNから成る電子供与層(第1の層)
12:n−GaNから成るチャネル層(第2の層)
13:n−GaNから成るドリフト部(第4の層)
13nb:ドリフト部13の電流狭窄部
14:n−GaNから成るコンタクト層
15、152、32:多重金属層
21:AlN層
22:p−GaN層(第3の層)
31:n型シリコン基板(導電性の支持基板)
322:金属層
33、332:はんだ層
40S、40S2:ソース電極
41G:ゲート電極
42D、42D2:ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物系化合物半導体を用いた縦型トランジスタであって、
導電性の支持基板と、
前記支持基板上に設けられ、III族窒化物系化合物半導体とは異なる材料から成る層を少なくとも1層有する導電層と、
前記導電層の上に直接、又はIII族窒化物系化合物半導体層を介して形成されたIII族窒化物系化合物半導体から成るドリフト部と、
前記ドリフト部上に設けられ、組成の異なる2種のIII族窒化物系化合物半導体からそれぞれ形成されたチャネル層及び電子供与層とを有し、
前記ドリフト部は、絶縁領域、又はより低いキャリア濃度のIII族窒化物系化合物半導体領域若しくは伝導型の異なるIII族窒化物系化合物半導体領域により、横方向に領域制限された電流狭窄部を有し、
前記ドリフト部の前記電流狭窄部上方の前記電子供与層表面に、絶縁体を介した、又はショットキー接続によるゲート電極を有し、
前記チャネル層に電流を供給可能なソース電極を当該ゲート電極の横方向に有し、
前記支持基板裏面にドレイン電極を有することを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ。
【請求項2】
前記ゲート電極により、前記チャネル層と前記電子供与層との界面近傍における、前記ドリフト部の電流狭窄部上方への横方向の二次元電子ガスの拡散を許容又は阻止することにより、前記ソース電極から前記ドレイン電極へのキャリアの伝達を許容又は阻止する、高電子移動度トランジスタであることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ。
【請求項3】
前記ドリフト部の電流狭窄部は、伝導型の異なるIII族窒化物系化合物半導体領域により横方向に領域制限されており、
前記ソース電極の電位が、当該伝導型の異なるIII族窒化物系化合物半導体領域にも印加されていることを特徴とする請求項2に記載のIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタ。
【請求項4】
エピタキシャル成長基板に、
少なくとも犠牲層と、
少なくともアルミニウムを含むIII族窒化物系化合物半導体から成る第1の層と、
III族窒化物系化合物半導体から成りチャネル層を構成する第2の層と、
アクセプタ不純物が添加されたIII族窒化物系化合物半導体から成る第3の層とをエピタキシャル形成したのち、
前記第3の層を一部エッチングして前記第2の層を一部露出させ、
当該露出した前記第2の層上にIII族窒化物系化合物半導体から成りドリフト部を形成する第4の層をエピタキシャル成長したのち、
前記ドリフト部に直接、又は更に他のIII族窒化物系化合物半導体層又は導電性の層を介して、表面に導電層の形成された導電性の支持基板の前記導電層側を接続し、
前記エピタキシャル成長基板と、前記犠牲層とを少なくとも除去して前記第1の層を露出させ、
当該露出した前記第1の層の、ドリフト部の前記電流狭窄部の上方にゲート電極をショットキー接続により、又は絶縁層を介して形成し、
当該ゲート電極の横方向において、前記第2の層に電流供給可能なソース電極をオーミック接続により形成することを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記ソース電極が、前記アクセプタ不純物が添加されたIII族窒化物系化合物半導体領域にも接するように形成されることを特徴とする請求項4に記載のIII族窒化物系化合物半導体縦型トランジスタの製造方法。

【図1.A】
image rotate

【図1.B】
image rotate

【図1.C】
image rotate

【図1.D】
image rotate

【図1.E】
image rotate

【図1.F】
image rotate

【図1.G】
image rotate

【図1.H】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3.A】
image rotate

【図3.B】
image rotate

【図3.C】
image rotate


【公開番号】特開2008−270310(P2008−270310A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107774(P2007−107774)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】