説明

OAローラの製造方法

【課題】同一の金型でOAローラの製造を繰り返すことによるOAローラと金型との離型性の低下を遅らせることが可能なOAローラの製造方法を提供することにある。
【解決手段】金型21内にシャフト1を配置し、金型21の両端の開口部にそれぞれキャップ5を挿入した後、金型21内に弾性層2の材料を注入し、シャフト1の周囲に弾性層2を形成し、得られたOAローラ10を金型21から脱型するOAローラ10の製造方法において、OAローラ10を1回以上製造した後に、キャップ5と弾性層2との界面Pの位置を金型長手方向に移動させてから新たなOAローラを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式電子写真装置等の画像形成装置における、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラ、トナー供給ローラ、クリーニングローラおよび給紙ローラなどに供するOAローラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真技術の進歩に伴い、乾式電子写真装置等の画像形成装置には、帯電用、現像用、転写用、トナー供給用、クリーニング用および給紙などの用途として、高分子材による部品が注目され、具体的には、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラ、トナー供給ローラ、クリーニングローラおよび給紙ローラなどの弾性を有するOAローラの形態で用いられている。
【0003】
上記OAローラは、通常は、シャフトと、その周囲に形成された弾性層よりなる。このようなOAローラは、一般に、円筒状の金型の中心にシャフトを配置し、該金型の両端の開口部にそれぞれキャップを挿入した後、該金型内に弾性層の材料を注入し、該シャフトの周囲に弾性層を形成して、得られたOAローラを脱型することによって製造される。
前記弾性層の材料として通常はポリウレタンやゴム等が用いられている。このような材料を使用して、上記のような金型でOAローラの製造を繰り返し行うと、金型の内周面に当該材料のカスが付着し、当該カスによって金型と新たに製造されるOAローラとの離型性が低下して、OAローラを金型から脱型する際にOAローラの破壊が生じるため、前記金型の内周面にフッ素樹脂コート処理又はそのメッキ処理などを施して、OAローラと金型との離型性を高め、離型性の低下によるOAローラの破壊を防いでいる(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−207172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような処理を施した金型でも、当該金型を繰り返し使用してローラの製造を行うと、金型の内周の処理面の表面状態が変化し、金型の内周面の特にキャップと弾性層との界面の円周に対応する部分に弾性層材料のカスが付着して、金型の当該部分においてOAローラと金型との離型性が低下するため、OAローラを脱型する際にOAローラが金型に張り付き、破壊される恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点を解決し、従来よりも、同一の金型でOAローラの製造を繰り返すことによるOAローラと金型との離型性の低下を遅らせることが可能なOAローラの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、1回以上OAローラの製造を行った後に、キャップと弾性層との界面の位置を金型長手方向に移動させることによって、OAローラと金型との離型性の低下を遅らせることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明のOAローラの製造方法は、両端が開口した円筒状の金型内にシャフトを配置し、該金型の両端の開口部にそれぞれキャップを挿入した後、該金型内に弾性層の材料を注入し、該シャフトの周囲に該弾性層を形成し、得られたOAローラを該金型から脱型するOAローラの製造方法において、OAローラを1回以上製造した後に、前記キャップと前記弾性層との界面の位置を金型長手方向に移動させてから新たなOAローラを製造することを特徴とする。
【0009】
本発明のOAローラの製造方法の好適例においては、前記界面の位置の移動を、前記OAローラを脱型した後に前記金型の内部を観察し、該金型の内周面の離型性が低下している場合に行うことを特徴とする。
【0010】
本発明のOAローラの製造方法の他の好適例においては、前記界面の位置の移動を100〜200回OAローラを製造した後に行うことを特徴とする。
【0011】
本発明のOAローラの製造方法の他の好適例においては、前記界面の位置を新たに製造するOAローラの長手方向長さが短くなる方向に移動させることを特徴とする。
【0012】
本発明のOAローラの製造方法の他の好適例においては、前記界面の位置を新たに製造するOAローラの長手方向長さが2〜10mm短くなる方向に移動させることを特徴とする。
【0013】
本発明のOAローラの製造方法の他の好適例においては、前記界面の位置の移動をキャップの金型挿入部分の長さが異なる複数のキャップを用いて行うことを特徴とする。
【0014】
本発明のOAローラの製造方法の他の好適例においては、前記界面の位置の移動をキャップの金型挿入部分の長さが異なる複数のキャップをランダムに用いて行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のOAローラの製造方法によれば、同一の金型でOAローラの製造を繰り返すことによるOAローラと金型との離型性の低下を遅らせて、OAローラの金型からの脱型時におけるOAローラの破壊を防ぎ、同一の金型をより長くOAローラの製造に使用できるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明の製造方法によって得られるOAローラの一例について、その長さ方向断面を示す図1を参照しながら説明する。図1において、1はシャフトを、2はシャフト1の周囲に配設された弾性層を示す。なお、図示例のOAローラ10は、弾性層2の外側に弾性層2よりも硬度の高い1層以上の表面層(図示せず)を有してもよい。
ここで、シャフト1の材料としては、特に限定されないが、樹脂、ステンレス、鉄などの金属等、OAローラのシャフトに通常使用されている材料が挙げられ、シャフト1の形状は、中実、中空のいずれであってもよい。
また、弾性層2の材料としては、特に限定されないが、ポリウレタン、ゴム及びこれらの発泡体などOAローラの弾性層に通常使用される材料が挙げられる。なお、製造するOAローラの使用目的に応じて、上記弾性層2の材料に一般に使用されている各種導電性付与剤を添加して、OAローラに導電性を付与してもよい。
【0017】
次に、本発明の上記OAローラ10の製造方法について図面を参照しながら説明する。図2は、本発明のOAローラ10の製造に用いる弾性層2形成前の金型の一例を示す断面図であり、図3は、弾性層2形成後の金型の一例を示す断面図である。図2を参照すると、金型21の中空部にOAローラ10を構成するシャフト1が配置され、金型21の両側開口部にはそれぞれキャップ5が嵌合されている。それぞれのキャップ5には弾性層2に対応するキャビティ11に通じる穴5aが設けられ、これらの穴5aは、材料を注入する金型一方側のキャップ5においては材料を注入するための注入口となり、金型他方側のキャップ5では、材料注入時にキャビティ11内の空気を排出するための排気口として機能する。
【0018】
上記円筒状金型21の材料としては、特に限定されないが、樹脂、ステンレス、鉄などの金属等の材料を使用できる。また、OAローラの製造に当たって、金型21の内周面に予め離型剤を塗布しておいてもよい。また、離型剤を使用しない場合は、金型21の材料として離型性のよいパーフロロアルコキシ樹脂(LFA樹脂)やフッ素樹脂パイプを使用してもよく、又は金型の材料としてアルミ、ステンレスなどの金属パイプを使用し、当該金属パイプの少なくとも内周面にフッ素樹脂コート処理またはそのメッキ処理などを施してもよい。
また、上記キャップ5の材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン等の樹脂が挙げられる。
【0019】
本発明に係るOAローラの製造方法においては、図2に示すように、上記円筒状金型21内にシャフト1を配置し、該金型21の両端の開口部にそれぞれキャップ5を挿入した後、該金型21内に弾性層2の材料を注入する。次いで、図3に示すように、該シャフト1の周囲に弾性層2を形成し、得られたOAローラ10を該金型から脱型する。
なお、弾性層2の外側に表面層を設ける場合には、シャフト1の周囲に弾性層2が形成されたものを金型21から脱型した後に、表面層となる材料を常法に従って弾性層2の外表面に塗装すればよく、塗装方法としては、ディップ塗装法、スプレー塗装法又はロールコータ塗装法が挙げられる。
【0020】
図4は、OAローラの脱型後に金型21の内周面に弾性層2の材料のカス6が付着している状態を示す図である。本発明のOAローラの製造方法においては、図4に示すような金型21の内周面に付着した弾性層2の材料のカス6によるOAローラと円筒状金型21との離型性の低下を防ぐために、OAローラ10を1回以上製造した後に、キャップ5と弾性層2との界面Pの位置(図3参照)を金型長手方向に移動させてから新たなOAローラを製造することが肝要である。
ここで、OAローラを押し棒などで押し出して金型から脱型する場合、特に押す側と対向する側の弾性層がシャフトから剥離しやすいので、押す側と対向する側のキャップと弾性層との界面の位置を金型長手方向に移動させるのが好ましいが、当該界面の位置に加えて押す側のキャップと弾性層との界面の位置も移動させてもよい。
【0021】
一般に、上記の離型性の低下の判断は、金型の内周面にローラの弾性層のカスが付着した場合や、内周面の光沢度によって判定することが可能である。
【0022】
本発明のOAローラの製造方法において、OAローラ10を1回以上製造した後に金型21の内部を観察し、図4に示すように金型21の内周面、特に金型21の内周面のキャップ5と弾性層2との界面Pの円周に対応する部分に弾性層2のカス6が付着している場合に界面Pの位置を移動させてもよい。また、界面Pの位置を、OAローラ10の製造を同一の金型21で繰り返すことによって金型21の内周面に付着した弾性層2の材料のカス6によりOAローラの破壊が生じる限界の回数、例えば100〜200回OAローラ10を製造した後に移動させてもよいし、当該限界の回数よりも少ない回数、例えば10〜50回OAローラ10を製造した後に移動させてもよく、OAローラを製造する毎に移動させてもよい。
【0023】
本発明のOAローラの製造方法においては、界面Pの位置をOAローラの長手方向長さが長くなる方向に移動させると、以前に製造したときの界面Pの円周に対応し、かつ製造により離型性が低下している金型内周面の部分が新たに製造されたOAローラの弾性層と接触するため、界面Pの位置をOAローラ10の長手方向長さが短くなる方向に移動させることが好ましい。
なお、界面Pの位置をOAローラの長手方向長さが短くなる方向に移動させる場合、前記界面Pの位置の移動量を2〜10mm程度とするのが好ましい。移動量が10mmを越えると、得られたOAローラの長手方向長さが短くなりすぎて、当該OAローラを製品として使用できなくなるからである。
【0024】
本発明のOAローラの製造方法において、上記界面Pの位置の移動を、例えば、キャップ5の金型挿入部分の長さlが異なる複数のキャップを使用することによって行うか、又はキャップ5の金型挿入部分の長さlを変化させることができるような可変のキャップを使用することによって行うことができる。また、図5に示すように、キャップ5の金型挿入部分に例えばゴム製のリング7を嵌めてキャップ5の金型挿入部分の長さlを短くし、当該キャップを使用して界面Pの位置を移動させてもよい。リング7は金属性リングでもよい。これらの中でも、経済性及び界面の位置の移動の簡便さの観点から、キャップ5の金型挿入部分の長さlが異なる複数のキャップを使用することが好ましい。
【0025】
キャップ5の金型挿入部分の長さlが異なる複数のキャップを使用する場合、長さlが異なる例えば3〜10種類程のキャップをランダムに使用してもよいし、使用する順序を予め決めて使用してもよい。また、1回以上製造する毎に使用するキャップ5の金型挿入部分の長さlが順次長くなるように複数のキャップを使用してもよい。これらの中でも、金型の開口部へのキャップ5の挿入をロボットなどの装置を使用して行う場合に長さの管理が容易であるという観点から、金型挿入部分の長さlが異なる複数のキャップをランダムに使用することが好ましい。なお、金型21の開口部へのキャップ5の挿入をロボットなどの装置を使用して行う場合、長さlが異なる複数のキャップを混ぜたものを装置に供給することによって、当該長さlが異なる複数のキャップをランダムに使用してOAローラを製造することができる。
【実施例】
【0026】
実施例および比較例のOAローラの製造は以下の方法に従って行った。すなわち、図2に示すような構造を有し、内周面をフッ素樹脂でコートした内径18mmおよび長さ250mmのステンレス鋼製円筒状金型21内に径6mmおよび長さ260mmの鉄製のシャフト1をセットし、金型21の両端開口部にキャップ5を挿入し、下記表1に示す組成のポリウレタン発泡体形成材料をよく攪拌して穴5aからキャビティ11内に注入した。注入後、当該発泡体形成材料は直ちに発泡を開始して膨張し、温度約25℃にて約90秒間で金型内が発泡体で埋められた。その後、90℃で20分間加熱硬化させて、シャフト1の周囲にポリウレタン発泡体からなる弾性層2を形成し、得られたOAローラ10を金型21から脱型した。実施例1では金型挿入部分の長さが異なる10種類のキャップをランダムに使用し、実施例2では金型挿入部分の長さが異なる5種類のキャップをランダムに使用し、比較例では1種類のキャップを使用して、上記の製造方法に従って同一の金型でOAローラの製造を繰り返し行い、OAローラの脱型時にOAローラの破壊が生じるまでのOAローラの製造回数を測定した。結果を表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表2より、金型挿入部分の長さが異なる複数のキャップを使用した実施例1及び2では、比較例よりも脱型時にOAローラの破壊が生じるまでの製造回数が多かった。中でも、10種類のキャップを使用した実施例1のローラの破壊が生じるまでの製造回数が最も多かった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の製造方法によって得られるOAローラの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のOAローラ10の製造に用いる弾性層2形成前の金型の一例を示す断面図である。
【図3】本発明のOAローラ10の製造に用いる弾性層2形成後の金型の一例を示す断面図である。
【図4】OAローラの脱型後に金型21の内周面に弾性層2の材料のカス6が付着している状態を示す図である。
【図5】金型挿入部分にゴム製のリングを嵌めたキャップを挿入した金型の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 シャフト
2 弾性層
5 キャップ
5a キャップの穴
6 弾性層の材料のカス
7 ゴム製のリング
10 OAローラ
11 キャビティ
21 金型
P キャップと弾性層との界面
l キャップの金型挿入部分の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した円筒状の金型内にシャフトを配置し、該金型の両端の開口部にそれぞれキャップを挿入した後、該金型内に弾性層の材料を注入し、該シャフトの周囲に該弾性層を形成し、得られたOAローラを該金型から脱型するOAローラの製造方法において、OAローラを1回以上製造した後に、前記キャップと前記弾性層との界面の位置を金型長手方向に移動させてから新たなOAローラを製造することを特徴とするOAローラの製造方法。
【請求項2】
前記界面の位置の移動を、前記OAローラを1回以上製造した後に前記金型の内部を観察し、該金型の内周面の離型性が低下している場合に行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記界面の位置の移動を100〜200回OAローラを製造した後に行うことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記界面の位置を新たに製造するOAローラの長手方向長さが短くなる方向に移動させることを特徴とする請求項1〜3項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記界面の位置を新たに製造するOAローラの長手方向長さが2〜10mm短くなる方向に移動させることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記界面の位置の移動をキャップの金型挿入部分の長さが異なる複数のキャップを用いて行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記界面の位置の移動をキャップの金型挿入部分の長さが異なる複数のキャップをランダムに用いて行うことを特徴とする請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−190857(P2007−190857A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12685(P2006−12685)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】